特許第6971906号(P6971906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971906
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】飛しょう体
(51)【国際特許分類】
   F42B 15/34 20060101AFI20211111BHJP
   F42B 10/46 20060101ALI20211111BHJP
   B64C 1/36 20060101ALI20211111BHJP
   G01S 7/03 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   F42B15/34
   F42B10/46
   B64C1/36
   G01S7/03 246
   G01S7/03 234
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-72932(P2018-72932)
(22)【出願日】2018年4月5日
(65)【公開番号】特開2019-184105(P2019-184105A)
(43)【公開日】2019年10月24日
【審査請求日】2020年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】川津 翔
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−213899(JP,A)
【文献】 実開平05−071699(JP,U)
【文献】 米国特許第04520364(US,A)
【文献】 特開2012−172868(JP,A)
【文献】 特開2003−021500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F42B 15/34
F42B 10/46
B64C 1/36
G01S 7/03
H01Q 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体と、
前記機体の先端部に接合されるレドーム本体と、
前記機体と前記レドーム本体との接合部であって、前記機体の内側に固定されるアンテナと、
前記接合部に設けられ、一端が前記レドーム本体の後端部に固定され、他端が前記機体の先端部に接合されるリングと、
前記リングと前記機体との間に設けられ、融点の異なる材料が2層以上積層されるスペーサと
を備えることを特徴とする飛しょう体。
【請求項2】
前記スペーサは、前記リングに接する第1の層と、前記機体に接する第3の層と、前記第1の層と前記第3の層の間にある第2の層と、を有し、
前記第1の層の熱伝導率、前記第2の層の熱伝導率、および前記第3の層の熱伝導率は、前記機体の熱伝導率よりも低く、
前記第1の層の融点より前記第2の層の融点が高く、前記第2の層の融点より前記第3の層の融点が高い
ことを特徴とする請求項1に記載の飛しょう体。
【請求項3】
前記機体の先端部は、第1の円筒部と、前記第1の円筒部の先端側に配設され、前記第1の円筒部より小さな外径を有する第2の円筒部と、が連接された形状を有し、
前記第2の円筒部の内側に前記アンテナが固定され、
前記第2の円筒部の外側に、前記スペーサが設けられ、前記スペーサの上に前記リングが設けられる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の飛しょう体。
【請求項4】
前記スペーサの各層の材料は、樹脂または合金である
ことを特徴とする請求項1に記載の飛しょう体。
【請求項5】
前記レドーム本体の後端部、前記リング、および前記機体を覆う断熱材を更に備える
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の飛しょう体。
【請求項6】
前記スペーサの各層のそれぞれは、前記飛しょう体を携行する母機の飛しょう時の空力加熱によっては融解せずに、前記飛しょう体の自由飛しょう時の空力加熱によっては融解する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の飛しょう体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛しょう体用アンテナを保護する飛しょう体用レドームに関する。
【背景技術】
【0002】
目標に向けて電波誘導によって飛しょうする飛しょう体の先端部には、飛しょう体用アンテナを保護する飛しょう体用レドームが設けられる。飛しょう体用レドームは、レドーム本体と、レドーム本体に固定されるリングとを備える。レドーム本体は、リングを介して飛しょう体の機体に固定される。
【0003】
飛しょう体は、飛しょう開始から数秒間という短い時間で超音速または極超音速などに達するものが多い。このため、空力加熱から飛しょう体内部の各構成物品を保護する必要がある。たとえば、特許文献1に記載の技術では、飛しょう体において、レドーム本体と、リングと、レドーム本体とリングとの接合部外周に所定の空間を設けるガイドとを備え、空力加熱により生じた熱が、リングとレドーム接合部に流入することを防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−71699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の技術では、空力加熱の発生によるアンテナへの熱流入量を低減させることについては考慮されていない。特許文献1に記載の技術では、空力加熱で生じた熱は、レドーム本体からリングを介して機体へ伝わる。飛しょう体内部の各構成物品の高密度実装化を考慮した飛しょう体では、機体とアンテナとは熱的に接続されるため、機体へ伝わった熱はアンテナへ伝わる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、空力加熱の発生によるアンテナへの熱流入量を低減させることができる飛しょう体用レドームを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる飛しょう体は、機体と、機体の先端部に接合されるレドーム本体と、機体とレドーム本体との接合部であって、機体の内側に固定されるアンテナと、接合部に設けられ、一端がレドーム本体の後端部に固定され、他端が機体の先端部に接合されるリングと、リングと機体との間に設けられ、融点の異なる材料が2層以上積層されるスペーサとを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、空力加熱の発生によるアンテナへの熱流入量を低減させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態にかかる飛しょう体用レドームを備える飛しょう体の先端部の断面図
図2図1に示すX部の拡大断面図
図3図1に示す飛しょう体のレドームがスペーサを備えていない場合の運用状態を説明するための図
図4図1に示す飛しょう体のレドームがスペーサを備える場合の運用状態を説明するための図
図5図1に示す飛しょう体の飛しょう時間とアンテナの温度との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態にかかる飛しょう体用レドームを図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態.
図1は、本発明の実施の形態にかかる飛しょう体用レドームを備える飛しょう体の先端部の断面図である。図2は、図1に示すX部の拡大断面図である。
【0012】
図1および図2に示す、飛しょう体1は、目標に向けて電波誘導によって飛しょうする。飛しょう体1は、機体2と、飛しょう体用アンテナ3と、飛しょう体用レドーム4と、断熱材5とを備える。飛しょう体用レドーム4は、レドーム本体6と、リング7と、スペーサ8とを備える。なお、以下の説明において飛しょう体用アンテナ3を単にアンテナ3という。また、以下の説明において飛しょう体用レドーム4を単にレドーム4という。
【0013】
機体2の先端部は、第1の円筒2aの先端に、第1の円筒2aの外径よりも小さな外径の第2の円筒2bが連接された形状である。レドーム4は、第1の円筒2aの上面2aa、および第2の円筒2bの側面2baに接合される。以下では、当該接合がされる部分を接合部Yという。機体2は、鉄またはアルミニウムといった熱膨張係数が10×10−6/℃〜30×10−6/℃程度の材料を用いて形成される。アンテナ3は、目標を検知する。アンテナ3は、機体2の先端部に設けられる。具体的には、アンテナ3は、機体2の第2の円筒2bの内側に設けられる。アンテナ3の耐熱温度は、たとえば150℃である。レドーム4は、アンテナ3を保護する。
【0014】
レドーム本体6は、外殻の先端部が尖った流線型をなし、外殻の外径が先端部から後端部に向かって滑らかに拡がり、後端部が開口して中空となっている。レドーム本体6は、アンテナ3が送受信する電波を透過させる必要があるため、誘電体材料を用いて形成される。誘電体材料としては、アルミナ(Al)、コージライト(2MgO・2AlO・5SiO)、ヒューズドシリカ(SiO)またはシリコンナイトライド(Si)焼結体といったセラミックス、または繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plasticsとも称される)などが挙げられる。本実施の形態では、レドーム本体6は、耐熱性および耐熱衝撃性に優れた熱膨張係数が5×10−6/℃以下のセラミックスを用いて形成される。レドーム本体6は、リング7およびスペーサ8を介して機体2に接合して、機体2に固定される。
【0015】
リング7は、接着剤9によりレドーム本体6の後端部に固定される。リング7は、レドーム本体6の後端部が後方に延長される形状となるようにレドーム本体6の後端部に固定される。リング7は、接合部Yに設けられる。リング7は、一端がレドーム本体6の後端部に固定され、他端が機体2の第1の円筒2aの上面2aaに接合される。リング7は、高剛性で熱膨張が比較的低い熱膨張係数が4×10−6/℃〜10×10−6/℃程度のFRP、または熱膨張係数が1×10−6/℃〜5×10−6/℃程度の低熱膨張金属であるインバーを用いて形成される。
【0016】
スペーサ8は、接合部Yに設けられる。スペーサ8は、機体2とリング7との間に設けられる。具体的には、スペーサ8は、リング7と、機体2の第2の円筒2bの側面2baとの間に設けられる。スペーサ8は、機体2の熱伝導率よりも低い熱伝導率の材料であって、融点の異なる材料が2層以上積層されて形成される。スペーサ8の各層の材料は、樹脂または合金である。本実施の形態では、スペーサ8は、それぞれ融点の異なる樹脂または合金の層である、第1の層8aと、第2の層8bと、第3の層8cとを備える。スペーサ8の各層の積層方向と同じ方向に、機体2、スペーサ8、リング7およびレドーム本体6は重ねられる。スペーサ8を形成する樹脂としては、融点が100℃程度のアクリル、および融点が150℃程度のポリカーボネートなどが挙げられる。スペーサ8を形成する合金としては、すず合金の中で融点が250℃程度のすず合金、および亜鉛合金の中で融点が200℃から300℃の亜鉛合金などが挙げられる。スペーサ8は、上述した樹脂の層と上述した合金の層とが積層されて形成されたものであってもよい。
【0017】
スペーサ8は、飛しょう体1を携行する母機の飛しょう時の空力加熱によっては融解せずに、飛しょう体1の自由飛しょう時の空力加熱によっては融解することが好ましい。たとえば、飛しょう体1を携行する母機の飛しょう時の空力加熱によってスペーサ8が100℃まで温度が上昇し、飛しょう体1の自由飛しょう時の空力加熱によってスペーサ8が150℃まで温度が上昇するものと仮定する。この場合には、上述したスペーサの材料のうち融点が100℃程度であるアクリルを用いずにスペーサ8を形成することで、母機の飛しょう時にスペーサ8が融解することを防ぐことができる。
【0018】
断熱材5は、レドーム本体6の後端部、リング7および機体2を覆う。断熱材5は、飛しょう体1の内部の温度上昇を防ぐ。
【0019】
図3は、図1に示す飛しょう体のレドームがスペーサを備えていない場合の運用状態を説明するための図である。図4は、図1に示す飛しょう体のレドームがスペーサを備える場合の運用状態を説明するための図である。
【0020】
飛しょう体1の飛しょう時にはレドーム本体6および断熱材5の外周に空力加熱Aが発生する。レドーム4がスペーサ8を備えていない場合、図3に示すように、空力加熱Aで生じた熱Bは、リング7および機体2を介して熱伝導により、アンテナ3へ伝わり、アンテナ3の温度が上昇し、アンテナ3の温度が耐熱温度を超える可能性がある。また、機体2に伝わった熱Bにより、機体2が熱膨張すると熱応力Cが発生し、リング7およびレドーム本体6が押し上げられ、セラミックスといった脆性材料を用いて形成されるレドーム本体6の破壊の可能性がある。
【0021】
本実施の形態では、レドーム4がスペーサ8を備えるため、図4に示すように、空力加熱Aで生じた熱Dは、リング7、スペーサ8および機体2を介して熱伝導により、アンテナ3へ伝わるが、スペーサ8の熱伝導率は機体2の熱伝導率よりも低く、またスペーサ8に伝わった熱Dによりスペーサ8が溶けるため、融解時の潜熱Eにより、アンテナ3へ流入する熱Dの熱量が減少し、アンテナ3の温度上昇が抑制される。また、スペーサ8に伝わった熱Dによりスペーサ8の融点の異なる層8a,8b,8cが段階的に溶け、スペーサ8が薄くなることにより、機体2が熱膨張することでレドーム本体6に発生する熱応力Fが緩和される。なお、スペーサ8が1層のみであると、融点を超えた際にスペーサ8が一度に溶け、リング7と機体2との間に隙間ができてしまう可能性がある。このため、本実施の形態では、スペーサ8を、異なる融点を持つ材料を2層以上積層して形成している。
【0022】
図5は、図1に示す飛しょう体の飛しょう時間とアンテナの温度との関係を示すグラフである。図5では、レドーム4がスペーサ8を備えない場合が一点鎖線Gで示され、レドーム4がスペーサ8を備える場合が実線Hで示されている。温度Taは飛しょう体1を携行する母機の飛しょう時の空力加熱によって到達するアンテナ3の最高温度である。温度T1はスペーサ8の第1の層8aの融点であり、温度T2はスペーサ8の第2の層8bの融点であり、温度T3はスペーサ8の第3の層8cの融点である。温度Tbはアンテナ3の耐熱温度である。
【0023】
図5の一点鎖線Gに示すように、超音速または極超音速などで飛しょうする飛しょう体1では、飛しょう時の空力加熱Aにより、レドーム本体6からリング7および機体2を経由してアンテナ3へと熱が伝わっていき、飛しょう体1の各構成部品の熱容量の影響を受けるものの、一般的に、飛しょう時間の増加に伴いアンテナ3の温度は増加し続ける。
【0024】
図5の実線Hに示すように、本実施の形態にかかるレドーム4はスペーサ8を備えているため、スペーサ8の融点の異なる層8a,8b,8cの融解時の潜熱Eにより、樹脂または合金が溶けている間はアンテナ3の温度上昇が抑制される。これにより、レドーム4がスペーサ8を備えない場合と比較して、飛しょう体1が高速および長射程化した際にもアンテナ3の温度が耐熱温度Tbを超えにくくすることができる。
【0025】
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略および変更することも可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 飛しょう体、2 機体、2a 第1の円筒、2aa 上面、2b 第2の円筒、2ba 側面、3 飛しょう体用アンテナ、4 飛しょう体用レドーム、5 断熱材、6 レドーム本体、7 リング、8 スペーサ、8a 第1の層、8b 第2の層、8c 第3の層、9 接着剤、Y 接合部。
図1
図2
図3
図4
図5