【文献】
YANG Bo,Defect detection and evaluation of ultrasonic infrared thermography for aerospace CFRP composites,Infrared Physics & Technology,60,Elsevier,2013年,166-173
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トランスデューサ素子(12、14、16、17)と、サーマルイメージングセンサ(33)とに動作可能に接続された、コントローラ(20)を備える検査システム(10)であって、
前記トランスデューサ素子が、構造体(15)全体にわたって、構造欠陥に衝突すると熱応答を生じさせるせん断水平タイプのガイド音波またはガイド超音波を発生させるための、少なくとも1つの信号を受領するように構成され、
前記サーマルイメージングセンサが、前記構造欠陥を示す前記熱応答を検知するように構成され、
前記コントローラが、前記少なくとも1つの信号の1つまたは複数のパラメータ、そのフェージングおよび周波数を制御するように、また前記熱応答の前記検知を制御するように構成される、検査システム。
前記トランスデューサ素子が、横方向に分極された圧電d15せん断バー、円周方向に分極された圧電d15せん断リング、磁気歪トランスデューサ、および電磁音響トランスデューサからなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
複数のトランスデューサ素子のうちの1つまたは複数と、前記トランスデューサ素子に信号を印加するための手段(30)と、少なくとも1つのサーマルイメージングセンサとに動作可能に接続された、コントローラを備えるシステムであって、前記複数のトランスデューサ素子の各々が、構造体全体にわたって、前記構造体の欠陥に衝突すると熱応答を生じさせるガイド音波またはガイド超音波を送信するように、動作可能に構成され、前記サーマルイメージングセンサが、前記欠陥を示す前記熱応答を検知するように動作可能に編成され、複数の信号を印加するための前記手段によって印加される前記信号のうちの1つまたは複数が、複数の所定のフェージングベクトルおよび周波数が実行され得るように、独立した相対位相を含み、
前記コントローラが、前記熱応答の前記検知、およびフェージングを制御するように、また前記構造体にわたる増大された超音波エネルギーカバレッジをもたらすために、前記複数の所定のフェージングベクトルおよび周波数を制御するように構成され、
前記複数のトランスデューサ素子のうちの1つまたは複数が、前記構造体中にせん断水平タイプのガイド波を主として発生させるように構成される、システム。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本明細書において行う開示による、ガイド波サーモグラフィシステムの一例示的実施形態の概略図である。
【
図2】検査中の構造体全体にわたって超音波ガイド波を送信するために使用することのできる、本明細書において行う開示による、多素子送信トランスデューサの一例示的実施形態の等角図である。
【
図3】多素子送信トランスデューサの別の例示的実施形態の等角図である。
【
図4】本明細書において行う開示による、超音波ガイド波を発生させるべく送信トランスデューサに印加される励起信号に対してフェージング遅延を実行するための一例示的実施形態の概略図である。
【
図5】
図6のフェージングありの場合との、同一構造体に対して誘起された正味の超音波エネルギー場の比較を示す図である。
【
図6】
図5のフェージングなしの場合との、同一構造体に対して誘起された正味の超音波エネルギー場の比較を示す図である。
【
図7】単一周波数作動、周波数掃引、および周波数掃引とフェージングを使用してのしきい値レベルを上回る超音波エネルギーカバレッジを実証した実験結果のプロットを示す図である。
【
図8】構造体に開いた開口の近位に2つの構造欠陥が配設された構造体中の熱応答の比較例を示す図であり、応答が、適切な励起周波数とフェージングとの組合せを用いて導かれたものであり、両方の構造欠陥を示している図である。
【
図9】構造体に開いた開口の近位に2つの構造欠陥が配設された構造体中の熱応答の比較例を示す図であり、応答が、第1の欠陥をより良好に示しているが、欠陥のうちの第2のものについては示していない図である。
【
図10】所与の構造体に関する、位相速度とガイド波モードと周波数との間のそれぞれの関係を示す、せん断水平波分散曲線の非限定的な一例を示す図である。
【
図11】Aタイプの波の、振動特性を備えたガイド波の非限定的な例を示す図である。
【
図12】Sタイプの波の、振動特性を備えたガイド波の非限定的な例を示す図である。
【
図13】SHタイプの波の、振動特性を備えたガイド波の非限定的な例を示す図である。
【
図14】せん断摩擦により熱を発生させているクラックを示す図である。
【
図15】横方向に分極された圧電せん断バー素子(piezoelectric shear bar element)の非限定的な一例を示す図である。
【
図16】横方向に分極された圧電せん断バー素子の起こり得る変形モードを示す図である。
【
図17】円周方向に分極された圧電せん断リング素子(piezoelectric shear ring element)の一例示的実施形態を示す図である。
【
図18】円周方向に分極された圧電せん断リング素子の起こり得る変形モードを示す図である。
【
図19】本明細書において行う開示による、ガイド波サーモグラフィシステムの一部としてのせん断トランスデューサ(shear transducer)の一例示的実施形態を示す図である。
【
図20】本明細書において行う開示による、ガイド波サーモグラフィシステムの一部としてのせん断トランスデューサの一例示的実施形態を示す図である。
【
図21】本明細書において行う開示による、ガイド波サーモグラフィシステムの一例示的実施形態を用いて生成された、タービンブレード構造体中のクラック傷の熱画像を示す図である。
【
図22】本明細書において行う開示による、ガイド波サーモグラフィシステムの一例示的実施形態を用いて生成された、タービンブレード構造体中のクラック傷の熱画像を示す図である。
【
図23】本明細書において行う開示による、ガイド波サーモグラフィシステムの一例示的実施形態を用いて生成された、タービンブレード構造体中のクラック傷の熱画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において開示する例示的な本発明のガイド波サーモグラフィシステムの態様は、任意の適切なプログラミング言語またはプログラミング技法を使用して任意の適切なプロセッサシステムによって実装することができる、ということを理解されたい。システムは、任意の適切な回路の形態をとることができ、システムには、例えば、ハードウェアの実施形態、ソフトウェアの実施形態、またはハードウェア要素とソフトウェア要素の両方を備えた実施形態が関与し得る。一実施形態では、システムは、ソフトウェアおよびハードウェア(例えばプロセッサ、センサなど)によって実装することができ、これには、それらに限定されないが、ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコードなどが含まれてよい。
【0012】
さらに、プロセッサシステムの一部は、プロセッサまたは任意の命令実行システム用のまたはそれに関連するプログラムコードを提供するプロセッサ使用可能媒体またはプロセッサ可読媒体から入手可能な、コンピュータプログラム製品の形態をとることができる。プロセッサ可読媒体の例としては、半導体メモリや固体メモリなどの非一時的な有形のプロセッサ可読媒体、磁気テープ、リムーバブルコンピュータディスケット、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読出し専用メモリ(ROM)、リジッド磁気ディスク、および光ディスクがあり得る。光ディスクの現在の例としては、コンパクトディスク読出し専用メモリ(CD−ROM)、コンパクトディスク読出し/書込み(CD−R/W)、およびDVDがある。
【0013】
本発明者らは、既存の音響/超音波サーモグラフィシステムの限界について特定しており、比較的低い励起パワーを用いて構造欠陥において熱応答を効率的に生じさせるように選択的に最適化することのできるシステムおよび方法の必要性を認識している。
【0014】
本発明者らは、非限定的な一応用では燃焼タービンエンジンのブレード、翼などのような構成要素を備えることのある多様な構造体に対してサーモグラフィ検査を実施するための、音波ガイド波または超音波ガイド波の革新的な利用を提案する。超音波ガイド波は、事実上導波路として機能する境界のある構造体中を伝搬する、多モード構造共振を含む。
【0015】
本発明の態様は、少なくとも1つのアクチュエータを利用して、構造体全体にわたって、構造体中に位置し得る構造欠陥に衝突すると熱応答(例えば加熱)を生じさせることのできる音響的な音波エネルギーまたは超音波エネルギーを送達する。下でより詳細に述べるように、音波エネルギーまたは超音波エネルギーによって誘起された熱応答は、試験下の構造体に導入される超音波エネルギーを最小限に抑えるために周波数掃引、アクチュエータフェージング、およびせん断エネルギー励起のうちの少なくとも1つを利用しながら高い欠陥検出感度を得るのに効果的であり得るサーマルイメージングシステムを用いて検出することができる。
【0016】
一般的な背景情報については、参照により本明細書にその全体が組み込まれている、米国特許第9,410,853号を参照されたい。
【0017】
ここで、図示の内容は本明細書における主題の実施形態を示すためのものにすぎず、それを限定するものではない図面を参照すると、
図1は、本開示の態様を実践するために使用することのできるガイド波サーモグラフィシステム10の概略図を示す。
【0018】
一例示的実施形態では、システム10は、構造体15(検査中の対象)全体にわたって超音波ガイド波を送信するために構造体に結合された、1つまたは複数の送信トランスデューサを含むことができる。送信トランスデューサは、単一素子送信トランスデューサ12の分散型アレイとして配置してもよく、(
図2にてより良く見て取れるように)複数の個別に作動される送信素子17を備えた環状アレイトランスデューサ14や(
図3にてより良く見て取れるように)複数の個別に作動される送信素子19を備えた円形アレイトランスデューサ16などの多素子送信トランスデューサを備えてもよい。送信トランスデューサとしては、それらに限定されないが、圧電スタックトランスデューサ、圧電セラミックバー、圧電セラミックディスク、圧電セラミックリング、または圧電セラミックシリンダ、磁気歪トランスデューサ、電磁音響トランスデューサ(EMAT)、制御された機械的衝撃デバイス(controlled mechanical impact device)、圧電複合体(piezo−composite)などがあり得る。本開示の態様は送信トランスデューサのどんな特定の構成にも構造体15のどんな特定の形状にも限定されるものではない、ということを理解されたい。したがって、図中に示す送信トランスデューサの構成または構造体15の形状は、限定的な意味にではなく例示的な意味に解釈すべきである。
【0019】
システム10は、信号調整器20をさらに含むことができ、これは、非限定的な一実施形態では、それぞれが信号発生器25(多チャネル信号発生器)から送信トランスデューサ12、14、16に印加され得る電気信号に対して、1つまたは複数の増幅器回路22による適切な信号増幅、および1つまたは複数のインピーダンス整合回路網24によるインピーダンス整合を行うように構成することができる。システムコントローラ28は、(GWコントローラと表記された)ガイド波コントローラ30を含むことができ、これは、信号発生器25を制御するように構成することができ、例えば、構造体15全体にわたって送信される超音波ガイド波を発生させるために1つまたは複数の送信トランスデューサに印加され得る、1つまたは複数の信号の1つまたは複数の信号パラメータを制御するように構成することができる。1つまたは複数の送信トランスデューサに印加され得る信号の信号特性を決定するように制御され得る信号パラメータの非限定的な例には、位相遅延、周波数、および位相遅延と周波数との組合せが含まれ得、その例には、例えば、位相遅延掃引、周波数掃引、またはその両方が関与し得る。システムコントローラ28はさらに、欠陥を示す熱応答を検知するように構成されたサーマルイメージングセンサ33(例えば赤外線(IR)カメラ)を制御するためのサーマルイメージングコントローラ32を備えた、サーマルイメージングシステムを含むことができる。
【0020】
サーモグラフィで構造欠陥を効果的に検出するためには、所与の構造欠陥の幾何形状および/または空間的配向に適切な、ある特定の振動変数(例えば面内変位、せん断応力など)の大きさを、所与の欠陥のごく近傍において、確実に十分な熱応答(例えば加熱)が誘起されるようにするのに十分なほど大きく設定すべきである、ということが理解されよう。
【0021】
当業者には理解されるように、平板状または他の導波路状の構造体の超音波振動の間、発生した振動場の大きさが、そのような構造体全体にわたってばらつくことがある。例えば、そのようなばらつきは、構造体の厚さ全体にわたって、また構造体の他の寸法に対する分布の関数としても生じ得る。したがって、振動場のばらつきは、応力、変位などの相対的に大きな領域、ならびに応力、変位などが実質的にない領域をもたらすことがある。構造体の所与の領域内に位置する構造欠陥が適切に音響熱的に(acousto−thermally)励起されるためには、そのような領域に送達される振動場の関連する振動変数が、十分に大きな大きさを有すべきである。上で示唆したように、関連する振動変数は、構造欠陥の幾何形状および/または欠陥の空間的配向に応じて変わり得る。
【0022】
非限定的な一実施形態では、位相遅延および/または周波数の制御(例えば位相遅延および/または周波数の掃引)は、構造体15に結合された1つまたは複数の送信トランスデューサに印加される信号(例えば連続信号)に対して実施することができる。このフェージング動作は、送信トランスデューサに対して実施されると、そのような構造体全体にわたる低いまたは高い音波エネルギーまたは超音波エネルギーの位置についての空間的選択性の増大(例えば、構造体の所与の領域に送達される音波エネルギーまたは超音波エネルギーの強度を増大させるための波節の位置、および構造体の他の領域に送達される音波エネルギーまたは超音波エネルギーの強度を減衰させるための波腹の位置についての空間的選択性の増大)に寄与することができる。非限定的な一実施形態では、発生した振動場の構造体全体にわたる強度ばらつきに対する最大の空間的選択性をもたらすために、フェージングを周波数掃引とともに実施することができる。
【0023】
信号フェージングと周波数掃引とを組み合わせることにより、多次元のフェージング−周波数空間の拡張(spanning)が事実上可能になる。これにより、単一周波数において動作しているか、または単に周波数掃引を実施しているだけの場合に可能なはずであるよりも相対的に広い範囲の振動状態(これは例えば、検査中の構造体全体にわたって選択的に形成され得る)を形成することのできる能力が与えられる。これらの振動状態は、変位波構造(wavestructure)、応力波構造、振動モード形状などのような、構造体の厚さ全体にわたる異なる振動場の選択性に関する、大きな融通性を可能にする。これは、構造欠陥の幾何形状、深さ、および他の欠陥特性に関わらず、幅広い構造欠陥の検出可能性の増加に寄与する。
【0024】
図4は、検査中の構造体44上に分散された単一素子送信トランスデューサ42にそれぞれ印加される信号40に対して、それぞれに対応する位相遅延を実装するための、非限定的な一実施形態の概略図である。この実施形態では、連続波信号40がそれぞれ送信トランスデューサ42に、異なる位相遅延をそれぞれが有した状態で印加され得る。本開示の態様をどんな特定の動作理論にも限定するものではないが、この場合、フェージングの効果は、構造体のさまざまな固有モードを、その表面にわたる荷重分布を変化させることによって励起することであり得ると考えられる。複数の送信トランスデューサ42に印加される位相遅延値の任意の組合せは、「フェージングベクトル」と呼ぶことができる。フェージングに関する一般的な背景情報については、そのどちらの開示も参照により本明細書にその全体が組み込まれている、米国特許第8,217,554号および米国特許出願第14/329,426号を参照されたい。
【0025】
応答の大幅な改善は、フェーズドトランスデューサアレイと適切な周波数およびフェージングとによるガイド波エネルギー集中を利用することによって、得ることができる。この一例が、同一のアクチュエータアレイが上に設置されている同一構造体の2つの有限要素モデルを比較した
図5および
図6に示されている。構造体35(
図5)は、周波数掃引により達成された累積応力場カバレッジを特徴としており、ここで、色の濃いほうのエリア37は、応力がより大きいことを示しており、色の薄いほうのエリア38は、応力がより小さいことを示している。一方、構造体36(
図6)は、周波数掃引により達成された累積応力場カバレッジを特徴としており、ここで、色の濃いほうのエリア37は、応力がより大きいことを示しており、色の薄いほうのエリア38は、応力がより小さいことを示している。アクチュエータフェージングの利点は、ここに示すように、構造体中に任意の所与の時間に誘起される超音波パワーを増加させることなく、最大応力、またはエネルギー集中の他の尺度が、構造体にわたってより大きな程度に分散されることを可能にする、はるかに多くの種類の振動状態が誘起され得る、ということである。
【0026】
図5および
図6に関して、傷39が、サーマルイメージングシステムによって検出可能であるように、ある特定の最小レベルの局所超音波エネルギー集中を必要とする場合を考えられたい。従来の音響サーモグラフィシステムでは、構造体35(
図5)に少なくとも1つのアクチュエータを適用し、その少なくとも1つのアクチュエータを、ある周波数範囲にわたって励起する。アクチュエータの帯域幅、構造体の幾何形状、およびアクチュエータが構造体に結合される位置に基づいて、構造体35中の最大超音波エネルギー集中は、アクチュエータが励起される全ての周波数を考慮すると、
図5に示すようになり得る。この場合、傷39の位置における局所超音波エネルギー集中は、最小しきい値を決して超えることはなく、傷は検出不可能である。この限界に対処するための従来の一方途が、総超音波入力パワーを増加させることによるものであり、これにより、ある時点で
図5のエネルギー場の大きさが増加するが、その分布は変化しない。総超音波エネルギーのこの増加の結果として、色の濃いほうの高強度領域37は、構造体に損傷を及ぼすおそれのある非常に高い超音波エネルギーレベルに晒されることになる。多くの場合、アクチュエータまたは増幅システムの限界のため、総超音波エネルギーを増加させることはできず、その場合、傷39は検出不可能である。
【0027】
しかし、本明細書において説明する方法およびシステムを実行することにより、構造体36(
図6)の超音波振動状態の数および種類を大いに増加させるために、アクチュエータフェージングのさまざまな組合せを複数のアクチュエータにわたって、周波数掃引とともに適用することができ、その場合、正味の超音波エネルギーカバレッジは大いに改善される。この手法を利用すると、総パワーレベルを増加させることなく、また必ずしも構造体36の任意の領域を必要以上に高いエネルギーレベルに晒さなくても、傷39が検出可能になる。
【0028】
本明細書において説明する周波数掃引およびフェージングのシステムおよび方法の一実施形態を実行することによる超音波エネルギーカバレッジの改善が、
図7に定量化されており、これは、さまざまな入力パワーレベルにおいてアクチュエータ励起の3つの方法、「単一周波数」、「周波数掃引」、ならびに「フェージングおよび周波数掃引」を使用して構造体にわたる超音波エネルギーカバレッジを比較した実験データをプロットしたものである。このグラフは、所与の入力パワーレベルについて、所定のしきい値レベルを上回るはるかに大きなエネルギーカバレッジが、周波数掃引およびフェージング励起方法を実行することによって達成可能である、ということを実証している。
【0029】
適切な周波数とフェージングとの組合せは、ある特定の構造欠陥を励起させることができるが、他のものは励起させることができない、ということに留意されたい。この現象の一例が、
図8および
図9に描かれており、この例では、2つのクラック46および48がそれぞれ、穴45の上および下に存在する。
図8のアクチュエータに適用された周波数とフェージングとの第1の組合せは、クラック46とクラック48の両方において、中強度で検出されるのに十分な熱励起を生み出している。それに対し、
図9の同じアクチュエータに適用された周波数とフェージングとの第2の組合せは、クラック46を検出するには不十分な熱励起を生み出しているが、クラック48における熱強度は、周波数とフェージングとの第1の組合せが適用された
図8におけるその熱強度よりもはるかに大きい。したがって、適切な励起周波数を適切なアクチュエータフェージングとともに使用して、そうしなければ従来の音響サーモグラフィのシステムおよび方法では検出されないことのある構造体中の欠陥を、熱的に励起させることができる。
【0030】
別の非限定的な実施形態では、検査中の構造体に結合された1つまたは複数の単一素子送信トランスデューサまたは多素子送信トランスデューサに、連続信号の代わりに、それぞれに対応するパルス列を印加してもよい。この実施形態では、一時的なガイド波を構造体全体にわたって伝搬させて、定常振動を生じさせないようにすることができる。これは、比較的狭い高パワーの励起パルスを印加することによって、達成することができる。同様の効果(例えば定常振動のないこと)は、構造体の境界との相互作用が構造共鳴を誘起するには不十分であり得る大型構造体および/または減衰構造体が関与する応用においても達成され得ることが考えられる。これらの励起パルスは、所与の構造欠陥の近傍において熱エネルギーの累積を生じさせて、サーマルイメージングシステムが構造欠陥を検出できるようにするのに十分な繰返し周波数において繰り返すことができる。当業者には理解されるように、適切なイメージング技法を利用して、信号対雑音比を増加させ、比較的弱い熱勾配を検出することができる。
【0031】
フェージングのシステムおよび方法を最も効率的に実行するには、強制振動スペクトルがフェージングの適用によりシフトされるときに、周波数が掃引される帯域が新たなフェージングの組合せごとに調整されなければならない。最適な周波数帯域は、インピーダンスアナライザ掃引により、または増幅器とアクチュエータとの間で測定された順方向電力および反射電力を解析することによって、選択され得る。フェージングのシステムおよび方法の一環としての周波数最適化に関するさらなる詳細については、The Pennsylvania State University (2014)から入手可能な、C.J. BorigoによるA Novel Actuator Phasing Method for Ultrasonic De−Icing of Aircraft Structuresというタイトルの博士論文を参照されたく、その論文は、参照により本明細書にその全体が組み込まれている。
【0032】
非限定的な一実施形態では、サーマルイメージャによる熱応答の検知を、1つまたは複数の送信トランスデューサに印加され得る励起パルス列の周波数に対して同期(例えば周波数ロック、位相ロック)させることができることが企図される。そのような周波数は、時間変動周波数(例えばチャーピング周波数)を含むことができることがさらに企図される。この時間的同時性は、サーマルイメージャによる熱応答の検知に関連する信号対雑音比を増大させると考えられる。一例示的実施形態では、同時性は、ガイド超音波に応答して励起されている領域の予測される付勢時間に対して実施することができる。
【0033】
本開示のさらなる一態様は、せん断アクチュエータ(shear actuator)を利用して、構造体中にせん断水平タイプのガイド波を発生させること、ならびに励起信号が十分な時間期間にわたって印加された場合にその波によって構造体中に誘起される振動状態を発生させることである。せん断水平タイプのガイド波は、平板状構造体中に存在することのできるガイド波モードの一部類である。せん断水平ガイド波モードの特性、および本開示を目的としてそれを励起させることのできる手段について、下で説明する。
【0034】
より一般に、ガイド波は、媒質(導波路構造体)中を伝搬する弾性波と定義することができ、その媒質中には、導波路構造体の境界条件を満足させる別個の波モードが存在し得る。ガイド波は従来のバルク波とは、少なくとも、モードおよび/または周波数の関数として変化し得る波構造(例えば、導波路の厚さ全体にわたる変位、応力、エネルギーなどの分布)をもつ無限数の別個の波モードが存在し得るという基本的事実により異なる。
図10に示すもののような分散曲線は、所与の構造体についての、位相(または群)速度とモードと周波数との間の関係を示す。各導波路はそれ自体の一意の1組の分散曲線を有し、これは、導波路中のさまざまなモード−周波数の可能性を特定するのに有用となり得る。波構造のバリエーションがあることは、ガイド波の利用にとって大きな柔軟性を生み出すことができ、というのも、例えば、構造体の厚さ全体にわたる望ましい特性をもつ特定の波モードおよび/または周波数の組合せを選択することができるためである。
【0035】
異なる振動特性を備えた3つのガイド波モードの例が
図11〜
図13に示されている。非対称(Aタイプ)ガイド波モードが平板状構造体を通って伝搬した状態でのその変形が、
図11の断面内に示されている。一方、対称(Sタイプ)ガイド波モードが平板状構造体を通って伝搬した状態でのその変形が、
図12の断面内に示されている。
図11および
図12における振動はもっぱらx−z平面内におけるものであることに留意されたい。最後に、せん断水平(SHタイプ)ガイド波モードが平板状構造体を通って伝搬した状態でのその変形が、
図13の断面内に示されている。
図13における振動はもっぱらy方向におけるものであることに留意されたい。
【0036】
さらに、均一な厚さの等方性均質平板中のせん断水平波の場合、その波によって誘起される非ゼロ応力は面内せん断応力τxzおよびτyzのみである、ということを示すことができる。したがって、そのような波は、均一な厚さの等方性均質平板の場合、構造体中に純粋せん断を誘起する。均一な厚さの等方性均質平板という定義を満たさない構造体の場合、せん断水平タイプの波の応力成分は一般に、純粋面内せん断ではなく主としてせん断(predominantly shear)である、ということが理解されよう。ガイド波に関するさらなる詳細については、Cambridge University Press, New York, NY (2014)から入手可能な、J.L. RoseによるUltrasonic Guided Waves in Solid Mediaというタイトルの教本を参照されたく、その教本は、参照により本明細書にその全体が組み込まれている。
【0037】
サーモグラフィで構造欠陥を効果的に検出するためには、所与の構造欠陥の幾何形状および/または空間的配向に適切な、ある特定の振動変数(例えば面内変位、せん断応力など)の大きさを、所与の欠陥のごく近傍において、確実に十分な熱応答(例えば加熱)が誘起されるようにするのに十分なほど大きく設定すべきである、ということが理解されよう。
図14に示すように、面内せん断64は、構造体60中のクラック62において表面摩擦(surface rubbing)を発生させるのに理想的であり、この表面摩擦が、ひいては検出可能なレベルの熱66を発生させる。
図14に示すせん断により誘起される摩擦は、部品の局所表面平面に垂直なクラック、ならびに部品の局所表面平面に平行なクラックまたは剥離について生じ得る。さらに、クラック62における熱発生66の効率は、クラックと超音波振動によって誘起されるせん断運動64との相対的配向に応じて決まる。上で説明したフェージングおよび周波数掃引は、
図5および
図6に示すように振動場を変化させることによって、これに対処することができる。
【0038】
せん断水平タイプの超音波ガイド波の場合の一時的な伝搬ガイド波によるソリューションは、定常超音波振動によるソリューションに直接応用できるものではないが、その2つには密接な関連があり得る、ということを本発明者らは言及しておく。
【0039】
従来の音響サーモグラフィ技術は、Bransonという商標名の下で製造されているものを含む、音響ホーンアクチュエータ(acoustic horn actuator)付き圧電スタックアクチュエータを利用している。これらのタイプのアクチュエータは主として、曲げ振動(Aタイプ)および圧縮振動(Sタイプ)を発生させ、これらの振動は、面内粒子変位および面外粒子変位のみからなり、それらの変位は、多くの場合、SHタイプのモードのせん断エネルギーに比べてクラック加熱を誘起するにはそれほど適してはいない。クラック加熱がそれほど効率的でないということは、同じレベルの検出性を得るためにより多くのエネルギーが必要になり、したがって、意図しない部品損傷の可能性がより高い、ということを意味する。それに加えてまたはその代わりに、本開示のいくつかの非限定的な実施形態では、せん断水平タイプのエネルギーを構造体に、d15圧電せん断アクチュエータにより導入することができる。
【0040】
非限定的な一実施形態では、圧電d15せん断アクチュエータは、
図15に示すものなどの横方向に分極された圧電セラミックブロック70にd15圧電係数を取り入れた「せん断バー」とすることができる。この場合、圧電セラミック素子70は、矢印71によって示す方向に分極され、リード線75を用いて取り付けられた交流電圧ソース74を使用して、電位が電極面72および73にわたって印加される。
図16に示すように、電圧が非変形素子76に印加されると、非変形素子76はせん断変形して、変形状態77になる。当業者には理解されるように、バーについて選択されるさまざまな寸法および圧電セラミック材料はいずれも、応用の特定の要件に適するように調整することができる。
【0041】
第2の非限定的な実施形態では、圧電d15せん断アクチュエータが、
図17に示すものなどの円周方向に分極された圧電セラミックリング80にd15圧電係数を取り入れた「せん断リング」である。せん断リング素子は、矢印84に従って疑似円周方向に分極された2つのハーフリングから作製され、その後、一緒に接合されて完全リング素子80を形成し、それを、上部電極表面87および下部電極表面88にリード線89を介して印加される電圧ソース86を用いて励起させることができる。ソース86によって印加された電圧下におけるせん断リング素子のねじり振動84が、
図18に示されている。このねじり変形が、構造体に結合されるとSHガイド波を全方向に効果的に励起させる。当業者には理解されるように、リングについて選択される内半径および外半径、厚さ、ならびに圧電セラミック材料はいずれも、応用の特定の要件に適するように調整することができる。このトランスデューサ設計に対するさらなるバリエーションも可能であり、本明細書において詳述する特定の実施形態は、非限定的であり、いくつかの実施形態によるSHタイプのガイド波発生用の全方向圧電d15せん断リング素子の一例として使用されている。さらなる実施形態は、2つ以上の区画から作製されたせん断リング、厚さ寸法ではなく半径を通じて分極されたせん断リング、および真に円形ではなく多角形のせん断リングを含むことができる。
【0042】
上で説明した圧電せん断トランスデューサ素子は、
図19の断面および
図20に示す非限定的な例などのトランスデューサモジュール内の1つまたは複数の構成要素とすることができる。
図19に示す実施形態では、トランスデューサモジュール90は、少なくとも1つのフェースプレート91に接合された少なくとも1つの圧電せん断バー素子70を収容するハウジング92からなり、このフェースプレート91は、金属材料またはセラミック材料からなり、機械的圧力結合による素子70から試験下の構造体への超音波せん断エネルギーの効率的な送信が可能である。モジュール90はさらに空洞97からなり、それを通じて、コネクタ95が上部電極面72および下部電極面73にフレキシブル回路96またはジャンパ線により電気的に接続される。いくつかの実施形態では、モジュール90はさらに、モジュールを試験下の構造体に結合する目的でポケット内クランプ装置94を保持する助けとなる磁石93からなってよい。
図20は、
図19の断面に示したモジュール90の別の図である。ここで、フェースプレート91は、図では矩形結合表面98を伴っている。さらなる非限定的な実施形態では、同様のモジュール設計が、せん断リングトランスデューサを収容するように適合されてよく、その場合、結合表面98およびフェースプレート91は、矩形ではなく円形となる。
【0043】
ガイド波サーモグラフィシステムの一部として1つまたは複数の圧電せん断素子を利用する別の利点は、それらが、従来の音響サーモグラフィシステムの一部として利用される圧電スタックトランスデューサよりもはるかに小さいことである、ということに留意されたい。これにより、in situ検査を行う機会、または接近の問題による制限のより少ない検査を実施する機会がもたらされる。
【0044】
当業者には理解されるように、さらなる実施形態は、磁気歪デバイスまたはEMAT(電磁音響トランスデューサ)デバイスによるせん断水平タイプの励起を含むことができる。
【0045】
図21〜
図23は、本発明の一実施形態を使用して収集された熱画像の例を示す。これらの画像は、後縁に沿ってクラック状欠陥のあるタービンブレードのものである。3つの画像全てにおいて、クラック54は、矢印の示す、より高温の色の濃いエリアによって示されている。矩形エリア56は較正ストリップである。
【0046】
以上、特定の実施形態について詳細に説明してきたが、それらの詳細に対するさまざまな修正形態および代替形態を、本開示の教示全体に照らし合わせて開発できるということが、当業者には理解されよう。構造体中に存在し得る構造欠陥を非破壊検査するためのガイド波サーモグラフィに基づく方法およびシステムについて、本明細書において説明している。そのようなシステムは、複数のアクチュエータによる入力エネルギーを最小限に抑えながら構造体にわたる超音波エネルギー分布を最大化するために、周波数−位相空間を掃引する能力を含むことができる。さらに、そのようなシステムは、欠陥からの熱応答を最大化するために、構造体中にせん断水平タイプのガイド波を主として発生させるように構成された、トランスデューサ素子を含むことができる。先の詳細な説明では、そのような実施形態の完全な理解をもたらすために、さまざまな具体的詳細について記載している。
【0047】
しかし、本開示の実施形態は、これらの具体的詳細がなくても実践できるということ、本開示は、図示の実施形態に限定されないということ、および本開示は、多様な代替実施形態において実践できるということが、当業者には理解されよう。他の例では、当業者によって十分理解されているはずである方法、手順、および構成要素については、不必要で煩わしい説明を避けるために、詳細に説明していない。さらに、さまざまな動作については、本発明の実施形態の理解に役立つように、実施される複数の別々のステップとして説明されていることがある。
【0048】
しかし、別段そのように説明されていない限り、説明の順序は、これらの動作がその提示された順序で実施される必要があるということを含意するものと解釈すべきでなく、これらの動作が順序依存ですらあるということを含意するものと解釈すべきでもない。さらに、「一実施形態では」という句が繰り返し使用される場合、それは、同じ実施形態を指す場合もあるが、必ずしもそうであるとは限らない。最後に、本出願において使用される場合、「備える」、「含む」、「有する」などという用語は、別段の指示のない限り、同義であることが意図されている。「a(1つの)」または「an(1つの)」という冠詞が使用される場合、それは、複数を除外するものではない、ということに留意されたい。