(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971995
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】深部移植デバイスにワイヤレス電力を供給するシステム
(51)【国際特許分類】
H01Q 21/06 20060101AFI20211111BHJP
H01Q 7/00 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
H01Q21/06
H01Q7/00
【請求項の数】23
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-541624(P2018-541624)
(86)(22)【出願日】2017年3月8日
(65)【公表番号】特表2019-511857(P2019-511857A)
(43)【公表日】2019年4月25日
(86)【国際出願番号】US2017021403
(87)【国際公開番号】WO2017160560
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2020年2月27日
(31)【優先権主張番号】15/071,113
(32)【優先日】2016年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516035068
【氏名又は名称】ヴェリリー ライフ サイエンシズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】チュー,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】オドリスコール,スティーブン
【審査官】
佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2008/0103558(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第104767284(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/36
H01Q 7/00
H01Q 21/06
H02J 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体の体に移植されたデバイスにワイヤレス電力を供給するアンテナシステムであって、
電源から電力を受け取り、前記電力を移植デバイスに向かって放射する1次アンテナループと、
前記電力の一部分を吸収し、前記吸収した電力を前記移植デバイスに向かって再放射する少なくとも1つの無給電アンテナループであって、前記少なくとも1つの無給電アンテナループが前記1次アンテナループの外側に配置された、少なくとも1つの無給電アンテナループとを含み、
前記1次アンテナループによって放射される前記電力および前記少なくとも1つの無給電アンテナループによって再放射される電力が、前記個体の皮膚の表面に分布し、前記移植デバイスに向かって前記個体の前記体の中に進行するにつれて集束していくワイヤレス電力伝送パターンを形成する、アンテナシステム。
【請求項2】
前記1次アンテナループおよび前記少なくとも1つの無給電アンテナループが、基板上に印刷される、請求項1に記載のアンテナシステム。
【請求項3】
前記1次アンテナループおよび前記少なくとも1つの無給電アンテナループが、前記基板の同じ表面上に印刷される、請求項2に記載のアンテナシステム。
【請求項4】
前記1次アンテナループが、第1の表面上に印刷され、
前記少なくとも1つの無給電アンテナループが、前記基板の第2の表面上に印刷され、
前記第1の表面と前記第2の表面とが異なる表面である、請求項2に記載のアンテナシステム。
【請求項5】
前記第1の表面と前記第2の表面とが、互いに前記基板の反対側にある、請求項4に記載のアンテナシステム。
【請求項6】
前記第2の表面が、前記第1の表面の少なくとも一部分の上に積層される、請求項4に記載のアンテナシステム。
【請求項7】
前記少なくとも1つの無給電アンテナループが、複数の無給電アンテナループを含む、請求項2に記載のアンテナシステム。
【請求項8】
前記無給電アンテナループの一部分が、前記基板上で重なり合う、請求項7に記載のアンテナシステム。
【請求項9】
前記無給電アンテナループが、同じ形状である、請求項7に記載のアンテナシステム。
【請求項10】
前記1次アンテナループおよび前記少なくとも1つの無給電アンテナループが、一様な磁場分布を形成するように周期的に装荷された負荷コンデンサを含む、請求項1に記載のアンテナシステム。
【請求項11】
前記1次アンテナループの負荷容量が、前記少なくとも1つの無給電アンテナループの負荷容量と異なる、請求項10に記載のアンテナシステム。
【請求項12】
前記1次アンテナループと前記少なくとも1つの無給電アンテナループとが、異なる形状である、請求項1に記載のアンテナシステム。
【請求項13】
前記1次アンテナループを前記電源に接続するマッチングネットワークであり、前記アンテナシステムのインピーダンスを前記電源のインピーダンスと一致させるマッチングネットワークをさらに含む、請求項1に記載のアンテナシステム。
【請求項14】
前記少なくとも1つの無給電アンテナループが、前記1次アンテナループに重なっていない、請求項1に記載のアンテナシステム。
【請求項15】
個体の体に移植されたデバイスにワイヤレス電力を供給するアンテナシステムであって、
電源から電力を受け取り、前記電力を移植デバイスに向かって放射する1次アンテナループと、
前記放射された電力が前記個体の前記体に移植されたデバイスに向かって進行するにつれて前記放射された電力を集束させる強め合う干渉パターンを形成する、複数の無給電アンテナループであって、前記複数の無給電アンテナループが前記1次アンテナループの周りに配置された、複数の無給電アンテナループとを含む、アンテナシステム。
【請求項16】
前記1次アンテナループの負荷容量が、前記無給電アンテナループの負荷容量と異なる、請求項15に記載のアンテナシステム。
【請求項17】
前記1次アンテナループおよび前記無給電アンテナループが、可撓性基板上に印刷される、請求項15に記載のアンテナシステム。
【請求項18】
前記1次アンテナループを前記電源に接続するマッチングネットワークであり、前記アンテナシステムのインピーダンスを前記電源のインピーダンスと一致させるマッチングネットワークをさらに含む、請求項15に記載のアンテナシステム。
【請求項19】
前記1次アンテナループおよび前記無給電アンテナループが、金、銅、および銀のうちの少なくとも1つを使用して基板上に印刷される、請求項15に記載のアンテナシステム。
【請求項20】
前記1次アンテナループの大きさが、前記無給電アンテナループの大きさと異なる、請求項15に記載のアンテナシステム。
【請求項21】
前記複数の無給電アンテナループが、前記1次アンテナループに重なっていない、請求項15に記載のアンテナシステム。
【請求項22】
個体の体に移植されたデバイスにワイヤレス電力を供給するアンテナシステムであって、
電源から電力を受け取り、前記電力を移植デバイスに向かって放射する1次アンテナループであり、基板の第1の表面上に印刷される1次アンテナループと、
前記1次アンテナループを前記電源に接続するマッチングネットワークであり、前記第1の表面上に印刷されるマッチングネットワークと、
前記個体の皮膚の表面における前記放射された電力の比吸収率を低下させ、前記放射された電力が前記移植デバイスに向かって進行するにつれて前記放射された電力を集束させることによって前記放射された電力の伝送効率を向上させる、複数の無給電アンテナループであり、前記1次アンテナループの周りに配置されかつ前記基板の第2の表面上に印刷される無給電アンテナループとを含む、アンテナシステム。
【請求項23】
前記複数の無給電アンテナループが、前記1次アンテナループに重なっていない、請求項22に記載のアンテナシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本開示は、一般に、ワイヤレス電力生成システムに関する。さらに詳細には、これに限定されるわけではないが、本開示は、個体またはその他の生物の移植デバイスにワイヤレス電力を供給する非侵襲性システムに関する。
【背景技術】
【0002】
[0002] 個体またはその他の生物の体内に移植されるデバイスなどの移植デバイスは、様々な機能を得るために使用される。例えば、内視鏡カプセルは、患者の胃腸管内で遠隔計測を実行するために移植することができる。別の例として、ブレインコンピュータインタフェースは、様々な認知的および感覚運動的機能を強化および/または修復するために移植することができる。さらに別の例は、個体の生理学的パラメータを感知するためのマイクロセンサである。上記その他の移植デバイスは、データを収集し、収集したデータに基づいて出力を提供し、計算を実行し、かつ/または様々な命令を実施するための様々なサブシステムを含む可能性がある。
【0003】
[0003] 移植デバイスに給電するための様々な技術およびシステムが存在している。1つの技術は、生体外アンテナを使用したワイヤレス電力伝送によって移植デバイスに電力を供給することを含む。この手法には、いくつかの難題および欠点がある。1つの難題は、移植デバイスは体内深く(例えば皮膚の表面下10mm超の深さなど)に存在することがあり、したがって、ワイヤレス電力信号が、移植デバイスに到達するまでに、複数層の体組織(皮膚層、脂肪層、および筋肉層など)を通って進行しなければならないことである。その結果、ワイヤレス電力信号は、連続した体組織層内を進行する間にどんどん減衰し、電力伝送効率が低くなってしまう。
【発明の概要】
【0004】
[0004] 伝送効率の難題に対する1つの解決策は、単純に、生体外アンテナの伝送出力を高めることである。これは、特定のシナリオでは実行可能な解決策であることもあるが、人体という状況では望ましくないこともある。実際に、様々な政府規制および保健規則により、人体に照射することができるエネルギーの量が制限されることがある。したがって、ワイヤレス電力を供給する既存のシステムおよび方法は、人体に照射される電力の量を最小限に抑えながら、効率的に移植デバイスに電力を送達するという難題に対処していない。
【0005】
[0005] 本開示は、移植デバイスに電力をワイヤレスに供給するシステムを含む。例示的な実施形態では、生体外アンテナシステムは、集束したワイヤレス電力を移植デバイスに伝送することができる。
【0006】
[0006] 1つの例示的な実施形態によれば、移植デバイスにワイヤレスに電力を供給する生体外アンテナシステムが提供される。本明細書に開示するように、このアンテナシステムは、1次アンテナループと、少なくとも1つの無給電アンテナループとを含むことがある。1次アンテナループは、電源から電力を受け取り、この電力を移植デバイスに向かって放射する。少なくとも1つの無給電アンテナループは、放射された電力の一部分を吸収し、吸収した電力を移植デバイスに向かって再放射する。1次アンテナループによって放射される電力および少なくとも1つの無給電アンテナループによって再放射される電力は、個体の皮膚の表面に広く分布し、移植デバイスに向かって個体の体の中に進行するにつれて集束していくワイヤレス電力伝送パターンを形成する。
【0007】
[0007] 別の例示的な実施形態によれば、移植デバイスにワイヤレスに電力を供給する生体外アンテナシステムが提供される。この実施形態では、このアンテナシステムは、電源から電力を受け取り、この電力を移植デバイスに向かって放射する1次アンテナループと、放射された電力が移植デバイスに向かって進行するにつれて放射された電力を集束させる強め合う干渉パターンを形成する複数の無給電アンテナループとを含むことがある。
【0008】
[0008] さらに別の例示的な実施形態によれば、移植デバイスにワイヤレスに電力を供給する生体外アンテナシステムが開示される。本明細書に開示するように、アンテナシステムは、電源から電力を受け取り、この電力を移植デバイスに向かって放射する1次アンテナループ1次アンテナループと、1次アンテナループを電源に接続するマッチングネットワークと、個体の皮膚の表面における放射された電力の比吸収率を低下させ、放射された電力が移植デバイスに向かって進行するにつれてこの放射された電力を集束させることによって放射された電力の伝送効率を向上させる、複数の無給電アンテナループとを含むことがある。1次アンテナループおよびマッチングネットワークは、基板の第1の表面上に印刷され、無給電アンテナループは、基板の第2の表面上に印刷される。
【0009】
[0009] 本開示の例示的な実施形態について詳細に説明する前に、本開示の適用が、以下の説明に記載する、または図面に示す構造の詳細および構成要素の配置に限定されないことを理解されたい。本開示は、記載する実施形態の他の実施形態も可能であり、様々な方法で実施および実行することができる。また、本明細書および要約書で利用する語法および用語は、説明のためのものであり、限定的なものとして解釈すべきではないことも理解されたい。
【0010】
[0010] したがって、当業者なら、本開示がその基礎とする概念および特徴は、本開示のいくつかの目的を実施するためのその他の構造、方法、およびシステムを設計する基礎として、容易に利用することができることを理解するであろう。さらに、特許請求の範囲は、本開示の趣旨および範囲を逸脱しない限り、このような等価な構造を含むものとして解釈されるものとする。
【0011】
[0011] 本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付の図面は、本明細書とともに、様々な例示的な実施形態の原理を例示し、その説明の助けとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】[0012]
図1は、本開示による実施形態を実施する例示的なシステム環境を示す図である。
【
図2】[0013]
図2は、
図1に示す例示的なシステム環境の一部分を示す断面図である。
【
図3】[0014]
図3は、ビーム集束特性のない単一ループ設計でワイヤレス電力を供給する例示的なアンテナシステムを示す図である。
【
図4A】[0015]
図4Aは、
図3に示す例示的なアンテナシステムの様々な性能特性を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、
図3に示す例示的なアンテナシステムの様々な性能特性を示す図である。
【
図5A】[0016]
図5Aは、本開示の実施形態による、ワイヤレス電力を供給するアンテナシステムの例示的な実施形態を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、本開示の実施形態による、ワイヤレス電力を供給するアンテナシステムの例示的な実施形態を示す図である。
【
図6A】[0017]
図6Aは、本開示の実施形態による例示的なアンテナループを示す詳細図である。
【
図6B】
図6Bは、本開示の実施形態による例示的なアンテナループを示す詳細図である。
【
図7A】[0018]
図7Aは、
図5Aおよび
図5Bに示す例示的なアンテナシステムに関連する様々な性能特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[0019] 本開示の実施形態は、移植デバイスに電力を供給する改良されたシステムを提供する。開示するシステムは、デバイスが移植された体に吸収される電力の量を最小限に抑えながら、移植デバイスで受け取られる電力の量を最大限に高めることができる。開示するシステムは、皮膚の表面下10〜150mmの深さなど、様々な深さに移植されたデバイスに電力を供給するために使用することができる。
【0014】
[0020] いくつかの実施形態によれば、開示するシステムは、移植デバイスにワイヤレスに電力を放射することができる生体外アンテナシステムを含むことがある。放射電力は、体内にさらに進行するにつれて、さらに減衰していく。この減衰を抑制して、体に吸収される電力の量を最小限に抑えながら、移植デバイスで受け取られる電力の量を最大限に高めるために、開示するアンテナシステムは、放射電力が体内にさらに進行するにつれて、この放射電力を集束させることができる。この集束は、例えば1次アンテナループと1つまたは複数の無給電アンテナループとの組合せによって実現することができる。1次アンテナループは、電源が生成した電力を受け取ることができ、その生成電力を放射することができる。無給電ループ(パッシブラジエータとも呼ぶ)は、この放射電力の一部を吸収し、吸収した電力を移植デバイスに向かって転送する。したがって、1次ループと無給電ループの組合せは、皮膚の表面では広範に分布しながら、移植デバイスに向かって体内に進行して行くにつれて集束していく、効率的なワイヤレス電力伝送パターンを形成することができる。したがって、強め合う干渉パターンを使用することによって電力伝送効率を向上させながら、低いアンテナ指向性(比吸収率として測定される)による体による電力の吸収を最小限に抑えることができる。
【0015】
[0021] 次に、その例を添付の図面に示す、本開示によって実施される実施形態について詳細に述べる。同じ、または同様の部分については、可能な限り、全ての図面を通じて同じ参照番号を使用する。
【0016】
[0022]
図1は、本開示の実施形態を実施する例示的なシステム環境100を示す図である。
図1に示すように、システム環境100は、いくつかの構成要素を含む。これらの構成要素の数および配置は、単なる例示であり、説明のために与えたものであることは、本開示から理解されるであろう。本開示の教示および実施形態を逸脱することなく、他の配置および数の構成要素を利用することもできる。
【0017】
[0023]
図1の例示的な実施形態に示すように、システム環境100は、移植デバイス120と、電力システム130とを含む。いくつかの実施形態では、移植デバイス120は、被検体110内に位置決めされる。被検体110は、人間の被検体、動物の被検体、またはその他の任意の種類の生物の被検体である可能性がある。いくつかの実施形態では、移植デバイス120は、センチメートル移植デバイス(すなわち各寸法が少なくとも1センチメートルあるデバイス)、ミリメートル移植デバイス(すなわち各寸法が少なくとも1ミリメートルはあるが1センチ未満であるデバイス)、またはミリメートル以下移植デバイス(すなわち各寸法が1ミリメートル未満であるデバイス)である可能性がある。
図1に示すように、移植デバイス120は、アンテナシステムと、電力システム130からワイヤレスに電力を受け取り、受け取った電力を移植デバイス120のサブシステムが使用するDCに変換する整流器とを含む。移植デバイス120は、被検体110の体内の様々な位置および様々な深さに移植することができる可能性がある。
図1では、移植デバイス120は、被検体110の腕に移植されるものとして示してあるが、他の移植位置も考えられ、図示の例は、あらゆる点で本開示を制限するためのものではない。
【0018】
[0024] 移植デバイス120は、様々な機能を実行する1つまたは複数のサブシステムを含む可能性がある。移植デバイスの例としては、被検体110の前庭系の1つまたは複数の機能を強化および/または修復するサブシステムを有する人工前庭器、被検体110の様々な身体系についてのデータを収集するサブシステムを有するマイクロセンサまたは遠隔計測デバイス、被検体110の脳活動を感知し、感知した信号を様々な身体活動を実行する命令に変換するサブシステムを有するブレインコンピュータインタフェース、薬剤送達デバイス、神経刺激デバイス、および痛み刺激デバイスが挙げられる。ただし、他の例示的な移植デバイスを、開示する実施形態と合わせて使用することもでき、ここに挙げた例は、あらゆる点で本開示の範囲を制限するためのものではない。
【0019】
[0025] 電力システム130は、1つまたは複数の生体外アンテナシステム132と、1つまたは複数の電源134とを含むことがある。アンテナシステム132は、電源134からの電力を使用して、様々な無線周波数の信号を伝送および受信することができる可能性がある。例えば、電源134は、電力を生成し、その電力をアンテナシステム132に供給することができ、アンテナシステム132は、生成された電力をワイヤレスに放射することができる。各電源134は、携帯型(例えばバッテリ駆動式)または固定型(例えば研究室の電源)の電源、可変電源または定電源など、任意の従来の発電システムを使用して実装することができる。いくつかの実施形態では、各アンテナシステム132は、単一の電源134と対になっている。他の実施形態では、電源134が、1つまたは複数のアンテナシステム132に電力を供給することもあるし、あるいは各アンテナシステム132が、1つまたは複数の電源134から電力を受け取ることもある。
【0020】
[0026] 各アンテナシステム132は、1つまたは複数のアンテナ素子(本明細書ではループと呼ぶ)を含む可能性がある。アンテナシステム132の設計面(例えばループの位置、間隔、大きさおよび出力、信号の周波数など)は、様々な移植デバイス120用、様々な適用業務(例えば異なる被検体110)用、様々な移植位置用に、最適化することができる。例えば、一部のアンテナシステム132は、被検体110の皮膚に近接して(例えば被検体110の皮膚上で、または皮膚から数ミリメートルのところで)保持されるように設計されることもある。他のアンテナシステム132は、さらに離して保持されるように設計されることもある。したがって、こうした位置の違いにより、アンテナの大きさ、ループの間隔、信号の周波数などが決まることもある。
【0021】
[0027] 伝送信号150は、例えば移植デバイス120にそれが移植された環境についてのデータを取り込むことによって遠隔計測を実行させる命令などの命令を含むことがある。別法として、またはこれに加えて、伝送信号150は、移植デバイス120に含まれる任意のサブシステムを動作させる電力を移植デバイス120に供給する十分な電力を含むことがある。受信信号は、例えば感知または測定データ、静止画像、映像、音声などのデータを含む可能性がある。
【0022】
[0028] アンテナシステム132は、様々な近接場または中間場伝送技術を使用して、データおよび電力を伝送し、受け取ることができる。このような技術は、近接場/中間場結合などの無放射伝送技術を含むことがある。近接場/中間場結合の例としては、誘導結合および容量結合が挙げられる。電力システム130と移植デバイス120が誘導結合を介して通信するいくつかの実施形態では、アンテナシステム132は、近接磁場を生成して、移植デバイス120にデータおよび/または電力を伝送することができる。電力システム130と移植デバイス120が容量結合を介して通信するいくつかの実施形態では、アンテナシステム132は、近接電場を生成して、移植デバイス120にデータおよび/または電力を伝送することができる。
【0023】
[0029]
図2は、
図1に示す例示的なシステム環境100の断面
図200を示している。断面
図200に示すように、移植デバイス120は、被検体110の筋肉層240内に移植することができる。アンテナシステム132は、被検体110の皮膚層220、脂肪層230、および筋肉層240を通して移植デバイス120にワイヤレスに電力を伝送することができる。被検体110の各層220〜240は、アンテナシステム132の伝送に様々なレベルの減衰をもたらす可能性がある。アンテナシステム132は、様々な距離(例えば5〜10mm)の空気の隙間210を残して、被検体110の皮膚層220に近接して保持することができる。アンテナ132は、皮膚層220に直接接した状態で保持することもできるが、アンテナシステム132と皮膚層220の間に空気の隙間210を残すことにより、アンテナシステム132の同調不良を最小限に抑えるのを助け、伝送周波数を安定させる、絶縁体として機能させることができる。
図2に示す例では、空気の隙間210を使用してアンテナシステム132を皮膚層220から分離しているが、その他の電気絶縁体を使用することもできる。電気絶縁体の例としては、ガラス、セラミック、紙、ABS、アクリル、ガラス繊維、およびナイロンが挙げられる。いくつかの実施形態では、アンテナシステム132を絶縁材料内にパッキングして、空気の隙間210を設けるのと同様の結果を得ることもできる。
【0024】
[0030]
図3は、移植デバイスに電力を供給する単一のアンテナループ310を備えた例示的なアンテナシステム300を示す図である。ループ310は、円形にすることができ、アンテナシステム300の一方の側の表面に物理的に結合することができる。電源は、アンテナシステム300に電力を供給することができる。アンテナシステム300は、この電力をループ310を通して放射することによって、1つまたは複数の移植デバイスにこの電力をワイヤレスに供給することができる。
【0025】
[0031]
図4Aおよび
図4Bは、
図3の単一ループ型アンテナシステムに関連する様々な性能特性を示すグラフである。
図4Aは、アンテナシステム300が放射するRF電磁エネルギーの比吸収率および分布の上面図を示すヒートマップである。ヒートマップの強度は、RF電磁エネルギーが人体に吸収される割合である比吸収率を表すことができる。
図4Aに示すように、アンテナシステム300の電力分布は、ループ310の左側部のホットスポットを除けば、ループ310の周りでほぼ一様である。しかし、電力強度は、ループ310から遠ざかるように内側に向かって放射するにつれて急速に低下し、xy平面では分布の一様性は低くなっている。
【0026】
[0032]
図4Bは、単一ループ型アンテナシステム300が放射する電磁エネルギーのSARおよび分布の断面図を示すヒートマップである。
図4Bに示すように、アンテナシステム300の比吸収率は、伝送電磁エネルギーが移植デバイス120に向かって体内に放射するにつれて急速に低下する。アンテナシステム300の信号透過が低い主な原因の1つは、ビーム集束能力が不足していることである。かなりの量の電力が、移植デバイスから遠ざかるように放射されており、それにより電力伝送効率が低下し、比吸収率が高くなっている。
【0027】
[0033]
図5Aおよび
図5Bは、本開示の実施形態による例示的なアンテナシステム500を示す図である。アンテナシステム500を使用すると、上述したアンテナシステム300の欠点のうちの1つまたは複数に対処しながら、
図1のアンテナシステム132の1つまたは複数の態様を実装することができる。
図5Aおよび
図5Bに示すように、アンテナシステム500は、1次アンテナループ510と、マッチングネットワーク520と、1つまたは複数の無給電アンテナループ530とを含む。これらの構成要素の数および配置は、単なる例示であり、説明のために与えたものであることは、本開示から理解されるであろう。本開示の教示および実施形態を逸脱することなく、他の配置および数の構成要素を利用することもできる。例として、いくつかの実施形態では、アンテナシステム500は、
図5Aに示すように、約75mmの半径を有する円盤型構造として実装することもできる。本開示の教示に従って、他の寸法および構造を実施することもできる。
【0028】
[0034]
図5Aは、アンテナシステム500の1次側を示す図である。1次ループ510およびマッチングネットワーク520は、1次側の表面に物理的に結合することができる。電源(例えば
図1の電源134)は、マッチングネットワーク520を介して1次ループ510に電力を供給することができる。マッチングネットワーク520は、電気回路構成要素(例えばコンデンサ、抵抗器、インダクタなど)として実装することができ、マッチングネットワーク520を使用して、アンテナシステム500のインピーダンスを所望の動作周波数で電源の入力インピーダンスと一致させることができる。したがって、マッチングネットワーク520に含まれる構成要素の構成は、アンテナシステム500の伝送周波数、1次ループ510および無給電ループ530の大きさおよび配置など、様々な設計特徴によって決まる可能性がある。
【0029】
[0035]
図5Bは、アンテナシステム500の2次側を示す図である。いくつかの実施形態では、2次側は、アンテナシステム500の、1次側の反対側とすることができる。いくつかの実施形態では、2次側は、1次側の上に積層された層とすることができる。
図5Bに示すように、1つまたは複数の無給電アンテナループ530は、2次側の表面に物理的に結合することができる。無給電ループ530は、普通なら移植デバイス120から遠ざかるように放射され、被検体110の体に吸収されることになる1次ループ510から放射される電力の一部を吸収するように位置決めすることができる。無給電ループ530は、吸収した電力を再放射することにより、アンテナシステム400によって放射される全電力を移植デバイス120に向かって集束させることができる。したがって、無給電ループ530の位置決めによって、アンテナシステム500が放射する電力の指向性を向上させる強め合う干渉パターンが形成される。
【0030】
[0036] アンテナシステム500の様々な設計特徴のうちの1つまたは組合せを調節して、様々な適用業務用にアンテナシステム500の集束または指向性を最大限に高めることができる。調節することができる1つの設計特徴は、1次ループ510および無給電ループ530の大きさである。例えば、1次ループ510および無給電ループ530は、
図5Aおよび
図5Bでは、全て同じ大きさとして示してあるが、1次ループ510と1つまたは複数の無給電ループ530とを異なる大きさにし、かつ/あるいは1つまたは複数の無給電ループ530を異なる大きさにすることもできる。アンテナシステム500に含まれる1次素子510および/または無給電ループ530の数も、調節することができる(例えば、増やしたり減らしたりすることができる)。調節することができる別の設計特徴は、1次ループ510と無給電ループ530の間の間隔、および/または無給電ループ530どうしの間の間隔である。例えば、
図5Aおよび
図5Bでは、1次ループ510と無給電ループ530の間に重なる部分がないが、1つまたは複数の無給電ループ530が互いに重なり合うことも、1つまたは複数の無給電ループ530と1次ループ510とが互いに重なり合うことも、あるいはそれらの任意の組合せが生じることもある。調節することができるさらに別の設計特徴は、1次ループ510および無給電ループ530の形状である。例えば、1次ループ510および無給電ループ530は、六角形、正方形、円形、またはその他の任意の対称な、非対称な、もしくは無定形の形状、あるいはそれらの組合せである可能性がある。1次ループ510および/または無給電ループ530の配向も、調節することができる。例えば、
図5Aおよび
図5Bでは、1次ループ510と無給電ループ530とがxy平面上で互いに平行になるように示してあるが、1次ループ510および無給電ループ530のうちのいずれかを、1つまたは複数の3次元軸の周りで回転させてもよい。
【0031】
[0037] アンテナシステム500の設計特徴に変更を加えることで、無給電ループ530どうしの間、および1次ループ510と無給電ループ530の間の誘導結合および容量結合の性質が変化し、それにより、アンテナシステム500の強め合う干渉パターンの特徴も変化する。したがって、アンテナシステム500の設計特徴を調節して、移植デバイス120の様々な形状および大きさ、様々な移植深さ(ひいては様々な減衰レベル)、アンテナシステム500が保持される所期の様々な位置(例えば皮膚の上や皮膚に近接した位置など)に対応し、アンテナシステム500の電力システム(例えば
図1の電力システム130)が適用される可能性がある全ての法律および政府規制ならびに保健/安全に関する法律および規則に準拠することを保証することができる。
【0032】
[0038] アンテナシステム500は、様々な構成および電気機械的構造によって実装することができる。例えば、アンテナシステム500は、アンテナシステム500を装着している被検体110の体の形状に合わせて形成された硬質プリント回路基板または可撓性基板などの基板を含むことができる。基板の大きさおよび形状は、1つまたは複数の設計パラメータ(給電される移植デバイスの大きさおよび深さ、移植デバイスが必要とする電力の量など)に応じて選択することができる。1次ループ510、マッチングネットワーク520、および無給電ループ530は、基板に印刷されることもある。素子510〜530は、例えば銅、金、銀、アルミニウムなどの硬質導電性材料および/または可撓性導電性材料のうちの1つまたは複数を使用して印刷することができる。1次ループ510およびマッチングネットワーク520は、基板の無給電ループ530の反対側に印刷されることもあるが、本開示の範囲を逸脱することなく、他の構成も考えられる。例えば、素子510〜530を、全て基板の同じ側に印刷してもよいし、1つまたは複数の無給電ループ530を、基板の両側に印刷してもよい。
【0033】
[0039] さらに、追加のアンテナループの層をアンテナシステム500に追加することもできる。例えば、複数の積層をその上に堆積させた基板を有するアンテナは、基板上に堆積させた、1次ループ510を含む第1の層と、1次ループ510の層の上に堆積させた、1つまたは複数の無給電ループ530を含む第2の層と、無給電ループ530の第1の層の上に堆積させた、追加の無給電ループ530の1つまたは複数の層とを有することがある。無給電ループ530の各層は、無給電ループ530の他の層と同様の、または異なる、設計特徴(例えば無給電ループ530の負荷容量、大きさ、形状、間隔、数など)を有することができる。
【0034】
[0040]
図6Aおよび
図6Bは、それぞれ
図5Aおよび
図5Bに示すアンテナアレイ500の1次アンテナループ510および無給電アンテナループ530を示す詳細図である。
図6Aおよび
図6Bの例示的な実施形態に示すように、1次アンテナループ510および無給電アンテナループ530は、六角形構造として実装することができる。例として、六角形構造の各辺は、
図6Bに示すように、約25mmの長さを有することがある。本開示の教示に従って、他の寸法および構造形状を実装することもできることは理解されるであろう。
【0035】
[0041] いくつかの実施形態では、1次ループ510、マッチングネットワーク520、および無給電ループ530は、1つまたは複数の負荷構成要素610を含むことがある。負荷構成要素610は、コンデンサ、インダクタ、抵抗器、および/またはその他の電子回路構成要素を含む可能性がある。負荷構成要素610の特徴(例えば容量、インダクタンスなど)および配置により、1次ループ510および無給電ループ530の負荷容量が決まることもある。例として、
図6Aおよび
図6Bでは、1次ループ510は、約8.0pFの負荷容量を有し、各無給電ループ530は、約7.5pFの負荷容量を有することがある。いくつかの実施形態では、負荷構成要素610の特徴および配置は、負荷構成要素610が周期的に装荷されたときに1次ループ510および各無給電ループ530の領域内で一様な磁場分布が生成されることを保証するように選択することができる。1次ループ510上の負荷構成要素610の特徴および配置は、無給電ループ530上の負荷構成要素610の特徴および配置と同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、負荷構成要素610の特徴および配置は、1次ループ510が無給電ループ530とは異なる総負荷容量を有するように選択することもできる。同様に、負荷構成要素610の特徴および配置は、1つまたは複数の無給電ループ530の間で同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0036】
[0042]
図7A〜
図7Cは、
図5Aおよび
図5Bのアンテナシステム500に関連する様々な性能特性を示すグラフである。
図7Aは、アンテナシステム500が放射するRF電磁エネルギーの比吸収率および分布の3次元図を示すヒートマップである。
図7Bは、アンテナシステム500が放射するRF電磁エネルギーの比吸収率および分布の上面図を示すヒートマップである。
図7Cは、アンテナシステム500が放射するRF電磁エネルギーの比吸収率および分布の断面図を示すヒートマップである。
【0037】
[0043]
図7A〜
図7Cに示すように、アンテナシステム500が放射する電力は、被検体110の皮膚の表面において1次ループ510および無給電ループ530の周りで広範に一様に分布している。したがって、所与の電力伝送レベルで、面積または体積当たり人体組織によって吸収される電力(SARの測定値として表される)は、アンテナシステム500の電力伝送では、アンテナシステム300より有意に低い。さらに、アンテナシステム500によって放射される電力は、アンテナシステム300とは異なり、無給電ループ530によって生成される強め合う干渉パターンにより、体内にさらに進行するにつれて集束していく。したがって、アンテナアレイ500の集束特性によって指向性が向上することにより、被検体110の体内への電力損失を最小限に抑えながら、移植デバイス120への電力伝送効率がアンテナシステム300の電力伝送効率と比較して高くなる。
【0038】
[0044] 上記の明細書では、添付の図面を参照しながら、様々な例示的な実施形態および特徴について説明した。ただし、後記の特許請求の範囲に記載する本発明のより広範な範囲を逸脱することなく、様々な修正および変更をこれらに加えることができること、ならびに追加の実施形態および特徴を実施することができることは、明らかであろう。例えば、開示したシステムの構成要素を、異なる組合せにし、かつ/あるいは他の構成要素で置換または補足した場合でも、依然として有利な結果を得ることができる。他の実装形態もまた後記の例示的な特許請求の範囲に含まれる。したがって、本明細書および図面は、限定的な意味ではなく、例示的な意味で解釈されるものとする。さらに、開示した実施形態および実施例は、単なる例示としてみなされ、本開示の真の範囲は、後記の特許請求の範囲およびその等価物によって示されるものとして意図されている。