(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
直流電源からインバータ回路を介して給電されるステータ巻線と前記直流電源からコンバータを介して給電されるロータ巻線とを備えた車両用回転電機の制御装置であって、
前記車両用回転電機の電気的挙動に影響を及ぼす第1の異常および前記車両用回転電機の力学的挙動に影響を及ぼす第2の異常を検出するコントローラを備え、
前記コンバータは前記ロータ巻線の正極側の第1のスイッチング素子と前記ロータ巻線の負極側の第2のスイッチング素子を有し、
前記コントローラは、前記車両用回転電機の電気的挙動に影響を及ぼす第1の異常を検出した場合に前記第1の異常によって影響を受けた前記電気的挙動を抑制するように前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子による第1の電流遮断制御によって前記ロータ巻線に流れる電流を適応制御するとともに、前記車両用回転電機の力学的挙動に影響を及ぼす第2の異常を検出した場合に前記第2の異常によって影響を受けた前記力学的挙動を抑制するように前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子による第2の電流遮断制御によって前記ロータ巻線に流れる電流を適応制御する
ことを特徴とする車両用回転電機の制御装置。
異常検知から、前記ロータ巻線に流れる電流を止めるまでの許容時間が、前記第2の異常の場合の方が、前記第1の異常の場合よりも短いことを特徴とする請求項1に記載の車両用回転電機の制御装置。
前記第1の電流遮断制御により、前記車両用回転電機の回転数が所定値以下のときに前記インバータ回路の全てのスイッチング素子を開放し、前記回転数が前記所定値を超えたときに前記インバータ回路の全ての正極側スイッチング素子を短絡する
ことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の車両用回転電機の制御装置。
前記第1の電流遮断制御により、前記車両用回転電機の回転数が所定値以下のときに前記インバータ回路の全てのスイッチング素子を開放し、前記回転数が前記所定値を超えたときに前記インバータ回路の全ての負極側スイッチング素子を短絡する、
ことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の車両用回転電機の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
実施の形態1に係る車両用回転電機の制御装置の実施の形態1を、
図1から4を用いて説明する。
図1は、本願の実施の形態による車両用回転電機の制御装置における全体構成を示す概略構成図である。
図1において直流電源10は、車両用回転電機の出力制御部20(以下「出力制御部20」と記す)と接続され、出力制御部20のステータ電流制御部21およびロータ電流制御部23と電力授受を行う。直流電源10は、バッテリー、DCDCコンバータ、など、直流電圧を生成する全ての機器が該当する。
【0013】
出力制御部20は、ステータ電流制御部21と、ロータ電流制御部23と、これらステータ電流制御部21およびロータ電流制御部23を制御するためのコントローラ24と、により構成され、直流電源10と車両用回転電機30の間で電気的エネルギと力学的エネルギとの変換を行う。
【0014】
車両用回転電機30は、ステータ巻線Cu,Cv,Cwを有するステータ31と、ロータ巻線Crを有するロータ32とを備え、ロータ32の回転位置を検出するための回転位置検出センサ33が設けられている。なお、回転位置検出センサを使用せず、ステータ巻線Cu,Cv,Cwを流れる電流などを用いてロータ32の回転位置を推定してもよい。
【0015】
ステータ電流制御部21は、6個のスイッチング素子210から215が三相ブリッジ接続されたインバータ回路Invと、平滑コンデンサ216と、ステータ電流センサ217〜219と、電圧センサ220で構成される。
【0016】
インバータ回路Invは、
図1に例示のように、直流電源10の正極側に接続される正極側のスイッチング素子210,212,214と、直流電源10の負極側に接続される負極側のスイッチング素子211,213,215と、が直列接続された直列回路が、3相各相のステータ巻線Cu,Cv,Cwに対応して3組設けられている。各直列回路における2つのスイッチング素子の接続点が、対応する相のステータ巻線Cu,Cv,Cwに接続される。
【0017】
具体的には、U相の直列回路では、U相の正極側のスイッチング素子210とU相の負極側のスイッチング素子211とが直列接続され、これら2つのスイッチング素子210,211の接続点がU相のステータ巻線Cuに接続されている。
V相の直列回路では、V相の正極側のスイッチング素子212とV相の負極側のスイッチング素子213とが直列接続され、これら2つのスイッチング素子212,213の接続点がV相のステータ巻線Cvに接続されている。
W相の直列回路では、Wの正極側のスイッチング素子214とW相の負極側のスイッチング素子215とが直列接続され、これら2つのスイッチング素子214,215の接続点がW相の交流電機子巻線Cwに接続されている。
スイッチング素子210から215としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、バイポーラトランジスタ、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等の半導体スイッチとダイオードとを逆並列に接続したものを用いる。本実施の形態では代表してMOSFETを使用した場合を例示する。
【0018】
平滑コンデンサ216は、直流電源10に並列に接続され、母線電流の変動を抑制して安定した直流電流を実現する。
ステータ電流センサ217,218,219は、ステータ電流制御部21のインバータ回路Invと車両用回転電機30のステータ巻線Cu,Cv,Cwとの間に接続され、ステータ巻線Cu,Cv,Cwに流れるそれぞれの相電流を検出するために設けられる。ここでは、ステータ電流センサ217,218,219は、インバータ回路Invとステータ巻線Cu,Cv,Cwとの間に配置されているが、直流電源10とインバータ回路Invとの間に配置されていてもよく、また、インバータ回路Invを構成するスイッチング素子に対して直列に挿入したりするなど、他の形態のセンサで検出してもよい。特に、
図1に例示の本実施の形態の位置にステータ電流センサ217,218,219を配置することで、スイッチング素子の状態に関係なく電流を検出することができる。
電圧センサ220は、直流電源10の正極側と同電位点、すなわちインバータ回路Invへの供給電圧を検出する。
【0019】
図1に例示のように、ロータ電流制御部23は、例えば、第1のダイオード素子231、第2のダイオード素子232、第1のスイッチング素子230、第2のスイッチング素子233から構成されるコンバータ回路Convおよび、ロータ電流センサ234で構成されている。
直流電源10の正極側と接続された第1のスイッチング素子230と、負極側と接続された第1のダイオード素子231との接続点は、ロータ巻線Crの一端に接続される。直流電源10の正極側と接続された第2のダイオード素子232と、負極側と接続された第2のスイッチング素子233との接続点は、ロータ電流センサ234を介してロータ巻線Crの他端に接続される。ここでは、第1のダイオード素子231および第2のダイオード素子232を使用したが、MOSFETなどのスイッチング素子でも構わない。また、第1のスイッチング素子230および第2のスイッチング素子233は、スイッチング素子210から215と同様に、IGBT、バイポーラトランジスタ、MOSFET等の半導体スイッチとダイオードとを逆並列に接続したものであれば、どのようなスイッチング素子でも構わない。
また、ロータ電流センサ234は、コンバータ回路Convとロータ巻線Crの間に配置することで、ロータに流れる電流を検出する。特に、本実施の形態の位置に配置することで、スイッチング素子の状態に関係なく電流を検出することができる。
【0020】
コントローラ24は、ステータ電流制御部21、ロータ電流制御部23および車両用回転電機30に搭載されている各種センサ33,217,218,219,220,234の各センサ値を検出し、検出した各センサ値とトルク指令値とに基づきステータ電流制御部21への出力信号およびロータ電流制御部23への出力信号を演算する。このコントローラ24による演算によって得られた出力信号に基づいて、インバータ回路Invの各スイッチング素子210から215、およびコンバータ回路Convの各スイッチング素子230、233に、必要なゲート信号を出力する。
なお、各センサおよびスイッチング素子と、コントローラ24との間の制御線は、煩雑になることを避けるために図示を省略してある。また、本実施の形態ではコントローラ24への上位指令の例としてトルク指令値を例示してあるが、例えば、インバータ回路の電圧、インバータ回路から直流電源に流れる発電電流、など他のものを指令値としてもよい。
【0021】
ロータ巻線Crに流れる電流の制御は、コンバータ回路Convを構成するスイッチング素子230および233を用いて行われる。定常時の通常動作制御時には、第1のスイッチング素子230、第2のスイッチング素子233のいずれか一方でオンレベルを維持するように制御し、もう一方のスイッチング素子でデューティ比信号による制御を行う。デューティ比信号が入力されるスイッチング素子を用いたデューティ制御によって、ロータ巻線Crに流れる電流を制御する。
車両用回転電機30およびその制御装置に異常が発生した場合のロータ巻線Crに流れる電流の制御方式は後述する。
【0022】
また、コントローラ24には、少なくともステータ電流制御部21、ロータ電流制御部23、車両用回転電機30、上位指令との通信情報、を含む異常検出対象の異常を検出する異常検出部40が設けられており、トルク指令値と、出力制御部20で検出されるステータ電流値、ロータ電流値、直流電源10の電圧値、回転位置検出センサ33によって得られる回転情報と、およびこれら検出値を使用して演算される巻線型ロータ32の出力トルクのトルク演算値、等が異常検出部40で監視される。
【0023】
本実施の形態では、上記異常検出部40で判定される異常の種類によって、異なる仕方の電流遮断制御が行われる車両用回転電機の制御装置を提供している。
そこで、本実施の形態について、出力制御部20に搭載されるステータ電流制御部21およびロータ電流制御部23を有する車両用回転電機における異常の種類と電流の止め方、電流制御の仕方との関係性に基づき以下に詳細に説明する。
【0024】
異常検出部40で検出される異常は、電気的挙動に影響を及ぼす第1の異常と、力学的挙動に影響を及ぼす第2の異常と、に分類できる。
第1の異常は、直流電源10および出力制御部20の出力電圧または出力電流に起因する異常を指す。
第2の異常は、車両用回転電機30の出力トルクに影響を与える異常を指す。
【0025】
第1の異常の例として、電圧センサ220の出力が実際の直流電源10の電圧値よりも小さい値を示す場合を考える。その場合、コントローラ24がこの電圧センサ値をフィードバックして、より大きな電圧を出力する制御を行うことになり、直流電源10の電圧値が所定の値よりも高くなる過電圧異常が考えられる。この過電圧異常が継続した場合、直流電源10の温度上昇に伴う直流電源10の故障、等の原因となる。また、直流電源10が、例えば、ヘッドライト、電動パワーステアリング、エアコンのような電装品に電力を供給していた場合は、そのような電装品にも定格以上の電圧が印加され、故障を引き起こす恐れがある。そのため、直流電源10の電圧値を低減させる対策を施す必要性がある。
しかし、この第1の異常(過電圧異常)に対して、瞬時に電流を遮断させた場合、特に、ロータ巻線Crに流れているロータ電流を、スイッチング素子230および233で遮断させた場合は、流れている電流経路を失い、瞬時に直流電源10へ流れ込むことになるため、電圧サージを引き起こす原因となり、直流電源10のさらなる電圧値の上昇を伴う。すなわち、過電圧異常のような電気的挙動に関する第1の異常が発生した場合は、電圧の急峻な変化を抑制しながら電流を遮断する必要性がある。
【0026】
第2の異常の一例として、出力トルクにトルク異常が発生した場合を考える。その場合、車両用回転電機30が急加減速する可能性があり、車両のドライバーが意図するような操縦が行えない状況に陥る可能性は排除する必要がある。そのため、出力トルクのような力学的挙動に影響を与える第2の異常が発生した場合は、瞬時に電流を遮断し出力トルクを抑える必要性がある。
【0027】
つまり、車両用回転電機およびその制御装置の異常の種類により、異常検出部40による異常の検知から、車両に影響を及ぼさない安全状態に至るまでの許容時間が異なる。すなわち、異常発生時に、それぞれの異常に対して、安全状態に至るまでの許容時間を満たしながら、異常に起因する車両用回転電機30の挙動と制御上の安全性を考慮した最適な電流遮断手段が要求される。
【0028】
以上のような異常に対して、本実施の形態では、第1のロータ電流遮断制御方式および第2のロータ電流遮断制御方式を有する。
第1のロータ電流遮断制御方式は、電圧サージを抑制しながら緩やかに電流を遮断する手段であり、第1の異常が発生した場合に適用される。
【0029】
第1のロータ電流遮断制御方式は、第1のスイッチング素子230または第2のスイッチング素子233のいずれか一方を用いて電流を止める手段である。具体的には、コントローラ24が、デューティ制御が行われるスイッチング素子(第1のスイッチング素子230または第2のスイッチング素子233のいずれか一方)をゲート制御で開放(OFF)してロータ巻線Crの電流を徐々に減少させながら遮断する。
【0030】
第2のロータ電流遮断制御方式は、電流を高速遮断する手段であり、第2の異常が発生した場合に適用される。第2のロータ電流遮断制御方式は、第1スイッチング素子230、第2のスイッチング素子233の両方を用いて電流を遮断する。具体的には、コントローラ24が、第1のスイッチング素子230および第2のスイッチング素子233(いずれか一方のスイッチング素子がデューティ制御される)のゲート制御を行って第1のスイッチング素子230および第2のスイッチング素子233の双方を高速遮断し、ロータ巻線Crの通電電流(以下、「ロータ電流」と略記する)を、徐々に減少させずに高速遮断する。
【0031】
上記の異常と電流遮断方式に関するコントローラ24の動作を、フローチャートで例示の動作説明図である
図2を用いて説明する。
ステップS1において、出力制御部20にて得ることができる各センサ(電圧センサ220、ステータ電流センサ217から219、ロータ電流センサ234、回転位置検出センサ33)の出力値を検出する。
ステップS2において、ステップS1で検出された各センサの出力値に基づいて、異常検出部40にて異常状態を演算する。
ステップS3において、ステップS2の結果が力学的挙動に影響を及ぼす異常であるかどうかを判定する。
ステップS3における判定結果が、力学的挙動に影響を及ぼす異常である場合にはステップS4における第2のロータ電流遮断制御方式を実施し、力学的挙動に影響を及ぼす異常ではない場合にはステップS5に進む。
【0032】
ステップS5において、ステップS2における異常状態の演算の結果が、電気的挙動に影響を及ぼす異常であるかどうかを判定する。ステップS2における異常状態の演算の結果が、電気的挙動に影響を及ぼす異常である場合にはステップS6の第1のロータ電流遮断制御方式(電圧サージを抑制しながら緩やかにロータ電流を遮断する方式)を実施し、電気的挙動に影響を及ぼす異常ではない場合にはステップS7に進み、定常時の通常制御(第1のスイッチング素子230または第2のスイッチング素子233のいずれか一方のデューティ制御)を実施する。
【0033】
ステップS2における異常状態の演算の結果が、力学的挙動に影響を及ぼす異常ではなく且つ電気的挙動に影響を及ぼす異常ではない場合には、定常時の通常制御(第1のスイッチング素子230または第2のスイッチング素子233のいずれか一方のデューティ制御)を継続する。
【0034】
次いで、以下に、第1のロータ電流遮断制御方式(電圧サージを抑制しながら緩やかにロータ電流を遮断する方式)および第2のロータ電流遮断制御方式(第1スイッチング素子230、第2のスイッチング素子233の両方を用いてロータ電流を高速遮断する方式)による各出力の低減時間の違いについて説明する。
【0035】
図3は、回転しているロータ32に電流を供給し、発電トルクを出力している正常状態から、電気的挙動に影響する異常(ここでは、過電圧状態に至る恐れのある異常)を検出し、第1のロータ電流遮断制御方式(電圧サージを抑制しながら緩やかにロータ電流を遮断する方式)を用いた場合の各出力(ロータ電流センサ234の出力であるロータ電流、コントローラ24で演算された巻線型ロータ32の出力トルク、および電圧センサ220の出力である電圧センサ値)を例示してある。
【0036】
時間t1時に過電圧閾値Vthに達する恐れのある異常を検出する。
例えば、電圧センサ220の異常により、電圧センサ220の出力が実際の直流電源10の電圧値よりも小さい値を示すような場合、コントローラ24は、このセンサ値をフィードバックして、より大きな電圧を出力する制御を行うことになり、過電圧閾値Vthを超過する。
このような異常を検出する具体的な構成の一例として、電圧センサ220を二重で配置し、両者の差分が一定以上になった場合に異常と判定する。このような過電圧に至る異常を検出した後に、コントローラ24は、第1のスイッチング素子230のみをゲート制御で開放(OFF)し、直流電源10からの第1のスイッチング素子230を介した電流供給を遮断する。
【0037】
スイッチング素子230を開放すると、コイル巻線に流れている電流は、ロータ電流センサ234からスイッチング素子233および第1のダイオード素子231へ流れ、再びコイル巻線を流れる電流ループを作る。そのため、第1のスイッチング素子230を用いて直流電源10からの電流供給を遮断した後も、ロータ巻線Crに流れる電流は瞬時に消失することなく減少しながら流れ続けるため、ロータ巻線Crの電流遮断に起因する電圧サージは抑制される。
また、第1のスイッチング素子230のみをゲート制御で開放(OFF)した場合の前述の電流ループに起因して、出力トルクが継続的に発生するが、直流電源10からのスイッチング素子230への電流は遮断されているため、ロータ電流と同様に次第に低下し、時間t2時に、ロータ電流および出力トルクの出力が完全に消失する。
電圧センサ値は、ロータ巻線Crに流れる電流の低下とともに減少し、次第に直流電源10の定常値Vbの値で安定する。
【0038】
このように、本実施の形態における第1のロータ電流遮断制御方式では、ロータ巻線Crに給電するコンバータ回路Convを構成する第1のスイッチング素子230および第2のスイッチング素子233のうちの1つのスイッチング素子のみを開放することにより、一時的な過電圧の電圧上昇を抑えながら、ロータ巻線Crの電流を遮断することが可能となる。
【0039】
図4は、
図3と同様の定常時の通常動作制御状態から、過電圧に至る恐れのある異常を検出した時に、第2のロータ電流遮断制御方式(第1スイッチング素子230、第2のスイッチング素子233の両方を用いてロータ電流を高速遮断する方式)を用いた場合の各出力を示す。
時間t1時に過電圧異常の閾値Vthに達する恐れのある異常を検出した場合に、第1のスイッチング素子230および第2のスイッチング素子233を同時に開放する。
ロータ巻線Crの両端のスイッチング素子(ロータ巻線Crに給電するコンバータ回路Convを構成する第1スイッチング素子230および第2のスイッチング素子233)を全て開放(OFF)するため、ロータ巻線Crに流れるロータ電流、および、出力トルクは瞬時に低下し、時間t3に、ロータ巻線Crに流れるロータ電流は完全に遮断される。
【0040】
図3に例示の第1のロータ電流遮断制御方式(電圧サージを抑制しながら緩やかにロータ電流を遮断する方式)の場合とは異なり、直流電源10からのロータ巻線Crに流れるロータ電流の遮断後に、ロータ電流を流し続ける電流ループが形成できないため、第1のロータ電流遮断制御方式よりも高速に遮断が可能である。そのため、ロータ巻線Crに流れていたロータ電流は瞬間的に直流電源10の正極側に流れるため、電圧サージの要因となる。
【0041】
このように第2のロータ電流遮断制御方式では、第1のスイッチング素子230および第2のスイッチング素子233を開放することで、電圧サージが発生するものの、第1のロータ電流遮断制御方式よりも高速に、ロータ巻線Crを流れるロータ電流および車両用回転電機30の出力トルクを低減することが可能である。
【0042】
以上のように、本実施の形態の例として、直流電源10の過電圧異常を挙げ、第1のロータ電流遮断制御方式と第2のロータ電流遮断制御方式との大きな違いとして、電圧サージの発生有無と、ロータ電流および出力トルクの低減時間であることを例示した。
異常発生時に、出力トルクに影響を及ぼさない電気的挙動に該当する瞬間的な電圧とロータ電流の発生に関する第1の異常(過電圧異常などの電気的挙動に影響を及ぼす異常)は、第1のロータ電流遮断制御方式を使用するのが良い。
また、出力トルクに影響を及ぼすような緊急度の高い第2の異常(車両用回転電機の出力トルクなどの力学的挙動に影響を及ぼす異常)は、素早く出力を抑えられる第2のロータ電流遮断制御方式を使用するのが良い。
【0043】
さらに、ステータ電流制御部21によりステータ巻線Cu,Cv,Cwに流れるステータ電流をも制御するように構成してもよい。
すなわち、第1のロータ電流遮断制御方式(電圧サージを抑制しながら緩やかにロータ電流を遮断する方式)および第2のロータ電流遮断制御方式(第1スイッチング素子230、第2のスイッチング素子233の両方を用いてロータ電流を高速遮断する方式)による電流制御に加えて、更にステータ31を流れるステータ電流の遮断方式として、ステータ31に給電する三相インバータ回路Invを構成するスイッチング素子210,211,212,213,214,215の全てを開放(OFF)する全相開放と、インバータ回路Invの正極側のスイッチング素子210,212,214を短絡または負極側のスイッチング素子211,213,215を短絡する三相短絡と、の2通りのステータ電流制御方式が可能である。
【0044】
これら2通りのどちらのステータ電流制御方式であっても、駆動時に、多くの場合において直流電源10から車両用回転電機30へのステータ電流の供給は遮断される。
2通りのステータ電流制御方式の違いは次の通りである。
発電時に、前述の三相短絡によるステータ電流制御方式の場合は、ステータ巻線Cu,Cv,Cwと短絡したスイッチング素子との電流ループの形成により、直流電源10へのステータ電流の供給が遮断されるのに対し、前述の全相開放によるステータ電流制御方式の場合は、各スイッチング素子に逆並列されているダイオード素子(
図1参照)を介して直流電源10にステータ電流が供給される点にある。
そのため、
図3のように、発電時に、過電圧に至る恐れのある異常が発生した場合、前述の第1のロータ電流遮断制御方式によりロータ電流を遮断する場合は、前述の三相短絡によるステータ電流制御方式の方が、全相開放によるステータ電流制御方式よりも、直流電源10の電圧の上昇を早期に抑えることが可能である。
【0045】
前述の全相開放によるステータ電流制御方式と前述の三相短絡によるステータ電流制御方式との違いによる、車両用回転電機の制御装置への影響度合いの違いについて
図5と
図6とを用いて以下に説明する。
【0046】
図5は、異常発生時に前述の全相開放の制御をした場合の、車両用回転電機30の回転数に対する発電量を例示してある。
異常発生時に、前述の第1のロータ電流遮断制御方式あるいは第2のロータ電流遮断制御方式によるロータ電流制御によるロータ電流の低減が行われても、ロータ電流は瞬時には低減しないため、そのロータ電流の低減に起因した誘起電圧がステータ31に発生する。ステータ31に発生した誘起電圧は、車両用回転電機30の回転数に比例するため、この誘起電圧が直流電源10の電圧を超える回転数Nth以上で、発電電流(ステータ電流)が流れる。
【0047】
また、
図6は、異常発生時に、前述の三相短絡によるステータ電流制御が行われた場合の、車両用回転電機30の回転数に対する回生トルクを示す。
三相短絡時の回生トルクは、
図6に例示のように、低回転時に大きくなり、高回転では小さくなる。そのため、低回転時に異常が発生し、三相短絡によるステータ電流制御が行われると、必要以上の回生エネルギにより、車両用回転電機30が急減速する可能性がある。
このように、車両用回転電機30の低回転の領域において三相短絡によるステータ電流制御が行われた場合、回生トルクが大きくなるため、この領域では全相開放によるステータ電流制御が選択されようにするとよい。また、ロータ電流の低減に起因した誘起電圧が直流電源の電圧を超えるような高回転の領域においては、全相開放によるステータ電流制御が行われた場合、発電が継続されるため、この領域では三相短絡によるステータ電流制御が選択されようにするとよい。また、三相短絡によるステータ電流制御が行われるようにする場合には、コントローラ24でインバータ回路Invの三相短絡を行う信号を生成する必要があるため、コントローラ24の機能によって、異常時に三相短絡を行う回路を別途設ける必要がある。そのため、各装置に求められる許容時間の要求値と各装置に搭載される機能により、ステータ電流の遮断制御方式を選択する必要性がある。
【0048】
本実施の形態1に開示される車両用回転電機の制御装置によれば、異常状態に応じてロータ電流の止め方を変更することで、許容時間が長く出力トルクに影響を及ぼさない異常では、電圧上昇を伴わずに車両用回転電機の出力を停止することが可能であり、許容時間が短く出力トルクに影響がある異常では、短時間で車両用回転電機の出力を停止させることができる。
【0049】
実施の形態2.
以下、実施の形態2を、
図7および
図8によって説明する。
図7は、
図1に例示の車両用回転電機の制御部が車両用発電電動機に適用される場合の事例を示し、
図8は車両用発電電動機の制御装置における、第1の異常および第2の異常に対して、第3の異常を加えた場合の動作の事例をフローチャートを使って説明するための動作説明図である。
【0050】
図7において、直流電源10および出力制御部20は、
図1の直流電源10および出力制御部20と同一の仕様を用いることができる。
図7の実施の形態2が、
図1の実施の形態1と異なる点は、トルク指令値が、車両に搭載される上位のECU50から供給されることにある。また、車両用発電電動機70が車載に搭載されるエンジン60とベルト等の動力伝達部61を介し接続される。
【0051】
また、車両用発電電動機70が発電機として機能する場合、車両用発電電動機70で発生した電力を、出力制御部20を介して、直流電源10へ充電することができる。車両用発電電動機70が電動機として機能する場合は、直流電源10から必要な電力を、出力制御部20を介して、車両用発電電動機70へ供給し、エンジン始動またはエンジン出力を補うトルクアシストが可能である。
車両用発電電動機70が、電動機として機能している場合および発電機として機能している場合のいずれの場合も、ロータ電流制御部23は、ロータ電流を制御し、生成された磁界と車両用発電電動機70の回転動作により、ステータ巻線に所望の誘起電圧を発生させる。
【0052】
ここで、車両用発電電動機70の特徴として、エンジン60の始動後は、車両用発電電動機70は動力伝達部61を介して常に回転し続けることが挙げられる。
車両用発電電動機70のロータにロータ電流を供給すると、出力制御部20の制御によって、エンジン60の駆動を力行トルクによってアシストしたり、回生トルクによってブレーキをかけたりする電動機、および直流電源10を充電するための発電機、のどちらか一方の機能として働く。すなわち、車両用回転電機30が車両用発電電動機70へ適用される場合において、第1の異常(過電圧異常)または第2の異常(トルク異常)が発生した場合でも、
図1の車両用回転電機30と同様にロータ電流を遮断することで安全状態に遷移することが可能である。
【0053】
次いで、
図8により、実施の形態の第1の異常および第2の異常に比べ、緊急度の低い第3の異常について例示し、ステータ電流制御部21とロータ電流制御部23とを用いた電流遮断方式を例示するものであり、以下具体的に説明する。
【0054】
第1の異常(過電圧異常)および第2の異常(トルク異常)は、車両用回転電機およびその制御装置に影響を及ぼす異常であり、ロータ電流を止めることで安全状態に遷移させることを述べてきたが、車両用回転電機30の異常はロータ電流を止める必要のない軽微な異常も存在する。例えば、トルク指令を含む通信情報の異常、回転位置検出センサ33の異常などが該当する。そのような緊急度の低い軽微な異常を第3の異常と定義して、発電を継続させる手段を説明する。
【0055】
第3の異常(緊急度の低い軽微な異常)を、コントローラ24の異常検出部40で検出した場合には、ステータ電流制御部21のインバータ回路Invの全てのスイッチング素子210,211,212,213,214,215を開放(OFF)する第3の電流遮断制御(ステータ電流遮断制御)方式で、異常時のステータ電流遮断制御を実施する。これは、ロータ巻線Crのロータ電流は遮断せずに、ステータ側のインバータ回路Invのスイッチング素子210,211,212,213,214,215を全て止めることで、発電を継続する。
図1および
図7のように、インバータ回路Invにおいては、スイッチング素子210,211,212,213,214,215の各々に対してダイオードが逆接続され、これらのダイオードが整流回路を形成しているため、発電時には、ステータ電流が当該ダイオード素子に流れることで、ダイオード整流が可能となる。
すなわち、第3の電流遮断制御(ステータ電流遮断制御)方式を使用することで、例えば、車両用発電電動機70に適用する場合、エンジン始動およびトルクアシストは不可能となるが、発電を継続することができ、車両の走行が可能となる。そのため、
図1の車両用回転電機30、
図7のような車両用発電電動機70、およびそれら制御装置に異常が発生した場合でも、発電を継続させたい状態では、第3の電流遮断制御(ステータ電流遮断制御)方式を使用する仕様が望ましい。
【0056】
図8に、第3の電流遮断制御(ステータ電流遮断制御)方式に対して、第3の電流遮断方式を追加したフローチャートである動作説明図を示す。
図8は、
図2のフローチャートに対して、第3の電流遮断制御(ステータ電流遮断制御)方式に関するステップS8およびS9が追加されている点が異なる。
ステップS8は、ステップS2にいて異常検出部40(
図7参照)での演算の結果が第3の異常(前述の軽微な異常)であるかどうかを判定する。
ステップS8の判定結果が、第3の異常(前述の軽微な異常)である場合にはステップS9の第3の電流遮断制御(ステータ電流遮断制御)を実施し、第3の異常(前述の軽微な異常)ではない場合にはステップS7の定常時の通常動作制御を実施する。
【0057】
以上のように、本実施の形態においては、異常対処用の専用回路を別途設けることなく、車両用回転電機30およびその制御装置で発生する異常に対して車両用回転電機および制御装置を安全状態に遷移することが可能である。また、異なる複数の異常に対して、複数種類の異なる電流遮断制御で対応できるので、異常の種類、挙動に合わせた最適な電流遮断制御が行われる車両用回転電機の制御装置を提供できる。そのため、異常発生時に、それぞれの異常に対して、安全状態に至るまでの許容時間を満たしながら、制御装置の最低限の機能停止のみで、車両用回転電機および車両用回転電機の制御装置を安全状態へ移行することができ、車両用回転電機および車両用回転電機の制御装置を保護することが可能である。
【0058】
前述の実施の形態1および実施の形態2の何れも、前述の各部の各機能、各制御はソフトウエアで実現でき、例えば、
図1および
図7におけるコントローラ24を、
図9の車両用回転電機の制御部20におけるコントローラ24のように構成してもよい。
つまり、
図9に例示のように、演算処理装置241と、リードオンリーメモリであるROMおよびランダムアクセスメモリであるRAMを有する記憶装置242と、インターフェース243と、で構成されている。演算処理装置241と記憶装置242とインターフェース243とは内部バス244を介して接続されている。
【0059】
例えば、インターフェース243に入力されそれぞれRAMに保存された電圧センサ220、回転位置検出センサ33、ロータ電流センサ234、ステータ電流センサ217,218,219、等を、ROMに格納されたプログラムにより、演算処理装置241で本願の実施の形態1および実施の形態2における前述の各種異常検出、各種電流の制御(制御時点、制御量、ほか)を演算処理で実行し、当該演算の結果をRAMに一時保存する等のソフトウエア処理を実行して、前述の各種異常に対処するに必要な制御出力を、インターフェース243を介して、インバータスイッチング素子210,211,212,213,214,215、第1のスイッチング素子230、第2のスイッチング素子233、等に出力されることにより、本願の実施の形態1および実施の形態2における前述の制御動作が行われる。
【0060】
なお、本願は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記実施形態は本願を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
また、本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【0061】
なお、各図中、同一符合は同一または相当部分を示す。
【課題】車両用回転電機およびその制御に使用される制御装置の異常の種類に対応して、車両用回転電機から車両への悪影響の度合いを抑制することが可能な適応制御を行えるようにする。
【解決手段】車両用回転電機30の電気的挙動に影響を及ぼす第1の異常および車両用回転電機の力学的挙動に影響を及ぼす第2の異常を検出するコントローラ24を備え、コンバータConvはロータ巻線Crの正極側の第1のスイッチング素子230とロータ巻線の負極側の第2のスイッチング素子233を有し、コントローラは、車両用回転電機の電気的挙動に影響を及ぼす第1の異常を検出した場合に第1の電流遮断制御によってロータ巻線に流れる電流を前記電気的挙動に対処するように制御するとともに、車両用回転電機の力学的挙動に影響を及ぼす第2の異常を検出した場合に第2の電流遮断制御によってロータ巻線に流れる電流を前記力学的挙動に対処するように制御する。