特許第6972543号(P6972543)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972543
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】偏光解消素子
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20211111BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20211111BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20211111BHJP
   G02F 1/13363 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   G02B5/30
   H05B33/02
   H05B33/14 A
   G02F1/13363
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-235956(P2016-235956)
(22)【出願日】2016年12月5日
(65)【公開番号】特開2018-92032(P2018-92032A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(72)【発明者】
【氏名】江森 諭
(72)【発明者】
【氏名】牛山 章伸
【審査官】 酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−027259(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/114211(WO,A1)
【文献】 特開2013−152439(JP,A)
【文献】 特開2009−251035(JP,A)
【文献】 特開2011−257479(JP,A)
【文献】 特開2012−173452(JP,A)
【文献】 特開2012−194221(JP,A)
【文献】 特開2016−024289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
H05B 33/02
H01L 51/50
G02F 1/13363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した光に対して複数の位相差を与えて出射する偏光解消素子であって、
ポジティブAの特性を有する液晶材料とポジティブCの特性を有する液晶材料とが含有されて混在し、少なくとも2種類の異なる位相差を有する領域がまだら模様を形成するように混在する液晶層を備え、1の前記領域の領域内では位相差が一定である、偏光解消素子。
【請求項2】
前記液晶層は厚さが均一である請求項1に記載の偏光解消素子。
【請求項3】
正面位相差をRe、厚み位相差をRthとしたとき、
Nz=(Rth/Re)+0.5
で表されるNz係数について、波長450nmのときのNz係数をN450、波長550nmのときのNz係数をN550としたとき、
450<N550
が成り立つ、請求項1又は2に記載の偏光解消素子。
【請求項4】
前記液晶層の液晶について、波長450nmにおける複屈折率をΔn450、波長550nmにおける複屈折率をΔn550、波長650nmにおける複屈折率をΔn650としたとき、
Δn450<Δn550<Δn650
の関係である、請求項1乃至3のいずれかに記載の偏光解消素子。
【請求項5】
波長380nm以上780nm以下の波長範囲において、いずれの波長でも透過率が0.2以上0.8以下である請求項1乃至4のいずれかに記載の偏光解消素子。
【請求項6】
吸収軸が平行な2枚の偏光板の間に、前記吸収軸に対して平面視で45°で光軸が傾くように前記偏光解消素子を配置したときに、波長380nm以上780nm以下の波長範囲において、いずれの波長でも透過率が0.2以上0.8以下である請求項5に記載の偏光解消素子。
【請求項7】
厚さが20μm以下である請求項1乃至6のいずれかに記載の偏光解消素子。
【請求項8】
画像を出射する画像表示ユニットと、
前記画像表示ユニットの画像出射側に配置される請求項1乃至7のいずれかに記載の偏光解消素子と、を備える表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光状態にある光の当該偏光状態を解消し、全体として非偏光状態の光に変える偏光解消素子に関する。
【背景技術】
【0002】
位相状態が揃った光(偏光した光)は規則性が強いため干渉の発生があったり、偏光サングラス等の偏光板を透過できず不具合を生じたりするため、位相が揃った状態(偏光状態)を解消する必要がある。
【0003】
そのための手段として、例えば特許文献1に記載のような高い位相差を有するフィルムを適用する技術、及び、特許文献2に記載のように膜厚の異なる複数の領域を有する素子を適用する技術がある。
【0004】
また、特許文献3に記載のように透明樹脂中に複屈折を有する無機粒子を分散させることにより無秩序に屈折させて偏光状態を解消する技術もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3105374号公報
【特許文献2】特開2014−2286号公報
【特許文献3】特開2012−88507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1に記載のような高い位相差を有するフィルムは、波長により透過率が大きく異なるため、入射した光によっては、透過により色が変わってしまうことがある。また特許文献2に記載のような素子では素子の厚さが厚くなってしまうとともに、位相差が異なる領域が複数あれば偏光解消素子としての機能は発現するものの、波長による透過率に偏りができ、色味がついてしまう問題があった。
【0007】
また、特許文献3のように透明樹脂中に複屈折を有する無機粒子を分散させる技術では、屈折率が異なる粒子が分散されているため透明性が損なわれヘイズが高くなってしまう。
【0008】
そこで本発明は、上記の問題に鑑み、透明性を高く維持しつつ、透過による色味の変化を少なくすることができるとともに、厚くなることを抑えることが可能な偏光解消素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明について説明する。
【0010】
本発明の1つの態様は、入射した光に対して複数の位相差を与えて出射する偏光解消素子であって、少なくとも2種類の異なる位相差状態を有する領域がまだら模様を形成するように混在する液晶層を備える、偏光解消素子である。
【0011】
このような液晶層は厚さが均一であってもよい。
【0012】
また、上記偏光解消素子において、正面位相差をRe、厚み位相差をRthとしたとき、
Nz=(Rth/Re)+0.5
で表されるNz係数について、波長450nmのときのNz係数をN450、波長550nmのときのNz係数をN550としたとき、
450<N550
が成り立つように構成することができる。
【0013】
また、液晶層の液晶について、波長450nmにおける複屈折率をΔn450、波長550nmにおける複屈折率をΔn550、波長650nmにおける複屈折率をΔn650としたとき、
Δn450<Δn550<Δn650
の関係であるものとすることができる。
【0014】
また、上記の偏光解消素子では、波長380nm以上780nm以下の波長範囲において、いずれの波長でも透過率を0.2以上0.8以下とすることができる。
【0015】
その際、吸収軸が平行な2枚の偏光板の間に、吸収軸に対して平面視で45°で光軸が傾くように偏光解消素子を配置したときに、波長380nm以上780nm以下の波長範囲において、いずれの波長でも透過率が0.2以上0.8以下であるとしてもよい。
【0016】
上記偏光解消素子は厚さが20μm以下とすることができる。
【0017】
また、画像を出射する画像表示ユニットと、画像表示ユニットの画像出射側に配置される上記の偏光解消素子と、を備える表示装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、液晶層に複数の異なる位相差領域が混在し、全体として透過光の偏光状態を解消することができる。その際には、可視光波長ごとによる透過率の差を小さくすることができるため、透過による色の変化を抑えることが可能となる。そして、液晶層により構成するため層を薄くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】偏光解消素子10の斜視図である。
図2】液晶層12の位相差領域について説明する図である。
図3】透過率に関する偏光解消素子10の作用を説明するグラフである。
図4】画像形成装置1を概念的に示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を図面に示す形態に基づき説明する。ただし、本発明はこれら形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は第一の形態を説明する図であり、偏光解消素子10の斜視図である。図1からわかるように、本形態の偏光解消素子10は、基材11及び該基材11に積層された液晶層12を有して構成されている。
【0022】
基材11は、その一方の面に液晶層12を積層するための基材となる透明層である。基材11をなす材料としては、種々の材料を使用することができる。ただし、光学的な素子を構成する部材の材料として広く使用され、優れた機械的特性、光学特性、安定性および加工性等を有するとともに安価に入手可能な材料を用いることができる。これには例えば脂環式構造を有する重合体樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、ABS樹脂、ポリエーテルスルホン等の熱可塑性樹脂や、エポキシアクリレートやウレタンアクリレート系の反応性樹脂(電離放射線硬化型樹脂等)、トリアセチルセルロール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、及びガラス等を挙げることができる。
そしてその厚さは10μm〜1000μmで構成することができる。
【0023】
液晶層12は、基材11に積層された液晶材料からなる層である。そして本形態では液晶層12のうち、基材11側とは反対側の面は平滑面とされている。従って本形態では、液晶層12はその表裏は平滑で厚さが一定な液晶層により構成されている。
【0024】
液晶層12は、図2に示したように、層面に沿った面内において、少なくとも異なる2つの位相差がそれぞれ領域を有して、まだら模様を形成するように混在している。本形態では、図2からわかるように、ハッチングして示した第一の位相差状態Aの領域と、白抜きで示した第二の位相差状態Bの領域と、がまだら模様を形成するように混在している。
すなわち、液晶層12では、1の位相差領域と他の位相差領域とが特定の周期を有することなく入り混じってむらがあるように混在している状態である。
このような液晶層12によれば、所定の偏光状態にある入射光の当該偏光状態を変換して非偏光状態として出光することができ、偏光解消素子としてその基本的機能を発揮することができる。より詳しくは後で説明する。
【0025】
液晶層12は、ポジティブAの特性を有する液晶材料とポジティブCの特性を有する液晶材料と、が含有されて混在することにより構成されている。
【0026】
ここでポジティブAの特性とは、層面に沿ったX軸方向の屈折率をNx、層面に沿った方向でX軸に直交するY軸方向の屈折率をNy、層厚方向の屈折率をNzとしたとき、Nx>Ny≒Nzの関係であるとともに、光軸がNx方向となる特徴を有するものである。
【0027】
このようなポジティブAの特性を有する液晶層を構成できる重合性棒状液晶材料は、例えば次の化学式で表される化学式(1)〜(17)のような材料を挙げることができる。
【0028】
【化1】
【0029】
【化2】
【0030】
また、ポジティブCの特性とは、層面に沿ったX軸方向の屈折率をNx、層面に沿った方向でX軸に直交するY軸方向の屈折率をNy、層厚方向の屈折率をNzとしたとき、Nz>Nx≒Nyの関係であるとともに、光軸がNz方向となる特徴を有するものである。
【0031】
このようなポジティブCの特性を有する液晶材料としては垂直方向(配向層の厚み方向)の配向規制力により垂直配向する液晶材料であって、分子内に重合性官能基を有する種々の棒状液晶化合物を適用することができる。具体的には、例えば、特開2015―191143号公報に開示の構成を適用することができる。より具体的には、メルク株式会社製RMM28B、DIC株式会社製UCL−018等を適用することができる。
【0032】
液晶層12を構成する液晶について、波長450nmにおける複屈折率をΔn450、波長550nmにおける複屈折率をΔn550、波長650nmにおける複屈折率をΔn650としたとき、
Δn450<Δn550<Δn650
の関係とすることもできる。すなわち、可視光領域において短波長側から長波長側にかけて位相差が大きくなる波長分散性(逆分散性)を有している液晶層とすることができる。
従来において、逆分散性の材料としては、フルオレンを用いたポリカーボネート共重合樹脂が知られているが、これを用いると部材が厚くなってしまう。
液晶材料についてみると逆分散性を有する重合性液晶化合物が挙げられる。しかしながら、このような重合性液晶化合物では薄膜化は可能になるが、正分散性材料よりコストが高く、広く製品を供給する観点から問題がある。これに対して、上記構成とすることにより、逆分散性の液晶材料とすれば、コストを抑えつつも色味のつかなく、より薄い偏光解消素子とすることができる。
【0033】
そして偏光解消素子10を構成する液晶層12によれば、上記した特徴である、1の位相差領域と他の位相差領域とが特定の周期を有さずに互いに混在している状態とすることにより、このような特徴を有しない液晶層に対して全体として全く異なる特性を付与することも可能である。
例えば、正面位相差をRe、厚み位相差をRthとしたとき、Nz係数は、
Nz=(Rth/Re)+0.5
で表されるが、本形態の偏光解消素子では、波長450nmのときのNz係数であるN450と、波長550nmのときのNz係数であるN550との間で、
450<N550
とすることも可能である。
このように偏光解消素子では、従来の液晶層の特性の範囲を超えて位相差を制御することも可能であり、設計自由度の高い偏光解消素子となる。
【0034】
そして本形態では、液晶層を用いているので、非常に薄い素子により偏光状態を解消することができる。例えば、偏光解消素子10の厚さを20μm以下とすることができる。
また、可撓性を有する材料により構成することができるので、素子に可撓性を持たせ、偏光光学素子10を適用する対象の形状に対して柔軟に対応することが可能である。
【0035】
また、本発明では液晶を用いて位相差が異なる複数の光に変換するため、無機粒子を分散させたときに起こるようなヘイズの上昇がなく、ヘイズの上昇を低く抑えた状態で光を透過させることが可能である。具体的にはヘイズ値が5%以下である偏光解消素子を形成することも可能である。
【0036】
以上のような構成を有する偏光解消素子10は例えば次のように作用する。
位相が揃った(所定の偏光状態にある)光が偏光解消素子10に入射する。その際、この光は液晶層12を透過する。
ここで、本形態の偏光解消素子10では、液晶層12において、図2に示したように、領域A及び領域Bの少なくとも2つの異なる位相差を有する領域が混在している。従って、本形態の偏光解消素子10では、位相が揃った(所定の偏光状態にある)光が偏光解消素子10を透過した結果、2種類の位相差を有する光となり、単一の位相差(偏光)状態を解消することができる。
【0037】
また、その際には、以下に説明するように、偏光解消素子10では波長による透過率の差を抑えることができ、色の変化を抑制しつつ光を透過することが可能となる。図3に説明のための図を示した。図3は横軸に波長、縦軸に透過率をとったグラフである。
図3からわかるように、領域Aにおける透過率の特性と、領域Bにおける透過率の特性と、を合成した透過率が偏光解消素子10の全体の透過率となるので、波長ごとの透過率が一定(例えば0.5付近)となるように調整すれば、波長による透過率の偏りを抑制した透過率特性を有する素子とすることができる。
これにより偏光解消素子10では可視光域における波長による透過率の差を抑えることができ、色の変化を抑制しつつ光を透過することが可能となる。すなわち、偏光解消素子10を画像表示装置やサングラス等に用いた場合でも、オリジナルの画像の色からの色の変化を抑えて観察者に提供することができる。従って、従来の偏光解消素子において透過光における色の変化が問題となることがあったが、このような課題に対して、本発明により解消することが可能となる。
【0038】
同様に、画像表示装置の光源が急峻な発光スペクトルを有している場合、従来の偏光解消素子では、この発光スペクトルと偏光解消素子の波長透過率特性との関係で所定の色の透過率が極端に低くなり偏光解消素子を透過すると色が大きく変化してしまう問題があった。このような課題に対しても本発明によれば光源光の色の変化を抑制して透過することができ、光源の種類を選ばず偏光状態の解消をすることが可能となる。
【0039】
波長が可視光領域である波長380nm以上780nm以下の範囲において、いずれの波長でも透過率が0.2以上0.8以下であることが好ましい。より好ましくはいずれの波長でも透過率が0.3以上0.7以下、最も好ましくは0.4以上0.6以下である。この透過率は、2枚の偏光板(透過軸が平行又は直交する状態)の間に偏光解消素子をその光軸が偏光板の吸収軸に対して45度傾いた姿勢で挿入したときの透過率により定義できる。
【0040】
また、偏光解消素子10は上記のように薄く、そして液晶層12を上記のように構成することで、偏光解消素子内を斜め方向に進行する光と、偏光解消素子内を厚さ方向に平行に進行する光とに大きな差異が生じ難くなる。これにより、偏光解消素子内を斜めに進行する光があっても偏光解消状態や色について所望した設計どおりの性能を得やすい。
従来の技術では、素子内を斜めに進行した光が他の位相差領域にまたがって進んでしまうため、予定した位相差状態を得られなかったり、色の変化が生じたりしてしまう。従ってこのような設計どおりの位相差状態及び色変化を精度よく実現する課題に対しても本発明の偏光解消素子により、当該課題を解決することができる。
【0041】
以上のような偏光解消素子10は例えば次のように作製することができる。
【0042】
初めに偏光解消素子10の液晶層12を構成する材料を準備する。液晶層12は、ポジティブAの特性を有する液晶材料と、ポジティブCの特性を有する液晶材料を用いて作製する。ポジティブA、ポジティブCの特性、及び当該材料の例示は上記の通りである。
【0043】
次に、上記した両方の液晶材料、並びに、例えば重合開始剤、界面活性剤、及び溶剤を混合して組成物を得る。具体的な一例を挙げれば、ポジティブAのための液晶として上記化学式(11)、及び化学式(17)の液晶、ポジティブCのための液晶としてメルク株式会社製のRMM28Bを用い、これらを0.11:0.11:0.78の割合とする。そして重合開始剤としてBASF株式会社製のイルガキュア907、界面活性剤としてDIC株式会社製のメガファックF477、溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)とメチルイゾブチルケトン(MIBK)との1:1混合溶剤を用いることができる。そして、液晶材料が25質量%で含まれた組成物を用いることが可能である。
【0044】
選択する液晶材料の種類、及び、混合割合により各領域が有するそれぞれの位相差、各領域の割合が決まり、これにより所望の性能を有する偏光解消素子を得ることができる。
【0045】
上記のようにして得た組成物を基材11の面に塗工する。塗工方法は特に限定されることはないが、例えばバーコーターにより塗工することができる。
なお、基材11の面に配向膜を積層し、ここに上記組成物を塗工してもよい。配向膜を構成する材料は公知のものを適用することができる。
【0046】
次に、上記した組成物に対して、図2に示して説明したような異なる位相差の領域が混在した状態(まだら模様の構造)を形成するために温度制御を行う。具体的には高い温度から徐冷し、所望の混在状態(まだら模様)となる温度に急冷し、硬化させる。例えば、最初に90℃で1分加熱し、60℃で1分加熱することで冷却する。ただし、所望の混在状態(まだら模様)とするために最初の加熱温度、時間、及び冷却の加熱温度、時間は適宜調整することができる。
【0047】
以上のような各過程によって偏光解消素子を製造することで、上記した構造の液晶層12を得ることができる。より具体的には次のようなものである。
すなわち、配向温度の異なる複数種類の液晶材料(本形態ではポジティブAの特性を有する液晶材料と、ポジティブCの特性を有する液晶材料)を混ぜて冷却することで、配向状態が変化する起点となる部位が生じてここから配向状態の変化が始まる。そして配向状態が変化する当該起点となる部位はランダムに発生する。
例えば、冷却過程の温度履歴等によりこの配向状態を制御することができる。
また、複数種類の液晶材料の配合比率を変えることにより配向状態の変化の速度を変えることも可能である。
また、冷却速度を変えることにより配向状態が変化する起点となる部位の数を制御することができる。冷却速度を大きくすることにより起点となる部位の数を多くすることが可能である。
このように、冷却のための温度制御と、複数種類の液晶材料の配合比率制御をすることにより、位相差が異なる領域を上記まだら模様のように得ることができる。
【0048】
上記説明した偏光解消素子10に対して、基材層11と液晶層12との間に配向膜を設けてもよい。配向膜としては公知のものを用いることができる。そして配向膜を用いることにより、その偏光露光で決めた任意の方向を光軸とすることができ、光軸制御を精度よく容易に行うことができる。
【0049】
さらに、偏光解消素子10に対して基材11が無い液晶層12のみにより偏光解消素子を構成することもできる。このような偏光解消素子によれば、さらに素子を薄くすることができる。
このような偏光解消素子は、基材11のうち液相層12が積層される側の面に剥離をしやすくする処理(例えば離型材の塗工)を施しておき、基材11に液晶層12を塗工して硬化した後に、基材11を剥離することにより作製することができる。
【0050】
上記した偏光解消素子10は、例えば、液晶表示装置などの表示装置に配置されることにより、偏光状態にある光に起因して生じる不具合を解消することができる。1つの形態として表示装置1は、図4に示したように、画像を出射する画像表示ユニット2、及び画像表示ユニット2の画像出射側に配置される偏光解消素子10を備え、これが他の必要な機器と組み合わされて不図示の筐体に収められることにより構成されている。
【0051】
表示装置1の具体的な態様例として液晶表示装置1が挙げられ、その際には画像表示ユニット2は液晶表示ユニット2であり、ここには画像源となる液晶からなる層とその表裏に配置された偏光板を具備する液晶パネルが含まれている。液晶表示ユニット2は公知のものでよく、既存の形態を用いることができる。
通常の液晶表示装置では、該液晶表示装置から出射される光は液晶パネルの性質上、所定の偏光状態となっているので、偏光サングラスをかけて通常の液晶表示装置による画面を見た場合、画像がほとんど見えないことがある。これに対して液晶表示ユニット2の出射側に偏光解消素子10を配置して液晶表示装置1を形成すれば、観察者は偏光状態が解消された映像光を見ることができるので、例えば偏光サングラスをかけた状態でも映像を見ることができる。
【0052】
表示装置が液晶表示装置である場合には、ここに具備される偏光解消素子は次のような構成を有していることが好ましい。
液晶表示ユニット2には、公知の通り、液晶からなる層と、該液晶からなる層の表裏(光源側と観察者側)のそれぞれに偏光板と、が配置されている。これら偏光板のうち観察者側に配置されている偏光板を準備し(偏光板a)、さらにこの偏光板aと平行な透過軸を有する他の偏光板を準備し(偏光板b)、偏光板aと偏光板bとの間に偏光解消素子10を配置する。このとき、偏光解消素子10の光軸が偏光板aの吸収軸に対して正面からみて45度となるように設置する。
このような偏光板a、偏光解消素子10、及び偏光板bの積層体に対して偏光板a側から光を照射し、出光側にて分光光度計で測定したとき、可視光領域である波長380nm以上780nm以下の範囲において、いずれの波長でも透過率が0.2以上0.8以下であることが好ましい。より好ましくはいずれの波長でも透過率が0.3以上0.7以下、最も好ましくは0.4以上0.6以下である。
【0053】
なお、ここでは液晶表示ユニットの場合を説明したが、偏光板を備える他の種類の表示ユニットでも同様に構成することができる。これには例えば有機EL表示ユニットが挙げられる。すなわち、表示ユニットに備えられる偏光板を準備し(偏光板a)、さらにこの偏光板aと平行な透過軸を有する他の偏光板を準備し(偏光板b)、偏光板aと偏光板bとの間に偏光解消素子10を配置する。このとき、偏光解消素子10の光軸が偏光板aの吸収軸に対して正面からみて45度となるように設置する。
このような偏光板a、偏光解消素子10、及び偏光板bの積層体に対して偏光板a側から光を照射し、出光側にて分光光度計で測定したとき、可視光領域である波長380nm以上780nm以下の範囲において、いずれの波長でも透過率が0.2以上0.8以下であることが好ましい。より好ましくはいずれの波長でも透過率が0.3以上0.7以下、最も好ましくは0.4以上0.6以下である。
【符号の説明】
【0054】
10 偏光解消素子
11 基材
12 液晶層
図1
図2
図3
図4