(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1強磁性金属層と第2強磁性金属層と前記第1強磁性金属層及び前記第2強磁性金属層に挟持された第1非磁性層とによって構成されたシンセティック構造を有する磁化自由層と、前記シンセティック構造の積層方向である第1方向に対して交差する第2方向に延在し、前記第1強磁性金属層に接合する反強磁性スピン軌道トルク配線と、を備え、
前記第1強磁性金属層の飽和磁化と体積の積が前記第2強磁性金属層の飽和磁化と体積の積以上の大きさとなるように構成されており、
前記反強磁性スピン軌道トルク配線に通電することによって、前記磁化自由層の磁化の向きを変化させるスピン流磁化反転素子。
第1強磁性金属層と第2強磁性金属層と前記第1強磁性金属層及び前記第2強磁性金属層に挟持された第1非磁性層とによって構成されたシンセティック構造を有する磁化自由層と、前記シンセティック構造の積層方向である第1方向に対して交差する第2方向に延在し、前記第1強磁性金属層に接合する反強磁性スピン軌道トルク配線と、を備え、
前記第1非磁性層に接する第1強磁性金属層の面積が前記第1非磁性層に接する第2強磁性金属層の面積と等しく、前記第1強磁性金属層の膜厚が前記第2強磁性金属層の膜厚より厚く、
前記反強磁性スピン軌道トルク配線に通電することによって、前記磁化自由層の磁化の向きを変化させるスピン流磁化反転素子。
第1強磁性金属層と第2強磁性金属層と前記第1強磁性金属層及び前記第2強磁性金属層に挟持された第1非磁性層とによって構成されたシンセティック構造を有する磁化自由層と、前記シンセティック構造の積層方向である第1方向に対して交差する第2方向に延在し、前記第1強磁性金属層に接合する反強磁性スピン軌道トルク配線と、を備え、
前記第1強磁性金属層の膜厚が前記第2強磁性金属層の膜厚より薄く、前記第1強磁性金属層の面直方向から平面視したときの面積が、前記第2強磁性金属層の面直方向から平面視したときの面積より大きく、
前記反強磁性スピン軌道トルク配線に通電することによって、前記磁化自由層の磁化の向きを変化させるスピン流磁化反転素子。
前記反強磁性スピン軌道トルク配線は、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、As、Rh、Pd、Ir、Pt及びAuからなる群から選択された金属を含む反強磁性体、又は、前記金属を含む合金からなる反強磁性体からなる請求項1〜3のいずれか一項に記載のスピン流磁化反転素子。
前記第1非磁性層は、Cr、Cu、Mo、Ru、Rh、Re及びIrのからなる群から選択された非磁性金属からなる請求項1〜4のいずれか一項に記載のスピン流磁化反転素子。
前記反強磁性スピン軌道トルク配線はIrMnからなり、前記第1強磁性金属層及び前記第2強磁性金属層の磁化は共に前記第1方向に面直成分を有し、かつ、それらの面直成分が互いに反平行である請求項1〜5のいずれか一項に記載のスピン流磁化反転素子。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。本発明の素子において、本発明の効果を奏する範囲で他の層を備えてもよい。
【0024】
図1に、本発明の一実施形態に係るスピン流磁化反転素子の一例の模式図を示す。
図1(a)は平面図であり、
図1(b)は
図1(a)の反強磁性スピン軌道トルク配線5の幅方向の中心線であるX−X線で切った断面図である。
図1に示すスピン流磁化反転素子100は、第1強磁性金属層1と第2強磁性金属層2と第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2に挟持された第1非磁性層3とによって構成されるシンセティック構造を有する磁化自由層10と、シンセティック構造の積層方向である第1方向(z方向)に対して交差する第2方向(x方向)に延在し、第1強磁性金属層1の第1面1aに接合する反強磁性スピン軌道トルク配線5と、を備え、前記反強磁性スピン軌道トルク配線5に通電することによって、磁化自由層10の磁化の向きを変化させる。
ここで、本発明における「シンセティック構造」とは、2層の強磁性金属層とそれに挟持される非磁性層(例えば、Ru層やIr層)からなり、2層の強磁性金属層が非磁性層を介して反強磁性結合(RKKY結合)によって結合され、2層の強磁性金属層の磁化の向きが互いに反平行となる構造をいう。
なお、
図1においては、磁化自由層10の磁化の向きを変化させる際に反強磁性スピン軌道トルク配線5に通電するための電流源6も示している。
【0025】
磁化自由層10においては、第1強磁性金属層1と第2強磁性金属層2との間に非磁性層3を介して強い反強磁性結合(RKKY結合)が生まれ、実効的に第2強磁性金属層分の体積を増加させたことと同等の効果が生じて、磁化自由層10の磁化の向きの熱安定性を向上させることができる。その結果、磁化が外部磁界による擾乱に対して耐性を有することになる。
なお、磁化反転は反強磁性スピン軌道トルク配線からのSOTにより第1強磁性金属層1が反転すると反強磁性結合により第2強磁性金属層2も反転するため、第1強磁性金属層1のみの反転電流と変わらない。
【0026】
また、反強磁性スピン軌道トルク配線5は反強磁性を示す材料からなる。
反強磁性体は、ミクロには磁性を担うスピンが反平行に結合して物質全体でみると自発磁化はゼロで磁性を持たないが、強磁性体と接合させるとその接合界面で強い磁気結合(ピニング効果)を示すことが知られている。
すなわち、反強磁性の界面スピンと強磁性金属層の界面スピンが交換結合により結合することで、熱安定性は、強磁性金属層の有する磁気エネルギーに加え、反強磁性金属層の有する磁気エネルギー分、増加する。
従って、第1強磁性金属層1と接合する反強磁性スピン軌道トルク配線5は、磁化自由層10の磁化の向きの熱安定性を向上させることができる。その結果、磁化が外部磁界による擾乱に対して耐性を有することになる。
【0027】
以上の通り、本発明のスピン流磁化反転素子は、(1)反強磁性層/第1強磁性金属層界面で生じる交換結合、及び、(2)第1強磁性金属層と第2強磁性金属層とのシンセティック構造による反強磁性結合(RKKY結合)、の2種類の結合によって、熱安定性が向上し、外部磁界による擾乱に対して耐性を有するものとなっている。
【0028】
<反強磁性スピン軌道トルク配線>
反強磁性スピン軌道トルク配線5は、電流が流れるとスピンホール効果によって純スピン流が生成される材料であって、かつ、反強磁性を示す材料からなる。かかる材料であれば、特に制限はないが、例えば、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、As、Rh、Pd、Ir、Pt及びAuからなる群から選択された金属を含む反強磁性体、又は、前記金属を含む合金からなる反強磁性体を用いることができる。具体例としては例えば、Cr、FeMn、NiMn、IrMn、PtMn、RhMn、PdPtMn、PtCrMn、CuMnAs、Mn
2Auが挙げられる。
【0029】
反強磁性スピン軌道トルク配線5はIrMnからなるものとすることができる。この場合、第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2の磁化は共に、積層方向である面直方向における成分を有し、かつ、それらの磁化の面直成分が互いに反平行であるものとすることができる。反強磁性スピン軌道トルク配線5にIrMnを用いると第1強磁性金属層の磁化に面直成分を誘起させることができるため面直方向に磁化方向を固定することができ、その結果、集積度を向上させることができる。
【0030】
ここで、スピンホール効果とは、材料に電流を流した場合にスピン軌道相互作用に基づき、電流の向きに直交する方向に純スピン流が誘起される現象である。従来、スピン軌道トルクの供給源には磁気的な性質を持たない非磁性体が用いられていたが、最近、反強磁性体を用いることができることが明らかになった(非特許文献3参照)。すなわち、スピンホール効果を生じ得る材料として、非磁性体以外に、反強磁性体が加わった。
【0031】
反強磁性体におけるスピンホール効果のメカニズムについてはまだ十分に理解されているとは言えず、従来の非磁性体におけるスピンホール効果のメカニズムと同じであるのか、異なるところがあるのか、現段階では確かではないが、
図2を用いて、一般的に理解されているスピンホール効果により純スピン流が生み出されるメカニズムを説明する。
【0032】
図2に示すように、スピン軌道トルク配線の延在方向に電流Iを流すと、紙面手前側に配向した第1スピンS1と紙面奥側に配向した第2スピンS2はそれぞれ電流と直交する方向に曲げられる。通常のホール効果とスピンホール効果とは運動(移動)する電荷(電子)が運動(移動)方向を曲げられる点で共通するが、通常のホール効果は磁場中で運動する荷電粒子がローレンツ力を受けて運動方向を曲げられるのに対して、スピンホール効果では磁場が存在しないのに電子が移動するだけ(電流が流れるだけ)で移動方向が曲げられる点で大きく異なる。
【0033】
非磁性体(強磁性体ではない材料)では第1スピンS1の電子数と第2スピンS2の電子数とが等しいので、図中で上方向に向かう第1スピンS1の電子数と下方向に向かう第2スピンS2の電子数が等しい。そのため、電荷の正味の流れとしての電流はゼロである。この電流を伴わないスピン流は特に純スピン流と呼ばれる。
【0034】
強磁性体中に電流を流した場合は、第1スピンS1と第2スピンS2が互いに反対方向に曲げられる点は同じである。一方で、強磁性体中では第1スピンS1と第2スピンS2のいずれかが多い状態であり、結果として電荷の正味の流れが生じてしまう(電圧が発生してしまう)点が異なる。
【0035】
ここで、第1スピンS1のスピンの流れをJ
↑、第2スピンS2のスピンの流れをJ
↓、スピン流をJ
Sと表すと、J
S=J
↑−J
↓で定義される。
図2においては、純スピン流としてJ
Sが図中の上方向に流れる。ここで、J
Sは分極率が100%のスピンの流れである。
【0036】
図1において、反強磁性スピン軌道トルク配線5の上面に強磁性体を接触させると、純スピン流は強磁性体中に拡散して流れ込む。
【0037】
<磁化自由層>
磁化自由層10は、第1強磁性金属層1と第2強磁性金属層2と第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2に挟持された第1非磁性層3とによって構成されるシンセティック構造を有する。磁化自由層10は、第1強磁性金属層1と第2強磁性金属層2と第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2に挟持された第1非磁性層3とによって構成され、第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2の磁化の向きが互いに反平行となるように可変とされている。
【0038】
第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2は、磁化方向が層に平行な面内方向である面内磁化膜でも、磁化方向が層に対して垂直方向である垂直磁化膜でもいずれでもよい。
【0039】
第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2の材料として、強磁性材料、特に軟磁性材料を適用できる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を用いることができる。具体的には、Co−Fe、Co−Fe−B、Ni−Feが挙げられる。また、2層の強磁性金属層が非磁性層を介して生じる反強磁性結合(RKKY結合)は、2層の強磁性金属層と非磁性層のスピン軌道相互作用で働くことが知られており、Co/Ru/Coの構造の時にRKKY結合が強くなることが知られている。
第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2の材料は同じであっても異なっていてもよい。
【0040】
第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2は、飽和磁化と体積の積が等しくなるように構成されていることが好ましい。
本実施形態のスピン流磁化反転素子においては、第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2の飽和磁化と体積の積が等しくなることで、RKKY結合が強くなる。強いRKKY結合により、読み出し時に反強磁性スピン軌道トルク配線に流れる電流が生み出す電流磁界に対して、 第1強磁性金属層1が揺らぎにくくなる。
【0041】
第1非磁性層3としては、第1強磁性金属層1と第2強磁性金属層2との間の反強磁性結合(RKKY結合)を介在できる非磁性金属材料であれば特に制限はないが、例えば、Cr、Cu、Mo、Ru、Rh、Re及びIrのからなる群から選択された非磁性金属からなるものを用いることができる。
【0042】
図3に、本発明の他の実施形態に係るスピン流磁化反転素子の一例の模式図を示す。
図3(a)は平面図であり、
図3(b)は
図3(a)の反強磁性スピン軌道トルク配線5の幅方向の中心線であるX−X線で切った断面図である。
図1と同様な構成について、同じ符号を用いて説明を省略する。
図3に示すスピン流磁化反転素子200においては、磁化自由層20を構成する第1強磁性金属層11及び2強磁性金属層2のうち、第1強磁性金属層11の膜厚が第2強磁性金属層2の膜厚より厚い点が
図1に示すスピン流磁化反転素子100と異なる。
本実施形態のスピン流磁化反転素子においては、第1強磁性金属層の膜厚を厚くすることによって、第2強磁性金属層への純スピンの拡散を低減することができる上、第1強磁性金属層のバルク散乱効果を用いることでMR比を向上することができる。
【0043】
限定するわけではないが、本実施形態の上記効果を奏するための膜厚の目安を例示すれば、第1強磁性金属層11の膜厚を1.0〜10.0nm、第2強磁性金属層2の膜厚を0.5〜5.0nmとし、膜厚の差としては例えば、0.5〜9.5nmとすることができる。
【0044】
図4に、本発明の他の実施形態に係るスピン流磁化反転素子の一例の模式図を示す。
図4(a)は平面図であり、
図4(b)は
図4(a)の反強磁性スピン軌道トルク配線5の幅方向の中心線であるX−X線で切った断面図である。
図1と同様な構成について、同じ符号を用いて説明を省略する。
図4に示すスピン流磁化反転素子300においては、磁化自由層30を構成する第1強磁性金属層21及び2強磁性金属層2のうち、第1強磁性金属層21の膜厚が第2強磁性金属層2の膜厚より薄く、第1強磁性金属層21の面直方向から平面視したときの面積が、第2強磁性金属層2の面直方向から平面視したときの面積より大きい点が
図1に示すスピン流磁化反転素子100と異なる。
本実施形態のスピン流磁化反転素子においては、第1強磁性金属層の膜厚を薄くすることで反転電流を小さくすることができる。膜厚を薄くすると熱安定性が低下するが、上述の通り、RKKY結合することで熱安定性を確保できる。
また、第1強磁性金属層21の膜厚が薄い分、面積を大きくすることで体積の低減を抑え、それによって、RKKY結合の大きさの低下を低減できる。
【0045】
限定するわけではないが、本実施形態の上記効果を奏するための膜厚の目安を例示すれば、第1強磁性金属層21の膜厚を0.5〜5.0nm、第2強磁性金属層2の膜厚を1.0〜10.0nmとし、膜厚の差としては例えば、0.5〜9.5nmとすることができる。
【0046】
本発明のスピン流磁化反転素子は後述するように磁気抵抗効果素子に適用することができる。用途としては磁気抵抗効果素子に限られず、他の用途にも適用できる。他の用途としては、例えば、上記のスピン流磁化反転素子を各画素に配設して、磁気光学効果を利用して入射光を空間的に変調する空間光変調器においても用いることができるし、磁気センサにおいて磁石の保磁力によるヒステリシスの効果を避けるために磁石の磁化容易軸に印加する磁場を反強磁性スピン軌道トルク配線(スピン流磁化反転素子)に置き換えてもよい。
【0047】
(磁気抵抗効果素子)
本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子は、本発明のスピン流磁化反転素子と、磁化の向きが固定された磁化固定層と、第2強磁性金属層と磁化固定層に挟持された第2非磁性層とを備えるものである。
【0048】
図5は、本発明のスピン流磁化反転素子の応用例であり、また、本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子でもある磁気抵抗効果素子の一例の模式図を示す。
図5(a)は平面図であり、
図5(b)は
図5(a)の反強磁性スピン軌道トルク配線120の幅方向の中心線であるX−X線で切った断面図である。
図5に示す磁気抵抗効果素子1000は、本発明のスピン流磁化反転素子(磁化自由層101と反強磁性スピン軌道トルク配線120)と、磁化の向きが固定された磁化固定層103と、磁化自由層101及び磁化固定層103に挟持された第2非磁性層102とを有する。また、
図3に示す磁気抵抗効果素子1000は、磁気抵抗効果素子部105と反強磁性スピン軌道トルク配線120とを有するということもできる。
図5においては、磁気抵抗効果素子1000を作製する基板110と、キャップ層104及び配線130も図示した。
【0049】
本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子1000は、反強磁性スピン軌道トルク配線120を備えることで、純スピン流によるSOTのみで磁気抵抗効果素子の磁化反転を行う構成(以下、「SOTのみ」構成ということがある)とすることもできるし、従来のSTTを利用する磁気抵抗効果素子において純スピン流によるSOTを併用する構成(以下、「STT及びSOT併用」構成ということがある)とすることもできる。STTを利用する場合には、磁気抵抗効果素子1000の積層方向に電流を流すための配線130が必要となり、配線は磁化固定層103上に直接、または、他の層例えば、キャップ層104を介して形成される。
【0050】
以下では、スピン軌道トルク配線が磁気抵抗効果素子部の積層方向に対して交差する方向に延在する構成の例として、直交する方向に延在する構成の場合について説明する。
【0051】
<磁気抵抗効果素子部>
磁気抵抗効果素子部105は、磁化の向きが固定された磁化固定層103と、磁化の向きが可変な磁化自由層101と、磁化固定層103及び磁化自由層101に挟持された第2非磁性層102とを有する。
磁化固定層103の磁化が一方向に固定され、磁化自由層101の磁化の向きが相対的に変化することで、磁気抵抗効果素子部105として機能する。保磁力差型(擬似スピンバルブ型;Pseudo spin valve 型)のMRAMに適用する場合には、第2強磁性金属層の保持力は第1強磁性金属層の保磁力よりも大きいものであり、また、交換バイアス型(スピンバルブ;spin valve型)のMRAMに適用する場合には、第2強磁性金属層では反強磁性層との交換結合によって磁化の向きが固定される。
また、磁気抵抗効果素子部105は、第2非磁性層102が絶縁体からなる場合は、トンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistance)素子であり、第2非磁性層102が金属からなる場合は巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magnetoresistance)素子である。
【0052】
本発明が備える磁気抵抗効果素子部としては、公知の磁気抵抗効果素子部の構成を用いることができる。例えば、各層は複数の層からなるものでもよいし、第2強磁性金属層の磁化の向きを固定するための反強磁性層等の他の層を備えてもよい。
磁化固定層103は磁化固定層や参照層、磁化自由層101は磁化自由層や記憶層などと呼ばれる。
【0053】
磁化固定層103は、磁化方向が層に平行な面内方向である面内磁化膜でも、磁化方向が層に対して垂直方向である垂直磁化膜でもいずれでもよい。
【0054】
第3強磁性金属層である磁化固定層103の材料には、公知のものを用いることができる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属及びこれらの金属を1種以上含み強磁性を示す合金を用いることができる。またこれらの金属と、B、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とを含む合金を用いることもできる。具体的には、Co−FeやCo−Fe−Bが挙げられる。
【0055】
また、より高い出力を得るためにはCo
2FeSiなどのホイスラー合金を用いることが好ましい。ホイスラー合金は、X
2YZの化学組成をもつ金属間化合物を含み、Xは、周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、Yは、Mn、V、CrあるいはTi族の遷移金属でありXの元素種をとることもでき、Zは、III族からV族の典型元素である。例えば、Co
2FeSi、Co
2MnSiやCo
2Mn
1−aFe
aAl
bSi
1−bなどが挙げられる。
【0056】
また、磁化固定層103の磁化自由層101に対する保磁力をより大きくするために、磁化固定層103と接する材料としてIrMn、PtMnなどの反強磁性材料を用いてもよい。
【0057】
さらに、磁化固定層103の漏れ磁場を磁化自由層101に影響させないようにするため、磁化固定層103はシンセティック構造を有するものとしてもよい。
磁化固定層103もシンセティック構造であることによって、さらに熱安定性を確保することができる。
【0058】
さらに磁化固定層103の磁化の向きを積層面に対して垂直にする場合には、CoとPtの積層膜を用いることが好ましい。具体的には、磁化固定層103は[Co(0.24nm)/Pt(0.16nm)]
6/Ru(0.9nm)/[Pt(0.16nm)/Co(0.16nm)]
4/Ta(0.2nm)/FeB(1.0nm)とすることができる。
【0059】
第2非磁性層102には、公知の材料を用いることができる。
例えば、第2非磁性層102が絶縁体からなる場合(トンネルバリア層である場合)、その材料としては、Al
2O
3、SiO
2、MgO、及び、MgAl
2O
4等を用いることができる。またこれらの他にも、Al、Si、Mgの一部が、Zn、Be等に置換された材料等も用いることができる。これらの中でも、MgOやMgAl
2O
4はコヒーレントトンネルが実現できる材料であるため、スピンを効率よく注入できる。
また、第2非磁性層102が金属からなる場合、その材料としては、Cu、Au、Ag等を用いることができる。
【0060】
また、磁化固定層103の第2非磁性層102と反対側の面には、キャップ層104を備えることが好ましい。キャップ層104は、磁化固定層103からの元素の拡散を抑制することができる。またキャップ層104は、磁気抵抗効果素子部105の各層の結晶配向性にも寄与する。その結果、キャップ層104を設けることで、磁気抵抗効果素子部105の磁化固定層103及び磁化自由層101の磁性を安定化し、磁気抵抗効果素子部105を低抵抗化することができる。
【0061】
キャップ層104には、導電性が高い材料を用いることが好ましい。例えば、Ru、Ta、Cu、Ag、Au等を用いることができる。キャップ層104の結晶構造は、隣接する強磁性金属層の結晶構造に合せて、fcc構造、hcp構造またはbcc構造から適宜設定することが好ましい。
【0062】
また、キャップ層104には、銀、銅、マグネシウム、及び、アルミニウムからなる群から選択されるいずれかを用いることが好ましい。
【0063】
<基板>
基板110は、平坦性に優れることが好ましい。平坦性に優れた表面を得るために、材料として例えば、Si、AlTiC等を用いることができる。
【0064】
基板110の反強磁性スピン軌道トルク配線120側の面には、下地層(図示略)が形成されていてもよい。下地層を設けると、基板110上に積層される反強磁性スピン軌道トルク配線120を含む各層の結晶配向性、結晶粒径等の結晶性を制御することができる。
【0065】
下地層は、絶縁性を有していることが好ましい。反強磁性スピン軌道トルク配線120等に流れる電流が散逸しないようにするためである。下地層には、種々のものを用いることができる。
例えば1つの例として、下地層には(001)配向したNaCl構造を有し、Ti、Zr、Nb、V、Hf、Ta、Mo、W、B、Al、Ceの群から選択される少なくとも1つの元素を含む窒化物の層を用いることができる。
【0066】
他の例として、下地層にはXYO
3の組成式で表される(002)配向したペロブスカイト系導電性酸化物の層を用いることができる。ここで、サイトXはSr、Ce、Dy、La、K、Ca、Na、Pb、Baの群から選択された少なくとも1つの元素を含み、サイトYはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Nb、Mo、Ru、Ir、Ta、Ce、Pbの群から選択された少なくとも1つの元素を含む。
【0067】
他の例として、下地層には(001)配向したNaCl構造を有し、かつMg、Al、Ceの群から選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物の層を用いることができる。
【0068】
他の例として、下地層には(001)配向した正方晶構造または立方晶構造を有し、かつAl、Cr、Fe、Co、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Mo、Wの群から選択される少なくとも1つの元素を含む層を用いることができる。
【0069】
また、下地層は一層に限られず、上述の例の層を複数層積層してもよい。下地層の構成を工夫することにより磁気抵抗効果素子部105の各層の結晶性を高め、磁気特性の改善が可能となる。
【0070】
<配線>
配線130は、磁気抵抗効果素子部105の磁化固定層103に電気的に接続され、
図5においては、配線130と反強磁性スピン軌道トルク配線120と電源(図示略)とで閉回路を構成し、磁気抵抗効果素子部105の積層方向に電流が流される。
【0071】
配線130は、導電性の高い材料であれば特に問わない。例えば、アルミニウム、銀、銅、金等を用いることができる。
【0072】
図5に示した磁気抵抗効果素子1000において、基板110から遠い側に磁化固定層(ピン層)が配置するいわゆるボトムピン構造の例を挙げたが、磁気抵抗効果素子1000の構造は特に限定されるものではなく、いわゆるトップピン構造であってもよい。
【0073】
(磁気メモリ)
本発明の磁気メモリ(MRAM)は、本発明の磁気抵抗効果素子を複数備える。
【0074】
(製造方法)
本発明のスピン流磁化反転素子は、スパッタリング法等の公知の成膜技術と、フォトリソグラフィー及びArイオンミリング等の公知の形状加工技術を用いて得ることができる。以下では、スピン流磁化反転素子を適用した磁気抵抗効果素子の製造方法について説明することでスピン流磁化反転素子の製造方法の説明も兼ねる。
【0075】
まず支持体となる基板上に反強磁性スピン軌道トルク配線を作製する。反強磁性スピン軌道トルク配線を構成する金属の層をスパッタ法を用いて成膜する。反強磁性スピン軌道トルク配線を構成するが合金である場合には、2元同時スパッタ法を用いて成膜する。組成比の調整は、印加DC電圧を変え各々のスパッタリングレートを調整することで種々の組成比を実現することができる。次いで、フォトリソグラフィー等の技術を用いて、反強磁性スピン軌道トルク配線を所定の形状に加工する。
【0076】
そして、反強磁性スピン軌道トルク配線以外の部分は、酸化膜等の絶縁膜で覆う。反強磁性スピン軌道トルク配線及び絶縁膜の露出面は、化学機械研磨(CMP)により研磨することが好ましい。
【0077】
次いで、磁気抵抗効果素子を作製する。磁気抵抗効果素子はスパッタリング等の公知の成膜手段を用いて作製できる。磁気抵抗効果素子がTMR素子の場合、例えば、トンネルバリア層は第1強磁性金属層上に最初に0.4〜2.0nm程度のマグネシウム、アルミニウム、及び複数の非磁性元素の二価の陽イオンとなる金属薄膜をスパッタリングし、プラズマ酸化あるいは酸素導入による自然酸化を行い、その後の熱処理によって形成される。成膜法としてはスパッタリング法のほか、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法等が挙げられる。
【0078】
得られた積層膜は、アニール処理することが好ましい。反応性スパッタで形成した層は、アモルファスであり結晶化する必要がある。例えば、強磁性金属層としてCo−Fe−Bを用いる場合は、Bの一部がアニール処理により抜けて結晶化する。
【0079】
アニール処理して製造した磁気抵抗効果素子は、アニール処理しないで製造した磁気抵抗効果素子と比較して、MR比が向上する。アニール処理によって、非磁性層3のトンネルバリア層の結晶サイズの均一性および配向性が向上するためであると考えられる。
【0080】
アニール処理としては、Arなどの不活性雰囲気中で、300℃以上500℃以下の温度で、5分以上100分以下の時間加熱した後、2kOe以上10kOe以下の磁場を印加した状態で、100℃以上500℃以下の温度で、1時間以上10時間以下の時間加熱することが好ましい。
【0081】
磁気抵抗効果素子を所定の形状にする方法としては、フォトリソグラフィー等の公知の加工手段を利用できる。まず磁気抵抗効果素子を積層した後、磁気抵抗効果素子の反強磁性スピン軌道トルク配線と反対側の面に、レジストを塗工する。そして、所定の部分のレジストを硬化し、不要部のレジストを除去する。レジストが硬化した部分は、磁気抵抗効果素子の保護膜となる。レジストが硬化した部分は、最終的に得られる磁気抵抗効果素子の形状と一致する。
【0082】
そして、保護膜が形成された面に、イオンミリング、反応性イオンエッチング(RIE)等の処理を施す。保護膜が形成されていない部分は除去され、所定の形状の磁気抵抗効果素子が得られる。