(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972192
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】補力液及びインクジェットプリンタ装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/17 20060101AFI20211111BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20211111BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20211111BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
B41J2/17
B41J2/01 501
B41J2/175 315
B41J2/01 451
B41M5/00 120
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2020-8845(P2020-8845)
(22)【出願日】2020年1月23日
(62)【分割の表示】特願2015-202548(P2015-202548)の分割
【原出願日】2015年10月14日
(65)【公開番号】特開2020-73334(P2020-73334A)
(43)【公開日】2020年5月14日
【審査請求日】2020年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】音羽 拓也
(72)【発明者】
【氏名】荻野 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 洋
(72)【発明者】
【氏名】有馬 崇博
(72)【発明者】
【氏名】永井 啓資
(72)【発明者】
【氏名】武山 博道
(72)【発明者】
【氏名】華 勝男
【審査官】
小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−203051(JP,A)
【文献】
特開平07−304189(JP,A)
【文献】
特開2002−005818(JP,A)
【文献】
特開2006−159789(JP,A)
【文献】
特開平08−295013(JP,A)
【文献】
米国特許第06293143(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する印字ヘッドと、
前記インクが収容されるインクタンクと、
補力液が収容される補力液タンクと、
前記補力液タンクまたは前記インクタンクの状態に関する情報を表示可能なディスプレイと、を備えるインクジェットプリンタ装置であって、
前記補力液の量を検出するフロートセンサと、紫外光を発光する発光素子と、可視光を検出する受光素子とが前記補力液タンクに取り付けられており、前記発光素子と前記受光素子は、前記補力液タンクの側面に互いに対向するように取り付けられ、
前記発光素子から紫外光を発光して、前記受光素子にて可視光を検出したか否かを判定し、その判定結果に基づいて、前記補力液タンク内の補力液に充填されている補力液が正しいかどうかを、前記ディスプレイに表示することを特徴とするインクジェットプリンタ装置。
【請求項2】
請求項1記載のインクジェットプリンタ装置であって、
前記フロートセンサにより前記補力液タンク内の補力液の液面が前記発光素子および前記受光素子よりも高い位置にあることを検出して、かつ、前記発光素子から紫外光を発光し、前記受光素子にて可視光を検出する場合に、前記ディスプレイ上に前記補力液タンク内の補力液に充填されている補力液が正しいことを示す情報を表示することを特徴とするインクジェットプリンタ装置。
【請求項3】
請求項1記載のインクジェットプリンタ装置であって、
前記フロートにより前記補力液タンク内の補力液の液面が前記発光素子および前記受光素子よりも高い位置にあることを検出して、かつ前記発光素子から紫外光を発光し、前記受光素子にて可視光を検出しない場合に、前記ディスプレイ上に前記補力液タンク内の補力液に充填されている補力液が正しくないことを表示することを特徴とするインクジェットプリンタ装置。
【請求項4】
請求項1記載のインクジェットプリンタ装置であって、
前記補力液の溶剤主成分がアルコール系またはケトン系であることを特徴とするインクジェットプリンタ装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のインクジェットプリンタ装置であって、
前記補力液は、光を照射すると可視光を発する蛍光色材と、溶剤と、を含む補力液であり、
前記蛍光色材がクマリン構造を有する化合物またはスチルベン構造を有する化合物であることを特徴とするインクジェットプリンタ装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のインクジェットプリンタ装置であって、
前記発光素子の光のピーク波長が200nm以上400nm以下のブラックライトであることを特徴とするインクジェットプリンタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットプリンタに使用される補力液及びインクジェットプリンタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
帯電制御方式インクジェットプリンタではプリンタ装置内のインクの粘度を常時適正値に維持するため補力液を充填したタンクを搭載している。タンク内の補力液が不足するとインク粘度の調整が困難となる。そのため「インク液面の検出方法として、フロートにマグネットを内蔵し、リードスイッチを使ってフロートの位置を検出することで液面を検出する方式」が特許文献1(特開2000-203057号公報)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-203057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献の液面検知技術では長期使用によるフロート材とフロート支持材との機械的摩耗、材質劣化等により正しく液面が検知できなくなる恐れがある。本発明の目的は、こうした物理的摩耗、材質劣化による検知誤差を生じない補力液及びインクジェットプリンタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は光を照射すると可視光を発する蛍光色材と、溶剤と、を含む補力液であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、精度の高い液面検出が可能な補力液及びインクジェットプリンタ装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】受光素子に用いることのできる光センサ回路図
【
図4】インクジェットプリンタ装置内の信号伝達の模式図
【
図5】補力液の液面高さおよび受光センサの高さの高低を判断するアルゴリズム図
【
図9】実施例6における受光素子の受光量と補力液液面の相関図
【
図11】実施例7における受光素子の受光量と補力液液面の相関図
【
図12】スルホ基を有するスチルベン系化合物の構造式
【発明を実施するための形態】
【0008】
「補力液」とはインクジェットプリンタ、とりわけ帯電制御方式インクジェットプリンタにおいて溶媒成分の揮発等により装置内のインク液粘度が上昇した際インク液に加えることで粘度を適正値まで低下させるのに使用される液である。通常、帯電制御方式インクジェットプリンタは装置内のインク液粘度を常時適正値に維持するため補力液を充填した補力液タンクを搭載している。補力液タンク内の補力液が空になるとインク液粘度を適正値に維持することが困難となる。そのため、補力液がタンク内に十分充填されているかモニタリングし、前記タンク内の補力液駅量が少なくなった時点で補力液を補充するよう作業者に通知することが重要となる。
【0009】
本願は蛍光色材を含む補力液および発光素子、受光素子を組み込んだ補力液タンクから構成される。本願は発光素子からの照射光で補力液を可視発光させ、受光素子で前記可視光を検知するメカニズムにより、所定の位置におけるタンク中補力液の有無を検知し、それにより液面高さを検出することができる。
【0010】
以下、本願の実施形態を説明する。以下に述べる実施形態は本願を具体化した一例に過ぎず、本願の技術的範囲を限定するものではない。
1.補力液の構成材料
補力液は、少なくとも蛍光色材、溶剤を含む。これらを溶解撹拌混合した後、0.25〜10μm孔径のフィルタにて濾過してインクジェットプリンタ用補力液が得られる。
(1) 蛍光色材
本願に用いられる蛍光色材としては、例えばスチルベン系化合物、ビフェニル系化合物、クマリン系化合物、イミダゾール系化合物、ベンゾオキサゾリル系化合物、ナフタルイミド系化合物、ピラゾロン系化合物、カルボスチリル系化合物、トリアゾール系化合物、などが挙げられる。これらの中でも、発明に用いられる蛍光色材としては有機溶剤への溶解性の観点からスチルベン系化合物が好ましく、特に
図12で表されるスルホ基を有するスチルベン系化合物が好ましい。以下、本願に好ましく使用される蛍光色材の化合物例を示すが、本願はこれらに限定されることはない。
【0011】
蛍光色材の添加量を増やせば補力液の可視発光量は増大するが、その一方で溶解の不安定化を招き析出する恐れがある。添加量を減らせば蛍光色材の析出は抑えられるが、十分な可視発光が得られない恐れがある。
図12の例であれば、例えばエタノールに1.0wt%以上加えると析出が起きることがわかっている。また、1.0×10
-4 wt%以上であれば発光が確認できる。以上より、エタノールを溶剤とした場合、1.0×10
-4wt%以上1.0wt%未満が好ましく、溶解安定性、可視発光両立の観点から1.0×10
-3wt%以上1.0×10
-1wt%未満がより好ましい。
(2)溶剤
溶剤の主成分としてアルコール系またはケトン系溶剤を用いる。アルコール系溶剤としてはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。ケトン系溶剤としては例えばアセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)等が挙げられる。これらを単独、或いは混合して使用する。その他、エーテル系溶剤、グリコール系溶剤を加えても良い。
(3)添加剤
蛍光色材の溶剤への溶解性を向上させる目的、或いは補力液の粘度、導電率、表面張力など諸物性を調整する目的で添加剤を加えても良い。
2.インクジェットプリンタ
(1) 印字方式
上記の補力液は、公知の印字方式のインクジェットプリンタで使用することができる。
印字方式には例えば帯電制御方式、ドロップ・オン・デマンド方式等が挙げられるが、本願は特に補力液タンクを使用する帯電制御方式に適している。
(2) 補力液タンク
補力液タンクに発光素子および受光素子を組み込むことにより所定の位置におけるタンク内補力液の有無を検知し、それにより液面高さを推定することができる。発光素子、受光素子はタンク内壁又は外壁などに組み込むことができる。発光素子の光源は省エネ、長寿命の観点でLEDであることが好ましい。発光素子の光源が発する照射光は、補力液の可視発光が確認できるよう波長のピーク値が200nm〜400nmの紫外線が好ましいが、その中で近紫外線と呼ばれる人体への影響の少ないピーク値315nm〜400nmの波長の光がより好ましく、より安全な、一般にブラックライトと呼ばれるピーク値360〜390nmの波長の光が最も好ましい。補力液に使用する蛍光色材の種類によって発する可視光の波長は異なるため、受光素子に使用する光センサの検知波長域は蛍光色材が発する可視光の波長に応じて決定する。例えば
図12を蛍光色材として使用した場合、450nmをピークとして400nm〜550nmの幅を持つ蛍光スペクトルを発するため受光素子の光センサとして、例えばCdS光センサを使用することができる。可視光の有無によって抵抗値が変わるCdS光センサの特性を利用し、例えば出力電圧値V
OUTをモニタリングすることで可視光の有無を検知できる
図1のような公知のセンサ回路を受光素子に含んでも良い。光センサとして、その他カドミウムフリーの光センサを使用しても良い。発光素子および受光素子は最低1組あれば良いが液面の高さをより高精度に検出するために複数組用いることも可能である。また、本願の補力液タンクは必要に応じて公知のフロートを用いた補力液の液面検知システムを併せて有しても良い。以上のように、本願の補力液の液面高さを推定する以外にも、同じメカニズムを用いて充填した補力液の可視発光の有無により補力液の間違い防止に使用しても良い。
【実施例1】
【0012】
100gのエタノールに、化1で表される蛍光色材Aを0.1g加え、撹拌して溶解させた液を0.5μm孔径のポリプロピレン製フィルタで濾過した。こうして本実施例の補力液を調製した。
【0013】
調製した補力液にピーク値200nmの光を照射したところ、補力液内からピーク値450nmの可視光の発光が見られた。
【0014】
調製した補力液にピーク値400nmの光を照射したところ、補力液からピーク値450nmの可視光の発光が見られた。
(比較例1)
100gのエタノール液を0.5μm孔径のポリプロピレン製フィルタで濾過した。こうして本比較例の補力液を調製した。
【0015】
調製した補力液にピーク値200nmの光を照射したところ、補力液内で可視光域にピーク値をもつ光は見られなかった。
【0016】
調製した補力液にピーク値400nmの光を照射したところ、補力液内で可視光域にピーク値をもつ光は見られなかった。
【実施例2】
【0017】
図2はインクジェットプリンタ10を示す斜視図、
図3は実施例2における補力液タンク内部の模式図、
図4はインクジェットプリンタ装置内の信号伝達の模式図、
図5は補力液の液面高さおよび受光センサの高さの高低を判断するアルゴリズム図である。
【0018】
図2のインクジェットプリンタ10には、外部には操作表示部3が備えられた本体1と印字ヘッド2が備えられており、本体1と印字ヘッド2は導管4で接続されている。本実施例ではインクジェットプリンタ10に
図3に示す発光素子102および受光素子103を内壁に組み込んだ補力液タンク101を搭載した。発光素子102はピーク値375nmの光を発するLEDを使用した。受光素子の光センサにはCdS光センサを用い、
図1に示す回路により可視光の有無を検知した。補力液タンクは外部からの可視光を遮蔽する材料とした。実施例1で調製した補力液を補力液タンク101に所定量充填した。受光センサ103の高さH
2を補力液の液面111の高さH
1が下回ると操作表示部3を介して警報を出し、作業者に補力液を充填するよう指示する設定とした。本実施例ではH
1がH
2よりも高かった。発光素子102からピーク値375nmの光121を照射したところ、補力液からピーク値450nmの可視光122の発光が見られた。可視光122が受光素子103により検知された。
図4に示すように受光素子103で可視光が検知された結果をインクジェットプリンタ本体1内のCPU20に信号線21を介して伝達したところ
図5に示したアルゴリズムよりH
1はH
2よりも高いと正しく判断した。信号線22を介して操作表示部3に補力液充填量が十分である旨を表示させた。
【0019】
本発明によれば、タンク内に補力液があれば発光素子からの光で補力液中の蛍光材料が可視光を発し、その可視光を受光素子が検知する。その結果、固体間の機械的磨耗や材質劣化による液面検出誤差を抑制し、常に精度の高い液面検出が可能となる。
【実施例3】
【0020】
本実施例の補力液タンクの模式図を
図6に示す。
図6の通り本実施例ではH
1がH
2よりも低いとした以外、実施例2と同じ構成、設定とした。発光素子102からピーク値375nmの光121を照射したが、受光素子103により可視光域にピーク値を持つ光は検知されなかった。検知結果を実施例2と同様に処理したところH
1はH
2よりも低いと正しく判断した。信号線22を介して操作表示部3に補力液充填量が不充分であり補力液の補充が必要である旨を表示させた。
【実施例4】
【0021】
本実施例の補力液タンクの模式図を
図7に示す。
図7の通り本実施例では補力液タンク101に発光素子102A,102B,102Cおよび受光素子103A,103B,103Cを内壁に組み込み、H
B < H
1 < H
Aとし、警報を出す液面高さをH
cとした以外は実施例2と同じ構成、設定とした。発光素子102A,102B,102Cの3点からピーク値375nmの光121を照射したところ、補力液内でピーク値450nmの可視光122の発光が見られた。可視光122は受光素子103B,103Cでは検知された一方、受光素子103Aでは検知されなかった。検知結果を実施例2と同様に処理したところH
B < H
1 < H
Aであると正しく判断した。信号線22を介して操作表示部3に補力液充填量が十分である旨を表示させた。
【実施例5】
【0022】
本実施例の補力液タンクの模式図を
図8に示す。
図8の通り、各受光素子を補力液タンク101外壁に組み込み、発光素子の組み込み位置を補力液タンク101底部(補力液タンクの外側)とした以外は実施例4と同じ構成、設定とした。なお、各受光素子、発光素子の受光、発光機能に支障がなきよう補力液タンク101の各素子組み込み部は加工してある。発光素子102からピーク値375nmの光121を照射したところ、補力液内でピーク値450nmの可視光122の発光が見られた。可視光122は受光素子103B,103Cでは検知された一方、受光素子103Aでは検知されなかった。検知結果を実施例2と同様に処理したところH
B < H
1 < H
Aであると正しく判断した。信号線22を介して操作表示部3に補力液充填量が十分である旨を表示させた。
【実施例6】
【0023】
本実施例の補力液タンクの模式図を
図9に示す。
図9の通り本実施例ではフロート130を使用した液面検知システムを付けた以外、実施例2と同じ構成とし、
図10で示すアルゴリズムで動作することとした。なお、フロート130およびそれを支える支持棒は発光素子、受光素子の機能に支障をきたさない位置に固定した。フロート130により補力液の液面111高さH
1が受光センサ高さのH
2よりも高い位置にあることを検知した。その結果を受けて発光素子102からピーク値375nmの光121を照射したところ、補力液からピーク値450nmの可視光122の発光が見られた。可視光122が受光素子103により検知された。
図4に示すように受光素子103で可視光が検知された結果をインクジェットプリンタ本体1内のCPU20に信号線21を介して伝達したところ信号線22を介して操作表示部3に正しい補力液が十分に充填されている旨を表示させた。
【実施例7】
【0024】
本実施例の補力液タンクの模式図を
図11に示す。補力液タンク101に比較例1で作成した補力液を充填した以外は実施例6と同じ構成、設定とした。フロート130により補力液の液面111高さH
1が受光センサ高さのH
2よりも高い位置にあることを検知した。その結果を受けて発光素子102からピーク値375nmの光121を照射したが、可視光は受光素子103により検知されなかった。検知結果を実施例7と同様に処理したところ信号線22を介して操作表示部3に補力液の充填が必要、又は間違った補力液を使用している可能性がある旨を表示させた。
【符号の説明】
【0025】
1:本体、2:印字ヘッド、3:操作表示部、4:導管、10:インクジェットプリンタ、20:CPU、21:信号線(CPU入力用)、22:信号線(操作表示部入力用)、101:補力液タンク、102:発光素子、103:受光素子、111:補力液の液面、121:ピーク値375nmの光、122:ピーク値450nmの可視光