特許第6972450号(P6972450)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972450
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】表面と裏面が識別可能な面ファスナー
(51)【国際特許分類】
   A44B 18/00 20060101AFI20211111BHJP
【FI】
   A44B18/00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-244374(P2016-244374)
(22)【出願日】2016年12月16日
(65)【公開番号】特開2018-94298(P2018-94298A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】591017939
【氏名又は名称】クラレファスニング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】相良 卓
【審査官】 原田 愛子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−027988(JP,A)
【文献】 実開昭60−029197(JP,U)
【文献】 特開2003−153709(JP,A)
【文献】 特開平05−277006(JP,A)
【文献】 特開平11−178611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸、緯糸から構成された基布および係合素子用糸からなり、緯糸が熱融着性繊維を含んでおり、該熱融着性繊維の熱融着により、係合素子用糸は基布に固定されており、基布裏面にはバックコート樹脂液が塗布されていない面ファスナーにおいて、経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維の糸が、基布を構成する経糸10〜200本に1本の割合で、該経糸に平行に、かつ表面より裏面に長く見える組織で、表面が係合素子用糸で覆われている部分の基布に織り込まれていることを特徴とする、表面と裏面が識別可能な面ファスナー。
【請求項2】
経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維が、経糸、緯糸および係合素子と同じ染色条件では同じ色に染まらない繊維である請求項1に記載の表面と裏面が識別可能な面ファ
スナー。
【請求項3】
経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維の糸が表面には緯糸1本分跨いで、裏面は緯糸2本〜5本分跨いで露出する組織にて織り込まれている請求項1または2に記載の表面と裏面が識別可能な面ファスナー。
【請求項4】
係合素子がマルチフィラメント糸からなるループ状係合素子またはモノフィラメント糸からなるフック状係合素子である請求項1〜3に記載の表面と裏面が識別可能な面ファスナー。
【請求項5】
基布の表面と裏面のいずれか一方の面にループ係合素子を有し、他方の面にフック状係合素子を有している、あるいは基布の表面にループ状係合素子とフック状係合素子の両方を有している請求項1〜4のいずれかに記載の表面と裏面が識別可能な面ファスナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面と裏面が識別可能な面ファスナーに関し、詳しくは基布を構成する経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維が挿入されていることで、周りの繊維と色差がつき、また経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維を、面ファスナーの表面と裏面で露出する割合を変えることで表面と裏面の識別可能な面ファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、面ファスナーを扱った加工工場において、流れ作業で面ファスナー片を取り付ける作業がある。さらに、その加工工場での作業者において、外国人を雇用しているケースが多い。
【0003】
そして、外国人を雇用しているため言葉の問題からか作業指示がうまく伝わらず、面ファスナーの表面と裏面を間違えるケースが増えてきている。
【0004】
そこで、このような面ファスナーを扱う加工工場の要求性能のひとつとして、面ファスナーの表面と裏面を間違えないようにするため、表面と裏面が識別可能な面ファスナーが求められている。
【0005】
このような要求に応える表面と裏面が識別可能な面ファスナーとして、基布部にポリエチレンテレフタレート繊維を用い、係合素子部にポリブチレンテレフタレート繊維を用いることで、同一の染色工程で染色でき、両者間の染色性の違いを利用して濃淡差をつけ表面と裏面を識別可能にすることは知られている(例えば、特許文献1)。
【0006】
しかし、この公知の表面と裏面を識別可能にする面ファスナーは、染色性を利用して濃淡差をつけているだけなので、流れ作業において瞬時に表面と裏面を識別しなければならない場面では不十分であった。また、白色の面ファスナーにおいては、濃淡差がでず表面と裏面の識別ができないという問題点も有している。
【0007】
その他の技術として、面ファスナーの裏面にライン印刷を施す加工工程を追加し、表面と裏面を識別可能にすることがある。これはライン印刷を施す加工工程を増やすことでコストがかかることや、面ファスナーの表面に染み出してこないよう濃度を高くする顔料の選出、それに伴うコストがかかってくるという問題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−27988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような、基布部と係合素子部の両者間の染色性の違いを利用して濃淡差をつけ表面と裏面を識別可能にすることの問題点を解消する表面と裏面を識別可能にする面ファスナーを供給すること、すなわち、加工工場の流れ作業の中でも瞬時に表面と裏面を識別でき、さらに白色の面ファスナーにおいても表面と裏面を識別でき、さらに面ファスナーの係合力を殆ど低下させることがない、表面と裏面が識別可能な面ファスナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、経糸、緯糸から構成された基布および係合素子用糸からなる面ファスナーにおいて、経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維を、該経糸に平行に、かつ表面より裏面に長く見える組織で基布に織り込まれていることを特徴とする表面と裏面が識別可能な面ファスナーである。
【0011】
経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維が、経糸、緯糸および係合素子と同じ染色条件では同じ色に染まらない繊維であることが好ましい。
【0012】
そして基布を構成する経糸10〜200本に一本の割合で経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維が基布に織り込まれていることが好ましい。
【0013】
そして経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維が表面には緯糸1本分跨いで、裏面には緯糸2本〜5本分跨いで露出する組織にて織り込まれていることが好ましい。
【0014】
また、係合素子が、マルチフィラメント糸からなるループ状係合素子またはモノフィラメント糸からなるフック状係合素子であることが好ましい。
そして、基布の表面と裏面のいずれか一方の面にループ状係合素子を有し、他方の面にフック状係合素子を有している、あるいは基布の表面にループ状係合素子とフック状係合素子の両方を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の表面と裏面が識別可能な面ファスナーは、経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維が挿入されていることで、周りの繊維と色差がつき、また経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維を、面ファスナーの表面と裏面で露出する割合を変えることで、例えば表面では見えにくく裏面では見えやすくなることにより、前記従来技術のように、基布部と係合素子部の両者間の染色性の違いを利用して濃淡差をつけ表面と裏面を識別可能にすることより、加工工場の流れ作業の中でも瞬時に表面と裏面を識別できる。
【0016】
経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維が、経糸、緯糸および係合素子用糸と同じ染色条件では同じ色に染まらない繊維であることで、白色の面ファスナーにおいても表面と裏面が識別でき、さらに面ファスナーの係合力を殆ど低下させることがない。
【0017】
また、本発明の表面と裏面が識別可能な面ファスナーは、基布を構成する経糸10〜200本に一本の割合で経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維を同時に基布に織り込むことにより、前記その他の技術にある面ファスナーの裏面にライン印刷を施す加工工程を追加し、表面と裏面を識別可能にすることのように、加工工程を増やす必要がなく、コスト面でもメリットを出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の表面と裏面が識別可能なループ面ファスナーの一例の表面を模式的に示した図である。
図2】本発明の表面と裏面が識別可能なループ面ファスナーの一例の裏面を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の表面と裏面が識別可能な面ファスナーを、図面を用いて説明する。まず、本発明の表面と裏面が識別可能な面ファスナーは、経糸、緯糸、係合素子用糸および経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維であって、好ましくは経糸、緯糸および係合素子用糸と同じ染色条件では同じ色に染まらない繊維からなる。
【0020】
図1は、このような面ファスナー1の基布を表面から見た場合の模式図であり、図中、縦線を引いた2は経糸、横線を引いた3は緯糸、ループ形状と斜め線を引いた4は係合素子用糸、黒く塗りつぶした5は経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維であって、好ましくは経糸、緯糸および係合素子と同じ染色条件では同じ色に染まらない繊維を表す。これら経糸2、係合素子用糸4、経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維であって、好ましくは経糸、緯糸および係合素子と同じ染色条件では同じ色に染まらない繊維5がそれぞれ途切れている個所は緯糸の下に沈み込んでいることを示す。
【0021】
図2は、このような面ファスナー1の基布を裏面から見た場合の模式図であり、図中、縦線を引いた2は経糸、横線を引いた3は緯糸、斜め線を引いた4は係合素子用糸、黒く塗りつぶした5は経糸、緯糸、係合素子用糸および経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維であって、好ましくは経糸、緯糸および係合素子と同じ染色条件では同じ色に染まらない繊維を表す。これら経糸2、係合素子用糸4、経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維であって、好ましくは経糸、緯糸および係合素子と同じ染色条件では同じ色に染まらない繊維5がそれぞれ途切れている個所は緯糸の下に沈み込んでいることを示す。
【0022】
これらの図から明らかなように、表面では経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維であって、好ましくは経糸、緯糸および係合素子と同じ染色条件では同じ色に染まらない繊維5は僅かしか露出していなく、裏面では多く露出していることが分かる。
【0023】
本発明の面ファスナーにおいて、係合素子用糸4および経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維5は経糸2に平行に基布に織り込まれている。そして係合素子用糸4は基布の表面側で基布面から所々ループ状に突出し、フック状係合素子の場合には、ループの片脚側が切られて、フック形状となっている。ループ状係合素子の場合には、切られることなく、ループ形状を保ち、面ファスナーとして使用される。
【0024】
フック状係合素子はフック状係合素子用モノフィラメント糸から、またフック状係合素子の係合相手となるループ状係合素子はマルチフィラメント糸から形成される。
【0025】
経糸としてはマルチフィラメント糸が好ましい。経糸を構成するマルチフィラメント糸の太さとしては16〜96本のフィラメントからなるトータルデシテックスが75〜250デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましく、特に24〜48本のフィラメントからなるトータルデシテックスが100〜200デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましい。
【0026】
緯糸には熱融着性繊維が含まれていることが好ましい。熱融着性繊維の代表例として、鞘成分を熱融着成分とする芯鞘型の熱融着性繊維が挙げられる。緯糸が熱融着性繊維を含んでいることにより、係合素子用糸を基布に強固に固定することが可能となり、従来の面ファスナーのように係合素子用糸が基布から引き抜かれることを防ぐためにポリウレタン系やアクリル系のバックコート樹脂液(接着剤液)を面ファスナー基布裏面に塗布することが不要となる。そのため、より本発明の裏面に存在する前記異色な繊維による識別が顕著となる。
【0027】
緯糸となる芯鞘型の熱融着性繊維の鞘成分樹脂は、フック状係合素子用のモノフィラメントやループ状係合素子用のマルチフィラメント、さらには前記異色な繊維、該芯鞘型熱融着性繊維の芯成分樹脂のいずれよりも低い融点又は軟化点を有していることが必要であり、融点又は軟化点が20℃以上低い樹脂であることが好ましく、融点又は軟化点が30℃以上低い樹脂であることがより好ましい。具体的には、鞘成分樹脂は、150〜200℃の融点又は軟化点を有している樹脂である。鞘成分樹脂としては、例えば、イソフタル酸やスルホイソフタル酸ソーダ、エチレングリコールやプロピレングリコール等が共重合されたポリエチレンテレフタレートあるいは同共重合されたポリブチレンテレフタレート系のポリエステル樹脂が挙げられる。
【0028】
芯成分としては、鞘成分樹脂との耐剥離性の点及び同一染色性の点、さらに収縮して係合素子用糸を締め付けて固定し易い点から、ポリアルキレンテレフタレート系エステルの樹脂であることが好ましい。芯成分として高融点を有していることが求められることから、ポリエチレンテレフタレートホモポリマーやポリブチレンテレフタレートホモポリマーが好ましく、なかでも形体安定性の点でポリエチレンテレフタレートホモポリマーが特に好ましい。
【0029】
緯糸を構成する繊維中に占める熱融着性繊維の割合としては、特に緯糸の全てが実質的に芯鞘型の熱融着性繊維で形成されている場合には、フック状係合素子及びループ状係合素子が共に強固に基布に固定されることとなるため好ましい。繊維が芯鞘等の複合繊維でなく、繊維の全てが熱融着性のポリマーで形成されている単独繊維の場合には、溶けて再度固まった熱融着性ポリマーは脆く割れ易くなり、縫製した場合等は縫糸部分から基布が裂け易くなる。したがって、熱融着性繊維は、熱融着されない樹脂を含んでいることが必要となり、芯鞘の断面形状を有しているものが用いられる。
そして、芯成分と鞘成分の重量比率は60:40〜80:20の範囲が好ましい。なお、芯鞘の断面形状は完全な同芯型の芯鞘形状である必要はなく、バイメタル形状に近い偏芯型の芯鞘形状であってもよい。
【0030】
フック状係合素子及びループ状係合素子を共に強固に基布に固定するためには、緯糸として用いられた熱融着性繊維が熱融着すると共に、繊維自身が収縮してフック状係合素子及びループ状係合素子の根元を両サイドから締め付けるのが好ましい。そのために、地緯糸として用いられる熱融着性繊維は、熱処理条件下で大きく熱収縮を生じる繊維が好ましい。具体的には、200℃での乾熱収縮率が10%以上である繊維が好ましく、200℃での乾熱収縮率が11〜18%の繊維がより好ましい。
緯糸としてはマルチフィラメント糸が好ましく、緯糸を構成するマルチフィラメント糸の太さとしては24〜72本のフィラメントからなるトータルデシテックスが75〜300デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましく、特に24〜48本のフィラメントからなるトータルデシテックスが75〜200デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましい。
【0031】
フック状係合素子には、軽い力ではフック形状が伸展されない、いわゆるフック形状保持性と剛直性が求まられ、そのために太い合成繊維製のモノフィラメント糸が用いられる。
【0032】
フック状係合素子用モノフィラメント糸の太さとしては、直径0.13〜0.40mmのものが好ましく、より好ましくは直径0.14〜0.35mmのものである。
【0033】
ループ状係合素子用糸の太さとしては、5〜15本のフィラメントからなるトータルデシテックスが150〜300デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましく、より好ましくは7〜12本のフィラメントからなるトータルデシテックスが160〜280デシテックスあるマルチフィラメント糸が好ましい。
【0034】
以上述べた経糸、緯糸、フック状係合素子モノフィラメント糸またはループ状係合素子用マルチフィラメント糸、さらに経糸、緯糸、係合素子用糸と異色な繊維であって、好ましくは経糸、緯糸および係合素子用糸と同じ染色条件では同じ色に染まらない繊維の糸から、面ファスナー用の織物を構成する。
【0035】
織物の織組織としては、フック状係合素子用モノフィラメント糸またはループ状係合素子用マルチフィラメント糸、そして経糸は平織りが好ましく、経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維は表面には緯糸1本分跨いで、裏面は緯糸2本〜5本分跨いで露出する織組織が好ましく、これら係合素子用糸は、経糸と平行に存在しつつ、組織の途中で基布面から立ち上がり、フック面ファスナーの場合にはループを形成しつつ経糸1〜3本飛び越えて経糸間にもぐり込むような織組織で、一方、ループ面ファスナーの場合には経糸を跨ぐことなくループを形成し、経糸に平行に存在している織組織が、さらにフック・ループ混在面ファスナーの場合にはこれら両者をともに満足するような織組織が、フック状係合素子用ループの片足側部を効率的に切断でき、さらにフック状係合素子とループ状係合素子が係合し易いことが好ましい。
【0036】
そして、経糸の織密度としては、熱処理後の織密度で45〜90本/cmが、また緯糸の織密度としては、熱処理後の織密度で15〜30本/cmが好ましい。
【0037】
そして、緯糸の重量割合としては、面ファスナーを構成するフック状係合素子用糸あるいはループ状係合素子用糸と経糸及び緯糸、そして経糸、緯糸、係合素子用糸と異色な繊維の糸の合計重量に対して15〜40%が好ましい。
【0038】
またフック状係合素子用モノフィラメント糸及びループ状係合素子マルチフィラメント糸の打ち込み本数は、それぞれ、経糸20本(フック状係合素子用モノフィラメント糸またはループ状係合素子マルチフィラメント糸を含む)に対して3〜8本程度が好ましい。
【0039】
フック・ループ混在面ファスナーの場合には、フック状係合素子用モノフィラメント糸およびループ状係合素子マルチフィラメント糸の合計で経糸20本(フック状係合素子用モノフィラメント糸またはループ状係合素子マルチフィラメント糸を含む)に対して3〜8本が好ましく、そしてフック状係合素子用モノフィラメント糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸の本数比が33:67〜67:33の範囲が好ましい。
【0040】
そして経糸、緯糸、係合素子用糸と異色な繊維の糸を経糸と平行に織り込む。経糸と平行に織り込み、また表面には緯糸1本分跨いで、裏面は緯糸2本〜5本分跨いで露出する織組織にすることで、表面と裏面での露出する割合が変わり表面と裏面の識別が可能となる。逆に表面には緯糸2本〜5本分跨いで、裏面は緯糸1本分跨いで露出する織組織にすることも考えられるが、この方法の場合には、経糸、緯糸、係合素子用糸と異色な繊維の糸は、基布の表面では係合素子用糸に覆われ、また裏面では、露出することが少なく、表面と裏面を識別するのに好ましくない。緯糸の一部として緯糸に平行に基布に織り込むことも考えられるが、この方法の場合には、基布の表面および裏面が主として経糸および係合素子用糸で覆われることから、経糸、緯糸、係合素子用糸と異色な繊維の糸は表面および裏面に露出することが少なく、表面と裏面を識別するのに好ましくない。
【0041】
経糸、緯糸、係合素子用糸と異色な繊維の糸の織り込み本数としては、面ファスナーに少なくても1本の糸が面ファスナー長さ方向に連続して織込まれている程度で十分である。具体的な織り込み本数としては、基布を構成する経糸10〜200本に1本程度の割合で経糸、緯糸、係合素子用糸と異色な繊維の糸が織込まれているのが好ましい。より高度な表面と裏面の識別が必要な場合には、織り込み本数を増やすこと、または裏面に露出する割合を増やすことにより容易に達成される。
例えば、織り込み本数は、経糸120本に対して 前記異色な繊維を1〜4本とすることが好ましい。1本以上とすることで、識別が十分に確保され、また4本以下とすることで、面ファスナーの審美性や物性が確保される点で好ましい。または前記異色な繊維を裏面に露出する割合1:3とすることで識別性と物性の点で好ましい。
【0042】
本発明の面ファスナーを製造する過程で、フック状係合素子のフック形状及びループ状係合素子のループ形状を固定するために、面ファスナー用基布には熱が加えられる。本発明の面ファスナーにおいては、フック形状及びループ形状を固定するために加えられる熱が同時に基布を構成する熱融着性繊維を収縮かつ融着させ、フック状係合素子及びループ状係合素子の根元を基布に強固に固定することとなる。したがって、加えられる熱の温度としては、緯糸として用いられる熱融着性繊維が収縮及び溶融する温度で、かつフック状係合素子用モノフィラメント糸及びループ状係合素子用マルチフィラメント糸、経糸および前記異色な繊維が熱固定される温度である150〜250℃が一般的に用いられ、より好ましくは185〜220℃の範囲、さらに好ましくは190〜210℃の範囲である。
【0043】
次に、このように熱処理した面ファスナー用織物の表面から突出しているフック状係合素子用ループ脚部の片足側部を切断してフック状係合素子とする。フック状係合素子用ループの片側部を切断するために用いられる切断装置としては、地経糸方向に走行するフック面ファスナー用布のフック状係合素子用ループの片足を2本の固定刃の間を可動切断刃の往復運動によって切断する構造となっている切断装置が好ましく、そのために、フック状係合素子用のループは、上記したように地経糸を跨ぐ場所で形成していると、ループの片足だけを容易に切断できることから好ましい。
【0044】
またフック状係合素子の高さとしては基布面から1.3〜3.0mmが、またループ状係合素子の高さとしては基布面から1.8〜3.5mmが、係合力の点で、さらに係合素子の倒れにくさの点で好ましい。
【0045】
フック面ファスナーにおけるフック状係合素子の密度、ループ面ファスナーにおけるループ状係合素子の密度、フック・ループ混在面ファスナーにおけるフック状係合素子とループ状係合素子の合計密度としては、係合素子が存在している基布部分基準でかつ熱処理後の広さ基準で、それぞれ30〜80個/cm、30〜80個/cm、30〜80個/cm、が好ましい。そして、フック・ループ混在面ファスナーのフックとループの比率としては、40:60〜60:40の範囲が好ましい。
【0046】
このようにして得られた表面と裏面が識別可能な面ファスナーを熱処理する。本発明を構成する面ファスナーは、例えば経糸、緯糸から構成された基布および係合素子用糸がポリエチレンテレフタレートもしくはポリブチレンテレフタレート繊維からなり、ポリエステル系樹脂からなる同一素材の糸であることから同一条件で同系色に染色できる。経糸、緯糸、係合素子用糸と異色な繊維であって、好ましくは経糸、緯糸および係合素子と同じ染色条件では同じ色に染まらない繊維の糸はさらに表面と裏面での露出する割合が変えることで表面では露出が少なく裏面では露出が多くなり、表面と裏面の識別が可能になる。
【0047】
例えば、経糸、緯糸から構成された基布および係合素子用糸が同一系統の色からなる糸であれば、その色とは異なる繊維であればよく、好ましくは、経糸、緯糸から構成された基布および係合素子用糸とは同じ色には染まらない繊維であることが好ましく、経糸、緯糸から構成された基布および係合素子用糸がポリエステル系樹脂からなる同一素材の糸の場合、ポリエステル系樹脂とは同じ色には染まらない樹脂であれば特に限定することはないが、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ナイロン系樹脂等が識別性に優れる点で好ましく挙げられる。
また、経糸、緯糸、係合素子用糸と異色な繊維の繊度は75〜300デシテックスが物性や製織性の点で好ましく、フィラメント本数は5〜96本が物性や製織性の点で好ましく採用される。
【0048】
本発明の表面と裏面識別面ファスナーにおいて、基布の表面にフック状係合素子またはループ状係合素子を有しているフック面ファスナーまたはループ面ファスナーであっても、あるいは基布の表面と裏面のいずれか一方の面にループ状係合素子を有し、他方の面にフック状係合素子を有している両面面ファスナーであっても、あるいは基布の表面にループ状係合素子とフック状係合素子の両方を有しているフック・ループ混在型面ファスナーであってもよい。
【0049】
また基布の表面と裏面のいずれか一方の面にループ状係合素子を有し、他方の面にフック状係合素子を有している両面面ファスナーの場合の経糸、緯糸、係合素子用糸と異色な繊維の糸の長く露出する面は、ループ状係合素子を有する面であっても、フック状係合素子を有する面であっても、どちらであってもよい。
【0050】
またループ面ファスナーの長さ方向端部にフック面ファスナーを繋いだり、またループ面ファスナーの長さ方向端部の裏面にフック面ファスナーを貼り合わせたりしたものでもよい。またフック・ループ混在型面ファスナー同士を、係合素子面を外側にして貼り合わせたものでもよい。
【0051】
本発明の表面と裏面が識別可能な面ファスナーは、従来の一般的な面ファスナーが用いられている用途分野に用いられることができるが、特に表面と裏面を識別して作業を行う場面に適している。
【0052】
例えば、加工工場での流れ作業の中で面ファスナー片を取り付ける場合が多いが、近年外国人を雇用しているため言葉の問題からか作業の指示がうまく伝わらず表面と裏面を間違えるケースが増えてきているので、このような加工工場で好適に使用される。
【実施例】
【0053】
以下本発明を実施例により詳細に説明する。
実施例1
面ファスナーの基布を構成する経糸および緯糸、ループ状係合素子用マルチフィラメント糸、表面と裏面を識別するための追加挿入糸として次の糸を用意した。
[経糸]
・融点260℃のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:167dtexで30本
[緯糸] (芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント系熱融着糸)
・芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点260℃)
・鞘成分:イソフタル酸25モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
(軟化点:190℃)
・芯鞘比率(重量比): 70:30
・トータルデシテックス及びフィラメント本数:116dtexで24本
・200℃での乾熱収縮率:13%
【0054】
[ループ状係合素子用マルチフィラメント]
・ポリブチレンテレフタレート繊維(融点:220℃)
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:265dtexで7本
[追加挿入糸]
・原糸特有のベージュ系色のポリフェニレンサルファイドからなるマルチフィラメント糸
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:250dtexで60本
【0055】
上記経糸、緯糸、ループ状係合素子用マルチフィラメント、経糸、緯糸、係合素子用糸と異色な繊維の糸を用いて、織組織として平織りを用い、ポリフェニレンサルファイドからなるマルチフィラメントは1インチあたり2本の割合で経糸と平行で、かつ表面には緯糸1本分跨いで、裏面には緯糸3本分跨いで露出する組織にて織込み、織密度(熱収縮処理後)が経糸55本/cm、緯糸22本/cmとなるように織った。そして、経糸4本に1本の割合でループ状係合素子用マルチフィラメントを、経糸を跨ぐことなく経糸に平行に打ち込み、緯糸5本を浮沈したのちループを形成するように基布上にループを形成した。
【0056】
上記条件にて構成されたループ面ファスナー用テープを、緯糸の鞘成分のみが熱溶融し、なおかつ、経糸、ループ係合素子用マルチフィラメント、ポリフェニレンサルファイドからなるマルチフィラメント、さらには緯糸の芯成分が熱溶融しない温度である200℃で熱処理を施した。そして得られた織物を冷却させた。得られたループ面ファスナーのループ状係合素子密度は44個/cmであり、さらにループ状係合素子の基布面からの高さは2.4mmであった。
【0057】
このようにして得られたループ面ファスナーを、ポリエチレンテレフタレート繊維およびポリブチレンテレフタレート繊維が染色可能な高圧条件および分散染料で白色と黒色に染色したところ、面ファスナー用テープは白色と黒色に染まったが、原糸特有のベージュ系色のポリフェニレンサルファイドからなる追加挿入糸は染まらず周りの糸と色差がついた。
【0058】
そして、ポリフェニレンサルファイドからなるマルチフィラメントが露出する比率が表面と裏面で異なるため、表面はポリフェニレンサルファイドからなるマルチフィラメントが見えにくく、裏面では見えやすくなるので、表面と裏面の識別が可能であった。また、ポリフェニレンサルファイドからなるマルチフィラメントを織り込まなかった面ファスナーと同等の係合力を有していた。
【0059】
実施例2
上記実施例1において、経糸、緯糸、係合素子用糸と異色な繊維の糸のポリフェニレンサルファイドからなるマルチフィラメントをポリエチレンテレフタレート樹脂からなる黒原着糸に変更し、上記実施例1と同一条件で織り込み、分散染料で白色に染色した。面ファスナー用テープは白色に染まったが、黒原着糸からなる追加挿入糸は染まらず周りの糸と色差がついた。ポリフェニレンサルファイドからなるマルチフィラメントでも表面と裏面の識別は可能な色差であるが、黒原着糸の方が表面と裏面の識別は確認しやすい色差であった。また、黒原着糸を織り込まなかった面ファスナーと同等の係合力を有していた。
【0060】
実施例3
上記実施例1において、経糸、緯糸、ループ状係合素子用糸としてナイロン6からなる、それぞれ同等の太さを有する糸を用い、経糸、緯糸、係合素子用糸と異色な繊維の糸をポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸に変更し、上記実施例1と同一条件で織り込み、酸性染料で黒色に染色した。面ファスナー用テープは黒色に染まったが、ポリエチレンテレフタレートからなる追加挿入糸は染まらず周りの糸と色差がついた。表面はポリエチレンテレフタレートからなる追加挿入糸が見えにくく、裏面では見えやすくなるので、表面と裏面の識別は確認しやすい色差であった。また、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸を織り込まなかった面ファスナーと同等の係合力を有していた。
【0061】
比較例1
経糸、緯糸および係合素子用糸は上記実施例1と同じで、上記実施例1のポリフェニレンサルファイドからなるマルチフィラメントをポリアミド系繊維ナイロン6に変更し上記実施例1と同一条件で織り込み、分散染料で白色と黒色に染色した。追加挿入糸であるポリアミド系繊維ナイロン6は分散染料での染色が可能であるため同系色になり、白色も黒色も得られたループ面ファスナーは経糸、緯糸、係合素子用糸および追加挿入糸は瞬時に識別できる色差にならず、表面と裏面を識別するのには好ましくない。
【符号の説明】
【0062】
1:表面と裏面が識別可能な面ファスナー
2:経糸
3:緯糸
4:係合素子用糸
5:経糸、緯糸および係合素子用糸と異色な繊維

図1
図2