(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
0.7mmから2mmの間の厚さ、1180MPaから1320MPaの間の機械的強度を有し、穴拡げ率Ac%が20%より大きく、曲げ角度が40°以上であり、その化学組成は、
0.09%≦C≦0.11%
2.6%≦Mn≦2.8%
0.20%≦Si≦0.55%
0.25%≦Cr<0.5%
0.025%≦Ti≦0.040%
0.0015%≦B≦0.0025%
0.005%≦Al≦0.18%
0.08%≦Mo≦0.15%
0.020%≦Nb≦0.040%
0.002%≦N≦0.007%
0.0005%≦S≦0.005%
0.001%≦P≦0.020%
Ca≦0.003%
を含み、含有率は重量パーセントで表され、残部は鉄および不可避的不純物である冷間圧延および焼鈍された鋼板であって、板はマルテンサイトおよび/または下部ベイナイトを含む微細構造を有し、マルテンサイトは新鮮なマルテンサイトおよび/または自動焼戻しマルテンサイトを含み、マルテンサイトおよび下部ベイナイトの面積割合の合計は40%から70%の間であり、低炭化物ベイナイトの面積割合は15%から45%、フェライトの面積割合は5%から20%未満であり、全フェライトの割合に対する未再結晶フェライトの割合が15%未満、島の形態の残留オーステナイトの面積割合として5%未満であり、
サイズが1マイクロメートル未満である旧オーステナイト結晶粒の数の割合が、旧オーステナイト結晶粒の全母集団の40から60%に相当し、
旧オーステナイト結晶粒の数は、電子後方散乱回折(EBSD)検出器と結合された、電界効果ガン(SEM−FEG技術)を用いた走査型電子顕微鏡による1200xより大きい倍率での観察、及び、画像解析ソフトウェアを使用して決定される、
該鋼板。
自動焼戻しマルテンサイトおよび下部ベイナイトは、マルテンサイトおよびベイナイトのラスの<111>方向に配向されたロッドの形態の炭化物を含むことを特徴とする請求項3に記載の鋼板。
亜鉛または亜鉛合金コーティングは亜鉛メッキ合金コーティングであり、亜鉛または亜鉛合金コーティングは7重量%から12重量%の鉄を含むことを特徴とする請求項10に記載の鋼板。
乗り物における構造部品または安全部品を製造するための、請求項1から12のいずれか一項に記載の鋼板または請求項13から17のいずれか一項に記載の方法によって製造された鋼板の使用。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これらの条件の下で、本発明の1つの目的は、特に750MPaから970MPaの間の高い降伏強度(この値は板に対するあらゆるスキンパス操作の前に決定される)と共に、特に1180MPaから1320MPaの間の高い機械的強度、良好な成形性、特に20%以上の穴拡げ率Ac%、0.7mmから2mmの間の厚さの板の40°以上の曲げ角度、および7%より大きい破断伸びを有する鋼板を供給することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的のために、本発明の目的は、0.7mmから2mmの間の厚さ、1180MPaから1320MPaの間の機械的強度を有し、穴拡げ率Ac%が20%より大きく、曲げ角度が40°以上であり、その化学組成は、0.09%≦C≦0.11%、2.6%≦Mn≦2.8%、0.20%≦Si≦0.55%、0.25%≦Cr<0.5%、0.025%≦Ti≦0.040%、0.0015%≦B≦0.0025%、0.005%≦Al≦0.18%、0.08%≦Mo≦0.15%、0.020%≦Nb≦0.040%、0.002%≦N≦0.007%、0.0005%≦S≦0.005%、0.001%≦P≦0.020%、Ca≦0.003%を含み、含有率は重量パーセントで表され、残部は鉄および加工から生じる不可避的不純物である冷間圧延および焼鈍された鋼板であって、板はマルテンサイトおよび/または下部ベイナイトを含む微細構造を有し、マルテンサイトは新鮮なマルテンサイトおよび/または自動焼き戻しマルテンサイトを含み、マルテンサイトおよび下部ベイナイトの表面割合の合計は40%から70%の間であり、低炭化物ベイナイトの表面割合は15%から45%、フェライトの表面割合は5%から20%未満であり、全フェライトの割合に対する未再結晶フェライトの比が15%未満、島の形態の残留オーステナイトの表面割合として5%未満であり、サイズが1マイクロメートル未満である旧オーステナイト結晶粒の割合が、旧オーステナイト結晶粒の全母集団の40から60%に相当する該鋼板である。
【0016】
また、いくつかの実施形態では、本発明による板は、以下の特性のうちの1つ以上を含む。
− 微細構造は、表面割合において、15%から45%の新鮮なマルテンサイトを含み、
− 微細構造は、表面割合において、5%から50%の自動焼戻しマルテンサイトおよび下部ベイナイトの合計を含み、
− 自動焼戻しマルテンサイトおよび下部ベイナイトは、マルテンサイトおよびベイナイトのラスの<111>方向に配向されたロッドの形態の炭化物を含み、
− 低炭化物ベイナイトは、100平方マイクロメートル単位の表面積当たり100個未満の炭化物を含み、
− 鋼板は、サイズが5ナノメートル未満で10,000個の析出物/μm
3未満の量で存在する(Ti、Nb、Mo)(C、N)型の析出物を含み、
− 化学組成は2.6%≦Mn≦2.7%を含み、含有率は重量パーセントで表され、
− 化学組成は、好ましくは0.30%≦Si≦0.5%を含み、含有率は重量パーセントで表され、
− 好ましい実施形態によれば、化学組成は0.005%≦Al≦0.030%を含み、含有率は重量パーセントで表され、
− 板は亜鉛または亜鉛合金で被覆され、浸漬によって達成され、
− 特定の実施形態によれば、亜鉛または亜鉛合金コーティングは、亜鉛メッキ合金コーティングであり、亜鉛または亜鉛合金コーティングは7重量%から12重量%の鉄を含み、
− 鋼板は、真空蒸着によって得られる亜鉛または亜鉛合金コーティングを有する。
【0017】
本発明はまた、以下の逐次工程を含む、上記の特性のいずれかによる、亜鉛または亜鉛合金で被覆された冷間圧延および焼鈍された板をその目的とする。
− 半製品を供給し、その化学組成は、0.09%≦C≦0.11%、2.6%≦Mn≦2.8%、0.20%≦Si≦0.55%、0.25%≦Cr<0.5%、0.025%≦Ti≦0.040%、0.0015%≦B≦0.0025%、0.005%≦Al≦0.18%、0.08%≦Mo≦0.15%、0.020%≦Nb≦0.040%、0.002%≦N≦0.007%、0.0005%≦S≦0.005%、0.001%≦P≦0.020%、Ca≦0.003%を含み、含有率は重量パーセントで表され、残部は鉄および加工から生じる不可避的不純物である工程、次いで
− 半製品を1250℃以上の温度T
rに加熱する工程、次いで
− 熱間圧延板を得るために、半製品を熱間圧延し、圧延の仕上げ温度は冷却中にオーステナイト変態が開始する温度Ar3よりも高い工程、次いで
− 熱間圧延板を30℃/秒よりも高い速度で冷却してフェライトとパーライトの形成を防止する工程、次いで
− 熱間圧延板を580℃から500℃の間の温度で巻き取る工程、次いで
− 熱間圧延板を冷間圧延して冷間圧延板を得る工程、次いで
− 冷間圧延板を600℃からAc1の間で再加熱し、Ac1は加熱中にオーステナイト変態が始まる温度を示し、再加熱速度V
Cは1℃/秒から20℃/秒の間である工程、
− 冷間圧延板を780℃から(Ac3−25℃)の間の温度Tmにし、冷間圧延板を30秒から150秒の間の時間Dmの間この温度Tmに保持し、Ac3は加熱中のオーステナイト変態の仕上げ温度を示すことが理解される工程、次いで
− 板を10℃/秒から150℃/秒の間の速度VR1で400℃から490℃の間の温度Teまで冷却する工程、次いで
− 板を5秒から150秒の間の時間Deの間この温度Teに保持する工程、次いで
− 被覆板を得るために、板を450℃から480℃の間の温度TZnで亜鉛または亜鉛合金浴中に連続的に浸漬することによって被覆し、温度TeおよびTZnは0℃≦(Te−TZn)≦10℃である工程、次いで
− 被覆板を、場合により、10から40秒の間の期間t
Gの間490℃から550℃の間の温度T
Gに再加熱する工程。
【0018】
本発明はまた、その目的として、以下の逐次的工程を含む、冷間圧延および焼鈍された板の製造方法を有する。
− 半完成品を供給し、その化学組成は、0.09%≦C≦0.11%、2.6%≦Mn≦2.8%、0.20%≦Si≦0.55%、0.25%≦Cr<0.5%、0.025%≦Ti≦0.040%、0.0015%≦B≦0.0025%、0.005%≦Al≦0.18%、0.08%≦Mo≦0.15%、0.020%≦Nb≦0.040%、0.002%≦N≦0.007%、0.0005%≦S≦0.005%、0.001%≦P≦0.020%、Ca≦0.003%を含み、含有率は重量パーセントで表され、残部は鉄および加工から生じる不可避的不純物である工程、次いで
− 半製品を1250℃以上の温度T
rに加熱する工程、次いで
− 熱間圧延板を得るために、半製品を熱間圧延し、圧延処理の仕上げ温度はAr3よりも高い工程、次いで
− 熱間圧延板を30℃/秒よりも高い速度で冷却してフェライトとパーライトの形成を防止する工程、次いで
− 熱間圧延板を580℃から500℃の間の温度で巻き取る工程、次いで
− 熱間圧延板を冷間圧延して冷間圧延板を得る工程、次いで
− 冷間圧延板を600℃からAc1の間で1℃/秒から20℃/秒の間の再加熱速度
VCで再加熱し、Ac1は加熱中にオーステナイト変態が始まる温度を示す工程、
− 冷間圧延板を780℃から(Ac3−25℃)の間の温度Tmに加熱し、冷間圧延板を30秒から150秒の間の時間Dmの間この温度Tmに保持し、Ac3は加熱中のオーステナイト変態の仕上げ温度を示すことが理解される工程、次いで
− 板を10℃/秒から100℃/秒の間の速度VR2で400℃から490℃の間の温度Teまで冷却する工程、次いで
− 板を5秒から150秒の間の時間Deの間この温度Teに保持する工程、次いで
− 板を室温まで冷却する工程。
【0019】
特定の実施形態では、この後者の方法は、以下の特性の1つ以上を含む。
− さらに、室温まで冷却する工程の後に真空蒸着によって亜鉛または亜鉛合金コーティングを適用する工程、
− 真空蒸着は物理蒸着法(PVD)によって行われる工程、
− 真空蒸着はジェット蒸着(JVD)によって行われる工程。
【0020】
以下の説明中に現れる本発明の他の特徴および利点は、例として与えられ、添付の図面を参照して説明する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
Ac1は、鋼の加熱中に同素変態が開始する温度を示すためにも使用される。
【0023】
Ac3は、加熱中のオーステナイト変態の仕上げ温度を指す。
【0024】
Ar3は、冷却中にオーステナイト変態が開始する温度を指す。
【0025】
Msは、マルテンサイト変態が開始する温度を示す。
【0026】
本発明による板の微細構造は、マルテンサイトを含む。これは、冷却中のマルテンサイト変態開始温度より低いオーステナイトγの拡散のない変態の結果である。
【0027】
マルテンサイトは、一方向に伸び、オーステナイトの各初期粒内に配向された薄いラスの形を有する。マルテンサイトという用語は、新鮮なマルテンサイトおよび自動焼戻しマルテンサイトの両方を含む。自動焼戻しマルテンサイトと新鮮なマルテンサイト、即ち、焼き戻されず、自動焼戻しされないものとは区別される。
【0028】
特に、自動焼戻しマルテンサイトは、ラスのメッシュα’の<111>方向に配向されたロッドの形態で、これらのラスに分散された炭化鉄を含む薄いラスの形態を有する。この自動焼戻しマルテンサイトは、冷却が新鮮なマルテンサイトを生成するのに十分に遅くない場合に、マルテンサイト変態温度Ms未満における炭化鉄の析出によって形成される。逆に新鮮なマルテンサイトは炭化物を含まない。
【0029】
マルテンサイト変態の初期温度Msより高いオーステナイト温度範囲からの冷却中に形成されたベイナイトは、フェライトラスおよびセメンタイト粒子の集合体として形成される。その形成は、短距離拡散を伴う。
【0030】
その結果、下部ベイナイトと低炭化物ベイナイトが区別される。下部ベイナイトは、マルテンサイト変態温度Msのすぐ上の温度範囲での冷却中に形成される。それは、薄いラスの形態を有し、これらのラスの中に分散された炭化物を含む。
【0031】
また、低炭化物ベイナイトは、100平方マイクロメートル単位の表面積当たり100個未満の炭化物を含むベイナイトとして定義される。低
炭化物ベイナイトは、冷却中に550℃から450℃の間で形成される。低
炭化物ベイナイトとは異なり、下部ベイナイトは常に100平方マイクロメートル単位の表面積当たり100個を超える炭化物を含む。
【0032】
本発明の鋼の化学組成では、炭素は微細構造の形成およびその機械的特性において役割を果たす。
【0033】
重量パーセントでの炭素含有率は、0.09%から0.11%の範囲である。この範囲の炭素含有率は、1180MPaを超える機械的強度、7%を超える破断伸び、および20%以上の十分な穴拡げ率Ac%を同時に達成するのに寄与する。特に、炭素含有率が0.09%未満では、十分な機械的強度を達成することができない。0.11%よりも大きいより高い炭素含有率の場合、溶接性は低下する傾向があり、温度Msは低下するので、微細構造中の新鮮なマルテンサイトの割合が増加し、従って穴拡げ率を減少させる傾向がある。
【0034】
重量パーセントでのマンガン含有率は、2.6%から2.8%の間である。マンガンは、温度Ac3およびマルテンサイト形成が始まる温度Msを低下させるガンマジェニック(gammagenic)元素である。鋼の低い炭素含有率によって、860℃を超える高い温度Ac3がもたらされることがある。温度Ac3を低下させることによる2.6%を超えるマンガン含有率によって、この温度で少なくとも30秒間保持した後、鋼の完全なオーステナイト化を840℃から855℃の間で達成することが可能になる。マンガンはまた、自動焼戻しマルテンサイトの形成を促進し、従って、20%以上の穴拡げ率Ac%に寄与する。重量パーセントでのマンガン含有率は、縞模様構造の形成を制限するために2.8%に制限され、好ましくは2.6%から2.7%の間である。
【0035】
ケイ素は、重量パーセントでの鋼中のその含有率が0.20重量%から0.55重量%の間、好ましくは0.30%から0.5%の間の固溶体焼き入れ元素である。含有率が少なくとも0.30%であると、フェライトおよび/またはベイナイトを十分に焼き入れすることができる。重量パーセントでのケイ素含有率は、上部ベイナイトの形成を制限する20%以上の孔拡張率Ac%を確保するために0.55%に制限される。また、ケイ素含有率の増加は、板の表面への付着性酸化物の形成を促進することによって鋼の被覆性を低下させる。0.55%未満のケイ素含率は良好な溶接性にも寄与する。
【0036】
ケイ素はアルファジェニック(alphagenic)元素であり、Ac3の温度を上昇させることに寄与し、低
炭化物ベイナイトの生成を促進する。0.55%未満のケイ素含有率は、過剰量の低炭化物ベイナイトの形成を防止するのに役立つ。
【0037】
鋼板の組成はまた、鋼の焼入れ性を改善し、その硬度および機械的強度を高めるために、0.25重量%以上の量のクロムを含む。クロムの含有率は、充分な破断伸びを維持し、製造コストを制限するために、0.5%未満でなければならない。
【0038】
チタンは鋼中に0.025重量%から0.040重量%の範囲の量で存在する。0.025%から0.040%の範囲の量では、チタンは窒素および炭素と結合して、窒化物および/または炭窒化物の形態で析出する。0.025%未満では、1180MPaの機械的強度が達成されないおそれがある。
【0039】
チタン含有率が0.040%を超えると、液体状態から粗大な窒化チタンが析出し、延性を低下させ、穴拡げ時の早期損傷を招くおそれがある。実際、6マイクロメートルよりも大きい窒化物が存在すると、これらの窒化物の大部分は、切断およびスタンピング工程中にマトリックスとの剥離を引き起こすことが分かっている。チタンはまた、窒素が焼き入れ析出の形態で完全に結合することを保証するので、ホウ素は遊離形態で見出され、焼入れ性において有効な役割を果たすことができる。チタンは、窒素に対して超化学量論量であり、従ってTi/N比は3.42より大きい。
【0040】
重量パーセントでのホウ素含有率は、0.0015%から0.0025%の間である。炭素の活性を制限することにより、ホウ素は拡散相変態(冷却中のフェライトまたはパーライト変態)を制御および制限し、高い機械的抵抗特性を得るために必要な焼き入れ相(ベイナイトまたはマルテンサイト)を形成することができる。ホウ素の添加はまた、Mn、Mo、およびCr等の焼き入れ元素の添加を制限し、鋼種の分析コストを低減する。本発明によれば、有効焼入れ性を確保するための最小ホウ素含有率は0.0015%である。0.0025%を超えると、焼入れ性に対する効果が飽和し、被覆性および延性に悪影響を及ぼす。
【0041】
鋼板の組成はまた、0.08重量%から0.15重量%の量のモリブデンを含む。モリブデンは、クロムのように、0.08%を超える含有率で焼入れ性に有効な役割を果たす。
【0042】
0.15%を超えるモリブデン含有率は、フェライトの再結晶を遅らせる。機械的強度Rmは、1320MPaよりも高くなりすぎ、双方とも延性の低下をもたらす。
【0043】
焼鈍温度が(Ac3−25℃)よりも低い場合、本発明の条件下での添加により、チタンおよびニオブと組み合わせて、焼き入れに寄与し、焼鈍後に1180MPa以上の機械的強度Rmを得ることを可能にするモリブデン、チタンおよびニオブ炭窒化物(Ti、Nb、Mo)(C、N)のナノメートルの析出を得ることが可能になる。
【0044】
しかし、小さいサイズの化合物の過度に高密度の析出により、過剰な焼き入れがもたらされる。即ち、5nmより小さい析出物の密度が10,000析出物/μm
3を超えると、機械的強度Rmが1320MPaを超えることがあり、冷間変形性が不十分となる。
【0045】
本発明で規定する量のモリブデンを添加することにより、温度Tmでの焼鈍後の工程における起こり得る変動の影響を受けにくい鋼板を得ることができる。冷却速度VRおよび温度Teは、規定された設定値に従って工業的条件下で連続的に制御されるが、これらのパラメータのわずかな変動が一時的に生じることがある。これらの変動は、最終製品の特性に影響を与えるべきではない。本発明によって規定される範囲内では、VRまたはTeの中程度の変動、例えば、7%は、7%未満の機械的強度Rmの変動をもたらす。
【0046】
熱間圧延鋼板の化学組成は、重量パーセントで0.020%から0.040%の間の含有率のニオブを含む。0.020%より多い量では、ニオブは機械的強度Rmの増加を可能にする。重量%で0.040%の含有率を超えると、オーステナイトの再結晶が遅れる。従って、この構造はかなりの割合の細長い結晶粒を含み、もはや目標の穴拡げ率Ac%の達成をもたらさない。
【0047】
また、重量パーセントでの窒素含有率は、0.002%から0.007%の間である。十分な量の窒化物および炭窒化物を形成するためには、窒素含有率は0.002%より大きくなければならない。窒素含有率は、遊離ホウ素の量を減少させるであろう窒化ホウ素の析出を防止するために、0.007%未満であるべきである。
【0048】
0.005重量%から0.18重量%の間のアルミニウム含有率は、その製造中に鋼を脱酸するのに役立つ。アルミニウム含有率、温度Ac3の上昇および冷却中のフェライトの形成を防止するために、0.18%未満またはさらには0.030%未満でなければならない。
【0049】
硫黄含有率は0.005%未満でなければならない。この含有率を超えると、変形性、特に穴拡げ率Ac%を低下させる、MnS等の硫化物の過剰な存在により延性が低下する。しかし、0.0005%未満の非常に低減された硫黄含有率を得ることは、非常に高価であり、製造コストの点で大きな利点はない。実用的な観点から、少なくとも0.0005%の硫黄含有率を選択することができる。
【0050】
リン含有率は0.020%未満でなければならない。リンは固溶体における焼き入れを与えるが、特に粒の接合部に偏析したり、マンガンと共に分離したりする傾向があるため、スポット溶接性と熱間延性を低下させる元素である。
【0051】
それにもかかわらず、0.001%未満の極めて低いリン含有率を達成することは非常に高価であり、製造コストの点で大きな利点はない。実用的な観点から、少なくとも0.001%のリン含有率を選択することができる。
【0052】
0.003%未満の量で、カルシウムは、延性に悪影響を与える細長い介在物、特に硫化物を防止する。
【0053】
本発明による鋼板の微細構造では、マルテンサイトと下部ベイナイトの表面割合の合計は40%から70%の間である。微細構造はまた、表面割合で、15%から45%の低炭化物ベイナイト、5%から20%未満のフェライト、および島の形態の5%未満の残留オーステナイトを含む。全フェライトの割合のうち再結晶フェライトの表面割合は15%未満であり、それにより1180MPaから1320MPaの間の機械的強度Rm、7%を超える伸び、20%以上の穴拡げ率を同時に得ることが可能になる。
【0054】
上述したように、自動焼戻しマルテンサイトと新鮮なマルテンサイト、即ち、焼き戻されず、自動焼戻しされないものとは区別される。
【0055】
一実施形態によれば、マルテンサイトは、自動焼戻しマルテンサイトと下部ベイナイトとの合計の表面割合は、微細構造全体の少なくとも5%から最大50%に相当する自動焼き戻しマルテンサイトから形成される。
【0056】
自動焼戻しマルテンサイトおよび下部ベイナイトは、薄いラスの形態を有し、これらのラスに分散された炭化物を含む。特に、自動焼戻しマルテンサイトおよび下部ベイナイトは、マルテンサイトおよびベイナイトのラスのメッシュの<111>方向に配向されたロッドの形態のFe
2CおよびFe
3Cの炭化鉄を含む。自動焼戻しマルテンサイトおよび下部
ベイナイトの割合は、自動焼戻しマルテンサイトおよび下部
ベイナイトが鋼の使用特性に対し実質的に同じ役割を果たすので、一緒に特定される。さらに、これらの2つの成分は、薄いラスの形態で、走査型電子顕微鏡観察で個々に区別することができない。これらの2つの成分は、透過型電子顕微鏡検査によってのみ区別することができる。
【0057】
40%から70%の間の
、マルテンサイトおよび下部ベイナイトの合計の表面割合は、鋼の成形性、特にその曲げ性および伸びフランジ性を促進する。従って、少なくとも40%の自動焼戻しマルテンサイトおよび下部ベイナイトの割合は、満足な曲げ角度、特に、少なくとも40°という、0.7mmから2mmの間の厚さの板の曲げ角度、および20%以上の穴拡げ率Ac%に寄与する。
【0058】
微細構造中の自動焼戻しマルテンサイトと下部ベイナイトの合計の割合は、少なくとも7%の破断伸びをもたらす十分な割合の低炭化物ベイナイトを維持するために70%未満でなければならない。
【0059】
マルテンサイトはまた、微細構造全体の15%から45%の間の新鮮なマルテンサイトを含むことができ、新鮮なマルテンサイトの割合は、特に鋼の延性の低下を防止し、良好な穴拡げ率を確保するために45%未満でなければならない。
【0060】
微細構造はまた、表面割合で15%から45%の低炭化物ベイナイトを含む。それは、温度Tmでの焼鈍後の冷却中および550℃から450℃の保持中に形成される。その形成には、炭素またはマンガンのような少量の焼き入れ元素と共に、炭化物の析出を遅らせる傾向があるケイ素の添加が有利に働く。
【0061】
低炭化物ベイナイトは、破断伸びを増加させる。特に、低炭化物ベイナイトの表面率が少なくとも15%であれば、少なくとも7%の破断伸びを得ることができる。低炭化物含有率を有するベイナイトの表面割合は、20%以上の穴拡げ率および1180MPa以上の機械的強度を確保するために、45%に制限されるべきである。
【0062】
微細構造はまた、単位面積当たり5%から20%未満のフェライトを含む。フェライトの含有率が5%未満では、降伏応力が不十分な過剰な自動焼戻しマルテンサイトが得られるおそれがある。フェライトの含有率が20%を超えると、機械的強度Rmが1320MPa未満であるおそれがある。
【0063】
微細構造はまた、表面割合で、島の形態の残留オーステナイトを5%まで含み、自動焼戻しマルテンサイトと下部ベイナイトのラスの間に小さな板を形成することができる。
【0064】
さらに、本発明者らは、冷間圧延板の金属の焼鈍中に生成されたオーステナイト結晶粒、即ち、焼鈍後かつその後の冷却前の高温で存在したオーステナイト結晶粒のサイズの制御の重要性も実証した。これらのオーステナイト結晶粒は、これらの粒が冷却中の同素変態中に他の成分に置換されるため、「旧オーステナイト結晶粒」と呼ばれる。それにもかかわらず、以下に説明するように、これらの旧オーステナイト結晶粒のサイズは、最終製品において様々な方法によって実証され得る。本発明によれば、サイズが1マイクロメートル未満である旧オーステナイト結晶粒の割合は、これらの旧オーステナイト結晶粒の全母集団の40%から60%に相当する。
【0065】
サイズが1マイクロメートル未満である旧オーステナイト結晶粒の割合は、例えば、適切な試薬(例えば、Bechet−Beaujard試薬)によって決定され、そのエッチング速度は、それ自体既知である以前の接合部の特定の局所的偏析に依存する。この目的のために、最終状態、即ち、本発明による製造方法の最後にある鋼の試料を、適切な試薬、特に、少なくとも0.5%のアルキルスルホン酸ナトリウムを加えたピクリン酸の飽和水溶液を含む試薬で数分から1時間エッチングする。
【0066】
このエッチングの終了時に、試料の顕微鏡写真検査により、旧オーステナイト結晶粒の接合部を可視化することが可能になり、これらの旧オーステナイト結晶粒のサイズ分布のヒストグラムを作成することが可能になり、特にそのサイズが1マイクロメートル未満の旧オーステナイト結晶粒の割合を決定することが可能になる。
【0067】
あるいは、旧オーステナイト結晶粒のサイズは、焼鈍後の冷却中の焼き入れの中断により、初期冷却条件を採用して粒間フェライト核生成を誘発し、次に焼き入れによりそれを中断することによって決定することができる。
【0068】
本発明者らは、これらの旧オーステナイト結晶粒のサイズが、焼鈍後の冷却中の相変態の動力学に影響することを実証した。特に、1マイクロメートル未満の小さなオーステナイト結晶粒は、温度Msの値を下げることに寄与し、従って新鮮なマルテンサイトの形成を増加させる。
【0069】
逆に、粗大なオーステナイト結晶粒の存在により、低炭化物ベイナイトの形成が減少する。
【0070】
全オーステナイト結晶粒母集団の40%から60%の間の、サイズが1マイクロメートル未満の旧オーステナイト結晶粒の割合は、マルテンサイト変態の温度Msを低下させ、破断伸びおよび降伏点を低下させるであろう過剰な割合の自動焼戻しマルテンサイトおよび下部ベイナイトの形成を防止するのに寄与する。
【0071】
上述した微細構造特性は、例えば、電子後方散乱回折(EBSD)検出器と結合された、電界効果ガン(SEM−FEG技術)を用いた走査型電子顕微鏡による1200xより大きい倍率での微細構造の観察によって決定される。次いで、ラスおよび結晶粒の形態が、Aphelion(R)ソフトウェアのような既知のソフトウェアを使用する画像解析によって決定される。
【0072】
本発明による冷間圧延および焼鈍された鋼板は、コーティングなしで未処理で製造することができ、またコーティングを有することもできる。例えば、そのようなコーティングは、亜鉛または亜鉛合金、特に7重量%から12重量%の鉄を含む亜鉛メッキ合金コーティングであってもよい。
【0073】
特に、このような鋼板は、特に通常の方法に従った溶融亜鉛めっきによる金属コーティングの堆積によく適している。特に、鋼の組成および機械的特性は、亜鉛浴中での連続浸漬のための被覆方法の制約および熱サイクルに適合する。
【0074】
使用される被覆方法は、意図される用途に依存する。特に、コーティングは、ホットディップ、ジェット蒸着(JVD)のような真空蒸着技術、またはカチオン電気メッキによって得ることができる。
【0075】
本発明者らは、本発明による鋼板が、1180MPaから1320MPaの間の機械的強度、スキンパス操作前の750MPaから970MPaの間の降伏強度、少なくとも7%、特に8%を超える破断伸び、および少なくとも20%の穴拡げ率Ac%を有することを実証した。
【0076】
特に、1320MPa未満の機械的強度を維持しながら、800MPaから970MPaの間の降伏強度が得られる。また、このような板は、高い曲げ角度を有する。特に、板が0.7mmから2mmの厚さを有する場合、曲げ角度は少なくとも40°である。
【0077】
本発明に従って圧延された板の製造方法の実施には、以下の工程が含まれる。
【0078】
本発明による組成を有する鋼が供給され、半製品がそれから鋳造される。この鋳造は、インゴット中で行うことができ、または厚さ約200mmのスラブ中で連続的に行うことができる。
【0079】
鋼を均質化し、析出物を完全に溶解させるために、半製品鋳造物を最初に1250℃を超える温度T
Rに加熱する。
【0080】
次いで、半製品は、鋼構造が完全にオーステナイトである温度範囲、即ち、冷却中にオーステナイト変態が開始する温度Ar3よりも高い温度T
FLで熱間圧延される。温度T
FLが温度Ar3よりも低い場合、フェライト粒は圧延によって加工硬化され、延性が低下する。優先的には、875℃を超える圧延終了時の温度を選択すべきである。
【0081】
熱間圧延板は30℃/秒を超える速度で冷却されてフェライトおよびパーライトの形成を防止し、次いで500℃から580℃の間の温度T
Bobで熱間圧延板が巻き取られる。巻き取り中の酸化を防止するために、巻き取り温度は580℃より低くなければならない。巻き取り温度が低すぎると、即ち、500℃未満であると、鋼の硬度が上昇し、これはその後の冷間圧延に必要な応力を増大させる。この巻き取り温度範囲はまた、パーライトの形成を防止する。
【0082】
板は次に、周知の方法の1つを用いて酸洗いされる。
【0083】
次いで、その後の再結晶を可能にする変形量を導入するために、例えば、40%から70%の間の減少率で冷間圧延が実施される。
【0084】
冷間圧延板は、次いで、好ましくは連続焼鈍プラント内で、600℃から温度Ac1(オーステナイトが加熱中にその同素変態を開始する温度)の間で、1℃/秒から20℃/秒の間の平均加熱速度V
Cで加熱される。
【0085】
温度Ac1は膨張率測定で測定することができ、または「Darstellung der Umwandlungen fur technische Anwendungen und Moglichkeiten ihrer Beeinflussung」、H. P. Hougardy、Werkstoffkunde Stahl Band 1、198−231、Verlag Stahleisen、デュッセルドルフ、1984に発表された以下の式により評価することができる。
Ac1=739−22
*C−7
*Mn+2
*Si+14
*Cr+13
*Mo−13
*Ni
【0086】
この式において、温度Ac1は摂氏温度で表され、組成の元素含有率は重量パーセントとして表される。
【0087】
鋼を600℃からAc1の間で加熱すると、再結晶化処理が始まり、Ac1から開始して形成されるオーステナイト結晶粒のサイズ分布を制御する(TiNbMo)(CN)析出物が形成される。驚くべきことに、本発明者らは、600℃からAc1の間の平均加熱速度V
Cの制御、従って600℃からAc1の間の加熱時間(これは再結晶の開始と相変態の開始との間の時間に相当する)の制御は、特に焼鈍温度Tmを保持する工程の間のその後の相変態の動力学にとって決定的であることを実証した。従って、本発明者らは、予想外に、600℃からAc1の間における1℃/秒から20℃/秒の間に含まれる平均加熱速度V
Cの選択により、製造方法の最後に、微細構造が、表面割合において、40%から70%のマルテンサイトと下部ベイナイトの合計、15%から45%の低炭化物ベイナイト、5%から20%未満のフェライト、島の形態の5%未満の残留オーステナイトから構成された鋼を得ることが可能になることを実証した。
【0088】
特に、1℃/秒未満の平均加熱速度V
Cは、600℃からAc1の間の過度に長い加熱時間をもたらし、これは過剰のフェライト形成および低すぎる機械的抵抗をもたらすであろう。
【0089】
反対に、20℃/秒より高い平均加熱速度V
Cは、600℃からAc1の間の不十分な加熱時間、600℃からAc1の間の加熱の間のフェライト粒子の不十分な成長をもたらすであろう。
【0090】
このように、本発明者らは、600℃からAc1の間の加熱後に得られるフェライト粒子のサイズが、オーステナイト化後のオーステナイト結晶粒のサイズに影響を及ぼすことを実証した。フェライト粒子の成長が不十分であると、過度に高い割合のオーステナイト結晶粒が形成され、温度MSの値が低下するため、焼鈍後の自動焼戻しマルテンサイトの形成が不十分、即ち、40%未満となる。
【0091】
冷間圧延板は、次に、温度Ac1から、780℃から(Ac3−25℃)の間の焼鈍温度Tmまで加熱される。
【0092】
温度Ac3は膨張率測定で測定するか、または式:Ac3=912−370−27.4 Mn+27.3 Si−6.35 Cr−32.7 Ni+95.2 V+190 Ti+72 Al+64.5 Nb+5.57 W+332 S+276 P+485 N−900 B+16.2 C Mn+32.3 C Si+15.4 C Cr+48 C Ni+4.32 Si Cr−17.3 Si Mo−18.6 Si Ni+4.8 Mn Ni+40.5 Mo V+174 C
2+2.46 Mn
2−6.86 Si
2+0.322 Cr
2+9.9 Mo
2+1.24 Ni
2−60.2 V
2に従って計算することができる。
【0093】
この式において、温度Ac3は摂氏温度で表され、組成の元素含有率は重量パーセントで表される。
【0094】
温度Tmが780℃未満では、析出物(Ti、Nb、Mo)(CN)の密度は、焼き入れが1320MPaの値を超えるRmの上昇を招き、成形性が低下するようなものである。
【0095】
温度Tmが(Ac3−25℃)よりも高いと、オーステナイト結晶粒径が大きくなり過ぎて、過剰な量の下部ベイナイトおよびマルテンサイトが形成され、新鮮なマルテンサイトが損なわれて、1180MPaの機械的強度Rmを達成することが不可能である。
【0096】
冷間圧延板は、30秒から150秒の間の時間Dmの間、温度Tmで保持される。
【0097】
時間Dmは、サイズが1マイクロメートル未満であるオーステナイト結晶粒の割合が全オーステナイト母集団の40%から60%に相当するように選択される。保持時間Dmが30秒未満であると、方法の最後に過剰の割合のフェライトが形成されるであろう。オーステナイト結晶粒のサイズによって、焼鈍後の冷却中の相変態速度が決定される。特に、1マイクロメートル未満の小さなオーステナイト結晶粒は、温度Msの値を下げ、ひいては自動焼戻しマルテンサイトの形成を減少させるのに寄与する。
【0098】
冷間圧延板を1℃/秒から20℃/秒の平均加熱速度V
Cで600℃から温度Ac1の間の温度に加熱した後、冷間圧延板をAc1からTmの間で加熱し、 冷間圧延板をその温度Tmに
30秒から
150秒の間の時間Dmの間保持することにより、形成されたオーステナイト結晶粒のサイズを制御することができ、より詳細には、サイズが少なくとも1マイクロメートル未満のこれらの結晶粒の割合を制御することが可能になる。
【0099】
これらの加熱パラメータは、本発明による微細構造を焼鈍の終わりに得ることを可能にし、それによって所望の機械的特性を得ることに寄与する。
【0100】
続いて亜鉛メッキを施すことが意図された板の場合、鋼板は10℃/秒から150℃/秒の間の速度V
R1で400℃から490℃の間の温度Teまで冷却される。5%未満のフェライトを形成し、過剰な低炭化物ベイナイトを形成しないためには、冷却速度は10℃/秒より大きくなければならない。
【0101】
裸の板を製造する場合、鋼板は10℃/秒から100℃/秒の間の速度V
R2で400℃から490℃の間の温度Teまで冷却される。
【0102】
冷却は、1つ以上の工程で温度Tmから開始して実施することができ、冷水または沸騰水の浴、ウォータージェットまたはガスジェット等の様々な冷却方法を含むことができる。
【0103】
次に、板は温度Teで5秒から150秒の間の時間Deの間保持される。
【0104】
オーステナイトから低炭化物ベイナイトへの部分的な変態がこの工程で起こる。Teでの保持は、ベイナイトの表面割合を制限し、ひいては十分な割合のマルテンサイトを得るために、150秒未満でなければならない。
【0105】
この方法の以下の工程は、連続亜鉛めっき鋼板が製造されるかどうか、特に亜鉛めっき合金化されるかまたは被覆されていないかによって異なる。
【0106】
連続亜鉛めっき鋼板を製造することに対応する第1の実施形態によれば、板は、450℃から480℃の間の温度TZnで亜鉛または亜鉛合金浴に数秒間連続浸漬することによって被覆される。温度TeおよびTZnは、0℃≦(Te−TZn)≦10℃のようなものである。
【0107】
次いで、亜鉛めっき製品は、室温に冷却され、残留オーステナイトの大部分は新鮮なマルテンサイトおよび/または下部ベイナイトに変態する。
【0108】
冷間圧延、焼鈍、および亜鉛めっき−合金化(「合金化溶融亜鉛めっき」)鋼板を製造する場合、亜鉛または亜鉛合金浴を出た直後に490℃/秒から550℃の温度T
Gで10秒から40秒の間の時間t
Gの間亜鉛めっき製品を加熱する。これにより、鉄および浸漬処理中に堆積した亜鉛または亜鉛合金の薄層の拡散が引き起こされ、亜鉛めっき−合金化板が得られる。
【0109】
次いで、亜鉛めっき−合金化板を室温まで冷却し、残留オーステナイトの大部分は新鮮なマルテンサイトおよび/または下部ベイナイトに変態する。
【0110】
未被覆鋼板の製造に対応する第2の実施形態では、板の冷却が温度Teから周囲温度まで行われる。
【0111】
真空処理によって被覆された鋼板を製造することに対応する第3の実施形態では、第2の実施形態のように進行し、板は温度Teから室温まで冷却され、次いで真空蒸着によって、例えば、物理蒸着(PVD)またはジェット蒸着(JVD)によって亜鉛または亜鉛合金の被覆を達成する。
【0112】
上記の全ての実施形態において、表面割合で、40%から70%のマルテンサイトと下部ベイナイトの総量、15%から45%の低炭化物ベイナイト、5%から20%未満のフェライト、島の形態の5%未満の残留オーステナイトを含む冷間圧延および焼鈍された交番が得られる。
【0113】
本発明者らは、この方法の使用により、750MPaから970MPaの間の(スキンパス操作の前の)降伏強度と共に、1180MPaから1320MPaの間の機械的強度、少なくとも7%または8%の破断伸びを有し、穴拡げ率Ac%は20%以上である鋼板を得ることが可能になることを実証した。
【0114】
さらに、この方法の使用は、板の厚さが0.7mmから2mmの間である場合に、板が少なくとも40°曲げられることを保証する。
【0115】
得られた板は、抵抗スポット溶接等の従来の接合方法による溶接にも適している。
【実施例】
【0116】
非網羅的な例として、以下の結果は、本発明により与えられる有利な特性を示す。
【0117】
半完成の鋼製品が供給され、重量%(%)として表示されたその組成を下記の表1に示す。
【0118】
本発明による板を製造するために使用される鋼I1からI3に加えて、比較のために、基準板を製造するために使用される鋼R1からR5の組成が示される。
【0119】
温度Ac3は、膨張率測定で測定し、または上記の式を用いて計算し、表1に報告した。
【0120】
【表1】
表1−鋼の組成−温度Ac3
下線の値:本発明に対応しない
【0121】
上記の組成物に対応する半完成鋳造物を1250℃を超える温度T
Rまで加熱し、次いで熱間圧延し、圧延終了時の温度はこれら全ての鋼についてAr3よりも高い850℃であった。
【0122】
フェライトおよびパーライトの形成を防止しながら熱間圧延板を冷却し、次いで、545℃の温度で巻き取った。次いで、板を1.4mmの厚さまで冷間圧延した。
【0123】
第1の組の試験では、I1板を600℃からAc1(Ac1は加熱中にオーステナイト変態が開始する温度を示す)の間の加熱速度V
Cで加熱し、Ac1から温度Tmに再び加熱し、時間Dmの間温度Tmで保持した。
【0124】
板を速度V
R1で温度Teまで冷却し、次に時間Deの間温度Teに保持した。
【0125】
特定の試験(I1F)では、板I1を810℃まで加熱し、この温度で120秒間保持し、次いで100℃/秒を超える速度で室温まで水による焼き入れすることにより、即ち、温度Teでの保持工程なしに冷却した。
【0126】
これらの試験は、表2に示す種々の処理条件(AからH)の下で行った。この表において、「n.a.」は該当しないことを意味する。実際、処理Fでは、温度Teでの保持がないため、関連する保持時間Deを定義することが不可能であった。
【0127】
第2の組の試験では、表3に規定された条件下で等級R1からR5を処理した。
【0128】
次いで、上記の全ての条件で製造された板を、460℃の亜鉛浴中で連続的にホットディップすることによってコーティングで被覆し、亜鉛メッキ合金コーティングを得るために直ちに510℃に加熱した。
【0129】
【表2】
表2:等級I1の試験条件
下線の値:本発明に従わない
【0130】
【表3】
表3:等級I2、I3およびR1からR5の試験条件
【0131】
このようにして得られた板の機械的特性を、鋼の組成および熱処理から決定した。慣例により、板は、化学組成の名称と熱処理の名称を組み合わせることによって命名した。従って、I1Aは、熱処理Aの条件が適用された組成物I1から得られた板を指す。
【0132】
これらの種々の製造方法によって得られた板の降伏強度Re、引張強度Rmおよび全伸びAtを決定するために引張強度試験を用いた。破壊前の最大角度を決定することによってこれらの板の曲げ性も決定した。
【0133】
板を曲げるように板にパンチを適用することによってこの角度を決定する。破壊が生じるまで、曲げを達成するために加えられる力を増加させる。従って、曲げ中に加えられる力を測定することにより、板の破壊の開始を検出し、この破壊が生じるときの最大曲げ角度を測定することが可能になる。
【0134】
板に突き刺し、次いでテーパー付き工具を使用して穴の縁部を拡げることにより、板に直径10mmの穴を作ることによって、穴拡げ率Ac%も各板について決定した。ISO 16630:2009に記載されているように、スタンピング前の穴の初期直径Diおよびスタンピング後の穴の最終直径Dfを、亀裂が穴の縁で板の厚さに現れ始める瞬間に測定した。穴の拡げ能力Ac%は、以下の式に従って決定した。
【数1】
【0135】
鋼の微細構造特性も決定した。重亜硫酸ナトリウムエッチングを施した研磨部においてマルテンサイト(自動焼戻しマルテンサイトおよび新鮮なマルテンサイトを含む)および下部ベイナイト(一緒に)、自動焼戻しマルテンサイトおよび下部ベイナイト(一緒に)ならびに低炭化物ベイナイトの表面割合を定量化した。新鮮なマルテンサイトの表面割合は、NaOH−NaNO
3試薬によるエッチング後に定量化した。
【0136】
フェライトの表面割合も、フェライト相を同定した光学および走査型電子顕微鏡観察を用いて決定した。
【0137】
薄膜析出物の性質、サイズ、密度も透過型電子顕微鏡で観察した。
【0138】
板の微細構造に関する詳細は以下の表4に示す。
【0139】
【表4】
表4−得られた板の微細構造特性
下線の値:本発明に従わない
n.d/:決定されなかった
【0140】
板の機械的特性を以下の表5に示す。
【0141】
【表5】
表5−得られた板の機械的特性
n.d/:決定されなかった
【0142】
従って、鋼組成物、それらの微細構造、およびそれらの機械的特性間の関係を実証する。
【0143】
本発明に係る鋼板は、目標値を満足する機械的強度、降伏強度、破断伸び、曲げ角度および穴拡げ率を得ることができる組成および微細構造を有する。
【0144】
図1および
図2は実施例I1Aの微細構造を示す。
図1は重亜硫酸水素ナトリウムを用いて板をエッチングした結果を示し、
図2はNaOH−NaNO
3を用いて板をエッチングした結果を示す。
図1は、自己焼戻しマルテンサイトおよび下部ベイナイト(M+BI)ならびに低炭化物ベイナイト(BFC)を示す。
図2は、より暗い領域の形態で、新鮮なマルテンサイト(MF)を示す。
【0145】
試験I1Aにおいて、TEM観察(
図3)は、10,000個の析出物/μm
3未満の量の平均サイズ7nmの(Ti、Nb、Mo)(CN)の炭窒化物の存在を明らかにし、所望の機械的特性が達成される。これらの観察はまた、自動焼戻しマルテンサイトおよび下部ベイナイトのラス中の<111>方向に配向されたロッドの形態の炭化物の存在も明らかにする。低炭化物ベイナイトは、100平方マイクロメートル単位の表面積当たり100個未満の炭化物を含む。
【0146】
試験I1Bでは、焼鈍温度TmがAC3に近すぎるため、オーステナイト中の炭素量が低くなる。過剰の低炭化物ベイナイトは冷却および温度Teでの保持中に生じる。これにより、機械的強度が不十分となる。
【0147】
試験I1DおよびI1Eでは、加熱速度Vcが低すぎる。従って、過剰なフェライト粒子の成長が観察される。これは鋼中に過剰なフェライトを残し、不充分なマルテンサイトまたは下部ベイナイトが存在する。従って、機械的強度Rmは、例I1Eの場合のように、保持時間Dmが60秒であっても達成されない。
【0148】
試験I1Fでは、冷却速度V
Rが高すぎる。これは、過剰のマルテンサイトおよび下部ベイナイト、ならびに不十分な低炭化物ベイナイトおよび新鮮なマルテンサイトをもたらす。従って、機械的強度および降伏強度は目標値をはるかに超えているが、破断伸びは不十分である。
【0149】
処理Gの温度Tmにおける保持時間Dmは、条件I1Gに従って製造された板が15%未満のフェライト再結晶化率を有するように短すぎる。これは、低すぎる穴の拡げ値をもたらす縞模様構造を生成する。
【0150】
試験I1Hでは、焼鈍温度が低すぎ、過度に高い密度の小さな析出物がもたらされる。即ち、TEM観察(
図4)により、機械的抵抗が1320MPaを超えるように10,000個の析出物/μm
3を超える量の5nmの平均サイズが示される。また、焼鈍温度Tmが低いとフェライトの再結晶率が15%を超えることができず、結果として低すぎる穴拡げ値がもたらされる。
【0151】
試験I1GおよびI1Hでは、サイズが1μm未満のオーステナイト結晶粒の割合が高すぎるため、低すぎる温度Msおよび低すぎる量のベイナイト+自動焼戻しマルテンサイトの形成がもたらされる。これは、穴拡げの低下(これはこれら2つの試験については小さすぎる)の一因となる。
【0152】
例R1Bの板は、高すぎるC、Cr、TiおよびBの含有率を有するため、Moの含有量が少ないにもかかわらず、機械的強度Rmが高すぎる。従って、良好な降伏強度Reが得られるものの、それは高すぎる機械的強度Rmと共に得られる。
【0153】
試験板R2B、R3BおよびR3Cは、BおよびCrの量は非常に多いものの、不十分なレベルのC、MnおよびMoを含み、従って十分な機械的強度を有していない。
【0154】
例R5は不十分なMn含有率を有し、処理BおよびCにおいて低
炭化物ベイナイトが過剰に生成する結果となる。
【0155】
本発明による鋼板は、自動車産業における構造部品または安全部品を製造するために有利に使用することができる。