(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記駆動シャフトの端部に形成された偏心軸にスライド可能に嵌め合わされ、前記偏心軸に対してスライドして前記揺動スクロールを前記駆動シャフトの半径方向に移動させるスライダーを備えた請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明の実施の形態に係るスクロール圧縮機について図面等を参照しながら説明する。ここで、
図1を含め、以下の図面において、同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものであり、以下に記載する実施の形態の全文において共通することとする。そして、明細書全文に表わされている構成要素の形態は、あくまでも例示であって、明細書に記載された形態に限定するものではない。また、圧力の高低については、特に絶対的な値との関係で高低が定まっているものではなく、システムおよび装置等における状態および動作等において相対的に定まるものとする。
【0012】
[実施の形態1]
(構成)
本発明の実施の形態1のスクロール圧縮機を説明するものであって、
図1は、本発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機の全体を示す概略縦断面図である。
図2は、
図1のA−A概略横断面図である。
図3は、
図1のB−B概略横断面図である。
図4は、
図1のC−C概略横断面図である。
図5は、本発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機における流体と油の流れの説明図である。
図5において、白抜き矢印は流体の流れ、実線矢印は油の流れを示している。なお、各図は模式的に描かれたものであって、本発明は図示された形態に限定されるものではない。
【0013】
本実施の形態1のスクロール圧縮機100は、密閉容器10の内部空間の大半が高圧となる高圧シェルタイプのスクロール圧縮機である。スクロール圧縮機100は、冷媒等の低圧の流体を吸入し、高圧の状態として吐出する機能を有し、密閉容器10内に、圧縮機構部90と、電動機8と、電動機8の回転力を圧縮機構部90に伝達する駆動シャフト7等を収納している。
図1に示すように、密閉容器10内において、圧縮機構部90は上部に、電動機8は中央部に配置されている。密閉容器10の底部は、油を貯蔵する油貯蔵部10dとなっている。
【0014】
密閉容器10には、低圧の流体が流入する吸入管11と、圧縮された高圧の流体が流出する吐出管12とが接続される。吸入管11は、密閉容器10を貫通して圧縮機構部90の後述の固定スクロール1に嵌入されている。吸入管11の端部は、圧縮機構部90の外周部の吸入空間90aに位置し、吸入空間90aに低圧の流体を吸入させる。また、密閉容器10には、電動機8に電力を供給する際に電気が通る端子(図示せず)が取り付けられている。
【0015】
密閉容器10内は、圧縮機構部90より上部の上部空間10aと、圧縮機構部90より下部の下部空間10bとを有している。密閉容器10内において、圧縮機構部90で圧縮された流体が吐出される上部空間10aと下部空間10bとは、密閉容器10の内周面と圧縮機構部90との隙間および電動機8の構成要素同士の隙間等を介して連通している。故に、密閉容器10の内部は、圧縮機構部90から吐出された高圧の流体で満たされて高圧となっている。密閉容器10の下部に設けられた油貯蔵部10dは下部空間10bに接しており、油貯蔵部10dも下部空間10bおよび上部空間10aと同程度の高圧に保たれ、油貯蔵部10dに貯蔵される油も高圧に保たれる。
【0016】
密閉容器10の内部には、固定フレーム3と補助フレーム5とが配置されている。固定フレーム3は、圧縮機構部90と電動機8との間に位置している。固定フレーム3は、圧縮機構部90を支持すると共に、圧縮機構部90の後述の揺動スクロール2との間に後述の背圧室3aを形成するものである。補助フレーム5は、電動機8の下側に位置している。固定フレーム3および補助フレーム5は、焼き嵌めまたは溶接等によって密閉容器10の内周面に固着されている。
【0017】
電動機8は、密閉容器10に固定された固定子8aと、固定子8aの内部に回転自在に配置された回転子8bとで構成される。回転子8bは駆動シャフト7の外周に固定されており、固定子8aに通電されることにより回転し、駆動シャフト7を回転させる。
【0018】
圧縮機構部90は、流体を圧縮する機構であり、固定スクロール1と揺動スクロール2とを組み合わされて構成されている。固定スクロール1は、円盤状の固定台板部1aと、固定台板部1aに設けられた板状渦巻歯(以下「固定渦巻歯」と称す)1bとを有する。固定スクロール1は、固定台板部1aの外周部でボルト(図示せず)によって固定フレーム3に締結されて密閉容器10に固定されている。固定スクロール1の固定台板部1aの中央付近には、圧縮されて高圧となった流体を吐出する吐出ポート1dが形成されている。圧縮されて高圧となった流体は、吐出ポート1dから密閉容器10内の上部空間10aに吐出される。
【0019】
揺動スクロール2は、円盤状の揺動台板部2aと、揺動台板部2aに設けられ、固定渦巻歯1bと実質的に同一形状の板状渦巻歯(以下「揺動渦巻歯」と称す)2bとを有する。揺動台板部2aの揺動渦巻歯2bと反対側の面(以下、背面という)の中心部には、中空円筒状の軸受部2cが形成されている。軸受部2cには、駆動シャフト7の上端に設けられた後述の偏心軸7aが挿入されている。揺動スクロール2と固定フレーム3との間には、オルダム機構6が配置されており、揺動スクロール2は、駆動シャフト7の回転によって駆動され、オルダム機構6により自転が規制されながら揺動運動する。揺動スクロール2は、揺動台板部2aの背面の一部であるスラスト面2fで後述の背圧フレーム4のスラスト受け面に対して摺動する。
【0020】
揺動スクロール2の背面には背圧室3aが形成されている。背圧室3aは、揺動スクロール2を固定スクロール1に押し付ける圧力を揺動スクロール2に作用させるための空間であって、固定フレーム3の上面に形成された凹部内の空間で形成されている。
【0021】
固定スクロール1および揺動スクロール2は、固定渦巻歯1bと揺動渦巻歯2bとを互いに噛み合わせた状態で、密閉容器10内に配置されている。固定渦巻歯1bと揺動渦巻歯2bとが組み合わされることで、固定渦巻歯1bと揺動渦巻歯2bとの間に圧縮室13が形成される。圧縮室13は、揺動スクロール2が固定スクロール1に対して揺動運動することにより外周側から内周側に移動し、徐々に体積が縮小することで圧縮動作を行う。
【0022】
駆動シャフト7は、回転子8bの回転に伴って回転し、電動機8の回転駆動力を圧縮機構部90に伝達する。駆動シャフト7の上部の主軸7bは、固定フレーム3の中央部に設けられた主軸受によって回転自在に支持されている。駆動シャフト7の上端には、駆動シャフト7の中心軸に対して偏心した偏心軸7aが設けられている。偏心軸7aは、揺動スクロール2の軸受部2cに挿入されている。駆動シャフト7の下部の副軸7cは、補助フレーム5の中央部に設けられた副軸受によって回転自在に支持されている。このように、駆動シャフト7は、主軸受および副軸受によって回転自在に支持されている。また、駆動シャフト7には、揺動スクロール2の揺動運動に伴うアンバランスを平衡するバランサ7dが背圧室3a内に位置して設けられている。バランサ7dは、駆動シャフト7の中心軸を中心とした筒状の外周面を有するものである。
【0023】
駆動シャフト7の下端部には、駆動シャフト7の回転に従い、油貯蔵部10dに溜められた潤滑油を吸い上げる容積型のオイルポンプ20が設けられている。オイルポンプ20は、スラスト軸受9を介して駆動シャフト7の下端部に取り付けられている。スラスト軸受9は、スラストホルダ40で保持されている。オイルポンプ20により吸い上げられた潤滑油は、主軸7bの内部に形成された給油流路7eを介して、圧縮機構101および主軸受等の摺動部に供給される。給油流路7eには、駆動シャフト7を軸方向に貫通する縦穴と、縦穴から駆動シャフト7の外周面に向かって駆動シャフト7の半径方向に延びる複数の横穴と、が含まれる。駆動シャフト7の摺動部である各軸受には、軸方向穴および横穴を介して油貯蔵部10dの潤滑油が供給される。
【0024】
ここで、固定フレーム3に形成された油流路について説明する。
固定フレーム3には、背圧室3a内に溜まった油を油貯蔵部10dに返油する第1油流路31と、背圧室3a内に溜まった油を吸入空間90aに供給する第2油流路32とが形成されている。第2油流路32は、
図1では第1油流路31に連通した構成としているが、第1油流路31とは独立して背圧室3aに連通する構成としてもよい。また、固定フレーム3は、外周の一部が切り欠かれ、密閉容器10との間に油戻し流路81を形成している。油戻し流路81は、圧縮機構部90に供給された油を油貯蔵部10dに戻す流路である。油戻し流路81は、密閉容器10内において流体が流れる流路と合流しない位置に設けられている。これにより、油戻し流路81から流出して油貯蔵部10dへ戻る途中の油が、流体によって巻上げられ、流体と共に圧縮機外部へ流出することを防止できる。その結果、圧縮機内部の油が枯渇して潤滑不良になることを抑制でき、信頼性を向上できる。
【0025】
以上のように構成されたスクロール圧縮機100の動作について簡単に説明する。
電動機8に電力が供給されて駆動シャフト7が回転すると、揺動スクロール2がオルダム機構6により自転を規制されて揺動運動する。圧縮機構部90の圧縮室13には、吸入管11から密閉容器10内に吸入されたガス状の流体が流入する。流体が流入した圧縮室13は、揺動スクロール2の揺動運動に伴い、外周部から中心方向に移動しながら容積を減じ、流体を圧縮する。
【0026】
圧縮された流体は、固定スクロール1の中央付近に設けられた吐出ポート1dから密閉容器10内の上部空間10aに吐出される。上部空間10aに吐出された流体は、密閉容器10の内周面と固定スクロール1の外周面との間の隙間である流体流路82(
図2および
図3参照)を通り、電動機8が設置された密閉容器10内の下部空間10bに流入する。下部空間10bに流入した流体は、電動機8に形成された隙間を通って下降し、補助フレーム5で折り返して上昇し、吐出管12から密閉容器外へ吐出される。
【0027】
次に、スクロール圧縮機100における油の流れについて説明する。
電動機8に電力が供給されて駆動シャフト7が回転すると、油貯蔵部10dに貯蔵された油が、駆動シャフト7の下端部に設けたオイルポンプ20により汲み上げられ、駆動シャフト7内の給油流路7eを通って駆動シャフト7の摺動部に供給される。給油流路7eの縦穴の上端開口から流出した油および横穴から流出した油は、高圧の状態で背圧室3a内に流入する。背圧室3a内に流入した油の一部は、第1油流路31を介して下部空間10bに流出し、油貯蔵部10dに戻される。背圧室3a内に流入した油のその他は、第2油流路32を介して圧縮機構部90の吸入空間90aに供給される。
【0028】
[給油量の差圧依存性の抑制]
従来の特許文献1では、背圧室3a内の圧力を高圧と低圧の間の中間圧とし、油貯蔵部10dの高圧と背圧室3aの中間圧との圧力差により、軸受等へ給油している。このような差圧給油方式では、給油量が圧力差に依存するため、圧力差が大きい場合に過剰給油となる。そこで、本実施の形態1では、差圧給油方式による給油を採用せず、容積型のオイルポンプ20で給油することで、差圧依存性の抑制を図る。しかし、単にオイルポンプ20を用いるだけでは、差圧依存性は抑制されない。オイルポンプ20を構成する複数の部品同士の間には適宜の隙間が設けられている。このため、背圧室3aと油貯蔵部10dとの間に圧力差があると、油貯蔵部10dの油がオイルポンプ20の隙間を通じて上昇し、駆動シャフト7内の給油流路7eを通って各摺動部に供給され、差圧給油が行われてしまう。
【0029】
そこで、本実施の形態1では、背圧室3aを、第1油流路31を介して下部空間10bと連通させ、背圧室3aと油貯蔵部10dとの圧力差を0にする。これにより、背圧室3aの圧力は、油貯蔵部10dと同様の高圧となる。背圧室3aと油貯蔵部10dとが同様の高圧となることで、圧力差による給油は行われなくなり、摺動部等への給油は、あくまでも駆動シャフト7の回転に伴うオイルポンプ20の動作によって行われる。このように第1油流路31は、背圧室3a内の油を油貯蔵部10dに返油する流路としての機能だけでなく、背圧室3a内を下部空間10bと連通させて油貯蔵部10dと同様の高圧にする機能も有する。
【0030】
なお、オイルポンプ20による給油量は、駆動シャフト7の回転数に依存する。よって、高回転数では過剰給油になる可能性がある。そこで、本実施の形態1では、高回転数時の過剰給油を抑制するために、第2油流路32の流路抵抗を、第1油流路31の流路抵抗よりも大きくして、第2油流路32を通って圧縮機構部90の吸入空間90aへ給油される量を、第1油流路31を通って油貯蔵部10dへ返油される量よりも少なくしている。
【0031】
流路抵抗は、流路の長さLを断面積Aで割った値で表される。したがって、「第1油流路31の断面積A1および長さL1」と、「第2油流路32の断面積A2および長さL2」との関係を「L1/A1 > L2/A2」としている。このように、第1油流路31の流路抵抗と第2油流路32の流路抵抗とを調整することで、高回転数時の過剰給油を抑制でき、回転数の幅広い範囲において適量の給油を実現できる。
【0032】
また、オイルポンプ20で損失を発生させずに、吸入空間90aに適量を給油するには、油が駆動シャフト7の偏心軸7aおよび主軸7bを通過する際の抵抗を小さくすればよい。よって、「第2油流路32の断面積A2および長さL2」と、「駆動シャフト7の偏心軸7aと揺動スクロール2の軸受部2cとの間の隙間の断面積A3および隙間の軸方向の長さL3」との関係を「L2/A2 > L3/A3」とすることが望ましい。断面積A3および長さL3については
図3を参照されたい。
【0033】
[背圧室の高圧化に伴う新たな課題]
本実施の形態1では、上述したように、背圧室3aを油貯蔵部10dと同様の高圧として圧力差を0とすることで、給油量の差圧依存性を抑制できるが、背圧室3a内を高圧とすることで新たな課題が生じる。
【0034】
新たな課題とは、背圧室3a内が高圧となることで、揺動スクロール2の背面に高圧の背圧が作用し、揺動スクロール2を固定スクロール1に押付ける力が過大となることである。押付け力が過大になると、揺動スクロール2および固定スクロール1のそれぞれの渦巻歯の先端部が、対向する相手側のスクロールの台板部に接触し、異常摩耗または焼付き等が発生して信頼性に問題が生じる。
【0035】
[本実施の形態の特徴]
そこで、本実施の形態1では、背圧室3a内に背圧フレーム4を配置し、背圧室3a内に、密閉容器10内の下部空間10bと連通して高圧となる室と区画して、揺動スクロール2の背面に中間圧を作用させる室、を別途形成したことを特徴とする。以下、具体的な構成について説明する。
【0036】
背圧フレーム4は、駆動シャフト7と直交する方向に延びる円環板状に構成されており、揺動スクロール2の揺動台板部2aの背面に対向して配置されている。背圧フレーム4において内周側と外周側とのそれぞれには、
図4に示すように互いに半径方向に間隔を空けて対向する一対の環状壁4dが形成され、一対の環状壁4dの間の溝にシール材4cが収容されている。シール材4cの先端面は揺動スクロール2の揺動台板部2aの背面に接触しており、背圧室3a内に、高圧となる第1背圧室3aaから区画して環状の第2背圧室3abが形成されている。第2背圧室3abは、揺動スクロール2の揺動台板部2aに形成された抽気孔2dによって圧縮途中の圧縮室13に連通することで中間圧となっている。このように、背圧フレーム4は、背圧室3a内を、高圧の第1背圧室3aaと中間圧の第2背圧室3abとに区画し、揺動スクロール2の揺動台板部2aの背面に、異なる2種類の背圧を作用させる。
【0037】
背圧フレーム4は固定フレーム3に固定されており、環状壁4dの先端面は、揺動スクロール2の揺動運動中に揺動スクロール2のスラスト面2fと摺動するスラスト受け面となっている。
【0038】
揺動スクロール2および固定スクロール1のそれぞれの渦巻歯の先端部が、対向する相手側のスクロールの台板部に接触する圧力は、第2背圧室3abへ導入する圧力の大きさと、第2背圧室3abの受圧面積の大きさによる。言い換えれば、第2背圧室3abへ導入する圧力の大きさと、第2背圧室3abの受圧面積とによって、歯先に作用する荷重(以下、歯先荷重という)を変えることができる。以下、この点について、背圧フレーム4を設ける場合と、設けない場合とで比較して説明する。
【0039】
図6は、揺動スクロールに作用する背圧によって揺動スクロールを固定スクロール側に押圧する押圧力の説明図である。
歯先荷重Ftipは、揺動スクロール2を固定スクロール1側に押し上げる力Fupから揺動スクロール2を固定スクロール1から離そうとする力Fdownを減算した力となる。
【0040】
Fdownは、圧縮機構部90のガス圧力による力と、揺動スクロール2に作用する重力との合力であり、揺動スクロール2の形状が変わらない限り、略不変である。
【0041】
これに対し、揺動スクロール2を固定スクロール1側に押し上げる力Fupは、背圧フレーム4を設ける場合と設けない場合とで異なり、それぞれ以下で表される。
【0042】
(a)背圧フレーム4を設ける場合
Fup=(Pd×B1)+(Pm×B2)
ここで、
Pd:第1背圧室3aaの圧力
Pm:第2背圧室3abの圧力
B1:第1背圧室3aaの受圧面積
B2:第2背圧室3abの受圧面積
【0043】
(b)背圧フレーム4を設けない場合
Fup=Pd×(B1+B2)
【0044】
背圧フレーム4を設けない場合にFupを決定する圧力は、第1背圧室3aaの圧力Pdのみである。これに対し、背圧フレーム4を設ける場合は、第1背圧室3aaの圧力Pdに加えて第2背圧室3abの圧力Pmも関わってくる。このため、第2背圧室3abの圧力Pmと、受圧面積B2とを調整することで、歯先荷重を変えることができる。つまり、背圧フレーム4を設けて揺動スクロール2の背面に異なる2種類の背圧を作用させる構成とすることで、設計自由度が高まる。よって、第2背圧室3ab内の圧力を、圧縮室13のガス漏れと摩擦とを低減する適切な圧力に設計できる。
【0045】
具体的には、歯先荷重は、第2背圧室3abの受圧面積B2を増やすことで低減する。第2背圧室3abの受圧面積B2を増やすには、背圧フレーム4の内半径Rf(
図4参照)とバランサ7dの外半径Rb(
図3参照)との関係を、「背圧フレーム内半径Rf < バランサ外半径Rb」とすればよい。したがって、第2背圧室3abの受圧面積B2を適切に設定することで、圧縮室13のガス漏れと摩擦とを低減する適切な圧力の設定と、圧縮機駆動時の回転バランスとを両立できる。
【0046】
上記(a)の場合と、(b)の場合の歯先荷重を比較した結果を次の図に示す。
【0047】
図7は、背圧フレームを設けた場合と設けない場合の歯先荷重の違いを説明する図である。
図7において、ドット部分は圧力Pdによる歯先荷重、ハッチング部分は圧力Pmによる歯先荷重を示している。
図7から明らかなように、(a)背圧フレーム4を設ける場合は、(b)背圧フレーム4を設けない場合に比べて歯先荷重を軽減できる。(b)では、許容荷重を超えることで焼き付き等が発生する。歯先荷重は0以下となると、歯先に隙間が生じて効率が低下するため、0を僅かに上回ることが理想的である。(a)では歯先荷重が0を僅かに上回っており、理想的であると言える。
【0048】
以上説明したように本実施の形態1によれば、差圧給油が行われないようにするために、背圧室3aと油貯蔵部10dとの圧力差を0にする。具体的には、背圧室3aを、密閉容器10内において油貯蔵部10dと接する空間である下部空間10bと連通させる。この連通は、固定フレーム3に設けた第1油流路31で行われる。そして、給油は、駆動シャフト7の下端部に設けた容積型のオイルポンプ20で行う。これにより、差圧給油が行われず、高低圧の圧力差が大きい条件における過剰な給油を抑制できる。その結果、圧縮機構部90内に吸い込まれた流体が、圧縮機構部90内に過剰に供給された油によって加熱されることによる圧縮機損失を低減でき、圧縮機の効率向上が図れる。また、このスクロール圧縮機100を適用した空調機では、冷房暖房能力の向上が図れる。
【0049】
そして、本実施の形態1では、揺動スクロール2の背面に対向して背圧室3aに背圧フレーム4を配置している。背圧室3a内は、背圧フレーム4によって、高圧となる第1背圧室3aaと、揺動スクロール2の背面に中間圧を作用させる第2背圧室3abとに区画される。このように、背圧室3aに背圧フレーム4を設けたことで、揺動スクロール2の背面に、高圧と中間圧の2種類の背圧を作用させることができ、設計自由度が高まる。したがって、揺動スクロール2を固定スクロール1側に適正な圧力で押圧することが可能となる。
【0050】
本実施の形態1では、固定スクロールには、第1背圧室3aaと下部空間10bとを連通する第1油流路31と、第1背圧室3aaと低圧の流体が吸入される密閉容器10内の吸入空間90aとを連通する第2油流路32とが形成されている。これにより、背圧室3a内の油を、吸入空間90aに供給すると共に、油貯蔵部10dに戻すことができる。
【0051】
本実施の形態1では、「第1油流路31の断面積A1および長さL1」と、「第2油流路32の断面積A2および長さL2」との関係を「L1/A1 > L2/A2」としている。これにより、高回転時の過剰な給油を抑制できる。
【0052】
本実施の形態1では、「第2油流路32の断面積A2および長さL2」と、「駆動シャフト7の偏心軸7aと揺動スクロール2の軸受部2cとの間の隙間の断面積A3および隙間の軸方向の長さL3」との関係を、「L2/A2 > L3/A3」としている。これにより、オイルポンプ20で損失を発生させずに吸入空間90aに適量を給油できる。
【0053】
本実施の形態1では、背圧フレーム4の内半径Rfとバランサ7dの外半径Rbとの関係を「背圧フレーム内半径Rf < バランサ外半径Rb」としている。これにより、揺動渦巻歯2bに作用する荷重の抑制と、回転バランスとの両立を図ることができる。
【0054】
本実施の形態1では、揺動スクロール2の揺動台板部2aには、圧縮途中の圧縮室13と第2背圧室3abとを連通する抽気孔2dが形成されている。これにより、圧縮途中の中間圧の流体が第2背圧室3abに導入され、第2背圧室3abを中間圧にできる。
【0055】
[実施の形態2] 油戻し用の配管
実施の形態2について
図8を参照して説明する。
図8は、本発明の実施の形態2に係るスクロール圧縮機の概略縦断面図である。
図8において、白抜き矢印は流体の流れ、実線矢印は油の流れを示している。以下、実施の形態2が実施の形態1と異なる構成を中心に説明する。
【0056】
実施の形態2では、
図1に示した実施の形態1に対して、第1油流路31と油貯蔵部10dとを連通する油戻し用の配管80を設けた構成である。配管80は、この例では密閉容器10の外部に配置されているが、密閉容器10の内部に配置してもよい。
【0057】
配管80は、高回転時に過剰にオイルポンプ20によって汲み上げられる油を、第1油流路31から油貯蔵部10dに直接、戻す。これにより、第1油流路31から流出した油は、油貯蔵部10dに戻されるまでの間に下部空間10bの流体の流れと合流しない。したがって、油が流体によって巻上げられ、流体と共に圧縮機外部へ流出することを防止できる。その結果、圧縮機内部の油が枯渇して潤滑不良になることを抑制でき、信頼性を向上できる。
【0058】
以上説明したように本実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果が得られると共に、第1油流路31と油貯蔵部10dとを連通する配管80を設けたことで以下の効果が得られる。すなわち、第1油流路31から油貯蔵部10dに戻される油が、流体によって巻上げられて流体と共に圧縮機外部へ流出することを防止でき、信頼性を向上できる。
【0059】
[実施の形態3] 駆動シャフト7のスライダー化
実施の形態3について
図9、
図10および
図11を参照して説明する。
図9は、本発明の実施の形態3に係るスクロール圧縮機の概略縦断面図である。
図10は、本発明の実施の形態3に係るスクロール圧縮機の駆動シャフトの上部を示す斜視図である。
図11は、本発明の実施の形態3に係るスクロール圧縮機の駆動シャフト周りの形状を示す図である。以下、実施の形態3が実施の形態1と異なる構成を中心に説明する。
【0060】
実施の形態3のスクロール圧縮機100は、実施の形態1に対してスライダー70を備えている。スライダー70は、揺動スクロール2の公転時に、常に揺動スクロール2の揺動渦巻歯2bが固定スクロール1の固定渦巻歯1bと接した状態となるように設けられたものである。このスライダー70は、バランサ部70aと軸部70bとを有し、バランサ部70aは、実施の形態1のバランサ7dと同様の機能を有する。軸部70bは筒状に構成され、揺動スクロール2の軸受部2cと駆動シャフト7の偏心軸7aとの間に介在する。スライダー70は、駆動シャフト7の回転力を揺動スクロール2に伝達して揺動スクロール2を偏心公転運動させる。
【0061】
偏心軸7aは、一対の対向する平面部7aaと、平面部7aaの両端を繋ぐ円弧部7abとで構成されており、スライダー70のスライダー穴70cにスライド可能に嵌め合わさっている。スライダー穴70cは、偏心軸7aの一対の平面部7aaを面方向に引き延ばした形状を有する。
【0062】
(スライダーの機能)
スライダー70は、バランサ部70aに作用する遠心力によって偏心軸7aの平面部7aaにならって半径方向外側へスライドする。揺動スクロール2の回転中心はスライダー70の軸方向中心に等しいため、スライダー70が半径方向へスライドすることで、揺動スクロール2も同様にスライドする。このとき、揺動スクロール2は、揺動渦巻歯2bの歯側面が固定渦巻歯1bの歯側面に接触するまでスライダー70と共にスライドする。これにより、揺動スクロール2の公転時、固定スクロール1の固定渦巻歯1bと揺動スクロール2の揺動渦巻歯2bとが、互いに常に接した状態となり、圧縮室13からの流体漏れが抑制される。
【0063】
以上説明したように本実施の形態3によれば、実施の形態1と同様の効果が得られると共に、スライダー70を設けたことで、以下の効果を有する。すなわちスライダー70によって揺動スクロール2が半径方向にスライドすることで、揺動渦巻歯2bの歯側面が固定渦巻歯1bの歯側面と接触した状態で圧縮運動が行われる。このため、圧縮室13内の圧縮途中の流体、または圧縮室13の中心部の吐出圧流体の、固定渦巻歯1bおよび揺動渦巻歯2bの半径方向隙間からの漏れを防止することができ、圧縮効率が向上する。
【0064】
[実施の形態4] 第2背圧室の圧力がばね力依存
実施の形態4について
図12を参照して説明する。
図12は、本発明の実施の形態4に係るスクロール圧縮機の要部を拡大した概略縦断面図である。以下、実施の形態4が実施の形態1と異なる構成を中心に説明する。
【0065】
実施の形態4のスクロール圧縮機100は、実施の形態1に示したスクロール圧縮機100における揺動スクロール2の抽気孔2dが撤去されている。また、実施の形態4のスクロール圧縮機100には、第2背圧室3abと第2油流路32とを連通して第1油流路31の油を第2背圧室3abに供給する抽気流路33が固定フレーム3に形成されている。第2油流路32には第2背圧室3abの圧力を調整する圧力調整機構60が配置されている。圧力調整機構60は、第2油流路32を開閉する弁体60aを備え、弁体60aは第2油流路32を閉じる方向にばね61で付勢されている。
【0066】
図13は、本発明の実施の形態4に係るスクロール圧縮機において弁体に作用する力の説明図である。
弁体60aには、吸入空間90aの圧力Psが下向きに作用し、第2背圧室3abの圧力Pmが上向きに作用する。また、弁体60aには、ばね力Fによる圧力、つまりばね力Fを弁体60aの受圧面積で除算した圧力F/Aが下向きに作用する。したがって、「圧力Pmと圧力Psとの差圧ΔP」がばね力Fによる圧力F/Aよりも小さい場合は、
図12に示すように第2油流路32が弁体60aによって閉じられている。一方、「圧力Pmと圧力Psとの差圧ΔP」がばね力Fによる圧力F/Aよりも大きい場合は、弁体60aがばね61の付勢力に対して上方に持ち上がり、第2油流路32が開く。第2油流路32が開くことで、第2背圧室3abが抽気流路33および第2油流路32を介して吸入空間90aに連通する。つまり、第2背圧室3abの圧力PmがPs+F/Aより大きくなると、第2油流路32が開いて第2背圧室3abの圧力が逃される。このため、第2背圧室3abの圧力PmはPs+F/Aに維持される。
【0067】
以上説明したように本実施の形態4によれば、実施の形態1と同様の効果が得られると共に、第2背圧室3abの圧力に関し、実施の形態1における流体の容積変化依存から、ばね力依存へ変えることができ、設計の自由度が広がる。これにより、揺動スクロール2の揺動渦巻歯2bに作用する荷重を適切に設定でき、スクロール圧縮機100の圧力運転範囲を広げることができる。
【0068】
なお、
図12では、圧力調整機構60がばね61で付勢された弁体60aを備えた構成であったが、次の
図14のように構成してもよい。
【0069】
図14は、本発明の実施の形態4に係るスクロール圧縮機の変形例を示す図である。
この変形例では、圧力調整機構60が弁体60cを有するリード弁を備えた構成である。本構成により部材点数を削減でき、より簡素な構造で、
図12の構成と同様の効果が得られる。
【0070】
[実施の形態5] 可動フレーム、第3背圧室
実施の形態5について
図15を参照して説明する。
図15は、本発明の実施の形態5に係るスクロール圧縮機の要部を拡大した概略縦断面図である。以下、実施の形態5が実施の形態1と異なる構成を中心に説明する。
【0071】
本実施の形態5は、圧縮室13内の中間圧を背圧として浮上し、揺動スクロール2を固定スクロール1へ押し付ける可動フレーム50を固定フレーム3内に配置した構成である。以下に詳細を説明する。
【0072】
可動フレーム50は、揺動スクロール2の背面側に、固定フレーム3に対して軸方向に移動可能に配置される。可動フレーム50は、大径の筒状部50dと、筒状部50dの下部に設けられた小径の筒状部50eとを有する。可動フレーム50の筒状部50dの内側が背圧室3aとなっており、背圧室3aと第1油流路31とを連通する第3油流路50cが筒状部50dに形成されている。筒状部50dの上面には窪みが形成され、その窪みに背圧フレーム4が配置されている。実施の形態5では、背圧フレーム4および可動フレーム50のそれぞれの上面が、揺動スクロール2の揺動台板部2aのスラスト面2fと摺動するスラスト受け面となっている。
【0073】
可動フレーム50の筒状部50eの外面は固定フレーム3の上部筒状部3cの内面に囲まれている。また、筒状部50eの外面は固定フレーム3の下部筒状部3dの内面に囲まれている。筒状部50dと上部筒状部3cとの間には環状のシール部11aおよびシール部11bが設けられ、筒状部50eと下部筒状部3dとの間には、シール部11cが設けられている。これにより、可動フレーム50の背面側に、他の空間から仕切られた第3背圧室50aが形成されている。
【0074】
可動フレーム50の筒状部50dには、軸方向に貫通する連通孔50bが形成されている。連通孔50bの上端側は、揺動スクロール2の揺動台板部2aと対向する面に開口し、下端側は第3背圧室50aに連通している。
【0075】
揺動スクロール2の揺動台板部2aには抽気孔2gが形成されている。抽気孔2gは、揺動台板部2aを固定スクロール1側から可動フレーム50側に貫通している。抽気孔2gは、圧縮途中の圧縮室13の流体を第3背圧室50aに供給するための細い孔である。抽気孔2gの可動フレーム50側の開口部は、開口部の円軌跡が、運転時に可動フレーム50の内部に常時収まる位置に配置され、可動フレーム50に設けられた連通孔50bの上端側の開口部と常時もしくは間欠的に連通する。これにより、第3背圧室50aには、圧縮室13内の中間圧が抽気孔2gおよび連通孔50bを介して常時もしくは間欠的に導かれる。第3背圧室50a内の圧力は、可動フレーム50の背圧として作用し、背圧により可動フレーム50が浮上して揺動スクロール2を固定スクロール1へ押し付ける動作を行う。
【0076】
以上説明したように本実施の形態5によれば、実施の形態1と同様の効果が得られると共に、第1背圧室3aa、第2背圧室3abおよび第3背圧室50aの3つの背圧を揺動スクロール2に付与できる。これにより、揺動スクロール2の揺動渦巻歯2bに作用する荷重を適切に設定でき、揺動スクロール2のスラスト面2fと可動フレーム50のスラスト受け面との摺動損失が低減され、スクロール歯先の摺動損失を低減できる。その結果、より圧縮機の圧力運転範囲を広げることができる。
【0077】
[実施の形態6] 可動フレーム+スライダー
実施の形態6について
図16を参照して説明する。
図16は、本発明の実施の形態6に係るスクロール圧縮機の要部を拡大した概略縦断面図である。
【0078】
本実施の形態6は、実施の形態3と実施の形態5とを組み合わせた形態であり、可動フレーム50を備えた実施の形態5に実施の形態3のスライダー70を設けた構成を有する。
【0079】
本実施の形態6によれば、実施の形態3および実施の形態5と同様の効果を得ることができる。
【0080】
実施の形態6では、実施の形態3と実施の形態5とを組み合わせた形態を示したが、この組み合わせ以外にも、各実施の形態の特徴的な構成を適宜組み合わせてスクロール圧縮機を構成してもよい。また、実施の形態4で説明した変形例は、他の実施の形態と組み合わせた構成においても、同様に適用できる。