(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一の核酸が免疫グロブリン重鎖をコードし、前記第三の核酸が免疫グロブリン軽鎖をコードする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のベクター又は発現システム。
前記mutGS−NTが、W60A N61A D63A(mutGS−NT1;配列番号6)、W60A N61A D63A S66A(mutGS−NT2;配列番号10)、W60A N61A D63A S66A D76A(mutGS−NT3;配列番号25)及びW60A N61A D63R S66A(mutGS−NT4;配列番号19)からなる群から選択され、且つ、前記mutGS−CTが、E134A E136A E196A E203A(mutGS−CT1;配列番号21)及びN248A H253A N255A(mutGS−CT2;配列番号22)からなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のベクター又は発現システム。
ヘテロマー複合体の産生方法であって、前記ヘテロマー複合体が請求項8又は9に記載の宿主細胞によって発現される条件下で前記宿主細胞を培養する工程を含む、前記ヘテロマー複合体の産生方法。
前記宿主細胞が、請求項1〜7のいずれか一項に記載のベクターにより形質転換又は形質導入された場合、前記ヘテロマー複合体が抗体である、請求項10に記載の方法。
N末端変異グルタミンシンセターゼ(mutGS−NT)をコードする第二の核酸に作動可能に連結される抗体の重鎖をコードする第一の核酸を含む第一のベクターと、C末端変異グルタミンシンセターゼ(mutGS−CT)をコードする第四の核酸に作動可能に連結される抗体の軽鎖をコードする第三の核酸を含む第二のベクターとを含む発現システムであって、
前記mutGS−NTは、W60A N61A D63A D63R S66A及びD76Aからなる群から選択される2つ又はそれ以上の変異を含み、前記mutGS−CTが、E134A E136A E196A E203A N248A H253A N255A R319A及びR324Aからなる群から選択される1つ以上の変異を含み、
グルタミンシンセターゼの各変異サブユニットが単独発現時には選択活性を持たず、mutGS−NTとmutGS−CTとの共発現では、グルタミンシンセターゼ活性を付与し、前記発現システムが哺乳類細胞にトランスフェクトされることができ、トランスフェクトされた細胞の選択を向上させることができる、発現システム。
前記mutGS−NTが、W60A N61A D63A(mutGS−NT1;配列番号6)、W60A N61A D63A S66A(mutGS−NT2;配列番号10)、W60A N61A D63A S66A D76A(mutGS−NT3;配列番号25)及びW60A N61A D63R S66A(mutGS−NT4;配列番号19)からなる群から選択され、且つ、前記mutGS−CTが、E134A E136A E196A E203A(mutGS−CT1;配列番号21)及びN248A H253A N255A(mutGS−CT2;配列番号22)からなる群から選択される、請求項13に記載の発現システム。
前記mutGS−NTが、W60A N61A D63A(mutGS−NT1;配列番号6)、W60A N61A D63A S66A(mutGS−NT2;配列番号10)、W60A N61A D63A S66A D76A(mutGS−NT3;配列番号25)及びW60A N61A D63R S66A(mutGS−NT4;配列番号19)からなる群から選択され、且つ、前記mutGS−CTが、E134A E136A E196A E203A(mutGS−CT1;配列番号21)及びN248A H253A N255A(mutGS−CT2;配列番号22)からなる群から選択される、請求項15に記載の発現システム。
【発明の概要】
【0007】
本発明の一実施形態は、以下:
a.第一のポリペプチドをコードする第一の核酸と、
b.第二のポリペプチドをコードする第二の核酸であって、該第二のポリペプチドが選択マーカーの最初の変異サブユニットである第二の核酸とを含み、
前記第一の核酸の転写物が前記第二の核酸の転写物に作動可能に連結され、さらに
c.第三のポリペプチドをコードする第三の核酸であって、該第三のポリペプチドが前記第一のポリペプチドと会合してヘテロマー複合体を形成することができる第三の核酸と、
d.第四のポリペプチドをコードする第四の核酸であって、該第四のポリペプチドが前記選択マーカーの相補的変異サブユニットである第四の核酸とを含むベクターであって、
前記第三の核酸の転写物が前記第四の核酸の転写物に作動可能に連結され、
前記選択マーカーの最初の変異サブユニット及び相補的変異サブユニットが相互作用して選択活性を付与し、さらに、前記ベクターが哺乳類細胞にトランスフェクトされることができ、トランスフェクトされた細胞の選択を向上させることができる、ベクターを提供する。
【0008】
本発明の別の実施形態は、以下:
e.第一のポリペプチドをコードする第一の核酸と、
f.第二のポリペプチドをコードする第二の核酸であって、該第二のポリペプチドが選択マーカーの最初のフラグメントである第二の核酸とを含み、
前記第一の核酸の転写物が前記第二の核酸の転写物に作動可能に連結され、さらに
g.第三のポリペプチドをコードする第三の核酸であって、該第三のポリペプチドが前記第一のポリペプチドと会合してヘテロマー複合体を形成することができる第三の核酸と、
h.第四のポリペプチドをコードする第四の核酸であって、該第四のポリペプチドが前記選択マーカーの相補的フラグメントである第四の核酸とを含むベクターであって、
前記第三の核酸の転写物が前記第四の核酸の転写物に作動可能に連結され、
前記選択マーカーの最初の変異サブユニット及び相補的変異サブユニットが相互作用して選択活性を付与し、さらに、前記ベクターが哺乳類細胞にトランスフェクトされるころができ、トランスフェクトされた細胞の選択を向上させることができる、ベクターを提供する。
【0009】
さらなる実施形態では、前記ヘテロマー複合体は免疫グロブリンである。一実施形態では、前記第一の核酸が免疫グロブリン重鎖をコードし、前記第三の核酸が免疫グロブリン軽鎖をコードする。代替的実施形態では、前記第一の核酸が免疫グロブリン軽鎖をコードし、前記第三の核酸が免疫グロブリン重鎖をコードする。前述の実施形態では、前記選択マーカーは、グルタミンシンセターゼ、トレオニンデヒドラターゼ、アデニロコハク酸シンセターゼ及びグルタミン酸デヒドロゲナーゼからなる群から選択される代謝酵素である。
【0010】
本発明は、配列内リボソーム進入部位(IRES)を含んでもよい。一実施形態では、IRESは、前記第一の核酸と第二の核酸との間の部位、前記第三の核酸と第四の核酸との間の部位、第一と第二の核酸との間、及び第三と第四の核酸との間の両方の部位からなる群から選択される部位に現れる。さらなる実施形態では、前記配列内リボソーム進入部位は、配列番号23を含む。
【0011】
本明細書に記載された実施形態のいずれにおいても、前記選択マーカーの最初の変異サブユニットはグルタミンシンセターゼのN末端変異体(mutGS−NT)であり、前記選択マーカーの相補的変異サブユニットはグルタミンシンセターゼのC末端変異体(mutGS−CT)である。本発明のかかる一態様では、前記mutGS−NTは、W60A N61A D63A D63R S66A及びD76Aからなる群から選択される2つまたはそれ以上の変異を含み、前記mutGS−CTは、E134A E136A E196A E203A N248A H253A N255A R319A及びR324Aからなる群から選択される1つ以上の変異を含む。一実施形態では、mutGS−NTは、W60A N61A D63A(mutGS−NT1;配列番号6)、W60A N61A D63A S66A(mutGS−NT2;配列番号10)、W60A N61A D63A S66A D76A(mutGS−NT3;配列番号25)及びW60A N61A D63R S66A(mutGS−NT4;配列番号19)からなる群から選択され、前記mutGS−CTは、E134A E136A E196A E203A(mutGS−CT1;配列番号21)及びN248A H253A N255A(mutGS−CT2;配列番号22)からなる群から選択される。
【0012】
他の実施形態では、グルタミンシンセターゼのN末端及びC末端フラグメントは、グルタミンシンセターゼタンパク質の1つ以上のアミノ酸において該タンパク質を分割することによって作製される。本発明のかかる一態様では、前記グルタミンシンセターゼのN末端フラグメント及び/またはC末端フラグメントは、E110、Y104、S125、N126、E264、T111、N105、N126、Q127及びN265からなる群より選択されるグルタミンシンセターゼのアミノ酸において分割される。
【0013】
本発明はまた、上述のベクターによってトランスフェクト、形質転換または形質導入された単離された宿主細胞を提供する。前記宿主細胞は、CHO、VERO、BHK、HeLa、Cos、MDCK、293、3T3、骨髄腫細胞株及びWI38細胞からなる群から選択してもよい。本発明の一態様は、ヘテロマー複合体を産生する方法を提供し、該方法は、かかる宿主細胞を、該宿主細胞によってヘテロマー複合体が発現する条件下で培養する工程を含む。一実施形態では、前記ヘテロマー複合体は抗体である。請求項に記載の本発明の方法はまた、前記ヘテロマー複合体を単離することを含んでもよい。
【0014】
本発明の一実施形態は、以下:
a)選択マーカーの最初の変異サブユニットである第二のポリペプチドをコードする第二の核酸に作動可能に連結される第一のポリペプチドをコードする第一の核酸を含むバイシストロニック転写物をコードする第一のベクターと、
b)第四のポリペプチドをコードする第四の核酸に作動可能に連結される第三のポリペプチドをコードする第三の核酸を含むバイシストロニック転写物をコードする第二のベクターとを含む発現システムであって、該第四のポリペプチドが前記選択マーカーの相補的変異サブユニットであり、前記選択マーカーの最初の変異サブユニットと会合して選択活性を付与することができ、
さらに、前記第三のポリペプチドが前記第一のポリペプチドと会合してヘテロマー複合体を形成することができ、
さらに、前記発現システムが哺乳類細胞にトランスフェクトされることができ、前記細胞の選択を向上させることができる、発現システムを提供する。
【0015】
本発明の別の実施形態は、以下:
c)選択マーカーの最初のフラグメントである第二のポリペプチドをコードする第二の核酸に作動可能に連結される第一のポリペプチドをコードする第一の核酸を含むバイシストロニック転写物をコードする第一のベクターと、
d)第四のポリペプチドをコードする第四の核酸に作動可能に連結される第三のポリペプチドをコードする第三の核酸を含むバイシストロニック転写物をコードする第二のベクターと含む発現システムであって、該第四のポリペプチドが前記選択マーカーの相補的フラグメントであり、前記選択マーカーの最初のフラグメントと会合して選択活性を付与することができ、
さらに、前記第三のポリペプチドが前記第一のポリペプチドと会合してヘテロマー複合体を形成することができ、
さらに、前記発現システムが哺乳類細胞にトランスフェクトされることができ、前記細胞の選択を向上させることができる、発現システムを提供する。
【0016】
さらなる実施形態では、前記ヘテロマー複合体は免疫グロブリンである。一実施形態では、前記第一の核酸が免疫グロブリン重鎖をコードし、前記第三の核酸が免疫グロブリン軽鎖をコードする。代替的実施形態では、前記第一の核酸が免疫グロブリン軽鎖をコードし、前記第三の核酸が免疫グロブリン重鎖をコードする。前述の実施形態では、前記選択マーカーは、グルタミンシンセターゼ、トレオニンデヒドラターゼ、アデニロコハク酸シンセターゼ、及びグルタミン酸デヒドロゲナーゼからなる群から選択される代謝酵素である。
【0017】
上述の本発明の発現システムは、配列内リボソーム進入部位(IRES)を含んでもよい。一実施形態では、IRESは、前記第一の核酸と第二の核酸との間の部位、前記第三の核酸と第四の核酸との間の部位、第一と第二の核酸との間、及び第三と第四の核酸との間の両方の部位からなる群から選択される部位に現れる。さらなる実施形態では、前記配列内リボソーム進入部位は、配列番号23を含む。
【0018】
本明細書に記載の発現システムでは、前記選択マーカーの最初の変異サブユニットは、グルタミンシンセターゼのN末端変異体(mutGS−NT)であり、前記選択マーカーの相補的変異サブユニットは、グルタミンシンセターゼのC末端変異体(mutGS−CT)である。本発明のかかる一態様では、前記mutGS−NTは、W60A N61A D63A D63R S66A及びD76Aからなる群から選択される2つまたはそれ以上の変異を含み、前記mutGS−CTは、E134A E136A E196A E203A N248A H253A N255A R319A及びR324Aからなる群から選択される1つ以上の変異を含む。一実施形態では、mutGS−NTは、W60A N61A D63A(mutGS−NT1;配列番号6)、W60A N61A D63A S66A(mutGS−NT2;配列番号10)、W60A N61A D63A S66A D76A(mutGS−NT3;配列番号25)及びW60A N61A D63R S66A(mutGS−NT4;配列番号19)からなる群から選択され、前記mutGS−CTは、E134A E136A E196A E203A(mutGS−CT1;配列番号21)及びN248A H253A N255A(mutGS−CT2;配列番号22)からなる群から選択される。
【0019】
他の実施形態では、グルタミンシンセターゼのN末端及びC末端フラグメントは、グルタミンシンセターゼタンパク質の1つ以上のアミノ酸において該タンパク質を分割することによって作製される。本発明のかかる一態様では、前記グルタミンシンセターゼのN末端フラグメント及び/またはC末端フラグメントは、E110、Y104、S125、N126、E264、T111、N105、N126、Q127及びN265からなる群より選択されるグルタミンシンセターゼのアミノ酸において分割される。
【0020】
本発明はまた、上述のベクターによってトランスフェクト、形質転換または形質導入された単離された宿主細胞を提供する。前記宿主細胞は、CHO、VERO、BHK、HeLa、Cos、MDCK、293、3T3、骨髄腫細胞株及びWI38細胞からなる群から選択してもよい。本発明の一態様では、ヘテロマー複合体を産生する方法を提供し、該方法は、かかる宿主細胞を該宿主細胞によってヘテロマー複合体が発現する条件下で培養する工程を含む。一実施形態では、前記ヘテロマー複合体は抗体である。請求項に記載の本発明の方法はまた、前記ヘテロマー複合体を単離することを含んでもよい。
【0021】
一実施形態では、本発明は、N末端変異グルタミンシンセターゼ(mutGS−NT)をコードする第二の核酸に作動可能に連結される抗体の重鎖をコードする第一の核酸を含む第一のベクターと、C末端変異グルタミンシンセターゼ(mutGS−CT)をコードする第四の核酸に作動可能に連結される抗体の軽鎖をコードする第三の核酸を含む第二のベクターと、を含む発現システムを提供し、ここで、グルタミンシンセターゼの各変異サブユニットは、単独発現時には選択活性を持たず、mutGS−NTとmutGS−CTとの共発現では、グルタミンシンセターゼ活性を付与し、ここで、前記発現システムが哺乳類細胞にトランスフェクトされることができ、トランスフェクトされた細胞の選択を向上させることができる。
【0022】
一実施形態では、本発明は、グルタミンシンセターゼのN末端フラグメントをコードする第二の核酸に作動可能に連結される抗体の重鎖をコードする第一の核酸を含む第一のベクターと、グルタミンシンセターゼのC末端フラグメントをコードする第四の核酸に作動可能に連結される抗体の軽鎖をコードする第三の核酸を含む第二のベクターと、を含む発現システムを提供し、ここで、グルタミンシンセターゼの各変異サブユニットは、単独発現時には選択活性を持たず、グルタミンシンセターゼのN末端フラグメント及びC末端フラグメントとの共発現では、グルタミンシンセターゼ活性を付与し、ここで、前記発現システムが哺乳類細胞にトランスフェクトされることができ、トランスフェクトされた細胞の選択を向上させることができる。
【0023】
別の実施形態では、本発明は、N末端変異グルタミンシンセターゼ(mutGS−NT)をコードする第二の核酸に作動可能に連結される抗体の軽鎖をコードする第一の核酸を含む第一のベクターと、C末端変異グルタミンシンセターゼ(mutGS−CT)をコードする第四の核酸に作動可能に連結される抗体の重鎖をコードする第三の核酸を含む第二のベクターと、を含む発現システムを提供し、ここで、グルタミンシンセターゼの各変異サブユニットは、単独発現時には選択活性を持たず、mutGS−NTとmutGS−CTとの共発現では、グルタミンシンセターゼ活性を付与し、ここで、前記発現システムが哺乳類細胞にトランスフェクトされることができ、トランスフェクトされた細胞の選択を向上させることができる。
【0024】
別の実施形態では、本発明は、グルタミンシンセターゼのN末端フラグメントをコードする第二の核酸に作動可能に連結される抗体の軽鎖をコードする第一の核酸を含む第一のベクターと、グルタミンシンセターゼのC末端フラグメントをコードする第四の核酸に作動可能に連結される抗体の重鎖をコードする第三の核酸を含む第二のベクターと、を含む発現システムを提供し、ここで、グルタミンシンセターゼの各フラグメントは、単独発現時には選択活性を持たず、グルタミンシンセターゼのN末端及びC末端フラグメントとの共発現では、グルタミンシンセターゼ活性を付与し、ここで、前記発現システムが哺乳類細胞にトランスフェクトされることができ、トランスフェクトされた細胞の選択を向上させることができる。
【0025】
前記実施形態のいずれにおいても、本発明の一態様では、前記mutGS−NTは、W60A N61A D63A D63R S66A及びD76Aからなる群から選択される2つまたはそれ以上の変異を含み、前記mutGS−CTが、E134A E136A E196A E203A N248A H253A N255A R319A及びR324Aからなる群から選択される1つ以上の変異を含む。一実施形態では、mutGS−NTは、W60A N61A D63A(mutGS−NT1;配列番号6)、W60A N61A D63A S66A(mutGS−NT2;配列番号10)、W60A N61A D63A S66A D76A(mutGS−NT3;配列番号25)及びW60A N61A D63R S66A(mutGS−NT4;配列番号19)からなる群から選択され、前記mutGS−CTは、E134A E136A E196A E203A(mutGS−CT1;配列番号21)及びN248A H253A N255A(mutGS−CT2;配列番号22)からなる群から選択される。
【0026】
他の実施形態では、グルタミンシンセターゼのN末端及びC末端フラグメントは、グルタミンシンセターゼタンパク質の1つ以上のアミノ酸においてタンパク質を分割することによって作製される。本発明のかかる一態様では、前記グルタミンシンセターゼのN末端フラグメント及び/またはC末端フラグメントは、E110、Y104、S125、N126、E264、T111、N105、N126、Q127及びN265からなる群より選択されるグルタミンシンセターゼのアミノ酸において分割される。
【0027】
同様に、本発明はまた、上述のベクターによってトランスフェクト、形質転換または形質導入された単離された宿主細胞を提供する。前記宿主細胞は、CHO、VERO、BHK、HeLa、Cos、MDCK、293、3T3、骨髄腫細胞株及びWI38細胞からなる群から選択してもよい。本発明の一態様では、ヘテロマー複合体を産生する方法を提供し、該方法は、かかる宿主細胞を該宿主細胞によってヘテロマー複合体が発現する条件下で培養する工程を含む。一実施形態では、前記ヘテロマー複合体は抗体である。請求項に記載の本発明の方法はまた、前記ヘテロマー複合体を単離することを含んでもよい。
【0028】
本発明のなおさらなる実施形態では、選択マーカーの最初の変異サブユニットをコードする第二の核酸に作動可能に連結される所望のポリペプチドをコードする第一の核酸を含むバイシストロニック転写物をコードする第一のベクターと、選択マーカーの相補的変異サブユニットをコードする第四の核酸に作動可能に連結される第三の核酸を含むバイシストロニック転写物をコードする第二のベクターと、を含む発現システムを提供し、ここで、前記選択マーカーの第一及び相補的変異サブユニットが会合して選択活性を付与し、ここで、前記発現システムが哺乳類細胞にトランスフェクトされることができ、トランスフェクトされた細胞の選択を向上させることができ、さらに、前記第一の核酸が抗体重鎖をコードし、前記第三の核酸が抗体軽鎖をコードする。一実施形態では、前記選択マーカーはグルタミンシンセターゼである。
【0029】
本発明のさらなる他の態様では、選択マーカーの最初のフラグメントをコードする第二の核酸に作動可能に連結される所望のポリペプチドをコードする第一の核酸を含むバイシストロニック転写物をコードする第一のベクターと、選択マーカーの相補的フラグメントをコードする第四の核酸に作動可能に連結される第三の核酸を含むバイシストロニック転写物をコードする第二のベクターと、を含む発現システムを含み、ここで、前記選択マーカーの第一及び相補的フラグメントが会合して選択活性を付与し、ここで、前記発現システムが哺乳類細胞にトランスフェクトされることができ、トランスフェクトされた細胞の選択を向上させることができ、さらに、前記第一の核酸が抗体重鎖をコードし、前記第三の核酸が抗体軽鎖をコードする。一実施形態では、前記選択マーカーはグルタミンシンセターゼである。
【0030】
本発明のかかる一態様では、前記グルタミンシンセターゼは、2つの相補的変異を含む。よって、前記mutGS−NTは、W60A N61A D63A D63R S66A及びD76Aからなる群から選択される2つまたはそれ以上の変異を含み、前記mutGS−CTは、E134A E136A E196A E203A N248A H253A N255A R319A及びR324Aからなる群から選択される1つ以上の変異を含む。一実施形態では、mutGS−NTは、W60A N61A D63A(mutGS−NT1;配列番号6)、W60A N61A D63A S66A(mutGS−NT2;配列番号10)、W60A N61A D63A S66A D76A(mutGS−NT3;配列番号25)及びW60A N61A D63R S66A(mutGS−NT4;配列番号19)からなる群から選択され、mutGS−CTは、E134A E136A E196A E203A(mutGS−CT1;配列番号21)及びN248A H253A N255A(mutGS−CT2;配列番号22)からなる群から選択される。
【0031】
他のかかる実施形態では、グルタミンシンセターゼのN末端及びC末端フラグメントは、グルタミンシンセターゼタンパク質の1つ以上のアミノ酸においてタンパク質を分割することによって作製される。本発明のかかる一態様では、前記グルタミンシンセターゼのN末端フラグメント及び/またはC末端フラグメントは、E110、Y104、S125、N126、E264、T111、N105、N126、Q127及びN265からなる群より選択されるグルタミンシンセターゼのアミノ酸において分割される。
【0032】
本発明はまた、上述のベクターによってトランスフェクト、形質転換または形質導入された単離された宿主細胞を提供する。前記宿主細胞は、CHO、VERO、BHK、HeLa、Cos、MDCK、293、3T3、骨髄腫細胞株及びWI38細胞からなる群から選択してもよい。本発明の一態様では、ヘテロマー複合体を産生する方法を提供し、かかる宿主細胞を、該宿主細胞によってヘテロマー複合体が発現する条件下で培養する工程を含む。一実施形態では、前記ヘテロマー複合体は抗体である。特許請求の範囲に記載の本発明の方法はまた、前記ヘテロマー複合体を単離することを含んでもよい。
【発明を実施するための形態】
【0034】
細胞内での組換えヘテロマー複合体の効率的な産生は、該複合体の各構成要素が、比例的に大量に発現されると改善される。本発明は、2つ以上の非相同ポリペプチドを比例した量で発現する組換え操作された細胞を選択するための方法及び組成物を提供することによって、トランスフェクトされた細胞の選択を向上し、これにより、前記ポリペプチドが効率的に会合し、従来の方法で調製されたヘテロマー複合体よりも高い発現レベルでヘテロマー複合体を形成することができる。本発明は、高レベルの所望の組換えヘテロマーポリペプチド複合体発現細胞を選択するのに要する時間が短縮される点でも有利である(本発明によって提供されるトランスフェクトされた細胞の選択を向上する別の態様である)。
【0035】
本出願において使用する専門用語は、当技術分野内では標準であるが、特許請求の範囲の意味における明瞭性及び明確性を保証するために、特定の用語の定義が本明細書において提供される。単位、接頭辞及び記号は、それらのSI(国際単位系)承認された形態で示され得る。本明細書において列挙されている数値範囲は、その範囲を定義する数値を包含し、その定義範囲内の各整数を包含し、これを支持するものである。本明細書に記載の方法及び技術は、特に指示のない限り、一般に、当技術分野において周知の従来の方法、また本明細書全体にわたって引用され論じられる種々の一般的且つより具体的な参考文献に記載されるとおりに実施される。例えば、Sambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (2001)及びAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates (1992)及びHarlow and Lane Antibodies: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1990)を参照されたい。
【0036】
開示された方法は、撹拌タンクリアクター(伝統的なバッチ及び流加バッチ細胞培養を含むが、スピンフィルターを含む必要はない)、灌流システム(交互接線流(「ATF」)培養、音響灌流システム、デプスフィルター灌流システム及び他のシステム)、中空糸バイオリアクター(HFB、場合によっては灌流プロセスで使用され得る)及び他の種々の細胞培養方法において増殖させる接着培養または懸濁培養に適用可能である(例えば、Tao et al., (2003) Biotechnol.Bioeng.82:751−65;Kuystermans & Al−Rubeai, (2011)”Bioreactor Systems for Producing Antibody from Mammalian Cells” in Antibody Expression and Production.Cell Engineering 7:25−52, Al−Rubeai (ed) Springer;Catapano et al., (2009) ”Bioreactor Design and Scale−Up” in Cell and Tissue Reaction Engineering: Principles and Practice.Eibl et al.(eds) Springer− Verlagを参照されたい。これらの文献は参照によりその全体が本明細書に含まれる)。
【0037】
本明細書で使用する場合、「a」及び「an」は、特に指示のない限り、1つ以上を意味する。さらに、文脈により特に要求されない限り、単数の用語は、複数を含み、複数の用語は、単数を含むものとする。一般に、本明細書に記載の、細胞及び組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、ならびにタンパク質及び核酸化学、ならびにハイブリダイゼーションに関連して使用される名称及びこれらの技法は、当技術分野において周知のものであり、一般に使用される。
【0038】
本開示は、「目的のタンパク質」を発現する細胞培養の特性を調節する方法を提供し、「目的のタンパク質」には、天然に存在するタンパク質、組換えタンパク質及び操作されたタンパク質(例えば、天然に存在せず、人により設計及び/または作製されたタンパク質)が含まれる。目的のタンパク質は、必須ではないが、治療的に関連すると知られるまたは推測されるタンパク質であることができる。目的のタンパク質の具体例には、(本明細書に記載及び定義されるような)抗原結合タンパク質、ペプチボディ(すなわち、抗体のFcドメインなどの他の分子に直接的または間接的のいずれかで融合するペプチド(複数可)を含む分子であり、該ペプチド部分が所望の標的に特異的に結合する。該ペプチド(複数可)は、Fc領域に融合され得るか、Fcループに挿入され得る、すなわち修飾Fc分子であり、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2006/0140934号に記載されている)、融合タンパク質(例えば、Fcフラグメントがタンパク質またはペプチドに融合されるFc融合タンパク質であり、ペプチボディを含む)、サイトカイン、増殖因子、ホルモン及び他の天然に存在する分泌タンパク質、ならびに天然に存在するタンパク質の変異体が含まれる。
【0039】
「ヘテロマー複合体」という用語は、少なくとも2つの異なる分子の会合により形成される分子複合体を包含することを意図する。該会合は、非共有的相互作用または共有結合、例えばジスルフィド結合であり得る。前記2つの異なる分子は、典型的には2つの異なるポリペプチドであるが、本発明では、ポリペプチドと核酸との間、及び異なる核酸間のヘテロマー複合体を意図する。一実施形態では、前記ヘテロマー複合体は、基質(例えば、対応する抗原に結合可能な免疫グロブリン)への結合能、酵素活性などのような機能活性を与える。一実施形態では、本発明のヘテロマー複合体は、それが産生されている宿主細胞の培養培地内に分泌される。
【0040】
本明細書で使用する場合、「会合する」または「相互作用する」という用語は、少なくとも2つの分子間の関係を説明することを意図し、ここで、1つの分子は、他方の分子に結合する、及び/または他方の活性に影響を及ぼす。相互作用は、2つのポリペプチド(またはポリペプチドと核酸)の直接的もしくは間接的結合、または別の分子による分子の活性の機能的活性化もしくは抑制を含み得る。
【0041】
特定の実施形態では、前記ヘテロマー複合体は免疫グロブリン分子である。脊椎動物系における免疫グロブリンは、2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖とから構成される抗体である。それらの4つの鎖はジスルフィド結合により連結され、各軽鎖は重鎖と連結され、該重鎖は、それらの尾部間で共に連結されてY形のヘテロマー複合体を形成する。免疫グロブリン分子をコードするDNAを操作して、組換えタンパク質、例えば親和性の高い抗体または他の抗体に基づくポリペプチドをコードすることができるDNAを得ることができる多くの技術が知られている(例えば、Larrick et al. (1989), Biotechnology 7:934−938;Reichmann et al. (1988), Nature 332:323−327;Roberts et al. (1987), Nature 328:731−734;Verhoeyen et al. (1988), Science 239:1534−1536;Chaudhary et al. (1989), Nature 339:394−397を参照されたい)。
【0042】
また、本発明では、ヒト抗体(例えば、抗体ライブラリー及び/またはトランスジェニック動物を使用して産生され、任意でインビトロでさらに修飾されたもの)及びヒト化抗体を産生する組換え細胞を使用することも可能である。例えば、Cabilly et al.,米国特許第4,816,567号;Cabilly et al.,欧州特許第0,125,023 B1号;Boss et al.,米国特許第4,816,397号;Boss et al.,欧州特許第0,120,694 B1号;Neuberger et al., WO 86/01533;Neuberger et al.,欧州特許第0,194,276 B1号;Winter,米国特許第5,225,539号;Winter,欧州特許第0,239,400 B1号;Queen et al.,欧州特許第0,451,216 B1号;及びPadlan et al.,欧州特許第0,519,596 Al号を参照されたい。例えば、本発明は、特定の細胞標的、例えば、数例挙げると、ヒトEGF受容体、her2/neu抗原、CEA抗原、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、CD5、CD11a、CD18、NGF、CD20、CD45、Ep−cam、他のがん細胞表面分子、TNF−α、TGF−b1、VEGF、他のサイトカイン、α4β7インテグリン、IgE、ウイルスタンパク質(例えば、サイトメガロウイルス)などを免疫特異的に認識するヒト抗体及び/またはヒト化抗体の発現を誘導するために使用することができる。
【0043】
ヘテロマー複合体の具体例には、免疫グロブリンに加えて、任意のヘテロ二量体またはヘテロオリゴマータンパク質、例えばBMP2/BMP7、骨形成タンパク質、インターロイキン1変換酵素(ICE)、種々のインターロイキン受容体(例えば、IL−18受容体、IL−13受容体、IL−4受容体及びIL−7受容体)、核の受容体、例えばレチノイド受容体、T細胞受容体、インテグリン、例えば細胞接着分子、インテグリン、腫瘍壊死因子受容体、ならびに可溶性及び膜結合性形態のクラスI及びクラスII主要組織適合性複合体タンパク質(MHC)が含まれるが、これらに限定されるものではない。受容体であるヘテロマー複合体では、本発明は、可溶性及び膜結合性の両方の形態のポリペプチドを包含する。本発明にしたがって産生され得る更なるヘテロマータンパク質の説明は、例えば、Human Cytokines:Handbook for Basic and Clinical Research,Vol.II(Aggarwal and Gutterman, eds. Blackwell Sciences, Cambridge Mass., 1998);Growth Factors: A Practical Approach (McKay and Leigh, Eds. Oxford University Press Inc., New York, 1993)及びThe Cytokine Handbook (A W Thompson, ed.;Academic Press, San Diego Calif.;1991)に見つけることができる。
【0044】
本明細書で使用する場合、「融合タンパク質」という用語は、非相同タンパク質またはペプチドに融合したタンパク質またはタンパク質ドメイン(例えば、可溶性細胞外ドメイン)を指す。かかる融合タンパク質の例には、免疫グロブリン分子の一部との融合体として発現されたタンパク質、ジッパー部分との融合タンパク質として発現されたタンパク質及び新規な多機能性タンパク質、例えば、サイトカインと増殖因子(すなわち、GM−CSFとIL−3、MGFとIL−3)の融合タンパク質が含まれる。WO 93/08207及びWO 96/40918では、それぞれ免疫グロブリン融合タンパク質及びジッパー融合タンパク質を含む、CD40Lと称される種々の可溶性オリゴマー形態の分子の調製について記載しており、そこで扱われている技術は他のタンパク質にも適用可能である。本明細書に記載の分子はいずれも、細胞受容体分子の細胞外ドメイン、酵素、ホルモン、サイトカイン、免疫グロブリン分子の一部、ジッパードメイン及びエピトープを含む(これらに限定されるものではない)融合タンパク質として発現することができる。
【0045】
「抗原結合タンパク質」という用語は、最も広い意味で使用され、抗原または標的に結合する部分、及び、場合によって、抗原結合部分が、抗原への抗原結合タンパク質の結合を促進するコンホメーションを採用するのを可能にする足場またはフレームワーク部分を含むタンパク質を意味する。抗原結合タンパク質の例には、ヒト抗体、ヒト化抗体;キメラ抗体;組換え抗体;一本鎖抗体;ダイアボディ;トリアボディ;テトラボディ;Fabフラグメント;F(ab’)
2フラグメント;IgD抗体;IgE抗体;IgM抗体;IgG1抗体;IgG2抗体;IgG3抗体;またはIgG4抗体及びそれらのフラグメントが含まれる。抗原結合タンパク質は、移植されたCDRまたはCDR誘導体を有する代替タンパク質足場または人工的足場を含むことができる。かかる足場には、これらに限定されるわけではないが、例えば抗原結合タンパク質の三次元構造を安定化させるために導入された変異を含む抗体由来足場、ならびに例えば生体適合性ポリマーを含む完全合成の足場が含まれる。例えば、Korndorfer et al., 2003, Proteins: Structure, Function, and Bioinformatics, 53(1):121−129 (2003);Roque et al., Biotechnol. Prog. 20:639−654 (2004)を参照されたい。さらに、ペプチド抗体模倣体(「PAM」)を、足場としてフィブロネクチン構成要素を利用する抗体模倣体に基づく足場に加えて使用することができる。
【0046】
抗原結合タンパク質は、例えば自然免疫グロブリンの構造を有することができる。「免疫グロブリン」は、四量体分子である。自然免疫グロブリンでは、各四量体は、2つの同一対のポリペプチド鎖からなり、それぞれの対が、1つの「軽」鎖(約25kDa)及び1つの「重」鎖(約50〜70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部分は、主に抗原認識を担う約100〜110以上のアミノ酸の可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能を担う定常領域を定義する。ヒト軽鎖は、カッパ及びラムダ軽鎖に分類される。重鎖は、ミュー、デルタ、ガンマ、アルファ、またはイプシロンに分類され、当該抗体のアイソタイプをそれぞれIgM、IgD、IgG、IgA及びIgEと定義する。
【0047】
自然免疫グロブリン鎖は、相補性決定領域またはCDRとも称される3つの超可変領域によって連結された比較的保存されたフレームワーク領域(FR)の同じ一般構造を示す。N末端からC末端まで、軽鎖及び重鎖の双方ともドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4を含む。各ドメインへのアミノ酸のアサインメントは、Sequences of Proteins of Immunological Interest,5
th Ed.,US Dept.of Health and Human Services,PHS,NIH,NIH Publication No.91−3242,(1991)のKabatらの定義に従ってなされることができる。所望により、CDRはまた、Chothiaのものなどの代替の命名スキームに従って再定義され得る(Chothia&Lesk,(1987)J.Mol.Biol.196:901−917;Chothia et al.,(1989)Nature 342:878−883、またはHonegger&Pluckthun,(2001)J.Mol.Biol.309:657−670を参照されたい)。
【0048】
本開示の文脈では、抗原結合タンパク質は、解離定数(K
D)が10
−8M以下であるときに、その標的抗原に「特異的に結合する」または「選択的に結合する」と言われる。抗体は、K
Dが5×10
−9M以下であるときに「高い親和性」で、K
Dが5×10
−10M以下であるときに「非常に高い親和性」で抗原に特異的に結合する。
【0049】
「抗体」という用語は、特に指定のない限り、任意のアイソタイプもしくはサブクラスのグリコシル化及び非グリコシル化免疫グロブリンの両方、または特異的結合するためのインタクトな抗体と競合する該免疫グロブリンの抗原結合性領域に対する言及を包含する。さらに、「抗体」と言う用語は、特に指定のない限り、インタクトな免疫グロブリン、または特異的結合するためのインタクトな抗体と競合する該免疫グロブリンの抗原結合部分を指す。抗原結合部分は、組換えDNA技術によって、またはインタクトな抗体の酵素的もしくは化学的開裂によって産生することができ、目的のタンパク質の要素を形成することができる。抗原結合部分としては、ポリペプチドに特異的抗原結合を与えるのに十分である免疫グロブリンの少なくとも1つの部分を含有する、相補性決定領域(CDR)、一本鎖抗体(scFv)、キメラ抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ及びポリペプチドを含む、特に、Fab、Fab’、F(ab’)
2、Fv、ドメイン抗体(dAb)、フラグメントが含まれる。
【0050】
「抗体」という用語は、構造及び/または機能が、抗体、例えば完全長もしくは全免疫グロブリン分子の構造及び/もしくは機能に基づいており、及び/または、抗体もしくはそのフラグメントの可変重鎖(VH)及び/または可変軽鎖(VL)ドメイン由来である分子を指す。したがって、抗体構築物は、その特異的標的または抗原に結合することができる。さらに、本発明にしたがう抗体構築物の結合ドメインは、標的への結合を可能にする抗体の最小構造要件を含む。この最小要件は、例えば、少なくとも3つの軽鎖CDR(すなわち、VL領域のCDR1、CDR2及びCDR3)及び/または3つの重鎖CDR(すなわち、VH領域のCDR1、CDR2及びCDR3)、好ましくは6つのCDRのすべての存在によって定義され得る。抗体の最小構造要件を定義する代替的アプローチは、それぞれ、特定の標的の構造内の抗体のエピトープ、該エピトープ領域(エピトープクラスター)を構成する標的タンパク質のタンパク質ドメインの定義、または定義された抗体のエピトープと競合する特定の抗体を参照することによる。本発明にしたがう構築物の元になる抗体は、例えば、モノクローナル、組み換え、キメラ、脱免疫化、ヒト化及びヒト抗体を含む。
【0051】
Fabフラグメントは、V
L、V
H、C
L及びC
H1ドメインを有する一価のフラグメントであり;F(ab’)
2フラグメントは、ヒンジ領域におけるジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを有する二価のフラグメントであり;Fdフラグメントは、V
H及びC
H1ドメインを有し;Fvフラグメントは、抗体の1つのアームのV
L及びV
Hドメインを有し;dAbフラグメントは、V
Hドメイン、V
Lドメイン、またはV
HもしくはV
Lドメインの抗原結合フラグメントを有し;単離された相補性決定領域(CDR)、ならびに一本鎖Fv(scFv)(米国特許第6,846,634号、第6,696,245号、米国出願公開第05/0202512号、第04/0202995号、第04/0038291号、第04/0009507号、第03/0039958号、Ward et al.,(1989) Nature 341:544−546)。
【0052】
一本鎖抗体(scFv)は、V
L及びV
H領域がリンカー(例えば、アミノ酸残基の合成配列)を介して連結されて、連続するタンパク質鎖を形成する抗体であり、ここで、リンカーは、タンパク質鎖がそれ自体の上に折り返し、一価の抗原結合部位を形成することを可能とするのに十分な長さである(例えば、Bird et al., Science 242:423−26 (1988)及びHuston et al.,(1988), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879−83を参照されたい)。ダイアボディは、2つのポリペプチド鎖を含む二価の抗体であり、ここで、各ポリペプチド鎖は、V
H及びV
Lドメインを含み、これらは、同一鎖上の2つのドメイン同士が対形成することができないほど短いリンカーによって連結されており、したがって、各ドメインは、他方のポリペプチド鎖上の相補ドメインとの対形成が可能である(例えば、Holliger et al.,(1993), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444−48;及びPoljak et al.,(1994) Structure 2:1121−23を参照されたい)。ダイアボディの2つのポリペプチド鎖が同一である場合、それらの対形成から得られるダイアボディは、2つの同一の抗原結合部位を有することになる。異なる配列を有するポリペプチド鎖を用いて、2つの異なる抗原結合部位を有するダイアボディを生成することができる。同様に、トリアボディ及びテトラボディは、3つ及び4つのポリペプチド鎖をそれぞれ含み、それぞれ3つ及び4つの抗原結合部位を形成する抗体であり、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0053】
さらに、「抗体」という用語は、一価、二価及び多価(polyvalent/multivalent)の構築物、したがって、2つのみの抗原性構造体に特異的に結合する二重特異性構築物、ならびに別個の結合ドメインを通じて、3つ以上の抗原性構造体(例えば3つ、4つまたはそれ以上)に特異的に結合する多特異性(polyspecific/multispecific)の構築物を含む。さらに、「抗体」という用語は、1つのみのポリペプチド鎖からなる分子、及び同一(ホモ二量体、ホモ三量体もしくはホモオリゴマー)または異なる(ヘテロ二量体、ヘテロ三量体もしくはヘテロオリゴマー)のいずれかであり得る2つ以上のポリペプチド鎖からなる分子を含む。上記の特定の抗体及びその変種または誘導体の例は、特に、Harlow and Lane, Antibodies a laboratory manual, CSHL Press (1988)及びUsing Antibodies: a laboratory manual, CSHL Press (1999), Kontermann and Dubel, Antibody Engineering, Springer, 2nd ed. 2010及びLittle, Recombinant Antibodies for Immunotherapy, Cambridge University Press 2009に記載されている。
【0054】
本明細書で使用される「二重特異性」という用語は、「少なくとも二重特異性」である抗体を表す。すなわち、それは少なくとも第1の結合ドメイン及び第2の結合ドメインを含み、第1の結合ドメインが1つの抗原または標的(ここでは、標的細胞表面抗原)に結合し、第2の結合ドメインが別の抗原または標的に結合することを表す。これによると、二重特異性抗体構築物は、少なくとも2つの異なる抗原または標的に対する特異性を含む。二重特異性抗体はまた、多重特異性抗体構築物、例えば、3つの結合ドメインを含む三重特異性抗体構築物、または4つ以上(例えば、4つ、5つ・・・)の特異性を有する構築物を包含し得る。
【0055】
1つ以上のCDRを共有的にまたは非共有的に分子に組み入れて、抗原結合タンパク質を生成することができる。抗原結合タンパク質は、より長いポリペプチド鎖の一部としてCDR(複数可)を組み入れてもよく、共有的にCDR(複数可)をもう1つのポリペプチド鎖に結合してよく、または非共有的にCDR(複数可)を組み入れてもよい。CDRは、前記抗原結合タンパク質が、目的の特定の抗原と特異的に結合することを可能にする。
【0056】
抗原結合タンパク質は、1つ以上の結合部位を有することができる。2つ以上の結合部位が存在する場合、結合部位は互いに同一であっても異なっていてもよい。例えば、自然ヒト免疫グロブリンは、通常、2つの同一結合部位を有するが、「二重特異性」抗体または「二価」抗体は、2つの異なる結合部位を有する。
【0057】
明瞭にするために、本明細書に記載されているように、抗原結合タンパク質は、ヒト起源のもの(例えばヒト抗体)であり得るが、そうである必要はなく、ある場合には、非ヒトタンパク質、例えばラットまたはマウスのタンパク質を含み、他の場合では、抗原結合タンパク質は、ヒトタンパク質と非ヒトタンパク質のハイブリッド(例えば、ヒト化抗体)を含むことができることに留意されたい。
【0058】
目的のタンパク質はヒト抗体を含むことができる。「ヒト抗体」と言う用語は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する1つ以上の可変領域及び定常領域を有するすべての抗体を含む。一実施形態では、すべての可変ドメイン及び定常ドメインは、ヒト免疫グロブリン配列に由来する(完全ヒト抗体)。そうした抗体は様々な方法で調製することができ、これには、ヒト重鎖及び/または軽鎖をコードする遺伝子に由来する抗体を発現するために遺伝子改変されたマウス、例えばXenomouse(登録商標)、UltiMab(商標)またはVelocimmune(登録商標)系に由来するマウスの目的の抗原による免疫化を介することが含まれる。ファージベースのアプローチも用いることができる。
【0059】
あるいは、目的のタンパク質は、ヒト化抗体を含むことができる。「ヒト化抗体」は、1つ以上のアミノ酸の置換、欠失及び/または付加によって、非ヒト種に由来する抗体の配列と異なる配列を有し、その結果、ヒト化抗体が、ヒト対象に投与される場合に、非ヒト種抗体と比較して、免疫応答を誘導する可能性が低く、及び/またはあまり重度ではない免疫応答を誘導する。一実施形態では、ヒト化抗体を産生するために、非ヒト種抗体の重鎖及び/または軽鎖のフレームワーク及び定常ドメインにおけるある特定のアミノ酸を変異させる。他の実施形態では、ヒト抗体由来の定常ドメイン(複数可)を非ヒト種の可変ドメイン(複数可)に融合する。ヒト化抗体の作製方法の例は、米国特許第6,054,297号、第5,886,152号及び第5,877,293号に記載されている。
【0060】
「Fc」領域は、該用語が本明細書で使用される場合、抗体のC
H2及びC
H3ドメインを含む2つの重鎖フラグメントを含む。2つの重鎖フラグメントは、2つまたはそれ以上のジスルフィド結合によって、及びC
H3ドメインの疎水性相互作用によって互いに結合している。抗原結合タンパク質及びFc融合タンパク質を含めた、Fc領域を含む目的のタンパク質は、本開示の別の態様を形成する。
【0061】
「ヘミボディ」は、1つの完全な重鎖、1つの完全な軽鎖及び完全な重鎖のFc領域と対になった1つの第2重鎖Fc領域を含む、免疫学的に機能的な免疫グロブリン構築物である。必ずしも必要ではないが、重鎖Fc領域と第2の重鎖Fc領域を結合させるためにリンカーを用いることができる。特定の実施形態では、ヘミボディは、本明細書で開示される抗原結合タンパク質の一価の形態である。他の実施形態では、荷電残基の対を用いて、1つのFc領域を第2のFc領域と会合させることができる。本開示の文脈において、ヘミボディは目的のタンパク質でもよい。
【0062】
「宿主細胞」という用語は、商業的または科学的に関心のあるポリペプチドを発現するように遺伝子操作された細胞を意味する。細胞株の遺伝子操作は、細胞を組換えポリヌクレオチド分子(「目的の遺伝子」)をコードする核酸でトランスフェクト、形質転換、もしくは形質導入すること、及び/または、宿主細胞に所望の組換えポリペプチドを発現させるように、別の方法で(例えば、相同組換え及び遺伝子活性化または組換え細胞と非組換え細胞の融合によって)改変させることを含む。細胞及び/または細胞株を遺伝子操作して目的のポリペプチドを発現するための方法及びベクターは、当業者に周知であり、例えば、種々の技法は、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel et al., eds. (Wiley & Sons, New York, 1988, and quarterly updates);Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Laboratory Press, 1989);Kaufman, R.J., Large Scale Mammalian Cell Culture, 1990, pp. 15−69.において説明されている。該用語は、後代が形態または遺伝子構成において元の親細胞と同一であるか否かに関わらず、目的の遺伝子が存在さえすれば、親細胞の後代を含む。細胞培養は、1つ以上の宿主細胞を含むことができる。
【0063】
「ハイブリドーマ」という用語は、不死化細胞と抗体産生細胞の融合により生じる細胞または細胞の後代を意味する。生じたハイブリドーマは、抗体を産生する不死化細胞である。ハイブリドーマを作製するのに使用される個々の細胞は、これらに限定されないが、ハムスター、ラット、ブタ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ及びヒトを含む、任意の哺乳類の供給原由来であり得る。該用語は、ヒト細胞とマウス骨髄腫細胞株との融合産物であるヘテロハイブリッド骨髄腫融合体の後代が、続いて形質細胞と融合する場合に生じるトリオーマ細胞株も包含する。該用語は、抗体を産生する任意の不死化ハイブリッド細胞株、例えばクアドローマ(例えば、Milstein et al.,(1983)Nature,537:3053を参照されたい)を包含することを意図する。
【0064】
「培養」及び「細胞培養」という用語は互換的に使用され、細胞集団の生存及び/または増殖に適した条件下において、培地中で維持される細胞集団を指す。当業者に明らかであるように、これらの用語は、細胞集団とこの集団が懸濁している培地とを含む組み合わせも指す。
【0065】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、(例えば、目的のタンパク質または目的のポリペプチドに関連して使用される場合)本明細書で互換的に使用され、アミノ酸残基のポリマーを指す。該用語は、1つ以上のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の類似体または模倣物であるアミノ酸ポリマー、及び天然に存在するアミノ酸ポリマーにも適用される。該用語はまた、例えば、炭水化物残基の付加によって糖タンパク質を形成するなどの修飾を受けた、またはリン酸化されたアミノ酸ポリマーも包含し得る。ポリペプチド及びタンパク質は、天然に存在する非組換え細胞によって産生することができ、またはポリペプチド及びタンパク質は、遺伝子操作されたもしくは組換え細胞によって産生することができる。ポリペプチド及びタンパク質は、天然のタンパク質のアミノ酸配列を有する分子、または天然配列の1つ以上のアミノ酸からの欠失、該アミノ酸への付加、及び/もしくは該アミノ酸の置換を有する分子を含むことができる。
【0066】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、天然に存在するアミノ酸のみを含む分子及び天然に存在しないアミノ酸を含む分子を包含する。天然に存在しないアミノ酸(これは、所望により、本明細書に開示される任意の配列に見られる、任意の天然に存在するアミノ酸を置換することができる)の例には、以下が含まれる(がこれらに限定されない):4−ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、ε−N,N,N−トリメチルリジン、ε−N−アセチルリジン、O−ホスホセリン、N−アセチルセリン、N−ホルミルメチオニン、3−メチルヒスチジン、5−ヒドロキシリジン、σ−N−メチルアルギニン、ならびに他の同様のアミノ酸及びイミノ酸(例えば、4−ヒドロキシプロリン)。本明細書で使用されるポリペプチド表示法では、標準的な用法及び慣例に従って、左側方向がアミノ末端方向であり、右側方向がカルボキシル末端方向である。
【0067】
「細胞培養」または「培養」とは、多細胞生物または組織の外での細胞の成長及び増殖を意味する。哺乳類細胞に適切な培養条件は当技術分野で既知である。例えば、Animal cell culture:A Practical Approach,D.Rickwood,ed.,Oxford University Press,New York(1992)を参照されたい。哺乳類細胞を、懸濁液中で、または固体基質に結合させたままで培養してもよい。流動床バイオリアクター、中空糸バイオリアクター、ローラボトル、振とうフラスコまたは撹拌槽バイオリアクターを、マイクロキャリアの有無に関わらず、使用することができる。一実施形態では、500L〜2000Lのバイオリアクターが使用される。一実施形態では、1000L〜2000Lのバイオリアクターが使用される。
【0068】
「細胞培養培地(cell culturing medium)」(「培養培地」、「細胞培養培地(cell culture media)、「組織培養培地」とも呼ばれる)という用語は、細胞、例えば動物または哺乳類細胞を増殖させるために使用され、且つ一般に、以下の少なくとも1つ以上の成分を提供する、任意の栄養液を指す:エネルギー源(通常、グルコースなどの炭水化物の形態);全必須アミノ酸の1つ以上、及び一般に20種の基礎アミノ酸とシステイン;典型的には低濃度で必要とされるビタミン及び/または他の有機化合物;脂質または遊離脂肪酸;ならびに通常マイクロモル範囲の非常に低濃度で典型的には必要とされる微量元素、例えば無機化合物または天然に存在する元素。
【0069】
培養される細胞の要件、及び/または所望の細胞培養パラメーターに応じて、細胞増殖を最適化するために、任意に、さらなる任意の成分で栄養液を補充してもよく、さらなる任意の成分は、例えば、ホルモン及び他の成長因子、例えば、インスリン、トランスフェリン、上皮成長因子、血清など;塩、例えば、カルシウム、マグネシウム及びリン酸塩、ならびに緩衝液、例えばHEPES;ヌクレオシド及び塩基、例えば、アデノシン、チミジン、ヒポキサンチン;ならびに、タンパク質及び組織の加水分解産物、例えば、加水分解した動物タンパク質または植物タンパク質(動物副産物、精製ゼラチンまたは植物材料から得ることができる、ペプトンまたはペプトン混合物);抗生物質、例えばゲンタマイシン;細胞保護剤または界面活性剤、例えばPluronic(登録商標)F68(Lutrol(登録商標)F68及びKolliphor(登録商標)P188とも称される);ポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の2つの親水性鎖に隣接するポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の中心的な疎水性鎖から構成される、非イオン性のトリブロックコポリマー;ポリアミン、例えば、プトレシン、スペルミジン及びスペルミン(例えば、WIPO公開第WO2008/154014号を参照されたい)及びピルビン酸(例えば、米国特許第8053238号を参照されたい)である。
【0070】
細胞培養培地は、これらに限定されないが、細胞の、バッチ、拡大バッチ、流加バッチ及び/もしくは灌流、または連続培養などの、任意の細胞培養プロセスにおいて典型的に使用されるか、及び/または使用されると知られているものを含む。
【0071】
「基礎」(またはバッチ)細胞培養培地は、典型的には細胞培養を開始するのに使用され、細胞培養を支持するのに十分に完全である、細胞培養培地を指す。
【0072】
「増殖」細胞培養培地は、指数関数的増殖、すなわち「増殖フェーズ」の間に細胞培養で典型的に使用され、このフェーズの間の細胞培養を支持するのに十分に完全である、細胞培養培地を指す。増殖細胞培養培地は、宿主細胞株に組み込まれた選択マーカーに対する耐性または生存を付与する選択剤を含んでもよい。そのような選択剤としては、限定されないが、ジェネティシン(G4118)、ネオマイシン、ハイグロマイシンB、ピューロマイシン、ゼオシン、メチオニンスルホキシイミン、メトトレキサート、グルタミン不含細胞培養培地、グリシン不含細胞培養培地、ヒポキサンチン及びチミジン不含細胞培養培地、またはチミジンのみを不含の細胞培養培地が含まれる。
【0073】
「産生」細胞培養培地は、指数関数的増殖が終わり、タンパク質産生が優勢になる移行期、すなわち「移行」及び/または「産物」フェーズ中の細胞培養で典型的に使用され、このフェーズ中の所望の細胞密度、生存率及び/または産物力価を維持するのに十分に完全である、細胞培養培地を指す。
【0074】
「灌流」細胞培養培地は、灌流または連続的な培養方法によって維持される細胞培養で典型的に使用され、このプロセスの間の細胞培養を支持するのに十分に完全である、細胞培養培地を指す。灌流細胞培養培地配合物は、使用済み培地を除去するのに使用される方法に適応させるために、基礎細胞培養培地配合物よりも富化または濃縮していてよい。灌流細胞培養培地は、増殖フェーズ中と産生フェーズ中の両方で使用することができる。
【0075】
濃縮細胞培養培地は、細胞培養を維持するのに必要な栄養素のいくつかまたはすべてを含むことができ;特に、濃縮培地は、細胞培養の産生フェーズの過程において消費されると同定さているか、またはそのことが公知である栄養素を含むことができる。濃縮培地は、ほとんどどんな細胞培養培地配合物にも基づき得る。かかる濃縮供給培地は、細胞培養培地の成分のいくつかまたはすべてを、例えば、それらの通常量の約2×、3×、4×、5×、6×、7×、8×、9×、10×、12×、14×、16×、20×、30×、50×、100×、200×、400×、600×、800×またはさらに約1000×で含むことができる。
【0076】
細胞培養培地を調製するのに使用される成分は、粉末培地配合物に完全に粉砕されてもよく;必要に応じて細胞培養培地に加えられた液体補充物とともに部分的に粉砕されてもよく;または完全な液体形態で細胞培養に加えられてもよい。
【0077】
細胞培養には、配合が困難であり得るか、または細胞培養において急速に枯渇する特定の栄養素の独立した濃縮供給物を補充することもできる。かかる栄養素は、アミノ酸、例えばチロシン、システイン及び/またはシスチンであり得る(例えば、WIPO公開第2012/145682号を参照されたい)。一実施形態では、細胞培養におけるチロシン濃度が8mMを超えないように、チロシン濃縮液が、チロシンを含む細胞培養培地で増殖する細胞培養に独立して供給される。他の実施形態では、チロシン及びシスチンの濃縮液が、チロシン、シスチンまたはシステイン不含の細胞培養培地で増殖する細胞培養に独立して供給される。独立した供給は、産生フェーズより前に、または産生フェーズの開始時に始めることができる。独立した供給は、同じまたは別の日に細胞培養培地への流加バッチによって、濃縮供給培地として実現可能であり得る。独立した供給は、同じまたは別の日に灌流培地として灌流することもできる。
【0078】
「無血清」は、動物血清、例えばウシ胎児血清を含まない細胞培養培地に適用する。規定された培養培地を含む種々の組織培養培地が市販されており、例えば、以下の細胞培養培地のいずれか1つまたはそれらの組み合わせを使用することができる:数ある中で、RPMI−1640培地、RPMI−1641培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、イーグル最小必須培地、F−12K培地、ハムF12培地、イスコフ改変ダルベッコ培地、マッコイ5A培地、ライボビッツL−15培地及び無血清培地、例えばEX−CELL(商標)300シリーズ(JRH Biosciences,Lenexa,Kansas)。かかる培養培地の無血清バージョンも利用可能である。培養される細胞の要件及び/または所望の細胞培養パラメーターに応じて、細胞培養培地を追加的なまたは増加した濃度の成分、例えば、アミノ酸、塩、糖、ビタミン、ホルモン、成長因子、緩衝液、抗生物質、脂質、微量元素などで補充してもよい。
【0079】
「バイオリアクター」という用語は、細胞培養物の増殖に有用な任意の容器を意味する。本開示の細胞培養物はバイオリアクター中で増殖することができ、該バイオリアクターは、バイオリアクター中で増殖する細胞によって産生される目的のタンパク質の用途に基づいて選択することができる。バイオリアクターは、細胞の培養に有用である限り、いかなるサイズのものでもよく;典型的には、バイオリアクターは、その内部で増殖する細胞培養の容積に適したサイズに設定される。典型的には、バイオリアクターは少なくとも1リットルであり、2、5、10、50、100、200、250、500、1,000、1500、2000、2,500、5,000、8,000、10,000、12,000リットル、もしくはそれ以上、またはその間の任意の容積でもよい。pH及び温度(これらに限定されない)を含むバイオリアクターの内部条件は、培養期間の間、制御することができる。当業者なら、関連する考慮事項に基づいて、本発明の実施において使用するための適切なバイオリアクターを認識し、選択することができるであろう。
【0080】
「細胞密度」は、所与の容積の培養培地中の細胞の数を指す。「生細胞密度」は、標準的な生存率アッセイ(トリパンブルー色素排除法など)によって決定される、所与の容積の培養培地中の生きている細胞の数を指す。
【0081】
「細胞生存率」という用語は、培養中の細胞が、所与の一連の培養条件下または実験変動下で生存する能力を意味する。該用語は、さらに特定の期間の培養における生細胞及び死細胞の総数に対する、その特定の期間に生きている細胞の割合も指す。
【0082】
「血球容積パーセント」(%PCV)とも称される「血球容積」(PCV)という用語は、細胞培養液の全容積に対する、細胞によって占められている容積の比であり、パーセンテージとして表される(Stettler, et al., (2006) Biotechnol Bioeng. Dec 20:95(6):1228−33を参照されたい)。血球容積は、細胞密度及び細胞直径の関数であり;血球容積の増大は、細胞密度もしくは細胞直径のいずれか、またはそれらの両方の増大から生じ得る。血球容積は、細胞培養液中の固形物含量の尺度である。固形物は、回収及び下流の精製の間に除去される。固形物が多いほど、回収及び下流の精製ステップの間に、所望の産物から固形物質を分離する手間が多くなる。さらに、所望の産物が固形物中にトラップされ、回収プロセスの間に失われる可能性があり、その結果、産物の収量が低下し得る。宿主細胞はサイズが異なり、細胞培養液には死細胞及び死にかけている細胞、ならびに他の細胞残屑も含まれるため、血球容積は、細胞培養液内の固形物含量を説明するための、細胞密度または生細胞密度よりも正確な方法である。例えば、50×10
6細胞/mlの細胞密度を有する2000Lの培養液は、細胞サイズに応じて非常に異なる血球容積を有するであろう。さらに、細胞の中には、増殖停止状態にある場合にサイズが増大するものもあり、そのため、増殖停止前と増殖停止後の血球容積は、細胞サイズの増大によりバイオマスが増大することが原因で、異なる可能性がある。
【0083】
「細胞増殖停止」とも称され得る「増殖停止」は、細胞が数を増加させるのを止めるポイント、または細胞周期がもはや進行しないポイントである。増殖停止は、細胞培養液の生細胞密度を決定することによりモニターすることができる。増殖停止状態の細胞の中には、サイズを増大させることができるが、数を増加させることができないものもあり、そのため、増殖停止した培養液の血球容積は増大し得る。増殖停止は、細胞が健常性を低下していない状態である場合、増殖停止をもたらす条件を回復させることによって、ある程度回復させることができる。
【0084】
「力価」という用語は、所与の量の培地容積における細胞培養によって産生される目的のポリペプチドまたはタンパク質(これは、天然に存在する目的のタンパク質または組換えタンパク質でもよい)の総量を意味する。力価は、1ミリリットル(または容積の他の尺度)の培地当たりのミリグラムまたはマイクログラムのポリペプチドまたはタンパク質の単位で表すことができる。「累積力価」は、培養の過程において細胞によって産生される力価であり、例えば、毎日の力価を測定し、その値を使用して累積力価を計算することによって、決定することができる。
【0085】
「流加バッチ培養」という用語は、懸濁培養の形態を指し、培養プロセス開始後に一度または複数回、追加成分が培養液に提供される細胞培養方法を意味する。前記提供成分は、典型的には、培養プロセスの間に枯渇した、細胞のための栄養補充物を含む。これに加えてまたはこれに代えて、前記追加成分は、補充成分(例えば細胞周期阻害化合物)を含み得る。流加バッチ培養は、典型的にはあるポイントで止められ、培地中の細胞及び/または成分が回収され、任意に精製される。
【0086】
「積算生細胞密度」または「IVCD」という用語は互換的に使用され、培養過程にわたる生細胞の平均密度に、培養が実施された時間量を掛け合わせたものを意味する。
【0087】
「累積生細胞密度」(CVCD)は、2つの時点間の平均生細胞密度(VCD)を、これら2つの時点間の時間幅で乗じることによって計算される。CVCDは、VCD対時間をプロットすることによって形成される曲線下面積である。
【0088】
本発明は、2ベクターシステムを用いて、抗体などのヘテロマータンパク質をコードする発現構築物を直接選択するための遺伝子内相補性となり得る選択マーカーを利用する。「遺伝子内相補性」は、それぞれが同じ遺伝子座内で異なる欠陥を有する遺伝物質(すなわち、核酸)の断片間の相補性を指す。該遺伝物質によってコードされる個々のタンパク質は欠損があり、非機能性であるが、2つの個々の欠陥タンパク質が会合して活性タンパク質を形成し得る。個々の欠陥タンパク質が会合して活性を示すことができる場合、個々の欠陥タンパク質は「相補的」と言われる。複数の同一のサブユニットから構成される選択マーカータンパク質(例えばGS)については、変異サブユニットが相補的である場合に遺伝子内相補性が起こり得る。
【0089】
「遺伝子内相補性」は、会合し、活性タンパク質を形成する遺伝物質によってコードされた個々のタンパク質のフラグメント間でも起こり得る。本明細書で記載のとおり、高等真核生物における成熟GS酵素は、2つの五量体環からなる十量体複合体として存在する。本発明は、GSの遺伝子内相補性が、組換えタンパク質を発現する細胞株の生成のための選択システムの一部として成功裏に使用できることを示す。グルタミンシンセターゼが欠損するように遺伝子改変されたCHO細胞において、組換え抗体を高レベルで発現するシステムの使用。
【0090】
遺伝物質によってコードされる個々のタンパク質は、コードする核酸中に1つ以上の変異を導入することによって欠損及び非機能性になり、この変異(複数可)が、タンパク質の構造を十分に変化させ、非機能性にする。1つのまたは複数の変異は、分子生物学の分野で既知の任意の方法によって導入してよい。あるいは、欠損があり非機能性になったタンパク質フラグメントを使用してもよい。このような場合、2つのタンパク質フラグメントは、遺伝子内相補性によって会合し、活性タンパク質を形成し得る。
【0091】
ポリペプチド及び選択マーカーの変異サブユニットをコードする核酸分子が構築され、変異サブユニットの発現がポリペプチドの発現と相関するように配置される。これにより、相補的変異サブユニットをコードする核酸分子が細胞に導入され、選択的条件が適用される場合に、ほぼ等しく高レベルの各相補的変異サブユニットの発現によって、最高の選択活性が付与され得る。加えて、作動可能に連結されたポリペプチドは、ほぼ等しく多量で発現し、これにより、等しく高レベルの所望のポリペプチドを発現する細胞の選択が最適化される。
【0092】
本発明の一実施形態では、前記選択マーカーは、グルタミンシンセターゼ(GS)であり、その活性部位は、GSの2つのサブユニットの結合部に位置しているので、相補的で機能的に欠損した変異サブユニットの共発現は、いくつかのインタクトな機能的活性部位をもたらすはずである。個々の変異サブユニットは、単独では顕著な選択活性を持たず、それらの相補的変異サブユニットと共発現する場合に選択活性を付与する。サブユニットの最適な活性は、それらの相互作用に依存し得るため、相互作用ドメインによって促進することができる。かかる相互作用ドメインは、該サブユニットに内在性のものであり得るか、あるいは該サブユニットと非相同のものであり得る。本発明で有用なさらなる選択マーカーとしては、相補的変異を同定することができるアルギノコハク酸リアーゼ、アデニロコハク酸シンセターゼ及びグルタミン酸デヒドロゲナーゼが含まれる。例えば、アルギニノコハク酸リアーゼ変異による遺伝子内相補性は、アルギニンの非存在下での増殖によって確認することができ、アデニロコハク酸シンセターゼ変異による遺伝子内相補性は、アデノシン非存在下での増殖によって確認することができる。
【0093】
非限定的な一実施形態では、本発明は、選択マーカーの2つのフラグメントの使用を必要とし、そのそれぞれは、相互作用ドメインとの融合タンパク質として発現され得る。発現した場合、該相互作用ドメインが、2つのフラグメントの会合または二量体化を促進し、それによりサブユニットが機能することを可能にし、選択活性を付与する(例えば、Pelletier et al. (1998), Proc. Natl. Acad. Sci., 95:12141−12146に記載されているが、これに限定されるものではない)。適切な選択マーカーとしては、上述のGS及び他の選択マーカー、ならびに本明細書中に開示されるように、通常毒性である特定の薬剤に対する耐性を付与するものなどの選択マーカー、ならびに所定の条件下で細胞を生存させるかまたは細胞死を誘導する代謝酵素が含まれる。
【0094】
「相互作用ドメイン」は、2つまたはそれ以上の相同または非相同ポリペプチドの相互作用または会合を促進可能なポリペプチドを含む(これらに限定されるわけではない)ドメインである。一実施形態では、該相互作用ドメインは二量体化ドメインである。二量体化ドメインは、2つのポリペプチドの相互作用または会合を誘導可能なポリペプチドであり得る。2つのタイプの二量体が存在し、ホモ二量体(同じ配列を有する)またはヘテロ二量体(別の配列を有する)を形成可能である。
【0095】
1つの非限定的な例示的実施形態では、該相互作用ドメインはロイシンジッパーコイルドコイルポリペプチドである。ロイシンジッパーは、典型的には、特徴的な7残基の反復を含有し、該反復の第1及び第4残基に疎水性残基を有する約35アミノ酸を含む(Harbury et al. (1993), Science 262:1401)。したがって、ロイシンジッパーは、ポリペプチドのオリゴマー化を目的とする場合、ポリペプチドとの融合に適している。ロイシンジッパーは低分子であるため、ポリペプチドの正常な機能を破壊する可能性が、より大きな相互作用ドメインよりも低いからである。ロイシンジッパーの例には、GCN4、C/EBP、c−Fos、c−Jun、c−Myc及びc−Maxのようなポリペプチドに由来するロイシンジッパードメインが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0096】
二量体化ドメインの更なる例には、ヘリックス−ループ−ヘリックスドメイン(Murre et al. (1989), Cell 58:537−544)が含まれる。レチノイン酸受容体、甲状腺ホルモン受容体、他の核内ホルモン受容体(Kurokawa et al. (1993), Genes Dev. 7:1423−1435)、ならびに酵母転写因子GAL4及びHAP1(Marmonstein et al. (1992), Nature 356:408−414;Zhang et al. (1993), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2851−2855;米国特許第5,624,818号)はすべて、このモチーフを有する二量体化ドメインを有する。
【0097】
さらに別の実施形態では、該相互作用ドメインは四量体化ドメインであり、これは、3つの他の四量体化ドメインに結合して四量体複合体を形成することができるポリペプチドである。四量体化ドメインを含有するタンパク質の例には、E.coliラクトースリプレッサー(amino acids 46−360;Chakerian et al. (1991), J. Biol. Chem. 266:1371;Alberti et al. (1993), EMBO J. 12:3227;及びLewis et al. (1996), Nature 271:1247)、及び残基322−355のp53四量体化ドメイン(Clore et al. (1994), Science 265:386;Harbury et al. (1993), Science 262:1401;米国特許第5,573,925号)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0098】
もう1つの実施形態では、本発明は、3つの選択マーカーサブユニット(それぞれ相互作用ドメインとの融合タンパク質として発現され、それにより会合を促進して選択活性を付与する)の使用を含む。本実施形態では、ヘテロマー複合体の3つの構成要素が存在する。発現ベクター(複数可)では、それぞれのコード配列は、選択マーカーの各サブユニットのコード配列に作動可能に連結される。例えば、1つの重鎖と2つの異なる軽鎖とを発現する二重特異性抗体であり、ここで、それらの2つの軽鎖は共に該重鎖に会合可能である。本発明はまた、4つまたはさらにはそれ以上のサブユニットを有する公知のまたは未だ開示されていない選択マーカーの使用を包含する。
【0099】
本発明はまた、3つ以上のサブユニット、例えば本明細書ですでに記載したものを含むヘテロ多量体(またはヘテロオリゴマー)タンパク質を調製するのに有用であり得る。これには、二重特異性抗体、及び当技術分野で既知の他のヘテロ多量体タンパク質が含まれる。例えば、二重特異性抗体は、第一の抗体から重鎖及び軽鎖を発現させる本明細書に記載の遺伝子内相補性が可能な第一の選択マーカー(例えば、GS)、及び分割代謝酵素もしくは耐性マーカーなどの異なる選択マーカー、または二重特異性抗体を形成するために第一の抗体と会合可能な第二の抗体の重鎖及び軽鎖を発現させる、第一の選択マーカーとは異なる且つ遺伝子内相補性が可能な第二の選択マーカーを用いて発現させることができる。
【0100】
あるいは、本明細書に記載の遺伝子内相補性が可能な第一の選択マーカー(例えば、GS)を用いて、二重特異性抗体の2つの異なる重鎖(該重鎖は互いに会合することができる)を発現させることができる。次いで、前記軽鎖は、異なる選択マーカーを用いて発現させることができる。いくつかの事例では、前記軽鎖は、二重特異性抗体の両アームに対して同一であり得、単一の選択マーカー(代謝酵素もしくは耐性マーカー、または選択マーカーの他の形態)が該軽鎖の発現に使用可能であることを示す。あるいは、異なる軽鎖が二重特異性抗体の異なるそれぞれの重鎖と会合してもよく、この場合、分割代謝酵素もしくは耐性マーカーなどの異なる選択マーカー、または第一の選択マーカーとは異なる且つ遺伝子内相補性が可能な第二の選択マーカーが、第一及び第二の軽鎖を発現するために用いられる。
【0101】
以下の実施例に示すように、本発明の方法及び組成物は、高レベルのヘテロ多量体タンパク質を発現する所望の細胞を選択するのに要する時間を短縮することが見出された。よって、さらに別の実施形態では、本発明は、高レベルの組換えポリペプチド、特にヘテロ多量体ポリペプチドを発現する細胞の選択を包含する。さらに、本発明は、細胞培養プロセスによるヘテロマー複合体の産生の改善に特に有用である。
【0102】
ある実施形態では、変異マーカーサブユニットをコードする核酸を、リンカーをコードする核酸にインフレームで融合させ、次いで、相互作用ドメインをコードする核酸にインフレームで融合させる。リンカーは、該相互作用ドメインが相互作用し、該サブユニットが機能して選択活性を付与するのを可能にする任意の比較的短く柔軟な配列を含むことができる。リンカーの例は、関連技術分野では豊富にあり、GGPGG、GPGGGを含むことができ、一文字のアミノ酸コードでは、Gはグリシンであり、Pはプロリンである。一実施形態では、該リンカーは、例えばCurtis et al.(1991;Proc Natl Acad Sci 88(13):5809−5813)によって記載された一連のグリシン及びセリン残基である。
【0103】
一実施形態では、2つの相補的変異サブユニットは、2つのベクターから発現し、第一のベクターは第一のポリペプチドをコードする第一の核酸を含み、該第一の核酸は選択マーカーの変異サブユニットをコードする第二の核酸に作動可能に連結される。第二のベクターは、第一の核酸によってコードされる第一のポリペプチドと会合することができるポリペプチドをコードする第三の核酸を含み、該第三の核酸は、前記選択マーカーの相補的変異サブユニットをコードする第四の核酸に作動可能に連結される。かくして、両方のベクターが同時に細胞集団に導入され、遺伝子内相補性の選択が適用される。
【0104】
他の実施形態では、2つの相補的フラグメントが2つのベクターから発現し、第一のベクターは第一のポリペプチドをコードする第一の核酸を含み、該第一の核酸は選択マーカーのフラグメントをコードする第二の核酸に作動可能に連結される。第二のベクターは、第一の核酸によってコードされる第一のポリペプチドと会合することができるポリペプチドをコードする第三の核酸を含み、該第三の核酸は、前記選択マーカーの相補的フラグメントをコードする第四の核酸に作動可能に連結される。かくして、両方のベクターが同時に細胞集団に導入され、遺伝子内相補性の選択が適用される。
【0105】
例えば、抗体を発現するための2ベクターシステムは、該抗体の1つの鎖をコードする第一の核酸を含む第一のベクターを調製することによって構築され、該第一の核酸は、mutGS−NTをコードする第二の核酸に作動可能に連結される。第二のベクターは、前記抗体の他方の鎖をコードする第三の核酸を含み、該第三の核酸は、mutGS−CTをコードする第四の核酸に作動可能に連結される。したがって、一実施形態では、前記第一の核酸が免疫グロブリン重鎖をコードし、前記第三の核酸が免疫グロブリン軽鎖をコードする。あるいは、前記第一の核酸が免疫グロブリン軽鎖をコードし、前記第三の核酸が免疫グロブリン重鎖をコードする。
【0106】
他の実施形態では、2つの相補的フラグメントは、2つのベクターから発現し、第一のベクターは第一のポリペプチドをコードする第一の核酸を含み、該第一の核酸は選択マーカーのフラグメントをコードする第二の核酸に作動可能に連結される。第二のベクターは、第一の核酸によってコードされる第一のポリペプチドと会合することができるポリペプチドをコードする第三の核酸を含み、該第三の核酸は、前記選択マーカーの相補的フラグメントをコードする第四の核酸に作動可能に連結される。かくして、両方のベクターが同時に細胞集団に導入され、遺伝子内相補性の選択が適用される。
【0107】
このような場合、抗体を発現するための2ベクターシステムは、該抗体の1つの鎖をコードする第一の核酸を含む第一のベクターを調製することによって構築され、該第一の核酸は、N末端グルタミンシンセターゼフラグメントをコードする第二の核酸に作動可能に連結される。第二のベクターは、前記抗体の他方の鎖をコードする第三の核酸を含み、該第三の核酸は、C末端グルタミンシンセターゼフラグメントをコードする第四の核酸に作動可能に連結される。したがって、一実施形態では、前記第一の核酸が免疫グロブリン重鎖をコードし、前記第三の核酸が免疫グロブリン軽鎖をコードする。あるいは、前記第一の核酸が免疫グロブリン軽鎖をコードし、前記第三の核酸が免疫グロブリン重鎖をコードする。
【0108】
さらなる実施形態では、mutGSサブユニットの一方または両方の発現を可能にする1つ以上のIRESの使用を含む。「IRES」は、本発明の文脈において、内部部位(すなわち、mRNAの5’末端以外の部位)からmRNAの翻訳の開始を促進する配列内リボソーム進入部位を意味する。
【0109】
好適なIRESの一例は、Jang and Wimmer Genes&Development 4 1560(1990)及びJang、Davies,Kaufman and Wimmer J. Vir.63 1651(1989)に記載のように、脳心筋炎ウイルス(ECMV)のIRESである。EMCVの残基335〜848は、適切なIRESを形成する;ECMV IRESの他の変異体または部分は既知であり、本発明での使用に適しているであろう。IRESの好適な部分または変異体は、第二のオープンリーディングフレーム(ORF)の十分な翻訳をもたらすものであり得る。
【0110】
さらに、IRESの3’末端は、翻訳効率を低下させるために改変(または変異)してもよく、それにより選択及び/または増幅方法を向上するための手段を提供する。例えば、効率的な選択及び増幅を可能にするために、すでに示された配列を用いることにより、IRESの効率を低下させることができる(Aldrich et al., Biotechnol Prog 19,1433;2003)。代替的な配列は既知であるか、または当業者によって決定することができる。
【0111】
他の実施形態では、本発明は、選択マーカーのサブユニット及びヘテロマー複合体のポリペプチドに加えて、異なる機能的選択マーカーをコードする核酸をさらに含む。本明細書の目的では、「異なる機能的選択マーカー」は、遺伝子内相補性が可能な選択マーカーの変異サブユニットではなく、異なる選択活性を有するタンパク質である。ミコフェノール酸などに対する耐性を付与する、ゼオマイシン、ネオマイシン、ピューロマイシン、ブラストサイジンS、またはGPTのような周知のマーカーを、異なる機能的選択マーカーとして使用することができる。さらに、遺伝子内相補性が可能な異なる選択マーカーの相補的変異体も使用することができる。
【0112】
本実施形態では、本発明は、2つのベクターを含み、各ベクターは、選択マーカーの少なくとも1つの変異サブユニットをコードする第二の核酸に作動可能に連結された、ヘテロマー複合体を形成可能なポリペプチドをコードする第一の核酸、及び異なる機能的選択マーカーをコードする核酸を含む。さらに、各ベクターの第一の核酸によってコードされるそれぞれのポリペプチドは、会合して複合体を形成することができ、各ベクターの第二の核酸によってコードされるサブユニット(複数可)は、会合して選択活性を付与することが可能であり、第三の核酸によってコードされるポリペプチドは、第二の核酸によってコードされるサブユニットの選択活性とは異なる選択活性を付与する。
【0113】
例えば、第一のベクターがネオマイシンに対する耐性をコードし、第二のベクターがゼオマイシンに対する耐性をコードすることが可能であり、あるいは、一方のベクターだけが追加的な異なる機能的選択マーカーを含有することが可能である。したがって、1つのベクターを細胞株内にトランスフェクトし、選択が適用される(すなわち、薬剤G418をネイマイシン耐性細胞に加える)。選択後、通常の方法(例えば、PCR、サザンブロット、ELISA、ウエスタンブロットなど)により、該ベクターの存在、及び該ベクターの核酸によってコードされるポリペプチドの発現レベルを測定することが可能である。高レベルの発現が得られると、第二のベクターが前記細胞株にトランスフェクトされる。第一のベクターのための選択を維持しながら、第二の選択マーカー(すなわち、ゼオマイシン耐性)のための選択を適用し、前記第二のベクターの存在、及びそれぞれのベクターがコードするタンパク質の存在を評価する。本実施形態では、両方のベクターが存在することを確認すると、細胞内で会合しているサブユニットを発現するための選択を適用し、上記の選択活性を付与する。
【0114】
もう1つの実施形態では、独立した選択活性をコードする本発明の両方の核酸を同時にトランスフェクトし、同時に選択を適用する。両方のベクターが存在することを確認すると、細胞内で会合しているサブユニットを発現するための選択を適用し、上述の選択活性を付与する。
【0115】
さらに別の実施形態では、独立した選択活性をコードする本発明のベクターは、それぞれ別々の細胞株内にトランスフェクトされる。選択が適用され、それぞれ所望のベクターによってコードされる高レベルのタンパク質を発現するクローンを同定すると、前記細胞を、Horiら(米国特許第5,916,771号)に記載のとおりに融合させる。融合が完了すると、該サブユニットにより付与される選択活性のための選択を適用する。
【0116】
さらに別の実施形態では、独立した選択活性を場合によって含有していない本発明の核酸は、第三のベクターと同時にトランスフェクトされる。第三のベクターは、成功裏にトランスフェクトされた細胞の予備選択を可能にすることができる、例えばネオマイシン耐性またはベータガラクトシダーゼなどの別個の選択活性をコードする。この予備選択を行うと、変異サブユニットの選択活性のための選択を適用することができる。本実施形態では、等量の2つの発現ベクターをトランスフェクトする一方で、第三のベクターを最初の2つのベクターの3分の1の濃度(例えば、3:3:1または6:6:1などの比率)でトランスフェクトする。当業者は、該比率の変更は本発明の範囲内であると認識するであろう。
【0117】
所望のヘテロマー複合体の構成要素をコードする核酸は、当技術分野で既知の方法により、cDNAまたはゲノムDNAとして得ることができる。例えば、所望の構成要素をコードするメッセンジャーRNAは、RNA単離の標準技術、及びポリA mRNAを分離するためのオリゴ−dTセルロースクロマトグラフィーの使用によって適切な供給源から単離することができる。発現する前記ヘテロマー複合体が抗体である場合、所望の核酸の好適な供給源は、成熟B細胞またはハイブリドーマ培養液から単離することができる。加えて、本発明で使用する核酸は化学合成により得ることができる。
【0118】
前記ヘテロマー複合体の所望の構成要素をコードする核酸に加えて、ベクター構築物は、原核細胞及び/または真核細胞内での複製、真核染色体内への該構築物の組込みを促進するための追加の成分、ならびに該構築物を含有する細胞の選択及び/またはスクリーニングを補助するマーカーを含むことができる。本発明のベクターは、所望の核酸を細胞に挿入するプラスミド、ファージ、ファージミド、コスミド、ウイルス、レトロウイルスなどを含むがこれらに限定されない組換えDNAベクターである。
【0119】
核酸は、それが別の核酸に対して機能的関係で配置されている場合、「作動可能に連結」されている。より具体的には、作動可能に連結されるとは、異なるポリペプチドをコードする2つの異なる核酸が、同時に転写誘導されることを意味する。また、作動可能に連結されるとは、連結されている核酸が単一の転写ユニットにおいて連続的であり得るが、1つ以上のリボソーム開始部位(例えば、配列内リボソーム進入部位)から翻訳が指令されることを意味すると意図される。2つの異なるポリペプチドをコードする作動可能に連結された転写ユニットは、「バイシストロニック転写物」と呼ばれる。
【0120】
また、本発明の方法は、組換えタンパク質の産生を誘導する既知の、またはまだ開発されていない方法と組合せて使用することができる。「誘導条件」は、所望の組換えタンパク質の、細胞当たりの相対産生量を増加させるための技術を意味する。かかる技術には、ほんの数例挙げると、低温シフト及び化学物質の添加、ならびに任意の既知の、またはまだ開発されていない技術の組合せが含まれ、これに加えて任意のまだ記載されていない及び/または開発されていない誘導技術が含まれる。典型的には、高密度の細胞のバッチまたは灌流培養液を、該組換えタンパク質を産生するように誘導する。多くの場合、他の細胞過程(例えば、増殖及び分裂)が、ほとんどの細胞エネルギーを組換えタンパク質の産生に向けるために抑制される。
【0121】
本発明の方法及び組成物では、サブユニットを有する任意の選択マーカーを使用することができる。本明細書で使用する場合、「サブユニット」という用語は、選択マーカーに関する場合には、選択マーカーの一部を指す。さらに、選択マーカーの第一の変異サブユニット(本明細書では「最初の変異サブユニット」と呼ぶ)は、同じ選択マーカーの第二の相補的変異サブユニット(本明細書では「相補的変異サブユニット」と呼ぶ)と発現することができ、いずれかの変異サブユニット単独では存在しない選択活性レベルをもたらす。サブユニットは、該選択マーカーの異なるサブユニットでもある、他の変異したポリペプチドにより相補される変異を有するポリペプチドをも意味し得る。
【0122】
本発明の方法及び組成物では、動物細胞にとって通常は毒性である特定の薬剤に対する耐性を付与する選択マーカーを使用することができる。例えば、以下は耐性選択マーカーの非限定的な例である:ゼオマイシン(zeo)、ピューロマイシン(PAC)、ブラストサイジンS(BlaS)、ミコフェノール酸に対する耐性を付与するGPT(Mulligan & Berg(1981),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:2072)、アミノグリコシドG−418に対する耐性を付与するネオマイシン耐性遺伝子(Colberre−Garapin et al. (1981),J.Mol.Biol.150:1)及びハイグロマイシンに対する耐性を付与するハイグロ(Santerre et al. (1984), Gene 30:147)。
【0123】
本発明の方法及び組成物では、所定の条件下で細胞を生存させるかまたは細胞死を誘導する代謝酵素を使用することも可能である。例には、以下が含まれるが、これらに限定されるものではない:ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(TK)(Wigler et al. (1977), Cell 11:223)、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)(Szybalska & Szybalski(1962),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 48:2026)及びアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(APRT)(Lowy et al. (1980), Cell 22:817)、これらは、それぞれTK、HGPRTまたはAPRTを欠く細胞において使用され得る遺伝子である。
【0124】
一実施形態では、グルタミンシンセターゼ(GS)は、本発明の方法及び組成物において使用される選択マーカーである。GSは、同一の五量体環のサブユニットが2つ積み重なり、1つのサブユニットのN末端残基及び隣接するサブユニットのC末端残基によって形成される10個の活性部位を備える。N末端(mutGS−NT)及びC末端(mutGS−CT)変異構築物が調製され相補性について評価されている。mutGS−NTもmutGS−CTもグルタミン不含培地では細胞増殖できないが、GS変異細胞が、両方の構築物でトランスフェクトされると、両方の構築物で同レベルでトランスフェクトされた細胞は、グルタミン不含培地で生存する。かかる2つの変異による共トランスフェクションが起こる場合、該変異は「相補的」と呼ばれる。あるいは、内在性GS発現細胞を使用し、メチオニンスルホキシイミン(MSX)の毒性レベルに対する耐性を増強することにより、トランスフェクタントを選択することができる。
【0125】
本発明の方法及び組成物では、発色選択に基づいた選択マーカーを使用することも可能である。特定の例では、ベータガラクトシダーゼを使用することができる(Blau et al.,WO 98/44350)。本発明の方法では、蛍光マーカーを使用することも可能である。例えば、GFPが、タンパク質フラグメント相補アッセイにおいて、タンパク質の相互作用を測定するための細胞のクローン選択に使用されている(Remy and Michnick (1999), Proc. Natl. Acad. Sci., 96:5394−5399)。同様に、フルオレセインコンジュゲートメトトレキサートが、相補するDHFRフラグメントを発現する細胞を検出するために使用することができる(Remy and Michnick (2001), Proc. Natl. Acad. Sci., 98:7678−83)。蛍光マーカーの利点としては、この選択が任意の動物細胞型において行うことが可能であり、代謝経路に欠損を有するものに限定されず、薬剤感受性(例えばネオマイシンに対する)も要求されないことが挙げられる。
【0126】
本明細書で使用する場合、「ポリペプチド」という用語は、天然に存在するまたは組換え発現されたタンパク質を含み、典型的には二次構造を保持する翻訳前及び翻訳後プロセシング体またはそれらのフラグメントを含む。タンパク質は、高分子量([50〜100アミノ酸の]小さなものでは約10,000から、形態によっては1,000,000を超えるものまで)を有する大きな分子である。それらは種々の量の同じ20アミノ酸から構成され、これらは、インタクトタンパク質では、ペプチド結合と称される共有化学結合により一体化している。互いに連結されたアミノ酸は、ポリペプチド鎖と称される直鎖状で非分枝状の重合体構造を形成し、そのような鎖は数百個のアミノ酸残基を含有することがあり、これらは、所与のタンパク質種に対応する特定の順序で配置される。「ペプチド」という用語は、典型的には20アミノ酸長未満の、ポリペプチドまたはタンパク質の短いフラグメントを含む。
【0127】
「細胞培養」という用語は、多細胞生物または組織以外の細胞の成長及び増殖を包含することを意図する。典型的には、細胞培養は、無菌の制御された温度及び雰囲気の条件下、組織培養プレート(例えば、10cmプレート、96ウェルプレートなど)もしくは他の接着培養(例えば、マイクロキャリアビーズ)または懸濁培養(例えば、ローラーボトル中で)において行う。培養は、振とうフラスコ、小規模のバイオリアクター及び/または大規模なバイオリアクターにおいて増殖させることが可能である。バイオリアクターは、細胞を培養するために使用される装置であり、この装置では、温度、雰囲気、撹拌及び/またはpHのような環境条件をモニターし調節することができる。多数の企業(例えば、ABS Inc., Wilmington, Del.;Cell Trends,Inc.,Middletown,Md.)ならびに大学及び/または政府支援機構(例えば、The Cell Culture Center, Minneapolis, Minn.)が、契約に基づいて細胞培養サービスを提供している。
【0128】
このような培養で、選択活性のために選択する薬剤と接触させるための最適期間は、正常な1増殖周期の典型的な期間(例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)では、1増殖周期が約20〜22時間と報告されている(Rasmussen et al. (1998), Cytotechnology, 28:31−42))より長い。その場合に、一実施形態では、該培養には、選択条件(例えば薬剤、代謝産物または発色基質)を、好ましくは少なくとも約1日間、より好ましくは少なくとも約3日間、より一層好ましくは少なくとも約7日間を含む。
【0129】
培養における増殖に適した多種多様な動物細胞株が、例えば、American Type Culture Collection(ATCC,Manassas,VA)及びNRRL(Peoria,IL)から入手可能である。企業や大学の研究室において典型的に使用される、より樹立された細胞株の幾つかには、数例挙げると、CHO、VERO、BHK、HeLa、Cos、CV1、MDCK、293、3T3、PC12、骨髄腫(例えば、NSO)及びWI38細胞株が含まれる。他の実施形態では、非動物細胞系、例えば植物細胞株、昆虫細胞株(例えば、sf9)、酵母細胞または細菌細胞、例えばE.coliを、本発明の方法において使用することができる。
【0130】
一実施形態では、CHOZN(登録商標)GS−/−ZFN改変CHO細胞(Sigma Aldrich Fine Chemicals、St.Louis MO)のようなGS欠損CHO細胞が使用される。GS欠損CHO細胞(または他の哺乳類細胞)も、当技術分野で既知の方法を用いて作製することができる。さらに、CHO細胞は、接着または懸濁培養物として容易に操作され、比較的良好な遺伝的安定性を示す。加えて、当業者に周知の方法(例えば、形質転換、ウイルス感染及び/または選択)を用いて、新たな動物細胞株を樹立することも可能である。
【0131】
前記のとおり、本発明のヘテロマー複合体を発現させるためには、種々の宿主発現ベクターシステムを使用することができる。該ヘテロマー複合体が可溶性である場合には、ペプチドまたはポリペプチドを培養液から回収することができる。すなわち、該ヘテロマー複合体が分泌されない場合には宿主細胞から、そして該ヘテロマー複合体が該細胞により分泌される場合には培地から回収することができる。しかしながら、前記発現システムは、細胞膜に固定されたヘテロマー複合体を発現する操作された宿主細胞をも包含する。
【0132】
そのような発現システムからの該ヘテロマー複合体の精製または富化は、当業者に周知の適当な界面活性剤及び脂質ミセルならびに方法を用いて達成することが可能である。しかしながら、そのような操作された宿主細胞自体は、該ヘテロマー複合体の構造的及び機能的特徴を保持させるだけではなく、生物活性を評価すること(例えば、薬物スクリーニングアッセイにおいて)も重要な状況において、使用することもできる。
【0133】
本発明の方法により発現されたタンパク質は、集めることが可能である。加えて、既知の方法を用いて、該タンパク質をそのような培養液または成分(例えば、培養培地または細胞抽出物または体液)から精製または部分精製することが可能である。「部分精製」という用語は、何らかの分画方法が行われているが、所望のタンパク質より多くのポリペプチド種(少なくとも10%)が存在することを意味する。「精製」は、該タンパク質が実質的に均質であること、すなわち、混入タンパク質が1%未満しか存在しないことを意味する。分画方法には、濾過、遠心分離、沈殿、相分離、アフィニティ精製、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC;フェニルエーテル、ブチルエーテルまたはプロピルエーテルのような樹脂を使用)、HPLCまたは前記の何らかの組合せの1つ以上の工程が含まれ得るが、これらに限定されるものではない。
【0134】
また、本発明は、任意で前記タンパク質をさらに製剤化することを包含する。「製剤化」という用語は、該タンパク質をバッファー交換に付したり、滅菌したり、バルク充填したり、及び/または最終的な使用者のために充填し得ることを意味する。本発明の目的では、「無菌バルク形態」という用語は、製剤が微生物汚染のない、または実質的に微生物汚染のない(食物及び/または薬物の目的に許容され得る程度に)ことを意味し、規定された組成及び濃度を有することを意味する。
【0135】
「無菌単位投与形態」という用語は、顧客及び/または患者の投与または消費に適した形態を意味する。かかる組成物は、有効量の前記タンパク質を、生理学的に許容され得る希釈剤、担体または賦形剤のような他の成分と組み合わせて含むことができる。「生理的に許容され得る」という用語は、有効成分(複数可)の生物活性の有効性を妨げない無毒性物質を意味する。
【0136】
本発明において、哺乳動物GSタンパク質のN末端(mutGS−NT)の変化をコードする一連の不活性変異及び該タンパク質のC末端(mutGS−CT)の変化をコードする一連の不活性変異が開発された。GS触媒部位には、グルタミン酸、ATP、及び/またはアンモニアの結合に関与する進化的に保存されたアラニン残基のすべてに対して、個々にまたは組み合わせて変異が作製されるアラニンスキャンがなされた。大部分の残基を、GS酵素の公開されているX線結晶学的及び生化学的研究の根拠に基づいて選択したが、活性部位の4.5Åの基質/リガンド/金属内のすべての残基は、潜在的な候補として評価された。N末端及びC末端の、触媒的には欠陥があるが構造的にはインタクトであるGS変異体の組み合わせを同定し、共発現した時に互いに相補し、何らかのGS活性を回復するための能力について評価した。
【0137】
抗体の1つの鎖とmutGS−NTまたはN末端GSフラグメント、及びもう1つの鎖とmutGS−CTまたはC末端GSフラグメントの連結した発現によって、2ベクターシステムを構築した。mutGS−NTまたはN末端GSフラグメントの発現を可能にするIRESと共に単一のmRNA上に抗体重鎖(HC)の発現を促進するプロモーター/エンハンサーを有する1つの発現ベクターを構築した。それとは別に、抗体の軽鎖(LC)の発現は、LCの発現を促進するプロモーター/エンハンサー及びmutGS−CTまたはC末端GSフラグメントの発現を可能にするIRESを有するベクターを構築することによって、mutGS−CTまたはC末端GSフラグメントに連結された。mutGS−NTもmutGS−CTも、N末端GSフラグメントまたはC末端GSフラグメント自体ではグルタミン不含培地での細胞増殖ができなかった。しかしながら、GS変異細胞が、両方の構築物でトランスフェクトされると、両方の構築物で同レベルでトランスフェクトされた細胞は、グルタミン不含培地で生存可能となった。これらの細胞はまた、目的の抗体について同様の量のLC及びHCを産生した。選択のストリンジェンシーは、IRESの効率を低下させmutGS選択マーカーの翻訳を減少させるか、または場合によりGS阻害剤であるL−メチオニンスルホキシイミン(MSX)を添加することによって、さらに増加させることができる。
【0138】
本発明は、本明細書に記載の具体的な実施形態によって範囲を制限されることはなく、それらの実施形態は、本発明の個別の態様の一説明として意図されており、機能的に同等の方法及び構成要素は、本発明の範囲内である。実際に、本明細書に図示及び記載したものに加えて、本発明の種々の変更形態が、上述の記載及び添付の図から、当業者には明らかになるであろう。そのような変更形態は、添付の特許請求の範囲内に該当することが意図されている。
【実施例】
【0139】
実施例1
本実施例では、遺伝子内相補性において有用である可能性が高いと同定されたマウスグルタミンシンセターゼ(GS)変異体の選択及び調製について記載する。マウスGSの4つのN末端残基(W60、N61、D63、及びS66)及び11のC末端残基(E134、E136、E196、E203、N248、H253、N255、R319、R324、E338及びR340)を、アラニン変異スキャンにおける評価のために選択した。個々の及び組み合わせの変異構築物を、pcDNA3.3ベクター(ネオマイシン耐性、Invitrogen Grand Island、NY)で作製し、これにより合計9個のN末端変異構築物及び16個のC末端変異構築物を得た。
【0140】
CHO−K1細胞株におけるインタクトなGSタンパク質の発現について、該変異構築物を評価した。36℃、5%のCO
2、相対湿度70%のベント付き振とうフラスコ中、非選択的に化学的に規定されたグルタミン含有増殖培地で細胞を培養し、加湿インキュベーター内で150〜160rpmで振とうした。ViCell自動細胞カウンター(Beckman−Coulter、Inc.、Brea、CA)によって生細胞密度(VCD)及び生存率を測定した。培養液は、3〜4日ごとに希釈して継代した。
【0141】
1条件当たり100万個の細胞が、エレクトロポレーションによって10マイクログラムの線状DNAでトランスフェクトされた(生物学的に3連)。DNAは、製造者の推奨に従って、37℃で一晩、PvuI−HF制限酵素(New England Biolabs、Ipswich、MA)によって線状化した。アガロースゲル電気泳動を用いて、各プラスミドの完全な線状化を確認した。制限酵素の消化後、10%反応容積の3M酢酸ナトリウム及び200%反応容積の100%エタノールを各消化に添加することによって、−70℃でDNAを一晩沈殿させた。エタノール沈殿後、DNAをペレット化し、ペレットを70%エタノールで1回洗浄し、風乾し、HEPES緩衝生理食塩水に再懸濁した。NanoDrop 2000(Thermo Scientific、Wilmington、DE)でDNA濃度を測定し、HEPES緩衝生理食塩水で1マイクログラム/マイクロリットルに調整した。
【0142】
遺伝子内相補性試験のために、各5マイクログラムの2つのプラスミドと共に10マイクログラムの断片化(sheered)サケ精子DNA(Invitrogen)を使用した。トランスフェクションは、3日目の増殖培養から1条件当たり100万個の細胞をスピンダウンさせ、150マイクロリットルのHEPES緩衝生理食塩水に細胞を再懸濁し、合計10マイクログラムのプラスミドDNA(5マイクログラムの各プラスミドで10マイクログラム)を添加し、該混合物を96ウェルエレクトロポレーションプレート(Bio−Rad Laboratories, Inc., Hercules, CA)のウェルへと移すことによってセットされる。
【0143】
エレクトロポレーションは、Gene Pulser MXcell(商標)(Bio−Rad Laboratories, Inc., Hercules, CA)を用いて96ウェルプレート中で以下の設定を用いて行った。指数関数的波、電圧=290V、容量=950マイクロF、抵抗=950オーム。エレクトロポレーション後、ベント付き24ディープウェルプレート(24DWP)中2ml/ウェルの予熱した非選択的増殖培地に前記細胞を移し、加湿Kuhnerインキュベーター(Kuhner AG, Basel, Switzerland)内で、220rpmで振とうした。
【0144】
トランスフェクションの3日後、細胞をカウントし、1×10
6生細胞/mLで選択培地(化学的に規定されたグルタミン不含増殖培地)に移した。培養生存率が90%を超えて回復するまで、3〜4日ごとに選択培地中で細胞を連続継代することによって、安定なプールを作製した。ViaCountアッセイモジュールを使用して、Guava EasyCyte(商標)HTフローサイトメーター(EMD Millipore、Billerica、MA)で細胞をカウントし、その後、作業濃度(PBS中1:50希釈)で、試薬中の細胞(ViaCount FLEX試薬(EMD Millipore、Billerica、MA)中1:10希釈の培養液)を15分間インキュベーションした。
【0145】
すべてのプールを、機能的アッセイで試験する前に少なくとも90%の生存率まで回復させた。プール作製後、3連のプールのウエスタンブロット分析を行って、各構築物についてGSタンパク質過剰発現のレベルを確かめ、いずれかの変異がインタクトGSタンパク質の産生を妨げたかどうかを測定した。
【0146】
ウエスタンブロット分析では、3×10
6個の細胞を100マイクロリットルのRIPA緩衝液(Thermo Scientific Pierce、Rockford、IL)中で溶解し、氷上で30分間、EDTA不含Halt Protease and Phosphatase Inhibitor Cocktail(Thermo Scientific、Rockford、IL)を添加した。13,000rpmでの遠心分離によって溶解物を清澄化し、4×ローディングバッファー(Invitrogen、Grand Island、NY)を添加し、サンプルを95℃で5分間沸騰させた。各サンプルの15μlをE−Page 48ゲル(Invitrogen、Grand Island、NY)上で泳動させ、iBlot(Invitrogen、Grand Island、NY)を用いてPVDF膜に転写した。各膜を1:500マウス抗グルタミンシンセターゼ抗体(Cat#610518、BD biosciences、San Jose、CA)を用いて4℃で一晩プローブし、続いて1:2,000の抗マウスAlexa Fluor 680二次抗体(Life Technologies、Grand Island、NY)とインキュベートした。ブロットは、Odyssey Infrared Imaging System(LI−COR、Lincoln、NE)でスキャンし、Image Jソフトウェアを用いて定量した。
【表1】
【0147】
最初の分析では、変異の候補残基としてアミノ酸残基E388及びR340が示されたが、E388A及びR340A GS変異体(単一の変異または他の変異と組み合わせとして)の過剰発現は、インタクトなGSタンパク質を産生しなかった。したがって、これらの変異を含む構築物は、それ以上検討しなかった。
【0148】
機能的GS酵素を有する野生型CHO−K1親細胞株において安定な変異GSプールが作製されたため、GS阻害剤であるL−メチオニンスルホキシイミン(MSX)25マイクロMを添加したグルタミン不含の選択培地中での増殖/生存率スクリーニングによって、変異活性評価を実施した。野生型CHO−K1細胞は、選択培地中で4継代後に死滅した。特定のN末端及びC末端変異では、選択培地中での培養増殖が妨げられたが、増殖欠陥のあるプールであっても比較的高い生存率を保持していた。
【0149】
個々のGS N末端変異体でトランスフェクトされた細胞は、野生型構築物と同様に増殖したため、これらの構築物はそれ以上試験しなかった。しかしながら、2つのN末端複数変異構築物、W60A N61A D63A(mutGS−NTl;配列番号6)、及びW60A N61A D63A S66A(mutGS−NT2;配列番号10)は、高レベルの過剰発現GSタンパク質を産成し、機能的アッセイにおいて、空のベクター陰性対照に最も近く、さらなる分析のために選択した。加えて、2つの他のN末端変異構築物、W60A N61A D63A S66A D76A(mutGS−NT3;配列番号25)及びW60A N61A D63R S66A(mutGS−NT4;配列番号19)は、相補効果のストリンジェンシーを高めるために調製され、評価した。後者の構築物では、アスパラギン酸−63をアラニンの代わりにアルギニンに変異させた。Anabaena azollaeの類似変異体は、生合成活性を完全に消滅し、野生型と同じように発現したが、アラニンへの変異では生合成活性の6.5%を保持していたからである(Eur.J.Biochem.266,1202(1999)Crespo et al.)。
【0150】
いくつかの単一のC末端変異構築物が機能的評価をパスしたものの、複数の変異を含む2つの構築物、E134A E136A E196A E203A(mutGS−CT1;配列番号21)及びN248A H253A N255A(mutGS−CT2;配列番号22)を選択し、さらに分析した。
【0151】
実施例2
この実施例では、組換えヘテロ二量体タンパク質、すなわちモノクローナル抗体(mAb)の発現におけるGSの変異体の影響について記載する。実施例1に記載の選択されたN末端及びC末端変異体を、mAb発現ベクターにクローニングし、複数の組み合わせの2ベクターシステムを構築した。ここで軽鎖(LC)の発現はIRESを介してmutGS−CTに連結され、重鎖(HC)はmutGS−NTに連結される。製造元の説明書に従って、CHO−K1 GSノックアウト細胞株をCompoZr(登録商標)ノックアウトZFNキット−CHO GS(Sigma−Aldrich St.Louis、MO)を用いて構築した。CHO−K1グルタミンシンセターゼノックアウト(CHO−K1 GS−KO)細胞株を前述のように培養した。
【0152】
野生型GS(陽性対照)または選択されたN末端及びC末端変異体のいずれかに連結されたmAb LCまたはHCを含有するベクターを用いて、3連のCHO−K1 GSノックアウトトランスフェクションを行い、グルタミン不含培地で培養した。野生型GSを含む最初のpcDNA3.3ベクターを追加の陽性対照として用いた。pcDNA3.3野生型GSプール及びmAb連結野生型GSプールはいずれも、グルタミン不含培地での20日間の継代までに90%以上の生存率を回復した。対照的に、モックトランスフェクトプール及びすべてのmAb連結型変異GSプールが、グルタミン不含培地で17日後に死滅し、選択された変異体が、機能的に欠陥のあるGSタンパク質産物を産生したことが確認された。
【0153】
最後に、CHO−K1GSノックアウト細胞株のmAb産生プールを作製するための2ベクター発現システム内のGS遺伝子内相補性について、選択されたN末端及びC末端変異体を評価した。これらの細胞は、GS配列(下表2に示す)に指示された変異を有する遺伝子内相補性ベクターA(LC:mutGS−CT)及びB(HC:mutGS−NT)でトランスフェクトされた。すべての評価したmutGS−CT/mutGS−NTの組み合わせは、グルタミン不含培地での25日間の継代にわたって約90%の生存率まで回復することができた。2ベクターLC:mutGS−CT/HC:mutGS−NTプールは、野生型GSを含む単一ベクターの陽性対照よりも生存率の低下が大きく、選択培地での回復に時間が掛かった。
【0154】
10日間の流加バッチ産生アッセイによって、作製した3つの安定プールを、mAb発現についてさらに評価した。該産生アッセイは、24DWP(約0.5×10
6生細胞/ml)中の化学的に規定された産生培地へ1:5スプリットに希釈された4日目の増殖培養からセットされた。Guava ViaCountアッセイ(Millipore、Billerica、MA)を用いて、培養増殖及び生存率を3、6、8及び10日目にモニターした。化学的に規定された供給培地で3、6及び8日目にボーラス供給を実施した。培地グルコース濃度は、比色分析のPolyChem(Polymedco、Cortlandt Manor、NY)試薬を使用して供給日に測定し、50%グルコース原液で12g/Lに調整した。POROS A/20プロテインAカラムを用いたアフィニティ高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、産生終了力価を10日目の培養上清で測定した。IRESを介して個々のGS変異体に連結された個々のmAb鎖を含有するGS遺伝子内相補性2ベクターシステムによって作製されたすべてのプールは、検出可能なレベルの抗体を産生した。値は以下の表2(実施例3)に示す。
【0155】
実施例3
本実施例は、IRES GS結合の効率を低下させることによって、選択のストリンジェンシーを増加させることにより、トランスフェクトされたプールにおける抗体力価を増加させる方法について記載する。初期の構築物における配列は、GSの開始コドンに融合されたATG−12までの野生型EMCV配列である(Davies and Kaufman、J Virol 66,1924;1992)。効率的な選択及び増幅を可能にするために、以前に示された配列を用いることにより、IRESの効率が低下した(Aldrich et al., Biotechnol Prog 19, 1433;2003)。より効率的な結合における結合部のDNA配列(ED3)を、より効率の低い結合部のDNA配列(317)と以下比較する。ED3配列の下の数字は、WT EMCVで見出されるATGを示す。最後のATGはGSの開始コドンを示す。
【化1】
【0156】
該発現ベクターは、IRES及びGSの結合部における配列以外は、
図1に示したものと同一であった。より効率の低いIRES−GS結合を用いた両プラスミドによる細胞のトランスフェクションにより、トランスフェクション後の生存率が低下し、回復時間が長くなった。3つのCT1−NT4トランスフェクションのうち2つだけが回復し、他のmutIRESの組み合わせは回復しなかった。しかしながら、回復したmutIRESの組み合わせについては、10日間の流加バッチ培養で、1つのプールで0.55グラム/L、もう1つのプールで0.17グラム/Lを産生した。これらのプールの比生産性は、それぞれ16p/c/d及び6.9p/c/dであった。0.55g/Lの力価は以前に報告された力価を超え、それらを達成するためにFACSソーティングを必要としない(Ye, J. et al. Biotechnol Prog 26, 1431;2010)。
【表2】
【0157】
CT1−NT1−4及びCT2−NT1−4と表記したサンプルはすべてpED3結合(配列番号24)を使用した。mutIRESと表記したサンプルは、配列番号23に示されるより効率の低いIRESを有する。
【0158】
実施例4
本実施例では、これらの培養の選択性を高める別の戦略について記載する。トランスフェクションを実施例2に記載のように実施したが、選択の間、より高レベルのGS発現を選択するために、GSの阻害剤、MSXを培養に添加した。より効率的な(すなわち、非変異の)IRESを持つ3つのCT2−NT4培養のうち1つは回復したが、CT1−NT4または変異IRESを持つトランスフェクタントのいずれも回復しなかった。回復した単一の培養では、10日間の流加バッチ培養により0.29グラム/Lを得、比生産性は9.18p/c/dであった(上記表2参照)。
【0159】
実施例5
本実施例では、多数のmut IRES CT1−NT4トランスフェクションの結果について記載する。これらの構築物は、配列番号23に示される、より効率の低いIRESを有する。mut IRES CT1−NT4を含むベクターを用いて、合計88のCHO−K1 GSノックアウトトランスフェクションを実施した。88のトランスフェクションのうち合計10は選択から生存し、培養の約25日後に強く増殖するトランスフェクションプールが得られ、実施例2のより少ない数のトランスフェクションと同様の挙動を示した。モックトランスフェクションプールのGSプールは、グルタミン不含培地で17日後に死滅した。
【0160】
10日間の流加バッチ産生アッセイによって、2連の安定プールを、mAb発現についてさらに評価した。該産生アッセイは、24DWP(約0.6×10
6生細胞/ml)中の化学的に規定された産生培地に播種した4日目の増殖培養からセットされた。Guava ViaCountアッセイ(Millipore、Billerica、MA)を用いて、培養増殖及び生存率を3、6、8及び10日目にモニターした。化学的に規定された供給培地で3、6及び8日目にボーラス供給を実施した。培地グルコース濃度は、比色分析のPolyChem(Polymedco、Cortlandt Manor、NY)試薬を使用して供給日に測定し、50%グルコース原液で12g/Lに調整した。POROS A/20プロテインAカラムを用いたアフィニティ高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、産生終了力価を10日目の培養上清で測定した。IRESを介して個々のGS変異体に連結された個々のmAb鎖を含有するGS遺伝子内相補性2ベクターシステムによって作製されたすべてのプールは、平均して1g/Lを超える2プールを持つ比較的高レベルの抗体を産生した。値は以下の表3に示す。
【表3】
【0161】
実施例6
本実施例では、酵素グルタミンシンセターゼの分子相補性アプローチについて記載する。該グルタミンシンセターゼ酵素は、2つの独立したフラグメントとして発現し、酵素活性は、2つのフラグメントの遺伝的相補性によって完全に再構成された。種々の残基でグルタミンシンセターゼ酵素を分割する一連の構築物を作製した。これらのポイントは、酵素の分子構造からの情報をベースとした。これらの構築物を、グルタミンシンセターゼ活性が欠損している細胞株を救済する能力について、細胞ベースのアッセイで試験した。この試験から、グルタミンシンセターゼ欠損細胞を完全に救済することができるいくつかのフラグメントが同定されたことから、これらのフラグメントが会合し、完全に機能的なグルタミンシンセターゼ酵素を作製できることを実証した。
【0162】
タンパク質フラグメント相補性に関する以前の研究の多くは、機能性モノマーとして存在するタンパク質を使用し、その再構築には設計されたフラグメントのみを必要としている。本研究では、分子相補性を用いて、GSモノマー及びその後の十量体機能性酵素複合体の形成の両方の活性を再現するための能力について実証した。相補的なタンパク質フラグメントは、タンパク質を分割することを可能にし得るGSモノマー中の領域を探すための分子モデリングアプローチを用いて同定された。GCN4ロイシンジッパー(LZ)及びフレキシブルリンカーも、再構築を補助するために異なるフラグメントに加えられた。試験したフラグメントを表4に示し、これらの研究で用いたマウスGSタンパク質の配列を表5に示す。GSフラグメントを哺乳類発現ベクターにクローニングし、GS活性が欠損しているCHO細胞にトランスフェクトした。これらの細胞は、通常、グルタミンを添加した細胞培養培地中でのみ生存することができる。これらの構築物がこれらの細胞を救済する能力を、培地からグルタミンを除去することによって試験した。
【表4】
【表5】
【0163】
図2に示すように、構築物1,2,3及び5は、グルタミンシンセターゼ欠損細胞を成功裏に救済することができた。これは、これらのフラグメントがインビボで完全に機能的なグルタミンシンセターゼを形成可能であることを示す。救済結果の要約を表6に示す。対照として、AまたはBフラグメントのいずれかが単独で、グルタミンシンセターゼ欠損細胞株を救済できるかどうかを評価した。
図4に示すように、AまたはBフラグメントのいずれもが単独で、グルタミンシンセターゼ欠損細胞株を救済することができず、グルタミンシンセターゼ酵素活性が回復するためには両方のフラグメントが必要であることが確認された。
【表6】
【0164】
次に、これらの分子相補性構築物を、抗体軽鎖及び重鎖遺伝子を含有する発現ベクターにおいて試験し、細胞株発現選択システムにおけるそれらの有用性を評価した。表4に示すように、2つの発現ベクターを相補的なグルタミンシンセターゼフラグメントを含むように適合させ、1つは抗体軽鎖遺伝子を含み、2つ目は抗体重鎖遺伝子を含む(
図4)。IRES配列はまた、インフレームATGの変異によって弱まったバージョンで置き換えられた(BioTechniques 20: 102−110 January 1996)。これにより、抗体遺伝子と比較して、発現するグルタミンシンセターゼフラグメントのレベルがさらに低下し、システムの選択ストリンジェンシーが増加し、高転写活性部位でのゲノム組み込みに偏向し得る選択圧レベルに達する。本研究結果を
図6に示す。構築物1,2,3及び5をこのアッセイで試験し、重鎖及び軽鎖遺伝子をグルタミンシンセターゼA及びBフラグメントそれぞれに向けて連結した。構築物2のグルタミンシンセターゼフラグメントを含むベクターは、グルタミン不含培地中での選択で生存することができた。
【0165】
構築物2選択プールの細胞の生産性を、10D流加バッチ産生アッセイで評価し、完全長GS酵素を発現するベクターを用いて選択された対照プールと比較した。
図6にて示すように、構築物2由来の細胞は高い生産性を示した。