(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
従来、貨物船等の一般の大型船舶の舵は、通常、操舵機の回転角度を左右±35°ずつ、合計70°とし、舵の舵角も同じく70°とされる。一方、発明者は、特許文献1で主として小型船向けに、プロペラ挟み2枚の舵板を配する1軸推進2舵船用操舵装置を開示している。プロペラ側方にしろ、後方にしろ2枚の舵板を配する1軸推進2舵船は、2舵の共同によりプロペラ後方を遮蔽するように大きな舵角をとり、大きな制動力を提供することが可能となる。この場合、操舵機の回転角度は従来の左右±35°ずつ、合計70°から左右±70°ずつ、合計140°程度の操舵角が求められる。あるいは、港内の接岸時には左右±80°ずつ、合計160°程度の操舵角によりスラスト流を発生させることが望まれる。合計160°程度の操舵角を追求し、ピストンロッド1本の往復動で70°より大きい回転角を得ようとすると、ストローク長を伸ばしても、舵柄を介して舵軸ピストンロッドに作用する力のクランク角(舵柄の上流側船軸を起点とする旋回角度をいう、以下同じ)が鋭角になりすぎ、最大舵角(旋回限界角をいう)付近で十分なトルクを生成するには、大型の油圧機構を必要とし、特に入出港の頻度の高い大型クルーズ船に実装する場合、エネルギー消費が問題となる。
【0004】
具体的には、従来の操舵機構では、船底に水平揺動自在に支持固定される油圧シリンダー機構に往復動伸縮自在に支持されるピストン機構が二本若干ハの字形に配置されて、ピストン先端部は舵柄に回転自在にリンク結合されて舵柄の中央に船底に向って回転自在に支持固定される舵軸は、片側のピストンが+80°の舵角を取るときには、船軸中央線には、ほぼ10°の作用角(クランク角)を呈することとなる。このように鋭角を成す作用角では、平行舵角の場合のプロペラ推力に対して約1/sin10°倍、約5倍の作用力が必要とされる。このように最大舵角付近で大きな舵力を与える油圧シリンダー・ピストンロッド部を備えると、特に大型船では、運転時の舵制御に要する燃料消費量の観点で経済性が問題となる。
【0005】
舵駆動能力増のため油圧ピストンをタンデム化するとピストン1本あたりの所要駆動能力を減ぜられ従来程度の能力で構成可能である。例えば、トランクピストン型シリンダー・ピストン駆動機構として、一つの舵軸に棒状の舵柄を介して二本のシリンダー・ピストン機構が作用する構造をとる場合、ピストン1本あたりの所要駆動能力は半減する。さらに、発明者は、特許文献2でピストンロッドの延長線が交叉するタンデム構成の操舵装置を開示し、油圧シリンダー系の配置による駆動能力の低減緩和とスペースの有効活用に優れる船舶の操舵装置を提供している。
【0006】
ところで、プロペラ後方に2枚の舵板を配し、2舵の共同によりプロペラ後方を遮蔽するように大きな舵角をとり、大きな制動力を提供する1軸推進2舵操船の採用を提案している他の商用技術も見受けられる(特許文献3、非特許文献1)。緊急時の急停止には、舵を船体に対して大きな舵角で回転させることを要し、非特許文献2の提案では、広い舵角を実現する仕組みとして、ロータリーベーン式の油圧駆動機構を提案されているが、ロータリーベーン式だと油圧の実質的な作用半径が小さく、また、作動油のシールに課題があり経済的にも適当なものは存しない。
【0007】
本発明は、舵柄と油圧シリンダーの配置に課題を見出し、操舵装置を大舵角(±80度)の操舵装置に適用しても最大舵角付近で十分な舵力を出力して、最大舵角付近でプロペラ回転数を上げる操舵機構のエネルギー消費をさらに抑制する船舶の操舵装置(以下で、単に操舵装置ともいう)に関する発明である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、舵柄と油圧シリンダーの配置に課題を見出し、操舵装置を±80°程度の大舵角の操舵装置に適用しても最大舵角付近で十分な舵力を出力して、最大舵角付近でプロペラ回転数を上げる操舵機構のエネルギー消費をさらに抑制する船舶の操舵装置に関する発明である。
【0011】
本発明では、最大舵角の近傍でも十分に舵力を生成させて操船の柔軟性、制動力の向上をもたらす、舵板の舵角を合計160°可能な操舵装置を提供する。本発明に係る操舵装置によって低速時のスラスト流の生成、2舵によってスクリュー後流の閉塞も実現され、そこでは、最大舵角付近でも実質的に有効な程度の舵力が確保されて、プロペラ後方で強い偏向流を生成し、プロペラ後方でプロペラ水流を閉塞してもプロペラ推力の反力に打ち勝つ舵力の生成を可能とする。しかも、本発明は、従来から信頼性が高く、実績のあるシリンダー油圧機構の直線往復動を利用し、シリンダー・ピストン機構を1枚の舵板について2つ用いて、うち一つは他方のものよりも作動油の流量を減じつつ各機構が互いに補間しながら協働して全体で160°の舵角を実現可能とし、従来の操舵装置では、クランク角の小さくなる最大舵角付近での操舵力を向上しつつ、より少量の作動油量で稼働し、省エネルギーを実現する船舶用の新しい操舵装置である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題を解決した本発明は以下のとおりである。
2枚の舵板と、前記各舵板と連結する舵軸と、舵軸を回転させる駆動機構を有し、
前記舵軸は、スクリュー軸上方両脇に回転自在に2軸配置され、各舵軸の回転により各舵板をプロペラ側方からプロペラ後方へ旋回させる船舶の操舵装置であって、
前記駆動機構は、往復動のために配置された油圧シリンダー・ピストンロッド部と、各ピストンロッドの往復動を前記舵軸の回転動に変換するためにピストンロッドに回転可能に連結されている舵軸と一体化された舵柄とを含み、
前記油圧シリンダー・ピストンロッド部は1舵柄あたり二本構成でピストンロッドの軸芯線が交叉するように配設され、かつ、ストローク長が不均等長であ
り、
前記二本の前記油圧シリンダー・ピストンロッド部の一方は、ストロークの最短位置が舵板上流旋回限界に対応し、ストロークの最長位置が舵板下流旋回限界に対応する配置であることを特徴とする操舵装置である。
【0013】
[発明の作用効果]
一般の大型船の舵は、右35°、左35°合計70°の舵角を有する。本発明は、舵角のより大きなものを提供可能な操舵装置の発明である。舵柄の一端に舵の軸心があり、その反対側に二本のピストンロッドが連接点を中心に所定の交叉角で対向して取り付けられており、2本のピストンにより油圧で駆動される。伝統的なピストンロッド作動の油圧シリンダーの採用により従来と同レベルの耐久性及び信頼性を確保し、2本のピストンロッドによって舵柄を舵軸まわりに旋回させて、各々は同時に又は旋回方向を分担して、舵軸にプロペラ推進力に対向する十分な舵力を確保する。一実施形態では、舵軸と一体化されている舵柄には、二本のピストンロッドが所定の交叉角で対向して配置され、すなわち、前記ピストンロッドが最大操舵角時にも少なくともこの交叉角と180°の差の半分が確保されてピストン力が舵柄に作用するので、最大舵角付近で作用角も従来に比して大きく確保できる効果を有し、最大舵角付近での旋回性能にも有利である。タンデム配置の二本のピストンロッドは交叉して配設され、互いに同時に又は他を補って舵柄を作動する。
【0014】
油圧シリンダーに双方向のデュアルタイプを採用すれば、双方が同時に同旋回方向に舵柄を旋回させ、舵軸に同方向の回転モーメントを同時に作用させることもできる。
【0015】
一実施形態では、最大舵角を160°と従来の70°の2倍以上であり、油圧シリンダー・ピストンロッド部は、操舵中立点(舵板が船軸と略平行になる位置をいう)で前記二本のピストンロッドは互いに直交するように略垂直に配置される。
【0016】
ストローク長が不均等長であることによって、一方の油圧シリンダー・ピストンロッド部のストロークの低減によって機構系を小型ですますことも可能であり、油圧回路系をより小型化できる。これによって、片方のピストンの要求油量を減ぜられる。あるいは、油圧シリンダー・ピストンロッド部の機構系は両方とも同一のものを用いても、回転自在に舵柄に接続されると実際のストロークはこれら配置による拘束によって一方のストロークは他方に比して短くなるから、油圧シリンダー面積を同じとしても作動油量を低減でき、油圧回路系をより小型化できる。
【0017】
例えば仮想的に交叉角が0°より僅かに大で舵角範囲が180°よりも僅かに小さな場合、舵柄旋回半径をRとすれば、ここでいう不均等長とは、以下の(2)の場合をいう。
(1) 二本のストローク長L
1,L
2がほぼ等しい場合は、交叉角が0°より僅かに大きい。この場合、舵柄の作用点の旋回半径をRとして、ストローク長の合計長はL
1+L
2≒4Rである。
(2) 一方のストローク長(L
1)が他方の半分のストローク長(L
2)までの、不均等長の場合は、最短でL
1+L
2≒3Rの範囲に収まるストローク長の組み合わせでよい。
このように、ストローク長が不均等長となれば、船軸に舵板が略平行となる巡行時の舵位置である舵中立点と各舵軸の旋回中立点との位相角に差異が生じ、最大で位相90°、最大で行程差Rが発生し、油圧シリンダー断面積をSとすれば所要油量Vが最大限
V=R x S … (1)
まで節減でき、この作動油流量減分、省エネルギーとなるという効果を得る。
【0018】
もう一つの態様では、本発明は、さらに、前記ピストンロッドの交叉角は略垂直である操舵装置を提供する。すなわち、ピストンロッドの交叉角は略垂直であれば、一方のピストンロッドが最大操舵角時にも少なくともこの交叉角が略垂直であるからこれが最小の操舵能力を与えるなら、位相差から他方のピストン力が略最大能力で舵柄に作用し互いの補完性能は最大となる効果を得る。
【0019】
【0020】
もう一つの態様では、本発明は、前記2枚の舵板が互いに干渉する間際までを舵板の下流旋回限界角とする操舵装置を提供する。下流限界までの限界舵角を提供する操舵装置であり、互いに干渉する間際までスクリュー後流を閉塞し停止時の制動力を最大限に発揮可能である。
【0021】
もう一つの態様では、本発明は、さらに、舵板上流旋回限界として舵中立点から上流側に左右40°、舵板の下流旋回限界角として下流側に各左右120°最大舵角として160°操舵可能とする構成の操舵装置を提供する。このように、最大舵角として160°とする場合、舵中立点から上流側と下流側の配分は1:2程度とすれば、面舵と取舵に必要な限度の舵角が確保可能であり、かつ、スクリュー後流を閉塞し停止時の制動力を最大限に発揮可能である。
【0022】
もう一つの態様では、本発明は、さらに、前記2枚の舵板は下流側に同時には少なくとも各左右60°、かつ片側最大舵角幅160°操舵可能とする操舵装置を提供する。すなわち、スクリュー後流を遮断するには、舵板は下流側に同時に同舵角に旋回するがその場合の中立点からの舵角は少なくとも各左右60°あれば、舵板長も必要以上に長ずる必要もなく、後流を遮断可能であり、必要以上に舵板面積を大とすることなく運航時の燃料消費を低減し、なお、片舵では最大舵角160°まで舵角を確保し、低速時のスラスト流態様の側流を生成可能とする。
【0023】
もう一つの態様では、本発明は、さらに、ピストンロッドの短い方のストローク長L
1は長い方のストローク長L
2の50%以下の範囲の操舵装置を提供する。このように十分に不均等ストローク長の差異を両ピストンロッドが施されていれば、このストローク長の差異分だけ油圧シリンダーの出入りの作動油量は減少し、動力構成は小さくするという重畳の省エネルギーの態様を提供する。
【0024】
もう一つの態様では、本発明は、さらに、ストローク長の短い方の前記油圧シリンダー・ピストンロッド部の油圧シリンダー能力はもう一方の油圧シリンダー能力の50%以下である操舵装置を提供する。このようにストローク長が短いだけでなく、油圧シリンダー能力も小型のものとすれば、作動油量はさらに減少し、機構はより小型化可能であって、より省エネルギーに資する操舵装置を提供する。あるいは、圧力を低くし油圧ポンプあるいは油圧モーター等の付帯機構を小型化可能とし船舶の軽量化に貢献する。
【0025】
もう一つの態様では、本発明は、さらに、舵板下流限界として下流側へ60°〜120°舵角するとき両舵でスクリュー後流を閉塞する操舵装置を提供する。すなわち、舵板下流限界が60°よりも小さいとスクリュー後流を閉塞するには舵板が大きくなり、推進抵抗が増すし舵板下流限界が120°よりも大きいと舵中立点からの舵板上流限界が十分に確保できず、面舵、取舵時の操船に支障が生ずる場合があり、このような不都合を排する操舵装置を提供する。
【0026】
もう一つの態様では、本発明は、さらに、舵板下流限界として舵中立点から下流側へ90°を超えて舵角するとき両舵でスクリュー後流を閉塞する操舵装置を提供する。すなわち、90°を超えて舵角するとき舵板下流限界に達する本態様では、両舵板は舵板下流限界に達するまではどのような舵角を取っても両舵板互いに干渉せず、万が一舵角の制御異常の場合でも舵板の接触を避ける操舵装置を提供する。
【0027】
もう一つの態様では、本発明は、さらに、下流側へ90°を超えず舵角するとき両舵でスクリュー後流を閉塞する操舵装置を提供する。すなわち、比較的大きな舵板を用い、下流側へ90°を超えず舵角してスクリュー後流閉塞し、さらに片方の舵板を90°以上舵角して、強力なスラスト流を生成可能とする操舵装置を提供する態様である。
【0028】
もう一つの態様では、本発明は、さらに、前記舵柄は所定の二股交叉角で交叉する二股形であり、当該二股交叉角と前記ピストンロッドの交叉角の和が略垂直である操舵装置を提供する。すなわち、二本のピストンロッドは必ずしもピストンロッド自身が所定の交叉角を有して舵軸へ作用する旋回モーメントの位相差を発生させ、一方が十分な作用力を働かせない場合にもう一方が最大の作用力を作用させる態様でなくとも、前記舵柄は所定の二股交叉角で交叉する二股形であり、当該二股交叉角の補充によって当該二股交叉角と前記ピストンロッドの交叉角の和が略垂直となれば、実質的な作用力を確保可能でき、より小型の駆動機構によって省エネルギーだけでなく省スペースとなる。
【0029】
もう一つの態様では、本発明は、さらに、前記舵柄は略垂直の二股交叉角で交叉する二股形であり、前記ピストンロッドは互いに水平対向されている操舵装置を提供する。すなわち、位相差はすべて前記舵柄の略垂直の二股交叉角で確保されるという操舵装置であり、実質的な作用力を確保可能でき、より小型の駆動機構によって省エネルギーだけでなく省スペースとなる。
【0030】
もう一つの態様では、本発明は、さらに、前記舵柄は略垂直の二股交叉角で交叉する二股形であり、前記二本の油圧シリンダー・ピストンロッド部が略同じ向きに配設されている操舵装置を提供する。すなわち、位相差はすべて前記舵柄の略垂直の二股交叉角で確保されるという操舵装置であり、実質的な作用力を確保し、船体への投影面積の観点ではより小型の駆動機構によって省エネルギーだけでなく省スペースとなる場合もあり得るさらなる効果も提供する。
【0031】
もうひとつの態様では、さらに、ストローク長の長い方の前記油圧シリンダー・ピストンロッド部の双方が前記舵軸よりも船首側へ配置されている操舵装置を提供する。駆動装置がすべて船首側に配置されるから大型船でなくとも船尾スペースに制約のある中小型船でも本発明を利用可能であるし、コンパクトな油圧回路によってより省エネルギー可能である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、2枚舵機構を備える船舶で操舵装置を片舵で旋回中心に±80°程度の大舵角の操舵装置に適用しても最大舵角±80°付近でも十分な舵力を出力して、最大舵角±80°付近でプロペラ回転数を上げる場合にも操舵機構のエネルギー消費をさらに抑制する船舶の操舵装置を提供する。
このように、2舵操船をして一方の舵の油圧シリンダーの消費油量を抑えられ、燃料消費量を低減する省エネルギーの船舶の操舵装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る操舵装置の斜視模式図である。
【
図2】同操舵装置の舵中立点にある場合の上面モデル図である。
【
図3】同操舵装置の左舷側の舵を上流へ舵板上流旋回限界の40°まで舵を切り、並行して右舷側の舵を下流へ40°切った場合の舵柄、油圧シリンダー・ピストンロッド部の連係を示す上面モデル図である。
【
図4】同操舵装置の両舵がスクリュー後流を閉塞する場合の同モデル図である。
【
図5】同操舵装置の左舷側の舵を下流へ舵板下流旋回限界の120°まで舵角を切り、右舷側の舵を上流へ舵板上流旋回限界の40°まで舵を切った場合の同モデル図である。
【
図6】本発明の第二の実施形態に係る同操舵装置の舵柄と油圧シリンダー・ピストンロッド部の連係と舵角の関係を示す上面モデル図を示し、
図6(a)から
図6(e)にかけて、舵板上流旋回限界から下流旋回限界まで様々舵を切った場合の舵柄と油圧シリンダー・ピストンロッド部の連係と舵角の遷移を示す上面モデル図である。
【
図7】従来の操舵装置の実施例の上面概念図である。
【
図9】従来の操舵装置の他の実施例の上面概念図である。
【
図10】本発明の一実施の形態に係る操舵装置の実施例の油圧シリンダー・ピストンロッド部の配置を示す上面概念図である。
【
図11】本発明の一実施の形態に係る操舵装置の実施例のピストンロッド交叉角90°の場合の舵角とトルクの関係グラフである。
図11(a)交叉角90°、(b)交叉角100°、(c)交叉角80°の場合である。
【
図12】本発明の一実施の形態に係る操舵装置の実施例のピストンロッド交叉角90°の場合の舵角とトルクを従来の操舵装置4,5との比較で示すグラフである。
【
図13】本発明の第三の実施の形態に係る操舵装置の斜視模式図である。
【
図14】同操舵装置の舵中立点にある場合の上面モデル図である。
【
図15】同操舵装置の左舷側の舵を上流へ舵板上流旋回限界の40°まで舵を切り、並行して右舷側の舵を下流へ40°切った場合の舵柄、油圧シリンダー・ピストンロッド部の連係を示す上面モデル図である。
【
図16】同操舵装置の両舵がスクリュー後流を閉塞する場合の同モデル図である。
【
図17】同操舵装置の右舷側の舵を下流へ舵板下流旋回限界の120°まで舵角を切り、左舷側の舵を上流へ舵板上流旋回限界の40°まで舵を切った場合の同モデル図である。
【
図18】本発明の第一の実施の形態の変形実施例に係る操舵装置の斜視模式図である。
【
図19】同操舵装置の舵中立点にある場合の上面モデル図である。
【
図20】同操舵装置の左舷側の舵を上流へ舵板上流旋回限界の40°まで舵を切り、並行して右舷側の舵を下流へ40°切った場合の舵柄、油圧シリンダー・ピストンロッド部の連係を示す上面モデル図である。
【
図21】同操舵装置の両舵がスクリュー後流を閉塞する場合の同モデル図である。
【
図22】同操舵装置の左舷側の舵を下流へ舵板下流旋回限界の120°まで舵角を切り、右舷側の舵を上流へ舵板上流旋回限界の40°まで舵を切った場合の同モデル図である。
【
図23】同操舵装置のさらなる変形例で、第一の実施形態に対する第二の実施形態の関係と同様に、プロペラ後流を閉塞する場合の舵柄と油圧シリンダー・ピストンロッド部の連係と舵角の関係を示す上面モデル図を示し、
図23(a)から
図23(e)にかけて、舵板上流旋回限界から下流旋回限界まで様々舵を切った場合の舵柄と油圧シリンダー・ピストンロッド部の連係と舵角の遷移を示す上面モデル図である。
【
図24】同操舵装置の、油圧シリンダー・ピストンロッド部の配置を示す上面概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に本発明の実施形態による操舵装置1について説明する。
図1は、本発明の一実施の形態である船舶の操舵装置1(以下、単に操舵装置ともいう)で採用される駆動機構2、油圧シリンダー・ピストンロッド部7,8を斜視模式図で示す。 本操舵装置1は、2枚の舵板30と、前記各舵板30と連結する舵軸20と、舵軸20を回転させる駆動機構2を有し、
前記舵軸20は、スクリュー軸(船舶にプロペラが1つの場合、スクリュー軸は、
図1中の船軸3と一致する)上方両脇に回転自在に2軸配置され、各舵軸20の回転により各舵板30をプロペラ40の側方からプロペラ40の後方へ旋回させる船舶の操舵装置1であって、
前記駆動機構2は、往復動のために配置された油圧シリンダー・ピストンロッド部7,8と、各ピストンロッド101、121、111,131の往復動を前記舵軸20の回転動に変換するためにピストンロッドに回転可能に連結されている舵軸20と一体化された舵柄102,112とを含み、
前記油圧シリンダー・ピストンロッド部7,8は1舵柄あたり二本構成でピストンロッド101と121及び111と131の軸芯線が交叉するように配設され、かつ、ストローク長が不均等長であることを特徴とする操舵装置1である。本操舵装置1は、舵角範囲を左右各々の舵で160°とする。舵板30の上流旋回限界を40°、舵板下流旋回限界を120°とする操舵装置である。従来、一般船の操舵装置では同舵角範囲は左右各70°であった。あるいは、広い舵角をとるものでも上流側70°、下流側70°(以下±70°とも記載)合計範囲幅140°であった。本発明に係る操舵装置1ではこれを合計160°に拡大する。すなわち、上流側最大舵角+40°〜下流側最大舵角120°である。
図1は、この範囲のうち舵柄が操舵可能舵角の中央にあるとき、左右両舷を下流側旋回角40°に舵板を切るとする配置にあるときの油圧シリンダー100,110、ピストンロッド101,111を含む油圧シリンダー・ピストンロッド部8、油圧シリンダー120,130、ピストンロッド121,131を含む油圧シリンダー・ピストンロッド部7、舵柄102,112と舵軸20を含む駆動機構2、舵板30の配置関係を斜視模式図である。舵柄102はピストンロッド101,121がZ1軸、Z2軸まわりに回転自在に連結される部材であり、舵柄112はピストンロッド111,131がZ4、Z3軸まわりに回転自在に連結される部材でありそれぞれ他端で舵柄102、112はL字形の舵板30と一体に形成されている舵軸20と一体に結合され、舵軸20は図示しない船体にZ0軸まわりに回転自在に連結されている。舵柄102に連接されている二本のピストンロッド101、121は互いに軸方向の拘束条件が異なり、ストロークが異なる。一方は、ストローク長を他方の略半分とする構成である。舵柄112に連接されている二本のピストンロッド111、131は互いに軸方向の拘束条件が異なり、ストロークが異なる。一方の組のピストンロッド101は、油圧シリンダー100に往復動され、油圧シリンダー120に往復動されるピストンロッド121に比しストローク長を略半分とする構成である。もう一方の組のピストンロッド111は、油圧シリンダー110に往復動され、油圧シリンダー120に往復動されるピストンロッド131に比しストローク長を略半分とする構成である。
【0035】
図2は、同操舵装置1の舵板が舵中立点(舵板が船軸へ平行の場合)にある場合の舵柄20と油圧シリンダー・ピストンロッド部7の状態を示す上面モデル図である。舵板は仮想的に船体を透視して二点鎖線で描いている。舵角範囲α=+40°〜−120°であるから左右舷の中立点は、舵板は舵板上流旋回限界から40°下流側へ旋回した場合となる。このように舵中立点(舵板が船軸と略平行する場合であり、巡行状態にとる舵位置である)と操舵可能舵角の中央は一致しなくてもよい。
【0036】
図3は、上流最大舵角γで面舵を取った場合の油圧シリンダー・ピストンロッド部7の連係を示す上面モデル図である。左舷は上流最大舵角である舵板上流旋回限界の40°まで舵を切り、並行して右舷側の舵を下流へ40°切る面舵の場合を示す。
【0037】
図4は、同操舵装置の両舵がスクリュー後流を閉塞する場合の油圧シリンダー・ピストンロッド部7、8の連係を示す上面モデル図である。左舷は舵中央から下流へ60°舵角を取り、並行して右舷側の舵は下流へ60°切る場合を示す。
【0038】
図5は、左舷側の舵を下流へ下流最大舵角120°旋回し、右舷側の舵を上流最大舵角40°で取舵を取った場合を示す。
【0039】
図2〜5で示される実施例は、舵軸20を回転させる駆動機構2と、これを駆動させる油圧シリンダー・ピストンロッド部を有し、前記舵軸20は、プロペラ40の後流でなくスクリュー軸(図示しない)上方の両脇に回転自在に2軸配置され、各々の舵軸20は、舵板30を舵板上部で連結し、2つの舵軸20の回転により2枚の舵板30をプロペラ40の側方からスクリュー後流をプロペラ40の真後ろでほぼ遮蔽する位置までスクリュー後方へ旋回可能である操舵装置1であって、前記駆動機構2は、往復動のために配置された油圧シリンダー・ピストンロッド部7,8と、各ピストンロッドの往復動を前記舵軸の回転動に変換するためにピストンロッドに回転可能に連結されている舵軸20と一体化された舵柄102,112とを含み、前記舵柄とは前期舵軸20と異心で回転自在に連結され1舵軸あたり二本構成で其の軸芯線が交叉するように配設されている各ピストンロッドは、ストローク長が不均等長である組からなることを特徴とする操舵装置1である。
【0040】
操舵装置1は付帯設備である高圧ポンプ(図示しない)から高圧ホース205,206を介して油圧シリンダー・ピストンロッド部の油圧シリンダーへデュアルモードで作動油が供給され、油圧シリンダーは双方向へ動作可能であり、両舵軸は旋回の同期をとり制御される場合もあれば、各舵軸は独立に旋回方向を制御されてもよい。
【0041】
図10で示されるように、操舵装置1のストローク長が不均等長であると、
図7,8に示す従来の操舵装置4,5のようにストローク長が等しく配設される場合に比し、各油圧シリンダーに流れる作動油の量は、減少する。
舵柄の旋回半径をR、最大舵角範囲を2θ
maxとすれば、従来の操舵装置の最大ストロークL
2は
L
2=2RSINθ
max ・・・(2)
である。したがって、油圧シリンダーの断面積をSとすれば、1ストロークの作動油量は、
V
2=SL
2=2SRSINθ
max ・・・(3)
である。最大舵角範囲2θ
max=160°の場合には、L
2=2RSIN80°≒2R, V
2≒2SRである。
一方、操舵装置1は、油圧シリンダーの断面積をSとすれば、シリンダー長の短い方の油圧シリンダーの最大ストロークL
1、1ストロークの作動油量V
1は、
L
1=R−RCOSθ
max・・・(4)
V
1=SL
1=S(R−RCOSθ
max)・・・(5)
長い方のストローク長は従来同様L
2である。
最大舵角範囲2θ
max=160°の場合には、
L
2=2RSIN80°≒2R・・・(6)
V
2 ≒ 2SR・・・(7)
である。短い方のストローク、作動油量は、
L
1=(R−RCOS80°)≒0.8R・・・(8)
V
1≒0.8SR・・・(9)
であって、前記ピストンロッドの短い方のストローク長L
1は長い方のストローク長L
2=2Rの40%とストローク長L
2比50%以下の範囲である。油圧シリンダーの断面積を同一としても本発明の操舵装置1の短い方の油圧シリンダーのストローク作動油量V
1は、長い方の作動油量V
2の40%とストローク長L
2比50%以下である。後述のように油圧シリンダーの断面積は本発明の操舵装置1では従来よりも小さくできる。
結局、従来の操舵装置5の作動油量Q
Cは二本のシリンダー合計で、
Q
c=V
2+V
2 ≒ 4SR・・・(10)
約4SRに対し、
本発明の作動油量Q
Iは操舵装置1の二本構成のシリンダー合計で、
Q
I=V
1+V
2 ≒ 2.8SR・・・(11)
約2.8SRと作動油量Q
Iは従来の作動油量Q
cの70%と従来の30%低減する。このように、本発明に係る操舵装置1は、船舶の付帯設備である油圧ポンプの駆動燃料消費量を大幅に低減する効果を与える省エネルギーの操舵装置である。後述のように油圧シリンダーの断面積は本発明の操舵装置1では従来よりも小さくできるから所要作動油量も小さく効果はより大とすることも可能である。
【0042】
本発明に係る操舵装置1は、前記ピストンロッドの交叉角は略垂直であって、一方の長い方のピストンロッドによる操舵が最大又は最小舵角をとり最小の旋回モーメントしか舵柄に作用しない場合でも、他方の短い方のピストンロッドは90°の位相差で最大の旋回モーメントを舵柄に作用する効果を与える。
【0043】
図11(a)は、横軸に舵柄を船軸に垂直であるとき操舵角を90°とする舵角、縦軸に最大トルクで無次元化された生成トルクの関係を示すグラフである。
図11(a)のAは長シリンダーの生成トルク(従来の比較例ともなる)、Bは短シリンダーの生成トルク、Cは両シリンダーの合成生成トルクを長シリンダー1個の最大トルクで無次元された無次元トルクを示す。このように長シリンダーの生成トルクAと短シリンダーの生成トルクBはピストンロッドの交叉角によって位相がずれることによって補完関係も生成される場合がある。交叉角が略垂直の場合、両シリンダーからの生成トルクを
図11(a)Aのトルクが二つ作用するとした場合の合成トルクCは、最低トルク同士の比較で交叉角0°の場合の最低トルクの略5倍を提供するという効果がある。したがって、シリンダー二本でペアとしても略2.5倍の最低トルクを生成する。
【0044】
交叉角Θは、略垂直であればよく、
図11(c)100°の場合、
図11(b)80°の場合に図示のとおり、無次元化された生成トルクは1以上であり、80°から100°(80°≦β≦100°)の間であれば、油圧シリンダー1本の最大トルク以上を生成するところに容易でトルク生成の面で好適であり、Θ=90°はこれに含まれ対称性から最も好適である。
【0045】
図7は、最大舵角を舵角範囲中央から±70°とする従来の操舵装置4の油圧シリンダー200、ピストンロッド201、舵柄202、舵軸20、高圧ホース205,206の配置関係を示す駆動機構の上面模式参考図であり、
図8は、同側面模式参考図である。
図9は、従来の操舵装置において、実用化可能かどうかは別として仮に最大舵角を±80°として油圧シリンダーを配設した場合の従来技術の転用による仮想操舵装置5の油圧シリンダー300,310,320,330の対向並列配置を示す上面模式参考図である。
従来の操舵装置4あるいは従来技術をベースとする仮想の操舵装置5(以下、単に、従来の操舵装置4,5という)は、いずれも油圧シリンダーのストロークは略2Rである。
【0046】
図10は、本発明の一実施の形態に係る操舵装置1の上面概念図である。二つ組となって1つの舵軸を駆動する油圧シリンダー・ピストンロッド部は各々略垂直に交叉している。油圧シリンダー・ピストンロッド部の交叉角が略垂直の場合、例えば、舵中立点付近では、付帯設備である高圧ポンプ(図示しない)から高圧ホース205,206を介し油圧シリンダー・ピストンロッド部の油圧シリンダーに、作動油が供給されるが舵へ作用するトルク作用力の作用角はほぼ同様であり、各々の油圧シリンダーは同等に制御可能である。一方、最大舵角付近では、ストロークの長い方の舵には舵板に作用する舵旋回トルクは回転モーメントの作用角が小さく、ストロークの長い方のピストンロッドから舵旋回トルクはさほど効かせられない。ストロークの長いピストンロッドと略垂直のストロークの短いピストンロッドは図の水平向きに作用し、舵旋回トルクに関し回転モーメントの作用角も十分に大きく、ストロークの短い方のピストンロッドから舵旋回トルクが効かせられる。なお、油圧シリンダーは双方向、デュアルモードで動作するものが好ましい。
【0047】
図1の本発明の一実施形態に係る操舵装置1の斜視模式図を用い操舵装置の動作を説明する。舵軸20は、プロペラスクリュー軸上方の両脇に回転自在に2軸配置され、各々の舵軸20は、舵板30を舵板上部で連結され、前記各舵軸20を各々回転可能とする(図示しない)動力機構7及び操舵装置1を船体内左右に各別に配設し、2つの舵軸20の回転により2枚の舵板30をプロペラ40側方からプロペラ40後方まで操舵中立点から上流へ40°下流へ120°、最大舵角範囲の中央から合計±80°、すなわち160°の範囲で旋回可能である2舵用の船舶の操舵装置1である。前記動力機構7、8は油圧シリンダー・ピストンロッド部を含み、油圧シリンダー・ピストンロッド部は油圧シリンダー側で船体上の架台(図示しない)に水平旋回可能に揺動可能に配設され、ピストンロッド先端部では旋回駆動機構である舵柄に水平回転自在に連接されている。舵板30が2枚となって舵板30はプロペラ40の後方ではなく、側方に位置され、舵軸20が二軸配設されているので、各々を駆動する独立の駆動機構は各々の各舵軸20を専属に駆動するものとして、二つ船内、プロペラ40の上方に設けられている。
図2の上面モデル図に示されているように、巡航直進の保針操船の場合には、両舵板30は、プロペラ40の両脇側方に保持され、針路を変える変針操船の場合には、舵板30は、舵軸20の回転によりプロペラ40側方からスクリュー後方に120°までプロペラ後方から回り込むように旋回可能であり、選択的にもう一方の舵板は、舵軸20の回転によりプロペラ40側方からプロペラ40上流側に40°まで旋回可能と構成されている。上流側へは40°も旋回すれば十分に操舵の目的を達成するし、後方へ40°旋回すれば、
図3に示す上面モデル図のように面舵動作可能であり、逆回転側に操舵すれば同様に取り舵動作可能である。
【0048】
減速急停止時には、両方の舵板30を各舵軸20の回転によりプロペラ40側方からプロペラ40まわりに旋回して大きな舵角を取ることで、舵30を船舶の制動に利用できるようにもなり、高い制動性能を確保できるようになる。この操舵装置1によれば、緊急停止時に2枚の舵板30がプロペラ40後方のプロペラ後流をその真後ろで舵中立点から所定の舵角、例えば、下流へ60°の舵角でほぼ遮蔽する動きをするため、制止力を大とする効果を発揮する。この場合の操舵の目的は、急停止の必要な場面で、プロペラ駆動をリセットした後にプロペラが惰性で回っている時間を短縮し、早くプロペラの逆転を可能とすることである。このように各々の舵軸20を駆動し、操舵する。
【0049】
図5に示すように、一方の舵板30(図では左舷)と他方の舵板30(図では右舷)の同期をとらず別々の舵角で操舵し、例えば、左舷の舵板30を舵中立点から下流へ下流側最大舵角限界κ付近まで120°旋回させ、右舷の舵板30を舵中立点から上流へ上流側最大舵角限界付近まで舵中立点から40°旋回させ、両舵板の間に側方流を生成すると主プロペラ40のみでスラスト流を生成することも可能となり、大型船の接岸時にも有利である。操舵装置1は、このように油圧シリンダー・ピストンロッド部を舵軸別に配設し、2つの舵軸20の回転により2枚の舵板30をプロペラ40の側方からプロペラ40の後方まで各独立に旋回可能としている。
【0050】
大型船の接岸時にスラスト流生成の場合には、左舷の舵は下流へ下流限界角κまで転舵され、右舷の舵は上流へ上流限界角γまで転舵され、接岸時に主プロペラによってスラスター機能が実現されると大型クルーザーのように船尾に別個のスラスター機構の設置を要さず、造船コストもこの分削減できるのみならず、スラスター機構による推進抵抗が減ぜられるため巡航に要する燃料も節減できる効果を得ることも可能である。
【0051】
図12(a)は、従来の操舵装置4,5と本発明の操舵装置1で交叉角Θを90°とする場合の無次元トルクを二本の油圧シリンダー・ピストンロッド部が生成する無次元トルクの合計値で比較するグラフを示す。
図12(a)の符号Dは従来の操舵装置4,5の二本の油圧シリンダー合計能力を示し、
図12(a)の符号Cは本発明の操舵装置1の二本の油圧シリンダー合計能力を示す。いずれも二本の油圧シリンダー・ピストンロッド部の能力は二本の間の関係では同一であるとし、
図11(a)のAに示すトルクで無次元化し相互比較している。
図12(b)には各操舵装置の性能を図示するに使用した根拠グラフを合わせて示す。
図12(b)の符号A,Bの合計の最小トルクと、符号Aの二倍の最小トルクが同等であると投影して
図12(b)(a)符号Cのグラフを与え、
図12(b)の符号Aの二倍が
図12(b)符号Dのグラフを与えるとしてC,Dを比較する。
【0052】
すなわち、このような対比をすると最も生成トルクの小さな値で対比すれば、従来の操舵装置4,5は作用角の最小となる下流限界舵角及び上流限界舵角の無次元トルク値0.4に対し、本発明の操舵装置1では舵角90°のとき無次元トルクは、最小値1.0である。最も生成トルクの小さな値が同一になる構成では必要とする最大トルクは従来2.0に対し、本発明の操舵装置1は、約0.65であり、従来比1/3の能力で足りる。すなわち、本発明の操舵装置1は油圧シリンダー、油圧生成に関する付帯装置の所要能力を従来の少なくとも半分の能力で設計しても従来同等のトルクを生成することとなる操舵装置を提供する。
図12(a)の下向き矢印はこのことを概念的に示している。このように小型化すれば、省エネルギーの点極めて有利である。
【0053】
接岸時の操船能力と省エネルギーの見合いで油圧シリンダー・ピストンロッド部の所要能力を設定するのが適当であるが同等の操船能力とすればこのように本発明の操舵装置1は省エネルギーに資する操舵装置である。ここで、一方の油圧シリンダー・ピストンロッド部の所要能力のみをより小さな能力とするのも好適である。小型化の目安として、上流側下流側最大舵角限度の舵角をとるときに提供するトルクを基準として採用する場合には、同能力であればストロークの短い方の油圧シリンダーは
図12(b)のB両端部で無次元トルク1.0を提供可能であり、ストロークの長い方の油圧シリンダーは
図12(b)のA両端部で無次元トルク0.2を提供可能するに過ぎないことを鑑みると、ストロークの短い方の油圧シリンダー能力は長い方の約20%、5分の1の油圧シリンダー能力で済ませることも可能である。
【0054】
図6に示すのは、本発明に係る第二の実施形態であり、両舷の舵板30を舵中立点から下流へ下流側最大舵角限界κ付近まで120°旋回させた場合に、プロペラ40後流を閉塞する配置関係とする構成である。この構成で、
図6(a)から
図6(e)にかけて、舵板上流旋回限界γから下流旋回限界κまで様々舵を切った場合の舵柄と油圧シリンダー・ピストンロッド部の連係と舵角の遷移を示す。
【0055】
このようなプロペラ40後流を閉塞する配置関係は、上記に限らず、舵中立点から下流へ下流側舵角60°から120°限界付近の間で設定してもよく、閉塞する配置関係よりも大きく舵を切る場合には、舵同士の衝突をさけるように操舵装置1の両舵制御機構(図示しない)によって最適に操舵可能とされている。
【0056】
図13〜17には、本発明に係る第三の実施形態に係る操舵装置9を示す。 舵柄902,912は所定の二股交叉角αで交叉する二股形であり、当該二股交叉角αと前記ピストンロッドの交叉角Θの和が略垂直である操舵装置である。第一の実施形態に係る操舵装置1との対比では舵柄902,912が二股交叉角90°を有する二股形である点と、二股交叉角に合わせて油圧シリンダー・ピストンロッド部の船体への固定位置が舵軸中心に同角90°移動させ油圧シリンダー・ピストンロッド部907,908とする点と、ストローク長の短い方の油圧シリンダー・ピストンロッド部908の油圧シリンダーを小型とする点が異なり他の構成は第一の実施形態と同様の態様である。この態様は、船尾のスペースに合わせて最適の油圧シリンダー・ピストンロッド部の配設を最適の交叉角90°からの位相ずれ角の補償を二股交叉角αによってカバーしている。この態様も第一の実施形態に係る操舵装置1と同様に油圧シリンダーのストローク長は油圧シリンダー・ピストンロッド部908L
2のものは油圧シリンダー・ピストンロッド部907のもののL
1に対し略半分以下とすることは前述同様である。そして、二股交叉角αの補償によって長短の油圧シリンダー・ピストンロッド部交叉角Θに加えΘ+αの位相差によって、例えば、90°の位相差によって旋回モーメントが生成されるから、長い油圧シリンダー・ピストンロッド部が限界舵角にあって舵柄へ働く旋回力の作用角が小さく最低のモーメントを作用する場合も短い方の油圧シリンダー・ピストンロッド部は90°の位相差で最大の作用角で最大のモーメントを生成する効果を得る。
【0057】
第三の実施形態が示す本発明の態様は、舵柄902,912は二股交叉角αが略垂直で交叉する二股形であり、前記ピストンロッド動力機構907,908は互いに水平対向されている操舵装置9である。すなわち、位相差はすべて前記舵柄の略垂直の二股交叉角αで略垂直が確保されるという操舵装置であり、実質的な作用力の補償を二股交叉角αで確保し、より小型の駆動機構によって、かつ、省エネルギーとなる態様である。
【0058】
二股交叉角は垂直でなくとも所定の角度αでもよく、ピストンロッドの交叉角Θとの和が所定の角度であればよく、αとΘの和が80°〜100°の範囲であってもよく、あるいは、260°〜280°の範囲であってもよく、αとΘの和が略垂直あるいは略三直角であればなお好適である。
【0059】
他の態様(図示しない)では、前記舵柄902,912は略垂直の二股交叉角αが略垂直で交叉する二股形であり、前記二本のピストンロッド動力機構907,908は同一向きに並び、舵柄902,912及び舵軸の高さを異にして、油圧シリンダーの固定点は船体上の異なる水平面上に揺動自在に支持されてもよい。このような、例えば、二階建て仕様でも位相差はすべて前記舵柄902,912の略垂直の二股交叉角αで確保されるという操舵装置であり、実質的な作用力を確保し、二階建て仕様より船体への投影設置面積では小型の動力機構によって実装できる利点がある。
【0060】
図18は、本発明の第一の実施の形態の変形実施例に係る操舵装置10の斜視模式図である。本発明において、二本の油圧シリンダー・ピストンロッド部の双方が前記舵軸20よりも船首側へ配置されていることを特徴とするほか、他の構成は本発明の第一の実施の形態又は第二の実施の形態と同様であり、各部材、配設を示すには本発明の第一の実施の形態又は第二の実施の形態と同じ符号を用いている。前記二本の油圧シリンダー・ピストンロッド部7の双方が前記舵軸20よりも船首側へ配置が船首側にあることから舵角とピストンロッドの伸長の関係は本発明の第一の実施の形態又は第二の実施の形態と異なる。この変形実施例に係る操舵装置10の動作は、
図19〜
図23に舵板の舵角と、二本の油圧シリンダー・ピストンロッド部の動作関係を図示する。舵板の舵角と、二本の油圧シリンダー・ピストンロッド部の動作関係の違いを除く装置の動作自体は本発明の第一の実施の形態と同様であり、既述のとおりである。この場合、ストローク長が長い方の油圧シリンダーはデュアルモードシリンダ(往復動双方向に働くシリンダー)とするのもより好ましい。
【0061】
図24は、ストローク長の長い方の油圧シリンダー・ピストンロッド部の双方が前記舵軸20よりも船首側へ配置されている、同操舵装置の上面概念図である。図に示されるとおり、L1、L2の関係は
図10に示される関係と同一であり、デュアルモードシリンダにおいて各方向の作動力に差があるとしても原理的に、
図11と12に示される本発明の作用効果は同等に得られる。
【0062】
このように、 ストローク長の長い方の前記油圧シリンダー・ピストンロッド部の双方が前記舵軸20よりも船首側へ配置されていると、船尾スぺースの小さな中小型船でも本発明の構成がより容易に可能であり、本発明の効果を得られるのに好適であるという利点がある。
【0063】
以上、本発明に係る実施の形態を説明したが、本発明は係る実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本発明が、ここに記載された実施形態に描かれ、実施形態は、かなり詳細に記載されているが、出願人は、この記載によって添付する特許請求の範囲をいかようにも制限、限定する意図はない。追加の利点や修正は、当業者に理解され、一つの実施形態に記載された要素は、他の実施形態にも採用可能である。したがって、発明は、広い面で、特定の詳細事項に限定されず、各々の機器と実施例が示され、記載されている。したがって、出願人の一般的発明概念の精神とスコープから乖離しないで、これらの詳細に記載された事項から離れることもあり得る。