(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
集電装置から電力変換部の一次側に供給される電力を前記電力変換部で変換して、前記電力変換部の二次側に接続される電動機に供給する電力変換システムにおいて、前記集電装置が電力供給線から離れた状態であるか否かを判定する鉄道車両用制御装置であって、
前記電力変換部の前記一次側の電圧を取得し、前記一次側の電圧の変化率を算出する変化率算出部と、
前記電力変換部の出力電力と正の相関を有し、前記出力電力の時間変化に伴って、時間変化する物理量を用い、絶対値が前記物理量と正の相関を有し、前記物理量の時間変化に伴って、時間変化する第1閾値を算出する第1閾値算出部と、
前記変化率と前記第1閾値とを比較して、前記集電装置が前記電力供給線から離れた状態であるか否かを判定する離線判定部と、
を備える鉄道車両用制御装置。
集電装置から電力変換部の一次側に供給される電力を前記電力変換部で交流電力に変換して、前記電力変換部の二次側に接続される電動機に供給する電力変換システムにおいて、前記集電装置が電力供給線から離れた状態であるか否かを判定する鉄道車両用制御装置であって、
前記電力変換部の出力電力と正の相関を有し、前記出力電力の時間変化に伴って、時間変化する物理量を用い、絶対値が前記物理量と正の相関を有し、前記物理量の時間変化に伴って時間変化する第2閾値を算出する第2閾値算出部と、
前記集電装置から前記電力変換部に流れる電流と前記第2閾値とを比較して、前記集電装置が前記電力供給線から離れた状態であるか否かを判定する離線判定部と、
を備える鉄道車両用制御装置。
鉄道車両の力行指令またはブレーキ指令を含む運転指令を取得し、前記運転指令に応じて、前記電力変換部が有するスイッチング素子の動作を制御して前記電動機のトルクを調節するトルク制御部をさらに備え、
前記トルク制御部は、前記運転指令が前記力行指令を含み、前記離線判定部で前記集電装置が前記電力供給線から離れた状態であると判定された場合に、目標トルクを減少させる、
請求項1から6のいずれか1項に記載の鉄道車両用制御装置。
前記運転指令を取得し、前記運転指令が前記力行指令を含み、前記離線判定部で前記集電装置が前記電力供給線から離れた状態であると判定された場合に、前記トルク制御部が前記目標トルクを減少させた後に、前記集電装置と前記電力変換部の間に設けられた接触器を開放する接触器制御部をさらに備える、
請求項7に記載の鉄道車両用制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係る鉄道車両用制御装置および離線判定方法について図面を参照して詳細に説明する。なお図中、同一または同等の部分には同一の符号を付す。
【0011】
(実施の形態1)
図1に示す本発明の実施の形態1に係る鉄道車両用電力変換システム(以下、電力変換システムという)1は、電気鉄道車両に搭載される。電力変換システム1には、電気鉄道車両の運転台から運転指令が入力される。運転指令は、電気鉄道車両の加速を指示する力行指令、または、電気鉄道車両の減速を指示するブレーキ指令を含む。詳細には、力行指令は電気鉄道車両の目標加速度を示し、ブレーキ指令は電気鉄道車両の目標減速度を示す。運転指令が力行指令を含む場合、すなわち、力行時に、電力変換システム1は、電力供給線の一例である架線2を介して、直流電源の一例である図示しない変電所から直流電力を取得する。そして、電力変換システム1は、該直流電力を所望の交流電力に変換して、電動機8に供給することで、電動機8を駆動する。電動機8が駆動されると、電気鉄道車両の推進力が得られる。
【0012】
電力変換システム1は、集電装置の一例であって、架線2を介して変電所から直流電力を取得するパンタグラフ3、および、一次側から供給される電力を変換して二次側から、電動機8に供給する電力変換部12を備える。電力変換部12は、一次側から供給される直流電力を交流電力に変換し、二次側に接続される電動機8に供給する。また電力変換システム1は、電力変換部12を制御し、パンタグラフ3と電力変換部12との間の電気的接続を切り替える接触器4,5を制御する鉄道車両用制御装置(以下、制御装置という)20を備える。制御装置20は、上述の制御に加えて、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定する。
【0013】
電気鉄道車両が運行を開始する際には、パンタグラフ3が上昇して、架線2に接触する。その後、制御装置20は、接触器4を開放している状態で、接触器5を投入する。接触器5にはブレーキ抵抗6が直列に接続されており、パンタグラフ3から接触器5およびブレーキ抵抗6を介して電力変換部12に電力が供給されるため、電力変換部12に突入電流が流れることが抑制される。制御装置20は、接触器4よりパンタグラフ3に近い位置に設けられる電圧検出部13が検出した、接触器4のパンタグラフ3の側の電圧ESと、電圧検出部14が検出した、電力変換部12の一次側に接続されたフィルタコンデンサ11の電圧EFCとが一致するか否かを判別し、一致するとみなせる場合、接触器4を投入し、接触器5を開放する。その後、力行時に、制御装置20は、電力変換部12が、パンタグラフ3から接触器4および平滑用のリアクトル7を介して供給される直流電力を所望の交流電力に変換するように、電力変換部12のスイッチング素子を制御する。詳細には、制御装置20は、力行指令が示す目標加速度を得るための目標トルクを算出し、また、電動機8に流れる電流から電動機8の実トルクを算出する。そして、制御装置20は、実トルクを目標トルクに近づけるために、電力変換部12のスイッチング素子の動作を制御する。なお電動機8として三相誘導電動機が用いられ、制御装置20は、電動機8に流れるU相、V相、W相の電流を検出する電流検出部10から電動機8に流れる相電流を取得する。
【0014】
さらに制御装置20は、力行時に、電力変換部12の一次側の電圧、すなわち、電圧検出部14が検出したフィルタコンデンサ11の電圧に基づき、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定する。詳細には、制御装置20は、フィルタコンデンサ11の電圧の変化率の絶対値、および、絶対値が電動機8の実トルクと正の相関を有する第1閾値とを比較して、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定する。なお制御装置20は、例えば、速度センサ9から取得した電動機8の回転速度、電動機8の実トルク、電動機8の効率から電力変換部12の出力電力を算出し、電力変換部12の出力電力から第1閾値を算出する。速度センサ9は、電動機8の軸に取り付けられているPG(Pulse Generator:パルスジェネレータ)を有し、PGから出力されるパルス信号に基づいて、電動機8の回転速度を算出する。フィルタコンデンサ11の電圧の変化率の絶対値が第1閾値未満である場合、制御装置20は、パンタグラフ3が架線2から離れた状態でない、すなわち、パンタグラフ3が架線2に接触している状態であると判定する。この場合、制御装置20は、上述のように、実トルクを目標トルクに近づけるために、電力変換部12が有するスイッチング素子の動作を制御する。
【0015】
制御装置20は、力行時に、フィルタコンデンサ11の電圧の変化率の絶対値が第1閾値以上である場合、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定する。この場合、制御装置20は、接触器4を開放して、電力変換部12をパンタグラフ3から電気的に切り離す。電力変換部12がパンタグラフ3から電気的に切り離されているため、パンタグラフ3が架線2から離れた後に、架線2に再接触しても、パンタグラフ3が取得した電力は電力変換部12には供給されない。その後、パンタグラフ3が架線2に再接触した場合の制御装置20による接触器4,5の制御は、上述した電気鉄道車両が運行を開始する際の制御と同様である。再接触の場合も、電気鉄道車両が運行を開始する際と同様に、接触器4を開放した状態で、接触器5を投入する。その結果、パンタグラフ3から接触器5およびブレーキ抵抗6を介して電力変換部12に電力が供給されるため、電力変換部12に突入電流が流れることが抑制される。
【0016】
図2に示すように、制御装置20は、フィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化率を算出する変化率算出部21、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かの判定に用いられる第1閾値を算出する第1閾値算出部22、および、変化率と第1閾値に基づき、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定する離線判定部23を備える。制御装置20はさらに、電動機8の目標トルクを算出する目標算出部24、目標トルクと実トルクに基づき、電力変換部12が有するスイッチング素子の動作を制御するトルク制御部25、および、接触器4,5の投入または開放を行う接触器制御部26を備える。
【0017】
制御装置20の各部の概略について説明する。鉄道車両が運行を開始し、運転指令が力行指令を含む場合、目標算出部24は、力行指令が示す目標加速度を得るために必要な電動機8の目標トルクを算出し、トルク制御部25に送る。トルク制御部25は、電流検出部10で検出した相電流から電動機8の実トルクを算出する。そして、トルク制御部25は、実トルクを目標トルクに近づけるために、電力変換部12のスイッチング素子の動作を制御する。また、変化率算出部21は、電圧検出部14からフィルタコンデンサ11の電圧EFCを取得し、単位時間ΔTにおけるフィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化量ΔEFCを単位時間ΔTで除算して、フィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化率ΔEFC/ΔTを算出する。第1閾値算出部22は、電力変換部12の出力電力と正の相関を有し、出力電力の時間変化に伴って、時間変化する物理量を用い、絶対値が物理量と正の相関を有し、物理量の時間変化に伴って、時間変化する第1閾値を算出する。詳細には、第1閾値算出部22は、物理量として、トルク制御部25が算出した電動機8の実トルクを用い、実トルクから電力変換部12の出力電力を算出し、絶対値が出力電力と正の相関を有し、出力電力の時間変化に伴って、時間変化する第1閾値を算出する。
【0018】
離線判定部23は、変化率ΔEFC/ΔTおよび第1閾値に基づいて、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定する。離線判定部23が、パンタグラフ3が架線2から離れた状態でないと判定している場合、トルク制御部25は、上述のように、実トルクを目標トルクに近づけるために、電力変換部12のスイッチング素子の動作を制御する。一方、離線判定部23が、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定した場合、トルク制御部25は、目標算出部24から取得した目標トルクを段階的に減少させて、実トルクを減少させた目標トルクに近づけるために、電力変換部12のスイッチング素子の動作を制御する。そして、トルク制御部25は、上述のように目標トルクを段階的に減少させて、最終的に、電力変換部12のスイッチング素子をオフにする。離線判定部23が、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定すると、接触器制御部26は、接触器4を開放する。また接触器制御部26は、電気鉄道車両の運行を開始する際、パンタグラフ3が架線2に接触した場合に、接触器4を開放している状態で、接触器5を投入する。その後、接触器制御部26は、電圧ESが電圧EFCと一致するとみなせる場合に、接触器5を投入してから接触器4を開放する。
【0019】
制御装置20の各部の詳細について以下に説明する。変化率算出部21は、単位時間ΔTにおけるフィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化量ΔEFCを単位時間ΔTで除算して、変化率ΔEFC/ΔTを算出する。単位時間ΔTは、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かの判定にかけることができる時間に応じて決められ、例えば数10msecとする。上述の演算を行うため、変化率算出部21は、時素リレー、差分検出回路、および、除算器を有する。差分検出回路は、電圧検出部14が検出した電圧EFCと、時素リレーで単位時間ΔTだけ遅延された電圧EFCの差分を出力する。除算器は、差分検出回路の出力を単位時間ΔTで除算した値を出力する。除算器の出力が、変化率ΔEFC/ΔTとなる。上述したように、フィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化率は、電力変換部12の出力電力によって変化する。ここでフィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化について、
図3を用いて説明する。時刻t1でパンタグラフ3が架線2から離れた場合を例にして説明する。なお時刻t2は、時刻t1からΔTが経過した時刻である。
図3において、横軸は時間を示し、縦軸はフィルタコンデンサ11の電圧EFCを示す。また
図3において、出力電力がW1の場合を太い実線で示し、出力電力がW2の場合を細い実線で示す。なおW1はW2より大きいものとする。
【0020】
時刻t1までのフィルタコンデンサ11の電圧EFCの値をE0とする。時刻t1においてパンタグラフ3が架線2から離れると、フィルタコンデンサ11の電圧EFCはE0から減少し始める。出力電力がW1の場合、フィルタコンデンサ11の電圧EFCは、時刻t2においてE1に到達する。時刻t2において、変化率ΔEFC/ΔTは、(E1−E0)/ΔTで表される。また出力電力がW2の場合、フィルタコンデンサ11の電圧EFCは、時刻t2においてE2に到達する。なお出力電力が大きくなるにつれて、単位時間ΔTにおけるフィルタコンデンサ11の電圧の変化量ΔEFCも大きくなるため、E2>E1となる。時刻t2において、変化率ΔEFC/ΔTは、(E2−E0)/ΔTで表される。上述したように、E2>E1であるから、|(E1−E0)/ΔT|>|(E2−E0)/ΔT|となる。すなわち、出力電力が大きくなると、フィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化率ΔEFC/ΔTの絶対値が大きくなる。フィルタコンデンサ11の電圧の変化率の絶対値|ΔEFC/ΔT|を、固定値である閾値と比較してパンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定すると、出力電力W1の場合はパンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定するが、出力電力W2の場合はパンタグラフ3が架線2から離れた状態でないと判定することが起こり得る。
【0021】
そこで、制御装置20は、絶対値が電動機8の実トルクと正の相関を有する第1閾値を用いて、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定する。第1閾値算出部22は、絶対値が電動機8の実トルクと正の相関を有する第1閾値を算出する。
図2に示すように、第1閾値算出部22は、トルク制御部25から、トルク制御部25が算出した電動機8の実トルクを取得する。第1閾値算出部22は、下記(1)式に示すように、電動機8の実トルクに基づき、電力変換部12の出力電力Wを算出する。下記(1)式において、Nは、電動機8の回転速度を示し、Trqは、電動機8の実トルクを示し、η
TMは、電動機8の効率を示す。
W=2π・Trq・N/η
TM ・・・(1)
【0022】
そして、第1閾値算出部22は、出力電力Wに基づき、第1閾値を算出する。第1閾値の一例として、出力電力Wに比例する第1閾値を
図4に示す。
図4において、横軸は電力変換部12の出力電力Wを示し、縦軸は第1閾値を示す。
図4において、出力電力WがW1の場合の第1閾値Th1をTh1_1とし、出力電力WがW2である場合の第1閾値Th1をTh1_2とする。なおTh1_1は、Th1_2より大きいものとする。第1閾値算出部22は、算出した第1閾値Th1を離線判定部23に送る。詳細には、第1閾値算出部22は、下記(2)式で表されるように、出力電力Wに比例する第1閾値Th1を算出する。下記(2)式において、Wは上記(1)式に基づいて算出した電動機8の出力電力を示し、時素リレーで遅らされた値とするす。またE
Dは、時素リレーで遅らされた電圧EFCを示す。η
INVは、インバータ効率を示す。C1はフィルタコンデンサ11の静電容量を示す。該時素リレーで遅らされる時間は、上述のフィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化率の算出に用いられる単位時間ΔT以上の長さとする。下記(2)式において、Kは1以下の正の係数を示し、第1閾値Th1の大きさの調節のために設定される。なおパンタグラフ3が架線2から離れてフィルタコンデンサ11の電圧EFCが減少し始めても、時素リレーにより、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定している間、パンタグラフ3が架線2から離れる前の値に維持される。
Th1=K・(1/C)・(W/(E
D・η
INV)) ・・・(2)
【0023】
離線判定部23は、フィルタコンデンサ11の電圧の変化率ΔEFC/ΔTの絶対値|ΔEFC/ΔT|が第1閾値Th1以上である場合に、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定する。離線判定部23は、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定した場合にH(High)レベルであり、パンタグラフ3が架線2から離れた状態でないと判定した場合にL(Low)レベルである離線判定信号S2をトルク制御部25および接触器制御部26に送る。第1閾値Th1が電力変換部12の出力電力に比例するため、出力電力の変化によって、フィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化率ΔEFC/ΔTが変化しても、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを精度良く判定することが可能である。
【0024】
トルク制御部25は、上述の電流検出部10から取得した電動機8に流れる相電流に応じて電動機8の実トルクを算出する。離線判定信号S2がLレベルである間は、トルク制御部25は、電動機8の実トルクを目標トルクに近づけるために、電力変換部12が有するスイッチング素子の動作を制御する。詳細には、トルク制御部25は、電力変換部12が有するスイッチング素子に対し、スイッチング制御信号S1を出力する。離線判定信号S2がHレベルになると、トルク制御部25は、運転指令によらず、目標算出部24から取得した目標トルクを段階的に減少させて、実トルクを減少させた目標トルクに近づけるために、電力変換部12が有するスイッチング素子の動作を制御する。そして、トルク制御部25は、上述のように目標トルクを段階的に減少させて、最終的に、電力変換部12が有するスイッチング素子をオフにする。詳細には、トルク制御部25は、段階的に減少する目標トルクに応じたスイッチング制御信号S1を、電力変換部12が有するスイッチング素子に出力する。トルク制御部25は、電力変換部12のスイッチング素子をオフにすると、電力変換部12のスイッチング素子がオフになった旨を接触器制御部26に通知する。
【0025】
上述したように、電気鉄道車両の運行中は、接触器4が投入され、接触器5は開放されている。力行時に、離線判定信号S2がHレベルになり、かつ、トルク制御部25から電力変換部12のスイッチング素子がオフになった旨の通知を受けると、接触器制御部26は、接触器4を開放する。その結果、接触器4,5が共に開放された状態となり、電力変換部12は、パンタグラフ3から電気的に切り離される。
【0026】
電力変換部12がパンタグラフ3から電気的に切り離された状態では、パンタグラフ3が架線2に再接触しても、突入電流が電力変換部12および電動機8に流れることはない。パンタグラフ3が架線2から離れた後、架線2に再接触した場合の制御装置20による接触器4,5の制御は、上述した電気鉄道車両が運行を開始する際の制御と同様である。
【0027】
上述の構成を有する制御装置20の動作について説明する。電気鉄道車両の運転台から運転指令として力行指令が入力されると、目標算出部24は、上述のように、電動機8の目標トルクを算出し、トルク制御部25に送る。そして、トルク制御部25は、電動機8の実トルクを算出し、電動機8の実トルクを目標トルクに一致させるために、電力変換部12のスイッチング素子の動作を制御する。また、運転台から運転指令として力行指令が入力されると、上記のトルク制御部25の処理と並行して、以下に説明する離線判定処理が開始される。離線判定処理について、
図5を用いて説明する。
【0028】
変化率算出部21は、フィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化率ΔEFC/ΔTを算出する(ステップS11)。第1閾値算出部22は、電動機8の実トルクに基づいて、絶対値が電動機8の実トルクと正の相関を有する第1閾値Th1を算出する(ステップS12)。離線判定部23は、フィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化率の絶対値|ΔEFC/ΔT|と第1閾値Th1とを比較する(ステップS13)。フィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化率の絶対値|ΔEFC/ΔT|が第1閾値Th1以上でない場合(ステップS13;N)、制御装置20は上述の処理を繰り返し行う。フィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化率の絶対値|ΔEFC/ΔT|が第1閾値Th1以上である場合(ステップS13;Y)、離線判定部23は、離線判定信号S2をHレベルとし、Hレベルの離線判定信号S2をトルク制御部25および接触器制御部26に送る(ステップS14)。Hレベルの離線判定信号S2を取得したトルク制御部25は、目標トルクを段階的に減少させて、電力変換部12が有するスイッチング素子の動作を制御し、電力変換部12のスイッチング素子をオフにする(ステップS15)。トルク制御部25は、電力変換部12のスイッチング素子をオフにすると、その旨を接触器制御部26に通知する。電力変換部12のスイッチング素子がオフになった旨を通知された接触器制御部26は、接触器4を開放する(ステップS16)。ステップS16の処理が終了すると、制御装置20は、離線判定処理を終了する。接触器4が開放された後、上述したように接触器制御部26によって、再び接触器4が投入される。その後、運転台から運転指令として力行指令が入力されると、制御装置20は、上記ステップS11の処理を再び開始する。
【0029】
以上説明したとおり、実施の形態1に係る制御装置20によれば、絶対値が電動機8の実トルクと正の相関を有する第1閾値を用いてパンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定することで、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かの判定の精度を高めることが可能である。また力行時に、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定すると、接触器4を開放することで、パンタグラフ3が架線2に再度接触する際に電力変換部12に突入電流が流れることが抑制される。
【0030】
(実施の形態2)
実施の形態1では、力行時にパンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定したが、運転指令がブレーキ指令を含み、電動機8が発電機として動作する場合、すなわち、回生ブレーキ時にもパンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定することができる。実施の形態2では、回生ブレーキ時にパンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定する制御装置20について説明する。なお実施の形態2では、回生ブレーキ時にパンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定する制御装置20について説明するが、力行時および回生ブレーキ時のそれぞれにおいて、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定してもよい。
図6に示すように、実施の形態2に係る電力変換システム1は、フィルタコンデンサ11の電圧を下げる降圧回路の一例としてチョッパ回路15を備える。実施の形態2に係る電力変換システム1は、チョッパ回路15を備えて、電圧検出部13を備えない点において、実施の形態1に係る電力変換システム1と異なる。
【0031】
実施の形態2において、電力変換部12は、一次側と二次側の双方向の電力変換を行う。運転指令がブレーキ指令を含むと、制御装置20は、電力変換部12が、電動機8で生じる回生電力を直流電力に変換するために、電力変換部12のスイッチング素子の動作を制御する。電力変換部12は、該直流電力を、架線2を介して他の電気鉄道車両に搭載されている電力変換システム1に供給する。架線2を介して他の電気鉄道車両に搭載された電力変換システム1に電力を供給するためには、フィルタコンデンサ11の電圧は架線電圧より大きい必要がある。またフィルタコンデンサ11の電圧が架線電圧に対して大きすぎると、架線2における過電圧が生じるため、フィルタコンデンサ11の電圧は、所望の範囲に維持される必要がある。そこで、フィルタコンデンサ11の電圧を調節するために、チョッパ回路15が、電力変換部12の一次側において、電力変換部12に並列に接続される。チョッパ回路15は、直列に接続されたスイッチング素子16およびブレーキ抵抗17を有する。スイッチング素子16は、電力変換部12からブレーキ抵抗17への電路を切り替える。回生ブレーキ時のフィルタコンデンサ11の電圧EFCが、後述する開始電圧以上になると、制御装置20は、チョッパ回路15を動作させる。チョッパ回路15が動作することで、電力変換部12が出力する電力がチョッパ回路15で消費され、フィルタコンデンサ11の電圧が低減する。
【0032】
回生ブレーキ時であって、パンタグラフ3が架線2から離れていない場合は、フィルタコンデンサ11の電圧EFCが開始電圧以上となった場合にチョッパ回路15を動作させることで、フィルタコンデンサ11の電圧が所望の範囲に維持される。一方、回生ブレーキ時にパンタグラフ3が架線2から離れる際に、フィルタコンデンサ11の電圧の上昇を抑制しなければ、フィルタコンデンサ11の電圧EFCが開始電圧に達して、チョッパ回路15が動作開始するまでに、接触器4よりパンタグラフ3の側の回路で過電圧が生じることがある。そこで、制御装置20は、回生ブレーキ時にパンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定した場合、フィルタコンデンサ11の電圧EFCが開始電圧未満であっても、チョッパ回路15を動作させる。
【0033】
図7に示すように、制御装置20は、実施の形態1に係る制御装置20が有する接触器制御部26に代えて、回路制御部27を備える。変化率算出部21、第1閾値算出部22、および離線判定部23は、実施の形態1と同様である。目標算出部24は、ブレーキ指令が示す目標減速度を得るために必要な電動機8の目標トルクを算出し、トルク制御部25に送る。トルク制御部25は、実トルクを目標トルクに一致させるために、電力変換部12が有するスイッチング素子の動作を制御する。変化率算出部21は、回生時の目標トルクTrqおよび回転速度ωを用いて、上記(1)式から、回生電力Wを算出し、回生電力Wおよび上記(2)式から、第1閾値Th1を算出する。回生時には、
図3とは逆に、フィルタコンデンサ11の電圧が上昇する。電動機8のトルクが大きくなると、フィルタコンデンサ11の電圧の変化率ΔEFC/ΔTも大きくなる。したがって、実施の形態1と同様に、絶対値が電動機8のトルクと正の相関を有し、電動機8のトルクの時間変化に伴って、時間変化する第1閾値Th1を用いて、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定することができる。判定結果に基づいて、離線判定部23は、離線判定信号S2を回路制御部27に送る。トルク制御部25は、回生ブレーキ時に、実トルクを目標トルクに一致させるために、電力変換部12が有するスイッチング素子の動作を制御する。実施の形態2において、トルク制御部25は、離線判定信号S2を受け取らない。換言すれば、所望の回生ブレーキ力を生じさせるために、トルク制御部25は、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定されても、電力変換部12が有するスイッチング素子をオフにしない。回路制御部27は、フィルタコンデンサ11の電圧EFCに応じた通流率に基づいて、スイッチング素子16の通流率を調節する。
【0034】
パンタグラフ3が架線2から離れていない、すなわち、離線判定信号S2がLレベルであって、フィルタコンデンサ11の電圧EFCが開始電圧E
int以上である場合に、回路制御部27は、チョッパ回路15が有するスイッチング素子16の通流率を調節する。詳細には、離線判定信号S2がLレベルである場合に、フィルタコンデンサ11の電圧EFCが開始電圧E
intに達すると、回路制御部27は、スイッチング素子16の通流率を0より大きくする。換言すれば、フィルタコンデンサ11の電圧EFCが開始電圧E
int未満である場合、スイッチング素子16はオフのままである。なお回路制御部27は、
図8に細い実線で示すように、フィルタコンデンサ11の電圧EFCに応じた通流率でスイッチング素子16を制御する。フィルタコンデンサ11の電圧EFCに応じた通流率は、最小通流率R
MINから最大通流率R
MAXまでフィルタコンデンサ11の電圧EFCに応じて連続的に変化する値である。
図8に細い実線で示すように、フィルタコンデンサ11の電圧EFCの増大に伴って、通流率は、最小通流率R
MINから最大通流率R
MAXまで増大する。なお開始電圧E
intは、架線電圧の許容範囲に応じて定められる。
【0035】
一方、パンタグラフ3が架線2から離れる、すなわち、離線判定信号がHレベルとなった場合は、回路制御部27は、フィルタコンデンサ11の電圧EFCによらず、チョッパ回路15を動作させる。詳細には、離線判定信号S2がHレベルになると、回路制御部27は、フィルタコンデンサ11の電圧EFCに応じた通流率でスイッチング素子16を制御する。
図8に太い実線で示すように、フィルタコンデンサ11の電圧EFCの増大に伴って、通流率は、最小通流率R
MINから最大通流率R
MAXまで増大する。フィルタコンデンサ11の電圧EFCによらず、チョッパ回路15を動作させることで、パンタグラフ3が架線2から離れた際は直ちにチョッパ回路15を動作させ、接触器4よりパンタグラフ3の側の回路での過電圧を抑制することが可能である。
【0036】
フィルタコンデンサ11の電圧EFCの値が同じであれば、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定されていない場合の最小通流率R
MINと最大通流率R
MAXとの間の通流率は、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定された場合よりも小さい。上述のように通流率を設定することで、接触器4よりパンタグラフ3の側の回路での過電圧を抑制することが可能である。
【0037】
上述の構成を有する制御装置20の動作について説明する。電気鉄道車両の運転台から運転指令としてブレーキ指令が入力されると、トルク制御部25は、上述のように、実トルクを目標トルクに一致させるために、電力変換部12のスイッチング素子の動作を制御する。また、運転台から運転指令としてブレーキ指令が入力されると、上記のトルク制御部25の処理と並行して、以下に説明する離線判定処理が開始される。離線判定処理について、
図9を用いて説明する。
【0038】
図9のステップS11〜S13は、実施の形態1と同様である。フィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化率の絶対値|ΔEFC/ΔT|が第1閾値Th1以上である場合(ステップS13;Y)、離線判定部23は、離線判定信号S2をHレベルとし、Hレベルの離線判定信号S2を回路制御部27に送る(ステップS14)。Hレベルの離線判定信号S2を取得した回路制御部27は、フィルタコンデンサ11の電圧EFCに応じた通流率に基づいて、チョッパ回路15を動作させる(ステップS17)。最低通流率でチョッパ回路を動作させる状態が一定時間未満である間は(ステップS18;N)、ステップS17の処理を繰り返し行う。最低通流率でチョッパ回路15を動作させる状態が一定時間以上になると(ステップS18;Y)、制御装置20は、チョッパ回路15のスイッチング素子16をオフにし(ステップS19)、ステップS11の処理に戻る。運転指令としてブレーキ指令が入力されている間は、制御装置20は、上述の離線判定処理を繰り返し行う。
【0039】
以上説明したとおり、実施の形態2に係る制御装置20によれば、回生ブレーキ時に、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定すると、フィルタコンデンサ11の電圧EFCが基準電圧未満であっても、チョッパ回路15を動作させることで、接触器4よりパンタグラフ3の側での過電圧が抑制される。
【0040】
(実施の形態3)
実施の形態1,2においては、フィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化率に基づいてパンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定する。判定方法は上述の例に限られず、力行時にパンタグラフ3から電力変換部12に流れる電流を用いて、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定してもよい。
図10に示すように、実施の形態3に係る電力変換システム1は、電流検出部18を備える点において、実施の形態1に係る電力変換システム1と異なる。制御装置20は、電流検出部18で検出された、パンタグラフ3から電力変換部12に流れる入力電流IS、および、絶対値が電動機8のトルクと正の相関を有し、電動機8のトルクの時間変化に伴って、時間変化する第2閾値に基づき、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定する。
図11に示すように、実施の形態3における制御装置20は、第1閾値算出部22の代わりに、第2閾値算出部28を有し、また変化率算出部21を有さない。
【0041】
制御装置20の各部の概略について説明する。鉄道車両が運行を開始すると、実施の形態1と同様に、目標算出部24は、力行指令が示す加速度を得るための目標トルクを算出する。トルク制御部25は、電動機8の実トルクを算出し、実トルクを目標トルクに一致させるために、電力変換部12のスイッチング素子の動作を制御する。また、第2閾値算出部28は、入力電流ISに対する閾値である第2閾値を算出する。離線判定部23は、入力電流ISおよび第2閾値に基づいて、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定する。離線判定部23が、パンタグラフ3が架線2から離れた状態でないと判定している場合、トルク制御部25は、上述のように実トルクを目標トルクに近づけるために、電力変換部12のスイッチング素子の動作を制御する。一方、離線判定部23が、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定した場合、実施の形態1と同様に、トルク制御部25は、目標トルクを段階的に減少させて、電力変換部12のスイッチング素子の動作を制御し、電力変換部12のスイッチング素子をオフにする。離線判定部23が、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定すると、接触器制御部26は、接触器4を開放する。また接触器制御部26は、電気鉄道車両の運行を開始する際、パンタグラフ3が架線2に再接触した場合に、実施の形態1と同様に接触器4,5を制御する。
【0042】
制御装置20の各部の詳細について以下に説明する。離線判定部23は、入力電流IS、および、第2閾値算出部28が算出した第2閾値に基づいて、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定する。入力電流ISの変化について、
図12を用いて説明する。時刻t1でパンタグラフ3が架線2から離れた場合を例にして説明する。
図12において、横軸は時間を示し、縦軸は入力電流ISを示す。また
図12において、電力変換部12の出力電力がW1の場合を太い実線で示し、出力電力がW2の場合を細い実線で示す。なおW1はW2より大きいものとする。
【0043】
出力電力がW1の場合における時刻t1までの入力電流ISの値をI1とする。時刻t1においてパンタグラフ3が架線2から離れると、入力電流ISはI1から減少し始める。また出力電力がW2の場合、時刻t1までの入力電流ISの値をI2とする。出力電力がW1の場合、時刻t1においてパンタグラフ3が架線2から離れると、入力電流ISはI2から減少し始める。入力電流IS、および、固定値である閾値に基づいて、パンタグラフ3が架線から離れた状態であるか否かを判定すると、例えば閾値がI2より大きく、I1より小さい場合に、出力電力W2の場合はパンタグラフ3が架線2から離れたと判定するが、出力電力W1の場合はパンタグラフ3が架線2から離れたと判定しないということが起こり得る。
【0044】
そこで、制御装置20は、絶対値が電動機8の実トルクと正の相関を有する第2閾値を用いて、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定する。第2閾値算出部28は、絶対値が電動機8のトルクと正の相関を有する第2閾値を算出する。
図11に示すように、第2閾値算出部28は、トルク制御部25から、電動機8の実トルクを取得する。第2閾値算出部28は、上記(1)式に示すように、電動機8の実トルクに基づき、電力変換部12の出力電力を算出する。そして、第2閾値算出部28は、出力電力に基づき、第2閾値を算出する。
【0045】
第2閾値の一例として、出力電力Wに比例する第2閾値を
図13に示す。
図13において、横軸は電力変換部12の出力電力を示し、縦軸は第2閾値を示す。
図13において、出力電力がW1の場合の第2閾値Th2をTh2_1とし、出力電力がW2である場合の第2閾値Th2をTh2_2とする。なおTh2_1は、Th2_2より大きいものとする。第2閾値算出部28は、算出した第2閾値Th2を離線判定部23に送る。詳細には、第2閾値算出部28は、下記(3)式で表されるように、出力電力に比例する第2閾値Th2を算出する。下記(3)式において、Wは上記(1)式に基づいて算出した出力電力を示す。またE
Dは、時素リレーで遅らされた電圧EFCを示す。η
INVは、インバータ効率を示す。該時素リレーで遅らされる時間は、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かの判定にかけることができる時間に応じて決められ、例えば数10msecとする。下記(3)式において、Kは1以下の正数である係数を示し、第2閾値の大きさの調節のために設定される。なおパンタグラフ3が架線2から離れて入力電流ISが減少し始めた直後において、トルク制御部25は、実トルクを目標トルクに一致させるために、電力変換部12が有するスイッチング素子の動作を制御する。そのため、出力電力Wは、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定している間、パンタグラフ3が架線2から離れる前の値に維持される。
Th2=K・(W/E
D・η
INV)) ・・・(3)
【0046】
離線判定部23は、入力電流ISが第2閾値Th2以下である場合に、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定する。離線判定部23は、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定した場合にHレベルであり、パンタグラフ3が架線2から離れた状態でないと判定した場合にLレベルである離線判定信号S2をトルク制御部25および接触器制御部26に送る。第2閾値Th2が電力変換部12の出力電力に比例するため、出力電力の変化によって、入力電流ISの大きさが変化しても、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを精度良く判定することが可能である。
【0047】
トルク制御部25および接触器制御部26の動作は、実施の形態1と同様である。また接触器4開放後の接触器制御部26による接触器4,5の投入動作は、実施の形態1と同様である。
【0048】
上述の構成を有する制御装置20の動作について説明する。電気鉄道車両の運転台から運転指令として力行指令が入力されると、目標算出部24は、実施の形態1と同様に、電動機8の目標トルクを算出する。そして、トルク制御部25は、電動機8の実トルクを算出し、実トルクを目標トルクに一致させるために、電力変換部12のスイッチング素子の動作を制御する。また、運転台から運転指令として力行指令が入力されると、上記のトルク制御部25の処理と並行して、以下に説明する離線判定処理が開始される。離線判定処理について、
図14を用いて説明する。第2閾値算出部28は、絶対値が電動機8のトルクと正の相関を有する第2閾値を算出する(ステップS21)。離線判定部23は、入力電流ISと第2閾値とを比較する(ステップS22)。入力電流ISが第2閾値以下でない場合(ステップS22;N)、制御装置20はステップS21の処理を繰り返し行う。入力電流ISが第2閾値以下である場合(ステップS22;Y)、離線判定部23は、離線判定信号S2をHレベルとし、Hレベルの離線判定信号S2をトルク制御部25および接触器制御部26に送る(ステップS14)。ステップS14−S16の処理は、実施の形態1と同様である。ステップS16の処理が終了すると、制御装置20は、離線判定処理を終了する。接触器4が開放された後、実施の形態1と同様に、接触器制御部26によって、再び接触器4が投入される。その後、運転台から運転指令として力行指令が入力されると、制御装置20は、上記ステップS21の処理を再び開始する。
【0049】
以上説明したとおり、実施の形態3に係る制御装置20によれば、絶対値が電動機8のトルクと正の相関を有する第2閾値を用いてパンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定することで、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かの判定の精度を高めることが可能である。また力行時に、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定すると、接触器4を開放することで、パンタグラフ3が架線2に再度接触する際に電力変換部12に突入電流が流れることが抑制される。
【0050】
図15は、実施の形態に係る鉄道車両用制御装置のハードウェアの構成例を示す図である。鉄道車両用制御装置20は、各部を制御するハードウェア構成としてプロセッサ31、メモリ32、およびインターフェース33を備える。これらの装置の各機能は、プロセッサ31がメモリ32に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。インターフェース33は各装置を接続し、通信を確立させるためのものであり、必要に応じて複数の種類のインターフェースから構成されてもよい。
図15では、プロセッサ31およびメモリ32をそれぞれ1つで構成する例を示しているが、複数のプロセッサ31および複数のメモリ32が連携して各機能を実行してもよい。
【0051】
その他、上記のハードウェア構成やフローチャートは一例であり、任意に変更および修正が可能である。
【0052】
プロセッサ31、メモリ32、およびインターフェース33を有し、制御処理を行う中心となる部分は、専用のシステムによらず、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。たとえば、上述の動作を実行するためのコンピュータプログラムを、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROMなど)に格納して配布し、上記コンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、上述の処理を実行する鉄道車両用制御装置20を構成してもよい。また、通信ネットワーク上のサーバ装置が有する記憶装置に上記コンピュータプログラムを格納しておき、通常のコンピュータシステムがダウンロードすることで鉄道車両用制御装置20を構成してもよい。
【0053】
また、鉄道車両用制御装置20の機能を、OS(オペレーティングシステム)とアプリケーションプログラムの分担、またはOSとアプリケーションプログラムとの協働により実現する場合などには、アプリケーションプログラム部分のみを記録媒体や記憶装置に格納してもよい。
【0054】
また、搬送波にコンピュータプログラムを重畳し、通信ネットワークを介して配信することも可能である。たとえば、通信ネットワーク上の掲示板(BBS:Bulletin Board System)に上記コンピュータプログラムを掲示し、通信ネットワークを介して上記コンピュータプログラムを配信してもよい。そして、このコンピュータプログラムを起動し、OSの制御下で、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、上述の処理を実行できるように構成してもよい。
【0055】
電力変換システム1の回路構成は任意であり、上述の例に限られない。一例として、接触器4,5は直列に接続され、接触器5に並列にブレーキ抵抗6が接続されてもよい。この場合、力行時には、接触器4,5が投入されている。離線検知した際は、接触器4,5が共に開放される。離線検知後に、接触器4のパンタグラフ3の側の電圧ESが基準電圧以上となると、接触器4のみが投入される。その後、接触器4のパンタグラフ3の側の電圧ESとフィルタコンデンサ11の電圧EFCの差が十分に小さくなると、接触器5が投入される。
【0056】
電力変換システム1の集電方式は、上述の架空線方式に限られず、変電所から電力を取得する任意の方式を採用することができる。集電方式の一例として、地表集電方式、第三軌条方式等があげられる。地表集電方式および第3軌条方式の場合、集電靴が第三軌条と接触することで、電力を取得することができる。また架空線方式の場合、集電装置は、架線2から電力を取得する任意の装置であり、一例として、トロリーポール、ビューゲル等である。電動機8は、交流電動機に限られず、直流電動機でもよい。
【0057】
運転指令は、力行指令およびブレーキ指令に加え、惰行指令を含んでもよい。運転指令が惰行指令を含む場合に、制御装置20は、実施の形態1,3と同様に、離線を検知してもよい。また制御装置20の構成は、上述の例に限られず、離線を検知する任意の構成である。一例として、トルク制御部25および接触器制御部26の機能をそれぞれ、トルク制御装置および接触器制御装置として、制御装置20とは別に設けてもよい。この場合、制御装置20は、離線を検知した場合、離線を検知した旨をトルク制御装置および接触器制御装置に送ればよい。また他の一例として、回路制御部27の機能を、チョッパ制御装置として、制御装置20とは別に設けてもよい。この場合、制御装置20は、離線を検知した旨をチョッパ制御装置に送ればよい。
【0058】
変化率算出部21が行うフィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化率の算出方法は、上述の例に限られない。フィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化率の算出方法として、任意の方法が採用され得る。一例として、ΔTの期間において、十分に短い時間Δtごとのフィルタコンデンサ11の電圧EFCの値から回帰直線を求め、回帰直線の傾きをフィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化率としてもよい。
【0059】
第1閾値算出部22が行う第1閾値の算出方法は、上述の例に限られない。第1閾値の算出方法として、絶対値が電力変換部12の出力電力に相当する値と正の相関を有し、出力電力の時間変化に伴って時間変化する物理量を用い、絶対値が物理量と正の相関を有し、物理量の時間変化に伴って時間変化する第1閾値を算出する任意の方法が採用され得る。一例として、運転指令が含む力行ノッチに応じて定められた、電力変換部12の出力電力に基づいて第1閾値を算出してもよい。物理量として、電動機8のトルクに限られず、電力変換部12の出力電力と正の相関を有し、出力電力の時間変化に伴って、時間変化する任意の物理量を採用することができる。一例として、電動機8の電流、電動機8の電圧、電動機8の回転速度、力行ノッチ、電力変換部12の入力電圧、電力変換部12の入力電流等を上記物理量として採用することができる。また上記物理量は測定値だけでなく、推定または計算によって算出された値および目標値を上記物理量として採用することができる。
【0060】
電力変換部12の出力電力を算出する方法は、上述の例に限られない。一例として、第1閾値算出部22は、下記(4)式に示すように、電動機8の回転周波数FMに基づいて、電力変換部12の出力電力を算出してもよい。Pは電動機8の極数を示す。
W=2π・2FM/P・Trq/η
TM ・・・(4)
さらに別の一例として、第1閾値算出部22は、下記(5)式に示すように、電動機8の電圧V
Mおよび電流I
M、ならびに、電動機8の力率PFに基づいて、電力変換部の出力電力を算出してもよい。
W=√3・V
M・I
M・PF ・・・(5)
【0061】
なお第1閾値は、絶対値が電動機8のトルクと正の相関を有する任意の関数、テーブル等に応じて算出される。一例として、第1閾値は、電力変換部12の出力電力を変数とする一次関数、二次関数等に基づいて算出される。なお、実施の形態1における第1閾値を、絶対値が電動機8のトルクと正の相関を有する負数としてもよい。この場合、離線判定部23は、フィルタコンデンサ11の変化率ΔEFC/ΔTが第1閾値以下である場合に、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定する。
【0062】
実施の形態1,2における離線判定部23の処理は、上述の例に限られない。一例として、第1閾値Th1に対して下限値を設けてもよい。また他の一例として、離線判定部23は、フィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化率の絶対値と第1閾値との比較を一定の時間間隔で繰り返し、複数の比較結果に基づいて、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かを判定してもよい。例えば、離線判定部23は、例えば10msecの判定期間において、フィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化率の絶対値と第1閾値との比較を繰り返し、全ての比較結果において、フィルタコンデンサ11の電圧EFCの変化率の絶対値が第1閾値以上である場合に、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定する。上記構成により、異常値に基づいて、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であるか否かの判定が誤った結果となることが防止できる。同様に、実施の形態3における離線判定部23は、上述の例に限られない。一例として、離線判定部23は、入力電流ISの推定値が第2閾値以下である場合に、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定する。また他の一例として、離線判定部23は、入力電流ISが第2閾値以下である状態が一定時間、例えば10msec継続した場合に、パンタグラフ3が架線2から離れた状態であると判定してもよい。
【0063】
実施の形態2において、電力変換部12のパンタグラフ3の側に設けられる降圧回路は、チョッパ回路15に限られず、任意の降圧回路を設けることができる。一例として、スイッチングレギュレータを設けてもよい。実施の形態2において、チョッパ回路15の停止条件は、上述の例に限られない。例えば、電圧検出部13をさらに設け、電圧検出部13が検出した接触器4のパンタグラフ3の側の電圧ESに基づいて、チョッパ回路15を停止してもよい。詳細には、接触器4のパンタグラフ3の側の電圧ESが所望の範囲にある時間が一定時間以上継続した場合に、チョッパ回路15の動作を停止してもよい。
【0064】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。