【実施例】
【0019】
[0024] 実施例
[0025] 実験に使用した反応器は、水素発生反応(HER)のためのコバルト−リン(Co−P)合金陰極及び酸素発生反応(OER)のためのリン酸コバルト(CoP
i)陽極を含む生体適合性水分解触媒システムを含んでいた。このシステムは、アンモニアを生成するのに使用する所望の水素を生成しながら、低駆動電圧(E
appl)の使用を可能にした。具体的には、N
2及びH
2OからのNH
3合成は、水分解システムを使用し、H
2酸化型独立栄養微生物内でN
2還元反応を促進することで達成された。この場合、キサントバクター・オートロフィカス(X.オートロフィカス)を使用した。X.オートロフィカスは、ジアゾトロフの小グループに属するグラム陰性菌であり、これは微好気性条件(O
2約5%未満)でH
2をそれらの唯一のエネルギー源として使用してCO
2とN
2をバイオマスに固定することができる。したがって、この実験的設定では、電気化学的水分解は、生物学的エネルギー源としてH
2を生成し、同じ反応器内で、X.オートロフィカスは、室温のN
2還元反応触媒として作用して、H
2及びN
2をNH
3に変換した。
【0020】
[0026]
図1は、水溶液中に浸漬した電極を収容する単一チャンバー反応器を含む実験装置の概略図を示す。電極は、水素発生反応のためのCo−P陰極及び酸素発生反応のためのCoP
i陽極を含んでいた。O
2を2%、CO
2を20%、及びN
2を78%含むガス混合物は、微好気的環境を維持するために5mL/分以上の流速で溶液中に泡立たせた。
【0021】
[0027] 実験中、水分解のために、OERとHER電極との間に定電圧(E
appl)を印加した。X.オートロフィカスのヒドロゲナーゼ(H
2アーゼ)は、発生したH
2を酸化させ、カルビンサイクルにおけるCO
2還元及びニトロゲナーゼ(N
2アーゼ)によるN
2固定化を促した。N
2還元の各ターンオーバーは、2個のNH
3及び1個のH
2分子を生じ、その後者は、ヒドロゲナーゼによって再利用することができる。生成したNH
3は通常バイオマスに組み込まれるが、前述のようにNH
3同化の阻害からの蓄積(経路2)の結果として細胞外に拡散させることもできる。
【0022】
[0028] 各実験の始めに、X.オートロフィカスは、いかなる窒素も補充していない有機物を含まない最少培地にインキュベートした。一定の駆動電圧(E
appl= 3.0V)をCoP
i|Co−P触媒システムに印加し、バイオマスの定量化(600nMにおける光学密度、OD
600)並びに固定窒素(比色アッセイ)のためにアリコートを定期的に採取した。
【0023】
[0029] CoP
i|Co−P|X.オートロフィカスハイブリッドシステムは、犠牲試薬なしで電気を使用してバイオマス中にN
2並びにCO
2を還元した。
図2は、OD
600、通過した電荷量、全窒素含有量の濃度(N
total)、及び可溶性窒素含有量(N
soluble)を実験の継続期間に対してプロットしたグラフを表す。H
2発酵実験(「H
2ジャー」)におけるOD
600も比較としてプロットした。グラフ中のエラーバーは、n≧3の平均の標準誤差(SEM)を示す。図に示すとおり、水分解に通過した電荷量は、5日間の実験中のバイオマス蓄積(OD
600)並びに培地中の全窒素含有量(N
total)に比例していた。
【0024】
[0030]
図3は、5日間の実験中における異なる実験条件下でのN
total及びOD
600の変化を表す。図に見られるように、細胞外可溶性窒素含有量(N
soluble)に変化がなかったので、固定窒素はバイオマスに同化されていた。N
total 72±5mg/L、並びに乾燥細胞重量 553±51mg/Lが、実験にわたって連続的に蓄積した(n=3、
図3における項目1)。対照的に、設計において以下の要素のうちの1つを省略した対照では、N
totalの蓄積は観察されなかった:水分解、X.オートロフィカス、単一チャンバー反応器、及び微好気性環境(
図2bの項目2〜5)。特にデュアルチャンバー実験の場合(
図3の項目4)、N
total蓄積がないことは、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)によって決定されるように、24時間以内に0.9±0.2μMから40±6μMへの培地中の可溶性Co
2+濃度の増加と同時に起こり、これはX.オートロフィカスの約50μM半最大阻害濃度(IC
50)に近い。理論に拘泥するものではないが、これは、アニオン交換膜(AEM)の設置が、浸出したCo
2+のCoP
i陽極への析出を妨げたことを示し、システムに使用される物質の生体適合性が望ましいシステム特性であり得ることを例示している。図にも示されているように、N
totalの増加を大幅に超えるOD
600の増加(3の項目4及び5)は、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)の蓄積からの光散乱による可能性が高く、それは炭素過剰と結びついた栄養素制約の条件で炭素貯蔵ポリマーとして製造される。
【0025】
[0031] 記載されたハイブリッドシステムのNRR活性も行なわれた全細胞アセチレン還元アッセイによって支持されている。具体的には、アリコートは、O
2/H
2/CO
2/Arガス環境(2/10/10/78)に曝露された操作装置から直接採取され、127±33μM・h
−1・OD
600−1の速度で注入したC
2H
2を独占的にC
2H
4に還元することができた(n=3)。ニトロゲナーゼによるC
2H
2還元の運動速度が反応化学量論に基づいてN
2還元の1/4である場合、この活性は、OD
600=1.0の培養について、1日当たり約12mg/L N
totalに相当する。このN
2固定速度は、5日間の実験中に測定されたN
total蓄積と一致し、他の対照と関連して他の仮定の窒素供給源の可能性を排除する(上記参照)。この測定は、細菌細胞当たり1.4×10
4s
−1のNRRターンオーバー頻度(TOF)に対応する。以前の文献に基づいて約5000のニトロゲナーゼコピー数を仮定すると、このNRR TOFは、おおよそ酵素当たり約3s
−1に相当し、それは以前の研究と一致している。同等のターンオーバー数(TON)は、おおよそ細菌細胞当たり8×10
9、ニトロゲナーゼ当たり1×10
6であり、以前に報告された合成及び生物学的触媒よりも少なくとも2桁高い。
【0026】
[0032]
図4は、iR補正された、X.オートロフィカス培地中のCo−P HER陰極の線形走査ボルタンメトリー(線、10mV/秒)及びクロノアンペロメトリー(丸、30分平均)の結果を表す。HER及びNRR(E
HER、E
NRR)の熱力学値が表示されている。印加されたE
appl=3.0Vからの電圧寄与は、I−V特徴付けの下に示されている。NRR反応は、160mVほど低い動的駆動力で動作する。X.オートロフィカス培地中のCo−P HER陰極のI−V特徴付けは、約0.43Vの見かけの過電圧を示す。理論に拘泥するものではないが、この値の大部分は電極の触媒特性に固有のものではないが、弱緩衝液(9.4mMリン酸塩)中でのプロトン濃度勾配の強化から生じる。大量輸送の寄与を差し引くことにより、固有のNRR過電位は約0.16Vであり、文献におけるこれまでの報告よりもはるかに低い。希釈培地の塩分はその後、以前に報告されたものよりも高いE
appl=3.0Vの駆動電圧が使用される。低いイオン伝導率は、E
applの約28%(約0.85V)に寄与し、これは追加の最適化によって低減する可能性がある。それにもかかわらず、11.6±1.9%の電気的CO
2還元効率(η
elec,
CO2、n=3)に加えて、実験におけるNRRのエネルギー効率(η
elec,
NRR)は、5日間の実験中1.8±0.3%(n=3)である。これは、1メートルトンNH
3当たり約900GJに相当するが、熱力学的限界は、1メートルトンNH
3当たり20.9GJである。ニトロゲナーゼの反応化学量論及び上流の生化学的経路に基づいて、1個のN
2分子を還元するのに必要とされるH
2分子の理論的数は、9.4〜14.7の間の範囲であり、それは7.5〜11.7%のη
elec,
NRRの上限を設定する。したがって、この実験で報告されている窒素還元量は、理論収率の15〜23%であり、周囲条件での他のシステムのファラデー効率又は量子収率よりもはるかに高い。
【0027】
[0033] 記載された実験及びシステムは、同様の条件でのガス発酵と比較してより速いN
2還元及び微生物増殖を示した。ハイブリッドシステムで観察された線形成長(
図2)とは対照的に、約10%のH
2を含有するヘッドスペースを補充した同じ条件でのガス発酵(
図2の「H
2ジャー」実験)は、比較的ゆっくりとした非線形成長を示す。この差はN
2固定に依存し、アンモニアが培地に補充された場合、ガス発酵及び電気分解の下での増殖は、識別可能な差を実証しなかった。理論に拘泥するものではないが、これは、ニトロゲナーゼに対するH
2の競合的阻害の結果であると考えられており、阻害定数K
is(D
2)は約11kPaである。ハイブリッド装置において電気分解が定常状態で低H
2分圧を維持する場合、ガス発酵中の高いH
2濃度は、N
2固定速度を遅くし、且つ/又はNRRエネルギー効率を低減させる可能性がある。この仮説は、ガス発酵の場合により遅いバイオマス蓄積を示す数値シミュレーションによって支持されている。したがって、電流実験は、水分解から生成したH
2が下流の生化学的経路に影響を及ぼし得るので、記載されたハイブリッド装置がガス発酵槽と水分解電解槽との単純な組合せと比較してさらなる利点を提供し得ることを示す。
【0028】
[0034] ハイブリッド装置は、合成されたNH
3を細胞外培地に排出することができる。この株に対する以前の生化学アッセイ及びゲノム配列決定は、ニトロゲナーゼから生成されたNH
3が、グルタミンシンテターゼ(GS)及びグルタミン酸シンターゼ(GOGAT)によって媒介される二段階プロセスを介してバイオマスに組み込まれることを示す(
図1及び5)。このNH
3同化経路の機能が破壊されると、細胞外NH
3肥料溶液の直接製造が実現する。GS阻害剤は、糖発酵性ジアゾトロフにおけるNH
3分泌に使用できることが報告されている。原理の証明として、除草剤として市販されている特異的なGS阻害剤であるグルホシネート(PPT)は、NH
3同化経路を遮断し、合成されたNH
3を細胞外培地に受動的に拡散させるために使用された(
図1の経路2、及び
図5)。PPT添加後、X.オートロフィカスのバイオマスは停滞したが、溶液中のN
total及び遊離NH
3の濃度(N
NH3)は増加した(
図6)。これは、PPT添加後の窒素蓄積は、ほとんど細胞外NH
3の形態をとったことを示す。実験の終わりに、N
NH3の濃度は、11±2mg/L(約0.8mM)であり、蓄積N
totalは47±3mg/Lに達した(n=3、表S1)。N
2固定速度は、実験の後期に減速する傾向があり、それは転写及び転写後レベルでの窒素調節に関連している可能性がある。合成生物学におけるさらなる操作は、この制限を緩和することが可能である。
【0029】
[0035] 上記実験は、N
2、H
2O、及び電気からの代替NH
3合成手法の製造及び使用を実証する。水分解−生合成プロセスは、周囲条件で作動し、窒素肥料のオンデマンド供給のために分散させることができる。エネルギー効率18%の光起電力デバイスなどの再生可能エネルギー供給と組み合わせた場合、太陽光発電によるNH
3へのN
2固定は、最大0.3%の太陽からNH
3への効率(solar-to-NH
3)と2.1%の太陽CO
2還元効率で達成することができる。通常の作付システムでは、毎年1平方メートル当たり約11gの窒素が低減し、これは約4×10
−5の太陽からNH
3への効率に相当する(2000kWh/m
2の年間日射量を想定)。したがって、この手法は、はるかに高い効率をもたらし、化石燃料を使用せずに肥料生産のための持続可能な経路を提供する。本開示として、化石燃料を使用して種々の供給原料(すなわちガス)を供給することができる例でも、所望のアンモニア生成をもたらすために、再生可能エネルギーを使用すること及び/又は反応器内で直接水を分解することだけに限定されない。
【0030】
[0036] 本教示を種々の実施形態及び実施例と併せて説明してきたが、本教示はそのような実施形態又は実施例に限定されることを意図するものではない。これに反して、本教示は、当業者には理解されるように、種々の代替形態、修正形態、及び等価物を包含する。したがって、前述の説明及び図面は、ほんの一例である。