(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本願発明の
参考例と実施形態を図面に基づいて説明する。以下では、拡張式アンカーは、単に「アンカー」と呼ぶこととする。
【0033】
(1).第1
参考例
まず、
図1に示す第1
参考例を説明する。アンカーは、例えばコンクリート構造物に使用されるものであり、スチール製の本体1を備えている。なお、本体1は、用途に応じて他の金属製とすることも可能である。
【0034】
本体1は、中空の円筒状であり、先端側に、4本のスリット2を備えた拡張部3を形成している。すなわち、4本のスリット2を形成することにより、先端側に拡張部3を形成している。スリット2は、周方向に等間隔で4本形成されており、それぞれ拡張部3の(或いは本体1の)先端面3aに開口している。従って、拡張式アンカーは先割れ方式になっている。また、拡張部3は、スリット2
で分断された帯状片(帯状部)の集合体になっている。
【0035】
本体1の内部には、拡張部3を拡径するための多数のボール4を充填している。また、本体1の内周には雌ねじ5が形成されており、この雌ねじ5に、ボール4の群を押すためのボルト6をねじ込んでいる。ボール4は同じ大きさに表示しているが、実際には、外径が異なる複数種類のボールを充填し、内部をなるべく密に構成するのが好ましいと云える。ボルト6は頭を備えておらず、一端に、レンチ7が嵌まる係合穴を有している。なお、雌ねじ5は、本体1の全長に亙って形成することも可能である。
【0036】
本体1の先端部には、ボール4の抜けを阻止する内向きのストッパー部8を形成している。従って、ストッパー部8も、スリット2で4つに分断されている。拡張部3の内周面3bは、ストッパー部8を除いてストレートに形成されている。換言すると、拡張部3のうちストッパー部8を除いた部分は、内径及び外径が一定の(等厚の)ストレート状の筒状部になっている。従って、拡張部3のうち大部分は、ストレート状の筒状部になっている。
【0037】
アンカーをコンクリートの施工部(相手部材)9の下穴10に挿入してから、レンチ7でボルト6をねじ込むと、ボール4の群が軸方向と放射方向(軸心と直交した方向)とに押されて、拡張部3は、その外径が大きくなるように拡径する(膨れる)。これにより、拡張部3が下穴10に(施工部9)に強く突っ張って、アンカーは下穴10に固定される。そして、拡張部3は、内周及び外周ともストレート形状になっているため、ボール4による押圧力が拡張部3の全長にわたって略均等に作用する。このため、ボール4が全く潰れ変形せずに理想的に拡径した状態では、拡張部3は拡径した状態でストレート状になっており、基端部の僅かの範囲がテーパ部11になっている。
【0038】
ワークの固定方法は、用途によって選択したらよい。
図1の(F)では、吊りボルト12を取付けた状態を示しており、吊りボルト12はナット13で本体1に固定されている。
図1の(G)では、金具等の部材14がボルト15で固定された状態を示している。
【0039】
(2).評価
図2(A)では、第1
参考例のものと従来品16とについて、同じ状態で引き抜き荷重をかけていったときの引き抜き寸法と引き抜き抵抗との関係を表示している。(A)のグラフにおい、縦軸は引き抜き抵抗を示しており、単位は例えばNである。横軸は引き抜き寸法であり、単位は例えばmmである。
(E)は第1
参考例のもの、Pは従来品である。S1は、実際に使用される荷重である。
【0040】
(C)に示すように、従来品16はピン17で拡張する方式のアンカーであり、拡張部3はテーパ状に広がっている。(B)では、第1
参考例のアンカーを模式的に表示している。
第1参考例及び従来品とも、ある程度の荷重がかかるまでは移動はせずに、ある程度の荷重を越えてから移動を開始する。
【0041】
第1参考例及び従来品16ともバラツキはあるが、引き抜き寸法Rの増加率に対する引き抜き抵抗Sの増加率(すなわち線の傾き角度θ)を見ると、
第1参考例は、従来品16に比べてθが小さくなっており、この点は各サンプルとも一貫している。つまり、
第1参考例は、同じ荷重が掛かったときに、抜き方向に移動する寸法が従来品16よりも遥かに小さい。
【0042】
引き抜き抵抗の最大値については、従来品16が優れている場合もあるし、
第1参考例が優れている場合もあり、バラツキが見られた。実際に使用する場合は、数倍の安全率を見込んで使用するので、通常の使用状態では、
参考例は、抜き方向に全く移動しないか、移動してもごく僅かであり、このため、部材を安定的に保持できる。これに対して従来品16は、荷重がある程度になると、大きな割合で抜ける傾向があり、滑りやすいといえる。
【0043】
更に、
本参考例の特徴は、引っ張り力がある程度まで増大すると、最大抵抗のままで移動量が増大することである。これに対して従来品16は、引っ張り力がある程度に至ると、引き抜き抵抗が減少しながら抜け量が増大している。従って、
本参考例は、アンカーが抜け切るまで高い抵抗が保持されており、持ちこたえ力が高い。
【0044】
本参考例においてθが小さいことの理由は、拡張部3の付け根のテーパ部11の角度が大きいため、付け根が下穴10に強く食い込むためと推測される。また、拡張部3の付け根が下穴10に食い込んだままでアンカーが移動するため、最大抵抗が維持されていると推測される。
【0045】
他方、従来品16は、下穴10に対する引っ掛かりが弱いため、荷重の増加率に対する移動量の割合が大きく(θが大きく)、また、移動しているうちに拡張部の摩擦抵抗が徐々に小さくなって、最後に抵抗が急激に低下すると推測される。つまり、従来品16は下穴10を滑りやすいと推測できるが、その原因は定かでない。
【0046】
(3).第2
参考例(
図3)
図3に示す第2
参考例では、拡張前の状態で、拡張部3の外周面3cを先窄まりのテーパに形成している。内周面3bはストレート形状である。従って、拡張部3の厚さは、先端に向かって小さくなっている。但し、全体としては、ストレートに近い形態になっている。この
参考例では、拡張部3がボール4で押されると、拡張部3の外周面は下穴10に密着するため、拡径状態では、(B)のとおり、拡張部3の内周面は先広がりのテーパ状になる。
【0047】
さて、アンカーが荷重によって抜き方向に移動すると、抵抗は付け根のテーパ部11に強く作用する。このため、テーパ部11は、(B)に矢印18で示すように、広がり角度が小さくなろうとする。すると、ボール4は矢印19で示すように先端側に移動する傾向を呈する。すると、拡張部3の先端部は、矢印20で示すように、ボール4で押されて半径を大きくするように広がろうとする(拡径しようとする)。つまり、アンカーが抜き方向に移動すると、ボール4によって拡張部3がテーパ状に広がろうとする傾向を呈する。これにより、高い引き抜き抵抗が発揮されると推測される。
【0048】
ボール4が全く変形しない硬度及び靱性を有する場合は、完全な玉突き現象が生じて、各ボール4に対して、ボルト6の押圧力が作用する。従って、拡張部3は、ストレート状のままで均等に拡径する(膨れる)。しかし、ボール4が潰れ変形すると、拡張部3の基端部に位置したボール4の群が、互いに密着した状態に潰れて塊の状態になることがある。このように、ボール4の群が拡張部3の基端部において塊の状態になると、ボルト6の押圧力が先端側に作用せずに、拡張部3の全体を均等に拡径することができず、意図した引き抜き力を得ることができなくなってしまう。
【0049】
この点、本
参考例では、拡張部3は、その内径を先広がりのテーパ状に拡径することにより、ボール4が先端側に移動しやすくなっているため、ボール4の硬度が多少低
くても、ボルト6の押圧力を先端側のボール4に強く作用させることができる。従って、拡張部3の均等な拡径を助長できる。これにより、引き抜き抵抗を向上できると云える。
【0050】
また、拡張部3が引き抜き方向に移動すると、拡張部3は窄まろうとするが、拡張部3の内径は広がっているため、ボール4の群が拡張部3の窄まり変形に対して強い抵抗として作用する。この点においても、引き抜きに対して高い抵抗を発揮すると云える。
【0051】
(4).第3〜5
参考例(
図4)
図4(A)に示す第3
参考例では、拡張部3に、角形(正方形又は長方形)の環状溝21を複数条(4条)形成している。最も基端側に位置した環状溝21は、スリット2の基端よりも先端側に位置している。この
参考例では、環状溝21の箇所は強度が弱くなっているため、ボール4によって拡径されるに際して、(C)に示すように、環状溝21の箇所が屈曲する形態を呈する。これにより、環状溝21の開口縁を構成するエッジ21a,21bが下穴10に(施工部9に)食い込んで、高い引き抜き抵抗を発揮すると云える。
【0052】
図4(D)に示す第4
参考例は第3
参考例の変形例であり、この
参考例では、環状溝21を、先端側のみに角張ったエッジ21aが存在して、基端側は傾斜面21cになっており、全体として略台形に形成されている。この
参考例では、基端側のエッジ21aのみが下穴10に(施工部9)に大きく食い込むため、引き抜き抵抗は更に強くなると云える。環状溝21は、三角形(直角三角形)でもよい。
【0053】
図4(E)に示す第5
参考例も第3
参考例の変形例であり、この
参考例では、第3
参考例と同様に環状溝21
を正方形又は長方形の角形(矩形)に形成して、最も基端側に位置した環状溝21(19′)をスリット2の基端の箇所に配置している。
【0054】
この
参考例では、拡径状態で、最も基端側に位置した環状溝21(21′)の箇所で屈曲する状態になるため、最も基端側に位置した環状溝21(21′)の箇所の先端側のエッジ21aが下穴10に強く食い込むと云える。従って、この
参考例でも、高い引き抜き抵抗を確保できると云える。最も基端側に位置した環状溝21(21′)の溝幅を、他の環状溝21よりも大きくすることも可能である。
【0055】
スリット2の本数は、任意に設定できる。拡張部3を先端側と基端側とに2分して、基端側と先端側とでスリットの本数を異ならせることも可能である。例えば、基端側には3本のスリット2を形成して、先端側には、基端側のスリット2の延長部に加えて3本の別のスリットを追加して6本のスリットを形成する、といったことが可能である。また、環状溝21に、硬質の材料からなるリングを嵌め込むことも可能である。
【0056】
(5).第6〜10
参考例(
図5)
図5(A)(B)に示す第6
参考例では、拡張部3の外周面を先窄まりのテーパ状に形成して、拡張部3の外周面に、下穴10(施工部9、コンクリート)に食い込む突起23を形成している。突起23の周方向の長さは、拡張部3のうちスリット2で挟まれた帯状片の幅よりも遥かに小さい寸法に設定している。また、突起23は、コンクリートへの食い込みを良好にするため、三角形状の山形に形成している。
【0057】
突起23の群は、スリット2で分断された各帯状片に、軸方向に等間隔で並べて形成されている。隣り合った帯状片の突起23は周方向に並んでいるが、隣り合った帯状片の突起23を、軸方向にずらして配置してもよい(千鳥配列にしてもよい。)。
【0058】
本体1は、外周面がストレートになっている材料で製造されてり、拡張部3の外周面をテーパ状に形成するに当たって、まず、突起23の箇所を削り残して環状突起を形成し、次いで、環状突起の一部をカッターや砥石などで部分的に切除すことにより、小さい幅寸法の突起23を形成している。すなわち、突起23の箇所が残るように、素材を切削している。従って、突起23の外接円の直径は、本体1の素材径と同じになっている。また、先端に近い突起23ほど高さが高くなっている。
【0059】
この
参考例では、拡張部3がボール4の群によって拡径すると、拡張部3は、その外周面が施工部9の下穴10に密着して、各突起23が下穴10(コンクリート)に食い込む。これにより、極めて高い引き抜き抵抗を実現できる。そして、本体1はストレートの材料で製造されているため、突起23を形成することはごく簡単であり、製造は容易である。また、外周面はテーパ形状であるため、第2
参考例と同じ効果が発揮される。
【0060】
図5(C)に示す第7
参考例では、突起23
の断面形状
が、先端側のみに傾斜面が形成された直角三角形になっている。このため、引き抜き抵抗は一層高くなると云える。この形態は、突起23を備えている各
参考例に適用できる。突起23の周方向の幅寸法や配置個数、或いは高さや断面形状は、任意に設定できる。
【0061】
図5(D)(E)では、拡張部3の厚さが他の部位よりも小さくなっているが、外径と内径との両方を小径に設定することにより、拡張部3の厚さを他の部位と同じ寸法に設定することも可能である。(A)は、内周面も先窄まりのテーパに形成すると、拡張部3を全体に亙って等厚に形成できる。
【0062】
図5(A)の第6
参考例では拡張部3をテーパ状に形成したが、
図5(D)の第8
参考例では、拡張部3の全体を、他の部位よりもやや小径のストレートに形成している。従って、各突起23は同じ高さになっている。この
参考例でも、拡張部3は、付け根を除いた全体が均等に拡径して、各突起23が下穴10に食い込む。そして、各突起23は同じ高さであるため、引き抜き抵抗は更に高くなると云える。
【0063】
図5(E)に示す第9
参考例では、拡張部3のうちストッパー部8の箇所を除いて、他の部位よりもやや小径のストレート形状に形成し、この小径部に多数の突起23を形成している。この
参考例では、使用状態では、小径部が膨れ変形して、各突起23が下穴10に食い込む。この場合も、各突起23は同じ高さであるため、高い引き抜き抵抗を確保できる。
【0064】
図5(F)に第10
参考例では、突起23を環状のまま残してスリット22で分断された状態に残している。すなわち、突起23は帯状片の全幅に亙って形成されている。各帯状片に突起23(突条)を複数形成する場合、帯状片の全幅に亙って広がったものと、帯状片の幅よりも小さいものとを、周方向に交互に分けて形成することも可能である。或いは、突起23は、軸方向の1か所だけに形成することも可能である。
【0065】
図5の各
参考例は、拡張部3の変形を利用して突起23を下穴10に食い込ませるものであり、拡開前の状態で突起23は本体1の基準外周面(素材の外周面)から突出していないため、下穴10の挿入は全く支障はない。また、拡張部3をある程度拡開すると、突起23が下穴10に食い込んで突起23は回転不能になるため、拡開作業も容易である。
【0066】
(6).第
1〜3実施形態(
図6)
さて、本願発明のように、拡張部3の拡径手段として個数個のボール4を使用する場合、所定の大きさのボールを所定の個数だけ正確に装填することが必要である。この場合、本体にボール4をバラバラに装填してからボルト6をねじ込むことで離脱不能に保持することも可能であるが、装填作業において、不注意などにより、ボール4の投入個数を間違えるなどの問題が想定される。特に、大きさが異なる複数種類のボールをそれぞれ多数個ずつ使用する場合は、装填間違いが発生しやすいといえる。
【0067】
そこで、
図6の実施形態では、ボール4の群を、保持手段によってバラバラに分離しない状態にユニット化しており、ユニット化を本体1に装填することにより、組み立ての確実性と容易性とを図っている。
【0068】
図6のうち(A)に示す
第1実施形態では、保持手段として樹脂チューブを使用している。すなわち、帯状に長い長尺のチューブ原反30を使用して、その一端をシールして底31を形成するのと同時に、所定長さの包装体(単位チューブ)32に切断して、包装体32にボール4の群を投入してから、開口部33をヒートシール等で塞いで封止している。
【0069】
つまり、ホッパーに所定個数のボール4を投入してから、包装体32の開口縁に筒状等のシュートの先端部を挿入し、次いで、シャッターを開いてボールの群を包装体32に投入し、それから包装体32の開口部を封止するものである。この工程は全体を自動化することも可能であるし、手作業で行うことも可能である。
【0070】
長尺のチューブ原料30を使用する場合、まず、底部をヒートシール等で形成してからボール4の群を投入して開口部をヒートシール等で塞ぎ、次いで、包装体32にボール4の群を投入してから開口部を閉止し、次いで、ボール4が封入された包装体32をチューブ原反30から切断する
のと同時に、次の包装体32の底をヒートシールで形成する、という方法も採用できる。
【0071】
図6(B)に示す
第2実施形態では、保持手段(保持具)として有底筒状のケース34を用意して、これにボール4の群を投入してからキャップ(蓋)35で塞いでいる。この実施形態では、ケース34ごと本体1の内部に装填される。キャップ35は強制的に嵌め込んだらよい。ケース34及びキャップ35は樹脂製でもよいし、紙製などでもよい。
【0072】
更に、
図6(C)に示す
第3実施形態では、保持手段として接着剤36を使用して、ボール4同士を接着剤36で接合して、ボール4の群の全体を1つにユニット化している。他の保持手段としては、例えば、ボールの群をUV樹脂に浸漬して、UV樹脂を紫外線で硬化させて一体化するといったことも可能である。
【0073】
保持手段として袋を使用する場合、ゴム製の袋を使用することも可能である。この場合は、入口が広がるためボールの投入が容易になる利点がある。袋にしてもチューブにしても、開口部は袋自体を結んで封止することも可能である。
【0074】
(7).
第4実施形態・第11〜14参考例(
図7)
図7では、中間部材38を使用した実施形態
及び参考例を示している。これらの実施形態
及び参考例において、本体1の構造は、例えば第1
参考例と同様である(スリット2は3本でもよいし、4本でもよい。)。
【0075】
図7(A)に示す
第11参考例では、拡張部3に、スチール製等の中実棒状の中間部材38を配置し、中間部材38を挟んだ前後両側に、1つの大径のボール4aと複数個の小径のボール4bとを配置している。中間部材38の先端部は先窄まりのテーパ部38aに形成されている。また、中間部材38の前方では、大小のボール4a,4bは、大径のボール4aが前に位置して(ストッパー部8に寄っていて)、小径のボール4bの群が後ろに位置する(中間部材38に寄っている)ように配置している。
【0076】
他方、中間部材38の後ろに位置したボール4a,4bは、小径のボール4bが前に位置して、大径のボール4aが後ろに位置するように配置している。また、本体1に、後ろに位置した大径のボール4aを押す軸状のプッシャー39が配置されている。プッシャー39を使用せずに、後ろの大径のボール4aをボルト6で押すことも可能である。
【0077】
図7(B)に示す
第12参考例では、中間部材38の前方の箇所には、小径のボール4bのみを配置している。
【0078】
これら
図7(A)(B)の
参考例では、中間部材38の前後両側において小径のボール4bが放射方向に移動することにより、拡張部3は、
図7(A)に一点鎖線で示すように全体として均等に拡径したり、同じく
図7(A)に二点鎖線で示すように、先広がり状に拡径したりする。中間部材38の前後での拡径作用が同じ程度である場合は、一点鎖線のように拡径し、中間部材38の前方での拡径作用が高い場合は、二点鎖線のように拡径するといえる。
【0079】
これらの
図7(A)(B)の
参考例の特徴は、後ろの小径のボール4bが、大径のボール4aが押されて放射方向に移動しつつ、後ろの大径のボール4aが中間部材38の後面に当接して、前方のボール4a,4bにして押圧力を強く作用させ得ることである。従って、中間部材38の後面は、軸線と直交したフラット面であるのが好ましい。中間部材38の先端部(前部)にテーパ部38aを形成していることは、中間部材38の前方に位置して小径のボール4bが放射方向に移動することを確実化することに大きく貢献している。
【0080】
中間部材38の前方に大径のボール4aを配置して、これをストッパー部8に当接させておくと、拡張部3の拡径に際して、ストッパー部8からボール4bが抜け出ることを防止できて好適である。
【0081】
図7(C)に示す
第4実施形態では、
第12参考例のボール4a,4bと中間部材38とプッシャー39とを、チューブ状の包装体32で1つにユニット化している。従って、組み立て作業を正確かつ容易に行える。
【0082】
図7(D)〜(E)に示す
第13参考例では、中間部材40の前後両側に、周方向に並んだ複数のくさび体40a,40bを一体に設けて、くさび体40a,40bで囲われた部位に大径のボール4のみを配置している。前部のくさび体40aは6等分されて、後部のくさび体40bは3等分されている。従って、後部のくさび体40bは変形しにくくなっている。くさび体40a,40bの等分数は、任意に設定できる。
【0083】
各くさび体40a,40bは、放射方向の厚さが、基端から先端に向けて小さくなっている。このため、くさび体40a,40bの群により、内面を先広がりにしたテーパ筒が構成されている。従って、ボール4aの押圧作用により、各くさび体40a,40bは放射方向に広がるように曲がり変形し、その結果、拡張部3を拡径させる。
【0084】
(8).
第14参考例(
図8)
図8に示す
第14参考例では、拡張部3をいったん工具によって広がり変形させてから、施工部
9の下穴10に入るように窄まらせている。(C)では、スリット2が開いた状態が残るように窄まらせており、(D)では、スリット2を閉じることによって窄まらせている。この
参考例では、拡張部3に曲がり癖がついていることにより、施工に際しての拡径を容易化できるといえる。
【0085】
(9).
第15考例(
図9)
図9では、クローズド方式のアンカーに関する
第15参考例を示している。この参考例では、スリット2が先端面まで開口していないクローズド方式のアンカーにおいて、拡張部3に、後ろ向きに延びる係合体51を、周方向に複数(2本)形成している。係合体51は、その付け根を除いてスリット2で囲われている。従って、係合体51は、後ろ向きに延びる片持ち梁の形態になっている。
【0086】
製法としては、(A)のように、係合体51になる部分を有するように素材を加工してから、(B)のようにスリット2を形成することにより、片持ち梁状の係合体51を形成し、次いで、(C)のように係合体51を内側に押し曲げる。
【0087】
係合体51は、自由端に向けて放射方向の厚さが厚くなっている。従って、係合体51は、軸方向に長い爪の形状になっている。係合体51は、使用前の状態では、拡張部3の外周に突出しないように内向きに曲げられており、使用に当たっては、係合体51が、先端部を先窄まりのテーパ状に形成したボルト6で押し広げられる。この
参考例では、引き抜き力が高くなるほど係合体51は下穴10に食い込み勝手になるため、引き抜きに対して非常に強い抵抗を発揮すると期待できる。
【0088】
図では、係合体51をボルト6で広げているが、テーパピン(くさび部材)をボルト6で押圧することも可能である。或いは、ボルト6を使用せずに、テーパピンをインパクトハンマで打ち込むことも可能である。図では、係合体51は片持ち梁状になっているが、拡張部3に突設することも可能である。
【0089】
(10). その他
以上、本願発明の実施形態
や参考例を説明したが、本願発明は、他にも様々に具体化できる。例えば、アンカーは、円筒形(真円型)に代えて、多角形や楕円形に形成することも可能である。また、ワークの取付け手段としては、本体の基端部に雄ねじを形成して、この雄ねじにねじ込んだナットで部材を施工部に押さえ固定することも可能である。
【0090】
スリットの数は1本でもよい。また、スリットを、軸心に対して傾斜した姿勢(或いは軸心回りに捩じれた姿勢)に形成することも可能である。なお、拡張部材を保持手段によってユニット化することは、クローズド方式のアンカーで使用する拡張部材についても適用できる。