(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施の形態1に係る車両制御装置100の構成を示すブロック図である。
図1のように、車両制御装置100は、先行車位置取得部1、自車状態量取得部2、自車移動量算出部3、自車基準先行車位置算出部4、目標軌跡生成部5、目標軌跡補正判定部6および補正目標軌跡生成部7を備える目標軌跡生成装置10と、制御部8とから構成される。以下、車両制御装置100が搭載された車両を「自車」と称し、自車の前方を走行する他の車両を「先行車」と称す。
【0011】
先行車位置取得部1は、先行車の自車に対する相対位置を取得する。より具体的には、先行車位置取得部1は、例えば、前方カメラ(自車の前方を撮影するカメラ)やミリ波レーダなど、自車の周辺に存在する物体を検出可能な車載センサを用いて、自車から先行車までの距離および方向を検出することにより、先行車の相対位置を取得する。また、先行車位置取得部1は、取得した先行車の相対位置の履歴を一定期間分、記憶する。
【0012】
自車状態量取得部2は、自車の状態量を取得する。本実施の形態では、自車状態量取得部2は、自車移動量算出部3が自車の移動量を算出するために必要な自車状態量として、自車の速度およびヨーレートを取得する。ただし、自車状態量取得部2が取得する情報は、自車の移動量の演算に用いることができるものであれば任意の情報でよく、例えば、自車の速度に代えて、タイヤの回転速度などの情報を取得してもよい。
【0013】
自車移動量算出部3は、自車状態量取得部2が取得した自車状態量に基づいて、自車の移動量を算出する。例えば
図2のように、自車の進行方向をX軸、自車の車幅方向をY軸とする座標系をとると、ある時刻tにおける自車移動量(X方向の移動量ΔX(t)、Y方向の移動量ΔY(t)、回転角(進行方向の変化量)Δγ(t))は、自車の速度V(t)およびヨーレートγ(ドット)(t)と、サンプリング時間Δtとを用いて、以下の式(1)〜(3)より算出できる。
【0017】
自車基準先行車位置算出部4は、先行車位置取得部1が取得した先行車の相対位置と、自車移動量算出部3が算出した自車移動量とに基づいて、先行車の相対位置を、自車の現在位置を基準にする座標系へと座標変換する。以下、自車の現在位置を基準にする座標系を「自車基準座標系」と称し、自車基準座標系に変換された先行車の相対位置を「自車基準先行車位置」と称す。
【0018】
より詳細には、自車基準先行車位置算出部4は、先行車位置取得部1に記憶されている先行車の相対位置の履歴と、自車移動量算出部3が算出した自車移動量とに基づいて、自車基準先行車位置の履歴からなる点群を算出する。例えば、自車基準座標系として
図2と同様に自車の進行方向をX軸、自車の車幅方向をY軸とする座標系をとると、自車基準先行車位置算出部4は、サンプリング時間ごとに、先行車位置取得部1に記憶されている先行車の相対位置(X
m(t)、Y
m(t))を、式(2)、(3)で得られた自車移動量(ΔX(t)、ΔY(t))だけシフトさせ、式(1)で得られた回転角(Δγ(t))だけ回転させる座標変換式である以下の式(4)、(5)を用いて、自車基準先行車位置(X
mct(t)、Y
mct(t))を算出する。
【0021】
自車基準先行車位置算出部4は、先行車位置取得部1に記憶されている相対位置(X
m(t)、Y
m(t))の履歴の全てに対して式(4)、(5)の演算を行うことで、自車基準先行車位置(X
mct(t)、Y
mct(t))の点群を算出する。
【0022】
目標軌跡生成部5は、自車基準先行車位置算出部4が算出した自車基準先行車位置の点群に対して、多項式近似を行うことで、先行車の走行軌跡を生成し、それを自車の目標軌跡とする。例えば、自車基準先行車位置(X
mct(t)、Y
mct(t))の点群を3次関数近似して目標軌跡を生成する場合、自車の進行方向をX軸、自車の車幅方向のY軸とする自車基準座標系において、ある時刻tでの目標軌跡Y
3(t)は、次の式(6)で表現できる。
【0024】
式(6)において、K
03(t)は自車の基準位置からの横位置(車幅方向の位置)に関わる項、K
13(t)は目標軌跡の傾きに関わる項、K
23(t)は目標軌跡の曲率に関わる項、K
33(t)は目標軌跡の曲率変化率に関わる項をそれぞれ表している。ただし、目標軌跡上のX座標X
ttにおける実際の目標軌跡の曲率K
2r(t)、曲率変化率K
3r(t)は以下の式(7)、(8)により算出できる。
【0027】
また、目標軌跡を曲率変化の無い曲線とみなして、自車基準先行車位置(X
mct(t)、Y
mct(t))の点群を2次関数近似した目標軌跡を生成する場合、目標軌跡Y
2(t)は次の式(9)で表現できる。
【0029】
式(9)において、K
02(t)は自車の基準位置からの横位置に関わる項、K
12(t)は目標軌跡の傾きに関わる項、K
22(t)は目標軌跡の曲率に関わる項をそれぞれ表している。ただし、実際の目標軌跡の曲率K
2r(t)は次の式(10)により算出できる。
【0031】
目標軌跡補正判定部6は、自車基準先行車位置算出部4が算出した自車基準先行車位置、または、目標軌跡生成部5が生成した目標軌跡に基づいて、目標軌跡の補正が必要か否かの判定(以下「目標軌跡補正判定」と称す)を行う。
【0032】
図3は、実施の形態1の目標軌跡補正判定部6の構成を示すブロック図である。実施の形態1の目標軌跡補正判定部6は、先行車が直進中か否かの判定(以下「先行車直進判定」と称す)を行う先行車直進判定部6aを備えており、先行車直進判定部6aによる先行車直進判定の結果に基づいて、目標軌跡の補正が必要か否かを判定する。
【0033】
先行車直進判定部6aが行う先行車直進判定について説明する。
図4および
図5に、自車VEH
1が追従する先行車VEH
2の位置の履歴(自車基準先行車位置の点群)および目標軌跡の例を示す。
図4および
図5には、先行車VEH
2の自車基準先行車位置の点群として、検出誤差を含まない点群P
fvneと、検出誤差を含む点群をP
fvとが示されている。
【0034】
図4は、カーブ走行中の先行車VEH
2に自車VEH
1が追従走行する場合の例であり、検出誤差を含まない点群P
fvneを多項式近似して得られる目標軌跡TT
1と、検出誤差を含む点群P
fvを多項式近似して得られる目標軌跡TT
2(以下「誤差を含む目標軌跡」ということもある)とが示されている。
図5は、直進中の先行車VEH
2に自車VEH
1が追従走行する場合の例であり、検出誤差を含まない点群P
fvneを多項式近似して得られる目標軌跡TT
3(以下「誤差を含まない目標軌跡」ということもある)と、検出誤差を含む点群P
fvを多項式近似して得られる目標軌跡TT
4とが示されている。
【0035】
図4および
図5のように、カーブ走行時および直進走行時のどちらにおいても、誤差を含む目標軌跡(TT
2またはTT
4)と誤差を含まない目標軌跡(TT
1またはTT
3)との間に差が生じる。ただし、カーブ走行時(
図4)では、先行車の車幅方向の移動量に対する検出誤差の大きさが小さいため、誤差を含む目標軌跡TT
2の形状と誤差を含まない目標軌跡TT
1の形状とには大きな差は生じにくい。一方、直進時(
図5)には、先行車の車幅方向の移動量(≒0)に対する検出誤差の大きさが大きいため、誤差を含む目標軌跡TT
4の形状と誤差を含まない目標軌跡TT
3の形状との差は比較的大きいものとなる。そのため、カーブ走行時には目標軌跡の補正を行う必要性は低く、直進時にはその必要性が高いと言える。
【0036】
従って、実施の形態1の目標軌跡補正判定部6は、先行車直進判定部6aにより先行車が直進中であると判定された場合に、目標軌跡の補正が必要と判定する。
【0037】
図6を用いて、先行車直進判定部6aが行う先行車直進判定の方法について説明する。ここで、
図6のように、自車VEH
1の進行方向をX軸、車幅方向をY軸とする自車基準座標系をとり、自車VEH
1の基準位置をP
sd、自車VEH
1の基準位置P
sdに対する先行車の相対位置をP
fv、自車VEH
1の基準位置P
sdから先行車の相対位置P
fvまでのX軸方向の距離(車間距離)をl
1、目標軌跡をTTとする。また、X軸からY軸方向に一定距離だけ離れた位置に先行車直進判定用の閾値d
th1を設定し、自車VEH
1の基準位置P
sdからX軸方向に車間距離l
1だけ離れた位置からY軸方向に閾値d
th1だけ離れた位置を、先行車直進判定位置P
sjとして定める。
【0038】
この場合、自車の基準位置P
sdと先行車直進判定位置P
sj(X
sj(t)、Y
sj(t))とを結ぶ軌跡CT
1は、次の式(11)で表現できる。
【0040】
また、式(11)で表される軌跡CT
1の曲率K
CT1(t)は、次の式(12)で表現できる。
【0042】
先行車直進判定部6aは、式(12)で表される曲率K
CT1(t)の大きさと、式(7)もしくは式(10)で表される目標軌跡TTの曲率K
2r(t)の大きさとを比較し、曲率K
2r(t)の大きさが曲率K
CT1(t)の大きさより小さい場合、先行車は直進中と判定する。目標軌跡補正判定部6は、先行車直進判定部6aで先行車が直進中であると判定された場合に、目標軌跡生成部5で生成された目標軌跡の補正が必要であると判定する。
【0043】
補正目標軌跡生成部7は、目標軌跡補正判定部6で目標軌跡の補正が必要と判定されたときに、自車基準先行車位置算出部4が算出した自車基準先行車位置、または目標軌跡生成部5が生成した目標軌跡に基づいて、目標軌跡を補正する。以下、補正後の目標軌跡を「補正目標軌跡」と称す。具体的には、補正目標軌跡生成部7は、目標軌跡生成部5が多数項近似によって生成した目標軌跡に対し、当該目標軌跡を表す多項式の次数を下げることによって補正目標軌跡を生成する。つまり、補正目標軌跡生成部7が生成する補正目標軌跡は、自車基準先行車位置の点群に対して、目標軌跡生成部5が目標軌跡の生成に用いた多項式近似よりも次数の低い多項式近似を行うことによって生成される。
【0044】
例えば、目標軌跡生成部5が生成した目標軌跡が式(6)で表される3次近似の目標軌跡であった場合、補正目標軌跡生成部7は、式(9)で表される2次近似の目標軌跡、もしくは、次の式(13)で表される1次近似の目標軌跡を、補正目標軌跡として生成する。
【0046】
式(13)において、K
01(t)は自車の基準位置からの横位置に関わる項を表し、K
11(t)は目標軌跡の傾きに関わる項を表している。
【0047】
また、補正目標軌跡生成部7は、目標軌跡生成部5が生成した目標軌跡の近似式に含まれる高次の項を0にすることによって、低い次数の目標軌跡を生成し、その目標軌跡を補正目標軌跡としてもよい。
【0048】
制御部8は、目標軌跡生成装置10が生成した目標軌跡(目標軌跡生成部5が生成した目標軌跡、または、補正目標軌跡生成部7が生成した補正目標軌跡)に基づいて、自車の動作を制御する。具体的には、制御部8は、目標軌跡生成装置10が生成した目標軌跡に自車を追従させるように、自車の舵角を制御する。
【0049】
実施の形態1に係る目標軌跡生成装置10は、先行車が直進中のときに、目標軌跡を表す多項式の次数を下げることによって、目標軌跡を補正する。先行車が直進中のときは、先行車の相対位置の検出誤差が目標軌跡の形状に影響しやすいが、目標軌跡の次数が下げられることで、その影響を抑制できる。例えば、3次近似で得られた目標軌跡を2次近似で得られる目標軌跡へと補正することで、検出誤差に起因する目標軌跡の曲率変動を抑制できる。また、車両制御装置100は、目標軌跡生成装置10が生成した目標軌跡に基づいて自車を制御することにより、適確に且つスムーズに自車の制御を実行することができる。
【0050】
以下、フローチャートを用いて、実施の形態1に係る車両制御装置100の動作を説明する。
【0051】
図7は、車両制御装置100の全体的な動作を示すフローチャートである。ステップST1では、自車状態量取得部2が、自車の速度やヨーレートなどの状態量を取得する。ステップST2では、自車移動量算出部3が、ステップST1で取得された自車状態量に基づいて、自車の移動量を算出する。ステップST3では、先行車位置取得部1が、先行車の自車に対する相対位置を取得する。ステップST3で取得された先行車の相対位置の履歴は、先行車位置取得部1に一定期間分だけ記憶される。
【0052】
ステップST4では、自車基準先行車位置算出部4が、ステップST2で算出された自車移動量と、ステップST3で取得された先行車の相対位置の履歴とに基づいて、自車基準座標系に変換した先行車位置の履歴(自車基準先行車位置の点群)を算出する。ステップST5では、目標軌跡生成部5が、ステップST4で算出された自車基準先行車位置の点群に対する多項式近似を行うことで、目標軌跡を生成する。ステップST6では、目標軌跡補正判定部6が、ステップST5で生成された目標軌跡の補正が必要か否かを判定する。ステップST6の詳細なフローは後述する。
【0053】
ステップST6において目標軌跡の補正が必要と判定された場合、ステップST7において、補正目標軌跡生成部7が、ステップST5で生成された目標軌跡を補正する。目標軌跡の補正方法は、ステップST5で生成された目標軌跡を、それよりも低い次数で再度多項式近似を行って補正目標軌跡を生成することにより行われる。また、次数の高い方の目標軌跡の高次の項を0とすることで低い次数の目標軌跡を算出し、この目標軌跡を補正目標軌跡としてもよい。
【0054】
ステップST8では、制御部8が、目標軌跡生成装置10が生成した目標軌跡に追従するように自車を制御する。すなわち、目標軌跡の補正が必要ないと判定された場合には、制御部8は、ステップST5で生成された目標軌跡に基づいて自車の動作を制御する。また、目標軌跡の補正が必要であると判断された場合には、制御部8は、ステップST7で補正された目標軌跡(補正目標軌跡)に基づいて自車の動作を制御する。車両制御装置100は、
図7の処理を繰り返し実行する。
【0055】
図7のステップST6の判定処理(目標軌跡補正判定)の詳細を、
図8のフローチャートに示す。ステップST6aでは、先行車直進判定部6aが、先行車が直進中か否かを判断する。先行車が直進中と判定された場合、ステップST6bへ進み、目標軌跡補正判定部6は目標軌跡の補正が必要と判定する。一方、先行車が直進中でないと判定された場合、ステップST6cへ進み、目標軌跡補正判定部6は目標軌跡の補正は必要ないと判定する。
【0056】
図8のステップST6aの判定処理(先行車直進判定)の詳細を、
図9のフローチャートに示す(
図6の説明図も参照されたい)。ステップST6a1では、先行車直進判定部6aは、基準位置P
sd(X
sd、Y
sd)から車幅方向(Y軸方向)に一定距離だけ離れた位置に先行車直進判定用の閾値d
th1を設定する。ステップST6a2では、先行車直進判定部6aは、自車と先行車との車間距離l
1を算出する。
【0057】
ステップST6a3では、先行車直進判定部6aは、基準位置P
sd(X
sd、Y
sd)から進行方向(X軸方向)に車間距離l
1だけ離れた位置から車幅方向に閾値d
th1だけ離れた位置に、先行車直進判定位置P
sj(X
sj、Y
sj)=(l
1、d
th1)を設定する。ステップST6a4では、先行車直進判定部6aは、自車の基準位置P
sd(X
sd、Y
sd)と先行車直進判定位置P
sjを結ぶ軌跡CT
1を生成する。ステップST6a5では、先行車直進判定部6aは、軌跡CT
1の曲率K
CT1(t)を算出する。
【0058】
ステップST6a6では、先行車直進判定部6aは、目標軌跡の曲率K
2r(t)の大きさが軌跡CT
1の曲率K
CT1(t)よりも小さいか否かを判定する。目標軌跡の曲率K
2r(t)の大きさが軌跡CT
1の曲率K
CT1(t)よりも小さい場合、ステップST6a7へ進み、先行車直進判定部6aは、先行車は直進中であると判定する。目標軌跡の曲率K
2r(t)の大きさが軌跡CT
1の曲率K
CT1(t)以上である場合、ステップST6a8へ進み、先行車直進判定部6aは、先行車は直進中でないと判定する。
【0059】
<実施の形態2>
実施の形態1では、目標軌跡補正判定部6は、目標軌跡の補正の要否を、先行車が直進中か否かに応じて判定したが、実施の形態2では、その判定を、自車と先行車との車間距離に基づいて行う。
【0060】
図10は、実施の形態2の目標軌跡補正判定部6の構成を示すブロック図である。実施の形態2の目標軌跡補正判定部6は、自車と先行車との車間距離が予め定められた閾値以下か否かの判定(以下「車間距離判定」と称す)を行う車間距離判定部6bを備えている。
【0061】
なお、実施の形態2に係る車両制御装置100の全体構成は、実施の形態1(
図1)と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0062】
車間距離判定部6bが行う車間距離判定について説明する。
図11および
図12に、自車VEH
1が追従する先行車VEH
2の位置の履歴(自車基準先行車位置の点群)および目標軌跡の例を示す。
図11および
図12には、先行車VEH
2の自車基準先行車位置の点群として、検出誤差を含まない点群P
fvneと、検出誤差を含む点群をP
fvとが示されている。
【0063】
図11は、自車VEH
1と先行車VEH
2と車間距離が短い場合の例であり、検出誤差を含まない点群P
fvneを多項式近似して得られる目標軌跡TT
3と、検出誤差を含む点群P
fvを多項式近似して得られる目標軌跡TT
4とが示されている。
図12は、自車VEH
1と先行車VEH
2と車間距離が長い場合の例であり、検出誤差を含まない点群P
fvneを多項式近似して得られる目標軌跡TT
5と、検出誤差を含む点群P
fvを多項式近似して得られる目標軌跡TT
6とが示されている。
【0064】
図11および
図12のように、車間距離が短い場合と長い場合のどちらにおいても、誤差を含む目標軌跡(TT
4またはTT
6)と誤差を含まない目標軌跡(TT
3またはTT
5)との間に差が生じる。ただし、車間距離が短い場合(
図11)では、誤差を含む目標軌跡TT
4の車幅方向の揺らぎの周期が短いため、自車VEH
1を目標軌跡TT
4に追従走行させると、一定時間あたり(または一定距離あたり)の操舵回数は比較的多くなる。一方、車間距離が長い場合(
図12)には、誤差を含む目標軌跡TT
6の車幅方向の揺らぎの周期が長いため、自車VEH
1を目標軌跡TT
6に追従走行させても、一定時間あたりの操舵回数が比較的少なくて済む。そのため、車間距離が長い場合には目標軌跡の補正を行う必要性は低く、車間距離が短い場合にはその必要性が高いと言える。
【0065】
従って、実施の形態2の目標軌跡補正判定部6は、車間距離判定部6bにより自車と先行車との車間距離が閾値以下と判定された場合に、目標軌跡の補正が必要と判定する。
【0066】
図13を用いて、車間距離判定部6bが行う先行車直進判定の方法について説明する。ここで、
図13のように、自車VEH
1の進行方向をX軸、車幅方向をY軸とする自車基準座標系をとり、自車VEH
1の基準位置をP
sd、自車VEH
1の基準位置P
sdに対する先行車の相対位置をP
fv、自車VEH
1の基準位置P
sdから先行車の相対位置P
fvまでのX軸方向の距離(車間距離)をl
1とする。また、X軸からY軸方向に一定距離だけ離れた位置に車間距離判定用の第1の閾値d
th2を設定する。
【0067】
自車の速度をV(t)、横加速度の制限値をα
ylimとすると、横加速度が制限値α
ylimとなる状態の定常円旋回を想定した際の軌跡CT
2は、次の式(14)で表現できる。
【0069】
実施の形態2では、式(14)で表される軌跡CT
2のY座標が第1の閾値d
th2と等しくなるときのX座標を、車間距離判定用の第2の閾値l
thとして設定する。第2の閾値l
thは次の式(15)で表現できる。
【0071】
車間距離判定部6bは、自車と先行車との車間距離l
1と、式(15)で表される第2の閾値l
thと比較して、車間距離l
1が第2の閾値l
th以下のときに、車間距離が短い状態であると判定する。
【0072】
車間距離が短い状態か否かの判定基準とする閾値(第2の閾値l
th)をこのように設定することで、自車の速度に応じた車間距離判定が可能になる。ただし、当該閾値の決定方法は、横加速度の制限値α
ylimに基づく方法でなくてもよい。例えば、自車の車速と車間距離判定用の閾値との関係を記述したテーブルを予め用意してもよい。
【0073】
実施の形態2の目標軌跡補正判定部6は、車間距離判定部6bで自車と先行車との間の車間距離が短いと判定された場合に、目標軌跡生成部5で生成された目標軌跡の補正が必要であると判定する。なお、補正目標軌跡生成部7による目標軌跡の補正方法は、実施の形態1と同様に、目標軌跡を表す多項式の次数を下げる方法でよい。
【0074】
実施の形態2に係る目標軌跡生成装置10は、自車と先行車との車間距離が短い状態のときに、目標軌跡を表す多項式の次数を下げることによって、目標軌跡を補正する。車間距離が短いときは、先行車の相対位置の検出誤差に起因する目標軌跡の揺らぎの周期が短くなるが、目標軌跡の次数が下げられることで、目標軌跡の揺らぎが少なくなり、一定時間当たりの操舵回数が増えることが防止される。また、車両制御装置100は、目標軌跡生成装置10が生成した目標軌跡に基づいて自車を制御することにより、適確に且つスムーズに自車の制御を実行することができる。
【0075】
以下、フローチャートを用いて、実施の形態2に係る車両制御装置100の動作を説明する。なお、車両制御装置100の全体的な動作は実施の形態1で説明した
図7のフローチャートと同様であるため、ここでは
図7のステップST6の判定処理(目標軌跡補正判定)のみを説明する。
【0076】
実施の形態2における目標軌跡補正判定の処理を、
図14のフローチャートに示す。ステップST6dでは、車間距離判定部6bが、自車と先行車との車間距離が予め定められた車間距離判定用の閾値(例えば上記の第2の閾値d
th2)以下か否かを判断する。自車と先行車との車間距離が閾値以下である場合、ステップST6eへ進み、目標軌跡補正判定部6は、目標軌跡の補正が必要と判定する。一方、自車と先行車との車間距離が閾値よりも大きい場合、ステップST6fへ進み、目標軌跡補正判定部6は、目標軌跡の補正は必要ないと判定する。
【0077】
図14のステップST6dの判定処理(車間距離判定)の詳細を、
図15のフローチャートに示す(
図13の説明図も参照されたい)。ここで、自車基準座標系のX軸は自車の進行方向、Y軸とする自車の車幅方向とする。
【0078】
ステップST6d1では、車間距離判定部6bは、自車基準座標系のX軸からY軸方向に一定距離だけ離れた位置に車間距離判定用の第1の閾値d
th2を設定する。ステップST6d2では、車間距離判定部6bは、自車と先行車との車間距離l
1を算出する。ステップST6d3では、車間距離判定部6bは、自車の横加速度の制限値α
ylimを設定する。ステップST6d4では、車間距離判定部6bは、自車の横加速度が制限値α
ylim時の定常円旋回を想定した軌跡CT
2を生成する。ステップST6d5では、車間距離判定部6bは、軌跡CT
2のY座標が第1の閾値d
th2と等しくなるときのX座標を算出し、その値を車間距離判定用の第2の閾値l
thとして設定する。
【0079】
ステップST6d6では、車間距離判定部6bは、車間距離l
1が第2の閾値l
th以下か否かを判定する。車間距離l
1が第2の閾値l
th以下である場合、ステップST6d7へ進み、車間距離判定部6bは、車間距離l
1が短い状態であると判定する。車間距離l
1が第2の閾値l
thより大きい場合、ステップST6d8へ進み、車間距離判定部6bは、車間距離l
1が長い状態であると判定する。
【0080】
<実施の形態3>
実施の形態3では、目標軌跡生成部5が、多項式近似の次数が異なる2つの目標軌跡を生成し、目標軌跡補正判定部6が、その2つの目標軌跡の差に基づいて、目標軌跡の補正の要否を判定する。
【0081】
図16は、実施の形態3の目標軌跡補正判定部6の構成を示すブロック図である。実施の形態3の目標軌跡補正判定部6は、多項式近似の次数が異なる2つの目標軌跡の差が予め定められた閾値以下か否かの判定(以下「目標軌跡差分判定」と称す)を行う目標軌跡差分判定部6cを備えている。
【0082】
目標軌跡差分判定部6cが行う目標軌跡差分判定について説明する。
図17に、自車VEH
1が追従する先行車VEH
2の位置の履歴(自車基準先行車位置の点群)および目標軌跡の例を示す。
【0083】
図17に示すように、自車VEH
1の進行方向をX軸、車幅方向をY軸とする自車基準座標系をとり、先行車の位置の履歴(自車基準先行車位置の点群)をP
fvrecとする。目標軌跡生成部5は、点群P
fvrecに対し、次数の異なる2種類の多項式近似を行うことで、2つの目標軌跡を生成する。
図17の例では、目標軌跡生成部5は、式(6)を用いて点群P
fvrecを3次近似した目標軌跡TT
7と、式(13)を用いて点群P
fvrecを1次近似した目標軌跡TT
8とを生成している。また、自車基準先行車位置の点群P
fvrecのうち、最も新しく検出した先行車の位置を表す点をP
fvnew(X
fvnew、Y
fvnew)とする。
【0084】
目標軌跡差分判定部6cは、目標軌跡TT
7において、X座標が点P
fvnewのX座標(X
fvnew)と等しくなるときのY座標Y
hと、目標軌跡TT
8において、X座標が点をP
fvnewのX座標(X
fvnew)と等しくなるときのY座標Y
lとを算出し、さらに、Y
hとY
lとの差の大きさを目標軌跡差分d
eとして算出する。
【0085】
そして、目標軌跡差分判定部6cは、目標軌跡差分d
eと予め定められた目標軌跡差分判定用の閾値d
th3とを比較する。目標軌跡差分d
eが閾値d
th3以下であれば、目標軌跡差分判定部6cは、2つの目標軌跡TT
7とTT
8との差が小さいと判定する。目標軌跡差分d
eが閾値d
th3よりも大きければ、目標軌跡差分判定部6cは、2つの目標軌跡TT
7とTT
8との差が大きいと判定する。
【0086】
ここで、次数の高い多項式近似で得られる目標軌跡は、近似の精度は高いが、曲率変動の多い形状となるため、自車を追従走行させたときの操舵回数が多くなる。逆に、次数の低い多項式近似で得られる目標軌跡は、近似の精度は高くないが、曲率変動が少ない安定した形状となるため、自車を追従走行させたときの操舵回数を少なくでき、スムーズな自車の制御に寄与できる。そのため、次数の高い多項式近似で得られる目標軌跡と、次数の低い多項式近似で得られる目標軌跡との形状が互いに類似している場合は、次数の低い多項式近似で得られる目標軌跡を用いることが好ましい。
【0087】
そのため、実施の形態3の目標軌跡補正判定部6は、次数の異なる2つの目標軌跡の差が小さい場合には、スムーズな自車の制御を実現するために、次数の高い目標軌跡を次数の低い目標軌跡へ補正することが必要と判定する。また、2つの目標軌跡の差が大きい場合には、目標軌跡補正判定部6は、近似の精度を維持するために、次数の高い目標軌跡の補正は必要でないと判定する。
【0088】
補正目標軌跡生成部7は、目標軌跡の補正が必要と判定された場合、2つの目標軌跡のうち、多項式近似の次数が低い方を補正目標軌跡とし、目標軌跡の補正が必要ないと判定された場合、多項式近似の次数が高い方を補正目標軌跡とする。
【0089】
実施の形態3に係る目標軌跡生成装置10は、次数の異なる2の目標軌跡の差が小さいときに、次数の小さい方の目標軌跡を採用することで目標軌跡を補正することで、検出誤差に起因する目標軌跡の曲率変動を抑制できる。また、車両制御装置100は、目標軌跡生成装置10が生成した目標軌跡に基づいて自車を制御することにより、適確に且つスムーズに自車の制御を実行することができる。
【0090】
以下、フローチャートを用いて、実施の形態3に係る車両制御装置100の動作を説明する。車両制御装置100の全体的な動作は実施の形態1で説明した
図7のフローチャートとほぼ同様であるが、ステップST5における目標軌跡の生成処理と、ステップST6における目標軌跡補正判定の処理と、ステップST7における補正目標軌跡の生成処理の内容が、実施の形態1とは異なる。そのため、ここでは
図7のステップST5,ST6,ST7の処理について説明する。
【0091】
実施の形態3において、
図7のステップST5では、目標軌跡生成部5が、目標軌跡生成部5が、多項式近似の次数が異なる2つの目標軌跡を生成する。2つの目標軌跡のうち次数の高い方を正規の目標軌跡とする。次数の低い方の目標軌跡は、ステップST6における目標軌跡補正判定に用いられる他、目標軌跡の補正が必要と判断されたときの補正目標軌跡となる。
【0092】
なお、目標軌跡生成部5は、次数の異なる3つ以上の目標軌跡を生成し、目標軌跡補正判定部6がそのうちの2つを選択してもよい。また、目標軌跡生成部5は、次数の高い方の目標軌跡の高次の項を0とすることで、次数の低い方の目標軌跡を生成してもよい。
【0093】
実施の形態3におけるステップST6の判定処理を、
図18のフローチャートに示す。ステップST6gでは、目標軌跡差分判定部6cが、次数の異なる2つの目標軌跡の差が小さいか否かを判定する。目標軌跡の差が小さい場合、ステップST6hへ進み、目標軌跡差分判定部6cは、目標軌跡の補正は必要と判定する。目標軌跡の差分が大きい場合、ステップST6iへ進み、目標軌跡差分判定部6cは、目標軌跡の補正は必要でないと判定する。
【0094】
図18のステップST6gの判定処理(目標軌跡差分判定)の詳細を、
図19のフローチャートに示す(
図17の説明図も参照されたい)。ここで、自車基準座標系のX軸は自車の進行方向、Y軸とする自車の車幅方向とする。
【0095】
ステップST6g1では、目標軌跡差分判定部6cは、目標軌跡差分判定用の閾値d
th3を設定する。ステップST6g2では、目標軌跡差分判定部6cは、次数の高い方の目標軌跡おいて、X座標が特定の値(例えば
図17のX
fvnew)と等しくなるときのY座標Y
hを算出する。ステップST6g3では、目標軌跡差分判定部6cは、次数の低い方の目標軌跡おいて、X座標が上記特定の値と等しくなるときのY座標Y
lを算出する。ステップST6g4では、目標軌跡差分判定部6cは、目標軌跡差分d
e=|Y
h−Y
l|を算出する。
【0096】
ステップST6g5では、目標軌跡差分判定部6cは、目標軌跡差分d
eが閾値d
th3以下であるか否かを判定する。目標軌跡差分d
eが閾値d
th3以下であれば、ステップST6g6へ進み、目標軌跡差分判定部6cは、2つの目標軌跡の差は小さいと判定する。目標軌跡差分d
eが閾値d
th3より大きければ、ステップST6g7へ進み、2つの目標軌跡の差は大きいと判定する。
【0097】
また、実施の形態3において、
図7のステップST7では、ステップST6で目標軌跡の補正が必要であると判定された場合に、ステップST5で生成した2つの目標軌跡のうち、次数の低い方の目標軌跡を補正目標軌跡とする。
【0098】
<ハードウェア構成例>
図20および
図21は、それぞれ目標軌跡生成装置10のハードウェア構成の例を示す図である。
図1に示した目標軌跡生成装置10の構成要素の各機能は、例えば
図20に示す処理回路50により実現される。すなわち、目標軌跡生成装置10は、自車の前方を走行する先行車の相対位置を取得し、自車の状態量を取得し、自車の状態量に基づいて、自車の移動量を算出し、先行車の相対位置および自車移動量に基づいて、先行車の相対位置の履歴を自車の現在位置を基準にする座標系で表した自車基準先行車位置の点群を算出し、自車基準先行車位置の点群に基づいて、自車の目標軌跡を生成し、自車基準先行車位置の点群または目標軌跡に基づいて、目標軌跡の補正が必要か否か判定し、目標軌跡の補正が必要と判定されると、自車基準先行車位置の点群または目標軌跡に基づいて、目標軌跡を補正した補正目標軌跡を生成するための処理回路50を備える。処理回路50は、専用のハードウェアであってもよいし、メモリに格納されたプログラムを実行するプロセッサ(中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSP(Digital Signal Processor)とも呼ばれる)を用いて構成されていてもよい。
【0099】
処理回路50が専用のハードウェアである場合、処理回路50は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものなどが該当する。目標軌跡生成装置10の構成要素の各々の機能が個別の処理回路で実現されてもよいし、それらの機能がまとめて一つの処理回路で実現されてもよい。
【0100】
図21は、処理回路50がプログラムを実行するプロセッサ51を用いて構成されている場合における目標軌跡生成装置10のハードウェア構成の例を示している。この場合、目標軌跡生成装置10の構成要素の機能は、ソフトウェア等(ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせ)により実現される。ソフトウェア等はプログラムとして記述され、メモリ52に格納される。プロセッサ51は、メモリ52に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。すなわち、目標軌跡生成装置10は、プロセッサ51により実行されるときに、自車の前方を走行する先行車の相対位置を取得する処理と、自車の状態量を取得する処理と、自車の状態量に基づいて、自車の移動量を算出する処理と、先行車の相対位置および自車移動量に基づいて、先行車の相対位置の履歴を自車の現在位置を基準にする座標系で表した自車基準先行車位置の点群を算出する処理と、自車基準先行車位置の点群に基づいて、自車の目標軌跡を生成する処理と、自車基準先行車位置の点群または目標軌跡に基づいて、目標軌跡の補正が必要か否か判定する処理と、目標軌跡の補正が必要と判定されると、自車基準先行車位置の点群または目標軌跡に基づいて、目標軌跡を補正した補正目標軌跡を生成する処理と、が結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ52を備える。換言すれば、このプログラムは、目標軌跡生成装置10の構成要素の動作の手順や方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。
【0101】
ここで、メモリ52は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリー、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)などの、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD(Digital Versatile Disc)およびそのドライブ装置等、または、今後使用されるあらゆる記憶媒体であってもよい。
【0102】
以上、目標軌跡生成装置10の構成要素の機能が、ハードウェアおよびソフトウェア等のいずれか一方で実現される構成について説明した。しかしこれに限ったものではなく、目標軌跡生成装置10の一部の構成要素を専用のハードウェアで実現し、別の一部の構成要素をソフトウェア等で実現する構成であってもよい。例えば、一部の構成要素については専用のハードウェアとしての処理回路50でその機能を実現し、他の一部の構成要素についてはプロセッサ51としての処理回路50がメモリ52に格納されたプログラムを読み出して実行することによってその機能を実現することが可能である。
【0103】
以上のように、目標軌跡生成装置10は、ハードウェア、ソフトウェア等、またはこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
【0104】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【0105】
本発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての態様において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。