【文献】
MOITRA, N. et al.,Surface Functionalization of Silica by Si-H Activation of Hydrosilanes,J. Am. Chem. Soc. ,米国,American Chemical Society,2014年08月06日,Vol. 136,pp. 11570-11573
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記照射が光開始剤の非存在下で行われ、前記光が200nm〜300nm、好ましくは260nm〜300nm、より好ましくは280nm〜300nmの範囲の波長を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
前記表面改質化合物が、前記表面改質化合物と、光開始剤、溶媒、前記表面改質化合物に対して反応性のある化合物、ならびに、マイクロおよび/またはナノ粒子の1つまたは複数とを含む表面改質化合物組成物の形態で前記表面と接触する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
前記方法がb)を伴い、前記固体材料が、水素終端ガラス(H−ガラス)、O−Si−H基を有する表面を有するように修飾されたポリマー、または、ポリ(メチルヒドロシロキサン)である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
表面改質は、バイオ認識、防汚、および/または(反)濡れなどの本質的な特性を有する材料およびデバイスを提供するので、マイクロおよびナノテクノロジーにおいて重要な役割を果たす。多くの応用にとって、これらの特性、すなわち表面上の異なる機能性のパターンを局所的に制御することは有益である。例としては、バイオセンサー、マイクロ流体工学、および、マイクロアレイまたは細胞研究用の基板が挙げられる。しかしながら、(クロロまたはアルコキシ)シランまたはチオールの自己組織化単分子層のような周知の表面改質技術を使用すると、パターニングは、複雑で時間のかかるリソグラフィープロセスによってのみ達成することができる。
【0003】
パターン化された表面を調製するためには、フォトマスクを通して基板を照射することによって、直接的な構造的パターン化が可能になることから、光化学的表面改質方法が望ましい。光化学的表面改質のためのいくつかの代替方法が知られている。例えば、H終端(エッチングされた)シリコン上でのアルケンおよびアルキンの有機単分子層の光開始形成は、米国特許第5429708号明細書から知られている。後に、米国特許第8481435号明細書および米国特許第8221879号明細書に記載されているように、Si
3N
4およびSiCのような他のエッチングされたシリコン(およびゲルマニウム)系材料も同様に改質できることが分かった。また、ヒドロキシル終端とされた表面(例えばガラス)に、アルケン/アルキンを光化学的に結合させることができることも米国特許第8993479号明細書に示されている。
【0004】
これらの方法がパターン化表面を調製するのに有用であるとしても、アルケン/アルキン単分子層による光化学的表面改質にはいくつかの欠点がある。最も重要なことには、高品質の単分子層の調製には時間がかかり(10時間超)、それ故、この方法の実際の適用性は限定されている。さらに、これらの改質は、O
2およびH
2Oの不存在下で実施されるべきであり、それはこの方法の実用的用途を減少させる。その上、光開始剤の不存在下での酸化物表面の改質は、275nm未満(典型的には254nmが使用される。)の波長のUV照射を必要とし、それは生体分子および基板材料との適合性の問題を引き起こし得る。
【0005】
最近、2段階表面改質手順が報告され、より長い波長(302nm)の光を水素終端ガラス(H−ガラス)上のアルケン単分子層の形成に使用することが可能になった(R. Rijo Carvalho, S. P. Pujari, S. C. Lange, R. Sen, E. X. VrouweおよびH. Zuilhofによる“Local Light-Induced Modification of the Inside of Microfluidic Glass Chips”, Langmuir 32 (2016) 2389-2398)。しかしながら、表面にSi−H基を導入することは追加の工程を必要とし、結果として複雑さが増す。さらに、このアルケンの反応は遅く、16時間もの時間を要する。
【0006】
ヒドロシラン(ヒドリドシランまたはケイ素水素化物とも呼ばれる。)を使用する表面改質は、従来のクロロ−またはアルコキシシラン−をベースにした方法に代わるものとして提案されてきた。ヒドロシランは周囲条件においてより安定であり、それゆえ精製および取り扱いがより容易である。さらに、それらは広範囲の末端官能基と適合性がある。米国特許第6331329号明細書、米国特許第6524655号明細書および米国特許第6673459号明細書に記載されているように、ヒドロシラン層は、種々の金属酸化物表面上に調製されてきた。しかしながら、高品質の層を得るためには、高温での長い反応時間が必要とされる。さらに、金属酸化物表面は触媒的役割を果たすことがわかり、したがって、ヒドロシランは、室温でSiO
2、カーボンブラックおよび有機ポリマーなどの非金属表面とは反応しないことがわかった(R. Helmy, R.W. WenslowおよびA.Y. Fadeevによる“Reaction of Organosilicon Hydrides with Solid Surfaces: An example of Surface-Catalyzed Self-Assembly”, J. Am. Chem. Soc. 126 (2004) 7595-7600)。
【0007】
国際公開第2015/136913号には、ボラン触媒の存在下で、表面に極性基を有する基板と、分子構造Aのケイ素原子に水素原子が結合しているSi−H基を有するヒドロシラン化合物とを接触させる工程を含み、基板とその化合物との間で脱水素縮合反応を促進し、これにより、分子構造Aによって改質された表面を有する基板を形成する表面改質基板の製造方法が開示されている。この方法を使用すれば、シリカ表面の改質は、室温の中、数分で達成することができる。しかしながら、この反応は均一な触媒を必要とするので、表面改質は表面全体で起こる。それ故、この方法はパターン化層の調製には適さない。同じ著者が、J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 11570-11573において、ヒドロシランのSi−H結合のシリカ触媒活性化の表面改質について論じている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態a)では、固体材料の表面のヒドロキシル基またはエポキシ基と、ヒドロシランのケイ素原子に結合した水素原子との間で光開始脱水素反応が起こる。本発明による実施形態a)において、活性化は、基板の表面に近いヒドロシランのSi−H結合によって起こると考えられる。活性化ヒドロシランは基板の表面と反応し、それによって局所的に改質された表面を形成する。この反応機構は、反応時間が短く、パターンを基板上に調製することができ、そしてまた水分および酸素に対する感受性が低下するという利点を提供する。
実施形態b)では、光開始脱水素反応は、固体材料の表面のO−Si−H基の水素原子と、シラノールまたはアルコールのヒドロキシル基との間で起こる。
本発明による実施態様b)においては、基板表面でSi−H結合の活性化が起こり、その活性化された結合がシラノールまたはアルコールのSi−OHまたはC−OH結合と反応すると考えられる。
基板表面の活性化が起こる先行技術や実施形態b)と比較して、反応時間が速いことから、実施形態a)が好ましい実施形態である。
【0013】
上記国際公開第2015/136913号の方法では、均一な触媒が必要とされ、表面改質が表面全体で行われる。 特許文献8の方法とは異なり、本発明による方法は無触媒であり、マスク、例えばフォトマスクの使用による空間選択的表面改質が可能になる。したがって、本発明の方法のいくつかの好ましい実施形態では、表面の所定の部分が選択的に照射を受ける。好ましくは、固体材料と直接接触するかもしれないフォトマスクまたはマスクは、表面の所定の部分が照射されるのを選択的に遮断し、その結果、マスクによって遮断されていない表面部分の選択的な改質ができ、つまり表面のパターニングが得られる。
【0014】
本発明による光化学的表面改質の実施による能力は、上記表面のパターニングを可能にする。さらなる好ましい実施形態では、本発明による方法は、所定のパターンを用いて、固体材料の表面の上または下の空間的に閉じ込められたマイクロチャネルの表面の選択的改質に適用される。したがって、一実施形態では、改質表面は、固体材料外面の上および/または下の空間的に閉じ込められたマイクロチャネルの表面である。
【0015】
固体材料と表面改質化合物との接触は、200〜800nmの範囲の波長の光の照射下で行われる。これは光開始剤の存在下または光開始剤の不存在下で実施することができる。 光開始剤の存在は、必要に応じて反応を開始または促進するのに適している。例えば、光が300〜800nmの範囲の波長を有する場合、照射は光開始剤の存在下で行われるのが好ましい。
【0016】
本発明のいくつかの好ましい実施形態では、照射は光開始剤の不存在下で行われ、光は260〜300nm、より好ましくは280〜300nmの範囲の波長を有する。これは、生体分子および基板材料との適合性の問題を有利に回避する。
【0017】
本発明のいくつかの好ましい実施形態において、上記照射は、光開始剤の存在下で、300〜800nmの範囲内の波長の光を照射しながら実施される。光の波長は、好ましくは700nm未満、または600nm未満、または500nm未満、または400nm未満、より好ましくは380nm未満、さらにより好ましくは350nm未満、特に330nm未満である。
【0018】
表面改質化合物の種類および表面に応じて、光開始剤の不存在下で300〜800nmの範囲内の波長を有する光を照射することによっても望ましい結果が得られる。
【0019】
適切な光開始剤の例としては、臭化アルキル、ヨウ化ベンジル、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、ベンゾフェノンなどが挙げられるが、これらに限定されない。反応混合物中の光開始剤の量は、表面改質化合物に対して0.01〜5.0重量%の範囲であり得る。この数値範囲は、より好ましくは0.01〜3重量%、さらにより好ましくは0.01〜2重量%、特に0.01〜1重量%の範囲である。
【0020】
本発明による方法は、様々な種類の固体材料に適用可能である。固体材料は、周囲温度、例えば20℃で、固体状態にある材料として定義される。
【0021】
本発明による方法は、平面および曲面の両方の様々な異なる種類の表面に適用することができ、例としては、粒子(例えば、マイクロまたはナノ粒子)、粉末、結晶、フィルムまたはホイルが挙げられる。
【0022】
実施形態a)
いくつかの好ましい実施形態では、表面はSi−OH基またはC−OH基を有し、表面改質化合物はヒドロシランである。
【0023】
固体材料
固体材料は、Si−OH基、C−OH基またはエポキシ基を有する表面を有してもよい。好ましくは、固体材料はSi−OHまたはC−OH基を含む。
【0024】
Si−OH基を有する表面を有する適切な固体材料の例としては、例えば、シリカ、ガラス(合成溶融シリカおよびホウケイ酸ガラスなど)、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸炭化ケイ素、ならびに、シリカ、ガラス、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素または酸炭化ケイ素の膜が表面に設けられたプラスチックおよびポリマーが挙げられる。
【0025】
C−OH基を有する表面を有する適切な固体材料の例としては、エッチングされた炭化ケイ素、ならびに、多糖類(例えば、(ニトロ)セルロース)などの天然ポリマー、紙、および、ポリ(ビニルアルコール)などの合成ポリマーが挙げられる。HFでエッチングすることにより準備されたC−OH末端表面を有する炭化ケイ素の例は、Langmuir,2013,vol.29,pp.4019−4031に記載されている。
【0026】
エポキシ基を有する表面を有する適切な固体材料の例としては、エポキシシラン化合物で処理された固体材料、および、例えばネガ型フォトレジストSU−8のようなエポキシポリマーが挙げられる。
【0027】
C−OH基を有する表面を有する固体材料は、また、例えば、ダイヤモンド、グラファイト、グラフェン、または、ポリエチレンや環状オレフィン・コポリマーのような自然状態でC−OH基を有さない有機ポリマーやプラスチックへのO
2プラズマの曝露またはピラニア溶液(硫酸と過酸化水素の混合物)の適用による酸化によって生成することができる。
【0028】
表面の前処理
好ましくは、固体材料は、ヒドロキシル基の数を増加させるためにおよび/または固体材料の表面上のヒドロキシル基を活性化するために、照射工程の前に前処理工程にかけられる。場合により、前処理工程は、酸および任意に有機溶媒を含む混合物と表面を接触させることを含む。ガラス表面の洗浄および/または活性化のためのいくつかの方法が、例えば、Cras, J. J., Rowe-Taitt, C. A., Nivens, D. A.およびLigler, F. S.によるBiosensors & Bioelectronics 14, 683-688 (1999)などの文献に記載されている。本発明による前処理工程は、例えば、Si−OH基を有する表面を塩酸とメタノールの1:1(v:v)混合物中に30分以上浸漬し、続いて水とメタノールで洗浄し、乾燥させることを含むことができる。他のよく知られた方法は、ピラニア溶液(硫酸と過酸化水素の混合物)の適用である。
【0029】
いくつかの実施形態では、この方法は、照射工程の前に、表面をマイクロスケールおよび/またはナノスケールの表面粗さを有するように処理する工程を含む。これは多くの方法で実現することができ、例えば、(ナノ)粒子溶液をかける、ゾル・ゲル法、および化学気相成長法(CVD)によって、マイクロメートルおよびナノメートルのオーダーの粗さを表面に形成することができる。
【0030】
あらかじめ親水性とされた表面に、ある程度の粗さを導入することによって、表面は超親水性になり得る、すなわち表面は10°未満、より好ましくは5°未満の水接触角を有する。そのような超親水性表面が本発明による照射工程において疎水性表面改質化合物で処理される場合、照射表面は超疎水性になり得る、すなわち照射表面は140°超、より好ましくは150°超の水接触角を有する。このようにして、照射面と非照射面との間に非常に大きな濡れ性コントラストを得ることができる。
【0031】
マイクロスケールおよび/またはナノスケールの表面粗さを導入する工程はまた、表面結合分子の量を増加させることによって、生体分子の固定化の向上および防汚特性の向上のような他の表面特性を向上させ得る。
【0032】
ヒドロシラン
ヒドロシランは、下記式によって表すことができる。
【化1】
ここで、R
a、R
b、R
cおよびR
dの少なくとも1つはHであり、R
a、R
b、R
cおよびR
dの少なくとも1つはHではない;
ここで、R
a、R
b、R
cおよびR
dのそれぞれは、独立して、H、直鎖状のC
1−30アルキル、分岐状のC
1−30アルキル、環状のC
3−30アルキル、直鎖状のC
2−30アルケニル、分岐状のC
2−30アルケニル、直鎖状のC
2−30アルキニル、分岐状のC
2−30アルキニル、C
6−20アラルキル、C
6−10アリール、または、約1000〜約100,000の分子量を有するポリマー部分であり、
ポリマー部分は、炭化水素ポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリアクリレート、ポリウレタン、エポキシ、ポリメタクリレートおよびポリシロキサン(例えば、ポリ(メチルヒドロシロキサン))からなる群から選択される。
R
a、R
b、R
cおよびR
dのそれぞれは、−F、−Cl、−Br、−CN、−NO
2、=O、−N=C=O、−N=C=S、
【化2】
−N
3、−NR
eR
f、−SR
g、−OR
h、−CO
2R
i、−PR
jR
kR
l、−P(OR
m)(OR
n)(OR
p)、−P(=O)(OR
q)(OR
8)、−P(=O)
2OR
t、−OP(=O)
2OR
u、−S(=O)
2R
v、−S(=O)R
w、−S(=O)
2OR
x、−C(=O)NR
yR
z、および、−OSiR
aaR
bbR
ccからなる群から選択される1つまたは複数の置換基で任意に置換されていてもよい。R
e、R
f、R
g、R
h、R
i、R
j、R
k、R
l、R
m、R
n、R
p、R
q、R
s、R
t、R
u、R
v、R
w、R
x、R
yおよびR
zのそれぞれは、独立して、H、直鎖状のC
1−10アルキル、分岐状のC
1−10アルキル、環状のC
3−8アルキル、直鎖状のC
2−10アルケニル、分岐状のC
2−10アルケニル、直鎖状のC
2−10アルキニル、分岐状のC
2−10アルキニル、C
6−12アラルキル、または、C
6−10アリールであり、かつ、−F、−Clおよび−Brからなる群から選択される1つまたは複数の置換基で任意に置換されていてもよい。R
aa、R
bbおよびR
ccのそれぞれは、独立して、直鎖状のC
1−10アルキル、分岐状のC
1−10アルキル、環状のC
3−8アルキル、直鎖状のC
2−10アルケニル、分岐状のC
2−10アルケニル、直鎖状のC
2−10アルキニル、分岐状のC
2−10アルキニル、C
6−12アラルキル、C
6−10アリール、−F、−Cl、−Br、または、OR
ddであり、R
ddは、直鎖状のC
1−10アルキルまたは分岐状のC
1−10アルキルである。
【0033】
ヒドロシランの好ましい例としては、次の式で表される化合物が挙げられる。
【化3】
ここで、R
a、R
b、R
cおよびR
dの少なくとも1つはHであり、R
a、R
b、R
cおよびR
dの少なくとも1つ(好ましくは1つ)は、以下のリストAから選択される式で表される基であり、R
a、R
b、R
cおよびR
dのうち残りは、上記の基(例えば、C
1−30アルキル)から独立して選択され、リストAは、下記式から構成される。
【0041】
誤解を避けるために、これらの基は破線(---)で他の要素と結合していることに注意されたい。したがって、例えば、下記式は、nが1のときSi−CH
2CH
3として、nが5のときSi−(CH
2)
5CH
3としてSiに結合する。
【化11】
【0042】
適切なヒドロシランの例は、オクタキス(ヒドリドジメチルシロキシ)オクタシルセスキオキサンである。
【0043】
ヒドロシラン中のHの数は、反応が完了するのに必要な時間および照射領域に対する反応の選択性(コントラストおよび解像度)を決定する。選択性に関して、本発明によるパターン化表面の2つの重要なパラメータは、
1)(化学的)コントラスト−表面改質反応の有効性における(最大)差。疎水性を誘導する表面改質の場合、これは例えば、照射領域と非照射領域との間の水接触角(WCA)の差によって測定される。
2)(横方向)分解能−表面改質の有効性が最大値から最小値に変化する距離、すなわち照射領域と非照射領域との間の界面の「鮮鋭さ(sharpness)」。
【0044】
ヒドリドシラン中のHの数が多いほど反応時間が短くなる。ヒドロシラン中のHの数は(化学的)コントラストに影響を与える。
【0045】
いくつかの実施形態では、R
a、R
b、R
cおよびR
dの1つはHである。これは、緻密性の低い表面改質層および良好なコントラストが最も重要である場合に適しているが、反応時間は他のヒドロシランを使用する場合よりも長くなり得る。照射は、例えば60〜75分間で実施され得る。
【0046】
いくつかの実施形態において、R
a、R
b、R
cおよびR
dの2つはHである。これは、短い反応時間と良好なコントラストとの良好なバランスが最も重要である場合に適している。照射は、例えば10〜15分間で実施され得る。
【0047】
いくつかの実施形態において、R
a、R
b、R
cおよびR
dの3つはHである。これは、短い反応時間が最も重要である場合に適している。固有反応性が高いと、非照射領域においても望ましくない反応が生じる可能性があり、したがって、コントラストは、例えばジヒドロシランが使用されている場所よりも低くなる可能性がある。照射は、例えば1〜10分間で実施され得る。
【0048】
実施形態b)
いくつかの好ましい実施形態では、表面はO−Si−H基を有し、表面改質化合物はシラノールまたはアルコールである。
【0049】
固体材料は、例えば、O−Si−H基を有する表面を有するように修飾されたガラス、プラスチックまたはポリマーである。そのような表面は、例えば、ガラスまたは酸化されたプラスチックもしくはポリマーのようなヒドロキシル終端表面を、例えば(EtO)
3SiH、(EtO)
2SiH
2または(EtO)SiH
3のように、1、2または3個のSi−H基を有するアルコキシシランと反応させることにより得られる。トリエトキシシラン(EtO)
3Si−Hを使用するこの方法の例が、R. Rijo Carvalho, S. P. Pujari, S. C. Lange, R. Sen, E. X. VrouweおよびH. Zuilhofによる“Local Light-Induced Modification of the Inside of Microfluidic Glass Chips,” Langmuir 32 (2016) 2389-2398に記載されている。
【0050】
好ましくは、固体材料は、水素終端ガラス(Hガラス)またはポリ(メチルヒドロシロキサン)である。
【0051】
表面改質化合物は、下記の式
HO−Si−R
1R
2R
3
によって表すことができる。この式中、R
1、R
2およびR
3のそれぞれは、独立して、R
a、R
b、R
cおよびR
dについて記載されたような基から選択される。
【0052】
好ましくは、R
1、R
2およびR
3の少なくとも1つ(好ましくは1つ)は、ヒドロシランに関して記載された上記リストAから選択される基である。
【0053】
表面改質化合物は、下記の式
HO−C−R
4R
5R
6
によって表すこともできる。この式中、R
4、R
5およびR
6のそれぞれは、独立して、R
a、R
b、R
cおよびR
dについて記載されたような基から選択される。
【0054】
好ましくは、R
4、R
5およびR
6の少なくとも1つ(好ましくは1つ)は、ヒドロシランに関して記載された上記リストAから選択される基である。
【0055】
表面修飾化合物組成物
表面改質化合物は、他の成分と事前に混合することなく、または、表面改質化合物と1種以上の他の成分とを含む表面改質化合物組成物の形態で、表面と接触させることができる。表面改質化合物がヒドロシラン組成物の形態で表面と接触する場合、表面改質化合物組成物中の表面改質化合物の量は、広い範囲、例えばヒドロシラン組成物の0.1〜99.9体積%、1〜99体積%、10〜90体積%、25〜75体積%または40〜60体積%の範囲内から選択することができる。表面改質化合物は、表面改質化合物組成物の主成分であり得る。表面改質化合物組成物中の表面改質化合物の量は、表面改質化合物組成物の少なくとも50体積%かつ100体積%未満、例えば50〜99.9体積%、60〜95体積%または70〜90体積%であり得る。表面改質化合物が表面改質化合物組成物の主成分ではないことも可能である。表面改質化合物組成物中の表面改質化合物の量は、表面改質化合物組成物の50体積%未満かつ0体積%超、例えば0.1〜49.9体積%、5〜40体積%または10〜30体積%である。
【0056】
本発明による方法において使用されるヒドロシランまたはヒドロシラン組成物の量は、照射される表面を覆うのに充分であるように選択される。
【0057】
本発明による方法により、固体材料の表面上に表面改質層が形成される。表面改質層は、0.1nm〜100μmの範囲、例えば1nm〜10μmまたは10nm〜1μmの厚さを有することができる。
【0058】
表面改質化合物組成物は、上記のような光開始剤を含み得る。この組成物中の光開始剤の量は、表面改質化合物に対し0.01〜5.0重量%の範囲であり得、より好ましくは0.01〜3重量%の範囲、さらにより好ましくは0.01〜2重量%の範囲、特に0.01〜1重量%の範囲である。
【0059】
表面改質化合物組成物は、適切な不活性溶媒を含み得る。この場合、表面改質化合物組成物中の溶媒の量は、広い範囲、例えば表面改質化合物組成物の0.5〜99.5体積%、10〜90体積%または25〜75体積%の範囲内から選択することができる。
【0060】
表面改質化合物組成物は、表面改質化合物に対して反応性のある化合物を含み得る。この場合、そのような化合物の量は、広い範囲、例えば表面改質化合物組成物の0.5〜99.5体積%、10〜90体積%または25〜75体積%の範囲内から選択することができる。照射中におけるそのような化合物の添加は、反応を加速させ、および/または照射領域の内側で起こる反応を制限することができる。これは、コントラストおよび解像度を高めるのに特に有利である。照射中におけるそのような化合物の添加は、また、表面改質層の厚さを増大させ、および/または表面改質層の多孔性に影響を与えることがある。実施形態a)において、表面改質化合物に対して反応性のある化合物は、例えば、アルコール、チオール、アルケン、アルキン、(メタ)アクリレート、エポキシまたは(メタ)アクリルアミドであり、そのような化合物は、ヒドロシランに関して記載された上記リストAから選択される基を有することが好ましい。実施形態b)において、表面改質化合物に対して反応性のある化合物は、例えば、ヒドロシランまたはチオールであり、そのような化合物は、ヒドロシランに関して記載された上記リストAから選択される基を有することが好ましい。
【0061】
いくつかの実施形態において、表面改質化合物組成物中の、表面改質化合物に対して反応性のある化合物の量は、表面改質化合物組成物の50〜99.9体積%、例えば60〜95体積%または70〜90体積%である。この場合において、本発明による表面改質は、表面改質化合物に対して反応性のある化合物の官能性によって大きく影響される官能性を有する表面改質層の形成をもたらす。表面改質化合物に対して反応性のある化合物は、ヒドロシランのものと同様でも異なっていてもよい末端基/官能性を有していてもよい。これらの実施形態では、表面改質層は1nm〜100μmの範囲の厚さを有することができる。
【0062】
表面改質化合物組成物は、微粒子および/またはナノ粒子を含み得る。好ましくは、マイクロ粒子およびナノ粒子は、SEMによって決定されるような0.1nm〜10μm、1nm〜1μmまたは10nm〜100nmの数平均直径を有する。表面がSi−OH基を有する実施形態a)では、粒子はSi−OH末端を有するか、または表面改質化合物に対して反応性のある化合物で被覆されている。表面がC−OH基を有する実施形態a)において、粒子はSi−OHもしくはC−OH末端を有するか、または表面改質化合物に対して反応性のある化合物で被覆されている。実施形態b)において、粒子は、O−Si−H末端を有するか、または表面改質化合物に対して反応性のある化合物で被覆されている。そのような粒子の量は、広い範囲、例えば表面改質化合物組成物の0.1〜99.9重量%、10〜90重量%または25〜75重量%の範囲内で選択され得る。
したがって、表面改質化合物は、表面改質化合物と、光開始剤、適当な不活性の溶媒、表面改質化合物に対して反応性のある化合物、ならびに、マイクロ粒子および/またはナノ粒子の1つまたは複数とを含む表面改質化合物組成物の形態で、表面と接触させることができる。特に好ましい実施形態では、上記方法はa)を伴い、表面改質化合物組成物は、ヒドロシランに対して反応性のある化合物を含む。
本発明はさらに、本発明の上記方法によって得られた、またはそれによって得ることができる表面改質固体材料を提供する。
【0063】
本発明はさらに、本発明による表面改質固体材料を含む物品を提供する。任意選択で、当該物品はマイクロまたはナノ構造を有する。
【0064】
本発明による物品の好ましい例としては、マイクロアレイ用途および細胞培養用途などのバイオチップ用途向けの基板や、ラボオンチップデバイス(lab-on-a-chip device)または生体機能チップデバイス(organ-on-a-chip device)などのマイクロ流体デバイスなどが挙げられる。
【0065】
本発明は、本明細書に記載の特徴の全ての可能な組み合わせに関するものであり、特に請求項に存在する特徴の組み合わせが好ましいことに留意されたい。したがって、本発明による組成物に関する特徴のすべての組み合わせ、本発明による方法に関する特徴のすべての組み合わせ、ならびに、本発明による組成物に関する特徴と、本発明による方法に関する特徴とのすべての組み合わせが、本明細書に記載されていることが充分に理解されるであろう。
【0066】
さらに、「含む」という用語は他の要素の存在を排除するものではないことに留意されたい。しかしながら、特定の成分を含む製品/組成物に関する説明もこれらの成分からなる製品/組成物を開示していることも理解されるべきである。これらの成分からなる製品/組成物は、それが製品/組成物の調製のためのより単純でより経済的な方法を提供するという点で有利であり得る。同様に、特定の工程を含む方法に関する記載もこれらの工程からなる方法を開示することも理解されるべきである。これらの工程からなる方法は、より単純でより経済的な方法を提供するという点で有利であり得る。
【0067】
パラメータの下限および上限について値が記載されている場合、下限の値および上限の値の組み合わせによって作られる範囲も開示されると理解される。
【0068】
本発明を以下の実施例によって説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0069】
全般
材料
市販のヒドロシランおよび溶媒は、Sigma−AldrichまたはGelestから入手した。必要に応じて、クーゲルロール真空蒸留を用いて化合物を精製した。市販されていないヒドロシランは、文献から適合した手順を用いて、対応するクロロシランをLiAlH
4で還元することによって合成した。
【0070】
表面改質
サンプルをカスタムメイドのサンプルホルダーに置き、一定量のヒドロシラン(ニート(化合物そのまま)または表面改質化合物組成物として)を表面に堆積させた。その後、サンプルを石英カバーで覆い、その結果、サンプルとマスクとの間に均一な液膜を得た。
【0071】
次に、コリメート光源を使用して、サンプルに10〜15mW/cm
2の強度でUV光を照射した。反応終了後、サンプルを適切な溶媒ですすぎ、続いて、ジクロロメタンですすぎおよび超音波処理を行った。最後に、サンプルをAr流中で乾燥させた。
【0072】
表面キャラクタリゼーション
サンプルを、KruessDSA−100ゴニオメーターを使用して静的水接触角(WCA)測定により分析した。自動ディスペンシングユニットを使用して、3μLの水滴を表面に付着させ、デジタルカメラを使用して画像をキャプチャし、表面の濡れ性に応じて適切なフィッティングアルゴリズムを使用して分析した。
【0073】
XPSスペクトルは、JPS−9200装置(JEOL)で記録した。測定は、12kVおよび20mAで操作された単色AlKα源を用いて行われた。全ての結合エネルギーは、285.0eVの結合エネルギーに設定された炭化水素(CH
2)ピークに対して較正された。測定中に基板の静電荷を防ぐために電荷補償を使用した。スペクトルはCasaXPSソフトウェアで分析した。
【0074】
蛍光顕微鏡法を使用して、マイクロパターン化表面の形成を実証した。蛍光標識タンパク質(AlexaFluor 488で標識されたBSA、Thermo Fisher)の1mg/mL溶液の液滴をパターン化基板上に堆積させ、室温で15分間培養した。水ですすぎ、0.05%(v/v)のTween20を含むPBS(pH7.4)、PBS(pH7.4)、そしてもう1回水(5分間。各洗浄液中の撹拌容器への浸漬。)で洗浄することによって、表面から未結合タンパク質を除去した。サンプルは蛍光顕微鏡を用いて分析された。
【0075】
1. フッ素化ヒドロシランによるガラスの表面改質
サンプル調製
標準的なガラス顕微鏡スライドを、アセトン中での超音波処理、続いて低圧O
2プラズマへの曝露およびピラニア溶液への浸漬によって洗浄した。脱イオン水で十分にすすいだ後、Ar流を用いてサンプルを乾燥させた。
【0076】
以下のフッ化ヒドロシランを使用した。
【表1】
【0077】
表面改質
ヒドロシランを使用した光化学的表面改質の原理を実証するために、基板の半分が照射され、他の半分が照射されない非常に単純なフォトマスクを使用した。疎水性フッ素化「テール」を有するヒドロシランを使用することによって、成功した表面改質は、基板の改質(照射)部分と非改質(非照射)部分との間に大きな濡れ性コントラストを結果的にもたらし、これは水接触角(WCA)測定によって容易に実証することができる。
【0078】
ヒドロシラン中のSi−H結合の数の影響を調べるために、1個、2個および3個のSi−H結合を有する分子を使用した。これらはそれぞれ、モノヒドロ−F17、ジヒドロ−F17およびトリヒドロ−F17と略される。これらのヒドロシランの名称を表1に示す。溶媒としてFluorinert(登録商標)FC−70を使用し、異なるヒドロシラン濃度(%(v/v)として示す)での表面改質および照射時間を比較した。
【0079】
1.1 結果 − Si−H結合の数
洗浄および活性化後、スライドガラスは、20°未満の水接触角(WCA)で強力に親水性になった。
【0080】
図1は、ジヒドロ-F17と反応したときのWCAの変化を示す。サンプルの非照射部分では、反応は起こらず、WCAは元の値に非常に近いままである。一方、照射部分では、WCAの強い増加が観察され、最終的には108±1°の値に達している。
【0081】
ニートのヒドロシランおよび60%溶液の場合には、最大WCAは15分以内に達成される。30%の濃度では、反応は、完結するのにより長い時間を要するが、結局同じWCAに達する。
【0082】
図2は、トリヒドロ-F17と反応したときのWCAの変化を示す。
図2に示すように、トリヒドロ−F17層の形成にかかる時間は、はるかに短い。ニートのトリヒドロ−F17と60%溶液の場合には、層は5分以内に完成する。また、111±2°の最大WCAは、ジヒドロ−F17よりも幾分高くなっている。
【0083】
しかしながら、サンプルの非照射部分においてもWCAが増加している。したがって、光化学的表面改質と同時に、何らかの望ましくない反応が起こり、固体材料がガラスである場合、この方法を固体材料のパターニングにはあまり適していないものとしている。
【0084】
モノヒドロ−F17の30%溶液を用いて表面改質も行った。このヒドロシランについては、75分の照射後に101±3°の最大WCAが達成された。非照射領域では、28±3°のWCAが測定された。
【0085】
それ故、反応速度はトリヒドロ−F17で最高で、次いでジヒドロ−F17、そしてその次がモノヒドロ−F17であった。コントラストは、ジヒドロ−F17で最高であった。
【0086】
表2に示されるように、XPS分析はまた、はるかに大量の元素FおよびCが照射領域に見出されたという点でWCA測定の結果を確認した。
【0087】
表2:異なるヒドロシランと反応させた後のガラスサンプルについてXPSにより測定された見かけの原子濃度(%)。
【表2】
【0088】
1.2 結果 − 有機置換基の影響
上記の実験において、Si−H結合およびメチル置換基の数は様々であった。有機基の役割を調べるために、2つのイソプロピル置換基を有するフッ素化モノヒドロシランを用いて表面改質を行った(イソプロピル−F17、表1参照)。この分子について、メチル置換モノヒドロ−F17と同じ表面改質手順を使用した(30%ヒドロシラン溶液、75分照射)。結果として得られたWCAは、非照射領域と照射領域でそれぞれ32°と108°であった。この結果は、光化学的表面改質反応が、メチル置換基を有するヒドロシランに限定されないこと、および、より嵩高い置換基を含む他の置換基もまた使用され得ることを示している。
【0089】
1.3 結果 − マイクロパターン表面の調製
ヒドロシランの光化学的表面改質における横方向の解像度を調べるために、様々な幅の線のパターンからなる異なるフォトマスクを使用した。ジヒドロ−F17による光化学的表面改質(ニート、15分照射)の後、これは1〜500μmの幅のフッ素化された線を生成するはずである。この線の間隔は、マスクの線の幅の2倍である。
これらのパターンは、常套のWCA測定を実行するには小さすぎる。パターン形成を確認し視覚化するために、サンプルを、疎水性(例えば、フッ素化)および親水性(例えば、ガラス)表面に対して異なる吸着性を有することが知られている蛍光標識BSAと共に培養した。蛍光顕微鏡検査は、フッ素化ラインと非フッ素化バックグラウンドとの間に蛍光強度に差があることを明らかに示した。同様の実験をモノヒドロ−F17(30%溶液、75分照射)を用いて行い、今回は5mの円形ドットのパターンを用い、さらにポジティブパターンとネガティブパターンの両方を用いた。ここでもまた、サンプル上のフッ素化領域と非フッ素化領域との間に蛍光強度に明らかな差があった。これらの結果は、ヒドロシラン層による光化学的表面改質が、少なくとも5mまでの特徴サイズを有するマイクロパターン化表面の調製に使用できることを実証している。
【0090】
1.4 結果 − 超疎水性/超親水性パターンの調製
上述の実験では、ヒドロシランによる光化学的表面改質を使用して、大きな濡れ性コントラストを有する(マイクロ)パターンを調製できることが実証された。濡れ性コントラストは、表面に粗さを導入することによってさらに高めることができる。これを達成するための1つの方法は、いわゆるシリコーンナノフィラメント(SiNF)の成長である。
【0091】
文献の手順に基づいて、気相法を使用してメチルトリクロロシランからSiNFを調製し、続いて低圧O
2プラズマを使用して酸化し、表面にヒドロキシル基があるようにし、表面上に超親水性SiNF層をもたらした(WCA<10°)。
【0092】
これらの基材を、トリヒドロ−F17(30%溶液、8分間照射)を用いた光化学的表面改質のために使用した。非照射領域では、基材は超親水性のままである(WCA<10°)。照射領域では、フッ素化ヒドロシランとの反応により表面が超疎水性になる(静的WCA>150℃、滑り角<10°)。従って、ヒドロシランによる光化学的表面改質は、超疎水性および超親水性領域のパターンを調製するために使用され得る。
【0093】
1.5 結果 − ヒドロシランの光活性化
実験に使用された平行光源は、260ミラーセットと組み合わせたHg/Xeランプである。得られる照射スペクトル(実際にサンプル表面を照らす光)において、3つの群のピーク、すなわち220〜255nm、255〜290nmおよび290〜320nmを区別することができる(
図3参照)。
光化学的表面改質にスペクトルのどの部分が必要かを調べるために、光の一部がサンプルに到達するのを防ぐために追加のフィルタを使用した。この目的のために、220〜255nmの波長範囲およびほとんどの255〜290nmの範囲の光を完全に遮断するガラス片を使用した。
図3は、ガラスフィルタの透過スペクトルおよび得られたフィルタ処理された照射スペクトルを示す。
【0094】
ガラスフィルタを配置した状態で、標準的な表面改質をジヒドロ−F17を用いて行った(ニート、15分照射)。得られたWCAは、非照射領域および照射領域についてそれぞれ29°および105°である。これらの値は、ガラスフィルタなしで得られたものとほとんど同じである。したがって、反応は必ずしも220〜255nmの範囲の光を必要としないと結論付けることができる。255〜290nmの範囲におけるフィルタリングされた照射スペクトルとフィルタリングされていない照射スペクトルとの間の大きな強度差を考慮すると(
図3参照)、この波長範囲の光が反応を進行させるのに不可欠である場合、低品質の層が予想される。したがって、これらの結果は、ヒドロシランによる光化学的表面改質反応が、ガラスフィルタの効果がごくわずかで小さい290〜320nmの波長範囲の光によって効果的に開始され得ることを示している。
【0095】
ガラスフィルタの存在が表面改質に大きな影響を与えないという事実は、必要な波長についての情報を提供するだけではない。それはまた、ヒドロシランを使用する光化学的表面改質もガラスカバーを有するチャネルの内側で行うことができることを実証している。これはマイクロ流体工学の用途に非常に関連している。
1.6 結果 − アクリレートの添加
ヒドロシランに、1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルアクリレート(F17−アクリレート)を添加することにより、濡れ性コントラストとパターンの横方向解像度の両方を改善できることがわかった。0.1〜99.9%(v/v)の間で変動する濃度のF17−アクリレートを含有するジヒドロ−F17を使用し、1〜30分の間の照射時間で光化学的表面改質を行った。
【0096】
1%以下のF17−アクリレート濃度および15分の照射時間を用いて良好な結果が得られた。この場合、未照射領域と照射領域でそれぞれ20°と114±1°のWCAが得られた。このように、濡れ性コントラストは、F17−アクリレートを含まない実験と比較して改善され、そこでは(
図1に示されるように)非照射領域と照射領域でそれぞれ20°と108±1°のWCAであった。さらに、サンプルの疎水性(照射)領域と親水性(非照射)領域との間の界面は、F17−アクリレートを添加するとより鋭くなる。横方向分解能のこの改善は、水蒸気をサンプル上に凝縮させることによって可視化される。照射領域と非照射領域との間の濡れ性の違いは凝縮パターンをもたらす。F17−アクリレートを含むサンプルでは、疎水性領域と親水性領域との間に著しく鋭い線が観察される。
【0097】
低濃度のF17−アクリレートを使用して良好な結果が得られたとしても、表面改質はまた、はるかに高い濃度を使用しても行うことができる。例えば、99%F17−アクリレートおよび1%ジヒドロ−F17を使用する実験は、非照射領域および照射領域においてそれぞれ31±2°および116±2°のWCAをもたらした。
【0098】
対照実験として、1)FC−70に1%のF17−アクリレートを溶解した溶液、および2)F17−アクリレートをそのまま、すなわち両方ともヒドロシランを使用せずに使用して2つの反応を実施した。両方の場合において、濡れ性の変化はほとんど観察されず(FC−70中1%のF17−アクリレートの場合には、照射領域および非照射領域の両方においてWCA20°が得られ、そしてニートのF17−アクリレートの場合には、照射領域および非照射領域においてそれぞれWCA42±5°および29±2°が得られた。)、これは、有意な表面改質が生じていないことを示している。これらの結果は、ヒドロシランが表面改質に必要であり、そしてパターンの観察された濡れ性のコントラストは、F17−アクリレート単独の表面結合によるものではないことを示している。
【0099】
1.7 結果 − 光開始剤の存在下で長波長を使用した表面改質
上記のように、ヒドロシランを用いた光化学的表面改質は、200〜320nmの波長範囲の光の照射下で起こる。より長い波長の影響を調べるために、365nmのUV−Aランプを使用して表面改質を行った。1%のF17-アクリレートを含有するジヒドロ−F17および15分の照射時間を用いた実験において、35±1°および38±3°のWCAがそれぞれ非照射および照射領域において得られた。この結果は、この波長では有意な表面改質が起こらないことを示している。
【0100】
次の実験では、1%の光開始剤(2,2-ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、DMPA)をジヒドロ−F17/F17-アクリレート混合物に添加した。再度15分の照射時間を用いた。周囲光の影響を減らすために、実験は暗い部屋で行った。DMPAとの反応は、非照射領域と照射領域でそれぞれ76°と105°のWCAをもたらした。照射領域と非照射領域との間の濡れ性コントラストは、320nm未満の波長が(光開始剤なしで)照射に使用された実験におけるよりも小さい。しかしながら、照射領域と非照射領域との間には依然としてWCAに明らかな差があり、これは、適切な光開始剤が存在するならば、ヒドロシランを用いた光化学的表面改質に320nmを超える波長の光を使用できることを示している。
【0101】
2 結果 − ヒドロシランによるC−OH表面の表面改質
2.1 環状オレフィン共重合体
サンプル調製
環状オレフィンコポリマー(COC)の小片は、低圧O
2プラズマへの曝露によって活性化された。これにより、WCAが約100°から<20°に大幅に減少し、これは表面上にかなりの量の親水性C−OH基が存在することを示している。
【0102】
表面改質
このようにして活性化されたCOCの表面改質のために、トリヒドロ−F17を使用した。2μLのヒドロシラン(30%溶液)を表面上に堆積させ、次いでそれをフォトマスクで覆い、10分間照射した。これをすすいだ後、分析する前にサンプルを真空乾燥した。
【0103】
結果
表面改質後、サンプルの照射領域は90°のWCAを有し、一方、非照射領域は46°のWCAを有していた。これらの値は、COCの光化学的表面改質が起こったことを示唆している。非照射領域におけるWCAの増加は、光化学的表面改質の他に、他の何らかの反応もまた起こることを示している。これはXPS分析により確認され、それはサンプルの照射側と非照射側の両方にフッ素の存在を示す。しかしながら、照射領域上のフッ素の量は2倍以上多い。したがって、この結果は、ヒドロシランがCOCの光化学的表面改質に使用できることを実証している。
【0104】
表3:COCとトリヒドロ−F17との反応後にXPSにより測定された見かけの原子濃度(%)。
【表3】
【0105】
2.2 セルロース
サンプル調製
セルロースブロッティング紙片をジクロロメタン中で超音波処理することによって洗浄し、真空乾燥した。
【0106】
表面改質
セルロースの表面改質には、トリヒドロ−F17を用いた。50μLのヒドロシラン(30%溶液)を表面上に堆積させ、次いでこれをフォトマスクで覆い、30分間照射した。これをすすいだ後、分析前にサンプルをArで乾燥した。
【0107】
結果
表面改質後、サンプルの照射領域は約120°のWCAを有していた。非照射領域では、液滴が親水性の多孔質紙の中に沈むので、WCAを測定することができなかった。この結果は、ヒドロシランがセルロースの光化学的表面改質に使用できることを示している。
【0108】
3. 結果 − ヒドロシランによるエポキシド表面の表面改質
3.1 エポキシシラン
サンプル調製
エポキシド基を有する表面を調製するために、文献から適合したシラン化手順に従ってガラス顕微鏡スライドをエポキシシランで処理した。サンプルをアセトン中で5分間超音波処理することにより清浄した。窒素流を用いてサンプルを乾燥し、続いて140℃のオーブンに5分間入れた。次に、サンプルを低圧O
2プラズマに5分間さらし、直ちに(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシランの2%(v/v)ヘキサン溶液に2時間浸した。シラン化後、サンプルをアセトン中で5分間の超音波処理および窒素流中での乾燥によって清浄した。このシラン化手順の後、エポキシド終端表面は55°のWCAを有する。
【0109】
表面改質
一実験において、エポキシド終端表面の表面改質は、表面上にトリヒドロ−F17を堆積させ、サンプルをフォトマスクで覆い、そしてそれを30分間照射することによって行われた。別の実験では、30分の照射時間を用いた表面改質のために、ジヒドロ−F17(95%v/v)とF17−アクリレート(5%v/v)の混合物を使用した。照射後、トリフルオロトルエンおよびジクロロメタン中で、すすぎかつ超音波処理を行ってサンプルを洗浄し、続いて窒素流中で乾燥した。
【0110】
結果
トリヒドロ−F17による表面改質後、サンプルの照射領域は110°のWCAを有するが、非照射領域のWCAは55°で変化しないままである。XPS分析は、照射領域上に多量のフッ素(17原子%)の存在を示し、一方、非照射領域上には検出可能な量のフッ素は存在しない。ジヒドロ−F17/F17−アクリレート混合物による表面改質後、サンプルの照射領域は114°のWCAを有するが、非照射領域のWCAは55°で変化しないままである。これらの結果は、表面上のヒドロシランとエポキシド基との光化学反応が照射領域上で起こり、一方、非照射領域上では反応が起こらなかったことを示している。
【0111】
3.2 SU−8
サンプル調製
SU−8は、多くのエポキシド基を含有するネガ型フォトレジストである。SU−8の硬化後、多数の残留エポキシド基が材料の表面に存在するだろう。それ故、SU−8表面は、いかなる前処理もなしにヒドロシランによる表面改質のために使用された。
【0112】
ジヒドロ−F17(99%v/v)とF17−アクリレート(1%v/v)の混合物をSU−8表面上に堆積させ、石英スライドで覆い、そして30分間照射した。次いで、サンプルをトリフルオロトルエンおよびジクロロメタン中で、すすぎかつ超音波処理し、そして窒素流中で乾燥させた。
【0113】
結果
表面改質前は、SU−8表面のWCAは79°である。表面改質後、サンプルのWCAは95°に増加した。この結果は、ヒドロシランがSU−8の光化学的表面改質に使用できることを示している。