特許第6972311号(P6972311)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6972311距離検出装置、光学機器、及び距離検出装置の姿勢検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972311
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】距離検出装置、光学機器、及び距離検出装置の姿勢検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 3/06 20060101AFI20211111BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20211111BHJP
   G01S 7/497 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   G01C3/06 110A
   G01S7/481 A
   G01S7/497
【請求項の数】25
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-512193(P2020-512193)
(86)(22)【出願日】2018年4月5日
(86)【国際出願番号】JP2018014636
(87)【国際公開番号】WO2019193726
(87)【国際公開日】20191010
【審査請求日】2020年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】501439264
【氏名又は名称】株式会社ニコンビジョン
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大室 仁
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 雅弘
【審査官】 信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−49076(JP,A)
【文献】 特開2000−187151(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/151927(WO,A1)
【文献】 特開2014−115191(JP,A)
【文献】 特開2009−85658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 3/06
G01S 7/481
G01S 7/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を照射し対象物までの距離を計測する距離検出装置であって、
前記距離検出装置の姿勢を検出する第1センサと、
ブレ検出センサにより検出されたブレ量に基づいて駆動されて前記光を偏向するブレ補正光学系と、
前記距離検出装置の前記光を出射するための基準軸に対する前記ブレ補正光学系の位置を検出する第2センサと
前記第1センサおよび前記第2センサの検出結果に基づいて、前記距離検出装置の前記姿勢の基準面に対する前記光の照射角度を決定する処理部と、を備える距離検出装置。
【請求項2】
前記ブレ補正光学系の駆動は、前記ブレ補正光学系を形成する光学素子の形状を変化させることを含み、
前記第2センサは、前記光学素子の変形量を検出することを含む、請求項1に記載の距離検出装置。
【請求項3】
前記第1センサは、角速度センサ、加速度センサ、および地磁気センサのうちの少なくとも1つを含む姿勢センサである、請求項1または請求項2に記載の距離検出装置。
【請求項4】
前記処理部は、
前記第1センサの検出結果から決定される第1角度と、前記第2センサの検出結果から決定される角度補正量と、により前記照射角度を決定する、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の距離検出装置。
【請求項5】
前記処理部は、
前記距離と前記照射角度とに基づいて、前記距離検出装置が位置する高さと前記対象物が位置する高さとの高低差を決定する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の距離検出装置。
【請求項6】
前記距離、前記高低差、および前記照射角度のうちの少なくとも1つを表示する表示部を更に備える、請求項5に記載の距離検出装置。
【請求項7】
前記表示部は、前記ブレ検出センサがブレを検出した場合、前記ブレを検出する前の前記距離、前記高低差、および前記照射角度のうちの少なくとも1つを表示する請求項6に記載の距離検出装置。
【請求項8】
前記第1センサは、前記距離検出装置の筐体又は回路基板に備えられている、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の距離検出装置。
【請求項9】
レチクルが設けられた光学素子をさらに備え、
前記第2センサは、前記レチクルの位置を検出する、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の距離検出装置。
【請求項10】
前記処理部は、
ブレ検出前に前記第2センサで検出された前記レチクルの第1位置を記憶しておき、
ブレ検出中に前記第2センサで検出された前記レチクルの第2位置と前記第1位置との差から角度補正量を決定する、請求項9に記載の距離検出装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の距離検出装置を備える光学機器。
【請求項12】
対象物を観察する観察光学系を有する光学機器であって、
前記光学機器の姿勢を検出する第1センサと、
ブレ検出センサにより検出されたブレ量に基づいて駆動されてブレを補正するブレ補正光学系と、
前記観察光学系の前記対象物を観察するための基準軸に対する前記ブレ補正光学系の位置を検出する第2センサと、
前記第1センサおよび前記第2センサの検出結果に基づいて、前記光学機器の前記姿勢の基準面に対する前記対象物の観察角度を決定する処理部と、を備える光学機器。
【請求項13】
光を照射し対象物までの距離を計測する距離検出装置であって、
前記距離検出装置の姿勢を検出する第1センサと、
ブレ検出センサにより検出されたブレ量に基づいて駆動されて前記光を偏向するブレ補正光学系と、
前記距離検出装置の前記光を出射するための基準軸に対する前記ブレ補正光学系の位置を検出する第2センサと、を備え、
ブレが生じていない場合は、前記第1センサの検出結果に基づいて前記距離検出装置の前記姿勢の基準面に対する第1角度を求め、
前記ブレが生じている場合は、前記第2センサの検出結果に基づいて決定した補正角度を用いて前記第1角度を補正して前記基準面に対する第2角度を求める、距離検出装置。
【請求項14】
光を照射し対象物までの距離を計測する距離検出装置の姿勢検出方法であって、
前記距離検出装置の姿勢を検出する工程と、
前記光を偏向するために、ブレ検出センサにより検出されたブレ量に基づいてブレ補正光学系を駆動する工程と、
前記距離検出装置の前記光を出射するための基準軸に対する前記ブレ補正光学系の位置を検出する工程と、
前記距離検出装置の姿勢および前記ブレ補正光学系の位置の検出結果に基づいて、前記距離検出装置の前記姿勢の基準面に対する前記光の照射角度を決定する工程と、
を含む距離検出装置の姿勢検出方法。
【請求項15】
前記ブレ補正光学系を駆動する工程では、前記ブレ補正光学系を形成する光学素子の形状を変化させ、
前記ブレ補正光学系の位置を検出する工程では、前記光学素子の変形量を検出する、請求項14に記載の距離検出装置の姿勢検出方法。
【請求項16】
前記距離検出装置の姿勢を検出する工程では、角速度センサ、加速度センサ、および地磁気センサのうちの少なくとも1つを含む姿勢センサを用いる、請求項14または請求項15に記載の距離検出装置の姿勢検出方法。
【請求項17】
前記光の照射角度を決定する工程では、
前記距離検出装置の姿勢の検出結果から決定される第1角度と、前記ブレ補正光学系の位置の検出結果から決定される角度補正量と、により前記照射角度を決定する、請求項14から請求項16のいずれか一項に記載の距離検出装置の姿勢検出方法。
【請求項18】
前記光の照射角度を決定する工程では、
前記距離と前記照射角度とに基づいて、前記距離検出装置が位置する高さと前記対象物が位置する高さとの高低差を決定する、請求項14から請求項17のいずれか一項に記載の距離検出装置の姿勢検出方法。
【請求項19】
前記距離、前記高低差、および前記照射角度のうちの少なくとも1つを表示する工程をさらに含む、請求項18に記載の距離検出装置の姿勢検出方法。
【請求項20】
前記表示する工程では、前記ブレ検出センサがブレを検出した場合、前記ブレを検出する前の前記距離、前記高低差、および前記照射角度のうちの少なくとも1つを表示する、請求項19に記載の距離検出装置の姿勢検出方法。
【請求項21】
前記距離検出装置の姿勢を検出する第1センサは、前記距離検出装置の筐体又は回路基板に備えられている、請求項14から請求項20のいずれか一項に記載の距離検出装置の姿勢検出方法。
【請求項22】
前記距離検出装置は、レチクルが設けられた光学素子をさらに備え、
前記ブレ補正光学系の位置を検出する工程では、さらに、前記レチクルの位置を検出する、請求項14から請求項21のいずれか一項に記載の距離検出装置の姿勢検出方法。
【請求項23】
前記光の照射角度を決定する工程では、
ブレ検出前に検出された前記レチクルの第1位置を記憶しておき、
ブレ検出中に検出された前記レチクルの第2位置と前記第1位置との差から角度補正量を決定する、請求項22に記載の距離検出装置の姿勢検出方法。
【請求項24】
光を照射し対象物までの距離を計測する距離検出装置であって、
前記距離検出装置の姿勢を検出する第1センサと、
前記距離検出装置の前記光を出射するための基準軸に対する前記距離検出装置のブレを検出するブレ検出センサと、
前記ブレ検出センサにより検出されたブレを補正するために駆動されるブレ補正光学系と、
前記第1センサで検出される検出結果と、前記ブレを補正するために駆動されるべき前記ブレ補正光学系の位置に対応した情報と、に基づいて前記距離検出装置の前記姿勢の基準面に対する照射角度を決定する処理部と、を備える距離検出装置。
【請求項25】
前記ブレ補正光学系の位置に対応した情報は、前記ブレ検出センサにより検出されるブレ量、前記ブレを補正するために駆動されるべき前記ブレ補正光学系の駆動量、および、前記ブレの補正のために前記ブレ補正光学系の駆動により偏向されるべき前記光の偏向量のうちの少なくともいずれか1つを含む、請求項24に記載の距離検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、距離検出装置、光学機器、及び距離検出装置の姿勢検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
像ブレ補正(手振れ補正とも呼ぶ)機能を有する距離検出装置(単に測距装置とも呼ぶ)が知られている(例えば、特許文献1参照)。像ブレ補正機能が作動して測定光が偏向された場合に、機体の姿勢から決定される基準軸の方向(すなわち、方位及び角度)が実際に光が照射されている方向(すなわち、測距方向)を反映しないという問題がある。
[特許文献1] 特開2000−187151号公報
【発明の概要】
【0003】
本発明の第1の態様においては、光を照射し対象物までの距離を計測する距離検出装置であって、距離検出装置の姿勢を検出する第1センサと、ブレ検出センサにより検出されたブレ量に基づいて駆動されるブレ補正光学系と、ブレ補正光学系の位置を検出する第2センサと、第1センサおよび第2センサの検出結果に基づいて、光の照射角度を決定する処理部と、を備える距離検出装置が提供される。
【0004】
本発明の第2の態様においては、対象物を観察する観察光学系を有する光学機器であって、光学機器の姿勢を検出する第1センサと、ブレ検出センサにより検出されたブレ量に基づいて駆動されるブレ補正光学系と、ブレ補正光学系の位置を検出する第2センサと、第1センサおよび第2センサの検出結果に基づいて、対象物の観察角度を決定する処理部と、を備える光学機器が提供される。
【0005】
本発明の第3の態様においては、光を照射し対象物までの距離を計測する距離検出装置であって、距離検出装置の姿勢を検出する第1センサと、ブレ検出センサにより検出されたブレ量に基づいて駆動されるブレ補正光学系と、ブレ補正光学系の位置を検出する第2センサと、を備え、ブレが生じていない場合は、第1センサの検出結果に基づいて第1角度を求め、ブレが生じている場合は、第2センサの検出結果に基づいて決定した補正角度を用いて第1角度を補正して第2角度を求める、距離検出装置が提供される。
【0006】
本発明の第4の態様においては、光を照射し対象物までの距離を計測する距離検出装置の姿勢検出方法であって、距離検出装置の姿勢を検出する工程と、ブレ検出センサにより検出されたブレ量に基づいてブレ補正光学系を駆動する工程と、ブレ補正光学系の位置を検出する工程と、距離検出装置の姿勢およびブレ補正光学系の位置の検出結果に基づいて、光の照射角度を決定する工程と、を含む距離検出装置の姿勢検出方法が提供される。
【0007】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る測距装置の構成を示す。
図2A】像ブレ補正機能が作動する前の状態における基準軸と照射方向との関係を示す。
図2B】像ブレ補正機能が作動した場合における基準軸と照射方向との関係を示す。
図3A】像ブレ補正機能が作動していない状態における視準指標及び基準軸の関係を示す。
図3B】像ブレ補正機能が作動している状態における視準指標及び基準軸の関係並びに変位センサの検出対象を示す。
図4A】方位補正の一例を示す。
図4B】角度補正の一例を示す。
図5】本実施形態に係る測定方向、対象物までの距離、及び対象物の高さの測定方法の動作フローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
図1は、本実施形態に係る測距装置10の構成を示す。測距装置10は、光を照射し対象物までの距離及び/又は高さを計測する距離検出装置であり、像ブレ補正機能を搭載した装置において当該機能により偏向された測定光が照射されている照射方向(すなわち、測定方向)を決定することを可能とする。ここで、投光部100が基準軸Lに沿って測定光を出射する方向、すなわち光線Bの矢印方向を前方、その逆方向、すなわち光線Aの矢印方向を後方とする。なお、基準軸Lの向き(方向とも呼ぶ)は、測距装置10の機体(すなわち、構成各部を収容する筐体)の向きより一意に定まる。方向は、特に断らない限り、機体を通る水平面(すなわち、水平面上の任意に定めた第1軸及びこれに直交する第2軸)及び鉛直軸(すなわち、第3軸)より定まる基準座標における方向(絶対方向とも呼ぶ)を意味するものとする。測距装置10は、投光部100、レチクルプレート140、接眼レンズ150、補正部400、制御部132、検出部200、変換部240、及び処理部300を備える。
【0011】
投光部100は、基準軸Lに沿って対象物に測定光(単に光とも呼ぶ)を照射するユニットである。投光部100は、発光部130、正立プリズム120、及び対物レンズ110を有する。
【0012】
発光部130は、光源を用いて、一定の周期でパルス状の測定光(すなわち、光線B)を正立プリズム120に向けて出射する。光源として、たとえば、赤外線を発振する半導体レーザを採用することができる。発光部130は、一回の測距動作において、予め定められた数、例えば320発の測定光を一定の周期、例えば500〜700μ秒の周期で出射する。
【0013】
正立プリズム120は、発光部130から射出された測定光を前方に送り、入射光線を後方の接眼レンズ150に送る光学素子である。正立プリズム120として、例えばダハプリズム、ポロプリズム等を採用することができる。正立プリズム120は、可視光帯域の光を反射し、赤外帯域の光を透過するダイクロイック反射面122、並びに可視光帯域及び赤外帯域の両方に対して高い反射率を有する全反射面124,126を有する。測定光(光線B)は、正立プリズム120においてダイクロイック反射面122を透過し、そして全反射面124において反射されて、光線Bとして投光部100内を前方に伝播する。入射光線(光線A)は、正立プリズム120においてダイクロイック反射面122、全反射面124,126および他の反射面により反射される。それにより、入射光線により形成される倒立鏡像が正立正像に反転される。
【0014】
対物レンズ110は、正立プリズム120から出力され、後述する補正レンズ410を介して入る光線Bをコリメートし、光線Bとして測距装置10の前方に送る光学素子である。
【0015】
レチクルプレート140は、レチクルが設けられた板状の光学素子であり、対物レンズ110の焦点位置に配置される。本実施形態では、レチクルプレート140は、後述する視準部の光軸(見かけ上、測定光の光軸Lに一致する)に直交する面内で駆動される。レチクルプレート140は、視準指標141及び表示部142を有する。
【0016】
視準指標141は、一例として十字線の形状を有し、その他、矩形枠、円形枠等の形状を有してもよい。視準指標141は、可視光に対して透明な板に印刷、食刻等により形成されてもよいし、透過型の液晶を用いて表示されてもよい。
【0017】
表示部142は、透過型の液晶等を用いて、対象物までの距離及び/又は高さの計測結果を、文字、画像等によりユーザに示す。表示部142をレチクルプレート140に直接設けることに代えて、反射型の液晶と、当該液晶を用いた表示像をレチクルプレート140に導く光学系とにより構成してもよい。表示部142は、処理部300により決定された対象物までの距離及び/又は高さの他、測定光の照射方向(測定方向)、電池の残量、アラート、時計等を併せて表示してもよい。特に、表示部142に測定光の照射方向を表示することで、機体の姿勢のブレが生じた場合でも、後述するように補正レンズにより偏向された測定光が実際に照射されている照射方向をユーザに対して示すことができる。
【0018】
接眼レンズ150は、入射光線を集光して光線Aとして後方に送る光学素子である。測距装置10の内部においてその前端を正立プリズム120の後端に対向する。
【0019】
対物レンズ110、正立プリズム120、レチクルプレート140、及び接眼レンズ150は、ユーザが対象物に対して測距装置10を視準する視準部を構成する。視準部は、投光部100と光学系の一部を共有し、これにより測距装置10において投光部100と視準部とで見かけの光軸が一致する。
【0020】
視準部には、測距装置10の前方に位置する対象物から反射又は散乱された光のうち、対物レンズ110の見込み角の範囲内を伝播する光線Aが入射する。光線Aは、対物レンズ110を介して光線Aとして集光し、正立プリズム120、レチクルプレート140、及び接眼レンズ150を通じて、測距装置10の後方に光線Aとして出射される。これにより、ユーザは、接眼レンズ150を通じて対象物の正立正像を観察することができる。
【0021】
ユーザが接眼レンズ150を通じて観察する対象物の像には、レチクルプレート140に配された視準指標141が重畳される。それにより、ユーザは、測距装置10を対象物に視準することができる。この場合に、上記の通り投光部100と視準部とは見かけの光軸が一致するので、視準指標141の示す位置に測定光が照射される。
【0022】
補正部400は、測距装置10の姿勢のブレに応じて光を偏向して像ブレ補正するユニットであり、補正レンズ410、駆動部420、補正制御部430、第1センサ440、ブレ検出センサ442、第2センサ450、及びレチクル制御部143を含む。なお、像ブレ補正の一連の動作を補正動作とも呼ぶ。
【0023】
補正レンズ410は、測定光(光線B)を偏向するブレ補正光学系の一例である。補正レンズ410は、対物レンズ110と正立プリズム120との間の基準軸L上に配され、基準軸Lに交差する方向(本実施形態では基準軸Lに直交する面内で互いに直交する2軸方向)に変位することで測定光を偏向する(測定光が照射される光軸方向を変えることをいう)。補正レンズ410として、例えば、内焦レンズを採用することができる。また、中心軸に対して非対象に変形可能なバリアングルプリズムを採用してもよい。
【0024】
なお、補正レンズ410が予め定められた位置、例えば変位していない基準位置にあるときに測定光が通る光軸が基準軸Lであるともいえる。
【0025】
駆動部420は、補正制御部430により制御されて、補正レンズ410を基準軸Lに交差する方向に駆動するユニットである。駆動部420は、例えば、ボイスコイルモータ、圧電モータ等を含む。
【0026】
補正制御部430は、駆動部420を介して補正レンズ410を駆動制御するユニットである。補正制御部430は、第1センサ440(特に、ブレ検出センサ442)から取得する機体のブレ量の検出結果に基づいて補正レンズ410の目標駆動量を決定し、目標駆動量及び第2センサ450(特に、変位センサ451)から取得する補正レンズ410の位置の検出結果に基づいて駆動部420を制御することで、補正レンズ410の駆動を帰還制御する。これにより、補正レンズ410の位置を精度良く制御することができる。
【0027】
第1センサ440は、測距装置10を含む機体の姿勢を検出するセンサ又はセンサ群であり、一例として姿勢センサ441を有する。第1センサ440は、測距装置10の筐体又は筐体内に固定された回路基板に備えられ、それにより第1センサ440の検出結果は器体の姿勢を反映する。
【0028】
ここで、姿勢は、機体の時間平均的な向き及び傾きを意味し、基準座標における方位(すなわち、水平面内での方位)φ及び角度(すなわち、水平面又は鉛直軸に対する角度)θにより表される。なお、例えば、角速度センサ、加速度センサ等の傾斜センサによる角速度や加速度の検出結果から角度を検出し、例えば、地磁気センサのような方位センサにより方位を検出することができる。測定可能な角度範囲は例えば±89度であり、方位範囲は例えば±180度ある。これらの検出結果は、処理部300に送信される。
【0029】
ブレ検出センサ442は、測距装置10を含む機体の姿勢のブレ量を検出するセンサである。ここで、ブレは、機体の時間平均的な向き及び傾きからの微小変位、特に手振れ等により生じ得る機体の微小振動に伴う方位及び角度の微小変位を意味し、方位(ヨーイング)の微小変位Δφ及び角度(ピッチング)の微小変位Δθにより表される。なお、これらの微小変位は、例えば、ジャイロセンサにより検出することができる。これらの検出結果は、処理部300及び補正制御部430に送信される。
【0030】
なお、機体の姿勢の変化及びブレは、例えば、変位量又は変位速度の程度で識別することができる。例えば、補正レンズ410の駆動により補正できる範囲内で機体の姿勢が変動する場合、その変動をブレとみなし、補正できる範囲を超えて機体の姿勢が変動する場合、その変動を姿勢の変化とみなすことができる。ここで、補正できる角度範囲は、例えば±0.5度、好ましくは±数度である。また、姿勢センサ441により追従できる範囲内の速度で機体の姿勢が変動する場合、その変動を姿勢の変化とみなし、追従できる範囲を超える速度で機体の姿勢が変動する場合、その変動をブレとみなすこともできる。
【0031】
第2センサ450は、ブレ補正光学系又はレチクルプレート140の位置を検出するセンサ群であり、一例として変位センサ451,452を有する。
【0032】
変位センサ451は、補正レンズ410の位置を検出するセンサであり、基準軸Lを基準(x,y)としてこれに直交する2軸方向の補正レンズ410の位置(x,y)を検出して、その検出結果を補正制御部430及び処理部300に出力する。変位センサとして、例えば、ホール素子、MR素子等の磁気センサ、レーザ干渉計等の光学式センサ等を使用することができる。
【0033】
変位センサ452は、レチクルプレート140の位置を検出するセンサであり、視準系の光軸を基準(p,q)としてこれに直交する2軸方向のレチクルプレート140の位置(p,q)を検出して、その検出結果をレチクル制御部143及び処理部300に出力する。変位センサとして、例えば、ホール素子、MR素子等の磁気センサ、レーザ干渉計等の光学式センサ等を使用することができる。
【0034】
レチクル制御部143は、レチクルプレート140を駆動制御するユニットである。レチクル制御部143は、第2センサ450(特に、変位センサ452)から取得するレチクルプレート140の位置の検出結果に基づいて、レチクルプレート140を視準部の光軸(見かけ上、測定光の光軸Lに一致する)に交差する面内で駆動する。これにより、レチクルプレート140が視準部の光軸からずれた場合に、光軸上に位置合わせすることができる。
【0035】
図2A及び図2Bに、それぞれ、補正部400による像ブレ補正機能が作動する前の状態及び作動した場合における基準軸Lと実際に測定光が照射される照射方向(すなわち、光軸L)との関係を示す。図2Aに示すように機体(すなわち、測距装置10)が水平方向を向いて測距動作している際に、図2Bに白抜き矢印により示すように手振れにより機体(すなわち、測距装置10)のブレが生じて基準軸Lの向きが振れ、測定光が照射される対象物上の位置が目標からずれたとする。この場合に、補正部400(特に、補正制御部430)は、ブレ検出センサ442の検出結果から機体の姿勢のブレを検知するとともにブレ量を決定し、そのブレ量に応じて補正レンズ410の目標駆動量を決定し、目標駆動量及び変位センサ451の検出結果から決定される補正レンズ410の位置(又は変位)に基づいて駆動部420を介して補正レンズ410を駆動制御することで、黒塗り矢印により示すように補正レンズ410の位置を補正して測定光を偏向する。それにより、基準軸Lの向きのブレが光学的に打ち消される、すなわち基準軸Lに対して光軸Lが矢印方向に傾斜してブレが生じる前の基準軸L上に重なり、測定光(光線B)が対象物上の目標に照射され続けることとなり、これにより測定光が照射される照射方向(すなわち、測定方向)のブレを防いで像ブレ補正することができる。
【0036】
なお、補正部400は、常時補正動作をしてもよいし、測距装置10の使用時のみ補正動作を実行してもよい。測距装置10の使用時とは、例えば、接眼レンズ150を覗くユーザの目を検出したとき、ユーザが操作ボタン133を操作したときなど、ユーザによる何らかの操作を検知したときとしてよい。操作を検知した後、予め定められた時間を超えてユーザによる操作が検知されない場合に補正部400による補正動作を停止してよい。
【0037】
なお、本実施形態に係る測距装置10では、補正部400は、補正レンズ410を基準軸Lに交差する方向に駆動することで像ブレ補正する構成を採用したが、これに限らず、補正レンズ410を基準軸Lに対して傾斜する方向に駆動すること、変形可能な光学素子を基準軸Lに対して非対称に変形すること、或いはこれらの任意の組み合わせによりブレ補正光学系を駆動してその位置又は形状を補正することで像ブレ補正する構成を採用してもよい。斯かる場合、第2センサ450は、補正レンズ410の傾斜又は形状を検出するセンサをさらに有することとする。
【0038】
光学素子を変形する場合、ブレ補正光学系として例えば中心軸に対して非対象に変形可能なバリアングルプリズムを採用し、これに含まれる液体を挟むガラスプレートを非対象に変位させて形状を変化させてよい。斯かる場合、第2センサ450は、バリアングルプリズムの変形量を検出するセンサを含んでよい。
【0039】
制御部132は、投光部100等による測距動作及び補正部400による補正動作を制御するユニットである。制御部132は、例えば、発光部130から出射される測定光の強度、出射回数、周期等を調整するとともに、補正部400における補正レンズ410の駆動に応じて測距動作を開始し、また測定光の出射タイミングを処理部300に送信する。これにより、処理部300は、像ブレ補正機能の作動後、投光部100による測定光の照射に応じて、検出部200から出力される反射光の検出信号を処理することができる。制御部132は、測距装置10の機体に設けられた操作ボタン133を含み、ユーザがこれを押下することにより装置をオンすることで、後述する測距動作を開始する。
【0040】
検出部200は、対象物からの反射光を検出して、検出信号を出力するユニットである。検出部200は、受光レンズ210、帯域透過フィルター220、及び受光素子230を含む。
【0041】
受光レンズ210は、対象物からの反射光(すなわち、光線C)を集光して、光線Cとして受光素子230に送る光学素子である。なお、受光レンズ210は、投光部100の対物レンズ110と異なる光軸を有する。
【0042】
帯域透過フィルター220は、反射光を含む狭い帯域の光を透過し、他の帯域の光を遮断又は減衰する光学素子である。帯域透過フィルター220は、受光レンズ210の後方に配されている。
【0043】
受光素子230は、反射光を受光して、その強度に対応する電気信号(受光信号とも呼ぶ)を出力する素子である。受光素子230は、例えば測定光の帯域に対して感度を有するフォトダイオード、フォトトランジスタ等を採用することができる。受光素子230は、帯域透過フィルター220の後方に配されている。なお、測定光に対して背景光の影響を排除するという観点から、受光素子230の受光面積はより小さいことが好ましい。
【0044】
上述の構成の検出部200において、受光レンズ210に、測距装置10の前方に位置する対象物から反射又は散乱された光線Cが入射する。光線Cは、受光レンズ210により集光されて光線Cとして帯域透過フィルター220を通過し、そして受光素子230により受光される。受光素子230は、受光した光の強度に対応した受光信号を変換部240に向けて出力する。
【0045】
変換部240は、受光素子230から出力された受光信号を変換して処理部300に供給するユニットである。変換部240は、受光素子230から出力された受光信号を増幅し、予め定められた閾値に従って二値化信号に変換し、デジタルサンプリングを行ってサンプリングクロックに同期した信号を生成し、検出信号として処理部300に供給する。なお、検出信号は、メモリ(不図示)に記憶してもよい。
【0046】
処理部300は、対象物までの距離及び高さ並びに測定光が照射されている照射方向(すなわち、測定方向)を決定するユニットである。ここで、処理部300は、検出部200の検出結果に基づいて対象物上の光の照射点までの直線距離Dを決定し、第1センサ440及び第2センサ450の検出結果に基づいて照射方向(方位φ及び角度θ)を決定し、決定された直線距離D及び照射方向φ,θに基づいて対象物までの水平距離d及び対象物上の測定光の照射点の高さHを決定する。ここで、高さHは、測距装置10の機体が位置する高さと対象物上の測定光の照射点が位置する高さとの高低差を意味する。
【0047】
対象物上の測定光の照射点までの直線距離Dは、検出部200の検出結果に基づいて、投光部100による測定光の照射から検出部200により反射光が検出されるまでの検出時間Tを決定することで、光速cを用いてD=T×c/2より算出される。ここで、測定光が発せられた測定位置から対象物までの往復に相当する距離を光が移動するのに要した時間が検出時間Tであるので、検出時間Tの2分の1に光速を掛けることになる。なお、検出時間Tは、測定光の複数回の照射に対してそれぞれ得られた結果を平均して決定してもよい。
【0048】
照射方向(方位φ及び角度θ)は、第1センサ440(姿勢センサ441)の検出結果に基づいて決定される基準軸Lの方向(方位φ及び角度θ)及び変位センサ451の検出結果に基づいて決定される角度補正量により、すなわち基準軸Lの方向を角度補正量により補正することで決定される。
【0049】
図3A及び図3Bに、それぞれ、像ブレ補正機能が作動していない状態及び作動している状態における視準指標141(これに対象物の像が重畳される)及び基準軸Lの位置関係並びに変位センサ451の検出対象を示す。ここで、視準座標x,yを規定する2つの基準軸は、基準軸Lに直交する面に対して光学的に平行であり、補正部400による補正レンズ410の変位は視準座標上での基準軸Lの変位に対応する。ユーザが接眼レンズ150を通じて対象物を観察すると、像ブレ補正機能が作動していない状態では、図3Aに示すように、視準指標141の中心(光軸Lの位置x,yに等しい)に基準軸L(位置x,y)が位置するように見える。つまり、視準指標141の中心に対象物上の目標が視準され、その目標に機体(すなわち、基準軸L)が向けられて基準軸Lに沿って測定光が照射されている。
【0050】
それに対して、手振れにより機体のブレが生じ、これに伴って像ブレ補正機能が作動すると、図3Bに示すように、視準指標141の中心から基準軸Lがシフトするように見える。つまり、機体のブレに伴って基準軸Lの向きが振れ、基準軸Lが対象物上の目標を外す。しかし、像ブレ補正機能が作動することで、測定光が照射される照射方向(すなわち、光軸L)は対象物上の目標を捉え続ける。それにより、基準軸Lは視準指標141の中心(位置x,y)からシフトするが、視準指標141の中心に対象物上の目標が視準されて測定光が照射される。このときの基準軸L(位置x,y)を基準とする視準指標141の中心(すなわち、光軸L)の変位Δx=x−x,Δy=y−yが、変位センサ451により検出される。
【0051】
図4A及び図4Bに、それぞれ、方位補正及び角度補正の一例を示す。処理部300は、変位センサ451の検出結果Δx,Δyに基づいて基準軸Lに対する照射方向の補正方位Δφ=tan−1(Δx/Z)及び補正角度Δθ=tan−1(Δy/Z)を決定する。ここで、Zは、発光部130の中心(レチクルプレート140上の視準指標141の視準中心Oに共役)から補正レンズ410までの光学的距離である。ここで、基準となる水平面(XZ平面)と補正レンズ410により偏向された光の照射方向との成す角度はYZ平面内における照射角度であり、第1センサ440で検出された機体の姿勢に対して、補正角度Δθを補正することにより求めることが出来る。また、補正レンズ410が変位したときの変位量と視準指標141の中心の変位ΔXとは同じ変位量でなくともよい。たとえば、補正レンズ410の変位量に対する視準指標141の中心の変位量の割合を補正係数としてあらかじめ求めておけば、変位センサ451による補正レンズ410の変位量を補正係数を用いて補正することで、視準指標141の中心の変位ΔXを求めることができる。
【0052】
なお、レチクルプレート140を駆動して位置合わせする場合、さらに変位センサ452の検出結果(レチクルプレート140の位置p,q)を用いて角度補正量(Δφ,Δθ)を算出してもよい。斯かる場合、処理部300は、変位センサ452の検出結果(レチクルプレート140の位置p,q)を逐次記憶し、ブレ検出センサ442の検出結果より機体のブレが検出された場合のレチクルプレート140の位置(p,q)と機体のブレを検出する前に記憶されたレチクルプレート140の位置(p,q)との差(Δp=p−p,Δq=q−q)を算出し、これを用いて位置合わせされたレチクルプレート140の位置を基準として補正方位Δφ=tan−1((Δx−Δp)/Z)及び補正角度Δθ=tan−1((Δy−Δq)/Z)を決定する。
【0053】
処理部300は、このように決定された補正方位Δφ及び補正角度Δθを用いて基準軸Lの方向(方位φ及び角度θ)を補正することで照射方向(方位φ=φ+Δφ及び角度θ=θ+Δθ)を決定する。すなわち基準座標の座標軸に対して測定光の照射方向を特定する。
【0054】
対象物までの水平距離d及び対象物上の測定光の照射点の高さHは、上で決定された対象物(上の測定光の照射点)までの直線距離D及び照射方向(特に、角度θ)に基づいて、d=Dcos(θ),H=Dsin(θ)より決定される。なお、水平距離は機体を基準とする水平面上での距離であり、高さは機体を基準とする鉛直軸上の位置(すなわち、測距装置10が位置する高さと対象物が位置する高さとの高低差)と定められる。ここで、角度θは、角度で表現するに限らず、cos(θ),sin(θ),tan(θ)のように三角関数で表現してもよい。
【0055】
処理部300は、決定した水平距離d、高さH、照射方向(方位φ及び角度θ)をレチクルプレート140の表示部142に表示する。処理部300は、決定したそれらの情報を記憶装置(不図示)に記憶してもよい。レチクルプレート140の表示部142は液晶を用いてもよく、また、水平距離等の検出結果をレチクルプレート140に投影して表示してもよい。
【0056】
なお、本実施形態に係る測距装置10では、処理部300は、像ブレ補正機能が動作した際にブレ補正された水平距離d、高さH、照射方向(方位φ及び角度θ)を表示部142に表示することとしたが、これに代えて、処理部300は、第1センサ440又は第2センサ450の検出結果に基づいて機体の姿勢のぶれを検知した場合に、検知する前に決定された水平距離d、高さH、及び照射方向を、現在、測定光が照射されている対象物までの水平距離d、高さH、及び照射方向として決定して、表示部142に表示することとしてもよい。或いは、表示部142の表示を止める、消すなどしてもよい。それにより、機体の姿勢のブレが生じた場合に、表示部142上の表示のブレを防止することができるし、表示部142にブレの発生を警告表示するなどしてもよい。
【0057】
また、処理部300は、変位センサ451による補正レンズ410の位置(又は変形量)の検出結果がブレ検出センサ442の検出結果から決定される機体の姿勢のブレ量に追従しているか否かを判断し、追従していると判断した場合に姿勢センサ441及びブレ検出センサ442の検出結果から決定される基準軸Lの方向を現在、測定光が照射されている照射方向として決定して表示部142に表示してもよい。斯かる場合、姿勢センサ441による機体の姿勢の検出結果に基づいて基準軸Lの方向(方位φ及び角度θ)を決定し、これをブレ検出センサ442による機体の姿勢のブレ量の検出結果を用いて補正することで照射方向を決定する。それにより、機体の姿勢のブレが生じた場合に、表示部142上の表示のブレを防止することができる。
【0058】
図5に、本実施形態に係る測定光の照射方向(すなわち、測定方向)、対象物までの距離、及び対象物の高さの測定方法の動作フローを示す。動作フローは、ユーザが操作ボタン133を押下することにより装置がオンされて、制御部132により開始される。
【0059】
ステップS1では、第1センサ440により、機体、すなわち基準軸Lに沿って対象物に測定光を照射する測距装置10の姿勢及びブレが検出される。ここで、第1センサ440に含まれる姿勢センサ441により機体の姿勢が検出され、ブレ検出センサ442により機体の姿勢のブレ量が検出される。
【0060】
ステップS2では、補正制御部430により、機体の姿勢のブレを検出したか否かを判断する。補正制御部430は、ブレ検出センサ442の検出結果から機体の姿勢のブレを検知するとともにブレ量を決定する。なお、決定されたブレ量が、例えば、駆動部420による補正レンズ410の駆動精度、すなわち像ブレ補正の精度を超えることをもってブレが検知されたとしてもよい。補正制御部430がブレを検知した場合、ステップS3に移行し、検知しなかった場合、ステップS7に移行する。
【0061】
ステップS3では、補正制御部430により、機体の姿勢のブレ量の検出結果に応じて目標補正量が決定される。目標補正量は、像ブレ補正における補正量の目標であり、補正レンズ410を駆動して基準軸Lに対して光軸Lを傾斜するための方位及び角度の目標変位量(dφ,dθ)である。補正制御部430は、ステップS1で決定された機体のブレ量に応じて目標補正量を決定する。通常、目標変位量(dφ,dθ)は機体のブレを相殺するように決定される。
【0062】
ステップS4では、補正制御部430により、目標補正量が補正限界を超えるか否かが判断される。補正制御部430は、ステップS2で決定された目標変位量(dφ,dθ)からこれらを与える補正レンズ410の目標駆動量(dx,dy)を導出し、これらが駆動部420により補正レンズ410を駆動することのできる範囲を超えるか否か判断する。補正制御部430が目標補正量が補正限界を超えないと判断した場合、ステップS1で検出された機体の姿勢のブレは比較的小さく、手振れによるものと判断することができるので、ステップS5に移行する。一方、補正制御部430が目標補正量が補正限界を超えると判断した場合、機体の姿勢のブレは比較的大きく、ユーザが意図的に機体の向き(すなわち、測定方向)を変えたことによるものと判断することができるので、ステップS6に移行する。
【0063】
ステップS5では、補正制御部430により、機体の姿勢のブレ量に応じて、すなわちステップS3で決定された目標補正量に基づいて補正レンズ410の位置が補正される。補正制御部430は、変位センサ451の検出結果から補正レンズ410の位置(又は変位)を決定し、それが目標駆動量に一致するように駆動部420を介して補正レンズ410を駆動制御する。それにより、補正レンズ410が目標駆動量に対応する位置に駆動され、光軸Lが基準軸Lに対する目標変位量(dφ,dθ)の方位及び角度に傾斜される。
【0064】
ステップS1〜S5により、ブレ補正光学系を駆動することで像ブレ補正が機能する。図2Bを用いて説明したように、補正レンズ410の位置を補正することにより測定光を偏向することで、機体の姿勢のブレに伴う基準軸Lの向きのブレが光学的に打ち消される、すなわち基準軸Lに対して光軸Lが傾斜してブレが生じる前の基準軸L上に重なり、測定光が対象物上の目標に照射され続けることとなり、これにより測定光が照射される照射方向(すなわち、測定方向)のブレを防いで像ブレ補正をすることができる。
【0065】
なお、補正レンズ410を基準軸Lに交差する方向に駆動することに代えて、補正レンズ410を基準軸Lに対して傾斜する方向に駆動すること、変形可能な光学素子を基準軸Lに対して非対称に変形すること、或いはこれらの任意の組み合わせによりブレ補正光学系を駆動してその位置又は形状を補正することで像ブレ補正をしてもよい。斯かる場合、ステップS2で決定された目標変位量(dφ,dθ)からこれらを与える補正レンズ410の目標傾斜量又は変形可能な光学素子の目標変形量を導出し、ステップS5においてこれらが補正レンズ410を傾斜又は光学素子を変形することのできる範囲を超えるか否か判断すればよい。
【0066】
ステップS6では、補正制御部430により、補正レンズ410が初期位置に駆動される。ここで、初期位置は、例えば、基準軸L上の位置と定めてよい。これにより、像ブレ補正機能が解除される。
【0067】
ステップS7では、第2センサ450(変位センサ451)により、補正レンズ410の位置(x,y)が検出される。その検出結果より、基準軸L(位置x,y)を基準とする補正レンズ410の変位Δx=x−x,Δy=y−yが決定される。
【0068】
ステップS8では、処理部300により、補正レンズ410の変位の検出結果に基づいて基準軸Lに対する照射方向の角度補正量、すなわち補正方位Δφ及び補正角度Δθが決定される。処理部300は、ステップS6で決定した補正レンズ410の変位Δx,Δyを用いて、照射方向の補正方位Δφ=tan−1(Δx/Z)及び補正角度Δθ=tan−1(Δy/Z)を決定する。ここで、Zは、レチクルプレート140上の視準指標141の視準中心Oから補正レンズ410までの光学的距離である。
【0069】
なお、補正レンズ410を基準軸Lに対して傾斜する方向に駆動する場合又は変形可能な光学素子を基準軸Lに対して非対称に変形する場合、第2センサ450により、補正レンズ410の傾斜又は光学素子の変形量を検出し、その検出結果より角度補正量(補正方位Δφ及び補正角度Δθ)を決定する。
【0070】
なお、レチクルプレート140を駆動して位置合わせする場合、さらに変位センサ452の検出結果(レチクルプレート140の位置p,q)を用いて角度補正量(Δφ,Δθ)を算出してもよい。斯かる場合、例えばステップS7において、変位センサ452によりレチクルプレート140の位置p,qを検出し、その検出結果を記憶する(図5の動作フローを繰り返す都度、記憶する)。ステップS8において、処理部300は、ブレ検出センサ442の検出結果より機体のブレが検出された場合のレチクルプレート140の位置(p,q)と機体のブレを検出する前に記憶されたレチクルプレート140の位置(p,q)との差(Δp=p−p,Δq=q−q)を算出し、これを用いて位置合わせされたレチクルプレート140の位置を基準として補正方位Δφ=tan−1((Δx−Δp)/Z)及び補正角度Δθ=tan−1((Δy−Δq)/Z)を決定する。
【0071】
ステップS9では、処理部300により、姿勢センサ441による機体の姿勢の検出結果に基づいて基準軸Lの方向(方位φ及び角度θ)が決定される。
【0072】
ステップS10では、処理部300により、機体の姿勢及び補正レンズ410の位置の検出結果に基づいて、測定光が照射されている照射方向が決定される。処理部300は、ステップS9で決定された基準軸Lの方向(方位φ及び角度θ)をステップS8で決定された照射方向の補正方位Δφ及び補正角度Δθを用いて補正することで、照射方向(方位φ=φ+Δφ及び角度θ=θ+Δθ)を決定する。
【0073】
ステップS11では、処理部300により、対象物上の測定光の照射点までの直線距離Dが決定される。まず、投光部100が、投光部100から基準軸Lに沿って対象物に向けて測定光を照射する。次いで、検出部200が、対象物からの反射光を検出する。最後に、処理部300が、検出部200の検出結果に基づいて、投光部100による測定光の照射から検出部200により反射光が検出されるまでの検出時間Tを決定し、光速cを用いて直線距離D=T×c/2を算出する。なお、検出時間Tは、測定光の複数回の照射に対してそれぞれ得られた結果を平均して決定してもよい。
【0074】
ステップS12では、処理部300により、対象物までの水平距離d及び対象物上の測定光の照射点の高さHが決定される。処理部300は、ステップS11で決定された直線距離D及びステップS10で決定された照射方向(特に、角度θ)に基づいて、水平距離d=Dcos(θ)及び高さH=Dsin(θ)を算出する。処理部300は、算出したそれらの情報を記憶装置(不図示)に記憶してもよい。
【0075】
ステップS13では、処理部300により、ステップS12で決定された水平距離d及び高さHが、照射方向(方位φ及び角度θ)とともにレチクルプレート140の表示部142に表示される。
【0076】
ステップS14では、処理部300により、補正動作を継続するか否かが判断される。処理部300は、例えば、ユーザが操作ボタン133を押下し続けて装置をオンしている場合に補正動作を継続すると判断してステップS1に戻り、ユーザが操作ボタン133を戻して装置をオフした場合に補正動作を継続しない(すなわち、終了する)と判断してフローを終了する。
【0077】
なお、本実施形態に係る測定方法では、姿勢センサ441による機体の姿勢の検出結果に基づいて基準軸Lの方向を決定し、これを変位センサ451による補正レンズ410の変位の検出結果を用いて補正することで照射方向を決定し、これを表示部142に表示することとしたが、ブレ検出センサ442による機体の姿勢のブレ又は変位センサ451による補正レンズ410の位置(又は変形量)の検出結果に基づいて機体の姿勢のブレを検知した場合に、検知する前に決定された水平距離d、高さH、及び照射方向を現在、測定光が照射されている対象物までの水平距離d、高さH、及び照射方向として決定し、これを表示部142に表示してもよい。或いは、表示部142の表示を止める、消すなどしてもよい。それにより、機体の姿勢のブレが生じた場合に、表示部142上の表示のブレを防止することができる。
【0078】
また、変位センサ451による補正レンズ410の位置(又は変形量)の検出結果がブレ検出センサ442の検出結果から決定される機体の姿勢のブレの量に追従しているか否かを判断し、追従していると判断した場合に姿勢センサ441及びブレ検出センサ442の検出結果から決定される基準軸Lの方向を現在、測定光が照射されている照射方向として決定し、これを表示部142に表示してもよい。斯かる場合、姿勢センサ441による機体の姿勢の検出結果に基づいて基準軸Lの方向(方位φ及び角度θ)を決定し、これをブレ検出センサ442による機体の姿勢のブレ量の検出結果を用いて補正することで照射方向を決定する。それにより、機体の姿勢のブレが生じた場合に、表示部142上の表示のブレを防止することができる。
【0079】
本実施形態に係る測距装置10及び測定方法によれば、処理部300により、第1センサ440(姿勢センサ441)による機体(すなわち、測距装置10)の姿勢の検出結果と第2センサ450(変位センサ451)による補正レンズ410の位置の検出結果とに基づいて、第1センサ440の検出結果から決定される機体の姿勢(方位φ及び角度θ)のブレに応じて位置が補正される補正レンズ410により偏向された測定光が実際に照射されている照射方向(すなわち、測定方向)を決定することができる。これにともない、対象物までの水平距離及び高さを正確に決定することができる。
【0080】
なお、本実施形態に係る測距装置10によれば、補正部400は、投光部100を含む機体の姿勢を検出する第1センサ440(姿勢センサ441)及び機体のブレを検出するブレ検出センサ442を含むこととしたが、例えば、ブレに対して十分な速度で応答して機体の姿勢を検出する姿勢センサ441のみを含むこととしてもよい。斯かる場合、第1センサ440の検出信号を一定の周期でサンプリングし、その移動平均(すなわち、時間平均)より機体の姿勢を決定し、移動平均からのずれを姿勢のブレと決定してよい。
【0081】
また、機体のブレとブレを補正するための光の偏向量との関係、及び、ブレを補正する補正光学系の光学素子の位置と光の偏向量との関係をあらかじめ補正テーブルとしてそれぞれ取得しておき、機体のブレが発生したときに補正する光学素子の位置は補正テーブルを参照して抽出してもよい。このとき、第2センサ450の検出結果と組合せることで、光学素子の位置の制御を高精度に行うことができるため、照射角度をより正確に決定することができる。また、第2センサ450の検出結果を使用せずに、第1センサ440の検出結果とブレを補正するための光の偏向量とに基づいて照射角度を決定してもよい。この場合、補正する光の偏向量に応じた光学素子の位置は補正テーブルを用いて抽出することができる。なお、補正テーブルは、装置に別途設けられた記憶部にあらかじめ記憶されていてもよいし、補正テーブルが記憶された記憶媒体により外部から装置に補正テーブルが読み込まれてもよい。
【0082】
また、本実施形態に係る測距装置10を、例えばデジカメ、ビデオカメラ等、任意の光学機器に備えてもよい。
【0083】
また、本実施形態では、像ブレ補正機能を搭載した測距装置10において当該機能により偏向された測定光が照射されている照射方向を決定し、これにより対象物までの水平距離及び高さを決定してユーザに対して表示したが、対象物を観察する観察光学系を有する光学機器、例えば視準及び防振機能付きスコープにおいて当該機能により偏向された測定光が照射されている照射方向を決定し、これにより対象物までの水平距離及び高さを決定してユーザに対して表示してもよい。斯かる場合、光学機器は、先述の測距装置10の構成各部と同等のユニットを用いて構成することができる。つまり、光学機器は、その機体の姿勢を検出する第1センサ440、ブレ検出センサ442により検出されたブレ量に基づいて駆動されるブレ補正光学系(例えば、補正レンズ410)、ブレ補正光学系の位置を検出する第2センサ450、第1センサ440及び第2センサ450の検出結果に基づいて、対象物を望む角度である観察角度を決定する処理部300を備えることができる。
【0084】
なお、対象物までの水平距離と高さに加えて、観察角度を更に表示してもよい。また、スコープにおいて測距機能を省略した場合は、表示部には水平距離と高さは表示されず、観察角度が表示される。
【0085】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【0086】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0087】
10…測距装置、100…投光部、110…対物レンズ、120…正立プリズム、122…ダイクロイック反射面、124,126…全反射面、130…発光部、132…制御部、133…操作ボタン、140…レチクルプレート、141…視準指標、142…表示部、143…レチクル制御部、150…接眼レンズ、200…検出部、210…受光レンズ、220…帯域透過フィルター、230…受光素子、240…変換部、300…処理部、400…補正部、410…補正レンズ、420…駆動部、430…補正制御部、440…第1センサ、441…姿勢センサ、442…ブレ検出センサ、450…第2センサ、451,452…変位センサ、L…光軸、L…基準軸、O…視準中心。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5