特許第6971791号(P6971791)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971791
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】記録装置及び記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20211111BHJP
   B41J 5/30 20060101ALI20211111BHJP
   B41J 2/175 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   B41J2/01 301
   B41J5/30
   B41J2/175 303
   B41J2/175 119
   B41J2/175 175
【請求項の数】26
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-217746(P2017-217746)
(22)【出願日】2017年11月10日
(65)【公開番号】特開2018-83418(P2018-83418A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2020年11月9日
(31)【優先権主張番号】特願2016-220858(P2016-220858)
(32)【優先日】2016年11月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】中村 隆
(72)【発明者】
【氏名】山田 顕季
(72)【発明者】
【氏名】土屋 興宜
(72)【発明者】
【氏名】中川 純一
(72)【発明者】
【氏名】矢野 健太郎
【審査官】 小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−044391(JP,A)
【文献】 特開2004−284124(JP,A)
【文献】 特開平10−044519(JP,A)
【文献】 特開2001−080065(JP,A)
【文献】 特開2006−205367(JP,A)
【文献】 特開2006−212817(JP,A)
【文献】 特開2006−301070(JP,A)
【文献】 特開2010−072159(JP,A)
【文献】 特開2010−271547(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/074277(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
B41J 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1タンクに貯留されるインクを吐出するための記録素子群を備える第1記録部を用いて、搬送方向に搬送される記録媒体上の第1領域を記録し、第2タンクに貯留されるインクを吐出するための記録素子群を備え、前記搬送方向と交差する走査方向において前記第1記録部と所定距離離間して配置された第2記録部を用いて、前記記録媒体上の前記走査方向において前記第1領域と異なる第2領域を記録する記録装置であって、
前記第1タンク内のインクの残量に関する第1情報と、前記第2タンク内のインクの残量に関する第2情報と、を取得する取得手段と、
前記第1情報および前記第2情報に基づいて、前記記録媒体に記録すべき画像の向きを決定する決定手段と、
前記決定手段による決定に基づいて、前記画像の記録を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記決定手段は、前記第1情報が示す値と、前記第2情報が示す値と、の差に基づいて、前記画像の向きを決定することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記決定手段は、前記第1情報が示す値と、前記第2情報が示す値と、の比率に基づいて、前記画像の向きを決定することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項4】
前記差が所定量以下である場合、前記決定手段は、前記記録媒体において前記搬送方向の下流側に前記画像の上部が記録される向きに決定し、前記差が所定量よりも多い場合、前記決定手段は、前記記録媒体において前記搬送方向の下流側に前記画像の下部が記録される向きに決定することを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項5】
画像の記録を指示するジョブが入力される手段をさらに備え、
前記ジョブの入力に基づいて、前記取得手段が前記第1情報及び前記第2情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項6】
前記ジョブが複数ページの原稿を含む場合、前記制御手段は、前記複数ページの原稿は同じ向きで記録されるように制御することを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項7】
前記第1タンク及び前記第2タンクは無彩色のインクを貯留し、前記第1情報及び前記第2情報は前記無彩色のインクの残量であることを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項8】
前記第1タンク及び前記第2タンクは有彩色のインクをさらに貯留することを特徴とする請求項7に記載の記録装置。
【請求項9】
前記有彩色は、シアン、マゼンタ、イエローのうちの少なくとも1色であることを特徴とする請求項8に記載の記録装置。
【請求項10】
前記取得手段は、前記第1タンクの前記有彩色のインクの残量に関する第3情報と、前記第2タンクの前記有彩色のインクの残量に関する第4情報と、をさらに取得し、
前記決定手段は、前記第3情報が示す値と、前記第4情報が示す値と、の差にさらに基づいて決定することを特徴とすることを特徴とする請求項8に記載の記録装置。
【請求項11】
前記第1タンク及び前記第2タンクのそれぞれが、前記有彩色のインクとして複数の色のインクを備え、
前記決定手段は、(i)前記第1情報が示す値と、前記第2情報が示す値と、の差と、(ii)前記第1タンクの複数の前記有彩色のインクのうち最も残量が少ないインクの残量を示す値と、前記第2タンクの複数の前記有彩色のインクのうち最も残量が少ないインクの残量を示す値と、の差と、に基づいて決定することを特徴とする請求項8に記載の記録装置。
【請求項12】
前記決定手段は、前記第1情報、前記第2情報、前記第3情報及び前記第4情報に基づき、インク色毎に残量の差を算出し、少なくとも1色のインクにおいて、算出された当該差が所定量よりも大きい場合に、前記記録媒体において前記搬送方向の下流側に前記画像の下部が記録される方向に決定することを決定することを特徴とする請求項10に記載の記録装置。
【請求項13】
前記第1情報は、前記第1記録部からインクを吐出した回数をカウントした情報であり、前記第2情報は、前記第2記録部からインクを吐出した回数をカウントした情報であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項14】
前記第1領域は、前記第1記録部を用いて前記第2記録部を用いずに記録され、前記第2領域は、前記第1記録部を用いずに前記第2記録部を用いて記録され、互いに重複しないことを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項15】
前記第1領域は、前記第1記録部を用いて前記第2記録部を用いずに記録される領域と、前記第1記録部及び前記第2記録部の両方を用いて記録される重複領域と、を含み、前記第2領域は、前記第1記録部を用いずに前記第2記録部を用いて記録される領域と、前記重複領域と、を含むことを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項16】
前記第1タンクは、前記第1記録部の記録素子が設けられたチップと一体に着脱可能であり、前記第2タンクは、前記第2記録部の記録素子が設けられたチップと一体に着脱可能であることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項17】
前記第1タンクは着脱可能であり、且つ、前記第1記録部の記録素子が設けられたチップとは別体に形成されており、前記第2タンクは着脱可能であり、且つ、前記第2記録部の記録素子が設けられたチップとは別体に形成されていることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項18】
前記第1記録部の記録素子が設けられたチップと前記第2記録部の記録素子が設けられたチップは、別体に形成されていることを特徴とする請求項16に記載の記録装置。
【請求項19】
前記決定手段は、(i)前記第1情報が示す値と、前記第2情報が示す値と、の差が所定の閾値よりも大きい場合、前回に決定された画像の向きと前記搬送方向において反対の向きに前記画像の向きを決定し、(i)前記第1情報が示す値と、前記第2情報が示す値と、の差が所定の閾値よりも小さい場合、前回に決定された画像の向きと前記搬送方向において同じ向きに前記画像の向きを決定することを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項20】
前記決定手段は、(i)前記第1情報が示す値に対する前記第2情報が示す値の比率が所定の閾値よりも大きい場合、前回に決定された画像の向きと前記搬送方向において反対の向きに前記画像の向きを決定し、(ii)前記第2情報が示す値に対する前記第1情報が示す値の比率が前記所定の閾値よりも大きい場合、前回に決定された画像の向きと前記搬送方向において反対の向きに前記画像の向きを決定し、(iii)前記第1情報が示す値に対する前記第2情報が示す値の比率が前記所定の閾値よりも小さく、且つ、前記第2情報が示す値に対する前記第1情報が示す値の比率が前記所定の閾値よりも小さい場合、前回に決定された画像の向きと前記搬送方向において同じ向きに前記画像の向きを決定することを特徴とする請求項3に記載の記録装置。
【請求項21】
記録する画像に対応する画像データがテキストデータであるか否かを判定する判定手段を更に有し、
前記決定手段は、(i)前記判定手段により前記画像データがテキストデータであると判定された場合、前記第1、第2情報に基づいて、前記画像の向きを決定し、(ii)前記判定手段により前記画像データがテキストデータでないと判定された場合、前記第1、第2情報にかかわらず、前回に決定された画像の向きと同じ向きに前記画像の向きを決定することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項22】
第1タンクに貯留されるインクを吐出するための記録素子群を備える第1記録部を用いて、搬送方向に搬送される記録媒体上の第1領域を記録し、第2タンクに貯留されるインクを吐出するための記録素子群を備え、前記搬送方向と交差する走査方向において前記第1記録部と所定距離離間して配置された第2記録部を用いて、前記記録媒体上の領域であって前記走査方向において前記第1領域と異なる領域を含む第2領域を記録する記録装置であって、
当該記録装置が記録したページ数をカウントしたカウント値を取得する取得手段と、
前記カウント値に基づいて、前記記録媒体に記録すべき画像の向きを決定する決定手段と、
前記決定手段による決定に基づいて、前記画像の記録を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする記録装置。
【請求項23】
前記決定手段は、前記カウント値を基準値と比較し、前記カウント値が前記基準値より小さい場合、前記記録媒体において前記搬送方向の下流側に前記画像の上部が記録される方向に決定し、前記カウント値が前記基準値以上である場合、前記記録媒体において前記搬送方向の下流側に前記画像の下部が記録される方向に決定することを特徴とする請求項22に記載の記録装置。
【請求項24】
前記取得手段は、ジョブが入力された場合にカウント値を取得し、
前記決定手段は、当該ジョブにおける画像の向きを決定することを特徴とする請求項23に記載の記録装置。
【請求項25】
前記決定手段は、前記カウント値が前記基準値よりも大きい場合、前記基準値から前記カウント値を引くことにより負の値を算出し、当該負の値は、次のジョブが入力された場合にカウント値として用いられることを特徴とする請求項24に記載の記録装置。
【請求項26】
第1タンクに貯留されるインクを吐出するための記録素子群を備える第1記録部を用いて、搬送方向に搬送される記録媒体上の第1領域を記録し、第2タンクに貯留されるインクを吐出するための記録素子群を備え、前記搬送方向と交差する走査方向において前記第1記録部と所定距離離間して配置された第2記録部を用いて、前記記録媒体上の前記走査方向において前記第1領域と異なる第2領域を記録する記録方法であって、
前記第1タンクの残量に関する第1情報と、前記第2タンクの残量に関する第2情報と、を取得する取得工程と、
前記第1情報及び前記第2情報に基づいて、前記記録媒体に記録すべき画像の向きを決定する決定工程と、
前記決定工程における決定に基づいて、前記画像を記録する記録工程と、
を備えることを特徴とする記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体上に画像を記録するための記録装置及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタは、ホストコンピュータから転送されるプリントデータ、例えばテキストやカラーイメージなどの画像を記録媒体に記録するための装置として普及している。インクジェット技術は、プリンタや複写機に用いられるほか、その用途が拡大している。これに伴い、より高速なインクジェット記録の技術に対する要望が高まっている。
【0003】
このようなインクジェットプリンタにおいて、主として、1回の走査で記録出来る記録幅を広げることや走査速度を速くして1回の走査にかかる記録時間を短くすることにより、記録の高速化が実現されてきた。上述した方法の他に記録速度を速くする方法として、特許文献1において、複数の記録部を並置し、それぞれの記録部で記録領域を分担して記録する方法が提案されている。特許文献1に記載の記録装置は、記録領域の左側を記録する左側記録部と記録領域の右側を記録する右側記録部を備えている。そして、左側記録部に対応するCMYK各色のインクのタンクと、左側記録部のタンクとは別に、右側記録部に対応するCMYK各色のインクのタンクを搭載することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3495972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、特許文献1に記載の記録装置は、記録媒体上の右側の領域と左側の領域を、左右の記録部がそれぞれ記録する構成である。このため、左右4つずつ、併せて8つ設けられたインクタンクのうち、いずれか1つのタンク内のインクが無くなってしまうと、記録することが出来なくなってしまう。また、ユーザがいつでもタンクを交換できる状況にあるとは限らない。上記課題に対し、本発明は、搭載されたインクタンク当たりの記録量を増加させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、第1タンクに貯留されるインクを吐出するための記録素子群を備える第1記録部を用いて、搬送方向に搬送される記録媒体上の第1領域を記録し、第2タンクに貯留されるインクを吐出するための記録素子群を備え、前記搬送方向と交差する走査方向において前記第1記録部と所定距離離間して配置された第2記録部を用いて、前記記録媒体上の前記走査方向において前記第1領域と異なる第2領域を記録する記録装置であって、前記第1タンク内のインクの残量に関する第1情報と、前記第2タンク内のインクの残量に関する第2情報と、を取得する取得手段と、前記第1情報および前記第2情報に基づいて、前記記録媒体に記録すべき画像の向きを決定する決定手段と、前記決定手段による決定に基づいて、前記画像の記録を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上記構成により、複数の記録部を用いて、走査方向に領域を分担して記録する記録装置において、各記録部に対応するインクタンクを用いて記録可能な量を増加させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】インクジェットプリンタの模式図
図2】2つの記録ヘッドを用いたプリンタの模式図
図3】記録システムの構成図
図4】各インクタンクのインクの残量の遷移を示す図
図5】第1実施形態の処理フローチャート
図6】第2実施形態の処理フローチャート
図7】色分解処理に用いる変換データを説明する図
図8】重複領域の記録方法を示す図
図9】重複領域の記録方法を示す図
図10】重複領域の記録方法を示す図
図11】記録方向を最終的に決定する方法を示す表
図12】第3実施形態の処理フローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタを模式的に示す図である。本実施形態のインクジェットプリンタは、記録材として複数色のインクを用いて、記録媒体上に画像を記録する記録装置である。ここでは、無彩色のインクであるブラック(K)のインクと、有彩色のインクであるシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)のカラーインクを用いる。図に示すように、プリンタ100は、プリンタの構造材をなすフレーム上に、記録部として記録ヘッドを2つ備える。図中左側の記録ヘッドを101L、右側の記録ヘッドを101Rとする。記録ヘッド101Lには、記録チップが配置され、記録チップにはインクを吐出するための記録素子群が設けられている。本実施形態の記録素子は、ヒータなどの発熱体によりインクを加熱して発泡させてインクを吐出する発熱素子であり、それぞれノズル内に設けられている。記録チップには、インク色毎にノズル列が設けられ、それぞれブラックノズル列102LK、シアンノズル列102LC、マゼンタノズル列102LM、イエローノズル列102LYである。同様に、記録ヘッド101Rにも、記録ヘッド101Lから吐出可能なインクと同色のインクを吐出するための記録素子群が設けられた記録チップが配置されている。記録ヘッド101Rの各ノズル列は、ブラックノズル列102RK、シアンノズル列102RC、マゼンタノズル列102RM、イエローノズル列102RYである。
【0011】
プリンタ100は、いわゆるシリアル記録タイプのプリンタである。記録ヘッド101L及び記録ヘッド101Rには、記録媒体としての記録用紙106の幅方向(図中X方向)に対して90度交差する方向(図中Y方向)に複数のノズルが配列する。これらの記録ヘッドを、ガイド104に沿ってX方向(走査方向)に往復走査させることにより、記録用紙106上に画像を記録する。各ノズル列のノズル配置の解像度は1200dpi(dot per inch)である。すなわち、Y方向に1/1200inchの間隔でノズルが配置されている。
【0012】
記録用紙106は、図中Y方向(搬送方向)に搬送される。記録用紙106は、モータ(不図示)の駆動力によって搬送ローラ105(および他の不図示のローラ)が回転することによって搬送される。記録用紙106が給紙されると、記録データに応じて、記録ヘッド101L及び記録ヘッド101Rの各ノズルからインクが吐出され、図中Y方向のノズル列の長さに対応した1走査分の幅の画像が記録される。そして、1回の走査による記録が終わると、再びノズル列の長さに対応した幅だけ搬送され、再度記録ヘッドの走査により1走査分の幅の画像が記録される。このような記録用紙の搬送と各記録ヘッドからのインク吐出動作を繰り返すことにより、記録媒体上に画像を記録することができる。
【0013】
図2は、図1に記載のプリンタ100が、記録ヘッド101Lと記録ヘッド101Rを用いて記録用紙106に画像を形成する様子を説明するための図である。図中、101L、102LK、102LC、102LM、102LY、101R、102RK、102RC、102RM、102RYは、それぞれ図1で説明したものと同じであるため、説明を省略する。103LK、103LC、103LM、103LYは、記録ヘッド101Lに搭載された、それぞれブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクを貯留するインクタンクである。インクを貯留するインクタンクは、対応する色のノズルに接続され、ノズルにインクを供給する。同様に、103RK、103RC、103RM、103RYは、記録ヘッド101Rに搭載された、それぞれブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクタンクである。本実施形態のインクタンクは、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色のインクのタンクが一体となっている構成であり、この一体型のインクタンクが左右の記録ヘッドに1つずつ搭載される。従って、4色のインクのいずれかが無くなった場合には、一体型のインクタンクに他色のインクが残っていたとしても、まとめて交換する必要がある。
【0014】
図2中の直線X1,X2,X3,X4は、記録用紙106の紙面上での記録ヘッドの走査方向(X方向)の位置を表している。本実施形態のインクジェットプリンタは、記録媒体上の領域を記録ヘッド101Lと記録ヘッド101Rで分担して記録する。X1は記録ヘッド101Lが記録可能な領域の左端、X2は記録ヘッド101Rが記録可能な領域の左端、X3は記録ヘッド101Lが記録可能な領域の右端、X2は記録ヘッド101Rが記録可能な領域の右端である。図中、領域A1及びA2は、記録用紙106の紙面上でのX方向の領域を表している。A1は記録ヘッド101Lを用いて記録可能な領域(第1領域)、A2は記録ヘッド101Rを用いて記録可能な領域(第2領域)である。そして、A3は記録ヘッド101Lのみが記録可能な領域、A5は記録ヘッド101Rのみが記録可能な領域である。領域A4は領域A3及び領域A5と隣接し、記録ヘッド101Lと記録ヘッド101Rの両方を用いて記録可能な領域である。以下、本明細書において領域A4を重複領域と呼ぶ。従って、領域A1は領域A3及び領域A4を含み、領域A2は領域A4及び領域A5を含む。
【0015】
ここで、領域A4の記録方法としては、例えば、以下の3つの例が考えられる。(1)記録ヘッド101Lと記録ヘッド101Rを50%ずつ用いて記録する。(2)記録ヘッド101Lを用いて領域A4中の所定のX位置よりも左側を記録し、記録ヘッド101Rを用いてX位置よりも右側を記録する。(3)領域A4において、左端であるX2に近づくほど記録ヘッド101Lを多く用いて記録し、右端であるX3に近づくほど記録ヘッド101Rを多く用いて記録するように、記録割合を段階的に変えて記録する。本発明は、上記の方法のいずれを用いてもよい。
【0016】
図3は、本実施形態に係る記録システムの構成例を示すブロック図である。同図に示すように、この記録システムは、図1に示した記録装置としてのプリンタ100と、そのホスト装置としてのパーソナルコンピュータ(PC)300を有して構成される。
【0017】
ホストPC300は、主に以下の要素を有して構成される。CPU301は、HDD303やRAM302に保持されているプログラムに従った処理を実行する。RAM302は、揮発性のストレージであり、プログラムやデータを一時的に保持する。また、HDD303は、不揮発性のストレージであり、同じくプログラムやデータを保持する。データ転送I/F(インターフェース)304はプリンタ100との間におけるデータの送受信を制御する。このデータ送受信の接続方式としては、USB、IEEE1394、LAN等を用いることができる。キーボード・マウスI/F305は、キーボードやマウス等のHID(Human Interface Device)を制御するI/Fであり、ユーザは、このI/Fを介して入力をすることができる。ディスプレイI/F306は、ディスプレイ(不図示)における表示を制御する。
【0018】
一方、プリンタ100は、主に以下の要素を有して構成される。CPU311は、ROM313やRAM312に保持されているプログラムに従い、図4以降で後述する各処理を実行する。RAM312は、揮発性のストレージであり、プログラムやデータを一時的に保持する。また、ROM313は不揮発性のストレージであり、図4以降で後述する各処理で作成されるテーブルデータやプログラムを保持することができる。
【0019】
データ転送I/F314はPC300との間におけるデータの送受信を制御する。ヘッドコントローラ315Lは、図1に示した記録ヘッド101Lに対して記録データを供給するとともに、記録ヘッド101Lの吐出動作を制御する。具体的には、ヘッドコントローラ315Lは、RAM312の所定のアドレスから制御パラメータと記録データを読み込む構成とすることができる。そして、CPU311が、制御パラメータと記録データをRAM312の上記所定のアドレスに書き込むと、ヘッドコントローラ315Lにより処理が起動され、記録ヘッド101Lからのインク吐出が行われる。同様に、ヘッドコントローラ315Rは、図1に示した記録ヘッド101Rに対して記録データを供給するとともに、記録ヘッド101Rの吐出動作を制御する。画像処理アクセラレータ316は、ハードウェアによって構成され、CPU311よりも高速に画像処理を実行するものである。具体的には、画像処理アクセラレータ316は、RAM312の所定のアドレスから画像処理に必要なパラメータとデータを読み込む構成とすることができる。そして、CPU311が上記パラメータとデータをRAM312の上記所定のアドレスに書き込むと、画像処理アクセラレータ316が起動され、所定の画像処理が行われる。尚、画像処理アクセラレータ316は必ずしも必要な要素ではく、プリンタの仕様などに応じて、CPU311による処理のみで上記のテーブルパラメータの作成処理および画像処理を実行してもよい。通常、プリンタ100は、ディスプレイ等に表示された画像において上部から順に画像処理を行い、記録媒体への記録を行うように設定されている。後述する図8(a)が通常設定の記録画像の向き(正方向)であり、図中Y方向に搬送される記録媒体に対して画像の上部から下部の順に記録される。
【0020】
図4は、各インクタンクのインクの残量の遷移を示す図である。図4(a)は、記録ヘッド101Lを記録装置であるプリンタ100に装着した直後の状態を示している。ブラックインクタンク103LK、シアンインクタンク103LC、マゼンタインクタンク103LM、イエローインクタンク103LYのそれぞれのインク残量は、ほぼ満杯である。
【0021】
ここで、図4(a)の状態から、記録媒体に向かって右側により多くのコンテンツが含まれる原稿(画像データ)を一定量記録した場合、図中V1及びV2に示す遷移が生じ、図4(b)の状態となる。本図の例では、記録ヘッド101R側のインクであるブラックインク(103RK)、シアンインク(103RC)、マゼンタインク(103RM)、イエローインク(103RY)の残量は、記録ヘッド101L側のインクと比べると残量が少ない。以下、本明細書において、左右の記録ヘッドにそれぞれ対応するインクタンクの残量の差が大幅に大きい場合、その状態を「片減りしている」と呼ぶ。この片減りが生じている状態でこのまま記録を続けると、記録ヘッド101R側のインクのいずれかがインク切れとなる可能性が高い。一方、図4(c)は、本発明において目標とするインク残量の一例を示している。記録ヘッド101Rの各タンク(103RK、103RC、103RM、103RY)の残量は、対応する色の記録ヘッド101Lの各タンク(103LK、103LC、103LM、103LY)の残量と同程度である。従って、図4(c)の状態から記録を続けると、記録ヘッド101Rのブラックインクとカラーインクのいずれかがインク切れとなった際に、対応する色の記録ヘッド101Lのインクもほぼ使い切っている可能性が高い。従って、図4(b)の状態から、図中V3及びV4で示す遷移を生じさせ、図4(c)の状態に移行し、左右のヘッドに対応するタンクの残量の差を低減する必要がある。
【0022】
これに対し、本実施形態では、図4(b)以後の画像の向きを逆転させて、記録ヘッド101Lの使用比率を上げることで、記録ヘッド101Rとのインク残量の差を低減する。これにより、タンク内のインクを有効に使い、搭載されたインクタンクを用いた記録量を増加させることができる。
【0023】
尚、記録媒体に向かって左側(記録ヘッド101Lの記録領域側)により多くのコンテンツが含まれる原稿を一定量記録した場合には、左右の記録ヘッドのインク残量の関係が逆になる。すなわち、記録ヘッド101L側の残量が、記録ヘッド101R側の残量に比べて少なくなる。このような場合には、以後の画像の向きを180度回転させ、記録ヘッド101Rの使用比率を上げることで、記録ヘッド101Lとの残量の差を低減し、図4(c)の状態に遷移するように制御する。
【0024】
一般的にユーザの記録原稿には、ユーザ毎に一定の傾向が存在する。例えば横書きテキストの場合、英語、日本語、中国語の様に左から右に記述する言語であれば、原稿の左側により多くの文字が存在する確率が高い。同様に、アラビア語の様に右から左に記述する言語であれば、原稿の右側により多くの文字が存在する確率が高い。従って、同一ユーザが長期的にプリンタを使用する場合には、左右の記録ヘッドのうちいずれかの一方の記録ヘッドのインクの消費量が多くなる。このような場合、左右の記録ヘッドに対応する複数のタンクにおいて一方のタンク内のインクが先になくなる可能性が高い。しかし、ユーザがいつでもインクタンクの交換ができる状況にあるとは限らないため、他方のタンクにインクが残っているにも関わらず記録が続行できない状況となってしまう。
【0025】
このような課題に対し、本実施形態では、記録原稿の向きを逆転させることにより、左右のタンクからのインク消費の傾向を逆転させる。これにより、左右のタンクのインク残量の差を低減し、プリンタに搭載されているインクタンクを用いた記録量を増加させることができる。尚、記録画像の向きを逆転させて反対の向きにすることにより左右のインクタンクの残量がほぼ等しくなった場合には、再度元の向きに戻すことも可能である。
【0026】
尚、図4(b)のように、左右のインクタンクのうち一方の残量が他方の残量に対して大幅に少なくなってしまった状況では、インク切れ以外の要因で画質を低下させてしまう可能性がある。それは、「インク中の水分の蒸発に伴う濃縮」である。タンク内のインクの体積に対する空気の体積の比率が大きくなればなるほど、インク中の水分の蒸発が促進する。つまり、図4(b)の状態においては、記録ヘッド101R側からの蒸発の方が多くなり、その結果、記録画像における濃度が高くなってしまうという課題も生ずる。本実施形態は左右のインクタンクのインク残量を近づけることを目的としているため、蒸発量の差に起因する左右の記録ヘッドそれぞれの記録画像の色味の差を抑制するという効果も得ることができる。
【0027】
本実施形態では、記録ヘッド101Lと記録ヘッド101Rの各ブラックインクに着目し、記録ヘッド101L及び記録ヘッド101Rにそれぞれブラックインクを供給するタンクの残量を制御することにより、記録可能量を増加させる方法を説明する。
【0028】
図5に、本実施形態の処理フローを示す。本フローは、図1に示すプリンタ100に搭載される記録ヘッド101L及び記録ヘッド101Rで分担記録を行う際の分割時の処理フローである。本処理は、図3に示したCPU311により実行され、ジョブ単位で本フローが行われる。通常、1つのジョブには1ページもしくはそれ以上のページ数の原稿が含まれる。
【0029】
印字フローがSTARTすると、ステップs5001aで、記録装置に搭載された記録ヘッド101Lが新品であるかどうかを判断する。新品ヘッドであると判断された場合にはステップs5002aに進み、当該ヘッドでこれまでに吐出した回数をカウントした数(Dot数)をリセットし、ステップs5001bに進む。ステップs5001aで新品ヘッドでは無く、継続使用のヘッドであると判断された場合は、これまで吐出した回数をカウントしたDot数を継続して用いるため、そのままステップs5001bに進む。
【0030】
ステップs5001bで、記録装置に搭載された記録ヘッド101Rが新品であるかどうかを判断する。新品ヘッドであると判断された場合にはステップs5002bに進み、当該ヘッドから吐出されたDot数をリセットし、ステップs5003に進む。ステップs5001bで新品ヘッドでは無く、継続使用のヘッドであると判断された場合は、これまでのDot数を継続して用いるため、そのままステップs5003に進む。
【0031】
ステップs5003では、以下の式を用いて、左右の記録ヘッドそれぞれのブラックインクの残存率を算出する。
【0032】
Rem_LK=(Max_K−Dot_LK)/Max_K
Rem_RK=(Max_K−Dot_RK)/Max_K
ここで、Rem_LKは、記録ヘッド101L側のブラックインクの残存率を表し、1.0が満杯、0.0がインク切れを表す。Rem_RKは、記録ヘッド101R側のブラックインクの残存率を表し、同様に1.0が満杯、0.0がインク切れを表す。
【0033】
Max_Kは、ブラックインクのインクタンクが満杯の場合に、記録できる最大画素数、すなわち吐出できる最大Dot数を表す定数であり、インクタンクの大きさと記録ヘッドの吐出量等によって決定される。本実施形態においては、Max_Kは記録ヘッド101L及び記録ヘッド101Rで共通である。
【0034】
Dot_LKは、インクタンクと一体に形成された記録ヘッド101Lが新品で装着されてから判断時までに、ブラックインクを吐出した回数(Dot数)である。同様に、Dot_RKは、インクタンクと一体に形成された記録ヘッド101Rが新品で装着されてから判断時までに、ブラックインクを吐出した回数(Dot数)である。
【0035】
次に、ステップs5004では、記録ヘッド101L側のブラックインクの残量が、記録ヘッド101R側のブラックインクの残量の所定倍よりも多いかどうかを判定する。本実施形態では、以下の式を用いて、記録ヘッド101L側のブラックインクの残量が、記録ヘッド101R側のブラックインクの残量の1.2倍よりも多いかどうかを判定する。
【0036】
Rem_LK>Rem_RK * 1.2
ここで、判定結果がYesの場合、例えば記録ヘッド101L側のブラックインクの残量が記録ヘッド101R側のブラックインクの残量の1.5倍の量である場合、記録ヘッド101R側のブラックインクが大幅に少なくなっている状況である。このとき、ステップs5006へ進み、後述の原稿の記録処理方向を、「逆方向」に設定し、ステップs5009に進む。
【0037】
一方、ステップs5004における判定結果がNoの場合、ステップs5005へ進む。ステップs5005では、記録ヘッド101R側のブラックインクの残量が、記録ヘッド101L側のブラックインクの残量の所定倍よりも多いかどうかを判定する。本実施形態では、以下の式を用いて、記録ヘッド101R側のブラックインクの残量が、記録ヘッド101L側のブラックインクの残量の1.2倍よりも多いかどうかを判定する。
【0038】
Rem_RK>Rem_LK * 1.2
ここで、判定結果がYesの場合、例えば記録ヘッド101R側のブラックインクの残量が記録ヘッド101L側のブラックインクの残量の1.5倍の量である場合、記録ヘッド101L側のブラックインクが大幅に少なくなっている状況である。このとき、ステップs5008へ進み、後述の原稿の記録処理方向を、「逆方向」に設定し、ステップs5009に進む。
【0039】
ステップs5005での判定結果がNoの場合、記録ヘッド101L側のブラックインクの残量と記録ヘッド101R側のブラックインクの残量は、互いに他方の1.2倍以下の関係にある。すなわち、左右のインクタンクのブラックインクの残量がほぼ同等である場合で、残量の差が小さい状況である。このとき、ステップs5007に進み、後述の原稿を記録する向きを、「標準の記録方向(正方向)」に設定し、ステップs5009に進む。
【0040】
尚、ステップs5004及びステップs5005において判定に用いた定数1.2や判定式は一例であり、他の定数や判定方法を用いてもよい。本図の例では、左右のブラックインクのタンクの残量の比率で判定したが、例えば、残量の差が所定量以下であるかどうかを判定してもよく、残量の差が所定量よりも多い場合に記録原稿の向きを逆転させるものであればよい。
例えば、ステップs5004で以下の式を上述した式の代わりに用いても良い。
Rem_LK−Rem_RK>Th
ここで、Thは残量差の閾値であり、例えばTh=Max_K/2と設定することができる。
【0041】
上記ステップs5004〜s5008において記録画像の向きが設定されると、ステップs5009に進む。ステップs5009〜ステップs5014においては、実際に原稿の画像データに対する画像処理を行う。ステップs5009では、原稿のRGB画像を入力する。この時、ステップs5006〜s5008で設定された「原稿の記録方向」に合わせて、画像を入力する。ステップs5007において「正方向」が設定された場合には、画像データの先頭(上部)から取得し、最後に後端(下部)を取得する。すなわち、記録媒体の搬送方向下流側に画像データの上部が記録され、搬送方向上流側に画像データの下部が記録される。ステップs5006またはs5008において「逆方向」が設定された場合には、画像データの後端(下部)から取得し、最後に先端(上部)を取得する。すなわち、記録媒体の搬送方向下流側に画像データの下部が記録され、搬送方向上流側に画像データの上部が記録される。これにより、記録用紙106上に記録される画像は、正方向時と逆方向時とで180度回転したものとなる。
【0042】
尚、本フローにおいて記録画像の向きを逆転させることが決定したとしても、その記録方向は本ジョブに限定したものであり、プリンタ100には記憶されない。従って、本フローが終了し、次のジョブが入力された際には、再度正方向の記録を前提として向きを逆転させるかどうかを判断することになる。
【0043】
ステップs5010では、原稿のRGBの色を、記録に好適なRGB値に変換する、色補正処理を行う。この色補正処理は既知の好適な処理を用いて構わない。ステップs5011では、RGB値を記録ヘッド101L及び記録ヘッド101Rそれぞれのブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各インクの付与量に変換する、LRヘッド色分解処理及びLRヘッドデータ分割処理を行う。ここで、色分解処理の手法としては既知の好適な処理を用いて構わない。本実施形態においては、理解を簡単にする為、色分解処理の入力値をRin、Gin、Binとする。そして、記録ヘッド101Lの出力値をLKout、LCout、LMout、LYout、記録ヘッド101Rの出力値をRKout、RCout、RMout、RYoutとし、以下の計算式に従って処理を行う。ここで、Rin、Gin、Bin及びLKout、LCout、LMout、LYout、RKout、RCout、RMout、RYoutはそれぞれ8bitの値であり、その値域は0〜255とする。
【0044】
C=255−Rin
M=255−Gin
Y=255−Bin
K=min(C,M,Y)
C’=C−K
M’=M−K
Y’=Y−K
ここから、図2中の領域A3、A4、A5のそれぞれに対して処理が異なるので、詳細に説明する。以下、領域A3に対する付与量を算出する計算式である。
【0045】
LKout= LK_Table[K]
LCout=C’+LC_Table[K]
LMout=M’+LM_Table[K]
LYout=Y’+LY_Table[K]
(RKout,RCout,RMout,RYout=0)
ここで、LK_Table、LC_Table、LM_Table、LY_Tableはそれぞれ、グレー画像の必要濃度Kを実現するためにK、C、M、Yの各インクの付与量を設定するための、記録ヘッド101L用の色分解テーブルである。本実施形態では、図7に記載の色分解テーブルを用いる。
【0046】
以下、領域A5に対する付与量を算出する計算式である。
【0047】
RKout= RK_Table[K]
RCout= C’+RC_Table[K]
RMout= M’+RM_Table[K]
RYout= Y’+RY_Table[K]
(LKout,LCout,LMout,LYout=0)
ここで、RK_Table、RC_Table、RM_Table、RY_Tableはそれぞれ、グレー画像の必要濃度Kを実現するためにK、C、M、Yの各インクの付与量を設定するための、記録ヘッド101R用の色分解テーブルである。本実施形態では、図7に記載の色分解テーブルを用いる。
【0048】
以下、領域A4に対する付与量を算出する計算式である。
【0049】
LKout=LK_Table[K] x a1
+RK_Table[K] x b1
LCout=(C’+LC_Table[K]) x a2
+(C’+RC_Table[K]) x b2
LMout=(M’+LM_Table[K]) x a3
+(M’+RM_Table[K]) x b3
LYout=(Y’+LY_Table[K]) x a4
+(Y’+RY_Table[K]) x b4
RKout=LK_Table[K] x c1
+RK_Table[K] x d1
RCout=(C’+LC_Table[K]) x c2
+(C’+RC_Table[K]) x d2
RMout=(M’+LM_Table[K]) x c3
+(M’+RM_Table[K]) x d3
RYout=(Y’+LY_Table[K]) x c4
+(Y’+RY_Table[K]) x d4
ここで、a1〜a4、b1〜b4、c1〜c4、d1〜d4はそれぞれ係数であり、記録領域A4を記録ヘッド101Lと記録ヘッド101Rでどのように記録するかによって適宜決定される。
【0050】
記録領域A4の記録方法として3種類の例を上述したが、それぞれに対しては、例えば以下のように設定することで、好適な記録が行える。
【0051】
まず、第1の方法として、記録ヘッド101Lと記録ヘッド101Rで50%ずつ記録する方法である。a1〜a4=0.25、b1〜b4=0.25、c1〜c4=0.25、d1〜d4=0.25、と設定することで、記録インク量を左右ヘッドで均等にすることが出来る。図8(a)に、この本方式での正方向での記録イメージ、図8(b)に、本方式での逆方向での記録イメージを示す。図8(a)と(b)では、左右の記録ヘッドの記録量の関係が逆転していることがわかる。
【0052】
次に第2の方法として、記録ヘッド101Lを用いて、領域A4における所定のX位置よりも左側を記録し、記録ヘッド101Rを用いて、領域A4における所定のX位置よりも右側を記録する方法である。所定のX位置よりも左側の画素においては、a1〜a4=1.00、b1〜b4=0.00、c1〜c4=0.00、d1〜d4=0.00である。所定のX位置よりも右側の画素においては、a1〜a4=0.00、b1〜b4=0.00、c1〜c4=0.00、d1〜d4=1.00である。図9(a)に、本方式での正方向での記録イメージ、図9(b)に、本方式での逆方向での記録イメージを示す。図9(a)及び(b)においても、左右の記録ヘッドの記録量の関係が逆転していることがわかる。
【0053】
次に第3の方法として、領域A4の中心から左側にかけて左端に寄る程、記録ヘッド101Lを多く用い、領域A4の中心から右側にかけて右端に寄る程、記録ヘッド101Rを多く用いる様に、記録割合を段階的に変えて記録する方法である。
【0054】
a1〜a4=(w−x)/w *(w−x)/w,
b1〜b4=x/w *(w−x)/w
c1〜c4=x/w * x/w,
d1〜d4=(w−x)/w * x/w
ここで、wは領域A4の幅(画素数)、xは処理対象画素の画素位置であり、領域A4の左端からの画素位置(画素数)である。従って、領域A4の左端において、x=0であり、領域A4の右端において、x=wである。図10(a)に、本方式での正方向での記録イメージ、図10(b)に、本方式での逆方向での記録イメージを示す。図10(a)及び(b)においても、左右の記録ヘッドの記録量の関係が逆転していることがわかる。
【0055】
ステップs5011の処理結果として、記録ヘッド101Lの出力データとして、図2中の領域A1(A3+A4)のLKout、LCout、LMout、LYoutが出力される。また、記録ヘッド101Rの出力データとしては図2中の領域A2(A4+A5)のRKout、RCout、RMout、RYoutが出力される。
【0056】
上述の説明において、係数a1〜a4、b1〜b4、c1〜c4、d1〜d4は、記録用紙106上にドットが理想的に配置され、インク滲みが十分に少ない場合に記録領域A4を好適に記録する場合の例を説明した。実際にプリンタ100を用いて記録する場合には、ドットの記録状態のばらつきやインク滲みに対して、適宜好適な係数を設定することができる。また、本実施形態では、係数a1〜a4、b1〜b4、c1〜c4、d1〜d4を用いて出力値を適宜計算して出力する例を説明したが、それらの係数を反映した入力→出力変換テーブルを記録画素位置毎に予め計算しておいて処理を行っても良い。
【0057】
図7は、本実施形態の色分解処理で用いる変換データの例を説明する図である。この色分解処理により、入力された画像データに基づいて、各インクの付与量を示すデータが生成される。各変換用データは、必要濃度0から必要濃度255へのグレー画像への色分解するための変換テーブルである。数値が小さいほど低濃度、数値が大きいほど高濃度のグレー色であり、255が最高濃度である。本図の説明において、記録ヘッド101L用の色分解テーブルと記録ヘッド101R用の色分解テーブルは共通のテーブルが適用可能であるため、K_Table、C_Table、M_Table、Y_Tableと記載して説明する。尚、ここで説明する色分解テーブルは、CMYK値の入力に対してCMYK値を出力する変換テーブルであり、ここで示す横軸は、0〜255の256階調のブラック(K)の値である。これは、C=M=Y=0であるグレー画像である。縦軸は、C、M、Y、Kの出力値であり、各インクの付与量に関する値である。尚、本発明で用いる色分解テーブルの入力値はCMYK値に限るものではなく、RGB値であってもよい。RGB値の入力の場合は、グレー画像はR=G=Bの場合であり、横軸はR、G、Bのいずれかの値を用いればよい。
【0058】
横軸は、グレー画像における必要濃度Kであり、縦軸は、グレー画像において必要濃度Kを実現するために用いるブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各インクの付与量を表している。図7では、グレー必要濃度0から128の低階調側では、シアン、マゼンタ、イエローのカラーインクのみでグレー画像を実現し、その量は単調増加する。このとき、ブラックインクの付与量は0である。そして、中間濃度からブラックインクの付与量が0より大きくなる。必要濃度129から254までは、ブラックインクとカラーインクの両方を用いてグレー画像を実現する。高階調側では、ブラックインクの付与量が単調増加し、カラーインクの付与量が単調減少する。最高濃度である必要濃度255は、カラーインクを用いずにブラックインクのみでグレー画像を実現する。
【0059】
ここで、図5の処理フローの説明に戻る。ステップs5012aでは、記録ヘッド101L側のインク付与量を示す、LKout、LCout、LMout、LYoutの各データを、実際に記録するDotの有無を示すDotデータに変換する量子化処理を行う。このDotの有無が、記録ヘッド101Lの各ノズルからのインクの吐出または非吐出の指示を示している。同様に、ステップs5012bでは、記録ヘッド101R側のインク付与量を示す、RKout、RCout、RMout、RYoutを、実際に記録するDotの有無に変換するDotデータに変換する量子化処理を行う。このDotの有無が、記録ヘッド101Rの各ノズルからのインクの吐出または非吐出の指示を示している。尚、量子化処理は、既知の誤差拡散処理やディザ処理等、いかなる手法を用いても構わない。量子化されたDotデータが記録ヘッドに送られて、記録ヘッドの1走査分のDotデータの準備が完了したら、記録用紙106上に記録ヘッド101Lと記録ヘッド101Rを用いた実際の画像記録が行われる。
【0060】
ステップs5013aでは、記録ヘッド101L用に量子化されたDotデータに基づいて、以下の演算式により、Dot数をカウントして累積処理を行う。尚、Count_LKは、記録ヘッド101Lのブラックインクの記録Dot数である。
【0061】
Dot_LK+=Count_LK
同様に、ステップs5013bでは、記録ヘッド101R用に量子化されたDotデータに基づいて、以下の演算式により、Dot数をカウントして累積処理を行う。尚、Count_RKは、記録ヘッド101Rのブラックインクの記録Dot数である。
Dot_RK+=Count_RK
【0062】
本実施形態では、画像の記録を目的として記録用紙106上に吐出する際のインク以外のインク消費については便宜上考慮していない。しかし、記録媒体外に吐出する所謂予備吐出等、画像の記録を目的としないインク消費を考慮することにより、インク残量の推定精度をさらに高めることができる。
【0063】
ステップs5014では、記録すべき原稿の画像データの全ての画素について処理が完了したかを判定する。判定結果がYesの場合には本印字フローは終了する。これまで累積計算されたDot_LK情報およびDot_RK情報はROM313に記憶され、次にジョブが入力された場合の印字フローに用いられる。ステップs5014での判定結果がNoの場合にはステップs5009に戻り、原稿の続きを処理する。以後、原稿が終了するまで、ステップs5009〜ステップs5014の処理を繰り返す。尚、上記ステップs5001〜s5014を何度も繰り返すことで、以下のような処理が行われる。左右の記録ヘッドのインク残量の差が広がらないような原稿を記録している場合には、常時ステップs5007において正方向記録が選択される。右側に記録データが多い原稿を記録している場合には、左右の記録ヘッドのインク残量の差が所定量よりも多くなったタイミングで、ステップs5006において逆方向記録が選択される。そして、左右の記録ヘッドのインク残量の差が所定量以下となり、片減りが解消されたタイミングで、ステップs5007において正方向記録が選択される。左側に記録データが多い原稿を記録している場合には、左右の記録ヘッドのインク残量の差が所定量よりも多くなったタイミングで、ステップs5008において逆方向記録が選択される。そして、左右の記録ヘッドのインク残量の差が所定量以下となり、片減りが解消されたタイミングで、ステップs5007において正方向記録が選択される。
【0064】
以上、説明したように、記録ヘッド101L及び記録ヘッド101Rのブラックインクの消費量を積算し、それぞれのタンク内のインクの残量を推定する。そして、それぞれの記録ヘッドのブラックインクの残量の差に応じて、記録画像の向きを逆転させる制御を行うことで、各記録ヘッドにおけるブラックインクの消費率を近付け、残量の差を低減することができる。このような制御を行うことにより、記録ヘッド101L及び記録ヘッド101Rに対応するブラックインクのタンクを用いて記録可能な量を増加させることができる。
【0065】
尚、本実施形態では、ブラックインクを主使用インクとして判断の対象としたが、ブラックインクに限定されるものではなく、いずれの色のインクを用いて判定しても良い。また、全てのインク色について、色毎に左右のインクタンクの残量の差を検出し、その差の最大値が所定量よりも多い場合に記録画像の向きを逆転させる制御を行ってもよい。
【0066】
(第2の実施形態)
前述の第1実施形態では、記録ヘッド101L、記録ヘッド101Rそれぞれに対応するタンク内のブラックインクの残量に基づいて記録方向を制御することにより、残量差を低減する方法について説明した。本実施形態では、記録ヘッド101Lと記録ヘッド101Rのブラックとカラーの全てのインク残量に基づいて、それぞれのインク消費率の差異を考慮して記録画像の向きを制御する方法について説明する。
【0067】
図6は、本実施形態における処理フローである。まず、印字フローがSTARTすると、ステップs6001aで、使用している記録ヘッド101Lについて、新品のヘッドであるかどうかを判断する。新品のヘッドであると判断された場合には、ステップs6002aに進み、当該ヘッドで記録したDot数をリセットし、ステップs6001bに進む。ステップs6001aで、新品のヘッドでは無く、継続使用されているヘッドであると判断された場合は、これまでの記録Dot数を継続して用いるため、そのままステップs6001bに進む。
【0068】
ステップs6001bで、使用している記録ヘッド101Rについて、新品のヘッドであるかどうかを判断する。新品のヘッドであると判断された場合には、ステップs6002bに進み、当該ヘッドで記録したDot数をリセットし、ステップs6003に進む。ステップs6001bで、新品のヘッドでは無く、継続使用されているヘッドであると判断された場合は、これまでの記録Dot数を継続して用いるため、そのままステップs6003に進む。ステップs6003では、図5中のステップs5003と同一の処理であるため、説明を省略する。
【0069】
次に、ステップs6004では、カラーインクの残存率を計算する。
【0070】
Rem_LCol=min((Max_C−Dot_LC)/Max_C,(Max_M−Dot_LM)/Max_M,(Max_Y−Dot_LY)/Max_Y)
Rem_RCol=min((Max_C−Dot_RC)/Max_C,(Max_M−Dot_RM)/Max_M,(Max_Y−Dot_RY)/Max_Y)
ここで、Rem_LColは、記録ヘッド101L側のカラーインクの残存率を表し、1.0が満杯、0.0がインク切れを表す。同様に、Rem_RColは、記録ヘッド101R側のカラーインクの残存率を表し、同様に1.0が満杯、0.0がインク切れを表す。
【0071】
Max_C、Max_M、Max_Yは、シアン、マゼンタ、イエローの各インクタンクが満杯の場合に、各色で記録できる最大画素数、すなわち吐出できる最大Dot数を表す定数であり、インクタンクの大きさと記録ヘッドの吐出量等によって決定される。本実施形態においては、Max_C、Max_M、Max_Yは、記録ヘッド101L及び記録ヘッド101Rで共通である。
【0072】
Dot_LC、Dot_LM、Dot_LYは、インクタンクと一体に形成された記録ヘッド101Lが新品で装着されてから判断時までに吐出した各色のDot数である。本実施形態において、Rem_LColは、シアン、マゼンタ、イエローのインク残存率の最小値であり、最もインク残量の少ないインクの残存率である。同様に、Dot_RC、Dot_RM、Dot_RYは、インクタンクと一体に形成された記録ヘッド101Rが新品で装着されてから判断時までに吐出した各色のDot数である。本実施形態において、Rem_RColは、シアン、マゼンタ、イエローのインク残存率の最小値であり、最もインク残量の少ないインクの残存率である。
【0073】
続いて、ステップs6005a〜ステップs6009aは、図5中のステップS5004〜ステップs5008と同一の処理なので説明を省略する。しかし、本実施形態では、記録画像の向きはこのステップで確定する訳では無く、後述のステップs6016の記録方向最終決定部で決定されるため、この時点では記録方向をフラグとして設定する。ステップs6007a、s6009aにて記録画像の向きを逆転させると判定された場合には、記録方向逆転フラグFlg_Bk=1が設定される。また、ステップs6008aにて記録画像の向きを逆転させないと判定された場合には、記録方向逆転フラグFlg_Bk=0が設定される。
【0074】
上記ステップs6005a〜s6009aが終了すると、ステップs6005bに進む。
ステップs6005b〜s6009bでは、ステップs6005a〜s6009aと同様の処理である。ここでは、記録ヘッド101Lに対応するカラーインクのうち残量が最も少ないインクの残存率(Rem_LCol)と、記録ヘッド101Rに対応するカラーインクのうち残量が最も少ないインクの残存率(Rem_RCol)と、を比較する。そして、その差が所定量よりも多いか否かを判定する。本実施形態では、一方が他方に対して1.2倍よりも多いかどうかを判定する。尚、ここでの比較は、同色のインク同士になるとは限らない。
【0075】
各ステップでは、以下の判定式を用いる。
【0076】
ステップs6005b:Rem_LCol>Rem_RCol * 1.2
ステップs6006b:Rem_RCol>Rem_LCol * 1.2
ここで、ステップs6007bに進んだ場合は、記録ヘッド101R側のカラーインクのうち最も残量が少ないインク色の残量が、記録ヘッド101L側のカラーインクのうち最も残量が少ないインク色の残量に比べて大幅に少ない状況である。このとき、記録方向逆転フラグを「Flg_Col=1(逆方向)」に設定する。同様に、ステップs6009bに進んだ場合は、記録ヘッド101L側のカラーインクのうち最も残量が少ないインク色の残量が、記録ヘッド101R側のカラーインクのうち最も残量が少ないインク色の残量に比べて大幅に少ない状況である。このとき、記録方向逆転フラグを「Flg_Col=1(逆方向)」に設定する。ステップs6008bに進んだ場合は、記録ヘッド101L側のカラーインクのうち最も残量が少ないインク色の残量と、記録ヘッド101R側のカラーインクのうち最も残量が少ないインク色の残量に大きな差がない状況である。このとき、記録方向逆転フラグを「Flg_Col=0(正方向)」に設定する。
【0077】
また、記録画像の向きは後述のステップs6016の記録方向最終決定部で決定されるため、この時点では記録方向をフラグとして設定する。ステップs6007a,s6009aにて記録画像の向きを逆転させると判定された場合には、記録方向逆転フラグFlg_Col=1が設定される。また、ステップs6008aにて記録画像の向きを逆転させないと判定された場合には、記録方向逆転フラグFlg_Col=0が設定される。
【0078】
上記ステップs6005b〜s6009bが終了すると、ステップs6016に進む。ステップs6016では、ステップs6005a〜s6009aで判定した記録方向逆転フラグFlg_Bkと、ステップs6005b〜s6009bで判定した記録方向逆転フラグFlg_Colの組み合わせから、記録画像の向き最終的に決定する。
【0079】
図11は、記録画像の向きを最終的に決定する方法を示す表である。表の2行目は記録方向逆転フラグFlg_Bk、3行目は記録方向逆転フラグFlg_Colであり、それぞれ0,1の2通りの組み合わせで、合計4通りの組み合わせが記載されている。表の4行目は、それぞれの組み合わせに対して最終的に決定される記録画像の向きが記載されている。このとき、Flg_Bk及びFlg_Colのいずれも正方向記録が設定されていた場合のみ、最終的に決定される記録画像の向きが正方向記録となる。それ以外のケースは、ブラックインクの残量とカラーインクの残量のうち少なくとも一方において残量の差が大きく、逆方向記録が設定された場合には、最終的に決定される記録画像の向きは逆方向記録である。このように制御を行う理由について、各ケースについて説明する。
【0080】
Flg_Bk=0、Flg_Col=0の場合は、ブラックとカラーのいずれも残量の差が所定量以下である。従って、現状の記録の向きを継続して良いと言える。次に、Flg_Bk=1、Flg_Col=1の場合は、ブラックとカラーのいずれもが、残量の差が所定量よりも多く、片減りしている状態である。従って、現状の向きから逆転することで、左右のインクタンクの片減りを改善し、残量の差を低減する方向に制御する。Flg_Bk=0、Flg_Col=1の場合は、ブラックインクの残量の差が所定量以下であり、片減りしておらず、カラーインクの残量の差が所定量よりも多く、片減りしている状態である。従って、現状の向きから逆転することで、カラーインクの片減りを改善し、残量の差を低減する方向に制御する。ブラックインクの残量の差は小さく、片減りしていないため、現状の向きから逆転しても、片減りする可能性は低いと考えられる。Flg_Bk=1、Flg_Col=0の場合は、カラーインクの残量の差が所定量以下であり、片減りしておらず、ブラックインクの残量の差が所定量よりも多く、片減りしている状態である。従って、現状の記録方向から逆転することで、ブラックインクの片減りを改善し、残量の差を低減する方向に制御する。カラーインクの残量の差は小さく、片減りしていないため、現状の記録方向から逆転しても、片減りする可能性は低いと考えられる。
【0081】
ステップs6010〜ステップ6013a及びs6013bは、図5中のステップs5009〜ステップs5012a及びs5012bと同一の処理なので説明を省略する。続いて、ステップs6014aでは、記録ヘッド101L用に量子化されたDotデータから、以下の式によりDot数をカウントし、累積処理を行う。
【0082】
Dot_LK+=Count_LK
Dot_LC+=Count_LC
Dot_LM+=Count_LM
Dot_LY+=Count_LY
ここで、Count_LK、Count_LC、Count_LM、Count_LYは記録ヘッド101L側のそれぞれのインク色の記録Dot数である。
【0083】
同様に、ステップs6014bでは、記録ヘッド101R用に量子化されたDotデータから、以下の式によりDot数をカウントし、累積処理を行う。
【0084】
Dot_RK+=Count_RK
Dot_RC+=Count_RC
Dot_RM+=Count_RM
Dot_RY+=Count_RY
ここで、Count_RK、Count_RC、Count_RM、Count_RYは記録ヘッド101R側のそれぞれのインク色の記録Dot数である。
【0085】
ステップs6015では、記録すべき画像データの全ての画素について処理が完了したかを判定する。判定結果がYesの場合には本フローは終了する。そして、これまで累積計算されたDot_LK、Dot_LC、Dot_LM、Dot_LY情報およびDot_RK、Dot_RC、Dot_RM、Dot_RY情報は、ROM313に記憶され、次の原稿の印字命令が入った際に用いられる。ステップs6015での判定結果がNoの場合にはステップs6010に戻り、原稿の続きを処理することとなる。以後、最後の画素まで、ステップs6010〜ステップs6015が繰り返される。
【0086】
以上説明したように、記録ヘッド101L及び記録ヘッド101Rのインクの消費量を色毎に積算してインク残量を推定する。そして、少なくとも1つのインクタンクにおいて残量の差が大きく、片減りが生じている場合に、以後の記録の向きを逆転させる制御を行うことで、各記録ヘッドにおけるブラックインクとカラーインクの消費率を近付け、残量の差を低減することができる。このような制御を行うことにより、記録ヘッド101L及び記録ヘッド101Rに対応するインクタンクを用いた記録量を増加させることができる。本実施形態は、左右の記録ヘッドに対応するインクタンクのうち、ブラックインクのインクタンクと、カラーインクのうち少なくとも1つのインクタンクと、が一体に形成された構成、もしくは一緒に交換が必要である構成において、特に高い効果を得ることができる。
【0087】
また、本実施形態では、左右の記録ヘッドにそれぞれ対応するCMYの3色のカラーインクのうち、左右それぞれで最も少ないインクを特定し、それらの残量を比較することにより記録画像の向きを逆転させるかどうかを決定する例を説明した。この例に限らず、インク色毎に左右の残量の差を判定し、1色でも残量の差が所定量よりも多い場合に記録方向を逆転させるように決定する処理を行ってもよい。
【0088】
(第3の実施形態)
第1及び第2実施形態では、実際に記録データを解析してDot数をカウントすることによりインク消費量から残量を推定し、推定結果に基づいて記録方向を制御する例を説明した。本実施形態では、記録データの解析やインク消費量の累積等を行わずに、記録方向を周期的に制御することで、搭載されたインクタンクを用いた記録量を増加させる例を説明する。
【0089】
図12は、本実施形態のフローチャートである。まず、印字フローがSTARTすると、ステップs1201で、プリンタが初期状態であるか、すなわち新品であるかを判断する。プリンタが初期状態であると判断された場合はステップs1202に進み、記録したページ数を示す「Page」をリセットする。本実施形態では、「0」に設定する。そして、記録方向Flgを正方向(=0)に設定し、ステップs1203に進む。ステップs1201で、プリンタが初期状態では無いと判断された場合は、これまでの記録ページ数を継続して用いるため、そのままステップs1203に進む。
【0090】
ステップs1203では、これまで記録したページをカウントした累積数を示す「Page」が、制御周期を表す基準値である「Cycle」以上であるかを判定する。Yesと判定された場合、すなわちカウントした値が基準値以上である場合はステップs1204に進む。ステップs1204では、以下の式により、記録の向きを逆転する。
Flg=1−Flg
【0091】
上記式により、Flg=1(逆方向)の場合にはFlg=0(正方向)となり、Flg=0(正方向)の場合にはFlg=1(逆方向)となり、記録画像の向きを逆転する。そして、記録枚数「Page」を、「Cycle−Page」の値に更新する。これは、正方向と逆方向の記録枚数を同じにするためである。本フローの方法では、ジョブの途中で方向を切り替えることは行なわず、ジョブ内に含まれる原稿は同じ向きとする。このため、前回のジョブの終了時に、カウントした「Page」の値が基準値である「Cycle」を超えてしまう場合がある。このとき、左右のインクタンクの片減りが進み、残量の差が広がってしまっている可能性があるため、次に逆転して記録する際の枚数をCycleよりも増やす必要があるからである。例えば、Cycle=100、ステップS1203に入ってきたタイミングでのPage=105であるとする。このとき、逆転後に記録するページ数を105ページにするために、記録枚数のカウント値である「Page」を「Cycle−Page」に更新する。ここでは、Cycle−Page=100−105=−5となり、カウント値が負の値に更新される。次に「Page>=Cycle」を満たすまでに必要な記録ページ数は、105ページとなり、正方向と逆方向の記録ページ数を同じにすることができる。Pageの値を更新した後、ステップs1205に進む。ステップs1203の判定結果がNoである場合、すなわち基準値よりも小さい場合には、そのままステップs1205に進む。
【0092】
ステップs1205〜s1211は、実際のフローである。ステップs1205〜s1208a及びs1208bまでは、前述の第2の実施形態のステップs6010〜s6013a及びs6013bと処理内容が同一である為、説明を省略する。
【0093】
ステップs1208a及びs1208bの後は、ステップs1209に進み、当該Page分の処理が終了したかどうかを判定する。判定結果がYesである場合には、ステップs1210に進み、記録ページ数を示す「Page」に1加算し、ステップs1211に進む。ステップs1209の判定結果がNoである場合には、直接ステップs1211に進む。
【0094】
ステップs1211では、原稿の記録が全て完了したかを判定し、判定結果がYesである場合には印字フローを終了し、次の記録に備える。ステップs1211の判定結果がNoである場合には、ステップs1205に戻り、再び記録処理を継続する。
【0095】
このように、ステップs1205〜ステップs1211を繰り返す間に、Page数のカウントが進み、必要なページ数、すなわち「Cycle」以上となった場合には、次のジョブからは記録の向きを逆転させることとなる。
【0096】
このように、記録ページ数をカウントし、周期的に記録の向きを切り替えることで、マクロ的には左右のインク消費量を平均化させ、左右に搭載されたインクタンクを用いた記録量を増加させることができる。また、ジョブ毎に記録方向を切り替える場合には、予め設定したページ数を超えて記録した枚数を考慮して、次の判定を行う。これにより、左右ヘッドの消費量を平均化し、タンク内のインク残量の差を低減させる精度を高めることができる。
【0097】
(第3の実施形態の変形例)
第3の実施形態では、ジョブ内では記録方向が切り替わらず、次のジョブの前に切り替えるかどうかを判定する方法を用いたが、本変形例では、1ジョブに複数ページ含まれる場合に、所定の周期で記録の向きを切り替える方法を説明する。
【0098】
本変形例では、図12のフローチャートにおいて、ステップs1211の判定結果がNoである場合、ステップs1205へ戻らずに、破線で記載しているステップs1203へ戻る。例えば、Cycle=10と設定した場合には、記録原稿10ページ毎に記録画像の向きを180度回転させ、Cycle=1と設定した場合には、1ページ毎に回転させる。
【0099】
以上のように、所定のページ数の周期で記録方向を切り替えることにより、左右ヘッドのインク消費量を平均化し、タンク内のインク残量の差を低減する精度を高めることができる。尚、第3の実施形態及びその変形例は、処理がシンプルであるため、所定の枚数を繰り返し記録するユースケースに適している。例えば、表面を所定枚数記録した後、裏面を同一枚数記録する様なユースケース、またそれらの表面、裏面の記録を繰り返す様なケースである。
【0100】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、プリンタ100において、図5及び図6に示した各処理、すなわち、残量に関する情報の取得、及び、その情報を用いた記録の向きを決定する処理を行う形態について説明した。これらの工程をホストPC300側において行う形態であってもよく、ホストPC300とプリンタ100で各処理を分担して行う形態であってもよい。
【0101】
また、記録ヘッド101L及び記録ヘッド101Rのそれぞれから吐出されたDot数をカウントした値は、プリンタ100が保持する形態であってもよい。また、交換可能なインクタンクもしくはインクタンクと一体に形成された記録ヘッドが保持する形態であってもよい。交換可能なインクタンクもしくは記録ヘッドがカウント値を保持する場合、図5のステップs5001a及びs5001b、図6のステップs6001a及びs6001b、図12のステップs1201に示した新規ヘッドか否かの判定のステップは省略してよい。尚、インクタンクもしくはインクタンクと一体に構成された記録ヘッドがカウント値を保持する場合には、使用途中のヘッドを別の異なる記録装置本体に付け替えた場合にも本発明の効果を得ることができる。
【0102】
また、各実施形態における記録画像の向きを決定するタイミングは、記録ジョブ毎でもよく、予め設定したページ数毎に行ってもよい。記録ジョブ毎に記録画像の向きを決定する場合には、1つの記録ジョブ内では向きを逆転させず、同じ向きを保つことになる。1ページ毎に記録画像の向きを決定する場合には、いずれかのタンクにおいてインクが無くなりそうな場合であっても、記録を続けられる可能性を高くすることができる。
【0103】
また、上述の実施形態では、左右の記録ヘッド101L及び記録ヘッド101Rは領域A4を重複して記録する場合について説明したが、領域A4の幅は0であってもよい。すなわち、記録ヘッド101Lの記録領域A1と記録ヘッド101Rの記録領域A2が重複しなくてもよい。重複せずに分担して記録する場合であっても、片減りを解消する効果を得ることができる。
【0104】
また、上述の実施形態では、量子化された2値の記録データに基づいて、記録Dot数をカウントすることにより残量を推定する方法を用いたが、残量を取得する手段としてはこの方法に限るものではない。例えば、センサを用いて残量を検出する方法であってもよく、インクタンク内のインク残量を推定できるものであれば他の手段を用いてもよい。
【0105】
また、複数色のインク、例えばブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクのタンクが一体に設けられた構成において、本発明はより高い効果を得ることができる。各インクのタンクが別体に設けられたものであってもよく、いずれか複数のインクタンクが一体に設けられたものであってもよい。また、前述の実施形態では、記録素子が設けられた記録チップがインクタンクと一体に着脱可能に構成された記録ヘッドの例を示した。この場合、一体型に構成されたいずれかの色のインクが無くなった場合、インクタンクだけでなく、記録チップを含む記録ヘッドごと交換しなければならないため、本発明の効果がさらに顕著なものとなる。本発明は、インクタンクと記録チップが別体に構成され、記録装置からインクタンクのみを外して交換する形態であってもよい。この場合、ステップs5001a及びステップs5001b等においては、インクタンクが新品であるか否か、もしくは、インクタンク内のインクが満杯であるかどうかを判定すればよい。また、左右の記録ヘッドは別体に形成されていてもよく、一体に形成されたものであってもよく、左右のチップが一体に形成されたものであってもよい。その場合、領域A1と領域A2を記録する同色のインクの記録素子の距離が、図2のX方向において位置X1と位置X2に示す所定距離離間していればよい。ここでの所定距離とは、左右の記録ヘッドが記録媒体上のX方向における領域を分担して記録するものであればよく、その距離は記録装置の構成及び記録媒体のサイズによって適宜決定することができる。
【0106】
また、記録媒体の左右で付与すべきインク量の差が大きい画像を記録する場合に各実施形態による効果は大きくなる。上述のように、文書を記録する場合において、左右の吐出量差は大きくなる。したがって、記録する画像が文書であるかを判定し、文書であると判定された場合にのみ各実施形態における制御を実行しても良い。ここで、画像に対応する画像データがテキストデータであるか否かを判定すれば、記録画像が文書であるか否かを判定することができる。
【符号の説明】
【0107】
101L 左側記録ヘッド
101R 右側記録ヘッド
106 記録用紙
103LK 記録ヘッド101Lに搭載されたブラックインクのタンク
103RK 記録ヘッド101Rに搭載されたブラックインクのタンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12