特許第6972231号(P6972231)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972231
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】水性バインダー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 285/00 20060101AFI20211111BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20211111BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20211111BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20211111BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20211111BHJP
   C08F 265/10 20060101ALI20211111BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20211111BHJP
   C08F 261/04 20060101ALI20211111BHJP
   C08F 251/02 20060101ALI20211111BHJP
   C08F 2/00 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   C08F285/00
   H01M4/1391
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/62 Z
   C08F265/10
   C08F265/06
   C08F261/04
   C08F251/02
   C08F2/00 A
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-82711(P2020-82711)
(22)【出願日】2020年5月8日
(65)【公開番号】特開2020-186385(P2020-186385A)
(43)【公開日】2020年11月19日
【審査請求日】2020年5月8日
(31)【優先権主張番号】201910385073.X
(32)【優先日】2019年5月9日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517054556
【氏名又は名称】福建藍海黒石新材料科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】FUJIAN BLUE OCEAN & BLACK STONE TECHNOLOGY CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】羅 賀斌
(72)【発明者】
【氏名】白 豊瑞
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−238488(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第108598486(CN,A)
【文献】 特開昭57−102976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F285/00
C08F265/00−265/10
C08F2/22−2/30
H01M 4/1391
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース又はカルボキシメチルセルロースうちの1種又は複数種の存在下で、カルボキシ基含有機能性モノマー、酢酸ビニルモノマーびアクリレートモノマーを混合し、前段重合を行い、前段のバインダーを形成するステップ(1)と、
前段重合反応が終了した後、酢酸ビニルモノマーを加え、中段重合を行い、中のバインダーを形成するステップ(2)と、
中段重合の終了後、予めカルボキシ基含有機能性モノマー、酢酸ビニルモノマー及びアクリレートモノマーで調製したプレエマルションを滴下し、完全に反応させ、後段のバインダーを形成するステップ(3)と、
を含む方法により製造されることを特徴とする、水性バインダー。
【請求項2】
前記バインダーは、三段共重合体であり、前記中段のバインダーは、酢酸ビニルポリマーであり、前記前段又は後段のバインダーは、カルボキシ基含有機能性モノマー、アクリレートモノマー及び酢酸ビニルモノマーで形成される共重合体であることを特徴とする、請求項1に記載の水性バインダー。
【請求項3】
前記カルボキシ基含有機能性モノマーは、カルボキシ基及び不飽和結合を含む化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の水性バインダー。
【請求項4】
前記前段又は後段のバインダー中のカルボキシ基含有機能性モノマーは、質量で5%−50%であることを特徴とする、請求項2に記載の水性バインダー。
【請求項5】
前記前段又は後段のバインダー中の酢酸ビニルと前記共重合体との質量比は、10%−40%であることを特徴とする、請求項2に記載の水性バインダー。
【請求項6】
前記カルボキシ基含有機能性モノマーは、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸又は無水マレイン酸から選択される1種又は複数種であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の水性バインダー。
【請求項7】
前記アクリレートモノマーは、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ノルマル/イソオクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリル酸メチルメタクリル酸ヒドロキシエチルはメタクリル酸イソボルニルエステルから選択される1種又は複数種であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の水性バインダー。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の水性バインダーの製造方法であって、
ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース又はカルボキシメチルセルロースうちの1種又は複数種の存在下で、カルボキシ基含有機能性モノマー、酢酸ビニルモノマーびアクリレートモノマーを混合し、前段重合を行うステップ(1)と、
前段重合反応が終了した後、酢酸ビニルモノマーを加え、中段重合を行うステップ(2)と、
中段重合の終了後、予めカルボキシ基含有機能性モノマー、酢酸ビニルモノマー及びアクリレートモノマーで調製したプレエマルションを加え、完全に反応させるステップ(3)と、
を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項9】
リチウムイオン電池用三元系材料における、請求項1から7のいずれか1項に記載の水性バインダー或いは請求項に記載の製造方法により製造した水性バインダーの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池材料の分野に属し、具体的には、リチウムイオン電池三元系材料に用いられる水性バインダー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、1990年代に急速に発展した新世代の二次電池であり、小型携帯電子通信製品及び電気自動車に幅広く用いられている。電池材料の性能は、リチウム電池産業の中核部分である。電池材料として、正極材料、負極材料、セパレーター、電解液などが挙げられる。正極材料は、リチウムイオン電池を製造するための重要な材料の一つであり、電池コストの25%以上を占め、その性能は電池の各性能指標に直接影響する。
【0003】
リチウムイオン電池の急激な発展に伴い、より軽量でエネルギー密度が高いリチウムイオン電池の製造が求められている。電池エネルギー密度を向上するための製造プロセスの最適化に加えて、リチウムイオン電池の正・負極材料のエネルギー密度の向上はこの段階の焦点となっている
【0004】
リチウムイオン電池の急速な発展において、「革新、調整、グリーン、オープン性、共有」という開発コンセプトを順守し、国内外の研究者はリチウムイオン電池バインダーの水性化について大量の研究を行なってきた。CN201410731027.8、CN200910300150.3、CN108598486Aなどの文献には、多数の水性化製品の研究が開示されている。また、イオン電池の正極三元系材料の発展に伴い、高アルカリ環境下のスラリー化及び塗布プロセスに適する水性バインダーが、三元系材料と併用する重要な材料となっている。しかしながら、従来の水性バインダーは、使用中にスラリーのpHを調整することができず、スラリーの保存過程において、pHの変化に伴い、スラリーの粘度が変動するので、極板塗布の均一性に影響する。また、正極板の集電体は、アルミニウム箔を使用しているが、両性物質であるので、過酸又は過アルカリの条件下で反応に関与し、ガスを放出する、即ち、正極集電体を腐食する問題がある。従って、従来の水性バインダーは、リチウムイオン電池のスラリーに対する要求を満たすことができない。
【発明の概要】
【0005】
上記事情に鑑み、本発明によれば、リチウムイオン電池の三元系材料に適し、リチウムイオン電池の三元系材料スラリーのpH値を安定化又は調整することができ、異なるニッケル・コバルト・アルミニウム(NCA)とニッケル・コバルト・マンガン比率のリチウムイオン電池に適用可能な水性バインダーが提供される。
【0006】
本発明によれば、
保護用粘着剤の存在下で、カルボキシ基含有機能性モノマー、酢酸ビニルモノマーの及びアクリレートモノマーを混合し、前段重合を行い、前段のバインダーを形成するステップ(1)と、
前段重合反応が終了した後、酢酸ビニルモノマーを加え、中段重合を行い、中断のバインダー形成するステップ(2)と、
中段重合の終了後、予めカルボキシ基含有機能性モノマー、酢酸ビニルモノマー及びアクリレートモノマーで調製したプレエマルションを滴下し、完全に反応させ、後段のバインダーを形成するステップ(3)と、
を含む方法により製造される水性バインダーが提供される。
【0007】
本発明の具体的な実施形態において、前記バインダーは三段共重合体であり、前記中段のバインダーは酢酸ビニルポリマーであり、前記前段のバインダー又は後段のバインダーはカルボキシ基含有機能性モノマー、アクリレートモノマー及び酢酸ビニルモノマーで形成される共重合体である。
【0008】
本発明の具体的な実施形態において、前記カルボキシ基含有機能性モノマーは、カルボキシ基及び不飽和結合を含む化合物である。
【0009】
本発明の具体的な実施形態において、前記カルボキシ基含有機能性モノマーには、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸などの、カルボキシ基及び重合可能な二重結合、三重結合などの不飽和結合を含む活性モノマーのうちの1種又は複数種が含まれるが、これらに限定されない。
【0010】
本発明の具体的な実施形態において、前記アクリレートモノマーには、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ノルマル/イソオクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、アリルポリエチレングリコールなどのソフトモノマーのうちの1種又は複数種、及びメタクリル酸メチル、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリル酸ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、アクリル酸イソボルニルエステル、メタクリル酸イソボルニルエステルなどのハードモノマーのうちの1種又は複数種が含まれる。
【0011】
本発明の具体的な実施形態において、前記前段又は後段のバインダー中のカルボキシ基含有機能性モノマーは、質量で5%−50%である。例えば、前記カルボキシ基含有機能性モノマーは、質量で5%、10%、13%、15%、17%、20%、22%、25%、30%、33%、37%、40%、42%、45%、48%、50%などであり、好ましくは、前記カルボキシ基含有機能性モノマーは、質量で30%〜50%であり、より好ましくは、前記カルボキシ基含有機能性モノマーは、質量で35%〜40%である。
【0012】
本発明の具体的な実施例において、前記前段又は後段のバインダー中の酢酸ビニルは、質量で10%−40%である。例えば、前記前段又は後段のバインダー中の酢酸ビニルは、質量で10%、12%、14%、16%、19%、21%、25%、28%、30%、33%、35%、38%又は40%である。好ましくは、前記前段又は後段のバインダー中の酢酸ビニルは、質量で14%〜30%であり、より好ましくは、前記前段又は後段のバインダー中の酢酸ビニルは、質量で19%〜25%である。
【0013】
本発明の別の態様において、保護用粘着剤の存在下で、カルボキシ基含有機能性モノマー、酢酸ビニルモノマー、アクリレートモノマー、乳化剤、及び開始剤を混合して重合反応を行うことを含む前記水性バインダーの製造方法が提供される。
【0014】
本発明の具体的な実施形態において、前記保護用粘着剤には、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース又はカルボキシメチルセルロースのうちの1種又は複数種が含まれるが、これらに限定されない。
【0015】
本発明の具体的な実施形態において、前記乳化剤は、従来の乳化剤と反応性乳化剤との複合物である。
【0016】
本発明の具体的な実施形態において、前記従来の乳化剤には、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ソルビタントリオレエート、モノステアリン酸プロピレングリコール、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのうちの1種又は複数種が含まれるが、これらに限定されない。前記反応性乳化剤には、ビニルスルホン酸ナトリウム、メタクリル酸スルホネート、スチレンスルホン酸塩、2−アリルエーテル−3−ヒドロキシプロパン−1−スルホン酸塩などのうちの1種又は複数種が含まれるが、これらに限定されない。
【0017】
本発明の具体的な実施形態において、前記開始剤には、過硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ビタミン、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル、AIBA、AIBIなどのうちの1種又は複数種が含まれるが、これらに限定されない。
【0018】
本発明の具体的な実施形態において、前記水性バインダーの製造方法は、以下のステップ(1)〜(3)を含む。
ステップ(1)において、保護用粘着剤の存在下で、カルボキシ基含有機能性モノマー、酢酸ビニルモノマー及びアクリレートモノマーを乳化剤の作用下で前段重合させ、反応温度は40−80℃であり、一定温度の反応時間は30分間−480分間である。
ステップ(2)において、前段重合反応が終了した後、一定の比率で酢酸ビニルモノマーを加え、反応温度40−80℃、一定温度の反応時間30−240分間の条件下で反応させる。
ステップ(3)において、中段重合反応が終了した後、予めカルボキシ基含有機能性モノマー、酢酸ビニルモノマー、及びアクリレートモノマーを用いて乳化剤の作用下で調製したプレエマルションを60分間−240分間掛けて滴下し、60−90℃に昇温し、一定温度で完全に反応させる。
【0019】
本発明の具体的な実施形態において、前記ステップ(1)又はステップ(2)の反応温度は50−70℃である。好ましくは、前記反応温度は60−70℃であり、例えば、前記反応温度は60℃、65℃、68℃、70℃である。
【0020】
本発明の具体的な実施形態において、前記ステップ(1)の反応温度は60−80℃である。好ましくは、前記反応温度は70−80℃であり、例えば、前記反応温度は70℃、74℃、78℃、80℃である。
【0021】
本発明の別の態様において、リチウムイオン電池の三元系材料における前記水性バインダーの使用が提供される。
【0022】
本発明で提供される水性バインダーは、少なくとも以下の有益な効果を有する。
本発明の水性バインダーは、段階的な製造により三段共重合体に形成され、高アルカリ環境下のスラリー化プロセス及び塗布プロセスに適し、リチウムイオン電池の三元系材料に適用でき、リチウムイオン電池の三元系材料スラリーのpH値を安定化又は調整でき、幅広い市場使用価値を有する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例により本発明の技術手段を明確、完全に説明する。以下の実施例は、本発明の実施例の一部にすぎず、すべての実施例ではない。創造的な努力をせずに本発明の実施形態に基づいて当業者によって得られる他のすべての実施形態は、本発明の保護範囲に包含されるべきである。
【0024】
実施例1
3部のポリアクリルアミドを反応釜に溶解し、ポリアクリルアミドが完全に溶解した後、0.8部のビニルスルホン酸ナトリウム、30部のアクリル酸エチル、15部のメタクリル酸及び5部の酢酸ビニルを順に加え、68℃に昇温した後、0.4部の過硫酸アンモニウム溶液を速やかに加え、180分間反応させることで前段重合物を製造した。反応終了後、温度を保持したままで、10部の酢酸ビニル及び0.1部の過硫酸アンモニウム溶液を速やかに加え、68℃に保持しながら60分間一定温度で反応させ、反応終了後、30部のアクリル酸エチル及び10部の酢酸ビニルと0.35部のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを混合してプレエマルションを調製し、180分間掛けてプレエマルションと0.3部の過硫酸アンモニウム溶液をゆっくりと滴下し、その後、70℃に昇温し、240分間保温し、リチウムイオン電池の三元系材料用水性バインダーを得た。バインダーは、粘度が7200±800mPa.S(測定条件:12rpm/25℃;粘度計:ブルックフィールド粘度計,型番:DVS+)、固形分含有量が20%であった。
【0025】
実施例2
実施例1で製造したバインダー40gと水85gをゆっくりと5分間撹拌した後、導電剤SuperPを4g加え、100分間高速撹拌し、188gの正極三元系材料(NCA811)を加え、100分間高速撹拌し、正極三元系材料スラリーを得た。得られた正極三元系材料スラリーは、固形分含有量が70%、粘度が5000cPであった。スラリーの粘度とpHが明らかに変化しなくなるまでスラリーを24時間放置した後、アルミニウム箔に塗布して観察した結果、外観は良好で、箔の露出と気泡の発生はなかった。スラリーの粘度及びpHデータの変化を表1に示す。
【0026】
【0027】
正極三元系材料188gを水129g中で20分間高速分散した後、スラリーを静置し、そのpH値を測定した。pH値の変化を表2に示す。
【0028】
【0029】
表1と表2との比較から分かるように、実施例1で製造した水性バインダーは、pH値を安定化又は調整することができる。
【0030】
実施例3
本実施例において、3部のポリアクリルアミドを反応釜に溶解し、ポリアクリルアミドが完全に溶解した後、0.8部のビニルスルホン酸ナトリウム、30部のアクリル酸ブチル、15部のメタクリル酸及び5部の酢酸ビニルを順に加え、68℃に昇温した後、0.4部の過硫酸アンモニウム溶液を速やかに加え、240分間反応させ、前段重合物を製造した。反応終了後、温度を保持したままで5部の酢酸ビニル及び0.1部の過硫酸アンモニウム溶液を速やかに加え、68℃に保持しながら30分間一定温度で反応させ、反応終了後、30部のアクリル酸ブチル、10部の酢酸ビニル及び10部のメタクリル酸と0.3部のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを混合してプレエマルションを調製し、プレエマルションと0.3部の過硫酸アンモニウム溶液を240分間掛けてゆっくりと滴下した後、70℃に昇温し、240分間保温し、リチウムイオン電池の三元系材料用水性バインダーを得た。バインダーは、粘度が13100±900mPa.S(測定条件は実施例1と同様)、固形分含有量が18%であった。
【0031】
実施例4
実施例3で製造したバインダー40gと水85gをゆっくりと5分間撹拌し、導電剤SuperPを4g加え、100分間高速撹拌し、その後、正極三元系材料(NCA811)188gを加え、100分間高速撹拌し、正極三元系材料スラリーを得た。正極三元系材料スラリーは、固形分含有量が70%、粘度が5000cPであった。スラリーの粘度とpHが明らかに変化しなくなるまでスラリーを24時間放置した後、アルミニウム箔に塗布して観察した結果、外観は良好で、箔の露出と気泡の発生はなかった。スラリーの粘度及びpHデータの変化を表3に示す。
【0032】
【0033】
市販されているリチウムイオン電池用PAA系水性バインダー(市販)を用いて正極三元系材料スラリーを製造した。具体的には、PAAバインダー(15%固形分)40gと水85gをゆっくりと5分間撹拌した後、導電剤SuperPを4g加え、100分間高速撹拌した後、正極三元系材料(NCA811)188gを加え、100分間高速撹拌し、正極三元系材料スラリーを得た。得られた正極三元系材料スラリーは、固形分含有量が68%、粘度が5000cPであった。スラリーを24時間放置した後、そのpH値の変化を表4に示す。
【0034】
【0035】
スラリーを放置した後、アルミニウム箔に塗布したら、ガスが発生し、アルミニウム箔がひどく腐蝕した。表3と表4の比較から分かるように、実施例3で得られた水性バインダーを用いて製造したスラリーを24時間放置した後、粘度とpH値の変化はいずれも市販のPAAバインダーよりも著しく小さく、有意である。現在市販されているリチウムイオン電池正極用水性バインダーの主流であるPAAバインダーと比較して、実施例3で得られた水性バインダーは、三元系材料スラリーのpHの変化を大幅に抑制でき、一定の保存期間内でpHの増加を抑制することができる。
【0036】
実施例5
本実施例において、2部のポリアクリル酸ナトリウムを反応釜に溶解し、ポリアクリル酸ナトリウムが完全に溶解した後、0.6部の2−アリルエーテル−3−ヒドロキシプロパン−1−スルホン酸塩、30部のアクリル酸ブチル、10部のメチレンコハク酸、及び10部の酢酸ビニルを順に加え、70℃に昇温した後、0.5部の過硫酸カリウム溶液を速やかに加え、200分間反応させ、前段重合物を製造した。反応終了後、温度を保持したままで、10部の酢酸ビニル及び0.1部の過硫酸カリウム溶液を速やかに加え、70℃に保持しながら80分間一定温度で反応させ、反応終了後、25部のアクリル酸ブチル、10部の酢酸ビニル及び5部のメチレンコハク酸を0.3部のオクタデシルコハク酸ナトリウムと混合してプレエマルションを調製し、200分間掛けてプレエマルションと0.3部の過硫酸カリウム溶液をゆっくりと滴下した後、74℃に昇温し、200分間保温し、リチウムイオン電池の三元系材料用水性バインダーを得た。バインダーは、粘度が11000±1000mPa.S(測定条件は実施例1と同様)8000−12000cP、固形分含有量15%であった。
【0037】
実施例6
実施例5で製造したバインダー40gと水85gをゆっくりと5分間撹拌し、導電剤SuperPを4g加え、100分間高速撹拌した後、正極三元系材料(NCA811)188gを加え、100分間高速撹拌し、正極三元系材料スラリーを製造した。得られたスラリーは、固形分含有量が66%、粘度が5000cPであった。スラリーの粘度とpHが明らかに変化しなくなるまでスラリーを24時間放置した後、アルミニウム箔に塗布して観察した結果、外観は良好で、箔の露出と気泡の発生はなかった。スラリーの粘度及びpHデータの変化を表5に示す。
【0038】
【0039】
表5と表4の比較から分かるように、実施例5で得られた水性バインダーを用いて製造したスラリーを24時間放置した後、粘度とpH値の変化は、いずれも市販品PAAバインダーよりも著しく小さく、有意である。市販されているリチウムイオン電池正極用水性バインダーの主流であるPAAバインダーと比較して、実施例5で得られた水性バインダーは、三元系材料スラリーのpHの変化を大幅に抑制でき、一定の保存期間内でpHの増加を抑制することができる。
【0040】
本実施例で提供された水性バインダーは、リチウムイオン電池の高エネルギー密度の発展、例えば、NCA523及びNCA811などの三元系材料の急速な発展を満足可能であり、異なるNCA比率のリチウムイオン電池の三元系材料に適用でき、水性リチウムイオン電池の三元系材料スラリーのpHを調整することができ、高アルカリ環境下のスラリー化プロセス及び塗布プロセスに適し、幅広い応用の将来性を有する。
【0041】
以上の説明は本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を制限するものではない。本発明の趣旨及び原則から逸脱せずに行われるあらゆる修正及び均等な置換は、本発明の保護範囲に含まれるべきである。