(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971978
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】パルスポンピングを有するシングルパスレーザー増幅器
(51)【国際特許分類】
G02F 1/355 20060101AFI20211111BHJP
H01S 3/10 20060101ALI20211111BHJP
H01S 3/094 20060101ALI20211111BHJP
H01S 3/16 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
G02F1/355 501
H01S3/10 D
H01S3/10 Z
H01S3/094
H01S3/16
【請求項の数】23
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-517565(P2018-517565)
(86)(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公表番号】特表2018-530002(P2018-530002A)
(43)【公表日】2018年10月11日
(86)【国際出願番号】US2016054747
(87)【国際公開番号】WO2017062275
(87)【国際公開日】20170413
【審査請求日】2019年9月20日
(31)【優先権主張番号】62/395,668
(32)【優先日】2016年9月16日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/237,821
(32)【優先日】2015年10月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501012517
【氏名又は名称】アイピージー フォトニクス コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】セルゲイ・ヴァシリエフ
(72)【発明者】
【氏名】イゴール・モスカレフ
(72)【発明者】
【氏名】ミハエル・ミロフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレンティン・ガポンツェフ
【審査官】
林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】
特表2015−519757(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0225383(US,A1)
【文献】
特表2014−504380(JP,A)
【文献】
特表2013−520804(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第101055968(CN,A)
【文献】
国際公開第2014/177724(WO,A1)
【文献】
Holtom, G. R., et al.,"High-repetition-rate femtosecond optical parametric oscillator-amplifier system near 3 um",Journal of Optical Society of America B,1995年09月,Vol. 12, No. 9,pp. 1723-1731
【文献】
VASILYEV, S., et al.,"Kerr-lens mode-locked femtosecond polycrystalline Cr2+:ZnS and Cr2+:ZnSe lasers",OPTICS EXPRESS,2014年02月26日,Vol. 22, No. 5,pp.5118-5123
【文献】
DURAND, M., et al.,"Study of filamentation threshold in zinc selenide",OPTICS EXPRESS,2014年03月05日,Vol. 22, No. 5,pp.5852-5858
【文献】
YANG, W., et al.,"High power all fiber mid-IR supercontinuum generation in a ZBLAN fiber pumped by a 2 um MOPA system",Optics letters,Vol. 21, No. 17,2013年08月14日,pp.193610- 1-11
【文献】
SILVA, F. et al.,"Multi-octave supercontinuum generation from mid-infrared filamentation in a bulk crystal",Nature Communications,2012年05月01日,Vol. 3.807,pp. 1-5
【文献】
CHIN, S.L., et al.,"Filamentation and supercontinuum generation during the propagation of powerful ultrashort laser pulses in optical media (white light laser)",Journal of nonlinear optical physics & materials,1999年03月,Vol. 8, No. 1,pp.121-146
【文献】
JUKNA, V., et al.,"Infrared extension of femtosecond supercontinuum generated by filamentation in solid-state media",Applied Physics B,2013年11月24日,Vol. B. 116, No. 2,pp.477-483
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00−1/125
G02F 1/21−1/39
H01S 3/00−3/30
IEEE Xplore
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペクトルが広げられたレーザー出力を有する短パルスでシングルパスの増幅器に基づいたレーザーシステムであって、
超高速中赤外シードパルスの列を出力するシードレーザーと、
前記超高速中赤外シードパルスを受けるシングルパスのレーザー増幅器であって、前記超高速中赤外シードパルスの各々が前記レーザー増幅器の出力においてスペクトルが広げられたスペクトルを有している、レーザー増幅器とを備え、
前記レーザー増幅器が、少なくとも一つのシードパルスのエネルギーを受けて増幅するように構成され、
前記レーザー増幅器が、自己集束用の臨界パワーを有し、遷移金属ドープII‐VI族半導体の多結晶物質を備える非線形光学媒体を備え、
前記非線形光学媒体に対して前記自己集束用の臨界パワーを超えて前記シングルパスのレーザー増幅器において照射が行われる、レーザーシステム。
【請求項2】
レーザー利得特性を提供するように構成された前記非線形光学媒体に結合されたポンプビームを出力するポンプレーザーをさらに備え、前記ポンプレーザーは連続波方式またはパルス方式で動作する、請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項3】
前記シードレーザーと前記レーザー増幅器との間に配置されているパルスピッカーを更に備え、
前記ポンプレーザーが、ポンプパルスの列を含むパルスポンプビームを出力し、
前記パルスピッカーが、前記ポンプパルスの対応する一つと同期される少なくとも一つの中赤外シードパルスを選択するように構成されている、請求項2に記載のレーザーシステム。
【請求項4】
前記レーザー増幅器のレーザー利得が増幅されたパルスパワーを与え、前記増幅されたパルスパワーが前記非線形光学媒体の自己集束用の臨界パワーを超える、請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項5】
放出された少なくとも一つのシードレーザーパルスが、前記非線形光学媒体の自己集束用の臨界パワーを超えるピークパワーを有する、請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項6】
前記レーザー出力の周波数スペクトルが1オクターブを超える、請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項7】
前記レーザー出力の波長スペクトル範囲が1.8マイクロメートルから4.5マイクロメートルまでである、請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項8】
前記シングルパスのレーザー増幅器の光学ポンピングと同時に前記非線形光学媒体のシーディングを行うようにパルスフェムト秒出力を放出するマスター発振器を更に備える請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項9】
前記非線形光学媒体においてポンプパルスとシードレーザーの放射を重ね合わせて集束させるための光学系を更に備える請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項10】
残余ポンプパルスからスペクトルが広げられた出力パルスを分離するための光学系を更に備える請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項11】
少なくとも一つのシードパルスのピークパワーが、前記非線形光学媒体の自己集束用の臨界パワー(PC)を超える、請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項12】
前記非線形光学媒体における前記マスター発振器からのシードパルスの非線形相互作用が、パルス出力のスペクトル拡大をもたらす、請求項8に記載のレーザーシステム。
【請求項13】
前記非線形光学媒体が、Cr:ZnS、Cr:ZnSe、Cr:CdS、Fe:ZnSe、及びFe:ZnSから成る群から選択されている、請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項14】
前記マスター発振器が、Erドープファイバーレーザー、Tmドープファイバーレーザー、及び遷移金属ドープII‐V族半導体バルク媒体レーザーから成る群から選択されている、請求項8に記載のレーザーシステム。
【請求項15】
ポンプレーザーが、ミリジュールでナノ秒のQスイッチバルクEr:YAGレーザーである、請求項2に記載のレーザーシステム。
【請求項16】
中赤外シードパルスの各々が1fsから10psまでの間の持続時間を有している、請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項17】
光学スーパーコンティニウムを発生させる方法であって、
バルク媒体を同時にシーディング及びポンピングして、前記バルク媒体の自己集束用の臨界パワーを超えるようにすることを備え、
前記バルク媒体が、遷移金属ドープII‐VI族半導体の多結晶物質を備えており、
同時にシーディング及びポンピングすることが、前記バルク媒体においてシードパルスとポンプパルスとを重ね合わせて、シードパルスの増幅を与え、
前記自己集束用の臨界パワーを超えることが、レーザー出力がスーパーコンティニウムになるような強力なスペクトル拡大を与える、方法。
【請求項18】
フェムト秒レーザーパルスの特性を増強する方法であって、
マスター発振器からのフェムト秒シードパルスをバルク媒体内に伝播させるのと同時に、光学ポンプパルスで前記バルク媒体をポンピングすることを備え、
前記シードパルスがパルスエネルギー及びスペクトル幅を備え、
前記バルク媒体が前記シードパルスのピークパルスパワーを増大させ且つスペクトルを広げるように動作し、
前記バルク媒体が、遷移金属ドープII‐VI族半導体の多結晶物質を備えており、
前記ポンプパルスのエネルギーが、前記シードパルスと前記バルク媒体との間のレーザー相互作用を生じさせるのに十分なものであり、
前記レーザー相互作用及び少なくとも一つの非線形過程が、パルスエネルギーが増大し且つスペクトル幅が増大した増強パルスが前記バルク媒体からの出力パルスとして放出されるように、前記フェムト秒シードパルスの特性を増強する、方法。
【請求項19】
前記出力パルスのスペクトルが、前記マスター発振器からの入力パルスのスペクトルよりも広い、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記出力パルスの時間的なパルス幅が、前記マスター発振器からの入力パルスのパルス幅よりも短い、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記出力パルスのエネルギーが、前記マスター発振器からの入力パルスのエネルギーよりも大きい、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
パルスのスペクトルを広げるための短パルスでシングルパスの増幅器に基づいたレーザーシステムであって、
超高速中赤外シードパルスの列を放出するように構成されたシードレーザーと、
連続ポンピングモードとパルスポンピングモードで選択的に動作するポンプレーザーと、
シングルパスのレーザー増幅器と、
前記レーザー増幅器においてシードパルスをスペクトル的に広げ且つ増幅するように構成された非線形光学媒体とを備え、
前記非線形光学媒体が、遷移金属ドープII‐VI族半導体の多結晶物質を備えており、
前記連続ポンピングモードが前記シードパルスの列の高平均パワー増幅を与え、
前記パルスポンピングモードが前記シードパルスの列の高ピークパワーを与える、レーザーシステム。
【請求項23】
シードパルスがポンプパワー無しでスペクトル的に広げられるパッシブモードを更に備える請求項22に記載のレーザーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、スペクトルが広げられたレーザーシステムに関する。特に、本発明は、スーパーコンティニウム出力を有する短パルス中赤外(mid‐IR)レーザーに関する。
【背景技術】
【0002】
パルスレーザー源は、超短又はフェムト秒(fs)パルス持続時間(パルス幅)と、高平均パワーと、広域光スペクトルとを兼ね備えるものであり、分光、感知、コヒーレンストモグラフィー、生物医学等の多様な応用において大きな需要がある。スペクトル的に広いレーザー発振を2〜10μmの波長、つまり所謂中赤外(mid‐IR)領域に拡張することが、中赤外フィンガープリント(中赤外特徴)領域に共振フィンガープリント(共振特徴部)を有することを特徴とする物質、例えば、一般的な分子(H
2O、CO
2、CO、NH
4が挙げられるが、これらに限定されない)、生物医学的物質、大気汚染物質、危険物等の検出のために強く望まれている。更に、広域でコヒーレントな光スペクトルを有する高パワー中赤外fs源は、物理及び化学における基本的過程の時間分解研究にとって極めて重要である。
【0003】
fsパルスをスペクトル的に広げるための標準的な方法は、所謂スーパーコンティニウム発生(SCG,supercontinuum generation)である。過去十年において、SCGは波長スケール光ファイバー及び導波路において多く研究されてきた。つい最近になって、カルコゲニドステップインデックス型ファイバーにおいて、中赤外「フィンガープリント領域」全体をカバーするSCGが実証された。しかしながら、ファイバーや導波路に基づいたSCGには、固有のピーク及び平均パワーの制限や、整列感度の問題が存在する。
【0004】
より最近では、バルク物質におけるSCGが、比較的単純であること、フレキシブルであること、高いピーク及び平均パワーを有すること等の利点により新たな可能性を示し始めている(例えば、非特許文献1を参照)。バルク物質におけるレーザー伝播は物質の断面形状によって制限されないので、整列感度が緩和される。更に、一部のバルク物質におけるSCGは、フェムト秒入力パルスをほんの数回の光サイクルのみを有する更に短い出力パルスに圧縮するという特徴を有する(非特許文献2を参照)。非特許文献1及び非特許文献2ではいずれも、光パラメトリック増幅器システム(OPA,optical parametric amplifier system)を用いて中赤外線を発生させている。
【0005】
バルク物質が光学部品として機能する場合、例えば、レーザーシステムに光を透過させる場合、そのバルク物質をバルク媒体と呼ぶことができる。バルク媒体が広域なコンティニウムを発生させる性能を定義する重要なパラメータは、所謂自己集束(self‐focusing)の臨界パワーP
Cである。臨界パワーは、物質特有のパラメータであり、非線形屈折率n
2での物質の三次非線形性によって定義され、P
C〜λ
2/n
2と近似される。臨界パワーは、数百kW(例えば、ZnSeやZnS等のII‐VI族半導体の場合)から数十MW(例えば、YAGやCaF
2の場合)まで様々である。
【0006】
典型的には、fs発振器から直接的には、臨界パワーを超えるピークパワーレベルに到達することはできない。従って、SCGステージに伝える前に、fsパルス用の増幅ステージが一般的に用いられる。更に、多くの標準的なfs発振器(例えば、Ti:サファイア、ファイバーに基づくもの)は、近赤外(near‐IR)で放出する。従って、近赤外fsパルスを中赤外領域に周波数変換するためのステージ(例えば、OPA)が、SCGステージの前に用いられる。中赤外領域に周波数変換するための方法及びfsパルスを増幅するための方法が十分に開発されている一方で、他方では、その設定全体は非常に複雑で、嵩張り、コストが高く、既存の中赤外バルク物質SCG源の実用的な使用を大きく制限している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M. Durand, et al., “Study of filamentation threshold in zinc selenide”, Opt. Express 22, 5852-5858 (2014)
【非特許文献2】H. Liang, et al., “Three-octave-spanning supercontinuum generation and sub-two-cycle self-compression of mid-infrared filaments in dielectrics”, Opt. Lett. 40, 1069-1072 (2015)
【非特許文献3】S. Mirov, et al. “Progress in mid-IR lasers based on Cr and Fe doped II-VI chalcogenides”, IEEE J. Sel. Topics Quantum Electron., 21(1), 1601719 (2015)
【非特許文献4】I. T. Sorokina and E. Sorokin, “Femtosecond Cr2+-based lasers”, IEEE J. Sel. Topics Quantum Electron., 21(1), 1601519 (2015)
【非特許文献5】S. Vasilyev, M. Mirov, and V. Gapontsev, “Mid-IR Kerr-lens mode-locked polycrystalline Cr2+:ZnS laser with 0.5 MW peak power” in Advanced Solid State Lasers, OSA Technical Digest (online) (Optical Society of America, 2015), paper AW4A.3
【非特許文献6】S. Vasilyev, I. Moskalev, M. Mirov, S. Mirov, and V. Gapontsev, “Three optical cycle mid-IR Kerr-lens mode-locked polycrystalline Cr2+:ZnS laser” submitted to Opt. Lett. (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
広域スペクトル出力を、そのような出力を生じさせるために複数のステージに頼らずに生じさせるピコ秒、更に好ましくはフェムト秒レーザーが要求されている。本発明者は、その要求を、シングルパス(一回の通過)構成で増幅及びスペクトル拡大を行う単一ステージを備えるレーザーシステムを構築することによって満たした。更に、パルス圧縮等の他の非線形効果も本レーザーシステムによって与えられ得る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、シングルパスレーザー増幅器においてシードパルスを増幅し且つスペクトル的に広げるように構成された光学方式を活用する短パルス広域スペクトル発生レーザー方法及びシステムを提供する。シングルパス増幅器の非線形光学媒体において、自己集束用の臨界パワーを超えるようにして、レーザー出力のスペクトルが広げられる。非線形光学媒体はレーザー利得特性及び非線形特性を兼ね備え、その媒体は光学ポンプパルス及びシードパルスで同時に照射される。パルスピッカーを用いて、増幅用のシードパルスを選択し得る。スペクトル拡大がレーザースーパーコンティニウムを発生させ得る。
【0010】
本発明の少なくとも一実施形態では、非線形物質は、遷移金属ドープII‐VI族半導体(TM:II‐VI)の多結晶物質、例えば、多結晶のCr:ZnS、Cr:ZnSe、Cr:CdS、Fe:ZnSe、Fe:ZnS等である。
【0011】
本発明の少なくとも一実施形態では、ポンプレーザーはErドープファイバーレーザー、Tmドープファイバーレーザー、又はTM:II‐VIバルク媒体レーザーである。
【0012】
本発明の少なくとも一実施形態では、マスター発振器を用いて、シードパルスを生じさせる。
【0013】
また、本発明は、ピークパワーを増大させ且つシードパルスのスペクトルを広げるように動作するバルク物質GM‐NM中にマスター発振器からのシードパルスを伝播させると同時に、より大きなパルスエネルギー及び広いスペクトルを有するパルスがGM‐NMから放出されるようにシードパルスとバルク媒体とのレーザー相互作用を生じさせるのに十分な光学ポンプパルスでバルク媒体をポンピングすることによって、シードパルスの特性を増強する方法を提供する。
【0014】
少なくとも一実施形態において、本発明は選択的なポンピングモードを提供する。
【0015】
本開示の上記態様及び他の態様、特徴及び利点は、図面を活用してより容易に明らかとなるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】中赤外SCGシステムの光学概略を与える。
【
図1B】中赤外SCGシステムの光学概略を与える。
【
図2A】「コールド増幅器」でのマスター発振器の光学概略を与える。
【
図2B】「コールド増幅器」でのマスター発振器の測定スペクトルを与える。
【
図3】「ホット増幅器」でのマスター発振器の光学概略を与える。
【
図4】「ホット増幅器」での出力パルスの測定スペクトルを与える。
【
図5】「ホット増幅器」での出力パルスの自己相関を与える。
【
図6】「ホット増幅器」の測定特性を比較するグラフを与える。
【
図9】本発明の一実施形態の出力パルスの測定スペクトルを与える。
【
図10】本発明で使用されるマスター発振器の概略を与える。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。可能である限り、同一又は同様の参照番号及び文字を図面及び明細書において使用して、同一又は同様の部分やステップを指称する。図面は単純化されたものであり縮尺通りではない。利便性及び明確性のためのみにおいて、方向に関する用語(上下等)、運動に関する用語(前後等)を図面に関して用いることがある。「結合」との用語や同様の用語は、必ずしも直接的で直の接続を表すものではなく、中間要素やデバイスを介した接続も含む。
【0018】
遷移金属ドープII‐VI族半導体(TM:II‐VI)に基づいたfs発振器の最近の登場が、中赤外スペクトル範囲におけるfs光学パルスを直接得ることで、標準的な近赤外fs発振器の中赤外への周波数変換用の複雑な設定の必要性を回避することを可能にした。更に、多結晶Cr
2+:ZnS及びCr
2+:ZnSeカーレンズモード同期レーザー技術におけるつい最近の発展が、fs中赤外発振器の出力パラメータの顕著な改善、例えば、平均パワー(2W)、パルスエネルギー(24nJ)、及びパルス持続時間(≦29fs)をもたらしている。これらに関する非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6の内容全体が参照として本願に組み込まれる。
【0019】
一般的な中赤外バルク物質SCG設定が
図1Aに示されている。そのシステムは、fsマスター発振器11、周波数変換ステージ12、fsレーザー増幅器13、集束光学系14、コンティニウム発生用のバルク媒体15から成る。システムは、スペクトルが広い中赤外コンティニウム16を放出するように構成される。周波数変換ステージ12は適切な中赤外マスター発振器により省略され、つまり、周波数変換がSCGステージ用に中赤外入力を生じさせる必要が無い場合には省略される。用いられる場合には、周波数変換ステージは、
図1Aに示されるようにマスター発振器と増幅器との間において用いられるか、又は、
図1Bに示されるように増幅器ステージとSCGステージとの間において用いられ得る。
【0020】
図2A及び
図2Bは、バルクのCr
2+:ZnS、Cr
2+:ZnSe、Cr
2+:CdSe物質における中赤外fs発振器のスペクトル拡大に対する実験についてのものであり、バルク媒体はポンピングされておらず、「コールド増幅器」とみなされ、バルク媒体に与えられたエネルギーはシードパルスからのみのものである。こうした「コールド増幅器」での結果は、0.5MWレベルのピークパワーが多結晶Cr
2+:ZnS、Cr
2+:ZnSe及びCr
2+:CdSeにおいていくらかのスペクトル拡大を得るのに十分高いものであることを示すが、広域コンティニウムの発生には十分ではない。具体的には、
図2Aは、実験設定の光学概略、つまり、fsマスター発振器21、集束レンズ22、及びバルク媒体23を与える。そのシステムは、スペクトルが広い中赤外コンティニウム24を放出するように構成されている。
図2Bは、中赤外fsレーザーをマスター発振器シードレーザーとして用い、バルク物質が、Cr
2+:ZnS、Cr
2+:ZnSe、Cr
2+:CdSeのうちいずれか一つのII‐VI族物質である実験の測定スペクトルを与える。パルスの測定スペクトルは対数スケールで示されていて、入力が破線で示され、出力が実線で示される。
【0021】
図3は、「ホット増幅器」を用いる別の実験の光学概略を与える。この「ホット増幅器」は、連続波(CW)で光学的にポンピングされるのと同時にマスター発振器パルスでシーディングされるバルク媒体を含む。
図3の装置は、シードレーザーパルス35を提供する中赤外fsマスター発振器(MO,master oscillator)30、CW光学ポンピング34を提供するポンプレーザー32と、レーザー利得媒体と非線形媒体の特性を兼ね備える単一のバルク物質(GM‐NM)37(例えば、多結晶のCr
2+:ZnS、Cr
2+:ZnSeや、Cr
2+:CdSe)、MOビーム用の集束光学系31、及び、ポンプビーム用の集束光学系33を備える。ポンプビーム及びMOビームは、ダイクロイックミラー36を用いて重ね合わせられ、バルクGM‐NMに集束される。この装置は、ビームステアリング用の任意選択的な光学系34と、出力ビーム38を残余のポンプ放射40から分離するためのダイクロイックミラー39を備える任意選択的な光学系とを含む。
【0022】
バルクGM‐NMのCW光学ポンピングがMOからの入力パルスの増幅をもたらし、バルクGM‐NMの非線形性が入力パルスのスペクトル拡大をもたらし、バルクGM‐NMを通る伝播中におけるパルスの増幅が、ピークパワーの増大、つまりは更なるスペクトル拡大をもたらす。この実験で用いられたポンプは、IPGフォトニクス社(マサチューセッツ州オックスフォード)製のエルビウムファイバーレーザー(型番ELR‐20‐1567‐LP)であった。
【0023】
測定された実験結果が
図4、
図5、
図6にまとめられている。実験は、多結晶Cr
2+:ZnSをバルク媒体、つまりGM‐NMとして用いて行われた。同様の結果が多結晶Cr
2+:ZnSeを用いても得られた。
【0024】
図4は、
図3の装置からの実験結果を示し、ホット増幅器におけるスペクトル拡大を実証している。具体的には、「ホット増幅器」と付されたデータと「コールド増幅器」と付されたデータとの出力パルスの測定スペクトルを比較すると、スペクトル幅の増大が明らかである。「ホットスペクトル」は、シードパルスと同時に入力される20WのCWポンプパワーで、つまりは「ホット増幅器」で測定され、7.1Wの平均出力パワーが、1.9Wのシードからの増大であった。灰色の線が、ポンプパワーの増大と共にスペクトル拡大を示す。上のグラフは、1mの標準的な空気とポンプセパレータ(ダイクロイックミラー39)の透過率を示す。見て取れるように、得られたスペクトルは、2.0〜2.5μmの大気透明度ウィンドウを完全に満たしている。
【0025】
図5は、実験での出力パルスの自己相関の測定結果を示す。「コールド自己相関」は、ポンプレーザーをオフにして測定され、「ホット自己相関」は、20WのCWポンプパワー及び7.1Wの出力パワーで測定された。見て取れるように、入力パルスの増幅は、44fsから略33fsへの圧縮を伴っている。
【0026】
図6は、デバイスの測定特性対ポンプパワーを与える。上のグラフは、スペクトルバンド幅(−10dBレベルにおける)及びパルス持続時間を比較している。下のグラフは増幅器の利得を比較している。見て取れるように、ポンプパワーの増大が、(i)スペクトル拡大、(ii)パルス圧縮、(iii)出力パワーの増大をもたらしている。重要なのは、fsパルスの増幅が、CWレーザーの増幅と同じくらい効率的に生じていることである。
【0027】
従って、
図3の装置は、CWポンプシングルパス増幅器におけるfs光学パルスの測定可能なスペクトル拡大及び増幅を生じさせる。これらの結果は、バルク媒体を通るシングルパス(一回の通過)での中赤外fsパルスの増幅、スペクトル拡大及び圧縮を示している。
【0028】
連続ポンピング方式で、マスター発振器の平均パワーPを増幅する(つまり、略100MHzの繰り返し率におけるパルス列中の全てのパルスが同じように増幅される)。マスター発振器の平均パワー(略2W)は、連続ポンプの平均パワー(略20W)と同程度である。従って、増幅器の利得は比較的低くて、P
OUT/P
IN〜5であり、スペクトル拡大は適度なものである。
【0029】
CWポンプ方式の適度なスペクトル拡大とは対照的に、本発明の態様は、より実質的なスペクトル拡大、例えば、SCGを可能にする、つまりは1オクターブ以上のスペクトル拡大を提供する。このレベルのスペクトル拡大を達成するために、パルスポンピング方式を用いる。
【0030】
少なくとも一つのパルスポンピング方式の実施形態では、
図7を参照すると、パルスポンプ70からのポンプパルス71と一致するマスター発振器のパルス列35からのシードパルス35のパルスエネルギーEをバルク物質GM‐NM37(例えば、Cr
2+:ZnS、Cr
2+:ZnSe、Cr
2+:CdSe)において増幅する。シードパルスのエネルギー(略20nJ)は、ポンプパルスエネルギー(2mJ)の100000分の1である。従って、増幅器の利得は非常に高く、E
OUT/E
INは略500であり、出力72におけるスペクトル拡大は強い。
【0031】
マスター発振器からの入力パルスとバルクとの非線形相互作用が非線形光学効果をもたらす。非線形光学効果は、自己集束、自己位相変調、相互位相変調、四波混合、フィラメンテーション、及びパルス圧縮のうちのいずれか一つ又は任意の組み合わせを含み得る。顕著なスペクトル拡大を達成するためには、シード光子のエネルギーは、媒体のバンドギャップエネルギーよりも顕著に小さくなければならない。
【0032】
ポンプパルスの繰り返し率は、マスター発振器からのパルス列の繰り返し率よりもはるかに小さいので(例えば、1kHz対100MHz)、パルス列35の僅かな部分のみが増幅され、平均パワーの利得はCWポンピングと比較して低い。
図8に示されるように、パルスピッカー82を用いて、マスター発振器パルス列35からシードパルス80を選択して、増幅用のポンプパルス71と同期させ得る。シードパルス及びポンプパルスをダイクロイックミラー81を用いてバルクGM‐NM37において重ね合わせる。スペクトルが広がった出力84をダイクロイックミラー83を用いて増幅器出力から分離する。増幅されたシードパルス出力に加えて、増幅器出力は、光学高調波85(例えば、周波数二倍第二高調波)を含み得て、これは、ダイクロイックミラー86を用いて残余ポンプ40から分離される。
中赤外シードパルスの各々は、例えば、1fsから10psまでの間
の持続時間を有し得る。
【0033】
パルスポンプレーザーは、例えば、mJ(ミリジュール)でns(ナノ秒)のQスイッチバルクEr:YAG、Ho:YAG、又はHo:YLFレーザーであり得る。少なくとも一実施形態において、ポンプレーザーは、1.65μmの2mJで1kHzのEr:YAGレーザーである。少なくとも一実施形態において、シードレーザーは、20nJでfsパルスを有する80MHzのCr:ZnSレーザーである。
【0034】
図9は実験結果を示す。曲線(A)は、マスター発振器からのパルスの初期「コールド」スペクトルを示し、曲線(B)は、「ホット」な連続的にポンピングされるシングルパス増幅器におけるスペクトル拡大を示し、曲線(C)は、パルスポンピングされるシングルパス増幅器における強力なスペクトル拡大を示し、実質的に1.8〜4.5μmからの中赤外スーパーコンティニウムを発生させている。
【0035】
本発明で用いられる例示的なマスター発振器が
図10に示されている。例示的なマスター発振器は、Erドープファイバーレーザー(EDFL,Er‐doped fiber laser)90によって1567nmにおいて光学ポンピングされて、レンズ91によって集束される。反射防止(AR)コーティングされた多結晶Cr
2+:ZnS利得素子93が、二つの湾曲ミラー92と94との間において垂直入射で共振器に取り付けられる。この例では、利得要素は、長さ5mmで、11%の低信号透過率を有し、室温の水で冷却される。共振器のレッグは等しくなく、典型的な比は2:5である。レーザーは、二つの光学出力、つまり、出力カプラー(OC,output coupler)97を介する中赤外と、第二次高調波発生(SHG,second harmonic generation)波長範囲において高い透過率を有する湾曲ダイクロイックミラー94を介するSHG 98とを有する。光学コーティングの反射率及び群遅延分散(GDD,group delay dispersion)は、2200〜2700nmの波長範囲において最適化された。共振器の正味のGDDは、負のGDDを有して設置される高反射体(HR,high reflector)95の種類及び数を変更することによって離散的ステップにおいて調整可能である。利得要素の三次分散(TOD, third order dispersion)は、専用のミラー(HR
*)96によって補償された。レーザーは最大のCW出力パワー用に最適化された。次いで、カーレンズモード同期方式(OC変換によって開始される)を可能にするために、湾曲ミラー同士の間の距離を微調整した。モード同期レーザーのスペクトルパラメータ及び時間パラメータを、0.15m二重格子モノクロメータ及び干渉自己相関器を用いて特性評価した。OCの厚さ3.2mmのZnSe基板を介する伝播に起因する出力パルスの歪み(2400nmにおいてGDD=+710fs
2)を、共振器の外部で、厚さ5mmのYAGプレート及びTOD補償器HR
*の組み合わせによって補償した。
【0036】
更に、本発明のレーザーシステムは、追加の光学部品を活用することができる。少なくとも一実施形態では、レーザーシステムは、バルク物質GM‐NMの前又は後に位置する少なくとも一つの分散素子を含む。このような分散素子は、平行平面板、一組の分散プリズム、又は分散ミラーのうちいずれか一つか又はこれらの組み合わせを含み得る。
【0037】
単一ステージでの光学増幅が好ましいものであるが、マスター発振器に続く複数の増幅ステージも本発明の範囲内にある。例えば、マスター発振器ステージに、前置増幅ステージが続いて、出力パワーの増大及びスペクトル拡大の増大のための主パワー増幅器の前に、パルスパワーを増大させ得る。システムは、複数のポンプパワー増幅ステージを直列又は並列構成で有し得る。
【0038】
一般的に、少なくとも一つの増幅ステージは、出力をスペクトル的に拡大するように構成されるが、複数のステージがスペクトル拡大に寄与し得る。マスター発振器は、パワー増幅ステージにおける追加的なスペクトル拡大が続くことによって臨界パワーレベルに達するのに十分なピークパワーでスペクトル拡大を開始し得る。複数のGM‐NMステージが存在する場合、利得及び拡大特性はステージ間で異なり得る。ビーム特性及びポンプ特性等のシステムパラメータが、利得及び拡大を選択的に向上させ得る。例えば、GN‐NM部の一部分を利得用に最適化する一方で、他の部分を拡大用に最適化し得る。
【0039】
当業者は、単に通常の実験を用いて、本開示の発明の具体的な実施形態の多くの等価物を認識し、又は確かめることができる。本開示の概略はレーザーシステムで使用可能であるが、本開示の構造はスペクトル拡大に肝がある。従って、上記実施形態は単に例示によって与えられているものであり、添付の特許請求の範囲及びその等価物の範囲内において、本発明を具体的に説明されている以外のやり方で実施し得ることを理解されたい。本開示は、本願に記載の個々の特徴、システム、物質、及び/又は方法を対象としている。また、そうした特徴、システム、物質及び/又は方法の二つ以上の組み合わせは、そうした特徴、システム、物質及び/又は方法が互いに矛盾していなければ、本発明の範囲内に含まれるものである。
【符号の説明】
【0040】
30 マスター発振器
31 集束光学系
33 集束光学系
35 パルス列
36 ダイクロイックミラー
37 バルク物質
39 ダイクロイックミラー
40 残余ポンプ放射
70 パルスポンプ
71 ポンプパルス
72 出力
80 シードパルス
81 ダイクロイックミラー
82 パルスピッカー
83 ダイクロイックミラー
84 出力
85 光学高調波
86 ダイクロイックミラー