(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記形状寸法補償器は、前記加工電圧と、放電加工エネルギーと、前記離間距離と、前記ワイヤ電極のワイヤ張力との複数の組み合わせでワイヤ放電加工が実行された場合の前記被加工物の前記加工寸法および前記真直精度に基づいて設定された制御モデルを用いて、前記電圧補正値、前記休止時間補正値、および前記ワイヤ張力指令を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工装置。
前記形状寸法補償器は、前記被加工物に対する第1回目のワイヤ放電加工の際に用いた第1の加工条件および前記寸法情報に基づいて前記被加工物への加工溝幅を推定し、前記被加工物に対する第1回目のワイヤ放電加工で推定された前記板厚と、前記加工溝幅とに基づいて、第2回目以降のワイヤ放電加工の際に用いる前記ワイヤ電極の前記被加工物への寄せ量であるオフセット量および第2の加工条件を調整する、
ことを特徴とする請求項4に記載のワイヤ放電加工装置。
加工経路上に板厚がそれぞれ異なる複数の板厚領域を有する被加工物に対し、ワイヤ電極からの電圧パルスを用いてワイヤ放電加工を行う際に推定された前記板厚領域それぞれの板厚、前記板厚領域のそれぞれを加工する際の加工電圧、加工エネルギー、加工速度、および加工液を前記ワイヤ電極に供給するノズルと前記被加工物との間の距離である離間距離に基づいて、前記板厚領域間での加工寸法の差が小さくなり且つ前記被加工物の前記ワイヤ電極の長さ方向での真直精度がそれぞれの前記板厚領域内で高くなるように、加工電圧の補正値である電圧補正値、前記電圧パルスの休止時間の補正値である休止時間補正値、および前記ワイヤ電極への張力指令であるワイヤ張力指令を算出する、
ことを特徴とする形状寸法補償器。
加工経路上に板厚がそれぞれ異なる複数の板厚領域を有する被加工物に対し、ワイヤ放電加工装置が、ワイヤ電極からの電圧パルスを用いてワイヤ放電加工を行う加工ステップを含み、
前記加工ステップは、
前記ワイヤ放電加工装置が、ワイヤ放電加工中に前記被加工物の前記板厚を推定する推定ステップと、
前記ワイヤ放電加工装置が、加工中の加工電圧、加工中の加工エネルギー、加工中の加工速度、加工液を前記ワイヤ電極に供給するノズルと前記被加工物との間の距離である離間距離、および前記板厚に基づいて、前記板厚領域間での加工寸法の差が小さくなり且つ前記被加工物の前記ワイヤ電極の長さ方向での真直精度がそれぞれの前記板厚領域内で高くなるように、加工電圧の補正値である電圧補正値、前記電圧パルスの休止時間の補正値である休止時間補正値、および前記ワイヤ電極への張力指令であるワイヤ張力指令を算出する算出ステップと、
を含み、
前記ワイヤ放電加工装置は、前記電圧補正値、前記休止時間補正値、および前記ワイヤ張力指令を用いて前記ワイヤ放電加工を制御する、
ことを特徴とするワイヤ放電加工方法。
加工経路上に板厚がそれぞれ異なる複数の板厚領域を有する被加工物に対し、ワイヤ電極からの電圧パルスを用いてワイヤ放電加工を行うワイヤ放電加工装置の加工パラメータと、前記加工パラメータにおける前記ワイヤ放電加工装置の加工結果とを含む学習用データを取得するデータ取得部と、
前記学習用データを用いて、前記ワイヤ放電加工装置の加工パラメータから、加工電圧の補正値である電圧補正値、前記電圧パルスの休止時間の補正値である休止時間補正値、および前記ワイヤ電極への張力指令であるワイヤ張力指令を推論するための学習済モデルを生成するモデル生成部と、
を備え、
前記学習済モデルは、
加工中の加工電圧、加工中の加工エネルギー、加工中の加工速度、加工液を前記ワイヤ電極に供給するノズルと前記被加工物との間の距離である離間距離、および前記板厚に基づいて、前記板厚領域間での加工寸法の差が小さくなり且つ前記被加工物の前記ワイヤ電極の長さ方向での真直精度がそれぞれの前記板厚領域内で高くなるように、前記電圧補正値、前記休止時間補正値、および前記ワイヤ張力指令を推論する、
ことを特徴とする学習装置。
加工経路上に板厚がそれぞれ異なる複数の板厚領域を有する被加工物に対し、ワイヤ電極からの電圧パルスを用いてワイヤ放電加工を行うワイヤ放電加工装置の加工パラメータを取得するデータ取得部と、
前記加工パラメータから前記ワイヤ放電加工装置の加工結果を推論するための学習済モデルを用いて、前記データ取得部で取得した前記加工パラメータから、加工電圧の補正値である電圧補正値、前記電圧パルスの休止時間の補正値である休止時間補正値、および前記ワイヤ電極への張力指令であるワイヤ張力指令を推論して出力する推論部と、
を備え、
前記学習済モデルは、
加工中の加工電圧、加工中の加工エネルギー、加工中の加工速度、加工液を前記ワイヤ電極に供給するノズルと前記被加工物との間の距離である離間距離、および前記板厚に基づいて、前記板厚領域間での加工寸法の差が小さくなり且つ前記被加工物の前記ワイヤ電極の長さ方向での真直精度がそれぞれの前記板厚領域内で高くなるように、前記電圧補正値、前記休止時間補正値、および前記ワイヤ張力指令を推論する、
ことを特徴とする推論装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示の実施の形態にかかるワイヤ放電加工装置、形状寸法補償器、ワイヤ放電加工方法、学習装置、および推論装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
実施の形態.
図1は、実施の形態にかかるワイヤ放電加工装置の構成例を示す斜視図である。ワイヤ放電加工装置100は、加工機構30と、ワイヤ張力制御装置31と、加工電源32と、数値制御装置であるNC(Numerical Control)制御装置33とを備えている。
【0013】
加工機構30は、ワイヤ電極ボビン1と、ワイヤ電極2と、テンション負荷装置3と、上側給電子4と、下側給電子5と、上部ガイド6と、下部ガイド12と、定盤8と、下部ローラ13とを備えている。また、加工機構30は、ワイヤ電極回収箱10と、ワイヤ走行速度制御モータ9と、X軸駆動モータ11Xと、Y軸駆動モータ11Yとを備えている。
【0014】
また、ワイヤ張力制御装置31は、加工電源32およびNC制御装置33に接続されており、加工電源32は、NC制御装置33に接続されている。また、加工機構30は、ワイヤ張力制御装置31、加工電源32、およびNC制御装置33に接続されている。以下では、板状の定盤8上面と平行な面内の2つの軸であって互いに直交する2つの軸をX軸およびY軸とする。また、X軸およびY軸に直交する軸をZ軸とする。例えば、XY平面が水平面であり、Z軸方向が鉛直方向である。なお、以下の説明では、プラスZ方向を上方向といい、マイナスZ方向を下方向という場合がある。
【0015】
ワイヤ電極ボビン1は、ワイヤ電極2が巻かれており、テンション負荷装置3にワイヤ電極2を供給する。ワイヤ電極2は、ワイヤ電極ボビン1から引き出されて、テンション負荷装置3に送られる。テンション負荷装置3は、ワイヤ電極2を搬送するとともにワイヤ電極2にテンション負荷をかける。テンション負荷装置3は、ワイヤ電極2を、上側給電子4、上部ガイド6、下側給電子5、および下部ガイド12を介して下部ローラ13に送る。下部ローラ13を通ったワイヤ電極2は、ワイヤ走行速度制御モータ9を通って、ワイヤ電極回収箱10に送られる。
【0016】
上側給電子4の下側に上部ガイド6が配置され、上部ガイド6の下側に下側給電子5が配置され、下側給電子5の下側に下部ガイド12が配置されている。上側給電子4および下側給電子5は、加工電源32に接続されており、ワイヤ電極2と被加工物7との間に電圧を印加する。
【0017】
上部ガイド6および下部ガイド12は、工作物である被加工物7の加工中にワイヤ電極2の位置および傾きを支持する。上部ガイド6の下側には後述する上側ノズル81が配置されており、下側給電子5の上側には後述する下側ノズル82が配置されている。上側ノズル81は、ワイヤ電極2に対して下側に加工液を供給し、下側ノズル82は、ワイヤ電極2に対して上側に加工液を供給する。被加工物7は、上側ノズル81と下側ノズル82との間で加工される。
【0018】
本実施の形態のワイヤ放電加工装置100は、段差を有した被加工物7をワイヤ放電加工する。すなわち、被加工物7は、板厚領域毎に種々の板厚を有している。換言すると、被加工物7は、加工経路上に板厚がそれぞれ異なる複数の板厚領域を有している。例えば、被加工物7は、被加工領域である板厚領域のうちの第1の板厚領域が第1の板厚であり、この第1の板厚領域に隣接する第2の板厚領域が第2の板厚であり、第1の板厚領域と第2の板厚領域とが連続してワイヤ放電加工される。定盤8には、被加工物7が載置される。定盤8には、ワイヤ電極2を通すための穴が設けられている。
【0019】
下部ローラ13は、定盤8上で被加工物7を加工した後のワイヤ電極2を搬送する。ワイヤ走行速度制御モータ9は、回収ローラであり、ワイヤ電極2を搬送する駆動力を発生させる。ワイヤ電極回収箱10は、ワイヤ走行速度制御モータ9から送られてくるワイヤ電極2を回収する箱である。X軸駆動モータ11Xは、定盤8をX軸方向に駆動し、Y軸駆動モータ11Yは、定盤8をY軸方向に駆動する。
【0020】
ワイヤ張力制御装置31は、テンション負荷装置3に接続されており、テンション負荷装置3を制御することでワイヤ電極2の張力であるワイヤ張力を制御する。加工電源32は、上側給電子4および下側給電子5に接続されており、上側給電子4および下側給電子5を制御することで、被加工物7とワイヤ電極2との間に放電を発生させる。
【0021】
加工電源32は、後述する加工電圧検出器45および加工エネルギー検出器46を有している。加工電源32は、加工電圧検出器45が検出した加工電圧と、加工エネルギー検出器46が検出した加工エネルギーを、NC制御装置33に送る。また、加工電源32は、NC制御装置33から送られてくる、電圧の補正値(以下、電圧補正値という)および電圧パルスの休止時間の補正値(以下、休止時間補正値という)を用いて上側給電子4および下側給電子5を制御する。
【0022】
NC制御装置33は、加工機構30、加工電源32、およびワイヤ張力制御装置31を制御する。NC制御装置33は、例えばX軸駆動モータ11XおよびY軸駆動モータ11Yに接続されている。NC制御装置33は、X軸駆動モータ11XおよびY軸駆動モータ11Yに軸移動指令を送ることによって、定盤8のX軸方向の位置およびY軸方向の位置を制御する。これにより、NC制御装置33は、定盤8に載置された被加工物7とワイヤ電極2との間の距離を制御し、被加工物7とワイヤ電極2との間の極間の電圧を制御する。
【0023】
また、NC制御装置33は、ワイヤ走行速度制御モータ9に接続されており、ワイヤ走行速度制御モータ9を制御する。なお、
図1では、NC制御装置33とワイヤ走行速度制御モータ9との接続線は図示を省略している。
【0024】
NC制御装置33は、加工電圧検出器45が検出した加工電圧と、加工エネルギー検出器46が検出した加工エネルギーとに基づいて、ワイヤ張力指令を算出する。ワイヤ張力指令は、ワイヤ電極2の張力を制御するための指令である。NC制御装置33は、算出したワイヤ張力指令をワイヤ張力制御装置31に送る。
【0025】
また、NC制御装置33は、加工電圧検出器45が検出した加工電圧と、加工エネルギー検出器46が検出した加工エネルギーとに基づいて、電圧補正値および休止時間補正値を算出する。NC制御装置33は、算出した電圧補正値および休止時間補正値を、加工電源32に送る。
【0026】
ワイヤ放電加工装置100は、X軸駆動モータ11XおよびY軸駆動モータ11Yによって定盤8をX軸方向およびY軸方向に移動させ、定盤8に載置された被加工物7と、ワイヤ電極2との間の距離をワイヤ放電が可能な特定の距離に制御する。これにより、ワイヤ放電加工装置100は、被加工物7をワイヤ電極2によってワイヤ放電加工する。以下では、被加工物7をX軸方向に移動させて被加工物7をワイヤ放電加工する場合について説明する。
【0027】
なお、ワイヤ放電加工装置100は、定盤8の代わりにワイヤ電極2を移動させてもよい。
図2は、実施の形態にかかるワイヤ放電加工装置の他の構成例を示す斜視図である。
【0028】
図2に示すワイヤ放電加工装置101は、
図1に示すワイヤ放電加工装置100と比較して、加工機構30の代わりに加工機構34を備えている。加工機構34は、加工機構30と比較して、X軸駆動モータ11XおよびY軸駆動モータ11Yを備えていない。ワイヤ放電加工装置101は、軸移動指令を上部ガイド6および下部ガイド12に送る。これにより、ワイヤ放電加工装置100では、上部ガイド6および下部ガイド12がX軸方向およびY軸方向に移動する。
【0029】
このように、
図1に示したワイヤ放電加工装置100は、NC制御装置33からの軸移動指令で定盤8を動かす方式であり、
図2に示したワイヤ放電加工装置101は、NC制御装置33からの軸移動指令で上部ガイド6および下部ガイド12を動かす方式である。以下の説明では、
図1に示すワイヤ放電加工装置100について説明する。
【0030】
ここで、板厚領域毎に種々の板厚を有した被加工物7の加工において加工寸法および加工形状がばらつく理由について説明する。加工寸法は、加工後の被加工物7の寸法であり、加工形状は、加工後の被加工物7の形状である。本実施の形態では、加工寸法は、被加工物7のY軸方向の寸法、すなわちZ軸方向から見た場合の寸法であり、加工形状は、被加工物7をX軸方向から見た場合の形状である。被加工物7は、Z軸方向の高さを有しているので、高さ毎に加工寸法が異なる。この高さ毎の加工寸法によって被加工物7の形状が決まる。
【0031】
図3は、実施の形態にかかるワイヤ放電加工装置が加工する被加工物の構造を説明するための図である。
図3では、被加工物7のうちワイヤ電極2によって加工される箇所の近傍領域を図示している。被加工物7は、X軸方向に向かって加工されることで、X軸方向に平行な溝が被加工物7に形成される。
【0032】
被加工物7は、X軸方向に向かって複数回に渡って加工が繰り返される。例えば、被加工物7は、第1回目の加工によって粗加工が行われ、第2回目の加工によって中仕上げ加工が行われ、第3回目の加工によって仕上げ加工が行われる。
【0033】
被加工物7は、例えば、第1の板厚を有した第1の板厚領域21と、第2の板厚を有した第2の板厚領域22と、第3の板厚を有した第3の板厚領域23と、第4の板厚を有した第4の板厚領域24とで構成されている。第1の板厚は、例えば200mmであり、第2の板厚は、例えば150mmであり、第3の板厚は、例えば100mmであり、第4の板厚は、例えば50mmである。以下、第1の板厚領域21、第2の板厚領域22、第3の板厚領域23、および第4の板厚領域24の何れかを板厚領域という場合がある。
【0034】
ワイヤ放電加工装置100が、被加工物7を、第1の板厚領域21、第2の板厚領域22、第3の板厚領域23、第4の板厚領域24の順番で加工する場合、加工する板厚が、第1の板厚、第2の板厚、第3の板厚、第4の板厚の順番で変化する。被加工物7は、上側ノズル81と下側ノズル82との間のワイヤ電極2によって加工される。上側ノズル81と下側ノズル82との間の距離は、例えば、310mmである。
【0035】
図4は、板厚に対して加工速度が補正されないまま加工された場合の被加工物の形状を説明するための図である。
図4では、被加工物7を上面から見た場合の第1の板厚領域21および第4の板厚領域24の加工後の形状である加工形状を示している。
【0036】
板厚が変化する加工において、板厚を考慮せずに加工が行われると、板厚が薄い領域である第4の板厚領域24では、加工進行方向の被加工物7の除去体積が小さく加工速度が速いので、加工進行方向の側面に放電が飛びにくい。一方、板厚が厚い第1の板厚領域21では、加工進行方向の被加工物7の除去体積が大きく加工速度が遅いので、加工進行方向の側面に放電が飛びやすい。
【0037】
したがって、板厚が薄い第4の板厚領域24では加工で削られる被加工物7の量が少なくなり、板厚が厚い第1の板厚領域21では加工で削られる被加工物7の量が多くなる。この結果、板厚が薄い領域では加工溝幅が細く、板厚が厚い領域では加工溝幅が太くなり、加工寸法が板厚領域毎に異なるといった問題が生じる。この加工溝幅、すなわち加工寸法は、ワイヤ電極2の走行による振動、上側ノズル81から被加工物7までの離れ量、下側ノズル82から被加工物7までの離れ量、加工電圧、投入される放電エネルギーなどによって変化する。
【0038】
また、同じ板厚領域内であっても、被加工物7の高さによってワイヤ電極2の撓み量が異なるので被加工物7の高さによって加工の進行速度が異なる。すなわち、上側ノズル81から被加工物7までの離れ量、および下側ノズル82から被加工物7までの離れ量であるノズル離れ量に応じて加工の進行速度が異なる。ノズル離れ量は、上側ノズル81と被加工物7との間の離間距離、および下側ノズル82と被加工物7との間の離間距離である。被加工物7は、種々の板厚領域を有しているので、板厚領域毎にノズル離れ量が異なる。このため、被加工物7は、加工速度などの加工条件が補正されずに加工されると、加工形状がばらついてしまう。
【0039】
本実施の形態のワイヤ放電加工装置100は、第1回目の加工での各領域での加工寸法差および加工形状差を、第2回目以降の加工で修正できるように加工電圧などの加工条件を調整する。すなわち、第1回目の加工で発生した加工寸法差または加工形状差が大きいと、加工寸法および加工形状を修正しきれないことがあるので、ワイヤ放電加工装置100は、第1回目の加工時点で、加工溝幅をある程度一定となるように板厚変化に応じた加工を実行する。換言すると、ワイヤ放電加工装置100は、板厚変化によって発生する板厚領域間の加工溝幅の差および板厚領域内での加工形状のばらつきが第1回目の加工時点で一定値に近づくように加工する。
【0040】
実施の形態のNC制御装置33は、加工電圧、単位時間当たりの放電加工エネルギー、およびノズル離れ量に基づいて、ワイヤ張力指令、電圧補正値および休止時間補正値を算出する。NC制御装置33は、板厚領域毎に種々の板厚を有した被加工物7に対し、異なる板厚領域間での加工寸法差および加工形状差が小さくなるような、ワイヤ張力指令、電圧補正値および休止時間補正値を算出する。
【0041】
被加工物7は、種々の板厚領域を有しており、被加工物7の底面から上面までの各位置で加工される量が異なる。このため、被加工物7は、被加工物7の底面からの高さ毎に加工後の寸法が異なる。本実施の形態では、1つの板厚領域における被加工物7の底面からの高さ毎の加工後の寸法の平均値を加工寸法という。なお、加工寸法は、1つの板厚領域における被加工物7の底面からの高さ毎の加工後の寸法の中央値であってもよい。NC制御装置33は、被加工物7の各板厚領域で加工寸法が、板厚領域間でばらつかないような、ワイヤ張力指令、電圧補正値および休止時間補正値を算出する。
【0042】
本実施の形態では、被加工物7の加工形状は、被加工物7のZ軸方向の真直精度で示される。真直精度は、ワイヤ放電加工中のワイヤ電極2の撓み量に対応する被加工物7の加工寸法の寸法精度のばらつきに対応している。ワイヤ電極2の撓みは、Z軸方向に垂直な方向への撓みであるので、X軸方向への撓み成分と、Y軸方向への撓み成分とが含まれている。Y軸方向への撓み成分は、被加工物7のY軸方向の加工寸法に影響を与えるので、以下ではY軸方向への撓み成分について説明する。
【0043】
図5は、板厚に対してワイヤ電極の撓みが補正されないまま加工された場合の被加工物の形状を説明するための図である。
図5の横軸が被加工物7のY軸方向の加工寸法であり、縦軸が被加工物7の高さである。
図5に示すように、被加工物7のY軸方向の加工寸法は、被加工物7の高さ毎に異なっている。
【0044】
寸法曲線65が、第1の板厚領域21における加工寸法であり、寸法曲線66が、第2の板厚領域22における加工寸法である。寸法曲線67が、第3の板厚領域23における加工寸法であり、寸法曲線68が、第4の板厚領域24における加工寸法である。例えば、第1の板厚領域21では、被加工物7の高さが0から200mmまでである。そして、第1の板厚領域21では、ワイヤ電極2の撓み量が大きくなる箇所である被加工物7のZ軸方向の中央領域で加工寸法が小さくなっている。そして、ワイヤ電極2の撓み量が小さくなる箇所である被加工物7のZ軸方向の端部領域で加工寸法が小さくなっている。
【0045】
すなわち、1つの板厚領域内であっても、ワイヤ電極2が撓むことによって、被加工物7は、ワイヤ電極2の上下端部領域で加工される箇所(以下、ワイヤ端部加工箇所という)と、ワイヤ電極2の中央領域で加工される箇所(以下、ワイヤ中央加工箇所という)とで加工される量が異なる。
【0046】
これにより、ワイヤ中央加工箇所の方が、ワイヤ端部加工箇所よりもワイヤ電極2の撓みが大きくなるので、加工される領域が広くなる。この結果、ワイヤ中央加工箇所の方が、ワイヤ端部加工箇所よりも加工される量が大きくなるので加工後寸法が小さくなる。このように、被加工物7は、1つの板厚領域内であっても、ワイヤ電極2の撓みが原因で、被加工物7の底面からの高さ毎に加工後寸法にばらつきを生じる。この1つの板厚領域内における加工寸法のばらつきが、加工形状のばらつきに対応している。
【0047】
NC制御装置33は、寸法曲線65〜68の情報である寸法曲線情報を記憶しておき、被加工物7を加工する際に寸法曲線情報に基づいて、加工電圧、休止時間、およびワイヤ張力を制御する。
【0048】
理想的には、被加工物7の1つの板厚領域内でのXY平面に平行な面内(本実施の形態ではY軸方向)での加工寸法が、被加工物7の各高さで同じであることである。したがって、NC制御装置33は、被加工物7の1つの板厚領域内でのY軸方向での加工寸法のばらつきが抑えられるように、すなわち加工形状のばらつきを抑えるような、ワイヤ張力指令、電圧補正値および休止時間補正値を算出する。具体的には、NC制御装置33は、ワイヤ電極2の加工進行方向であるX軸方向に垂直な方向であるY軸方向への撓み量が小さくなるようなワイヤ張力指令、電圧補正値および休止時間補正値を算出する。換言すると、NC制御装置33は、被加工物7の各板厚領域での真直精度が高くなるような、ワイヤ張力指令、電圧補正値および休止時間補正値を算出する。
【0049】
ワイヤ電極2のY軸方向への撓み量が小さいほど、ワイヤ電極2の真直精度が高くなり、ワイヤ端部加工箇所と、ワイヤ中央加工箇所との加工寸法の誤差が小さくなり、被加工物7の真直精度が高くなる。この結果、加工形状の誤差が小さくなり、NC制御装置33は、加工形状の精度を向上させることができる。
【0050】
加工寸法の精度が高くなるほど、寸法曲線65〜68の重なりが多くなる。また、加工寸法の精度が高くなるほど、寸法曲線65〜68の曲がり量が少なくなり、寸法曲線65〜68は、
図5の縦軸に平行な直線に近づく。
【0051】
ワイヤ放電加工装置100は、加工時に加工形状を決めることとなる以下の4つのパラメータを用いる。
(A)加工電圧
(B)単位時間当りの放電加工エネルギー
(C)ノズル離れ量
(D)ワイヤ張力
【0052】
上記4つのパラメータは、それぞれ被加工物7への加工に対して、以下の影響を与える。
・加工電圧は、加工溝幅(加工寸法、真直精度)に影響を与える。
・単位時間当りの放電加工エネルギーは、真直精度および加工速度に影響を与える。
・ノズル離れ量は、放電加工エネルギーに影響を与える。
・ワイヤ張力は、ワイヤ電極2の撓みによって真直精度に影響を与える。
【0053】
加工電圧が低いことは、ワイヤ電極2と被加工物7との間の距離が短いことに対応している。ワイヤ放電加工装置100は、加工電圧を調整する際には、ワイヤ電極2の加工進行方向への送り速度を調整することで、ワイヤ電極2と被加工物7との間の距離を調整する。例えば、ワイヤ放電加工装置100は、加工電圧を下げる場合には、ワイヤ電極2の加工進行方向への送り速度を上げることで、ワイヤ電極2と被加工物7との間の距離を縮める。この場合、加工進行方向の側面の除去体積が少なくなるので被加工物7の加工寸法は大きくなる。一方、ワイヤ放電加工装置100は、加工電圧を上げる場合には、ワイヤ電極2の加工進行方向への送り速度を下げることで、ワイヤ電極2と被加工物7との間の距離を広げる。この場合、加工進行方向の側面の除去体積が多くなるので被加工物7の加工寸法は小さくなる。ワイヤ電極2の加工進行方向への送り速度が、加工速度に対応している。
【0054】
加工進行方向への送り速度を上げると、放電に伴って生じる爆発力によってワイヤ電極2を被加工物7から離そうとする力が、ワイヤ電極2に流れる電流による静電引力によってワイヤ電極2を被加工物7に近づけようとする力よりも大きくなるため、加工面は膨らむ方向の形状となる。一方で、加工進行方向への送り速度を下げると、静電引力が放電に伴って生じる爆発力よりも優位となるため、凹み方向の加工面形状となる。
【0055】
ワイヤ放電加工装置100は、放電パルスの1パルス当たりのエネルギーとパルス数とに基づいて、放電加工エネルギーを算出する。ワイヤ放電加工装置100は、放電加工エネルギーを低くすると、ワイヤ電極2の撓み量が小さくなるので真直精度を高くすることができる。また、ワイヤ放電加工装置100は、放電加工エネルギーを高くすると、加工量を増やすことができるので加工速度を上げることができる。
【0056】
ワイヤ放電加工装置100は、ノズル離れ量を、後述するノズル離れ量検出器49によって検出するか、または後述する設定入力IF(InterFace、インタフェース)20がユーザから受け付ける。
【0057】
ノズル離れ量が大きいほど、ワイヤ電極2と被加工物7との間の極間への加工液の供給量が減少するので、ワイヤ電極2の断線限界まで投入可能な放電加工エネルギーが減少する。また、ワイヤ張力が高いほどワイヤ電極2の撓みが減るので真直精度は向上する。
【0058】
ワイヤ放電加工装置100は、加工する板厚領域毎の加工寸法および各板厚領域内での加工形状が一定値に近づくように加工を制御する。このため、ワイヤ放電加工装置100の作製者は、事前に上記(A)〜(D)のパラメータの種々の組み合わせで加工を実行した場合の各加工寸法および各加工形状の結果を取得しておく。ワイヤ放電加工装置100の作製者は、上記(A)〜(D)の各パラメータと、加工寸法および加工形状との関係を定式化することで、後述する形状寸法補償器35を作製する。形状寸法補償器35は、NC制御装置33に配置されており、ワイヤ張力指令、電圧補正値および休止時間補正値を算出する。
【0059】
すなわち、ワイヤ放電加工装置100の作製者は、定式化された関数を用いて加工寸法差が板厚領域間で最小に近づき、加工形状である真直精度差が各板厚領域内で最小に近づく制御モデルを構築し、形状寸法補償器35に設定する。この制御モデルが、形状寸法補償器35による制御に対応している。これにより、形状寸法補償器35は、加工電圧、放電加工エネルギー、ノズル離れ量、およびワイヤ張力の複数の組み合わせでワイヤ放電加工が実行された場合の被加工物7の加工寸法および真直精度に基づいて設定された制御モデルを用いて、電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を算出する。
【0060】
形状寸法補償器35には、ワイヤ放電加工装置100による事前の加工処理による加工結果に基づいて、後述する電圧補正値情報77、エネルギー補正値情報、第1から第3の対応関係情報が設定される。なお、ワイヤ放電加工装置100による事前の加工処理では、上記(A)〜(D)の各パラメータ以外にも、ワイヤ電極2の径、被加工物7の材質などの加工形状に影響を与えるパラメータを種々組合せてもよい。この場合、ワイヤ放電加工装置100の作製者は、ワイヤ電極2の径毎、および被加工物7の材質毎に制御モデルを構築して形状寸法補償器35に設定する。
【0061】
形状寸法補償器35は、ユーザによって指定されたワイヤ電極2の径および被加工物7の材質の少なくとも一方に対応する制御モデルを用いる。形状寸法補償器35は、加工中の加工電圧、加工エネルギー、加工速度、ノズル離れ量などに基づいて、ワイヤ張力指令、電圧補正値および休止時間補正値を算出する。
【0062】
図6は、実施の形態にかかるワイヤ放電加工装置の機能構成例を示すブロック図である。加工電源32は、加工電圧検出器45と、加工エネルギー検出器46と、フィードバック制御器43と、演算器41,42とを有している。NC制御装置33は、板厚推定器48と、ノズル離れ量検出器49と、設定入力IF20と、形状寸法補償器35とを有している。
【0063】
加工電源32では、演算器41が演算器42に接続されており、演算器42がフィードバック制御器43に接続されている。また、フィードバック制御器43が加工機構30に接続されている。具体的には、フィードバック制御器43は、上側給電子4および下側給電子5に接続されている。
【0064】
また、加工機構30は、加工電圧検出器45、加工エネルギー検出器46、ワイヤ張力制御装置31、ノズル離れ量検出器49、および板厚推定器48に接続されている。加工電圧検出器45は、板厚推定器48および形状寸法補償器35に接続されている。加工エネルギー検出器46は、板厚推定器48および形状寸法補償器35に接続されている。形状寸法補償器35は、板厚推定器48、ノズル離れ量検出器49、設定入力IF20、演算器41、およびワイヤ張力制御装置31に接続されている。
【0065】
ワイヤ張力制御装置31は、加工機構30のテンション負荷装置3を制御する。また、NC制御装置33は、加工機構30のX軸駆動モータ11X、Y軸駆動モータ11Yなどを制御する。
【0066】
加工電圧検出器45は、上側給電子4または下側給電子5を介してワイヤ電極2に接続されるとともに、被加工物7に接続されている。加工電圧検出器45は、加工中にワイヤ電極2と被加工物7との間である極間の加工電圧を検出する。加工電圧検出器45が検出する加工電圧は、ワイヤ電極2と被加工物7との間の距離に対応している。加工電圧検出器45は、検出した加工電圧を演算器42、板厚推定器48、および形状寸法補償器35に送る。
【0067】
加工エネルギー検出器46は、上側給電子4または下側給電子5を介してワイヤ電極2に接続されるともに、被加工物7に接続されている。加工エネルギー検出器46は、加工中にワイヤ電極2と被加工物7との間で発生した放電パルスを検出する。加工エネルギー検出器46は、放電パルスの1パルス当たりのエネルギーとパルス数とに基づいて、放電加工エネルギーを算出する。加工エネルギー検出器46は、放電加工エネルギーを演算器42、板厚推定器48、および形状寸法補償器35に送る。
【0068】
演算器41は、NC制御装置33から指令電圧および休止時間を受け付ける。指令電圧は、ワイヤ放電加工に用いられる電圧の指令値である。演算器41は、形状寸法補償器35から送られてくる電圧補正値および休止時間補正値を受け付ける。電圧補正値は、演算器41がNC制御装置33から受け付けた指令電圧を補正するための補正値である。休止時間補正値は、演算器41がNC制御装置33から受け付けた休止時間を補正するための補正値である。電圧補正値および休止時間補正値は、加工経路上に板厚がそれぞれ異なる複数の板厚領域を有した被加工物7に対して加工寸法の精度および加工形状の精度を向上させるための補正値である。
【0069】
演算器41は、受け付けた指令電圧および休止時間から電圧補正値および休止時間補正値を減算して演算器42に送る。なお、演算器41は、NC制御装置33に配置されていてもよい。
【0070】
演算器42は、演算器41から送られてくる指令電圧から、加工電圧検出器45から送られてくる現在の加工電圧を減算してフィードバック制御器43に送る。また、演算器42は、演算器41から送られてくる休止時間から、加工エネルギー検出器46から送られてくる現在の放電加工エネルギーを減算してフィードバック制御器43に送る。
【0071】
フィードバック制御器43は、演算器42で演算された結果を用いて加工機構30を制御する。具体的には、フィードバック制御器43は、X軸駆動モータ11XおよびY軸駆動モータ11Yに軸移動指令を送ることによって、定盤8のX軸方向の位置およびY軸方向の位置を補正する。これにより、フィードバック制御器43は、加工機構30に対し、加工電圧、放電加工エネルギーなどを制御する。
【0072】
加工機構30のX軸駆動モータ11XおよびY軸駆動モータ11Yは、それぞれエンコーダに接続されており、エンコーダが加工速度を検出し板厚推定器48に送る。
【0073】
板厚推定器48は、加工機構30から送られてくる加工速度と、加工電圧検出器45から送られてくる加工電圧と、加工エネルギー検出器46から送られてくる放電加工エネルギーとに基づいて、被加工物7の板厚を推定する。板厚推定器48は、板厚が変化する加工において、被加工物7のうち加工されている箇所の板厚を推定する。板厚推定器48は、推定した板厚を、板厚推定値として形状寸法補償器35に送る。
【0074】
ノズル離れ量検出器49は、加工中の加工機構30からノズル離れ量を検出して形状寸法補償器35に送る。設定入力IF20は、ユーザによって入力される基準板厚を受け付けて形状寸法補償器35に送る。基準板厚は、加工寸法の基準とする板厚である。ワイヤ放電加工装置100は、被加工物7が基準板厚における加工寸法となるように、基準板厚以外の板厚領域を加工する。
【0075】
例えば、形状寸法補償器35が、寸法曲線情報として寸法曲線65〜68の情報を記憶している場合、基準板厚として200mmが指定されると、形状寸法補償器35は、200mmの寸法曲線65が縦軸に平行に近づくように加工を制御する。すなわち、形状寸法補償器35は、200mmの寸法曲線65が縦軸に平行に近づくような電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を算出する。
【0076】
さらに、形状寸法補償器35は、50mm〜150mmの加工寸法が、縦軸に平行に近づけられた寸法曲線65に近付くような電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を算出する。
【0077】
なお、基準板厚が指定されない場合、形状寸法補償器35は、特定の板厚の加工寸法(寸法曲線)に近づくように加工を制御する。形状寸法補償器35は、例えば、最も薄い板厚の加工寸法に近づくように加工を制御する。
【0078】
なお、設定入力IF20が、ユーザからノズル離れ量を受け付けて形状寸法補償器35に送ってもよい。この場合、NC制御装置33は、ノズル離れ量検出器49を有していなくてもよい。
【0079】
形状寸法補償器35は、加工中の加工電圧、加工エネルギー、加工速度、板厚推定値、ノズル離れ量、および基準板厚に基づいて、電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を算出する。
【0080】
形状寸法補償器35は、電圧補正値および休止時間補正値を演算器41に送り、ワイヤ張力指令をワイヤ張力制御装置31に送る。ワイヤ張力制御装置31は、ワイヤ張力指令に従って加工機構30を制御する。具体的には、ワイヤ張力制御装置31は、ワイヤ張力指令に従ってテンション負荷装置3を制御する。
【0081】
このように、形状寸法補償器35は、加工中の加工電圧、加工中の加工エネルギー、加工中の加工速度、加工中の板厚推定値、加工中のノズル離れ量、および基準板厚に基づいて、電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を算出するので、第1回目の加工である粗加工での加工寸法の精度および加工形状の精度を向上させることができる。
【0082】
ここで、上述した(A)〜(D)のパラメータの詳細について説明する。まず、板厚推定値に応じた加工電圧の補正について説明する。形状寸法補償器35は、板厚推定値に基づいて加工電圧の電圧補正値を算出する。
【0083】
図7は、実施の形態にかかる形状寸法補償器による電圧補正値の算出処理を説明するための図である。
図7では形状寸法補償器35が備える電圧補正値算出部85の構成を示している。
【0084】
電圧補正値算出部85は、演算器75,76を備えている。演算器75は、板厚推定値に基づいて、板厚対応電圧補正値を算出して演算器76に送る。板厚対応電圧補正値は、板厚推定値に応じた加工電圧の補正値である。演算器75は、板厚推定値と、板厚対応電圧補正値との対応関係を示す電圧補正値情報を用いて、板厚対応電圧補正値を算出する。
【0085】
図8は、実施の形態にかかる形状寸法補償器が用いる電圧補正値情報を説明するための図である。
図8に示す電圧補正値情報77のグラフは、横軸が板厚推定値であり、縦軸が板厚対応電圧補正値である。電圧補正値情報77では、低板厚では板厚対応電圧補正値が0であり、特定の板厚からは板厚の厚さに比例して板厚対応電圧補正値が上昇し、特定の板厚以上では板厚対応電圧補正値を変化させていない。なお、ワイヤ電極2が断線する可能性が低い場合には、特定の板厚以上でも板厚対応電圧補正値が上昇させられてもよい。
【0086】
演算器75は、電圧補正値情報77と、板厚推定値とに基づいて、板厚対応電圧補正値を算出する。なお、電圧補正値情報77は、板厚推定値と、板厚対応電圧補正値との対応関係を示す数式であってもよいし、データテーブルであってもよい。
【0087】
演算器76は、測定された加工電圧である測定加工電圧に板厚対応電圧補正値を加算することで電圧補正値を算出する。演算器76は、電圧補正値を演算器41に送る。このように、電圧補正値算出部85は、板厚推定値に対して加工電圧の補正を行う。板厚が厚い板厚領域は加工速度が遅くなり、ワイヤ電極2の撓みによって被加工物7の側面との間のギャップが広がって真直精度が低くなる。このため、電圧補正値算出部85は、板厚が厚い板厚領域では、加工電圧を高く補正するための電圧補正値を算出することで、加工速度が上がるように補正する。これにより、電圧補正値算出部85は、板厚が薄い板厚領域と厚い板厚領域との加工寸法差を抑制する。
【0088】
つぎに、板厚推定値に応じた放電加工エネルギーの補正について説明する。形状寸法補償器35は、板厚推定値に基づいて放電加工エネルギーを補正するための休止時間補正値を算出する。
【0089】
図9は、実施の形態にかかる形状寸法補償器による休止時間補正値の算出処理を説明するための図である。
図9では形状寸法補償器35が備える休止時間補正値算出部86の構成を示している。
【0090】
休止時間補正値算出部86は、演算器63,64,80を有している。演算器63は、板厚推定値に基づいて、目標放電加工エネルギーを算出して演算器64に送る。目標放電加工エネルギーは、板厚推定値に応じた放電加工エネルギーの目標値である。演算器63は、板厚推定値と、目標放電加工エネルギーとの対応関係を示すエネルギー補正値情報を用いて、目標放電加工エネルギーを算出する。
【0091】
演算器64は、現在の放電加工エネルギーから目標放電加工エネルギーを減算した放電加工エネルギーを算出し、演算器80に送る。演算器80は、演算器64から受け付けた放電加工エネルギーに基づいて、休止時間補正値を算出する。演算器80は、比例制御と積分制御との組み合わせによって休止時間補正値を算出する。このように、演算器80は、算出された板厚推定値に基づいて目標放電加工エネルギーを設定し、目標放電加工エネルギーと、現在の放電加工エネルギーとが一致するような休止時間補正値を算出することで、休止時間を制御する。
【0092】
つぎに、ノズル離れ量に応じたワイヤ張力指令または電圧補正値について説明する。形状寸法補償器35は、ノズル離れ量に基づいてワイヤ張力指令、または加工電圧を補正するための電圧補正値を算出する。
【0093】
ワイヤ電極2は、加工中の放電反力、静電引力などの影響で撓むので、被加工物7の設置高さに応じて、被加工物7の真直精度、すなわち形状精度に差異が生じる。
図10は、ノズル離れ量とワイヤ電極の撓み量との関係を説明するための図である。
図10では、下側ノズル82の位置を高さ0とし、上側ノズル81の位置を高さT5としている。
【0094】
被加工物7Dは、高さ0から高さT1までの領域でワイヤ電極2によって加工される被加工物である。また、被加工物7Cは、高さT2(>T1)から高さT3(>T2)までの領域でワイヤ電極2によって加工される被加工物である。また、被加工物7Bは、高さT4(>T3)から高さT5(>T4)までの領域でワイヤ電極2によって加工される被加工物である。
【0095】
被加工物7Dのノズル離れ量は、上側ノズル81からは距離R3であり、下側ノズル82からは0である。被加工物7Cのノズル離れ量は、上側ノズル81からは距離R2aであり、下側ノズル82からは距離R2bである。被加工物7Bのノズル離れ量は、上側ノズル81からは0であり、下側ノズル82からは距離R1である。R2a,R2bは、何れもR1およびR3よりも小さい値である。
【0096】
図10に示すように、加工中には、ワイヤ電極2は、加工進行方向に垂直な方向であるY軸方向に撓む。ワイヤ電極2が撓む場合、上側ノズル81と下側ノズル82との間の中央部で最も撓み量が大きくなり、上側ノズル81または下側ノズル82に近いほど撓み量は小さくなる。
【0097】
このように、被加工物7に近い方のノズルと被加工物7との間の距離が短いほど撓み量は小さくなる。換言すると、被加工物7の下側ノズル82からの距離と上側ノズル81から距離との差の絶対値が小さいほど撓み量が大きくなる。
図10に示す被加工物7Bは、下側ノズル82からの距離と上側ノズル81から距離との差の絶対値がR1であり、被加工物7Dは、下側ノズル82からの距離と上側ノズル81から距離との差の絶対値がR3である。また、
図10に示す被加工物7Cは、下側ノズル82からの距離と上側ノズル81から距離との差の絶対値は、|R2a−R2b|であり、R1,R3よりも小さい。
【0098】
このように、ワイヤ電極2の中央部で加工される被加工物7Cは、被加工物7Cの上面、下面ともにワイヤ電極2の撓み量が同程度のため真直精度は高くなる。一方、ワイヤ電極2の端部で加工される被加工物7B,7Dは、被加工物7B,7Cの上面と下面とでワイヤ電極2の撓み量に差異が生じるため真直精度は低くなる。
【0099】
したがって、形状寸法補償器35は、ノズル離れ量検出器49または設定入力IF20を介してノズル離れ量を取得することができれば、ノズル離れ量に応じた加工制御を行うことで、被加工物7の真直精度を向上させることができる。
【0100】
形状寸法補償器35は、ノズル離れ量と、ワイヤ張力との対応関係を示す第1の対応関係情報に基づいて、被加工物7の真直精度を向上させるためのワイヤ張力を算出する。形状寸法補償器35は、例えば、ワイヤ張力を高くすることでワイヤ電極2の撓み量を減らすことができ、真直精度を向上させることができる。
【0101】
また、形状寸法補償器35は、ノズル離れ量と、電圧補正値との対応関係を示す第2の対応関係情報に基づいて、被加工物7の真直精度を向上させるための電圧補正値を算出する。形状寸法補償器35は、電圧補正値によって加工電圧を下げることで加工速度を上げることができるので、ノズル離れ量が大きい箇所での加工量を減らすことができ、真直精度と加工寸法精度を制御することができる。
【0102】
つぎに、板厚推定値に応じたワイヤ張力指令について説明する。形状寸法補償器35は、板厚推定値に基づいてワイヤ張力指令を算出する。
【0103】
被加工物7の板厚が厚い場合には、加工速度が遅くなるので、加工量が増える。特にワイヤ電極2の中央部ではワイヤ電極2の撓みによって加工量が増える。この場合、ワイヤ放電加工装置100は、ワイヤ張力を高くすることでワイヤ電極2の撓みを減らせるので、ワイヤ電極2の撓み量が大きい領域での加工量を減らすことができ、真直精度を向上させることができる。
【0104】
図11は、ワイヤ張力とワイヤ電極の撓み量との関係を説明するための図である。
図11では、撓み量の大きな場合のワイヤ電極をワイヤ電極2Bとして図示し、ワイヤ張力を高くして撓み量を減らした場合のワイヤ電極をワイヤ電極2Aとして図示している。
【0105】
図11に示すように、ワイヤ放電加工装置100は、ワイヤ電極2の張力を強めることで、ワイヤ電極2の撓みを抑制でき、これに伴い被加工物7の真直精度を向上させることができる。なお、ワイヤ放電加工装置100は、ワイヤ張力を強める際に、ワイヤ電極2が断線する確率が特定値よりも小さくなる程度の強度までしかワイヤ張力を強めない。形状寸法補償器35は、板厚推定値とワイヤ張力との対応関係を示す第3の対応関係情報に基づいて、被加工物7の真直精度を向上させるためのワイヤ張力を算出する。
【0106】
つぎに、ワイヤ放電加工装置100によるワイヤ放電加工の処理手順について説明する。
図12は、実施の形態にかかるワイヤ放電加工装置によるワイヤ放電加工の処理手順を示すフローチャートである。
【0107】
ワイヤ放電加工装置100がワイヤ放電加工を開始すると(ステップS10)、NC制御装置33が、データを収集する(ステップS20)。具体的には、板厚推定器48が、加工電圧と、放電加工エネルギーと、加工速度とを受け付ける。また、ノズル離れ量検出器49が、ノズル離れ量を検出し、設定入力IF20が基準板厚を受け付ける。
【0108】
板厚推定器48は、加工電圧、放電加工エネルギー、および加工速度に基づいて、被加工物7の板厚を推定する(ステップS30)。板厚推定器48は、推定した板厚を、板厚推定値として形状寸法補償器35に送る。
【0109】
形状寸法補償器35は、板厚推定値、ノズル離れ量、および基準板厚に基づいて、ワイヤ張力指令、電圧補正値、および休止時間補正値を算出する(ステップS40)。ワイヤ放電加工装置100は、ワイヤ張力指令、電圧補正値、および休止時間補正値を用いて、加工電圧、加工エネルギー、およびワイヤ張力を制御する(ステップS50)。具体的には、フィードバック制御器43が、電圧補正値および休止時間補正値に応じた電圧値および休止時間で加工機構30をフィードバック制御し、ワイヤ張力制御装置31が、ワイヤ電極2のワイヤ張力を制御する。
【0110】
なお、形状寸法補償器35は、第1回目の加工の際に、加工溝幅を推定して記憶しておいてもよい。この場合、形状寸法補償器35は、第1回目の加工の際に用いた加工条件である第1の加工条件および寸法曲線情報に基づいて加工溝幅を推定する。また、ワイヤ放電加工装置100は、第1回目の加工の際に、推定した板厚推定値を記憶しておいてもよい。形状寸法補償器35は、推定した加工溝幅および板厚推定値と、被加工物7の加工位置を示す座標情報とを対応付けし、加工結果情報として記憶しておく。
【0111】
形状寸法補償器35は、例えば、加工結果情報に含まれる、加工溝幅と座標情報との対応関係を用いて、第2回目以降の加工で用いる加工条件である第2の加工条件、およびオフセット量の少なくとも一方を調整する。オフセット量は、第2回目以降の加工で用いる加工位置(ワイヤ電極2のY軸方向の位置)の被加工物7側への寄せ量である。
【0112】
第2回目以降の加工はオフセット量によって加工量が変わり、板厚の推定が困難となるが、形状寸法補償器35は、第1回目の加工で生成した加工結果情報を記憶しておくので、第2回目以降の加工でも加工結果情報に基づいて加工制御を実行することができる。
【0113】
形状寸法補償器35は、例えば、加工結果情報に含まれる、板厚推定値と座標情報との対応関係を用いて、電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を算出する。
【0114】
このように、ワイヤ放電加工装置100は、形状寸法補償器35を用いて電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を算出しているので、板厚が変化する加工において、第1回目の加工から被加工物7の板厚領域に関わらず加工寸法および真直精度を向上させることができる。
【0115】
また、ワイヤ放電加工装置100は、加工電圧を特定値に保つための軸移動指令と、次に加工電圧を印加し始める時間とを制御することによって、加工条件を変更せずに、連続的な制御によって被加工物7の加工形状および加工寸法を制御することができる。
【0116】
本実施の形態では、形状寸法補償器35が、電圧補正値、休止時間補正値、ワイヤ張力などを算出する場合について説明したが、機械学習を行う学習装置が、電圧補正値、休止時間補正値、ワイヤ張力などを算出してもよい。すなわち、加工寸法および真直精度をモデル化した関数は、実験的に導出されてもよいし、学習装置が導出してもよい。学習装置が導出する場合、学習装置は、複数の板厚領域の加工寸法が、特定の板厚領域における加工寸法に近づくように、電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を算出する。
【0117】
実験的に導出される場合、ワイヤ放電加工装置100の作製者は、過去の加工結果に含まれる加工寸法の情報である寸法情報に基づいて、加工寸法および真直精度をモデル化した関数を形状寸法補償器35に設定する。
【0118】
学習装置が導出する場合、学習装置は、板厚推定値、加工電圧、放電加工エネルギー、加工速度、ノズル離れ量など加工プロセスで取得される情報(以下、プロセス情報という)に基づいて、加工寸法の精度および加工形状の精度を向上させることができる、電圧補正値、休止時間補正値、ワイヤ張力などの情報(以下、精度向上情報という)を算出する。
【0119】
学習装置は、プロセス情報から加工寸法の精度および真直精度を向上させることができる精度向上情報を導出する学習済モデルを生成する。換言すると、学習装置は、プロセス情報と、加工寸法の精度および真直精度を向上させることができる精度向上情報との対応関係をモデル化した関数である学習済モデルを生成する。推論装置は、学習済モデルを用いて、プロセス情報から加工寸法の精度および真直精度を向上させることができる精度向上情報を導出する。
【0120】
<学習フェーズ>
図13は、実施の形態にかかる学習装置の構成例を示すブロック図である。学習装置50は、データ取得部51と、モデル生成部52とを備えている。データ取得部51は、加工結果(行動)、および加工パラメータ(状態)を学習用データとして取得する。
【0121】
加工結果は、加工寸法および加工形状(真直精度)である。加工パラメータは、板厚、ワイヤ電極2の線径、被加工物7の材質、加工電圧、放電加工エネルギー、ノズル離れ量、ワイヤ張力などの加工形状に影響を与えるパラメータの組合せである。
【0122】
モデル生成部52は、加工結果である行動、および加工パラメータである状態を含む学習用データに基づいて、電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を学習する。すなわち、モデル生成部52は、ワイヤ放電加工装置100の加工パラメータから電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を推論する学習済モデル71を生成する。
【0123】
モデル生成部52は、教師あり学習、教師なし学習、強化学習などの公知の学習アルゴリズムを用いることができる。一例として、モデル生成部52に強化学習(Reinforcement Learning)を適用した場合について説明する。強化学習では、ある環境内におけるエージェント(行動主体)が、現在の状態(環境のパラメータ)を観測し、取るべき行動を決定する。エージェントの行動により環境が動的に変化し、エージェントには環境の変化に応じて報酬が与えられる。エージェントはこれを繰り返し、一連の行動を通じて報酬が最も多く得られる行動方針を学習する。強化学習の代表的な手法として、Q学習(Q‐learning)、TD学習(TD−learning)などが知られている。例えば、Q学習の場合、行動価値関数Q(s,a)の一般的な更新式は以下の式(1)で表される。
【0125】
式(1)において、s
tは時刻tにおける環境の状態を表し、a
tは時刻tにおける行動を表す。行動a
tにより、状態はs
t+1に変わる。r
t+1はその状態の変化によってもらえる報酬を表し、γは割引率を表し、αは学習係数を表す。なお、γは0<γ≦1、αは0<α≦1の範囲とする。加工結果である行動が行動a
tとなり、加工パラメータである状態が状態s
tとなり、モデル生成部52は、時刻tの状態s
tにおける最良の行動a
tを学習する。
【0126】
式(1)で表される更新式は、時刻t+1における最もQ値の高い行動aの行動価値Qが、時刻tにおいて実行された行動aの行動価値Qよりも大きければ、行動価値Qを大きくし、逆の場合は、行動価値Qを小さくする。換言すれば、時刻tにおける行動aの行動価値Qを、時刻t+1における最良の行動価値に近づけるように、行動価値関数Q(s,a)を更新する。それにより、或る環境における最良の行動価値が、それ以前の環境における行動価値に順次伝播していくようになる。
【0127】
上記のように、強化学習によって学習済モデル71を生成する場合、モデル生成部52は、報酬計算部53と、関数更新部54と、を備えている。
【0128】
報酬計算部53は、加工結果および加工パラメータに基づいて報酬を計算する。報酬計算部53は、加工精度、すなわち加工寸法の精度および加工形状の精度に基づいて、報酬rを計算する。例えば、加工精度向上の場合には報酬rを増大させ(例えば「1」の報酬を与える。)、他方、加工精度悪化の場合には報酬rを低減する(例えば「−1」の報酬を与える。)。
【0129】
関数更新部54は、報酬計算部53によって計算される報酬に従って、電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を決定するための関数を更新し、学習済モデル記憶部70に出力する。例えばQ学習の場合、式(1)で表される行動価値関数Q(s
t,a
t)を電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を算出するための関数として用いる。
【0130】
関数更新部54は、以上のような学習を繰り返し実行する。学習済モデル記憶部70は、関数更新部54によって更新された行動価値関数Q(s
t,a
t)、すなわち、学習済モデル71を記憶する。
【0131】
次に、
図14を用いて、学習装置50による学習処理の処理手順について説明する。
図14は、実施の形態にかかる学習装置による学習処理の処理手順を示すフローチャートである。データ取得部51は、加工結果および加工パラメータを学習用データとして取得する(ステップS110)。
【0132】
モデル生成部52は、加工結果および加工パラメータに基づいて、報酬を計算する(ステップS120)。具体的には、モデル生成部52の報酬計算部53が、加工結果および加工パラメータを取得し、予め定められた加工精度に基づいて報酬を増やすか(ステップS130)、または報酬を減らすかを判断する(ステップS140)。報酬基準は、加工寸法の精度および加工形状の精度が向上したか悪化したかである。モデル生成部52は、加工寸法の精度および加工形状の精度が向上した場合に報酬を増やすと判断し、加工寸法の精度および加工形状の精度が悪化した場合に報酬を減らすと判断する。
【0133】
モデル生成部52は、加工寸法の精度および加工形状の精度の何れか一方が向上し他方が悪化した場合に、報酬を増やすと判断してもよいし、報酬を減らすと判断してもよい。また、モデル生成部52は、加工寸法の精度および加工形状の精度の何れか一方が向上し他方が悪化した場合に、報酬を増減させなくてもよい。
【0134】
報酬計算部53は、報酬を増やすと判断した場合に、ステップS130において報酬を増やす。一方、報酬計算部53は、報酬を減らすと判断した場合に、ステップS140において報酬を減らす。
【0135】
関数更新部54は、報酬計算部53によって計算された報酬に基づいて、学習済モデル記憶部70が記憶する式(1)で表される行動価値関数Q(s
t,a
t)を更新する(ステップS150)。
【0136】
学習装置50は、以上のステップS110〜S150までのステップを繰り返し実行し、生成された行動価値関数Q(s
t,a
t)を、学習済モデル71として学習済モデル記憶部70に記憶させる。
【0137】
本実施の形態にかかる学習装置50は、学習済モデル71を学習装置50の外部に設けられた学習済モデル記憶部70に記憶するものとしたが、学習済モデル記憶部70を学習装置50の内部に備えていてもよい。
【0138】
<活用フェーズ>
図15は、実施の形態にかかる推論装置の構成例を示すブロック図である。推論装置60は、データ取得部61と、推論部62とを備えている。データ取得部61は、加工パラメータを取得する。
【0139】
推論部62は、学習済モデル記憶部70が記憶している学習済モデル71を利用して加工情報79を推論する。加工情報79は、電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令である。すなわち、推論部62は、この学習済モデル71にデータ取得部61が取得した加工パラメータを入力することで、加工パラメータに適した電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を推論することができる。
【0140】
なお、本実施の形態では、推論装置60が、学習装置50のモデル生成部52で学習した学習済モデル71を用いる場合について説明したが、他の学習装置から取得した学習済モデル71を用いてもよい。この場合も、推論装置60は、他の学習装置から取得した学習済モデル71に基づいて、電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を出力する。
【0141】
次に、
図16を用いて、推論装置60による推論処理の処理手順について説明する。
図16は、実施の形態にかかる推論装置による推論処理の処理手順を示すフローチャートである。データ取得部61は、電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を推論するためのデータである推論用データを取得する(ステップS210)。具体的には、データ取得部61は、加工パラメータを取得する。
【0142】
推論部62は、学習済モデル記憶部70が記憶している学習済モデル71に加工パラメータを入力し(ステップS220)、電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を得る。推論部62は、得られたデータ、すなわち電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令をワイヤ放電加工装置100に出力する(ステップS230)。
【0143】
ワイヤ放電加工装置100は、推論部62から出力された電圧補正値および休止時間補正値を用いて加工電圧および休止時間を補正し(ステップS240)、推論部62から出力されたワイヤ張力指令でワイヤ電極2の張力を制御する。これにより、ワイヤ放電加工装置100は、被加工物7の加工寸法の精度および加工形状の精度を向上させることができる。
【0144】
なお、本実施の形態では、推論部62が用いる学習アルゴリズムに強化学習を適用した場合について説明したが、これに限られるものではない。学習アルゴリズムについては、強化学習以外にも、教師あり学習、教師なし学習、又は半教師あり学習等を適用することも可能である。
【0145】
また、モデル生成部52に用いられる学習アルゴリズムとしては、特徴量そのものの抽出を学習する、深層学習(Deep Learning)を用いることもでき、他の公知の方法、例えばニューラルネットワーク、遺伝的プログラミング、機能論理プログラミング、サポートベクターマシンなどに従って機械学習を実行してもよい。
【0146】
なお、学習装置50および推論装置60は、例えば、ネットワークを介してワイヤ放電加工装置100に接続され、このワイヤ放電加工装置100とは別個の装置であってもよい。また、学習装置50および推論装置60の少なくとも一方は、ワイヤ放電加工装置100に内蔵されていてもよい。さらに、学習装置50および推論装置60は、クラウドサーバ上に存在していてもよい。
【0147】
また、モデル生成部52は、複数のワイヤ放電加工装置から取得される学習用データを用いて、電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を学習するようにしてもよい。なお、モデル生成部52は、同一のエリアで使用される複数のワイヤ放電加工装置から学習用データを取得してもよいし、異なるエリアで独立して動作する複数のワイヤ放電加工装置から収集される学習用データを利用して電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を学習してもよい。また、学習用データを収集するワイヤ放電加工装置を途中で対象に追加すること、または対象から除去することも可能である。さらに、あるワイヤ放電加工装置に関して電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を学習した学習装置50を、これとは別のワイヤ放電加工装置に適用し、当該別のワイヤ放電加工装置に関して電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を再学習して更新するようにしてもよい。
【0148】
ここで、NC制御装置33のハードウェア構成について説明する。
図17は、実施の形態にかかるNC制御装置を実現するハードウェア構成例を示す図である。NC制御装置33は、プロセッサ91、メモリ92、出力装置93、および入力装置94により実現することができる。
【0149】
プロセッサ91の例は、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSP(Digital Signal Processor)ともいう)またはシステムLSI(Large Scale Integration)である。メモリ92の例は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)である。
【0150】
NC制御装置33は、プロセッサ91が、メモリ92で記憶されているNC制御装置33の動作を実行するための、コンピュータで実行可能な、制御プログラムを読み出して実行することにより実現される。NC制御装置33の動作を実行するための制御プログラムは、NC制御装置33の手順または方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。NC制御装置33の動作を実行するための制御プログラムには、被加工物7を加工するためのプログラム、形状寸法補償器35の動作を実行するためのプログラムなどが含まれている。
【0151】
NC制御装置33で実行される制御プログラムは、板厚推定器48と、形状寸法補償器35と、ノズル離れ量検出器49とを含むモジュール構成となっており、これらが主記憶装置上にロードされ、これらが主記憶装置上に生成される。
【0152】
入力装置94は、基準板厚などを受け付けてプロセッサ91に送る。メモリ92は、電圧補正値情報77、エネルギー補正値情報、第1から第3の対応関係情報、寸法曲線情報などを記憶する。また、メモリ92は、プロセッサ91が各種処理を実行する際の一時メモリに使用される。
【0153】
出力装置93は、プロセッサ91が生成した電圧補正値および休止時間補正値を加工電源32に出力する。また、出力装置93は、プロセッサ91が生成したワイヤ張力指令をワイヤ張力制御装置31に出力する。
【0154】
制御プログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルで、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶されてコンピュータプログラムプロダクトとして提供されてもよい。また、制御プログラムは、インターネットなどのネットワーク経由でNC制御装置33に提供されてもよい。なお、NC制御装置33の機能について、一部を専用回路などの専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。
【0155】
なお、フィードバック制御器43、ワイヤ張力制御装置31、学習装置50、および推論装置60は、ワイヤ放電加工装置100と同様のハードウェア構成を有しているので、その説明は省略する。
【0156】
このように実施の形態では、形状寸法補償器35が、加工電圧、加工エネルギー、加工速度、ノズル離れ量、および板厚推定値に基づいて、板厚領域間での加工寸法の差が小さくなり且つ被加工物の真直精度が板厚領域内で高くなるように、電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を算出している。そして、加工機構30が、電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を用いて、加工中に板厚が変化する被加工物7をワイヤ放電加工している。これにより、ワイヤ放電加工装置100は、加工中に板厚が変化する被加工物7に対しても加工寸法の精度および加工形状の精度を向上させることができる。
【0157】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
ワイヤ放電加工装置(100)が、加工経路上に板厚がそれぞれ異なる複数の板厚領域を有する被加工物に対し、ワイヤ電極からの電圧パルスを用いてワイヤ放電加工を行う加工機構(30)と、ワイヤ放電加工中に被加工物の板厚を推定する板厚推定器(48)と、加工中の加工電圧、加工中の加工エネルギー、加工中の加工速度、加工液をワイヤ電極に供給するノズルと被加工物との間の距離である離間距離、および板厚に基づいて、板厚領域間での加工寸法の差が小さくなり且つ被加工物のワイヤ電極の長さ方向での真直精度がそれぞれの板厚領域内で高くなるように、加工電圧の補正値である電圧補正値、電圧パルスの休止時間の補正値である休止時間補正値、およびワイヤ電極への張力指令であるワイヤ張力指令を算出する形状寸法補償器(35)と、を備え、加工機構(30)は、電圧補正値、休止時間補正値、およびワイヤ張力指令を用いて制御される。