(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971997
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】個体における尿中シュウ酸塩濃度を低下させるための、スチリペントール及びその誘導体の使用
(51)【国際特許分類】
A61P 13/04 20060101AFI20211111BHJP
A61P 13/00 20060101ALI20211111BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20211111BHJP
A61K 31/36 20060101ALI20211111BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20211111BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20211111BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20211111BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20211111BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20211111BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20211111BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20211111BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20211111BHJP
A61K 9/02 20060101ALI20211111BHJP
C07D 317/54 20060101ALN20211111BHJP
C07D 317/50 20060101ALN20211111BHJP
【FI】
A61P13/04
A61P13/00
A61P13/12
A61K31/36
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/107
A61K9/20
A61K9/14
A61K9/12
A61K9/06
A61K9/48
A61K9/02
!C07D317/54
!C07D317/50
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-543117(P2018-543117)
(86)(22)【出願日】2017年2月14日
(65)【公表番号】特表2019-504870(P2019-504870A)
(43)【公表日】2019年2月21日
(86)【国際出願番号】EP2017053245
(87)【国際公開番号】WO2017140658
(87)【国際公開日】20170824
【審査請求日】2020年1月29日
(31)【優先権主張番号】16305173.3
(32)【優先日】2016年2月15日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】16305698.9
(32)【優先日】2016年6月10日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(73)【特許権者】
【識別番号】507139834
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリック−オピト ドゥ パリ
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエル・ルタヴェルニエ
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル・ドドン
【審査官】
東 裕子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/115764(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0343001(US,A1)
【文献】
Science,2015年,Vol.347, Issue 6228,pp.1362-1367
【文献】
Biochimica et Biophysica Acta, Molecular Basis of Disease,1997年,Vol.1362,pp.97-102
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61P
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体における、0.25mmol/Lより高い尿中シュウ酸塩濃度、24時間当たり0.25mmolより高い尿中シュウ酸塩排泄量、又は、0.03より高いシュウ酸塩/クレアチニンのモル比に関連する疾患及び/又は状態の予防及び/又は治療に用いるための、式(I)の化合物:
【化1】
(式中、
- nは1又は2であり、
- Z
1、Z
2、及びZ
3は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び(C
1〜C
6)アルキル基から選択され、
- Rは、ヒドロキシル基、オキソ基、及びチオール基から選択される1以上の置換基により置換されている、又は非置換の(C
1〜C
6)アルキル基である)
又はその薬学的に許容される塩の1つ
を含む医薬組成物であって、
前記式(I)の化合物は、可能なすべてのラセミ体、エナンチオマー及びジアステレオマー異性体形態である、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩
である、医薬組成物。
【請求項2】
個体における高い尿中シュウ酸塩濃度に関連する疾患及び/又は状態の予防及び/又は治療に用いるための、式(I)の化合物:
【化2】
(式中、
- nは1又は2であり、
- Z
1、Z
2、及びZ
3は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び(C
1〜C
6)アルキル基から選択され、
- Rは、ヒドロキシル基、オキソ基、及びチオール基から選択される1以上の置換基により置換されている、又は非置換の(C
1〜C
6)アルキル基である)
又はその薬学的に許容される塩の1つ
を含む医薬組成物であって、
前記式(I)の化合物は、可能なすべてのラセミ体、エナンチオマー及びジアステレオマー異性体形態であり、
前記疾患及び/又は状態は、高シュウ酸尿症、尿路結石症、腎石灰沈着症、及び腎不全の一部から選択される、
医薬組成物。
【請求項3】
式(I)において、nが1である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
式(I)において、Z1、Z2、及びZ3の少なくとも1つは水素原子である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記式(I)の化合物は4,4-ジメチル-1-[3,4(メチレンジオキシ)-フェニル]-1-ペンテン-3-オール(スチリペントール)、3,4-メチレンジオキシフェニル-1-プロペン(イソサフロール)、及びそれらの混合物から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記個体が、哺乳動物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記疾患及び/又は状態が、高シュウ酸尿症、尿路結石症、腎石灰沈着症、及び腎不全の一部から選択される、請求項1及び3〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
薬学的に許容される賦形剤を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
経口、直腸、又は非経口注入経路によって投与される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
錠剤、丸薬、粉末、トローチ剤、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁剤、エマルション剤、溶液剤、シロップ剤、エアロゾル剤、スプレー剤、ゲル剤、軟質及び硬質ゼラチンカプセル剤、坐薬、滅菌注入用溶液、又は滅菌パッケージ粉末の形態である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
少なくとも1日の期間、前記個体の体重1kg当たり、20〜150mgの式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を含む1日用量を投与するのに適している、請求項1〜8及び10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個体における尿中シュウ酸塩濃度を減少させるための、特に個体における高シュウ酸塩濃度に関連する疾患及び/又は状態の予防及び/又は治療におけるそれらの使用のための化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書で使用される用語「尿中シュウ酸塩濃度」は、個体の尿中におけるシュウ酸及び/又はシュウ酸塩濃度を意味する。この用語はまた、24時間の期間におけるシュウ酸及び/又はシュウ酸塩の尿排泄量を指してもよい。
【0003】
尿中シュウ酸塩の含有量の増加は、シュウ酸カルシウム結晶の形成をもたらし、そのため腎臓結石をもたらすシュウ酸カルシウム過飽和の主な原因の1つである。 実際、腎臓結石の大半はシュウ酸カルシウム結晶で形成される。
【0004】
尿中シュウ酸塩は、例えばホウレンソウ、大黄、チョコレート又は紅茶等のシュウ酸塩を多量に含むことがよく知られている食品中のシュウ酸塩の摂取に由来する。しかしながら、それは主に、乳酸デヒドロゲナーゼアイソフォーム5(LDH-5)によるグリオキシル酸のシュウ酸塩への酸化反応にとりわけ起因する肝臓によるシュウ酸塩の内生的産生に由来する。
【0005】
誤って摂取され得るエチレングリコールの代謝によってシュウ酸塩が生成される場合があることにも注意する必要がある。
【0006】
したがって、尿石症、高シュウ酸尿症、及び腎石灰沈着症とも呼ばれる尿路結石症等の多くの疾患及び/又は状態は、高い尿中シュウ酸塩濃度に関連する。いくつかの腎不全も、高い尿中シュウ酸塩濃度に関連し得る。
【0007】
高シュウ酸尿症は、0.25mmol/Lより高い尿中シュウ酸塩濃度又は24時間当たり0.25mmolより高い尿中シュウ酸塩排泄を特徴とする。
【0008】
尿路結石症に関して、腎臓又は尿路中に腎結石が存在することを特徴とする状態を意味する。この疾患は西側諸国の人口の約10%に影響を与えている。尿石の大部分(75〜80%)はシュウ酸カルシウムから形成されるので、尿中のシュウ酸塩の濃度の制御は、結石の形成や再発を予防するための医療的治療プログラムの重要な部分である。残念なことに、食事によるシュウ酸塩の尿中シュウ酸塩の寄与はわずか8〜40%であり、残りは主に肝臓内で内生的合成されるため、食事による尿中シュウ酸塩濃度の制御は部分的な効果しか生じない。
【0009】
最後に、原発性高シュウ酸尿症は、肝臓酵素の変異に起因する遺伝的障害であり、LDH-5によってシュウ酸塩に変換されるグリオキシル酸の増加した産生を誘導する(Cochat Pら、Nephrol Dial Transplant. 2012 May; 27(5) 1729-36)。
【0010】
この疾患の3つの形態が共存する:AGXT遺伝子、GRHPR遺伝子、及びHOGA1遺伝子のそれぞれの変異によって引き起こされる、I型、II型、及びIII型の原発性シュウ酸尿症。
【0011】
この疾患では、大量のシュウ酸塩が尿中に排泄され、若年患者における再発性結石疾患及び腎不全を引き起こす。これらの患者はしばしば、腎臓及び肝臓を組み合わせた同種移植を必要とする。
【0012】
明らかな理由から、これらの患者の尿中シュウ酸塩を低下させることは、結石疾患の重篤度を緩和し、費用のかかる移植手順を避けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】EP 2 229 943 A1
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Daudon M.、Ann Urol(Paris)、2005 Dec; 39(6):209-31
【非特許文献2】Cochat Pら、Nephrol Dial Transplant. 2012 May; 27(5) 1729-36
【非特許文献3】Chironら、(2000) Lancet 356:1638-1642
【非特許文献4】Tranら、(1997) Clin. Pharmacol. Ther. 62:490-504
【非特許文献5】Sada Nら、Science 2015 Mar 20;347(6228):1362-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そのため、尿中シュウ酸塩濃度を低下させることができ、したがって高い尿中シュウ酸塩濃度に関連する疾患及び/又は状態の予防及び/又は治療に用いることができる効果的な化合物を有することが不可欠である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、その一態様によれば、本発明は、個体における高い尿中シュウ酸塩濃度に関連する疾患及び/又は状態の予防及び/又は治療に用いるための、式(I)の化合物:
【0017】
【化1】
【0018】
(式中、
- nは1又は2であり、
- Z
1、Z
2、及びZ
3は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び(C
1〜C
6)アルキル基から選択され、
- Rは、ヒドロキシル基、オキソ基、及びチオール基から選択される1以上の置換基により場合により置換されている(C
1〜C
6)アルキル基である)
又はその薬学的に許容される塩の1つであり;
前記式(I)の化合物は、可能なすべてのラセミ体、エナンチオマー及びジアステレオマー異性体形態である。
【0019】
スチリペントール、又は4,4-ジメチル-1-[(3,4-メチレンジオキシ)-フェニル]-1-ペンテン-3-オールは、バルプロ酸ナトリウムとクロバザムとの組み合わせに加えて、後者が危機管理において不十分であることが判明した場合、乳児期の重症ミオクローヌスてんかんに適応される抗てんかん剤として提案されている(Chironら(2000) Lancet 356: 1638-1642)。
【0020】
【化2】
【0021】
スチリペントールは、主な効果の中で、γ-アミノ酪酸(GABA)の取り込みを阻害し、またいくつかのシトクロムP450アイソザイム、特にCYP1A2及びCYP3A4の阻害剤でもある(Tranら、(1997))Clin. Pharmacol. Ther. 62: 490-504)。
【0022】
スチリペントールはまた、末梢神経障害の予防又は治療におけるその使用も知られている(EP 2 229 943 A1)。
【0023】
特に、スチリペントール及びイソサフロール(3,4-メチレンジオキシフェニル-1-プロペン)の両方が、乳酸デヒドロゲナーゼ1及び5(LDH-1及びLDH-5)によってピルビン酸がニューロン中の乳酸塩へ変換するのを阻害することが示されている(Sada Nら 、Science 2015 Mar 20; 347(6228):1362-7)。
【0024】
【化3】
【0025】
しかしながら、本発明者らの知る限りでは、これらの化合物が個体における尿中シュウ酸塩の含有量を低下させるための活性剤として提案されるのは初めてである。
【0026】
以下の実施例に示すように、本発明者らは、式(I)の化合物が個体における尿中シュウ酸塩含量を低下させることができることを予想外に確認した。
【0027】
その結果、これらはシュウ酸カルシウムの過飽和及びその結果としての腎結石の形成を抑制するのに非常に効果的である。
【0028】
したがって、それらは、尿路結石症及び高シュウ酸尿症等、より詳細には原発性高シュウ酸尿症等の上昇した尿中シュウ酸塩濃度を特徴とする疾患を予防又は治療するために非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、ラットのa)スチリペントールの投与前、b)1日当たり100mg/kgの投与量でスチリペントールの2日間の摂取後、及びc)スチリペントールの2日間の摂取の10日後での、6匹のラットの尿から測定した尿中シュウ酸塩/クレアチニンの平均モル比を示すグラフである。
【
図2】
図2は、エチレングリコールに晒された、スチリペントールで処置された又は処置されていないラットにおいて測定したシュウ酸カルシウム結晶による腎臓部分の被覆の割合を示すグラフである。
【
図3】
図3は、エチレングリコールで中毒化したラットで観察した血清クレアチニン濃度によって評価した腎機能に対するスチリペントールの有利な効果を示すグラフを表す。
【
図4】
図4は、カルシウム-シュウ酸塩腎臓結石マウスで観察した血清クレアチニン濃度によって評価した継続した腎機能に対するスチリペントールの有利な効果を示すグラフを表す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の目的のために:
- 「個体」は、動物、好ましくは非ヒト哺乳動物を含む哺乳動物を意味することを意図し、特にヒトである。
- 用語「予防する」は、所定の症状、すなわち、本発明において、高い尿中シュウ酸塩濃度に関連する疾患又は状態の発現のリスクを少なくともある程度低減することを意味する。ある程度の低減は、リスクが残っていることを意味するが、本発明を実施する前よりも程度は低い。
- 「高い尿中シュウ酸塩濃度」又は「上昇した尿中シュウ酸塩濃度」とは、0.25mmol/Lより高い、好ましくは0.3mmol/Lより高い、より好ましくは0.5mmol/Lより高い尿中シュウ酸塩濃度、又は、24時間当たり0.25mmolより多くの、特に24時間当たり0.3mmolより多くの、より特定的には24時間当たり0.5mmolより多くの尿中シュウ酸塩排泄、又は、0.03より高い、好ましくは0.04より高い、より好ましくは0.05より高いシュウ酸塩/クレアチニンのモル比を意味する。
【0031】
これらの値は成人又は5歳を超える小児の値に相当することに注意する必要がある。より年少の小児では、尿中シュウ酸排泄は生理学的にさらに上昇し、幼児期には徐々に減少する。
【0032】
本明細書はまた、個体における尿中シュウ酸塩濃度を低下させるのに使用するための、式(I)の化合物:
【0034】
(式中、
- nは1又は2であり、
- Z
1、Z
2、及びZ
3は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び(C
1〜C
6)アルキル基から選択され、
- Rは、ヒドロキシル基、オキソ基、及びチオール基から選択される1以上の置換基により置換されていてもよい(C
1〜C
6)アルキル基である)
又はその薬学的に許容される塩の1つであり、
前記式(I)の化合物は、可能なすべてのラセミ体、エナンチオマー、及びジアステレオマー異性体形態である。
【0035】
本発明の他の特徴及び利点は、本明細書、非限定的な例として記載する実施例、及び
図1からより明らかになるであろう。
【0036】
式(I)の化合物
上記したとおり、本発明において用いられる化合物は、一般式(I):
【0038】
(式中:
- nは1又は2であり;
- Z
1、Z
2、及びZ
3は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び(C
1〜C
6)アルキル基から選択され、
- Rは、ヒドロキシル基、オキソ基、及びチオール基から選択される1以上の置換基により置換されていてもよい(C
1〜C
6)アルキル基である)
又はその薬学的に許容される塩の1つに相当し、
前記式(I)の化合物は、可能なすべてのラセミ体、エナンチオマー、及びジアステレオマー異性体形態である。
【0039】
したがって、本発明の化合物は、1個又は数個の不斉炭素原子を含むことができる。そのため、それらはエナンチオマー又はジアステレオマー異性体の形態で存在し得る。これらのエナンチオマー及びジアステレオマー異性体、ならびにラセミ混合物等のそれらの混合物は、本発明の一部を形成する。さらに、式(I)の化合物中に存在するアルケン官能基は、Z配置又はE配置のいずれかであることができ、好ましくは、このアルケンはE配置である。
【0040】
本発明の化合物は、塩基又は酸付加塩の形態で存在することもできる。これらの塩は薬学的に許容される酸であり、また、本発明の一部を形成する
【0041】
用語「薬学的に許容される」は、一般的に安全、非毒性、及び生物学的にもその他の点でも望ましくないものではない医薬組成物を調製するのに有用なものを意味し、獣医学的及びヒトの医薬用途に許容されるものを含む。
【0042】
薬学的に許容される塩に加えて、他の塩が本発明に含まれる。それらは、化合物の精製、他の塩の調製における中間体、又は当該化合物又は中間体の同定及び特徴付けにおける中間体であり得る。
【0043】
本発明の化合物はまた、水和物又は溶媒和物の形態、すなわち、1以上の水分子又はメタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、酢酸エチル等の溶媒との会合又は組み合わせの形態で存在してもよい。そうした溶媒和物の混合物も調製することができる。そのような溶媒和物の源は、結晶化の溶媒、調製又は結晶化の溶媒に内在するもの、又はそうした溶媒に付随するものに由来し得る。こうした溶媒和物は、本発明の範囲内である。
【0044】
本発明の詳細な説明において、以下の定義が適用される:
- ハロゲン原子:フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子。
- C
t〜C
z: t及びzが1〜10の値を取ることができるt〜z個の炭素原子を含有することができる炭素系鎖であり、例えば、C
1〜C
3は、1〜3個の炭素原子を含有することができる炭素系鎖である。
- アルキル:直鎖又は分枝鎖の飽和脂肪族基、特に1〜6個の炭素原子を含む脂肪族基である。例として、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、ネオペンチルが挙げられる。アルキル基は、特に、メチル基及びネオペンチル基から選択することができる。
- ヒドロキシル基:-OH基。
- オキソ基:=O基。
チオール基:-SH基。
【0045】
好ましい実施形態によれば、nは、本発明で使用される化合物において1である。
【0046】
別の好ましい実施形態によれば、本発明で使用される化合物において、Z
1、Z
2、及びZ
3の少なくとも1つは水素原子である。
【0047】
より好ましくは、Z
1、Z
2、及びZ
3は水素原子である。
【0048】
さらに別の好ましい実施形態によれば、本発明で使用される化合物は、4,4-ジメチル-1-[3,4(メチレンジオキシ)-フェニル]-1-ペンテン-3-オール(スチリペントール)、3,4-メチレンジオキシフェニル-1-プロペン(イソサフロール)、及びそれらの混合物から選択される。
【0049】
スチリペントールの以下の4つの立体異性体は、不斉炭素及びアルケン官能基の絶対配置に応じて存在する:
【0051】
イソサフロールの以下の2つの立体異性体は、アルケン官能基の絶対配置に応じて存在する:
【0053】
スチリペントール及びイソサフロールの両方において、アルケンは、好ましくは(E)立体配置である。
【0054】
スチリペントールに関して、好ましくは、(R)及び(S)エナンチオマーのラセミ混合物の形態である。
【0055】
そのため、本発明で使用される化合物は、より詳細には、(RS)-(E)-4,4-ジメチル-1-[3,4(メチレンジオキシ)-フェニル]-1-ペンテン-3-オール、(E)-3,4-メチレンジオキシフェニル-1-プロペン、及びそれらの混合物から選択される。
【0057】
FR 2 173 691には、ピナコリン及びピペロナールから出発するスチリペントールの合成が記載されている。
【0058】
当業者は、FR 2 173 691の教示から出発して、当業者に周知の方法を使用することにより、本発明で使用される他の化合物を容易に調製することができる。
【0059】
本発明で使用されるいくつかの化合物は市販されている。例えば、スチリペントール(アルケンが(E)配置である、ラセミ混合物の形態)は、Laboratoires Biocodexによって販売されているDiacomit(登録商標)の名称で提供され得る。
【0060】
治療上の使用
本発明は、上記記載で特定され、以下の実施例によって詳細に説明するように、その一態様によれば、個体における尿中シュウ酸塩濃度を減少させる使用のための本発明の化合物に関する。
【0061】
換言すれば、本発明は、個体における尿中シュウ酸塩濃度を減少させるための本発明の化合物の使用に関する。
【0062】
特に、以下の実施例に示すように、スチリペントール等の本発明のいくつかの化合物は、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、さらにより好ましくは少なくとも40%まで、個体の尿中シュウ酸塩/クレアチニンのモル比を低下させることができる。
【0063】
より詳細には、本発明は、個体における高い尿中シュウ酸塩濃度に関連する疾患及び/又は状態の予防及び/又は治療に用いるための本発明の化合物に関する。
【0064】
換言すれば、本発明は、個体における高い尿中シュウ酸塩濃度に関連する疾患を予防及び/又は治療するための、本発明の化合物の使用に関する。
【0065】
さらに換言すれば、本発明は、個体における高い尿中シュウ酸塩濃度に関連する疾患及び/又は状態を予防及び/又は治療することを意図する医薬の調製のための本発明の化合物の使用に関する。
【0066】
特に、前記疾患及び/又は状態は、以下から選択され得る:
- 高シュウ酸尿症、特に原発性高シュウ酸尿症、好ましくはI型、II型又はIII型原発性高シュウ酸尿症、
- 尿石症とも呼ばれる尿路結石症、特に原発性高シュウ酸尿症に起因する尿路結石症、
- 腎石灰沈着症、特に原発性高シュウ酸尿症に起因する腎石灰沈着症、及び
- 所定の腎不全、すなわち、個体の高い尿中シュウ酸塩濃度に関連する腎不全。
【0067】
本発明による化合物はまた、エチレングリコール中毒に起因するシュウ酸塩沈殿によって引き起こされる障害を予防及び/又は治療するために有用であり得る。
【0068】
本発明の別の態様によれば、本発明は、個体における高い尿中シュウ酸塩濃度に関連する疾患及び/又は状態を予防及び/又は治療するための方法であって、前記個体に少なくとも有効量の上記で定義した本発明による少なくとも1つの化合物を投与する少なくとも1つの工程を含む方法を対象にする。
【0069】
本発明の化合物は、薬学的に許容される賦形剤を含む組成物中で使用することができる。
【0070】
そのような組成物は、医薬組成物又は薬剤とみなされ、より詳細には、上記で定義した本発明による少なくとも1つの化合物の有効用量を含み得る。
【0071】
「有効(用)量」は、制御又は治療される状態において陽性の改変(positive modification)を誘導するのに十分な量であるが、深刻な副作用を回避するのに十分低い量を意味する。有効用量は、得られる医薬効果又は治療される特定の状態、消費者の年齢及び健康状態、治療/予防される状態の重篤度、治療の期間、他の治療の性質、使用される特定の化合物又は組成物、投与経路、並びに同様の因子に応じて変化し得る。
【0072】
本発明によって用いられる化合物は、当技術分野で許容される投与様式のいずれかによって有効用量で投与され得る。
【0073】
一実施形態では、この化合物は、経口、直腸、又は非経口注入経路によって、好ましくは経口経路によって、特に水等の飲料中に希釈されて投与されることが意図される組成物中で使用され得る。
【0074】
用語「非経口注入」は、個体の皮膚又は粘膜の1以上の層の下又1以上の層を通じる注入による投与を指す。この注入は、例えば、皮内、皮下、静脈内、又は筋肉内であり得る。
【0075】
投与経路及び生薬(ガレヌス)製剤は、所望の薬学的効果にしたがって、当業者によって適合されるであろう。
【0076】
治療用製剤に関する当業者は、過度の実験及び個人的な知識に依拠することなく、所定の適応症に対する本発明の化合物の治療上の有効用量を確定することができるであろう。
【0077】
本発明の化合物は、必要に応じて対象に週1回、週2回、週4回、1日1回、1日2回、又は1日3回以上投与することができ、そうした投与は1日、2日、3日、4日、5日の間、又は1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月、6ヶ月超、1年、又は2年の間、又は患者の生涯を通じて継続的であり得る。このような治療は、対象において所望のシュウ酸塩濃度を維持するために継続され得る。
【0078】
1日の用量は、治療される個体の体重(kg)当たり、20〜150mg、好ましくは50〜100mgの式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩の範囲であり得る。
【0079】
好ましい実施形態によれば、本発明において使用される組成物は、少なくとも1日の期間、前記個体の体重(kg)当たり、20〜150mg、好ましくは50〜100mgの式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を含む1日用量を投与するのに適している。
【0080】
そのような1日用量は、2日、1週間、1ヶ月、数ヶ月、1年の期間、さらにはより長い期間にわたって投与されてもよいことに留意しなければならない。
【0081】
本発明の医薬組成物は、用量、製薬(ガレヌス)形態、投与経路等に応じて、任意の既知の適切な薬学的に許容される賦形剤と共に製剤化することができる。
【0082】
本明細書中で使用される場合、「薬学的に許容される賦形剤」としては、任意の及びすべての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤、並びに吸収遅延剤等が挙げられる。任意の従来の賦形剤が活性化合物と不適合である場合を除いて、本発明の医薬又は医薬組成物におけるその使用が意図される。
【0083】
本発明の医薬又は医薬組成物は、錠剤(タブレット)、丸薬(ピル)、粉末、トローチ剤(ロゼンジ剤)、サシェ剤、カシェ剤(カプセル剤)、エリキシル剤、懸濁剤、エマルション剤、溶液剤、シロップ剤、エアロゾル剤、スプレー剤、ゲル剤、軟質及び硬質ゼラチンカプセル剤、坐薬、滅菌注入(注射)用溶液、又は滅菌パッケージ粉末であり得る。
【0084】
一実施形態によれば、本発明の医薬組成物は、高い尿中シュウ酸塩濃度に関連する疾患及び/又は状態、特に高シュウ酸尿症、腎石灰沈着症、尿路結石症、又はいくつかの腎不全の予防及び/又は治療に有用な薬剤とは別に、続けて、又は同時に投与することを意図することができ、ここで、当該薬剤は本発明の式(I)の化合物及びその薬学的に許容される塩とは異なる薬剤である。
【0085】
こうした薬剤として、以下のものが挙げられる:ピリドキサミン、アルデヒドデヒドロゲナーゼの阻害剤、グリコール酸オキシダーゼの阻害剤、又は体外衝撃波砕石術及び低減したシュウ酸塩濃度の食事等の治療法と組み合わせて使用することができる。本明細書で使用する用語「低減したシュウ酸塩濃度の食事」は、シュウ酸塩を多く含む食品(大黄、ホウレンソウ及び他の葉菜、カシュー、アーモンド、及び濃い茶)が除かれた食事を意味する。
【実施例】
【0086】
実施例1:スチリペントールアッセイ(in vivo)
ラットの尿中シュウ酸塩濃度を低下させるスチリペントールの効果をこの実施例で評価した。
【0087】
手順
以前に治療されていない6匹の成体Sprague-Dawleyラットに対して試験を行った。
【0088】
ラット1kg当たりに100mgのスチリペントール(Laboratoires Biocodexによって販売されているDiacomit(登録商標))を24時間にわたって飲料水の経口経路でラットに投与した。この手順を翌日にも繰り返した。
【0089】
ラットは試験の間、自由に水を摂取することができた。
【0090】
より信頼性の高いデータを得るために、尿中シュウ酸塩濃度の代わりに尿中シュウ酸塩/クレアチニンのモル比を測定した。実際、尿中に排泄されるクレアチンの代謝廃棄物であるクレアチニンの含有量は、個体においては24時間にわたって一定であるのに対し、尿中シュウ酸濃度は飲料消費量によって異なる場合がある。したがって、尿中シュウ酸塩/クレアチニンのモル比の測定は、尿の希釈の問題を克服することを可能にする。
【0091】
この比は、24時間の間に尿を採取する代謝ケージ(Techniplastによって市販されている)を使用することにより、6匹のラットの尿中で測定した。より詳細には、尿中シュウ酸塩濃度は、Dionexによって市販されているカラムを用いたクロマトグラフィーによって測定され、尿中クレアチニン濃度は、Konelab装置を用いた酵素的方法によって測定した。
【0092】
6匹のラットにおいて、尿中のシュウ酸塩/クレアチニンのモル比を、
- a)スチリペントールの投与前、
- b)スチリペントールを2日間摂取した後、及び
- c)スチリペントールの2日間摂取の後10日後、
代謝ケージに採取された尿において3回測定した。
【0093】
スチリペントールが、シュウ酸塩/クレアチニンのモル比(対照測定)におけるシュウ酸塩濃度には影響を及ぼすが、クレアチニン濃度には影響を及ぼさないことを確実にするために、尿中のシュウ酸塩/クレアチニンのモル比と同じ方法で、a)、b)及びc)の場合における、6匹のラットにおいて尿中カルシウム/クレアチニンのモル比を測定した。
【0094】
統計解析
統計解析を、対応のないスチューデントのt検定及びマン・ホイットニー検定を用いて行った。
【0095】
0.05未満のp値を有意と見なした。
【0096】
Statviewソフトウェアを使用して統計解析を完了した
【0097】
結果
a)、b)及びc)の場合において、6匹のラットにおいて得られた平均の尿中シュウ酸塩/クレアチニンのモル比を
図1に示す。
【0098】
a)及びc)の場合の測定は同じ結果、すなわち尿中シュウ酸塩/クレアチニンのモル比が約0.163であるのに対し、b)の場合の測定は約0.093(p = 0.03)の比を示したことが分かる。
【0099】
対照測定(
図1には示されていない)に関して、スチリペントールの摂取は、尿中カルシウム/クレアチニンのモル比に影響を与えないことを示した。
【0100】
このように、スチリペントールは、尿中シュウ酸塩濃度を有意に低減させることができ、したがってシュウ酸カルシウム過飽和及びシュウ酸カルシウムの結石形成リスクを低下させることができるといえる。
【0101】
したがって、スチリペントールは、原発性高シュウ酸尿症、尿路結石症、腎石灰沈着症、及び一部の腎不全などの高い尿酸シュウ酸塩濃度に関連する疾患及び/又は状態の予防及び/又は治療に適している。
【0102】
実施例2
この実施例では、エチレングリコール中毒を防ぐためのスチリペントールの効果を評価した。
【0103】
エチレングリコール中毒のネズミモデルを、12匹の成体Sprague-Dawleyラットに6g/kgのエチレングリコールを1回、経口投与(単回経口投与)することによって準備した。
【0104】
これらのラットのうち6匹に、中毒化と同時にスチリペントール(Diacomit(登録商標))300mg/kgを投与し、また、中毒化の後1日目及び2日目に飲料水(4g/L)でスチリペントールを投与した。ラットは試験の間、自由に水を摂取することができた。
【0105】
エチレングリコールを摂取した後48時間後にラットを屠殺し、血液及び尿パラメータを収集し、腎臓を組織病理学的分析のために回収した。
【0106】
エチレングリコールに晒されたラットの腎臓の組織病理学的分析は、これらの腎臓がシュウ酸カルシウム結晶で満たされていたが、スチリペントールを追加で投与された腎臓はほとんど結晶を含んでいないことを示している(
図2、p = 0.004)。
【0107】
血清クレアチニン濃度によって評価された腎機能は、スチリペントールを投与された動物においてほとんど悪化しなかった(
図3、p = 0.009)。
【0108】
そのため、これらの結果は、治療範囲のスチリペントール(及びイソサフロールの程度によって)は、エチレングリコール中毒により誘導される尿中シュウ酸塩排泄を減少させ、したがってシュウ酸カルシウム過飽和及びシュウ酸カルシウム結晶形成及び腎不全のリスクを低下させることを示している。
【0109】
実施例3
スチリペントールのシュウ酸カルシウム腎結石から保護する効果を、この実施例で評価した。
【0110】
シュウ酸カルシウム腎臓結石のネズミモデルを準備した。12匹の成体Sprague-Dawleyラットに、塩化カルシウム(2g/L)及び、LDH-5を含む肝臓酵素によってシュウ酸塩に変換されるアミノ酸である、ヒドロキシプロリン(20g/L)を飲料水で与えた。
【0111】
ラットをこの食餌に4ヶ月間晒した。
【0112】
これらのラットのうち6匹に、成体ラットの約150mg/Kgに相当する4g/Lのスチリペントール(Diacomit(登録商標))を飲料水において追加で与えた。
【0113】
手順の最後にラットを屠殺し、分析のために腎臓を回収した。
【0114】
スチリペントールを投与されたラットは、4ヶ月プロトコールの終了時の対照と比較した場合、尿中のシュウ酸カルシウム結晶が少なく、血清クレアチニン濃度によって評価された腎機能を維持していた(
図4、p = 0.002)。
【0115】
したがって、スチペントールは、特に腎不全の危険性がある患者、例えば、原発性高シュウ酸尿症の患者、より一般的には高シュウ酸尿症に罹患した腎臓結石を形成する患者において、シュウ酸カルシウム結石形成を予防するのに明らかに効果的である。