(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スラスタと回転軸回りにパネル面が回転可能な太陽電池パネルとを有する衛星の位置を取得し、前記衛星が目標軌道まで遷移する際に前記スラスタを噴射させるために使用される推薬の量を最小化する前記スラスタの推力方向である理想推力方向を算出する理想推力方向算出部と、
前記推力方向が前記理想推力方向に一致し、かつ、前記パネル面が太陽を向く場合の前記衛星の姿勢である理想姿勢を算出する理想姿勢算出部と、
前記衛星の姿勢を機械的に制御する姿勢制御アクチュエータの駆動制約を取得し、前記駆動制約の範囲で、前記パネル面が前記太陽を向いた状態で、前記理想姿勢とのずれを最小化する前記衛星の姿勢である目標姿勢を算出する目標姿勢算出部と、
前記衛星の姿勢である実姿勢を取得し、前記実姿勢から前記目標姿勢まで前記衛星を回転させるトルクを算出し、算出した前記トルクを示すトルク指令を、前記姿勢制御アクチュエータに送るトルク算出部と、
を備える姿勢制御装置。
前記目標姿勢算出部は、前記駆動制約の範囲で、前記回転軸が前記太陽方向に直交する方向に延びた状態で、前記理想姿勢とのずれを最小化する前記衛星の姿勢である前記目標姿勢を算出する、
請求項2に記載の姿勢制御装置。
前記目標姿勢算出部は、前記実姿勢からの前記太陽方向の回りの回転角と前記回転軸の回りの回転角とを変数として、前記理想姿勢から前記目標姿勢への回転を示す変換行列を算出し、前記駆動制約の範囲で、前記変換行列の対角和を最小とする、前記実姿勢からの前記太陽方向の回りの回転角と前記回転軸の回りの回転角とを算出することで、前記目標姿勢を算出する、
請求項4に記載の姿勢制御装置。
前記目標姿勢算出部は、前記理想姿勢から前記実姿勢への回転を示す変換行列を算出し、前記変換行列の逆運動学問題を解くことで、前記実姿勢からの前記太陽方向の回りの回転角の理想値と前記回転軸の回りの回転角の理想値とを算出し、前記駆動制約の範囲で、前記実姿勢からの前記太陽方向の回りの回転角の理想値と前記回転軸の回りの回転角の理想値とのずれを最小とする、前記実姿勢からの前記太陽方向の回りの回転角と前記回転軸の回りの回転角とを算出することで、前記目標姿勢を算出する、
請求項4に記載の姿勢制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係る姿勢制御装置について図面を参照して詳細に説明する。なお図中、同一または同等の部分には同一の符号を付す。
【0011】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る姿勢制御装置を、衛星の一例である静止衛星に搭載され、静止衛星が投入された軌道から目標軌道であるGEO(Geostationary Earth Orbit:静止軌道)まで遷移する際に静止衛星の姿勢を制御する姿勢制御装置を例に説明する。
図1に示す静止衛星1は、ロケットから切り離されてGTO(Geostationary Transfer Orbit:静止トランスファ軌道)に投入される。その後、静止衛星1は、電気推進スラスタであるスラスタ11を噴射させることで推力を得て、GTOからGEOまで遷移する。スラスタ11は、イオン推進器、プラズマ推進器等の主推進器を意味する。静止衛星1の姿勢制御の説明において、理解を容易にするため、X軸、Y軸、およびZ軸を有する地球2を中心とした地球中心慣性座標系を設定し、適宜参照する。地球中心慣性座標系において、Z軸は、地球2を南極から北極に向かって貫通する方向に延び、X軸は、春分点方向に延び、Y軸はZ軸とX軸のそれぞれに直交する。
【0012】
また、
図2に示すように、x
B軸、y
B軸、およびz
B軸を有する静止衛星1に固定された衛星座標系を設定し、適宜参照する。衛星座標系において、z
B軸は、静止衛星1が有するスラスタ11の推力方向を示し、y
B軸は、静止衛星1が有する太陽電池パネル12の回転軸を示し、x
B軸は、z
B軸とy
B軸のそれぞれに直交する。静止衛星1は、筐体10と、筐体10に取り付けられたスラスタ11と、太陽電池パネル12と、筐体10に取り付けられ、太陽電池パネル12をy
B軸回りに回転可能に支持する支持部材13と、静止衛星1の姿勢を機械的に制御する複数の姿勢制御アクチュエータ14と、を備える。スラスタ11は筐体10に対して、推力方向が固定されて、筐体10に取り付けられる。
図2に示すように衛星座標系を定めた場合、スラスタ11が噴射すると、静止衛星1に対してz
B軸正方向に推力が働く。筐体10に対するスラスタ11の推力方向が固定されているため、静止衛星1に推力が働く方向を調節するためには、静止衛星1の姿勢を調節する必要がある。静止衛星1の姿勢を機械的に制御する4つの姿勢制御アクチュエータ14は、筐体10の内部に格納される。姿勢制御アクチュエータ14として、リアクションホイール、コントロールモーメントジャイロ等が用いられる。
【0013】
図2には示さないが、静止衛星1は、筐体10の内部に、姿勢制御アクチュエータ14を電気的に制御する姿勢制御装置を収容する。詳細については後述するが、姿勢制御装置は、太陽電池パネル12のパネル面12aを、
図2において破線の矢印で示す太陽の方向を示す単位ベクトルs
Bに直交させた状態で、スラスタ11の推力方向を、GTOからGEOへの遷移における推薬の使用量を最小化するために最適な方向に向ける静止衛星1の姿勢である理想姿勢を算出する。そして、姿勢制御装置は、姿勢制御アクチュエータ14の駆動制約を考慮して、理想姿勢とのずれを最小化する目標姿勢を算出する。そして、姿勢制御装置は、静止衛星1の姿勢である実姿勢を取得し、実姿勢から目標姿勢まで静止衛星1を回転させるトルクを算出し、算出したトルクを示すトルク指令を姿勢制御アクチュエータ14に送る。姿勢制御アクチュエータ14は、トルク指令に基づいて静止衛星1の姿勢を機械的に制御する。
【0014】
GTOからGEOへの遷移中、図示しないスラスタ制御装置は、スラスタ11を一定の噴射量で噴射させる。スラスタ11が、一定の噴射量で噴射することで、GTOからGEOへの遷移中に、静止衛星1に一定の推力が働く。
【0015】
上述のように一定の推力が働いている状態で、スラスタ11の推力方向を、GTOからGEOへの遷移における推薬の使用量を最小化するために最適な方向に向ける姿勢制御装置20について説明する。
図3に示すように、姿勢制御装置20は、静止衛星1の現在の軌道の接触軌道要素を算出する軌道算出部21と、スラスタ11の理想推力方向を算出する理想推力方向算出部22と、静止衛星1から見た太陽の方向を算出する太陽方向算出部23と、静止衛星1の理想姿勢を算出する理想姿勢算出部24と、静止衛星1の実際の姿勢である実姿勢を算出する実姿勢算出部25と、目標とする静止衛星1の姿勢である目標姿勢を算出する目標姿勢算出部26と、姿勢制御アクチュエータ14の駆動制約の条件を設定する駆動制約設定部27と、目標姿勢からトルクを算出し、トルク指令を姿勢制御アクチュエータ14に送るトルク算出部28と、を備える。
【0016】
なお理想推力方向を、静止衛星1の位置する軌道からGEOへの遷移における推薬の消費量を最小化し、遷移に要する時間を最小化するために最適なスラスタ11の推力軸とする。理想姿勢を、z
B軸が理想推力方向に一致した状態で、パネル面12aが太陽を向く場合の静止衛星1の姿勢とする。なお理想姿勢は、z
B軸が理想推力方向に一致した状態で、y
B軸が単位ベクトルs
Bに直交する方向に延びる場合の静止衛星1の姿勢であることが好ましい。また目標姿勢を、姿勢制御アクチュエータ14の駆動制約の範囲で、パネル面12aが太陽を向いた状態で、理想姿勢とのずれを最小化する静止衛星1の姿勢とする。なお目標姿勢は、姿勢制御アクチュエータ14の駆動制約の範囲で、y
B軸が単位ベクトルs
Bに直交する方向に延びた状態で、理想姿勢とのずれを最小化する静止衛星1の姿勢であることが好ましい。
【0017】
軌道算出部21は、静止衛星1に搭載されたGPS(Global Positioning System)受信機から取得した信号から静止衛星1の位置の瞬時値を算出し、センサ群29が有する速度センサから静止衛星
1の速度の瞬時値を取得する。なお速度センサは、例えば、静止衛星1と通信する地上局からの電波に基づいて静止衛星1の速度を算出する。そして、軌道算出部21は、静止衛星1の位置の瞬時値および静止衛星1の速度の瞬時値から、静止衛星1が運動する軌道を特定するパラメータである接触軌道要素を算出する。
【0018】
理想推力方向算出部22は、軌道算出部21で算出した接触軌道要素で特定された、静止衛星1が位置する軌道からGEOへの遷移における推薬の消費量を最小化するために最適なスラスタ11の推力軸である理想推力方向を算出する。詳細には、理想推力方向算出部22は、軌道算出部21で算出された接触軌道要素と目標とする軌道要素の差から重み係数を算出し、それぞれの軌道要素の変化率が最大となる方向ベクトルに重み係数を乗算した結果の合計を算出することで、推薬の消費量を最小化する衛星座標系での理想推力方向を算出する。
【0019】
太陽方向算出部23は、静止衛星1から見た太陽の方向を算出する。詳細には、太陽方向算出部23は、センサ群29に含まれる太陽センサから信号を取得し、太陽センサから取得した信号に基づいて衛星座標系における太陽の方向を示す単位ベクトルs
Bを算出する。
【0020】
理想姿勢算出部24は、理想推力方向および太陽の方向から、静止衛星1の理想姿勢を算出する。詳細には、理想姿勢算出部24は、理想推力方向および単位ベクトルs
Bから静止衛星1の理想姿勢を算出する。
【0021】
実姿勢算出部25は、静止衛星1に取り付けられた磁気センサ、ジャイロセンサ等を含むセンサ群29から信号を取得し、センサ群29から取得した信号に基づいて静止衛星1の実姿勢を算出する。
【0022】
駆動制約設定部27は、姿勢制御アクチュエータ14の能力によって規定される駆動制約を設定する。ここで駆動制約として、姿勢制御アクチュエータ14によって生じさせることができる静止衛星1の角速度の絶対値の上限ω
MAXを用いる。
【0023】
目標姿勢算出部26は、実姿勢算出部25から静止衛星1の実姿勢を取得し、理想姿勢算出部24から静止衛星1の理想姿勢を取得し、駆動制約設定部27から、姿勢制御アクチュエータ14の駆動制約を取得する。そして、目標姿勢算出部26は、静止衛星1の実姿勢と理想姿勢および姿勢制御アクチュエータ14の駆動制約から、目標とする静止衛星1の姿勢である目標姿勢を算出する。
【0024】
トルク算出部28は、実姿勢算出部25から静止衛星1の実姿勢を取得し、目標姿勢算出部26から静止衛星1の目標姿勢を取得し、静止衛星1の姿勢を目標姿勢に一致させるトルクを算出する。トルク算出部28は、算出したトルクを示すトルク指令を姿勢制御アクチュエータ14に送る。姿勢制御アクチュエータ14は、トルク指令に応じて静止衛星1の姿勢を機械的に制御する。
【0025】
上記構成を有する姿勢制御装置20が行う静止衛星1の姿勢制御の動作について
図4を用いて説明する。なお姿勢制御装置20は、太陽電池パネル12のパネル面12aを太陽の方向、すなわち単位ベクトルs
Bに直交させてから、
図4の姿勢制御の処理を行うものとする。姿勢制御装置20が、時間間隔T1ごとに、姿勢制御処理を行って姿勢制御アクチュエータ14を制御することで、静止衛星1の姿勢が一定の時間間隔で機械的に制御される。時間間隔T1を、例えば、数秒から数分の長さとする。
【0026】
軌道算出部21は、静止衛星1の接触軌道要素を算出する(ステップS11)。詳細には、軌道算出部21は、時刻t
kにおいて静止衛星1の接触軌道要素を算出し、算出した接触軌道要素を理想推力方向算出部22に送る。なお姿勢制御装置20の各部は、図示しない発振回路が出力した、時間間隔T1のクロック信号に同期して処理を行う。ステップS11で算出した接触軌道要素が静止軌道の接触軌道要素に一致する場合(ステップS12;Yes)、姿勢制御装置20は、姿勢制御の処理を終了する。
【0027】
ステップS11で算出した接触軌道要素が静止軌道の接触軌道要素に一致しない場合(ステップS12;No)、実姿勢算出部25は、センサ群29に含まれる姿勢センサから取得した信号に基づいて、地球中心慣性座標系において、静止衛星1の実姿勢を算出する(ステップS13)。詳細には、実姿勢算出部25は、地球中心慣性座標系において、静止衛星1の姿勢である実姿勢を示す行列C
BkIを算出する。実姿勢算出部25は、行列C
BkIを目標姿勢算出部26およびトルク算出部28に送る。
【0028】
太陽方向算出部23は、センサ群29に含まれる太陽センサから取得した信号に基づいて、衛星座標系における静止衛星1から見た太陽の方向を算出する(ステップS14)。詳細には、太陽方向算出部23は、太陽センサから取得した信号に基づいて衛星座標系における太陽の方向を示す単位ベクトルs
Bを算出する。そして、太陽方向算出部23は、時刻t
kに算出した太陽の方向を示す単位ベクトルs
Bkを、理想姿勢算出部24および目標姿勢算出部26に送る。
【0029】
理想推力方向算出部22は、ステップS11で算出された接触軌道要素から、衛星座標系での理想推力方向を算出する(ステップS15)。詳細には、理想推力方向算出部22は、時刻tkに軌道算出部21で算出された接触軌道要素と目標とする軌道要素の差から重み係数を算出し、それぞれの軌道要素の変化率が最大となる方向ベクトルに重み係数を乗算した結果の合計を算出することで、推薬の消費量を最小化する時刻t
k+1における衛星座標系での理想推力方向u
k+1dを算出する。理想推力方向算出部22は、算出した理想推力方向u
k+1dを理想姿勢算出部24に送る。なお時刻t
k+1は、時刻t
kと、時間間隔T1を用いて、下記(1)式で表される。
t
k+1=t
k+T1 (1)
【0030】
理想姿勢算出部24は、ステップS15で算出された理想推力方向、およびステップS14で算出された太陽の方向から、地球中心慣性座標系での静止衛星1の理想姿勢を算出する(ステップS16)。詳細には、理想姿勢算出部24は、時刻t
k+1での理想推力方向u
k+1dおよび単位ベクトルs
Bkから、静止衛星1の理想姿勢を算出する。静止衛星1の姿勢が時刻t
k+1での理想姿勢に一致する場合の衛星座標系のx
B軸、y
B軸、z
B軸のそれぞれに応じた単位ベクトルを、x
Bk+1d、y
Bk+1d、z
Bk+1dとする。上述したように、理想姿勢では、z
B軸は、理想推力方向に一致するので、z
B軸は、下記(2)式で表される。
z
Bk+1d=u
k+1d (2)
【0031】
さらに、理想姿勢では、パネル面12aが単位ベクトルs
Bに直交する。静止衛星1と太陽は遠く離れているため、時間間隔T1の間に静止衛星1の位置および姿勢が変化したとしても、時刻t
k+1における太陽の方向は、時刻t
kにおける太陽の方向と一致するとみなせる。すなわち、太陽電池パネル12の回転軸であるy
B軸に応じた単位ベクトルy
Bk+1dは、単位ベクトルz
Bk+1dと太陽の方向s
Bkに直交するとみなせる。したがって、単位ベクトルy
Bk+1dは、下記(3)式で表される。
【0033】
衛星座標系は右手系の直交座標系であるから、単位ベクトルx
Bk+1dは、下記(4)式で表される。
x
Bk+1d=y
Bk+1d×z
Bk+1d (4)
【0034】
上記(2)−(4)式に示す単位ベクトルx
Bk+1d、y
Bk+1d、z
Bk+1dを、地球中心慣性座標系で表す行列C
Bk+1dIを、下記(5)式に定義する。下記(5)式における[x
Bk+1d]
Iは、x
Bk+1dを地球中心慣性座標系で表すことを意味する。同様に、[y
Bk+1d]
Iは、y
Bk+1dを地球中心慣性座標系で表すことを意味し、[z
Bk+1d]
Iは、z
Bk+1dを地球中心慣性座標系で表すことを意味する。理想姿勢算出部24は、行列C
Bk+1dIを目標姿勢算出部26に送る。
C
Bk+1dI=[[x
Bk+1d]
I,[y
Bk+1d]
I,[z
Bk+1d]
I] (5)
【0035】
目標姿勢算出部26は、静止衛星1の実姿勢および理想姿勢と、姿勢制御アクチュエータ14の駆動制約から、地球中心慣性座標系での静止衛星1の目標姿勢を算出する(ステップS17)。詳細には、目標姿勢算出部26は、行列C
Bk+1dI、行列C
BkI、単位ベクトルs
Bk、および角速度の絶対値の上限ω
MAXから、目標姿勢を算出する。目標姿勢を算出するにあたり、理想姿勢と目標姿勢のずれを最小にすることが好ましい。そこで、目標姿勢算出部26は、時刻t
k+1における静止衛星1の理想姿勢から、時刻t
k+1における静止衛星1の目標姿勢への変換行列を算出し、変換行列の対角和を最小とする。その結果、理想姿勢からのずれが最小となる目標姿勢が算出される。具体的な演算処理について以下に説明する。
【0036】
時刻t
k+1における静止衛星1の理想姿勢から、時刻t
kにおける静止衛星1の実姿勢へのベクトル変換を示す変換行列C
BkBk+1dは、下記(6)式で定義される。下記(6)式において、C
IBk+1dは、C
Bk+1dIの転置行列である。
C
BkBk+1d=C
BkIC
IBk+1d (6)
【0037】
時刻t
kにおける静止衛星1の実姿勢から、時刻t
k+1における静止衛星1の目標姿勢への変換行列C
Bk+1Bkは、下記(7)式で定義される。下記(7)式の右辺は、単位ベクトルs
Bk回りに角度θだけ回転した後に、y
B軸回りに角度φだけ回転して静止衛星1の姿勢を目標姿勢に一致させることを意味する。下記(7)式において、C
2(φ)は、y
B軸回りに角度φだけ回転することを示す座標変換行列である。下記(7)式において、E
3は、3次の単位行列であり、s
BkT、は、s
Bkの転置行列であり、s
Bkx、は、s
Bkの外積行列である。
【0039】
静止衛星1の軌道周期が12時間から24時間程度であるのに対し、時間間隔T1は数秒から数分の長さであるため、角度θおよび角度φは微小な値であるとみなせる。そのため、上記(7)式は、下記(8)式で近似することができる。下記(8)式において、e
2は、[0 1 0]
Tで定義される行列である。下記(8)式では、変換行列C
Bk+1Bkは、角度θと角度φの線形結合で表される。
【0041】
時刻t
k+1における静止衛星1の理想姿勢から、時刻t
k+1における静止衛星1の目標姿勢への変換行列C
Bk+1Bk+1dは、下記(9)式で定義される。
【0043】
上記(9)式は、静止衛星1の理想姿勢からのずれを示すものであるから、角速度の絶対値の上限ω
MAXに基づく下記(10)式を満たしながら、上記(9)式に示す変換行列C
Bk+1Bk+1dの対角和を最小とする角度θおよび角度φを算出することで、静止衛星1の理想姿勢に最も近い目標姿勢を求めることができる。
【0045】
上記(9)式の右辺において、変換行列C
Bk+1Bkは、角度θと角度φの線形結合で表される。上記(9)式の右辺において、C
BkBk+1dは、上記(6)式で表されるように、時刻t
kにおける静止衛星1の実姿勢を示す行列C
BkIと、時刻t
k+1における静止衛星1の理想姿勢を示す行列C
Bk+1dIの転置行列C
IBk+1dとの積である。したがって、変換行列C
Bk+1Bk+1dは、角度θと角度φの線形結合である。すなわち、目標姿勢算出部26は、上記(10)式に示す二次式の拘束条件の下で、角度θと角度φの線形結合で表される評価関数である変換行列C
Bk+1Bk+1dの対角和を最小化する数理計画問題を解くことで、目標姿勢を算出することができる。数理計画問題を解くに際して、例えば変数の値を変えて計算を繰り返す反復計算処理は不要であるため、目標姿勢を算出するための計算処理の効率化を図ることが可能である。
【0046】
上述の数理計画問題を解くことで得られた角度θ,φのそれぞれの解をθ
*,φ
*とする。θ
*,φ
*を上記(7)式に代入して得られた、時刻t
kにおける静止衛星1の実姿勢から、時刻t
k+1における静止衛星1の目標姿勢への変換行列を、C
B*k+1Bkとする。時刻t
k+1における地球中心慣性座標系での静止衛星1の目標姿勢を示す行列C
B*k+1Iは、下記(11)式で表される。目標姿勢算出部26は、算出した目標姿勢を示す行列C
B*k+1Iをトルク算出部28に送る。
【0048】
上述の処理を行う姿勢制御装置20は、姿勢制御の開始時に、太陽電池パネル12のパネル面12aを太陽の方向に直交させる。そして、上記(7)式に示すように、時刻t
kにおける静止衛星1の実姿勢から、時刻t
k+1における静止衛星1の目標姿勢に向ける姿勢制御は、単位ベクトルs
Bk回りの回転およびy
B軸回りの回転によって行われる。すなわち、GTOからGEOへ遷移の際の姿勢制御において、太陽電池パネル12のパネル面12aは太陽の方向に直交する向きに維持される。その結果、軌道遷移において、太陽電池パネル12の発電効率の低下が抑制される。また、GTOからGEOへ遷移における推薬の消費量を最小化するために最適なスラスタ11の推力方向である理想推力方向に応じた静止衛星1の理想姿勢からのずれが最小となる目標姿勢に、静止衛星1の姿勢を一致させることで、軌道遷移における推薬の使用量を最小化することが可能である。
【0049】
トルク算出部28は、ステップS13で算出された静止衛星1の実姿勢とステップS17で算出された静止衛星1の目標姿勢から、静止衛星1を実姿勢から目標姿勢まで回転させるために必要なトルクを算出し、必要なトルクを示すトルク指令を姿勢制御アクチュエータ14に出力する(ステップS18)。詳細には、トルク算出部28は、静止衛星1の実姿勢を示す行列C
BkIと、静止衛星1の目標姿勢を示す行列C
B*k+1Iとから、時刻t
k+1において、静止衛星1の姿勢を目標姿勢に一致させるトルクを算出する。トルク算出部28は、算出したトルクを示すトルク指令を姿勢制御アクチュエータ14に送る。
【0050】
姿勢制御アクチュエータ14は、トルク指令に応じて静止衛星1の姿勢を機械的に制御する。姿勢制御アクチュエータ14がトルク指令に応じて静止衛星1の姿勢を機械的に制御することで、静止衛星1の向きが変わり、静止衛星1の姿勢は目標姿勢に一致する。姿勢制御装置20は、静止衛星1がGEOに到達するまで、時間間隔T1で上述の処理を繰り返し行う。
【0051】
以上説明したとおり、実施の形態1に係る姿勢制御装置20によれば、姿勢制御アクチュエータ14の駆動制約の範囲で、パネル面12aが太陽に向いた状態で、好ましくは、回転軸であるy
B軸が太陽方向s
Bに直交する方向に延びた状態で、理想姿勢とのずれを最小化する静止衛星1の姿勢である目標姿勢が算出される。実姿勢から、上述のように算出された目標姿勢まで静止衛星1を回転させるトルクを示すトルク指令を姿勢制御アクチュエータ14に送ることで、静止衛星1の姿勢が目標姿勢に一致し、GTOからGEOへの遷移における太陽電池パネル12の発電効率の低下が抑制される。上述の目標姿勢の算出時に、GTOからGEOへの遷移における推薬の消費量を最小化するために最適なスラスタ11の推力方向である理想推力方向に応じた静止衛星1の理想姿勢からのずれが最小となる目標姿勢を算出することで、軌道遷移における推薬の使用量を最小化することが可能である。
【0052】
(実施の形態2)
目標姿勢算出部26における目標姿勢の算出方法は、上述の例に限られない。実施の形態2に係る静止衛星1および姿勢制御装置20の構成は、実施の形態1と同様であるが、目標姿勢算出部26および駆動制約設定部27における処理が異なる。
【0053】
駆動制約設定部27は、姿勢制御アクチュエータ14として用いられるコントロールモーメントジャイロまたはリアクションホイールが発生させることができる最大の角運動量の集合である最大角運動量包絡面を設定し、最大角運動量包絡面を目標姿勢算出部26に送る。ここで、最大角運動量包絡面について補足する。一般に、衛星座標系における、ある方向を指定すると、その方向に個々の姿勢制御アクチュエータ14が発生可能な角運動量は一意に定まる。これらを足し合わせることによって、その方向に発生可能な複数の姿勢制御アクチュエータ14の全体の角運動量の最大値が定まる。このようにして得られる最大角運動量を結んでできる面が最大角運動量包絡面である。
【0054】
目標姿勢算出部26は、行列C
Bk+1dI、行列C
BkI、単位ベクトルs
Bk、および最大角運動量包絡面から、目標姿勢を算出する。目標姿勢を算出するにあたり、理想姿勢と目標姿勢のずれを最小にすることが好ましい。そこで、目標姿勢算出部26は、時刻t
k+1における静止衛星1の理想姿勢から、時刻t
kにおける静止衛星1の実姿勢への変換行列を算出し、変換行列の逆運動学問題を解くことで、単位ベクトルs
Bk回りの回転角度の理想値θ
dと、y
B軸回りの回転角度の理想値φ
dを求める。そして、目標姿勢算出部26は、回転角度の理想値θ
d,φ
dに近い角度θ,φによって定められる目標姿勢を算出する。
【0055】
上述の目標姿勢算出部26の動作の詳細について説明する。目標姿勢算出部26は、上記(6)式で表される変換行列C
BkBk+1dについて、逆運動学問題を解くことで、単位ベクトルs
Bk回りの回転角度の理想値θ
dと、y
B軸回りの回転角度の理想値φ
dを求める。
【0056】
時刻t
kにおける静止衛星1の実姿勢から、時刻t
k+1における静止衛星1の理想姿勢への回転において、姿勢制御アクチュエータ14の駆動制約を考慮しない理論上の最適な回転軸[ρ
d]
Bkは、下記(12)式で定義される。なお回転軸[ρ
d]
Bkは、衛星座標系で表される。
[ρ
d]
Bk=φ
de
2+θ
ds
Bk (12)
【0057】
目標姿勢算出部26は、最大角運動量包絡面に基づき、姿勢制御アクチュエータ14によって生じさせることができる回転軸[ρ
d]
Bkの回りの静止衛星1の回転の角運動量の上限h
maxを算出する。目標姿勢算出部26は、姿勢制御アクチュエータ14によって生じさせることができる回転軸[ρ
d]
Bkの回りの静止衛星1の角速度の絶対値の上限ω
MAXを下記(13)式で示すように算出
する。下記(13)式において、I
Bは、静止衛星1の慣性行列である。静止衛星1の慣性行列I
Bは、3行3列の行列であって、静止衛星1の慣性モーメントを対角項に含み、慣性乗積を非対角項に含む。
ω
MAX=h
max/|I
B[ρ
d]
Bk| (13)
【0058】
そして、目標姿勢算出部26は、上記(10)式を満たしながら、単位ベクトルs
Bk回りの回転角度の理想値θ
dおよびy
B軸回りの回転角度の理想値φ
dのそれぞれからのずれが最小である角度θおよび角度φを算出することで、静止衛星1の理想姿勢に最も近い目標姿勢を求めることができる。上述のように求められた角度θ,φをそれぞれθ
*,φ
*とする。θ
*,φ
*を上記(7)式に代入して得られた、時刻t
kにおける静止衛星1の実姿勢から、時刻t
k+1における静止衛星1の目標姿勢への変換行列を、C
B*k+1Bkとする。時刻t
k+1における地球中心慣性座標系での静止衛星1の目標姿勢を示す行列C
B*k+1Iは、上記(11)式で表される。目標姿勢算出部26は、算出した目標姿勢を示す行列C
B*k+1Iをトルク算出部28に送る。
【0059】
実施の形態1と同様に、上述の処理を行う姿勢制御装置20は、姿勢制御の開始時に、太陽電池パネル12のパネル面12aを太陽の方向に直交させる。そして、上記(7)式に示すように、時刻t
kにおける静止衛星1の実姿勢から、時刻t
k+1における静止衛星1の目標姿勢に向ける姿勢制御は、単位ベクトルs
Bk回りの回転およびy
B軸回りの回転によって行われる。すなわち、GTOからGEOへ遷移の際の姿勢制御において、太陽電池パネル12のパネル面12aは太陽の方向に直交する向きに維持される。その結果、軌道遷移において、太陽電池パネル12の発電効率の低下が抑制される。また、GTOからGEOへ遷移における推薬の消費量を最小化するために最適なスラスタ11の推力方向である理想推力方向に応じた静止衛星1の理想姿勢からのずれが最小となる目標姿勢に、静止衛星1の姿勢を一致させることで、軌道遷移における推薬の使用量を最小化することが可能である。
【0060】
以上説明したとおり、実施の形態2に係る姿勢制御装置20によれば、理想的な回転軸の回りに、姿勢制御アクチュエータ14の駆動制約を考慮した角速度で静止衛星1を回転させて、静止衛星1の姿勢を目標姿勢に一致させることで、GTOからGEOへの遷移における太陽電池パネル12の発電効率の低下を抑制することが可能である。理想的な回転軸の回りの回転に対する姿勢制御アクチュエータ14の駆動制約を考慮するため、例えば、最大の慣性二次モーメントを伴う慣性主軸と、最小の慣性二次モーメントを伴う慣性主軸とが異なる静止衛星1においても、姿勢制御アクチュエータ14が発生可能な角運動量を最大化することが可能である。さらに軌道遷移における推薬の消費量を最小化し、推移に要する時間を最小化するために最適なスラスタ11の推力軸である理想推力方向に応じた静止衛星1の理想姿勢からのずれが最小となる目標姿勢を算出することで、軌道遷移における推薬の使用量を最小化することが可能である。
【0061】
図5は、実施の形態に係る姿勢制御装置のハードウェアの構成を示す図である。姿勢制御装置20は、各部を制御するハードウェア構成としてプロセッサ31、メモリ32、およびインターフェース33を備える。これらの装置の各機能は、プロセッサ31がメモリ32に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。インターフェース33は各装置を接続し、通信を確立させるためのものであり、必要に応じて複数の種類のインターフェースを備えてもよい。
図5では、姿勢制御装置20が、プロセッサ31およびメモリ32をそれぞれ1つずつ備える例を示しているが、姿勢制御装置20は、複数のプロセッサ31および複数のメモリ32を備えてもよい。この場合、複数のプロセッサ31および複数のメモリ32が連携して各機能を実行すればよい。姿勢制御装置20は、インターフェース33を介して、センサ群29および姿勢制御アクチュエータ14に接続される。
【0062】
その他、上記のハードウェア構成やフローチャートは一例であり、任意に変更および修正が可能である。
【0063】
プロセッサ31、メモリ32、およびインターフェース33を有し、制御処理を行う中心となる部分は、専用のシステムによらず、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。また上述の動作を実行するためのコンピュータプログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM(Compact Disc Read-Only Memory)、DVD−ROM(Digital Versatile Disc Read-Only Memory)等のコンピュータが読み取り可能な記録媒体または通信ネットワーク上の記憶装置に格納されてもよい。この場合、記録媒体または記憶装置に格納されたコンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、上述の処理を実行する姿勢制御装置20を構成することができる。
【0064】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は上述した実施の形態に限られない。 ロケットから切り離された静止衛星1が投入される軌道は、GTOに限られない。一例として、静止衛星1は、LEO(Low Earth Orbit:地球低軌道)、SSO(Super Synchronous Orbit:スーパーシンクロナス軌道)等に投入されてもよい。姿勢制御装置20が姿勢を制御する衛星は、静止衛星1に限られない。一例として、姿勢制御装置20は、投入された軌道から周回軌道へ遷移する非静止衛星の姿勢を制御してもよい。この場合、目標軌道はGEOではなく、任意の周回軌道である。静止衛星1は、複数のスラスタ11を備えてもよい。この場合、衛星座標系のz
B軸は、複数のスラスタ11のそれぞれの推力軸を合成した合成推力軸を示す。スラスタ11は、化学スラスタでもよい。
【0065】
姿勢制御装置20の構成および各部の動作は、上述の実施の形態に限られない。姿勢制御装置20は、地上局に設けられてもよい
。太陽方向算出部23は、太陽暦から太陽の方向を算出してもよい。姿勢制御装置20は、駆動制約設定部27を設けず、目標姿勢算出部26が姿勢制御アクチュエータ14の駆動制約を予め保持していてもよい。理想推力方向算出部22は、静止衛星1の位置する軌道からGEOへの遷移における推薬の消費量を最小化し、かつ、遷移に要する時間を最小化するために最適なスラスタ11の推力方向を算出してもよい。この場合、遷移における推薬の消費量を最小化し、かつ、遷移に要する時間を最小化することが可能となる。
【0066】
GTOからGEOへの遷移中、スラスタ制御装置は、スラスタ11の噴射量を変化させるスラスタ指令値をスラスタ11に送ってもよい。
【0067】
衛星座標系の定め方は上述の例に限られない。衛星座標系として、理想推力方向を示すz
B軸を基準として、太陽電池パネル12の回転軸を示すy
B軸が予め定められた方向に延びる任意の座標を用いることができる。
【0068】
姿勢制御アクチュエータ14の駆動制約は、上述の例に限られず、姿勢制御アクチュエータ14として用いられるフライホイールまたはリアクションホイールの回転数の上限値でもよい。なお実施の形態2において、姿勢制御アクチュエータ14の制約を、実施の形態1と同様に、姿勢制御アクチュエータ14が発生させることができる静止衛星1の角速度の絶対値の上限値としてもよい。
【0069】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【0070】
本出願は、2018年9月21日に出願された、日本国特許出願特願2018−177919号に基づく。本明細書中に日本国特許出願特願2018−177919号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。