特許第6972316号(P6972316)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972316
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】空気調和機
(51)【国際特許分類】
   F25B 49/02 20060101AFI20211111BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   F25B49/02 540
   F25B1/00 391
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-513035(P2020-513035)
(86)(22)【出願日】2018年4月13日
(86)【国際出願番号】JP2018015533
(87)【国際公開番号】WO2019198228
(87)【国際公開日】20191017
【審査請求日】2020年8月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】特許業務法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】津村 渉子
(72)【発明者】
【氏名】長房 智之
(72)【発明者】
【氏名】月居 和英
(72)【発明者】
【氏名】井柳 友宏
(72)【発明者】
【氏名】安部 亮輔
【審査官】 森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−114067(JP,A)
【文献】 実開昭49−087043(JP,U)
【文献】 特開昭53−109225(JP,A)
【文献】 特開2007−255858(JP,A)
【文献】 特開2008−298206(JP,A)
【文献】 特開2004−353578(JP,A)
【文献】 特開2018−025371(JP,A)
【文献】 特開2014−214910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 49/02
F25B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機と、室外熱交換器とを有する室外機と、室内熱交換器を有する室内機と、前記圧縮機の内部の気体を外部に導くための開口弁とを備え、前記圧縮機、前記室外熱交換器、前記室内熱交換器が、冷媒配管で接続されて冷媒回路が形成されている空気調和機であって、
前記開口弁は、
円筒部と板状の閉塞部とを有し、前記円筒部の第1の端部は開放され、前記円筒部の第2の端部は前記閉塞部により閉塞され、前記円筒部は前記第1の端部を介して前記圧縮機と連通しており、
前記圧縮機の内部の圧力が、前記空気調和機の設計圧力より高く設定されている前記圧縮機の保証圧力より高く、かつ、前記圧縮機に破損が発生する圧力である破損圧力よりも低い開口圧力に達すると、前記円筒部と前記閉塞部の境界部分、若しくは前記閉塞部に開口が形成されるよう構成されており、
前記開口弁は、前記圧縮機の筐体に設けられており、
前記円筒部の内径は、前記圧縮機の前記筐体の胴部の内径の10分の1以上であり、前記閉塞部の板厚は前記圧縮機の前記筐体の板厚の10分の1以上である空気調和機。
【請求項2】
圧縮機と、室外熱交換器とを有する室外機と、室内熱交換器を有する室内機と、前記圧縮機の内部の気体を外部に導くための開口弁とを備え、前記圧縮機、前記室外熱交換器、前記室内熱交換器が、冷媒配管で接続されて冷媒回路が形成されている空気調和機であって、
前記開口弁は、
円筒部と板状の閉塞部とを有し、前記円筒部の第1の端部は開放され、前記円筒部の第2の端部は前記閉塞部により閉塞され、前記円筒部は前記第1の端部を介して前記圧縮機と連通しており、
前記圧縮機の内部の圧力が、前記空気調和機の設計圧力より高く設定されている前記圧縮機の保証圧力より高く、かつ、前記圧縮機に破損が発生する圧力である破損圧力よりも低い開口圧力に達すると、前記円筒部と前記閉塞部の境界部分、若しくは前記閉塞部に開口が形成されるよう構成されており、
前記開口弁は、前記圧縮機の筐体に設けられており、
前記円筒部の内径は、前記圧縮機の前記筐体の胴部の内径の10分の1以上であり、前記閉塞部の板厚は前記圧縮機の前記筐体の板厚の10分の1以上であり、
前記円筒部の板厚は、前記閉塞部の板厚よりも厚い、空気調和機。
【請求項3】
前記筐体は前記胴部と、前記胴部の上部に位置する天面部と、を有し
前記開口弁は、前記天面部において、前記冷媒配管とは別体の構成部材として設置されている請求項1又は2に記載の空気調和機。
【請求項4】
前記開口弁は、前記冷媒配管とは別体であり、前記圧縮機の前記胴部の側面に設けられている請求項1又は2に記載の空気調和機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機に関するものであり、より詳細には圧縮機の破損防止に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、セパレート型の空気調和機の移設若しくは廃棄の際、冷媒回路内の冷媒を室外機に回収するポンプダウンと呼ばれる強制冷房運転が行われる。ポンプダウンの実行中に冷媒回路内に大量の空気が混入すると、室外機に設けられている圧縮機の内部で空気圧縮が起こり、高温高圧の空気と冷凍機油が混合する。その結果、圧縮機内部の圧力が急激に上昇し、圧縮機の筐体が破損する可能性がある。
【0003】
特許文献1には、圧縮機の吐出室に連通する孔にリリーフバルブを取り付け、このリリーフバルブを破裂板で覆う構成が記載されている。リリーフバルブは、吐出室側から所定以上の圧力が作用すると開状態となるよう構成されている。また、破裂板は、リリーフバルブの作動圧力よりも低い圧力で作動し破裂するよう構成されている。圧縮機の動作に異常が生じ、圧縮機の吐出室内の圧力が所定以上の圧力になると、リリーフバルブが開き、破裂板が破裂する。その結果、吐出室内の冷媒が大気側に放出されて圧縮機内の圧力が低下し、高圧による圧縮機の破壊が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−353578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のリリーフバルブにはバネ体が用いられており、リリーフバルブと破裂板との間には気体貯留室が形成されている。そのため、圧縮機の内外を連通させるには、バネ体の付勢力に抗して弁体が押し上げられなければならない。従って、特許文献1に記載の構成では、ポンプダウンの実行中に発生する可能性のある急激な圧力の上昇に対応できない、という問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、圧縮機内の圧力が急激に上昇しても圧縮機の筐体が破損することのない空気調和機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る空気調和機は、圧縮機と、室外熱交換器とを有する室外機と、室内熱交換器を有する室内機と、前記圧縮機の内部の気体を外部に導くための開口弁とを備え、前記圧縮機、前記室外熱交換器、前記室内熱交換器が、冷媒配管で接続されて冷媒回路が形成されている空気調和機であって、前記開口弁は、円筒部と板状の閉塞部とを有し、前記円筒部の第1の端部は開放され、前記円筒部の第2の端部は前記閉塞部により閉塞され、前記円筒部は前記第1の端部を介して前記圧縮機と連通しており、前記圧縮機の内部の圧力が、前記空気調和機の設計圧力より高く設定されている前記圧縮機の保証圧力より高く、かつ、前記圧縮機に破損が発生する圧力である破損圧力よりも低い開口圧力に達すると、前記円筒部と前記閉塞部の境界部分、若しくは前記閉塞部に開口が形成されるよう構成されており、前記開口弁は、前記圧縮機の筐体に設けられており、前記円筒部の内径は、前記圧縮機の前記筐体の胴部の内径の10分の1以上であり、前記閉塞部の板厚は前記圧縮機の前記筐体の板厚の10分の1以上であるものである。
また、本発明に係る空気調和機は、圧縮機と、室外熱交換器とを有する室外機と、室内熱交換器を有する室内機と、前記圧縮機の内部の気体を外部に導くための開口弁とを備え、前記圧縮機、前記室外熱交換器、前記室内熱交換器が、冷媒配管で接続されて冷媒回路が形成されている空気調和機であって、前記開口弁は、円筒部と板状の閉塞部とを有し、前記円筒部の第1の端部は開放され、前記円筒部の第2の端部は前記閉塞部により閉塞され、前記円筒部は前記第1の端部を介して前記圧縮機と連通しており、前記圧縮機の内部の圧力が、前記空気調和機の設計圧力より高く設定されている前記圧縮機の保証圧力より高く、かつ、前記圧縮機に破損が発生する圧力である破損圧力よりも低い開口圧力に達すると、前記円筒部と前記閉塞部の境界部分、若しくは前記閉塞部に開口が形成されるよう構成されており、前記開口弁は、前記圧縮機の筐体に設けられており、前記円筒部の内径は、前記圧縮機の前記筐体の胴部の内径の10分の1以上であり、前記閉塞部の板厚は前記圧縮機の前記筐体の板厚の10分の1以上であり、前記円筒部の板厚は、前記閉塞部の板厚よりも厚い、ものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る空気調和機によれば、開口弁の円筒部の第1の端部は開放され、第1の端部を介して円筒部は圧縮機と連通しており、圧縮機の保証圧力より高く、かつ、圧縮機の破損圧力よりも低い開口圧力に達すると、開口弁は開口する。従って、圧縮機の内部の圧力が急激に上昇しても、圧縮機の筐体の破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態1に係る空気調和機の冷凍サイクル図である。
図2】本発明の実施の形態1に係る空気調和機の圧縮機の概略図である。
図3】本発明の実施の形態1に係る空気調和機の開口弁の構成を示す図である。
図4】本発明の実施の形態1に係る空気調和機の圧縮機の内部の圧力変化を示すグラフである。
図5】表1に示す実験結果に基づいて、圧縮機の回転数と圧力上昇速度との関係をグラフ化したものである。
図6】表2に示す実験結果に基づいて、開口弁の円筒部の内径と圧力開放速度との関係をグラフ化したものである。
図7】表3に示す実験結果に基づいて、開口弁における閉塞部の板厚と円筒部の内径の比と、圧縮機の内部の最大圧力との関係をグラフに表したものである。
図8】空気調和機の開口弁の他の例を示す図である。
図9】空気調和機の開口弁の他の例を示す図である。
図10】本発明の実施の形態2に係る空気調和機の圧縮機の概略図である。
図11】本発明の実施の形態3に係る空気調和機の冷凍サイクル図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明における空気調和機の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下に説明する実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、以下の図面においては各構成部材の大きさ及び形状は実際の装置とは異なる場合がある。
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る空気調和機の冷凍サイクル図である。空気調和機1は、室外機10と室内機20とを備えている。室外機10は、圧縮機11と、マフラー12と、四方向切換弁13と、室外熱交換器14と、冷媒減圧装置15と、液側閉鎖弁16と、ガス側閉鎖弁17と、室外送風機18とを有している。室内機20は、室内熱交換器21と、室内送風機22とを有している。圧縮機11、マフラー12、四方向切換弁13、室外熱交換器14、冷媒減圧装置15、液側閉鎖弁16、室内熱交換器21、及びガス側閉鎖弁17は、順次、冷媒配管30により接続されており、冷媒回路が形成されている。
【0012】
圧縮機11は、吸入した冷媒を圧縮して吐出する。圧縮機11は、例えばインバータ回路等により、運転周波数を任意に変化させることにより、圧縮機11の容量、すなわち単位時間あたりの冷媒を送り出す量を変化させるものである。マフラー12は、圧縮機11の吐出側に配置されている。マフラー12は、冷媒の脈動を低減させるものである。四方向切換弁13は、冷房運転時と暖房運転時とによって冷媒の流れを切り換える弁である。図1は、冷房運転のときの冷媒サイクルを示している。図1では、暖房運転時の冷媒回路については一部省略している。
【0013】
室外熱交換器14は、冷媒と室外の空気との熱交換を行う。室外熱交換器14は、暖房運転時においては蒸発器として機能し、冷媒を蒸発させ、気化させる。また、室外熱交換器14は、冷房運転時においては凝縮器として機能し、冷媒を凝縮して液化させる。冷媒減圧装置15は、冷媒を減圧して膨張させる。冷媒減圧装置15を、例えば電子式膨張弁で構成した場合には、不図示の制御装置の指示に基づいて冷媒減圧装置15の開度調整を行う。室外熱交換器14で冷媒と熱交換する室外の空気は、室外送風機18により室外熱交換器14に送り込まれる。
【0014】
室内熱交換器21は、空調対象となる空気と冷媒との熱交換を行う。室内熱交換器21は、暖房運転時においては凝縮器として機能し、冷媒を凝縮して液化させる。また、室内熱交換器21は、冷房運転時においては蒸発器として機能し、冷媒を蒸発させ、気化させる。室内熱交換器21で冷媒と熱交換する空気は、室内送風機22により室内熱交換器21に送り込まれる。
【0015】
図2は、本発明の実施の形態1に係る空気調和機の圧縮機の概略図である。圧縮機11は、筐体110と開口弁40を有している。筐体110は、天面部110Aと胴部110Bを有している。天面部110Aには冷媒配管30が接続されている。開口弁40は、圧縮機11の内部の気体を外部に導くための部材である。開口弁40は、天面部110Aの鏡板において、冷媒配管30とは別体の構成部材として設置されている。
【0016】
図3は、本発明の実施の形態1に係る空気調和機の開口弁の構成を示す図である。開口弁40は、円筒部41と板状の閉塞部42とを有しており、全体として円筒状を呈している。図3は、開口弁40を円筒部41の軸芯で切断した縦断面を示している。円筒部41の第1の端部41Aは開放され、円筒部41の第2の端部41Bは閉塞部42により閉塞されている。閉塞部42は平板状を呈している。
【0017】
開口弁40は、図2に示すように、円筒部41の第1の端部41Aが圧縮機11の内方に向けて開口し、第2の端部41Bが圧縮機11の外方に向くよう、圧縮機11に設けられている。円筒部41は、第1の端部41Aを介して圧縮機11と連通している。この構成により、圧縮機11内の気体は円筒部41に流れ込む。
【0018】
図4は、本発明の実施の形態1に係る空気調和機の圧縮機の内部の圧力変化を示すグラフである。図4を参照しながら、開口弁40の機能について説明する。図4のグラフは、縦軸に圧縮機11の内部の圧力Pをとり、横軸に時間Tをとっている。圧力Pの単位はMPaであり、時間Tの単位はsec、すなわち秒である。Pcompは、空気調和機1の設計圧力である。P1maxは、圧縮機11の保証圧力である。圧縮機11の保証圧力P1maxは、空気調和機1の設計圧力Pcompの約3倍である。圧縮機11は、保証圧力P1maxを担保するように設計されている。すなわち、圧縮機11の内部に加わる圧力が保証圧力P1maxよりも低ければ、圧縮機11は正常な運転が保証される。P2maxは、圧縮機11の破損圧力である。圧縮機11の破損圧力P2maxとは、圧縮機11に破損が発生する圧力であり、保証圧力P1maxに対し高圧側に公差を持った値となっている。すなわち、圧縮機11の内部に破損圧力P2max以上の圧力が加わると、圧縮機11は破損し、正常に動作しなくなる可能性がある。
【0019】
ポンプダウンの実行時、図1に示す室内機20の冷媒を室外機10へ回収するため、液側閉鎖弁16を全閉し、ガス側閉鎖弁17を全開にして、強制冷媒運転を行う。このとき、例えば、既に室外機10と室内機20とが切り離された状態でガス側閉鎖弁17が全開のまま、冷房運転が実行されると、冷媒回路内に大量の空気が混入する。その結果、圧縮機11の内部で空気圧縮が起こり、圧縮機11の圧力Pが破損圧力P2maxを上回るまで急激に上昇し、圧縮機11が破損する場合がある。
【0020】
図4の実線L1は、空気調和機1のポンプダウン実行中、冷媒回路内に大量の空気が混入し、圧縮機11の圧力Pが設計圧力Pcompを下回っていた状態から急激に上昇し、設計圧力Pcompを超え、さらに保証圧力P1maxを超えていく態様を示している。この場合、圧縮機11内の高圧ガスが圧縮機11の外に排出されないと、圧縮機11の圧力Pは、細破線L2で示すように、急激な上昇を続けて破損圧力P2maxを超えてしまう。
【0021】
そこで、本実施の形態1では、圧縮機11の圧力Pが急激に上昇した場合、開口弁40を介して、圧縮機11の内部の高圧ガスを排出するよう構成している。開口弁40は、圧縮機11の保証圧力P1maxより高く、かつ、圧縮機11の破損圧力P2maxより低い値に設定されている開口圧力Ppが加わると開口を開始するよう構成されている。すなわち、円筒部41に流れ込んだガスが閉塞部42を押圧する圧力が保証圧力P1maxを上回り、圧縮機11内の圧力の上昇により開口圧力Ppに達すると、円筒部41と閉塞部42との境界部分、若しくは閉塞部42自体に開口が形成される。そして、円筒部41が、圧縮機11の内部のガスを圧縮機11の外部に導く開放流路となる。
【0022】
さらに、開口弁40は、圧縮機11の圧力Pが保証圧力P1maxを上回ってから破損圧力P2maxに達するよりも速く、圧縮機11の内部のガスを圧縮機11の外部に導く開放流路が形成されるよう構成されている。図4に示す例では、圧縮機11の圧力Pが保証圧力P1maxを上回ってから破損圧力P2maxに達するまでの時間は、t2秒−t1秒である。この場合、本実施の形態1では、開口弁40が開口を開始してから、円筒部41が開放流路として機能するまでの時間が、t2秒−t1秒よりも短くなるよう、開口弁40は構成されている。この構成により、急激に上昇して保証圧力P1maxを超えた圧縮機11の圧力Pは、図4の太破線L3に示すように、破損圧力P2maxに達することなく降下する。
【0023】
本実施の形態1では、図3に示すように、開口弁40を円筒部41と閉塞部42で構成し、円筒部41の第1の端部41Aを圧縮機11と連通させている。ここで、開口弁40の円筒部41の内径及び閉塞部42の板厚について説明する。表1は、胴部110Bの内径が107mmであり、板厚が2.6mmである筐体110を有する圧縮機11を用いた場合の、圧縮機11の回転数と圧力上昇速度の関係を示す表である。図5は、表1に示す実験結果に基づいて、圧縮機11の回転数と圧力上昇速度との関係をグラフ化したものである。表1及び図5に示されるように、圧縮機の一般的な回転数である60rpsにおいて、圧力上昇速度は約200MPa/secである。圧縮機11の筐体を破損せずに圧縮機11内の圧力を開放するためには、圧力上昇速度を圧力開放速度が上回らなければならない。
【0024】
【表1】
【0025】
表2は、胴部110Bの内径が107mmであり、板厚が2.6mmである筐体110を有する圧縮機11を用いて、開口弁40の円筒部41の内径を変えて実験した場合の、開口弁40の内径と圧縮機11の圧力開放速度の関係を示す表である。図6は表2に示す実験結果に基づいて、開口弁40の円筒部41の内径と圧力開放速度との関係をグラフ化したものである。図6のグラフにおいて、圧力開放速度を縦軸にとり、円筒部41の内径を横軸にとっている。
【0026】
【表2】
【0027】
ここで、図6に示されるように、円筒部41の内径が11mm以上となると、圧力開放速度は200MPa/secを超える傾向がある。従って、円筒部41の内径を胴部110Bの内径の約10分の1以上にすれば、圧力開放速度は200MPa/secを上回り、圧力上昇速度を上回らせることができる。一方、圧縮機11の筐体若しくは開口弁40が内圧で破損した場合の、噴流の初期エネルギーは、内圧が同一であれば、破損の初期に圧縮機11の筐体若しくは開口弁40の破損部に発生する亀裂の長さに比例する。例えば、開口弁40の閉塞部42に真一文字に亀裂が入ったと仮定した場合、圧縮機11の筐体の破損と、開口弁40の開放による初期エネルギーの比は、圧縮機11の筐体の破損により圧縮機11の筐体に発生する亀裂長さ:開口弁40の直径である。すなわち、開口弁40の直径を小さくすればするほど、圧力開放時のエネルギーを小さくすることができる。これらの実験結果及び考察に基づき、本実施の形態1の円筒部41の内径は、図2の圧縮機11の筐体110の胴部110Bの内径の約10分の1以上に設定されている。より好ましくは、円筒部41の内径は、圧縮機11の筐体110の胴部110Bの内径の10分の1以上であって、上限は許容される圧力放時のエネルギーにより設定されている。
【0028】
表3は、上述の圧縮機11を用いて、開口弁40の閉塞部42の板厚と円筒部41の内径を変えて実験した場合の、開口弁40の閉塞部42、開口弁40の内径、圧縮機11の内部の最大圧力との関係を示す表である。図7は、表3に示す実験結果に基づいて、開口弁40における円筒部41の内径に対する閉塞部42の板厚の比と、圧縮機11の内部の最大圧力との関係をグラフに表したものである。図7のグラフにおいて、圧縮機11の内部の最大圧力を縦軸にとり、円筒部41の内径に対する閉塞部42の板厚の比を横軸にとっている。
【0029】
【表3】
【0030】
この実験結果に基づき、本実施の形態1の開口弁40の閉塞部42の板厚は、図2に示す圧縮機11の筐体110の板厚の約10分の1に設定されている。より好ましくは、閉塞部42の板厚は、圧縮機11の筐体110の板厚の10分の1以上であって、上限は円筒部41の内径との比率により決定する最大圧力により設定されている。さらに、円筒部41の板厚は、閉塞部42の板厚よりも厚くなっている。以上の構成により、開口弁40の上述の機能が実現されている。
【0031】
本実施の形態1によれば、圧縮機11の圧力が保証圧力P1maxを下回っている状態では、開口弁40は閉塞部42により閉塞されており、圧縮機11の圧力が保証圧力P1maxを上回り、開口圧力Ppに達すると、開口弁40は開口する。そして、圧縮機11の圧力が破損圧力P2maxに到達する前に、開放流路が確保される。従って、空気調和機1の通常の冷房運転及び暖房運転の機能及び性能に影響を与えることなく、圧縮機11の内部の急激な圧力上昇時における圧縮機11の破損を防止することができる。特に、圧縮機11の圧力Pの上昇の速度が、圧縮機11以外の冷媒回路の構成部品へ高圧ガスが伝搬する速度よりも速い場合であっても、圧縮機11の筐体110の破損を防止することができる。
【0032】
開口弁40の円筒部41の板厚は閉塞部42の板厚よりも厚いため、圧縮機11の内部の急激な圧力上昇に応じて開口弁40が開口した後、円筒部41の開放流路としての形状が維持される。
【0033】
空気調和機1に温度センサー若しくは圧力センサーを設け、それらのセンサーの検知結果に基づいて圧縮機11の運転停止を制御することも考えられる。しかしながら、このような制御では、運転停止の判断基準として設定した規定値を外れるような現象の発生、若しくはセンサーの反応速度より速い圧力上昇には対応することができず、圧縮機11に破損が生じる可能性がある。これに対し、本実施の形態1は、開口弁40の開口圧力Ppは、保証圧力P1maxより大きく、かつ破損圧力P2maxより低い値に設定され、さらに、保証圧力P1maxを上回ってから破損圧力P2maxに達するより速く、開放流路が形成される。従って、本実施の形態1によれば、圧縮機11の内部の急激な圧力上昇に対応することができ、圧縮機11の破損を防止することができる。
【0034】
また、本実施の形態1によれば、円筒部41の板厚は閉塞部42の板厚よりも厚くなっている。従って、閉塞部42と円筒部41との境界、若しくは閉塞部42に開口が形成され、高圧ガスが圧縮機11の外部に排出されるとき、開放流路としての円筒部41の形状が維持される。
【0035】
尚、開口弁40の閉塞部42の形状は、図3に示す形状に限るものではない。図8及び図9は、空気調和機の開口弁の他の例を示す図である。図8に示す開口弁50は、円筒部51と閉塞部52を有している。円筒部51の第1の端部51Aは開放し、第2の端部51Bは閉塞部52により閉塞されている。閉塞部52は、円筒部51の内側へ向かって凸状に湾曲して形成されている。図8の例においても、円筒部51の内径は、図2に示す圧縮機11の筐体110の胴部110Bの内径の約10分の1に設定され、閉塞部52の板厚は、図2に示す圧縮機11の筐体110の板厚の約10分の1に設定されている。より好ましくは、円筒部51の内径は、圧縮機11の筐体110の胴部110Bの内径の10分の1以上に設定され、閉塞部52の板厚は、圧縮機11の筐体110の板厚の10分の1以上に設定される。また、円筒部51の板厚は、閉塞部52の板厚よりも厚くなっている。
【0036】
図9に示す開口弁60は、円筒部61と閉塞部62を有している。円筒部61の第1の端部61Aは開放し、第2の端部61Bは閉塞部62により閉塞されている。閉塞部62は、円筒部61の外側へ向かって凸状に湾曲して形成されている。図9の例においても、円筒部61の内径は、図2に示す圧縮機11の筐体110の胴部110Bの内径の約10分の1に設定され、閉塞部62の板厚は、図2に示す圧縮機11の筐体110の板厚の約10分の1に設定されている。より好ましくは、円筒部61の内径は、圧縮機11の筐体110の胴部110Bの内径の10分の1以上に設定され、閉塞部62の板厚は、圧縮機11の筐体110の板厚の10分の1以上に設定される。また、円筒部61の板厚は、閉塞部62の板厚よりも厚くなっている。
【0037】
実施の形態2.
図10は、本発明の実施の形態2に係る空気調和機の圧縮機の概略図である。図10において、実施の形態1の圧縮機11の部材と同様の部材には同一の符号が付されている。図10に示すように、開口弁40は、冷媒配管30とは別体の部材であり、圧縮機11の胴部110Bの側面に設けられ、円筒部41の第1の端部41Aが圧縮機11の内部と連通している。開口弁40は、胴部110Bの上下方向において、圧縮機11の下部に貯留する冷凍機油の油面よりも高い位置に配置される。本実施の形態2によれば、上述の実施の形態1の効果と同様の効果が得られる。
【0038】
尚、本実施の形態2においても、開口弁40に替えて図8の開口弁50若しくは図9の開口弁60を圧縮機11の胴部110Bの側面に設けてもよい。
【0039】
実施の形態3.
図11は、本発明の実施の形態3に係る空気調和機の冷凍サイクル図である。図11において、実施の形態1の空気調和機1の部材と同様の部材には同一の符号が付されている。高圧領域70は、圧縮機11と室外熱交換器14とを接続する領域であり、圧縮機11から吐出される高圧ガスが流入する領域である。本実施の形態3では、高圧領域70の範囲内において、冷媒配管30に分岐管80を介して、実施の形態1又は2で説明したのと同様の開口弁40が設けられている。分岐管80は、3方向に分岐する分岐管である。分岐管80には、圧縮機11の吐出側に接続されている配管と、マフラー12に接続されている配管と、開口弁40の図3に示す第1の端部41Aとが接続されている。従って、上述の実施の形態1及び実施の形態2と同様、円筒部41は、第1の端部41Aを介して圧縮機11と連通している。この構成により、空気調和機1の冷媒回路の外部に高圧ガスを開放する開放流路が確保されている。
【0040】
高圧領域70には、マフラー12及び四方向切換弁13が含まれており、圧縮機11から吐出されるガス冷媒が高圧領域70へ流入する際の高圧領域70における圧力の上昇は均一ではない。従って、開口弁40の設置箇所の圧力が開口圧力Ppに到達する前に、圧縮機11内の圧力が保証圧力P1maxを上回らないよう、冷媒の流量と圧縮機11の吐出口からの距離とに基づいて、冷媒配管30における開口弁40の設置箇所を調整しなければならない。
【0041】
一方、図11に示すように、圧縮機11から室外熱交換器14までの高圧領域70にはマフラー12が含まれる場合がある。マフラー12は、空気調和機1が冷房運転されるとき、冷媒回路において圧縮機11の下流に位置する構成部品のうち、最も圧縮機11に近い位置に配置されている構成部品である。この場合、ポンプダウンによる強制冷房運転の実行中、高圧ガスが高圧領域70へ流入すると、マフラー12も破損する可能性がある。そこで、本実施の形態3では、冷媒配管30において、圧縮機11とマフラー12とを接続する配管に、分岐管80を介して開口弁40を設けている。すなわち、ポンプダウンが実行される際、冷媒回路においてマフラー12の上流となる位置に、開口弁40が配置される。
【0042】
本実施の形態3によれば、冷媒回路を形成している冷媒配管30に開口弁40が設けられている。従って、圧縮機11の従来の構成を変更することなく、ポンプダウンの実行中に急激な圧力上昇が発生しても、圧縮機11の破損を防止することができる。
【0043】
さらに、本実施の形態3によれば、ポンプダウンが実行される際、冷媒回路においてマフラー12の上流となる位置に、開口弁40が配置されている。従って、ポンプダウンの実行中に急激な上昇が発生しても、圧縮機11のみならず、マフラー12の破損も防止することができる。
【0044】
本実施の形態3においても、開口弁40に替えて図8の開口弁50若しくは図9の開口弁60を、分岐管80に取り付けてもよい。
【0045】
尚、分岐管80は3方向以上に分岐する分岐管であればよく、分岐している管のうちの1つに開口弁40が設けられていればよい。
【符号の説明】
【0046】
1 空気調和機、10 室外機、11 圧縮機、12 マフラー、13 四方向切換弁、14 室外熱交換器、15 冷媒減圧装置、16 液側閉鎖弁、17 ガス側閉鎖弁、18 室外送風機、20 室内機、21 室内熱交換器、22 室内送風機、30 冷媒配管、40 開口弁、41 円筒部、41A 第1の端部、41B 第2の端部、42 閉塞部、50 開口弁、51 円筒部、51A 第1の端部、51B 第2の端部、52 閉塞部、60 開口弁、61 円筒部、61A 第1の端部、61B 第2の端部、62 閉塞部、70 高圧領域、80 分岐管、110 筐体、110A 天面部、110B 胴部、P 圧力、P1max 保証圧力、P2max 破損圧力、Pp 開口圧力。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11