特許第6972038号(P6972038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972038
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】アンモニア合成法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   C01C 1/04 20060101AFI20211111BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20211111BHJP
   C12P 13/00 20060101ALI20211111BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20211111BHJP
   C12M 1/04 20060101ALI20211111BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20211111BHJP
   C12N 9/99 20060101ALN20211111BHJP
【FI】
   C01C1/04 C
   C25B1/04
   C12P13/00
   C12M1/00 Z
   C12M1/04
   !C12N1/20 Z
   !C12N9/99
【請求項の数】23
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-568227(P2018-568227)
(86)(22)【出願日】2017年6月14日
(65)【公表番号】特表2019-527180(P2019-527180A)
(43)【公表日】2019年9月26日
(86)【国際出願番号】US2017037447
(87)【国際公開番号】WO2018009315
(87)【国際公開日】20180111
【審査請求日】2020年6月11日
(31)【優先権主張番号】62/358,710
(32)【優先日】2016年7月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507044516
【氏名又は名称】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】コロン,ブレンダン,クルス
(72)【発明者】
【氏名】リュー,チョン
(72)【発明者】
【氏名】ノセラ,ダニエル,ジー.
(72)【発明者】
【氏名】シルバー,パメラ,アン
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2015/0225750(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0346108(US,A1)
【文献】 特開2016−106637(JP,A)
【文献】 特表2005−505419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01C 1/04
C25B 1/04
C25B 11/04
C12P 13/00
C12M 1/00
C12M 1/04
C12N 1/20
C12N 9/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを生成するための方法であって:
溶液中に水素を溶解させること;
前記溶液中に二酸化炭素を溶解させること;
前記溶液中に窒素を溶解させること;
前記溶液中にグルタミンシンテターゼ阻害剤を入れること;及び
前記溶液中に独立栄養ジアゾトロフ細菌を入れること
を含む、方法。
【請求項2】
前記溶液中に水素を溶解させることが、前記溶液中の水を分解することであって水素及び酸素を形成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶液中の水を分解することが、コバルト−リン合金を含む陰極及びリン酸コバルトを含む陽極を使用して水を分解することをさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記溶液がリン酸塩を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶液中に二酸化炭素及び窒素を溶解させることが、二酸化炭素及び窒素を前記溶液中にバブリングすることをさらに含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
0.5%から5%の間の酸素を含むガスを前記溶液中にバブリングすることをさらに含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶液中の前記独立栄養ジアゾトロフ細菌を用いてアンモニアを生成することをさらに含み、
前記独立栄養ジアゾトロフ細菌によって生成された前記アンモニアの少なくとも一部が、前記溶液中に排出される、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記溶解したガスの一又は複数の濃度をモニターすることをさらに含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記溶解したガスの一又は複数の濃度を制御することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
アンモニアを生成するためのシステムであって:
その中に溶液が含有されている反応器チャンバーを備え、
前記溶液が、溶解された水素、溶解された二酸化炭素、溶解された窒素、グルタミンシンテターゼ阻害剤、及び独立栄養ジアゾトロフ細菌を含む、
システム。
【請求項11】
コバルトリン合金を含む第1の電極及びリン酸コバルトを含む第2の電極に接続された電源をさらに備え、
前記第1の電極及び前記第2の電極が、前記反応器チャンバー内の溶液に少なくとも部分的に浸漬されている、
請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記溶液中にリン酸塩をさらに含む、請求項10又は11に記載のシステム。
【請求項13】
前記反応器チャンバー内の前記溶液中にガスを泡立てるガス導入口をさらに備える、請求項10から12のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
窒素、水素、及び二酸化炭素の少なくとも1種を含むガス供給源が、前記ガス導入口に流動的に接続されている、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記ガス供給源が、0.5%から5%の間の酸素を含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記リン酸塩が、9mMから50mMの間の濃度を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項17】
前記独立栄養ジアゾトロフ細菌が、キサントバクター・オートロフィカスを含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記独立栄養ジアゾトロフ細菌が、ブラディリゾビウム・ジャポニクムを含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記グルタミンシンテターゼ阻害剤が、グルホシネート及び/又はメチオニンスルホキシイミンを含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記リン酸塩が、9mMから50mMの間の濃度を有する、請求項12に記載のシステム。
【請求項21】
前記独立栄養ジアゾトロフ細菌が、キサントバクター・オートロフィカスを含む、請求項10から15のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項22】
前記独立栄養ジアゾトロフ細菌が、ブラディリゾビウム・ジャポニクムを含む、請求項10から15のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項23】
前記グルタミンシンテターゼ阻害剤が、グルホシネート及び/又はメチオニンスルホキシイミンを含む、請求項10から15のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府ライセンス権
[0001] 本発明は、海軍研究局学際的大学研究イニシアチブによって授与された助成金N00014−11−1−0725、及び空軍科学研究局によって授与された助成金FA9550−09−1−0689の下で政府の支援でなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
[0002] 開示された実施形態は、アンモニア合成に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003] その使用及び大規模農業のために、NからNHへの還元は、世界的な地球科学的窒素サイクル及び人口の持続可能性を維持するのに不可欠である。工業規模の量のNHを製造するための最も一般的な方法は、工業用ハーバー・ボッシュ法である。ハーバー・ボッシュ法は、効率的で拡張性がある。しかしながら、このプロセスは、供給原料として大量の天然ガスを消費し、高温高圧で作動し、且つ集中生産とそれに続くNH分配のための輸送に依存している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
[0004] 一実施形態では、アンモニアを生成するための方法は以下:溶液中に水素を溶解させること;溶液中に二酸化炭素を溶解させること;溶液中に窒素を溶解させること;溶液中にグルタミンシンテターゼ阻害剤を入れること;及び溶液中に独立栄養ジアゾトロフ細菌(autotrophic diazotoph bacteria)を入れることを含む。
【0005】
[0005] 別の実施形態では、アンモニアを生成するためのシステムは、その中に溶液が含有されている反応器チャンバーを含む。溶液は、溶解された水素、溶解された二酸化炭素、溶解された窒素、グルタミンシンテターゼ阻害剤、及び独立栄養ジアゾトロフ細菌を含む。
【0006】
[0006] 本開示はこの点に関して限定されていないので、前述の概念、及び以下で論じる追加の概念は、任意の適当な組合せで構成され得ることを理解されたい。さらに、本開示の他の利点及び新規な特徴は、添付の図面と併せて考慮すると、種々の非限定的な実施形態の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0007】
[0007] 添付図は、一定の縮小比で描かれているものではない。図中、種々の図に示している同一又はほぼ同一の構成要素はそれぞれ、同様の番号で表すことができる。明確にするため、すべての構成要素がすべての図面に明示されているとは限らない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】[0008]反応器内の周囲条件での分散型アンモニア合成の概略図である。
図2】[0009]OD600、通過した電荷量、全窒素含有量の濃度(Ntotal)、及び可溶性窒素含有量(Nsoluble)を時間に対してプロットした、CoPi|Co−P|X.オートロフィカス(X. autotrophicus)触媒システムを使用したN還元のグラフである。
図3】[0010]異なる条件下でのNtotal及びOD600の変化のグラフである。
図4】[0011]iR補正された、X.オートロフィカス培地中のCo−P HER陰極の線形走査ボルタンメトリー(線、10mV/秒)及びクロノアンペロメトリー(丸、30分平均)のグラフでである。
図5】[0012]細胞外培地におけるNH生成の概略図である。
図6】[0013]OD600、通過した電荷量、全窒素含有量の濃度(Ntotal)及びNH/NH4+細胞外含有量(NH)を時間に対してプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[0014] より伝統的な製造方法とは異なり、Nからの触媒的NH合成は、遷移金属錯体、電気触媒、光触媒、ニトロゲナーゼ、及び従属栄養ジアゾトロフ(heterotrophic diazotroph)を用いて報告されている。しかしながら、これらの手法は、通常限られた出来高をもたらし、還元剤として犠牲化学物質を使用する。その結果、本発明者らは、周囲条件でN及びHOからの選択的NH合成を可能にすることが望ましい可能性があることを認識した。これは、周囲条件でのNH合成に向けた分散型手法を可能にするのに役立つ可能性があり、再生可能エネルギー源を含む様々な形態の電力と一体化することもできる。このような製造手法に関連して考えられる利点は、より伝統的な製造方法と比較して、CO排出も削減しながら、アンモニアの現場での製造及び配置を可能にすることを含み得る。
【0010】
[0015] 上記を考慮すると、本発明者らは、アンモニアの製造に有用な1種又は複数の酵素を含む1種又は複数のタイプの細菌を含む溶液を含む反応器ベースの構成を使用することに関連する利点を認識している。具体的には、一実施形態では、アンモニアを製造するためのシステムは、溶液を含有するチャンバーを有する反応器を含み得る。溶液は、溶液中に溶解された水素、二酸化炭素、及び窒素並びにグルタミンシンテターゼ阻害剤を含み得る。溶液はまた、溶液中に1種又は複数の形態の独立栄養ジアゾトロフ細菌を含み得る。使用中に、独立栄養ジアゾトロフ細菌は、溶液内の化合物を代謝してアンモニアを生成する。具体的には、細菌は、所望のアンモニアを形成するために、RuBisCOなどのニトロゲナーゼと、窒素、二酸化炭素、及びヒドロゲナーゼを利用するヒドロゲナーゼ酵素を含み得る。適切な独立栄養ジアゾトロフ細菌には、キサントバクター・オートロフィカス(Xanthobacter autotrophicus)、ブラディリゾビウム・ジャポニクム(Bradyrhizobium japonicum)、又は指摘した化合物を代謝してアンモニアを生成できる任意の他の適切な細菌が含まれる。
【0011】
[0016] 実施形態に応じて、阻害剤は、細菌のバイオマスへのアンモニアの取り込みを少なくとも部分的に防止するために溶液中に含まれていてもよい。したがって、細菌によって生成されたアンモニアの少なくとも一部は、その後の回収のために溶液中に排出され得る。特定の一実施形態では、グルタミンシンテターゼ(GS)阻害剤、例えばグルホシネート(PPT)、メチオニンスルホキシイミン(MSO)、又は任意の他の適切な阻害剤を使用することができる。
【0012】
[0017] いくつかの実施形態では、反応器のチャンバー内に置かれた溶液は、1種若しくは複数の追加の溶媒、化合物、及び/又は添加剤を含む水を含んでいてよい。例えば、溶液は以下:リン酸ナトリウム及びリン酸カリウムを含むリン酸塩などの無機塩;鉄、ニッケル、マンガン、亜鉛、銅、及びモリブデンなどの微量金属サプリメント;又は上記の溶解ガスに加えて任意の他の適切な成分を含んでいてよい。このような一実施形態では、リン酸塩は、濃度が9〜50mMの間であってもよい。
【0013】
[0018] 上記の溶解ガス濃度は、溶液に通してガスをバブリングすること、溶液内に溶解ガスを発生させること(例えば電気分解)、又は溶液内の溶解ガスの濃度を制御する任意の他の適切な方法を含む、任意の数のやり方で制御することができる。その上、濃度を制御する種々の方法は、一定の動作パラメーターを用いて定常状態モードで動作させてもよく、及び/又は1種若しくは複数の溶解ガスの濃度は、上記の所望の範囲内になるように溶解ガスの濃度を変えるために、フィードバックプロセスが濃度、生成速度、又は他の適切なパラメーターを積極的に変えることを可能にするためにモニターしてもよい。ガス濃度のモニタリングは、pHモニタリング、溶存酸素計、ガスクロマトグラフィー、又は任意の他の適切な方法を含む任意の適切な様式で行なうことができる。
【0014】
[0019] いくつかの実施形態では、水素は、水の電気分解、すなわち水分解を用いて溶液に供給することができる。特定の実施形態に応じて、電源は、反応器チャンバー内の溶液に少なくとも部分的に浸漬されている第1の電極及び第2の電極に接続されていてもよい。電源は、電極に印加される任意の適切な電流の供給源に対応し得る。しかしながら、少なくとも一実施形態では、電源は、再生可能エネルギー源、例えば太陽電池、風力タービン、又は任意の他の適切な電流の供給源に対応し得るが、非再生可能エネルギー源が使用される実施形態も企図されている。どちらの場合にも、電源からの電流は、電極と溶液を通過して水素と酸素を放出する。電流は、所望の生成速度で所望量の水素及び/又は酸素の生成をもたらすように制御することができる。一実施形態では、電極は、水分解触媒でコーティングされ、又は形成されていて、水分解をさらに促進し、且つ/又は溶液に印加される電圧を低減させることができる。例えば、電極は、1種若しくは複数のコバルト−リン合金、リン酸コバルト、酸化コバルト、水酸化コバルト、オキシ水酸化コバルト、又は任意の他の適切な物質から作製することができる。特定の一実施形態では、第1及び第2の電極は、コバルト−リン合金を含む陰極及びリン酸コバルトを含む陽極に対応し得る。しかしながら、本開示はそのように限定されないので、他のタイプの陽極及び/又は陰極が使用される実施形態も企図されている。
【0015】
[0020] コバルト−リン合金及び/又はリン酸コバルトなど、リンベースの陽極及び/又は陰極が使用される場合には、リン酸緩衝液が溶液に含まれていてもよい。適切なリン酸塩には、リン酸ナトリウム及びリン酸カリウムがあるが、それだけには限定されない。理論に拘泥するものではないが、水の電気分解中に、リン及び/又はコバルトが電極から抽出されると考えられている。浸出したコバルトの還元電位は、溶液中で利用可能なリン酸塩からのリン酸コバルトの形成がエネルギー的に好まれるようなものである。溶液中に形成されたリン酸コバルトは、次いで遊離リン酸コバルトに直線的に比例する速度で陽極上に析出し、電極に自己修復プロセスをもたらす。リン酸塩の濃度は、9〜50mMの間であってもよいが、本開示はそのように限定されていないので、他の濃度も使用してもよい。
【0016】
[0021] 水の電気分解を用いて水素を生成する実施形態では、溶液に浸漬された一対の電極に印加される電圧は、第1と第2の電圧閾値との間になるように制限されてもよい。このような一実施形態では、電極に印加される電圧は、約1.8V、2V、2.2V、2.4V以上、又は任意の他の適切な電圧であってもよい。その上、印加された電圧は、約3V、2.8V、2.6V、2.4V以下、又は任意の他の適切な電圧であってもよい。例えば、1.8V〜3Vの間の一対の電極に印加される電圧を含む上記の電圧範囲の組合せが企図されている。しかしながら、本開示はそのように限定されていないので、上記のものよりも大きい及び小さい電圧の両方、並びに上記範囲の異なる組合せも企図されていることを理解されたい。例えば、理想的な分解電圧1.23Vにより近い水分解電圧を可能にする他の触媒も使用できることが想定される。
【0017】
[0022] 前に指摘したように、いくつかの実施形態では、反応器チャンバー内に含有されている溶液にガス流を導入して、溶液中に所望の割合のガスを溶解させることができる。例えば、一実施形態では、システムは、チャンバーに関連する1個若しくは複数のガス導入口に流動的に接続されている1個又は複数のガス供給源を含み得る。ガス導入口は、溶液中にガスを泡立たせるように構成されている。例えば、一方向弁は、チャンバー底部への導入口に流動的に接続されていてもよく、ガス供給源に接続されたチューブは、端部がチャンバー内の溶液中に浸漬されていてもよく、又はシステムは、ガスを溶液に導入するために任意の他の適切な構成を使用してもよい。したがって、ガス供給源が加圧型ガス流をチャンバーに供給する場合、ガスが溶液中に導入され、そこでそれが溶液中に泡立ち、ガスの少なくとも一部がその中に溶解する。
【0018】
[0023] ガス供給源は任意の適切なタイプのガスに対応し得るが、一実施形態では、ガス供給源は、1種又は複数の水素、窒素、二酸化炭素、及び酸素を供給することができる。その上、1つ又は複数のガス供給源によって反応器チャンバー内の溶液に供給される全ガス流は、任意の適切なガスの組成を有していてよい。しかしながら、一実施形態では、ガス流は、窒素を10〜99.46%の間、二酸化炭素を0.04〜90%の間、及び/又は酸素を0.5%〜5%の間含有し得る。本開示はそのように限定されていないので、異なるガスの混合物を、両方とも上記のものよりも大きい及び小さい異なるガス及び/又は異なる濃度を含む溶液中にバブリングする実施形態も当然ながら企図されている。
【実施例】
【0019】
[0024] 実施例
[0025] 実験に使用した反応器は、水素発生反応(HER)のためのコバルト−リン(Co−P)合金陰極及び酸素発生反応(OER)のためのリン酸コバルト(CoP)陽極を含む生体適合性水分解触媒システムを含んでいた。このシステムは、アンモニアを生成するのに使用する所望の水素を生成しながら、低駆動電圧(Eappl)の使用を可能にした。具体的には、N及びHOからのNH合成は、水分解システムを使用し、H酸化型独立栄養微生物内でN還元反応を促進することで達成された。この場合、キサントバクター・オートロフィカス(X.オートロフィカス)を使用した。X.オートロフィカスは、ジアゾトロフの小グループに属するグラム陰性菌であり、これは微好気性条件(O約5%未満)でHをそれらの唯一のエネルギー源として使用してCOとNをバイオマスに固定することができる。したがって、この実験的設定では、電気化学的水分解は、生物学的エネルギー源としてHを生成し、同じ反応器内で、X.オートロフィカスは、室温のN還元反応触媒として作用して、H及びNをNHに変換した。
【0020】
[0026] 図1は、水溶液中に浸漬した電極を収容する単一チャンバー反応器を含む実験装置の概略図を示す。電極は、水素発生反応のためのCo−P陰極及び酸素発生反応のためのCoP陽極を含んでいた。Oを2%、COを20%、及びNを78%含むガス混合物は、微好気的環境を維持するために5mL/分以上の流速で溶液中に泡立たせた。
【0021】
[0027] 実験中、水分解のために、OERとHER電極との間に定電圧(Eappl)を印加した。X.オートロフィカスのヒドロゲナーゼ(Hアーゼ)は、発生したHを酸化させ、カルビンサイクルにおけるCO還元及びニトロゲナーゼ(Nアーゼ)によるN固定化を促した。N還元の各ターンオーバーは、2個のNH及び1個のH分子を生じ、その後者は、ヒドロゲナーゼによって再利用することができる。生成したNHは通常バイオマスに組み込まれるが、前述のようにNH同化の阻害からの蓄積(経路2)の結果として細胞外に拡散させることもできる。
【0022】
[0028] 各実験の始めに、X.オートロフィカスは、いかなる窒素も補充していない有機物を含まない最少培地にインキュベートした。一定の駆動電圧(Eappl= 3.0V)をCoP|Co−P触媒システムに印加し、バイオマスの定量化(600nMにおける光学密度、OD600)並びに固定窒素(比色アッセイ)のためにアリコートを定期的に採取した。
【0023】
[0029] CoP|Co−P|X.オートロフィカスハイブリッドシステムは、犠牲試薬なしで電気を使用してバイオマス中にN並びにCOを還元した。図2は、OD600、通過した電荷量、全窒素含有量の濃度(Ntotal)、及び可溶性窒素含有量(Nsoluble)を実験の継続期間に対してプロットしたグラフを表す。H発酵実験(「Hジャー」)におけるOD600も比較としてプロットした。グラフ中のエラーバーは、n≧3の平均の標準誤差(SEM)を示す。図に示すとおり、水分解に通過した電荷量は、5日間の実験中のバイオマス蓄積(OD600)並びに培地中の全窒素含有量(Ntotal)に比例していた。
【0024】
[0030] 図3は、5日間の実験中における異なる実験条件下でのNtotal及びOD600の変化を表す。図に見られるように、細胞外可溶性窒素含有量(Nsoluble)に変化がなかったので、固定窒素はバイオマスに同化されていた。Ntotal 72±5mg/L、並びに乾燥細胞重量 553±51mg/Lが、実験にわたって連続的に蓄積した(n=3、図3における項目1)。対照的に、設計において以下の要素のうちの1つを省略した対照では、Ntotalの蓄積は観察されなかった:水分解、X.オートロフィカス、単一チャンバー反応器、及び微好気性環境(図2bの項目2〜5)。特にデュアルチャンバー実験の場合(図3の項目4)、Ntotal蓄積がないことは、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)によって決定されるように、24時間以内に0.9±0.2μMから40±6μMへの培地中の可溶性Co2+濃度の増加と同時に起こり、これはX.オートロフィカスの約50μM半最大阻害濃度(IC50)に近い。理論に拘泥するものではないが、これは、アニオン交換膜(AEM)の設置が、浸出したCo2+のCoP陽極への析出を妨げたことを示し、システムに使用される物質の生体適合性が望ましいシステム特性であり得ることを例示している。図にも示されているように、Ntotalの増加を大幅に超えるOD600の増加(3の項目4及び5)は、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)の蓄積からの光散乱による可能性が高く、それは炭素過剰と結びついた栄養素制約の条件で炭素貯蔵ポリマーとして製造される。
【0025】
[0031] 記載されたハイブリッドシステムのNRR活性も行なわれた全細胞アセチレン還元アッセイによって支持されている。具体的には、アリコートは、O/H/CO/Arガス環境(2/10/10/78)に曝露された操作装置から直接採取され、127±33μM・h−1・OD600−1の速度で注入したCを独占的にCに還元することができた(n=3)。ニトロゲナーゼによるC還元の運動速度が反応化学量論に基づいてN還元の1/4である場合、この活性は、OD600=1.0の培養について、1日当たり約12mg/L Ntotalに相当する。このN固定速度は、5日間の実験中に測定されたNtotal蓄積と一致し、他の対照と関連して他の仮定の窒素供給源の可能性を排除する(上記参照)。この測定は、細菌細胞当たり1.4×10−1のNRRターンオーバー頻度(TOF)に対応する。以前の文献に基づいて約5000のニトロゲナーゼコピー数を仮定すると、このNRR TOFは、おおよそ酵素当たり約3s−1に相当し、それは以前の研究と一致している。同等のターンオーバー数(TON)は、おおよそ細菌細胞当たり8×10、ニトロゲナーゼ当たり1×10であり、以前に報告された合成及び生物学的触媒よりも少なくとも2桁高い。
【0026】
[0032] 図4は、iR補正された、X.オートロフィカス培地中のCo−P HER陰極の線形走査ボルタンメトリー(線、10mV/秒)及びクロノアンペロメトリー(丸、30分平均)の結果を表す。HER及びNRR(EHER、ENRR)の熱力学値が表示されている。印加されたEappl=3.0Vからの電圧寄与は、I−V特徴付けの下に示されている。NRR反応は、160mVほど低い動的駆動力で動作する。X.オートロフィカス培地中のCo−P HER陰極のI−V特徴付けは、約0.43Vの見かけの過電圧を示す。理論に拘泥するものではないが、この値の大部分は電極の触媒特性に固有のものではないが、弱緩衝液(9.4mMリン酸塩)中でのプロトン濃度勾配の強化から生じる。大量輸送の寄与を差し引くことにより、固有のNRR過電位は約0.16Vであり、文献におけるこれまでの報告よりもはるかに低い。希釈培地の塩分はその後、以前に報告されたものよりも高いEappl=3.0Vの駆動電圧が使用される。低いイオン伝導率は、Eapplの約28%(約0.85V)に寄与し、これは追加の最適化によって低減する可能性がある。それにもかかわらず、11.6±1.9%の電気的CO還元効率(ηelecCO2、n=3)に加えて、実験におけるNRRのエネルギー効率(ηelecNRR)は、5日間の実験中1.8±0.3%(n=3)である。これは、1メートルトンNH当たり約900GJに相当するが、熱力学的限界は、1メートルトンNH当たり20.9GJである。ニトロゲナーゼの反応化学量論及び上流の生化学的経路に基づいて、1個のN分子を還元するのに必要とされるH分子の理論的数は、9.4〜14.7の間の範囲であり、それは7.5〜11.7%のηelecNRRの上限を設定する。したがって、この実験で報告されている窒素還元量は、理論収率の15〜23%であり、周囲条件での他のシステムのファラデー効率又は量子収率よりもはるかに高い。
【0027】
[0033] 記載された実験及びシステムは、同様の条件でのガス発酵と比較してより速いN還元及び微生物増殖を示した。ハイブリッドシステムで観察された線形成長(図2)とは対照的に、約10%のHを含有するヘッドスペースを補充した同じ条件でのガス発酵(図2の「Hジャー」実験)は、比較的ゆっくりとした非線形成長を示す。この差はN固定に依存し、アンモニアが培地に補充された場合、ガス発酵及び電気分解の下での増殖は、識別可能な差を実証しなかった。理論に拘泥するものではないが、これは、ニトロゲナーゼに対するHの競合的阻害の結果であると考えられており、阻害定数Kis(D)は約11kPaである。ハイブリッド装置において電気分解が定常状態で低H分圧を維持する場合、ガス発酵中の高いH濃度は、N固定速度を遅くし、且つ/又はNRRエネルギー効率を低減させる可能性がある。この仮説は、ガス発酵の場合により遅いバイオマス蓄積を示す数値シミュレーションによって支持されている。したがって、電流実験は、水分解から生成したHが下流の生化学的経路に影響を及ぼし得るので、記載されたハイブリッド装置がガス発酵槽と水分解電解槽との単純な組合せと比較してさらなる利点を提供し得ることを示す。
【0028】
[0034] ハイブリッド装置は、合成されたNHを細胞外培地に排出することができる。この株に対する以前の生化学アッセイ及びゲノム配列決定は、ニトロゲナーゼから生成されたNHが、グルタミンシンテターゼ(GS)及びグルタミン酸シンターゼ(GOGAT)によって媒介される二段階プロセスを介してバイオマスに組み込まれることを示す(図1及び5)。このNH同化経路の機能が破壊されると、細胞外NH肥料溶液の直接製造が実現する。GS阻害剤は、糖発酵性ジアゾトロフにおけるNH分泌に使用できることが報告されている。原理の証明として、除草剤として市販されている特異的なGS阻害剤であるグルホシネート(PPT)は、NH同化経路を遮断し、合成されたNHを細胞外培地に受動的に拡散させるために使用された(図1の経路2、及び図5)。PPT添加後、X.オートロフィカスのバイオマスは停滞したが、溶液中のNtotal及び遊離NHの濃度(NNH3)は増加した(図6)。これは、PPT添加後の窒素蓄積は、ほとんど細胞外NHの形態をとったことを示す。実験の終わりに、NNH3の濃度は、11±2mg/L(約0.8mM)であり、蓄積Ntotalは47±3mg/Lに達した(n=3、表S1)。N固定速度は、実験の後期に減速する傾向があり、それは転写及び転写後レベルでの窒素調節に関連している可能性がある。合成生物学におけるさらなる操作は、この制限を緩和することが可能である。
【0029】
[0035] 上記実験は、N、HO、及び電気からの代替NH合成手法の製造及び使用を実証する。水分解−生合成プロセスは、周囲条件で作動し、窒素肥料のオンデマンド供給のために分散させることができる。エネルギー効率18%の光起電力デバイスなどの再生可能エネルギー供給と組み合わせた場合、太陽光発電によるNHへのN固定は、最大0.3%の太陽からNHへの効率(solar-to-NH3)と2.1%の太陽CO還元効率で達成することができる。通常の作付システムでは、毎年1平方メートル当たり約11gの窒素が低減し、これは約4×10−5の太陽からNHへの効率に相当する(2000kWh/mの年間日射量を想定)。したがって、この手法は、はるかに高い効率をもたらし、化石燃料を使用せずに肥料生産のための持続可能な経路を提供する。本開示として、化石燃料を使用して種々の供給原料(すなわちガス)を供給することができる例でも、所望のアンモニア生成をもたらすために、再生可能エネルギーを使用すること及び/又は反応器内で直接水を分解することだけに限定されない。
【0030】
[0036] 本教示を種々の実施形態及び実施例と併せて説明してきたが、本教示はそのような実施形態又は実施例に限定されることを意図するものではない。これに反して、本教示は、当業者には理解されるように、種々の代替形態、修正形態、及び等価物を包含する。したがって、前述の説明及び図面は、ほんの一例である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6