(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972303
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】導波管アンテナ磁気電気的適合変換器
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/06 20060101AFI20211111BHJP
H01P 3/12 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
H01Q13/06
H01P3/12 100
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-507086(P2020-507086)
(86)(22)【出願日】2017年8月9日
(65)【公表番号】特表2020-529798(P2020-529798A)
(43)【公表日】2020年10月8日
(86)【国際出願番号】EP2017070204
(87)【国際公開番号】WO2019029803
(87)【国際公開日】20190214
【審査請求日】2020年3月16日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ザオ,クン
(72)【発明者】
【氏名】イン,ジノン
【審査官】
白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2016/178609(WO,A1)
【文献】
特開平08−148911(JP,A)
【文献】
特開2007−104156(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/111107(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2017/047658(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/06
H01P 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層回路基板(110、230)の第1水平導電層(121)と、前記多層回路基板(110)の第2水平導電層(122)と、前記第1導電層(121)と前記第2導電層(122)の間に延在する導電ビア(123、124)により形成される垂直側壁とによって形成される導波管(120)と、
前記導波管(120)の一端における平行板共振器(150)であって、前記第1導電層(121)に隣接する第1水平導電板(151)および前記第2導電層(122)に隣接する第2水平導電板(152)により前記多層回路基板(110、230)内に形成される平行板共振器(150)と、
前記第1導電板(151)および前記第2導電板(152)の一方から前記第1導電板(151)および前記第2導電板(152)の他方に向かって延在する少なくとも1つの導電ビア(155、156)と、
を備え、
前記少なくとも1つの導電ビア(155、156)の垂直高さは、前記第1導電板(151)と前記第2導電板(152)の間の垂直距離に満たない、アンテナ(100、210)。
【請求項2】
前記第1導電板(151)および前記第2導電板(152)の一方から前記第1導電板(151)および前記第2導電板(152)の他方に向かって延在する複数の導電ビア(155、156)を備え、
前記複数の導電ビア(155、156)の垂直高さは、前記第1導電板(151)と前記第2導電板(152)の間の垂直距離に満たない、請求項1に記載のアンテナ(100、210)。
【請求項3】
前記第1導電板(151)から前記第2導電板(152)に向かって延在する少なくとも1つの第1導電ビア(155)と、
前記第2導電板(152)から前記第1導電板(151)に向かって延在する少なくとも1つの第2導電ビア(156)と、
を備え、
前記少なくとも1つの第1導電ビア(155)および前記少なくとも1つの第2導電ビア(156)の垂直高さは、前記第1導電板(151)と前記第2導電板(152)の間の垂直距離に満たない
請求項1または2に記載のアンテナ(100、210)。
【請求項4】
前記第1導電板(151)および/または前記第2導電板(152)から延在する前記複数の導電ビア(155、156)の配置は、前記導波管(120)の中心軸(CA)に対して対称である、請求項2または3に記載のアンテナ(100、210)。
【請求項5】
前記平行板共振器(150)の前記第1導電板(151)に隣接する第1追加水平導電板(161)および前記平行板共振器(150)の前記第2導電板(152)の第2追加水平導電板(162)により前記多層回路基板(110)内に形成される追加平行板共振器(160)を備える、請求項1から4のいずれか一項に記載のアンテナ(100、210)。
【請求項6】
前記追加平行板共振器(160)の前記第1追加導電板(161)および前記第2追加導電板(162)の一方から前記追加平行板共振器(160)の前記第1追加導電板(161)および前記第2追加導電板(162)の他方に向かって延在する少なくとも1つの導電ビア(165、166)を備え、
前記少なくとも1つの導電ビア(165、166)の垂直高さは、前記第1追加導電板(161)と前記第2追加導電板(162)の間の垂直距離に満たない、請求項5に記載のアンテナ(100、210)。
【請求項7】
前記追加平行板共振器(160)の前記第1追加導電板(161)および前記第2追加導電板(162)の一方から前記追加平行板共振器(160)の前記第1追加導電板(161)および前記第2追加導電板(162)の他方に向かって延在する複数の導電ビア(165、166)を備え、
前記複数の導電ビア(165、166)の垂直高さは、前記第1追加導電板(161)と前記第2追加導電板(162)の間の垂直距離に満たない、請求項6に記載のアンテナ(100、210)。
【請求項8】
前記追加平行板共振器(160)の前記第1追加導電板(161)から前記第2追加導電板(162)に向かって延在する少なくとも1つの第1導電ビア(165)と、
前記追加平行板共振器(160)の前記第2追加導電板(162)から前記第1追加導電板(161)に向かって延在する少なくとも1つの第2導電ビア(166)と、
を備え、
前記少なくとも1つの第1導電ビア(165)および前記少なくとも1つの第2導電ビア(166)の垂直高さは、前記第1追加導電板(161)と前記第2追加導電板(162)の間の垂直距離に満たない、請求項6または7に記載のアンテナ(100、210)。
【請求項9】
前記第1追加導電板(161)および/または前記第2追加導電板(162)から延在する前記複数の導電ビア(165、166)の配置は、前記導波管(120)の中心軸(CA)に対して対称である、請求項7または8に記載のアンテナ(100、210)。
【請求項10】
前記追加平行板共振器(160)の前記第1追加導電板(161)および/または前記第2追加導電板(162)から延在する前記少なくとも1つの導電ビア(165、166)の垂直高さは、前記第1追加導電板(161)と前記第2追加導電板(162)の間の垂直距離に満たない、請求項6から9のいずれか一項に記載のアンテナ(100、210)。
【請求項11】
前記アンテナ(100、210)は、1mm超かつ3cm未満の波長を有する無線信号の送信用に構成される、請求項1から10のいずれか一項に記載のアンテナ(100、210)。
【請求項12】
前記アンテナ(100、210)の帯域幅は少なくとも8GHzである、請求項1から11のいずれか一項に記載のアンテナ(100、210)。
【請求項13】
請求項1から10のいずれか一項に記載の少なくとも1つのアンテナ(100、210)と、
前記少なくとも1つのアンテナ(100、210)を介して送信される通信信号を処理するように構成された少なくとも1つの処理装置(240)と、
を備える通信装置(200)。
【請求項14】
前記多層回路基板(110、230)上に配置された無線フロントエンド回路(220)を備える、請求項13に記載の通信装置(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナおよび該アンテナを備える通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信技術において、通信信号を伝達するためにさまざまな周波数帯が利用される。増大する帯域幅需要を満たすために、約10GHz〜約100GHzの範囲における周波数に相当するミリ波長域の周波数帯も検討されている。例えば、ミリ波長域の周波数帯は、5G(第5世代)セルラー無線技術の候補として検討されている。しかしながら、そのような高い周波数の利用に伴って生じる課題として、その波長に合わせるためにアンテナの寸法を十分小さくする必要がある。さらに、十分な性能を実現するために、無線信号のさまざまな偏波をサポートする必要がある場合があり、また(例えば、アンテナアレイの形態の)複数のアンテナが、携帯電話、スマートフォン、または同様の通信装置などの小型通信装置において必要となる場合もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
小さい寸法で実現でき垂直偏波を有する無線信号を送信することが可能なアンテナの1つの型式として、表面一体型導波管(Surface Integrated Waveguide:SIW)アンテナがある。SIWアンテナの場合、他の回路と効率的に一体化することができる小型の導波管を形成するために、回路基板にプリントされた導電構造が用いられる。SIWアンテナは、例えば、M. Esquius-Morote他による「A Printed Transition for Matching Improvement of SIW Horn Antennas」、IEEE TRANSACTIONS ON ANTENNAS AND PROPAGATION、2013年4月、第61巻、第4号に記載されている。しかし、5Gセルラー無線技術など、高い周波数の利用を必要とする応用分野にとって、これらのSIWアンテナでは帯域幅が十分でないことがある。
【0004】
このため、好適な帯域幅を有する小型のアンテナが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によると、アンテナが提供される。アンテナは、多層回路基板の第1水平導電層と、多層回路基板の第2水平導電層と、第1導電層と第2導電層の間に延在する導電ビアにより形成される垂直側壁とによって形成される導波管を備える。さらに、アンテナは、導波管の一端に平行板共振器を備える。平行板共振器は、多層回路基板内に形成される。具体的には、平行板共振器は、第1導電層に隣接する第1水平導電板および第2導電層に隣接する第2水平導電板により形成される。さらに、アンテナは、第1導電板および第2導電板の一方から第1導電板および第2導電板の他方に向かって延在する少なくとも1つの導電ビアを備える。平行板共振器を用いて、アンテナの共振周波数をアンテナの所望の動作周波数範囲に適合させてもよい。第1導電板および/または第2導電板から延在する導電ビアを設けることにより、少なくとも8GHz、一般的には10GHz以上の帯域幅といった、アンテナの拡大された帯域幅の実現が可能となる。
【0006】
実施形態によると、アンテナは、第1導電板および第2導電板の一方から第1導電板および第2導電板の他方に向かって延在する複数の導電ビアを備える。具体的には、アンテナは、第1導電板から第2導電板に向かって延在する少なくとも1つの第1導電ビアと、第2導電板から第1導電板に向かって延在する少なくとも1つの第2導電ビアとを備える。平行板共振器の第1導電板および/または第2導電板から延在する複数の導電を用いることにより、アンテナの放射パターンを所望の形状に調整することができる。例えば、導波管の中心軸に対して対称である、第1導電板および/または第2導電板から延在する複数の導電ビアの配置を用いることにより、アンテナのほぼ対称な放射パターンを得ることができる。
【0007】
実施形態によると、平行板共振器の第1導電板および/または第2導電板から延在する少なくとも1つの導電ビアの垂直高さは、第1導電板と第2導電板の間の垂直距離に満たない。このため、少なくとも1つの導電ビアは、第1導電板と第2導電板の間に導電路を形成しない。これにより、平行板共振器の所望の共振特性を維持しつつ、アンテナの帯域幅を効率的に拡大することができる。
【0008】
実施形態によると、アンテナは追加平行板共振器を備える。追加平行板共振器は、平行板共振器の第1導電板に隣接する第1追加水平導電板および平行板共振器の第2導電板に隣接する第2追加水平導電板により、多層回路基板内に形成される。このため、縦続の平行板共振器が導波管の一端に形成されてもよい。複数の平行板共振器を縦続接続することにより、アンテナの帯域幅をさらに拡大することができる。
【0009】
また、実施形態によると、アンテナは、追加平行板共振器の第1追加導電板および第2追加導電板の一方から追加平行板共振器の第1追加導電板および第2追加導電板の他方に向かって延在する、少なくとも1つの導電ビアを備える。第1追加導電板および/または第2追加導電板から延在する導電ビアを設けることにより、アンテナのさらに拡大された帯域幅の実現、および/または帯域幅の所望の範囲への調整が可能となる。
【0010】
実施形態によると、アンテナは、追加平行板共振器の第1追加導電板および第2追加導電板の一方から追加平行板共振器の第1追加導電板および第2追加導電板の他方に向かって延在する、複数の導電ビアを備える。具体的には、アンテナは、第1追加導電板から第2追加導電板に向かって延在する少なくとも1つの第1導電ビアと、第2追加導電板から第1追加導電板に向かって延在する少なくとも1つの第2導電ビアとを備えてもよい。追加平行板共振器の第1追加導電板および/または第2追加導電板から延在する複数の導電ビアを用いることにより、アンテナの放射パターンを所望の形状に調整することができる。例えば、導波管の中心軸に対して対称である、第1追加導電板および/または第2追加導電板から延在する複数の導電ビアの配置を用いることにより、アンテナのほぼ対称な放射パターンを得ることができる。
【0011】
実施形態によると、追加平行板共振器の第1追加導電板および/または第2追加導電板から延在する少なくとも1つの導電ビアの垂直高さは、第1追加導電板と第2追加導電板の間の垂直距離に満たない。このため、少なくとも1つの導電ビアは、第1導電板と第2導電板の間に導電路を形成しない。これにより、追加平行板共振器の所望の共振特性を維持しつつ、アンテナの帯域幅を効率的に拡大することができる。
【0012】
実施形態によると、アンテナは、10GHz〜300GHzの範囲内の無線信号の周波数に対応する1mm超かつ3cm未満の波長を有する無線信号の送信用に構成される。
【0013】
さらなる実施形態によると、例えば、携帯電話、スマートフォン、または同様のユーザー装置の形態の通信装置が提供される。通信装置は、上記実施形態のいずれか1つに記載の少なくとも1つのアンテナを備える。さらに、通信装置は、少なくとも1つのアンテナを介して送信される通信信号を処理するように構成された少なくとも1つの処理装置を備える。また、通信装置は、アンテナの多層回路基板上に配置された無線フロントエンド回路を備えてもよい。
【0014】
以下に、添付の図面を参照しながら、本発明の上記およびさらなる実施形態について、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施形態によるアンテナを模式的に示す斜視図である。
【
図2A】
図2Aは、アンテナの平行板共振器のモノポール構造の効果を説明するための斜視図である。
【
図2B】
図2Bは、モノポール構造を有する平行板共振器と同等の回路を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、アンテナの周波数特性を説明するためのグラフである。
【
図4】
図4は、アンテナの放射パターンを説明するための図である。
【
図5】
図5は、平行板共振器が複数のモノポール構造を含むアンテナの変形例を模式的に示す斜視図である。
【
図6】
図6は、
図5のアンテナ変形例の放射パターンを説明するための図である。
【
図7】
図7は、縦続平行板共振器を有するアンテナの変形例を示す模式的断面図である。
【
図8】
図8は、
図7のアンテナ変形例の周波数特性を説明するためのグラフである。
【
図9】
図9は、それぞれが複数のモノポール構造を含む縦続平行板共振器を有するアンテナの変形例を模式的に示す斜視図である。
【
図10】
図10は、アンテナの平行板共振器の1つのプレートから延在する複数のモノポール構造を有するアンテナの変形例を模式的に示す斜視図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施形態による通信装置を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の例示的実施形態をより詳細に説明する。当然のことながら、以下の説明は、本発明の原理を説明する目的のためだけに示すものであり、限定する意味合いで解釈されるものではない。むしろ、本発明の範囲は、添付の請求の範囲によってのみ定義され、以下に説明する例示的実施形態によって限定されるものではない。
【0017】
以下に説明する実施形態は、特にcm/mmの波長範囲における短波長の無線信号の送信用アンテナに関する。以下に説明するアンテナおよびアンテナ装置を、例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレットコンピューターなどの通信装置において利用してもよい。
【0018】
以下に説明する概念では、多層回路基板はパッチアンテナを形成するために用いられる。多層回路基板は、垂直方向に積み重ねられた複数の層を有する。多層回路基板の複数の層は、導電性の細長片のパターンで個々に構成されてもよい。特に、多層回路基板の異なる層に形成された導電性の細長片は、異なる層の導電性の細長片間に延在する導電ビアによって互いに接続され、導波管および該導波管の出口端における少なくとも1つの平行板共振器を形成してもよい。
【0019】
さらに、パッチアンテナを無線フロントエンド回路に接続するために、多層回路基板の1つ以上の層を効率的に利用してもよい。具体的には、パッチアンテナの寸法を小さくし、かつパッチアンテナへの接続の長さを短くしてもよい。以下さらに詳細に説明するように、実施形態において、多層回路基板は、樹脂および繊維ベースの基板層の上にプリントされた構造化金属層を基材とするプリント回路基板(Printed Circuit Board:PCB)であることを前提とする。しかしながら、低温同時焼成セラミックス(Low Temperature Co-Fired Ceramic:LTCC)など、多層回路基板を形成するために他の多層回路実装技術を使うことも可能である。
【0020】
図1は、説明した概念に基づくアンテナ100を示す斜視図である。図示された例において、アンテナ100は、多層PCB110と、該多層PCB110に形成された導波管120とを備える。多層PCB110は、垂直方向に積み重ねられた複数のPCB層からなる。複数のPCB層は、例えば、それぞれ絶縁基板上の構造化金属被覆層に対応してもよい。導波管120は、PCB層の1つにおける第1導電層121とPCB層の別の1つにおける第2導電層122とで形成される。導波管120の側壁は、第1導電層121と第2導電層122の間に延在する導電ビア123、124により形成される。特に、導波管120の第1側壁は導電ビア123により形成され、導波管の反対側の第2側壁は導電ビア124により形成される。
図1では、第1導電層121がPCB110の最下層として、また第2導電層122がPCB110の最上層として示されているが、当然のことながら、第1導電層121および第2導電層122の少なくとも1つを、ある中間のPCB層に形成することも可能である。同様に、導電ビア123、124はPCB110の外側に隣接して形成されてなくてもよく、しかもPCB110のより中心にある領域に形成されることもあり得る。
【0021】
さらに図示されているように、アンテナ100は、導波管120の一端に配置された給電点130を備える。給電点130は、導波管120において伝播する電波の生成を可能にする。給電点130は、PCB層の1層以上における1つ以上の導電性の細長片および/または1つ以上の導電ビアで形成されてもよい。
【0022】
またさらに、アンテナ100は、導波管120の出口側、すなわち、給電点130に対する導波管120の反対側に形成された平行板共振器150を備える。平行板共振器150の構造を、
図1Bに示す断面図によってさらに説明する。
【0023】
図1Bに示すように、平行板共振器150は、導波管120の第1導電層121に隣接する第1導電板151と、導波管120の第2導電層122に隣接する第2導電板152とで形成される。図示された例では、平行板共振器150の第1導電板151が導波管120の第1導電層121と同じPCB層に形成され、平行板共振器150の第2導電板152が導波管120の第2導電層122と同じPCB層に形成される。平行板共振器150の第1導電板151および第2導電板152は、互いにかつ導波管120に、容量的かつ誘導的に結合される。
【0024】
さらに図示されているように、導電ビア155が、平行板共振器150の第1導電板151から平行板共振器150の第2導電板152に向かって延在する。図示された例では、導電ビア155は、第2導電板152までの全距離には延在していない。
図1Bにおいて、第1導電板151と第2導電板152の間の距離は、Hで表される。距離Hは、PCB110の厚さにほぼ対応していてもよく、また2〜4mmの範囲であってもよい。導電ビア155の垂直長さは、Hmで表され、距離Hよりも短く、例えば、1〜3mmである。このため、導電ビア155は、平行板共振器150の第1導電板151と平行板共振器150の第2導電板152の間に導電路を形成しない。しかしながら、導電ビア155は、第1導電板151と第2導電板152の誘導的かつ容量的結合を修正する。これについては、
図2Aおよび2Bを参照しながらさらに説明する。
【0025】
図2Aは、第1導電板151から第2導電板152に向かって延在する導電ビア155を有する平行板共振器150の斜視図である。一点鎖線は、導波管120の中心軸を表す。アンテナ100の動作時、電波が、導波管120の中心軸CAに沿って、平行板共振器150に電波がつながる箇所である導波管120の出口側に向かって、伝播する。点線の円で示すように、アンテナ100の動作時に、平行板共振器150内で磁流Mが発生する。点線の矢印でさらに示すように、例えば、導波管120内の電場によって、導電ビア155内に電流Jを励起することができる。そのため、アンテナ100の動作時に、導電ビア155は、受動的に入力されるモノポールアンテナと同様に作用してもよい。このため、導電ビア155および同様の構造は、以下で「モノポール構造」とも呼ばれる。電流Jの影響により磁流Mの影響が打ち消され、その結果、平行板共振器150の共振周波数範囲が広くなる。導電ビア155によって形成されたモノポール構造を有する平行板共振器150は、磁気効果と電気効果を組み合わせることでアンテナ100を所望の動作周波数範囲に適合させることができるので、モノポール構造を有する平行板共振器は、磁気電気的適合変換器と呼ばれることもある。
【0026】
図2Bは、平行板共振器150と同等の回路を示す図である。図示されているように、平行板共振器150の共振特性を、第1導電板151と第2導電板152の間の結合を表す静電容量Cp、抵抗Rp、およびインダクタンスLp、さらにモノポール構造を介した第1導電板151と第2導電板152の間の結合を表す静電容量Cm、抵抗Rm、およびインダクタンスLmによりモデル化してもよい。図から分かるように、平行板共振器150の総合特性は、静電容量Cp、抵抗Rp、およびインダクタンスLpを有する並列RLC回路と、静電容量Cm、抵抗Rm、およびインダクタンスLmを有する直列RLC回路とによって決定される。
【0027】
図3は、導電ビア155により形成されるモノポール構造を含む磁気電気的適合変換器の効果を説明するための例示的周波数特性のグラフである。
図3において、モノポール構造を有する平行板共振器150を備えたアンテナ100の周波数特性は、Aで表される。アンテナ100と同様だがモノポール構造を含まない比較アンテナの周波数特性は、Bで表される。平行板共振器を備えていないさらなる比較アンテナの周波数特性は、Cで表される。グラフから分かるように、モノポール構造を含むアンテナ100の共振周波数範囲は、モノポール構造を持たない比較アンテナの場合よりも、非常に広い。−10dBにおける帯域幅を測定すると、比較アンテナでは帯域幅が約4GHzであるのに対して、アンテナ100では約10GHzの帯域幅が得られる。平行板共振器を持たない比較アンテナの場合、観察された周波数範囲において共振特性がない。
【0028】
図4は、垂直方向から測定した方位角θの関数として、アンテナ100の放射パターンを示した図である。
図4において、垂直方向はθ=0°に対応する。図から分かるように、アンテナ100は、アンテナ100の水平面に対して対称ではない放射パターンを有する。これは、モノポール構造が平行板共振器150の第1導電板151上だけに対称に形成されているためと考えられる。放射パターンがこのように非対称となるのを防ぐために、平行板共振器150は、対称に配置された複数のモノポール構造を含むように改良されてもよい。
図5は、アンテナ100の対応する変形例を示す図である。
【0029】
図5の例では、平行板共振器150は、平行板共振器150の第1導電板151から平行板共振器150の第2導電板152に向かって延在する第1導電ビア155と、平行板共振器150の第2導電板152から平行板共振器150の第1導電板151に向かって延在する第2導電ビア156とを備える。図示されているように、第1導電ビア155および第2導電ビア156は、導波管120の中心軸CAに対して回転対称である配置となるように形成される。具体的には、第1導電ビア155および第2導電ビア156を導波管120の中心軸CAの周りに180°回転させると、第1導電ビア155は第2導電ビア156の元の位置に着き、第2導電ビア156は第1導電ビア155の元の位置に着くことになる。
図6は、
図5に示されるような改良型平行板共振器150を用いたときのアンテナ100の放射パターンを示す図である。図から分かるように、第1導電ビア155および第2導電ビア156の対称配置により、アンテナ100の放射パターンが非対称となるのを防ぐことができる。
【0030】
図7の模式的断面図によって示されるような、さらなる変形例によると、アンテナ100の磁気電気的適合変換器は、付加的平行板共振器160をさらに備えてもよい。
図7に示すように、付加的平行板共振器160は、平行板共振器150の第1導電板151に隣接する第1導電板161と、平行板共振器150の第2導電板152に隣接する第2導電板162とで形成される。図示された例では、付加的平行板共振器160の第1導電板161は、平行板共振器150の第1導電板151および導波管120の第1導電層121と同じPCB層に形成される。同様に、付加的平行板共振器160の第2導電板162は、平行板共振器150の第2導電板152および導波管120の第2導電層122と同じPCB層に形成される。付加的平行板共振器160の第1導電板161および第2導電板162は、互いにかつ平行板共振器150の導電板151、152に、容量的かつ誘導的に結合される。このため、平行板共振器150および付加的平行板共振器160は、導波管120の出口端に複数の縦続平行板共振器150、160の構造を形成する。縦続平行板共振器150、160により、アンテナ100の帯域幅がさらに拡大される。
【0031】
図8は、縦続平行板共振器150、160の効果を説明するための例示的周波数特性のグラフである。
図8において、縦続平行板共振器150、160を備えたアンテナ100の周波数特性は、Dで表される。比較のため、
図8では、平行板共振器150だけで付加的平行板共振器160は備えない場合のアンテナ100の周波数特性も、
図3と同じくAで表す。グラフから分かるように、縦続平行板共振器150、160を備えるアンテナ100の共振周波数範囲は、平行板共振器150だけの場合よりも、非常に広い。−10dBにおける帯域幅を測定すると、縦続平行板共振器150、160を備えるアンテナ100では約16GHzの帯域幅が得られ、5Gセルラー無線技術に用いられる予定の多くの周波数帯をカバーしている。
【0032】
なお、
図7の例において平行板共振器150にのみモノポール構造が設けられているが、導波管120の出口端における複数の縦続平行板共振器のそれぞれに、1つ以上のモノポール構造を設けることも可能である。そのような追加のモノポール構造により、アンテナの帯域幅のさらなる拡大および/または帯域幅の所望の周波数範囲への調整が可能になる。アンテナ100の対応する変形例を
図9に示す。
【0033】
図9の例では、縦続平行板共振器150、160は、
図7の例と同様の構成を有する。しかしながら、この場合も、付加的平行板共振器160にはモノポール構造が設けられ、該モノポール構造は、付加的平行板共振器160の第1導電板161から付加的平行板共振器160の第2導電板162に向かって延在する第1導電ビア165と、付加的平行板共振器160の第2導電板162から付加的平行板共振器160の第1導電板161に向かって延在する第2導電ビア166とで形成されている。第1導電ビア155および第2導電ビア156と同様に、付加的平行板共振器160の第1導電ビア165および第2導電ビア166は、導波管120の中心軸CAに対して回転対称である配置となるように形成される。具体的には、第1導電ビア165および第2導電ビア166を導波管120の中心軸CAの周りに180°回転させると、第1導電ビア165は第2導電ビア166の元の位置に着き、第2導電ビア166は第1導電ビア165の元の位置に着くことになる。この第1導電ビア165および第2導電ビア166の対称配置により、アンテナ100の放射パターンが非対称となるのを防ぐことができる。
【0034】
上記例において、平行板共振器150、160の導電板151、152、161、162それぞれに1つだけのモノポール構造があるとしたが、磁気電気的適合変換器が平行板共振器の同じ導電板上に配置された複数のモノポール構造を含むことも可能である。すなわち、アンテナ100の変形例において、平行板共振器150は、第1導電板151から第2導電板152に向かって延在する複数の導電ビアにより形成された複数のモノポール構造および/または第2導電板152から第1導電板151に向かって延在する複数の導電ビアにより形成された複数のモノポール構造を含み得る。同様に、付加的平行板共振器160は、第1導電板161から第2導電板162に向かって延在する複数の導電ビアにより形成された複数のモノポール構造および/または第2導電板162から第1導電板161に向かって延在する複数の導電ビアにより形成された複数のモノポール構造を含み得る。アンテナ100の対応する変形例を
図10に示す。
【0035】
図10の例では、平行板共振器150は、
図1A、1B、および2Aに示された図と同じ構成を有する。しかし、この場合、平行板共振器150には、平行板共振器160の第1導電板151から平行板共振器160の第2導電板152に向かって延在する複数の導電ビア155により形成された複数のモノポール構造が設けられている。図示されているように、複数の導電ビア155は、平行板共振器150の幅方向Wに沿って等間隔に配置されている。さらに、複数の導電ビア155の配置は、導波管120の中心軸CAを通る垂直面に対して鏡面対称である。この第1導電ビア165および第2導電ビア166の対称配置により、幅方向Wに沿ってより均一かつ水平面において導波管120の中心軸CAに対して対称なアンテナ100の放射パターンを得ることができる。
【0036】
上記例において、アンテナ100の製造方法は、多層回路基板の第1水平導電層と、多層回路基板の第2水平導電層と、第1導電層と第2導電層の間に延在する複数の導電ビアにより形成される垂直側壁とによって形成される導波管を設ける工程を含んでもよい。さらに、この方法は、第1導電層に隣接する第1水平導電板および第2導電層に隣接する第2水平導電板により多層回路基板に形成される平行板共振器を、導波管の一端に設ける工程を含んでもよい。さらに、この方法は、第1導電板および第2導電板の一方から第1導電板および第2導電板の他方に向かって延在する少なくとも1つの導電ビアを設ける工程を含んでもよい。このため、アンテナ100を、多層回路基板にパターン化された導電構造を設けることにより効率的に形成してもよい。
【0037】
図11は、上述のようなアンテナが設けられた、例えばアンテナ100を有する、通信装置200を模式的に示した図である。通信装置200は、例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレットコンピューターなどの小型ユーザー装置に該当してもよい。しかし、当然のことながら、車両設置型通信装置、無線モデム、または自律センサなど、他の種類の通信装置も同様に用いてもよい。
【0038】
図示されているように、通信装置200は1つ以上のアンテナ210を備える。これらのアンテナ210は、導波管と、平行板共振器を含み平行板共振器の少なくとも1つの導電板上に少なくともモノポール構造を有する磁気電気的適合変換器とを有する、上記タイプの少なくとも1つのアンテナを含む。例えば、アンテナ210は、上記アンテナ100に対応する1つ以上のアンテナを含んでもよい。さらに、通信装置200は、他の種類のアンテナも備えてもよい。アンテナ210は、上記多層PCB110などの多層回路基板230上の無線フロントエンド回路220と一体化されてもよい。さらに図示されているように、通信装置200は1つ以上の通信処理装置240も備える。通信処理装置240は、アンテナ210を介した送信用の通信信号を生成したり処理したりしてもよい。この目的のために、通信処理装置240は、5Gセルラー無線技術に従うなど、1つ以上の通信プロトコルに従って、さまざまな種類の信号処理およびデータ処理を実行してもよい。
【0039】
当然のことながら、上述したような概念はさまざまな変更が可能である。例えば、上記概念を、5G技術に限らず、さまざまな種類の無線技術や通信装置に適用することも可能である。むしろ、上記概念は、さまざまな周波数範囲において、さまざまなアンテナ帯域幅を用いて適用可能である。説明されたアンテナは、通信装置からの無線信号の送信用および/または通信装置における無線信号の受信用に使用してもよい。上記アンテナは、例えば、さまざまなPCB技術を用いて導電層、プレート、およびビアを設けることにより、効率的に製造されてもよい。さらに、当然のことながら、説明されたアンテナに、アンテナの形状に関するさまざまな変更を行ってもよい。例えば、説明された導波管のほぼ長方形の形状を、角状などのより複雑な形状に変更することも可能である。さらに、上記概念は、対称な構成のモノポール構造の説明された例に限定されない。