(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照し説明する。なお、以下の実施形態において示す構成は一例にすぎず、本発明は図示された構成に必ずしも限定されるものではない。
【0010】
<実施形態1>
実施形態1は、インクジェット方式の画像形成装置によるマルチパス印刷において、画像におけるエッジを検出し、エッジに応じて各パスに画像を分解する。特に、濃度が異なる2つの領域のエッジ(以降、中間調エッジとする)においては、隣接するドットを異なるタイミングで吐出されるように、パス分解をする。
【0011】
(画像形成システムの構成)
図1は、実施形態1における画像形成システムの構成を示すブロック図である。画像処理装置1及びプリンタ2で構成され、プリンタ2はマルチパス印刷を制御する制御部210を有する。本実施形態において画像処理装置1は、プリンタドライバがインストールされたパーソナルコンピュータに相当する。以下に説明する画像処理装置1内の各部は、不図示のCPUが所定のプログラムを実行することにより実現される。
【0012】
画像処理装置1は、入力端子101より印刷対象の入力画像データを取得する。入力画像データの形式は8ビットであり、入力画像データが表す画像における各画素には、0〜255の何れかの値が格納されている。本実施形態において入力画像データは、R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の3つの色成分により構成されている。
【0013】
エッジ検出部102は、入力画像データが表す画像におけるエッジを検出し、画素毎にエッジ情報を生成する。エッジ検出部102はまず、入力画像データが表す画像の各画素のRGBそれぞれの画素値を用いて輝度信号に変換することで、輝度画像データを生成する。そして輝度画像データに対してエッジ検出フィルタ格納部103に格納したエッジ検出フィルタを適用することで、エッジ情報を検出する。ここでのエッジ情報とは、エッジを挟む2つの領域のうち他方の領域よりも濃度が高い高濃度側エッジ部の画素であるか、他方の領域よりも濃度が低い低濃度側エッジ部の画素であるか、非エッジ部の画素であるかを示す情報である。エッジ情報やエッジ検出の詳細は後述する。
【0014】
色分解処理部104は、RGB各色の入力画像データに対し、色分解処理を実行する。色分解処理部104は、色分解LUT格納部105に格納されたプリンタ2が有するインク色毎の3次元の色分解LUT(ルックアップテーブル)を参照し、各色のインク値画像データを生成する。ここではプリンタ2は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色のインクを搭載しているものとする。従って色分解処理部104は、RGBごとの3つの入力画像データをCMYKごとの4つのインク値画像データに変換する。インク値画像データとは、画像における画素毎に各色のインク値を表すデータであり、インク値画像データは、8ビットとする。
【0015】
OPG(アウトプットガンマ)処理部106は、色分解処理部104が生成したインク値画像データに対し、ガンマ補正処理を実行する。OPG処理部106は、OPGLUT(ルックアップテーブル)格納部107に格納された1次元のOPGLUTを参照する。OPGLUTは、CMYKそれぞれのインクのみを用いて記録した場合に、インク値画像データにおける各画素の画素値に対して印刷物の明度が線形に変化するようにインク色毎に予め値を設定しておくことで作成される。
【0016】
ハーフトーン処理部108は、OPG処理部106によって生成された各色のOPG処理後のインク値画像データを2値に変換する。ハーフトーン処理部108は、ディザマトリクス格納部109に格納されたディザマトリクスを参照し、ディザ法を用いてハーフトーン処理を実行する。ディザマトリクスには、様々な値の閾値が2次元的に配列されている。ハーフトーン処理部108は、インク値画像データが表す画像の各画素の画素値と、対応するディザマトリクスにおける閾値とを比較することで、インク値画像データを2値化する。画素値の方が閾値よりも大きい画素については、ドットをON(出力値1)とし、画素値の方が閾値よりも小さい画素についてはドットをOFF(出力値0)にする。ディザマトリクスについては、公知の方法により作成されたマトリクスを用いればよい。ハーフトーン処理部108は、2値化により生成したCMYKそれぞれの2値画像データを出力する。
【0017】
次にプリンタ2の構成を説明する。プリンタ2は、入力端子210より、画像処理装置1の出力端子110から出力された各色の2値画像データとエッジ情報を取得する。マルチパス制御部210は、n回(n≧2)の記録走査により画像を形成するマルチパス印刷をするためのデータ生成を制御する。本実施形態においてプリンタ2は、4回(n=4)の記録走査により画像を形成するマルチパス印刷を行うものとする。
【0018】
図3は、マルチパス印刷を説明する図である。記録ヘッド201を主走査方向に走査させてドットを吐出した後、記録ヘッドが有するノズル列の所定ノズル数分、記録媒体を副走査方向に搬送する。このように同一領域に対して複数回の記録を重ねることで、最終的な画像を記録媒体上に形成する。マルチパス印刷制御部210は、パスマスク選択部206、パス分解処理部207、パスマスク格納部208を有する。本実施形態においてマルチパス印刷制御部210は、画像処理回路として実現される。パスマスク選択部206は、エッジ情報に基づいて、2値画像データの各画素に適用されるパスマスクの種類を選択する。パスマスクとは、各画素におけるドットをn回のパス(記録走査)のうち何回目のパスで出力するかを決定するためのマスクである。ここでのパスマスクの種類は、高濃度側エッジ部用パスマスク、低濃度側エッジ部用パスマスク、非エッジ部用パスマスクの3種類である。なお、パスマスク選択部206は、各色の画素毎に、3種類のパスマスクのうちいずれのパスマスクを適用するかを示すパスマスク情報を出力する。3種類のパスマスクの詳細については、後述する。
【0019】
パス分解処理部207は、パスマスク選択部206が選択したパスマスクを用いて、CMYKそれぞれの2値画像データを複数の記録走査ごとの記録データに分解する。パス分解処理部207は、2値画像データが表す画像の画素ごとに、パスマスク情報を参照し、パスマスク格納部208に格納された複数のパスマスクから対応するパスマスクを取得して使用する。パス分解処理部207は、各色の記録走査ごとの記録データを出力する。
【0020】
インク色選択部209は、パス分解処理部207が出力する記録データに基づいて、記録ヘッド201に搭載されるインク色の中から、対応するインク色を選択する。記録ヘッド201は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色のインクを吐出可能な記録素子(ノズル)列を有したインクジェット方式のもので、マルチパス方式に従って印刷する。実施形態1では、4回の記録走査(4パス)を行い、記録媒体202に画像を形成する。ヘッド制御部203の制御の下、移動部204における記録ヘッド201の移動、及び搬送部205における記録媒体202の搬送が行われる。
【0021】
なお本実施形態では、画像処理装置1はプリンタ2とは異なる装置として説明したが、例えばプリンタ2が画像処理装置1を含むような構成としてもよい。また、画像処理装置1の各構成の全て、またはその一部を専用の画像処理回路として実現することもできる。また、マルチパス印刷制御部210を画像処理装置1に含めるような構成であってもよい。
【0022】
図2は、実施形態1における画像形成システムの動作の流れを示す図である。以下、
図2における各ステップ(工程)を「S」と表記することとする。S201において、8ビットのRGBごとの入力画像データを取得する。S202において色分解処理部104は、インク色毎に用意した3次元の色分解LUTを用いて、RGBごとの入力画像データを、CMYKごとのインク値画像データに変換する。このとき本実施形態では、色分解LUTの格子点数は17×17×17とし、格子点の間のインク値は線形補間で算出する。なお、色分解処理は色分解LUTを用いる方法に限定されない。例えばマトリクス法等の変換方法であってもよい。
【0023】
次にS203においてOPG処理部106は、各インク色に対応する1次元のOPGLUTを参照し、インク値画像データに対してOPG処理を行う。S204においてハーフトーン処理部108は、ディザマトリクスを参照し、OPG処理後のインク値画像データにハーフトーン処理を実行する。このとき本実施形態では、256×256のディザマトリクスを用いるものとする。また、各インク色に対して異なるディザマトリクスを用いる。なお、ハーフトーン処理はディザマトリクスを用いたディザ法に限定されない。例えば誤差拡散法や平均濃度保存法等であってもよい。
【0024】
一方S205において、S201において取得したRGBごとの画像データに対して、エッジ検出処理を実行する。エッジ検出処理の詳細は後述する。
【0025】
S204及びS205の処理がいずれも完了した後、S206においてパスマスク選択部206は、エッジ情報を参照して、各色の2値画像データが表す画像の各画素に対して適用するパスマスクを、複数のパスマスクの中から選択する。パスマスク選択処理の詳細、及びパスマスクの選択候補については後述する。
【0026】
次にS207においてパス分解処理部207は、S206において選択したパスマスクを用いて、パス分解処理を行う。パス分解処理は、2値画像データに対してパスマスクを用いたドット間引き処理を行うことで、各記録走査が記録するための記録データを生成する。同じ領域に対応する各記録走査の記録データは互いに補完の関係にある。
【0027】
最後にS208においてインク色選択部209が、記録データデータに適合するインク色を選択し、記録ヘッド201が画像を形成する。
【0028】
次にエッジ検出処理の詳細について、説明する。
図4は、エッジ検出部102がエッジ検出フィルタとして用いるラプラシアンフィルタを示している。ラプラシアンフィルタは、注目画素401と周囲の8画素それぞれに各係数を保持している。このフィルタ処理は、各画素の画素値と係数との積和演算を行う。エッジ検出フィルタを用いてフィルタ処理した結果、輝度画像データが表す画像におけるエッジを強調した画像を得ることができる。エッジ検出部102は、
図4に示すらラプラシアンフィルタを入力画像データが表す画像の各画素に適用することにより、各画素のエッジの度合い示すエッジ度を算出することができる。
【0029】
実施形態1では、入力画像データが表す画像における各画素について、R、G、Bそれぞれの画素値を輝度値Yに変換したデータに対してエッジ検出フィルタを適用する。エッジ検出フィルタを適用した結果に対して、各画素のフィルタ処理後の値を別途設定した閾値を用いて量子化することで、エッジ情報を生成する。ラプラシアンフィルタを用いたエッジ検出では、エッジに接する高濃度部側の画素は絶対値が大きい正の値のエッジ度が算出される。一方、エッジに接する低濃度部側の画素は絶対値が大きい負の値のエッジ度が算出される。また、非エッジ部では、絶対値の小さいエッジ度が算出される。そこで、フィルタ処理後の値が閾値T(Tは正の整数)よりも大きな場合に高濃度側エッジ部、フィルタ処理後の画像データが閾値−Tよりも小さな場合に低濃度側エッジ部、それ以外の場合に非エッジ部とする。
【0030】
なお、エッジ検出フィルタはラプラシアンフィルタに限定されず、ソーベルフィルタ等の一次微分フィルタやテンプレートマッチング法(prewitt法)等、その他のエッジ検出方法を用いてもよい。また、RGBごとの入力画像データそれぞれに対してエッジ検出フィルタを適用し、各出力結果を合成することでエッジ情報を決定してもよい。
【0031】
図5は、エッジ検出処理の結果得られるエッジ情報の一例を示す模式図である。
図5の(a)は、エッジ検出処理を適用する前の輝度信号データである。濃いグレイで塗られた領域501は、輝度値が相対的に低く、薄いグレイ塗られた領域502、輝度値が相対的に高い。入力画像データにおいて、輝度値が高い領域ほど、プリンタ2による印刷の結果は、高濃度な領域となる。すなわち、領域501は、画像形成時にドットが領域502よりも多く打ち込まれる高濃度領域で、領域502は、画像形成時にドットが領域501よりも少なく打ち込まれる低濃度領域に相当する。
【0032】
また、
図5の(b)は、輝度信号データにエッジ検出処理を適用した後のエッジ情報を示す。このとき、濃いグレイで塗られた画素群503が高濃度側エッジ部、白で塗られた画素群504が低濃度側エッジ部、薄いグレイで塗られた画素群505が非エッジ部と判定される。このように、濃度の異なる2つの領域がある際に、低濃度領域に接する高濃度領域501の画素を高濃度側エッジ部、高濃度領域に接する低濃度領域502の画素を低濃度側エッジ部503として検出する。
【0033】
次にパスマスク選択部206が実行するパスマスク選択処理について説明する。
図6は、パスマスク選択処理のフローチャートである。なお、以下の処理は、CMYK2値画像データのそれぞれに対して行うものとする。ここでは、シアン(C)の2値画像データに対する処理を例に説明するが、他の色の2値画像データに対しても同様の処理を行う。S601においてパスマスク選択部206は、シアン(C)の2値画像データを取得する。またS602においてパスマスク選択部206は、注目画素におけるエッジ情報を取得する。
【0034】
次にS603においてパスマスク選択部206は、注目画素におけるエッジ情報が高濃度側エッジ部であるか否かを判定する。注目画素が高濃度側エッジ部であると判定された場合には、パスマスク選択部206は高濃度側エッジ部用パスマスクを注目画素に適用するパスマスクとして決定し、S608に進む。一方、注目画素が高濃度側エッジ部である判定されなかった場合には、S605に進む。
【0035】
S605に進んだ場合、注目画素におけるエッジ情報が低濃度側エッジ部であるか否かを判定する。注目画素が低濃度側エッジ部であると判定された場合には、パスマスク選択部206は低濃度側エッジ部用パスマスクを注目画素に適用するパスマスクとして決定し、S608に進む。一方、低濃度側エッジ部と判定されなかった場合には、S607においてパスマスク選択部206は、非エッジ部用パスマスクを注目画素に適用するパスマスクとして決定し、S608に進む。
【0036】
S608においてパスマスク選択部206は、2値画像データが表す画像における全画素に対してパスマスクを決定したか否かを判定する。全画素のパスマスクを決定した場合は、処理を完了し、全画素のパスマスクを決定していない場合は、S602に戻り、次の画素を注目画素として処理を実行する。
【0037】
図12を用いて連続するドットに生じるドット間干渉について説明する。
図12(a)は2つのインク液滴1201及び1202が、連続して吐出された場合を模式的に示している。2つのインク液滴1201及び1202は、記録媒体1203に、吐出、着弾、浸透、定着の過程で、インク同士が互いにくっついてしまう。その結果
図12のb)に示すように、本来2つのドットが、楕円状に広がった一つの塊として形成されてしまう。その結果、鮮鋭性が劣化したり、濃度が変動したりしてしまう。このような現象がドット間干渉である。特に連続する黒画素を同じ記録走査で形成する場合、2つのドット(インク)の着弾時間差が短いため、ドット間干渉が発生しやすい。また、記録媒体の種類やインク特性等の画像形成の条件、あるいは温室度環境等によって、楕円状以外の様々な形状に乱れる場合が起こり得る。本来であればエッジ部では、
図12(c)に示すように、各ドットそれぞれが真円状に形成されることが望ましい。そこで本実施形態では、エッジの境界において隣接する2ドット間の着弾時間差を多めに確保するため、エッジの境界において隣接する2ドットを異なる記録走査で印字するようにパス分解する。
【0038】
ここで、本実施形態におけるパスマスクについて詳細を説明する。
図7は、パスマスク選択処理S206が選択するパスマスクの候補を示した図である。
図7(a)は高濃度側エッジ部、
図7(b)は低濃度側エッジ部、
図7(c)は非エッジ部の場合に選択される。パスマスクは、2値画像データを各パスに分解するために用いられる。本実施形態では4パス印字なので、2値画像データにおける各画素について、1〜4パスのうち何パス目において印字するかを割り当てる。また、
図3を用いて説明したように、記録ヘッドのノズル列の所定のノズル数ずつ各パスに割り当てられている。
図7に示すように、1つのパスマスクは、記録ヘッドのノズル列に対して、1パス目から4パス目のマスクパターンが順に対応している。
図7に示すパスマスクにおいて黒画素は、対応する画素のドットをそのパスに割り当てることを意味する。パスマスクは、2値画像データの各画素がいずれかのパスに対応し、各パス間で黒画素が排他となるように作成される。
【0039】
図7(a)に示すパスマスクは、各パスのドット間引き率が、1パス目から順に、100%、0%、0%、0%であり、1パス目で全てのドットを形成し、2パス目から4パス目ではドットを形成しないように記録データを生成するものである。なお、ここではドット間引き率100%はドット間引きなしを示しており、ドット間引き率0%はドットが打たれないことを意味する。
【0040】
また、
図7(b)に示すパスマスクは、各パスのドット間引き率が、1パス目から4パス目にかけて、5%、15%、30%、50%と変化し、後続のパスになるほどドット間引き率が大きくなる。
図7(c)に示すパスマスクは、各パスのドット間引き率が均等(25%)である。
【0041】
図8は、
図7(a)から(c)に示すパスマスクのパス毎のドット間引き率、及びエッジ情報に対応するパスマスクを一覧表として整理した図である。このように、それぞれのパスマスクで各パスの間引き率が異なる。高濃度側エッジ部に対しては、1パス目で全てのドットを形成するようにパス分解を行う。これにより、高濃度側エッジ部は1パスで印字されるため、記録媒体の搬送ズレや記録走査間でのドットの着弾位置や大きさのばらつき等の影響を受けず、鮮鋭性が劣化するのを抑制することができる。低濃度側エッジ部に対しては、後続パスほどドット間引き量が大きくなるため、ドットの打ち込み量も1パス目よりも後続パスの方が多くなる。高濃度側エッジ部におけるドットを1パス目で全て形成し、低濃度側エッジ部におけるドットはできるだけ2パス目以降のパスで形成することで、高濃度側エッジ部のドットとの着弾時間差をより多く確保できる。その結果、高濃度側エッジ部の画素と低濃度側エッジ部の画素とが隣接する境界において、ドット間干渉の発生を低減する。これにより、高濃度側エッジ部と低濃度側エッジ部とが接する中間調エッジ部において、鮮鋭性を向上することができる。一方、非エッジ部に対しては、マルチパス方式によるスジムラ低減の効果を最大限に発揮させるため、各パスの記録データが均等となるようにパス分解を行う。
【0042】
ここで、本実施形態による効果について説明する。
図10は、実施形態1を適用した場合の結果を示す図である。
図10(a)は、実施形態1におけるエッジ検出処理を適用する前の入力画像データが表す入力画像の一例である。この入力画像は相対的に濃度の高い高濃度領域1001及び相対的に濃度の低い低濃度領域1002が隣接している。高濃度領域1001と低濃度領域1002の境界が中間調エッジ部に相当する。なお、高濃度領域1001及び低濃度領域1002の縦横サイズはいずれも32画素×64画素とする。
【0043】
また、
図10(b)は、
図10(a)の入力画像データにエッジ検出処理を適用して得られたエッジ情報である。入力画像における中間調エッジを挟むように、高濃度側エッジ部1003及び低濃度側エッジ部1004が検出されている。このとき、高濃度側エッジ部1003及び低濃度側エッジ部1004の縦横サイズはいずれも1画素×64画素である。また、入力画像おける高濃度領域1001及び低濃度領域1002のそれぞれに含まれる非エッジ部は、非エッジ部1005及び1006として検出されている。
【0044】
図10の(c)は、OPG処理後画像データに対して、ハーフトーン処理を適用して生成された2値画像データが表す2値画像である。ここではKインクの2値画像データを示している。領域1007、領域1008はそれぞれ、OPG処理後画像データの記録率が100%及び80%である。
【0045】
また、
図10(d)は、
図10(b)に示したエッジ情報に基づいて、
図10(c)の2値画像データの画素毎にパスマスクを切り替えてパス分解処理を実行することによって生成される記録データである。この記録データは、下から順に1回の記録走査で出力される1パス目から4パス目に対応している。このとき、記録データにおける黒画素はドットON(ドットを打つ)、白画素はドットOFF(ドットを打たない)を表している。エッジ情報のそれぞれに対して適用されるパスマスクは
図7及び
図8で説明したパスマスクを用いる。
【0046】
また、
図10(e)は、
図10(d)に示す記録データにおいて、
図10(b)において説明した高濃度側エッジ部1003及び低濃度側エッジ部1004の位置に対応する記録データをパス毎に抽出した拡大図である。1パス目から4パス目の各記録データは、それぞれのサイズが2画素×64画素である。各記録データの左半分の1列に相当するサイズ1画素×64画素の画素列が高濃度側エッジ部1003に対応し、右半分の1列に相当するサイズ1画素×64画素の画素列が低濃度側エッジ部1004に対応している。
【0047】
図10(e)の各パスの記録データにおいて、高濃度側エッジ部の黒画素と、低濃度側エッジ部の隣接する画素のうち、同じパスで高濃度側エッジ部と低濃度側エッジ部の両方で黒画素が連続するのは領域1009及び領域1010の2箇所のみと分かる。高濃度側エッジ部については1パス目で全ての画素がONドットであるのに対し、低濃度側エッジ部は後続パスほどより多くの画素がONドットとなるように記録データが生成される。そのため、高濃度側エッジ部と低濃度側エッジ部が接する境界部における、連続ドットの発生がいずれのパスにおいても抑制されている。
【0048】
一方、
図11は、実施形態1との比較例を説明するための図である。実施形態1における
図10(a)および(c)は、比較例においても同等である。
図11(a)は、各記録走査の記録データを示し、
図11(b)はエッジ付近における記録走査毎の記録データを抽出した拡大図である。比較例では、画像におけるエッジを検出し、エッジ部は少ない記録走査回数により記録する場合を例にしている。高濃度側の境界に接する画素だけがエッジとして検出され、エッジ画素のドットは1パス目の記録走査のみに分配される。高濃度側の非エッジ部および低濃度側領域の画素のドットは、各パスのドット間引き率がいずれも25%のパスマスクを適用している。このように、エッジを境界にした高濃度側のドットと低濃度側のドットの両方を考慮することはしていない場合、
図11に示す結果となる。
【0049】
比較例では、
図11(a)および(b)に示すように、高濃度側のエッジだけが検出され、エッジの境界に隣接する画素のドットが1パスで記録される。このとき、
図11の(d)の各記録走査の記録データにおいて、高濃度側エッジ部と低濃度側エッジ部の両方で黒画素が連続する箇所が1101をはじめ、計10箇所あることが分かる。
図10の(d)で示した実施形態1の場合に比べて、中間調エッジにおいて境界を挟むように隣接する黒画素が連続する箇所が多い。そのため、高濃度側エッジ部は1パス目で全ての画素がONドットであるとともに、低濃度側エッジ部においても1パス目にドットが分配される。その結果、高濃度側エッジ部と低濃度側エッジ部が接する境界部において、連続ドットが多く発生してしまう。
【0050】
以上説明したように、実施形態1によれば、マルチパス印刷において、中間調エッジを挟むように隣接する異なる濃度領域の2つのドットが、異なるパスにおいて形成されるように、入力画像におけるエッジ情報に応じてパス分解する。これにより、中間調エッジにおけるドット間干渉を抑制し、画像の鮮鋭性を向上させることができる。
【0051】
(変形例)
なお実施形態1では、高濃度側エッジ部用のパスマスクは、
図7(a)に示すように1パス目のみで全てのドットを形成する例を示したが、必ずしも1つのパスでドットを形成しなければならないわけではない。例えば
図9に示すように、低濃度側エッジ部用のパスマスクとは逆に、先行するパスほどドット間引き率を高くしたパスマスクを高濃度側エッジ部用のパスマスクとしてもよい。このようなパスマスクを用いることで、高濃度側エッジ部と低濃度側エッジ部との境界において、パス間でのドット間引き率の増減が逆転する。その結果、エッジを挟むように隣接する2つのドットが同じパスで形成されにくくなる。さらにこのとき、パス間においてドット着弾位置ズレにより鮮鋭性が劣化しやすい場合には、高濃度側エッジ部では
図7(a)に示すパスマスクを選択し、そうでない場合には
図9のような複数のパスで形成するパスマスクを選択すればよい。
【0052】
また、非エッジ部に適用するパスマスクとして、各パスのデータが均等となるようにパスマスクを示したが、これに限らない。例えば、記録ヘッド端部でのドット着弾位置ズレ(いわゆる気流ヨレ)による画質劣化の影響を緩和するため、グラデーションマスクを非エッジ部に用いてもよい。グラデーションマスクとは、記録ヘッドの端部に相当するパスのドット間引き率を低くし、端部以外に相当するパスのドット間引き率を高くしたパスマスクのことである。記録ヘッド端部での打ち込み量を少なくすることで、インク液滴が飛翔する際の気流による着弾位置の変動を緩和される。なお、気流ヨレの影響は記録ヘッドの吐出量や、記録ヘッドと記録用紙の距離、パス数等によって変化するが、非エッジ部の画像がスジムラや粒状性の劣化なく高画質に形成されるようなパスマスクを用いればよい。
【0053】
なお、以上説明した実施形態では、記録ヘッド201の構成として、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色のインクを備える例を示したが、インクの種類は限定されない。濃度の薄い淡インクや、レッド、グリーン等の特色インク、白色インクを用いてもよい。また、無色透明のクリアインクや、金属調のメタリックインクを用いてもよい。また、記録ヘッド201の解像度、吐出量等の仕様は任意に設定できる。インクの吐出量を変調可能なピエゾヘッド等の方式を用いた記録ヘッドであってもよい。
【0054】
また、入力画像データはRGBごとのカラー画像としたが、画像形式は限定されず、モノクロ画像やCMYK画像であってもよい。また色以外の情報を含んでもよく、例えば光沢情報を含む画像であってもよい。
【0055】
また、各種LUTのビット数、グリッド数、グリッド間の補間方法は任意である。同様に、各種フィルタやディザマトリクスのビット数、サイズは任意である。また、マルチパス方式のパス数を4パスとして説明したが、2パス以上のパス数であれば、濃度の異なる2つの領域のエッジにおけるドットの着弾時間を多く確保することはできる。
【0056】
<実施形態2>
実施形態1では、エッジ検出フィルタを用いて入力画像データのエッジ情報を検出する方法を例について説明した。ところでプリンタ2が印刷するための画像処理として、プリンタ2が画像を形成する際にインクの滲みや光学ボケなどの影響により出力画像において鮮鋭性が劣化してしまうことが知られている。そこで出力画像の劣化成分を補償する技術として、鮮鋭性回復処理がある。鮮鋭性回復処理は、プリンタ2による出力画像の周波数特性をチャート等から測定し、鮮鋭性等の劣化を引き起こす周波数成分を補償するための処理である。そこで実施形態2では、鮮鋭性回復処理における処理の結果得られる鮮鋭性劣化を引き起こす周波数成分を表す鮮鋭性回復量を算出する。そして実施形態1におけるエッジ情報の代わりに、鮮鋭性回復量を参照して、パス分解する方法について説明する。なお、以降の説明において、実施形態1と共通の構成については同じ符号を付し、その説明を簡易化または省略する。
【0057】
図14は、実施形態2の画像形成システムの構成を示すブロック図である。まず、画像処理装置1について、実施形態1における
図1の構成と異なる構成を説明する。前述の通りプリンタ2が、画像データに基づいて記録媒体上に画像を形成すると、インクの滲みや光学ボケなどの影響により、記録媒体上の画像においては、全周波数成分が低下してしまう。そこで、このようなプリンタ2の周波数特性を考慮し、予めプリンタ2で低下する周波数成分に基づいて、画像処理装置1が入力画像データに対して回復処理を実行する。ただし本実施形態では、画像処理装置1における画像処理においても後段のハーフトーン処理などにより高周波な鮮鋭性が低下することを考慮して、まず、プリンタ2により失われてしまう周波数成分のうち低周波成分のみを回復する。その後、回復していない高周波成分を回復したい鮮鋭性の程度を示す情報(以降、鮮鋭性回復量)として算出し、マルチパス制御部210が鮮鋭性回復量に基づいて、マルチパス印刷を制御する。
【0058】
低周波回復処理部111は、入力画像データに対して低周波回復処理を行う。低周波回復処理は、低周波回復フィルタ格納部112に格納された低周波回復フィルタのフィルタ係数を用いる。低周波回復処理部111は、入力画像データが表す入力画像の各画素に対して低周波回復フィルタを用いて畳み込み演算を行うことで入力画像の低周波成分を回復させる。低周波回復処理部111は、生成した低周波回復後画像データを色分解処理部104と鮮鋭性回復量算出部115に送出する。
【0059】
また、全周波回復処理部113は、入力画像データに対して全周波回復処理を行う。全周波回復処理は、全周波回復フィルタ格納部114に格納された全周波回復フィルタを用いる。全周波回復処理部113は、入力画像データが表す入力画像の各画素に対して、全周波回復フィルタを用いて畳み込み演算を行うことで入力画像の全周波成分を回復させる。そして、全周波回復処理部113は、全周波回復処理により補正した画像を鮮鋭性算出部115に出力する。
【0060】
また、鮮鋭性回復量算出部115は、低周波回復処理部111から得られる低周波回復処理後の画像と、全周波回復処理部113から得られる全周波回復量処理画像との画素毎の画素値の差分を、鮮鋭性回復量として算出する。高周波回復量は、画素ごとに回復すべき鮮鋭性程度を表すデータに相当する。鮮鋭性回復量は、出力端子110を介してプリンタ2の入力端子210へ出力される。
【0061】
次に、プリンタ2について、実施形態1と異なる構成を説明する。実施形態1と異なる構成はパスマスク選択処理部206である。実施形態1では、エッジ情報に基づき、2値画像データの各画素に適用するパスマスクの種類を選択した。実施形態2では、鮮鋭性回復量に基づいて、実施形態1と同様の処理を行う。その処理の詳細については後述する。
【0062】
図15は、実施形態2の画像形成システムの処理を示すフローチャートである。以下、実施形態1における
図2のフローチャートと異なる処理についてのみ説明する。
【0063】
S201で取得した入力画像データ(RGB形式)は、S1501及びS1502に出力される。S1501において低周波回復処理部111は、入力画像データに対して低周波回復処理を行う。低周波回復処理は、低周波回復フィルタの係数を取得し、入力画像データが表す画像の各画素の画素値に対して畳み込み演算を行うことで、入力画像の低周波成分を回復させる。本実施形態では低周波回復フィルタとして11×11のサイズのフィルタを用いる。低周波回復フィルタの作成方法については後述する。
【0064】
S1502において全周波回復処理部113は、入力画像データに対して全周波回復処理を行う。全周波回復処理は、全周波回復フィルタのフィルタ係数を取得し、入力画像データが表す画像の各画素の画素値に対して、全周波回復フィルタを用いたフィルタ処理を行うことで全周波成分を回復させる。本実施形態では全周波回復フィルタとして11×11のサイズのフィルタを用いる。全周波回復フィルタの作成方法についても、低周波回復フィルタと同様後述する。
【0065】
次に、S1503において鮮鋭性回復量算出部115は、鮮鋭性回復量を算出する。鮮鋭性回復量算出部115は、S1502において生成した全周波回復処理後の画像データとS1501において生成した低周波回復処理後の画像データの差分を、鮮鋭性回復量として算出する。
【0066】
S204及びS1503の処理が完了した後、S206において、S1503で生成した鮮鋭性回復量に基づいて、パスマスク選択処理が行われる。
【0067】
ここで、実施形態2における全周波回復フィルタ及び低周波回復フィルタついて説明する。まず、フィルタ設計対象のプリンタ2を用いて、鮮鋭性の計測チャートを出力する。なお、計測チャートの出力時は低周波回復処理などの鮮鋭性回復処理を行わない。
図16は、計測チャートの一例である。計測チャート1601は、周波数や方向が異なる複数の正弦波パターンと、均一パターン(例えば、白ベタと黒ベタ)を含む画像チャートの一例である。計測チャート1601において、パターン1602、1603、1604が横方向に周波数の異なる正弦波パターンで、パターン1605、1606、1607が縦方向に周波数の異なる正弦波パターンである。また、パターン1608が白ベタの均一パターン、パターン1609が黒ベタの均一パターンである。
【0068】
ここで、周波数特性P(u)は、例えば下式を用いて算出される光学伝達関数(MTF)を用いることができる。
【0069】
P(u)=C(u)/C’・・・式(1)
図17は、プリンタ2の周波数特性を示す。プリンタ2が出力した記録媒体上の画像では、全周波数領域において各周波数成分が劣化していることがわかる。ただし、uは正弦波パターンの周波数で、C(u)、C’は次式で表される。
【0070】
C(u)={Max(u)−Min(u)}/{Max(u)+Min(u)}
C’=(White−Black)/(White+Black)
このとき、Max(u)は周波数uで変化する正弦波パターンの最大明度、Min(u)は周波数uで変化する正弦波パターンの最小明度、White、Blackはそれぞれ白ベタの均一パターンの明度、及び黒ベタの均一パターンの明度を表す。
【0071】
なお、光学伝達関数の算出はこれに限定されず、例えば下式を用いてもよい。
【0072】
P(u)={Max(u)−Min(u)}/(White−Black)
また、上式では、Max(u)とMin(u)、WhiteとBlackを明度として周波数特性P(u)を算出しているが、例えば輝度や濃度、測定装置のデバイスRGB値等を用いて算出してもよい。また計測チャートとして、正弦波パターンではなく、矩形波パターンを用いて周波数特性P(u)を取得してもよい。その場合、矩形波パターンに対して式(1)を適用することにより算出されるコントラスト伝達関数(CTF)の値を周波数特性P(u)として用いる。もしくは、CTF値を公知のコルトマン補正式を用いて変換したMTF値を周波数特性P(u)に用いてもよい。
【0073】
次に、空間周波数特性P(u)に基づいて、全周波回復フィルタの周波数特性Ra(u)=1/P(u)を算出する。
図17は、全周波回復フィルタの周波数特性Ra(u)を示している。全周波回復フィルタの周波数特性Ra(u)は、uの値が大きい高周波領域で強い応答となる。一方、低周波回復フィルタの周波数特性Rl(u)は、全周波回復フィルタの周波数特性Ra(u)に対して所定の周波数ub以上の応答を略平坦に補正することで生成する。これにより、プリンタ2の周波数特性のうち、低周波領域の成分のみを回復する低周波回復フィルタを作成する。最後に、全周波回復フィルタの周波数特性Ra(u)及び全周波回復フィルタの周波数特性Rl(u)を逆フーリエ変換することで、全周波回復フィルタ及び低周波回復フィルタの係数を算出する。
【0074】
次に、実施形態2におけるパスマスク選択処理について説明する。
図18は、実施形態2におけるパスマスク選択部206が実行するS206のパスマスク選択処理の詳細を示すフローチャートである。実施形態1における
図6のフローチャートと異なる処理についてのみ説明する。
【0075】
S1801において、S1503において生成された鮮鋭性回復量を取得する。ここでの鮮鋭性回復量は6ビットの値で、−32から31の範囲の整数値である。その値が大きいほど、鮮鋭性を回復させるために濃度を高めるべき画素であることを表す。一方、その値が小さいほど、鮮鋭性を回復させるために濃度を低めるべき画素であることを表す。
【0076】
次に、S1802においてパスマスク選択部206は、注目画素における鮮鋭性回復量が閾値xよりも大きいか否かを判定する。判定結果がYesの場合には、注目画素を高濃度側エッジ部とみなして、S604に進む。一方、Noの場合には、S1803に進む。なお、閾値xは、例えば16のように、0から31の範囲の正の値に設定される。
【0077】
また、S1803に進んだ場合には、注目画素における鮮鋭性回復量が−xよりも小さいか否かを判定する。判定結果がYesの場合には、注目画素を低濃度側エッジ部とみなして、S606に進む。一方、Noの場合には、注目画素を非エッジ部とみなして、S207に進む。
【0078】
以上説明したように、実施形態2によれば、鮮鋭性回復量に基づき高濃度側エッジ部か低濃度側エッジ部か非エッジ部かを判定し、中間調エッジにおいて隣接する異なる濃度領域のドット形成タイミングが異なるようにパスマスクを選択する。これにより、中間調エッジにおけるドット間干渉を抑制して画像の鮮鋭性を向上させることができる。
【0079】
(変形例)
なお、実施形態2においても、実施形態1と同様に、パスマスクの選択候補を、高濃度側エッジ部、低濃度側エッジ部、非エッジ部の3種類とする例を示したが、パスマスクの選択候補の数は限定されない。特に、実施形態2における鮮鋭性回復量は、前述のように、比較的大きなフィルタサイズで、1画素あたり、例えば6ビット(64段階)の連続値として得られる。そのため、パスマスクの選択を行う上でより詳細な判定を行ってもよい。例えば、
図19に示すように、鮮鋭性回復量の値に応じて、5段階に場合分けし、ドット間引き率が異なる5つのパスマスクを選択してもよい。
【0080】
この例においては、鮮鋭性回復量が正で、より大きな値ほど注目画素を高濃度側エッジ部であるとみなして、先行パスのドット間引き率が多く後続パスのドット間引き率が少ないパスマスクを選択、使用する。これは条件Aと条件Bに対応し、条件Aの方がパス間でのドット間引き率がより先行パス側に多く偏るように設定している。
【0081】
また、鮮鋭性回復量が負で、より小さな値ほど処理対象画素を低濃度側エッジ部であるとみなして、先行パスのドット間引き率が少なく後続パスのドット間引き率が多いパスマスクを選択、使用する。これは条件Dと条件Eに対応し、条件Eの方がパス間でのドット間引き率が後続パス側に多く偏るように設定している。
【0082】
一方、鮮鋭性回復量の絶対値が小さな値であるときは、各パスのドット間引き率が均等となるようなパスマスクを選択、使用する。これは条件Cに対応する。
【0083】
<実施形態3>
実施形態2においては、プリンタ2の周波数特性に基づいて算出される鮮鋭性回復量を用いて、パスマスクを選択、適用する例について説明した。実施形態3では、スキャナなどの原稿読み取り部を備えたプリンタによる原稿コピーを例とし、原稿読み取り部の周波数応答特性から得られた鮮鋭性回復量を用いる方法について説明する。なお、実施形態1から実施形態2のいずれかと共通の部分については説明を省略する。
【0084】
図20は、実施形態3における画像形成システムの構成を示したブロック図である。
図20において、プリンタ2は、原稿読み取り部116を備える。また、本実施形態では、実施形態1における画像処理装置1の機能はプリンタ2に含まれる。プリンタ2は、原稿読み取り部116よりコピー対象の画像データを取得する。画像データは8ビットのRGBカラー画像である。
【0085】
鮮鋭性回復処理部117は、入力されたRGBごとの入力画像データに対する鮮鋭性回復処理を行う。この処理で用いる鮮鋭性フィルタは、原稿読み取り部116の空間周波数応答特性に基づいて設計されたもので、鮮鋭性回復フィルタ格納部118に格納され参照される。補正された画像は色分解処理部104及び回復量算出部119へ送出される。
【0086】
回復量画像生成処理部119は、鮮鋭性回復処理部117で補正された画像データと入力されたRGB画像データとの差分を計算することで、鮮鋭性回復量を生成する。生成された回復量画像はパスマスク選択処理部206へ送出される。
【0087】
なお、実施形態3において、鮮鋭性回復量を取得した後の処理については、実施形態1及び実施形態2と同様であり、説明を省略する。
【0088】
以上説明したように実施形態3によれば、原稿読み取り部116の空間周波数特性から得られた鮮鋭性回復量に基づいて、中間調エッジにおけるドット形成タイミングが異なるようにパスマスクを選択、適用する。これにより、中間調エッジにおけるドット間干渉を抑制して画像の鮮鋭性を向上させることができる。
【0089】
<その他の実施形態>
なお、以上説明した実施形態において、パス分解処理は、パスマスクを用いる例を示したが、パス分解処理の方法は限定されない。異なる濃度の2つの領域の境界において、境界を挟むように隣接する2つの画素のドットが、できるだけ異なるパスで形成されるように制御する。例えば、一方の領域が、複数回の記録走査のうち、先行する記録走査ほどより多くのドットが打ち込まれるように形成され、他方の領域が、複数回の記録走査のうち、後続する記録走査ほどより多くのドットが打ち込まれるように形成されればよい。あるいは、異なる濃度の領域の境界において、各走査において、どちらか一方の領域側の境界にドットが集中して打たれるようにマルチパス印刷を制御してもよい。たとえば、偶数番目の走査と奇数番目の走査とでヘッドの移動方向が異なる(往復印字モード)場合、高濃度領域側の境界を奇数番目の走査で形成し、低濃度領域側の境界を偶数番目の走査で形成するようにする。これにより、各々の境界は同じヘッドの移動方向において形成されるため、主ドットに付随して形成されるサテライトドット等のヘッドの移動方向による影響等が緩和される。
【0090】
色分解処理部104においてパス数分の多値画像データを生成した後に、ハーフトーン処理部108で各パスの多値画像を2値化するような構成でも、前述した実施形態と同様にマルチパス印刷を制御することもできる。その場合、エッジ情報あるいは鮮鋭性回復量に基づいて、各パスにおける多値画像データの記録の割合を決定した後に、各パスのドットパターンを決定すればよい。この場合、各パスの多値画像データを相互に参照しつつそれぞれのパスの走査データを決定できる。そのため、2値画像データにパスマスクを適用する場合よりも、各走査におけるドットパターンの分散性を高め易い。
【0091】
また、前述の実施形態においては、中間調エッジにおけるドット間干渉の抑制を、各インク色内で行う例を説明したが、異なるインク色間で行ってもよい。例えば、ブラックインクで形成する領域とイエローインクで形成する領域が接する場合にも、本実施形態は適用できる。ブラックインクで形成する領域を先行パス側でより多く形成するパスマスクとし、イエローインクで形成する領域を後続パス側でより多く形成するパスマスクとする。これにより、ブラックインクのドットとイエローインクのドットの形成タイミングをずらし、色間でのドット間干渉を抑制することができる。あるいは、ブラックインクとイエローインクのパスマスクを逆転させて、イエローインクを先行パス側で形成し、ブラックインクを後続パス側で形成してもよい。中間調エッジにおいてエッジを挟むように連続するドットの発生を抑えることが重要であり、インク色の濃度情報を基にして、中間調エッジにおける高濃度側エッジ、あるいは低濃度側エッジを決定すればよい。
【0092】
また、前述の実施形態は、フルライン方式に従うプリンタにおいても適用可能である。ここでのフルライン方式とは、記録媒体の幅分の長さを有する記録ヘッドを固定して配置し、記録媒体を略一定速で搬送させることで画像を形成するもので、主に商業印刷向けのプリンタにおいて使用される構成である。記録ヘッドを構成する複数の記録素子列を、マルチパス方式における記録走査(パス)と読み替えることで、マルチパス印刷の制御と同様の制御を適用できる。
【0093】
また、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介して装置またはシステムに供給し、装置またはシステムのコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読み出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。