(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972139
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】分子ふるいSSZ−108、その合成及び使用
(51)【国際特許分類】
C01B 39/48 20060101AFI20211111BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20211111BHJP
B01J 29/72 20060101ALI20211111BHJP
C07C 1/20 20060101ALI20211111BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20211111BHJP
【FI】
C01B39/48
B01D53/86 222
B01J29/72 Z
C07C1/20
!C07B61/00 300
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-538118(P2019-538118)
(86)(22)【出願日】2017年12月13日
(65)【公表番号】特表2020-506858(P2020-506858A)
(43)【公表日】2020年3月5日
(86)【国際出願番号】US2017066009
(87)【国際公開番号】WO2018136173
(87)【国際公開日】20180726
【審査請求日】2020年5月25日
(31)【優先権主張番号】62/446,979
(32)【優先日】2017年1月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シエ、ダン
【審査官】
佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】
特表2019−516647(JP,A)
【文献】
特表2014−530171(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0101985(US,A1)
【文献】
特開2016−104690(JP,A)
【文献】
米国特許第04525466(US,A)
【文献】
特表2002−512583(JP,A)
【文献】
特表2017−518250(JP,A)
【文献】
米国特許第09192924(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20 − 39/54
B01D 53/86 − 53/94
B01J 20/18
B01J 21/00 − 38/74
C07C 11/04
C07C 11/06
C07C 1/20
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
か焼された形態で、下記の表に記載のピークを含むX線回折パターンを有する分子ふるい
であって、
【表1】
下式のモル関係を含む組成を有する、上記分子ふるい
【化1】
(式中、nは5から25の値を有する。)。
【請求項2】
合成されたままの形態で、下記の表に記載のピークを含むX線回折パターンを有する分子ふるい
であって、
【表2】
下記のモル関係を含む組成を有する、上記分子ふるい
【表3】
(式中、Qは、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムカチオン及び1−ブチル−1−メチルピペリジニウムカチオンの1種以上を含み、Mは、1族又は2族の金属である。)。
【請求項3】
下記のモル関係を含む組成を有する、請求項
2に記載の分子ふるい。
【表4】
(式中、Qは、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムカチオン及び1−ブチル−1−メチルピペリジニウムカチオンの1種以上を含み、Mは、1族又は2族の金属である。)
【請求項4】
(a)(1)酸化ケイ素の供給源、
(2)酸化アルミニウムの供給源、
(3)1族又は2族金属(M)の供給源、
(4)1−ブチル−1−メチルピロリジニウムカチオン及び1−ブチル−1−メチルピペリジニウムカチオンの1種以上を含む構造規定剤(Q)、
(5)水酸化物イオン、及び
(6)水、
含む反応混合物を調製すること、並びに
(b)前記反応混合物を、前記分子ふるいの結晶を形成するのに十分な結晶化条件に置くこと、を含む、請求項
2に記載の分子ふるいを合成する方法であって、
ゼオライトYが、(1)酸化ケイ素及び(2)酸化アルミニウムの組み合わされた供給源として使用され、かつ、前記反応混合物が、モル比換算で、以下の組成を有する、方法
であって、該1族又は2族金属(M)がナトリウムである、上記方法。
【表5】
【請求項5】
前記反応混合物が、モル比換算で、以下の組成を有する、請求項
4に記載の方法。
【表6】
【請求項6】
前記結晶化条件が、120℃から200℃の温度を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
有機化合物を、有機化合物転化条件下で、請求項1に記載の分子ふるいを含む触媒と接触させることを含む、有機化合物転化方法。
【請求項8】
前記有機化合物が、有機含酸素化合物を含み、且つ前記有機化合物転化方法が、前記有機含酸素化合物を、オレフィンを含む生成物に転化する、請求項7に記載の有機化合物転化方法。
【請求項9】
前記有機含酸素化合物が、メタノール、ジメチルエーテル、又はそれらの組み合わせを含み、且つ前記オレフィンが、エチレン、プロピレン、又はそれらの組み合わせを含む、請求項8に記載の有機化合物転化方法。
【請求項10】
窒素酸化物を含有するガス流を、請求項1に記載の分子ふるいを含む触媒と接触させることを含む、窒素酸化物(NOx)を選択的に還元する方法。
【請求項11】
前記触媒が、Cr、Mn、Fe、Co、Ce、Ni、Cu、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Re、Ir、及びPtから選択される1種以上の遷移金属を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記遷移金属が、前記分子ふるいの全重量に基づいて、0.1から10重量%の量で存在する、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年1月17日に出願された米国仮出願番号第62/446,979号に対する優先権を主張し、その開示内容を参照により本明細書に全体的に援用する。
【0002】
技術分野
本開示は、SSZ−108と称する新規な合成結晶性分子ふるい、その合成、並びに収着法及び触媒法におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
天然及び合成の両方の分子ふるい材料は、これまでに、吸着剤として有用であること、及び様々なタイプの有機転化反応のための触媒特性を有することが実証されている。ゼオライト、アルミノホスファート、及びメソポーラス材料等の特定の分子ふるいは、X線回折によって決定される明確な結晶構造を有する規則正しい多孔質結晶性材料である。結晶性分子ふるい材料内には、多数のチャネル又は細孔(pores)によって相互接続され得る非常に多数の空洞(cavities)が存在する。これらの空洞及び細孔は、特定の分子ふるい材料内では、サイズが均一である。これらの細孔の寸法は、特定の寸法の吸着分子は受け入れるが、一方で、より大きな寸法の吸着分子は排除するような寸法であるため、これらの材料は「分子ふるい」として知られるようになり、様々な工業的なプロセスで利用されている。
【0004】
多くの異なる結晶性分子ふるいが発見されているが、気体分離及び乾燥、化学転化反応、並びに他の用途に対して望ましい特性を有する新規な分子ふるいに対する必要性が引き続き存在する。
【0005】
本開示によれば、今では、SSZ−108と称され、独特のX線回折パターンを有する新規な分子ふるいが、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムカチオン及び1−ブチル−1−メチルピペリジニウムカチオンの1種以上を構造規定剤として使用して合成される。
【発明の概要】
【0006】
一態様では、合成されたままの形で、表2に記載のピークを含むX線回折パターンを有する分子ふるいを提供する。
【0007】
合成されたままで且つ無水の形態で、分子ふるいは以下のモル関係を含む化学組成を有する。
【表1】
(式中、Qは、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムカチオン及び1−ブチル−1−メチルピペリジニウムカチオンの1種以上を含み、Mは、1族又は2族の金属である。)
【0008】
別の態様では、か焼された形態で、表3に記載のピークを含むX線回折パターンを有する分子ふるいを提供する。
【0009】
か焼された形態で、分子ふるいは、以下のモル関係を含む化学組成を有する。
【化1】
(式中、nは5から25の値を有する。)
【0010】
更なる態様では、本明細書に記載の分子ふるいを合成する方法であって、
(a)(1)酸化ケイ素の供給源、(2)酸化アルミニウムの供給源、(3)1族又は2族の金属の供給源、(4)1−ブチル−1−メチルピロリジニウムカチオン及び1−ブチル−1−メチルピペリジニウムカチオンの1種以上を含む構造規定剤(structure directing agent)、(5)水酸化物イオン、及び(6)水、含む反応混合物を調製すること、並びに(b)前記反応混合物を、分子ふるいの結晶を形成するのに十分な結晶化条件に置くこと、を含む、方法を提供する。
【0011】
更に別の態様では、有機化合物を、有機化合物転化条件下で、本明細書に記載の活性形態の分子ふるいを含む触媒と接触させることを含む有機化合物転化方法を提供する。
【0012】
更に別の態様では、窒素酸化物(NO
x)を選択的に還元する方法であって、窒素酸化物を含有するガス流を、本明細書に記載の分子ふるいを含む触媒と接触させることを含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、例1の合成されたままの分子ふるいの粉末X線回折(XRD)パターンを示す。
【0014】
【
図2】
図2は、例1の合成されたままの分子ふるいの走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【0015】
【
図3】
図3は、例6のか焼された分子ふるいの粉末XRDパターンを示す。
【0016】
詳細な説明
緒言
「合成されたままの(as−synthesized)」という用語は、本明細書では、結晶化後で構造規定剤を除去する前の形態の分子ふるいを指すために使用する。
【0017】
「無水」という用語は、本明細書では、物理的に吸着された水と化学的に吸着された水の両方を実質的に含まない分子ふるいを指すために使用する。
【0018】
本明細書で使用する場合の周期表の族の番号付け方式は、Chem.Eng.News,1985,63(5),26−27に開示されている。
【0019】
反応混合物
一般に、本分子ふるいは、(a)(1)酸化ケイ素の供給源、(2)酸化アルミニウムの供給源、(3)1族又は2族の金属(M)の供給源、(4)1−ブチル−1−メチルピロリジニウムカチオン及び1−ブチル−1−メチルピペリジニウムカチオンの1種以上を含む構造規定剤(Q)、(5)水酸化物イオン、及び(6)水、を含む反応混合物を調製すること、並びに(b)前記反応混合物を、前記分子ふるいの結晶を形成するのに十分な結晶化条件に置くこと、により合成される。
【0020】
分子ふるいが形成される反応混合物の組成を、モル比換算で、以下の表1に示す。
【表2】
【0021】
酸化ケイ素酸化ケイ素の適切な供給源には、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、沈降シリカ、アルカリ金属ケイ酸塩及びオルトケイ酸テトラアルキルが含まれる。
【0022】
酸化アルミニウムの適切な供給源には、水和アルミナ及び水溶性アルミニウム塩(例えば、硝酸アルミニウム)が含まれる。
【0023】
酸化ケイ素及び酸化アルミニウムの組み合わされた供給源を、追加的又は代替的に使用することができ、これにはアルミノケイ酸塩ゼオライト(例えば、ゼオライトY)及びクレイ又は処理したクレイ(例えば、メタカオリン)を含めることができる。
【0024】
構造規定剤(Q)は、以下の構造(1)及び(2)でそれぞれ表される1−ブチル−1−メチルピロリジニウムカチオン及び1−ブチル−1−メチルピペリジニウムカチオンの1種以上を含む。
【化2】
【0025】
Qの適切な供給源は、第四級アンモニウム化合物の水酸化物、塩化物、臭化物、及び/又は他の塩である。
【0026】
適切な1族又は2族の金属(M)の例には、ナトリウム、カリウム及びカルシウムが含まれ、ナトリウムが好ましい。金属は一般的に水酸化物として反応混合物中に存在する。
【0027】
反応混合物は、先の合成からのSSZ−108結晶等の分子ふるい材料の種を、反応混合物の0.01から10,000重量ppm(例えば、100から5,000重量ppm)の量で含有することができる。
【0028】
本明細書に記載の各実施形態では、分子ふるい反応混合物は、複数の供給源から供給することができる。また、2つ以上の反応成分を1つの供給源から供給することもできる。
【0029】
反応混合物は、バッチ式又は連続式のいずれでも調製することができる。本明細書に記載の分子ふるいの結晶サイズ、形態及び結晶化時間は、反応混合物の性質及び結晶化条件によって変化し得る。
【0030】
結晶化及び合成後の処理
上記反応混合物からの分子ふるいの結晶化は、静止、回転又は攪拌条件下のいずれでも、適切な反応容器、例えば、ポリプロピレンジャー又はテフロン−内張り又はステンレス鋼製オートクレーブ等の中で、120℃から200℃の温度で、使用される温度で起こる結晶化に十分な時間、例えば、1から15日間、行うことができる。結晶化は通常、自原性の圧力下で閉鎖系で行われる。
【0031】
分子ふるいの結晶が形成された後、固体生成物を、反応混合物から遠心分離又は濾過等の標準的な機械的分離技術によって回収する。結晶を水洗し、次に、乾燥して、合成されたままの分子ふるいの結晶を得る。乾燥段階は、典型的に200℃未満の温度で行われる。
【0032】
結晶化プロセスの結果として、回収された結晶性分子ふるい生成物は、その細孔構造内に、合成に使用した構造規定剤の少なくとも一部を含有する。
【0033】
本明細書に記載の分子ふるいは、後続する処理にかけて、その合成に使用した構造規定剤の一部又は全部を除去し得る。これは、合成されたままの材料を、少なくとも370℃の温度で、少なくとも1分間且つ24時間以下加熱することができる熱処理によって都合よく達成できる。熱処理は、925℃までの温度で行うことができる。熱処理には、大気圧以下及び/又は大気圧以上を使用することができるが、大気圧が典型的には便宜上の理由で望ましい場合がある。追加的に又は代替的に、構造規定剤はオゾンを用いる処理によって除去することができる(参照:例えば、A.N.Parikhら、Micropor.Mesopor.Mater.2004、76、17−22)。
【0034】
合成されたままの分子ふるい中の元の1族又は2族の金属カチオン(例えば、Na
+)は、他のカチオンとのイオン交換によって、当技術分野で周知の技術に従って置換することができる。好ましい置換するカチオンには、金属イオン、水素イオン、水素前駆体(例えば、アンモニウム)イオン及びそれらの混合物が含まれる。特に好ましい置換するカチオンは、特定の化学転化反応のために触媒活性を適合させるものである。これらには、水素、希土類金属、及び元素周期表の2から15族の金属が含まれる。
【0035】
本分子ふるいを、有機転化プロセスで使用する温度及び他の条件に耐性のある別の成分と混合することが望ましい場合がある。そのような成分には、活性及び不活性材料、及び合成又は天然のゼオライト、並びにクレイ、シリカ、及び/又はアルミナ等の金属酸化物等の無機材料を含めることができる。後者は、天然のもの、又はシリカ及び他の金属酸化物の混合物を含むゼラチン状沈殿物若しくはゲルの形態のもののいずれでもよい。SSZ−108との結合で材料(即ち、それと結合するか、又は結晶性材料の合成の間に存在し、その活性状態にあり得る)を使用することにより、特定の化学転化プロセスにおける転化レベル及び/又は触媒の選択を変化させる傾向があり得る。不活性材料は、例えば、所与のプロセスでの転化量を制御するための希釈剤として適切に機能することができ、その結果、例えば、反応速度を制御するための他の手段を用いることなく、経済的且つ整然とした方法で生成物を得ることができる。これらの材料は、天然のクレイ(例えば、ベントナイト及び/又はカオリン)と混合して、商業的操作条件下で触媒の圧壊強度を改善することができる。これらの材料(即ち、クレイ、酸化物等)は、触媒の結合剤として機能し得る。商業的な用途では、触媒が粉末状材料(微粉)に破壊されるのを防止/抑制することが望ましい場合があるので、良好な圧壊強度を有する触媒を提供することが望ましい場合がある。これらのクレイ及び/又は酸化物結合剤は、例えば、触媒の圧壊強度を改善するためだけに使用することができる。
【0036】
SSZ−108と複合化することができる天然のクレイは、モンモリロナイト及びカオリンファミリーを含むことができ、これらのファミリーは、サブベントナイト、並びに一般的にDixie,McNamee,Georgia及びFloridaクレイとして知られるカオリン及び主なミネラル成分がハロイサイト(halloysite)、カオリナイト、ディッカイト(dickite)、ナクライト(nacrite)、又はアナウキサイト(anauxite)である他のものを含む。そのようなクレイは、生の状態で(最初に採掘されたままで)、及び/又はか焼、酸処理及び/又は化学的修飾に最初に供することができる。SSZ−108と複合化するのに有用な結合剤は、追加的に又は代替的に、シリカ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、ベリリア、アルミナ、及びそれらの混合物等の無機酸化物を含むことができる。
【0037】
前述の材料に加えて、又は代替的に、必要に応じて、SSZ−108は、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、シリカ−ジルコニア、シリカ−トリア、シリカ−ベリリア、シリカ−チタニア等の多孔質マトリクス材料、並びにシリカ−アルミナ−トリア、シリカ−アルミナ−ジルコニア、シリカ−アルミナ−マグネシア、シリカ−マグネシア−ジルコニア、及びそれらの混合物等の三元組成物と複合化することができる。
【0038】
SSZ−108と無機酸化物マトリクスとの相対的な割合は大幅に変化する場合があり、SSZ−108の含量は、全複合体重量に基づいて、典型的に1から90重量%(例えば、2から80重量%)の範囲である。
【0039】
分子ふるいの特徴付け
合成されたままで且つ無水の形態で、本分子ふるいは以下のモル関係を含む化学組成を有する。
【表3】
(式中、組成変数Q及びMは、明細書に上記した通りである。)
【0040】
合成されたままの形態の本分子ふるいは、該合成されたままの形態のものを調製するのに使用した反応混合物中の反応物のモル比とは異なるモル比を有し得ることに留意すべきである。この結果は、反応混合物中の100%の反応物が、形成された結晶中に、完全には取り込まれなかったために起こり得る。
【0041】
か焼された形態では、本分子ふるいは、以下のモル関係を含む化学組成を有する。
【化3】
(式中、nは5から25(例えば、5から20、又は5から15)の値を有する。)
【0042】
新規な分子ふるいの構造SSZ−108は、粉末X線回折パターンによって特徴付けられ、これは、合成されたままの形態の分子ふるいでは、少なくとも以下の表2に記載の線を含み、また、か焼された形態の分子ふるいでは、少なくとも以下の表3に記載のピークを含む。
【表4】
【表5】
【0043】
本明細書に提示した粉末X線回折パターンを、標準的な技術によって収集した。放射線はCuKα線であった。ピーク高さと位置を、θがブラッグ角のとき2θの関数として、ピークの相対強度から読取り(バックグラウンドについて調整し)、そしてd、つまり記録された線に対応する面間隔を算出することができる。
【0044】
回折パターンの小さい変動は、格子定数の変化によって特定のサンプルの骨格種のモル比が変動することから生じ得る。更に、十分に無秩序な材料及び/又は小さい結晶は、ピークの形や強度に影響して、ピークはかなり拡がるであろう。また、回折パターンの小さい変動は、調製に使用した有機化合物の変動からも生じ得る。か焼によってもまた、XRDパターンに小さなシフトが生じ得る。これらの小さな変動にもかかわらず、基本的な結晶構造は不変のまま維持される。
【0045】
収着と触媒作用
本分子ふるいは、様々な化学反応に収着剤又は触媒として使用し得る。本分子ふるいは、有機転化プロセス及びガス流中の窒素酸化物の還元のための触媒としての使用に特に適している。本分子ふるいによって触媒され得る有機転化プロセスの例には、非限定的に、低級アルコールの活性化(animating)及び有機含酸素化合物(organic oxygenate)の1種以上のオレフィンへの転化が含まれる。そのような反応は、指定の転化に作用するのに十分な条件下で、それぞれの供給原料を、SSZ−108を含む触媒と接触させることによって触媒作用を受け得る。
【0046】
本分子ふるいは、有機含酸素化合物の1種以上のオレフィン、特にエチレン及びプロピレンへの接触転化に使用し得る。「有機含酸素化合物」という用語は、本明細書では、脂肪族アルコール、エーテル、カルボニル化合物(例えば、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、カルボナート等)、並びにハロゲン化物、メルカプタン、スルフィド、アミン、及びそれらの混合物等の、ヘテロ原子を含有する化合物もまた含むように定義される。脂肪族部分は通常、1から10個の炭素原子(例えば、1から4個の炭素原子)を含有する。
【0047】
代表的な有機含酸素化合物には、低級直鎖又は分枝鎖脂肪族アルコール、それらの不飽和対応物、並びにそれらの窒素、ハロゲン、及び硫黄類似体が含まれる。適切な有機含酸素化合物の例には、メタノール;エタノール;n−プロパノール;イソプロパノール;C
4からC
10アルコール;メチルエチルエーテル;ジメチルエーテル;ジエチルエーテル;ジイソプロピルエーテル;ホルムアルデヒド;ジメチルカルボナート;アセトン;酢酸;3から10個の炭素原子の範囲のn−アルキル基を有するn−アルキルアミン、n−アルキルハリド、n−アルキルスルフィド;及びそれらの混合物が含まれる。特に適切な含酸素化合物は、メタノール、ジメチルエーテル、又はそれらの組み合わせ、特にメタノールである。
【0048】
本含酸素化合物転化プロセスでは、所望のオレフィンを製造するために、有機含酸素化合物、及び任意選択的に1種以上の希釈剤を含む供給原料を、本分子ふるいを含む触媒と、反応領域の気相にて有効なプロセス条件で接触させる。あるいは、このプロセスは、液相、又は気/液混合相で実施し得る。このプロセスが液相、又は気/液混合相で実施される場合、触媒及び反応条件に応じて、供給原料対生成物の異なる転化率及び選択率が生じ得る。
【0049】
希釈剤は、存在する場合、一般的に、供給原料又は分子ふるい触媒組成物に対して非反応性であり、供給原料中の含酸素化合物の濃度を低下させるために典型的に使用される。適切な希釈剤の非限定的な例には、ヘリウム、アルゴン、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、水、本質的に非反応性のパラフィン(特にメタン、エタン、及びプロパン等のアルカン)、本質的に非反応性の芳香族化合物、及びそれらの混合物が含まれる。最も好ましい希釈剤は、水及び窒素であり、水が特に好ましい。希釈剤(1種又は複数種)は、全供給混合物の1から99モル%を構成し得る。
【0050】
含酸素化合物転化プロセスで使用される温度は、200℃から1000℃(例えば、250℃から800℃、300℃から650℃、又は400℃から600℃)等の広い範囲に亘って変化し得る。
【0051】
軽質オレフィン生成物は、必ずしも最適な量ではないが、自原性の圧力、及び0.1kPaから10MPa(例えば、7kPaから5MPa、又は50kPaから1MPa)の範囲の圧力を含む広範囲の圧力で形成される。前記圧力は、希釈剤が存在する場合には、その希釈剤を排除したものであり、供給原料は含酸素化合物及び/又はそれらの混合物に関するので、それは供給原料の分圧を指す。下限及び上限の圧力では、選択性、転化率、コーキングレート、及び/又は反応速度に悪影響を及ぼし得るが、なお、エチレン及び/又はプロピレン等の軽質オレフィンが形成され得る。
【0052】
含酸素化合物転化プロセスは、所望のオレフィン生成物を製造するのに十分な時間の間継続すべきである。反応時間は、数十秒から多くの時間にまで変化し得る。反応時間は、反応温度、圧力、選択した触媒、重量空間速度、相(液体又は蒸気)、及び選択したプロセス設計特性によって主に決定される。
【0053】
本含酸素化合物転化プロセスでは、広範囲の重量空間速度(WHSV:weight hourly space velocities)を使用することができる。WHSVは、分子ふるい触媒の全反応体積(不活性剤及び/又は充填剤を除く)の重量当たりの時間当たりの供給原料(希釈剤を除く)の重量として定義される。WHSVは、一般的に、0.01から500h
−1(例えば、0.5から300h
−1、又は1から200h
−1)の範囲内であり得る。
【0054】
本分子ふるいは、窒素酸化物の選択的接触還元(SCR)に使用し得る。このプロセスでは、窒素酸化物(NO
x)を含むガス流が、還元剤及び本分子ふるいを含む触媒の存在下で選択的に還元される。窒素酸化物(主にNO及びNO
2)がN
2に還元され、一方、還元剤は酸化される。アンモニアが還元剤である場合、N
2もまた酸化生成物である。NH
3は通常、空気でNO又はN
2Oに酸化されるが、反応生成物が水とN
2のみであるのが、理想的である。
【0055】
触媒活性を高めるために、更に遷移金属を分子ふるい担体に混合し得る。任意の適切な遷移金属を選択し得る。選択的接触還元中に使用するのに特に有効な遷移金属には、Cr、Mn、Fe、Co、Ce、Ni、Cu、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Re、Ir、及びPtのうちの1種以上が含まれる。一実施形態では、遷移金属はFe及びCuから選択される。例示的な実施形態では、遷移金属はCuである。触媒には、任意の適切な且つ有効な量の遷移金属を使用し得る。分子ふるいに含まれ得る遷移金属の全量は、分子ふるい担体の全重量に基づいて、0.01から20重量%(例えば、0.1から10重量%、0.5から5重量%、又は1から2.5重量%)であり得る。
【0056】
分子ふるい触媒は、任意の適切な形態で使用することができる。例えば、分子ふるい触媒は、粉末形態で、押出物として、ペレットとして、又は他の任意の適切な形態で使用することができる。
【0057】
窒素酸化物の還元に使用するための分子ふるい触媒は、適切な基材モノリス上にコーティングしてもよく、又は押出型触媒として形成してもよいが、触媒コーティングに使用するのが好ましい。一実施形態では、分子ふるい触媒は、貫流モノリス基材(即ち、部品全体を軸方向に貫通する多数の小さな平行チャネルを有するハニカムモノリス触媒担体構造)又はウォールフローフィルター等のフィルターモノリス基材上にコーティングされる。本明細書で使用するための分子ふるい触媒は、(例えば、ウォッシュコ−ト成分として)、適切なモノリス基材、例えば金属若しくはセラミックフロースルーモノリス基材、又はフィルタリング基材、例えばウォールフローフィルター又は焼結金属若しくはパーシャルフィルター等上にコーティングすることができる。あるいは、分子ふるいは、基材上に直接、合成してもよく、及び/又は押出型フロースルー触媒に形成してもよい。
【0058】
窒素酸化物を含むガス流は、N
2、O
2、CO、CO
2、SO
2、HCl、及びH
2O等の他の非NO
xガスに加えて、1種以上のNO、NO
2、及びN
2Oを含有し得る。ガス流は、1から10,000ppm(例えば、10から1,000ppm、又は50から500ppm)のNOを含有し得る。
【0059】
窒素酸化物を含むガス流は、(可動式又は定置式にかかわらず)内燃機関、ガスタービン又は石炭若しくは油燃焼プラント等からの燃焼プロセスから誘導される排ガスであり得る。
【0060】
還元剤は、窒素化合物又は短鎖(例えば、C
1からC
8)炭化水素であり得る。好ましくは、還元剤は窒素化合物である。適切な窒素化合物には、アンモニア、ヒドラジン、及びアンモニア前駆体(例えば、尿素、炭酸アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、及びギ酸アンモニウム)が含まれる。
【0061】
窒素酸化物を含むガス流は、5000から500,000h
−1(例えば、10,000から200,000h
−1)のガス空間速度(gas hourly space velocity)で触媒と接触することができる。
【0062】
窒素酸化物の還元は、100℃から650℃(例えば、250℃から600℃)の範囲内の温度で実施し得る。
【0063】
窒素酸化物の還元は、酸素の存在下又は酸素の非存在下で実施することができる。
なお、下記[1]から[15]は、いずれも本発明の一形態又は一態様である。
[1]
か焼された形態で、下記の表に記載のピークを含むX線回折パターンを有する分子ふるい。
【表6】
[2]
下式のモル関係を含む組成を有する、[1]に記載の分子ふるい。
【化4】
(式中、nは5から25の値を有する。)
[3]
合成されたままの形態で、下記の表に記載のピークを含むX線回折パターンを有する分子ふるい。
【表7】
[4]
下記のモル関係を含む組成を有する、[3]に記載の分子ふるい。
【表8】
(式中、Qは、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムカチオン及び1−ブチル−1−メチルピペリジニウムカチオンの1種以上を含み、Mは、1族又は2族の金属である。)
[5]
下記のモル関係を含む組成を有する、[3]に記載の分子ふるい。
【表9】
(式中、Qは、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムカチオン及び1−ブチル−1−メチルピペリジニウムカチオンの1種以上を含み、Mは、1族又は2族の金属である。)
[6]
(a)(1)酸化ケイ素の供給源、
(2)酸化アルミニウムの供給源、
(3)1族又は2族金属(M)の供給源、
(4)1−ブチル−1−メチルピロリジニウムカチオン及び1−ブチル−1−メチルピペリジニウムカチオンの1種以上を含む構造規定剤(Q)、
(5)水酸化物イオン、及び
(6)水、
含む反応混合物を調製すること、並びに
(b)前記反応混合物を、前記分子ふるいの結晶を形成するのに十分な結晶化条件に置くこと、を含む、[3]に記載の分子ふるいを合成する方法。
[7]
前記反応混合物が、モル比換算で、以下の組成を有する、[6]に記載の方法。
【表10】
[8]
前記反応混合物が、モル比換算で、以下の組成を有する、[6]に記載の方法。
【表11】
[9]
前記結晶化条件が、120℃から200℃の温度を含む、[6]に記載の方法。
[10]
有機化合物を、有機化合物転化条件下で、[1]に記載の分子ふるいを含む触媒と接触させることを含む、有機化合物転化方法。
[11]
前記有機化合物が、有機含酸素化合物を含み、且つ前記有機化合物転化方法が、前記有機含酸素化合物を、オレフィンを含む生成物に転化する、[10]に記載の有機化合物転化方法。
[12]
前記有機含酸素化合物が、メタノール、ジメチルエーテル、又はそれらの組み合わせを含み、且つ前記オレフィンが、エチレン、プロピレン、又はそれらの組み合わせを含む、[11に記載の有機化合物転化方法。
[13]
窒素酸化物を含有するガス流を、[1]に記載の分子ふるいを含む触媒と接触させることを含む、窒素酸化物(NOx)を選択的に還元する方法。
[14]
前記触媒が、Cr、Mn、Fe、Co、Ce、Ni、Cu、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Re、Ir、及びPtから選択される1種以上の遷移金属を更に含む、[13]に記載の方法。
[15]
前記遷移金属が、前記分子ふるいの全重量に基づいて、0.1から10重量%の量で存在する、[14]に記載の方法。
【実施例】
【0064】
以下の例示的な実施例は非限定的であることを意図している。
【0065】
例1
4.62gの脱イオン水、1.93gの50%NaOH溶液、14.14gの16.33%1−ブチル−1−メチルピロリジニウムヒドロキシド溶液及び3.00gのCBV760Y−ゼオライト粉末(Zeolyst International、SiO
2/Al
2O
3モル比=60)をテフロンライナー中で一緒に混合した。得られたゲルを均質になるまで撹拌した。次に、ライナーに蓋をして、Parr鋼製オ−トクレイブ反応器内に置いた。次に、オートクレーブをオーブン中に置き、135℃で4日間加熱した。固体生成物を遠心分離により回収し、脱イオン水で洗浄して、95℃で乾燥させた。
【0066】
合成されたままの生成物の粉末XRDから、
図1に示すパターンが得られ、生成物は、SSZ−108と特定される純粋な形態の新規な相であることが分かった。合成されたままの生成物のSEM画像を、結晶の一様な視野を示す
図2に示す。
【0067】
合成されたままの生成物は、ICP元素分析により測定して、8.82のSiO
2/Al
2O
3モル比を有していた。
【0068】
例2
27.89gの脱イオン水、7.09gの50%NaOH溶液、39.27gの16.33%1−ブチル−1−メチルピロリジニウムヒドロキシド溶液及び10.00gのCBV760Y−ゼオライト粉末(Zeolyst International、SiO
2/Al
2O
3モル比=60)をテフロンライナー中で一緒に混合した。得られたゲルを均質になるまで撹拌した。次に、ライナーに蓋をして、Parr鋼製オートクレーブ反応器内に置いた。次に、オートクレーブをオーブン中に置き、135℃で4日間加熱した。固体生成物を遠心分離により回収し、脱イオン水で洗浄して、95℃で乾燥させた。
【0069】
粉末XRDは、生成物が純粋なSSZ−108であることを示した。
【0070】
合成されたままの生成物は、ICP元素分析によって測定して、8.24のSiO
2/Al
2O
3モル比を有していた。
【0071】
例3
8.37gの脱イオン水、2.32gの50%NaOH溶液、9.42gの16.33%の1−ブチル−1−メチルピロリジニウムヒドロキシド、及び3.00gのCBV720Y−ゼオライト粉末(Zeolyst International、SiO
2/Al
2O
3モル比=30)をテフロンライナー中で一緒に混合した。得られたゲルを均質になるまで撹拌した。次に、ライナーに蓋をして、Parr鋼製オートクレーブ反応器内に置いた。次に、オートクレーブをオーブン中に置き、135℃で4日間加熱した。固体生成物を遠心分離により回収し、脱イオン水で洗浄して、95℃で乾燥させた。
【0072】
粉末XRDは、生成物がSSZ−108とANA骨格型ゼオライトとの混合物であることを示した。
【0073】
例4
32.74gの脱イオン水、6.44gの50%NaOH溶液、27.66gの20.19%1−ブチル−1−メチルピペリジニウムヒドロキシド溶液及び10.00gのCBV760Y−ゼオライト粉末(Zeolyst International、SiO
2/Al
2O
3モル比=60)をテフロンライナー中で一緒に混合した。得られたゲルを均質になるまで撹拌した。次に、ライナーに蓋をして、Parr鋼製オートクレーブ反応器内に置いた。次に、オートクレーブをオーブン中に置き、135℃で5日間加熱した。固体生成物を遠心分離により回収し、脱イオン水で洗浄して、95℃で乾燥させた。
【0074】
粉末XRDは、生成物が純粋なSSZ−108であることを示した。
【0075】
合成されたままの生成物は、ICP元素分析により測定して、7.95のSiO
2/Al
2O
3モル比を有していた。
【0076】
例5
9.82gの脱イオン水、1.93gの50%NaOH溶液、8.30gの20.19%1−ブチル−1−メチルピペリジニウムヒドロキシド溶液及び3.00gのCBV780Y−ゼオライト粉末(Zeolyst International、SiO
2/Al
2O
3モル比=80)をテフロンライナー中で一緒に混合した。得られたゲルを均質になるまで撹拌した。次に、ライナーに蓋をして、Parr鋼製オートクレーブ反応器内に置いた。次に、オートクレーブをオーブン中に置き、135℃で4日間加熱した。固体生成物を遠心分離により回収し、脱イオン水で洗浄して、95℃で乾燥させた。
【0077】
粉末XRDは、生成物がSSZ−108とANA骨格型ゼオライトとの混合物であることを示した。
【0078】
例6
例1の合成されたままの分子ふるい生成物を、1℃/分の速度で540℃に加熱した空気流下で、マッフル炉内でか焼して、540℃に5時間保持し、冷却して、次に、粉末XRDにより分析した。
【0079】
か焼された生成物の粉末XRDから、
図3に示すパターンを得、材料が有機構造規定剤を除去するためにか焼した後、安定であることが分かった。
【0080】
例7
例6のか焼された分子ふるい材料を、10mL(分子ふるい1g当たり)の1N硝酸アンモニウム溶液を用いて、90℃で2時間処理した。混合物を冷却し、溶媒をデカント除去して、同じ工程を繰り返した。
【0081】
乾燥後、生成物(NH4−SSZ−108)を、吸着質としてN
2を使用し、B.E.T.方法により微細孔容積分析に供した。分子ふるいは、0.15cm
3/gの微細孔容積を有していた。