特許第6971817号(P6971817)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971817
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】レンズ装置および撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/04 20210101AFI20211111BHJP
   G02B 7/08 20210101ALI20211111BHJP
【FI】
   G02B7/04 D
   G02B7/04 Z
   G02B7/08 Z
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-234503(P2017-234503)
(22)【出願日】2017年12月6日
(65)【公開番号】特開2019-101325(P2019-101325A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2020年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【弁理士】
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【弁理士】
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 邦彦
【審査官】 藏田 敦之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−178639(JP,A)
【文献】 特開2016−130760(JP,A)
【文献】 特開2017−009961(JP,A)
【文献】 特開2002−014272(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0267831(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02 − 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ズーム操作のための操作部材と、
物体側から像側へ順に、前記操作部材の操作に応じて移動する第1レンズ群、第2レンズ群、および、第3レンズ群と、
前記操作部材と機械的に連動し、前記操作部材の操作に応じて前記第1レンズ群、前記第2レンズ群、および、前記第3レンズ群を駆動するズーム駆動枠と、
フォーカス調整のために前記ズーム駆動枠に対して前記第2レンズ群を電動で駆動するフォーカスレンズ保持枠と、を有し、
前記ズーム駆動枠に対する前記フォーカスレンズ保持枠の位置は、前記第2レンズ群の無限から至近までの移動量が最小となる焦点距離の場合と、前記第2レンズ群の無限から至近までの移動量が最大となる焦点距離の場合とにおいて、前記ズーム駆動枠に対する前記フォーカスレンズ保持枠の移動可能範囲のうち至近側から10%の範囲内にある
ことを特徴とするレンズ装置。
【請求項2】
前記ズーム駆動枠に対する前記フォーカスレンズ保持枠の前記位置は、前記第2レンズ群の無限から至近までの移動量が最小となる前記焦点距離の場合と、前記第2レンズ群の無限から至近までの移動量が最大となる前記焦点距離の場合とにおいて同一である
ことを特徴とする請求項1に記載のレンズ装置。
【請求項3】
前記ズーム駆動枠に対する前記フォーカスレンズ保持枠の前記移動可能範囲は、前記ズーム駆動枠の無限側のメカ端から至近側のメカ端までの距離である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のレンズ装置。
【請求項4】
前記第2レンズ群の無限から至近までの前記移動量が最小となる前記焦点距離は広角端における焦点距離であり、
前記第2レンズ群の無限から至近までの前記移動量が最大となる前記焦点距離は望遠端における焦点距離である
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレンズ装置。
【請求項5】
前記第1レンズ群および前記第3レンズ群のそれぞれの広角端から望遠端までの移動量は、前記ズーム駆動枠の広角端から望遠端までの移動量よりも大きい
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のレンズ装置。
【請求項6】
前記操作部材は、手動または外部アクチュエータにより操作可能である
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のレンズ装置。
【請求項7】
前記第2レンズ群は、フォーカスレンズ群である
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のレンズ装置。
【請求項8】
前記ズーム駆動枠は、全ての焦点距離領域で同一の被写体距離になるように設定された場合に対して、フォーカス調整のために必要な駆動速度の最大値が小さくなるように設定されている
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のレンズ装置。
【請求項9】
前記ズーム駆動枠は、全ての焦点距離領域で同一の被写体距離になるように設定された場合に対して、前記操作部材の操作量に対する前記ズーム駆動枠の移動量の微分値の絶対値が小さくなるように設定されている
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のレンズ装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のレンズ装置と、
前記レンズ装置を介して形成された光学像を光電変換する撮像素子を保持するカメラ本体と、を有する
ことを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ装置および撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フォーカス群(第2群)のカムの位置をズーミングにより変更することが可能な構成が開示されている。特許文献2には、バリフォーカルレンズに関し、フォーカスカムとズームカムとの交点でカムフォロアを保持して第2群の光軸位置をフォーカシングとズーミングで動かすことが可能な構成が開示されている。特許文献3には、ズーム操作に応じて電動でフォーカスレンズを駆動する、いわゆるコンピューターズーム(CZ)やトラッキング技術と呼ばれる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2592991号公報
【特許文献2】特開平7−120662号公報
【特許文献3】特開2000−66084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された構成では、メカカムと連動してフォーカスレンズを駆動している。このため、ズーミングに伴うピント移動(ズームピント移動)を抑制する必要があり、フォーカスレンズ群の移動が制約される。具体的には、ズーミングに伴う第2群の動きとフォーカシングによる第2群の動きを両立させるためのカム軌跡が必要となる、または、特許文献2に開示されているようなバリフォーカルレンズとする必要がある。
【0005】
特許文献3の構成では、フォーカスレンズはズーム時にメカ連動せずに電動で移動する。このようなCZレンズによれば、ズームピント移動を抑制することができる。しかし、電源をオフした場合にはフォーカスレンズが動かないため、手動ズームと併用した場合、レンズ同士が衝突する可能性がある。このため、フォーカスレンズ群の十分な移動空間や退避構造を設ける必要があり、レンズ装置の巨大化および複雑化を招く。
【0006】
そこで本発明は、ズームピント移動を抑制しつつ、簡易な構成で小型のレンズ装置および撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としてのレンズ装置は、ズーム操作のための操作部材と、物体側から像側へ順に、前記操作部材の操作に応じて移動する第1レンズ群、第2レンズ群、および、第3レンズ群と、前記操作部材と機械的に連動し、前記操作部材の操作に応じて前記第1レンズ群、前記第2レンズ群、および、前記第3レンズ群を駆動するズーム駆動枠と、フォーカス調整のために前記ズーム駆動枠に対して前記第2レンズ群を電動で駆動するフォーカスレンズ保持枠とを有し、前記ズーム駆動枠に対する前記フォーカスレンズ保持枠の位置は、前記第2レンズ群の無限から至近までの移動量が最小となる焦点距離の場合と、前記第2レンズ群の無限から至近までの移動量が最大となる焦点距離の場合とにおいて、前記ズーム駆動枠に対する前記フォーカスレンズ保持枠の移動可能範囲のうち至近側から10%の範囲内にある。
【0008】
本発明の他の側面としての撮像装置は、前記レンズ装置と、前記レンズ装置を介して形成された光学像を光電変換する撮像素子とを有する。
【0009】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施形態において説明される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ズームピント移動を抑制しつつ、簡易な構成で小型のレンズ装置および撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態における撮像装置の断面図である。
図2】本実施形態におけるレンズ装置の分解斜視図である。
図3図2中の領域Aの分解斜視図である。
図4】本実施形態におけるカム筒の回転角と各移動枠の移動量との関係を示すグラフである。
図5】本実施形態において、各被写体距離におけるズーム時の第2レンズ保持枠の第2群調整枠に対する相対移動量(トラッキングカーブ)である。
図6】本実施形態における第1レンズ群、第2レンズ群、第3Aレンズ群L3Aの間隔の変化量を示すグラフである。
図7図6の拡大図である。
図8】本実施形態における第2群調整枠と第2レンズ保持枠との関係を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
まず、図1乃至図3を参照して、本実施形態におけるレンズ装置および撮像装置について説明する。図1は、光軸Oに平行な平面で切断した、撮像装置10の断面図である。図2は、交換レンズ(レンズ装置)100の分解斜視図である。図3は、図2中の破線で囲まれた領域Aの分解斜視図である。ただし理解を容易にするため、図2および図3では、本実施形態の説明に不要な部材を省略している。
【0014】
撮像装置10は、カメラ本体200と、カメラ本体200に着脱可能な交換レンズ100とを備えて構成される一眼レフカメラシステムである。ただし本実施形態は、これに限定されるものではなく、カメラ本体とレンズ装置とが一体的に構成されたデジタルカメラやビデオカメラなどの撮像装置にも適用可能である。本実施形態において、交換レンズ100は、オートフォーカス(AF)動作を行うとともに、ユーザの手動操作により直接的にズーム動作を行う機構を有する。ここで、直接的にズーム動作を行う機構とは、ユーザの操作を電気的に変換するのではなく、メカ連動機構により各レンズ群のズーム動作を行う機構である。
【0015】
交換レンズ100は、光軸Oに沿った方向(光軸方向)において、物体側(被写体側)から像側へ順に、第1レンズ群L1、第2レンズ群L2、第3レンズ群L3、第4レンズ群L4、第5レンズ群L5、および、第6レンズ群L6の6つのレンズ群から構成される。ここでいう各レンズ群は、ズーミングあるいはフォーカシングに際して隣接するレンズ群間の間隔が変化するように構成されている。言い換えれば、ズーミングあるいはフォーカシングの際に変化するレンズ間の間隔内にレンズ群間の境界線がある。各レンズ群は、1枚のレンズであっても複数のレンズの集合であってもよい。
【0016】
第1レンズ群L1は、第1レンズ保持枠101に保持され、ズーム動作により移動するレンズ群である。第2レンズ群L2は、第2レンズ保持枠(フォーカスレンズ保持枠)102に保持され、ズーム動作およびフォーカス動作により移動するフォーカスレンズ群である。第2レンズ保持枠102は、フォーカス調整のために後述の第2群調整枠123に対して第2レンズ群L2を電動で駆動する。第3レンズ群L3は、第3Aレンズ群L3Aと第3Bレンズ群とから構成され、それぞれ第3Aレンズ保持枠103と第3Bレンズ保持枠104とに保持され、ズーム動作により移動するレンズ群である。第4レンズ群L4は、光軸Oに直交する方向(光軸直交方向)に平行移動することで像振れを補正する防振レンズ群(補正レンズ群)であり、振れ補正ユニット105に保持され、ズーム動作により移動するレンズ群である。第5レンズ群L5は、第5レンズ保持枠106に保持され、ズーム動作により移動するレンズ群である。第6レンズ群L6は、第6レンズ保持枠107に保持され、ズーム動作およびフォーカス動作のいずれでも移動しない固定レンズ群である。本実施形態の交換レンズ100は、第2レンズ群L2がフォーカスレンズ群である、いわゆる2群インナーフォーカスレンズであり、光学5群ズームに第6レンズ群L6が追加された変則的な光学6群ズームレンズである。
【0017】
次に、交換レンズ100の各部品および構成について詳述する。レンズマウント108は、カメラ本体200と交換レンズ100との接続機能を有する。また、カメラ本体200と交換レンズ100は、レンズマウント108を介して電気的通信を行う。カメラ本体200は、撮像素子201を有する。撮像素子201は、CCDセンサやCMOSセンサなどを備え、交換レンズ100を介して形成された被写体像(光学像)を電気信号に変換する(被写体像の光電変換を行う)光電変換素子である。レンズマウント108は、固定筒109に対して外装環110を介して不図示のビスで固定されている。またレンズマウント108は、第6レンズ保持枠107を保持している。第6レンズ保持枠107は、樹脂部材で構成された弾性変形部を有し、レンズマウント108に弾性変形部が係合することにより固定されている。なお本実施形態では、第6レンズ保持枠107は弾性変形によりレンズマウント108に固定されているが、ネジ結合や接着剤などの他の固定手段を用いて固定してもよい。以下、本実施形態における各種固定手段は、単一の固定手段に限定されるものではなく、必要に応じて変更可能である。
【0018】
固定筒109は、レンズマウント108とビス止め固定されている。固定筒109には、フォーカス操作環111、不図示の振れ検出手段である回転検出ジャイロ素子、フォトインタラプタ、MR素子、GMR素子などを備えたフォーカス操作環111の回転検出部が設けられている。外装環110は、レンズマウント108と固定筒109との間に挟み込まれて固定されている。外装環110には、不図示の各操作スイッチが設けられている。
【0019】
案内筒112は、後述のズーム操作環118よりも内側(光軸O側)に設けられ、固定筒109に対して不図示のビスで固定されている。案内筒112には、第1レンズ群L1、第2レンズ群L2、および、第3レンズ群L3をズーム操作時に光軸方向にガイドする第1直進案内溝112Aおよび第2直進案内溝112Bが形成されている。また案内筒112には、後述するサブカム筒113を光軸Oの周り(光軸周り)に回転させるサブカム回転用のカム溝112Cが形成されている。また案内筒112には、案内筒112の外周のカム筒114をズーム操作時に光軸方向に回転繰出しさせるカムフォロア115がビス止め固定されている。
【0020】
カム筒114には、第1レンズ群L1から第3レンズ群L3のズーム動作時のそれぞれの軌跡に対応する3種類(計9本)のカム溝が形成されている。カム筒114は、カム筒進退用のカム溝とカムフォロア115との相互作用により、ズーム操作に応じて回転繰出しされる。
【0021】
第3群ベース筒116は、案内筒112の第1直進案内溝112A、および、カム筒114のカム溝に対して、カムフォロア116Dを介して保持されており、ズーム操作に応じて直進駆動される。第3群ベース筒116は、サブカム筒113を径嵌合により光軸直交方向に保持しており、サブカム筒113に設けられたサブカム回転用のカムフォロア117と、係合する第3群ベース筒116のサブカム進退用のカム溝116Aとを介して、光軸方向を規定する。また第3群ベース筒116には、第3直進案内溝116Bおよび第4直進案内溝116Cが形成されている。第3直進案内溝116Bおよび第4直進案内溝116Cはそれぞれ、振れ補正ユニット105および第5レンズ保持枠106をカムフォロアを介して、ズーム操作時に光軸Oに対して直進案内する役割を有する。
【0022】
サブカム筒113には、第1サブカム溝113Aおよび第2サブカム溝113Bが形成されている。第1サブカム溝113Aおよび第2サブカム溝113Bはそれぞれ各直進案内溝との相互作用により、カムフォロアを介して振れ補正ユニット105および第5レンズ保持枠106をズーム操作時に光軸Oに対して直進駆動する。またサブカム筒113は、カムフォロア117の保持部を備え、カムフォロア117およびカム溝112Cにより、ズーム操作時に光軸周りの回転が可能である。
【0023】
ズーム操作環118は、ズーム操作のための操作部材であり、手動または外部アクチュエータにより操作可能である。本実施形態において、ズーム操作環118の操作(ズーム操作)に応じて第1レンズ群L1から第5レンズ群L5が光軸方向に沿って移動する。ズーム操作環118は、ズーム連結環119に対して光軸周りに回転自在に保持されている。ズーム操作環118には、ズームカム溝118Aおよびズーム検出用カム溝118Bが形成されている。ズームカム溝118Aは、ズーム操作時に第1直進筒120を光軸方向に直進駆動させるためのカム溝である。ズーム検出用カム溝118Bは、固定筒109に固定されたズーム位置検出手段である抵抗式リニアセンサを駆動させるためのカム溝である。ズーム連結環119は、案内筒112にビス止め固定されており、ズーム操作環118の周溝とズーム連結環119の係合爪により、光軸方向の位置を固定したまま光軸周りに回転可能に保持されている。
【0024】
第1直進筒120には、第2直進案内溝112Bおよびカム筒114のカム溝に係合するカムフォロア120A、並びに、ズームカム溝118Aに係合するカムフォロア120Bが固定されている。ユーザがズーム操作環118を回転させると、第2直進案内溝112B、ズームカム溝118A、および、カムフォロア120Bの相互作用により、第1直進筒120が直進駆動する。また第1直進筒120の直進駆動は、カムフォロア120Aによりカム筒114の回転に変換される。
【0025】
以上のとおり、ズーム操作環118の回転運動が第1直進筒120の直進運動に変換され、第1直進筒120の直進運動がカム筒(第2カム筒)114の回転運動に変換される。また、カム筒114の回転運動が第3群ベース筒116の直進運動に変換され、第3群ベース筒116とカム溝112Cとにより、第3群ベース筒116の直進運動がサブカム筒113の回転運動に変換される。
【0026】
次に、第1レンズ群L1の動きに関する機構について詳述する。第1レンズ群L1は、いわゆる2段繰出し機構である。第1レンズ群L1の1段目の繰出しは、前述した第1直進筒120である。第1直進筒120には、第1群カム筒121が光軸方向における位置は第1直進筒120と同一であって光軸周りに回転可能に保持されている。第1群カム筒121には、カム筒114からの回転を受けてカム筒114と同一回転を行うための第5直進案内溝121Aが形成されている。カム筒114には、第5直進案内溝121Aに対応する回転伝達用カムフォロア114Dが固定されている。また第1群カム筒121には、第1レンズ群L1の2段目の繰出し部品である第2直進筒122を繰出すためのカム溝121Bが形成されている。
【0027】
第2直進筒122には、第1直進筒120の第6直進案内溝120Cに係合するカムフォロア122A、および、カム溝121Bに係合するカムフォロア122Bが固定されている。また第2直進筒122には、不図示のワッシャーを介して第1レンズ保持枠101がビス止め固定されており、使用するワッシャーの厚みに応じて第1レンズ保持枠101の光軸Oに対する倒れと光軸方向の位置を調整(選択)することが可能である。
【0028】
このように、ズーム操作環118の回転力により第1直進筒120が繰出し、カム筒114の回転が第1直進筒120に対して定位置回転する第1群カム筒121に伝えられる。これにより、第1直進筒120に対して第2直進筒122をさらに繰出すことができる。その結果、第1レンズ群L1、第3レンズ群L3、第4レンズ群L4、および、第5レンズ群L5をズーム操作で光軸方向に駆動(移動)させることが可能となる。
【0029】
次に、第2レンズ群L2の動きに関する機構について詳述する。第2群調整枠(ズーム駆動枠)123は、第2直進案内溝112Bおよびカム筒114の第2群駆動用カム溝114Aに対してカムフォロアを介して保持されており、ズーム操作で直進駆動される。第2群調整枠123は、ズーム操作環118と機械的に連動し、ズーム操作環118の操作に応じて第1レンズ群L1から第5レンズ群L5を光軸方向に駆動する。第2群ベース枠124は、第2群調整枠123に対して互いに偏芯した円筒部を有するコロ部材(偏芯コロ)により保持されており、光学性能を向上させるために互いの位置を調整することができる。また第2群ベース枠124には第7直進案内溝124Aが形成されている。第2群ベース枠124は、光軸方向においては第2群ベース枠124と同一で光軸周りに回転(定位置回転)可能に保持された第2群カム筒125のフォーカスカム溝125Aにより、第2レンズ保持枠102をカムフォロアを介して保持している。ギアユニット126は、アクチュエータとギア輪冽との組合せで構成されており、第2群ベース枠124に固定されてアクチュエータの出力により第2群カム筒125を回転することが可能である。
【0030】
第2レンズ保持枠102は、第2群ベース枠124に対して光軸方向における移動量の規制部を有する。本実施形態では、カムフォロアと第7直進案内溝124Aに当接させることで交換レンズ100に衝撃が加わったときの移動量に規制を加えており、メカ的な移動端(メカ端)を構成している。メカ端は、ギアユニット126で電気的に通常駆動して移動可能な範囲よりも若干量大きく設定されている。第2レンズ保持枠102は、第2群ベース枠124に固定されたフォトインタラプタの出力を遮るための遮光ハネ部を有し、フォーカス駆動時の基準座標を作るためのリセット機構を構成している。
【0031】
このような構成により、前述のとおり、ズーム操作環118の回転によりカム筒114が回転しながら光軸方向に繰出し、さらに第2群調整枠123を光軸方向に進退させることができる。また、ズーム操作時およびフォーカス駆動時にギアユニット126により第2群カム筒125を回転させることにより、被写体位置に合わせてフォーカスレンズ群である第2レンズ群L2を駆動することが可能である。
【0032】
メイン回路基板127は、フォーカス駆動制御や、電磁駆動絞りユニット128および振れ補正ユニット105の制御など、交換レンズ100の全体の制御を司っており、固定筒109にビス止め固定されている。
【0033】
次に、第2群調整枠123のズーム時の動きと第2レンズ保持枠102のフォーカス時の動きについて詳述する。図8は、第2群調整枠123と第2レンズ保持枠102との関係を示す概略図である。なお図8では、理解を容易にするため、説明に不要な部材を省略している。第2群調整枠123は、ズーム操作環118と機械的に連動している。このため第2群調整枠123は、ズーム操作環118の手動操作に応じて第1レンズ群L1、第2レンズ群L2、および、第3レンズ群L3(および、第4レンズ群L4、第5レンズ群L5)を光軸方向に駆動し、ズーム調整を行う。また第2レンズ保持枠102(第2レンズ群L2)は、ギアユニット(アクチュエータ)126により電動で、第2群調整枠123に対して光軸方向に移動し、フォーカス調整を行う。
【0034】
図3に示されるように、カム筒114の第2群調整枠123を駆動のための第2群駆動用カム溝114Aには、広角(ワイド)時と望遠(テレ)時でそれぞれのワイド側使用位置114B、テレ側使用位置114Cにカムフォロアが存在する。
【0035】
図4は、広角端(ワイド端)から望遠端(テレ端)までのカム筒114の回転角と各移動枠(第1レンズ保持枠101、第2群調整枠123、第3群ベース筒116)の移動量との関係を示すグラフである。図4において、横軸はカム筒114の回転角(「deg」、ワイド端が0度、テレ端が80度)、縦軸はワイド端を基準とした第1レンズ保持枠101、2群調整枠123、3群ベース筒116のカム筒114に対する移動量(mm)、すなわち移動軌跡である。カム筒114の回転角はズーム操作環118の回転に連動しているため、線形関係ではないが交換レンズ100の焦点距離として考えてもよい。図4に示されるように、本実施形態において、第1レンズ群L1および第3レンズ群L3のそれぞれの広角端(ワイド端)から望遠端(テレ端)までの移動量は、第2群調整枠(ズーム駆動枠)123の広角端から望遠端までの移動量よりも大きい。
【0036】
図5は、被写体距離が無限遠(以下無限)と至近端(以下至近)におけるズーム時の第2レンズ保持枠102の第2群調整枠123および第2群ベース枠124に対する相対移動量(トラッキングカーブ)である。図5において、横軸はカム筒114の回転角(deg)、縦軸は第2レンズ保持枠102の相対移動量(mm)である。また図5において、各焦点距離での被写体が無限側に存在する場合(「無限」の表記)と至近側に存在する場合(「至近」の表記)のそれぞれにおけるメカ端も併記している。メカ端は、通常、光学的に必要な量から部品公差による設計値からのズレや、コントラストAFするために必要な余分駆動量に基づいて設定され、本実施形態でも無限側余裕量Bおよび至近側余裕量Cを設定している。
【0037】
図5のグラフは、各焦点距離での無限端から至近端までの第2レンズ保持枠102の電気的な移動軌跡を示している。第2レンズ保持枠102は、通常使用中、図5中の無限側と至近側の両線の間である斜線部の領域内に存在する。しかし、交換レンズ100に電気的な保持力以上の衝撃が加わると、無限よりもさらに無限側(超無限)、または、至近よりもさらに至近側(超至近)であるそれぞれのメカ端(通常動作領域外)まで第2レンズ保持枠102が意図せず動いてしまう可能性がある。また、テレ状態で交換レンズ100に通電していない状態、またはカメラ本体200の電源がオフした状態でズーム操作環118をユーザが操作した場合も同様に、電源が入るまで通常動作領域外に第2レンズ保持枠102が存在する可能性がある。
【0038】
図6は、図5のトラッキングカーブと図4の第2群調整枠123の移動量とを足し、かつ、ワイド至近時の第2レンズ群L2の位置を基準(第2レンズ群L2の位置を0)とした距離のグラフである。図6において、横軸はカム筒114の回転角(deg)、縦軸は距離(mm)をそれぞれ示している。図6は、第1レンズ群L1、第2レンズ群L2、および、第3Aレンズ群L3Aの間隔の変化量、すなわち、カム筒114に対する第1レンズ群L1、第2レンズ群L2、および、第3Aレンズ群L3Aの位置を示している。
【0039】
図7は、図6の拡大図である。図7に示されるように、ワイド側至近位置の近傍で、第1レンズ群L1(第1レンズ保持枠101)と第2レンズ群L2(第2レンズ保持枠102)のメカ端(至近)の距離が一番小さくなる。しかし、第2レンズ保持枠102は、衝撃や意図しない動作が加わった場合、第1レンズ群L1から離れる方向にのみ移動することが可能である。また、テレ端側無限位置の近傍で第3Aレンズ群L3A(第3群ベース筒116)とメカ端(無限)の軌跡が一番近くなる。しかし、第2レンズ保持枠102は、衝撃や意図しない動作が加わった場合、第3Aレンズ群L3Aから離れる方向にのみ移動することが可能である。
【0040】
本実施形態では、ズーム駆動枠(第2群調整枠123)に対するフォーカスレンズ保持枠(第2レンズ保持枠102)の位置であるトラッキングカーブをワイド側のメカ端(至近)とテレ側のメカ端(至近)を略一致するように設定している。これは、一般的に焦点距離が長いほど、焦点位置の調節のために撮像面で結像する結像位置の移動量(像面移動量)が大きく必要であり、そのために第2レンズ保持枠102の移動量も大きくなり、広角側での移動量を小さくすることができるためである。その際、広角側メカ端(至近)は撮像面側に寄ることで、前群である第1レンズ群L1に対して干渉する可能性を低減することができる。また、望遠側では物体側に寄ることで、後群である第3Aレンズ群L3Aに対して干渉する可能性を低減することができる。
【0041】
一方、本実施形態の構成と異なるように、至近端近傍ではなく無限側でトラッキングカーブを一致させるようにすると、図6のワイド端(0度)におけるメカ端(至近)が縦軸マイナス方向に動くため、第1レンズ群L1の移動量を減らす必要がある。または、移動量を同じにするためにはレンズ装置の大型化、またはバネ等を用いた退避構造が必要となる。
【0042】
図5に示されるように、第2群調整枠123に対する第2レンズ保持枠102の位置(相対位置)は、広角端と望遠端のそれぞれの場合において、第2群調整枠123に対する第2レンズ保持枠102の移動可能範囲Dのうち至近側から10%の範囲内(E)にある。すなわち、広角端と望遠端とのそれぞれの場合において、第2レンズ保持枠102の相対移動量は、相対移動量P以下である。好ましくは、相対位置は、広角端と望遠端とのそれぞれの場合において略同一である。略同一とは、厳密に同一である位置だけでなく実質的に同一であると評価される範囲を含む意味であり、本実施形態では移動可能範囲Dのうち至近側から5%の範囲内であるものとする。本実施形態において、第2レンズ群L2の無限から至近までの移動量が最小となる焦点距離は広角端における焦点距離であり、その移動量が最大となる焦点距離は望遠端における焦点距離であるが、これらに限定されるものではない。すなわち、第2レンズ群L2の無限から至近までの移動量が最小となる焦点距離と最大となる焦点距離とのそれぞれの場合において、第2レンズ保持枠102の位置(相対位置)が所定の範囲内(E)にあってもよい。なお本実施形態において、移動可能範囲Dは、第2群調整枠123の無限側のメカ端から至近側のメカ端までの距離に相当する。
【0043】
本実施形態の構成により、手動または外部の電動アクチュエータによるズーム操作でフォーカスレンズ群(第2レンズ群L2)が動き、かつ、フォーカスレンズ群のズームでの駆動量が前後のレンズ群と異なる際にレンズ保持枠同士の干渉を避けることが可能である。また、別のバネ付勢による退避構造等が必要ないため、光軸方向の巨大化、機構の複雑化を抑制することが可能である。本実施形態では第2レンズ群L2がカメラ本体200側に動くと被写体距離が遠くなる構成であるが、第2レンズ群L2がカメラ本体200側に動くと被写体距離が近くなる構成を採用することもできる。この場合、本実施形態と逆に、トラッキングカーブをワイド側のメカ端(無限)とテレ側のメカ端(無限)を略一致するように設定する(至近側ではなく無限側で一致させる)ことにより、第1レンズ群L1の移動量をより大きくすることができる。
【0044】
また本実施形態において、広角端近傍と望遠端近傍以外の至近のトラッキングカーブを、物体側に移動させている。すなわち、広角端近傍と望遠端近傍以外では、メカ端の近傍を使用していない。これは、第一に、ズーム途中の領域では第2レンズ群L2は第1レンズ群(前群)L1と第3レンズ群(後群)L3から離れているためである。また第二に、ギアユニット(アクチュエータ)126による駆動とズーム操作環118の手動操作の両方で第2レンズ保持枠102を移動させることにより、それぞれが分担する移動量を減らすことができるためである。換言すると、第2群調整枠123の駆動軌跡は、全ての焦点距離領域で同一の被写体距離(至近端)になるように設定された場合に対して、ギアユニット126によるフォーカス調整に必要な駆動速度の全物体距離での絶対値の最大値が小さくなるように設定される。また第2群調整枠123の駆動軌跡は、全ての焦点距離領域で同一の被写体距離(至近端)になるように設定された場合に対して、ズーム操作環118の回転角(操作量)に対する第2群調整枠123の移動量の微分値の絶対値が小さくなるように設定される。これにより、ズーム操作環118がある速度以上の速度で回転(操作)されたときの第2レンズ保持枠102の追従遅れを抑制するとともに、図4中の第2群調整枠123を駆動するためのカム軌跡の交角変動を緩やかにすることができる。その結果、光学性能の安定化を図ることが可能となる。
【0045】
また、第2群調整枠(ズーム駆動枠)123の駆動軌跡である第2群駆動用カム溝114Aは、カム筒114の回転を直進運動に変換している。通常、カム軌跡の広角を60度から70度以上にすると、カムフォロアと溝との間で生じる摩擦力が、回転力を変換した直進運動成分よりも大きくなり、駆動しなくなる。このため、従来の構成では、第2群駆動用カム溝114Aは本実施形態の広角端より少し先のUターンしている領域において、光学的に必要な角度である、より急峻な角度にすることができない。一方、本実施形態では、広角端近傍と望遠端近傍以外の至近のトラッキングカーブを物体側に動かしている。このため、第2レンズ群L2の必要な移動量を第2群調整枠123と第2レンズ保持枠102とで分担し、第2群駆動用カム溝114Aのカム交角の絶対値を小さくすることができる。
【0046】
本実施形態によれば、ズームピント移動を抑制しつつ、簡易な構成で小型のレンズ装置および撮像装置を提供することができる。
【0047】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0048】
例えば、本実施形態では高倍率ズームレンズや標準ズームレンズに多く見られる凸リードの2群フォーカスタイプで説明したが、インナーフォーカスやリアフォーカスレンズタイプであれば種々のレンズに適用可能である。また本実施形態では、一眼レフフィルムカメラに用いられる交換レンズについて説明したが、本発明は、レンズシャッタカメラ、デジタルカメラ、ビデオカメラ等の各種撮影装置(光学機器)のレンズ装置に用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
L1 第1レンズ群
L2 第2レンズ群(フォーカスレンズ群)
L3 第3レンズ群
100 交換レンズ(レンズ装置)
102 第2レンズ保持枠(フォーカスレンズ保持枠)
118 ズーム操作環(操作部材)
123 第2群調整枠(ズーム駆動枠)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8