特許第6971848号(P6971848)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6971848純粋なチオフラビンTを精製する方法、純粋なチオフラビンTの製造方法、チオフラビンTを含有する組成物、及びアミロイドの検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971848
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】純粋なチオフラビンTを精製する方法、純粋なチオフラビンTの製造方法、チオフラビンTを含有する組成物、及びアミロイドの検出方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 277/66 20060101AFI20211111BHJP
   B01D 39/00 20060101ALI20211111BHJP
   G01N 33/52 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   C07D277/66
   B01D39/00 C
   G01N33/52 C
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-543002(P2017-543002)
(86)(22)【出願日】2016年8月15日
(86)【国際出願番号】JP2016073846
(87)【国際公開番号】WO2017056758
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2019年8月8日
【審判番号】不服2020-8056(P2020-8056/J1)
【審判請求日】2020年6月10日
(31)【優先権主張番号】特願2015-191312(P2015-191312)
(32)【優先日】2015年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【弁理士】
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】小田 明典
(72)【発明者】
【氏名】里園 浩
(72)【発明者】
【氏名】新家 智美
(72)【発明者】
【氏名】高田 洋平
【合議体】
【審判長】 村上 騎見高
【審判官】 冨永 保
【審判官】 齊藤 真由美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/003943(WO,A2)
【文献】 国際公開第2006/089221(WO,A2)
【文献】 特開2000−198781(JP,A)
【文献】 米国特許第5486460(US,A)
【文献】 特開2017−66066(JP,A)
【文献】 THE JOURNAL OF PHYSICAL CHEMISTRY B,(2013),117,pp.3459−3468
【文献】 Journal of Applied Spectroscopy,(2003),Vol.70,No.6,pp.868−874
【文献】 Protein Science,(1993),2,pp.404−410
【文献】 Journal of Photochemistry and Photobiology A:Chemistry,(2009),204,pp.161−167
【文献】 社団法人 日本化学会編,化学便覧 応用化学編 第6版,丸善株式会社,平成15年1月30日発行,Iのpp.182−183,IIのpp.1113−1115
【文献】 社団法人 日本化学会編,第4版 実験化学講座1 基本操作I,丸善株式会社,平成8年4月5日第2刷発行,pp.191−193
【文献】 社団法人 日本化学会編,第5版 実験化学講座20−1 分析化学,丸善株式会社,平成19年5月15日第2刷発行,pp.61−64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗チオフラビンTが極性溶媒に溶解したチオフラビンT溶液を用意するステップと、
チオフラビンT溶液を無極性高分子多孔質体と接触させて、蛍光性不純物を除去するステップと、
蛍光性不純物が除去されたチオフラビンT溶液を前記無極性高分子多孔質体から分離するステップと、を備え、
前記無極性高分子多孔質体が、ポリスルホン、ナイロン、酢酸セルロース及びニトロセルロース並びにこれらの2種以上からなる群より選択される高分子で形成された多孔質構造体である、純粋なチオフラビンTを得る方法。
【請求項2】
接触させるステップ、及び分離するステップが、波長475nm以下の光を遮光した状態で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記極性溶媒が、水系溶媒、メタノール、エタノール、アセトニトリル及びジメチルスルホキシド、並びにこれらの2種以上を混合した混合溶媒からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記無極性高分子多孔質体が、無極性高分子膜であり、
接触させるステップ、及び分離するステップが、前記無極性高分子膜でチオフラビンT溶液をろ過することにより行われる、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載の方法を実施する精製工程を備える、純粋なチオフラビンTの製造方法。
【請求項6】
粗チオフラビンTから蛍光性不純物を除去するための不純物除去剤であって、
無極性高分子多孔質体からなり、
前記無極性高分子多孔質体が、ポリスルホン、ナイロン、酢酸セルロース及びニトロセルロース並びにこれらの2種以上からなる群より選択される高分子で形成された多孔質構造体である不純物除去剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純粋なチオフラビンTを精製する方法に関する。本発明はまた、純粋なチオフラビンTの製造方法、チオフラビンTを含有する組成物、及びアミロイドの検出方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
チオフラビンT(ThT)は、タンパク質の特殊な凝集体であるアミロイドの蛍光染色色素として最も有名な物質であり、多くの研究で用いられている。
【0003】
市販されているThT試薬には、2種類の蛍光が観察されることが知られている。この2種類の蛍光は、440nm付近にピーク波長を有する蛍光(励起波長は、例えば、350nm)、及び480nm付近にピーク波長を有する蛍光(励起波長は、例えば、波長430nm)である。短波長側の蛍光(440nm付近にピーク波長を有する蛍光)は、それがThT由来であるか、又はThT試薬中の不純物由来であるかについて、未だ明らかになっていない。
【0004】
例えば、初期の研究において、非特許文献1には、ThT試薬中の不純物は波長350nmに吸収があり、それがヘキサンやシクロヘキサンに溶解することが報告されている。これに対し、非特許文献2は、ThTの精製(再結晶)を繰り返しても、波長445nmの蛍光が残ることから、これがThT由来の蛍光であると結論し、ThTを構成する官能基の一部から発せられる蛍光(局所蛍光)に帰属している。非特許文献3は、この局所蛍光説を支持し、その物理化学的な起源について論じている。一方、非特許文献4は、ThTは光照射により光反応を起こし、波長350nm付近に吸収帯があり波長450nmの蛍光を発する光反応物が生じることを報告し、ThT試薬中の不純物は、ThTの光反応生成物に由来するとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Appl.Spectrosc.,2003年,70巻6号,pp.868−874
【非特許文献2】J.Chem.Biol.,2010年,3巻,pp.1−18
【非特許文献3】Dyes Pigments,2014年,110巻,pp.97−105
【非特許文献4】J.Phys.Chem.B,2013年,117巻,pp.3459−3468
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
短波長側の蛍光(440nm付近にピーク波長を有する蛍光)が、ThT由来であるか、又はThT試薬中の不純物由来であるか未だ明らかになっていない理由は、従来の技術では、短波長側の蛍光が存在しないThT試薬(純粋なThT)を得ることができないためである。
【0007】
本発明は、上述した技術背景に鑑み、短波長側の蛍光が存在しないThT試薬を得る方法、すなわち、純粋なThTを得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、粗チオフラビンTが極性溶媒に溶解したチオフラビンT溶液を用意するステップと、チオフラビンT溶液を無極性高分子多孔質体と接触させるステップと、接触後のチオフラビンT溶液を前記無極性高分子多孔質体から分離するステップと、を備える、純粋なチオフラビンTを精製する方法を提供する。
【0009】
本発明に係る方法は、チオフラビンTを極性溶媒の溶液としたうえで、無極性高分子多孔質体と接触させるものであるため、短波長側の蛍光が存在しないThT試薬(純粋なThT)を得ることができる。このことはまた、短波長側の蛍光は、ThT由来の蛍光ではなく、蛍光性不純物に由来する蛍光であることを意味する。また、本発明者らの検討によれば、短波長側の蛍光が存在しないThTを光(特に、波長475nm以下の光)に曝すと、この蛍光性不純物が再度生じることも明らかになった。つまり、蛍光性不純物は、ThTの光反応物であると考えられる。
【0010】
本明細書において、「粗チオフラビンT(粗ThT)」とは、上述の蛍光性不純物とThTとの混合物を意味する。従来“ThT”と呼ばれていたものは、いずれも上述の蛍光性不純物を含むものであるため、本明細書における粗ThTに該当する。
【0011】
本明細書において、「純粋なチオフラビンT(純粋なThT)」とは、短波長側の蛍光が存在しないThT試薬を意味し、「ThT試薬」とは、ThTを含む分子集合体(組成物)と同義である。したがって、「純粋なThT」は、蛍光性不純物を実質的に含まないThTの分子集合体、又は実質的にThTからなる分子集合体ということもできる。「純粋なThT」は、好ましくは蛍光性不純物を含まないThTの分子集合体、又はThTからなる分子集合体である。
【0012】
上記方法では、接触させるステップ、及び分離するステップが、波長475nm以下の光を遮光した状態で行われるのが好ましい。これにより、光反応物(蛍光性不純物)が新たに生成することをより抑制できるため、より一層効率よく純粋なThTを精製することができる。
【0013】
上記方法は、分離したチオフラビンT溶液の440nm付近にピーク波長を有する蛍光の発光強度を測定し、測定された発光強度がバックグラウンドレベルに達したか否かを判定するステップを更に備え、判定するステップにおいて、測定された発光強度がバックグラウンドレベルに達していないと判定された場合、当該チオフラビンT溶液に対して更に接触させるステップ、及び分離するステップを実行するものであってもよい。これにより、蛍光性不純物に由来する蛍光をモニターしながら精製を進めることができる。
【0014】
上記極性溶媒は、水系溶媒、メタノール、エタノール、アセトニトリル及びジメチルスルホキシド、並びにこれらの2種以上を混合した混合溶媒からなる群から選択されるものであってもよい。
【0015】
上記無極性高分子多孔質体は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ナイロン、酢酸セルロース及びニトロセルロース並びにこれらの2種以上からなる群より選択される高分子からなる多孔質構造体であることが好ましい。このような多孔質構造体を使用することにより、より一層効率よく純粋なThTを精製することができる。
【0016】
上記方法は、無極性高分子多孔質体が、無極性高分子膜であり、接触させるステップ、及び分離するステップが、前記無極性高分子膜でチオフラビンT溶液をろ過することにより行われることが好ましい。ろ過操作により精製を行うことで、簡便かつ迅速に純粋なThTを精製することができる。
【0017】
本発明はまた、上述した純粋なチオフラビンTを精製する方法を実施する精製工程を備える、純粋なチオフラビンTの製造方法を提供する。
【0018】
本発明はさらに、チオフラビンTを含有する組成物であって、440nm付近にピーク波長を有する蛍光の発光強度がバックグラウンドレベルである、組成物を提供する。
【0019】
本発明に係る組成物は、蛍光性不純物が含まれないThT含有組成物であるため、例えば、アミロイドの蛍光染色に用いる際に、蛍光性不純物による影響を排除することができ、より精度の高い試験結果及び診断結果を得ることができる。したがって、本発明の組成物は、アミロイド検出用として好適に用いられる。
【0020】
本発明はさらにまた、アミロイドの検出方法であって、被験試料にチオフラビンTを含む蛍光試薬を接触させる工程と、チオフラビンTの蛍光を検出する工程と、を含み、上記蛍光試薬が、上記組成物である、検出方法を提供する。
【0021】
本発明に係るアミロイドの検出方法によれば、蛍光性不純物が含まれないThT含有組成物を用いていることから、より精度よくアミロイドを検出することができる。
【0022】
上記アミロイドは、アミロイドβであってもよい。アミロイドβは、アルツハイマー病患者の脳内に蓄積することが知られている(老人斑)。アミロイドβを高精度で検出できれば、アルツハイマー病の病態の解明等に大きく貢献できる。
【0023】
本発明に係る精製方法は、チオフラビンT溶液と無極性高分子多孔質体との接触により蛍光性不純物が除去されるという新規知見に基づくものである。すなわち、無極性高分子多孔質体を、粗チオフラビンTから蛍光性不純物を除去するという新規な用途に用いる発明と捉えることもできる。したがって、本発明は、粗チオフラビンTから蛍光性不純物を除去するための不純物除去剤であって、無極性高分子多孔質体からなる不純物除去剤をも提供するものである。本発明はまた、粗チオフラビンTからの蛍光性不純物の除去における無極性高分子多孔質体の使用又は応用と捉えることもできる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、従来の技術では得ることができなかった、純粋なThTを得ることができる。
【0025】
ThTは、アミロイドの染色において第1選択となる蛍光染色試薬であり、アミロイドの研究のみならず、アミロイドに関連する疾病の病理診断にも用いられる。アミロイドの染色に純粋なThTを使用することにより、蛍光性不純物による測定結果への影響を排除でき、より精度の高い試験結果及び診断結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】(A)実施例1における精製前後の蛍光スペクトル(励起波長350nm)を比較した図である。(B)実施例1における精製前後の励起スペクトル(観測波長440nm)を比較した図である。無極性高分子多孔質体は、PVDFで形成されたろ過膜である。
図2】(A)実施例2における精製前後の蛍光スペクトル(励起波長350nm)を比較した図である。(B)実施例2における精製前後の励起スペクトル(観測波長440nm)を比較した図である。無極性高分子多孔質体は、セルロース混合エステル(MCE)で形成されたろ過膜である。
図3】実施例3における精製前後の蛍光スペクトル(励起波長350nm)を比較した図である。無極性高分子多孔質体は、酢酸セルロースで形成されたろ過膜である。
図4】実施例4における精製前後の蛍光スペクトル(励起波長350nm)を比較した図である。無極性高分子多孔質体は、ナイロンで形成されたろ過膜である。
図5】実施例5における精製前後の蛍光スペクトル(励起波長350nm)を比較した図である。無極性高分子多孔質体は、ポリスルホンで形成されたろ過膜である。
図6】実施例6における精製前後の蛍光スペクトル(励起波長350nm)を比較した図である。無極性高分子多孔質体は、ポリエーテルスルホンで形成されたろ過膜である。
図7】実施例7における精製前後の蛍光スペクトル(励起波長350nm)を比較した図である。無極性高分子多孔質体は、ポリテトラフルオロエチレンで形成されたろ過膜である。
図8】実施例8における精製前後の蛍光スペクトル(励起波長350nm)を比較した図である。無極性高分子多孔質体は、アクリル共重合体で形成されたろ過膜である。
図9】実施例9における精製前後の蛍光スペクトル(励起波長350nm)を比較した図である。無極性高分子多孔質体は、ポリプロピレンで形成されたろ過膜である。
図10】実施例10における精製前後の蛍光スペクトル(励起波長350nm)を比較した図である。無極性高分子多孔質体は、再生セルロースで形成されたろ過膜である。
図11】実施例11における精製前後の蛍光スペクトル(励起波長350nm)を比較した図である。無極性高分子多孔質体は、グラスファイバーで形成されたろ過膜である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0028】
〔チオフラビンT〕
チオフラビンT(ThT)は、下記式で表され、4−(3,6−ジメチル−1,3−ベンゾチアゾール−3−イウム−2−イル)−N,N−ジメチルアニリンクロリドとも称される公知の化合物である。
【化1】
【0029】
ThTは、480nm付近にピーク波長を有する蛍光(励起波長は、例えば、430nm)を発する。一方、ThTは、光照射により、440nm付近にピーク波長を有する蛍光(励起波長は、例えば、350nm)を発する光反応物(蛍光性不純物)を生じる。これまで、この蛍光性不純物とThTとの混合物(粗ThT)からThTを単離することはできなかった。
【0030】
粗ThTの入手方法は、特に制限されるものではなく、例えば、市販されているThT試薬を購入して入手してもよいし、公知の方法により合成して入手してもよい。
【0031】
〔チオフラビンTの精製方法〕
本実施形態に係るチオフラビンTの精製方法は、粗チオフラビンTが極性溶媒に溶解したチオフラビンT溶液を用意するステップ(用意ステップ)と、チオフラビンT溶液を無極性高分子多孔質体と接触させるステップ(接触ステップ)と、接触後のチオフラビンT溶液を無極性高分子多孔質体から分離するステップ(分離ステップ)と、を備える。また、分離したチオフラビンT溶液の440nm付近にピーク波長を有する蛍光の発光強度を測定し、測定された発光強度がバックグラウンドレベルに達したか否かを判定するステップ(判定ステップ)を更に備えていてもよい。本実施形態に係る精製方法により、純粋なThTを得ることができる。
【0032】
用意ステップでは、粗ThTが極性溶媒に溶解したThT溶液を用意する。ThT溶液は、例えば、粗ThTを極性溶媒に溶解させて調製してもよく、またThTを合成等した際に極性溶媒に溶解した溶液となっている場合は、当該溶液をThT溶液としてもよい。
【0033】
極性溶媒は、ThTが溶解する溶媒を特に制限なく使用することができる。極性溶媒としては、例えば、比誘電率が10以上である溶媒を使用することができる。極性溶媒の具体例としては、例えば、水系溶媒、メタノール、エタノール、アセトニトリル及びジメチルスルホキシド、並びにこれらの2種以上を混合した混合溶媒が挙げられる。水系溶媒としては、例えば、水(医薬品に用いられる精製水、イオン交換、超ろ過等により調製したイオン交換水、超純水等を含む。)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)及びトリス緩衝生理食塩水(TBS)等の緩衝液、並びに生理食塩水等が挙げられる。使用する極性溶媒は、精製後のThTの用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、精製後のThTをアミロイドの検出に使用する場合、極性溶媒としては水系溶媒が好ましい。
【0034】
ThT溶液におけるThT濃度に特に制限はないが、通常、0.001〜10mmol/Lの範囲である。精製過程での光反応物(蛍光性不純物)の新たな生成をより一層抑制するという観点からは、ThT濃度が低い方が好ましく、例えば、0.01〜7.5mmol/Lの範囲であることが好ましく、0.1〜5mmol/Lの範囲であることがより好ましく、0.5〜2mmol/Lの範囲であることが更に好ましい。また、ThT溶液におけるThT濃度は、精製後のThTの用途に応じて、改めて希釈又は濃縮を行う必要がないように設定してもよい。
【0035】
接触ステップでは、ThT溶液を無極性高分子多孔質体と接触させる。分離ステップでは、無極性高分子多孔質体と接触した後のThT溶液を無極性高分子多孔質体から分離する。
【0036】
無極性高分子多孔質体は、無極性高分子で形成された多孔質構造体である。
【0037】
無極性高分子としては、例えば、比誘電率が10未満である高分子(例えば、有機高分子、無機高分子)を使用することができる。無極性高分子の具体例としては、例えば、再生セルロース(比誘電率3.2〜7.5)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF,比誘電率8.4)、ポリテトラフルオロエチレン(比誘電率2.1)、酢酸セルロース(比誘電率3.2〜7.0)、ニトロセルロース(比誘電率6.2〜7.5)、ポリエチレン(比誘電率2.2〜2.4)、ポリプロピレン(比誘電率1.5〜1.8)、ポリスルホン(比誘電率3.0〜3.1)、ポリエーテルスルホン(比誘電率3.8)、ポリカーボネート(比誘電率2.9〜3.0)、ナイロン(比誘電率4.0〜5.0)、アクリル重合体(アクリル酸、メタクリル酸、及びそれらの誘導体(例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等のエステル体)の重合体又は共重合体,比誘電率2.7〜4.5)、グラスファイバー(比誘電率3.7〜7.0)及びこれら2種以上の混合物が挙げられる。無極性高分子としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ナイロン及びこれら2種以上の混合物が好ましく、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ナイロン、並びに酢酸セルロース及びニトロセルロースの混合物がより好ましい。
【0038】
多孔質構造体は、細孔が形成された構造体であり、具体的には、例えば、膜(フィルム)、シート、粒状体、発泡体が挙げられる。
【0039】
無極性高分子多孔質体は、相分離法、抽出法、延伸法、トラックエッチング法、焼結法等の常法により製造することができる。
【0040】
無極性高分子多孔質体としては、例えば、無極性高分子膜(ろ過膜)、無極性高分子粒状体を挙げることができる。無極性高分子多孔質体は市販されているものを用いてもよく、例えば、ポリフッ化ビニリデンろ過膜(例えば、メンブレンフィルターMillex−GV(メルクミリポア社製))、酢酸セルロース及びニトロセルロース混合物のろ過膜(例えば、メンブレンフィルターVented−Millex−GS(メルクミリポア社製))、酢酸セルロースろ過膜(例えば、シリンジフィルターアズフィル(アズワン社製))、ナイロンろ過膜(例えば、シリンジフィルターアズフィル(アズワン社製))、ポリスルホンろ過膜(例えば、フィルターエキクロディスク25(島津社製))、ポリエーテルスルホンろ過膜(例えば、シリンジフィルターアズフィル(アズワン社製))、ポリテトラフルオロエチレンろ過膜(例えば、シリンジフィルターアズフィル(アズワン社製))、アクリル共重合体ろ過膜(例えば、フィルターエキクロディスク13(島津社製))、ポリプロピレンろ過膜(例えば、シリンジフィルタープラディスク25(GEヘルスケア社製))、再生セルロースろ過膜(例えば、フィルターミニザルトRC15(ミニザルト社製))、グラスファイバーろ過膜(例えば、シリンジフィルターGF(アズワン社製))が挙げられる。
【0041】
ThT溶液と無極性高分子多孔質体との接触方法に特に制限はない。接触方法の具体例としては、例えば、ろ過操作によりThT溶液を無極性高分子膜を通して接触させる方法(膜ろ過法)、無極性高分子粒状体を充填したカラムにThT溶液を通液して接触させる方法(カラムろ過法)、ThT溶液に任意形状の無極性高分子多孔質体を添加して攪拌する方法が挙げられる。接触ステップと分離ステップを簡便かつ迅速に行えることから、膜ろ過法及びカラムろ過法が好ましく、膜ろ過法がより好ましい。
【0042】
ThT溶液と無極性高分子多孔質体との分離方法に特に制限はなく、固液分離に常用される任意の方法を用いることができる。
【0043】
判定ステップでは、分離したThT溶液の440nm付近にピーク波長を有する蛍光の発光強度を測定し、測定された発光強度がバックグラウンドレベルに達したか否かを判定する。
【0044】
判定ステップでは、例えば、無極性高分子多孔質体から分離したThT溶液の一部を採取して測定サンプルとし、蛍光強度を測定する。蛍光強度の測定には、例えば、蛍光分光光度計、蛍光プレートリーダーを使用することができる。より具体的には、測定サンプルに波長300〜430nmの光を照射し、これに応じた波長440〜460nmの発光(蛍光)を測定する。照射光の波長は上記範囲内から適宜設定することができるが、波長350nmが好ましい。測定する蛍光の波長は上記範囲内から適宜設定することができるが、波長440nmが好ましい。
【0045】
次いで、測定された発光強度がバックグラウンドレベルに達したか否かを判定する。バックグラウンドレベルに達していないと判定された場合は、接触ステップ及び分離ステップを更に繰り返し、バックグラウンドレベルに達していると判定された場合は、精製を終了する。
【0046】
「バックグラウンドレベル」とは、精製されたThT溶液の蛍光強度が、純粋なThT溶液の蛍光強度と同程度であることを意味する。「バックグラウンドレベル」の判定は、例えば、以下のようにして実施することができる。すなわち、精製されたThT溶液の波長440nmの蛍光強度に加えて、波長480nmの蛍光強度も測定し、波長440nmの蛍光強度を波長480nmの蛍光強度で除した蛍光比を求める。この蛍光比が、0.4〜1.0の範囲内にある場合に「バックグラウンドレベル」と判定することができる。ここで、蛍光比が0.5〜0.9の範囲内にある場合に「バックグラウンドレベル」と判定することが好ましく、0.6〜0.8の範囲内にある場合に「バックグラウンドレベル」と判定することがより好ましい。また、より簡易的には、判定ステップで測定された蛍光強度の測定値がそれ以上低下しない場合に「バックグラウンドレベル」と判定してもよい。
【0047】
精製終了後のThT溶液は、そのまま次の用途に用いてもよいし、必要に応じて極性溶媒を除去し、ThT粉末として次の用途に用いてもよいし、ThT粉末を任意の溶媒に再溶解させたものを次の用途に用いてもよい。
【0048】
上述した精製方法は、波長475nm以下の光を遮光した状態で行われることが好ましい。これにより、蛍光性不純物が新たに生成することを抑制できるため、精製方法全体の効率をより一層向上させることができる。精製方法の全工程に亘って遮光した状態としてもよいが、接触ステップ以降を遮光した状態としても問題はない。波長475nm以下の光を遮光する方法は、適宜選択することができる。具体的には、例えば、赤色光下で精製操作を行う、又は(完全に)遮光した状態で精製操作を行うことができる。
【0049】
〔チオフラビンTの製造方法〕
本実施形態に係るチオフラビンTの製造方法は、上述したチオフラビンTの精製方法を実施する精製工程を備える。本実施形態に係る製造方法により、純粋なThTを得ることができる。
【0050】
本実施形態に係る製造方法は、精製工程の前に、ThTを合成する合成工程、粗ThTを極性溶媒に溶解させる溶解工程等を備えていてもよい。また、精製工程の後に、得られた純粋なThTを包装する包装工程を備えていてもよい。包装工程は、例えば、遮光瓶(褐色瓶等)等の容器にThT溶液を充填する工程であってもよい。
【0051】
〔チオフラビンTを含有する組成物〕
本実施形態に係るチオフラビンTを含有する組成物は、440nm付近にピーク波長を有する蛍光の発光強度がバックグラウンドレベルである組成物である。すなわち、蛍光性不純物を実質的に含まない組成物、又は実質的にThTからなる組成物(分子集合体)である。一実施形態に係る組成物は、チオフラビンTを含有し、波長350nmの光を照射したときの波長440nmの蛍光の発光強度がバックグラウンドレベルである組成物である。
【0052】
本実施形態に係る組成物は、液状、固体状のいずれであってもよい。本実施形態に係る組成物は、蛍光性不純物の生成を抑制するとの観点から、遮光された容器(褐色瓶等)に充填されていることが好ましい。
【0053】
本実施形態に係る組成物は、上述したThTの精製方法又は製造方法により得ることができる。
【0054】
本実施形態に係る組成物は、蛍光性不純物を実質的に含まないため、アミロイドの染色に用いた場合に、蛍光性不純物による測定結果への影響を排除でき、より精度の高い試験結果及び診断結果を得ることができる。したがって、本実施形態に係る組成物は、アミロイド検出用組成物(アミロイド検出用蛍光試薬)として好適に使用できる。
【0055】
〔アミロイドの検出方法〕
アミロイドとは、βシート構造が特徴的なタンパク質の特殊な凝集体を示す。アミロイドを形成するタンパク質は、インスリン、β2ミクログロブリン及びアミロイドβ等の様々な種類が存在する。体内での特定のアミロイドの蓄積は病気の原因にもなる。例えば、β2ミクログロブリンは、透析アミロイド―シス、アミロイドβはアルツハイマー病に関連がある。
【0056】
本実施形態に係るアミロイドの検出方法は、蛍光試薬として本発明に係る組成物を使用すること以外は、常法に従って実施することができる。
【0057】
〔不純物除去剤〕
上述した無極性高分子多孔質体は、粗ThTを極性溶媒に溶解させたThT溶液と接触したときに蛍光性不純物を捕捉する。この特性を利用して、無極性高分子多孔質体を、粗ThTから蛍光性不純物を除去する用途に好適に用いることができる。
【0058】
本実施形態に係る不純物除去剤は、無極性高分子多孔質体からなる。本実施形態に係る不純物除去剤は、例えば、無極性高分子多孔質体がカラムに充填された不純物除去カラム、膜形状の多孔質構造体に成形された無極性高分子多孔質体を備える不純物除去フィルターとして提供されてもよい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
〔実施例1〕
実施例1は、無極性高分子多孔質体として、PVDFで形成された膜形状の多孔質構造体(ろ過膜)を適用して、純粋なThTを精製した例である。
【0061】
(ThT溶液の調製)
ThT(ウルトラピュアグレード,AAT Bioquest Inc.社製。本明細書における粗ThTに該当する。)を蒸留水に溶解し、1mM ThT溶液を得た。
【0062】
(ThT溶液のろ過精製)
1mM ThT溶液2mLを、シリンジ(テルモ製)及びメンブレンフィルターMillex−GV(材質:親水性PVDF,ポアサイズ:0.22μm,フィルター径:33mm,メルクミリポア社製)を用いてろ過してろ液を回収した。
【0063】
(蛍光の測定)
得られたろ液10μLに蒸留水990μLを添加して希釈し、マイクロセル(光路長:5mm)に充填した。試料を充填したマイクロセルを蛍光分光光度計RF−5000(株式会社島津製作所製)に設置し、励起波長350nmにて蛍光スペクトルを測定した。また、観測波長440nmにて励起スペクトルを測定した。
【0064】
(評価)
蛍光スペクトル(励起波長350nm)の測定結果を図1(A)に示す。図1(A)に示されるように、ろ過により蛍光性不純物由来の波長440nm付近をピークとする蛍光が消失し、ThT本来の蛍光である波長480nm付近をピークとする蛍光のみが残っていることが分かる。また、励起スペクトル(観測波長440nm)の測定結果を図1(B)に示す。図1(B)に示されるように、ろ過により蛍光性不純物由来の波長350nm付近をピークとする蛍光の消失が認められる。すなわち、PVDFで形成されたろ過膜を用いたろ過操作により、粗ThTに含まれる蛍光性不純物の除去が可能である。
【0065】
〔実施例2〕
実施例2は、無極性高分子多孔質体として、セルロース混合エステル(酢酸セルロースとニトロセルロースの混合物:MCE)で形成された膜形状の多孔質構造体(ろ過膜)を適用して、純粋なThTを精製した例である。ThT溶液の調製、及び蛍光の測定は、実施例1と同様に実施した。
【0066】
(ThT溶液のろ過精製)
1mM ThT溶液2mLを、シリンジ(テルモ製)及びメンブレンフィルターVented−Millex−GS(材質:MCE,ポアサイズ:0.22μm,フィルター径:25mm,メルクミリポア社製)を用いてろ過してろ液を回収した。
【0067】
(評価)
蛍光スペクトル(励起波長350nm)の測定結果を図2(A)に示す。図2(A)に示されるように、ろ過により蛍光性不純物由来の波長440nm付近をピークとする蛍光が消失し、ThT本来の蛍光である波長480nm付近をピークとする蛍光のみが残っていることが分かる。また、励起スペクトル(観測波長440nm)の測定結果を図2(B)に示す。図2(B)に示されるように、ろ過により蛍光性不純物由来の波長350nm付近をピークとする蛍光の消失が認められる。すなわち、MCEで形成されたろ過膜を用いたろ過操作により、粗ThTに含まれる蛍光性不純物の除去が可能である。
【0068】
〔実施例3〕
実施例3は、無極性高分子多孔質体として、酢酸セルロースで形成された膜形状の多孔質構造体(ろ過膜)を適用して、純粋なThTを精製した例である。
【0069】
(ThT溶液の調製)
ThT(ウルトラピュアグレード,AAT Bioquest Inc.社製。本明細書における粗ThTに該当する。)を蒸留水に溶解し、10mM ThT溶液を得た。
【0070】
(ThT溶液のろ過精製)
10mM ThT溶液1mLを、シリンジ(テルモ製)及びシリンジフィルターアズフィル(材質:酢酸セルロース,ポアサイズ:0.45μm,フィルター径:25mm,アズワン社製)を用いてろ過してろ液を回収した。
【0071】
(蛍光の測定)
得られたろ液2μLに蒸留水1998μLを添加して希釈し、希釈液1000μLをマイクロセル(光路長:5mm)に充填した。試料を充填したマイクロセルを蛍光分光光度計RF−5000(株式会社島津製作所製)に設置し、励起波長350nmにて蛍光スペクトルを測定した。
【0072】
(評価)
蛍光スペクトル(励起波長350nm)の測定結果を図3に示す。図3に示されるように、ろ過により蛍光性不純物由来の波長440nm付近をピークとする蛍光が消失し、ThT本来の蛍光である波長480nm付近をピークとする蛍光のみが残っていることが分かる。すなわち、酢酸セルロースで形成されたろ過膜を用いたろ過操作により、粗ThTに含まれる蛍光性不純物の除去が可能である。
【0073】
〔実施例4〕
実施例4は、無極性高分子多孔質体として、ナイロンで形成された膜形状の多孔質構造体(ろ過膜)を適用して、純粋なThTを精製した例である。ThT溶液の調製、及び蛍光の測定は、実施例3と同様に実施した。
【0074】
(ThT溶液のろ過精製)
10mM ThT溶液1mLを、シリンジ(テルモ製)及びシリンジフィルターアズフィル(材質:ナイロン,ポアサイズ:0.45μm,フィルター径:25mm,アズワン社製)を用いてろ過してろ液を回収した。
【0075】
(評価)
蛍光スペクトル(励起波長350nm)の測定結果を図4に示す。図4に示されるように、ろ過により蛍光性不純物由来の波長440nm付近をピークとする蛍光が消失し、ThT本来の蛍光である波長480nm付近をピークとする蛍光のみが残っていることが分かる。すなわち、ナイロンで形成されたろ過膜を用いたろ過操作により、粗ThTに含まれる蛍光性不純物の除去が可能である。
【0076】
〔実施例5〕
実施例5は、無極性高分子多孔質体として、ポリスルホンで形成された膜形状の多孔質構造体(ろ過膜)を適用して、純粋なThTを精製した例である。ThT溶液の調製、及び蛍光の測定は、実施例3と同様に実施した。
【0077】
(ThT溶液のろ過精製)
10mM ThT溶液1mLを、シリンジ(テルモ製)及びフィルターエキクロディスク25(材質:ポリスルホン,ポアサイズ:0.2μm,フィルター径:25mm,島津社製)を用いてろ過してろ液を回収した。
【0078】
(評価)
蛍光スペクトル(励起波長350nm)の測定結果を図5に示す。図5に示されるように、ろ過により蛍光性不純物由来の波長440nm付近をピークとする蛍光が消失し、ThT本来の蛍光である波長480nm付近をピークとする蛍光のみが残っていることが分かる。すなわち、ポリスルホンで形成されたろ過膜を用いたろ過操作により、粗ThTに含まれる蛍光性不純物の除去が可能である。
【0079】
〔実施例6〕
実施例6は、無極性高分子多孔質体として、ポリエーテルスルホンで形成された膜形状の多孔質構造体(ろ過膜)を適用して、純粋なThTを精製した例である。ThT溶液の調製、及び蛍光の測定は、実施例3と同様に実施した。
【0080】
(ThT溶液のろ過精製)
10mM ThT溶液1mLを、シリンジ(テルモ製)及びシリンジフィルターアズフィル(材質:ポリエーテルスルホン,ポアサイズ:0.45μm,フィルター径:25mm,アズワン社製)を用いてろ過してろ液を回収した。
【0081】
(評価)
蛍光スペクトル(励起波長350nm)の測定結果を図6に示す。図6に示されるように、ろ過により蛍光性不純物由来の波長440nm付近をピークとする蛍光が消失し、ThT本来の蛍光である波長480nm付近をピークとする蛍光のみが残っていることが分かる。すなわち、ポリエーテルスルホンで形成されたろ過膜を用いたろ過操作により、粗ThTに含まれる蛍光性不純物の除去が可能である。
【0082】
〔実施例7〕
実施例7は、無極性高分子多孔質体として、ポリテトラフルオロエチレンで形成された膜形状の多孔質構造体(ろ過膜)を適用して、純粋なThTを精製した例である。
【0083】
(ThT溶液の調製)
ThT(ウルトラピュアグレード,AAT Bioquest Inc.社製。本明細書における粗ThTに該当する。)を蒸留水に溶解し、100μM ThT溶液を得た。
【0084】
(ThT溶液のろ過精製)
100μM ThT溶液2mLを、シリンジ(テルモ製)及びシリンジフィルターアズフィル(材質:親水性ポリテトラフルオロエチレン,ポアサイズ:0.45μm,フィルター径:25mm,アズワン社製)を用いてろ過してろ液を回収した。
【0085】
(蛍光の測定)
得られたろ液100μLに蒸留水900μLを添加して希釈し、マイクロセル(光路長:5mm)に充填した。試料を充填したマイクロセルを蛍光分光光度計RF−5000(株式会社島津製作所製)に設置し、励起波長350nmにて蛍光スペクトルを測定した。
【0086】
(評価)
蛍光スペクトル(励起波長350nm)の測定結果を図7に示す。図7に示されるように、ろ過により蛍光性不純物由来の波長440nm付近をピークとする蛍光が消失し、ThT本来の蛍光である波長480nm付近をピークとする蛍光のみが残っていることが分かる。すなわち、ポリテトラフルオロエチレンで形成されたろ過膜を用いたろ過操作により、粗ThTに含まれる蛍光性不純物の除去が可能である。
【0087】
〔実施例8〕
実施例8は、無極性高分子多孔質体として、アクリル共重合体で形成された膜形状の多孔質構造体(ろ過膜)を適用して、純粋なThTを精製した例である。ThT溶液の調製、及び蛍光の測定は、実施例3と同様に実施した。
【0088】
(ThT溶液のろ過精製)
10mM ThT溶液0.25mLを、シリンジ(テルモ製)及びフィルターエキクロディスク13(材質:アクリル共重合体,ポアサイズ:0.2μm,フィルター径:13mm,島津社製)を用いてろ過してろ液を回収した。
【0089】
(評価)
蛍光スペクトル(励起波長350nm)の測定結果を図8に示す。図8に示されるように、ろ過により蛍光性不純物由来の波長440nm付近をピークとする蛍光が消失し、ThT本来の蛍光である波長480nm付近をピークとする蛍光のみが残っていることが分かる。すなわち、アクリル共重合体で形成されたろ過膜を用いたろ過操作により、粗ThTに含まれる蛍光性不純物の除去が可能である。
【0090】
〔実施例9〕
実施例9は、無極性高分子多孔質体として、ポリプロピレンで形成された膜形状の多孔質構造体(ろ過膜)を適用して、純粋なThTを精製した例である。ThT溶液の調製、及び蛍光の測定は、実施例7と同様に実施した。
【0091】
(ThT溶液のろ過精製)
100μM ThT溶液1mLを、シリンジ(テルモ製)及びシリンジフィルタープラディスク25(材質:ポリプロピレン,ポアサイズ:0.45μm,フィルター径:25mm,GEヘルスケア社製)を用いてろ過してろ液を回収した。
【0092】
(評価)
蛍光スペクトル(励起波長350nm)の測定結果を図9に示す。図9に示されるように、ろ過により蛍光性不純物由来の波長440nm付近をピークとする蛍光が消失し、ThT本来の蛍光である波長480nm付近をピークとする蛍光のみが残っていることが分かる。すなわち、ポリプロピレンで形成されたろ過膜を用いたろ過操作により、粗ThTに含まれる蛍光性不純物の除去が可能である。
【0093】
〔実施例10〕
実施例10は、無極性高分子多孔質体として、再生セルロースで形成された膜形状の多孔質構造体(ろ過膜)を適用して、純粋なThTを精製した例である。ThT溶液の調製、及び蛍光の測定は、実施例7と同様に実施した。
【0094】
(ThT溶液のろ過精製)
100μM ThT溶液1mLを、シリンジ(テルモ製)及びフィルターミニザルトRC15(材質:再生セルロース,ポアサイズ:0.2μm,フィルター径:15mm,ミニザルト社製)を用いてろ過してろ液を回収した。
【0095】
(評価)
蛍光スペクトル(励起波長350nm)の測定結果を図10に示す。図10に示されるように、ろ過により蛍光性不純物由来の波長440nm付近をピークとする蛍光が消失し、ThT本来の蛍光である波長480nm付近をピークとする蛍光のみが残っていることが分かる。すなわち、再生セルロースで形成されたろ過膜を用いたろ過操作により、粗ThTに含まれる蛍光性不純物の除去が可能である。
【0096】
〔実施例11〕
実施例11は、無極性高分子多孔質体として、グラスファイバーで形成された膜形状の多孔質構造体(ろ過膜)を適用して、純粋なThTを精製した例である。ThT溶液の調製、及び蛍光の測定は、実施例7と同様に実施した。
【0097】
(ThT溶液のろ過精製)
100μM ThT溶液1mLを、シリンジ(テルモ製)及びシリンジフィルターGF(材質:グラスファイバー,ポアサイズ:1.0μm,フィルター径:25mm,アズワン社製)を用いてろ過してろ液を回収した。
【0098】
(評価)
蛍光スペクトル(励起波長350nm)の測定結果を図11に示す。図11に示されるように、ろ過により蛍光性不純物由来の波長440nm付近をピークとする蛍光が消失し、ThT本来の蛍光である波長480nm付近をピークとする蛍光のみが残っていることが分かる。すなわち、グラスファイバーで形成されたろ過膜を用いたろ過操作により、粗ThTに含まれる蛍光性不純物の除去が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11