【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題は、独立形式請求項の特徴により解決される。本発明の好ましい実施の形態は、従属形式請求項により提供される。
【0021】
したがって、本発明は、腫瘍の治療での使用のための間葉系幹細胞(MSC)であって、上記治療が、上記間葉系幹細胞と抗腫瘍免疫療法との組み合わせ投与を含み、かつ上記MSCが、免疫応答刺激性サイトカインをコードする外因性核酸を含まない、間葉系幹細胞に関する。
【0022】
したがって、本発明は、一実施の形態においては、腫瘍の治療での使用のための間葉系幹細胞(MSC)であって、上記治療が、上記間葉系幹細胞と抗腫瘍免疫療法との組み合わせ投与を含み、かつ上記MSCが、遺伝子改変されていない、間葉系幹細胞に関する。
【0023】
したがって、本発明は、一実施の形態においては、腫瘍の治療での使用のための間葉系幹細胞(MSC)であって、上記治療が、上記間葉系幹細胞と抗腫瘍免疫療法との組み合わせ投与を含み、かつ上記MSCが、遺伝子改変されているが、免疫応答刺激性サイトカインをコードする外因性核酸を含まない、間葉系幹細胞に関する。
【0024】
したがって、本発明は、一実施の形態においては、腫瘍の治療での使用のための間葉系幹細胞(MSC)であって、上記治療が、上記間葉系幹細胞と抗腫瘍免疫療法との組み合わせ投与を含み、かつ上記MSCが、遺伝子改変されているが、抗原非依存性免疫応答を誘導する免疫刺激性分子をコードする外因性核酸を含まない、間葉系幹細胞に関する。
【0025】
したがって、本発明は、腫瘍を伴う被験体の治療方法、又は腫瘍及び/又は腫瘍疾患の治療方法に加えて、特に癌の治療のための本明細書に記載されるMSCの医学的使用を包含する。
【0026】
本発明は、遺伝子改変されていないヒトMSC、特に免疫刺激性サイトカイン又は抗原非依存性免疫刺激特性を示すその他の導入遺伝子産物をコードする導入遺伝子を有さないヒトMSCが、抗腫瘍免疫療法の活性を高めることができるという驚くべき知見を基礎としている。この知見は、特に、MSCがこれまで免疫抑制機能を示すものと記載されており、通常そのように認められるので予想外である。先で詳細に述べられたように、従来技術は、MSCが自己免疫疾患及びGvHDの治療において、すなわち免疫抑制が所望される治療成果である疾患において使用され得ることを開示している。
【0027】
特に、遺伝子改変されていないMSCが、そのような組み合わせ免疫療法の抗腫瘍活性を、遺伝子改変されたMSCから分泌される抗原非特異的免疫刺激性分子、特に免疫刺激性サイトカインをコードする外因性核酸分子を含む遺伝子改変されたMSCと同等の(しかし幾らか低下した)程度まで高めることは驚くべきことであった。
【0028】
本発明は、好ましくは、遺伝子改変されていないMSCに関する。その他の実施の形態においては、MSCは、遺伝子改変を示してもよいが、抗原非依存性免疫応答を誘導するとみなされる1種以上の免疫刺激性分子、例えば免疫刺激性サイトカインをコードする導入遺伝子は示さない。本発明は、MSCがin vivoで免疫応答を抑制すると考えられるが、以下の実施例で使用されるMSCは、CAR-T細胞からの抗腫瘍免疫応答を刺激する特性を示すという知見に向けられている。
【0029】
本発明の好ましい実施の形態はまた、抗腫瘍応答に対する支援的効果を、例えば細胞毒性導入遺伝子の発現により更に高めるように遺伝子改変されたMSCを含む。好ましい一実施の形態においては、そのような導入遺伝子、例えば細胞毒性導入遺伝子は、抗原非特異性免疫刺激に導かない。
【0030】
本明細書で記載されるMSCは、好ましくは、in vivoで炎症領域にホーミングするその天然の能力又は操作された能力のいずれかにより腫瘍組織に遊走する。腫瘍組織(腫瘍間質)へのホーミング及び/又は腫瘍組織中への生着は、サイトカイン等の免疫刺激分子の内因性核酸からの局所的発現をもたらすことができ、それによりその腫瘍部位での内因性免疫細胞又は投与された免疫細胞のより高い抗腫瘍効力が可能となる。
【0031】
本発明は、被験体における腫瘍組織に対する免疫応答の局所刺激のために適した手段を提供する。この手段には、特に、免疫応答を腫瘍に向けることを目的とする免疫療法処置が含まれる。免疫応答のそのような支援又は誘導は、様々な臨床状況において、免疫応答を開始及び維持し、しばしばこの活性化を遮断する腫瘍媒介性免疫抑制を避けるために有用である場合がある。
【0032】
本発明の間葉系幹細胞は、被験体に既に存在する内因性免疫細胞の活性を高め、及び/又はその量を増加させるために使用することができる。それに代えて又はそれに加えて、更なる免疫細胞(自家又は同種異系のいずれか)を、本発明のMSCと組み合わせて(例えば、同時に又は順次に)投与することで、所望の治療的免疫応答を高めることができる。
【0033】
したがって、一実施の形態においては、本発明は、癌細胞を攻撃するT細胞を基礎とする細胞毒性応答を含む、癌免疫療法及び養子細胞移入を伴うアプローチに関する。
【0034】
したがって、一実施の形態においては、本発明は、癌細胞を攻撃するNK細胞を基礎とする細胞毒性応答を含む、癌免疫療法及び養子細胞移入を伴うアプローチに関する。
【0035】
本発明は、MSCの医薬としての使用、及び/又はMSCの抗腫瘍免疫療法、好ましくは本明細書に記載される抗腫瘍免疫療法のためのアジュバントとしての使用を包含する。アジュバントは、一般的には、その他の作用物質の効果を変更する薬理学的作用物質又は免疫学的作用物質に関連する。本発明においては、上記アジュバント(MSC)は、好ましくは抗腫瘍免疫療法の高められた効果をもたらし、その効果は、MSCアジュバントを適用しない場合と比べて測定され得る。適切なアッセイを、以下の実施例に記載する。
【0036】
本発明の好ましい一実施の形態においては、組み合わせ投与のための抗腫瘍免疫療法は、免疫細胞の投与を含む。そのような療法は、腫瘍患者への免疫細胞の投与を伴い、それは、投与された細胞の直接的な抗腫瘍活性によるか、又は内因性免疫細胞の活性化をもたらす該免疫細胞の免疫調節活性により、腫瘍に対する高められた免疫応答をもたらす。本発明によれば、遺伝子改変されていないMSC又は遺伝子改変されたMSCの同時投与は、移入された免疫細胞のこれらの抗腫瘍活性を増大する。
【0037】
免疫療法、特に細胞療法の効果的な開発及び臨床的使用における重要な限定は、腫瘍が、免疫抑制的な腫瘍微小環境を確立することにより腫瘍細胞に対する免疫応答を回避及び抑制する能力である。この現象は、腫瘍媒介性免疫抑制として知られており、大体において、調節性表現型を示す腫瘍中に存在する免疫細胞(例えば、調節性T細胞(Treg)、及び単球系抑制性細胞(MDSC)、及び腫瘍関連マクロファージ(TAM))による抗炎症性サイトカインの分泌により媒介される。したがって、本発明は、本明細書に記載されるMSCを使用して腫瘍微小環境を変更することで、免疫細胞、特に腫瘍組織に対するCAR-T細胞に活性化刺激を与える手段を提供する。
【0038】
本発明のもう一つの好ましい実施の形態においては、組み合わせ投与のための免疫細胞は、T細胞である。T細胞は、細胞媒介性免疫において中心的な役割を担うとともに、細胞毒性機能だけでなく、免疫調節機能を有し得るものであり、メモリーT細胞の形成を通して、長期保護を授け得る。T細胞は、抗腫瘍免疫応答において重要な役割を担う。本発明によれば、MSC及びT細胞の組み合わせ投与は、投与されたT細胞の高められた抗腫瘍活性をもたらす。
【0039】
その他の実施の形態においては、免疫細胞は、人工T細胞受容体、例えばキメラ抗原受容体(CAR-T)を含むT細胞であり、上記T細胞受容体が、腫瘍抗原に特異的に結合する(Lee, DW et al., Clin Cancer Res; 2012;18(10); 2780-90)。更なる一実施の形態においては、該T細胞は、ex vivoで増殖されたT細胞又はTCR遺伝子導入T細胞である。
【0040】
本発明のもう一つの好ましい実施の形態においては、組み合わせ投与のための免疫細胞は、キメラ抗原受容体(CAR-T)T細胞であり、上記T細胞受容体が、腫瘍関連抗原に特異的に結合する。本発明は、MSCがネイティブT細胞の増殖を抑制すると考えられているにもかかわらず、ヒトMSCは、CAR-T細胞の活性を高めることが可能である(
図3〜
図5)という驚くべき知見を基礎としている。文献から予想されるであろうことに反して、ヒトMSCは、培養に際してCAR-T増殖を支援し、それらの生存を高め、そしてそれらの抗腫瘍活性を増大させる。本発明は、固形腫瘍の治療を改善する目的でCAR-T細胞の抗腫瘍活性を高めるための、ヒトMSCの適用に関する。
【0041】
そのようなCAR-T細胞と一緒の遺伝子改変されていないMSCの組み合わせ投与が、CAR-T細胞単独での処置に対して改善された治療効果を示すことは、全くもって驚くべきことであった。このことは、本発明が、抗腫瘍免疫応答に関係するCAR-Tの刺激と、それによる抗腫瘍免疫応答の局所的活性化、支援及び/又は強化とを可能にすることを示している。さらに、MSCのその独特な特性は、CAR-T免疫応答の増強の維持をもたらし、そして治療効果は改善され、延長される。
【0042】
一実施の形態においては、本明細書に記載されるMSCは、CAR-T細胞処置の前に、その後に、又はそれと同時に投与され、こうしてCAR-T処置に好ましく腫瘍微小環境が変更及び付与され得る。MSCの単回又は多回の移入が可能である。
【0043】
本発明のもう一つの実施の形態においては、組み合わせ投与のための免疫細胞は、樹状細胞である。樹状細胞は、強力な抗原特異的T細胞免疫応答を生ずる潜在能力を有する自然免疫系の専門的な抗原提示細胞である。免疫療法方略では、進行した悪性腫瘍、具体的には癌を伴う個体における治療的ワクチン接種の手段として、樹状細胞のこの抗原送達能力に専従することが試みられてきた。治療用樹状細胞と一緒のMSCの組み合わせ投与は、樹状細胞ワクチンを最適化して、癌患者における抗腫瘍応答を改善することとなる。
【0044】
本発明のもう一つの実施の形態においては、組み合わせ投与のための免疫細胞は、樹状細胞ではなく、及び/又は樹状細胞を含まない。
【0045】
本発明のもう一つの好ましい実施の形態は、抗腫瘍免疫療法としてのマクロファージ及び/又は単球と間葉系幹細胞との組み合わせ投与に関する。単球及びマクロファージは、しばしば近傍に見出されるか、又は腫瘤内に見られ、多くの腫瘍型の間質内に大きな白血球浸潤を形成する。それらは、プロ腫瘍(例えば、腫瘍血管新生による増殖及び転移の増進)過程及び抗腫瘍(殺腫瘍性及び腫瘍増殖抑制性)過程の両方に関連し、腫瘍微小環境の免疫状態を決定的に形作る。所望の抗腫瘍活性を誘導するために外部刺激又は遺伝子改変により前処理され得る単球及び/又はマクロファージの養子移入は、抗腫瘍免疫療法として提案されている。好ましい一実施の形態においては、投与されるマクロファージは、M1マクロファージである。本発明は、抗腫瘍免疫応答を更に高めるための、そのような免疫細胞と一緒のMSCの組み合わせ投与に関する。
【0046】
本発明のもう一つの好ましい実施の形態においては、組み合わせ投与のための免疫細胞は、自然リンパ球、好ましくはNK細胞である。自然リンパ球は、リンパ球系譜に属するが、抗原特異的に応答せず、そしてまた細胞毒性NK細胞を含む一群の自然免疫細胞である。NK細胞は、腫瘍監視において重要な役割を担い、養子移入により腫瘍患者を治療するために使用することができる。MSC及び自然リンパ球、好ましくはNK細胞の組み合わせ投与は、自然リンパ球単独での処置と比較して高められた抗腫瘍活性をもたらすことが考えられる。自然リンパ球は、遺伝子改変されていても、又は遺伝子改変されていなくてもよく、移入前に、好ましい表現型を誘導するために外部刺激を受けてもよい。
【0047】
本発明のもう一つの好ましい実施の形態においては、組み合わせ投与のための免疫細胞は、顆粒球である。好中球、好酸球、好塩基球、及び肥満細胞を含む顆粒球は、抗腫瘍免疫応答の協奏(orchestration)に関与していることが知られている。顆粒球、特に好酸球の養子移入は、腫瘍細胞に対する細胞毒性T細胞活性を高めることにより、腫瘍に対する免疫応答を高めることが分かっている。したがって、本発明は、顆粒球の高められた抗腫瘍活性をもたらす、MSC及び顆粒球の組み合わせ投与に関する。移入された顆粒球は、遺伝子改変されていても、又は遺伝子改変されていなくてもよく、移入前に、好ましい表現型を誘導するために外部刺激を受けてもよい。
【0048】
本発明の一実施の形態においては、組み合わせ投与のための間葉系幹細胞及び/又は免疫細胞は、医学的治療の被験体にとっての自家細胞である。供与者及び受容者が同じ個体であるため移入された細胞の拒絶は非常にまれであり、そして移植片対宿主病が発症し得ないので、自家細胞の投与は有利である。
【0049】
本発明のもう一つの実施の形態においては、組み合わせ投与のための間葉系幹細胞及び/又は免疫細胞は、医学的治療の被験体にとっての同種異系細胞である。同種異系移植は、細胞療法のために確立されており、患者に投与する前に細胞を取得し、培養し、かつ増殖させる必要なくして、事前調製された又は商業的な治療用細胞の調製物の選択、調達、及び投与を可能にする。投与された同種異系物質の拒絶の危険性は、通常の技術を使用して、例えば供与者及び受容者の間のHLA適合性を評価することによって評価することができる。
【0050】
本発明のもう一つの好ましい実施の形態においては、組み合わせ投与のための抗腫瘍免疫療法は、抗体、サイトカイン、ケモカイン、又はその他のバイオ医薬品での処置を含む。確立された腫瘍の効果的な免疫療法は、一般的に、全身性免疫の発生だけでなく、腫瘍部位での免疫抑制の克服も基礎としている。例えば、B7-H1/PD-1経路のモノクローナル抗体による遮断は、選択的かつ効果的に腫瘍部位で免疫応答を調節する。この特異性は、大部分は、腫瘍微小環境におけるB7-H1の選択的誘導及び発現によるものである。この選択性は、免疫応答のより「的を絞った」増大を可能にするだけでなく、幅広い全身性自己免疫毒性の結果も回避する。バイオ医薬品によるこの種の処置は、腫瘍へと遊走して腫瘍微小環境に変化を引き起こすMSCの投与と組み合わせることができ、これにより、内因性免疫細胞による強力な抗腫瘍免疫応答の誘導が支援され、相乗効果が引き起こされる。
【0051】
本発明のもう一つの好ましい実施の形態においては、組み合わせ投与のための抗腫瘍免疫療法は、免疫調節性機能を有する小分子での処置を含む。小分子アプローチによる免疫系の調節は、生物学的アプローチ又は細胞的アプローチを補い、かつ該アプローチと潜在的に相乗的に作用する幾つかの独特の利点を提供する。そのような分子は、それらの受容体に結合するそれぞれのリガンドにより開始されるシグナル伝達を直接的に阻害すること、抗体及びその他の免疫調節性分子を動員すること、又は種々の免疫細胞の増殖を促進若しくは抑制して特定の種類の癌細胞を標的とすることが分かっている。そのような分子の投与と一緒にMSCを移入することによる腫瘍患者の組み合わせ処置は、これらの2つの処置作用物質の相乗作用により驚くべき効果をもたらすと考えられる。
【0052】
本発明のもう一つの好ましい実施の形態においては、組み合わせ投与のための抗腫瘍免疫療法は、キメラ抗原受容体(CAR)T細胞の投与を含み、ここで上記T細胞受容体は、腫瘍関連抗原に特異的に結合し、かつ上記間葉系幹細胞は、遺伝子改変されていない。
【0053】
発明の詳細な説明
免疫系の腫瘍に対する主な応答は、キラーT細胞を使用して、時としてヘルパーT細胞の補助により異常細胞を破壊することである。しかしながら、ほとんどの腫瘍は、様々な手段により免疫応答を抑制し、かつ一般的にT細胞活性化を妨げる環境を生成する産物を放出する。本発明は、そのような環境において抗腫瘍免疫反応を、本明細書に記載されるMSCを使用することにより支援するための手段を提供する。
【0054】
本発明は、MSCが、組み合わせ抗腫瘍免疫療法に対して刺激性アジュバント特性を示すという驚くべき知見を特徴としている。特に、本発明のMSC(免疫刺激性サイトカイン又はその他の免疫刺激性分子、例えば抗原非依存性免疫応答を誘導する分子を発現する導入遺伝子を有さない)は、癌性物質に対するCAR-T細胞の高められた効力をもたらす。
【0055】
病原又は癌性組織に対する応答は、免疫応答に関連する多数の様々な細胞タイプの複雑な相互作用及び活性によって協奏される。本明細書で使用される免疫細胞は、以下の方法において記載されるような以下の細胞タイプのいずれかに関連し得る。自然免疫応答は、防御の第一線であり、かつ病原曝露又は「外来」物若しくは癌性物への曝露の直後に生ずる。この応答は、食細胞、例えば好中球及びマクロファージ、細胞毒性ナチュラルキラー(NK)細胞、及び顆粒球により行われる。引き続いての適応免疫応答は、抗原特異的防御機構を含み、発生には数日かかることがある。適応免疫における重要な役割を有する細胞タイプは、マクロファージ及び樹状細胞を含む抗原提示細胞である。T細胞サブセット及びB細胞を含む様々な細胞タイプの抗原依存性刺激は、宿主防御において重要な役割を担う。
【0056】
免疫細胞:
本明細書に記載される免疫細胞は、被験体における免疫応答に関連する生物学的細胞に関連する。免疫細胞は、好ましくは、T細胞、B細胞、樹状細胞、顆粒球、自然リンパ球(ILC)、巨核球、単球/マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、血小板、赤血球細胞(RBC)及び/又は胸腺細胞から選択される。
【0057】
T細胞又はTリンパ球は、細胞媒介性免疫に中心的な役割を担うリンパ球の1つのタイプ(白血球細胞のサブタイプ)である。それらは、B細胞及びナチュラルキラー細胞等のその他のリンパ球とは、細胞表面上でのT細胞受容体の存在によって区別することができる。T細胞の幾つかのサブセットは、それぞれ異なる機能を有する。T細胞サブタイプには、限定されるものではないが、1型ヘルパーT細胞(Th1)、2型ヘルパーT細胞(Th2)、9型ヘルパーT細胞(Th9)、17型ヘルパーT細胞(Th17)、22型ヘルパーT細胞(Th22)、濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh)、調節性T細胞(Treg)、ナチュラルキラーT細胞(NKT)、ガンマデルタT細胞、CD8陽性細胞毒性Tリンパ球(CTL)が含まれる。T細胞の更なる非限定的な実施の形態には、胸腺細胞、未熟Tリンパ球、成熟Tリンパ球、静止Tリンパ球、サイトカイン誘導キラー細胞(CIK細胞)、又は活性化Tリンパ球が含まれる。サイトカイン誘導キラー細胞(CIK)は、一般的に、CD3陽性及びCD56陽性の非主要組織適合複合体(MHC)拘束性のナチュラルキラー(NK)様Tリンパ球である。該T細胞は、CD4陽性T細胞、細胞毒性T細胞(CTL;CD8陽性T細胞)、CD4陽性CD8陽性T細胞、CD4 CD8 T細胞、又はT細胞の任意のその他のサブセットであってもよい。
【0058】
キメラ抗原受容体(CAR)及びCAR-T細胞:
T細胞は、複合分子であり、かつ免疫エフェクター細胞に任意の特異性を付与し、かつ同種の標的が生着されると操作された細胞を活性化する人工T細胞受容体(キメラT細胞受容体、キメラ免疫受容体、キメラ抗原受容体(CAR)としても知られる)によって規定の特異性をもって操作され得る。一般的には、これらの受容体を使用して、活性化のための細胞内シグナル伝達ドメインに連結されたT細胞に、モノクローナル抗体の特異性が付与される。
【0059】
遺伝子操作されたT細胞は、T細胞受容体(TCR)又は腫瘍抗原を認識するのに特異的なCARをコードするレトロウイルス又はレンチウイルスを患者の細胞に感染させることによって作製することができる。T細胞がその標的抗原に結合すると、刺激性分子は、T細胞が完全に活発となるのに必要なシグナルを提供する。この完全に活性な状態において、T細胞は、より効率的に増殖することができ、かつ癌細胞を攻撃することができる。
【0060】
例えば、自家細胞移植後に患者に再導入して戻した場合に、本明細書に記載される本発明のCARで改変されたT細胞は、腫瘍細胞を認識し、死滅させることができる。CIK細胞は、その他のT細胞と比較して高められた細胞毒性活性を有することがあり、したがって本発明の免疫細胞の好ましい一実施の形態である。当業者により理解されるように、その他の細胞は、本明細書に記載されるCARを有する免疫エフェクター細胞としても使用され得る。特に、免疫エフェクター細胞はまた、NK細胞、NKT細胞、好中球、及びマクロファージを含む。免疫エフェクター細胞はまた、エフェクター細胞の始原体を含み、そのような始原細胞は誘導されることで、in vivo又はin vitroで免疫エフェクター細胞へと分化することができる。
【0061】
遺伝子改変された又は遺伝子改変されていないMSCと、遺伝子改変された又は遺伝子改変されていない免疫細胞、好ましくはT細胞、例えば本明細書に記載される細胞との組み合わせ投与は、抗癌活性に関して相乗効果をもたらす。
【0062】
CARは、一般的に、抗体から誘導される細胞外エクトドメイン及びT細胞シグナル伝達タンパク質から誘導されるシグナル伝達モジュールを含むエクトドメインから構成される。好ましい一実施の形態においては、該エクトドメインは、好ましくは、単鎖可変フラグメント(scFv)として構成される免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖からできた可変領域を含む。そのscFvは、好ましくは、柔軟性を与え、かつアンカー型膜貫通部を通じて細胞内シグナル伝達ドメインへとシグナルを伝達するヒンジ領域に結合される。該膜貫通ドメインは、好ましくはCD8α又はCD28に由来する。第一世代のCARにおいては、シグナル伝達ドメインは、TCR複合体のゼータ鎖からなる。用語「世代」とは、細胞内シグナル伝達ドメインの構造に対するものである。第二世代のCARは、CD28又は4-1BBに由来する単一の共刺激ドメインを備えている。第三世代のCARは、既に2個の共刺激ドメイン、例えばCD28、4-1BB、ICOS又はOX40、CD3ζを含む。
【0063】
様々な実施の形態においては、免疫エフェクター細胞の細胞毒性を癌細胞にリダイレクトする遺伝子操作された受容体が提供される。これらの遺伝子操作された受容体を、本明細書ではキメラ抗原受容体(CAR)と呼称した。CARは、所望の抗原(例えば、腫瘍関連抗原)についての抗体に基づく特異性と、T細胞受容体活性化細胞内ドメインとを兼ね備える分子であり、特異的な抗BCMA細胞免疫活性を示すキメラタンパク質が生成される。本明細書で使用される場合に、用語「キメラ」は、異なる起源からの異なるタンパク質又はDNAの部分から構成されることを説明している。
【0064】
本明細書で検討されるCARは、腫瘍関連抗原、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメイン、又は細胞内シグナル伝達ドメインに結合する細胞外ドメイン(結合ドメイン又は抗原結合ドメインとも呼ばれる)を含む。CARの抗BCMA抗原結合ドメインと、標的細胞の表面上のBCMAとが嵌り合うことで、CARのクラスター形成がもたらされ、CARを含む細胞に活性化刺激が伝えられる。CARの主要な特性は、CARが免疫エフェクター細胞の特異性をリダイレクトする能力であり、それにより増殖、サイトカイン産生、食作用、又は標的抗原発現細胞の細胞死を主要組織適合性(MHC)とは独立して媒介し得る分子の産生が惹起され、こうしてモノクローナル抗体、可溶性リガンド、又は細胞特異的補助受容体の細胞特異的標的化能が活用される。
【0065】
様々な実施の形態においては、CARは、ヒト化腫瘍抗原特異的結合ドメインを含む細胞外結合ドメイン、膜貫通ドメイン、1個以上の細胞内シグナル伝達ドメインを含む。特定の実施の形態においては、CARは、ヒト化抗腫瘍抗原抗体又はその抗原結合断片を含む細胞外結合ドメイン、1個以上のスペーサードメイン、膜貫通ドメイン、1個以上の細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0066】
「細胞外抗原結合ドメイン」又は「細胞外結合ドメイン」は、対象となる標的抗原に特異的に結合する能力をCARに与える。該結合ドメインは、天然源、合成源、半合成源、又は組み換え源のいずれかから誘導され得る。好ましくは、scFVドメインである。
【0067】
「特異的結合」は、結合及び結合特異性の試験に使用することができる様々な実験手順を、当業者であれば明らかに認識するものと当業者には解釈されるべきである。会合平衡定数又は平衡解離定数の測定方法は当該技術分野で知られている。幾つかの交差反応又はバックグラウンド結合は、多くのタンパク質間相互作用において不可避である場合があり、これは、CAR及びエピトープの間の結合の「特異性」から減じられるべきではない。「特異的結合」は、抗腫瘍抗原抗体又はその抗原結合断片(又はそれを含むCAR)の腫瘍抗原への、バックグラウンド結合よりも大きな結合親和性での結合を説明している。用語「〜に対する(directed against)」は、用語「特異性」を考慮する場合に、抗体及びエピトープの間の相互作用の理解において適用することもできる。
【0068】
「抗原(Ag)」は、動物における抗体の産生又はT細胞応答を刺激することができる化合物、組成物、又は物質を指す。特定の実施の形態においては、標的抗原は、腫瘍関連抗原、つまり腫瘍細胞中で主として発現されるポリペプチドのエピトープである。「エピトープ」とは、結合性作用物質が結合する抗原の領域を指す。エピトープは、タンパク質の三次折り畳みにより並置される隣接アミノ酸又は非隣接アミノ酸の両方から形成され得る。
【0069】
「単鎖Fv」又は「scFv」抗体フラグメントは、抗体のVHドメイン及びVLドメインを含み、その際、これらのドメインは、単独のポリペプチド鎖で、どちらか一方の向き(例えば、VL-VH又はVH-VL)で存在する。一般的に、scFvポリペプチドは、scFvが抗原結合のために望ましい構造を形成可能にするVHドメイン及びVLドメインの間のポリペプチドリンカーを更に含む。好ましい実施の形態においては、本明細書で検討されるCARは、scFvであり、かつマウス、ヒト又はヒト化されたscFvであり得る抗原特異的結合ドメインを含む。単鎖抗体は、所望の標的に特異的なハイブリドーマのV領域遺伝子からクローニングすることができる。特定の実施の形態においては、該抗原特異的結合ドメインは、ヒト腫瘍抗原ポリペプチドに結合するヒト化されたscFvである。
【0070】
細胞療法のための免疫細胞:
樹状細胞(DC)は、哺乳動物免疫系の抗原提示細胞である。樹状細胞の主要な機能は、抗原物質をプロセシングし、それを細胞表面上で免疫系のT細胞に提示することである。樹状細胞は、自然免疫系及び適応免疫系の間のメッセンジャーとして働く。樹状細胞は、外部環境と接触する組織、例えば皮膚(そこには、ランゲルハンス細胞と呼ばれる分化された樹状細胞タイプが存在する)、並びに鼻、肺、胃、及び腸の内層中に存在する。樹状細胞は、未熟な状態で血中に見出されることもある。活性化されると、該細胞はリンパ節に遊走し、そこでT細胞及びB細胞と相互作用することで、適応免疫応答を開始して形作る。それらの特性のため、樹状細胞は、抗原送達のための天然の作用物質となり、DCを伴うワクチン接種方略が開発された。DCワクチン接種の目的は、腫瘤を特異的に減少させることができ、かつ免疫記憶を引き起こして腫瘍再発を抑えることができる腫瘍特異的エフェクターT細胞を誘導することである。この方法においては、第一工程は、腫瘍特異的抗原を有するDCを準備することである。これは、患者から得られたDCをアジュバント(DC成熟を引き起こす)及び腫瘍特異的抗原と一緒にex vivoで培養し、これらの細胞を患者に注射により戻すか、又はDCをin vivoで誘導して、腫瘍特異的抗原を取得することによって達成することができる。DCワクチン接種方略の治療的使用を改善するために、DCと一緒に本発明によるMSCを同時投与することが想定される。
【0071】
単球は、白血球細胞(白血球)の1つのタイプである。単球は、全ての白血球のうちで最も大きいものである。単球は、全ての哺乳動物(ヒトを含む)を含む脊椎動物の自然免疫系の一部である。単球は、造血幹細胞から分化した2分化能細胞である単芽球と呼ばれる前駆体から骨髄により産生される。単球は、約1日〜3日にわたり血流中を循環し、その後に一般的には体中の組織へと移動する。単球は、血中の白血球の3%から8%を占める。組織中で、単球は種々の解剖学的な位置で種々のタイプのマクロファージへと成熟する。
【0072】
マクロファージは、時には、大食細胞とも呼ばれ、それらは、組織中での単球の分化により生成される細胞である。単球及びマクロファージは、食細胞である。マクロファージは、非特異的防御機構(自然免疫)において機能するだけでなく、脊椎動物の特定の防御機構(適応免疫)の開始の手助けもする。キラー表現型を主として発現するマクロファージは、M1マクロファージと呼ばれる一方で、組織補修に関係するマクロファージは、M2マクロファージと呼ばれる。マクロファージの役割は、細胞片及び病原体を、静止細胞又は移動細胞のいずれかとして、貪食し又は飲み込み、その後に消化することである。マクロファージはまた、リンパ球及びその他の免疫細胞を刺激して、病原体に応答する(Palucka K et al. Nat Rev Cancer. 2012 Mar 22;12(4):265-77. doi: 10.1038/nrc3258)。マクロファージは、外来物質、感染性微生物、及び癌細胞を破壊及び摂食により攻撃する分化された貪食細胞である。
【0073】
自然リンパ球(ILC)は、リンパ球系譜(リンパ球)に属するが、B細胞受容体又はT細胞受容体を欠いているため抗原特異的に応答しない自然免疫細胞の1つの群である。この比較的新しく記載された細胞の群は、種々の生理学的機能を有し、その幾つかはヘルパーT細胞と類似しているが、細胞毒性NK細胞も含んでいる。したがって、自然リンパ球は、保護免疫並びにホメオスタシス及び炎症の制御において重要な役割を有する。ナチュラルキラー(NK)細胞は、適応免疫系の細胞毒性T細胞と類似した細胞毒性自然エフェクター細胞である。ナチュラルキラー細胞は、血液、器官、及びリンパ系組織全体にわたって分布しており、末梢血リンパ球の約15%を成すものである。NK細胞は、腫瘍監視及びウイルス感染細胞の迅速な排除の役割を担う。NK細胞は、MHCクラスIのミッシング「セルフ」シグナルを必要とせず、抗体の不存在下でストレスのかかった細胞を認識することができ、こうして適応免疫系よりも大幅に素早く反応することが可能となる。ナチュラルキラー(NK)細胞は、癌に対する宿主免疫において重要な役割を担う。応答において、癌は、NK細胞の攻撃を免れる機構又は欠陥NK細胞を誘導する機構を発揮する(Cheng M et al. Cell MolImmunol. 2013 May;10(3):230-52. doi: 10.1038/cmi.2013.10. Epub 2013 Apr 22.)。最近のNK細胞を基礎とする癌免疫療法は、幾つかのアプローチを使用してNK細胞の麻痺を克服することを目的とし、そしてMSCの組み合わせ投与は、NK細胞を基礎とする療法をより効果的なものにするのに役立つかもしれない。
【0074】
顆粒球は、細胞質中に顆粒が存在することを特徴とする、好中球、好酸球、好塩基球、及び肥満細胞を含む白血球細胞の1つのカテゴリーである。
【0075】
免疫療法:
本明細書で使用される場合に、「免疫療法」は、腫瘍物質を打ち消し又は破壊する免疫系の手段を使用する、任意の種類の腫瘍に対する治療的アプローチ又は処置を含む。免疫療法には、限定されるものではないが、免疫チェックポイント調節物質、免疫細胞療法、免疫細胞又は免疫応答を調節するその他の細胞の養子移入、小分子又はバイオ医薬品、例えばモノクローナル抗体、サイトカイン、ケモカイン、及び癌治療ワクチンによる免疫細胞の調節が含まれる。したがって、免疫療法は、本発明においては、免疫系を使用して癌を治療する治療剤を含むと解釈されるべきである。
【0076】
免疫療法は、限定されるものではないが、細胞療法及びバイオ医薬品療法及び抗体療法、並びに腫瘍に対する免疫応答の変更を誘導する小分子の使用を包含する。
【0077】
細胞療法は、一般的に、患者の血液又は腫瘍から単離された免疫細胞の投与を伴う。治療されるべき腫瘍に対する免疫細胞は、活性化され、培養され、そして患者に戻され、そこで免疫細胞は癌を攻撃する。このように使用することができる細胞タイプは、限定されるものではないが、ナチュラルキラー細胞、リンホカイン活性化キラー細胞、細胞毒性T細胞、単球、マクロファージ、顆粒球、及び樹状細胞である。樹状細胞療法は、樹状細胞に腫瘍抗原の提示を引き起こすことにより、抗腫瘍応答を誘発する。樹状細胞は、リンパ球に対して抗原を提示し、その抗原はリンパ球を活性化し、上記抗原を提示するその他の細胞を死滅させるようにリンパ球が刺激される。
【0078】
免疫療法における上記のこれまでの試みに対する1つのアプローチは、患者自身の免疫細胞をそれらの腫瘍を認識及び攻撃するように操作することを必要とする。そして、養子細胞移入(ACT)と呼ばれるこのアプローチは、これまで臨床試験に限られていたが、これらの操作された免疫細胞を使用した治療は、進行した癌を伴う患者において治療応答を生じた。
【0079】
したがって、本発明は、養子細胞移入と、本明細書に記載されるMSCの投与との組み合わせを包含する。免疫細胞(例えば、CAR-T)の前又はそれと同時にMSCを投与することで、CAR-T、TCR-遺伝子導入T細胞、in vitroで増殖されたT細胞、又は養子細胞移入の間に投与されるその他の免疫エフェクター細胞の抗腫瘍活性が高められるであろうことは、本発明の範囲内に包含される。MSCの存在は、T細胞の活性化を局所的にのみ、好ましくは腫瘍内又は腫瘍近傍で高め、引き続きメモリーエフェクター細胞の表現型に導くこととなり、それにより該処置の治療効果が延長される。
【0080】
養子細胞移入は、T細胞を基礎とする細胞毒性応答を使用することで、癌細胞を攻撃する。患者の癌に対して天然の反応性又は遺伝子操作された反応性を有するT細胞は、in vitroで作製され、その後に癌患者へと移入により戻される。自家腫瘍浸潤性リンパ球は、転移性黒色腫を伴う患者のために有効な処置として使用されている。この処置は、患者の腫瘍で見られるT細胞を採取し、それらを、悪性細胞を攻撃するようにトレーニングすることによって達成することができる。これらのT細胞は、腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)と呼称され得る。そのようなT細胞は、MSCの存在によりinvivoで刺激することもできる。
【0081】
本発明は、抗腫瘍免疫応答の、好ましくはTIL、操作された若しくは天然の細胞毒性T細胞及び/又はNK細胞によって媒介された局所的な刺激及び組織局在化された刺激のための新規の手段を提供する。
【0082】
生物学(的)医薬製品、生物学的製剤又は生物学製剤としても知られるバイオ医薬品は、生物学的起源において製造された、生物学的起源から抽出された、又は生物学的起源から半合成された任意の医薬製品である。バイオ医薬品には、限定されるものではないが、ワクチン、血液、又は血液成分、並びに組み換え治療タンパク質、例えば抗体、サイトカイン、ケモカイン、及び融合タンパク質が含まれる。バイオ医薬品は、糖、タンパク質、若しくは核酸、又はこれらの物質の複合組み合わせ物から構成され得る。バイオ医薬品は、ヒト、動物、又は微生物を含む天然の起源から単離される。
【0083】
抗体は、細胞表面上の標的抗原に結合する免疫系によって産生されるタンパク質である。癌抗原に結合する抗体は、癌の治療のために使用することができる。本発明のMSCは、細胞ベースの免疫療法又は抗体ベースの免疫療法を、MSC固有の特性に由来するその独特の特性によって支援し、及び/又は高めることが可能である。
【0084】
用語「小分子」は、生物学的過程の制御を補助し得る低分子量(900ダルトン未満)有機化合物に関連する。小分子アプローチによる免疫系の調節は、その他の免疫療法を補い、かつ該免疫療法と潜在的に相乗的に作用する幾つかの独特の利点を提供する。小分子は、表面酵素連結型受容体、及び腫瘍微小環境と相互作用するか又は代謝酵素を阻害しさえもする受容体に対するアンタゴニストとして働き得る。そのような分子は、それらの受容体に結合するそれぞれのリガンドにより開始されるシグナル伝達を直接的に阻害すること、抗体及びその他の免疫調節分子を動員すること、又は種々の免疫細胞の増殖を促進若しくは抑制して特定の種類の癌細胞を標的化することが分かっている。
【0085】
そのような免疫応答調節性物質には、例えば、イミキモド、前立腺癌を標的とする抗体動員分子、インテグリン受容体アンタゴニスト、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ阻害剤、エモジン、RORγtアンタゴニスト、エフリン受容体アンタゴニスト、膜結合炭酸脱水酵素IX(CAIX)阻害剤、及びIyver VV(AnticancerAgents Med Chem. 2015;15(4):433-52.)により記載される選択されたプロテインキナーゼ阻害剤が含まれる。
【0086】
治療:
被験体又は患者、例えば治療又は予防を必要とする被験体は、動物、脊椎動物、哺乳動物、齧歯類(例えば、モルモット、ハムスター、ラット、マウス)、ネズミ科動物(例えば、マウス)、イヌ科動物(例えば、イヌ)、ネコ科動物(例えば、ネコ)、ウマ科動物(例えば、ウマ)、霊長類、サル類(例えば、サル又は類人猿)、サル(例えば、マーモセット、ヒヒ)、類人猿(例えば、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、テナガザル)、又はヒトとすることができる。用語「動物」、「哺乳動物」等の意味は、当該技術分野で良く知られており、例えばWehner及びGehring(1995; Thieme Verlag)から系統をたどることができる。本発明においては、動物は、特に、経済学的に、農業経済学的に、又は科学的に重要な動物が治療されるべきであると考えられる。好ましくは、被験体/患者は、哺乳動物である。より好ましくは、被験体/患者は、ヒトである。
【0087】
癌は、身体の任意の部分を冒す可能性があり、かつ異常な細胞生育及び増殖により引き起こされる疾患の1つの群を含む。これらの増殖する細胞は、周囲組織を侵害する可能性があり、及び/又は身体のその他の部分に拡がって、そこで転移を形成する可能性がある。世界中で、1400万件の新たな癌の事例が確認され、2012年には820万件の癌関連死が報告されている(World Cancer Report 2014)。大部分の癌は、なかでも喫煙、肥満及び感染症に関係する環境シグナルにより引き起こされるが、約5%〜10%は、遺伝的な事例である。癌は、起源の細胞に基づいてサブカテゴリーに分類され得る。最も一般的なサブカテゴリーは、上皮細胞由来の癌腫、結合組織由来の肉腫、並びに造血細胞由来のリンパ腫及び白血病である。癌は、非常に様々な局所的症状及び全身的症状を伴い、多くの場合には治療することができない。多数の新たな癌患者及び癌関連死を考慮すれば、新規の治療方略が必要とされる。
【0088】
本発明による癌とは、哺乳動物において見られる、白血病、肉腫、黒色腫、及び癌腫を含む全ての種類の癌又は新生物又は悪性腫瘍を指す。固形腫瘍及び/又は液性腫瘍(例えば、白血病又はリンパ腫)のどちらも治療することができる。
【0089】
白血病には、限定されるものではないが、急性非リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、急性顆粒球性白血病、慢性顆粒球性白血病、急性前骨髄球性白血病、成人T細胞白血病、非白血性白血病、白血球性白血病、好塩基球性白血病、芽細胞性白血病、ウシ白血病、慢性骨髄球性白血病、皮膚白血病、胚性白血病、好酸球性白血病、グロス白血病、ヘアリー細胞白血病、血芽球性白血病、血球芽細胞白血病、組織球性白血病、幹細胞白血病、急性単球性白血病、白血球減少性白血病、リンパ性白血病、リンパ芽球性白血病、リンパ球性白血病、リンパ行性白血病、リンパ様白血病、リンパ肉腫細胞白血病、肥満細胞白血病、巨核球性白血病、小骨髄芽球性白血病、単球性白血病、骨髄芽球性白血病、骨髄球性白血病、骨髄顆粒球性白血病、骨髄単球性白血病、ナエゲリ白血病、形質細胞白血病、形質細胞性白血病、前骨髄球性白血病、リーダー細胞白血病、シリング白血病、幹細胞白血病、亜白血性白血病、及び未分化細胞白血病が含まれる。
【0090】
肉腫には、限定されるものではないが、軟骨肉腫、線維肉腫、リンパ肉腫、黒色肉腫、粘液肉腫、骨肉腫、アバーネシー肉腫、脂肪肉腫、リポ肉腫、胞巣状軟部肉腫、エナメル上皮肉腫、ブドウ状肉腫、緑色肉腫、絨毛膜癌、胎児性肉腫、ウィルムス腫瘍肉腫、子宮内膜肉腫、間質肉腫、ユーイング肉腫、筋膜肉腫、線維芽肉腫、巨大細胞肉腫、顆粒球性肉腫、ホジキン肉腫、特発性多発性色素性出血性肉腫、B細胞の免疫芽球性肉腫、リンパ腫、T細胞の免疫芽球性肉腫、ジェンセン肉腫、カポジ肉腫、クッパー細胞肉腫、血管肉腫、白血肉腫、悪性間葉系腫瘍、傍骨性骨肉腫、細網肉腫、ラウス肉腫、漿液嚢胞性肉腫、滑膜肉腫、及び毛細血管拡張性肉腫が含まれる。
【0091】
黒色腫には、限定されるものではないが、例えば、末端黒子型黒色腫、メラニン欠如性黒色腫、良性若年性黒色腫、クラウドマン黒色腫、S91黒色腫、ハーディング−パッセー黒色腫、若年性黒色腫、悪性黒子型黒色腫、悪性黒色腫、結節型黒色腫、爪下黒色腫、及び表在拡大型黒色腫が含まれる。
【0092】
癌腫には、限定されるものではないが、腺房癌、小葉癌、腺嚢癌、腺様嚢胞癌、腺癌、副腎皮質癌、肺胞上皮癌、肺胞上皮細胞癌、基底細胞癌(basalcell carcinoma)、基底細胞癌(carcinoma basocellulare)、類基底細胞癌、基底有棘細胞癌、細気管支肺胞上皮癌、細気管支癌、気管支原性癌、大脳様癌、胆管細胞癌、絨毛癌、膠様癌、面皰癌、子宮体癌、篩状癌、鎧状癌、皮膚癌、円柱状癌、円柱状細胞癌、腺管癌、硬性癌腫、胚性癌腫、脳様癌、類表皮癌、腺様上皮癌、外向方発育癌、潰瘍性癌、線維性癌、ゼラチン状癌、ゼラチン様癌、巨大細胞癌、巨大細胞様癌、腺癌、顆粒膜細胞癌、毛母癌、肝様癌、肝細胞癌、ヒュルトレ細胞癌、硝子状癌、副腎様癌、小児胚性癌、上皮内癌、表皮内癌、上皮内癌、クロムペッカー癌、クルチツキー細胞癌、大細胞癌、レンズ状癌(lenticularcarcinoma)、レンズ状癌(carcinoma lenticulare)、脂肪腫、リンパ上皮癌、髄様癌(carcinomamedullare)、髄様癌(medullary carcinoma)、悪性黒色腫、軟性癌、粘液性癌、粘液癌、粘液細胞癌、粘液性類表皮癌、粘膜癌(carcinomamucosum)、粘膜癌(mucous carcinoma)、粘液腫様癌、鼻咽頭癌、燕麦細胞癌、骨化性癌、類骨癌、乳頭癌、門脈周辺癌、前浸潤癌、有棘細胞癌、髄質様癌、腎臓の腎細胞癌、補充細胞癌、肉腫様癌、シュナイダー癌、スキルス癌、陰嚢癌、印環細胞癌、単純癌、小細胞癌、ソレノイド(solenoid)癌、球状細胞癌、紡錘細胞癌、海綿癌、扁平上皮癌、扁平細胞癌、弦状癌、血管拡張性癌、毛細血管拡張性癌、移行上皮癌、結節性癌(carcinomatuberosum)、結節性癌(tuberous carcinoma)、疣状癌、及び絨毛状癌が含まれる。
【0093】
更なる癌には、限定されるものではないが、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、乳癌、卵巣癌、肺癌、横紋筋肉腫、原発性血小板血症、原発性マクログロブリン血症、小細胞肺腫瘍、原発性脳腫瘍、胃癌、結腸癌、悪性膵臓インスリノーマ、悪性カルチノイド、膀胱癌、前悪性皮膚病変、睾丸癌、リンパ腫、甲状腺癌、食道癌、尿生殖路癌、悪性高カルシウム血症、子宮頚癌、子宮内膜癌、副腎皮質細胞癌、及び前立腺癌が含まれる。
【0094】
幾つかの実施の形態においては、「腫瘍」は、限定されるものではないが、前立腺腫瘍、膵臓腫瘍、扁平上皮細胞癌、乳房腫瘍、黒色腫、基底細胞癌、肝細胞癌、胆管細胞癌、睾丸癌、神経芽細胞腫、神経膠腫、又は悪性神経膠星状細胞腫瘍、例えば多形性神経膠芽細胞種、結腸直腸腫瘍、子宮内膜癌、肺癌、卵巣腫瘍、子宮頚部腫瘍、骨肉腫、横紋筋肉腫/平滑筋肉腫、滑膜肉腫、血管肉腫、ユーイング肉腫/PNET、及び悪性リンパ腫を含むものとする。これらは、原発性腫瘍だけでなく、転移性腫瘍(血管新生化又は非血管新生化の両方)を含む。
【0095】
間葉系幹細胞:
本明細書に開示される「間葉系幹細胞」は、好ましくは、骨髄及びその他の組織中に存在する非造血由来の細胞である。MSCの同定及び命名法は、国際細胞治療学会(ISCT)の間葉系幹細胞及び組織幹細胞委員会により明らかにされている。その学会では、MSCを定義するための一連の最小基準が提案されている。一般的に、MSCは、結合組織、骨、軟骨、並びに循環系及びリンパ系における細胞を生じ得る。間葉系幹細胞は、密集度が低い、紡錘状の、又は星状の未分化細胞からなる胚体中胚葉の一部である間葉中に見られる。本明細書で使用される場合に、間葉系幹細胞には、限定されるものではないが、CD34陰性幹細胞が含まれる。
【0096】
本発明の一実施の形態においては、間葉系幹細胞は、プラスチック付着性細胞であり、幾つかの実施の形態においては、複能性(multipotent)間葉系間質細胞として定義され、それにはまたCD34陰性細胞も含まれる。何らかの誤解を避けるため、間葉系幹細胞という用語は、in vivoで多数の細胞タイプに分化可能な複能性又は多能性自己再生細胞から構成される間葉系細胞、MSC及びそれらの前駆体の部分集合をも含む複能性間葉系間質細胞を包含する。
【0097】
本明細書で使用される場合に、CD34陰性細胞は、CD34を欠いた細胞、又はその表面上に僅かなレベルのCD34しか発現しない細胞を意味するものとする。CD34陰性細胞、及びそのような細胞の単離方法は、例えばLange C. et al.,"Accelerated and safe expansion of human mesenchymal stromal cells inanimal serum-free medium for transplantation and regenerative medicine".J. Cell Physiol. 2007, Apr. 25に記載されている。
【0098】
間葉系幹細胞は、造血幹細胞(HSC)とは多くの指標により区別することができる。例えば、HSCは、培養中に浮遊し、かつプラスチック表面に付着しないことが知られている。それに対して、間葉系幹細胞は、プラスチック表面に付着する。本発明のCD34陰性間葉系幹細胞は、培養において付着性である。
【0099】
遺伝子改変
MSC又は任意のその他の治療用細胞、例えば本明細書に記載される免疫細胞は、外因性核酸、例えば導入遺伝子、例えば外因性核酸からの治療用遺伝子産物を発現するように遺伝子改変され得る。本明細書で使用される場合に、「遺伝子改変された」とは、核酸等の改変された遺伝物質を保有する任意の種類の細胞又は生物を意味するものとする。本明細書で使用される場合に、「核酸」は、限定されるものではないが、DNA、RNA及びそれらのハイブリッド又は改変された変異体を含む任意の核酸分子を意味するものとする。「外因性核酸」又は「外因性遺伝因子」は、細胞の「当初の」又は「天然の」ゲノムの成分ではない、細胞中に導入された任意の核酸に関連している。外因性核酸は、標的の間葉系幹細胞の遺伝物質における組み込み型若しくは非組み込み型であってもよく、又は安定的に形質導入された核酸に関連し得る。
【0100】
哺乳動物細胞の遺伝子改変は、当業者により通常利用可能な技術を使用して調べることができる。例えば、改変された細胞のゲノム又はその部分のシーケンシングが可能であり、それにより外因性核酸が存在するかが確認される。あるいはその他の分子生物学的技術、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を適用することで、外因性遺伝物質を同定/増幅することができる。外因性核酸は、遺伝子改変部位に残っているベクター配列又はベクター配列の部分によって検出することができる。ベクター配列(例えば、治療用導入遺伝子に隣接するベクター配列)がゲノムから除去され得る場合に、治療用導入遺伝子の付加は、シーケンシング成果によりゲノム中の「非天然」位置に治療用遺伝子が組み込まれたゲノム配列を検出することにより依然として検出することができる。
【0101】
あらゆる所与の遺伝子送達法も本発明により包含され、それは、好ましくはウイルスベクター又は非ウイルスベクター、及び生物学的又は化学的なトランスフェクション法に関連する。該方法により、使用された系における安定な遺伝子発現又は一過性の遺伝子発現のいずれかを得ることができる。
【0102】
遺伝子改変されたウイルスは、幹細胞中への遺伝子送達のために広く適用されている。ウイルスベクターは、本発明の遺伝子改変において使用することができる。
【0103】
本明細書に記載されるMSCの遺伝子改変のために好ましいウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、特にガンマレトロウイルスベクターに関連する。ガンマレトロウイルス(時には、哺乳類C型レトロウイルスと呼ばれる)は、レンチウイルスクレードの姉妹属であり、レトロウイルス科のオルソレトロウイルス亜科の一員である。マウス白血病ウイルス(MLV又はMuLV)、ネコ白血病ウイルス(FeLV)、異種指向性マウス白血病ウイルス関連ウイルス(XMRV)及びテナガザル白血病ウイルス(GALV)は、ガンマレトロウイルス属の一員である。当業者は、MSCの遺伝子改変におけるガンマレトロウイルスの利用に必要な技術を認識している。例えばMaetzigら(Gammaretroviral vectors: biology,technology and application, 2001, Viruses Jun;3(6):677-713)により記載されたベクター又は同様のベクターを使用することができる。例えば、マウス白血病ウイルス(MLV)といった単純ガンマレトロウイルスは、ガンマレトロウイルスで改変されたMSCが生成され、被験体へと送達した後に上記MSCから治療用導入遺伝子が発現されるという点で、遺伝子治療薬の効果的な運搬体へと変えることができる。
【0104】
アデノウイルス、又はRNAウイルス、例えばレンチウイルス、又はその他のレトロウイルスを適用することができる。アデノウイルスを使用して、遺伝子移入細胞工学のための一連のベクターが作製されている。初代のアデノウイルスベクターは、(ウイルス複製に必要とされる)E1遺伝子を欠失させ、4 kbのクローニング能を有するベクターを作製することによって作製された。E3(宿主免疫応答を担う)を更に欠失させることで、8 kbのクローニング能が可能となった。更なる世代は、E2及び/又はE4の欠失を含むよう作製された。レンチウイルスは、レトロウイルス科の一員のウイルスである(M. Scherr et al., Gene transfer into hematopoietic stem cells usinglentiviral vectors. Curr Gene Ther. 2002 Feb; 2(1):45-55)。レンチウイルスベクターは、LTR及びシスに作用するパッケージングシグナルを除き、全ウイルス配列を欠失することにより作製される。得られたベクターは、約8 kbのクローニング能を有する。レトロウイルスベクター由来のこれらのベクターの1つの際だった特徴は、分裂細胞及び非分裂細胞、並びに最終分化細胞に形質導入する能力である。
【0105】
非ウイルス的方法、例えば従来のプラスミド移入、及びインテグラーゼ又はトランスポサーゼ技術を使用することによる標的遺伝子組み込みの適用を含む代替的方略を使用することもできる。これらの方法は、組み込みにおいて効率的であり、かつしばしば部位特異的であるという両方の利点を有するベクター形質転換のためのアプローチに相当する。ベクターを細胞中に導入する物理的方法は、当業者に知られている。1つの例は、静電容量を超えることにより膜に一時的な孔を生成する短時間の高電圧電気パルスの使用によるエレクトロポレーションに関連する。この方法の1つの利点は、ほとんどの細胞タイプにおける安定な遺伝子発現及び一過性の遺伝子発現の両方のために利用することができることである。代替的方法は、リポソーム又はタンパク質形質導入ドメインの使用に関連する。適切な方法は、当業者に知られており、本発明の実施の形態を限定するものと解釈されるものではない。
【0106】
したがって、本発明は、養子細胞移入と、本明細書に記載されるMSCの投与との組み合わせを包含する。免疫細胞(例えば、CAR-T)の前又はそれと同時にMSCを投与することで、CAR-T、TCR-遺伝子導入T細胞、in vitroで増殖されたT細胞、又は養子細胞移入の間に投与されるその他の免疫エフェクター細胞の抗腫瘍活性が高められるであろうことは、本発明の範囲内に包含される。MSCの存在は、T細胞の活性化を全身的及び/又は局所的のいずれかで、好ましくは腫瘍内又は腫瘍近傍で高めるが、また治療用細胞の混合物での投与前にCAR-T細胞の活性化又は刺激をもたらすこともできる。
【0107】
投与
本発明は、被験体の血流中に治療的に有効な数の細胞を導入することによる患者の治療を包含する。本明細書で使用される場合に、「被験体の血流中に」細胞を「導入する」ことは、限定されるものではないが、そのような細胞を被験体の静脈又は動脈の一方に注射を介して導入することを含むものとする。そのような投与は、例えば1回で、複数回で、及び/又は1つ以上の延長された期間にわたり行うこともできる。単回注射が好ましいが、一定時間をかけた(例えば、毎週、毎月、年4回、半年毎、又は毎年での)反復注射が、幾つかの場合においては必要となる場合がある。そのような投与はまた、好ましくはCD34陰性細胞及び医薬品に許容可能な担体の混合物を使用して行われる。医薬品に許容可能な担体は、当業者に良く知られており、該担体には、限定されるものではないが、0.01 M〜0.1 Mの、好ましくは0.05Mのリン酸緩衝液又は0.8%の生理食塩水、及び通常使用される有標の凍結保存媒体が含まれる。
【0108】
投与はまた、局所的に、例えば被験体の腫瘍疾患近傍の身体領域に注射することにより行うこともできる。MSCは、癌性組織に向かって遊走することが分かっている。とにかく、本明細書に記載される細胞の局所投与は、作用部位での高レベルの細胞に導くことができる。
【0109】
さらに、そのような医薬品に許容可能な担体は、水性又は非水性の溶液、懸濁液、及びエマルジョンとすることができ、最も好ましくは水溶液である。水性担体には、生理食塩水及び緩衝媒体を含む、水、アルコール性/水性の溶液、エマルジョン、及び懸濁液が含まれる。非経口ビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース、及び塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液、並びに不揮発性油が含まれる。静脈内用ビヒクルには、補液及び栄養補充薬、電解質補充薬、例えばリンゲルデキストロース、リンゲルデキストロースを基礎とする補充薬等が含まれる。静脈内投与のために通常使用される流体は、例えばRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Ed., p. 808,Lippincott Williams S- Wilkins (2000)に認められる。例えば抗微生物剤、酸化防止剤、キレート化剤、不活性ガス等のような保存剤及びその他の添加剤が存在してもよい。
【0110】
一実施の形態においては、治療的に有効な数の細胞が投与される。これは、組み合わせ抗腫瘍免疫療法としての、本発明のMSC、又は治療用免疫細胞のいずれかに関連し得る。本明細書で使用される場合に、「治療的に有効な数の細胞」には、限定されるものではないが、以下の量及び量の範囲:(i)体重1 kg当たりに約1×10
2個から約1×10
8個までの細胞、(ii)体重1 kg当たりに約1×10
3個から約1×10
7個までの細胞、(iii)体重1kg当たりに約1×10
4個から約1×10
6個までの細胞、(iv)体重1 kg当たりに約1×10
4個から約1×10
5個までの細胞、(v)体重1 kg当たりに約1×10
5個から約1×10
6個までの細胞、(vi)体重1 kg当たりに約5×10
4個から約0.5×10
5個までの細胞、(vii)体重1 kg当たりに約1×10
3個の細胞、(viii)体重1 kg当たりに約1×10
4個の細胞、(ix)体重1 kg当たりに約5×10
4個の細胞、(x)体重1 kg当たりに約1×10
5個の細胞、(xi)体重1 kg当たりに約5×10
5個の細胞、(xii)体重1 kg当たりに約1×10
6個の細胞、及び(xiii)体重1 kg当たりに約1×10
7個の細胞が含まれる。想定されるヒトの体重には、限定されるものではないが、約5 kg、10 kg、15 kg、30 kg、50 kg、約60 kg、約70 kg、約80 kg、約90 kg、約100 kg、約120 kg、及び約150kgが含まれる。これらの数は、前臨床動物実験及び人体試験、並びにCD34陽性造血幹細胞の移植からの標準的プロトコルに基づいている。単核細胞(CD34陽性細胞を含む)は、通常は1:23000から1:300000の間のCD34陰性細胞を含む。これらの細胞数は、MSCに、又は抗腫瘍細胞免疫療法に該当し得る。
【0111】
本明細書で使用される場合に、障害に罹患した被験体の「治療」は、障害の進行の遅延、停止、又は逆行を意味するものとする。好ましい実施の形態においては、障害に罹患した被験体の治療は、障害の進行の逆行、理想的にはその障害自体のない時点までの逆行を意味する。本明細書で使用される場合に、障害の改善及び障害の治療は等価である。本発明の治療は、更に又はその一方で、上記細胞の予防的投与に関連し得る。そのような予防的投与は、任意の所与の医学的障害の防止、又は上記障害の発症の防止に関連する場合があり、それにより、防止又は予防は、全ての状態において完全な防止として狭義に解釈されるべきではない。防止又は予防は、好ましくは上記状態の危険がある被験体における、任意の所与の医学的状態を発症している被験体の危険性を低減させることにも関連し得る。
【0112】
間葉系幹細胞及び/又は免疫細胞を取得する被験体は、その細胞を培養後に投与することを意図している被験体と同じ被験体であってもよい。したがって、そのような細胞は、自家細胞とみなすことができる。しかしながら、該細胞は、意図される患者とは異なる被験体から得てもよく、したがってその細胞は、同種異系細胞とみなされる。本明細書で使用される場合に、或る細胞が被験体に対して「同種異系」であるのは、その細胞又は該細胞の前駆細胞のいずれかが同じ種の別の被験体由来である場合である。本明細書で使用される場合に、或る細胞が被験体に対して「自家」であるのは、その細胞又は該細胞の前駆細胞が同じ被験体由来である場合である。好ましい一実施の形態においては、免疫細胞は、医学的治療される被験体にとっての自家細胞である。
【0113】
本明細書に記載される1つ以上の細胞は、該細胞が、固体形、液体形、又はエアロゾル形で投与されるかどうか、そして該細胞が、注射のような投与形路の場合に無菌である必要があるかどうかに依存して様々な種類の担体を含み得る。本発明は、当業者に知られているように、静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜腔内、気管内、鼻内、硝子体内、膣内、直腸内、局所的、腫瘍内、筋肉内、腹腔内、皮下、結膜下、膀胱内、粘膜的、心膜内、臍帯内、眼内、経口的、局所的、局部的、吸入(例えば、エアロゾル吸入)、注射、注入、持続注入、標的細胞に直接的に流す局所灌流、カテーテルを介して、潅注を介して、クリームにおいて、脂質組成物(例えば、リポソーム)において、又はその他の方法若しくは上記の任意の組み合わせにより投与することができる(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company,1990を参照、その文献は引用することにより本出願の一部をなす)。
【0114】
組み合わせ投与:
「組み合わせ投与」は、上記免疫療法(好ましくは、CAR-T細胞処置)の前に、その間に、及び/又はその後に上記間葉系幹細胞の同時及び/又は順次の投与に関連し得る。組み合わせ処置には、上記処置のいずれかの治療用成分の多回投与を含む組み合わせ処置方式も含まれるものとする。組み合わせ投与の更なる実施の形態は、本明細書に示されている。
【0115】
組み合わせ投与は、同時処置、併用処置、又は共同処置を包含し、MSCと免疫療法、例えばチェックポイント阻害薬及び/又は免疫細胞との別々の製剤の投与を含み、その際、処置は、互いに数分内に、互いに同1時間内に、同日に、同週に、又は同月に行われ得る。組み合わされた作用物質(例えば、MSC、免疫細胞、及び/又はチェックポイント阻害薬)の任意の所与の組み合わせの順次の投与も、用語「組み合わせ投与」に包含される。上記MSCの1つ以上と、別の免疫療法薬、例えばチェックポイント阻害薬及び/又は免疫細胞とを含む組み合わせ医薬は、単回投与又は単回投与量で様々な成分を併用投与するために使用することもできる。
【0116】
組み合わせ免疫療法は、数分間から数週間までの範囲の間隔だけ、好ましくは遺伝子改変されていないMSC、又は遺伝子改変を有するが、免疫刺激性サイトカインをコードする領域を含む外因性核酸を有さないMSCでの処置よりも前に又はその後に行われてもよい。その他の免疫療法剤及びMSCが対象となる部位に個別に投与される実施の形態においては、各々の送達の時間の間にあまり長い時間が経過せず、そのため上記作用物質及びMSCが、処置部位においてなおも有利な複合効果を発揮することができることが一般的に保証されることとなる。そのような場合に、上記細胞と両者のモダリティとが、互いに約12時間〜24時間にわたり、より好ましくは互いに約6時間〜12時間にわたり接触されることとなり、約12時間だけの遅延時間が好ましいと考えられる。幾つかの状況においては、処置の時間を大幅に延長して、それぞれの投与の間に数日間(2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、又は7日間)〜数週間(1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、又は8週間)が経過することが望ましい場合がある。
【0117】
免疫刺激性分子及びサイトカイン:
一実施の形態においては、本発明は、腫瘍の治療において及び/又は抗腫瘍免疫療法のためのアジュバントとして使用するための間葉系幹細胞(MSC)であって、上記治療が、上記間葉系幹細胞と抗腫瘍免疫療法との組み合わせ投与を含み、かつ上記MSCが、遺伝子改変されていないか、又は遺伝子改変されているが、免疫刺激性サイトカイン若しくは抗原非依存性免疫応答を誘導する免疫刺激性分子をコードする外因性核酸を含まない、間葉系幹細胞に関する。
【0118】
用語「免疫刺激性分子」とは、免疫系又は免疫系の任意の構成要素若しくは部分の活性化又は刺激を誘導する任意の分子を指す。この活性化は、抗原依存性又は抗原非依存性であってもよい。
【0119】
本明細書で使用される場合に、免疫系の「抗原依存性」又は「抗原特異的」活性化は、適応免疫系の活性化をもたらす、TCR及びBCRのそれぞれによる抗原認識によるT細胞及びB細胞の活性化に関連する。
【0120】
本明細書で使用される場合に、免疫系の「抗原非依存性」活性化は、T細胞及びB細胞の抗原特異的活性化に依存しない任意の種類の免疫系の刺激に関連する。この活性化は、限定されるものではないが、免疫エフェクター細胞の誘引、メモリー免疫細胞の成熟の促進、炎症又は本明細書で挙げられるような抗原特異的でないその他の免疫応答の誘導に関連する。これらの免疫応答(又は免疫応答の態様)は、免疫応答が(後に)反応し得る特定の抗原にもかかわらず生ずる。したがって、この種の免疫系活性化は、「抗原非依存性」と呼ぶことができる。サイトカインは、本発明の意味における免疫系の既知の抗原非依存性刺激因子又は調節因子の例である。
【0121】
抗原非依存性免疫刺激の場合に、免疫系は、続けて又は組み合わせで、特定の抗原に対する1つ以上の抗原依存性(抗原特異的)反応を起こし得る。例えば、抗原非依存性免疫刺激は、一般的に免疫系の活性化(例えば、エフェクター細胞の富化による)をもたらし、次いでそれが刺激されることにより、活性化T細胞及びB細胞を介して任意の所与の抗原特異的免疫応答(例えば、活性化されたT細胞による腫瘍特異的抗原に対する後続の又は調和した抗原特異的免疫反応)が起こる。したがって、「抗原非依存性免疫応答を誘導する刺激性分子」は、抗原非依存性免疫応答のための刺激性機能を有するが、幾つかの実施の形態においては、抗原依存性免疫応答のための刺激性機能を有し得るか、又は有し得ない分子(サイトカイン等)として理解され得る。
【0122】
免疫刺激性サイトカインは、抗原非依存性免疫刺激を誘導する分子の一実施の形態である。これにおいては、免疫応答刺激性サイトカインは、T細胞等の免疫エフェクター細胞を誘引し、メモリー免疫細胞の成熟を促進することができる。その一方で、抗原非依存性免疫刺激は、刺激部位での炎症状態をもたらし得る。これらのサイトカインの例は、限定されるものではないが、IFNγ、IL-2、IL-12、IL-23、IL-15、及びIL-21である。
【0123】
一実施の形態においては、抗腫瘍免疫療法と組み合わせて投与されるMSCは、遺伝子改変されており、かつ細胞毒性タンパク質又はその他の治療用タンパク質を発現する導入遺伝子を含む。免疫応答は、そのような細胞毒性タンパク質産物又は治療用タンパク質産物に対して生ずることがある。本発明の目的のためには、この免疫反応は、抗原依存性免疫反応とみなされる。幾つかの実施の形態においては、そのような遺伝子改変されて、そのような細胞毒性タンパク質又は治療用タンパク質(抗原非依存性免疫応答を誘導しない)を発現するMSCは、本発明の範囲から除外されない。
【0124】
本発明の幾つかの実施の形態においては、抗原非依存性免疫応答を誘導する免疫刺激性分子、又は免疫刺激性サイトカイン
【0125】
好ましい一実施の形態においては、本発明は、腫瘍の治療での使用のための間葉系幹細胞(MSC)であって、上記治療が、上記間葉系幹細胞と抗腫瘍免疫療法との組み合わせ投与を含み、かつ上記MSCが、遺伝子改変されているが、免疫応答刺激性サイトカインをコードする外因性核酸を含まない、間葉系幹細胞に関する。
【0126】
幾つかの実施の形態においては、免疫応答刺激性サイトカインは、国際公開第2016/026854号に記載される当該分子であり、それは(任意の米国対応を含め)引用することにより本出願の一部をなす。
【0127】
当該技術分野で知られているように、免疫応答刺激性サイトカインは、直接的又は間接的のいずれかで、免疫応答、好ましくは抗原、例えば腫瘍抗原に対する免疫応答の誘導、活性化及び/又は増強をもたらす、又はそれらを生ずる任意のサイトカインとして理解されるべきである。特に、本発明の免疫応答刺激性サイトカインは、好ましくは、腫瘍疾患の治療のために有用な免疫応答の誘導、活性化、及び/又は増強をもたらすサイトカインとみなされる。
【0128】
本発明は、幾つかの実施の形態において、免疫応答刺激性サイトカインが、内因性遺伝子から発現されるが、外因性遺伝子からは発現されないことを特徴とする。
【0129】
免疫応答調節性サイトカイン、免疫応答関連サイトカイン、又は免疫応答刺激性サイトカインをコードする外因性核酸が存在しないことに関する本明細書に開示されるディスクレーマーは、本明細書に開示されるサイトカインの任意の1つ以上に該当し得る。「免疫系」又は「免疫応答」の用語「刺激」及び「活性化」は、互換的に使用することができる。
【0130】
サイトカイン:
サイトカインは、細胞間の媒介物質として働く非抗体タンパク質の雑多な群である。サイトカインは、最近では、様々な障害の治療のための生物学的応答調節物質として臨床的に使用されている。サイトカインという用語は、大きなタンパク質の群を説明するために使用される総称である。特定の種類のサイトカインには、モノカイン、すなわち単核食細胞によって産生されるサイトカイン、リンホカイン、すなわち活性化リンパ球、特にTh細胞により産生されるサイトカイン、インターロイキン、すなわち白血球間の媒介物質として働くサイトカイン、及びケモカイン、すなわち主として白血球遊走の要因となる小さいサイトカインが含まれ得る。サイトカインシグナル伝達は、柔軟であり、保護的応答及び損傷応答の両方を誘導し得る。それらは、カスケードを生じるか、又はその他のサイトカインの産生を増大若しくは抑制することができる。サイトカインの様々な役割にもかかわらず、当業者は、どのサイトカインが免疫応答刺激性であるとみなされ得るか、したがって本明細書に記載される腫瘍疾患の治療に適用され得るかを認識している。
【0131】
以下のサイトカインは、免疫応答刺激性サイトカイン又は免疫応答調節性サイトカインと呼称され得る。抗腫瘍療法において通常使用される2種のサイトカインの群は、インターフェロン及びインターロイキンである。
【0132】
インターフェロンは、抗ウイルス応答に通常関与する免疫系により産生されるサイトカインであるが、癌の治療における有効性も示す。3種の群のインターフェロン(IFN)が存在する:I型(IFNα及びIFNβ)、2型(IFNγ)、及び比較的新しく発見されたIII型(IFNλ)。IFNαは、ヘアリー細胞白血病、AIDS関連カポジ肉腫、濾胞性リンパ腫、慢性骨髄性白血病、及び黒色腫の治療において適用されている。I型及びII型のIFNは、広範囲にわたって調査されており、両方の型は免疫系の抗腫瘍効果を促進するものの、I型IFNだけが、これまで癌治療において臨床的に有効であることが示されていたにすぎない。IFNλは、動物モデルでその抗腫瘍効果について試験されており、将来性が示されている。
【0133】
本発明の幾つかの実施の形態によれば、免疫応答刺激性サイトカイン又は免疫応答調節性サイトカイン(それらの用語は互換的に使用することができる)は、好ましくは、T細胞調節に関与するサイトカイン、又はT細胞に関するエフェクター機能を有するサイトカイン(T細胞調節性サイトカイン)である。これらのサイトカインは、炎症性微小環境の誘導、そしてそれによる腫瘍に対する免疫系の活性化の促進に関して所望の特性を示し、及び/又は抗腫瘍免疫療法的処置の効力を高める。そのようなサイトカインは、T細胞等の免疫エフェクター細胞を誘引し、メモリー免疫細胞の成熟を促進し得る。これらのサイトカインの例は、IFNγ、IL-2、IL-12、IL-23、IL-15、及びIL-21である(Kelley's Textbook of Rheumatology; Firestein et al, 8th ed. (ISBN978-1-4160-3285-4), p367 "Cytokines"を参照)。
【0134】
免疫応答刺激性サイトカインは、炎症性ケモカインであり得る。一実施の形態においては、炎症応答刺激性サイトカインは、T細胞を誘引するための走化性特性を有するケモカイン、例えばCCL1、CCL2及び/又はCCL17である。ケモカインとは、細胞により分泌されるサイトカイン(シグナル伝達タンパク質)のサブグループを指す。サイトカインは、近くの応答性細胞において指向的な走化性を誘導する能力を有し、それらは走化性サイトカインである。タンパク質は、小さいサイズ(一般的に、約8キロダルトン〜10キロダルトンのサイズ)等の共通の構造的特徴、及びその3次元形状の形成に主要な保存された位置における4個のシステイン残基の存在に従ってケモカインとして分類される。サイトカインは、サイトカインのSISファミリー、サイトカインのSIGファミリー、サイトカインのSCYファミリー、血小板因子4スーパーファミリー、又はインタークリンのような択一的な定義で知られている場合がある。ケモカインは、4種の主要なサブファミリー:CXC、CC、CX3C、及びXCに分類されている。これらのタンパク質の全ては、ケモカイン受容体と呼ばれる、それらの標的細胞の表面上に選択的に見られるGタンパク質結合膜貫通型受容体との相互作用によりその生物学的効果を発揮する。炎症性ケモカインの例は、CXCL-8、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5、CCL11、及びCXCL10、CXCL1、CXCL2に関連する。
【0135】
更なる定義:
用語「免疫調節性機能」は、免疫系の任意の成分の機能、作用又は状態に変化又は調節を誘導する分子又は細胞の機能又は特性に関連する。
【0136】
本明細書で使用される用語「間質」は、細胞外マトリックス(ECM)及び間質細胞から通常構成される、組織又は器官(又は腺、組織若しくはその他の構造)の支持骨格を指す。間質は、その器官の主要な機能的要素からなる実質とは異なる。表皮(皮膚の最上層)に隣接した(真皮層中の)間質細胞は、細胞分裂を促進する増殖因子を放出する。間質は、非悪性の宿主細胞からできている。間質は、腫瘍が増殖することができ、又は存在を維持することができ、又は腫瘍自体を免疫環境から隔離することができる細胞外マトリックスを提供する。
【0137】
本明細書で使用される場合に、用語「腫瘍微小環境」は、任意の所与の腫瘍が存在する、腫瘍間質、包囲血管、免疫細胞、線維芽細胞、その他の細胞、シグナル伝達分子、及びECMを含む細胞環境に関連する。
【0138】
本明細書で使用される場合に、「細胞遊走」又は「ホーミング」は、細胞が特定の化学的シグナル又は物理的シグナルに向かって移動することを意味するものと解釈される。細胞は、しばしば、化学的シグナル及び機械的シグナルを含む特定の外部シグナルに応答して遊走する。本明細書に記載されるMSCは、腫瘍組織又はその他の炎症シグナルへとホーミングすることが可能である。
【0139】
走化性は、化学的刺激への応答に関する細胞遊走の1つの例である。ボイデンチャンバーアッセイ等のin vitroでの走化性アッセイを使用して、細胞遊走が任意の所与の細胞において生ずるかどうかを決定することができる。
【0140】
例えば、対象となる細胞は、精製し、分析することができる。走化性アッセイ(例えば、Falk et al., 1980 J. Immuno. Methods 33:239-247による)は、特定の化学的シグナルが、配置されているプレートを使用して対象となる細胞に対して実施することができ、その際に遊出された細胞が回収され、分析される。例えば、ボイデンチャンバーアッセイは、フィルターにより隔離されたチャンバーの使用を要し、走化性挙動の正確な判定のためのツールとして使用される。草分け的なこれらのチャンバーの型式は、Boyden(Boyden (1962) "The chemotacticeffect of mixtures of antibody and antigen on polymorphonuclearleucocytes". J Exp Med 115 (3): 453)により作製された。運動性細胞を、上側のチャンバー中に入れて、その一方で、試験物質を含む流体を、下側のチャンバー中に満たす。調査されるべき運動性細胞のサイズが、そのフィルターの孔径を決める。積極的な遊出が可能な直径を選ぶことが必須である。in vivo条件を模するために、幾つかのプロトコルでは、細胞外マトリックスの分子(コラーゲン、エラスチン等)によりフィルターを被覆することが好ましい。測定の効率は、24個、96個、384個の試料が並行して評価されるマルチウェルチャンバー(例えば、NeuroProbe社)の開発により高めることができる。この別形の利点は、幾つかの対応物が同じ条件でアッセイされることである。
【0141】
本明細書で使用される場合に、「生着」は、植え付けられた又は移植された組織又は細胞が宿主の身体に取り込まれる過程に関連する。生着はまた、移植された細胞が投与後に宿主組織中に組み込まれ、それらが生存し、幾つかの条件下では非幹細胞状態へと分化することに関連し得る。
【0142】
MSCの生着を評価することで、或る程度の遊走及び生体分布の両方を評価するための技術は、in vivo法又はex vivo法のいずれかを包含し得る。in vivo法の例には、細胞に形質導入し、ルシフェラーゼを発現させ、その後に発光をもたらすルシフェリンの代謝によりイメージングすることができる生物発光法、細胞に蛍光色素を負荷する又は形質導入することで、蛍光レポーターを発現させ、その後にイメージングすることができる蛍光法、細胞に放射性核種を負荷し、シンチグラフィーで位置決めする放射性核種標識法、ポジトロン断層法(PET)又は単一光子放射断層撮像法(SPECT)、及び常磁性化合物(例えば、酸化鉄ナノ粒子)で負荷された細胞を、MRIスキャン装置でトレースする磁気共鳴画像法(MRI)が含まれる。生体分布を評価するex vivo法には、定量的PCR、フローサイトメトリー、及び組織学的方法が含まれる。組織学的方法には、蛍光標識された細胞の追跡、in situハイブリダイゼーション、例えばY染色体及びヒト特異的ALU配列についてのin situハイブリダイゼーション、並びに種特異的又は遺伝子導入されたタンパク質、例えば細菌性β-ガラクトシダーゼに対する組織化学的染色が含まれる。これらの免疫組織化学的方法は、生着位置の判別のために有用であるが、組織の切除を必要とする。これらの方法及びその応用の更なるレビューについては、Kean et al., MSCs: Delivery Routes and Engraftment, Cell-TargetingStrategies, and Immune Modulation, Stem Cells International, Volume 2013 (2013)を参照のこと。
【0143】
本明細書で使用される場合に、組織「の近傍」とは、例えば組織の50 mm内、10 mm内、5 mm内、1 mm内、組織の0.5 mm内、及び組織の0.25 mm内が挙げられる。
【0144】
本明細書で述べられる特定の分子は、好ましくは哺乳動物分子、好ましくはヒト分子に関連する。例えば、本明細書で述べられるサイトカイン及び/又はケモカインは、当業者により過度の労力を伴わずに、例えば米国立生物工学情報センター(NCBI)により維持されるような配列データベースから得ることができるので、ヒト配列に関連することが好ましい。タンパク質配列又はタンパク質をコードする核酸配列は、通常知られる配列と比べて、例えばタンパク質配列における、例えば保存的アミノ酸置換によって、又は遺伝暗号の縮重を使用して、コードされたタンパク質配列を変化させることなくコーディング配列を変化させることによって改変されていてもよい。当業者により認識されるように、生物学的分子の配列は、標準的技術を介して変更(変異)させることができ、該配列の特性は、それにより既知の本来の配列と比べて改善又は維持されている。既知の配列の基本的特性を維持するか、又は既知の配列と機能的に同等である任意の改変されたサイトカイン配列は、したがって本発明により包含される。
【0145】
図面
以下の図面は、本発明の特定の実施形態を説明するために本発明の実用化を裏付けることにより表されるが、本発明の範囲又は本明細書に記載される概念を限定するものではない。