(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態のフォトレジスト(感光性組成物)とそれを用いたグラフェンデバイスの製造方法について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、各部の厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0011】
(第1の実施形態/フォトレジスト(感光性組成物))
実施形態のフォトレジスト(感光性組成物)は、化学増幅型レジストであり、基本的には樹脂と酸発生剤とで構成される。実施形態のフォトレジストは、グラフェンやその上に形成された膜をパターニングする際に、π−πスタックによるグラフェンの汚染や特性低下等を抑制しつつ、波長が300nm以上500nm以下の光、又はKrFエキシマレーザ光による露光及び現像を可能にしたものである。実施形態のフォトレジストは、樹脂の親水部の一部を保護基で保護しており、すなわち酸でカルボン酸を発生するエステル結合、又は酸でアルコールを発生するエーテル結合を有しており、上記した光で露光した際に酸発生剤から発生した酸で保護基が外れ、現像液に可溶になることによってパターニングすることができる。このようなフォトレジストにおいて、グラフェンデバイスの性能劣化を引き起こすのは、sp
2結合をもつ炭素(C)から構成されるベンゼン環やナフタレン環がグラフェンとπ−πスタックするためである。このため、グラフェンとのπ−πスタックを起こさない樹脂と酸発生剤を実施形態のフォトレジストの構成要素とする。
【0012】
実施形態のフォトレジストにおいて、樹脂には芳香環を持たない樹脂が用いられる。具体的には、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、シクロオレフィン・無水マレイン酸共重合体、ポリシクロオレフィン、及びビニルエーテル・無水マレイン酸共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1つを含み、親水部の一部を保護基で保護した樹脂、すなわち酸でカルボン酸を発生するエステル結合、又は酸でアルコールを発生するエーテル結合を有する樹脂が用いられる。このような樹脂を用いたフォトレジストによれば、樹脂が芳香環を持たないため、グラフェンとのπ−πスタックを防ぐことができ、これにより樹脂に起因するグラフェンデバイスの性能低下を抑制することが可能になる。
【0013】
実施形態のフォトレジストの樹脂について詳述する。まず、フォトレジストの樹脂を構成するベース樹脂の1つとして、
図1に示すポリアクリル酸(
図1(a))やポリメタクリル酸(
図1(b))が挙げられる。レジストとして機能させるためには、ポリアクリル酸又はポリメタクリル酸のカルボン酸部分を保護基で置換したユニットを、数10%程度ポリマー鎖中に導入する。これがフォトレジストの樹脂の1つ目の例となる。保護基で置換したユニットの導入量は、ポリマー鎖の10モル%以上50モル%以下が好ましい。露光により酸発生剤から酸が発生し、酸が触媒となって保護基が外れてカルボン酸となる。これによって、現像液に可溶となる。保護基となる基を導入したユニットの例を、ポリメタクリル酸を例として
図2及び
図3に示す。ポリアクリル酸の場合には、主鎖のCと結合したメチル基が水素となるだけであり、その他の構造は同一である。
【0014】
ポリアクリル酸やポリメタクリル酸は、エッチング耐性が他の樹脂系に比べて高いという特徴を有する。一方、疎水性が高いため、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸は密着性が低いという欠点を有する。密着性を高めるために、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸の親水性を向上させたり、また現像時の溶解コントラストを向上させる目的で、ラクトンを樹脂中に入れることが有効である。ポリアクリル酸やポリメタクリル酸と共重合させるラクトンを有するユニットの例を
図4に示す。
【0015】
樹脂の2つ目の例としては、
図5に示すようなシクロオレフィンと無水マレイン酸の交互共重合体(cycloolefin−maleic anhydride:COMA)が挙げられる。
図5(a)はシクロオレフィンがノルボルナンの例であり、
図5(b)はシクロオレフィンがテトラシクロドデカンの例である。
図5に示す構造式において、Rは保護基である。酸発生剤から発生した酸により保護基Rが外れ、カルボン酸となって現像液に可溶となる。COMAにおける保護基Rの例を
図6に示す。
【0016】
COMA系の樹脂は、親水性が高く、酸化膜との親和性がよい。また、現像時の溶解コントラストが高い。ただし、COMA系の樹脂はエッチング耐性が低く、また無水環が含まれているために加水分解しやすく、保存安定性に工夫が必要である。なお、グラフェン自体のエッチング性が高いため、それほどのエッチング耐性は求められない。
【0017】
樹脂の3つ目の例としては、
図7に示すように、主鎖がシクロオレフィンで構成されているポリシクロオレフィンが挙げられる。シクロオレフィンとしては、
図7(a)に示すノルボルナンや
図7(b)に示すシクロドデカンが含まれる。これらはカルボン酸を有しており、その一部は保護基で置換された置換基(−COOR)となっている。ポリシクロオレフィンは、カルボン酸の一部を保護基で保護した置換基(−COOR)を有するユニットを含んでいる。この場合、Rが保護基であり、酸発生剤から発生した酸により保護基Rが外れるのは他の樹脂系と同様である。ポリシクロオレフィンにおける保護基Rの例としては、
図6に示したCOMAにおける保護基Rと同様な基が挙げられる。
【0018】
樹脂の4つ目の例としては、
図8に示すビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体(vinyl ether−maleic anhydride:VEMA)が挙げられる。
図8はVEMAの基本構造を示している(
図8(a))。エッチング耐性を上げる目的で、VEMAにポリアクリルユニットを導入した3元系として使用してもよい(
図8(b))。
図8に示すVEMAにおいて、R1基及びR2基の部分が保護基となる。酸の存在下で加熱すると、ビニルエーテルの部分は保護基R1が外れてアルコールになる。アクリル酸部分は保護基R2が外れてカルボン酸となる。ビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体部分の他の例を
図9に示す。VEMAは親水性が高く、酸化膜との親和性が良い。エッチング耐性や保存安定性に工夫が必要なのは、COMA系樹脂と同様である。
【0019】
上述したように、フォトレジストの樹脂を構成する各樹脂系は、それぞれ長所及び短所を有するため、使用目的等に応じて適宜に選択して使用することが好ましい。さらに、樹脂系の短所を補うため、複数の樹脂系を組み合わせたハイブリッドポリマーを使用することもできる。例えば、
図10に示すように、ポリアクリル酸系ユニット、ポリシクロオレフィンユニット、無水マレイン酸ユニットを含むようなメタクリル樹脂と、COMA系樹脂と、ポリシクロオレフィン樹脂とのハイブリッド樹脂等の使用も可能である。
【0020】
次に、フォトレジストの酸発生剤について述べる。酸発生剤は露光光を吸収することで酸を発生する成分である。波長300nm以上500nm以下の光(ハロゲンランプや水銀ランプのg線(波長436nm)やi線(波長365nm))では、ナフタレン環を持つことが有効である。KrFエキシマレーザ光(波長248nm)では、ベンゼン環を持つことが有効である。しかし、ナフタレン環やベンゼン環等の芳香環はグラフェンと近接できると、グラフェンとπ−πスタックを起こしてしまう。その例を
図11に示す。
【0021】
図11(a)は波長300〜500nmの光に吸収をもつ酸発生剤の構造の一例を示している。この分子が取り得る一番安定な構造を
図11(b)に示す。
図11(b)において、上側が分子を上から見た図、下側が分子を横から見た図である。
図11(a)の丸で囲った部分はバルキーな基である。
図11に示す酸発生剤においては、
図11(b)に示すように、バルキーな基がナフタレン環の作る面から外れた方向に存在するのが最も安定な状態となる。このように、バルキーな基を含んでいても、その形成位置がナフタレン環の作る面から外れてしまうと、
図11(c)に示すように、ナフタレン環がグラフェンと近接できるため、ナフタレン環とグラフェンとの間でπ−πスタックが形成され得る。
【0022】
そこで、実施形態のフォトレジストに用いる酸発生剤は、ナフタレン環又はベンゼン環を有する物質を用いた上で、ナフタレン環又はベンゼン環の炭素にバルキーな基を結合している。
図12は実施形態のフォトレジストに用いる酸発生剤の第1の例を示しており、
図12(a)は第1の例の酸発生剤の構造式、
図12(b)は第1の例の酸発生剤における芳香環とグラフェンとの関係を示す図である。
図12に示す酸発生剤は、
図11に示す酸発生剤のナフタレン環の炭素原子に、バルキーな基としてt−ブチル基(
図12(a)において丸で囲った部分)を結合した物質である。t−ブチル基は3つのメチル基が結合した炭素原子、すなわち3級炭素原子を有している。
【0023】
図12に示す酸発生剤において、t−ブチル基の3つのメチル基とナフタレン環の炭素が3級炭素を中心に四面体構造をとるため、t−ブチル基はナフタレン環の作る面に対して張り出した形になる。このため、
図12(b)に示すように、ナフタレン環とグラフェンが近接することを妨げることができる。t−ブチル基の結合位置は、ナフタレン環の
図12(a)に示す位置に限定されるものではなく、イミジルスルホン酸基が結合していないナフタレン環の炭素のうちの少なくとも1つの炭素、好ましくは2つの炭素に結合していればよい。なお、t−ブチル基は3級炭素を有する有機基の代表例であり、ナフタレン環又はベンゼン環の炭素に結合させる3級炭素はこれに限定されるものではない。
【0024】
ナフタレン環はsp
2結合をしている。実施形態の酸発生剤は、ナフタレン環が作る面から外れたバルキーな基を有しており、これにより立体障害によりナフタレン環を浮かせて、グラフェンと近接することを防ぐことができる。その結果、ナフタレン環がグラフェンに吸着しないため、グラフェンへの汚染を防ぐことができる。t−ブチル基の3級炭素はsp
3結合であるため、3つのメチル基とナフタレン環の炭素とが四面体構造をとる。このため、ナフタレン環が作る面からt−ブチル基が張り出して、グラフェンとナフタレン環が近接できなくなる。従って、バルキーな基が3級炭素を持っていて、それがナフタレン環と結合していればよく、t−ブチル基に限定されない。例えば、ブチル基の一部が置換されていてもよく、例えばフッ素化されていてもよい。3級炭素にさらにバルキーな基が結合していてもよく、アダマンチル基やノルボルネン基のような脂環基が結合していてもよい。また、ナフタレン環の炭素に、t−ブチル基のような3級炭素を持つ基以外の官能基がさらに結合していてもよい。
【0025】
図12ではt−ブチル基をナフタレン環の2つの炭素に結合し、ナフタレン環とグラフェンとの近接を妨げる構造としたが、これに限られるものではない。ナフタレン環の1つの炭素にt−ブチル基のような3級炭素を持つ基(バルキーな基)を結合させ、ナフタレン環とグラフェンとが平行にならないようにすることによって、ナフタレン環とグラフェンとの近接を妨げることも可能である。このような場合、バルキーな基を有するナフタレン環とグラフェンとの位置は、後述する
図14(c)に示すような配置となる。なお、
図14は3級炭素を持つ基に代えて、2つの炭素が結合した硫黄(S)を有する基をナフタレン環に導入した酸発生剤を示しているが、バルキーな基を有するナフタレン環とグラフェンとの位置関係は同様である。
【0026】
図12では波長300nm以上500nm以下の光を対象としたため、ナフタレン環を持つ酸発生剤を用いて説明したが、KrFエキシマ光を露光光にする場合にはベンゼン環が光吸収には有効である。このため、KrFエキシマ光を露光光として用いる場合、3級炭素を持つ基のようなバルキーな基が結合されたベンゼン環を有する物質が酸発生剤として有効であり、その場合にも同様の効果を得ることができる。そのような酸発生剤の一例を
図13に示す。
図13に示す酸発生剤は、t−ブチル基(
図13において丸で囲った部分)をジフェニルヨードニウムイオンのベンゼン環の炭素に結合させた物質であり、このような場合にも
図12(b)と同様な効果を得ることができる。
図13に示す酸発生剤は、カチオンを有する部分(カチオン部分)とアニオンを有する部分(アニオン部分)とを含み、カチオン部分のジフェニルヨードニウムイオンが上記したt−ブチル基を有している。アニオン部分はPF
6−イオンである。
【0027】
t−ブチル基の結合位置は、ジフェニルヨードニウムイオンのベンゼン環のパラ位に限定されるものではない。ジフェニルヨードニウムイオンにおけるベンゼン環のうちの少なくとも1つの炭素にt−ブチル基が結合していれば、同様の効果が期待できる。立体障害を考慮すると、2つのベンゼン環がそれぞれt−ブチル基を有することが好ましい。3級炭素を持つ基はt−ブチル基に限定されるものではなく、ベンゼン環の少なくとも1つの炭素が3級炭素と結合していれば、同様な効果が期待できるため、ブチル基におけるメチル基の一部が置換されていてもよく、例えばフッ素化されていてもよい。3級炭素にさらにバルキーな基が結合していてもよく、アダマンチル基やノルボルネン基のような脂環基が結合していてもよい。ベンゼン環にt−ブチル基のような3級炭素を持つ基以外の官能基がさらに結合していてもよい。
【0028】
また、ここでは酸発生剤のカチオン部分としてジフェニルヨードニウムイオンを例として説明したが、これに限定されるものではない。例えば、カチオン部分としてトリフェニルスルホニウムイオンを有する酸発生剤においても、ベンゼン環の炭素に3級炭素を有する基を結合することによって、同様の効果を得ることができる。トリフェニルスルホニウムイオンの3個のフェニル基のうち、少なくとも1つのフェニル基のベンゼン環に、好ましくは3個のフェニル基のベンゼン環それぞれに、3級炭素を有する基のようなバルキーな基を結合させることによって、ベンゼン環がグラフェンに接近するのを妨げ、グラフェン表面にベンゼン環がπ−πスタックすることを抑えることができる。
【0029】
上記ではバルキーな基として3級炭素がベンゼン環又はナフタレン環の炭素と結合している例を述べた。しかし、バルキーな基は3級炭素を有する基に限定されず、側鎖を持ち、直鎖状ではないイソプロピル基やイソブチル基、sec−ブチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、3−ペンチル基、イソヘキシル基等の2級炭素がベンゼン環又はナフタレン環の炭素と結合していてもよい。また、アダマンチル基やノルボルネン基のような脂環基と結合した1級炭素が結合していてもよい。また、上記では3級炭素を有する基を複数結合させる例を述べた。しかし、バルキーな基は3級炭素を有する基に限定されず、側鎖を持ち、直鎖状ではないイソプロピル基やイソブチル基、sec−ブチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、3−ペンチル基、イソヘキシル基等も使用可能である。また、アダマンチル基やノルボルネン基のような脂環基でもよい。
【0030】
次に、上記したナフタレン環又はベンゼン環の少なくとも1つの炭素にt−ブチル基のようなバルキーな基を結合した酸発生剤とはタイプが異なる酸発生剤について述べる。
図14はその1例である。この場合、酸発生剤はカチオン部分とアニオン部分とからなる。酸発生剤のカチオン部分はスルホニウムイオンを有し、ナフタレン環にスルホニウムイオンの硫黄(S)が結合している。この2つの炭素が結合した硫黄を含む基がバルキーな基として機能する。このように、ナフタレン環又はベンゼン環の少なくとも1つの炭素に硫黄が結合し、かつ硫黄が2つの炭素と結合している場合においても、ナフタレン環又はベンゼン環の少なくとも1つの炭素に3級炭素が結合した場合と同様に、グラフェン表面にナフタレン環又はベンゼン環がπ−πスタックすることを抑えることができる。
【0031】
図14(a)は硫黄にメチル基が2つ結合している構造を示している。硫黄はイオン(S
+)になっているため、
図14(b)に示すように、ナフタレン環が作る面の外側にメチル基が出る構造が安定である。
図14(b)において、上側は酸発生剤分子を上から見た図、下側は酸発生剤分子を横から見た図である。このように、ナフタレン環が作る面の外側に、硫黄に結合した2つのメチル基が張り出しているため、この場合もやはり、ナフタレン環はグラフェンと近接できず、ナフタレン環とグラフェンとのπ−πスタックは起こりにくくなる。従って、グラフェンへのレジスト残渣がなくなり、グラフェンデバイスの性能劣化を抑制することができる。この場合の概念図を
図14(c)に示す。ナフタレン環の外側に張り出した基がナフタレン環の一方のみに結合することによっても、ナフタレン環とグラフェンが近接できなくなる。
【0032】
上記した酸発生剤においては、カチオン部分がスルホニウムイオンを有し、硫黄と結合し、ナフタレン環とは結合していない2つの部位(炭素を有する基)がナフタレン環の外側に配向するのが安定であるため、グラフェンとナフタレン環との近接を防ぐことができる。このような効果を得る上で、硫黄と結合している炭素は、メチル基の炭素に限定されるものではない。硫黄と結合している基は、メチル基の一部が置換され、例えばフッ素化されていてもよいし、メチル基以外のアルキル基であってもよい。また、ナフタレン環に硫黄を含む基以外の官能基がさらに結合していてもよい。
【0033】
また、上記では2つのメチル基が結合した硫黄を有する基がナフタレン環の置換基となっているが、置換基はこれに限定されない。硫黄と結合している基は、メチル基よりもさらにバルキーな基であってもよい。例えば、エチル基、n−プロピル基、側鎖を持ち、直鎖状ではないイソプロピル基やイソブチル基、sec−ブチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、3−ペンチル基、イソヘキシル基等の2級炭素がベンゼン環又はナフタレン環の炭素と結合していてもよい。アダマンチル基やノルボルネン基のような脂環基と結合した1級炭素が結合していてもよい。また、
図15に示す酸発生剤においては、硫黄と結合している基がメチル基ではなく、t−ブチル基である。
図15(b)は安定な構造を示しており、上側は酸発生剤分子を上から見た図、下側は酸発生剤分子を横から見た図である。この場合もナフタレン環が作る面の外側に対称に2つのt−ブチル基が並ぶことで、
図14(c)のようになり、ナフタレン環とグラフェンが近接できなくなり、π−π結合しにくくなる。従って、グラフェンへのレジスト残渣がなくなり、グラフェンデバイスの性能劣化を抑えることができる。
【0034】
上記した酸発生剤を別の角度で見ると、t−ブチル基のようなバルキーな基(ここでは一例として3級炭素を有する基)がナフタレン環の置換基に複数含まれることによって、ナフタレン環が作る面外にバルキーな基が配向する構造が安定となる。これによって、グラフェンとナフタレン環の近接を妨げていることが分かる。つまり、スルホニウムイオンだけでなく、ナフタレン環の置換基中にt−ブチル基のようなバルキーな基が複数含まれていれば、ナフタレン環とグラフェンの近接を妨げることができる。
【0035】
さらに、バルキーな基としては、
図16に示すように硫黄と結合している炭素が環を巻いている場合も有効である。このように、ナフタレン環に結合した硫黄に2つの炭素が結合し、これらの炭素が環構造を形成している場合おいても、ナフタレン環とグラフェンの近接を妨げることができる。ここでは炭素数4個の環を挙げているが、環構造を形成する炭素数はそれ以上であってもよい。また、上記ではナフタレン環に結合した硫黄に2つの炭素が結合した例を説明したが、ナフタレン環に代えてベンゼン環を有する酸発生剤に同様な構造を適用してもよく、その場合も同様な効果が得られる。
【0036】
上述したように、実施形態のフォトレジストに含有させる酸発生剤は、ナフタレン環又はベンゼン環を有する物質からなり、例えばナフタレン環又はベンゼン環の少なくとも1つの炭素原子と3級炭素原子が結合している、又は側鎖を持つ基の2級炭素原子が結合している、又は環状基と結合した1級炭素原子と結合している構造、又は、ナフタレン環又はベンゼン環を有し、ナフタレン環又はベンゼン環の炭素原子と結合した基中にバルキーな基が複数含まれており、特に3級炭素原子が複数含まれている、又は側鎖を持つ基が複数含まれている、又は環状基が複数含まれている構造、又は、ナフタレン環又はベンゼン環の少なくとも1つの炭素原子が硫黄原子と結合しており、かつ硫黄原子が2つの炭素原子と結合している構造を有するものである。このような分子構造を有する酸発生剤によれば、分子構造中のナフタレン環又はベンゼン環がグラフェンとπ−π結合することを抑制することができる。従って、そのような酸発生剤を含有し、かつ前述した芳香環を有さない樹脂を含有するフォトレジストを用いることによって、パターニング工程後のグラフェンへのレジスト残渣の発生が防止され、グラフェンデバイスの性能劣化を抑制することができる。
【0037】
実施形態のフォトレジストにおける酸発生剤がカチオン部分とアニオン部分を有する場合、カチオン部分がナフタレン環又はベンゼン環を有している。アニオン部分としては、SbF
6−やPF
6−を挙げたが、これらに限定されるものではない。アニオン部分には、CF
3SO
3−、C
4F
8SO
3−、C
8F
17SO
3−等を適用することも可能である。これらは光照射後に発生する酸の強さを調整する等、レジスト特性を調整する目的で選択されるものであり、各種公知のアニオンイオンを適用することができる。
【0038】
実施形態のフォトレジストは、基本的には上記した樹脂と酸発生剤とを、溶媒に溶解することにより作製される。溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、γ−ブチルラクトン、2−へプタノン、乳酸エチル等が使用される。これらは樹脂と酸発生剤を溶解させるだけでなく、所望の塗布特性を得るために選択される。これらの混合比に関しては、例えば樹脂を溶媒に対して1〜40質量%の範囲で溶解し、酸発生剤を樹脂成分に対して数%、おおむね5%以下で溶解する。このような量比で作製したフォトレジストによれば、良好なレジスト特性及び塗布性を得ることができる。
【0039】
実施形態のフォトレジストは、上述した樹脂と酸発生剤との組み合わせに基づいて、波長300nm以上500nm以下の光(水銀ランプ光源のg線(波長436nm)やi線(波長365nm))、又は波長248nmのKrFエキシマレーザ光による露光を可能にした上で、グラフェンの汚染を防止したものである。これによって、高性能のグラフェンデバイスを低コストでかつ効率よく作製することができる。なお、波長193nmのArFエキシマレーザ光を使って露光するArFレジストも、露光光の吸収を抑えるため、樹脂には芳香環を含まない脂環式樹脂等が用いられる。しかし、ArFレジストは波長300nm以上500nm以下の光に感度を持たない。これは酸発生剤が吸収を持たず、酸を発生しないためである。従って、実施形態のフォトレジストとは異なるものである。
【0040】
(第2の実施形態/グラフェンデバイスの製造方法)
次に、実施形態のグラフェンデバイスの製造方法について、
図17を参照して説明する。
図17は、グラフェンデバイスの製造方法の一例として、第1の実施形態のフォトレジストを使用したグラフェン電界効果型トランジスタ(GFET)の製造工程を示している。グラフェンFET(GFET)は、例えば高感度のガスセンサとして使用される。なお、GFETはグラフェンデバイスの一例であり、これに限定されるものではない。
【0041】
図17(A)に示すように、表面側に熱Si酸化膜を有し、裏面側にバックゲート電極を有するSi基板11上に、一対の電極12a、12bを有する電極パターン12を複数形成する。次に、
図17(B)に示すように、複数の電極パターン12における一対の電極12a、12b間をグラフェンで覆うように、Si基板11上にグラフェン13を転写する。
図17(C)に示すグラフェン13のトリミング(パターニング)に、第1の実施形態のフォトレジストを使用する。
【0042】
すなわち、通常の化学増幅型レジストプロセスと同様に、第1の実施形態のフォトレジストを基板11上に塗布し、これを所望の温度でベーク(ソフトベーク)する。ベークしたフォトレジスト膜を、フォトマスクを介して波長300nm以上500nm以下の光(水銀ランプ光源のg線(波長436nm)やi線(波長365nm))、又は波長248nmのKrFエキシマレーザ光で露光する。露光後、所望の温度でベークを行い(ポストエクスポージャーベーク)、酸発生剤から酸を発生される。発生した酸により所望領域のフォトレジストが可溶になる。その後、フォトレジスト膜を、例えばテトラメチルアンモニウム水溶液(TMAH水溶液)を用いて現像し、レジストパターンを形成する。次いで、レジストパターンをマスクとして、例えばO
2プラズマでグラフェン13をエッチングし、グラフェン13の不要部分を除去する。
【0043】
この後、例えばN,N−ジメチルアセトアミドやN−メチルピロリジノン(NMP)を用いてレジストパターン(フォトレジスト膜)を剥離することによって、
図17(C)に示すようなパターニングされたグラフェン13Xを形成する。このようにして、パターニングされたグラフェン13XをチャネルとするGFETを作製する。電極12aがソース、電極12bがドレインである。上記したレジストパターンの剥離工程において、実施形態のフォトレジストはグラフェンとのπ−πスタックが抑えられているため、レジストパターンの剥離後の残渣の発生を防ぐことができる。従って、レジスト残渣によるGFETの性能低下等が抑制されるため、高性能のGFETを低コストでかつ効率よく作製することができる。
【0044】
上記した実施形態においては、レジストパターンをグラフェンのエッチングマスクとして使用した例であるが、これ以外にも実施形態のフォトレジストは有効に利用することができる。例えば、加工対象がグラフェンではないが、グラフェン上にパターンを形成し、それを鋳型にパターン形成する場合においても、実施形態のフォトレジストを用いることによって、グラフェンの汚染を低減することができる。
【0045】
例えば、上記した実施形態と類似のパターンを形成するにあたって、最初にグラフェンをSi酸化膜基板上に転写した後、電極パターンを形成する場合もある。すなわち、Si酸化膜基板上にグラフェンを転写した後、現像液に可溶の下地膜と実施形態のフォトレジストを形成する。実施形態のフォトレジストを塗布後に加熱し、露光、及び露光後に加熱、現像すると、レジストパターンの形成後に、下地膜が現像液により溶解する。下地膜がフォトレジストよりも後退する現像条件を用いると、フォトレジストがひさし状になる。その上に電極金属(例えば、NiとAu)を真空蒸着する。この後、下層膜とフォトレジストをNMP等の剥離液で金属ごと除去するリフトオフを行って、電極パターンを形成する。現像中にグラフェンとフォトレジストとが接触しても、実施形態のフォトレジストでは、π−πスタックをするほど接近しないため、グラフェンの汚染を起こらないようにすることができる。
【0046】
上記した実施形態においては、ガスセンサに用いられるGFETを作製するために、実施形態のフォトレジストを用いた例について述べたが、実施形態の製造方法を適用して作製されるグラフェンデバイスはこれに限定されるものではない。ガスセンサであれば、各種の構造に適用することができ、その際のグラフェンのトリミングに実施形態のフォトレジストを使用することができる。例えば、グラフェンセンサとしては、GFETのチャネル部のグラフェンにガス分子を吸着させるセンサや、チャネル部のグラフェン上にガス分子を捕捉する有機物質を、ピレン環を介してグラフェンとπ−π結合させて設置するセンサの作製にも、実施形態のフォトレジストは有効である。
【0047】
前者では例えば、テトラフルオロハイドロキノン、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン、ポリエチレンイミン等の電子供与体や電子受容体となる物質、Pt、Pd、Al等の金属パーティクルを吸着させる。また、後者ではセンシング物質と反応する基を有するピレン誘導体を用いて、ピレン誘導体のピレン部分をグラフェンとπ−π結合させてグラフェン表面にセンシングプローブを設置する。
【0048】
また、ガスセンサだけでなく、チャネル部にプールを用意し、溶液中でセンシングを行う液相センサ、例えばDNAセンサやタンパク質センサ等においても、センシングプローブをグラフェン表面に形成することが行われている。これらによって、センサの感度が向上したり、センシングプローブによりセンシング物質を選択的に識別できるようになる。また、センシング物質も後述するNH
3やNO
2に限定されるものではなく、CO
2や水素といった工業上検出が必要なガスや、サリン、タブン、ソマンといった有機リン酸系の有害ガス、ガンの呼気診断に用いられる特異物質、液相系であればウィルス、例えば人感染型インフルエンザウィルス等の検出にも有効である。いずれにおいても、汚染による性能低下が少ないグラフェンをチャネルとして用いることができるため、性能に優れるグラフェンFETセンサを作製することができる。
【0049】
さらに、光通信用のデバイスとしての光振動数ミキサー、光通信用モジュレータ、光検知器、発振器等においても、グラフェンデバイスが用いられている。このようなグラフェンデバイスにおいても、グラフェン形状を形成するために、実施形態のフォトレジストを使用することができる。また、電子デバイスについても、本発明のレジストは有効であり、オンオフ電流値比が10
5取れるスイッチング素子といったものにも適用可能である。これら以外にも、グラフェンの形状をパターニングする工程等を有するグラフェンデバイスの製造工程に、実施形態のフォトレジストは有効である。
【実施例1】
【0050】
次に、具体的な実施例及びその評価結果について述べる。
【0051】
(実施例1、比較例1)
まず、n型高ドープSi基板に厚さ285nmの熱Si酸化膜を形成する。裏面の酸化膜を剥離し、金属膜、ここでは厚さ20nmのTiと厚さ100nmのAgを蒸着してバックゲート電極とする。次いで、Si酸化膜上にi線レジストを用いて電極パターンとなるレジストパターンを形成する。これを鋳型として、電極金属を真空蒸着する。ここでは厚さ10nmのNiをSi酸化膜上に堆積した後、厚さ20nmのAuを蒸着する。これをN−メチルピロリジノン(NMP)をベースとした剥離液に浸漬することで、レジストごと不要の金属をリフトオフし、
図17(A)のような電極パターンを形成する。
【0052】
次に、グラフェンを転写する。グラフェンはCu箔上にCVD法により作製したものを使用する。グラフェン表面にポリメチルメタクリレート(PMMA)を塗布し、表面を保護する。Cu箔裏面に粗グラフェンができているため、O
2プラズマで粗グラフェンを除去する。この後、Cu剥離液にグラフェン付Cu箔を浸漬し、Cuを溶かす。ここではペルオキソ二硫酸アンモニウムを用いる。グラフェンを、電極まで作製したSi基板で掬い取り、
図17(B)に示すようにグラフェンを基板上に転写する。
【0053】
グラフェンのトリミングに実施形態のフォトレジストを使用する。実施例1では、
図2(b)の保護基を持つメタクリル樹脂と
図14(a)に示す酸発生剤とを用いる。溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート60%とプロピレングリコールモノメチルエーテル40%を含む混合溶媒を用いて、メタクリル樹脂はレジスト中に10質量%、酸発生剤は樹脂に対して1重量%となるよう調整する。通常のレジストプロセスと同様に、レジストを基板上に回転塗布し、130℃で90秒ベークする。これを水銀ハロゲンランプで露光する。露光後、130℃で90秒ベークする。マスクはCrマスクを使用する。これをテトラメチルアンモニウム水溶液(TMAH)で現像してパターニングする。上記のレジストパターンをマスクにO
2プラズマでグラフェンをエッチングする。この後、NMPによりレジストを剥離し、
図17(C)に示すようなグラフェンFETパターンを得る。
【0054】
図18(a)は実施例1で作製したグラフェンFETのI−V特性(ドレイン電圧一定のもとでゲート電圧Vgを変化させたときのドレイン電流Idの変化特性)を示す。
図18(b)は比較例1として市販のi線ノボラックレジストを用いる以外は、実施例1と同様にして作製したグラフェンFETのI−V特性である。グラフェンはホールと電子がキャリアとなるため、両極性を示し、I−V特性ではIdが最小になるポイント、すなわちディラックポイントが現れる。本来は、Vgが0Vで中性となる。
【0055】
図18(b)に示すように、比較例1のグラフェンFETでは、ディラックポイントがVg40Vまでにはっきり観察されていない。これに対して、
図18(a)に示すように、実施例1のグラフェンFETでは、ほぼ0V付近にディラックポイントが観察される。また、I−V特性の傾きは移動度と比例するが、実施例1のグラフェンFETの方が比較例1に比べて傾きが大きく、移動度が大きいことが分かる。
【0056】
このようにして作製したグラフェンFETをガスセンサとして使用する場合には、ガス導入により電荷移動が起こり、
図18に示したI−V特性がガス種に応じて左右に移動する。NO
2の場合には右に、NH
3の場合には左に移動する。この際、I−V特性の傾きが大きいと、左右への移動量は同じでもId変化量は大きくなる。このため、感度が向上する。すなわち、実施形態フォトレジストを用いてグラフェンFETを作製することによって、センサとしての感度向上を図ることができる。
【0057】
(実施例2)
図5(a)のCOMA系樹脂で置換基Rがt−ブチル基である樹脂と、
図15(a)に示した酸発生剤とを、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート60%、プロピレングリコールモノメチルエーテル40%の溶媒に溶解させる。樹脂は溶媒に対して30質量%、酸発生剤は樹脂に対して1重量%となるように調整する。このフォトレジストを用いて、実施例1と同様してグラフェンFETを作製する。この場合、レジストはソフトベークとポストエクスポージャーベークと共に90℃で90秒ベークする。作製したグラフェンFETにI−V特性を測定したところ、
図18(a)と同様に、ほぼ0Vにディラックポイントが観察される。さらに、I−V特性の傾きは
図18(b)よりも大きく、移動度が大きいことが確認される。
【0058】
(実施例3)
図10に示すハイブリッド樹脂と、
図12(a)に示す酸発生剤とを、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート60%、プロピレングリコールモノメチルエーテル30%、γ−ブチルラクトン10%の溶媒に溶解させる。樹脂は溶媒に対して20重量%、酸発生剤は樹脂に対して1重量%となるように調整する。このフォトレジストを用いて、実施例1と同様してグラフェンFETを作製する。この場合、レジストはソフトベークとポストエクスポージャーベークと共に110℃で90秒ベークする。作製したグラフェンFETにI−V特性を測定したところ、
図18(a)と同様に、ほぼ0Vにディラックポイントが観察される。さらに、I−V特性の傾きは
図18(b)よりも大きく、移動度が大きいことが確認される。
【0059】
(実施例4、比較例2)
実施例4及び比較例2において、酸発生剤の影響について述べる。
図11(c)に示したようにナフタレン環がグラフェンに近接できる酸発生剤の入ったフォトレジストと、
図14(c)に示したようにナフタレン環がグラフェンに近接できない酸発生剤の入ったレジストとを使用して、グラフェンFETを作製し、グラフェンFETのI−V特性とI−V特性から求めたグラフェンの移動度を比較する。グラフェンFETの作製方法は、基板上へグラフェンを転写する工程までは実施例1と同様である。グラフェンのトリミング工程で使用するレジストは、実施例1とは異なる。この例で使用するレジストを以下に示す。
【0060】
樹脂としては、
図2(b)に示す保護基を持ち、
図4(a)に示すラクトンを有するメタクリル樹脂を使用する。保護基がメタクリル樹脂の20モル%、ラクトンが5モル%になるよう共重合させる。プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート60%、プロピレングリコールモノメチルエーテル40%を含む溶媒を用いる。酸発生剤は樹脂に対して1質量%添加する。
【0061】
酸発生剤は2種類用意する。比較例2の酸発生剤として、ナフタレン環がグラフェンに近接できる酸発生剤(みどり化学社製、NAI−105)を用意し、実施例4の酸発生剤として、ナフタレン環がグラフェンに近接できない酸発生剤(みどり化学社製、NDS−105)を用意する。NAI−105は
図11(a)のメチル基の水素がFに置換されたものであり、その構造を
図19(a)に示す。
図19(b)はその安定構造である。
図19(b)において、上側が分子を上から見た図、下側が分子を横から見た図である。
図11(a)に示す酸発生剤と同様に、
図19(a)の丸で囲った部分がバルキーな基であっても、N−Oの結合部分で回転可能であるため、酸発生剤のナフタレン環はグラフェンに近接できる。NDS−105は
図14に示した酸発生剤とカチオンが同一で、アニオンがCF
3SO
3−である。カチオンはメチル基がナフタレン環の作る面から張り出す構造を有するため、グラフェンに近接しにくい構造となっている。
【0062】
上記した酸発生剤が異なる2種類のフォトレジストを用いてグラフェンFETを作製する。フォトレジストを用いたグラフェンFETの作製工程は、実施例1と同様である。これらグラフェンFETのI−V特性を測定する。測定結果を
図20に示す。
図20(a)はNDS−105を使用したグラフェンFET(実施例4)のI−V特性、
図20(b)はNAI−105を使用したグラフェンFET(比較例2)のI−V特性である。NDS−105を使用した実施例4の方が、傾きが大きい。傾きはグラフェンの移動度に対応しており、傾きが大きいほど、移動度が高く、レジストプロセスによるグラフェンの劣化が抑えられていると考えられる。
【0063】
I−V特性の傾きから計算した実効移動度を
図21に示す。
図21(a)はNDS−105を使用した実施例4の実効移動度、
図20(b)はNAI−105を使用した比較例2の実効移動度である。実行移動度は下記の式により計算する。
【数1】
式(1)において、Lはチャネル長、Wはチャネル幅、V
dはドレイン電圧、I
dはドレイン電流、V
gはゲート電圧、C
ox=ε
0・ε
s×1/t(ε
0:真空の誘電率、ε
s:SiO
2の比誘電率、t:膜厚)である。
【0064】
実効移動度の最大値は、NDS−105を使用した実施例4の方がNAI−105を使用した比較例2より大きいことが分かる。このことから、ナフタレン環がグラフェンに近接しにくい構造を持つNDS−105を含むフォトレジストを用いる方が、グラフェンの劣化を抑えられることが分かる。なお、I−V特性が実施例1〜3と異なるのは、使用したグラフェンが異なるためである。実施例1〜3では内製品のCVDグラフェンを用いたが、実施例4ではグラフェニア製のCVDグラフェンを使用している。
【0065】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。