(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972394
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】亜鉛層又は亜鉛−ニッケル合金層を析出させるための酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴
(51)【国際特許分類】
C25D 3/22 20060101AFI20211111BHJP
C25D 3/56 20060101ALI20211111BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
C25D3/22
C25D3/56 D
C25D5/26 G
C25D5/26 C
【請求項の数】15
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2020-568777(P2020-568777)
(86)(22)【出願日】2019年6月3日
(65)【公表番号】特表2021-521347(P2021-521347A)
(43)【公表日】2021年8月26日
(86)【国際出願番号】EP2019064329
(87)【国際公開番号】WO2019238454
(87)【国際公開日】20191219
【審査請求日】2020年12月10日
(31)【優先権主張番号】18177041.3
(32)【優先日】2018年6月11日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511188635
【氏名又は名称】アトテック ドイチェランド ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ミハウ・カチマレク
(72)【発明者】
【氏名】ズデネック・シュタルクバウム
(72)【発明者】
【氏名】セバスティアン・ハーン
(72)【発明者】
【氏名】エルカン・カラピナー
【審査官】
大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭49−019978(JP,B2)
【文献】
特開2007−308761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/22
C25D 3/56
C25D 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも亜鉛イオン源と、
(ii)
0.5から7.5mg/lの少なくとも1種の一般式(I)を有するトリアゾール誘導体と、
【化1】
(式中、
R
1は、水素、チオール、カルボン酸、アミノ、メチル、メチルスルホニル、及びメチルカルボキシレートからなる群から選択され;
R
2は、水素又はフェニルであり;及び
R
3は、水素、アミノ、チオール、及びフェニルからなる群から選択される);
(iii)
0.5から7.5g/lの少なくとも1種の一般式(II)を有する第1のポリ(エチレングリコール)誘導体と、
【化2】
(式中、
nは、2から200の範囲であり、
R
4は、直鎖又は分枝C
1〜C
18アルキル、4−ノニルフェニル、及びカルボキシル基を有する直鎖又は分枝C
1〜C
18アルキルからなる群から選択され;
R
5は−CH
2−CH
2−CH
2−SO
3Z、−CH
2−CH
2−SH、及びトシルからなる群から選択され;
式中、Zは
、一価のカチオンである);
(iv)亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴の場合、少なくともニッケルイオン源と、
を含むことを特徴とする、亜鉛層又は亜鉛−ニッケル合金層を析出させるための
2から6.5の範囲のpHを有する酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴。
【請求項2】
亜鉛イオン及びニッケルイオン以外の合金化金属を含まないことを特徴とする、請求項1に記載の酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴。
【請求項3】
前記少なくとも1種のトリアゾール誘導体が、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール;1,2,4−トリアゾール;1,2,4−トリアゾール−3−カルボン酸;3−アミノ−1,2,4−トリアゾール;3−メチル−1H−1,2,4−トリアゾール;3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール;3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール;3−(メチルスルホニル)−1H−1,2,4−トリアゾール;5−フェニル−1H−1,2,4−トリアゾール−3−チオール;1−フェニル−1H−(1,2,4)−トリアゾール−3−チオール;及びメチル−1H−1,2,4−トリアゾール−3−カルボキシレートからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴。
【請求項4】
前記少なくとも1種の第1のポリ(エチレングリコール)誘導体が、ポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩(CAS 119438−10−7);ポリ(エチレングリコール)アルキル(3−スルホプロピル)ジエーテルカリウム塩(CAS 119481−71−9);ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルチオール;ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルトシラート(CAS 58320−73−3);及びポリ(エチレングリコール)2−メルカプトエチルエーテル酢酸(CAS 165729−81−7)からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴。
【請求項5】
前記少なくとも1種のトリアゾール誘導体が3−メルカプト−1,2,4−トリアゾールであり、かつ前記少なくとも1種の第1のポリ(エチレングリコール)誘導体がポリ(エチレングリコール)アルキル(3−スルホプロピル)ジエーテルカリウム塩(CAS 119481−71−9)であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴。
【請求項6】
前記少なくとも1種のトリアゾール誘導体の濃度が、0.75から6.5mg/lであることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴。
【請求項7】
前記少なくとも1種の第1のポリ(エチレングリコール)誘導体の濃度が、0.75から4.5g/lであることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴。
【請求項8】
(v)少なくとも1種の一般式(III)を有する第2のポリ(エチレングリコール)誘導体
【化3】
(式中、
nは、2から200の範囲であり、
R
6は、直鎖又は分枝C
1〜C
18アルキル、−CH
2−COOH、グリシジル、及び−CH
2−CH
2−NH
2からなる群から選択され;及び
R
7は、水素、−CH
2−COOH、グリシジル、及び−O−CH
3からなる群から選択される)
をさらに含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴。
【請求項9】
前記少なくとも1種の第2のポリ(エチレングリコール)誘導体が、オクタ(エチレングリコール)オクチルエーテル(CAS 26468−86−0)、ポリ(エチレングリコール)ビス(カルボキシメチル)エーテル(CAS 39927−08−7)、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル(CAS 72207−80−8)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(CAS 24991−55−7)、及びポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアミン(CAS 80506−64−5)からなる群から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴。
【請求項10】
前記少なくとも1種の第2のポリ(エチレングリコール)誘導体の濃度が、0.5から7.5g/lであることを特徴とする、請求項8又は9に記載の酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴。
【請求項11】
前記少なくとも1種のトリアゾール誘導体が3−メルカプト−1,2,4−トリアゾールであり、前記少なくとも一種の第1のポリ(エチレングリコール)誘導体がポリ(エチレングリコール)アルキル(3−スルホプロピル)ジエーテルカリウム塩(CAS 119481−71−9)であり、かつ前記少なくとも1種の第2のポリ(エチレングリコール)誘導体がオクタ(エチレングリコール)オクチルエーテル(CAS 26468−86−0)であることを特徴とする、請求項8から10のいずれか一項に記載の酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴。
【請求項12】
ホウ酸を含まないことを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴。
【請求項13】
亜鉛イオンの濃度が、5から100g/lであることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴。
【請求項14】
亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴の場合、ニッケルイオンの濃度が、5から100g/lであることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴。
【請求項15】
(i)カソードとして金属面を有する基板を提供する工程と、
(ii)前記基板と請求項1から14のいずれか一項に記載の酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴とを接触させる工程と、
(iii)前記基板と少なくとも1種のアノードとの間に電流を流し、それによって改良された厚みを有する亜鉛層又は亜鉛−ニッケル合金層を前記基板上に析出させる工程と、
をこの順番で含む、亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっきのための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛層又は亜鉛−ニッケル合金層を析出させるための酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴に関する。本発明はさらに、その電気めっき浴を使用する亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっきの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛及び亜鉛合金電気めっきは、鋳鉄基板及び鋼鉄基板等の金属基板の耐腐食性を向上させる標準的な方法である。最も一般的な亜鉛合金は、亜鉛−ニッケル合金である。前述の目的のために使用される電気めっき浴は、酸性の及びアルカリ性の(シアン化物又は非シアン化物)電気めっき浴に一般的に分けられている。
【0003】
酸性の亜鉛及び亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴を使用する電気めっき方法は、アルカリ性の電気めっき浴に対して、より高い電流効率、析出物のより高い輝度、電気めっき速度及び電気めっき基板のより少ない水素脆化等のいくつかの利点を示す(Modern Electroplating、M. Schlesinger、M. Paunovic、第4版、John Wiley & Sons、2000、431頁)。
【0004】
アルカリ性の電気めっき浴に対する酸性の電気めっき浴を使用する亜鉛及び亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴方法の欠点は、付きまわり性(throwing power)の低下である。したがって、亜鉛析出物又は亜鉛−ニッケル合金析出物の厚みは、局所電流密度へのより高い依存性を示す。析出物の厚み(及び同様に耐腐食性)は、局所電流密度がより低い基板部分でより低く、局所電流密度がより高い基板部分でより高い。酸性の亜鉛及び亜鉛−ニッケル合金電気めっき方法の劣った付きまわり性は、電気めっき基板がブレーキキャリパー等の複雑な形を有する場合及び/又はラック電気めっき及びバレル電気めっきを使用する場合とりわけ懸念される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、先行技術を考慮すると、特に電気めっき基板が複雑な形を有する場合及び/又はラック電気めっき及びバレル電気めっきの適用において、低い局所電流密度で改善された電気めっきの性質を示し、それにより、改良された析出物の厚み均一性を示す、亜鉛層又は亜鉛−ニッケル合金層を析出させるための酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴を提供することが、本発明の目的であった。
【0006】
さらに、高い電流密度の部分においてやけ(burning)を減少させる又は理想的には防ぐことができ、一方で低い電流密度の部分における厚みを同時に改善させる、酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴を提供することが、本発明の目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの目的及び明確に述べられていないが前置きとして本明細書で説明された関係から即座に導き出せる又は認識できるさらなる目的も、請求項1の全ての特徴を有する酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴により達成される。本発明の電気めっき浴の適切な改良は、従属請求項2から14において保護される。さらに、請求項15は、その電気めっき浴を使用する亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっきの方法を含む。
【0008】
したがって、本発明は、
(i)少なくとも亜鉛イオン源と、
(ii)少なくとも1種の一般式(I)を有するトリアゾール誘導体と、
【化1】
(式中、
R
1は、水素、チオール、カルボン酸、アミノ、メチル、メチルスルホニル、及びメチルカルボキシレートからなる群から選択され;
R
2は、水素又はフェニルであり;及び
R
3は、水素、アミノ、チオール、及びフェニルからなる群から選択される);
(iii)少なくとも1種の一般式(II)を有する第1のポリ(エチレングリコール)誘導体と、
【化2】
(式中、
nは、2から200の範囲であり、
R
4は、直鎖又は分枝C
1〜C
18アルキル、4−ノニルフェニル、及びカルボキシル基を有する直鎖又は分枝C
1〜C
18アルキルからなる群から選択され;
R
5は−CH
2−CH
2−CH
2−SO
3Z、−CH
2−CH
2−SH、及びトシルからなる群から選択され;
式中、Zは、カリウムイオン、ナトリウムイオン又はアンモニウムイオンなどの一価のカチオンである);
(iv)亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴の場合、少なくともニッケルイオン源と、
を含むことを特徴とする、亜鉛層又は亜鉛−ニッケル合金層を析出させるための酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴を提供する。
【0009】
したがって、予測できない方法で、特に電気めっき基板が複雑な形を有する場合及び/又はラック電気めっき及びバレル電気めっきの適用において、低い局所電流密度で改善された電気めっきの性質を示し、それにより、改良された析出物の厚み均一性を示す、亜鉛層又は亜鉛−ニッケル合金層を析出させるための酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴を提供することができる。さらに、本発明は、高い電流密度の部分においてやけ(burning)を防ぐことができ、一方で低い電流密度の部分における厚みを同時に改善させる、酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴を提供することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Modern Electroplating、M. Schlesinger、M. Paunovic、第4版、John Wiley & Sons、2000、431頁
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明による前述の酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴は、好ましくは水性浴である。その水性浴の水の含有量は、使用した全ての溶媒の80体積%より多く、好ましくは90体積%より多く、より好ましくは95体積%より多い。その酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴のpH値は、2から6.5、好ましくは3から6、より好ましくは4から6の範囲である。
【0012】
好適な亜鉛イオン源には、ZnO、Zn(OH)
2、ZnCl
2、ZnSO
4、ZnCO
3、Zn(SO
3NH
2)
2、酢酸亜鉛、メタンスルホン酸亜鉛及び前述のものの混合物が含まれる。
【0013】
亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴が望ましい場合においてのみ含まれる、好適な任意のニッケルイオン源には、NiCl
2、NiSO
4、NiSO
4・6H
2O、NiCO
3、Ni(SO
3NH
2)
2、酢酸ニッケル、メタンスルホン酸ニッケル及び前述のものの混合物が含まれる。
【0014】
次に、本発明による酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴には、ニッケルイオンのための錯化剤がさらに含まれる。前述の錯化剤は、脂肪族アミン、ポリ−(アルキレンイミン)、非芳香族ポリ−カルボン酸、非芳香族ヒドロキシカルボン酸及び前述のものの混合物から好ましくは選択される。
【0015】
ニッケルイオン源及び錯化剤は、好ましくはそのまま電気めっき浴に加えられる。
【0016】
本発明の一実施形態において、ニッケルイオン源は、電気めっき浴に加えられる前に水中でニッケルイオンのための錯化剤と混合される。したがって、ニッケルイオンのための錯化剤とニッケルイオンとの混合物から得られる、ニッケル錯体化合物/塩は、ニッケルイオン源として電気めっき浴に加えられる。
【0017】
好適な脂肪族アミンには、1,2−アルキレンイミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン(ethylendiamine)、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等が含まれる。
【0018】
好適なポリ−(アルキレンイミン)は、例えばLugalvan(登録商標)G−15、Lugalvan(登録商標)G−20及びLugalvan(登録商標)G−35であり、全てBASF SEから入手できる。
【0019】
好適な非芳香族ポリ−カルボン酸及び非芳香族ヒドロキシカルボン酸には、好ましくは亜鉛イオン及び/又はニッケルイオンとキレート錯体を形成することができる化合物、例えばクエン酸、酒石酸、グルコン酸、アルファ−ヒドロキシ酪酸等並びに、対応するナトリウム塩、カリウム塩及び/又はアンモニウム塩などのそれらの塩等が含まれる。
【0020】
少なくとも1種のニッケルイオンのための錯化剤の濃度は、好ましくは0.1から150g/l、より好ましくは1から50g/lである。
【0021】
本発明の文脈において「電気めっき浴」という表現は、本発明の酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金浴が、常に通電されていることを意味する。無電解の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金浴は、異なる化学浴組成を有する。したがって、無電解浴は、本発明から明確に排除され本発明の一部を形成することはない。
【0022】
一実施形態において、浴は実質的に、好ましくは完全に亜鉛イオン及びニッケルイオン以外の合金化金属を含まない。
【0023】
一実施形態において、少なくとも1種のトリアゾール誘導体は、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール;1,2,4−トリアゾール;1,2,4−トリアゾール−3−カルボン酸;3−アミノ−1,2,4−トリアゾール;3−メチル−1H−1,2,4−トリアゾール;3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール;3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール;3−(メチルスルホニル)−1H−1,2,4−トリアゾール;5−フェニル−1H−1,2,4−トリアゾール−3−チオール;1−フェニル−1H−(1,2,4)−トリアゾール−3−チオール;及びメチル−1H−1,2,4−トリアゾール−3−カルボキシレートからなる群から選択される。
【0024】
一実施形態において、少なくとも1種の第1のポリ(エチレングリコール)誘導体は、ポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩(CAS 119438−10−7);ポリ(エチレングリコール)アルキル(3−スルホプロピル)ジエーテルカリウム塩(CAS 119481−71−9);ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルチオール;ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルトシラート(CAS 58320−73−3);及びポリ(エチレングリコール)2−メルカプトエチルエーテル酢酸(CAS 165729−81−7)からなる群から選択される。
【0025】
一実施形態において、少なくとも1種のトリアゾール誘導体は3−メルカプト−1,2,4−トリアゾールであり、かつ少なくとも1種の第1のポリ(エチレングリコール)誘導体はポリ(エチレングリコール)アルキル(3−スルホプロピル)ジエーテルカリウム塩(CAS 119481−71−9)である。
【0026】
一実施形態において、少なくとも1種のトリアゾール誘導体の濃度は、0.5から7.5mg/l、好ましくは0.75から6.5mg/l、より好ましくは1から5mg/lである。
【0027】
一実施形態において、少なくとも1種の第1のポリ(エチレングリコール)誘導体の濃度は、0.5から7.5g/l、好ましくは0.75から4.5g/l、より好ましくは1から5g/lである。
【0028】
好ましい一実施形態において、浴は、
(v)少なくとも1種の一般式(III)を有する第2のポリ(エチレングリコール)誘導体
【化3】
(式中、
nは、2から200の範囲であり、
R
6は、直鎖又は分枝C
1〜C
18アルキル、−CH
2−COOH、グリシジル、及び−CH
2−CH
2−NH
2からなる群から選択され;及び
R
7は、水素、−CH
2−COOH、グリシジル、及び−O−CH
3からなる群から選択される)
をさらに含む。
【0029】
そのさらなる添加剤は、電気めっき自体に悪影響を与えることなく、電気めっきされる基板のぬれ性質をさらに改善することができる。前述のさらなる添加剤が泡低減剤(foam reducer)(促進された作業条件)又はグロスエンハンサー(改善された光学的外観)である場合、それは基板の電気めっきに模範的に役立つことができる。
【0030】
前述の、一般式(III)を有する少なくとも1種の第2のポリ(エチレングリコール)誘導体は、本発明の文脈において、必須の一般式(II)を有する少なくとも1種の第1のポリ(エチレングリコール)誘導体とは常に異なる。
【0031】
前述の好ましい実施形態において、少なくとも1種の第2のポリ(エチレングリコール)誘導体は、オクタ(エチレングリコール)オクチルエーテル(CAS 26468−86−0)、ポリ(エチレングリコール)ビス(カルボキシメチル)エーテル(CAS 39927−08−7)、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル(CAS 72207−80−8)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(CAS 24991−55−7)、及びポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアミン(CAS 80506−64−5)からなる群から選択される。
【0032】
前述の好ましい実施形態において、少なくとも1種の第2のポリ(エチレングリコール)誘導体の濃度は、0.5から7.5g/l、好ましくは0.75から4.5g/l、より好ましくは1から5g/lの範囲である。
【0033】
より好ましい一実施形態において、少なくとも1種のトリアゾール誘導体は、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾールであり、少なくとも1種の第1のポリ(エチレングリコール)誘導体がポリ(エチレングリコール)アルキル(3−スルホプロピル)ジエーテルカリウム塩(CAS 119481−71−9)であり、かつ少なくとも1種の第2のポリ(エチレングリコール)誘導体がオクタ(エチレングリコール)オクチルエーテル(CAS 26468−86−0)である。
【0034】
本発明による酸性の電気めっき浴は、前述の電気めっき浴の操作の間、望ましいpH値範囲を維持するために、酢酸、酢酸及び対応する塩の混合物、ホウ酸等の緩衝添加剤を任意選択でさらに含む。
【0035】
好ましい一実施形態において、浴は実質的に、好ましくは完全にホウ酸を含まない。
【0036】
本発明の文脈において「実質的に含まない」という表現は、0.2g/lより少ない、好ましくは0.1g/lより少ない、より好ましくは0.05g/lより少ない濃度を意味する。
【0037】
一実施形態において、亜鉛イオンの濃度は、5から100g/l、好ましくは10から50g/l、より好ましくは15から35g/lの範囲である。
【0038】
(亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴の場合における)一実施形態において、ニッケルイオンの濃度は、5から100g/l、好ましくは10から50g/l、より好ましくは15から35g/lの範囲である。
【0039】
さらに、本発明の目的は、
(i)カソードとして金属面を有する基板を提供する工程と、
(ii)前記基板と本発明による酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴とを接触させる工程と、
(iii)前記基板と少なくとも1種のアノードとの間に電流を流し、それによって改良された厚みを有する亜鉛層又は亜鉛−ニッケル合金層を前記基板上に析出させる工程と、
をこの順番で含む、亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっきのための方法によっても解決される。
【0040】
好適なアノード材料は、例えば、亜鉛、ニッケル並びに亜鉛及びニッケルを含む混合アノードである。電気めっき浴は好ましくは20から50度の範囲内の温度で行われる。
【0041】
本発明による酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴は、ラック電気めっき、バレル電気めっき並びに金属片及び金属線の高速めっき等の全てのタイプの工業上の亜鉛及び亜鉛−ニッケル合金電気めっき方法で使用され得る。
【0042】
基板(カソード)及び少なくとも1種のアノードに流される電流密度の範囲は、電気めっき方法に依存する。0.3から5A/dm
2の範囲内の電流密度が、ラック電気めっき及びバレル電気めっきに対して好ましくは流される。
【0043】
改善された付きまわり性の技術的効果は、複雑な形を有する基板の電気めっきに並びに/又はラック電気めっき及びバレル電気めっきにおいて最も好ましくは使用される。複雑な形を有する従来の基板には、ブレーキキャリパー、ホルダー、クランプ及び管が含まれる。
【0044】
本発明による方法によって電気めっきされる基板に関する「複雑な形」という表現は、電気めっきの間、表面上で様々な局所電流密度値を生み出す形として本明細書で定義されている。それに対して、例えば金属片等の本質的に平らで、板状の形を有する基板は、複雑な形を有する基板と見なされない。
【0045】
したがって、本発明は、低い電流密度部分においてこの部分の電気めっき速度を増加させることで厚みを改善し、一方でそれと同時に高い電流密度部分におけるやけを防ぐという問題に取り組んでいる。
【0046】
以下の非限定的な実施例は、本発明の様々な実施形態を説明するために、及び本発明の理解を促進するために提供されており、本明細書に添付された特許請求の範囲によって定義されている、本発明の範囲を限定することを目的としない。
【実施例】
【0047】
<基本手順>
【0048】
電気めっきの間、基板(「ハルセル板」)上の広範囲の局所電流密度をシミュレートするために、電気めっき実験をハルセルで行った。基板材料は鋼鉄であって、大きさは100mm×75mmであった。
【0049】
改善された付きまわり性の望ましい技術的効果は、Helmut Fischer GmbHからのFischerscope X−Ray XDL−B装置を用いたX線蛍光測定による析出された亜鉛層及び亜鉛−ニッケル合金層の厚み測定によって決定した。厚みの判断(reading)を、それぞれのハルセル板(基板)の、基板全体を覆う高い局所電流密度(HCD)部分末端から低い局所電流密度(LCD)部分末端までの定められた距離で行った。厚みを、それぞれの基板のHCD末端から0.5、2.5、5、7.5、9.5、及び9.8cmのそれぞれの距離で、表1及び表2においてマイクロメートルで示した。1アンペアの電流を流して基板を電気めっきした。
【0050】
試験した電気めっき浴の付きまわり性を、ハルセル板全体で測定された厚みの値から測定した。さらに、全体の結果に悪影響を与えるHCD部分におけるやけについて、光学的外観を詳細に調べた。
【0051】
添加剤の選択的な組み合わせを含む特許請求の範囲に記載された電気めっき浴の本発明の効果を、ハルセル板上のそれらの電気めっきの結果と、同様の標準の酸性の亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴電気めっき浴であるがその添加剤の選択的な組み合わせを有しないもので電気めっきされた比較のハルセル板とを比較することによって測定した。
【0052】
表1及び表2に示した実験は、結果順で番号づけられており、丸括弧内の第2の番号は出願人の社内での実験番号である。
【0053】
表1及び表2の全ての実験は、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール(F1添加剤)、ポリ(エチレングリコール)アルキル(3−スルホプロピル)ジエーテルカリウム塩(CAS 119481−71−9;F2添加剤)、及びオクタ(エチレングリコール)オクチルエーテル(CAS 26468−86−0;F3添加剤)を用いて行った。
【0054】
一番目の列の実験番号の後に記号「*」がある、表1及び表2で示した実験は、本発明の範囲外の比較例である。
【0055】
HCD末端から0.5、2.5、5、7.5、9.5、及び9.8の距離が開示された以下の列における数字は、電気めっきをした後の基板上の亜鉛層又は亜鉛−ニッケル合金層の測定された厚みである。
【0056】
表1は、特許請求の範囲に記載された本発明の選択的な添加剤の組み合わせを含む及び含まない酸性の亜鉛電気めっき浴に対して(1アンペアで)実行された実験を示す。
【0057】
【表1】
【表2】
【0058】
表1で示した結果は、添加剤F1及び添加剤F2の選択的な組み合わせ(本発明の実験8から10)は、3つの添加剤を含まない実験(比較実験1)と比較して、ハルセル板のHCD末端から9.8及び9.5の距離におけるLCD部分での優れた層の厚みを示すことを証明する。F1のみを含んでいる実験(比較実験2から4)又はF2のみを含んでいる実験(比較実験5から7)と比較すると、同一のことが当てはまる。比較実験11は高すぎるF2の濃度を有しており、一方で比較実験12は高すぎるF1の濃度を有する。したがって、実験11及び12はそれによって本発明の選択性を証明することができ、それは、それぞれ、添加剤の適切な組み合わせを明らかにするのに十分でなく、それらの特定の適切な濃度を明らかにするのにも十分でない。本発明の実験13及び14は最終的に、F1、F2及びF3の組み合わせはLCD部分での層の厚みにおいてさらにより優れた結果を提供していることを示す。
【0059】
表2は、特許請求の範囲に記載された本発明の選択的な添加剤の組み合わせを含む及び含まない酸性の亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴に対して(1アンペアで)実行された実験を示す。
【0060】
【表3】
【表4】
【0061】
添加剤F1と添加剤F2の、並びに好ましくはF1、F2及びF3の選択的な組み合わせの技術的効果は、亜鉛−ニッケル合金電気めっき浴に対して同様に首尾よく示されている。
【0062】
表1及び表2に示した全ての本発明の実験は、ハルセル板のHCD末端の近く(0.5及び2.5cmの距離)のHCD部分における著しいやけを示していない。
【0063】
本発明の原理がいくらかの特定の実施形態に関して説明され、説明の目的のために提供されたものの、それらの様々な変更が、当業者が本明細書を読んだ場合に明らかになることを理解すべきである。したがって、本明細書で開示された発明は、添付された特許請求の範囲内のその変更を含むことを意図することを理解すべきである。本発明の範囲は、添付された特許請求の範囲によってのみ限定される。