【文献】
Adv. Healthcare Mater. (2015), 4, p.2026-2036
【文献】
Appl. Mater. Interfaces (2016), 8, p.14958-14965
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記埋め込み型装置は、カテーテル、動静脈シャント、乳房植込み、心臓および他のモニター、人工内耳、除細動器、歯科インプラント、顎顔面インプラント、中耳インプラント、神経刺激装置、整形外科装置、ペースメーカーおよびリード、陰茎インプラント、人工装置、置換関節、脊椎インプラント、人工喉頭、人工心臓、コンタクトレンズ、骨折固定装置、輸液ポンプ、頭蓋内圧装置、眼内レンズ、子宮内装置、人工関節、機械弁、整形外科装置、縫合材料、泌尿ステント、血管補助装置、血管移植片、血管シャントと血管ステント、および永久または一過性の人工血管からなる群から選択される、請求項8から請求項9のいずれか一項に記載の埋め込み型装置。
b1)またはb2)のステップi)および/またはii)、および/または請求項12の洗濯ステップの後に、少なくとも1つの乾燥ステップをさらに含む、請求項10または請求項11の装置を調製する方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
高分子電解質コーティング
本発明者らは、ポリカチオンとしてポリアルギニン、ポリオルニチンまたはポリリジン、ポリアニオンとしてヒアルロン酸(HA)を有する高分子電解質コーティングが殺菌性を有する強い表面コーティングであることを示す。本発明者らは、ポリ−L−アルギニン(PAR)、ポリ−L−オルニチン(PLO)またはポリ−L−リジン(PLL)、特にそれぞれ30個のアルギニン、オルニチンまたはリジン残基があるもの、およびポリアニオンとしてヒアルロン酸(HA)を有する高分子電解質コーティングが強い殺菌活性を持つことを示す。
【0027】
さらに、本発明者らは、100個のオルニチン残基があるポリオルニチンおよびポリアニオンとしてヒアルロン酸(HA)を有する高分子電解質コーティングが強い殺菌活性を持つことを示す。
【0028】
当業者に知られているように、用語「高分子電解質」とは、繰り返し単位が電解質基を持つポリマーのことを指す。ポリカチオンとポリアニオンの両方も高分子電解質である。したがって、本発明において、ポリアニオン層とポリカチオン層は高分子電解質層と呼ばれることがある。
【0029】
一般式(1)のポリカチオンはn個の繰り返し単位を含み、前記繰り返し単位が同じであってもよく異なってもよい。本発明によれば、ポリカチオンの繰り返し単位は、一般式−NH−CH(CH
2−CH
2−CH
2−R)−C(=0)で表される。所定の繰り返し単位にとって、Rは以上のように定義され、それぞれの単位において異なってもよい。
【0030】
1つの好ましい実施形態によれば、一般式(1)のポリカチオンは、すべてのR基が同じであるn個の繰り返し単位を含む。
【0031】
また1つの実施形態によれば、一般式(1)のポリカチオンは、R基が異なってもよいn個の繰り返し単位を含む。
【0032】
ポリカチオンは、n個の単位において、i個の一般式−NH−CH(CH
2− CH
2−CH
2−NH
2)−C(=0)の単位、j個の一般式−NH−CH(CH
2−CH
2−CH
2−CH
2−NH
2)−C(=0)の単位、およびk個の一般式−NH−CH(CH
2−CH
2−CH
2−NH−C(NH)−NH
2)−C(=0)の単位を含み、i、j、およびkがそれぞれ0からnまでの範囲にあり、i+j+k=nであり、単位がランダム分布またはブロック分布を有する。ここで、「少なくとも1つのポリカチオン」における用語「少なくとも」とは、一般式(1)を有するn個の繰り返し単位を含む少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個のポリカチオン、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個のポリカチオン、好ましくは一般式(1)を有するn個の繰り返し単位を含む1つのポリカチオンのことを指す。
【0033】
ここで記述される「一般式(1)を有するn個の繰り返し単位を含むポリカチオン」または「一般式(1)を有するn個の繰り返し単位」は、正帯電ポリマーであり、「ポリカチオン材料」と呼ばれることもできる。したがって、1つの実施形態において、本発明に記述されるような一般式(1)を有するn個の繰り返し単位のポリカチオン材料は、本発明の高分子電解質コーティングの少なくとも1つのポリカチオン層を含む。
【0034】
1つの実施形態において、Rが−NH
2、−CH
2−NH
2および−NH−C(NH)−NH
2から選択される場合に、一般式(1)を有するn個の繰り返し単位における「n」は、11以上100以下の整数である。
【0035】
もう1つの実施形態において、nは11から99までの整数であり、例えば、Rが−NH
2、−CH
2−NH
2および−NH−C(NH)−NH
2から選択される場合、好ましくは、Rが−CH
2−NH
2および−NH−C(NH)−NH
2から選択される場合、より好ましくは、Rが−NH−C(NH)−NH
2である場合に、nは11以上95以下、15以上95以下、15以上90以下、15以上85以下、 15以上80以下、15以上75以下、20以上95以下、20以上90以下、20以上85以下、20 以上80以下、20以上75以下、25以上95以下、25以上90以下、25以下85以下、25以上 80以下、25以上75以下、28以上 74以下、28以上72以下、30以上70以下の整数、例えば30、50および70である。
【0036】
もう1つの実施形態において、nは11から49までの整数であり、例えば、Rが−NH
2、−CH
2−NH
2および−NH−C(NH)−NH
2から選択される場合、好ましくは、Rが−CH
2−NH
2および−NH−C(NH)−NH
2から選択される場合、より好ましくは、Rが−NH−C(NH)−NH
2である場合に、nは11以上45以下、15以上45以下、20以上40以下、21以上39以下、 22以上38以下、23以上37以下、24以上36以下、25以上35以下、26以上34以下、27以上33以下、28以上32以下、29以上31以下の整数である。
【0037】
1つの特定の実施形態において、Rが−NH
2、−CH
2−NH
2および−NH−C(NH)−NH
2から選択される場合、好ましくは、Rが−CH
2−NH
2および−NH−C(NH)−NH
2から選択される場合、より好ましくは、Rが−NH−C(NH)−NH
2である場合に、nは11、15、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、45、47、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76、78、80、82、84、86、88、90、92、94、96、98からなる群から選ばれる整数であり、好ましくは、nは30、50または70である。
【0038】
1つの特定の実施形態において、Rが−NH
2、−CH
2−NH
2および−NH−C(NH)−NH
2から選択される場合、好ましくは、Rが−CH
2−NH
2および−NH−C(NH)−NH
2から選択される場合、より好ましくは、Rが−NH−C(NH)−NH
2である場合に、nは11、15、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、45および49からなる群から選ばれる整数であり、好ましくは、nは30である。
【0039】
1つの特定の実施形態において、Rが−NH
2である場合に、nは11以上150以下の整数であり、例えば、11以上140以下、11以上130以下、11以上120以下、11以上120以下、15以上110以下、15以上100以下、20以上100以下、22以上95以下、24以上90以下、26以上80以下、26以上75以下、26以上70以下、26以上65以下、26以上55以下、26以上50以下、26以上45以下、26以上40以下、26以上35以下、26以上34以下、27以上33以下、28以上32以下、29以上31の整数である。1つの実施形態において、Rが−NH
2である場合に、nは11、15、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、45、50、55、60、70、80、90、100、110、120、130、140からなる群から選ばれる整数であり、好ましくは、nは30または100である。
【0040】
1つの実施形態において、Rが−NH
2、−CH
2−NH
2および−NH−C(NH)−NH
2から選択される場合、好ましくは、Rが−CH
2−NH
2および−NH−C(NH)−NH
2から選択される場合、より好ましくは、Rが−NH−C(NH)−NH
2である場合に、nは、nが11以上、またnが49以下であるという条件で以上のように記述される整数であり、好ましくは、Rが−NH
2、−CH
2−NH
2および−NH−C(NH)−NH
2から選択される場合、好ましくはRが−CH
2−NH
2および−NH−C(NH)−NH
2から選択される場合、より好ましくはRが−NH−C(NH)−NH
2である場合に、nは15、20、または25以上であり、また、nは45、40、または35以下である。
【0041】
1つの特定の実施形態において、Rが−NH−C(NH)−NH
2である場合に、nは、nが20または25以上、また、nが95または100以下であるという条件で以上のように記述される整数である。
【0042】
1つの特定の実施形態において、Rが−NH−C(NH)−NH
2である場合に、nは、nが20または25以上、また、nが45または40以下であるという条件で以上のように記述される整数である。
【0043】
もう1つの特定の実施形態において、Rが−NH
2である場合に、nは、nが20または25以上、また、nが45または40以下であるという条件で以上のように記述される整数である。
【0044】
もう1つの特定の実施形態において、Rが−CH
2−NH
2である場合に、nは、nが20または25以上、また、nが45または40以下であるという条件で以上のように記述される整数である。
【0045】
一般式(1)の「繰り返し単位」は、「構成単位」とも呼ばれ、ここでアミノ酸またはアミノ酸残基のことを指し、前記アミノ酸は、Rが−NH
2である場合にオルニチンであり、Rが−CH
2−NH
2である場合にリジンであり、Rが−H−C(NH)−NH
2である場合にアルギニンである。したがって、「一般式(1)のn個の繰り返し単位」は、「一般式(1)のn個のアミノ酸残基」と呼ばれてもよく、より正確には、Rが−NH
2である場合にn個のオルニチン残基と呼ばれ、Rが−CH
2−NH
2である場合にn個のリジン残基と呼ばれ、Rが−H−C(NH)−NH
2である場合にnこのアルギニン残基と呼ばれてもよい。
【0046】
1つの実施形態において、一般式(1)のn個の繰り返し単位は、ペプチド結合の形成を介して重合する。したがって、一般式(1)を有するn個の繰り返し単位または一般式(1)のn個のアミノ酸残基は、ポリマーまたはポリペプチドと呼ばれてもよい。
【0047】
いくつかの実施形態において、以上に記述されるような上記i、j、およびk個の単位は、ペプチド結合の形成を介して重合する。したがって、i個の一般式−NH−CH(CH
2−CH
2−CH
2−NH
2)−C(=0)の単位、j個の一般式−NH−CH(CH
2−CH
2−CH
2−CH
2−NH
2)−C(=0)の単位、およびk個の一般式−NH−CH(CH
2−CH
2−CH
2−NH−C(NH)−NH
2)−C(=0)の単位を含むポリカチオン材料は、コポリマーと呼ばれてもよく、i、j、およびkがそれぞれ0からnまでの範囲にあり、i+j+k=nであり、上記単位がランダム分布またはブロック分布を有する。
【0048】
アミド結合とも呼ばれる「ペプチド結合」は、1つのアミノ酸のカルボキシル基(COOH)と他のアミノ酸のアミノ基(NH
2)の間に形成される共有化学結合であり、一つの水分子がそこに生成される。
【0049】
以上により、いくつかの実施形態において、「一般式(1)を有するn個の繰り返し単位」は、Rが−NH
2である場合に「n個のオルニチン残基を有するポリオルニチン」と呼ばれ、Rが−CH
2−NH
2である場合に「n個のリジン残基を有するポリリジン」と呼ばれ、Rが−H−C(NH)−NH
2である場合に「n個のアルギニン残基を有するポリアルギニン」と呼ばれてもよい。
【0050】
「オルニチン」は、尿素サイクルに役割を果たす非タンパク質原性アミノ酸である。ポリオルニチンは、構成単位であるオルニチンのポリマーのことを指す。ポリオルニチンは、ポリ−L−、ポリ−D−またはポリ−LD−オルニチンのことを指す。本発明において、ポリオルニチンは、特にポリ−L−オルニチン(PLO)を指す。
【0051】
「アルギニン」および「リジン」は、タンパク質の生合成に用いられるα−アミノ酸である。ポリアルギニンおよび−リジンはそれぞれ、構成単位であるアルギニンまたはリジンのポリマーのことを指す。ポリアルギニンまたは−リジンは、ポリ−L−、ポリ−D−またはポリ−LD−アルギニンまたは−リジンのことを指す。本発明において、ポリアルギニンまたはポリリジンはそれぞれ、特にポリ−L−アルギニン(PAR)およびポリ−L−リジン(PLL)のことを指す。
【0052】
「ポリ−L−オルニチン」、「ポリ−L−リジン」および「ポリ−L−アルギニン」は、正帯電の合成ポリマー(ポリカチオンとも呼ばれる)であり、対イオンを持つ塩として生成される。その対イオンは、塩酸塩、臭化水素酸塩またはトリフルオロ酢酸塩から選択されてもよく、これに制限されていない。
【0053】
1つの実施例において、ポリアルギニンは、CAS#26982−20−7のポリ−L−アルギニン塩酸塩である。
【0054】
1つの実施例において、ポリオルニチンは、CAS#27378−49−0のポリ−L−オルニチン臭化水素酸塩、またはCAS#26982−21−8のポリ−L−オルニチン塩酸塩である。
【0055】
1つの実施例において、ポリリジンは、CAS#25988−63−0のポリ−L−リジントリフルオロ酢酸塩、ポリ−L−リジン臭化水素酸塩、またはCAS#26124−78−7のポリ−L−リジン塩酸塩である。
【0056】
特定のアミノ酸残基を有するポリ−L−オルニチン、ポリ−L−リジンおよびポリ−L−アルギニンは、例えば、米国のAlamanda Polymers社を介して市販品として得られる。
【0057】
1つの実施例において、ポリ−L−アルギニン(PAR)、例えば、PAR10(10個のアルギニン(R)、Mw=2.1kDa、PDI=1)、PAR30(30個のR、Mw=6.4kDa、PDI=1.01)、PAR50(50個のアルギニン(R)、Mw=9.6kDa、PDI=1.03)、PAR70(70個のアルギニン(R)、Mw=13.4kDa、PDI=1.01)、PAR100(100個のR、Mw=20.6kDa、PDI=1.05)、およびPAR200(200個のR、Mw=40.8kDa、PDI=1.06)は、米国のAlamanda Polymers社から購入される。
【0058】
もう1つの実施例において、ポリ−L−オルニチン(PLO)、例えば、PLO30(30個のR、Mw=5.9kDa、PDI=1.03)、PLO100(100個のR、Mw=18.5kDa、PDI=1.03)、およびPLO250(250個のR、Mw=44.7kDa、PDI=1.02)は、米国のAlamanda Polymers社から購入される。
【0059】
またもう1つの実施例において、ポリ−L−リジン(PLL)、例えば、PLL10(10個のR、Mw=1.6kDa)、PLL30(30個のR、Mw=5.4kDa、PDI=1.02)、PLL100(100個のR、Mw=17.3kDa、PDI=1.07)、PLL250(250個のR、Mw=39.5kDa、PDI=1.08)は、米国のAlamanda Polymers社から購入される。
【0060】
nが例えば30であるn個の繰り返し単位、例えばポリアルギニン、ポリリジン、またはポリオルニチンを有するポリペプチドを得る方法は、当業者に知られて、α−アミノ酸であるN−カルボキシ無水物(NCA)の開環重合と、その後の精製を含む。典型的に、ポリペプチドは、重合の後に、水あるいは例えば、有機非溶媒における沈降により、また、アミノ酸の側鎖脱保護の後に、透析により精製される。すべての水溶性ポリマーは最後に凍結乾燥される。
【0061】
n個の単位を有するコポリマーを得る方法も当業者に知られている。
【0062】
1つの好ましい実施形態において、一般式(1)を有するn個の繰り返し単位は単分散であり、すなわち、ポリカチオン層が含むポリカチオン材料は単分散である。ポリカチオン層が含むポリカチオン材料は単分散であると、ポリカチオン層も単分散であることは、当業者にとっては理解できる。したがって、1つの実施形態において、本発明におけるポリカチオン層が単分散である。
【0063】
ここで、「単分散」とは、同じ質量の同じ分子を含むポリマーのことを指す。合成単分散のポリマー鎖は、例えば、アニオン性触媒を使用して鎖長が同様である鎖を生成する方法であるアニオン重合、例えば、α−アミノ酸N−カルボキシ無水物(NCA)の開環重合のようなプロセスによって作成されることができる。多分散性指数(PDI)に基づいてポリマーのサンプルが単分散であるかどうかを確定ことができる。したがって、1つの実施形態において、多分散性指数(PDI)を使用して単分散性を表す。
【0064】
いくつかの実施形態において、上記少なくとも1つのポリカチオンが1つ以上のポリカチオンである場合に、上記少なくとも1つのポリカチオンは多分散であってもよく、すなわち、ポリカチオン層が含むポリカチオン材料は、異なるポリカチオンの混合物であり、多分散であってもよい。ポリカチオン層が含むポリカチオン材料は多分散であると、ポリカチオン層も多分散であることは、当業者にとっては理解できる。したがって、1つの実施形態において、本発明におけるポリカチオン層が多分散である。
【0065】
ここで、「多分散」とは、異なる質量の異なる分子のポリマーのことを指す。
【0066】
「多分散性指数(PDI)」または「抗体異性度指数」、あるいあは単純の「分散性」は、所定のポリマーサンプルにおける分子質量の分布の指標である。多分散性指数(PDI)は、重量平均分子量(M
w)を数平均分子量(M
n)で割れることにより計算される。PDIは1以上の値を有するが、ポリマー鎖が均一鎖長に近接することにつれて、PDIは1に近接する。
【0067】
したがって、1つの実施形態において、多分散性指数(PDI)は、1.5以下、1.4以下、1.3以下、特に1以上1.2以下、好ましくは1以上1.1以下、例えば1以上1.05以下である。
【0068】
1つの特定の実施形態において、一般式(1)を有するn個の繰り返し単位、ポリカチオン材料またはポリカチオン層の多分散性指数(PDI)は、1.5以下、1.4以下、1.3以下、特に1以上1.2以下、好ましくは1以上1.1以下、例えば1以上1.05以下である。
【0069】
当業者に知られているように、PDIは、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)、動的光波散乱計測等の光波散乱計測、あるいはマトリックス支援レーザ脱離/イオン化(MALDI)またはエレクトロスプレイイオン化質量分析法(ESI−MS)等の質量分析法により計測されてもよい。
【0070】
1つの実施例において、PDIは、典型的に60℃で、例えば0.1M LiBrのDMFにおいて、典型的にゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により保護ポリアミノ酸に対して、または典型的に水性緩衝液において、例えばGPCにより脱保護ポリペプチドに対して、両方の場合にも狭義の多分散性PEG標準またはTALLSのユニバーサル較正から形成される検量線を使用することにより計測される。アミノ酸の繰り返し単位を使用するTALLSまたはプロトンNMR分光法により、平均分子量を組み込まれる開始剤ピックの統合比率に提供する。
【0071】
ヒアルロナンとしても知られる「ヒアルロン酸(HA)」は、N−アセチルグルコサミンとグルクロン酸塩の繰り返し二糖単位(β1−3およびβ1
_4グリコシド結合により架橋される)からなる直鎖(非分岐鎖)多糖または非硫酸化グリコサミノグリカンである。そのため、ヒアルロン酸(HA)は、負帯電ポリマー(ポリアニオンとも呼ばれる)であるため、本発明において、ポリアニオン材料とも呼ばれる。したがって、前記負帯電ポリマーは、塩として対イオンとともに存在する。ヒアルロン酸ナトリウムについて、その対イオンはナトリウムである。それは一部の細胞外マトリックスとして結合、上皮と神経組織にわたって広く分布される。眼球の硝子体液、滑液、皮膚、および臍帯(ワルトン膠質)において高濃度で存在する。平均的に70kgの人はその体内に約15グラムのヒアルロナンがあり、その三分の一が毎日代謝回転(分解および合成)されている。それはAとC群連鎖球菌(Streptococci)およびパスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)と、鳥類、哺乳類、および他の動物目に見られる進化的に保存された分子である。低濃度の中高分子量(500,000から>3百万Da)の溶液において、水性溶液に相当な粘性を与える。ヒアルロン酸はヒアルロニダーゼから分解されることができる。ヒアルロナンの分子量(Mw)は、個体群におけるすべての分子の平均を表すので、平均分子質量(平均分子量)を表す。1つの実施例において、ヒアルロン酸は、150kDaの分子量を有し、米国のLifecore Biomed社からのヒアルロン酸ナトリウムとして組み込まれる。
【0072】
「ヒアルロニダーゼ」とは、ヒアルロナンを分解する酵素科である。酵素は殆どの動物種と多くの微生物に見られる。異なる特異性と動態の異なるタイプのヒアルロニダーゼがたくさんある。
【0073】
1つの実施形態において、高分子電解質コーティングは、さらに「活性薬物」を含んでもよい。
【0074】
本明細書明において、用語「活性薬物」とは、生物学的事象を変更、抑制、活性化または作用する化合物または実体のことを指す。例えば、その薬物として、抗癌物質、抗炎症剤、免疫抑制剤、細胞増殖抑制剤を含む細胞−細胞外マトリックス相互作用の修飾物質、抗凝固薬、抗血栓剤、酵素抑制剤、鎮痛剤、抗増殖剤、抗真菌物質、細胞静止物質、増殖因子、ホルモン、ステロイド、非ステロイド物質、および抗ヒスタミン剤が挙げられ、これらに制限されていない。症状群の例は、鎮痛、抗増殖、抗血栓、抗炎症、抗真菌、抗生、細胞静止、免疫抑制物質と、増殖因子、ホルモン、グルココルチコイド、ステロイド、非ステロイド物質、サイレンシングとトランスフェクション用の遺伝的にまたは代謝的に活性な物質、抗体、ペプチド、受容体、配位子、およびそのいずれの薬剤として使用可能な誘導体が挙げられ、これらに制限されていない。上記群の詳しい例は、パクリタキセル、エストラジオール、シロリムス、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、ドキソルビシン、イリノテカン、ゲンタマイシン、ジクロキサシリン、キニーネ、モルヒネ、ヘパリン、ナプロキセン、プレドニゾン、デキサメタゾンである。
【0075】
1つの実施形態において、上記「活性薬物」は、以上のように記述されるポリカチオン材料である。
【0076】
1つの実施形態において、本発明の高分子電解質コーティングは生体適合性がある。
【0077】
本発明に使用されるような用語「生体適合性」は、生体内の実質的に有害な反応を引き起こすことがないコーティングを説明することを意図する。
【0078】
1つの実施形態において、本発明の高分子電解質コーティングは免疫調節性がある。
【0079】
ここで、「免疫調節性」とは、炎症経路を抑制することを指す。
【0080】
換言すれば、もう1つの実施形態において、本発明の高分子電解質コーティングは、炎症性サイトカインの生成に抑制作用がある。
【0081】
「炎症性サイトカイン」は、主に活性化されたマクロファージにより生成され、炎症反応の上向き調節に関わる。治癒を促進し炎症を低減する抗炎症サイトカインに対比して、炎症性サイトカインは、病気を悪化させる。
【0082】
したがって、本発明における炎症性サイトカインは、マクロファージ等の免疫細胞により、特にヒト初代マクロファージ下位個体群により放出される。炎症性サイトカインは、例えば、TNF−α、CCL18およびCD206であり、これらに制限されていない。
【0083】
マクロファージの活性化は二つに分ける。初期の炎症に活発で、その長期間の存在が慢性の炎症をもたらすM1マクロファージ、または典型的に活性化されたマクロファージと、組織改造と治癒に重要な役割を果たすM2マクロファージ、または選択的に活性化されたマクロファージである。マクロファージの不平衡活性化は、顕著で長期のタイプ1(M1)の成長をもたらす。TNF−αはM1特有のサイトカイン、CCL18とCD206はM2特有のサイトカイン。
【0084】
以上に説明されたように、本発明者らは、意外と本発明の高分子電解質コーティングが殺菌活性を持つことを示す。
【0085】
したがって、1つの実施形態において、本発明の高分子電解質コーティングは殺菌活性を持つ。
【0086】
ここで、「殺菌活性」とは、いずれの有害生物を殺す、抑止、無害化する、あるいはそれに防除効果を及ぼすことを指す。ここでの 殺菌活性は、例えば抗菌活性のことを指す。
【0087】
ここで、「抗菌活性」とは、消毒活性、抗生活性、抗細菌活性、抗ウイルス性、抗真菌性、抗原虫活性および/または抗寄生虫活性、好ましくは抗細菌活性のことを指す。
【0088】
したがって、1つの実施形態において、本発明の高分子電解質コーティングは、抗細菌活性および/または静菌活性を持つ。
【0089】
1つの実施形態において、抗細菌活性および/または静菌活性は、少なくとも1つの細菌にに向けられる。
【0090】
ここで、「静菌活性」とは、必ずしも細菌を殺さない条件でその生殖を抑えることを指し、換言すれば、ここで、静菌活性は、細菌の増殖を抑制することを指す。したがって、静菌活性は、例えば、少なくとも1つの細菌の増殖抑制の百分率で示すことがある。
【0091】
本発明における「少なくとも1つの細菌の増殖抑制」は、70%以上、例えば、75%以上、80%以上、典型的に、82、84、86、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98%以上であってもよく。
【0092】
したがって、1つの実施形態において、本発明の高分子電解質コーティングでは、少なくとも1つの細菌の増殖抑制が70%以上、より詳しくは、75%以上、80%以上であり、典型的に、少なくとも1つの細菌の増殖抑制が82、84、86、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98%以上である。
【0093】
ここで、「少なくとも1つの 細菌」とは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上の種の細菌を指す。
【0094】
1つの実施形態において、上記少なくとも1つの細菌はESKAPE病原体である。
【0095】
「ESKAPE病原体」は、世界にわたって院内感染の主な原因になり、例えば、Biomed Res Int.2016;2016:2475067に説明されている。1つの実施形態において、用語「ESKAPE病原体」とは、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、バクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、およびエンテロバクター(Enterobacter)種からなる群から選ばれる細菌のことを指す。
【0096】
1つの実施形態において、上記少なくとも1つの細菌は、グラム陽性菌またはグラム陰性菌であり、好ましくはグラム陽性細菌である。
【0097】
1つの実施形態において、グラム陰性菌は、緑膿菌、バクター・バウマニ、ステノトロフォモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)、大腸菌(Escherichia coli)、肺炎桿菌、エンテロバクター種またはレジオネラ菌(Legionella)であり、好ましくは、大腸菌または緑膿菌である。
【0098】
1つの実施形態において、グラム陽性菌は、ブドウ球菌、ミクロコッカス(Micrococcus)またはエンテロコッカス菌である。
【0099】
「ブドウ球菌」属の細菌は、フドウ状の群れを成す固定で芽胞形成がない、カタラーゼ陽性、オキシダーゼ陰性、グラム陽性の球菌である。1879にPasteurによりフルンケル膿において観察されたブドウ球菌は、急性慢性の膿瘍においてそれらを分離したOgsten(1881)から名前を得る。「ブドウ球菌」属の細菌、例えば、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)、スタフィロコッカス・カピティス(S.capitis)、スタフィロコッカス・カプラエ(S.caprae)、スタフィロコッカス・ヘモリチカス(S.haemolyticus)、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(S.lugdunensis)、スタフィロコッカス・シュライフェリ(S.schleiferi)、スタフィロコッカス・シミュランス(S.simulans)およびスタフィロコッカス・ワルネリ(S.warneri)は、例えば人工関節感染における異物感染の主な病原体である。
【0100】
したがって、1つの実施形態において、ブドウ球菌は、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、スタフィロコッカス・カピティス、スタフィロコッカス・カプラエ、スタフィロコッカス・ヘモリチカス、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス、スタフィロコッカス・シュライフェリ、スタフィロコッカス・シミュランスおよびスタフィロコッカス・ワルネリから選ばれ、好ましくは黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌、より好ましくは黄色ブドウ球菌である。
【0101】
「ミクロコッカス」属の細菌は、特に免疫システムに欠陥がある宿主、例えば、HIV患者における日和見性の病原体であってもよいが、一般、腐生性または共生の生物であると考えられている。小球菌は皮膚の微生物相に正常に存在し、その属は殆ど病気と関連がない。しかし、めずらしい場合には、免疫不全の患者の死亡は、ミクロコッカス由来肺の感染から起こる。小球菌は、特に免疫抑制患者における再発性菌血症、敗血症性ショック、敗血症性関節炎、心内膜炎、髄膜炎、および空洞化肺炎を含む他の感染に関わることがある。
【0102】
1つの実施形態において、ミクロコッカスは、ミクロコッカス・ルテウス(M.luteus)菌である。
【0103】
「エンテロコッカス」属の細菌は、尿路感染、菌血症、細菌性心内膜炎、憩室炎、および髄膜炎等の重大な臨床感染の原因になる。
【0104】
1つの実施形態において、エンテロコッカスは、バンコマイシン耐性のエンテロコッカス、例えば、エンテロコッカス・フェカリス(E.faecalis)またはエンテロコッカス・フェシウム(E.faecium)である。
【0105】
静菌活性または増殖抑制の百分率は、例えば、以下の「方法」というセクションにおいて説明されるような抗細菌分析に示す。このような抗細菌分析に用いられる菌株は、例えば、ミクロコッカス・ルテウスまたは黄色ブドウ球菌であってもよい。
【0106】
以上に説明されるように、1つの典型的な適用において、本発明の高分子電解質コーティングは、特にインプラントおよび医療装置に関連する院内感染を防止することを目的とする。以上の説明において、移植後の6時間において感染のリスクが特に高い。
【0107】
これにより、1つの実施形態において、本発明の高分子電解質コーティングは、移植後の最初の24時間において、例えば移植後の最初の12時間、最初の9時間、最初の6時間において静菌活性を持つ。
【0108】
さらに紹介に説明されるように、抗細菌コーティングは適用分野が広い。したがって、1つの実施形態において、本発明の高分子電解質コーティングは防汚活性を持つ。
【0109】
ここで、「汚損」または「生物汚損」は、湿潤表面上の微生物の蓄積のことを指す。
【0110】
このため、ここで、「防汚」は湿潤表面上の微生物の蓄積を抑制することを指す。
【0111】
本発明の高分子電解質コーティングは、典型的に、以下の「装置を調製する方法」というセクションにさらに説明される交互(LbL)積層技術を使用して形成される。交互構成に基づいて、上記高分子電解質コーティングは、「多層高分子電解質(PEM)」、「高分子電解質膜」または「高分子電解質マトリックス」とも呼ばれてもよい。
【0112】
各高分子電解質層は所定の電荷を持つ。ポリカチオン層とポリアニオン層も高分子電解質ネットワークまたは高分子電解質骨格を形成する。高分子電解質層が静電相互作用により互いに引き合う。他の引力は疎水性、ファンデルワールス、および水素結合の相互作用に基づく。
【0113】
一般に、LbL積層において、例えば、医療装置または埋め込み型装置等の装置は、正帯電と負帯電高分子電解質の希浴溶液の間に往復して浸漬される。各回の浸漬において、少量の高分子電解質が吸着され、表面電荷が反転され、静電架橋されたポリカチオン・ポリアニオン層の漸進的な制御された積み重ねを可能にする。このようなコーティングの厚みをシングルナノメートルスケールまで制御することが可能である。
【0114】
したがって、本発明の高分子電解質コーティングは、典型的に、交互に帯電した高分子電解質層の実質的に規則の高分子電解質層を含む。
【0115】
1つの実施形態において、単一の高分子電解質層、例えば1つのポリカチオン層またはポリアニオン層は、厚みが1nm以上10nm以下である。ポリカチオン層および/またはポリアニオン層の厚みは、コーティング条件および用いられる高分子電解質に依存する。
【0116】
1つの実施形態において、高分子電解質コーティングは、その厚みが典型的に高分子電解質コーティングの単一の高分子電解質層の厚みより実質的に大きい。1つの実施形態において、高分子電解質コーティングは、厚みが約10以上約100000nm以下である。高分子電解質コーティングの厚みは、コーティング条件、高分子電解質層の数、および高分子電解質層に用いられる高分子電解質材に依存する。
【0117】
得られた高分子電解質コーティングの厚みは、例えば、共焦点顕微鏡法を使用して評価される。このため、例えば、100μLのPLL−FITC(フルオレセインイソチオシアネートで標識されるポリ−L−リジン、緑色蛍光プローブ)(典型的にトリス−NaCl緩衝液において0.5mg.mL
−1である)は、高分子電解質コーティング、例えば(PAR30/HA)
24の高分子電解質コーティングのトップに堆積される。5分間およびPLL−FITCの全高分子電解質コーティングへの拡散の後、典型的に、トリス−NaCl緩衝液で洗浄ステップを行う。共焦点顕微鏡、例えば、20倍の対物レンズ(Zeiss社、Plan Apochromat)を使用するZeiss LSM710顕微鏡(Heidelberg、ドイツ)でコーティングの観察を行ってもよい。
【0118】
以上に説明するように、高分子電解質コーティングは、自己組織化方式で形成されて交互(LbL)構成を作り出す。
【0119】
ここで、「ポリカチオン層」または「ポリアニオン層」における用語「層」とは、例えば装置の表面に、例えば堆積される多くの以上に説明されるようなポリカチオンまたはポリアニオンのことを指し、前記装置が以下の「装置」というセクションに説明されるようなものであり、好ましくは医療装置または埋め込み型装置である。当業者にとっては理解できるように、本発明において、1つのポリカチオン層は同じポリカチオン材料のいくつかの層を含んでもよく、1つのポリアニオン層は同じポリアニオン材料のいくつかの層を含んでもよい。
【0120】
いくつかの実施形態において、本発明における「少なくとも1つのポリカチオン層」および/または「少なくとも1つのポリアニオン層」とは、少なくとも1、5、10、15、18、20、22、24、26、28、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、200、300、400、500層のポリカチオン層および/またはポリアニオン層のことを指す。
【0121】
いくつかの実施形態において、本発明における「少なくとも1つのポリカチオン層」および/または「少なくとも1つのポリアニオン層」とは、少なくとも1、5、10、15、18、20、22、24、26、28、30、35、40、45、50、55、60層のポリカチオン層および/またはポリアニオン層のことを指す。
【0122】
いくつかの実施形態において、「少なくとも1つのポリカチオン層」および/または「少なくとも1つのポリアニオン層」とは、1以上500以下のポリカチオン層および/またはポリアニオン層、例えば、1以上400以下、1以上300以下、1以上200以下、1以上100以下、1以上90以下、1以上80以下、1以上70以下、1以上60以下、5以上60以下、10以上60以下、20以上60以下、好ましくは21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60層のものを指す。
【0123】
いくつかの実施形態において、「少なくとも1つのポリカチオン層」および/または「少なくとも1つのポリアニオン層」とは、1以上100以下のポリカチオン層および/またはポリアニオン層、例えば、1以上90以下、1以上80以下、1以上70以下、1以上60以下、1以上50以下、1以上40以下、1以上35以下、1以上30以下、例えば5以上40以下、10以上40以下、15以上40以下、20以上40以下の層、好ましくは21、22、23、24、25、26、27、28、29、30層のものを指す。
【0124】
ある実施形態において、ポリカチオン層の数とポリアニオン層の数が同じである。
【0125】
ある実施形態において、ポリカチオン層とポリアニオン層は、交互層、特に交互に帯電した高分子電解質層である。
【0126】
したがって、1つの実施形態において、高分子電解質コーティングは、1以上60以下のポリカチオン層および/または1以上60以下のポリアニオンを含む。
【0127】
特定の実施形態において、高分子電解質コーティングは、18以上60以下のポリカチオン層および/または18以上60以下のポリアニオン層を含み、より好ましくは、高分子電解質コーティングは、18以上50以下のポリカチオン層および/または18以上50以下のポリアニオン層を含む。
【0128】
特定の実施形態において、高分子電解質コーティングは、18以上60以下のポリカチオン層および/または18以上60以下のポリアニオン層を含み、より好ましくは、高分子電解質コーティングは、18以上40以下のポリカチオン層および/または18以上40以下のポリアニオン層を含む。
【0129】
1つの実施例において、以下にさらに説明されるように、1つのポリカチオン層で物体の表面を被覆して、物体を洗濯し1つのポリカチオン層で再び被覆することが可能になる。いくつかのポリカチオン層を含む所定の厚みの1つのポリカチオン層を得るために、これらのステップを数回繰り返すことができる。当業者にとって理解できるように、この方法を使用していくかつのポリアニオン層を含むある厚みの1つのポリアニオン層を得ることもできる。
【0130】
1つの実施例において、高分子電解質コーティング は、24層の30個のアルギニン残基(PAR30)を有するポリアルギニンと24層のHAを含み、よって、ここで、前記コーティングが(PAR30/HA)
24と呼ばれる。同じ実施例において、第一層がPAR30を含むポリカチオン層であり、続いて第一層のポリアニオンHAがあり、続いてPAR30を含む第二のポリカチオン層があり、続いてHAを含む第二のポリアニオン層がある。24層目のPAR30を含むポリカチオン層と24層目のHAを含むポリアニオン層までそれらの層を交互積層する。
【0131】
他の実施例において、高分子電解質コーティングは、48層の30個のアルギニン残基(PAR30)を有するポリアルギニンと24層のHAを含み、よって、ここで、前記コーティングが(PAR30/HA)
48と呼ばれる。同じ実施例において、第一層がPAR30を含むポリカチオン層であり、続いて第一層のポリアニオンHAがあり、続いてPAR30を含む第二のポリカチオン層があり、続いてHAを含む第二のポリアニオン層がある。48層目のPAR30を含むポリカチオン層と48層目のHAを含むポリアニオン層までそれらの層を交互積層する。
【0132】
本発明のもう1つの態様において、高分子電解質コーティングは、例えば、物体の表面でポリアニオン層から始め、ポリアニオン層で終えてもよく、この場合に、ポリカチオン層とポリアニオン層の数が異なる。好ましくは、高分子電解質コーティングは、物体の表面が正帯電である場合に、ポリアニオン層から始める。
【0133】
本発明の他の様態において、高分子電解質コーティングは、例えば、物体の表面でポリカチオン層から始め、ポリカチオン層で終えてもよく、この場合に、ポリカチオン層とポリアニオン層の数も異なる。したがって、ある実施形態において、ポリカチオン層の数とポリアニオン層の数が異なる。好ましくは、高分子電解質コーティングは、物体の表面が負帯電である場合に、ポリカチオン層から始める。
【0134】
1つの実施例において、高分子電解質コーティングは、25層の30個のアルギニン残基を有するポリアルギニンと24層のHAを含み、よって、前記コーティングが(PAR30/HA)
24−PAR30と呼ばれる。
【0135】
ある実施形態において、ここに記述されるように、異なる高分子電解質層は、同じポリカチオン材料または異なるポリカチオン材料を含む。例えば、高分子電解質コーティングは、12層の30個のアルギニン残基を有するポリアルギニンを含む層、12層の30個のオルニチン残基を有するポリオルニチンを含む層、および24層のHAを含む層を含んでもよい。
【0136】
本発明者らは、さらに実施例と
図1において説明されるように、水晶振動子マイクロバランス(QCM)を使用して、PAR30、PAR100またはPAR200とHAを有する高分子電解質コーティングの積み重ねの積層ステップ数での正規化頻度の指数増殖を観察する。さらに、本発明者らは、積層ステップ数での厚みの指数増加が多層からなる少なくとも1つの高分子電解質の全コーティングの内外への拡散に関連することを示す。さらに、本発明者らは、
図14に示すように、退色実験を使用して、コーティングに含まれるポリカチオンポリマーが運動可能であるので全コーティング内に拡散することを示す。
【0137】
したがって、1つの実施形態において、本発明の高分子電解質コーティングは、積層ステップ数で正規化頻度のいわゆる「指数増殖」を向上する。
【0138】
もう1つの実施形態において、以上のように記述される一般式(1)を有するn個の繰り返し単位は、運動可能であり、また/あるいは高分子電解質コーティングにおいて拡散する。
【0139】
本発明者らは、少なくとも2つの逆帯電した高分子電解質層の共有結合がコーティングの静菌活性を低減することを示す。
【0140】
したがって、1つの実施形態において、少なくとも1つのポリカチオン層と少なくとも1つのポリアニオン層は共有結合されていない。
【0141】
装置
異物によるブドウ球菌性感染は、生物膜としての細菌の配列により通常の感染と異なる。
【0142】
「生物膜」は、異物に接続され、細菌細胞が粘液またはグリコカリックスと呼ばれる多糖細胞外マトリックスに埋め込まれる複雑な三次元構造である。この特定の構造は、同じ種または異なる種の細菌によって形成されてもよい。それらの自由(または「浮遊性」)形式の生きている同属種に対比して、これらの細菌は、低レベルの代謝活性で示す休止状態にある。低減された代謝のせいで、生物膜としての活性細菌は、例えば、いずれの抗細菌治療に対してより耐性がある。
【0143】
生物膜の問題は医療分野に制限されていない。生物膜は、水生と工業用水システムだけでなく数多くの環境に遍在し起こる。生物膜は、台所と浴室における便器、流し台、玩具、まな板、および調理台等の様々な家事用品の表面を広くコロニーを作ることができる。生物膜は、食品製造産業、例えば生産ラインに沿って用いられる缶または機器に起こることがある。水と汚水処理施設について、生物膜(生物汚損)も問題となる。生物膜は、金属腐食を引き起こし、製品汚染のリスクを増加させ、水質を低下させ、例えば台所と浴室における板、および調理台のための熱交換の効能を低下させる。
【0144】
したがって、抗細菌コーティングは、多くの異なる適用の装置に対して有利である。
【0145】
以上に説明されるように、本発明者らは、特に細菌を含有する溶液に接触する時最初の72時間に、特に細菌を含有する溶液に接触する時最初の48時間に、より好ましくは細菌を含有する溶液に接触する時最初の24時間、最初の12時間、最初の6時間に殺菌活性を持つ高分子電解質コーティングを開発する。そのため、本発明の高分子電解質コーティングは、細菌増殖を抑制して、細菌が本発明の高分子電解質コーティングを含む装置の表面に生物膜を形成することを防止する。
【0146】
本発明者らは、例えば、24/48または72時間の培養後の、PAR30、PAR50、PAR100およびPAR30で構築された(PAR/HA)24のコーティングが細菌を完全に抑制し、3日および3つの連続汚染にわたって効率を示すことを示す。さらに、本発明者らは、本発明のコーティングの殺菌活性の期間が層数につれて増加することを発見する。したがって、本発明のコーティングの殺菌活性の期間は、用いられる層の数につれて増加する。
【0147】
さらに、本発明者らは、本発明のコーティングに対する乾燥も滅菌もコーティングの抗菌活性を変更しないことを示す。これにより、滅菌の後においても、総殺菌活性に完全に変化が計測されていない。
【0148】
したがって、当業者にとって、本発明の高分子電解質コーティングの静菌活性により、前記高分子電解質コーティングは、前記高分子電解質コーティングを含む装置を製造することに特に適していることが理解できる。
【0149】
したがって、本発明は、さらに、高分子電解質本発明のコーティングを含む装置のことを指す。
【0150】
ここで、「装置」とは、少なくとも1つの表面を含む物体である。
【0151】
1つの実施形態において、上記高分子電解質コーティングは、前記装置の少なくとも一部の表面を被覆する。
【0152】
1つの実施形態において、本発明の装置の表面は、チタン等の金属、シリコーン等のプラスチック、セラミックまたは木等の他の材料を含むか、あるいは少なくとも部分的に含む。
【0153】
もう1つの実施形態において、本発明の装置の表面は、用いられる材料によってはあらゆる構造に存在する。したがって、表面が平らな表面であってもよく、平らでない表面であってもよく、このような平らでない表面が例えば、典型的に発泡体またはファイバー等の多孔質材料の表面に存在することは、当業者にとって理解できる。いくつかの実施例において、表面は微粒子またはナノ粒子を含むか、あるいは微粒子またはナノ粒子のみからなる。
【0154】
上記装置が本発明の高分子電解質コーティングを含むので、「高分子電解質コーティング」というセクションにより詳しく記述される前記高分子電解質コーティングに関連する特性が上記装置にも見つけられることは当業者にとって理解できる。
【0155】
したがって、1つの実施形態において、本発明の装置は殺菌活性を持ち、その殺菌活性は以上の「高分子電解質コーティング」というセクションに記述されるようになる。
【0156】
本発明の1つの態様において、本発明の装置は、少なくとも1つの細菌の70%以上の増殖抑制ができ、より詳しくは、少なくとも1つの 細菌の75%以上、80%以上、典型的に82、84、86、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98%以上の増殖抑制ができる。少なくとも1つの 細菌の増殖抑制百分率は、以上の「高分子電解質コーティング」というセクションに記述されるようになる。
【0157】
もう1つの実施形態において、本発明の装置は、移植後の最初の72時間に、例えば、移植後の最初の48時間、24時間、12時間、最初の9時間、および最初の6時間において静菌活性を持つ。
【0158】
好ましい実施形態において、本発明の装置は、移植後の最初の24時間に、例えば、移植後の最初の12時間、最初の9時間、および最初の6時間において静菌活性を持つ。
【0159】
さらに、1つの実施形態において、本発明の装置は防汚活性を持つ。もう1つの実施形態において、本発明の装置は抗細菌活性および/または静菌活性を持つ。
【0160】
したがって、1つの実施形態において、本発明の高分子電解質コーティングを含む装置は静菌装置および/または防汚装置である。静菌は以上の「高分子電解質コーティング」というセクションに記述されるようになる。
【0161】
本発明の高分子電解質コーティングおよび本発明の装置は、コーティングおよびその特性への有害な影響がなくて簡単に滅菌され貯蔵されることができる。
【0162】
さらに、本発明の高分子電解質コーティングの静菌活性により、前記高分子電解質コーティングが、1つの実施形態において、特に医療装置、好ましくは埋め込み型装置を製造するのに適していることは、当業者にとって理解できる。
【0163】
ここで、「医療装置」とは、例えば、以下に記述されるような人における、疾患の診断または他の条件、あるいは疾患の治療、軽減、または防止での使用に向け、あるいは人体の構成またはいずれの機能に作用するようと意図する部品、または付属品を含めて器具、器械、用具、機械、仕組み、インプラント、体外試薬、あるいは他の同様なまたは関連する品物のことを指し、その医療装置は、人間または他の動物の体への化学作用を介して意図される主な目的のいずれかを達成することがなく、代謝されることに依存して意図される主な目的のいずれかを達成することもない。1つの実施例において、医療装置は、創傷治癒に用いられる装置、例えば、粘着性帯またはドレッシング等の包帯のことを指す。もう1つの実施例において、医療装置は衛生品物のことを指す。
【0164】
ここで、医療装置は、人への使用に向かうことになってもよい。
【0165】
用語「人」、「患者」または「対象」とは、雄、雌、成体および幼体を含めて人間または人間でない哺乳動物、好ましくはマウス、ネコ、イヌ、サル、ウマ、ウシ(すなわち、雌牛、ヒツジ、ヤギ、水牛)のことを指す。
【0166】
したがって、1つの実施形態において、本発明における医療装置は医療器具であってもよい。
【0167】
1つの実施形態において、医療器具は、打診槌、打診板、温度計、異物検出器、聴診器、耳鏡、鉗子、オトスコープ、またはそれらのいずれの付属品、探針、開創器、スカルポル、外科用ハサミ、骨用器具、鋭匙、縫合針および創傷クリップからなる群から選択すればよい。
【0168】
1つの実施形態において、上記医療装置は埋め込み型装置である。
【0169】
本発明の「埋め込み型装置」とは、人体に設置されて特別な目的または特別な機能を果たす設備または機構のことを指す。
【0170】
本発明において、埋め込み型装置は、例えば、人工装置であってもよいし、例えば、埋め込まれて薬物、栄養素または酸素を送達し、体の機能を監視し、また、臓器および組織を支持する装置であってもよい。埋め込み型装置は、永久に設置されてもよいし、必要がない場合に除去されてもよい。例えば、ステントまたは股関節インプラントは永久になるつもりである。しかし、骨折を治療する化学療法のポートまたはスクリューは、必要がない場合に除去されることができる。
【0171】
1つの実施形態において、埋め込み型装置は、カテーテル、動静脈シャント、乳房植込み、心臓および他のモニター、人工内耳、除細動器、歯科インプラント、顎顔面インプラント、中耳インプラント、神経刺激装置、整形外科装置、ペースメーカーおよびリード、陰茎インプラント、人工装置、置換関節、脊椎インプラント、人工喉頭、人工心臓、コンタクトレンズ、骨折固定装置、輸液ポンプ、頭蓋内圧装置、眼内レンズ、子宮内装置、人工関節、人工弁、整形外科装置、縫合材料、泌尿ステント、血管補助装置、血管移植片、血管シャントと血管ステント、および永久または一過性の人工血管からなる群から選択される。
【0172】
好ましい実施形態において、埋め込み型装置は、カテーテル、除細動器、人工装置、人工弁、置換関節、整形外科装置、ペースメーカー、血管移植片、血管 シャント、血管ステントおよび子宮内装置からなる群、好ましくはカテーテル、整形外科装置、ペースメーカーおよび人工装置からなる群から選択される。
【0173】
ここで、「カテーテル」とは、診断または治療の目的、液体および薬物のために管、血管、通路、または体腔に挿入する管状医療装置のことを指し、このカテーテルは、尿または腹水等の体液の排出、血管形成、血管造影、およびカテーテル切除、酸素、揮発性麻酔剤等の気体の投与と、血液透析にも用いられる。
【0174】
「シャント」は、典型的には、血液の流れをある部分から別の部分へ変える狭い金属またはプラスチック管である。
【0175】
「ステント」は、典型的には、動脈または胆管としての解剖学的血管の内腔に挿入されて、特に閉塞された通路を開いたままにする網としての短く狭い金属またはプラスチック管のことを指す。
【0176】
「人工弁」は、例えば人工心臓弁である。
【0177】
本発明の装置を調製する方法
本発明は、さらに、本発明の方法として、ここに言及される本発明の装置を調製する方法に関する。
【0178】
本発明の装置は、以上に説明されるように異なる材料を含んでもよく、よって、高分子電解質コーティングで被覆される装置の少なくとも1つの表面は、以上に説明されるように異なる材料を含んでもよい。前記材料の表面電荷が異なることは、当業者にとって理解できる。正帯電の表面は、例えば、アミン基系ポリマーからなる表面である。負帯電の表面は、例えば、カルボキシル基系ポリマーからなる表面である。さらに、正帯電の表面は、まずポリアニオン層で、そして、ポリカチオン層で被覆されるが、負帯電表面は、まずポリカチオン層で、そして、ポリアニオン層で被覆されることは、当業者にとって理解できる。この2つの連続的な積層ステップは、必要な限りに繰り返されてもよい。
【0179】
1つの実施例において、本発明の装置は、例えば、ドイツのベルリンにあるRiegler&Kirstein GmbH社の自動浸漬ロボット等の自動浸漬ロボットを使用して、24層のPAR/HA(PAR30/HA)
24の二重層を例えばSi0
2表面に積層することにより調製される。したがって、典型的には、装置の表面は、まず、例えば、2%のHellmanex(登録商標)II 溶液、H
20、およびエタノールにより洗濯され、そして、気流により乾燥される。PARとHA等の高分子電解質の溶液は、例えば、典型的に0.5mg.mL
−1のPARとHAを、典型的に150mMのNaClと、例えば、典型的にpH7.4の10mMのトリス(ヒドロキシメチル)・アミノメタン(TRIS、ドイツのMerck社製)を含有する滅菌された緩衝液に溶解することにより調製される。装置の表面は、各ステップの間に、選択的にポリカチオン溶液とポリアニオン溶液に浸漬され、十分にNaCl・Tris 緩衝液に洗われる。調製の後に、典型的には、気流によりコーティングを乾燥し、NaCl・Tris緩衝液に沈み、使用するまで4℃で貯蔵する。
【0180】
ここで、ステップb1)i)およびii)またはb2)ii)およびi)における「前記装置の表面に少なくとも1つのポリカチオン層を積層する」および「前記装置の表面になくとも1つのポリアニオン層を積層する」という表現は、ステップb1)i)またはb2 i)の場合に前記装置の表面にポリカチオン溶液を接触させること、あるいはステップb1)ii)またはb2 ii)の場合に前記装置の表面にポリアニオン溶液を接触させることを指す。
【0181】
ここで、「前記装置の表面」とは、少なくとも1つの表面のことを指し、前記少なくとも1つの表面が部分的に本発明の高分子電解質コーティングにより被覆されてもよい。好ましくは、前記少なくとも1つの表面は1つの表面である。
【0182】
ここで、「ポリカチオン溶液」または「ポリアニオン溶液」とは、以上に「高分子電解質コーティング」とういセクションに記述されるような、ポリカチオン材料またはポリアニオン材料を含む溶液である。本発明において、典型的には、「ポリカチオン溶液」および「ポリアニオン溶液」は、高分子電解質溶液とも呼ばれることがある。
【0183】
ここに使用される「接触」とは、典型的には、噴霧する、浸す、浸漬するまたは注ぐことを指す。
【0184】
したがって、1つの実施形態において、「ステップ(b1)および/または(b2)に応じて高分子電解質層を積層する」ために、高分子電解質溶液は、例えば、高分子電解質コーティングが形成される装置の表面に噴霧されてもよい。
【0185】
その代わりに、いるいはそれとともに、前記装置の表面を高分子電解質溶液に浸すか浸漬してもよいし、高分子電解質溶液を基板の表面に注いでもよい。
【0186】
したがって、1つの実施形態において、少なくとも1つのポリカチオン層は、前記装置の表面に以上のように記述される一般式(1)を有するn個の繰り返し単位を含むポリカチオン溶液を接触させることにより、ステップb1)i)において装置の表面に積層される。
【0187】
したがって、1つの実施形態において、少なくとも1つのポリアニオン層は、前記装置の表面にHAを含むポリアニオン溶液を接触させることにより、ステップb1)ii)において装置の表面に積層される。
【0188】
必要に応じて、ステップb1)および/またはb2)を繰り返して、以上に「高分子電解質コーティング」というセクションに記述されるような数の高分子電解質層、特に交互のポリカチオン層とポリアニオン層を有する高分子電解質コーティングを含む装置を得ることは、当業者にとっては理解できる。高分子電解質の積層がpHから影響を受けることは、当業者にとっては明らかである。
【0189】
したがって、1つの実施形態において、本発明における前記「ポリカチオン溶液」および/または「ポリアニオン溶液」は、さらに緩衝液を含んでもよい。
【0190】
「緩衝液」は、弱酸とその共役塩基または弱塩基とその共役酸の混合物からなる水性溶液である。緩衝液は、少量の強酸または塩基が添加される場合に、そのpHが殆ど変化しないので、溶液のpHの変化を防止するのに用いられる。緩衝液溶液は、広い化学的応用においてpHをほぼ一定の値に保持する手段として用いられる。本発明に用いられる緩衝液は、例えば、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)またはTRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)であってもよい。
【0191】
1つの実施形態において、本発明における前記「ポリカチオン溶液」および/または「ポリアニオン溶液」は、4以上9以下、好ましくは4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9のpHを有し、典型的に、5以上8以下、5.5以上8以下、6以上8以下、6.5以上8以下、7以上8以下、好ましくは7以上8以下、特に7、7.2、7.4、7.6、7.8、8、例えば7.4のpHを有する。
【0192】
高分子電解質の積層は、帯電した高分子電解質と高分子電解質が積層される帯電した表面との間の相互作用、および帯電した高分子電解質同士の相互作用から影響を受けることは、当業者にとってさらに明らかである。それらの相互作用は、少なくとも部分的に溶液のイオン強度により制御される。
【0193】
このため、いくつかの実施形態において、本発明の方法のステップ(b1)または(b2)に用いられる高分子電解質溶液のイオン強度は、ある実施形態において調整されて積層される高分子電解質の量を増加する。
【0194】
したがって、1つの実施形態において、本発明における前記「ポリカチオン溶液」および/または「ポリアニオン溶液」はさらにイオンを含んでもよい。
【0195】
「イオン」は、電子の総数とプロトンの総数とは等しくなく、正味の正(カチオン)電荷または負(アニオン)電荷を持つことになる原子または分子のことである。単一の原子からなるイオンは、原子イオンまたは単原子イオンであり、2つ以上の原子からなるイオンは、分子イオンまたは多原子イオンである。持つ電荷に基づいてさらにイオンを分ける。このため、イオンは、一価、二価または多価イオンであってもよい。イオンは、F
−、Cl
−、I
−、NH
4+、S0
42+、Ca
2+、Mg
2+、Na
+であってもよく、これに制限されていない。
【0196】
典型的に、イオンは、以上に記述されるような緩衝液として添加されてもよいし、例えばNaCl等の塩として添加されてもよい。
【0197】
例えば、PARとHA等の高分子電解質の溶液は、例えば、典型的に0.5mg.mL
−1のPARとHAを、典型的に150mMのNaClと、例えば、典型的にpH7.4の10mMのトリス(ヒドロキシメチル)・アミノメタン(TRIS、ドイツのMerck社製)を含有する滅菌された緩衝液に溶解することにより調製される。
【0198】
高分子電解質層の積層の間に、高分子電解質のない溶液において少なくとも1つの洗濯または洗浄ステップを行って組み立てられていない高分子電解質材料を除去することができる。
【0199】
したがって、1つの実施形態において、本発明の方法は、さらに、b1)またはb2)のステップi)および/またはii)の後に、少なくとも1つの洗濯ステップを含む。
【0200】
1つの実施形態において、洗濯のために、高分子電解質がない溶液を使用してもよい。前記溶液は、水または当業者にとって適切ないずれの別の溶液であってもよい。1つの実施形態において、例えばNaCl・Tris緩衝液等の緩衝液を使用して洗濯を行う。1つの実施例において、前記NaCl・Tris緩衝液は、150mMのNaClおよび10mMのTrisを含み、pH7.4である。
【0201】
その代わりに、あるいはそれに加えて、1つの実施形態において、1つ以上の乾燥ステップを行ってもよい。
【0202】
したがって、1つの実施形態において、本発明の方法は、請求項のb1)またはb2)のステップi)および/またはii)、および/または洗濯ステップの後に、さらに少なくとも1つの乾燥ステップを含む。
【0203】
「乾燥」は当業者に知られるいかなる方法で行われてもよく、例えば、空気加熱、自然空気乾燥、誘電乾燥、気流、好ましくは気流のことである。1つの実施例において、気流は、窒素ガスによるパージのことを指す。
【0204】
1つの実施形態において、乾燥が結合側または下層の高分子電解質層の電荷の部分的な露出を引き起こすことがあるので、乾燥ステップの後に、乾燥ステップの直前に用いられる同じ高分子電解質溶液を再び表面に積層してもよい。このため、前記乾燥ステップは中間乾燥ステップとも呼ばれる。このような順序を利用することにより、特定の高分子電解質のロードをさらに増加することができる。
【0205】
したがって、1つの実施形態において、本発明の方法はさらに少なくとも1つの乾燥ステップを含む場合に、先のb1)またはb2)のステップi)またはii)および/または洗濯ステップを繰り返してもよい。
【0206】
典型的に、高分子電解質溶液を表面に接触させ、そして、例えば、窒素ガスによるパージによって所定の時間、例えば、10から60秒でその表面を乾燥することを可能にする。この結果、同じ高分子電解質溶液を再び表面に接触させる。
【0207】
ある実施形態において、2つの連続する積層ステップの間に少なくとも1つの洗濯および/または乾燥ステップを行う。
【0208】
本発明者らは、少なくとも2つの逆帯電した高分子電解質層の共有結合がコーティングの静菌活性を低減することを示す。
【0209】
したがって、1つの実施形態において、本発明の方法は、少なくとも1つのポリカチオン層と少なくとも1つのポリアニオン層を共有結合するステップを含まない。
【0210】
1つの実施形態において、本発明の方法は、以上に記述されるような方法のステップ(a)および(b1)または(b2)で得られた高分子電解質コーティングをさらに活性薬物で浸すステップ(c)をさらに含む。薬物は以上の「高分子電解質コーティング」というセクションに記述されるようになる。
【0211】
1つの特定の実施形態において、装置を調製する方法は、埋め込み型装置を調製する方法である。
【0212】
したがって、1つの実施形態において、本発明は、高分子電解質コーティングを含む埋め込み型装置を調製する方法であって、この方法は、
(a)埋め込み型装置を提供すること、
(b1)前記埋め込み型装置の表面に、
(i)一般式(1)を有するn個の繰り返し単位を含む少なくとも1つのポリカチオンからなる少なくとも1つのポリカチオン層
【化7】
(式中、
nは11以上100以下の整数であり、
R基はそれぞれ、同じでも異なっていてもよく、−NH
2、−CH
2−NH
2および−NH−C(NH)−NH
2から選択される)、そして
ii)ヒアルロン酸からなる少なくとも1つのポリアニオン層、を積層すること、または
(b2)前記埋め込み型装置の表面に以上のように記述されるii)、そしてi)を積層すること、および
ステップb1)および/またはb2)を任意に繰り返すことを含む。
【0213】
したがって、特定の実施形態において、本発明は、高分子電解質コーティングを含む埋め込み型装置を調製する方法であって、この方法は、
(a)埋め込み型装置を提供すること、
(b1)前記埋め込み型装置の表面に、
(i)一般式(1)を有するn個の繰り返し単位からなる少なくとも1つのポリカチオン層
【化8】
(式中、
nは11以上100以下の整数であり、
Rは、−NH
2、−CH
2−NH
2および−NH−C(NH)−NH
2から選択される)、そして
ii)ヒアルロン酸からなる少なくとも1つのポリアニオン層、を積層すること、または
(b2)前記埋め込み型装置の表面に以上のように記述されるii)、そしてi)を積層すること、および
任意にステップb1)および/またはb2)を繰り返すことを含む。
【0214】
「装置」というセクションに説明されるように、本発明の装置の表面は、チタン等の金属、シリコーン等のプラスチック、セラミックまたは木等の他の材料を含むか、あるいは少なくとも部分的に含む。これらの表面は帯電してもよく、例えば、正帯電または負帯電する。この結果、例えば負帯電した表面を含む装置をまずカチオン層で被覆しればよいことは、当業者にとって理解すべきである
【0215】
いくつかの実施形態において、装置は埋め込み型装置を調製する方法に先立って表面処理を受けて帯電する表面を得ることがある。
【0216】
したがって、ステップa)に提供される装置の表面は、帯電、例えば正帯電または負帯電することがあり、上記表面が以上の「装置」というセクションに記述されるようになる。
【0217】
選択的に、いつくかの実施形態において、埋め込み型装置を調製する方法は、前記埋め込み型装置の表面に帯電させるステップ(a2)を含んでもよい。
【0218】
装置の表面に帯電させる方法は当業者に知られている。このような方法は、イオン吸着、プロトン化/脱プロトン、および外部電場を加えることを含む。なお、例えば、装置が液体に設置される場合に、表面電荷が実際にいつも装置の表面に存在することは当業者に知られている。多くの液体は、正イオン(カチオン)および負イオン(アニオン)というイオンを含有する。これらのイオンは、装置表面と相互に作用する。この相互作用は、表面へのいくつかのイオンの吸着を引き起こすことがある。吸着されるカチオンの数が吸着されるアニオンの数より大きい時、表面が正味の正電荷を持つが、吸着されるアニオンの数が吸着されるカチオンの数より大きい時、表面が正味の負電荷を持つ。
【0219】
使用
1つの実施形態において、本発明は、本発明の装置、特に防汚装置および/または静菌装置を製造するための本発明の高分子電解質コーティングの使用に関する。
【0220】
もう1つの実施形態において、本発明は、医療装置または埋め込み型装置を製造するための本発明の高分子電解質コーティングの使用に関する。
【0221】
キット
さらに、本発明は、
a)一般式(1)を有するn個の繰り返し単位からなる少なくとも1つのポリカチオン材料
【化9】
(式中、
nは、11以上100以下の整数であり、
R基はそれぞれ、同じでも異なっていてもよく、−NH
2、−CH
2−NH
2および−NH−C(NH)−NH
2から選択される)、および
b)ヒアルロン酸からなる少なくとも1つのポリアニオン材料、を含むキットを提供する。
【0222】
特に、本発明は、
a)一般式(1)を有するn個の繰り返し単位からなる少なくとも1つのポリカチオン材料
【化10】
(式中、
nは、11以上100以下の整数であり、
Rは、−NH
2、−CH
2−NH
2および−NH−C(NH)−NH
2から選択される)、および
b)ヒアルロン酸からなる少なくとも1つのポリアニオン材料、を含むキットをさらに提供する。
【0223】
1つの実施形態において、キットは、さらに、ポリカチオンとポリアニオン材料の使用に関連する指示を含む。これらの指示は、例えば、以上に記述されるように埋め込み型装置を調製する方法を説明してもよい。
【0224】
「n」、「R」および「一般式(1)を有する繰り返し単位」は、以上に「高分子電解質コーティング」というセクションに記述されるようになる。
【0225】
ここで、「少なくとも1つのポリカチオン材料」または「少なくとも1つのポリアニオン材料」における「少なくとも」の表現とは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8つのポリカチオン材料のことを指す。
【0226】
1つの実施形態において、キットは、
a)11以上95以下、15以上95以下、15以上90以下、15以上85以下、15以上80以下、15以上75以下、20以上95以下、20以上90以下、20以上85以下、20以上80以下、20以上75以下、25以上95以下、25以上90以下、25以上85以下、25以上80以下、25以上75以下、28以上74以下、28以上72以下、30以上70以下のアルギニン残基を有するポリアルギニン、好ましくはポリ−L−アルギニン、より好ましくは、30個のL−アルギニン残基、50個のL−アルギニン残基、または70個のL−アルギニン残基を有するポリ−L−アルギニンからなる少なくとも1つのポリカチオン材料、および/または
b)11以上99以下、好ましくは11以上95以下、15以上90以下、20以上85以下、20以上80以下、25以上75以下、25以上70以下、25以上65以下、25以上60以下、25以上55以下、25以上50以下、25以上40以下、25以上35以下のアルギニン残基を有するポリリジン、好ましくはポリ−L−リジン、より好ましくは30個のL−リジン残基を有するポリ−L−リジンからなる少なくとも1つのポリカチオン材料、および/または
c)11以上150以下のオルニチン残基、好ましくは11以上140以下、11以上130以下、11以上120以下、11以上120以下、15以上110以下、15以上100以下、15以上95以下、15以上90以下、15以上80以下、15以上75以下、20以上70以下、10以上65以下、20以上55以下、20以上50以下、20以上45以下のオルニチン残基を有するポリオルニチン、好ましくはポリ−L−オルニチン、より好ましくは30個の−リジン残基を有するポリ−L−オルニチンからなる少なくとも1つのポリカチオン材料、および
d)ヒアルロン酸からなる少なくとも1つのポリアニオン材料、を含む。
【0227】
1つの実施形態において、キットは、
a)15以上45以下のアルギニン残基を有するポリアルギニン、好ましくはポリ−L−アルギニン、より好ましくは30個のL−アルギニン残基を有するポリ−L−アルギニンからなるポリカチオン材料、および/または
b)15以上45以下のリジン残基を有するポリリジン、好ましくはポリ−L−リジン、より好ましくは30個のL−リジン残基を有するポリ−L−リジンからなるポリカチオン材料、および/または
c)15以上120以下のオルニチン残基を有するポリオルニチン、好ましくはポリ−L−オルニチン、より好ましくは30個のL−リジン残基を有するポリ−L−オルニチンからなるポリカチオン材料、および
ヒアルロン酸からなる少なくとも1つのポリアニオン材料、を含む。
【0228】
治療方法および使用
生物膜の形成と関連する異物へのブドウ球菌性感染等の感染は、それらを通常の組織感染と完全に区別する多くの特徴を有する。これらの感染は、少菌型(少ない細菌を有する)で 容易に多菌性のものになることが多い。それらの細菌は、細菌を休眠に近い状態に保持する遅い代謝を有し、それらの細菌が発現する遺伝子は浮遊性形式で活性化されるものと異なる。細菌の休眠状態および生物膜の存在は、感染部位の炎症反応および免疫細胞の誘致を著しく減少する。そのため、近年、これらの細菌は、抗生物質の作用から広く保護されている。したがって、例えば移植の後の、特に人体における前記生物膜の形成を防止することが重要である。
【0229】
本発明における高分子電解質コーティングまたは埋め込み型装置は、特に移植後の最初の72時間、特に移植後の最初の48時間、より好ましくは移植後の最初の24時間、最初の12時間、最初の6時間において殺菌活性を有する。このため、本発明における高分子電解質コーティングまたは埋め込み型装置は、細菌の増殖を抑制し、それらの細菌が前記コーティングまたは埋め込み型装置の表面に生物膜を形成することを防止して、細菌感染を防止する。
【0230】
したがって、1つの実施形態において、本発明は、以上に記述されるような埋め込み型装置を提供するステップと、前記埋め込み型装置を人に埋め込むステップを含む埋め込み型装置の移植を受ける人における細菌感染を防止する方法のことを指し、前記埋め込み型装置は細菌感染を防止する。
【0231】
1つの実施形態において、本発明の方法によれば、埋め込み型装置を提供することは、埋め込み型装置を調製することを指す。
【0232】
人は、以上に「装置」というセクションに記述されるようになる。
【0233】
1つの実施形態において、細菌感染は院内感染である。
【0234】
ここで、HAIとも呼ばれる「院内感染」は、医療施設の環境または職員から得られる感染である。感染は、多くの手段、特に埋め込み型装置により、臨床状況がある感染しやすい患者に広がる。「院内感染」に関わるグラム陽性菌は、例えば黄色ブドウ球菌がある。「院内感染」に関わるグラム陰性菌は、例えば、緑膿菌、バクター・バウマニ、ステノトロフォモナス・マルトフィリア、大腸菌、レジオネラがある。
【0235】
したがって、1つの実施形態において、院内感染は、以上に「高分子電解質コーティング」というセクションに記述されるような少なくとも1つの細菌から引き起こる感染である。
【0236】
「装置」というセクションにさらに説明するように、生物膜としての細菌感染は通常の感染と異なる。
【0237】
したがって、1つの実施形態において、細菌感染は生物膜感染である。
【0238】
ここで、「生物膜感染」とは、生物膜形成の細菌による細菌感染である。生物膜形成の細菌は、例えば、ブドウ球菌等のグラム陽性菌と、大腸菌や、緑膿菌等のグラム陰性種であり、これに制限されていない。
【0239】
以上の実施形態のいずれの組み合わせは、本発明の一部である。
【0240】
インスタント適用にわたって、用語「含む」は、明確に説明される特性と、任意的な、付加的な、不特定の特性をすべて包含することとして解釈される。ここに使用されるように、用語「含む」の使用は、明確に説明される特性以外の特性が存在しない(すなわち、「からなる」)実施形態も開示する。さらに、「1つ」という表現は、複数のものである場合を除外しない。ある方策が互いに異なる従属クレームに記載されている事実だけは、これらの方策の組み合わせを有利に使用できないことを示さない。
【0241】
以下の実施例を参照しながら、本発明をより詳しく説明する。ここに援用されるすべての文献と特許は、参照によりここに組み込まれる。以上の説明において本発明を具体的に例示し説明するが、実施例は、例示性または代表的なものだけであり、本発明の範囲を制限する意図がない。
【実施例】
【0242】
1.実施例1
1.1材料
以下の高分子電解質により、高分子電解質多層コーティングを積み重ねる。ポリ(L−アルギニン塩酸塩)(PAR)を米国のAlamanda Polymers社から購入した。用いられる異なるPARポリマーは、鎖あたりのアルギニンの数が異なり、それぞれがPAR10(10個のアルギニン(R)、Mw=2.1kDa、PDI=1)、PAR30(30個のR、Mw=6.4kDa、PDI=1.01)、PAR100(100個のR、Mw=20.6kDa、PDI=1.05)、およびPAR200(200個のR、Mw=40.8kDa、PDI=1.06)である。米国のAlamanda Polymers社からポリ(L−オルニチン塩酸塩)(PLO)を購入した。用いられる異なるPLOポリマーは、鎖あたりのオルニチンの数が異なり、それぞれがPLO30(30個のR、Mw=5.9kDa、PDI=1.03)、PLO100(100個のR、Mw=18.5kDa、PDI=1.03)、およびPLO250(250個のR、Mw=44.7kDa、PDI=1.02)である。PLL30(30個のR、Mw=5.4kDa、PDI=1.02)等のポリ(L−リジン塩酸塩)(PLL)は、米国のAlamanda Polymers社から購入される。
【0243】
ポリアニオンとして用いられるヒアルロン酸(HA、Mw= 150 kDa)は、米国のLifecore Biomed社から得られる。
【0244】
1.2方法
多層コーティングの積み重ねの監視:原位置の水晶振動子マイクロバランス(QCM−D、E1、Q−Sense、スウェーデン)を使用してコーティングまたは膜の積み重ねを追跡する。水晶振動子は、その基本周波数(約5MHz)と、三番目、五番目、七番目の倍音(それぞれ15、25、および35MHzに対応するv=3、v=5、v=7で示される)に励起される。この四つの周波数に共振周波数(Δf)の変化を計測する。Δf/vの増加は、通常、石英に結合する質量の増加に関連する。PAR(すなわち、PAR10、PAR30、PAR50、PAR100またはPAR200)およびHAを150mMのNaClとpH7.4の10mMのトリス(ヒドロキシメチル)・アミノメタン(TRIS、ドイツのMerck社製)を含有する滅菌された緩衝液に、0.5mg.mL
−1まで溶解する。水晶振動子を備えるQCMセルに高分子電解質溶液を連続して注入し、PARが最初に積層された高分子電解質である。8分間の吸着の後、洗浄ステップをNaCl−Tris緩衝液で5分間かけて行う。
【0245】
浸漬ロボットによる(PAR/HA)24の積み重ね:自動浸漬ロボット(Riegler&Kirstein GmbH社、ベルリン、ドイツ)を使用して24層の二重層のPAR/HA((PAR30/HA)
24)を構成した。スライドグラス(径が12mm)を、まず、2%のHellmanex(登録商標)II溶液、H
20、およびエタノールにより洗濯し、そして、気流により乾燥した。高分子電解質の溶液は、QCM実験のために以上に説明されるように調製された。各ステップの間に、スライドグラスを交互的にポリカチオン溶液とポリアニオン溶液に浸漬され、十分にNaCl・Tris緩衝液に洗われる。構成された後に、コーティングを、気流により乾燥し、NaCl・Tris緩衝液に沈み、使用するまで4℃で貯蔵する。得られたコーティングの厚みは、100μLのPLL−FITC(フルオレセインイソチオシアネートで標識されるポリ−L−リジン、緑色蛍光プローブ)(トリス−NaCl緩衝液において0.5mg.mL
−1である)のPAR/HA多層コーティングのトップへの堆積によって評価される。5分間およびPLL−FITCの全コーティングへの拡散の後、トリス−NaCl緩衝液で洗浄ステップを行う。共焦点顕微鏡である20倍の対物レンズ(Zeiss社、Plan Apochromat)を使用するZeiss LSM710顕微鏡(Heidelberg、ドイツ)でコーティングの観察を行う。同様に、24層の二重層のPLL/HA(PLL30/HA)
24、24層の二重層のPLO/HA(すなわち、(PLO30/HA)
24、(PL0100/HA)
24 および(PLO250/HA)
24)を調製し、PLOまたはPLLを、150mMのNaClとpH7.4の10mMのトリス(ヒドロキシメチル)・アミノメタン(TRIS、ドイツのMerck社製)を含有する滅菌された緩衝液に、0.5mg.mL
−1まで溶解する。
【0246】
抗細菌分析:
黄色ブドウ球菌(S.aureus、ATCC25923)の菌株を使用して試験サンプルの抗細菌性を評価する。pH7.4でミューラー・ヒントン培養液(MHB)培地(Merck社製、ドイツ)において、37℃で好気的に菌株を培養。1つのコロニーを10mLのMHB培地に転送し37℃で20時間をかけて培養して、10
6CFU.mL
−1の最後の濃度を提供する。対数増殖中期に細菌を得るために、夜間培養の620nmでの吸収を0.001に調整する。
【0247】
PAR10、PAR30、PAR100を有する(PAR/HA)
24で被覆するスライドグラスを、15分間において紫外線を使用することにより滅菌し、NaCl−Tris緩衝液で洗濯する。洗濯の後に、各スライドグラスを300μLの黄色ブドウ球菌を有し、A
620=0.001である24−ウェルプレートに積層し、24時間において37℃で培養する。
【0248】
陰性対照について、同様の方法を使用して、直接黄色ブドウ球菌を被覆されていないスライドグラスに培養する。
【0249】
陽性対照について、被覆されていないスライドグラスに接触する黄色ブドウ球菌溶液にテトラサイクリン(10μg.mL
−1)およびセフォタキシム(0.1μg.mL
−1)を添加する。
【0250】
620nmでの上清の吸収を計測して24時間後の細菌の増殖または抑制を定量化する。
【0251】
(PLL30/HA)
24、(PLO30/HA)
24、(PL0100/HA)
24および(PLO250/HA)
24で被覆するスライドグラスについて同様に分析を行う。
【0252】
以上に黄色ブドウ球菌について説明する細菌性分析と同様に、ミクロコッカス・ルテウス、大腸菌および緑膿菌について抗細菌分析を行う。
【0253】
細菌生死分析:BacLight
TMRedoxSensor
TMCTC活性キット(ThermoFischer Scientific Inc.、フランス)を使用して、表面における細菌の健康を評価する。このキットは、細菌健康と活性を評価する効果的な試薬を提供する。キットは、黄色ブドウ球菌の呼吸活性を評価するのに用いられる5−シアノ−2,3−ジトリルテトラゾリウムクロライド(CTC)を含む。確かに、健康な細菌は、CTCを吸収し、不溶性の赤色蛍光ホルマザン生成物に還元する。死んだ細菌または低呼吸活性の細菌は、CTCを還元しないので、赤色蛍光生成物を生成しない。最後、このキットは、健康と不健康な細菌の半定量的評価を行う。SYTO(登録商標)24による緑色蛍光核酸染色(ThermoFischer Scientific Inc.、フランス)を使用してすべての細菌を数える。50mMのCTCと0.001mMのSyto24の純水における溶液を調製する。pH=7.4(PBS)のリン酸緩衝生理食塩水緩衝液で各スライドグラスを洗濯し、そして、270μLのPBSおよび30μLのCTC/Syto24溶液を添加する。37℃で、光を避けてプレトを30分間培養する。各表面を油に浸漬して、63倍の対物レンズを使用して共焦点顕微鏡法(Zeiss LSM710顕微鏡、Heidelberg、ドイツ)により観察する。染色剤の励起/発光波長について、CTCでは450/630nmであり、Syto24では、490/515nmである。
【0254】
細胞傷害テスト:10%のウシ胎児血清(FBS、Gibco/ThermoFicherScientific Inc.、フランス)および1% のペニシリン ストレプトマイシン(Pen Strep、Life Technologies/ThermoFicher Scientific Inc.、フランス)により、37℃でイーグル最小必須培地(EMEM、ACC/LGC)においてヒト線維芽細胞(ATCC/LGC Standards社からのCRL−2522、フランス)を培養する。24時間において、24ウェルプレートの各ウェルに50000個の細胞が培養される。同時に、(PAR/HA)24で被覆するスライドグラスを1mLの培地により6ウェルプレートに培養する。24時間後に、細胞を含有するウェルの培地を除去して、多層に24時間接触した上清に置換する。ヒト線維芽細胞を37℃で24時間培養する。そして、上清を除去して10%のアラマーブルー(ThermoFischer Scientific Inc.、フランス)により2時間培養する。生成されたレソフリン(励起/ 発光波長=560/590nm)の蛍光を測定することにより細胞の生存率を確定する。PBSで細胞を二回洗濯し、PFA4%の溶液で10分間固定させ、再びPBSで二回洗濯する。1%のウシ血清アルブミン(BSA)によりPBS緩衝液においてファロイジン溶液を調製する。染色溶液を固定された細胞に室温で30分間置き、PBS緩衝液により二回洗濯する。以上と同じ条件で、DAPI溶液を調製して細胞に置く。ニコンデジタルカメラ(NIS−Elementsソフトウェア付きDS−Q11MC、ニコン、フランス)付き63倍のPL APO(1.4NA)対物レンズを有するNikon Elipse Ti−Sを使用して蛍光画像を捕獲し、ImageJ(http://rsb.info.nih.gov/ij/)によりその画像を処理する。励起/発光波長について、ローダミンファロイジンでは540/565nmであり、DAPIでは350/470nmである。
【0255】
経時的な顕微鏡法:紫外線を15分間使用して(PAR/HA)
24で被覆するスライドグラスを滅菌し、そして、NaCl−Tris緩衝液により洗濯する。洗濯後に、37℃で、5%のC0
2、1mLμlの黄色ブドウ球菌(以上に説明するように使用され、A
620=0.001)があるLudin Chamber(Life Imaging Services社、スウィツァーランド)に各スライドグラスを載せ、培養においてSyto24により染色する。60倍のPL Apo oil(1.4NA)対物レンズ付きニコンTIE顕微鏡により24時間経時的な手順を行い、Andor社のZyla sCMOSカメラ(Andor Technology株式会社、英国)をニコンのNIS-Elements Arソフトウェア(ニコン、フランス)とともに使用する。24時間かけて5分間ごとに位相差と蛍光 画像を取得する。ImageJにより画像を処理する。
【0256】
円偏光二色性:Jasco J−810分光偏光計(Jasco Corporation、UK)を使用して、円偏光二色性(CD)スペクトルを、データピッチ0.1nmと走査速度20nm/分で22℃で180〜300nmにおいて経路長1mmのクォーツ製キュベットを使用して得られる3回の走査の平均として記録する。緩衝液スペクトルの減算によりすべてのスペクトルを修正する。各PARについて、NaCl−Tris緩衝液における2mg.mL
−1の濃度でスペクトルを得る。すべてのCDデータを平均残り楕円率として示す。
【0257】
PARの蛍光標識:PAR鎖を標識するために、室温でモル比1:2のPAR/FITCで3時間かけて、フルオレセインチオシアネート(FITC、Sigma Aldrich、フランス)によりPAR(100mMのpH8.3のNaHC0
3緩衝液において15mg.mL
−1である)を培養する。Slide−A−Lyser透析カセット(ThermoFischer Scientific Inc、米国)により4℃で1Lの水に対してこの溶液を透析し、カットオフ=3500MWCOである。そして、PAR−FITCが生成され2mLの分割量(NaCl−Tris緩衝液において0.5mg.mL
−1である)で貯蔵される。
【0258】
放出実験:一回目の実験について、PAR−FITCを使用して多層コーティング(PAR30/HA)
24を形成する。MHB培地または黄色ブドウ球菌/MHB溶液(A
620=0.001)の存在で、放出 実験を37℃で24時間かけて行う。監視中の蒸発を防止するため、上清のトップに300μLの鉱油を添加する。488/517nmの励起/発光波長で、蛍光分光計(SAFAS Genius XC蛍光分光計、Monaco)により経時的に上清の蛍光を測定することにより、溶液へのPAR−FITCの放出を行う。各条件で三つのサンプルを研究する。
【0259】
二回目の実験について、A)300μLの黄色ブドウ球菌溶液A620=0.001およびB)300μLのMHBのみでの2つの条件で、37℃で多層膜(PAR30/HA)24を培養する。24時間後に、LbLに接触する上清を取り新しい黄色ブドウ球菌溶液で培養して最後にA620=0.001にする。37℃で24時間後に、620nmでの吸収を測定する。各条件で三つのサンプルを研究する。
【0260】
光退色(FRAP)後の蛍光回復の実験:光退色実験(FRAP、光退色後の蛍光回復)を行うことによって、PAR−FITCを含有する(PAR/HA)
24多層の拡散係数D、および運動分子比率pを測定する。
【0261】
多層で被覆するスライドグラスを自製のサンプルホルダーに導入し、200μLのTris−NaCl緩衝液に浸漬する。1つの円形領域(半径が4.4μmであり、35μm×35μmの画像において「R4」と呼ばれるか、半径が10.6μmであり、85μm×85μmの画像において「R10」と呼ばれる)を最大出力(λ=488nm)に設置するレーザー光に700ミリ秒暴露する。そして、退色領域での蛍光回復を経時的に観察する。20倍の対物レンズ(Zeiss、Plan Apochromat)を使用するZeiss LSM 710顕微鏡(Heidelberg、ドイツ)により観察する。
【0262】
(PAR30/HA)
24の架橋:(PAR30/HA)
24膜をNaCl(0.15M)にEDC(100mM)とN−ヒドロキシスクシンイミド(10mM)を含有した溶液に4℃で15時間浸すことにより架橋させる。NaCl(0.15M)溶液で膜を2回洗う。膜をエタノールアミン溶液(1M)に4℃で40分間浸漬して反応しないすべてのカルボキシレート官能基を中和する。NaCl溶液で膜を洗い、NaCl−Tris緩衝液溶液を最後の洗浄ステップに使用する。
【0263】
1.3結果
水晶振動子マイクロバランス(QCM)を使用してPAR/HAコーティングの積み重ねを測定する。
図1は、様々な分子量のPAR(それぞれPAR10、PAR30、PAR100またはPAR200の表記に対応する10、30、100または200個の残基)について、QCMにより監視された交互積層に対応する。第1の概算において、正規化頻度の増加が積層される質量または厚みの増加(REF)に関連することが知られる。PAR30、PAR100またはPAR200のコーティングの積み重ねについて、積層ステップ数での正規化頻度の指数増殖が観察された。より大きいPAR鎖について最も重要な増殖が監視された。PAR
10の場合に、積層数での正規化頻度の増加がより弱く、しかし、指数増殖が既に観察される(
図1)。最後に、このポリペプチドの短い長さにもかかわらず、交互増殖が効果的である。
【0264】
以前に、様々なMWのキトサンを有するキトサン/HAによる多層コーティングの積み重ねについて、反対の挙動が観察された(Richert2004、Langmuir)。用いられたすべてのMWのキトサンについてコーティングの指数増殖が観察されたが、しかし、キトサン鎖の質量が小さい程、コーティングの積み重ねが速い。この挙動は、コーティングにおけるキトサン鎖の拡散特性に関連し、より短い鎖が一層にコーティングに拡散し、毎回の積層の後、より高い質量増加を引き起こす。しかし、本研究において、ホモポリペプチドが多糖の代わりにポリカチオンとして選択され、それらの鎖長の範囲がより小さいので、実験条件が異なる。
【0265】
そして、共焦点顕微鏡法により24層の二重層((PAR/HA)
24)のコーティングを観察する。コーティングを蛍光標識するために、コーティングのトップに最後の層としてポリ(リジン)−FITCを加える。異なる残基数のPARで積み重ねたコーティングの断面図は、全コーティングセクションにわたって緑色標識の厚帯を描く(
図2)。これは、コーティング生成物がすべての条件で表面に均一的に積層される(10から200個の残基を有するPAR)ことを示す。
【0266】
次に、残基数が異なるPARについて、(PAR/HA)
24多層の抗菌性を評価する。院内感染、より詳しくはインプラント関連感染に関係あることがよく知られる菌株であるグラム陽性菌の黄色ブドウ球菌に対して膜を測定する。例えば、整形外科インプラントの場合に、表皮ブドウ球菌に伴う黄色ブドウ球菌は、70%の感染(Biomaterials84、2016、301)に関わる。(PAR/HA)24コーティングにMHB培地の存在で37℃で黄色ブドウ球菌を24時間培養する。細菌は、MHB培地の存在で37℃で表面に高濃度で24時間培養される。病原体の正規化増殖(%)は、多層膜がある場合の620nmでの吸収と陽性対照(多層膜がなく、培地に抗生物質がある)および陰性対照(多層膜がなく、培地に抗生物質がない)と対比することにより推定される。PAR10、PAR50、PAR100およびPAR200で構成する膜について、著しい抑制が観察されていない。しかし、PAR30(30個の残基)について、24時間後に、95%以上の細菌増殖抑制が観察される。これは、PAR30が黄色ブドウ球菌の生存率に大きな影響を及ぼすことを示す。分子量作用が極めて著しく、これまでこのような多層膜のどんな機能である機能性への作用が観察されていないことを説明しなければならない(
図3参照)。
【0267】
表面に接触する細菌の健康をより正確に評価するために、5−シアノ−2,3−ジトリルテトラゾリウムクロライド(CTC)を使用する黄色ブドウ球菌の呼吸活性を監視する。健康な細菌は、CTCを吸収し不溶性で赤色蛍光性のホルマザン生成物に還元するが、死んだ細菌はCTCを還元しないので、蛍光性の生成物を生成しない(データ未記載)。完全な細菌抑制が(PAR30/HA)表面に明らかに観察され、少ない細菌がある領域を見つけることが極めてめずらしい(データ未記載)。これに対して、PAR10、PAR100またはPAR200の表面は、細菌付着および増殖を防止しなく、処理されない表面と同様な健康な細菌の濃度がある。この目立った結果は、完全に以上に説明する上清における増殖抑制に関連し、そこに、PAR30が細菌に対して強い効果がある唯一のコーティングである。
【0268】
(PAR/HA)24コーティングの細菌増殖抑制が黄色ブドウ球菌に制限されるかどうかを解明するため、他のグラム陽性およびグラム陰性細菌に対してさらに(PAR30/HA)
24の細菌増殖抑制を測定する。したがって、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌株、ミクロコッカス・ルテウス、大腸菌および緑膿菌に対して、(PAR30/HA)
24多層の抗菌性を評価する。
図16に示す結果は、コーティングが異なるグラム陰性およびグラム陽性菌に対して抗細菌活性を有することを示す。
【0269】
以上のことにより、本発明者らは、抗細菌活性がここに説明する(PAR/HA)多層コーティングに制限されるかどうか、あるいはポリカチオンとして別のポリペプチドを含むコーティングも同じ抗細菌活性を示すかどうかに関心がある。本発明者らは、残基数が異なるPLLおよびPLOに対して(PLL/HA)
24および(PLO/HA)
24多層をさらに評価する。意外に、
図4、6、9、10および17から決定されるように、(PLL/HA)
24および(PLO/HA)
24多層も黄色ブドウ球菌およびミクロコッカス・ルテウスに対して高い増殖抑制を示す。
【0270】
以下、本発明者らは、本発明のコーティングに表面および上清での強い抑制特性を与える根本的な機構をさらに解明することを意図する。例として、(PAR30/HA)
24コーティングをさらに調査する。したがって、実験セクションに説明されるような細菌分析を使用して溶液におけるPARの最小抑制濃度(MIC)を確定する。0.04mg.mL
−1までの濃度について、すべてのPAR(PAR10、PAR30、PAR100またはPAR200)は、完全に黄色ブドウ球菌の増殖を抑制する(
図11)。しかし、PAR濃度を低減する時、PARの間に相違が観察される。0.03mg.mL
−1の濃度のものについて、より長いPAR、すなわち、PAR200について、部分的な抑制だけ(約45%)が測定され、その以外、すべてのPARについて、黄色ブドウ球菌に対する完全な抑制増殖が観察される。最後に、濃度が0.01mg.mL
−1であるPARについて、PAR
30だけが100%の抑制を示す。より長いまたは短いPAR鎖(PAR10、PAR100またはPAR200)は、黄色ブドウ球菌の増殖を部分的に(40%以下)しか抑制しない。これは、PAR30が溶液においてより有効であることを示す。この理由は、PARの濃度値を質量(mg.mL
−1)として表す場合に適切であるので、アルギニンモノマーの数に関係がある。しかし、グラフをμM(そして、鎖の数に比例する)としての濃度でプロットする場合、すなわち、濃度が鎖の数に関連する場合に、異なる解釈がある。低濃度の場合、より長い鎖がより有効である。1μMである時、PAR100およびPAR200は、完全に細菌増殖を抑制するが、PAR30についての同様な効果が約2μMの時に現れる。最後に、本発明者らは、これらの結果から、すべてのPAR鎖が溶液において黄色ブドウ球菌の増殖を抑制することに効果があるという結論を得る。所定の質量のPARについて、PAR30は最も効果がある。なお、PAR30、PAR100またはPAR200に対して得られるMIC100値は、とても低い濃度(1μM以上2μM以下)の範囲にあり、周知の抗菌ペプチド(例えば黄色ブドウ球菌に対するカテスリチンの方が30μMであり、Adv.Funct.Mater.2013、 23、4801−4809参照)と対比して驚くべきである。このため、PARは、黄色ブドウ球菌と闘う強力な選択である。しかし、長さが異なるPARの間にMICが異なっても、桁によって異なることがないので、少なくとも単に、PAR/HA多層に対して観察された驚いた分子量効果から由来することがないと思う。
【0271】
PAR鎖の構造を提出し、PAR30鎖がより長いまたは短い鎖と対比する抑制特性を説明できる具体的な二次構成を有するかどうかを検査するために、円偏光二色性(CD)実験を行う。まず、NaCl/TRIS緩衝液 溶液(150mMのNaCl、10mMのTris、pH7.4)におけるPAR鎖の二次構成(データ未記載)を検出する。PAR鎖(PAR10、PAR30、PAR100およびPAR200)のすべてのCDスペクトルは、溶液におけるランダムコイル構造を特徴とする約200nmで、特有の負の最小値を示す。第二のステップにおいて、PAR/HA多層コーティングにおけるPAR構造を監視する(データ未記載)。驚いたことに、コーティングのスペクトルは、完全に異なるプロフィルを示し、200nmで最小値が観察されなく、しかし、200nm(ランダムコイル)で特有の負の最小値を示す(PAR10/HA)24の他に、約10nmで1つの最小値、約222nmでもう1つの最小値が観察される。それらがpH7.4の溶液において無規則な構造を有することが知られるので、HA鎖に起因する可能性がない(Zahouani、ACS Applied Materials、2016、印刷中)。なお、PAR/HAのスペクトルがその2つの最小値を特徴とするα−螺旋構造の鎖に対応することはより可能性がある。これは、PAR鎖が溶液におけるコイル構造からコーティングにおけるα−螺旋構造に変化するべきことを示す。前に、ポリリジンとポリ(グルタミン酸)で構成するLbLについて同様な挙動が観察されている(Boulmedais F.等、Langmuir、2002、18、4523)。おもしろいことに、無規則な抗菌ペプチドは、細菌膜と相互に作用する時にα−螺旋構造を採用し、この機構が作用機構の重点である(Porcellini F.等、2008、Biochemistry、47、5565およびLugardon K.等、2001、J Biol Chem.、276(38):35875)。ここで、高分子電解質の多層コーティングにおいて、PAR鎖は、PARとHAの間の相互作用およびPARの局所的な高濃度のせいでα−螺旋構造を採用する可能性が高い。この機構は、より速くてより効率的に侵入する細菌に闘うことに役立つ。
【0272】
しかし、異なるPAR鎖長で構成する膜は同様なスペクトルを示すので、PAR鎖の二次構成は、PAR30/HA膜の殺菌特性に対する驚いた分子量効果を説明することができない。
【0273】
より短いまたは長いPAR鎖に対比する場合の、溶液におけるPAR30の特定特性の欠如を考慮して、PAR30/HA膜の抗菌能力は、その自身の膜特性に関係がある。これに関連して、膜の殺菌性が多層から溶液へのPAR30鎖の放出に起因するかどうか、または、細菌を殺すために膜に接触させる必要があるかどうかを調査する。この目的で、二種類の実験を行う。蛍光標識されたPAR30鎖を使用して、まず、黄色ブドウ球菌があるMH培地および黄色ブドウ球菌がないMH培地のみを含有する溶液へのPAR30鎖の放出を確定する。
図13は、典型な放出動態カーブを示す。確かに、24時間の時間尺度にわたる遅い放出プロセスが観察されるが、24時間の後においても、溶液に達成するPAR30の濃度が対応するMIC濃度より著しく低く、放出されるPAR30が24時間後に約0.18μMであり、MIC90が約2μMである。なお、膜と24時間接触した後に、上清を先の実験と同じな最後濃度の細菌を含有する懸濁液に接触させ、細菌増殖の抑制が全然観察されなく、MICが上清に至らないことを確認する(
図15)。最後、細菌を(PAR30/HA)24の膜に24時間接触させる実験も行う。細菌増殖が完全に抑制される。この実験の上清を除去して新しい細菌の懸濁液に接触させる。もう一度、細菌増殖がさらに抑制されることがない(データ未記載)。これらの結果は、膜から上清へのPAR30鎖の放出が殺菌作用の起因でないことを示す。最後、殺菌作用が接触致死の多層として機能するPAR30/HA膜との細菌の接触に直接関連することを仮定できる。
【0274】
そして、本発明者らは、PAR30/HA多層の殺菌活性がこれらの鎖の膜における運動性に関連するかどうかを調査する。確かに、多層の指数特性が各積層ステップにおいて膜内外への多層の少なくとも1つの成分の拡散能力に関連することは知られる。まず、FRAP方法を使用して、異なる鎖、PAR10、PAR30、PAR100およびPAR200の(PAR/HA)
24多層への運動性を確定する。
図14には、時間の平方根の関数として、漂白領域における正規化蛍光の進化を示す。これらのカーブから、実験の時間尺度にわたる不動鎖の割合を推定することができる。80%のPAR10およびPAR30鎖が運動性を持ち、それぞれ60%だけのPAR100および20%だけのPAR200が運動性を持つことは明らかである(データ未記載)。鎖長が30から100または200個の残基に増加する場合に、運動鎖の割合が大きく増加する。
【0275】
また、本発明者らは、アミンとカルボキシル基の標準EDC−NHS架橋方法を使用してPAR30/HA多層を架橋される。架橋後に、FRAPにより測定された不動鎖の比率が増加することを見つける(データ未記載)。このような膜を黄色ブドウ球菌に接触させる場合に、24時間の接触の後、30%だけの細菌増殖の抑制が観察される。これらの結果は、多層における運動PAR鎖の百分率が膜の殺菌性を制御する重要なパラメーターであることを示す(
図11)。
【0276】
最後に、本発明者らは、共焦点顕微鏡法を使用して、細菌と24時間接触した後の膜の構成も調査する(データ未記載)。この目的で、蛍光標識されるPAR30鎖を組み込むことにより膜を形成する。24時間の接触の後、膜が均一でないが、非蛍光領域が出現しないことは見つけられる。これらの領域がスムーズな形状を持つので、膜の再組織化を示す。このような挙動が膜を均一に保持する細菌がない場合に観察されていない。このような再組織化を連続して膜におけるPAR鎖を減少し、以下の 殺菌性機構を示す。すなわち、細菌を多層に接触させる時、負の細菌膜がPAR鎖に対して強い引力がある表面として機能する。このため、運動性のPAR鎖は、細菌膜により膜の外へ浸され、それらを不安定化する。溶液において決定されるMICから出てくるので、分子量が大きい鎖は、分子量がより小さいものより、強い膜不安定化能がある。PAR10鎖は、活性がPAR100またはPAR200鎖より10倍小さいが、PAR30鎖は、活性がPAR100またはPAR200鎖より2倍だけ小さい。けれども、膜について、アルギニンモノマーの濃度がPAR鎖の分子量からかなり独立していることを仮定できる。そして、高分子電解質の分子量が増加する時、鎖の濃度が低下する。例えば、膜におけるPAR30鎖の濃度は、PAR100より3倍高い必要がある。また、90%のPAR10鎖は運動性があることに対して、70%のみのPAR100鎖は運動性がある。これは、膜においてPAR10鎖がPAR100より4倍多いことにつながる。PAR30で形成されるPAR/HA膜がより強い殺菌性を持つ傾向について、他の原因があるとも言えるが、鎖運動度がもちろん1つの重要な原因である。
【0277】
要するに、本発明者らは、ポリカチオンとしてPAR、PLLまたはPLO、ポリアニオンとしてHAを含む多層コーティングが黄色ブドウ球菌、ミクロコッカス・ルテウス、大腸菌および緑膿菌に対して強い抗菌作用を示すことを見つける。この作用はポリペプチド鎖の分子量に大きく依存する。この作用は、多層における運動鎖の濃度および分子量の関数としての細菌を殺す能力により説明される。これらの結果は、関数が高分子電解質の分子量により調節される高分子電解質多層、特に抗細菌多層の新型適用に経路を開放する。
【0278】
2.実施例2
2.1材料
以上のセクション1.1に説明された高分子電解質を使用して高分子電解質の多層コーティングを形成する。加えて、以下の高分子電解質が用いられる。ポリ(L−アルギニン塩酸塩)(PAR)のポリカチオンが米国のAlamanda Polymers社から購入される。用いられる異なるPARポリマーは、鎖あたりのアルギニンの数が異なり、PAR50(50個のアルギニン(R)、Mw=9.6kDa、PDI=1.03)、PAR70(70個のアルギニン(R)、Mw=13.4kDa、PDI=1.01)、PAR150(150個のアルギニン(R)、Mw=29kDa、PDI=1.04)。
【0279】
2.2方法
使用する方法は、以上の段落1.2の対応するセクションに説明されるようになる。
【0280】
2.3結果
2.3.1PAR/HA抗菌活性へのアルギニン残基数の影響:24時間培養後のPAR30、PAR50、PAR70、PAR100およびPAR150によるコーティング
30、50、100および150個の残基があるPARを測定して、先の結果を確認し、満足した結果を得る。以上に説明するように、(PAR/HA)24(すなわち、24層のHAと交互する24層のPAR)で被覆し、24ウエル−プレトに配置するスライドグラスにより測定を行う(Chem.Mater.2016、28、8700)。300μLの濃度8.105CFU・mL
−1の黄色ブドウ球菌を各ウエルに堆積し37℃で24時間培養する。そして、620nmでの上清の吸収を測定する。
【0281】
24層の二重層のPAR50/HA対PAR30/HA
24層の二重層で形成するPAR50/HA膜は、細菌に対して完全な殺菌作用を示す(
図19と20)。なお、CTC/Syto24標識を使用する共焦点顕微鏡による観察は、コーティングに細菌がほとんどないことを示す(データ未記載)。
【0282】
48層の二重層のPAR50/HA対PAR30/HA
二重層の数を24から48に増加することは、同様な結果を示す。PAR50またはPAR30に基づいたコーティングについて、黄色ブドウ球菌の増殖が完全に抑制される(
図21と22)。これらの結果は共焦点顕微鏡法による観察で確認される。PAR50/HAコーティングまたはPAR30/HAコーティングに細菌が観察されていない。
【0283】
PAR100/HA and PAR150/HA 対PAR30/HA with 24層の二重層
24層の二重層で形成するPAR100/HAコーティングは、完全な抗菌活性を表現する(
図23)。一方、PAR150/HAコーティングは細菌を抑制しなく、コーティングはまったく効果がない。共焦点顕微鏡法の観察は、これらの結果を確認し、PAR100/HAとPAR30/HAコーティングに細菌が観察されていない一方、PAR150/HAコーティングに多くの細菌を見える。
【0284】
24層の二重層のPAR10/HA対PAR30/HA
24層の二重層のPAR10/HAコーティングは、上清において細菌を完全に抑制する(
図24)。対照として、PAR50/HAとPAR30/HAコーティングは、以上に説明するような抗菌活性を確認する。共焦点顕微鏡法による表面の観察から同様な結果を得ることができる。
【0285】
24層の二重層のPAR70/HA対PAR30/HA
PAR70/HAコーティングがある上清における細菌は完全に抑制される(
図25)。これは共焦点実験により確認される。
【0286】
2.3.2.PAR/HAコーティングの長期抗菌活性:24/48または72時間の培養後のPAR10、PAR30、PAR50、PAR100およびPOR30
24/48または72時間の培養後の24層の二重層のPAR30/HA対POR30/HA
(PAR30/HA)
24または(POR30/HA)
24コーティングを使用する時に、24、48または72時間後に、上清において細菌が観察されていない(
図26〜28)。共焦点顕微鏡により表面を可視化する場合に、同様な結論が得られる。
【0287】
24/48または72時間の培養後の24層の二重層のPAR10/HA、PAR50/HAおよびPAR100/HA
PAR10/HA、PAR50/HAおよびPAR100/HAコーティングに同様な実験を行う。24時間後に、すべてのコーティングについて、上清に細菌が検出されていない(
図29)。48時間後に、PAR50/HAまたはPAR100/HAコーティングについて細菌がない一方、PAR10/HAコーティングは効果がなく、黄色ブドウ球菌の増殖がコーティングのない表面と同程度のレベルになる(
図30)。72時間後に、同様な結果が得られ、PAR10/HAコーティングの場合に細菌が生きていてるが、PAR50/HAまたはPAR100/HAコーティングの場合に細菌が死んだ(
図31)。すべての結果が共焦点顕微鏡観察により確認される。
【0288】
2.3.3PAR/HAコーティングの貯蔵および滅菌
PAR/HAコーティングの貯蔵
PAR/HAコーティングの乾燥手順および貯蔵が抗菌活性を保持するかどうかを確認するために、乾燥し(純水で洗浄し室温で乾燥する)4℃で1または7日貯蔵された後、(PAR30/HA)
24コーティングを測定する(
図32と33)。この2つのプロセス後に、抗菌活性の変化が観察されていなく、細菌はコーティングを含有するウエルの上清に全然増殖しない。これは、膜が乾燥手順の後に安定し、数日間の貯蔵が特性を変更することがないことを示す。
【0289】
PAR/HAコーティングの滅菌
乾燥手順と医療装置滅菌の規則的な周期(121℃で30分間の周期)を従うオートクレーブ滅菌の後に、(PAR30/HA)
24コーティングの活性を測定する(
図34)。この滅菌手順は、コーティングの抗菌活性を変更しなく、全体の殺菌活性に変化が検出されていない。
【0290】
2.4結論
最後に、これらの研究からいくつかの結論を取り:
-PAR10、PAR30、PAR50、PAR70、PAR100で形成する(PAR/HA)
24コーティングは、24時間の接種後に、黄色ブドウ球菌に対して完全な抗菌活性を示す。しかし、以前の予備研究において、PAR10とPAR100は、24時間においていつも活性を持つことがない。これは、恐らくPAR10とPAR100が有効である限界値の鎖長に対応するためである。これに対して、私たちの実験において、PAR30とPAR50は、いつも完全な抗菌活性がある(両方の場合に、少なくとも10人以上の実験を行う)。24時間の黄色ブドウ球菌の培養後に、(PAR150/HA)
24コーティングは、抗菌活性を全然示さない。
-24/48または72時間の培養後のPAR30、PAR50、PAR100およびPOR30で形成する(PAR/HA)
24コーティングは、完全な細菌抑制を示し、3日間と3つの連続汚染にわたって効率を示す。これに対して、PAR10は、三番目の接種の後(72時間)、活性がない。
−活性を全く損なうことなく、乾燥後に4℃で数日間(PAR/HA)
24コーティングを貯蔵することができる。なお、医療装置用の標準滅菌手順を(PAR/HA)
24コーティングに適用することができ、コーティング活性の抗菌性が保持される。
【0291】
図面の簡単な説明
図1は、QCMで追跡するSi0
2被覆結晶への(PAR/HA)多層コーティングの積み重ねを示す図である。様々な分子量のPAR(それぞれPAR10、PAR30、PAR100またはPAR200という表記に対応する10、30、100または200個の残基)をHAとともに使用する。吸着される層数の関数と正規化頻度−Δfv/v(v=3)の進化である。PAR30、PAR100またはPAR200で積み重ねたコーティングについて、積層ステップ数での正規化頻度の指数増殖が観察される。より大きいPAR鎖について、最も重要な重大な増殖が監視される。PAR10の場合に、積層数での正規化頻度の増加がより弱く、しかし、指数増殖がすでに観察される。
図2は、PAR/HAコーティングのセクション(x、z)の共焦点顕微鏡法画像を示す画像である。QCMで追跡するSi0
2被覆結晶上の(PAR/HA)多層コーティングのPAR/HAコーティングの積み重ねについての、PAR/HAコーティングのセクション(x、z)の共焦点顕微鏡法による観察である。様々な分子量のPAR、すなわち、PAR10、PAR30、PAR100またはPAR200による(PAR/HA)多層コーティングの積み重ねが比較されている。この画像は、得られたコーティングがすべての条件で表面に均一に積層されることを示す(10〜200個の残基のPARの場合)。
図3は、PAR本発明のコーティングを使用して黄色ブドウ球菌の増殖抑制を示す図である。様々な残基のポリ−L−アルギニンを含む(PAR/HA)
24多層コーティングに24時間接触した後、上清に得られた正規化の黄色ブドウ球菌増殖(%)を示す。各々の値は、3つの実験の平均値に対応し、エラーバーは標準偏差に対応する。黄色ブドウ球菌の増殖について、(PAR10/HA)
24の場合に約80%であり、(PAR100/HA)
24の場合に75%であり、(PAR200/HA)
24の場合に約90%であり、(PAR30/HA)
24の場合に5%以下であるので、(PAR30/HA)
24の場合に、95%以上の強い増殖抑制を示す。
図4は、本発明のPLLコーティングを使用して黄色ブドウ球菌の増殖抑制を示す図である。(PLL30/HA)
24多層コーティングに24時間(J+1)、2日間および3日間接触した後、上清に得られた正規化の黄色ブドウ球菌増殖(%)を示す。各24時間後に、コーティングを黄色ブドウ球菌の新鮮な懸濁液に接触する。各々の値は3つの実験の平均値に対応し、エラーバーは標準偏差に対応する。黄色ブドウ球菌の増殖について、(PLL30/HA)
24の場合に1と2日間後5%以下であるので、(PLL30/HA)
24の場合に、最初の48時間に95%以上の強い増殖抑制を示す。
図5は、コーティング(PAR30/HA)
24を使用してミクロコッカス・ルテウスの増殖抑制を示す図である。(PAR30/HA)
24多層コーティングに20時間接触した後に上清に観察された正規化のミクロコッカス・ルテウス増殖(%)を示す。各々の値は3つの実験の平均値に対応し、エラーバーは標準偏差に対応する。ミクロコッカス・ルテウスの増殖について、(PAR30/HA)
24の場合に2%以下であるので、(PAR30/HA)
24の場合に98%以上の強い増殖抑制を示す。
図6は、ポリアニオンHAがないPAR30またはPLL30コーティングを使用して黄色ブドウ球菌の増殖抑制を示す図である。ポリアニオン層HAがないPLL30またはPAR30のポリカチオン層に24時間接触した後に、上清に得られた正規化の黄色ブドウ球菌増殖(%)を示す。各24時間後に、コーティングを黄色ブドウ球菌の新鮮な懸濁液に接触させる。。各々の値は3つの実験の平均値に対応し、エラーバーは標準偏差に対応する。黄色ブドウ球菌の増殖について、PLL30 の場合に約65%であり、PAR30の場合に約100%であるので、PLL30の場合に35%のみの小さい増殖抑制を示し、PAR30の場合に増殖抑制を示さない。
図7は、本発明の(PAR200/HA)
24−PAR30を使用して黄色ブドウ球菌の増殖抑制を示す図である。最後層のPAR30を多層コーティング(PAR200/HA)
24に加えるので、多層コーティング(PAR200/HA)
24−PAR30が生成される。(PAR200/HA)
24−PAR30多層コーティングに24時間接触した後、上清に得られた正規化の黄色ブドウ球菌増殖(%)を示す。各々の値は3つの実験の平均値に対応し、エラーバーは標準偏差に対応する。黄色ブドウ球菌の増殖について、(PAR200/HA)
24−PAR30の場合に1%以下であるので、(PAR200/HA)
24−PAR30の場合に99%以上の強い増殖抑制を示す。
図8は、本発明の(PAR200/HA)
24−PAR30を使用してミクロコッカス・ルテウスの増殖抑制を示す図である。最後層のPAR30を多層コーティング(PAR200/HA)
24に加えるので、多層コーティング(PAR
200/HA)
24−PAR
30が生成される。PAR200/HA)
24−PAR30多層コーティングに24時間接触した後、上清に観察された正規化のミクロコッカス・ルテウス増殖(%)を示す。各々の値は3つの実験の平均値に対応し、エラーバーは標準偏差に対応する。ミクロコッカス・ルテウスの増殖について、(PAR200/HA)
24−PAR30の場合に1%以下であるので、(PAR200/HA)
24−PAR30の場合に99%以上の強い増殖抑制を示す。
図9は、本発明のPLOコーティングを使用して黄色ブドウ球菌の増殖抑制を示す図である。異なる残基数のポリ−L−オルニチンを含む(PLO/HA)
24多層コーティングに24時間接触した後、上清に得られた正規化の黄色ブドウ球菌増殖(%)を示す、すなわち、(PLO30/HA)
24および(PLO100/HA)
24。各々の値は3つの実験の平均値に対応し、エラーバーは標準偏差に対応する。黄色ブドウ球菌の増殖について、(PLO250/HA)
24の場合に約80%であり、(PLO100/HA)
24の場合に5%以下のであり、(PLO30/HA)
24の場合に3%以下であるので、(PLO100/HA)
24および(PLO30/HA)
24の場合に95%以上の強い増殖抑制を示す。
図10は、(PLL
30/HA)24または架橋(PLL
30/HA)
24を使用して黄色ブドウ球菌の増殖抑制を示す図である。0.5MのEDCと0.1MのNHSを有するEDC/NHSにより、(PLL30/HA)
24を4℃で15時間架橋させる。エタノールアミンを使用して未反応のカルボキシル基を中和する。(PLL
30/HA)
24または架橋(PLL
30/HA)
24多層コーティングに24時間接触した後、上清において正規化の黄色ブドウ球菌増殖(%)を測定する。黄色ブドウ球菌の増殖について、架橋(PLL
30/HA)
24の場合に約65%であり、(PLL30/HA)
24の場合に18%以下であるので、架橋が著しくコーティングの殺菌活性を低減することを示す。
図11は、(PAR
30/HA)
24または架橋(PAR
30/HA)
24を使用して黄色ブドウ球菌の増殖抑制を示す図である。0.5MのEDCと0.1MのNHSを有するEDC/NHSを使用して(PAR30/HA)
24を4℃で15時間架橋する。エタノールアミンを使用して未反応のカルボキシル基を中和する。(PAR
30/HA)
24または架橋(PAR
30/HA)
24多層コーティングに24時間接触した後、上清において正規化の黄色ブドウ球菌増殖(%)を測定する。黄色ブドウ球菌の増殖について、架橋(PAR
30/HA)
24の場合に約65%であり、(PLL30/HA)
24の場合に5%以下であるので、架橋がコーティングの殺菌活性を低減することを示す。
図12は、10、30、100または200個のアルギニン残基を有する可溶性PARの最小抑制濃度(MIC
100)を示す図である。黄色ブドウ球菌の100%抑制を引き起こす最小抑制濃度(MIC
100)を溶液において測定する。10、30、100または200個のアルギニン残基を有するPARに検査を行う。0.04mg.mL
−1までの濃度で、すべてのPAR(PAR
10、PAR
30、PAR
100またはPAR
200)は、黄色ブドウ球菌増殖を完全に抑制する。
図13は、放出実験の結果を示す図である。以上の「放出実験」というセクションに説明するように放出実験を行う。PAR−FITCを有する 多層コーティング(PAR30FITC/HA)
24をMHB培地または黄色ブドウ球菌/MHB溶液(A
620=0.001)に接触させる。PAR−FITCの放出を経時的に監視する。各条件で3つのサンプルを研究する。
図14は、MWによる(PAR/HA)
24コーティングにおける運転PARの比率(%)を示す図である。以上の「光退色(FRAP)実験後の蛍光回復」というセクションに説明する光退色実験(FRAP、光退色後の蛍光回復)により、PAR−FITCを含有する(PAR/HA)
24多層に対して拡散係数D、および運転分子の比率pを測定する。
図15は、コーティングから溶液に拡散するPAR30の濃度が黄色ブドウ球菌の増殖を効率的に抑制するのに不十分であることを示す図である。多層膜(PAR30/HA)
24で培養する培地に24時間接触した後の正規化の黄色ブドウ球菌増殖を示す。培地A)には300μLの黄色ブドウ球菌溶液A620=0.001があり、B)には300μLのMHBのみがある。細菌増殖抑制が観察されていない。
図16は、(PAR
30/HA)
24を使用して異なる細菌の増殖抑制を示す図である。コーティング(PAR30/HA)
24で被覆するガラスに24時間接触した後の正規化の細菌増殖を示す。黄色ブドウ球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌株、ミクロコッカス・ルテウス、大腸菌および緑膿菌について細菌増殖が90%以上抑制される。
図17は、本発明のPLLコーティングを使用して黄色ブドウ球菌の増殖抑制を示す図である。異なる残基数のポリ−L−リジンを含む(PLL/HA)
24、すなわち、(PLL10/HA)
24、(PLL30/HA)
24、(PLL100/HA)
24および(PLO250/HA)
24多層コーティングに24時間接触した後、上清において観察された正規化の黄色ブドウ球菌増殖(%)を示す。各々の値は3つの実験の平均値に対応し、エラーバーは標準偏差に対応する。黄色ブドウ球菌の増殖について、ガラスと抗生物質の組み合わせの場合に3%以下であり、(PLL30/HA)
24の場合に6%以下である。一方、細菌増殖について、(PLO250/HA)
24の場合に約75%であり、(PLL100/HA)
24の場合に約85%であり、(PLL10/HA)
24の場合に約90%である。
図18は、(PAR30/HA)
24を使用して経時的に黄色ブドウ球菌の増殖抑制を示す図である。(PAR30/HA)
24多層コーティングに1日、2日と3日接触した後、上清において得られる正規化の黄色ブドウ球菌増殖(%)を示す。各24時間の後、コーティングを黄色ブドウ球菌の新鮮な懸濁液に接触させる。各々の値は3つの実験の平均値に対応し、エラーバーは標準偏差に対応する。黄色ブドウ球菌の増殖について、1日と2日後の(PAR30/HA)
24の場合に5%以下であるので、最初の48時間に(PAR30/HA)
24に対して95%以上の強い増殖抑制を示す。3日後に、抑制活性が低減する。
図19と20は、本発明のPARコーティングを使用して黄色ブドウ球菌の増殖抑制を示す図である。(PAR50/HA)
24コーティングの上清の抗菌活性の評価と、(PAR30/HA)
24および対照組(「ガラス」または「ガラス+抗生物質」と表現するコーティングのないガラス)との対比を示す。各々の実験は、3つのスライドグラスにより行い、a)およびb)は2つの同様な独立した実験に対応する。「培地」条件は細菌のないウェルのことを意味し、培地のODのみを測定する。エラーバーは標準偏差に対応する。
図20と21は、本発明のPARコーティングを使用して黄色ブドウ球菌の増殖抑制を示す図である。(PAR50/HA)
48コーティングの上清のの抗菌活性の評価と、(PAR30/HA)
48および対照組(「ガラス」または「ガラス+抗生物質」と表現するコーティングのないガラス)との対比を示す。各々の実験は、3つのスライドグラスにより行い、a)およびb)は2つの同様な独立した実験に対応する。「培地」条件は細菌のないウェルのことを意味し、培地のODのみを測定する。エラーバーは標準偏差に対応する。
図23は、本発明のPARコーティングを使用して黄色ブドウ球菌の増殖抑制を示す図である。(PAR100/HA)
24(PAR150/HA)
24コーティングの上清の抗菌活性の評価と、(PAR30/HA)
24および対照組(「ガラス」または「ガラス+抗生物質」と表現するコーティングのないガラス)との対比を示す。各々の実験は、3つのスライドグラスにより行う。「培地」条件は細菌のないウェルのことを意味し、培地のODのみを測定する。エラーバーは標準偏差に対応する。
図24は、本発明のPARコーティングを使用して黄色ブドウ球菌の増殖抑制を示す図である。(PAR10/HA)
24コーティングの上清の抗菌活性の評価と、(PAR50/HA)
24、(PAR30/HA)
24および対照組(「ガラス」または「ガラス+抗生物質」と表現するコーティングのないガラス)との対比を示す。各々の実験は、3つのスライドグラスにより行う。「培地」条件は細菌のないウェルのことを意味し、培地のODのみを測定する。エラーバーは標準偏差に対応する。
図25は、本発明のPARコーティングを使用して黄色ブドウ球菌の増殖抑制を示す図である。(PAR70/HA)
24コーティングの上清の抗菌活性の評価と、対照組(「ガラス」または「ガラス+抗生物質」と表現するコーティングのないガラス)との対比を示す。各々の実験は、3つのスライドグラスにより行う。「培地」条件は細菌のないウェルのことを意味し、培地のODのみを測定する。エラーバーは標準偏差に対応する。
図26、27と28は、本発明のPARコーティングを使用して経時的に黄色ブドウ球菌の増殖抑制を示す図である。(PAR30/HA)
24(POR30/HA)
24コーティングの上清の抗菌活性の評価と、24、48または72時間の黄色ブドウ球菌の培養後の対照組(「ガラス」または「ガラス+抗生物質」と表現するコーティングのないガラス)との対比を示す。t=0、24時間と48時間に、細菌による新しい接種を行う。各々の実験は、3つのスライドグラスにより行う。「培地」条件は細菌のないウェルのことを意味し、培地のODのみを測定する。エラーバーは標準偏差に対応する。
図29、30と31は、本発明のPARコーティングを使用して経時的に黄色ブドウ球菌の増殖抑制を示す図である。(PAR10/HA)
24、(PAR50/HA)
24、(PAR100/HA)
24コーティングの上清の抗菌活性の評価と、24、48または72時間の黄色ブドウ球菌の培養後の対照組(「ガラス」または「ガラス+抗生物質」と表現するコーティングのないガラス)との対比を示す。t=0、24時間と48時間に、細菌による新しい接種を行う。各々の実験は、3つのスライドグラスにより行う。「培地」条件は細菌のないウェルのことを意味し、培地のODのみを測定する。エラーバーは標準偏差に対応する。
図32と33は、本発明のPARコーティングを異なる貯蔵条件に暴露させた後の黄色ブドウ球菌の増殖抑制を示す図である。予め乾燥され4℃で1日間(a)または7日間貯蔵される(PAR30/HA)
24コーティングの上清の抗菌活性の評価と、対照組(「ガラス」または「ガラス+抗生物質」と表現するコーティングのないガラス)との対比を示す。各々の実験は、3つのスライドグラスにより行う。「培地」条件は細菌のないウェルのことを意味し、培地のODのみを測定する。エラーバーは標準偏差に対応する。
図34は、本発明のPARコーティングを異なる貯蔵条件に暴露させた後の黄色ブドウ球菌の増殖抑制を示す図である。オートクレーブで予め滅菌される(PAR30/HA)
24コーティングの上清の抗菌活性の評価と、対照組(「ガラス」または「ガラス+抗生物質」と表現するコーティングのないガラス)との対比を示す。各々の実験は、3つのスライドグラスにより行う。「培地」条件は細菌のないウェルのことを意味し、培地のODのみを測定する。エラーバーは標準偏差に対応する。