特許第6972271号(P6972271)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6972271
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】透光部材およびシールド
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/115 20150101AFI20211111BHJP
   G02B 1/113 20150101ALI20211111BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20211111BHJP
   B32B 27/14 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   G02B1/115
   G02B1/113
   B32B7/023
   B32B27/14
【請求項の数】36
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2020-171319(P2020-171319)
(22)【出願日】2020年10月9日
【審査請求日】2020年12月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】山本 修平
(72)【発明者】
【氏名】中山 寛晴
(72)【発明者】
【氏名】寺本 洋二
(72)【発明者】
【氏名】高地 美和
(72)【発明者】
【氏名】大内 駿
【審査官】 小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−142161(JP,A)
【文献】 特開2012−108320(JP,A)
【文献】 特開2002−145372(JP,A)
【文献】 特開2006−330705(JP,A)
【文献】 特表2012−532214(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3228026(JP,U)
【文献】 特表2019−513918(JP,A)
【文献】 特開2007−240707(JP,A)
【文献】 米国特許第10420386(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/00 ― 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの樹脂層を含む基材と、
前記基材の上に設けられた機能膜と、を備える透光部材であって、
前記基材の厚さが1μm以上かつ1mm未満であり、
波長が464nm以上かつ653nm以下である光に対する前記機能膜の光学膜厚が前記波長の半分未満であり、
前記透光部材における前記機能膜の上の表面に対する水の接触角が90°未満であり、
前記機能膜は、多数の粒子を含有する多孔質部を有し、前記多数の粒子のうちの第1の粒子と第2の粒子とが結着材によって互いに結着されており、
前記第1の粒子および前記第2の粒子の各々はシリカを含有し、前記結着材はシリケートを含有することを特徴とする透光部材。
【請求項2】
前記結着材は、樹脂を含まない、請求項1に記載の透光部材。
【請求項3】
少なくとも1つの樹脂層を含む基材と、
前記基材の上に設けられた機能膜と、を備える透光部材であって、
前記基材の厚さが1μm以上かつ1mm未満であり、
波長が464nm以上かつ653nm以下である光に対する前記機能膜の光学膜厚が前記波長の半分未満であり、
前記透光部材における前記機能膜の上の表面に対する水の接触角が90°未満であり、
前記機能膜は、多数の粒子を含有する多孔質部を有し、前記多数の粒子のうちの第1の粒子と第2の粒子とが樹脂を含まない結着材によって互いに結着されており、前記多数の粒子のうちの第の粒子と前記の粒子との間の距離が、前記第1の粒子のサイズよりも小さく、前記第1の粒子と前記第の粒子の間に空隙が設けられており、
前記第1の粒子、前記第2の粒子、前記第3の粒子および前記結着材の各々は、ケイ素および酸素を含む材料を含有することを特徴とする透光部材。
【請求項4】
前記第1の粒子および前記第2の粒子の各々は中空粒子または鎖状粒子である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の透光部材。
【請求項5】
前記波長が509nm以上かつ614nm以下である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の透光部材。
【請求項6】
少なくとも1つの樹脂層を含む基材と、
前記基材の上に設けられた機能膜と、
を備える透光部材であって、
前記基材の厚さが1μm以上かつ1mm未満であり、
前記機能膜の物理膜厚が前記基材の前記厚さよりも小さく、
前記透光部材における前記機能膜の上の表面に対する水の接触角が90°未満であり、
前記機能膜は、多数の粒子を含有する第1の多孔質部を有し、前記多数の粒子のうちの第1の粒子と第2の粒子との間の距離が、前記第1の粒子のサイズよりも小さく、前記第1の粒子と前記第2の粒子の間に、前記第1の粒子および前記第2の粒子による空隙が設けられており、
前記第1の粒子および前記第2の粒子の各々は中空粒子であり、
前記基材に対して前記第1の多孔質部とは反対側には第2の多孔質部が設けられており、
前記1つの樹脂層と前記第1の多孔質部との間の距離は、前記第1の多孔質部の厚さよりも小さく、
前記1つの樹脂層と前記第2の多孔質部との間の距離は、前記第2の多孔質部の厚さよりも小さい
ことを特徴とする透光部材。
【請求項7】
前記機能膜の屈折率が1.30未満である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の透光部材。
【請求項8】
前記基材の厚さが100μm以上であり、前記機能膜の物理膜厚は200nm未満である、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の透光部材。
【請求項9】
前記第1の粒子および前記第2の粒子の各々は、COVID−19よりも小さい、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の透光部材。
【請求項10】
前記機能膜の厚さは、前記第1の粒子のサイズと前記第2の粒子のサイズとの和よりも大きい、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の透光部材。
【請求項11】
前記表面に対する水の接触角が45°以下である、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の透光部材。
【請求項12】
前記透光部材の400nm以上かつ700nm以下の波長域での平均透過率は95.0%以上である、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の透光部材。
【請求項13】
前記1つの樹脂層は結晶性樹脂からなる、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の透光部材。
【請求項14】
前記1つの樹脂層はポリエステル樹脂からなる、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の透光部材。
【請求項15】
前記1つの樹脂層と前記多孔質部との間の距離は、前記多孔質部の厚さよりも小さい、請求項1乃至のいずれか1項に記載の透光部材。
【請求項16】
前記機能膜は、前記多数の粒子を覆う保護層を含む、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の透光部材。
【請求項17】
前記機能膜は、前記基材の2つの主面のそれぞれの上に設けられている、請求項1乃至のいずれか1項に記載の透光部材。
【請求項18】
前記透光部材の最大幅が2cm以上かつ2m以下である、請求項1乃至17のいずれか1項に記載の透光部材。
【請求項19】
前記透光部材にはノッチおよび穴の少なくとも一方が設けられている、請求項1乃至18のいずれか1項に記載の透光部材。
【請求項20】
前記透光部材の外周は1mm以上の曲率半径を有する曲線部を含む、請求項1乃至19のいずれか1項に記載の透光部材。
【請求項21】
互いに重なる少なくとも3枚の透光部材と、前記3枚の透光部材を包む包装と、を備え、前記3枚の透光部材の各々が請求項1乃至20のいずれか1項に記載の透光部材であることを特徴とする梱包体。
【請求項22】
請求項1乃至16のいずれか1項に記載の透光部材と、芯材とを備え、
前記透光部材が前記芯材の上に巻き取られていることを特徴とする巻取体。
【請求項23】
請求項1乃至20のいずれか1項に記載の透光部材の製造方法であって、
前記基材が巻き取られた巻取体を用意し、
前記巻き取り体の前記基材を展開し、
前記展開された前記基材の上に湿式成膜法により前記機能膜を成膜し、
前記機能膜が成膜された前記基材を巻き取ることを特徴とする製造方法。
【請求項24】
請求項1乃至20のいずれか1項に記載の透光部材と、
前記透光部材を保持する保持部材と、
を備えるシールド。
【請求項25】
前記保持部材は、前記透光部材が使用者の顔の少なくとも一部を覆うように、前記透光部材を前記使用者に固定するための構造を有する、請求項24に記載のシールド。
【請求項26】
透光部材と、
透光部材を保持する保持部材と、を備え、
前記保持部材は、前記透光部材が使用者の少なくとも口を覆うように、前記透光部材を前記使用者に固定するための構造を有し、
前記透光部材の少なくとも前記口を覆う部分は、少なくとも1つの樹脂層を含む基材と、前記基材に対して前記使用者とは反対側に設けられた第1の機能膜と、前記基材に対して前記使用者の側に設けられた第2の機能膜と、を含み、
前記基材の厚さが1μm以上かつ1mm未満であり、
前記第1の機能膜および前記第2の機能膜のそれぞれの物理膜厚が1μm未満であり、
前記第1の機能膜は、多数の粒子を含有する第1の多孔質部を有し、
前記第2の機能膜は、多数の粒子を含有する第2の多孔質部を有し、
前記1つの樹脂層と前記第1の多孔質部との間の距離は、前記第1の多孔質部の厚さよりも小さく、
前記1つの樹脂層と前記第2の多孔質部との間の距離は、前記第2の多孔質部の厚さよりも小さいことを特徴とするシールド。
【請求項27】
前記第2の多孔質部の前記多数の粒子はシロキサン結合を有する材料で結着されている、請求項26に記載のシールド。
【請求項28】
前記透光部材における前記第2の機能膜の上の表面に対する水の接触角が45°以下である、請求項26または27に記載のシールド。
【請求項29】
前記基材の厚さが100μm以上であり、前記第1の機能膜の物理膜厚が200nm未満である、請求項26乃至28のいずれか1項に記載のシールド。
【請求項30】
前記第2の多孔質部における前記多数の粒子のうちの第1の粒子と第2の粒子との間の距離が、前記第1の粒子のサイズよりも小さく、前記第1の粒子と前記第2の粒子の間に、前記第1の粒子および前記第2の粒子による空隙が設けられている、請求項26乃至28のいずれか1項に記載のシールド。
【請求項31】
前記第1の多孔質部の前記多数の粒子は中空粒子を含む、請求項26乃至30のいずれか1項に記載のシールド。
【請求項32】
前記透光部材の表面は曲面である、請求項24乃至31のいずれか1項に記載のシールド。
【請求項33】
前記透光部材に隣接する雰囲気を換気する換気扇が設けられている、請求項24乃至32のいずれか1項に記載のシールド。
【請求項34】
請求項1乃至20のいずれか1項に記載の透光部材と、
前記透光部材で覆われた透光部品と、を備える装置。
【請求項35】
請求項1乃至20に記載の透光部材を介して、製造物および/または製造装置を観察することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項36】
請求項1乃至20に記載の透光部材を介して被写体を撮影して、映像を制作することを特徴とする映像の制作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光部材に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂基材を用いた透光部材の機能性を向上することが求められている。特許文献1には、光透過性の基材フィルムに低屈折率層が形成され、低屈折率層には、中空シリカ微粒子或いは多孔質シリカ微粒子が含まれている反射防止フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−283611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の反射防止フィルムには機能性を向上する余地がある。そこで本発明は、透光部材の機能性を向上する上で有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段の第1の観点は、樹脂層を含む基材と、前記基材の上に設けられた機能膜と、を備える透光部材であって、記基材の厚さが1μm以上かつ1mm未満であり、波長が464nm以上かつ653nm以下である光に対する前記機能膜の光学膜厚が前記波長の半分未満であり、前記透光部材における前記機能膜の上の表面に対する水の接触角が90°未満であり、前記機能膜は、多数の粒子を含有する多孔質部を有し、前記多数の粒子のうちの第1の粒子と第2の粒子とが結着材によって互いに結着されており、前記第1の粒子、前記第2の粒子および前記結着材の各々は無機材料を含有することを特徴とする。
【0006】
上記課題を解決するための手段の第2の観点は、樹脂層を含む基材と、前記基材の上に設けられた機能膜と、を備える透光部材であって、前記基材の厚さが1μm以上かつ1mm未満であり、波長が464nm以上かつ653nm以下である光に対する前記機能膜の光学膜厚が前記波長の半分未満であり、前記透光部材における前記機能膜の上の表面に対する水の接触角が90°未満であり、前記機能膜は、多数の粒子を含有する多孔質部を有し、前記多数の粒子のうちの第1の粒子と第2の粒子との間の距離が、前記第1の粒子のサイズよりも小さく、前記第1の粒子と前記第2の粒子の間に空隙が設けられていることを特徴とする。
【0007】
上記課題を解決するための手段の第3の観点は、樹脂層を含む基材と、前記基材の上に設けられた機能膜と、を備える透光部材であって、前記基材の厚さが1μm以上かつ1mm未満であり、前記機能膜の物理膜厚が前記基材の前記厚さよりも小さく、前記透光部材における前記機能膜の上の表面に対する水の接触角が90°未満であり、前記機能膜は、多数の粒子を含有する多孔質部を有し、前記多数の粒子のうちの第1の粒子と第2の粒子との間の距離が、前記第1の粒子のサイズよりも小さく、前記第1の粒子と前記第2の粒子の間に空隙が設けられており、前記第1の粒子および前記第2の粒子の各々は中空粒子であることを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決するための手段の第4の観点は、透光部材と、透光部材を保持する保持部材と、を備え、前記保持部材は、前記透光部材が使用者少なくともを覆うように、前記透光部材を前記使用者に固定するための構造を有し、前記透光部材は、樹脂層を含む基材および前記基材の上に設けられた機能膜を含み、前記基材の厚さが1μm以上かつ1mm未満であり、前記機能膜の物理膜厚が1μm未満であり、前記機能膜は多数の粒子を含有する多孔質部を有することを特徴とするシールド。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、透光部材の機能性を向上する上で有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】透光部材の一例を説明する模式図。
図2】透光部材の一例を説明する模式図。
図3】透光部材の透過率を説明する模式図。
図4】透光部材および梱包体の一例を説明する模式図。
図5】透光部材の製造方法の一例および巻取体の一例を説明する模式図。
図6】シールドの一例を説明する模式図。
図7】シールドの一例を説明する模式図。
図8】装置の一例を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態を説明する。なお、以下の説明および図面において、複数の図面に渡って共通の構成については共通の符号を付している。そして、共通する構成を断りなく複数の図面を相互に参照して説明する場合がる。また、共通の符号を付した構成については説明を省略する場合がある。
【0012】
図1(a)は本実施形態に係る透光部材1の一例の斜視図である。透光部材1はフィルム状、シート状あるいは板状の形状を有する。透光部材1がフィルム状である場合、透光部材1をフィルムと称することができ、透光部材1がシート状である場合、透光部材1をシートと称することができ、透光部材1が板状である場合、透光部材1を板と称することができる。透光部材1は表面110と裏面120とを有し、表面110と裏面120は略同じ形状である。表面110と裏面120との距離すなわち透光部材1の厚さTは表面110および裏面120の最大幅Lよりもはるかに小さく、例えば厚さTは、最大幅Lの1/1000未満でありうる。本例の透光部材1の表面110および裏面120は四辺形であるが、これに限ったものではない。
【0013】
図1(b)は図1(a)に示したA−B線における透光部材1の断面図である。透光部材1は、基材2と、基材2の上に設けられた機能膜3とを含む。基材2は樹脂層11を含みうる。機能膜3は多孔質部8を含みうる。
【0014】
基材2は互いに対向する2つの主面101および主面102を有する。主面101と主面102との間の距離が基材2の厚さTbである。基材2の厚さTbが1μm以上かつ1mm未満でありうる。基材2の厚さTbが250μm未満であって、透光部材1が可撓性を有する場合、透光部材1はフィルム状であるといえる。基材2の厚さTbが250μm以上であって、透光部材1が可撓性を有する場合、透光部材1はシート状であるといえる。透光部材1が可撓性を有しない場合、透光部材1は板状であるといえる。
【0015】
機能膜3は基材2の主面101および主面102の少なくとも一方の上に設けられる。本例では、機能膜3が基材2の2つの主面101、102のそれぞれ(両面)の上に設けられている。しかしながら、機能膜3は基材2の2つの主面101、102の片面の上のみに設けられていてもよい。多孔質部8を有する機能膜3が透光部材1の片面のみに設けられている場合、機能膜3がある面を表面110とし、機能膜3がない面を裏面120とすることができる。
【0016】
主面101上の機能膜3は物理膜厚Taを有し、主面102上の機能膜3は物理膜厚Tcを有する。機能膜3の物理膜厚Ta、Tcは基材2の厚さTbよりも小さい(Ta、Tc<Tb)。したがって、透光部材1の形状や機械的特性は主に基材2によって担われる。機能膜3の物理膜厚Ta、Tcは200nm未満であってもよい。後述する機能膜3の光学膜厚ndは、機能膜3の屈折率と機能膜3の物理膜厚の積で定義される。物理膜厚Tcは物理膜厚Taと同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、表面110側(主面101上)の機能膜3を、裏面120側(主面102上)の機能膜3よりも厚くしてもよい。
【0017】
機能膜3は多孔質部8を有しうる。多孔質部8は多数の粒子4を含有する。多孔質部8における孔の数は、粒子4の数と相関する。多孔質部8には幾つかの特徴がある。図2(a)は多孔質部8の一例の拡大図であり、図2(a)の凡例で示す様に多数(ここでは10個)の粒子4を記載しているが、多数の粒子4のうちの粒子4aと粒子4bと粒子4cに注目する。ここでは、3つの粒子4a、4b、4cについて説明するが、他の粒子4についても同様である。粒子4は、基材2の主面101に対して複数段に渡って層状に重なって配列されていることが好ましい。
【0018】
粒子4aはサイズDaを有し、粒子4bはサイズDbを有し、粒子4cはサイズDcを有する。ここで、サイズDa、Db、Dcは機能膜3の膜厚方向におけるサイズである。粒子4aと粒子4bとの間の距離Gaが、粒子4aのサイズDaよりも小さい。粒子4aと粒子4bとの間の距離Gaが、粒子4bのサイズDbよりも小さい。また、粒子4aと粒子4bとの間には空隙6が設けられている。粒子4aと粒子4bは接していてもよく、その場合には距離Gaはゼロである。
【0019】
粒子4bと粒子4cとの間の距離Gbが、粒子4bのサイズDbよりも小さい。粒子4bと粒子4cとの間の距離Gbが、粒子4cのサイズDcよりも小さい。また、粒子4bと粒子4cとの間には空隙6が設けられている。粒子4bと粒子4cは接していてもよく、その場合には距離Gbはゼロである。
【0020】
さらに、粒子4aと粒子4cの間の距離Gcが、粒子4aのサイズDaよりも小さい。粒子4aと粒子4cとの間の距離Gcが、粒子4cのサイズDcよりも小さい。また、粒子4aと粒子4cとの間には空隙6が設けられている。粒子4aと粒子4cは接していてもよく、その場合には距離Gcはゼロである。
【0021】
このように、多孔質部8における多数の粒子4は或る粒子4のごく近傍に別の粒子4が存在し、互いの近傍に存在する2つの粒子間に空隙6が存在する形態になっている。
【0022】
粒子4aと粒子4bとが結着材5によって互いに結着されている。また、粒子4bと粒子4cとが結着材5によって互いに結着されている。
【0023】
粒子4a、粒子4b、粒子4cの各々は無機材料を含有しうる。粒子4a、粒子4b、粒子4cの各々が含有する無機材料は、ケイ素および酸素を含む材料でありうる。このケイ素と酸素がシロキサン結合を成していてもよい。粒子4a、粒子4b、粒子4cの各々が含有する無機材料はシリカであってもよい。粒子4a、粒子4b、粒子4cの各々はシリカ粒子であってもよい。
【0024】
結着材5は無機材料を含有しうる。結着材5が含有する無機材料は、ケイ素および酸素を含む材料でありうる。このケイ素と酸素がシロキサン結合を成していてもよい。結着材5が含有する無機材料はケイ酸塩であってもよい。
【0025】
粒子4と結着材5が無機材料を含有することにより、各々が無機材料を含有する2つの粒子同士が、無機材料を含有する結着材5によって結着されている構成となっている。
【0026】
図2(a)に示す例では、粒子4(粒子4a、4b、4c)は中空粒子でありうる。すなわち、中空粒子としての粒子4は、中空部42を固体のシェル41で包んだ形状を有している。シェル41が上述したシリカなどの無機材料を含有しうる。他の例では、粒子4(粒子4a、4b、4c)は中実粒子でありうる。中実粒子としての粒子4は、均一な固体材料で構成されていてもよい。あるいは、中実粒子としての粒子4は、固体のコアを固体のシェルで包んだコア−シェル構造を有するように構成されていてもよい。
【0027】
多孔質部8は、粒子4に付着した付着材7を含みうる。付着材7は有機材料を含有しうる。付着材7は後述する塗工液に含有される有機材料成分が残留したものでありうる。
【0028】
図2(b)に示す例では、粒子4(粒子4a、4b、4c)は鎖状粒子でありうる。すなわち、鎖状粒子としての粒子4は、複数の粒子が連結した形状を有している。2つの鎖状粒子の間に空隙6が設けられている。
【0029】
透光部材1には光の透過率が高いことが求められる。例えば透光部材1の光の透過率は95.0%以上であること、さらには、99.0%以上であることが好ましい。例えば、透光部材1の400nm以上かつ700nm以下の波長域での平均透過率は95.0%以上であること、さらには、99.0%以上であることが好ましい。さらに、400nm以上かつ700nm以下の波長域でのすべての波長における透過率も95.0%以上であること、さらには99.0%以上であることが好ましい。
【0030】
図3(a)には波長λの光に対する機能膜3の光学膜厚と透光部材1の透過率の模式的な関係の一例を示している。光学膜厚ndがλ/4の偶数倍(nd=λ/2、λ、3λ/2λ)である場合は、機能膜3を設けない場合(nd=0)と透過率は同じでありうる。光学膜厚ndがλ/4の奇数倍(nd=λ/4、3λ/4、5λ/4、7λ/4)である場合は、波長λの光に対する透過率を可及的に高めることができる。しかし、図3(a)に示したモデルは、機能膜3での光の吸収や散乱を考慮しておらず、実際には機能膜3が厚いほど、透光部材1の機能膜3での光の吸収や散乱が大きくなり、透過率が低下する原因となりうる。従って、機能膜3はより薄いことが好ましい。過率を計測する対象の光の波長をλとして、機能膜3の光学膜厚ndは波長λの半分未満(nd<λ/2)であることが好ましい。光学膜厚ndがλ/2未満であれば、機能膜3を設けることで、透過率を増加することができる。特に、機能膜3の光学膜厚ndは波長λのλ/8以上かつ3λ/8以下であることが好ましい。
【0031】
次に波長λについて説明する。波長λは464nm以上かつ653nm以下であることが好ましい。これは、464nm以上かつ653nm以下の光に対する明所視の標準視感度が0.1以上であることに由来する。明所視の標準視感度が0.1以上である波長の光に対する透過率を高めることで、ヒトが反射光を認識することを抑制できる。波長λは509nm以上かつ614nm以下であることがより好ましい。509nm以上かつ614nm以下の光に対する明所視の標準視感度が0.5以上であることに由来する。明所視の標準視感度が0.5以上である波長の光に対する透過率を高めることで、ヒトが反射光を認識することをより効果的に抑制できる。図3(a)の例では、波長λを555nmに設定している。これは、標準視感度が最高値である1.0となる波長λが555nmであることに由来する。
【0032】
図3(b)には、様々な波長の光に対する透光部材1の透過率の模式的な関係の一例を示している。図3(b)の例では、機能膜3の屈折率を1.22(基材2の屈折率の平方根)とし、機能膜3の物理膜厚を105nmとし、機能膜3の光学膜厚を128nmとした場合である。この場合、可視光のうち、512nmの波長の光に対して透過率が最高となる。つまり、波長λが512nmであることと同じである。図3(b)の例では、400nm以上かつ700nm以下の波長域でのすべての波長における透過率が99.0%以上である。従って、可視光の反射成分をヒトが認識しにくい透光部材1を得ることができる。
【0033】
また、図3(b)の例では、近紫外線(200〜380nm)における透過率が、可視光線(400〜700nm)における透過率よりも低くなっている。このような透過特性によりUVカット効果を実現でき、後述するようなフェイスシールドに採用する場合には、日焼け抑制効果を提供できる。
【0034】
図3(c)にも、様々な波長の光に対する透光部材1の透過率の模式的な関係の一例を示している。図3(b)の例では、機能膜3の屈折率を1.22(基材2の屈折率の平方根)とし、機能膜3の物理膜厚を1023nmとし、機能膜3の光学膜厚を1248nmとした場合である。この場合、可視光のうち555nmの波長の光に対して透過率が最高となる。つまり、波長λが555nmであり、光学膜厚ndが9λ/4であることを意味する。図3(c)から理解されるように、400nm以上かつ700nm以下の波長域の波長に応じて透過率のバラツキが大きく、平均透過率が図3(b)の様に99.0%を超えることはない。図3(b)と図3(c)の比較からも、機能膜3の光学膜厚ndは波長λの半分未満(nd<λ/2)であることが好ましいことが分かる。
【0035】
機能膜3の屈折率は基材2の屈折率よりも低いことが好ましい。機能膜3上の媒質が屈折率1.0の空気であることを想定すると、機能膜3が媒質と基材2との間での光の反射を抑制する反射防止膜として機能しうる。機能膜3の屈折率が基材2の屈折率の平方根に近いほど、反射防止効果は向上する。樹脂層11を有する基材2の典型的な屈折率は1.45〜1.65である。したがって、機能膜3の屈折率は1.20以上かつ1.30以下であることが好ましく、1.20以上かつ1.24以下であることがより好ましい。多孔質部8中に含まれる空隙6の割合が多いと、機能膜3の屈折率が1.20未満になりうる。しかし、多孔質部8中に含まれる空隙6の割合が多いと、機能膜3の8の耐摩耗性が不足する場合がある。屈折率が1.30を超えると、媒質(空気)と基材2との間の反射防止効果が十分に得られない可能性がある。
【0036】
透光部材1における機能膜3上の表面110に対する水の接触角が90°未満であることが好ましい。裏面120についても同様である。水の接触角が90°未満であれば、親水性となるため、表面110に付着した水滴の視認しにくくできる。また、微細な水滴によって生じる曇りも抑制でき、防曇効果を提供できる。このような機能を実現するためには、機能膜3上の表面110に対する水の接触角が60°以下であることが好ましく、45°以下であることがさらに好ましく、30°以下であることさらに好ましい。粒子4同士の結着が弱く、多孔質部8の耐摩耗性が十分でない場合に、水の接触角が45°を超えやすくなる。具体的には、室温23℃、湿度40〜45%RHにおける純水の接触角で定義されうる。水の接触角は3°以上であることが好ましく、さらに好ましくは、5°以上である。水の接触角が3°未満であると機能膜3の表面110や裏面120から機能膜3中に水分などが入り易くなって環境安定性が低下する可能性がある。
【0037】
多孔質部8の厚さTaは、粒子4aのサイズDaと粒子4bの粒子のサイズDbとの和よりも大きい(Ta>Da+Db)。本例では、機能膜3の膜厚方向に3つの粒子4a、4b、4cが重なっているが、各粒子の中心がずれているため、多孔質部8の厚さTaは、粒子4aのサイズDaと粒子4bのサイズDbと粒子4cのサイズDcの和よりも小さい(Ta<Da+Db+Dc)。
【0038】
粒子4aのサイズDa、粒子4bのサイズDbおよび粒子4cのサイズDcは、例えば1nm以上であり、例えば10nm以上である。粒子4aのサイズDa、粒子4bのサイズDbおよび粒子4cのサイズDcは、例えば1μm未満であり、例えば500nm未満であり、例えば300nm未満であり、例えば100nm未満である。粒子4間の空隙6の大きさは粒子4のサイズが小さいほど小さくなる。粒子4間の空隙6が大きいほど、多孔質部8や機能膜3の屈折率を低くすることができる。一方で、多孔質部8や機能膜3の表面の高低差も粒子4のサイズが小さいほど小さくなる。機能膜3の表面の高低差が小さければ、機能膜3の表面での光の散乱を抑制することができる。
【0039】
ところで、細菌の大きさは1〜5μm程度である。細菌が透光部材1に付着すると細菌が透光部材1上で増殖する可能性がある。粒子4のサイズが1μm未満であれば、多孔質部8内や多孔質部8上(機能膜3上)での細菌の増殖を抑制するのに十分な程度まで、空隙6の大きさや機能膜3の表面の高低差を小さくすることができる。
【0040】
また、ウイルスの大きさは20〜300nm程度である。ウイルスが透光部材1に付着するとウイルスが透光部材1上で担持される可能性がある。粒子4のサイズがウイスルの大きさと同じ程度かそれよりも小さければ、透光部材1でのウイルスの担持を抑制するのに十分な程度まで、空隙6の大きさや機能膜3の表面の高低差を小さくすることができる。例えばCOVID−19などのコロナウイルスやインフルエンザウイルスの大きさは100nm程度である。粒子4のサイズがこれらのウイルスの大きさ未満(100nm未満)であれば、透光部材1でこれらのウイルスの担持を抑制するのに十分な程度まで、空隙6の大きさや機能膜3の表面の高低差を小さくすることができる。従って、粒子4aのサイズDa、粒子4bのサイズDbおよび粒子4cのサイズDcは、COVID−19などのコロナウイルスやインフルエンザウイルスよりも小さいことが好ましい。
【0041】
機能膜3を設けることで透光部材1に帯電防止機能を付与することができる。例えば、粒子4や結着材5がシロキサン結合を有する無機材料を含有すると、多孔質部8の固体表面に存在する水酸基が、空気中の水分を吸着する。これによっての電気抵抗を下げ、透光部材1の表面110や裏面120の帯電が抑制される。そのため、静電気によって透光部材1へ付着する埃などの異物を低減できる。
【0042】
透光部材1の基材2の樹脂層11は、加工性に優れ、視認性を確保する上での透明性を備えるものであれば特に制限はない。具体的な樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、トリアセテートセルロース(TAC)樹脂、シクロオレフィン(COP)樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂、アクリルポリビニルアルコール(PVA)樹脂などが挙げられる。これらのうち、基材2の樹脂層11を構成する樹脂としては、透明性や接着性に優れる非晶性樹脂を採用することができる。しかしながら、本実施形態の機能膜3は、透過率を向上したり基材2の可撓性に追従できたりする点から、基材2が結晶性樹脂であっても十分な機能性を実現することができる。結晶性樹脂は非晶性樹脂に比べて耐薬品性に優れるため、機能膜3の成膜にも制約を生じにくい。主な結晶性樹脂は、PE(ポリエチレン)・PP(ポリプロピレン)・PA(ポリアミド)・POM(ポリアセタール、ポリオキシメチレン)・PET(ポリエチレンテレフタレート)・PBT(ポリブチレンテレフタレート)・PPS(ポリフェニレンサルファイド)・PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)・LCP(液晶ポリマー)・PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)である。ポリカーボネート(PC)樹脂やポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂は非晶性樹脂である。樹脂層11にはポリエステル樹脂が好適であり、特にポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0043】
また、樹脂層11は原料中に粒子を含まないものがより好ましい。原料中に粒子のない設計により、樹脂層11中の原料粒子による散乱を低減することができ、光透過性の高い視認性に優れた基材2を提供することができる。
【0044】
樹脂層11と多孔質部8との間の距離は、多孔質部8の厚さTaよりも小さい。基材2は、樹脂層11の他の層を有していてもよい。樹脂層11と多孔質部8との間の距離はゼロであってもよいが、図1(b)の例では、樹脂層11と多孔質部8との間には中間層12が設けられている。中間層12は基材2と機能膜3との接着性を向上する機能を有する。中間層12の厚さTe、Tfはその上の機能膜3の厚さTa、Tcよりも小さければよい(Te<Ta、Tf<Tc)。また、中間層12の厚さTe、Tfはその下の樹脂層11の厚さTdよりも小さければよい(Te<Td、Tf<Td)。中間層12の厚さTe、Tfは1nm〜100nmでありうる。そのほか、機能膜3との密着性を向上させる目的で、基材2の主面101、102には、易接着処理や、UVオゾン、プラズマ、コロナ処理などを行うことが好ましい。
【0045】
図1(c)の例では、樹脂層11と中間層12との間にハードコート層13が設けられている。ハードコート層13の厚さは、その下の樹脂層11の厚さTdよりも小さくてよい。典型的なハードコート層は樹脂層でありうる。基材2の厚みが1μm以上かつ1mm未満である。基材2の厚みが1μm未満であると機能膜3の成膜性が低下しうる。基材2の厚みを薄くすることは透光部材1の光透過性を向上する上で有利である。基材2の厚みが1mm以上であると、基材2の裁断等の加工性が低下する。基材2の厚みは、100μm以上かつ250μm未満であることが好ましい。
【0046】
図1(c)の例では、機能膜3は、多孔質部8を覆う保護層14を含む。機能膜3は多孔質部8のみによって、所望の機能を実現してもよいが、保護層14によって機能を追加してもよい。保護層14は、例えば多孔質部8の粒子4の脱落を抑制する粒子固定層として機能してもよい。また、保護層14は、透光部材1に傷がつくことを抑制するためのハードコート層として機能してもよい。保護層14は、機能膜3の表面に導電性を付与するための導電層であってもよく、その場に保護層14は、透光部材1に帯電抑制機能を付与することができる。保護層14は例えば機能膜3に親水性あるいは疎水性を高める機能を有していてもよい。例えば、機能膜3に親水性を付与する際に、多孔質部8だけでは水の接触角が45°〜90°となる場合、機能膜3に親水性の保護層14を追加して、透光部材1の表面110における水の接触角を45°以下とすることもできる。
【0047】
図4(a)には、透光部材1の形状の一例を示している。図4(a)の透光部材1の最大幅が2cm以上かつ2m以下である。透光部材1の最大幅が10cm〜1mであってもよく、20〜50cm以下であってもよい。透光部材1にはノッチ91および穴92の少なくとも一方が設けられている。ノッチ91や穴92は透光部材1を保持するために用いられる。ノッチ91や穴92を用いて透光部材1を保持するため、透光部材1の交換を簡易にすることができる。
【0048】
透光部材1の外周は1mm以上の曲率半径rを有する曲線部93を含む。曲線部93を設けることで、透光部材1の外周が他の物体に傷をつける可能性を低減できる。
【0049】
図4には、梱包体90の例を示している。梱包体90は、互いに重なる少なくとも3枚(本例では5枚)の透光部材1と、少なくとも3枚(本例では5枚)の透光部材1を包む包装94と、を備える。この梱包体90を用意すると、少なくとも3回にわたって、劣化の少ない透光部材1を使用することができる。使用済みの透光部材1を劣化の少ない透光部材1に交換することもできる。粒子4が結着材5で結着されている透光部材1の機能膜3は十分な強度があるため、2枚の透光部材1に挟まれた透光部材1の機能膜3の損傷が抑制される。また、機能膜3に帯電防止機能を付与すると、互いに重なる透光部材1が静電気で吸着することを抑制できるため、包装94からの透光部材1の取り出しが容易になる。
【0050】
透光部材1の製造方法は、基材2の上に、多孔質部8を形成する塗工液を塗布して塗膜を形成する工程と、塗膜が形成された基材2を、乾燥および/または焼成して多孔質部8を形成する工程と、を有している。
【0051】
塗工液を塗布する方法としては、グラビアコート法、ダイコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スリットコート法、印刷法やディップコート法などが挙げられる。凹面などの立体的に複雑な形状および薄膜を有する透光部材を製造する場合、大面積への塗工および膜厚の均一性の観点からグラビアコート法が好ましい。さらに好ましくは100nmオーダーの薄膜での成膜が可能なマイクログラビアコートが好ましい。特にロール状の長尺フィルムへの塗工にはRoll to Roll方式のマイクログラビアコートが好ましい。
【0052】
多孔質部8を形成するため、塗工液を基材2上に塗工し、乾燥および/または硬化を行う。乾燥および/または硬化は、溶媒を除去し、粒子4同士を結着させながら配列性を乱さずに堆積させて、多孔質部8とするための工程である。乾燥および/または硬化の温度は、基材2の耐熱温度に依存するが、20℃以上200℃以下が好ましい。乾燥および/または硬化の時間は、基材2に影響を与えず、且つ層内の有機溶媒を蒸発できる程度の時間であればよいが、好ましくは10分以上200時間以下、さらに好ましくは30分以上24時間以下である。
【0053】
粒子4が高配列な多孔質部8を得るためには、粒子4の配列性が整った状態が好ましい。粒子4の配列性の違いは主に、多孔質部8を形成する塗工液中の粒子4の分散状態および塗膜形成時の粒子4の分散状態によって変化する。
【0054】
塗工液中の粒子4が分散媒や結着材5の影響を受けず、十分に分散している場合は、粒子4が配列しやすい。ただし、分散媒や結着材5の影響により粒子4が若干凝集した状態で分散していると配列性は低下する。
【0055】
また、塗工液を基材2上に塗布し、塗膜を形成する際の溶媒の揮発・乾燥や、濃縮による粒子4の流動も配列性に大きく影響する。塗工液中での粒子4の分散状態が良好でも、塗膜形成の乾燥時に粒子4が凝集したりすると粒子4の配列性が乱れてしまい、塗膜にした際に粒子4間の隙間が大きくなり、基材2面方向のボイドが大きくなる。そのため、可視光において散乱が大きくなってしまう。また、粒子4が整列して堆積させた状態でなく、ずれた状態で形成されることで、塗膜の応力分布が不均一になり膜の強度が十分に保たれない。
【0056】
また粒子4の配列性が良くないと数十nmサイズのボイドが発生しやすいが、粒子4の配列性が高いと、多孔質部8の空隙6が小さくなることでウイルスの透光部材1の内部への侵入も抑制できると想定される。細菌のサイズに比べ、ウイルスのサイズは1/1000程度であり、数十nmである。また、透光部材1が親水性であれば、仮にウイルスが付着しても、簡単に水で洗い流せると想定される。
【0057】
多孔質部8は、上述したように、表面処理剤が付加された粒子4を用いることで、粒子4の配列性が乱れることなく整列して堆積させた状態で塗膜を形成することができる。
【0058】
多孔質部8に含まれる表面処理剤は、粒子4や多孔質部8中の元素分析や、イオン排除クロマトグラフィ等による分離定量分析などにより求めることができる。
【0059】
粒子4の形状としては、真球、繭型、俵型、円盤、棒状、針状、角型、鎖状などの形状が挙げられる。中でも、粒子4は、球状のシェルの内部に中空部を有する中空粒子や、親水性粒子連結体である鎖状粒子であることが好ましい。
【0060】
中空粒子は、中空部に含まれる気体(屈折率1.0)によって多孔質部8の屈折率を下げることができる。中空部は単孔、多孔どちらでも良く適宜選択することができる。中空粒子の製造方法としては、例えば、特開2001−233611号公報や、特開2008−139581公報等に記載されている方法で作製することが可能である。中空粒子により、基材2表面に対して平行方向に整列された粒子4が複数段積み重なって形成された層の屈折率を下げることが可能となる。
【0061】
結着材5は、シリケートなどの無機材料が好適である。有機高分子である樹脂を実質的に含まず、無機材料(シリカ)の粒子4を無機材料(シリケート)などの結着材5で結着させているため、低屈折率で高強度な多孔質部8を形成することができる。
【0062】
この製造方法によれば、低屈折率を維持したまま、反射や映り込みの影響が少ない視認性に優れた透光部材1を製造することができる。透光部材1の多孔質部8は、シリカ粒子の分散液を均一にコーティングし、低屈折率な機能膜3を実現している。多孔質部8中の空隙6、粒子4内部に空孔を有しているため、多孔質部8はそのものの屈折率が低い特徴がある。また、粒子4同士を結合するのに無機材料から成る結着材5を用いていると、樹脂材料からなる結着材5を用いた多孔質部8に比べて屈折率をより低くすることができる。樹脂材料からなる結着材5(バインダー樹脂)を用いる場合、多孔質部8に樹脂が多く含まれると、機能膜3の屈折率が上がってしまい反射が大きくなる。また、塗布組成物中の有機溶剤が揮発していく際に、粒子4がバインダー樹脂と結着するため、粒子4が凝集しやすくなる。なお、塗布組成物中の有機溶剤は塗膜の表面側の方が早く揮発するので、乾燥が早く進む塗膜表面の粒子4の凹凸形成は抑制できても、塗膜内部の粒子4は配列が低下しうる。そのため、バインダー樹脂を用いると、反射防止や透明性をより向上させることが難しくなる。そたのめ、蛍光灯などの外光からの反射や映り込みの影響により、十分な視認性を確保できないという課題がある。
【0063】
また、基材2の両面に低屈折率な機能膜3が設けられることで、基材2の主面101、102からの散乱を相殺することができる。透光部材1を用いた際には、視野の広範囲において、視認性が向上するしうる。よって、より優れた反射防止機能および高透明性を実現し、視認性に優れた透光部材を提供することができる。
【0064】
図5(a)は、透光部材1の製造方法の一例を説明する模式図である。図5(a)は、透光部材1の製造方法の一例としての、Roll to Roll方式による成膜装置50を用いた製造方法説明する模式図である。基材2が巻き取られた巻取体(ロール)R1を用意する。そして、巻取体R1を成膜装置50の巻出部51に設置する。工程S1では、巻出部51によって、巻取体R1の基材2が巻き出され、成膜装置50の塗布部52へ展開される。工程S2では、塗布部52のロールコーターによって、展開された基材2の上に、塗工液を塗布する。ロールコーターは例えばグラビアコーター、リバースコーター、スロットダイコーター、リップコーター、ブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター等である。工程S3では、成膜装置50の乾燥部53へ基材2が塗布部52から乾燥部53へ送られ、乾燥部53のヒーターによって、塗膜が乾燥される。このようにして、展開された基材2の上に湿式成膜法により機能膜3を成膜する。工程S4では、機能膜3が成膜された基材2は乾燥部から53から成膜装置50の巻取部54へ送られ、巻取部54によって巻き取られ、透光部材1の巻取体R2(ロール)を得ることができる。
【0065】
図5(b)は、巻取体(ロール)の一例を説明する模式図である。巻取体55は、透光部材1と、芯材56と、を備える。透光部材1の長辺の長さが10m以上であり、透光部材1が芯材56の上に巻き取られている。透光部材1の短辺の長さWは、2m以下であってもよく、20cm以上であってもよい。このような巻取体55は大面積の透光部材1を流通させる上で有利である。また、このような巻取体55の透光部材1を展開し、裁断することによって、図4(a)に示すような、最大幅Lが2cm以上かつ2m以下である透光部材1を大量に製造することができる。
【0066】
透光部材1をシールドに採用することができる。新型コロナウイルス(COVID−19)の影響により、感染拡大防止を目的としたシールドパーテーションやフェイスシールドなどのシールドの需要が伸びている。特に医療機関においては感染対策強化、高度な医療提供の観点から、視認性に優れた高透明かつ低反射なフェイスシールドが求められており、樹脂基材を用いた透光部材の機能性を向上することが求められている。
【0067】
図6(a)は、シールドの一例としてのシールドパーテーション60aを説明する模式図である。シールドパーテーション60aは、透光部材1と、透光部材1を保持する保持部材63と、を備える。保持部材63は、透光部材1が固定された固定部61と、固定部61を接地面に安定して設置するための支持部62と、を含む。支持部62は固定部61に結合されている。固定部61は開口を有する枠状であり、開口に透光部材1が配置される。透光部材1の周縁部が、ピンやネジなどの固定部品64によって、固定部61に固定される。固定部品64は、図4(a)に示したノッチ91や穴92を通りうる。支持部62が脚として、固定部61を支持する。シールドパーテーション60aは例えばテーブルやカウンターの上に配置されうる。シールドパーテーション60aには、透光部材1に隣接する雰囲気を換気する換気扇が設けられていてもよい。
【0068】
図6(b)は、シールドの一例としてのフェイスシールド60bを説明する模式図である。フェイスシールド60bは、透光部材1と、透光部材1を保持する保持部材65と、を備える。保持部材65は、透光部材1が使用者の顔の少なくとも一部を覆うように、透光部材1を使用者に固定するための構造を有する。保持部材65は、透光部材1が固定された固定部65と、固定部65を使用者に固定するための支持部66と、を含む。支持部62は固定部61に結合されている。固定部65は棒状であり、固定部65の側面に、透光部材1の周縁部が、ピンやネジなどの固定部品69によって、固定部61に固定される。固定部品64は、図4(a)に示したノッチ91や穴92を通りうる。ベルト状の支持部62が装着者に装着されて、固定部61を支持する。フェイスシールド60bの透光部材1は例えば使用者の目、鼻および口の少なくともいずれか、好ましくは全てを覆う。
【0069】
透光部材1の表面は曲面を有しうる。透光部材1の曲面は顔面に沿って形成されることが好ましく、曲面の曲率半径は10cm以上であることが好ましい。フェイスシールド60bにおける透光部材1の外面(顔側とは反対側の面)を表面110、内面(顔側の面)を裏面120とすることができる。透光部材1の両面に機能膜3を設けることが好ましい。フェイスシールド60bの使用においては、内面よりも外面において擦傷が生じる可能性が高い。したがって、透光部材1の耐擦傷性を考慮すると、外面側の機能膜3を内面側の機能膜3よりも厚くすることも有効である。透光部材1の片面(表面110)のみに機能膜3を設ける場合、機能膜3の表面110が内面(顔側の面)になってもよいし、機能膜3の表面110が外面(顔側のとは反対側の面)になってもよい。機能膜3の親水性による防曇機能を期待する場合は、機能膜3を内面側に設けることが好ましい。機能膜3の反射防止効果を期待する場合は、外面側の光源が反射光の主要因になりうるため、機能膜3を外面側に設けることが好ましい。
【0070】
フェイスシールド60bには、透光部材1に隣接する雰囲気を換気する換気扇68が設けられていてもよい。本例では、保持部材65(固定部61)の内部に換気扇68が設けられている。このようなフェイスシールド60bを装着した装着者が、物品の製造において、透光部材1を介して製造物および/または製造装置を観察する役割を担当してもよい。このような物品の製造方法によれば、フェイスシールド60bの使用によって装着者の顔面が保護されるだけでなく、透光部材1の優れた視認性により、物品の品質や作業効率が改善しうる。
【0071】
図7図6(b)に示したようなフェイスシールド60aを、頭部を模した被写体70に装着し、透光部材1を介して被写体70を撮影して制作された映像(写真)である。図7の写真の左半分Xの被写体70に装着したフェイスシールド60aには基材2の上に機能膜3を設けた透光部材1を用いている。図7の写真n右半分Yの被写体70に装着したフェイスシールド60aには機能膜3を設けていない基材2を用いている。なお、図7に記載した矢印の先端が透光部材1あるいは基材2の外周を指し示している。このように、透光部材1を介して被写体70を撮影した制作された映像は、被写体70を良好に表現することができる。そのため、このような映像の制作方法によれば、品質の高い映像を制作することができ、品質の高い映像を配信、放送、頒布することで、視聴者の満足度を高めることができる。
【0072】
シールドパーテーション60aやフェイスシールド60bなどのシールドの一方の側から透光部材1を介してシールドの反対側を視認できる。透光部材1が透過率を高めた構成を有することで、透光部材1での反射光の発生を抑制でき、視認性が向上する。また、透光部材1が親水性を高めたら構成を有することで、水蒸気による曇りを低減することができ、視認性を向上できる。また、水滴などの飛沫が透光部材1へ付着しても、その水滴の視認性を低下させることができる。
【0073】
シールドの使用者(装着者)は透光部材1を介して景色を視認できるし、装着者以外の観察者は、透光部材1を介して使用者の顔を観察することができる。その際、透光部材1が透過率を高めた構成を有することで、透光部材1での反射光の発生を抑制でき、視認性が向上する。そのため、また、透光部材1の顔面側に親水性を高めた機能膜3を設けることで、装着者の呼気に起因する曇りを低減することができ、曇りによる視認性の低下を抑制できる。また、装着者から発せれた飛沫の水滴が透光部材1の顔面側に付着しても、その濡れ性によって、装着者以外の観察者からの水滴の視認性が低下するため、観察者に与える不快感を低減できる。透光部材1の顔面とは反対側に親水性を高めた機能膜3を設けることで、装着者への飛沫(雨など)が透光部材1へ付着しても、その水滴による視認性の低下を抑制することができる。
【0074】
このように、透光部材1を備えたシールドを用いれば、感染症のまん延終結の目的以外の目的を達成することができる。
【0075】
図8(a)は、透光部材1を備えた装置の一例としての撮像装置20aである。撮像装置20aは撮像部22を収容した本体部21を備える。撮像部22の前方に透光部品23を有する。透光部品23は本体部21に固定されている。透光部品23は、ガラスやプラスチックなどからなるカバーである。透光部品23の外面には透光部材1が貼り付けられている。透光部材1の基材2の一方の主面の上のみに多孔質部8を有する機能膜3が設けられており、基材2の他方の主面の上には多孔質部8を有する機能膜3は設けられていない。基材2の他方の主面の上には基材2を透光部品23に貼り付けるための接着層が設けられている。透光部材1に設けた機能膜3によって、撮像装置20aに反射防止、帯電防止、防曇、防滴などの機能性を持たせることができる。また、劣化した透光部材1を劣化の少ない透光部材1に交換できるようにすれば、長期にわたって撮像装置20aの性能を持続することができる。
【0076】
図8(b)は、透光部材1を備えた装置の一例としての表示装置20bである。撮像装置20bは表示部24を収容した本体部21を備える。表示部24は表示デバイスあるいは印刷物によって構成されうる。表示部24の前方に透光部品23を有する。透光部品23は本体部21に固定されている。透光部品23は、ガラスやプラスチックなどからなるカバーである。透光部品23の外面には透光部材1が貼り付けられている。透光部材1の基材2の2つの主面の両方の上に多孔質部8を有する機能膜3が設けられている。基材2の他方の主面の上には基材2を透光部品23に貼り付けるための接着層15が設けられている。接着層15と基材2との接着性を高めるために、接着層15の少なくとも一部と基材2との間には機能膜3が設けられていない。このように、機能膜3は基体2の主面の全面の上に設けられる必要はなく、機能膜3が基体2の上でパターニングされていてもよい。透光部材1に設けた機能膜3によって、撮像装置20aに反射防止、帯電防止、防眩、防曇、防滴などの機能性を持たせることができる。また、劣化した透光部材1を劣化の少ない透光部材1に交換できるようにすれば、長期にわたって表示装置20bの表示品質を持続することができる。
【実施例】
【0077】
[実施例1]
透光部材の作製は以下のように行った。
【0078】
●機能膜を形成するための塗工液の調整:下記の組成の成分を配合して機能膜を形成する塗工液を調整した。中空酸化ケイ素粒子のイソプロピルアルコール分散液(日揮触媒化成株式会社製 スルーリア1110、平均粒子径約50nm、シェル厚約10nm、固形分濃度20.5質量%)580gに、1−エトキシ−2−プロパノール(以下、1E2Pと略す)を加えながらイソプロピルアルコールを加熱留去した。固形分濃度19.5質量%となるまでイソプロピルアルコールを留去して、中空酸化ケイ素粒子の1E2P溶媒置換液(以下、溶媒置換液1と称する)610gを調製した。得られた溶媒置換液Aに中空酸化ケイ素粒子:表面処理剤(東京化成工業株式会社製 ヘプタフルオロ酪酸)成分の比が100/1となるように、表面処理剤を添加し、分散液Bを得た。
【0079】
別の容器に、1−プロポキシ−2−プロパノール11.4gとメチルポリシリケート(コルコート株式会社製 メチルシリケート53A)4.5gをゆっくり加え室温で120分間攪拌し、シリカゾル(以下、シリカゾル1)を調整した。
【0080】
固形分濃度が3.9質量%になるように、分散液Bを乳酸エチルで希釈した後、中空酸化ケイ素粒子:シリカゾル成分の比が100/12となるように、シリカゾル1を添加した。さらに、室温で2時間混合攪拌することで中空酸化ケイ素粒子を含む塗工液Cを得た。塗工液Cの粘度は2.56mPa・sであった。
【0081】
尚、機能膜の屈折率の評価は以下のように行った。まず、ガラス基板(φ30mm、厚み1mmの片面が研磨された合成石英)上の研磨面側に機能膜を成膜し、分光エリプソメータ(VASE、ジェー・エー・ウーラム・ジャパン製)を用い、波長380nmから800nmまで測定した。屈折率は波長550nmにおける屈折率とした。屈折率は以下の基準で評価した。本実施例で用いた機能膜の屈折率は1.22であることを確認した。
【0082】
●基材への機能膜形成:基材への機能膜形成は以下のように行った。基材は幅300mm、長さ200Mのロール状のポリエステルフィルム(東レ製:ルミラー#188−U34 表面処理<内面>易接着コート、表面処理<外面>易接着コート)を用いた。また成膜装置としてRoll to Rollのコーター装置(株式会社ラボ製:UVS−700)を使用し成膜を行った。塗工方式はマイクログラビア方式を用い、成膜速度は2.5M/minの条件とした。
【0083】
初めに塗工液Cを装置パンへ準備し、膜厚が110nmになるよう成膜速度とマイクログラビアロールの回転速度との比率を調整した上で機能膜を成膜し、その後、反対側の面にも同様の条件で機能膜を成膜した。尚、成膜後の乾燥温度は80℃とした。得られた透光部材を図3に示すような形状に裁断・加工した。
【0084】
透光部材の評価は以下のように行った。
【0085】
●透光部材の透過率評価:透光部材の透明性を表す数値として、全光線反射率を旧JIS−K−7105、JIS−K−7361に準拠し、評価した(分光光度計U−4000:日立ハイテク社製)。
【0086】
●透光部材のヘイズ評価:透光部材の透明性に関する指標として、ヘイズを旧JIS−K−7105、JIS−K−7136に準拠し、評価した(上同)。
【0087】
●透光部材の反射率評価:透光部材の透明性に関する指標として、反射率を評価した。裏面の反射の影響を受けないようにするため、あらかじめ測定する透光部材の裏面をサンドペーパー(#800)にて粗面化した後、黒色塗料にて遮光したものを評価した(反射率計USPM−RU:オリンパス社製)。
【0088】
●透光部材の視認性の評価:透光部材を図3の形状に裁断・加工し、フェイスシールドを作製した後、実際の視認性を確認した。評価の観点としては、機能膜を成膜していない基材自体と比較して、外側(装着していない側)から見た際の蛍光灯などの外光からの映り込みの有無や、内側(装着している側)から見た際の透明性の高さを評価した。尚、視認性の評価は以下の基準で評価した。
A:機能膜を成膜していない基材と比較して、大きく視認性が向上している
B:機能膜を成膜していない基材と比較して、多少視認性が向上している
C:機能膜を成膜していない基材と比較して、視認性に大きな違いがない
【0089】
●透光部材の拭き評価:透光部材の拭き評価は以下のように行った。ポリエステルワイパー(テックスワイプ社製 アルファワイパーTX1009)を、それぞれ、純水、中性洗剤に浸み込ませ、拭き条件として乾拭きを含めた3条件で評価した。それぞれの条件で、200g/cmの荷重をかけ、透光部材上を10回往復させた後、透光部材上に不良が発生していないか目視による評価を行った。尚、拭き評価は以下の基準で評価した。
A:キズや剥がれのない良好な状態
B:多少のキズがみられる状態
C:キズが目立ち、一部剥がれが見られる状態
D:膜が剥がれた状態
【0090】
●吐息による曇り評価:透光部材の機能膜に対して吐息を吹きかけ、目視にて透光部材の曇りの有無を評価した。尚、曇り性は以下の基準で評価した。
A:曇らない
B:やや曇る
C:曇る
【0091】
実施例1の透光部材の条件を表1、評価結果を表2に示す。
【0092】
[実施例2]
実施例1と同じ塗工液Cおよび基材を用いて透光部材を作製した。機能膜を成膜する前に、コロナ放電処理(80W・mim/M)を実施した。その後、膜厚が110nmになるようマイクログラビアロールとの回転比率を調整した上で機能膜を成膜した。その後、反対側の面にはコロナ放電処理を実施せず、それ以外は実施例1と同様の条件で機能膜を成膜した。尚、成膜後の乾燥温度は80℃とした。実施例2の透光部材の条件を表1、評価結果を表2に示す。
【0093】
[実施例3]
実施例1と同じ塗工液Cおよび基材を用いて透光部材を作製した。膜厚が110nmになるようマイクログラビアロールとの回転比率を調整した上で機能膜を成膜し、その後、反対側の面にはマイクログラビアロールとの回転比率を変更して膜厚が130nmになるよう機能膜を成膜した。尚、成膜後の乾燥温度は80℃とした。実施例3の透光部材の条件を表1、評価結果を表2に示す。
【0094】
[実施例4]
実施例1と同じ塗工液Cおよび基材を用いて透光部材を作製した。膜厚が110nmになるようマイクログラビアロールとの回転比率を調整した上で機能膜を成膜し、その後、反対側の面にはマイクログラビアロールとの回転比率を変更して膜厚が150nmになるよう機能膜を成膜した。尚、成膜後の乾燥温度は80℃とした。実施例4の透光部材の条件を表1、評価結果を表2に示す。
【0095】
[実施例5]
実施例1と同じ塗工液Cを用いて透光部材を作製した。基材は幅300mm、長さ200Mのロール状のポリエステルフィルム(東レ製:ルミラー#125−UH13 表面処理<内面>高屈易接着コート、表面処理<外面>低干渉易接着コート)を用いた。また成膜装置としてRoll to Rollのコーター装置(株式会社ラボ製:UVS−700)を使用し成膜を行った。塗工方式はマイクログラビア方式を用い、成膜速度は2.5M/minの条件とした。
【0096】
初めに塗工液Cを装置パンへ準備し、膜厚が110nmになるよう成膜速度とマイクログラビアロールの回転速度との比率を調整した上で機能膜を成膜し、その後、反対側の面にも同様の条件で機能膜を成膜した。尚、成膜後の乾燥温度は80℃とした。実施例5の透光部材の条件を表1、評価結果を表2に示す。
【0097】
[実施例6]
実施例1と同じ塗工液Cを用いて透光部材を作製した。基材はA4サイズのシート状のポリエステルフィルム(東レ製:ルミラー#250−T60 表面処理<内面>なし、表面処理<外面>なし)を用いた。また成膜装置として卓上のコーター装置(三井電気精機製:TC−1型)を使用し成膜を行った。塗工方式はバーコーター方式を用い、成膜速度は2.5M/minの条件とした。膜厚が150nmになるよう片面に機能膜を成膜後、乾燥炉にて80℃/5min乾燥後、逆面にも同様の条件で機能膜を成膜した。実施例6の透光部材の条件を表1、評価結果を表2に示す。
【0098】
[実施例7]
実施例1と同じ塗工液Cを用いて透光部材を作製した。基材および成膜方法は、前処理としてUVオゾン洗浄(照射時間15min、照射距離10mm)を実施した以外は実施例6と条件で機能膜を成膜した。実施例7の透光部材の条件を表1、評価結果を表2に示す。
【0099】
[実施例8]
実施例1と同じ塗工液Cを用いて透光部材を作製した。基材および成膜方法は、前処理としてコロナ放電処理(80W・mim/M)を実施した以外は実施例6と条件で機能膜を成膜した。実施例8の透光部材の条件を表1、評価結果を表2に示す。
【0100】
[実施例9]
実施例1と同じ塗工液Cを用いて透光部材を作製した。基材は実施例5と同じものを用いた。膜厚が110nmになるようマイクログラビアロールとの回転比率を調整した上で基材の片面のみに機能膜を成膜した。尚、成膜後の乾燥温度は80℃とした。各評価を実施した。実施例9の透光部材の条件を表1、評価結果を表2に示す。
【0101】
[比較例]
比較用の透光部材の作製は以下のように行った。
【0102】
●機能膜を形成するための塗工液の調整:下記の組成の成分を配合して機能膜を形成する塗工液Dを調整した。
中空酸化ケイ素粒子のイソプロピルアルコール分散液(日揮触媒化成株式会社製 スルーリア1110、平均粒子径約50nm、シェル厚約10nm、固形分濃度20.5質量%)14.3g、ペンタエリスリトールトリアクリレート2.0g、イルガキュア907(チバスペシャリティケミカルズ社製)0.2g、TSF4460(商品名:ジーイー東芝シリコーン社製:アルキルポリエーテル変性シリコーンオイル)0.2g、メチイソブチルケトン83.3g。得られた塗工液Dの粘度は2.61mPa・sであった
尚、機能膜の屈折率の評価は以下のように行った。まず、ガラス基板(φ30mm、厚み1mmの片面が研磨された合成石英)上の研磨面側に機能膜を成膜し、分光エリプソメータ(VASE、ジェー・エー・ウーラム・ジャパン製)を用い、波長380nmから800nmまで測定した。屈折率は波長550nmにおける屈折率とした。屈折率は以下の基準で評価した。比較例で用いた機能膜の屈折率は1.27であった。
【0103】
●基材への機能膜形成:得られた塗工液Dを用いて多孔質を成膜した。基材はA4サイズのシート状のポリエステルフィルム(東レ製:ルミラー#250−T60 表面処理<内面>なし、表面処理<外面>なし)を用いた。また成膜装置として卓上のコーター装置(三井電気精機製:TC−1型)を使用し成膜を行った。塗工方式はバーコーター方式を用い、成膜速度は2.5M/minの条件とした。膜厚が2000nmになるよう基材の片面のみに機能膜を成膜した。尚、成膜後の乾燥温度は80℃/5minとした。得られた透光部材を図3に示すような形状に裁断・加工し、各評価を実施した。比較例の透光部材の条件を表1、評価結果を表2に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
表2の結果から、実施例はフェイスシールドとして良好な機能性を実現できることが確認できた。
【0107】
以上、説明した実施形態は、技術思想を逸脱しない範囲において適宜変更が可能である。なお、本明細書の開示内容は、本明細書に記載したことのみならず、本明細書および本明細書に添付した図面から把握可能な全ての事項を含む。
【0108】
なお、例示した具体的な数値範囲について、e〜fという記載(e、fは数字)は、e以上および/またはf以下という意味である。また、例示した具体的な数値範囲について、i〜jという範囲およびm〜nという範囲が併記(i、j、m、nは数字))してある場合には、下限と上限の組は、iとjの組またはmとnの組に限定されるものではない。例えば、複数の組の下限と上限を組み合わせて検討もよい。すなわち、i〜jという範囲およびm〜nという範囲が併記してある場合には、i〜nという範囲で検討を行ってもよいし、m〜jという範囲で検討を行ってもよいものである。
【0109】
また本明細書の開示内容は、本明細書に記載した個別の概念の補集合を含んでいる。すなわち、本明細書に例えば「AはBよりも大きい」旨の記載があれば、たとえ「AはBよりも大きくない」旨の記載を省略していたとしても、本明細書は「AはBよりも大きくない」旨を開示していると云える。なぜなら、「AはBよりも大きい」旨を記載している場合には、「AはBよりも大きくない」場合を考慮していることが前提だからである。
【符号の説明】
【0110】
1 透光部材
2 基材
3 機能膜
4 粒子
5 結着材
6 空隙
8 多孔質部
【要約】      (修正有)
【課題】透光部材の機能性を向上する上で有利な技術を提供する。
【解決手段】樹脂層を含む基材と、基材の上に設けられた機能膜3と、を備える透光部材であって、基材の厚さが1μm以上かつ1mm未満であり、波長が464nm以上かつ653nm以下である光に対する機能膜3の光学膜厚が波長の半分未満であり、透光部材における機能膜3の上の表面に対する水の接触角が90°未満であり、機能膜3は、多数の粒子4a,b,cを含有する多孔質部8を有し、多数の粒子のうちの第1の粒子4aと第2の粒子4bとが結着材5によって互いに結着されており、第1の粒子4a、第2の粒子4bおよび結着材5の各々は無機材料を含有する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8