(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ワークに対する工具の位置情報と、前記工具の前記ワークに対する加工幅または加工深さに対応する工具移動パスを複数の第1工具移動パスに分けられた工具移動パス情報と、を含む第1のCLデータを実行することで、びびり振動を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出されたびびり振動のデータに基づいて、前記複数の第1工具移動パスからびびり振動が生じない工具移動パス、またはびびり振動が最小となる工具移動パスを1つの第2工具移動パスとして生成し、前記第2工具移動パスを含む第2のCLデータを生成する生成手段と、
してコンピュータを機能させるためのプログラム。
前記第1のCLデータは前記工具の送り速度及び主軸の回転速度を含み、前記検出手段は、前記工具の送り速度及び回転速度を異ならせて第1のCLデータを実行する請求項1記載のプログラム。
ワークに対する工具の位置情報と、前記工具の前記ワークに対する加工幅または加工深さに対応する工具移動パスを複数の第1工具移動パスに分けられた工具移動パス情報と、を含む第1のCLデータに基づくプログラムを実行することで、びびり振動を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出されたびびり振動のデータに基づいて、前記複数の第1工具移動パスからびびり振動が生じない工具移動パス、またはびびり振動が最小となる工具移動パスを1つの第2工具移動パスとして生成し、前記第2工具移動パスを含む第2のCLデータに基づくプログラムを生成する生成手段と、
してコンピュータを機能させるためのプログラム。
ワークに対する工具の位置情報と、前記工具の前記ワークに対する加工幅または加工深さに対応する工具移動パスを複数の第1工具移動パスに分けられた工具移動パス情報と、を含む第1のCLデータを実行することで、びびり振動を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出されたびびり振動のデータに基づいて、前記複数の第1工具移動パスからびびり振動が生じない工具移動パス、またはびびり振動が最小となる工具移動パスを1つの第2工具移動パスとして生成し、前記第2工具移動パスを含む第2のCLデータを生成する生成手段と、
を備えたCLデータ編集装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、CLデータを編集生成するプログラム及びCLデータ編集装置を説明する。CLデータとは、CAMによって生成され、ポストプロセッサによってNCプログラムに変換される工具の位置情報、工具の送り速度及び主軸の回転速度を含むデータのことをいう。
【0022】
図1には、CLデータ編集装置を含む3次元加工システム100の機能ブロック構成が示されている。
3次元加工システム100は、被加工物であるワークの最終加工形状を設計する3次元のCAD装置10と、CAD装置10によって設計された被加工物の形状データ等に基づいて、加工時の工具移動パス情報を含む第1のCLデータを生成するCAM装置20と、CAM装置20により生成された第1のCLデータを編集するCLデータ編集装置30と、CLデータ編集装置30で編集された第2のCLデータをNCプログラムに変換するNCプログラム作成装置40と、NCプログラム作成装置40で変換されたNCプログラムが移植され、移植されたNCプログラムに基づいて工具を作動させてワークを加工するNC装置50を備えている。NC装置50として各種のマシニングセンタ、旋盤、複合加工機を用いることができる。
【0023】
3次元のCAD装置10により最終製品の3次元形状を示す3次元モデルデータが生成され、生成された3次元モデルデータがCAM装置20に入力される。
【0024】
CAM装置20には、入出力部、製品形状データ記憶部、素材データ記憶部、工具データ記憶部、加工条件データ記憶部、CLデータ生成部などの機能ブロックを備えている。これらの機能ブロックは、CAM装置20に備えたメモリボード上のメモリに格納されたCAM用のアプリケーションプログラムがCPUボード上のCPUで実行されることにより具現化される。
【0025】
製品形状データ記憶部及び素材データ記憶部には、入出力部を介してCAD装置10から入力された3次元モデルデータである製品の形状データ及び素材データが、それぞれ格納される。
【0026】
製品の形状データは、例えば3次元空間内の座標値で表される頂点データ、2つの頂点を結んで構成される稜線の方程式データ、稜線と2つの頂点とを関連付ける稜線データ、稜線により囲まれて形成される面の方程式データ、及び面と稜線とを関連付ける面データなどで構成される。
【0027】
工具データ記憶部には、ドリル、エンドミル、フェイスミルといった工具の種類、呼び寸法や材質など、工具の諸元に関するデータが格納され、加工条件データ記憶部には、加工条件に関するデータが格納される。加工条件に関するデータには、工具の送り速度(Fコード;mm/min)、主軸の回転速度(Sコード;RPM)などに関するデータと、工具のワークに対する加工幅及び/または加工深さと、それらの最小ピッチを規定するデータが含まれ、加工幅及び/または加工深さと各最小ピッチに基づいて複数の工具移動パスが生成される。最小ピッチや工具移動パスの数は、予め入出力部を介して操作者により手動入力される。
【0028】
CLデータ生成部は、製品形状データ記憶部、素材データ記憶部、工具データ記憶部及び加工条件データ記憶部に格納された各データに基づいてCLデータを生成する。CLデータは、少なくともワーク座標系における工具の位置情報、複数の第1工具移動パス情報、工具の送り速度及び主軸の回転速度を含むデータからなる。
【0029】
先ず、製品形状データ記憶部に格納された製品の形状データ、及び素材データ記憶部に格納された素材形状データを基に、加工を要する部位の形状特徴を抽出、認識し、認識した各加工部位についてその加工順序を決定する。
【0030】
決定した加工順序に従って、加工部位毎に、素材データ記憶部に格納された素材材質データを基に、工具データ記憶部に格納されたデータを参照して、当該加工で使用する工具を設定する。
【0031】
加工条件データ記憶部に格納されたデータを参照して、加工部位毎に、設定工具に応じた加工条件を設定し、設定した加工条件を基に、当該工具の送り速度及び主軸の回転速度に関するデータを生成するとともに、ワーク座標系における工具の移動位置データを生成してCLデータとする。
【0032】
第1工具移動パス情報は、上述した工具移動パスの生成条件、具体的にワークに対する加工幅のピッチ及び/または加工深さのピッチに基づいて生成される複数の工具移動パスであり、工具の加工幅及び/または加工深さに応じて複数点の工具の位置情報を接続した経路情報である。
【0033】
図2(A)に示すように、例えば、工具2としてエンドミルを用いてXY平面でX軸方向にワークWを溝加工する場合に、最終形状に到るZ方向の加工深さに対して1回の加工で切削する最小の加工深さ(加工ピッチ)が工具移動パスの生成条件として規定される。
【0034】
例えば、目標となる加工深さを20mm、最小ピッチを2mmとする場合、2mmピッチで切削すると10回の切削工程が必要になる。4mmピッチで切削すると5回の切削工程で終了し、5mmピッチで切削すると4回の切削工程で終了する。様々な切削ピッチに応じて各工具の位置情報を接続することで、最小ピッチを適宜組合せた複数の第1工具移動パス情報が生成されることになる。
【0035】
すなわち、2mmピッチで10回切削する工具移動パス、4mmピッチで5回切削する工具移動パス、5mmピッチで4回切削する工具移動パスなど、複数または単一の加工ピッチと切削回数を組み合わせて目標となる加工深さを切削するための工具移動パス情報が複数生成される。
【0036】
図2(B)に示すように、例えば、工具2としてエンドミルを用いてXY平面でY軸に向けてワークWを側面加工する場合に、最終形状に到るY方向の加工幅に対して1回の加工で切削する最小の加工幅(加工ピッチ)が工具移動パスの生成条件として規定される。
【0037】
例えば、目標とする加工幅を20mm、最小ピッチを2mmとする場合、2mmピッチで切削すると10回の切削工程が必要になる。4mmピッチで切削すると5回の切削工程で終了し、5mmピッチで切削すると4回の切削工程で終了する。
図2(A)の説明と同様に、様々な切削ピッチに応じて各工具の位置情報を接続する複数の第1工具移動パス情報が生成されることになる。当然、
図2(A),(B)を組み合わせた第1工具移動パス情報を生成することも可能である。
【0038】
CLデータ編集装置30は、CAM装置20のCLデータ生成部で生成された複数の第1工具移動パスをもとに、1つの第2工具移動パスを生成し、第2工具移動パスを含む第2のCLデータを編集する。CLデータ編集装置30については後に詳述する。
【0039】
CLデータ編集装置30で編集された第2のCLデータがポストプロセッサとしてのNCプログラム作成装置40に入力されると、NCプログラム作成装置40は、CLデータのワーク座標系に係る移動位置を、絶対座標系の移動位置に変換して、NCプログラムを生成する。そして、生成されたNCプログラムはNC装置50に移植され、NC装置50でNCプログラムが実行されることにより、ワークが最終形状に機械加工される。
【0040】
図3に示すように、CLデータ編集装置30は、CAM装置20により生成された複数の第1工具移動パス情報を含む第1のCLデータから、1つの第2工具移動パス情報を含む第2のCLデータを生成するCLデータ編集部31と、評価用のCLデータに基づいて機械加工を行った場合のびびり振動特性を評価するびびり振動評価部37とを備えている。びびり振動評価部37はびびり振動を検出する検出手段として機能する。
【0041】
CLデータ編集部31は、CAM装置20により生成された第1のCLデータを入力してCLデータ記憶部33に記憶する入力処理部32と、CLデータ記憶部33に記憶された複数の第1工具移動パス情報を含む第1のCLデータから評価用CLデータを生成する評価用CLデータ生成処理部34と、評価用CLデータをびびり振動評価部37に出力し、びびり振動評価部37から評価データを入力する評価データ入出力処理部35と、入力された評価データに基づいて第2のCLデータを生成するCLデータ更新処理部36とからなる機能ブロックを備えている。評価用CLデータとは、複数の第1工具移動パス情報から適宜選択された一つの第1工具移動パス情報を含むCLデータである。
【0042】
CLデータ編集部31を構成する各機能ブロックは、CLデータ編集装置30に備えたメモリボード上のメモリに格納されたCLデータ編集用のアプリケーションプログラムがCPUボード上のCPUで実行されることにより具現化される。
【0043】
びびり振動評価部37は、評価用CLデータに基づいて機械加工を実行した場合に、びびり振動が発生するか否か、発生する場合にはその程度を予測するびびり振動シミュレータで構成されている。つまり、びびり振動評価部37に備えたメモリボードにびびり振動を解析するシミュレーションプログラムが格納され、CPUボードでシミュレーションプログラムが実行されるように構成されている。
【0044】
CLデータ編集装置30は、CLデータ編集部31とびびり振動評価部37とを共通のCPUボード及びメモリボードで構成することも可能であり、個別のCPUボード及びメモリボードで構成することも可能である。
【0045】
CLデータ更新処理部36は、びびり振動評価部37による評価結果に基づいて、複数の第1工具移動パス情報に基づいて生成された複数の評価用CLデータ(各評価用CLデータは、一つの第1工具移動パス情報を含む)から、びびり振動が発生せずに加工能率の高い評価用CLデータを第2工具移動パス情報に採用した第2のCLデータを更新生成する。
【0046】
図4には、CLデータ編集部31により実行されるCLデータ更新処理手順が示されている。
入力処理部32を介してCAM装置20から入力された第1のCLデータがCLデータ記憶部33に記憶されると(SA1)、評価用CLデータ生成処理部34により第1のCLデータから評価用CLデータが生成される(SA2)。
【0047】
例えば、
図2(A)の例では、2mmピッチで10回の切削工程を工具2の位置で表わした座標群や、4mmピッチで5回の切削工程を工具2の位置で表わした座標群などの第1工具移動パスと、其々に対する工具2の送り速度及び工具2を保持する主軸の回転速度が含まれる。工具2の送り速度及び主軸の回転速度の複数の値は、予めCAM装置20の入出力部を介して操作者により手動入力され、第1のCLデータに組み込まれていてもよいし、第1のCLデータに組み込まれた其々単一の値を評価用CLデータ生成処理部34が複数の値に編集生成してもよい。
【0048】
評価用CLデータ生成処理部34により生成された評価用CLデータは評価用CLデータ入出力処理部35を介してびびり振動評価部37に出力され、びびり振動評価部37によりびびり振動に関する評価が行なわれる(SA3)。
【0049】
びびり振動評価部37による評価結果が評価用CLデータ入出力処理部35に入力されると(SA4)、評価結果が評価用CLデータに関連付けてCLデータ記憶部33に格納される(SA5)。
【0050】
ステップSA2からステップSA5の処理が第1のCLデータから生成可能な全ての評価用CLデータに基づいて繰返し実行され、びびり振動評価部37で全ての評価が完了すると(SA6)、CLデータ更新処理部36によってびびり振動が許容範囲の評価用CLデータが抽出され(SA7)、対応する加工能率が評価され(SA8)、予め設定された許容範囲に入る評価用CLデータが第2のCLデータとして編集処理され(SA10)、NCプログラム作成装置40に出力される。
【0051】
例えば、
図5に示すように、φ16のエンドミルで初期値4mm×4パスで溝入加工する場合に133秒を要する状況で、評価用CLデータ生成処理部34によって送り速度を編集することにより加工時間が33%短縮されるようになる。この条件での加工に対して、びびり振動評価部37によってびびり振動が発生しないと評価されると、評価用CLデータ生成処理部34によって切込深さ(加工深さ)を8mmに変更設定し、8mm×2パスで溝入加工することで加工能率の向上を目指す。この条件での加工に対して、びびり振動評価部37によってびびり振動が発生すると評価されると、評価用CLデータ生成処理部34によって主軸回転数が編集され、当該主軸回転数でびびり振動評価部37によって再度びびり振動が評価される。当該主軸回転数でびびり振動が発生しないと評価されると、当該パス、送り速度、主軸回転数を反映したCLデータが第2のCLデータとして確定される。その結果、加工時間が66%短縮されるようになる。
【0052】
この例では加工の最小ピッチが4mm、目標加工深さが16mmである場合に、4mm×4パス、8mm×2パス、16mm×1パス、4mm×2パス+8mm×1パスなど、複数の第1工具移動パスを備えた工具移動パス情報を含む第1のCLデータから、8mm×2パスという単一の第2工具移動パスを備えた第2のCLデータが生成されている。例えば、最小ピッチが4mm、目標加工深さが8mmに設定され、第1工具移動パスが4mm×2パス、8mm×1パスの二つ生成される構成で、びびり振動評価部37により8mm×1パスでびびり振動が発生しないと評価されると、8mm×1パスの単一の第2工具移動パスを備えた第2のCLデータが生成される。
【0053】
図11(A)には、工具2を用いたワークWに対する溝入加工の
工具移動パスの一つが例示され、
図12の左側(before)には、
図11(A)に示した
工具移動パスに対応したNCデータが示されている。主軸回転数1850rpm、送り速度200mm/minに設定さて、初期座標(0.0,0.0,0.0)に早送りで移動した後に、ツール2が各座標(x,y,z)に順次移動し、最終位置迄の加工が終了すると、最終座標(−2.0,0.0,0.0)に早送りで移動して加工を終了するパターンである。
図11(c)に示すように、移動コマンド「GOTO」に付されたパラメータは、加工点の座標と工具2の姿勢が規定されている。
【0054】
図11(B)には、CLデータ編集装置30で評価された別の
工具移動パスが例示され、
図12の右側(after)には、
図11(B)に示した
工具移動パスに対応したNCデータが示されている。
図11(A)、(B)に示される
工具移動パスは、何れもCAM装置20から出力された複数の第1工具移動パスを例示しており、何れの第1工具移動パスを第2工具移動パスに設定するかがCLデータ編集装置30で決定される。この例では、
図11(A)で白い丸印で示した加工点を結ぶ
工具移動パスではなく、
図11(B)のハッチングした丸印で示した加工点を結ぶ
工具移動パスが第2工具移動パスに設定される。
【0055】
上述したびびり振動評価部37について
補足する。
工作機械でワークを加工する際、工具の刃先が微小に振動するびびり振動が生じることがある。びびり振動には、強制びびり振動と、再生びびり振動がある。強制びびり振動は、工作機械が振動源となり発生する振動であり、工具の振動周波数が工具の固有振動数に等しくなったときに生じる。再生びびり振動は、工具の振動周波数と工具によるワークの切込み深さとの関係が所定の条件を満たしたときに振動である。びびり振動評価部37は、これらのびびり振動の発生の有無を評価する機能ブロックである。
【0056】
図6は、再生びびり振動が生じやすい加工条件の一例を示す図である。
図6(A)には、前回の切削時におけるワーク上の切削跡が示されている。
図6(B)には、今回の切削時における工具の振動周波数が示されている。
図6(C)には、今回の切削時における工具によるワークの切削厚が示されている。
【0057】
工具は、回転しながらワークを繰り返し切削することでワークを加工する。工具は、ワークの加工中に振動しており、図
6(A)に示されるように、ワークの切削面に起伏が生じる。
【0058】
工具が次にワークを切削するとき、前回の切削時における切削跡と、今回の切削時における工具の振動周波数とがずれることがある。このずれを「φ」で表わすと、
図6(A)および
図6(B)の例では、ずれφは、π/4( = 90度)となっている。このようなずれが生じると、ワークの切削厚が切削位置に応じて変動する。
図6(C)には、φ=π/4のずれが生じている場合における切削厚の変動が示されている。切削厚が変動すると、工具が切削中にワークから受ける力が変動し、再生びびり振動が生じやすくなる。特に、φ=π/4となるときが、再生びびり振動が一番生じやすい。
【0059】
図7は、再生びびり振動が生じにくい加工条件の一例を示す図である。
図7(A)には、前回の切削時におけるワーク上の切削跡が示されている。
図7(B)には、今回の切削時における工具の振動周波数が示されている。
図7(C)には、今回の切削時における工具によるワークの切削厚が示されている。
【0060】
図7(A)及び
図7(B)の例では、工具の振動周波数は、前回の切削時における切削跡と重なっている。この場合、ずれ「φ」が0となり、ワークの切削厚が一定になる。そのため、工具が切削中にワークから受ける力が一定になり、再生びびり振動が生じにくくなる。
【0061】
つまり、ずれ「φ」が0に近付くように主軸の回転数が調整されると再生びびり振動が生じにくくなる。一方で、ずれ「φ」がπ/4に近付くように主軸の回転数が調整されると再生びびり振動が生じやすくなる。
【0062】
典型的には、下記式(1)に示される「k」が整数になるとき、ずれ「φ」が0となる。
【0063】
k=60・fc/(n0・N)・・・(1)
式(1)に示される「k」は、工具の第1の刃がワークに接触してから第2の刃がワークに接触するまでの間に工具の振動によって生じる加工面の波数を表わす。「fc」は、主軸の振動周波数を表わす。「N」は、工具の刃数を表わす。「n0」は、主軸の回転数を表わす。ここでいう回転数とは、単位時間
当り(たとえば、一分間
当り)おける主軸の回転数を意味し、回転速度と同義である。工具は、主軸に連動するため、主軸の回転数は、工具の回転数と等しい。そのため、主軸の回転数は、工具の回転数と同義である。
【0064】
図8は、「k」が整数となる場合におけるワークWの加工態様を示す図である。
図8には、主軸の軸方向から見た場合における工具およびワークWの態様が示されている。
【0065】
図8(A)には、「k」が1である場合におけるワークWの加工態様が示されている。
図8(A)に示されるように、「k」が1である場合、工具の刃2AがワークWに接触してから工具の刃2BがワークWに接触するまでの間に工具の振動によって生じる加工面の波数は1となる。
【0066】
図8(B)には、「k」が2である場合におけるワークWの加工態様が示されている。
図8(B)の加工態様における工具の回転数は、
図8(A)の加工態様における工具の回転数の1/2に相当する。
図8(B)に示されるように、「k」が2である場合、ワークWの加工面における波数は2となる。
【0067】
図8(C)には、「k」が3である場合におけるワークWの加工態様が示されている。
図8(C)の加工態様における工具の回転数は、
図8(A)の加工態様における工具の回転数の1/3に相当する。
図8(C)に示されるように、「k」が3である場合、ワークWの加工面における波数は3となる。
図8(A)〜
図8(C)に示される加工態様では、ずれ「φ」がいずれも0となるため、再生びびり振動が生じにくい。
【0068】
図9の上図は、主軸の回転数とワークWの切り込み深さとの関係において再生びびり振動が生じる範囲と生じない範囲とを示す図である。
図9に示されるグラフの横軸は、主軸の回転数を表わす。
図9に示されるグラフの縦軸は、ワークの切込み深さを表わす。ここでいう切込み深さ(加工深さ)とは、主軸の軸方向における工具とワークWとの接触部分の長さのことをいう。
【0069】
ワークの切込み深さが境界線BLよりも小さい範囲は、再生びびり振動が生じにくい加工条件を表わす。以下では、当該範囲を安定範囲Aともいう。ワークの切込み深さが境界線BLよりも大きい範囲は、再生びびり振動が生じやすい加工条件である。以下では、当該範囲を不安定範囲Bともいう。
【0070】
図9の下図は、主軸の回転数と主軸の振動周波数との関係を示す。
図9に示されるように、主軸の振動周波数は、安定範囲AのローブA1〜A3の頂点の前後で大きく変化する。この点に着目して、びびり振動評価部37は、主軸の回転数の前後における主軸の振動周波数の比較結果に基づいて、主軸の回転数が安定範囲Aを逸脱するか否かを評価する。
【0071】
図9の例では、主軸の回転数が「r2」から「r3」に調整されることにより、主軸の振動周波数が「Δf1」変化している。びびり振動評価部37は、主軸の振動周波数の変化量「Δf1」が所定閾値以上である場合に、主軸の回転数が安定範囲Aを逸脱していると評価する。一方で、びびり振動評価部37は、主軸の振動周波数の変化量「Δf1」が所定閾値よりも小さい場合に、主軸の回転数が安定範囲Aを逸脱していないと評価する。
【0072】
図10は、びびり振動評価部37による評価方法の他の例を説明するための図である。
図10に示されるように、上記式(1)の「k」の整数部分(すなわち、[k])は、安定範囲AのローブA1〜A3の頂点の前後で変化する。以下では、「k」の整数部分を次数ともいう。びびり振動評価部37は、主軸の回転数の調整前後において次数が変化したか否かに基づいて、主軸の回転数が安定範囲Aを逸脱しているか否かを評価する。
【0073】
図10の例では、主軸の回転数が「r2」から「r3」に調整されることにより、次数が「m」から「m+1」に変化している(m:整数)。この場合、びびり振動評価部37は、主軸回転数が安定範囲Aを逸脱したと評価する。一方で、主軸の回転数の調整前後において次数が変化していない場合には、主軸の回転数が安定範囲Aを逸脱していないと評価する。
【0074】
以上、再生びびり振動の評価アルゴリズムの一例について説明したが、強制びびり振動の評価についても適宜公知の評価アルゴリズムを用いて適宜構成することができる。
【0075】
以上、びびり振動評価部37がびびり振動シミュレータで構成された例を説明したが、びびり振動評価部37は、過去の様々なCLデータに対する機械加工の実行時に検出されたびびり振動の発生状態を学習した機械学習装置で構成し、評価用CLデータを機械学習装置に入力すると、びびり振動の発生状態を出力する機械学習装置で構成してもよい。このような機械学習装置としてニューラルネットワークアルゴリズムやサポートベクターマシンアルゴリズムなどを採用することができる。
【0076】
以上、説明したように、CLデータ編集装置30は、ワークに対する工具の位置情報と、工具のワークに対する加工幅または加工深さに対応する工具移動パスを複数の第1工具移動パスに分けられた工具移動パス情報と、を含む第1のCLデータを実行することで、びびり振動を検出する検出手段(びびり振動評価部)37と、検出手段(びびり振動評価部)37で検出されたびびり振動のデータに基づいて、複数の第1工具移動パスをもとに、1つの第2工具移動パスを生成し、第2工具移動パスを含む第2のCLデータを生成する生成手段(CLデータ編集部)31と、を備えている。
【0077】
生成手段(CLデータ編集部)31は、びびり振動のデータに基づいて、複数の第1工具移動パスからびびり振動が生じない工具移動パス、またはびびり振動が最小となる工具移動パスを第2工具移動パスとして生成する。
【0078】
第1のCLデータは工具の送り速度及び主軸の回転速度を含み、検出手段37は、工具の送り速度及び主軸の回転速度を異ならせて第1のCLデータを実行する。
【0079】
また、本発明のプログラムは、上述したCLデータ編集装置30に備えたメモリボード上のメモリに格納されたCLデータ編集用のアプリケーションプログラムである。
【0080】
すなわち、ワークに対する工具の位置情報と、工具のワークに対する加工幅または加工深さに対応する工具移動パスを複数の第1工具移動パスに分けられた工具移動パス情報と、を含む第1のCLデータを実行することで、びびり振動を検出する検出手段(びびり振動評価部)と、検出手段で検出されたびびり振動のデータに基づいて、複数の第1工具移動パスをもとに、1つの第2工具移動パスを生成し、第2工具移動パスを含む第2のCLデータを生成する生成手段(CLデータ編集部)と、してコンピュータを機能させるためのプログラムである。
【0081】
また、生成手段は、びびり振動のデータに基づいて、複数の第1工具移動パスからびびり振動が生じない工具移動パス、またはびびり振動が最小となる工具移動パスを第2工具移動パスとして生成するプログラムを含む。
【0082】
さらに、第1のCLデータは工具の送り速度及び主軸の回転速度を含み、検出手段は、工具の送り速度及び回転速度を異ならせて第1のCLデータを実行するプログラムを含む。
【0083】
以上の説明では、CLデータ編集装置30がCAM装置20とポストプロセッサであるNCプログラム作成装置40との間に介在する独立した装置として構成される態様を説明したが、CLデータ編集装置30がNCプログラム作成装置40と一体に構成され、CLデータ編集装置30によって生成された第2のCLデータに基づいてNCプログラムが作成されるように構成してもよい。
【0084】
一態様として、各機能ブロックを以下のように構成することができる。
CLデータ編集部31に備えた評価用CLデータ生成処理部34が、上述と同様に第1のCLデータから評価用CLデータを生成するとともに、NCプログラム作成装置40を介して生成された評価用CLデータに対応するNCプログラムを取得する。
【0085】
評価用CLデータ入出力処理部35が、当該NCプログラムをびびり振動評価部37に出力するとともに、びびり振動評価部37から評価データを取得する。
【0086】
CLデータ更新処理部36が、びびり振動が発生しないと評価されたNCプログラムを第2のCLデータに基づくNCプログラムとしてNC装置50に出力する。この例では、びびり振動を検出する検出手段として機能するびびり振動評価部37は、NCプログラムに基づいてびびり振動の発生の有無などの評価を行なうように構成されている。
【0087】
この場合、CAM装置20からCLデータ編集装置30に入力されるCLデータは上述した第1のCLデータではなく、単一の工具移動パス情報を含むCLデータであってもよい。
【0088】
CLデータ編集部31に備えた評価用CLデータ生成処理部34が、CAM装置20から入力された単一のCLデータに基づいて上述した複数の第1工具移動パスに分けられた工具移動パス情報を含む第1のCLデータ及び上述した評価用CLデータを生成するとともに、NCプログラム作成装置40を介して当該評価用CLデータに対応するNCプログラムを取得するように構成してもよい。そして、びびり振動評価部37から取得した評価データに基づいて、NCプログラムを更新生成するように構成してもよい。
【0089】
即ち、CLデータ編集装置30が組み込まれたNCプログラム作成装置40は、ワークに対する工具の位置情報と、工具のワークに対する加工幅または加工深さに対応する工具移動パスを複数の第1工具移動パスに分けられた工具移動パス情報と、を含む第1のCLデータに基づくプログラムを実行することで、びびり振動を検出する検出手段と、検出手段で検出されたびびり振動のデータに基づいて、複数の第1工具移動パスをもとに、1つの第2工具移動パスを生成し、第2工具移動パスを含む第2のCLデータに基づくプログラムを生成する生成手段と、して機能するプログラムがインストールされたコンピュータで構成されている。
【0090】
図13には、上述したCLデータ編集装置30、NCプログラム作成装置40及びNC装置50が組み込まれた複合加工機でなる工作機械200が示されている。
【0091】
工作機械200はベッドに設置されたコラムに沿って上下及び左右方向に移動可能な工具主軸210と、ワークを保持する第1主軸220と、第1主軸220に対向配置され、左右方向に移動可能な第2主軸230と、第1主軸220と第2主軸230との間で第1主軸220に対向するように配置され、上下及び左右方向に移動可能な第2刃物台240と、それらによる作業空間を被覆するカバー体250を備えている。
【0092】
カバー体250の外側に操作盤260が設置され、操作盤260にCLデータ編集装置30、NCプログラム作成装置40、NC装置50などが通信可能に接続されている。CLデータ編集装置30、NCプログラム作成装置40、NC装置50はCPUボード、メモリボード、入出力デバイスなどが搭載されたIOボードなどで構成され、カバー体250の近傍に配置されている。
【0093】
NC装置50は、NCプログラム作成装置40によって生成されたNCプログラムに基づいて工具主軸210、第1主軸220、第2主軸230、第2刃物台240に備えたサーボ駆動部を制御することにより、ワークを所望の形状に加工する。
【0094】
CAM装置20からオンラインまたはオフラインで第1のCLデータがCLデータ編集装置30に入力されると、オペレータによって操作盤260が操作されて、CLデータ編集装置30が起動されて、ビビリ振動が発生しない最大効率を示す第2のCLデータが生成され、その結果が操作盤260の表示パネルに表示される。さらに、第2のCLデータに基づいてビビリ振動評価部37で実行されるシミュレーションに対応する動画、つまり、
図5の上段に示したシミュレーション動画が表示パネルに表示される。
【0095】
オペレータは、表示パネルの表示に基づいてNCプログラム作成装置40を起動して第2のCLデータに基づくNCプログラムを生成させ、生成したNCプログラムをNC装置50に移植し、工作機械200を起動する。
【0096】
つまり、CAM装置20で生成された第1のCLデータに基づいて、加工効率の良い第2のCLデータを生成し、第2のCLデータに基づいてNCプログラムを生成し、NC装置50に移植する一連の処理が、オペレータによる操作盤
260の操作を介して集中的に実行される。従って、CLデータ編集装置30に備えたビビリ振動評価部37の評価結果に基づいて再度CAM装置20でCLデータを生成するような煩雑で時間を要する処理が不要になる。
【0097】
CLデータ編集装置30によるビビリ振動の評価を実行する機能ブロックを工作機械に組み込み、実際の加工時のびびり振動を評価することで、CAM装置20で生成された第1のCLデータから第2のCLデータを生成するように構成してもよい。また、実際の加工時のびびり振動の評価に代えて上述したようなシミュレータを備えていてもよい。
【0098】
そして、第2のCLデータに基づいて最終のNCプログラムを生成し、当該最終のNCプログラムを実行することにより、ワークを最終形状に加工する工作機械200を実現してもよい。
【0099】
即ち、当該工作機械は、工具2を支持する工具主軸210と、NCプログラムによって、工具2の移動を制御しワークの加工を制御する制御部、つまりNC装置50と、ワークに対する工具の位置情報と、工具2のワークに対する加工幅または加工深さに対応する工具移動パスを複数の第1工具移動パスに分けられた工具移動パス情報と、を含む第1のCLデータを実行することで、びびり振動を検出し、検出されたびびり振動のデータに基づいて、複数の第1工具移動パスをもとに、1つの第2工具移動パスを生成し、第2工具移動パスを含む第2のCLデータを生成するCLデータ生成部、つまりCLデータ編集装置30と、CLデータ編集装置30で生成されたCLデータからNCプログラムを作成するNCプログラム作成部、つまりNCプログラム作成装置40と、を備え、NCプログラム作成部で作成されたNCプログラムを実行することでワークを加工するように構成されている。そのような工作機械の一例が、
図13に例示するような工作機械として実現できる。
【0100】
以上、本発明の実施の形態、実施の態様を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施の形態、実施の態様における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲及び思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【解決手段】ワークに対する工具の位置情報と、前記工具の前記ワークに対する加工幅または加工深さに対応する工具移動パスを複数の第1工具移動パスに分けられた工具移動パス情報と、を含む第1のCLデータを実行することで、びびり振動を検出する検出手段と、前記検出手段で検出されたびびり振動のデータに基づいて、前記複数の第1工具移動パスをもとに、1つの第2工具移動パスを生成し、前記第2工具移動パスを含む第2のCLデータを生成する生成手段と、してコンピュータを機能させるためのプログラム。