(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
半導体基板と、前記半導体基板の表面側に第一のクラッド層を介して形成された活性層と、前記活性層の前記半導体基板と反対側である表面側に第二のクラッド層、コンタクト層を介して形成された表面側電極と、前記半導体基板の裏面側に形成された裏面側電極と、を備え、レーザ光を出力する半導体レーザであって、
前記レーザ光が往復して共振する前端面及び後端面の側の端面領域に、前記端面領域より内側の前記活性層よりも抵抗が低く形成された低抵抗活性層を含む窓構造部を備え、
前記コンタクト層における前記前端面側の端をコンタクト層前端とし、前記コンタクト層における前記後端面側の端をコンタクト層後端とし、
前記レーザ光が出力される前記前端面側の前記コンタクト層前端と前記前端面との前記レーザ光が往復する光往復方向の長さは、前記前端面側の前記窓構造部の境界と前記前端面との前記光往復方向の長さである前端面側窓構造部長よりも10μm以上長い長さでかつ前記前端面と前記コンタクト層後端との前記光往復方向の長さよりも短い長さであり、
前記裏面側電極における前記前端面側の端と前記前端面との前記光往復方向の長さは、前記半導体基板における基板厚の1.2倍以上の長さでかつ前記前端面と前記裏面側電極における前記後端面側の端との前記光往復方向の長さよりも短い長さである、半導体レーザ。
半導体基板と、前記半導体基板の表面側に第一のクラッド層を介して形成された活性層と、前記活性層の前記半導体基板と反対側である表面側に第二のクラッド層、コンタクト層を介して形成された表面側電極と、前記半導体基板の裏面側に形成された裏面側電極と、を備え、レーザ光を出力する半導体レーザであって、
前記レーザ光が往復して共振する前端面及び後端面の側の端面領域に、前記端面領域より内側の前記活性層よりも抵抗が低く形成された低抵抗活性層を含む窓構造部を備え、
前記コンタクト層における前記前端面側の端をコンタクト層前端とし、前記コンタクト層における前記後端面側の端をコンタクト層後端とし、
前記レーザ光が出力される前記前端面と反対側の前記コンタクト層後端と前記後端面との前記レーザ光が往復する光往復方向の長さは、前記後端面側の前記窓構造部の境界と前記後端面との前記光往復方向の長さである後端面側窓構造部長よりも10μm以上長い長さでかつ前記後端面と前記コンタクト層前端との前記光往復方向の長さよりも短い長さであり、
前記裏面側電極における前記後端面側の端と前記後端面との前記光往復方向の長さは、前記半導体基板における基板厚の1.2倍以上の長さでかつ前記後端面と前記裏面側電極における前記前端面側の端との前記光往復方向の長さよりも短い長さである、半導体レーザ。
前記コンタクト層後端と前記後端面との前記光往復方向の長さは、前記後端面側の前記窓構造部の境界と前記後端面との前記光往復方向の長さである後端面側窓構造部長以上の長さでかつ前記後端面と前記コンタクト層前端との前記光往復方向の長さよりも短い長さであり、
前記裏面側電極における前記後端面側の端と前記後端面との前記光往復方向の長さは、前記半導体基板における基板厚の1.2倍以上の長さでかつ前記後端面と前記裏面側電極における前記前端面側の端との前記光往復方向の長さよりも短い長さである、請求項1記載の半導体レーザ。
前記コンタクト層後端と前記後端面との前記光往復方向の長さは、前記後端面側の前記窓構造部の境界と前記後端面との前記光往復方向の長さである前記後端面側窓構造部長よりも10μm以上長い長さでかつ前記後端面と前記コンタクト層前端との前記光往復方向の長さよりも短い長さである、請求項3記載の半導体レーザ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る半導体レーザの断面構造を示す図である。
図2は
図1の半導体レーザのCOD劣化レベルを示す図であり、
図3は
図1の半導体レーザの光出力を示す図である。
図4は
図1の半導体レーザの電流を示す図であり、
図5は
図1の半導体レーザの電流密度を示す図である。実施の形態1の半導体レーザ50は前端面14及び後端面15をレーザ光が往復して共振する共振器構造を備えている。
図1では、実施の形態1の半導体レーザ50のレーザ光が往復する方向である共振器方向(x方向)及びこれに垂直な方向(z方向)の断面構造を示した。半導体レーザ50はn型のGaAsの半導体基板1を有しており、この半導体基板1の表面には、n型のAlInPからなる第一のクラッド層2が半導体基板1に直接接合するように形成されている。この第一のクラッド層2の表面(半導体基板1と反対側の面)には、アンドープのAlInPからなる第一の光ガイド層3が形成されており、第一の光ガイド層3の表面にはアンドープのGaInPからなる活性層4が形成されている。活性層4の表面にはアンドープのAlGaInPからなる第二の光ガイド層5が形成されており、第二の光ガイド層5の表面にはp型のAlInPからなる第二のクラッド層6が形成されており、さらに第二のクラッド層6の表面にはp型のGaAsからなるコンタクト層7が形成されている。第一のクラッド層2、第一の光ガイド層3、第二の光ガイド層5、第二のクラッド層6は、AlGaInP系材料により構成されている。
【0015】
半導体基板1の厚さ(基板厚)は、例えば100μmである。第一のクラッド層2の厚さは1.0μm程度であり、そのキャリア濃度は1.0×10
18cm
−3程度である。第一の光ガイド層3および第二の光ガイド層5の厚さは0.1μm程度であり、活性層4の厚さは8〜20nm程度である。第二のクラッド層6の厚さは1.0μm程度であり、そのキャリア濃度は1.0×10
18cm
−3程度である。コンタクト層7の厚さは0.02μm程度であり、そのキャリア濃度は1.0〜2.0×10
19cm
−3程度である。
【0016】
前端面14から内側の領域および後端面15から内側の領域には、Znの拡散によりバンドギャップが拡大された窓構造部8が形成されている。前端面14から後端面15の方向はx方向であり、半導体基板1から活性層4の方向はz方向であり、x方向及びz方向に垂直な方向はy方向である。窓構造部8における光が往復する方向(x方向)の長さである窓構造部長Lwは15μmである。光が往復する方向は、適宜光往復方向とも呼ぶことにする。窓構造部8および第二のクラッド層6の窓構造部8側の表面に電流を非注入とするためのSiNの絶縁膜9が形成され、絶縁膜9の表面及びコンタクト層7の表面に表面側電極10が形成されている。半導体基板1の裏面に裏面側電極11が形成されている。半導体レーザ50のへき開端面である前端面14、後端面15のうち、レーザ光を取り出す(レーザ光が出力される)前端面14の側には、誘電体の単層あるいは多層膜から形成される低反射の被覆膜12が施されている。また、半導体レーザ50の後端面15の側には、誘電体の多層膜で形成される高反射の被覆膜13が形成されている。なお、絶縁膜9は、光往復方向(x方向)と垂直な方向である
図1の紙面に垂直な方向(y方向)において、メサストライプ等の発光ストライプの端部まで形成されている。
【0017】
第一のクラッド層2、第一の光ガイド層3、活性層4、第二の光ガイド層5、第二のクラッド層6、コンタクト層7は、順次積層される。第一のクラッド層2、第一の光ガイド層3、活性層4、第二の光ガイド層5、第二のクラッド層6、コンタクト層7を形成する工程は、それぞれ第一のクラッド層形成工程、第一の光ガイド層形成工程、活性層形成工程、第二の光ガイド層形成工程、第二のクラッド層形成工程、コンタクト層形成工程である。コンタクト層形成工程後に、後述する窓構造部形成工程により半導体レーザ50の前端面14側の領域及び半導体レーザ50の後端面15側の領域に窓構造部8が形成される。窓構造部形成工程の後に、絶縁膜形成工程により絶縁膜9を形成される。絶縁膜形成工程の後に、表面側電極形成工程により表面側電極10が形成され、裏面側電極工程により裏面側電極11が形成される。表面側電極形成工程及び裏面側電極工程の後に、半導体レーザ50を個別に分離し、へき開端面である前端面14及び後端面15にそれぞれ被覆膜12、13を形成する端面被覆工程が実行される。
【0018】
表面側電極10は、コンタクト層7に接している側と反対側すなわち外向面側(半導体レーザ50の表面側)の光往復方向の長さ(x方向の長さ)が、コンタクト層7に接している側すなわち内向面側の光往復方向の長さよりも長くなっている。絶縁膜9における前端面14から内側の端面までの長さ及び絶縁膜9における後端面15から内側の端面までの長さは、いずれもL1である。
図1では、前端面14側のみにL1を記載したが、後端面15の絶縁膜9における後端面15から内側の端面までの長さL1は省略した。この長さL1は、表面側電極10におけるコンタクト層7に接している側すなわち内向面側で半導体レーザ50のレーザ端面(前端面14又は後端面15)の側の端と、該当レーザ端面(前端面14又は後端面15)との長さに等しい。この長さL1は、表面側電極10がコンタクト層7を介して第二のクラッド層6に接触しない前端面14又は後端面15側の領域における光往復方向の長さであり、前端面14又は後端面15から内側に後退した長さ(表面側電極後退量)でもある。適宜、長さL1は表面側電極後退量L1と呼ぶことにする。コンタクト層7における前端面14側の端をコンタクト層前端とし、コンタクト層7における後端面15側の端をコンタクト層後端とすると、長さL1はコンタクト層前端と前端面14とのレーザ光が往復する光往復方向の長さ又はコンタクト層後端と後端面15との光往復方向の長さでもある。
図1では、表面側電極後退量L1は25μm以上であり、窓構造部長Lwよりも10μm以上長くなっている例を示した。なお、
図1では、前端面14側のみに窓構造部長Lw、後述する裏面側電極後退量L2を記載したが、後端面15側の窓構造部長Lw、裏面側電極後退量L2は省略した。
【0019】
窓構造部8の形成する窓構造部形成工程を説明する。まずZnの拡散を防止するZn拡散防止膜を、第一のクラッド層2、第一の光ガイド層3、活性層4、第二の光ガイド層5、第二のクラッド層6が順次形成されたウエハ全表面に形成する。このZn拡散防止膜における窓構造部8を形成する端部領域をエッチングによって除去し、このZn拡散防止膜をマスクとして、窓構造部8を形成する端部領域のコンタクト層7をエッチングにより除去する。Zn拡散防止膜は、SiO
2又はSiNなどの絶縁膜を用いることができる。ここで、窓構造部8を形成する端部領域のコンタクト層7を除去するのは、コンタクト層7内ではZnの拡散速度が非常に遅いため、コンタクト層7がある場合に窓構造部8の形成が困難となるためである。その後、ウエハ全表面にZnの拡散源となるZnO膜を形成する。その後、熱アニールにより、少なくともZnを活性層4まで拡散させて活性層4を混晶化して、混晶化された活性層である窓構造部活性層4aを含む窓構造部8を形成する。窓構造部活性層4aは、Znが含まれており、前端面14及び後端面15の側の端面領域より内側の活性層4よりも抵抗が低く形成された低抵抗活性層である。このときの熱アニール条件は、例えば、620°C、30分である。
図1では、窓構造部8が、第一のクラッド層2、半導体基板1にも形成されている例を示した。
【0020】
次に、ZnO膜およびZn拡散防止膜をエッチングにより全て除去して、窓構造部形成工程が終了する。窓構造部形成工程の後に、前述した絶縁膜形成工程、表面側電極形成工程、裏面側電極工程、端面被覆工程が実行される。
【0021】
表面側電極形成工程にて、コンタクト層7および絶縁膜9の表面に表面側電極10が形成され、絶縁膜9の開口を通してコンタクト層7と表面側電極10とが低抵抗接合している。表面側電極10はTi、Pt、Auなどの薄膜を積層したものであり、表面側電極10の全厚さは0.05〜1.0μmである。
【0022】
その後、裏面側電極工程にて、GaAsの半導体基板1の裏面を研磨によって所望の厚さにし、研磨された裏面に裏面側電極11を接合する。その後、裏面側電極11の端とレーザ端面間の長さである裏面側電極後退量L2が120μm以上になるように、イオンミリングなどを用いて裏面側電極11をエッチングする。
【0023】
裏面側電極11はTi、Pt、Auなどの薄膜を積層したもので、裏面側電極11の全厚さは0.05〜1.0μmである。端面被覆工程にて、裏面側電極工程が終了した分離前の各半導体レーザを、共振器長が1.5mmとなるようにへき開し、前端面14に反射率10%の被覆膜12を、後端面15に反射率90%の被覆膜13を形成する。
【0024】
次に、実施の形態1の半導体レーザ50の作用を説明する。
図2に、実施の形態1の半導体レーザ50のCOD劣化レベルを示した。横軸は裏面側電極後退量L2であり、縦軸はCOD劣化レベル[W]である。COD劣化レベルは、COD耐性を示す指標であり、長期の通電を実施する前の発光点幅75μmの半導体レーザに電流を徐々に流したときに、COD劣化が発生した時点の光出力で定義したものである。
図2では、表面側電極後退量L1が15μm、25μm、50μmの例を示した。表面側電極後退量L1が15μm、つまり、窓構造部8の窓構造部長Lwと表面側電極後退量L1とが同じであった場合は、裏面側電極後退量L2を大きくしてもCOD劣化レベルはほとんど変化がない。すなわち、窓構造部8の窓構造部長Lwと表面側電極後退量L1とが同じであった場合は、COD劣化レベルはほとんど改善しない。一方、表面側電極後退量L1を25μmあるいは50μmとした場合は、裏面側電極後退量L2を120μm以上にすることで、COD劣化レベル値が増大しており、大幅なCOD劣化レベルの改善が確認された。
【0025】
図2のCOD劣化レベル測定の際に45°C、供給電流が1.5Aにて動作させた場合の光出力を評価した結果を
図3に示した。横軸は裏面側電極後退量L2であり、縦軸は半導体レーザ50の光出力[W]である。表面側電極後退量L1が15μm、25μm、50μmのいずれの場合も大きな光出力の低下は確認できず、良好な結果が得られた。
【0026】
比較例と比較しながら実施の形態1の半導体レーザ50の作用を説明する。
図6は比較例1の半導体レーザの断面構造を示す図であり、
図7は
図6の半導体レーザの電流密度を示す図である。
図8は比較例2の半導体レーザの断面構造を示す図であり、
図9は
図8の半導体レーザの電流密度を示す図である。
図10は
図8の半導体レーザのCOD劣化レベルを示す図であり、
図11は
図8の半導体レーザの光出力を示す図である。
図12は比較例3の半導体レーザの断面構造を示す図であり、
図13は
図12の半導体レーザのCOD劣化レベルを示す図である。
図6、
図8の半導体レーザ60は、裏面側電極111が前端面114から後端面115まで形成された赤色半導体レーザの例である。
図12の半導体レーザ60は、裏面側電極111が前端面114及び後端面115から裏面側電極後退量L4だけ短く形成された赤色半導体レーザの例である。
図7は比較例1の半導体レーザ60における活性層104の位置における電流密度を示しており、
図9は比較例2の半導体レーザ60における活性層104の位置における電流密度を示している。
【0027】
図6、
図8、
図12では、各比較例の半導体レーザ60における共振器方向(x方向)及びこれに垂直な方向(z方向)の断面構造を示した。
図6に示した比較例1の半導体レーザ60は、n型のGaAsの半導体基板101を有しており、半導体基板101表面に、n型のAlInPの第一のクラッド層102、アンドープのAlGaInPの第一の光ガイド層103、アンドープのGaInPの活性層104、アンドープのAlGaInPの第二の光ガイド層105、p型のAlInPの第二のクラッド層106、p型のGaAsのコンタクト層107が順次積層されている。第一のクラッド層102、第一の光ガイド層103、第二の光ガイド層105、第二のクラッド層106は、AlGaInP系材料により構成されている。前端面114から内側の領域および後端面115から内側の領域には、Znの拡散によりバンドギャップが拡大された窓構造部108が形成されている。窓構造部108の表面には電流を非注入とするためのSiNの絶縁膜109が形成され、絶縁膜
109の表面及びコンタクト層107の表面に表面側電極110が形成されている。半導体基板101の裏面に裏面側電極111が形成されている。前端面114から後端面115の方向はx方向であり、半導体基板101から活性層104の方向はz方向であり、x方向及びz方向に垂直な方向はy方向である。
【0028】
Znの拡散による窓構造部108の結晶表面については、Znの拡散が実施されることから結晶の荒れが発生し易くなっている。さらに、窓構造部108の活性層104aが活性層104よりも低抵抗となっており、窓構造部108は窓構造部108よりも内側のレーザ発振領域よりも低抵抗となっている。この窓構造部108の表面にSiNの絶縁膜
109を形成することで、表面側電極110が窓構造部108に直接接触しないようにしている。なお、絶縁膜
109は、光往復方向(x方向)と垂直な方向である
図6の紙面に垂直な方向(y方向)において、メサストライプ等の発光ストライプの端部まで形成されている。
【0029】
半導体レーザ60のへき開端面である前端面114、後端面115のうち、レーザ光を取り出す(レーザ光が出力される)前端面114の側には、誘電体の単層あるいは多層膜から形成される低反射の被覆膜112が施されている。また、半導体レーザ60の後端面115の側には、誘電体の多層膜で形成される高反射の被覆膜113が形成されている。比較例1の半導体レーザ60は、絶縁膜109における前端面114から内側の端面までのx方向の長さ及び絶縁膜109における後端面115から内側の端面までのx方向の長さである表面側電極後退量L3と窓構造部長Lwとが等しい例である。x方向位置xaは前端面114のx方向位置を示しており、x方向位置xbは窓構造部108及び絶縁膜109の内側の端を示している。x方向位置xdは後端面115のx方向位置を示しており、x方向位置xcは窓構造部108及び絶縁膜109の内側の端を示している。前端面114側の窓構造部108の窓構造部長Lwは、x方向位置xaからx方向位置xbまで長さである。後端面115側の窓構造部108の窓構造部長Lwは、x方向位置xcからx方向位置xdまで長さである。なお、x方向位置xb、xcは窓構造部108と窓構造部108よりも内側のレーザ発振領域との境界でもある。
図6では、前端面114側のみに表面側電極後退量L3及び窓構造部長Lwを記載したが、後端面115側の表面側電極後退量L3及び窓構造部長Lwは省略した。
【0030】
図7に示すように、x方向位置xaからx方向位置xbまでの前端面114側のx方向領域、及びx方向位置xcからx方向位置xdまでの後端面115側のx方向領域である窓構造部108は、x方向位置xbからx方向位置xcまでの他の領域(他のレーザ発振領域)よりも電流密度特性32の電流密度が高くなっている。
図7において、横軸はx方向位置であり、縦軸は電流密度である。この
図7からも分かるように、窓構造部108は窓構造部108以外の他の領域よりも電流が流れやすい構造になっている。なお、
図6に示した電流Ia、Ib、Icは、各x方向位置における電流である。窓構造部108において、表面側電極110から裏面側電極111へ流れる電流Iaは、他の電流Ib、Icよりも電流値が大きな電流なので、太い矢印で示した。
【0031】
比較例1の半導体レーザ60は、低抵抗の活性層104aを含み、内側のレーザ発振領域よりも低抵抗の窓構造部108に流れる電流による発熱により、レーザ端面の温度が上昇し、バンドギャップが小さくなる。背景技術で説明したように、活性層104におけるZnが拡散した活性層104a、すなわち窓構造部108の活性層104aでは、窓構造部108以外の活性層104よ
りもバンドギャップが小さくなることで、窓構造部108の順方向電圧が他の部分よりも小さくなることなどにより、窓構造部108に流れる電流(電流Ia)が大きくなる。この電流Iaによるジュール熱及び不純物準位を介した非発光再結合により、窓構造部108における発熱が大きくなり、COD劣化が発生し易くなる。
【0032】
このCOD劣化を抑制する方法の一例を適用した比較例2の半導体レーザ60を
図8に示した。
図8に示した比較例2の半導体レーザ60は、比較例1の半導体レーザ60とは、窓構造部108のレーザ端面(前端面114、後端面115)からの幅、すなわち窓構造部長Lwが絶縁膜109のx方向の長さである表面側電極後退量L3よりも短くなっている点で異なっている。x方向位置xeは絶縁膜109の前端面114から内側の端のx方向位置を示しており、x方向位置xfは絶縁膜109の後端面115から内側の端のx方向位置を示している。
図9に示すように、比較例2の半導体レーザ60の電流密度特性33は、x方向位置xaからx方向位置xbまでの領域及びx方向位置xcからx方向位置xdまでの領域の窓構造部108における電流密度が、比較例1の半導体レーザ60の電流密度特性32よりも小さくなっている。このことから、比較例2の半導体レーザ60は、比較例1の半導体レーザ60よりも前端面114、後端面115のレーザ端面近くに流れる電流を抑制することができることが分かる。
図9において、横軸はx方向位置であり、縦軸は電流密度である。なお、
図8に示した電流Ia、Ib、Id、Ie、Ifは、各x方向位置における電流である。窓構造部108において表面側電極110から裏面側電極111へ流れる電流Ia及びコンタクト層107の端のx方向位置であるx方向位置xeよりも内側で表面側電極110から裏面側電極111へ流れる電流Ibは、他の電流Id、Ie、Ifよりも電流値が大きな電流なので、太い矢印で示した。また、窓構造部108の端のx方向位置であるx方向位置xbからx方向位置xeまでの領域に記載した電流Id、Ie、Ifは、電流値がId<Ie<Ifになっており、矢印の太さを変えて記載した。
【0033】
一方で、比較例2の半導体レーザ60は、レーザ端面近傍のうち、絶縁膜109で覆っている領域全体の電流が抑制されることから、窓構造部108ではないレーザ発振領域におけるx方向位置xbからx方向位置xeまでの領域及びx方向位置xfからx方向位置xcまでの領域において、x方向位置xeからx方向位置xfまでのレーザ発振領域よりも電流密度が小さい部分が発生する。これは、活性層104における電流密度が窓構造部108及びコンタクト層107が形成された領域で大きくなるものの、x方向位置xbからx方向位置xeまでの領域及びx方向位置xfからx方向位置xcまでの領域であるレーザ発振領域のコンタクト層非形成領域ではコンタクト層107からの電流注入量が減ることで活性層104における電流密度が小さくなるためである。この電流密度が小さい部分の活性層媒質利得は、他の電流密度が高い部分よりも利得が小さくなるため、発振しきい値の増大又はしきい値キャリア密度増大によるキャリアオーバーフローに起因する温度特性の悪化などの問題が発生する。場合によっては、利得が0以下、すなわち光吸収領域となり、大幅な特性悪化、微分効率低下などを引き起こすことになる。
【0034】
図10に、比較例2の半導体レーザ60のCOD劣化レベルを示した。横軸は表面側電極後退量L3であり、縦軸はCOD劣化レベル[W]である。
図10では、窓構造部長Lwが15μmの場合を示した。
図11には、比較例2の半導体レーザ60の光出力を評価した結果を示した。光出力の評価条件は、実施の形態1の半導体レーザ50の評価条件と同じである。横軸は表面側電極後退量L3であり、縦軸は半導体レーザ60の光出力[W]である。特許文献2には、表面側電極後退量L3は5μmから50μmが好ましいと記載されている。しかし、特許文献2の実施例は、コンタクト層非形成領域に該当する電流非注入領域が形成されているものの、GaN材料を用いて窓構造部を有しない構造であり、比較例2の半導体レーザ60の構造と異なっている。比較例2の半導体レーザ60は、特許文献2の実施例と異なり、表面側電極後退量L3が100μm以上でないと、COD劣化レベルが増大しない、すなわち改善しないことが分かった。
【0035】
表面側電極後退量L3が100μm以上でCOD劣化レベルの改善効果が見られる理由は、
図9のように窓構造部108を含むレーザ端面付近の電流密度が低くなった結果、発熱が抑制されたためと考えられる。しかしながら、
図11のように、表面側電極後退量L3が大きくなるほど、光出力が低下することが分かる。これは前述の通り、窓構造部108以外のコンタクト層非形成領域(レーザ発振領域のコンタクト層非形成領域)において電流密度が小さくなったためと考えられる。さらに、比較例2の半導体レーザ60は、コンタクト層非形成領域の部分を流れる電流が、ほぼ全てコンタクト層107の端部から供給されることになるため、コンタクト層107の端部で電流が集中し、コンタクト層107の端部での劣化が発生し易くなるという問題点もある。
【0036】
図10、
図11に示すように、比較例2の半導体レーザ60では、COD劣化レベルの向上効果と光出力の低下防止効果とが完全なトレードオフの関係であることが分かる。Znの拡散などにより形成された窓構造部108の抵抗が小さくなるような構造では、窓構造部108に電流が流れやすいので、表面側電極後退量L3を比較的大きくしないとCOD劣化レベルの改善効果を得ることができず、比較的大きな表面側電極後退量L3により光出力低下の問題が発生し易いものと考えられる。
【0037】
比較例2の半導体レーザ60は、比較例1の半導体レーザ60におけるレーザ端面(前端面114、後端面115)近傍の電流密度を低減する一例であったが、光出力低下の問題等が発生する。そこで、比較例2の問題点を避けるために、比較例2と異なる方法を考える。例えば、特許6210186号の実施の形態1では、半導体レーザ及び光導波路が集積された光半導体素子において、レーザ領域及び導波領域に通常形成される裏面側電極に該当するn電極の端を、レーザ領域及び導波領域の接合部からレーザ領域側に移動させてn電極の領域を縮小することで、レーザ領域の接合部付近における電流密度が低減することが示されている。発明者は、特許6210186号と同じように、比較例1の半導体レーザ60においても裏面側電極111をレーザ端面(前端面114、後端面115)から離すことにより、レーザ端面近傍の電流密度を低減する可能性があると考えた。
【0038】
図12に比較例3の半導体レーザ60の断面構造を示し、
図13に比較例3の半導体レーザ60のCOD劣化レベルを示した。比較例3の半導体レーザ60は、裏面側電極111の端をレーザ端面(前端面114、後端面115)から内側に移動した裏面側電極111を備える点で、比較例1の半導体レーザ60とは異なる。x方向位置xgは裏面側電極111の前端面114側の端のx方向位置を示しており、x方向位置xhは裏面側電極111の後端面115側の端のx方向位置を示している。裏面側電極111の端とレーザ端面(前端面114、後端面115)との間の長さが裏面側電極後退量L4である。
図12では、前端面114側のみに表面側電極後退量L3、裏面側電極後退量L4、窓構造部長Lwを記載したが、後端面115側の表面側電極後退量L3、裏面側電極後退量L4、窓構造部長Lwは省略した。x方向位置xaからx方向位置xgまでの長さが裏面側電極後退量L4であり、x方向位置xhからx方向位置xdまでの長さが裏面側電極後退量L4である。
【0039】
図13は、表面側電極後退量L3が15μmであり、窓構造部長Lwが15μmである場合において、裏面側電極後退量L4とCOD劣化レベルとの関係を示したものである。
図13において、横軸は裏面側電極後退量L4であり、縦軸はCOD劣化レベル[W]である。
図13に示すように、裏面側電極後退量L4を大きくしても、COD劣化レベルはほとんど改善しないことが分かった。これは、コンタクト層107の端が窓構造部108に近いことから、たとえ裏面側電極111の端をレーザ端面から離したとしても、電流が窓構造部108に多く流れることが理由である。
【0040】
このように、窓構造部108の抵抗が低い場合は、比較例2の半導体レーザ60で示した表面側電極110をレーザ端面から離す方法及び比較例3の半導体レーザ60で示した裏面側電極111をレーザ端面から離す方法のいずれにおいても、半導体レーザの特性を悪化させることなくCOD劣化レベルを向上させることは困難であることが確認された。
【0041】
実施の形態1の半導体レーザ50は、
図2、
図3に示したように、比較例1〜3の半導体レーザ60と異なり、半導体レーザの特性を悪化させることなくCOD劣化レベルを向上させることができる。比較例2の半導体レーザ60では、表面側電極110とコンタクト層107が接触している部分で最もレーザ端面に近い位置(表面側電流注入位置と呼ぶ)のみをレーザ端面から離した場合は、
図10、
図11のようにCOD劣化レベルが改善するまで表面側電極後退量L3を大きくすると光出力が低下するという副作用が発生していた。これに対して、実施の形態1の半導体レーザ50は、裏面側電極後退量L2を120μmよりも大きくすると、
図2、
図3のように表面側電極後退量L1が15μmより大きい場合には、COD劣化レベルが改善しておりかつ光出力の大幅な低下のない良好な半導体レーザの特性を維持できる。
【0042】
比較例3の半導体レーザ60は、裏面側電極111のみをレーザ端面から離したとしても、
図13のようにCOD改善効果は見られなかった。これに対して、実施の形態1の半導体レーザ50は、裏面側電極11をレーザ端面から離すと共に、表面側電極10をレーザ端面から離すことすなわち表面側電流注入位置をレーザ端面から離すことで、光出力の大幅な低下のない良好な半導体レーザの特性を維持しながらCOD改善効果を得ることができる。
【0043】
実施の形態1の半導体レーザ50が
図2、
図3の結果を得られる理由を、
図4、
図5を用いて考察する。
図4は実施の形態1の半導体レーザ50における前端面付近の電流分布を示しており、
図5は実施の形態1の半導体レーザ50における活性層4の位置における電流密度を示している。
図5において、横軸はx方向位置であり、縦軸は電流密度である。x方向位置x0は前端面14のx方向位置を示しており、x方向位置x1は窓構造部8の前端面14から内側の端のx方向位置を示しており、x方向位置x2は絶縁膜9の前端面14から内側の端のx方向位置を示しており、x方向位置x3は裏面側電極11の前端面14側の端のx方向位置を示している。x方向位置x7は後端面15のx方向位置を示しており、x方向位置x6は窓構造部8の後端面15から内側の端のx方向位置を示しており、x方向位置x5は絶縁膜9の後端面15から内側の端のx方向位置を示しており、x方向位置x4は裏面側電極11の後端面15側の端のx方向位置を示している。
【0044】
表面側電極10とコンタクト層7とが接触している部分から流れる電流I1、I2、I3、I4は、裏面側電極11に向かって流れており、裏面側電極11に近づくに従って共振器の中心方向(x方向位置x3とx方向位置x4との中心方向)に流れようとする。このため、窓構造部8に流れる電流I1は、裏面側電極11がレーザ端面まである場合(比較例2参照)に比べると少なくなる。これに加えて、表面側電流注入位置(x方向位置x2、x5)が窓構造部8から離れていることで、さらに窓構造部8に流れる電流を低減することができる。
図4に示した電流I1、I2、I3、I4は、各x方向位置における電流である。電流I1、I2、I3、I4は、電流値がI2<I1<I3<I4になっており、最も電流値の小さい電流I2の矢印を細くして記載した。
【0045】
実施の形態1の半導体レーザ50は、表面側電流注入位置および裏面側電極11の端が同時にレーザ端面から離れていることで、比較例2のように表面側電流注入位置のみがレーザ端面から離れている場合に比べて、COD劣化レベルが改善し始める表面側電極後退量L1を大幅に小さくすることが可能になる。具体的には、比較例2ではCOD劣化レベルが改善し始める表面側電極後退量L3が100μmであるのに対して、実施の形態1の半導体レーザ50では、表面側電極後退量L1が15μm超から25μmの間でCOD劣化レベルが改善し始める。その結果、
図5に示すように、実施の形態1の半導体レーザ50における電流密度特性31は、窓構造部8以外の活性層領域のうち、電流密度が小さくなる領域の幅、すなわちx方向位置x1からx方向位置x2までの領域の幅及びx方向位置x5からx方向位置x6までの領域の幅を小さくすることができる。実施の形態1の半導体レーザ50は、窓構造部8以外の活性層領域のうち、電流密度が小さくなる領域の幅が小さいので、比較例2の半導体レーザ60と異なり、光出力低下の悪影響を低減することができる。
【0046】
また、実施の形態1の半導体レーザ50は、表面側電極後退量L1を比較例2よりも小さくできること、および裏面側電極11の端がレーザ端面から離れていることで電流が共振器の中心方向に流れることにより、表面側電流注入位置付近の電流集中は緩和される。これにより、実施の形態1の半導体レーザ50は、窓構造部活性層4aの
局部発熱が大きく緩和され、
局部発熱による内部劣化が発生しにくくなる
【0047】
ここで、裏面側電極後退量L2については、例えばへき開位置に裏面側電極が掛かることで、へき開の際における裏面側電極の剥離等の問題が出ることを避けるために、レーザ端面から数十μm離す場合があるが、これではCOD改善効果が得られないことが
図2の結果から分かる。
【0048】
実施の形態1の半導体レーザ50では、
図1において窓構造部長Lwを15μm、表面側電極後退量L1を窓構造部長Lwよりも10μm以上長くした例を示しているが、好ましい表面側電極後退量L1を示す。これまでの実験結果および説明から分かるように、窓構造部8を流れる電流を抑制するためには、表面側電流注入位置を窓構造部8の端(x方向位置x1、x6)から10μm以上離すことが好ましい。すなわち、表面側電極後退量L1は窓構造部長Lwよりも10μm以上長いことが好ましい。したがって、窓構造部長Lwが25μmである場合は、表面側電流注入位置は端面から35μm以上とすることが好ましい、すなわち表面側電極後退量L1は35μm以上とすることが好ましい。
【0049】
また、実施の形態1の半導体レーザ50における、裏面側電極11の端位置を決定する裏面側電極後退量L2は、120μm以上が好ましいことを示した。しかし、n型のGaAsの半導体基板1の基板厚が厚い場合は、半導体基板1内の横方向抵抗(x方向抵抗)が小さくなる。そのため、n型のGaAsの半導体基板1の基板厚が厚い場合は、裏面側電極11の端位置を決定する裏面側電極後退量L2を、裏面側電極後退量L2と基板厚との比率Aと同じ比率の長さ以上にすることが好ましい。基板厚をTとすると、比率AはL2/Tである。実施の形態1の半導体レーザ50では、半導体基板1の基板厚が100μmであり、裏面側電極後退量L2が120μm以上であることが好ましいので、比率Aが1.2、すなわち裏面側電極後退量L2が基板厚Tの1.2倍以上であることが好ましい。例えば、基板厚Tを120μmとする場合は、裏面側電極後退量L2が144μmであり、裏面側電極11の端(x方向位置x
3)はレーザ端面(x方向位置x0)より144μm以上離れていることが好ましいと言える。
【0050】
なお、レーザ端面の前端面14および後端面15の側において、表面側電流注入位置(x方向位置x2、x5)が窓構造部8の端(x方向位置x1、x6)よりもレーザ端面から離れている半導体レーザの例を示した。通常の半導体レーザにおいては、前端面14側からのみ光を取り出すため、前端面14側を低反射の被覆膜12でコーティングし、後端面15側を高反射の被覆膜13でコーティングすることが一般的であり、これ以外に前端面14および後端面15の両端面から光を取り出す場合もある。そこで、半導体レーザのレーザ光の出力値等によっては、半導体レーザのレーザ光が出力される前端面14又は主にレーザ光を反射させる後端面15の一方のみにおいて、表面側電流注入位置(x方向位置x2又はx5)が窓構造部8の端(x方向位置x1又はx6)よりもレーザ端面から離れている構成にしても構わない。レーザ端面の前端面14の側において、表面側電流注入位置(x方向位置x2)が窓構造部8の端(x方向位置x1)よりもレーザ端面から離れている場合には、特性悪化を抑制しながらレーザ端面の前端面14のCOD耐性を向上させることができる。また、レーザ端面の後端面15の側において、表面側電流注入位置(x方向位置x5)が窓構造部8の端(x方向位置x6)よりもレーザ端面から離れている場合には、特性悪化を抑制しながらレーザ端面の後端面15のCOD耐性を向上させることができる。前端面14の側又は後端面15の側の一方のみにおいて、表面側電流注入位置(x方向位置x2又はx5)が窓構造部8の端(x方向位置x1又はx6)よりもレーザ端面から離れている構成でも、
図2、
図3に示した評価結果と同様の結果が得られる。
【0051】
なお、通信用レーザに用いられるInGaAsP系材料を用いた半導体レーザでは、レーザ端面部のエピタキシャル層をエッチングした後に、InP材料などで埋め込むことで、レーザ端面部の導波路(活性層)を無くしてしまう構造を持つものがある(以降、半導体レーザX)。このような端面構造を窓構造と呼ぶことがあるが、このような構造の場合、InP埋め込み部の抵抗は、それ以外の部分よりも大きい。つまりInP埋め込み部の電流値は、それ以外の部分よりも小さくなる。本願明細書に開示される一例の半導体レーザは、レーザ端面の窓構造部分が他の部分よりも低抵抗である場合に発生する問題を解決する方法を示したものであり、そのような特徴を持たない半導体レーザXのような構造においては、表面側電極後退量L1、裏面側電極後退量L2で決定される表面側電極10、裏面側電極11を採用したとしても、本願明細書に開示される一例の半導体レーザの効果を享受できるものではない。
【0052】
以上のように、実施の形態1の半導体レーザ50は、半導体基板1と、半導体基板1の表面側に第一のクラッド層2を介して形成された活性層4と、活性層4の半導体基板1と反対側である表面側に第二のクラッド層6、コンタクト層7を介して形成された表面側電極10と、半導体基板1の裏面側に形成された裏面側電極11と、を備え、レーザ光を出力する半導体レーザである。実施の形態1の半導体レーザ50は、レーザ光が往復して共振する前端面14及び後端面15の側の端面領域に、端面領域より内側の活性層4よりも抵抗が低く形成された低抵抗活性層(窓構造部活性層4a)を含む窓構造部8を備えており、コンタクト層7における前端面14側の端をコンタクト層前端とし、コンタクト層7における後端面15側の端をコンタクト層後端とし、レーザ光が出力される前端面14側のコンタクト層前端と前端面14とのレーザ光が往復する光往復方向の長さ(表面側電極後退量L1)は、前端面14側の窓構造部8の境界と前端面14との光往復方向の長さである前端面側窓構造部長(窓構造部長Lw)よりも10μm以上長い長さでかつ前端面14とコンタクト層後端との光往復方向の長さよりも短い長さである。裏面側電極11における前端面14側の端と前端面14との光往復方向の長さ(裏面側電極後退量L2)は、半導体基板1における基板厚の1.2倍以上の長さでかつ前端面14と裏面側電極11における後端面15側の端との光往復方向の長さよりも短い長さである。実施の形態1の半導体レーザ50は、このような構成により、コンタクト層前端と前端面14とのレーザ光が往復する光往復方向の長さ(表面側電極後退量L1)が前端面側窓構造部長(窓構造部長Lw)よりも10μm以上長い長さであり、裏面側電極11における前端面14側の端と前端面14との光往復方向の長さ(裏面側電極後退量L2)が半導体基板1の基板厚の1.2倍以上であるので、特性悪化を抑制しながら前端面側の窓構造部のCOD耐性を向上させることができる。
【0053】
また、実施の形態1の半導体レーザ50は、半導体基板1と、半導体基板1の表面側に第一のクラッド層2を介して形成された活性層4と、活性層4の半導体基板1と反対側である表面側に第二のクラッド層6、コンタクト層7を介して形成された表面側電極10と、半導体基板1の裏面側に形成された裏面側電極11と、を備え、レーザ光を出力する半導体レーザである。実施の形態1の半導体レーザ50は、レーザ光が往復して共振する前端面14及び後端面15の側の端面領域に、端面領域より内側の活性層4よりも抵抗が低く形成された低抵抗活性層(窓構造部活性層4a)を含む窓構造部8を備えており、コンタクト層7における前端面14側の端をコンタクト層前端とし、コンタクト層7における後端面15側の端をコンタクト層後端とし、レーザ光が出力される前端面14側と反対側のコンタクト層後端と後端面15とのレーザ光が往復する光往復方向の長さ(表面側電極後退量L1)は、後端面15側の窓構造部8の境界と後端面15との光往復方向の長さである後端面側窓構造部長(窓構造部長Lw)よりも10μm以上長い長さでかつ後端面15とコンタクト層前端との光往復方向の長さよりも短い長さである。裏面側電極11における後端面15側の端と後端面15との光往復方向の長さ(裏面側電極後退量L2)は、半導体基板1における基板厚の1.2倍以上の長さでかつ後端面15と裏面側電極11における前端面14側の端との光往復方向の長さよりも短い長さである。実施の形態1の半導体レーザ50は、このような構成により、コンタクト層後端と後端面15とのレーザ光が往復する光往復方向の長さ(表面側電極後退量L1)が後端面側窓構造部長(窓構造部長Lw)よりも10μm以上長い長さであり、裏面側電極11における後端面15側の端と後端面15との光往復方向の長さ(裏面側電極後退量L2)が半導体基板1の基板厚の1.2倍以上であるので、特性悪化を抑制しながら後端面側の窓構造部のCOD耐性を向上させることができる。
【0054】
実施の形態2.
実施の形態1では、レーザ端面の前端面14および後端面15の側において、表面側電流注入位置(x方向位置x2、x5)が窓構造部8の端(x方向位置x1、x6)よりもレーザ端面から離れている例を示した。通常の半導体レーザにおいては、前端面14側からのみ光を取り出すため、前端面14側を低反射の被覆膜12でコーティングし、後端面15側を高反射の被覆膜13でコーティングすることが一般的である。この場合、COD劣化が先に発生するのは前端面14側となるので、表面側電流注入位置を窓構造部8の端(x方向位置x1)よりもレーザ端面から離すように形成された絶縁膜9を前端面14側のみに適用してもよい。
【0055】
図14は、実施の形態2に係る半導体レーザの断面構造を示す図である。実施の形態2の半導体レーザ50は、前端面14側の表面側電極後退量L1fが窓構造部長Lwよりも長く、後端面15側の表面側電極後退量L1bが窓構造部長Lwと同じである点で、実施の形態1の半導体レーザ50と異なる。表面側電極後退量L1fはレーザ端面の前端面14から絶縁膜9の内側の端までの長さであり、表面側電極後退量L1bはレーザ端面の後端面15から絶縁膜9の内側の端までの長さである。表面側電極後退量L1fは、実施の形態1で説明したように、窓構造部長Lwよりも10μm以上長いことが好ましい。裏面側電極後退量L2は、実施の形態1で説明したように、半導体基板1の基板厚Tの1.2倍であることが好ましい。実施の形態2の半導体レーザ50は、前端面14側の表面側電極後退量L1fが窓構造部長Lwよりも10μm以上長く、少なくとも前端面14側の裏面側電極後退量L2が半導体基板1の基板厚Tの1.2倍以上であるので、特性悪化を抑制しながらCOD耐性を向上させることができる。実施の形態2の半導体レーザ50は、中央部から前端面14側の構造が実施の形態1の半導体レーザ50と同じなので、実施の形態1の半導体レーザ50と同様の効果を奏する。
【0056】
以上のように、実施の形態2の半導体レーザ50は、半導体基板1と、半導体基板1の表面側に第一のクラッド層2を介して形成された活性層4と、活性層4の半導体基板1と反対側である表面側に第二のクラッド層6、コンタクト層7を介して形成された表面側電極10と、半導体基板1の裏面側に形成された裏面側電極11と、を備え、レーザ光を出力する半導体レーザである。実施の形態2の半導体レーザ50は、レーザ光が往復して共振する前端面14及び後端面15の側の端面領域に、端面領域より内側の活性層4よりも抵抗が低く形成された低抵抗活性層(窓構造部活性層4a)を含む窓構造部8を備えており、コンタクト層7における前端面14側の端をコンタクト層前端とし、コンタクト層7における後端面15側の端をコンタクト層後端とし、レーザ光が出力される前端面14側のコンタクト層前端と前端面14とのレーザ光が往復する光往復方向の長さ(表面側電極後退量L1)は、前端面14側の窓構造部8の境界と前端面14との光往復方向の長さである前端面側窓構造部長(窓構造部長Lw)よりも10μm以上長い長さでかつ前端面14とコンタクト層後端との光往復方向の長さよりも短い長さであり、コンタクト層後端と後端面15との光往復方向の長さ(表面側電極後退量L1)は、後端面15側の窓構造部8の境界と後端面15との光往復方向の長さである後端面側窓構造部長(窓構造部長Lw)以上の長さでかつ後端面15とコンタクト層前端との光往復方向の長さよりも短い長さである。裏面側電極11における前端面14側の端と前端面14との光往復方向の長さ(裏面側電極後退量L2)は、半導体基板1における基板厚の1.2倍以上の長さでかつ前端面14と裏面側電極11における後端面15側の端との光往復方向の長さよりも短い長さである。実施の形態2の半導体レーザ50は、このような構成により、コンタクト層前端と前端面14とのレーザ光が往復する光往復方向の長さ(表面側電極後退量L1)が前端面側窓構造部長(窓構造部長Lw)よりも10μm以上長い長さであり、コンタクト層後端と後端面15との光往復方向の長さ(表面側電極後退量L1)が後端面側窓構造部長(窓構造部長Lw)以上の長さであり、裏面側電極11における前端面14側の端と前端面14との光往復方向の長さ(裏面側電極後退量L2)が半導体基板1の基板厚の1.2倍以上であるので、特性悪化を抑制しながらCOD耐性を向上させることができる。
【0057】
実施の形態3.
実施の形態1及び2は、半導体基板1がn型の半導体基板で、アンドープの第一の光ガイド層3、活性層4、第二の光ガイド層5を挟んだ半導体基板1と逆側の半導体層がp型の半導体層である構造の例を示した。しかし、これとは逆に半導体基板1がp型の半導体基板で、アンドープの第一の光ガイド層3、活性層4、第二の光ガイド層5を挟んだ半導体基板1と逆側の半導体層がn型の半導体層であってもよい。この場合も、特性悪化を抑制しながら少なくとも一方のレーザ端面側における窓構造部のCOD耐性を向上させることができる。
【0058】
図15は、実施の形態3に係る半導体レーザの断面構造を示す図である。実施の形態3の半導体レーザ50は、アンドープの第一の光ガイド層3、活性層4、第二の光ガイド層5を挟んでいる半導体材料の導電型が反転している点で、実施の形態1の半導体レーザ50と異なる。実施の形態3の半導体レーザ50はp型のGaAsの半導体基板41を有しており、この半導体基板41の表面には、p型のAlInPからなる第一のクラッド層42が半導体基板41に直接接合するように形成されている。この第一のクラッド層42の表面(半導体基板41と反対側の面)には、アンドープのAlInPからなる第一の光ガイド層3が形成されており、第一の光ガイド層3の表面にはアンドープのGaInPからなる活性層4が形成されている。活性層4の表面にはアンドープのAlGaInPからなる第二の光ガイド層5が形成されている。第二の光ガイド層5の表面にはn型のAlInPからなる第二のクラッド層46が形成されており、さらに第二のクラッド層46の表面にはn型のGaAsからなるコンタクト層47が形成されている。第一のクラッド層42、第一の光ガイド層3、第二の光ガイド層5、第二のクラッド層46は、AlGaInP系材料により構成されている。
【0059】
半導体基板41の厚さ(基板厚)は、例えば100μmである。第一のクラッド層42の厚さは1.0μm程度であり、そのキャリア濃度は1.0×10
18cm
−3程度である。第一の光ガイド層3および第二の光ガイド層5の厚さは0.1μm程度であり、活性層4の厚さは8〜20nm程度である。第二のクラッド層46の厚さは1.0μm程度であり、そのキャリア濃度は1.0×10
18cm
−3程度である。コンタクト層47の厚さは0.02μm程度であり、そのキャリア濃度は1.0〜2.0×10
19cm
−3程度である。この他の構成は、実施の形態1の半導体レーザ50と同じである。
【0060】
実施の形態3の半導体レーザ50は、半導体材料の導電型が異なっているが、その他は実施の形態1の半導体レーザ50と同じ構造を備えているので、実施の形態1の半導体レーザ50と同様の効果を奏する。なお、
図15では、実施の形態1の半導体レーザ50と同じ構造の例を示した。しかし、
図14に示した実施の形態2の半導体レーザ50の構造において、半導体材料の導電型を反転させてもよい。
【0061】
実施の形態4.
実施の形態1〜3では、Znの拡散を用いた窓構造部8の例を示した。Znの拡散を用いた窓構造部8は窓構造部8より内側の部分よりも低抵抗なので、窓構造部8はZnの拡散を用いた窓構造に限らず、低抵抗であればよい。
図16は、実施の形態4に係る半導体レーザの断面構造を示す図である。実施の形態4の半導体レーザ50は、窓構造部がSi注入を用いるなどにより窓構造部以外の領域よりも低抵抗である窓構造部48を備えている点で、実施の形態1の半導体レーザ50と異なる。窓構造部48を形成する窓構造部形成工程において、コンタクト層7側からSiイオン等をイオン注入する。イオン注入によりSiイオン等をイオン注入する場合は、注入する領域が開口されたSiO
2又はSiNなどの絶縁膜を形成した後にイオン注入を行う。イオン注入を行う際に窓構造部48を形成する領域のコンタクト層7を除去する必要はないが、表面側電極10を形成する前には窓構造部48を形成する領域のコンタクト層7は除去されている。窓構造部48の窓構造部活性層4aは、Siが含まれており、前端面14及び後端面15の側の端面領域より内側の活性層4よりも抵抗が低く形成された低抵抗活性層である。
【0062】
実施の形態4の半導体レーザ50は、低抵抗の窓構造部48における不純物が異なるが、その他は実施の形態1の半導体レーザ50と同じ構造を備えているので、実施の形態1の半導体レーザ50と同様の効果を奏する。なお、
図16では、実施の形態1の半導体レーザ50と同じ構造の例を示した。しかし、低抵抗の窓構造部48は、実施の形態2及び3の半導体レーザ50の構造にも適用できる。
【0063】
なお、実施の形態1〜4の半導体レーザ50は、比較例に示した半導体材料を用いてもよい。比較例に示した半導体材料を用いた実施の形態3の半導体レーザ50は、アンドープのGaInPの活性層を挟んでいる半導体材料の導電型が反転したものである。比較例に示した半導体材料を用いた実施の形態1〜4の半導体レーザ50は、少なくとも前端面14側、後端面15の一方において、表面側電極後退量L1が窓構造部長Lwよりも10μm以上長く、裏面側電極後退量L2が半導体基板1の基板厚Tの1.2倍以上であるので、特性悪化を抑制しながら少なくとも一方のレーザ端面側における窓構造部のCOD耐性を向上させることができる。
【0064】
なお、実施の形態1〜4では、前端面14側の窓構造部長Lwが後端面15側の窓構造部長Lwに等しい例で説明したが、前端面14側の窓構造部長Lwと後端面15側の窓構造部長Lwとが異なる長さであってよい。前端面14側の裏面側電極後退量L2が後端面15側の裏面側電極後退量L2に等しい例で説明したが、前端面14側の裏面側電極後退量L2と後端面15側の裏面側電極後退量L2とが異なる長さであってよい。また、実施の形態1、3、4では、前端面14側の表面側電極後退量L1が後端面15側の表面側電極後退量L1に等しい例で説明したが、前端面14側の表面側電極後退量L1と後端面15側の表面側電極後退量L1とが異なる長さであってよい。
【0065】
なお、本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。