特許第6972305号(P6972305)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6972305駆動装置、駆動方法、駆動プログラムおよび電動車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972305
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】駆動装置、駆動方法、駆動プログラムおよび電動車両
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/17 20160101AFI20211111BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   H02P6/17
   H02P27/08
【請求項の数】15
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2020-510290(P2020-510290)
(86)(22)【出願日】2018年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2018012745
(87)【国際公開番号】WO2019186757
(87)【国際公開日】20191003
【審査請求日】2020年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137523
【弁理士】
【氏名又は名称】出口 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】目黒 一由希
(72)【発明者】
【氏名】井ノ口 雄大
【審査官】 佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−179833(JP,A)
【文献】 特開2007−330037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/00−6/34
H02P 27/08
G01P 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷を駆動するモータが一回転する間に回転位置センサから複数出力される信号であり且つ前記モータの回転速度に応じた間隔で到来する信号を受信する信号受信部と、
前記信号受信部により直近に受信された第1の信号の受信時刻と当該第1の信号の前に受信された第2の信号の受信時刻との間の信号間隔に基づいて、前記モータの瞬時回転速度を算出する回転速度算出部と、
前記瞬時回転速度に基づいてPWM信号を生成し、前記PWM信号を前記モータに交流電力を供給する電力変換部に送信して前記モータを制御するモータ制御部と、を備え、
前記モータ制御部は、前記瞬時回転速度の変化量が規定値以上の場合、前記瞬時回転速度に基づいて、前記PWM信号のデューティ比を、前記電力変換部の出力電圧が前記瞬時回転速度に応じた値になるように補正することを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記モータ制御部は、前記瞬時回転速度と補正されたデューティ比との関係を示す特性直線を用いた線形補間により前記デューティ比を補正することを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記線形補間は、前記瞬時回転速度が算出されるたびに行われることを特徴とする請求項2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記特性直線は、
前記モータが一回転する時間から算出される平均回転速度を中心とした回転速度範囲の下限値と、前記下限値に対応するデューティ比とで規定される第1の点と、
前記回転速度範囲の上限値と、前記上限値に対応するデューティ比とで規定される第2の点と、を結ぶ直線であることを特徴とする請求項2に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記回転速度範囲は、前記モータの瞬時回転速度の変動幅を考慮して定められたものであることを特徴とする請求項4に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記特性直線は、前記平均回転速度が算出されるたびに更新されることを特徴とする請求項4に記載の駆動装置。
【請求項7】
前記回転速度算出部は、前記第2の信号が受信されてから前記第1の信号が受信されるまで間モニタ時間間隔ごとにカウントされたカウント数に、前記モニタ時間間隔を乗じることにより前記信号間隔を算出することを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項8】
前記回転速度算出部は、前記第2の信号が前記第1の信号の一つ前に受信された信号である場合、下式により前記瞬時回転速度を算出することを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
n = 60000/(ΔT×Np)
ここで、nは前記瞬時回転速度[rpm]であり、ΔTは前記信号間隔[mSec]であり、Npは前記モータが電気角で一回転する間に前記信号受信部が受信する前記信号の数を示す値である。
【請求項9】
前記モータ制御部は、前記モータの目標トルクと、前記モータの回転速度と、前記PWM信号のデューティ比との関係を示すデューティ比マップを、前記モータの目標トルクおよび前記瞬時回転速度を用いて検索することによりデューティ比を取得することを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項10】
前記負荷は、電動車両の車輪であり、
前記モータ制御部は、前記モータが前記車輪を直接駆動する場合において、前記電動車両の始動時に前記PWM信号のデューティ比を徐々に上昇させることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項11】
前記信号受信部が受信する前記信号は、前記モータに設けられた回転位置センサから出力されたパルス信号の立ち上がりエッジ信号または立ち下がりエッジ信号であることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項12】
請求項1に記載の駆動装置であって、前記負荷が電動車両の車輪である、駆動装置を備えることを特徴とする電動車両。
【請求項13】
前記車輪と前記モータがクラッチを介さずに機械的に接続されていることを特徴とする請求項12に記載の電動車両。
【請求項14】
信号受信部が、負荷を駆動するモータが一回転する間に回転位置センサから複数出力される信号であり且つ前記モータの回転速度に応じた間隔で到来する信号を受信するステップと、
回転速度算出部が、前記信号受信部により直近に受信された第1の信号の受信時刻と当該第1の信号の前に受信された第2の信号の受信時刻との間の信号間隔に基づいて、前記モータの瞬時回転速度を算出するステップと、
モータ制御部が、前記瞬時回転速度に基づいてPWM信号を生成し、前記PWM信号を前記モータに交流電力を供給する電力変換部に送信して前記モータを制御するステップと、を備え、
前記モータ制御部は、前記瞬時回転速度の変化量が規定値以上の場合、前記瞬時回転速度に基づいて、前記PWM信号のデューティ比を、前記電力変換部の出力電圧が前記瞬時回転速度に応じた値になるように補正することを特徴とする駆動方法。
【請求項15】
信号受信部が、負荷を駆動するモータが一回転する間に回転位置センサから複数出力される信号であり且つ前記モータの回転速度に応じた間隔で到来する信号を受信するステップと、
回転速度算出部が、前記信号受信部により直近に受信された第1の信号の受信時刻と当該第1の信号の前に受信された第2の信号の受信時刻との間の信号間隔に基づいて、前記モータの瞬時回転速度を算出するステップと、
モータ制御部が、前記瞬時回転速度に基づいてPWM信号を生成し、前記PWM信号を前記モータに交流電力を供給する電力変換部に送信して前記モータを制御するステップと、をコンピュータに実行させる駆動プログラムであって、
前記モータ制御部は、前記瞬時回転速度の変化量が規定値以上の場合、前記瞬時回転速度に基づいて、前記PWM信号のデューティ比を、前記電力変換部の出力電圧が前記瞬時回転速度に応じた値になるように補正することを特徴とする駆動プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置、駆動方法、駆動プログラムおよび電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
二輪EV等の電動車両は、車輪を駆動するためのモータと、モータを制御する制御部を有する駆動装置とを備えている。電動車両では、ギヤ固定の場合でも低回転域から高回転域にわたって所要のトルクを得ることが可能である。このため、クラッチを設けない電動車両が検討されている。このようなクラッチレスの電動車両の場合、モータは、従来の電動車両ではクラッチにより遮断されていた車輪からの外力を直接受けることになる。
【0003】
なお、特許文献1には、エンジンの回転数を制御するとともに、スロットルバルブを開閉駆動するモータをPWM制御するエンジン回転数制御装置が記載されている。また、目標エンジン回転数変化量に応じて、PWM信号のデューティ比を補正するためのPWMデューティ補正値を算出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−207416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電動車両のモータのステータには、ロータの回転位置を検出するための回転位置センサが設けられる。駆動装置の制御部は、回転位置センサから、所定の電気角ごとに立ち上がりエッジ信号または立ち下がりエッジ信号(以下、まとめて「センサ信号」ともいう。)を受信する。このセンサ信号に基づいて制御部はモータの回転速度を把握し、モータの制御を行う。
【0006】
上記のようにクラッチレスの電動車両においては、路面状態等に応じた外力がモータに直接加わることになる。このため、モータの回転速度が路面状態に応じて瞬時的に変動することがある。このような回転速度の瞬時的な変動に対してインバータの出力は追随できないことから、モータの出力トルクが目標値から外れてしまうおそれがある。これについて、以下、図14を参照して具体的に説明する。
【0007】
図14に示すように、モータの瞬時回転速度が低下した場合、モータの回転により誘起される電圧(モータ誘起電圧)は電圧Vaだけ瞬時的に小さくなる。一方、モータ誘起電圧が低下している間、モータに交流電力を供給するインバータの出力は一定のままである。このため、インバータの出力電圧とモータ誘起電圧との電圧差はV0からVb(=V0+Va)に拡大する。ここで、電圧差V0は、目標トルクが得られるように設定される値である。電圧差が拡大する結果、目標トルクを得るために必要な電流よりも大きい電流がモータに供給されてしまい、モータは目標トルクよりも大きなトルクを出力することとなる。
【0008】
一方、回転速度が瞬時的に上昇した場合、モータ誘起電圧は瞬時的に大きくなる一方、インバータの出力が一定のままなので、図14に示すように、インバータの出力電圧とモータ誘起電圧との差はVbからVcに縮小する。その結果、目標トルクを得るために必要な電流よりも小さい電流しかモータに供給されず、モータの出力トルクが過小となってしまう。
【0009】
上記のようにモータ回転速度の瞬時的な変動により、モータの出力トルクが目標トルクに対して変動するため、適切なモータ制御を行うことが困難であるという課題があった。
【0010】
そこで、本発明は、モータの回転速度が外力により瞬時的に変動した場合でも、適切なモータ制御を行うことが可能な駆動装置、電動車両制御方法、電動車両制御プログラムおよび電動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る駆動装置は、
負荷を駆動するモータが一回転する間に回転位置センサから複数出力される信号であり且つ前記モータの回転速度に応じた間隔で到来する信号を受信する信号受信部と、
前記信号受信部により直近に受信された第1の信号の受信時刻と当該第1の信号の前に受信された第2の信号の受信時刻との間の信号間隔に基づいて、前記モータの瞬時回転速度を算出する回転速度算出部と、
前記瞬時回転速度に基づいてPWM信号を生成し、前記PWM信号を前記モータに交流電力を供給するインバータに送信して前記モータを制御するモータ制御部と、を備え、
前記モータ制御部は、前記瞬時回転速度の変化量が規定値以上の場合、前記瞬時回転速度に基づいて、前記PWM信号のデューティ比を、前記インバータの出力電圧が前記瞬時回転速度に応じた値になるように補正することを特徴とする。
【0012】
また、前記駆動装置において、
前記モータ制御部は、前記瞬時回転速度と補正されたデューティ比との関係を示す特性直線を用いた線形補間により前記デューティ比を補正するようにしてもよい。
【0013】
また、前記駆動装置において、
前記線形補間は、前記瞬時回転速度が算出されるたびに行われるようにしてもよい。
【0014】
また、前記駆動装置において、
前記特性直線は、
前記モータが一回転する時間から算出される平均回転速度を中心とした回転速度範囲の下限値と、前記下限値に対応するデューティ比とで規定される第1の点と、
前記回転速度範囲の上限値と、前記上限値に対応するデューティ比とで規定される第2の点と、を結ぶ直線であるようにしてもよい。
【0015】
また、前記駆動装置において、
前記回転速度範囲は、前記モータの瞬時回転速度の変動幅を考慮して定められたものであるようにしてもよい。
【0016】
また、前記駆動装置において、
前記特性直線は、前記平均回転速度が算出されるたびに更新されるようにしてもよい。
【0017】
また、前記駆動装置において、
前記回転速度算出部は、前記第2の信号が受信されてから前記第1の信号が受信されるまで間モニタ時間間隔ごとにカウントされたカウント数に、前記モニタ時間間隔を乗じることにより前記信号間隔を算出するようにしてもよい。
【0018】
また、前記駆動装置において、
前記回転速度算出部は、前記第2の信号が前記第1の信号の一つ前に受信された信号である場合、下式により前記瞬時回転速度を算出するようにしてもよい。
n = 60000/(ΔT×Np)
ここで、nは前記瞬時回転速度[rpm]であり、ΔTは前記信号間隔[mSec]であり、Npは前記モータが電気角で一回転する間に前記信号受信部が受信する前記信号の数を示す値である。
【0019】
また、前記駆動装置において、
前記モータ制御部は、前記モータの目標トルクと、前記モータの回転速度と、前記PWM信号のデューティ比との関係を示すデューティ比マップを、前記モータの目標トルクおよび前記瞬時回転速度を用いて検索することによりデューティ比を取得するようにしてもよい。
【0020】
また、前記駆動装置において、
前記負荷は、電動車両の車輪であり、
前記モータ制御部は、前記モータが前記車輪を直接駆動する場合において、前記電動車両の始動時に前記PWM信号のデューティ比を徐々に上昇させるようにしてもよい。
【0021】
また、前記駆動装置において、
前記信号受信部が受信する前記信号は、前記モータに設けられた回転位置センサから出力されたパルス信号の立ち上がりエッジ信号または立ち下がりエッジ信号であるようにしてもよい。
【0022】
本発明に係る電動車両は、
前記駆動装置であって、前記負荷が電動車両の車輪である、駆動装置を備えることを特徴とする。
【0023】
また、前記電動車両において、
前記車輪と前記モータがクラッチを介さずに機械的に接続されていてもよい。
【0024】
本発明に係る駆動方法は、
信号受信部が、負荷を駆動するモータが一回転する間に回転位置センサから複数出力される信号であり且つ前記モータの回転速度に応じた間隔で到来する信号を受信するステップと、
回転速度算出部が、前記信号受信部により直近に受信された第1の信号の受信時刻と当該第1の信号の前に受信された第2の信号の受信時刻との間の信号間隔に基づいて、前記モータの瞬時回転速度を算出するステップと、
モータ制御部が、前記瞬時回転速度に基づいてPWM信号を生成し、前記PWM信号を前記モータに交流電力を供給するインバータに送信して前記モータを制御するステップと、を備え、
前記モータ制御部は、前記瞬時回転速度の変化量が規定値以上の場合、前記瞬時回転速度に基づいて、前記PWM信号のデューティ比を、前記インバータの出力電圧が前記瞬時回転速度に応じた値になるように補正することを特徴とする。
【0025】
本発明に係る駆動プログラムは、
信号受信部が、負荷を駆動するモータが一回転する間に回転位置センサから複数出力される信号であり且つ前記モータの回転速度に応じた間隔で到来する信号を受信するステップと、
回転速度算出部が、前記信号受信部により直近に受信された第1の信号の受信時刻と当該第1の信号の前に受信された第2の信号の受信時刻との間の信号間隔に基づいて、前記モータの瞬時回転速度を算出するステップと、
モータ制御部が、前記瞬時回転速度に基づいてPWM信号を生成し、前記PWM信号を前記モータに交流電力を供給するインバータに送信して前記モータを制御するステップと、をコンピュータに実行させる駆動プログラムであって、
前記モータ制御部は、前記瞬時回転速度の変化量が規定値以上の場合、前記瞬時回転速度に基づいて、前記PWM信号のデューティ比を、前記インバータの出力電圧が前記瞬時回転速度に応じた値になるように補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、信号受信部が、モータが一回転する間に回転位置センサから複数出力される信号であり且つモータの回転速度に応じた間隔で到来する信号を受信し、回転速度算出部が、第1の信号と第2の信号との間の信号間隔に基づいてモータの瞬時回転速度を算出し、モータ制御部が、算出された瞬時回転速度の変化量が規定値以上の場合、瞬時回転速度に基づいてPWM信号のデューティ比を補正する。デューティ比は、電力変換部の出力電圧が瞬時回転速度に応じた値になるように補正される。これにより、本発明によれば、路面状態等に応じてモータに加わる外力によりモータの回転速度が瞬時的に変動した場合でも、モータの出力トルクの変動を抑制し、適切なモータ制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係る電動車両100の概略的構成を示す図である。
図2】電力変換部30およびモータ3の概略的構成を示す図である。
図3】モータ3のロータ3rに設けられた磁石と、アングルセンサ4を示す図である。
図4】ロータアングルと、アングルセンサの出力との関係を示す図である。
図5】実施形態に係るPWM制御を説明するためのタイミングチャートである。
図6】電動車両制御装置1の制御部10の機能ブロック図である。
図7】センサ信号とカウント数の関係等を説明するための図である。
図8】PWM信号のデューティ比や出力角度の算出処理を説明するための図である。
図9】(a)はトルクマップの構成を示し、(b)はデューティ比マップの構成を示し、(c)は出力角度マップの構成を示す図である。
図10】本実施形態に係るインバータの出力電圧の時間変化を説明するための図である。
図11】線形補間によるデューティ比の瞬時的な補正を説明するための図である。
図12】実施形態に係る電動車両制御方法の一例を説明するためのフローチャートである。
図13】ダイレクト駆動の場合におけるデューティ比の時間変化を示すグラフである。
図14】従来技術の課題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態では、本発明に係る駆動装置の一実施形態として、電動車両を駆動制御する電動車両制御装置について説明する。なお、本発明に係る駆動装置は、電動車両の車輪以外の負荷を駆動するものであってもよい。
【0029】
まず、図1を参照して、実施形態に係る電動車両100について説明する。
【0030】
電動車両100は、バッテリから供給される電力を用いてモータを駆動することで走行する車両である。本実施形態では、電動車両100は、電動バイク等の電動二輪車であり、より詳しくは、図1に示すように、モータ3と車輪8がクラッチを介さずに機械的に直接接続された電動二輪車である。なお、本発明に係る電動車両は、モータ3と車輪8がクラッチを介して接続された車両であってもよい。また、二輪車に限定されるものではなく、例えば三輪または四輪の電動車両であってもよい。
【0031】
電動車両100は、図1に示すように、電動車両制御装置1と、バッテリ2と、モータ3と、アングルセンサ(回転位置センサ)4と、アクセルポジションセンサ5と、アシストスイッチ6と、メータ(表示部)7と、車輪8と、充電器9と、を備えている。
【0032】
以下、電動車両100の各構成要素について詳しく説明する。
【0033】
電動車両制御装置1は、電動車両100を制御する装置であり、制御部10と、記憶部20と、電力変換部(ドライバ)30とを有している。なお、電動車両制御装置1は、電動車両100全体を統御するECU(Electronic Control Unit)として構成されてもよい。
【0034】
次に、電動車両制御装置1の各構成要素について詳しく説明する。
【0035】
制御部10は、電動車両制御装置1に接続された各種装置から情報を入力する。具体的には、制御部10は、バッテリ2、アングルセンサ(回転位置センサ)4、アクセルポジションセンサ5、アシストスイッチ6、充電器9から出力される各種信号を受信する。制御部10は、メータ7に表示する信号を出力する。また、制御部10は、電力変換部30を介してモータ3を制御する。制御部10の詳細については後述する。
【0036】
記憶部20は、制御部10が用いる情報(後述の各種マップなど)や、制御部10が動作するためのプログラムを記憶する。この記憶部20は、例えば不揮発性の半導体メモリであるが、これに限定されない。なお、記憶部20は制御部10の一部として組み込まれていてもよい。
【0037】
電力変換部30は、バッテリ2から出力される直流電力を交流電力に変換してモータ3に供給する。本実施形態では、電力変換部30は、図2に示すように、3相のフルブリッジ回路で構成されたインバータを有する。半導体スイッチQ1,Q3,Q5はハイサイドスイッチであり、半導体スイッチQ2,Q4,Q6はローサイドスイッチである。半導体スイッチQ1〜Q6の制御端子は、制御部10に電気的に接続されている。半導体スイッチQ1〜Q6は、例えばMOSFETまたはIGBT等である。
【0038】
図2に示すように、電源端子30aと電源端子30bとの間には平滑コンデンサCが設けられている。
【0039】
入力端子3aはモータ3のU相の入力端子であり、入力端子3bはモータ3のV相の入力端子であり、入力端子3cはモータ3のW相の入力端子である。
【0040】
半導体スイッチQ1は、図2に示すように、バッテリ2の正極が接続された電源端子30aと、モータ3の入力端子3aとの間に接続されている。同様に、半導体スイッチQ3は、電源端子30aと、モータ3の入力端子3bとの間に接続されている。半導体スイッチQ5は、電源端子30aと、モータ3の入力端子3cとの間に接続されている。
【0041】
半導体スイッチQ2は、モータ3の入力端子3aと、バッテリ2の負極が接続された電源端子30bとの間に接続されている。同様に、半導体スイッチQ4は、モータ3の入力端子3bと、電源端子30bとの間に接続されている。半導体スイッチQ6は、モータ3の入力端子3cと、電源端子30bとの間に接続されている。
【0042】
バッテリ2は、電動車両100の車輪8を回転させるモータ3に電力を供給する。このバッテリ2は電力変換部30に直流電力を供給する。バッテリ2は、例えばリチウムイオン電池であるが、他の種類のバッテリであってもよい。なお、バッテリ2の数は一つに限らず、複数であってもよい。すなわち、電動車両100には、互いに並列または直列に接続された複数のバッテリ2が設けられてもよい。また、バッテリ2には、制御部10に動作電圧を供給するための鉛電池が含まれてもよい。
【0043】
バッテリ2は、バッテリ管理ユニット(BMU)を含む。バッテリ管理ユニットは、バッテリ2の電圧やバッテリ2の状態(充電率等)に関するバッテリ情報を制御部10に送信する。
【0044】
モータ3は、電力変換部30から供給される交流電力により、車輪8等の負荷を駆動するモータである。本実施形態では、モータ3は、車輪8に機械的に接続されており、所望の方向に車輪8を回転させる。モータ3は、U相、V相およびW相を有する三相交流モータである。前述のように、モータ3は、クラッチを介さずに車輪8に機械的に直接接続されている。なお、本実施形態では三相交流モータとして三相ブラシレスモータを使用するが、モータ3の種類はこれに限定されない。
【0045】
アングルセンサ4は、モータ3のロータ3rの回転位置を検出するセンサである。図3に示すように、ロータ3rの周面には、N極とS極の磁石(センサマグネット)が交互に取り付けられている。アングルセンサ4は、例えばホール素子により構成されており、モータ3の回転に伴う磁場の変化を検出する。なお、図3に示す磁石の数は一例であってこれに限られない。また、磁石はフライホイール(図示せず)の内側に設けられてもよい。
【0046】
図3に示すように、アングルセンサ4は、モータ3のU相に対応付けられたU相アングルセンサ4uと、モータ3のV相に対応付けられたV相アングルセンサ4vと、モータ3のW相に対応付けられたW相アングルセンサ4wとを有している。各相のアングルセンサ4u,4v,4wは、モータ3に設けられている。本実施形態では、U相アングルセンサ4uとV相アングルセンサ4vとはロータ3rに対して30°の角度をなすように配置されている。同様に、V相アングルセンサ4vとW相アングルセンサ4wとはモータ3のロータ3rに対して30°の角度をなすように配置されている。
【0047】
図4に示すように、U相アングルセンサ4u、V相アングルセンサ4vおよびW相アングルセンサ4wは、ロータ3rの回転位置に応じた位相のパルス信号を出力する。このパルス信号の幅(あるいは、センサ信号の時間間隔)は、モータ3(すなわち、車輪8)の回転速度が高いほど狭くなる。
【0048】
図4に示すように、所定の回転位置ごとに、モータステージを示す番号(モータステージ番号)が割り振られている。モータステージはロータ3rの回転位置を示しており、本実施形態では、電気角60°ごとにモータステージ番号1,2,3,4,5,6が割り振られている。
【0049】
出力ステージは、通電ステージとも呼ばれ、アングルセンサ4により検出されたモータステージに、出力角度に基づく時間を加えたものである。出力角度は、後述のように、モータ3の回転速度や目標トルクに応じて変化する。
【0050】
制御部10は、PWM信号を用いて、電力変換部30の半導体スイッチQ1〜Q6をオンオフ制御する。これにより、バッテリ2から供給される直流電力が交流電力に変換される。本実施形態では、図5に示すように、U相ローサイドスイッチ(半導体スイッチQ2)は、出力ステージ6,1,2,3においてPWM制御される。V相ローサイドスイッチ(半導体スイッチQ4)は、出力ステージ2,3,4,5においてPWM制御され、W相ローサイドスイッチ(半導体スイッチQ6)は、出力ステージ4,5,6,1においてPWM制御される。なお、PWM制御が行われるステージは、通電方式等により決まるもので、この例に限られない。
【0051】
上記のようにハイサイドスイッチではなく、ローサイドスイッチをオンオフ制御することにより、モータ3の回生動作により発生した電流がバッテリ2に流入することが回避できる。なお、バッテリ2への回生電流の流入が許容される場合には、ハイサイドスイッチをオンオフ制御してもよい。
【0052】
図5に示すように、ハイサイドスイッチもオンになるタイミングがある。例えば、U相ハイサイドスイッチである半導体スイッチQ1は出力ステージ1,2において所定の時間間隔でオン制御される。このようにハイサイドスイッチをオン制御することによって電力変換部30の発熱を抑制することができる。なお、電流ショートを防止するため、ハイサイドスイッチがオンに制御されるとき、対応する(すなわち、同じアームの)ローサイドスイッチはオフに制御される。
【0053】
アクセルポジションセンサ5は、電動車両100のアクセルに対する操作量(以下、「アクセル操作量」という。)を検知し、電気信号として制御部10に送信する。アクセル操作量は、エンジン車のスロットル開度に相当する。ユーザが加速したい場合にアクセル操作量は大きくなり、ユーザが減速したい場合にアクセル操作量は小さくなる。
【0054】
アシストスイッチ6は、ユーザが電動車両100のアシストを要求する際に操作されるスイッチである。アシストスイッチ6は、ユーザにより操作されると、アシスト要求信号を制御部10に送信する。そして、制御部10は、モータ3を制御して、アシストトルクを発生させる。
【0055】
メータ(表示部)7は、電動車両100に設けられたディスプレイ(例えば液晶パネル)であり、各種情報を表示する。メータ7は、例えば、電動車両100のハンドル(図示せず)に設けられる。メータ7には、電動車両100の走行速度、バッテリ2の残量、現在時刻、総走行距離、および残走行距離などの情報が表示される。残走行距離は、電動車両100があとどれくらいの距離を走行できるのかを示す。
【0056】
充電器9は、電源プラグ(図示せず)と、この電源プラグを介して供給される交流電源を直流電源に変換するコンバータ回路(図示せず)とを有する。コンバータ回路で変換された直流電力によりバッテリ2は充電される。充電器9は、例えば、電動車両100内の通信ネットワーク(CAN等)を介して電動車両制御装置1に通信可能に接続されている。
【0057】
次に、電動車両制御装置1の制御部10について詳しく説明する。
【0058】
図6に示すように、制御部10は、信号受信部11と、回転速度算出部12と、モータ制御部13とを有している。なお、制御部10の各部における処理は、ソフトウェア(プログラム)により実現することが可能である。
【0059】
信号受信部11は、モータ3の回転速度に応じた間隔で到来する信号を受信する。信号は、モータ3が一回転する間にアングルセンサ4から複数出力される。より詳しくは、信号受信部11は、U相アングルセンサ4u、V相アングルセンサ4vおよびW相アングルセンサ4wから出力されたセンサ信号(すなわち、パルス信号の立ち上がりエッジ信号または立ち下がりエッジ信号)を受信する。本実施形態では、信号受信部11は、モータ3のロータ3rが電気角で60°回転するごとにセンサ信号を受信する。よって、信号受信部11は、モータ3が電気角で一回転する間に6つのセンサ信号を受信する。モータ3の回転速度が高くなるにつれて、センサ信号が到来する時間間隔は短くなる。
【0060】
図7に示すように、信号受信部11は、アングルセンサ4からセンサ信号を受信したか否かをモニタ時間間隔Δtmごとに確認する。モニタ時間間隔Δtmは、例えばモータ3の制御時間間隔である。なお、センサ信号の受信は、アングルセンサ4からの割り込み処理により行われてもよい。
【0061】
モニタ時間間隔Δtmは、電動車両100が最高速度で走行したときに信号受信部11が受信するセンサ信号の時間間隔よりも短く、例えば50マイクロ秒である。より一般的に言えば、モニタ時間間隔Δtmは、モータ3の回転速度が最大のときに信号受信部11が受信するセンサ信号の時間間隔よりも短い。
【0062】
回転速度算出部12は、信号間隔(センサ間時間とも呼ばれる。)に基づいて、モータ3の瞬時回転速度を算出する。ここで、信号間隔は、信号受信部11により直近に受信された第1の信号の受信時刻と、第1の信号の前に受信された第2の信号の受信時刻との間の時間間隔である。なお、第2の信号は、本実施形態では第1の信号の一つ前に受信された信号であるが、これに限られず、第1の信号の二つ以上前に受信された信号であってもよい。
【0063】
本実施形態では図7に示すように、信号間隔ΔTは、信号受信部11により直近に受信されたセンサ信号S1の受信時刻と、このセンサ信号S1の一つ前に受信されたセンサ信号S2の受信時刻との間の時間間隔である。この場合、回転速度算出部12は、式(1)によりモータ3の瞬時回転速度を算出する。
n = 60000/(ΔT×Np) ・・・(1)
ここで、nはモータ3の瞬時回転速度[rpm]であり、ΔTは信号間隔[mSec]であり、Npはモータ3が電気角で一回転する間に信号受信部11が受信するセンサ信号の数である。
【0064】
本実施形態では、回転速度算出部12は、信号間隔ΔTとして、モニタ時間間隔Δtmごとにカウントされるカウント数を用いる。信号受信部11がセンサ信号を受信していない場合、信号受信部11または回転速度算出部12は、モニタ時間間隔Δtmごとにカウント数を増やす。このカウント数は、直近のセンサ信号を受信してから経過した時間を示す。カウント数の初期値は0である。信号受信部11がセンサ信号を受信すると、カウント数Nはリセットされる(すなわち、初期値に戻る)。
【0065】
回転速度算出部12は、センサ信号S1が受信されてからセンサ信号S2が受信されるまで間にカウントされたカウント数Nにモニタ時間間隔Δtmを乗じることにより信号間隔ΔTを算出する。
【0066】
カウント数で信号間隔を測る場合、回転速度算出部12は、式(2)によりモータ3の瞬時回転速度を算出する。
n = 60000/(NΔtm×Np) ・・・(2)
ここで、nはモータ3の瞬時回転速度[rpm]であり、Nはセンサ信号S2を受信してからセンサ信号S1を受信するまでにカウントされたカウント数であり、Δtmはモニタ時間間隔[mSec]であり、Npはモータ3が電気角で一回転する間に信号受信部11が受信するセンサ信号の数である。
【0067】
モータ制御部13は、回転速度算出部12により算出された瞬時回転速度に基づいて、モータ3に所望のトルクを発生させるためのPWM信号を生成する。そして、モータ制御部13は、生成されたPWM信号を電力変換部30に送信してモータ3を制御する。
【0068】
本実施形態では、モータ制御部13は、瞬時回転速度および目標トルクに基づいてデューティ比および出力角度(通電タイミング)を算出し、算出されたデューティ比を有するPWM信号を、算出された出力角度で電力変換部30に出力する。これにより、モータ3は目標トルクを発生するように制御される。なお、PWM信号の生成は、モニタ時間間隔ごとに行われるが、センサ信号を受信するたびに行われてもよいし、あるいはモータ3が一回転するたびに行われてもよい。
【0069】
図8および図9を参照して、デューティ比および出力角度の算出について詳しく説明する。モータ制御部13は、アクセルポジションセンサ5から受信したアクセル操作量と、回転速度算出部12により算出された瞬時回転速度とを用いてトルクマップM1を検索することにより、目標トルクを取得する。ここで、トルクマップM1は、図9(a)に示すように、アクセル操作量と、モータ3の回転速度と、モータ3の目標トルクとの間の関係を示すマップである。
【0070】
次に、モータ制御部13は、トルクマップM1から取得された目標トルクと、回転速度算出部12により算出された瞬時回転速度を用いてデューティ比マップM2を検索することにより、デューティ比を取得する。ここで、デューティ比マップM2は、図9(b)に示すように、モータ3の目標トルクと、モータ3の回転速度と、PWM信号のデューティ比との間の関係を示すマップである。
【0071】
さらに、モータ制御部13は、トルクマップM1から取得された目標トルクと、回転速度算出部12により算出された瞬時回転速度を用いて出力角度マップM3を検索することにより、出力角度を取得する。ここで、出力角度マップM3は、図9(c)に示すように、モータ3の目標トルクと、モータ3の回転速度と、PWM信号の出力角度との間の関係を示すマップである。
【0072】
なお、制御部10が複数の通電方式(例えば、120°通電方式と180°通電方式)を用いて電力変換部30を制御する場合、デューティ比マップM2と出力角度マップM3は各通電方式に対応したものが用いられる。すなわち、120°通電方式を用いる場合は、120°通電方式用のデューティ比マップと出力角度マップを用いてデューティ比と出力角度が取得され、180°通電方式を用いる場合は、180°通電方式用のデューティ比マップと出力角度マップを用いてデューティ比と出力角度が取得される。
【0073】
上記のようにして取得されたデューティ比を有するPWM信号が、上記のようにして取得された出力角度で電力変換部30に出力され、半導体スイッチQ1〜Q6がオンオフ制御される。これにより、モータ3は所望のトルクを発生するように制御される。
【0074】
次に、図10および図11を参照して、モータ制御部13によるデューティ比の瞬時的な補正について詳しく説明する。
【0075】
モータ制御部13は、回転速度算出部12により算出される瞬時回転速度の変化量が規定値以上の場合に、瞬時回転速度に基づいてPWM信号のデューティ比を補正する。詳しくは後述するが、デューティ比は、インバータ(電力変換部30)の出力電圧が瞬時回転速度に応じた値になるように補正される。すなわち、インバータの出力電圧がモータ誘起電圧に応じた値になるようにデューティ比が補正される。
【0076】
図10に示す例では、時刻t1まで、インバータの出力電圧とモータ誘起電圧(モータ3の回転により誘起される電圧)との差(以下、単に「電圧差」という。)はV0であった。その後、時刻t1から瞬時回転速度が瞬時的に低下し、時刻t2において瞬時回転速度の低下量が規定値Δn1に達した。瞬時回転速度の低下に伴ってモータ誘起電圧が低下する結果、図10に示すように、時刻t1からt2の間は電圧差が一時的に拡大する。
【0077】
しかし、瞬時回転速度の低下量が規定値Δn1に達すると、モータ制御部13は、瞬時回転速度に基づいてPWM信号のデューティ比を補正する。補正されたデューティ比のPWM信号でインバータを駆動することで、図10に示すように、インバータの出力電圧は低下するため、電圧差が縮小する(定常状態では電圧差はV1となる)。このようにデューティ比を瞬時的に補正することにより電圧差の拡大が抑制されるため、目標トルクに整合した電流がモータ3に流れることになり、出力トルクが過大になることを抑制できる。
【0078】
瞬時回転速度が上昇する場合も同様である。図10に示す例では、時刻t3まで電圧差はV1であった。その後、時刻t3から瞬時回転速度が瞬時的に上昇し、時刻t4において瞬時回転速度の上昇量が規定値Δn2に達した。瞬時回転速度の上昇に伴ってモータ誘起電圧も上昇する結果、時刻t3からt4の間は電圧差が一時的に縮小する。
【0079】
しかし、瞬時回転速度の上昇量が規定値Δn2に達すると、モータ制御部13は、瞬時回転速度に基づいてPWM信号のデューティ比を補正する。補正されたデューティ比のPWM信号でインバータを駆動することで、図10に示すように、インバータの出力電圧は上昇するため、電圧差が拡大する(定常状態では電圧差はV2となる)。これにより、目標トルクに整合した電流がモータ3に流れることになり、出力トルクが過小になることを抑制できる。
【0080】
なお、規定値Δn1と規定値Δn2は、本実施形態では、カウント数の変化量で定められる。例えば、図7において、センサ信号S1とセンサ信号S2との間にカウントされたカウント数が、センサ信号S2とセンサ信号S3との間にカウントされたカウント数よりも規定値以上多い(または少ない)場合に、デューティ比の瞬時的な補正が行われる。
【0081】
次に、図11を参照して、線形補間による、デューティ比の瞬時的な補正の方法について説明する。瞬時回転速度と、補正されたデューティ比との関係を示す特性直線Lを用いる。この特性直線Lは、点Aと点Bを結ぶ直線である。ここで、点Aは、平均回転速度Navを中心とした回転速度範囲Rの下限値X1と、下限値X1の瞬時回転速度に対応するデューティ比Y1とで規定される点である。平均回転速度Navは、モータ3が一回転する時間から算出される回転速度である。点Bは、回転速度範囲Rの上限値X2と、上限値X2の瞬時回転速度に対応するデューティ比Y2とで規定される点である。
【0082】
なお、デューティ比Y1,Y2は、デューティ比マップM2から取得される。すなわち、デューティ比Y1は、下限値X1の瞬時回転速度と、その時点での目標トルクを用いてデューティ比マップM2を検索することにより取得され、デューティ比Y2は、上限値X2の瞬時回転速度と、その時点での目標トルクを用いてデューティ比マップM2を検索することにより取得される。
【0083】
回転速度範囲Rについては、以下の関係式が成り立っている。
X1 = Nav − f ・・・(3)
X2 = Nav + f ・・・(4)
ここで、fはモータ3の瞬時回転速度の変動幅である。
【0084】
変動幅fは、電動車両100が走行する路面の状態やアングルセンサ4の精度等に起因して瞬時回転速度が平均回転速度Navから乖離する最大の値である。この変動幅fは、例えば500rpmである。このようにモータ3の瞬時回転速度の変動幅fを考慮して回転速度範囲Rを定めることにより、路面状態の変動やアングルセンサ4の精度等によって瞬時回転速度が大きく変動した場合にも、確実に線形補間を行い、デューティ比を瞬時的に補正することができる。
【0085】
特性直線Lは、回転速度算出部12により平均回転速度が算出されるたびに更新される。すなわち、平均回転速度が算出されるたびに、回転速度範囲Rを更新し、回転速度範囲Rの下限値および上限値の瞬時回転速度に対応するデューティ比をそれぞれ、トルクマップM1とデューティ比マップM2を用いて求めることで特性直線Lを更新する。これにより、電動車両100の走行状態に適合した特性直線Lを用いた線形補間を行うことができ、デューティ比の瞬時補正の精度を高く維持することができるようになる。
【0086】
なお、アクセルポジションセンサ5から受信されるアクセル操作量の変化に合わせて特性直線Lを更新してもよい。これにより、デューティ比をより高精度に補正することができる。
【0087】
本実施形態では、点Aと点Bを結ぶ特性直線Lを用いて線形補間を行い、デューティ比を補正する。すなわち、図11に示すように、回転速度算出部12により算出された瞬時回転速度Nmに対応する特性直線Lの値が、補正されたデューティ比として求められる。線形補間は、回転速度算出部12により瞬時回転速度が算出されるたびに行われる。
【0088】
以上説明したように、本実施形態に係る電動車両制御装置1では、信号受信部11が、モータ3が一回転する間にアングルセンサ4から複数出力されるセンサ信号であり且つモータ3の回転速度に応じた間隔で到来するセンサ信号を受信し、回転速度算出部12が、センサ信号S1とセンサ信号S2との間の信号間隔ΔTに基づいてモータ3の瞬時回転速度を算出し、モータ制御部13が、算出された瞬時回転速度の変化量が規定値以上の場合、瞬時回転速度に基づいてPWM信号のデューティ比を補正する。デューティ比は、電力変換部30(インバータ)の出力電圧が瞬時回転速度(すなわち、モータ誘起電圧)に応じた値になるように補正される。すなわち、モータ3の回転速度の瞬時的な変動に応じてPWM信号のデューティ比を瞬時的に補正することで、インバータとモータ誘起電圧との間の電圧差が目標トルクに基づく値から乖離しないようにする。これにより、本実施形態によれば、路面状態に応じてモータ3に加わる外力により回転速度が瞬時的に変動した場合であっても、モータ3の出力トルクの変動を抑制し、適切なモータ制御を行うことができる。
【0089】
<電動車両制御方法>
次に、図12のフローチャートを参照して、本実施形態に係る電動車両制御方法の一例について説明する。なお、カウント数は事前に初期化されているものとする。
【0090】
信号受信部11は、モニタ時間間隔Δtmが経過したかどうかを判定する(ステップS11)。モニタ時間間隔Δtmが経過した場合(S11:Yes)、アングルセンサ4からセンサ信号を受信したかどうかを判定する(ステップS12)。センサ信号を受信してない場合(S12:No)、カウント数を1つ増やして(ステップS13)、ステップS11に戻る。
【0091】
一方、センサ信号を受信している場合(S12:Yes)、回転速度算出部12は、センサ信号S1とセンサ信号S2との間にカウントされたカウント数に基づいてモータ3の瞬時回転速度を算出する(ステップS14)。そして、回転速度算出部12は、カウント数を初期値にリセットする(ステップS15)。なお、カウント数のリセットはステップS15〜S19のいずれのタイミングで行ってもよい。
【0092】
次に、モータ制御部13は、ステップS14で算出された瞬時回転速度と、アクセルポジションセンサ5から受信したアクセル操作量に基づいて、PWM信号のデューティ比と出力角度を求める(ステップS16)。具体的には、図8を参照して説明したように、トルクマップM1、デューティ比マップM2および出力角度マップM3を用いることでPWM信号のデューティ比と出力角度を求める。
【0093】
次に、モータ制御部13は、ステップS14で算出された瞬時回転速度の変化量が規定値以上であるか否かを判定する(ステップS17)。本ステップの判定は、例えば、今回のカウント数(センサ信号S1とセンサ信号S2との間のカウント数)が、前回のカウント数(センサ信号S2とセンサ信号S3との間のカウント数)よりも規定値以上多いか(または少ないか)を判定することにより行われる。
【0094】
そして、瞬時回転速度の変化量が規定値以上の場合(S17:Yes)、ステップS16で求められたデューティ比を補正する(ステップS18)。本ステップの補正は、例えば、前述の特性直線Lを用いた線形補間により行われる。その後、補正されたデューティ比を有するPWM信号をインバータに送信してモータ3を制御する(ステップS19)。
【0095】
一方、瞬時回転速度の変化量が規定値未満の場合(S17:No)、デューティ比を補正することなく、ステップS19に進み、ステップS16で求められたデューティ比のPWM信号をインバータに送信する。
【0096】
上記の駆動方法によれば、路面状態に応じてモータ3に加わる外力により回転速度が瞬時的に変動した場合であっても、モータ3の出力トルクの変動を抑制し、適切なモータ制御を行うことができる。
【0097】
なお、上記の処理フローではカウント数を用いたが、センサ信号の受信時刻を用いて信号間隔を算出し、瞬時回転速度を算出してもよい。また、センサ信号を受信していない場合(S12:No)に、直近のアクセル操作量と、前回算出された瞬時回転速度とを用いてデューティ比マップM2からデューティ比を取得してもよい。そして、取得されたデューティ比を用いて特性直線Lを更新したり、電力変換部30に送信するPWM信号を更新してもよい。
【0098】
電動車両には、モータ3が車輪8を直接駆動するもので(いわゆるダイレクトドライブ方式)、いわゆるハブダンパーが設けられないものがある。本発明は、このような電動車両に適用することも可能である。また、この場合、モータ制御部13は、図13に示すように、電動車両100の始動時(低回転時)において、PWM信号のデューティ比を徐々に上昇させることが好ましい。これにより、ダイレクトドライブ方式の場合であっても、電動車両100をスムーズに発進させることができる。
【0099】
上述した実施形態で説明した電動車両制御装置1(制御部10)の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、制御部10の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD−ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0100】
また、制御部10の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0101】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではない。異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0102】
1 電動車両制御装置
2 バッテリ
3 モータ
3r ロータ
4 アングルセンサ
4u U相アングルセンサ
4v V相アングルセンサ
4w W相アングルセンサ
5 アクセルポジションセンサ
6 アシストスイッチ
7 メータ
8 車輪
9 充電器
10 制御部
11 信号受信部
12 回転速度算出部
13 モータ制御部
20 記憶部
30 電力変換部
100 電動車両
f 変動幅
L 特性直線
M1 トルクマップ
M2 デューティ比マップ
M3 出力角度マップ
Nav 平均回転速度
Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6 半導体スイッチ
R 回転速度範囲
S1,S2,S3 センサ信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14