(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
50.0質量%以上94.5質量%以下の炭化タングステンと、5.0質量%以上12.0質量%以下のCoと、0.5質量%以上4.0質量%以下のRuと、を含有する超硬合金であって、
前記超硬合金は、炭化タングステンを主成分とするWC相と、前記WC相を結合する結合相と、を有し、
前記結合相は、Coを含有し、前記結合相におけるCoの格子定数が、3.580Å以上3.610Å以下であり、
前記超硬合金の飽和磁化が、40%以上58%以下である、超硬合金。
Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、O、及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、を含む、化合物相を更に含み、
前記化合物相を構成する化合物の含有量の合計が、前記超硬合金100質量%に対して、5.0質量%以下である、請求項1又は2に記載の超硬合金。
前記被覆層が、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、O、及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、を含む、請求項5記載の被覆超硬合金。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
[超硬合金]
本実施形態の超硬合金は、50.0質量%以上94.5質量%以下の炭化タングステンと、5.0質量%以上12.0質量%以下のCoと、0.5質量%以上4.0質量%以下のRuとを含有する超硬合金であって、炭化タングステンを主成分とするWC相と、上記WC相を結合する結合相とを有し、上記結合相はCoを含有し、上記結合相におけるCoの格子定数が3.580Å以上3.610Å以下であり、上記超硬合金の飽和磁化が40%以上58%以下のものである。
【0014】
本実施形態の超硬合金は、上記の構成を備えることにより、耐摩耗性及び耐欠損性が向上し、その結果、上記超硬合金を有する工具は工具寿命を延長することができる。本実施形態の超硬合金の耐摩耗性及び耐欠損性が向上する要因は、以下のように考えられる。ただし、要因は下記に限られない。
【0015】
本実施形態の超硬合金において、超硬合金全体に対する炭化タングステン(WC)の含有量が50.0質量%以上であると、超硬合金の硬さが向上するため、耐摩耗性が向上する。また、超硬合金全体に対する炭化タングステンの含有量が94.5質量%以下であると、超硬合金全体に対するCoの含有量が相対的に増加し、超硬合金の靭性が向上するため、耐欠損性が向上する。
【0016】
本実施形態の超硬合金において、超硬合金全体に対するCoの含有量が5.0質量%以上であると、超硬合金の靭性が向上することにより耐欠損性が向上し、かつ、超硬合金の焼結性が向上することにより耐欠損性が向上する。また、超硬合金全体に対するCoの含有量が12.0質量%以下であると、超硬合金全体に対する炭化タングステンの含有量が相対的に増加し、超硬合金の硬さが向上するため、耐摩耗性が向上する。
【0017】
本実施形態の超硬合金において、超硬合金全体に対するRuの含有量が0.5質量%以上であると、固溶強化が生じることにより超硬合金の強度が向上する。この結果、超硬合金の耐欠損性が向上する。また、超硬合金の飽和磁化を小さくすると超硬合金中に脆弱なη相(Co
3W
3C、Co
6W
6C)が形成されることが一般に知られている。超硬合金全体に対するRuの含有量が0.5質量%以上であると、超硬合金におけるη相の形成を抑制することができるため、超硬合金の飽和磁化を通常よりも小さくすることができる。この結果、従来よりも固溶強化の効果を高めることができる。また、超硬合金全体に対するRuの含有量が4.0質量%以下であると、超硬合金の焼結性が向上するため、耐欠損性が向上する。
【0018】
本実施形態の超硬合金が炭化タングステンを主成分とするWC相を有すると、超硬合金の硬さが向上するため、耐摩耗性が向上する。また、本実施形態の超硬合金がWC相を結合する結合相を有すると、超硬合金の靭性が向上することにより耐欠損性が向上する。
【0019】
本実施形態の超硬合金において、結合相におけるCoの格子定数が3.580Å以上であると、結合相において固溶強化が生じやすくなり、結合相の硬さが向上するため、超硬合金の耐摩耗性が向上する。また、結合相におけるCoの格子定数が3.610Å以下であると、結合相において過剰にWが固溶することを抑制できるため、超硬合金の耐欠損性が向上する。
【0020】
本実施形態の超硬合金において、その飽和磁化が40%以上であると、超硬合金中に脆弱なη相が形成されることを抑制することができるため、耐欠損性が向上する。また、飽和磁化が58%以下であると、結合相にWが固溶しやすくなり、結合相の硬さが向上するため、超硬合金の耐摩耗性が向上する。
【0021】
[WC相]
本実施形態の超硬合金は、炭化タングステンを主成分とするWC相を有する。ここで、「主成分」とは、WC相100質量%に対して、50質量%を超えて多く含まれる成分を指す。WC相の硬さを向上させることにより耐摩耗性を向上させる観点から、WC相における炭化タングステンの含有量は、WC相100質量%に対して、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上である。その含有量は、更に好ましくは100質量%であり、すなわちWC相が炭化タングステンからなる。WC相における炭化タングステンの含有量の上限は特に限定されないが、WC相100質量%に対して、100質量%であってもよく、95質量%であってもよく、90質量%であってもよい。
【0022】
本実施形態の超硬合金において、WC相は、炭化タングステン以外に、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Co、Ru、及びMoからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の単体、炭化物、窒化物、又は炭窒化物を含んでいてもよい。本実施形態の超硬合金において、WC相が炭化タングステン以外に上記のような金属元素の単体、炭化物、窒化物、又は炭窒化物を含むと、耐欠損性が一層向上する傾向にあり、耐塑性変形性が一層向上する傾向にある。同様の観点から、WC相が、Ti、Ta、Zr、Co、Ru、及びCrからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の単体、又は炭化物を含んでいてもよい。
【0023】
本実施形態の超硬合金のWC相において、炭化タングステンの平均粒径は、1.0μm以上3.0μm以下であると好ましい。WC相における炭化タングステンの平均粒径が1.0μm以上であると、超硬合金の熱伝導率が向上するため、摩耗の進行を一層抑制できる傾向にある。また、WC相における炭化タングステンの平均粒径が3.0μm以下であると、超硬合金の硬さが一層向上するため、耐摩耗性が一層向上する傾向にある。同様の観点から、WC相における炭化タングステンの平均粒径は、1.2μm以上3.0μm以下であることがより好ましい。
【0024】
超硬合金中のWC相における炭化タングステンの平均粒径は、例えば、以下の方法により測定される。すなわち、超硬合金をその表面に対して直交する方向に研磨し、それにより現れた任意の断面組織を走査電子顕微鏡(SEM)にて2000〜5000倍に拡大したSEM像で観察する。その後、上記任意の断面組織の写真を撮影する。得られた断面組織の写真上にランダムに多数の直線を引いて、この直線が横切る全ての炭化タングステンの粒径を、Fullmanの式(J.Metals,Mar.1953,447)により求めることができる。
【0025】
[化合物相]
本実施形態の超硬合金は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、O、及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とを含む化合物相を有すると好ましく、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、O、及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物相を有するとより好ましい。本実施形態の超硬合金が上記のような化合物相を有すると、超硬合金は耐摩耗性に一層優れ、かつ、耐塑性変形性に一層優れる傾向にある。同様の観点から、化合物相は、Ti、Zr、Ta、及びCrからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の炭化物、又は窒化物の少なくとも1種からなることが更に好ましく、TiN、TiC、ZrC、TaC、及びCr
3C
2からなる群より選択される少なくとも1種からなることが特に好ましい。なお、化合物相は、Co、Ru、及びWが微量固溶していてもよい。
【0026】
[結合相]
本実施形態の超硬合金は、WC相間を結合する結合相を有する。なお、化合物相は結合相には含まれない。本実施形態の超硬合金において、結合相はCoを含有し、好ましくはCoを主成分として含む。ここで、「主成分」とは、結合相100質量%に対して、50質量%を超えて多く含まれる成分を指す。結合相におけるCoの含有量は、結合相100質量%に対して、より好ましくは55質量%以上であり、更に好ましくは60質量%以上であり、特に好ましくは65質量%以上である。結合相におけるCoの含有量が上記の範囲にあることにより、超硬合金の焼結性及び靱性が一層向上するため、耐欠損性が一層優れる傾向にある。また、結合相におけるCoの含有量の上限は、結合相100質量%に対して、90質量%であってもよく、85質量%であってもよく、80質量%であってもよい。
【0027】
本実施形態の超硬合金において、結合相がRuを含有すると好ましい。結合相がRuを含有すると、結合相の強度が一層向上することにより、超硬合金の耐欠損性が一層向上する傾向にある。同様の観点から、結合相におけるCoの含有量100原子%に対するRuの含有量(Ru/Co)は、3.0原子%以上30.0原子%以下であってもよく、3.5原子%以上25.0原子%以下であってもよく、5.0原子%以上20.0原子%以下であってもよい。
【0028】
本実施形態の超硬合金において、結合相がWを含有すると好ましい。結合相がWを含有すると、結合相の硬さが一層向上するため、超硬合金の耐摩耗性が一層向上する。結合相におけるCoの含有量100原子%に対するWの含有量(W/Co)は、好ましくは10.0原子%以上20.0原子%以下である。W/Coが10.0原子%以上であると、結合相の硬さが一層向上するため、超硬合金の耐摩耗性が一層向上する傾向にある。また、W/Coが20.0原子%以下であると、超硬合金の熱伝導率が一層向上するため、摩耗の進行を一層抑制することができる傾向にある。同様の観点から、W/Coは、より好ましくは11.0原子%以上19.0原子%以下であり、更に好ましくは12.0原子%以上18.0原子%以下である。
【0029】
本実施形態において、上記Ru/Co及びW/Coは、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0030】
本実施形態の超硬合金の結合相において、Coの格子定数が3.580Å以上3.610Å以下であると、結合相において固溶強化が生じやすくなるため、結合相の硬さが向上し、超硬合金の耐摩耗性が向上する。また、結合相において過剰にWが固溶することを抑制することができるため、超硬合金の耐欠損性が向上する。同様の観点から、Coの格子定数は、好ましくは3.583Å以上3.607Å以下であり、より好ましくは3.586Å以上3.604Å以下であり、更に好ましくは3.590Å以上3.600Å以下である。
【0031】
超硬合金中の結合相におけるCoの格子定数は、市販のX線回折装置を用いることにより、求めることができる。例えば、X線回折装置(株式会社リガク製、RINT TTRIII)を用いて、Cu−Kα線を用いた2θ/θ集中法光学系のX線回折を、下記条件で測定すると、格子面間隔を測定することができる。ここで測定条件は、出力:50kV、250mA、入射側ソーラースリット:5°、発散縦スリット:2/3°、発散縦制限スリット:5mm、散乱スリット2/3°、受光側ソーラースリット:5°、受光スリット:0.3mm、BENTモノクロメータ、受光モノクロスリット:0.8mm、サンプリング幅:0.01°、スキャンスピード:4°/min、2θ測定範囲:20〜100°である。得られたX線回折図形から格子面間隔を求めることができるが、この際、X線回折装置に付属の解析ソフトウェアを用いてもよい。解析ソフトウェアでは、三次式近似を用いてバックグラウンド処理およびKα2ピーク除去を行い、Pearson−VII関数を用いてプロファイルフィッティングを行い、格子面間隔を求めることができる。格子定数は、得られた格子面間隔と格子定数との関係式(以下に示す。)から、求めることができる。
ブラッグの式:2d=λ/sinθ
立方晶の場合:a
2=d
2×(h
2+k
2+l
2)
六方晶の場合:a
2=d
2×{4/3×(h
2+k
2+l
2)+l
2×(c/a)
2}
ここで、dは格子面間隔、λは測定に用いた管球の波長、θは入射角、aは格子定数であり、h、k、lは面指数を示す。
【0032】
[超硬合金の組成]
本実施形態の超硬合金において、超硬合金100質量%に対する炭化タングステンの含有量は、50.0質量%以上94.5質量%以下であり、好ましくは60.0質量%以上94.0質量%以下であり、より好ましくは70.0質量%以上93.0質量%以下であり、更に好ましくは80.0質量%以上92.0質量%以下である。超硬合金100質量%に対する炭化タングステンの含有量が上記の範囲にあると、超硬合金の硬さが一層向上するため、耐摩耗性が一層向上し、かつ、超硬合金の靭性が一層向上するため、耐欠損性が一層向上する傾向にある。
【0033】
本実施形態の超硬合金において、超硬合金100質量%に対するCoの含有量は、5.0質量%以上12.0質量%以下であり、好ましくは6.0質量%以上11.0質量%以下であり、より好ましくは7.0質量%以上10.0質量%以下であり、更に好ましくは8.0質量%以上10.0質量%以下である。超硬合金100質量%に対するCoの含有量が上記の範囲にあると、超硬合金の靭性が一層向上するため、耐欠損性が一層向上し、かつ、超硬合金の焼結性が一層向上するため、耐欠損性が一層向上する。更に、超硬合金の硬さが一層向上するため、耐摩耗性が一層向上する。
【0034】
本実施形態の超硬合金において、超硬合金100質量%に対するRuの含有量は、0.5質量%以上4.0質量%以下であり、好ましくは0.8質量%以上3.8質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以上3.5質量%以下であり、更に好ましくは1.5質量%以上3.0質量%以下である。超硬合金100質量%に対するRuの含有量が上記の範囲にあると、超硬合金の強度が一層向上するため、耐欠損性が一層向上し、かつ、超硬合金の飽和磁化を通常よりも小さくすることができるため、従来よりも固溶強化の効果を一層高めることができる。更に、超硬合金の焼結性が一層向上するため、耐欠損性が一層向上する。
【0035】
本実施形態の超硬合金において、化合物相を構成する化合物の含有量の合計は、超硬合金100質量%に対して、好ましくは5.0質量%以下であり、より好ましくは4.8質量%以下であり、更に好ましくは4.5質量%以下であり、特に好ましくは3.0質量%以下である。超硬合金100質量%に対する化合物相を構成する化合物の含有量の合計が上記の範囲にあると、超硬合金全体に対する炭化タングステンの含有量が相対的に増加し、超硬合金の硬さが一層向上するため、耐摩耗性が一層向上し、かつ、超硬合金の靭性が一層向上するため、耐欠損性が一層向上する。更に、超硬合金の耐塑性変形性が一層向上する。超硬合金が化合物相を有する場合、その化合物相を構成する化合物の含有量の合計の下限は特に限定されないが、例えば、化合物相を構成する化合物の含有量の合計は、超硬合金100質量%に対して、0.0質量%超であってもよく、0.3質量%以上であってもよく、1.0質量%以上であってもよく、1.5質量%以上であってもよい。
【0036】
本実施形態の超硬合金中の各組成及び各割合(質量%)は、下記のようにして求める。超硬合金内部の任意の少なくとも3箇所の断面組織(例えば、表面から、内部に向かって深さ500μm以上の位置の断面組織)を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)付き走査電子顕微鏡(SEM)にて観察し、EDSにより超硬合金の各組成を測定する。その結果から、各組成の割合を求めることができる。すなわち、超硬合金をその表面に対して直交する方向に研磨し、それにより現れた上記任意の断面組織をSEMにて観察し、SEMに付属するEDSを用いて、超硬合金中の各組成及び割合(質量%)を求める。より詳細には、超硬合金内の上記任意の断面組織を、EDS付きSEMにて2000倍〜5000倍で観察し、面分析することにより得ることができる。更に、得られた各組成の原子%から各組成の質量%を換算して算出することができる。例えば、WCの場合、原子比で、W:C=1:1として、WCの原子%を求めた後、質量%に換算して算出することができる。
【0037】
本実施形態の超硬合金は、上記のWC相、及び結合相を有しており、化合物相を有していてもよい。また、本実施形態の超硬合金は、WC相、結合相、及び化合物相とは異なる相を更に有していてもよい。WC相、結合相、及び化合物相とは異なる相とは、特に限定されないが、例えば、WC相、結合相、及び化合物相のいずれの相にも固溶しなかった金属元素からなる相が挙げられる。本実施形態の超硬合金は、本発明の効果を有効かつ確実に奏する観点から、WC相、及び結合相からなるか、WC相、結合相、及び化合物相からなることが好ましい。
【0038】
本実施形態の超硬合金が、いずれの相を有するかを確かめるためには、例えば下記の方法を用いればよい。超硬合金内部の任意の断面組織(例えば、表面から、内部に向かって深さ500μm以上の位置の断面組織)を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)付き走査電子顕微鏡(SEM)にて2000倍〜5000倍で観察し、SEM像においてその断面組織における相構成を確認する。その後、SEM像において互いに異なる相と認められる相のそれぞれについて、EDSを用いて組成を測定する。その結果から、その断面組織が、いずれの相を有するかを確かめることができる。なお、主成分が炭化タングステンである相をWC相とする。また、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、O、及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる相を化合物相とする。また、WC相間を結合する相であって、Coを含有する相を結合相とする。WC相間を結合する相とは、例えば、超硬合金がWC相を島とした海島構造のような相構成である場合に、いわゆる海とされる相のことである。したがって、このような場合、比較的連続した結合相の中に、不連続にWC相が存在することとなる。上記したSEM像による観察と、EDSによる組成の測定とを、少なくとも3つの断面組織について行う。いずれの観察においても、WC相、結合相、及び化合物相とは異なる相が観察されなかった場合、その超硬合金はWC相、結合相、及び化合物相からなるものであるとする。WC相、結合相、及び化合物相とは異なる相としては、例えば、SEM像においてWC相、結合相、及び化合物相とは異なる相であると認められる相であって、結合相中に相分離して存在する金属元素単体からなる相が挙げられる。
【0039】
[飽和磁化]
本実施形態の超硬合金の飽和磁化は、40%以上58%以下であり、好ましくは42%以上56%以下であり、より好ましくは44%以上54%以下であり、更に好ましくは46%以上52%以下である。超硬合金の飽和磁化が上記の範囲にあると、超硬合金中脆弱なη相が形成されることを一層抑制することができるため、耐欠損性が一層向上し、かつ、超硬合金中の結合相にWが固溶しやすくなるため、超硬合金の硬さが一層向上し、耐摩耗性が一層向上する。
【0040】
本実施形態において、超硬合金の飽和磁化は、特に断らない限り単位%で表される。なお、本実施形態における超硬合金の飽和磁化(%)とは、超硬合金中に含まれるCoの理論飽和磁化(emu)に対する、超硬合金の飽和磁化(emu)の比を意味する。すなわち、本実施形態における超硬合金の飽和磁化(%)は、下記関係式により算出される。
超硬合金の飽和磁化(%)={超硬合金の飽和磁化(emu)}/[{Coの理論飽和磁化(emu/g)}×{超硬合金中のCo含有量(g)}]
【0041】
本実施形態において、超硬合金の飽和磁化は、公知の磁気特性測定装置により測定することができる。上記磁気特性測定装置としては、特に限定されないが、例えば東英工業製のVSM、及びカンタムデザイン社製のMPMS3(いずれも製品名)が挙げられる。また、Coの理論飽和磁化は公知の値を用いることができる。
【0042】
[被覆超硬合金]
本実施形態の被覆超硬合金は、上記の超硬合金と、該超硬合金の表面に配置される被覆層とを有する。かかる被覆超硬合金は、本実施形態の超硬合金の表面に被覆層を配置することにより、耐摩耗性を一層向上させたものである。ここで、被覆層は、単層の化合物層であってもよく、組成の異なる化合物層が2層以上積層した構造であってもよい。
【0043】
本実施形態に用いる被覆層は、被覆工具の被覆層として使用されるものであれば特に限定されない。その中でも、被覆層は、好ましくはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、O、及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とを含む。被覆層は、より好ましくはTi、Nb、Cr、Mo、W、Al、及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、及びNからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とを含む。被覆層は、更に好ましくはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、O、及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる。被覆層は、より一層好ましくはTi、Nb、Cr、Mo、W、Al、及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、及びNからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる。被覆層が上記の構成を有すると、被覆超硬合金の耐摩耗性及び耐欠損性が一層向上する傾向にある。被覆層における化合物層の具体例としては、特に限定されないが、例えば、α型Al
2O
3層、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCNO層、TiCO層、(Al
0.6Ti
0.4)N層、(Al
0.5Ti
0.5)N層、(Al
0.67Ti
0.33)N層、(Ti
0.9Si
0.1)N層、(Ti
0.6Al
0.3W
0.1)N層、(Ti
0.9Mo
0.1)N層、(Al
0.7Cr
0.3)N層、NbN層、及び(Al,Cr)
2O
3層が挙げられる。
【0044】
本実施形態に用いる被覆層において、化合物層の平均厚さは本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されない。化合物層の平均厚さとして、例えば、α型Al
2O
3層は1.0μm以上5.0μm以下、TiC層及びTiN層は0.05μm以上1.0μm以下、TiCN層は1.0μm以上15.0μm以下、TiCNO層及びTiCO層は0.1μm以上1.0μm以下、(Al
0.6Ti
0.4)N層は0.1μm以上5.0μm以下、(Al
0.5Ti
0.5)N層は0.03μm以上5.0μm以下、(Al
0.67Ti
0.33)N層は0.03μm以上5.0μm以下、(Ti
0.9Si
0.1)N層は1.0μm以上3.0μm以下、(Ti
0.6Al
0.3W
0.1)N層は2.0μm以上4.0μm以下、(Ti
0.9Mo
0.1)N層は2.0μm以上4.0μm以下、(Al
0.7Cr
0.3)N層は0.1μm以上3.0μm以下、NbN層は0.1μm以上1.0μm以下、(Al,Cr)
2O
3層は0.1μm以上1.0μm以下であってもよい。なお、ある組成を有する化合物層が複数の層に分かれて被覆層に含まれる場合、当該組成を有する化合物層の平均厚さとは、全ての当該組成を有する化合物層の平均厚さの合計を意味する。例えば、平均厚さ20nmの(Al
0.50Ti
0.50)N層と、平均厚さ20nmの(Al
0.67Ti
0.33)N層とが、100層ずつ交互積層した構造を有する被覆層における、(Al
0.50Ti
0.50)N層と、(Al
0.67Ti
0.33)N層の平均厚さは、それぞれ2.0μmである。
【0045】
本実施形態の被覆超硬合金において、被覆層の平均厚さは、好ましくは1.0μm以上20.0μm以下である。被覆層の平均厚さが1.0μm以上であると、被覆超硬合金の耐摩耗性は一層向上し、被覆層の平均厚さが20.0μm以下であると、被覆超硬合金の耐欠損性は一層向上する傾向にある。同様の観点から、被覆層の平均厚さはより好ましくは2.0μm以上15.0μm以下であり、更に好ましくは3.0μm以上10.0μm以下である。
【0046】
本実施形態に用いる被覆層を構成する化合物層の厚さ及び被覆層全体の厚さは、被覆超硬合金の断面組織から光学顕微鏡、SEM、透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて測定することができる。なお、本実施形態の被覆超硬合金における各層の平均厚さ及び被覆層全体の平均厚さは、3箇所以上の断面から、各層の厚さ及び被覆層全体の厚さを測定して、その平均値を計算することで求めることができる。
【0047】
また、本実施形態の被覆超硬合金において、被覆層を構成する各層の組成は、被覆超硬合金の断面組織から、EDSや波長分散型X線分析装置(WDS)などを用いた測定により決定することができる。
【0048】
[超硬合金及び被覆超硬合金の製造方法]
以下、本実施形態の超硬合金及び被覆超硬合金の製造方法について、具体例を用いて説明する。なお、本実施形態の超硬合金及び被覆超硬合金の製造方法は、当該超硬合金の構成を達成し得る限り特に制限されるものではなく、下記の具体例には制限されない。
【0049】
本実施形態の超硬合金、及び被覆超硬合金における超硬合金の製造方法は、例えば、以下の工程(1)〜(7)を含んでもよい。
【0050】
工程(1):平均粒径1.0μm〜3.0μmの炭化タングステン粉末50.0質量%以上94.5質量%以下と、平均粒径0.5μm〜3.0μmのCo元素の粉末5.0質量%以上12.0質量%以下と、平均粒径0.5μm〜3.0μmのRu元素の粉末0.5質量%以上4.0質量%以下と、必要に応じて平均粒径0.5μm〜5.0μmのTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、O、及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物粉末5.0質量%以下とを配合(ただし、これらの原料粉末の合計は100質量%である。)して配合粉末を得る配合工程。
【0051】
工程(2):工程(1)において用意した配合粉末を溶媒とともに湿式ボールミルにより、好ましくは8時間以上40時間以下の時間にて混合及び粉砕をして混合物を得る混合工程。上記溶媒は、特に限定されないが、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコールが挙げられる。
【0052】
工程(3):工程(2)において得られた混合物を、100℃以下で加熱及び乾燥しながら溶媒を蒸発させて乾燥混合物を得る乾燥工程。
【0053】
工程(4):工程(3)において得られた乾燥混合物に、該乾燥混合物100質量%に対して1.0質量%以上3.0質量%以下のパラフィンワックスを添加し、所定の工具の形状に成形し、100MPa以上500MPa以下の圧力でプレス成形することで、成形体を得る成形工程。
【0054】
工程(5):工程(4)において得られた成形体を、70Pa以下の真空条件下にて、好ましくは1300℃以上1600℃以下の温度まで昇温する昇温工程。
【0055】
工程(6):工程(5)を経た成形体を、50Pa以上1330Pa以下の不活性ガス(例えば、Ar)雰囲気下にて、好ましくは上記1300℃以上1600℃以下の温度に保持して20分以上60分以下の時間にて加熱する焼結工程。
【0056】
工程(7):工程(6)を経た成形体を、10kPa以上300kPa以下の不活性ガス(例えば、Ar)雰囲気下にて、好ましくは上記1300℃以上1600℃以下の温度から常温まで10℃/分以上50℃/分以下の速度で冷却する冷却工程。
【0057】
なお、工程(1)において使用される原料粉末の平均粒径は、米国材料試験協会(ASTM)規格B330に記載のフィッシャー法(Fisher Sub−Sieve Sizer(FSSS))により測定される。
【0058】
工程(1)〜(7)は、下記の意義を有する。
工程(1)において、炭化タングステン粉末と、Co元素の粉末と、Ru元素の粉末と、必要に応じてTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、O、及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物粉末とを所定の配合割合で用いることにより、超硬合金の組成を所定の範囲に制御することができる。また、炭化タングステン(WC)中の炭素量を調整することにより、超硬合金の飽和磁化を所定の範囲に制御することができる。なお、炭素量が低い炭化タングステン粉末を用いると、飽和磁化が小さくなる傾向にある。更に、Co元素の添加量に対する、Ru元素の添加量、並びにW元素及びCr元素を形成する原料粉末(順に炭化タングステン粉末及びCr
3C
2粉末)の添加量を調整することにより、結合相におけるCoの含有量100原子%に対するRuの含有量(Ru/Co)、結合相におけるCoの含有量100原子%に対するWの含有量(W/Co)、及び結合相におけるCoの含有量100原子%に対するCrの含有量(Cr/Co)を制御することができる。Ru/Coが大きくなると、結合相におけるCoの格子定数が大きくなる傾向にある。W/Coが大きくなると、飽和磁化が小さくなる傾向にある。Cr/Coが大きくなると、飽和磁化が小さくなる傾向にあり、かつ、WC相における炭化タングステンの平均粒径が小さくなる傾向にある。
【0059】
工程(2)では、WC相における炭化タングステンの平均粒径を制御することができる。ボールミルによる混合時間が長いほど、炭化タングステンの平均粒径は小さくなる傾向にある。また、工程(2)では、工程(1)で用意した原料粉末を均一に混合した混合物を得ることができる。WC相における炭化タングステンの平均粒径を1.0μm以上3.0μm以下とする観点から、ボールミルによる混合時間は、好ましくは8時間以上40時間以下であり、より好ましくは10時間以上38時間以下であり、更に好ましくは12時間以上35時間以下である。
【0060】
工程(3)では、混合物を加熱及び乾燥することにより、溶媒を蒸発させた乾燥混合物を得ることができる。
【0061】
工程(4)では、乾燥混合物にパラフィンワックスを添加することで、所定の工具の形状に成形することができる。パラフィンを添加することにより、成形性が向上する。
【0062】
工程(5)では、成形体を、70Pa以下の真空で昇温する。これにより、成形体における液相出現前及び液相出現直後での脱ガスを促進するとともに、焼結工程(工程(6))における焼結性を向上させる。
【0063】
工程(6)では、成形体を、不活性ガス雰囲気下で、好ましくは1300℃以上1600℃以下の温度で焼結する。これにより、成形体は緻密化し、成形体の機械的強度が高まる。また、焼結温度高いほど、炭化タングステンの平均粒径が大きくなる傾向にある。更に、焼結時間が長いほど、炭化タングステンの平均粒径が大きくなる傾向にある。また、焼結温度が高いほど、結合相におけるCo中に固溶する他の元素(例えば、Ru、W、及びCr)の量が多くなる傾向にある。WC相における炭化タングステンの平均粒径を1.0μm以上3.0μm以下とする観点、並びに結合相におけるCo中にW及びRuを適切に固溶させる観点から、焼結温度は、好ましくは1300℃以上1600℃以下であり、より好ましくは1350℃以上1600℃以下であり、更に好ましくは1400℃以上1550℃以下である。
【0064】
工程(7)では、成形体を、好ましくは上記1300℃以上1600℃以下の温度から常温まで10℃/分以上50℃/分以下の速度で冷却して超硬合金を得る。また、冷却速度が速いほど、Wの固溶量が多くなる傾向にある。結合相において、Coの含有量100原子%に対するWの含有量(W/Co)を適切な範囲に制御するために、冷却速度は、好ましくは10℃/分以上50℃/分以下であり、より好ましくは12℃/分以上48℃/分以下であり、更に好ましくは15℃/分以上45℃/分以下である。
【0065】
工程(1)〜工程(7)の各工程を経て得られた超硬合金に対して、必要に応じて、研削加工や刃先のホーニング加工を施してもよい。本実施形態の超硬合金は、上記の加工が施された超硬合金も包含する概念をいう。
【0066】
次に、本実施形態の被覆超硬合金の製造方法について、具体例を用いて説明する。なお、本実施形態の被覆超硬合金の製造方法は、当該被覆超硬合金の構成を達成し得る限り特に制限されるものではなく、下記の具体例には制限されない。
【0067】
本実施形態の被覆超硬合金において、被覆層は、化学蒸着法によって形成してもよく、物理蒸着法によって形成してもよい。その中でも、被覆層を物理蒸着法によって形成するのが好ましい。物理蒸着法としては、例えば、アークイオンプレーティング法、イオンプレーティング法、スパッタ法及びイオンミキシング法が挙げられる。その中でも、アークイオンプレーティング法は、超硬合金と被覆層との密着性が一層優れるので好ましい。
【0068】
(物理蒸着法)
工具形状に加工した本実施形態の超硬合金を物理蒸着装置の反応容器内に収容し、反応容器内をその圧力が1×10
-2Pa以下の真空になるまで真空引きする。真空引きした後、反応容器内のヒーターにより超硬合金をその温度が200℃以上800℃以下になるまで加熱する。加熱後、反応容器内にArガスを導入して、反応容器内の圧力を0.5Pa以上5.0Pa以下に調整する。圧力0.5Pa以上5.0Pa以下のArガス雰囲気下にて、超硬合金に−200V以下−1000V以上のバイアス電圧を印加し、反応容器内のタングステンフィラメントに5A以上60A以下の電流を流して、超硬合金の表面にArガスによるイオンボンバードメント処理を施す。超硬合金の表面にイオンボンバードメント処理を施した後、反応容器内をその圧力が1×10
-2Pa以下の真空になるまで真空引きする。
【0069】
次いで、超硬合金をその温度が200℃以上600℃以下になるまで加熱する。その後、窒素ガスなどの反応ガスを必要に応じてArガスと共に反応容器内に導入し、反応容器内の圧力を0.5Pa以上5.0Pa以下に調整する。そして、超硬合金に−10V以下−150V以上のバイアス電圧を印加し、被覆層の金属成分に応じた金属蒸発源を80A以上150A以下のアーク放電により蒸発させて、超硬合金の表面に被覆層を形成する。こうして、被覆超硬合金を得る。
【0070】
(化学蒸着法)
工具形状に加工した本実施形態の超硬合金の表面に、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCNO層、及びTiCO層からなる群より選ばれる1種又は2種以上の層を形成する。本発明の効果を有効かつ確実に奏する観点から、TiN層、及びTiCN層を形成することが好ましい。次いで、上記形成した層の表面(上記形成した層が複数の層である場合は、超硬合金から最も離れた層の表面)を酸化してもよい。その後、必要に応じてα型Al
2O
3相、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCNO層、及びTiCO層からなる群より選ばれる最上層を更に形成してもよい。
【0071】
より具体的には、TiN層は、原料ガス組成をTiCl
4:5.0〜10.0mol%、N
2:20.0〜60.0mol%、H
2:残部とし、温度を850〜920℃、圧力を100〜400hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0072】
TiC層は、原料ガス組成をTiCl
4:1.0〜3.0mol%、CH
4:4.0〜6.0mol%、H
2:残部とし、温度を990〜1030℃、圧力を50〜100hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0073】
TiCN層は、原料ガス組成をTiCl
4:5.0〜7.0mol%、CH
3CN:0.5〜1.5mol%、H
2:残部とし、温度を840〜890℃、圧力を60〜80hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0074】
TiCO層は、原料ガス組成をTiCl
4:0.5〜1.5mol%、CO:2.0〜4.0mol%、H
2:残部とし、温度を975〜1025℃、圧力を60〜100hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0075】
TiCNO層は、原料ガス組成をTiCl
4:3.0〜5.0mol%、CO:0.4〜1.0mol%、N
2:30〜40mol%、H
2:残部とし、温度を975〜1025℃、圧力を90〜110hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0076】
上記形成した層の表面の酸化は、ガス組成をCO:0.1〜1.0mol%、H
2:残部とし、温度を970〜1020℃、圧力を50〜70hPaとする条件により行われる。このときの酸化の時間は、0.5〜2分であることが好ましい。
【0077】
本実施形態において、形成された被覆層に対して乾式ショットブラストを施すことが好ましい。乾式ショットブラストの条件は、投射圧力が0.5bar以上0.9bar以下であり、投射角度が90°であると好ましい。また、乾式ショットブラストに用いるブラスト装置において、ノズルが所定の方向に移動しながら投射材を噴射する場合、そのノズルの移動方向に直交する方向におけるノズルのピッチ間隔は3mm以上5mm以下であると好ましい。また、ノズルの速度(移動速度)は、6000mm/分以上7000mm/分以下であると好ましい。乾式ショットブラストにおける投射材(メディア)の平均粒径は、好ましくは120〜400μm(投射材の材質が、鋼の場合は、380〜420μm)、より好ましくは120〜150μm、更に好ましくは120〜140μmである。また、乾式ショットブラストにおける投射材(メディア)は、SiC、鋼(Steel)、Al
2O
3、及びZrO
2からなる群より選ばれる1種以上の材質であると好ましい。
【0078】
本実施形態の超硬合金及び被覆超硬合金は、特に難削材の加工において、優れた加工性能を有するものであるため、工具の構成材料として好適に用いることができる。本実施形態の超硬合金及び被覆超硬合金を、例えば切削工具の構成材料として用いた場合、特に難削材の切削加工に対し優れた性能を有する。また、熱伝導率が低い難削材を加工するための工具(例えば切削工具)の材料として本実施形態の超硬合金及び被覆超硬合金を用いた場合、その超硬合金及び被覆超硬合金は、優れた高温強度及び耐欠損性を有するので、特に有用である。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0080】
[超硬合金の製造]
原料粉末として、炭化タングステン(WC)粉末(比較品9のみ平均粒径4.2μm。その他は平均粒径3.0μm。)、平均粒径1.5μmのTiC粉末、平均粒径1.3μmのTiN粉末、平均粒径1.0μmのTaC粉末、平均粒径3.0μmのZrC粉末、平均粒径3.0μmのCr
3C
2粉末、平均粒径1.5μmのCo粉末、及び平均粒径7.0μmのRu粉末を用意した。なお、これらの原料粉末は、市販されているものを使用した。また、原料の炭化タングステン(WC)粉末は、表1に示すとおり炭素量の異なるA〜Cの3種を用意した。また、原料粉末の平均粒径は、米国材料試験協会(ASTM)規格B330に記載のフィッシャー法(Fisher Sub−Sieve Sizer(FSSS))により測定した。
【0081】
【表1】
【0082】
発明品1〜20、及び比較品1〜10について、超硬合金の組成が下記表3に示す組成になるように、用意した原料粉末を秤量した。その秤量した原料粉末を、アセトン溶媒と超硬合金製ボールと共にステンレス製ポットに収容して配合し、湿式ボールミルで下記表2に示すボールミル時間である6〜48時間の混合及び粉砕を行い、混合物を得た。得られた混合物を80℃で加熱してアセトンを蒸発させることで、乾燥混合物を得た。得られた乾燥混合物100質量%に対してパラフィンワックスを1.5質量%添加した後、所定の金型を用いて圧力196MPaでプレス成形することで、混合物の成形体を得た。金型としては、焼結後の形状がISO規格インサート形状SNGU1307になる金型、及び焼結後の形状がISO規格インサート形状RPMT1204になる金型を用いた。
【0083】
混合物の成形体を焼結炉内に収容した後、70Pa以下の真空にて室温から下記表2に記載の焼結温度1400〜1500℃まで昇温した。その後、1000Paのアルゴンガス雰囲気下、各々の焼結温度にて、50分間保持することにより成形体を焼結した。焼結後、150kPaのアルゴン雰囲気下にて、下記表2に記載の冷却速度10〜50℃/分で成形体を常温まで冷却した。
【0084】
上記のようにして、工具形状に加工した超硬合金を作製した。更に、得られた超硬合金の切れ刃稜線部にSiCブラシによりホーニング処理を施した。
【0085】
【表2】
【0086】
[超硬合金の組成]
得られた超硬合金の各組成及び各割合(質量%)は、以下のようにして求めた。得られた超硬合金内部の任意の少なくとも3箇所の断面組織(超硬合金の表面から、内部に向かって深さ500μm以上の位置の断面組織)を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)付き走査電子顕微鏡(SEM)にて観察し、EDSにより超硬合金の各組成を測定した。その結果から、超硬合金における各組成の割合を求めた。すなわち、超硬合金をその表面に対して直交する方向に研磨し、それにより現れた上記任意の断面組織をSEMにて観察し、SEMに付属するEDSを用いて、超硬合金内の超硬合金の各組成及び割合(質量%)を求めた。より詳細には、超硬合金内の上記任意の断面組織を、EDS付きSEMにて2000倍〜5000倍で観察し、面分析することにより得た。更に、得られた各組成の原子%から各組成の質量%を換算して算出した。その結果を、表3に示す。
【0087】
同様にして、超硬合金の相構成を調べた。得られた超硬合金はいずれも、炭化タングステンからなるWC相と、該WC相を結合する結合相とからなるか、炭化タングステンからなるWC相と、化合物相と、結合相とからなるものであった。また、いずれの超硬合金においても、結合相の主成分はCoであり、結合相はRu及びWを含有していた。
【0088】
【表3】
【0089】
[結合相における原子比]
結合相におけるCoの含有量100原子%に対するWの含有量(W/Co)を以下のとおり算出した。まず、得られた超硬合金中の断面組織を、EDS付きTEMで2万倍〜5万倍で観察した。結合相において、3点につき点分析し、W/Coを測定した。同様に、別の結合相(3箇所以上)においても点分析し、W/Coを測定した。測定したW/Co(3点×3箇所以上)の相加平均値を算出した。W/Coと同様の方法で、結合相におけるCoの含有量100原子%に対するRuの含有量(Ru/Co)を算出した。算出したW/Co及びRu/Coを表4に示す。
【0090】
[結合相におけるCoの格子定数]
結合相におけるCoの格子定数を以下のとおり算出した。X線回折装置(株式会社リガク製、RINT TTRIII)により、Cu−Kα線を用いた2θ/θ集中法光学系のX線回折を下記条件で測定した。測定条件は、出力:50kV、250mA、入射側ソーラースリット:5°、発散縦スリット:2/3°、発散縦制限スリット:5mm、散乱スリット2/3°、受光側ソーラースリット:5°、受光スリット:0.3mm、BENTモノクロメータ、受光モノクロスリット:0.8mm、サンプリング幅:0.01°、スキャンスピード:4°/min、2θ測定範囲:20〜100°であった。得られたX線回折図形から格子面間隔を求める際、X線回折装置に付属の解析ソフトウェアを用いた。解析ソフトウェアでは、三次式近似を用いてバックグラウンド処理およびKα2ピーク除去を行い、Pearson−VII関数を用いてプロファイルフィッティングを行い、格子面間隔を求めた。格子定数を、得られた格子面間隔と格子定数との関係式(以下に示す。)から求めた。算出した結果を表4に示す。
ブラッグの式:2d=λ/sinθ
格子面間隔と格子定数との関係式:a
2=d
2×(h
2+k
2+l
2)
ここで、dは格子面間隔、λは測定に用いた管球の波長、θは入射角、aは格子定数であり、h、k、lは面指数を示す。
【0091】
[超硬合金の飽和磁化]
超硬合金の飽和磁化を磁気特性測定装置にて測定した。測定結果を表4に示す。
【0092】
[WC相における炭化タングステンの平均粒径]
超硬合金中のWC相における炭化タングステンの平均粒径を以下のとおり算出した。まず、得られた超硬合金をその表面に対して直交する方向に研磨し、それにより現れた任意の断面組織を走査電子顕微鏡(SEM)にて2000〜5000倍に拡大した超硬合金の断面組織を反射電子像で観察した。その後、上記任意の断面組織の写真を撮影し、得られた断面組織の写真上にランダムに多数の直線を引いた。Fullmanの式(J.Metals,Mar.1953,447)を用いて、上記直線が横切る全ての炭化タングステンの粒径を求めた。上記作業を3箇所以上について行い、算出した炭化タングステンの平均粒径の相加平均値を計算した。計算結果を表4に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
[実施例1]
発明品1〜15及び比較品1〜10について、下記条件による切削試験1−1及び下記切削試験1−2を行った。当該試験結果を表5に示す。
【0095】
[切削試験1−1]
インサート:RPMT1204
超硬合金の表面に形成される被覆層:下記の条件Aにより形成される被覆層A
被削材:Inconel(商標)625の直方体形状
切削速度:40m/分
送り:0.30mm/rev
切り込み深さ:2.0mm
クーラント:使用
評価項目:試料が欠損、被膜剥離、又は最大逃げ面摩耗幅が0.3mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命までの加工可能時間を測定した。
[切削試験1−2]
インサート:SNGU1307
超硬合金の表面に形成される被覆層:下記の条件Bにより形成される被覆層B
被削材:SUS630の直方体形状
切削速度:100m/分
送り:0.20mm/rev
切り込み深さ:2.0mm
クーラント:なし
評価項目:試料が欠損、被膜剥離又は最大逃げ面摩耗幅が0.3mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命までの加工可能時間を測定した。
【0096】
なお、上記超硬合金の表面に形成される被覆層A及び被覆層Bは、下記に示す物理蒸着法により形成した。
【0097】
まず、作製した超硬合金を、アークイオンプレーティング装置の反応容器内のホルダーに取り付けた。また、アークイオンプレーティング装置の反応容器内に、所定の被覆層の構成が得られるように組成を適宜調整した金属蒸発源を設置した。反応容器を密閉させた後、反応容器内の圧力を1×10
-2Pa以下の真空にした。炉内ヒーターにより、超硬合金を500℃に加熱した。超硬合金の温度が500℃になった後、反応容器内の圧力が5.0Paになるまで、反応容器内にArガスを導入した。反応容器内の超硬合金に−500Vのバイアス電圧を印加し、反応容器内のタングステンフィラメントに50Aの電流を流して、超硬合金の表面にArイオンボンバードメント処理を施した。イオンボンバードメント条件は、以下の通りにした。
反応容器内の雰囲気:Ar雰囲気
反応容器内の圧力 :5.0Pa
【0098】
Arイオンボンバードメント処理後、Arガスを排出して反応容器内の圧力を1×10
-2Pa以下の真空にした。その後、超硬合金の温度を500℃に保持しながら、反応容器内にN
2ガスとArガスとが1:1の体積比でなる混合ガスを導入して、反応容器内を圧力3.0Paの混合ガス雰囲気にした。超硬合金を加熱した後、超硬合金に−50Vのバイアス電圧を印加するとともに、150Aのアーク放電によって金属蒸発源を蒸発させた。これにより、超硬合金の表面に所定の被覆層を形成した。被覆層を形成した後、試料を冷却した。試料温度が100℃以下になった後、反応容器内から試料を取り出した。得られた試料を用いて切削試験を行った。なお、被覆層の形成条件A及びBは下記のようにした。
【0099】
[被覆層の形成条件A]
金属蒸発源の組成:(Al
0.50Ti
0.50)N、及び(Al
0.67Ti
0.33)Nが得られる組成
被覆層の構成:超硬合金に近い順に(Al
0.50Ti
0.50)N層(平均厚さ20nm)と、(Al
0.67Ti
0.33)N層(平均厚さ20nm)との交互積層構造(積層繰り返し数100回)、
被覆層の平均厚さ:4.0μm
[被覆層の形成条件B]
金属蒸発源の組成:(Al
0.50Ti
0.50)N、及び(Al,Cr)
2O
3が得られる組成
被覆層の構成:超硬合金に近い順に(Al
0.50Ti
0.50)N層(平均厚さ4.0μm)と、(Al,Cr)
2O
3層(平均厚さ0.5μm)と、(Al
0.50Ti
0.50)N層(平均厚さ0.5μm)との積層構造
被覆層の平均厚さ:5.0μm
【0100】
また、被覆層の厚さは、以下のとおり測定した。被覆超硬合金からなる切削工具を、その表面に対して直交する方向に鏡面研磨した。金属蒸発源に対向する面の刃先から、当該面の中心部に向かって50μmの位置の近傍において、上記鏡面研磨により現れた面(以下、「鏡面研磨面」という。)を観察した。鏡面研磨面の観察には、光学顕微鏡及びFE−SEMを用いた。観察された鏡面研磨面の画像から、被覆層の厚さを3箇所で測定した。測定された被覆層の厚さの平均値を算出した。被覆層の組成を、FE−SEM付属のEDS、及び、FE−SEM付属のWDSを用いて測定した。
【0101】
【表5】
【0102】
表5に示す結果より、発明品1〜15は、いずれも切削試験1における加工時間が5分以上であり、比較品1〜10よりも加工時間が長く、耐摩耗性及び耐欠損性に優れることが分かる。また、切削試験2においても、発明品1〜15の加工時間はいずれも30分以上であり、比較品1〜10よりも加工時間が長く、耐摩耗性及び耐欠損性に優れることが分かる。
【0103】
[実施例2]
発明品1と同じ条件で超硬合金を作製した。上記超硬合金の表面に、下記に記載の物理蒸着法により被覆層を形成することで発明品16を作製した。
【0104】
実施例1における物理蒸着法と同じ条件で、超硬合金の表面にArイオンボンバードメント処理を施した。Arイオンボンバードメント処理後、Arガスを排出して反応容器内の圧力を1×10
-2Pa以下の真空にした。
【0105】
その後、超硬合金の温度を500℃に保持しながら、反応容器内にN
2ガスとArガスとが1:1の体積比でなる混合ガスを導入して、反応容器内を圧力3.0Paの混合ガス雰囲気にした。超硬合金を加熱した後、超硬合金に−60Vのバイアス電圧を印加しながら、120Aのアーク放電によって金属蒸発源を蒸発させることで、厚さ0.2μmのTiN層を形成した。
【0106】
TiN層を形成した後、超硬合金の温度を500℃に保持しながら、反応容器内にN
2ガスとArガスとアセチレンガス(C
2H
2)とが45:40:15の体積比でなる混合ガスを導入して、反応容器内を圧力3.0Paの混合ガス雰囲気にした。超硬合金を加熱した後、超硬合金に−60Vのバイアス電圧を印加しながら、120Aのアーク放電によって金属蒸発源を蒸発させることで、TiN層の上に、厚さ3.0μmのTiCN層を形成した。被覆層を形成した後、試料を冷却した。試料温度が100℃以下になった後、反応容器内から試料を取り出した。得られた試料を用いて切削試験を行った。
【0107】
また、発明品1と同じ条件で作製した超硬合金の表面に、物理蒸着法により被覆層を形成することで発明品17〜20を作製した。発明品17〜20の被覆層形成方法について、表6に示す被覆層の組成が得られるように金属蒸発源の組成及び蒸着時間を調整した以外は、実施例1の被覆層形成方法と同様に被覆層(第1層及び第2層、並びに必要に応じて第3層)を形成した。発明品16〜20の被覆層の構成を表6に示す。
【0108】
【表6】
【0109】
発明品16〜20について、被覆層を変更した以外はそれぞれ切削試験1−1及び切削試験1−2と同様の条件である、切削試験2−1及び切削試験2−2を行った。当該試験結果を表7に示す。
【0110】
[切削試験2−1]
インサート:RPMT1204
超硬合金の表面に形成される被覆層:表6に示す所定の被覆層
被削材:Inconel(商標)625の直方体形状
切削速度:40m/分
送り:0.30mm/rev
切り込み深さ:2.0mm
クーラント:使用
評価項目:試料が欠損、被膜剥離、又は最大逃げ面摩耗幅が0.3mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命までの加工可能時間を測定した。
[切削試験2−2]
インサート:SNGU1307
超硬合金の表面に形成される被覆層:表6に示す所定の被覆層
被削材:SUS630の直方体形状
切削速度:100m/分
送り:0.20mm/rev
切り込み深さ:2.0mm
クーラント:なし
評価項目:試料が欠損、被膜剥離又は最大逃げ面摩耗幅が0.3mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命までの加工可能時間を測定した。
【0111】
【表7】