(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972478
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】蛍光物質
(51)【国際特許分類】
C09K 11/06 20060101AFI20211111BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20211111BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20211111BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
C09K11/06
G01N33/483 C
A61K8/73
A61Q19/00
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-222522(P2016-222522)
(22)【出願日】2016年11月15日
(65)【公開番号】特開2018-80240(P2018-80240A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2019年7月24日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第46回欧州皮膚科学会議(46th Annual European Society For Dermatological Research(ESDR)Meeting) 開催日 平成28年9月7〜10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100168996
【弁理士】
【氏名又は名称】諌山 雅美
(72)【発明者】
【氏名】生野 倫子
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 優子
【審査官】
川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−143671(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/108475(WO,A1)
【文献】
特開平09−143048(JP,A)
【文献】
特開2006−160758(JP,A)
【文献】
特表2013−521036(JP,A)
【文献】
特開平10−153600(JP,A)
【文献】
特表2012−505188(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/074123(WO,A1)
【文献】
特開2012−108056(JP,A)
【文献】
特開2004−175951(JP,A)
【文献】
特開2018−080127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K11/00−11/89
A61K8/00−8/99
A61Q1/00−90/00
G01N33/48−33/98
A61L15/00−15/16,15/18,15/20,15/22,15/24,15/26,15/28,15/30,15/32,15/34,15/36,15/38,15/40,15/42,15/44,15/46,15/48,15/50,15/52,15/54,15/56,15/58,15/60,15/62,15/64,17/00−33/18
A61C5/08−5/12;8/00−13/38
A61F2/00;2/02−2/80;3/00−4/00
G01N27/60−27/70;27/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケラタン硫酸の、蛍光を指標としたバイオマーカーとしての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケラタン硫酸からなる新たな蛍光物質に関する。また、ケラタン硫酸の新たな用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ケラタン硫酸は、硫酸基が付加した二糖の繰り返し構造からなるグリコサミノグリカンの一種である。ガラクトースとN−アセチルグルコサミンの二糖の繰り返し構造から成り、ガラクトース残基とN−アセチルグルコサミン残基の両方もしくは片方の6位炭素がo−硫酸化され、様々な鎖長及び硫酸化度の分子が存在する。ケラタン硫酸は、軟骨、角膜など比較的限定された組織に存在することが知られており、体内におけるケラタン硫酸レベルの測定により、疾患の検知や薬剤効果判定に用いられるべくその測定法の開発が進んでいる(例えば特許文献1参照)。
また、近年iPS細胞、ES細胞等の分析においてバイオマーカーとして有用であるという提言がある(例えば非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5706617号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】豊田秀尚 iPS細胞、ES細胞の活用に寄与する糖鎖 R−GIRO Quartely Report vol.06 Summer2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ケラタン硫酸の新たな用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ショウブ科ショウブ属に属する植物の抽出物がルミカンの産生を促進させることを見出し、特許出願を行った(特願2016−077611)。一方で、ルミカンの産生を促進させることで、肌色を健康的に見せることができることをも見出している。その理由について研究を進めたところ、ルミカンの一部であるケラタン硫酸が有する何らかの作用により、肌色を健康的に見せることができると推測した。そして、このことを実証すべくケラタン硫酸に関する研究を進めたところ、ケラタン硫酸が蛍光作用を有することを確認し、更にケラタン硫酸の蛍光作用には、励起波長の変化により最大蛍光波長が変化するという驚くべき特徴があることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明の一側面は、ケラタン硫酸からなる蛍光物質である。
また、本発明の別の側面は、上記蛍光物質を含む塗料である。
また、本発明のさらに別の側面は、ケラタン硫酸の、蛍光を指標としたバイオマーカーとしての使用である。
また、本発明のさらに別の側面は、皮膚におけるケラタン硫酸の存在量を増加させるステップを含む、肌色の改善方法である。
また、本発明のさらに別の側面は、ケラタン硫酸を含有する肌色改善剤である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、新たな蛍光物質が提供される。また、ケラタン硫酸の蛍光作用を活用し
た、新たな用途が提供される。
ケラタン硫酸は疾患検知などのマーカーとして開発されているが、本発明により、蛍光を指標としたバイオマーカーとして使用できる。そのため、光ファイバー等を介して疾患を非侵襲で検知することが可能となり、バイオマーカーとしての使用性が劇的に改善され得る。また、ケラタン硫酸の蛍光作用は、励起光の波長により最大蛍光波長が変化するため、照射光の波長変化により異なる波長の光を放つ塗料として、特殊用途の蛍光塗料などへの適用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】溶媒対照(生理食塩水)、陽性対照(カルボキシフルオレセイン(CF))、及び各グリコサミノグリカンに300〜600nmの励起光を照射した場合の、310〜650nmの蛍光の強度を示す、二次元ヒートマップである。
【
図2】(a)溶媒対照、(b)陽性対照カルボキシフルオレセイン(CF)、(c)ケラタン硫酸(KS)の、特定励起波長における蛍光スペクトルを示すグラフである。
【
図3】各グリコサミノグリカンに可視光を照射した場合の、溶媒対照のR値、G値、B値との差を示すグラフである。なお、本項目のR値、G値、B値はsRGB色空間(8bit)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態は、ケラタン硫酸からなる蛍光物質である。
先に述べたように、ケラタン硫酸はガラクトースとN−アセチルグルコサミンの二糖の繰り返し構造から成り、ガラクトース残基とN−アセチルグルコサミン残基の両方もしくは片方の6位炭素がO−硫酸化され、様々な鎖長及び硫酸化度の分子が存在する。本発明者らは、後述する実験例により、グリコサミノグリカンのうちケラタン硫酸が特に強い蛍光作用を示すことを発見した。
グリコサミノグリカンのうちケラタン硫酸が特に強い蛍光作用を示す理由は定かではないが、上記に説明した複雑な構造を有することが一因ではないかと推測される。
【0011】
ケラタン硫酸は、軟骨や角膜由来のものを精製して用いてもよく、市販のものを用いてもよい。またケラタン硫酸は、タンパク質との結合によりKS−I及びKS−IIが存在するが、本実施形態では、どちらであってもよく、それらの混合物であってもよく、特に限定されない。
【0012】
ケラタン硫酸の蛍光作用は、広範な波長の励起光により蛍光を発する。
本発明者らの実験によると、ケラタン硫酸の蛍光作用は、励起波長が300nm以上500nm以下の場合に確認され、励起波長が350nm以上450nm以下の場合に強く蛍光を発し、励起波長が350nm以上400nm以下の場合に特に強く蛍光を発する。
【0013】
また、ケラタン硫酸の蛍光作用は、励起波長により最大蛍光波長が変化することから、照射する光の波長を変化させることで、必要とされる蛍光波長を適宜設定することができる。具体的には、励起波長をより長波長に変化させることで、最大蛍光波長をより長波長に変化させることができ、また励起波長をより短波長に変化させることで、最大蛍光波長をより短波長に変化させることができる。
このようなケラタン硫酸の性質を利用することで、特殊用途の蛍光塗料に適用することができる。
【0014】
また、ケラタン硫酸の蛍光作用を利用することにより、非常に簡易な方法で、かつ非侵襲でケラタン硫酸を測定することが可能となる。例えば、光ファイバー等を介して疾患を非侵襲で検知することが可能となり、バイオマーカーとしての使用性が劇的に改善され得る。
また近年、ケラタン硫酸を細胞の未分化性及びiPS細胞、ES細胞等の分析に用いるバイオマーカーとして活用することが検討されているが、蛍光作用を利用することで、未分化細胞等をより簡易な方法で識別することが可能となる。
【0015】
さらに、後述の実験例より、ケラタン硫酸の蛍光作用により、ケラタン硫酸を含有した試料は、可視光照射時に、sRGB色空間(8bit)におけるR値、G値、B値全てを増加させることができることをも、本発明者らは見出した。
【0016】
一方、本発明者らは、肌色のR値、G値、B値全てを増加させることにより、肌色をより健康的に見せることができることを見出し、特許出願を行った(特願2016−069406)。
そのため、本発明のさらに別の側面は、皮膚のケラタン硫酸の存在量を増加させるステップを含む、肌色の改善方法である。すなわち、皮膚のケラタン硫酸の存在量を増加させることで、ケラタン硫酸の蛍光作用により、肌色のR値、G値、B値を増加させ、肌色をより健康的に見せることができる。
表皮または真皮におけるケラタン硫酸の存在量を増加させる方法としては、ケラタン硫酸の表皮または真皮へのインジェクション、表皮または真皮に対するケラタン硫酸量を増加させることができる植物抽出物などの塗布、ケラタン硫酸量を増加させることができる植物抽出物などの経口投与などがあげられる。
【0017】
また、本発明のさらに別の側面は、ケラタン硫酸からなる肌色改善剤である。当該肌色改善剤は、注射剤であってよく、外用剤であってよく、経口剤であってよい。
ケラタン硫酸からなる肌色改善剤を含む注射剤とする場合には、注射剤全量に対し、ケラタン硫酸を0.01質量%以上10質量%以下含有させてよい。
ケラタン硫酸からなる肌色改善剤を含む外用剤とする場合には、外用剤全量に対し、ケラタン硫酸を0.01質量%以上10質量%以下含有させてよい。
ケラタン硫酸からなる肌色改善剤を含む経口剤とする場合には、外用剤全量に対し、ケラタン硫酸を0.01質量%以上10質量%以下含有させてよい。
注射剤とする場合であっても、外用剤とする場合であっても、経口剤とする場合であっても、外用剤や経口剤の調製に通常用いられる成分を適宜含有してもよい。調製方法も特段限定されず、既知の方法により調製される。
【実施例】
【0018】
以下、本発明者らが実施した実験を説明する。
<実験例1:ケラタン硫酸の蛍光作用の評価>
蛍光作用の評価には、分光蛍光光度計FP−8600(日本分光社製)を用いた。
また、実験には、以下の試薬を用いた。
・生理食塩水(溶媒対照):NaClを蒸留水で0.9質量%に溶解して使用。
・カルボキシフルオレセイン(CF)(陽性対照):Kodak社製
・コンドロイチン硫酸(CS):生化学工業社製
・デルマタン硫酸(DS):SERVA Electrophoresis GmbH社製
・ヒアルロン酸(HA):R&D SYSTEMS社製(・ヘパリン(Hep):東京化成工業社製
・ヘパラン硫酸(HS):CELSUS社製
・ケラタン硫酸(KS):PGリサーチ社製
【0019】
上記各グリコサミノグリカンを生理食塩水にそれぞれ1質量%溶解させた試料を調製した。また、陽性対照として、蛍光物質カルボキシフルオレセインを蛍光強度が検出閾値内に収まるよう生理食塩水で希釈した溶液を調製した。
調製した各試料を分光蛍光光度計に入れ、以下の条件で蛍光強度を測定した。
PMT電圧 1100V
励起波長 300〜600nm
蛍光波長 310〜650nm
【0020】
各試料の励起波長及び蛍光波長の二次元ヒートマップを
図1に示す。また、溶媒対照、陽性対照カルボキシフルオレセイン(CF)、及びケラタン硫酸(KS)の、特定励起波長における蛍光スペクトルを
図2に示す。
溶媒対照では蛍光作用は見られず、陽性対照では蛍光作用が確認された。
グリコサミノグリカンのうち、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸は蛍光作用を示し、中でも、ケラタン硫酸は蛍光強度が最も強く、また蛍光波長の範囲が広いことが確認された。
また、ケラタン硫酸は陽性対照と異なり、励起波長の変化に伴い、最大蛍光波長が変化する蛍光作用を有することが確認された。
【0021】
<実験例2:ケラタン硫酸の可視光照射時の反射光の評価>
反射光の評価には、分光測色計CM−700d(コニカミノルタ社製)を用いた。
実験例1と同様の試料を調製し、D65標準光源下における、各試料の分光スペクトル及びXYZ色空間におけるX値、Y値、Z値を取得した。取得されたX値、Y値、Z値を、一般的な変換式(A STANDARD DEFAULT COLOR SPACE FOR THE INTERNET - sRGB VERSION
1.10 November 5,1996参照)を用いて、sRGB色空間(8bit)におけるR値、G値、B値に変換した。各試料のR値、G値、B値から、溶媒対照のR値、G値、B値をそれぞれ減じ、R値、G値、B値の各差分(ΔR、ΔG、ΔB)を算出した。結果を
図3に示す。
図3から理解できるように、ケラタン硫酸の含有により、試料のR値、G値、B値が増加するため、皮膚におけるケラタン硫酸の存在量を増加させることで、肌色のR値、G値、B値が増加し、肌色を改善し得ることが理解できる。