(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維(ガラスファイバーあるいはガラスフィラメントともいう)は、一般に略矩形状の外観を有するブッシング装置(白金加熱容器ともいう)と呼称される成形装置を使用して溶融ガラスを連続的に繊維状に成形(紡糸)することで製造されている。ブッシング装置は、溶融ガラスの一時滞留機能を有するポット形状の容器の底部に配設されるものであるが、白金等の耐熱性金属材料により構成されており、多数のノズル部(又はオリフィス部)を備えている。このブッシング装置によって、溶融ガラスをブッシングノズル先端における最適な温度、すなわちその高温粘性が10
3dPa・sに相当する温度となるように温度管理を行う。そして、溶融ガラスをブッシングノズルから連続的に流出して急冷し、ガラス繊維として成形(紡糸)する。
【0003】
ガラス繊維の成形を行う場合、溶融ガラスの液相温度Tyが、ガラスの成形温度Tx(ガラスの高温粘性が10
3dPa・sに相当する温度)以上になると、ブッシングノズル近傍部で失透の原因となる結晶が溶融ガラス中に析出し易くなる。その結果、ブッシングノズルが詰まり、ブレークとも称される糸切れの原因となる。このため、溶融ガラスの液相温度Tyは成形温度Txよりも低い(すなわち、温度差ΔTxy=Tx−Ty>0である)ことが必要であり、更に、温度差ΔTxyは大きい方が好ましい。ただし、成形温度Txを上昇させると溶融ガラスの液相温度Tyとの温度差(ΔTxy)は大きくなるが、この場合、溶融に要するエネルギーの上昇による製造原価の上昇を招くことやブッシング装置等の付帯設備の寿命を短くするという問題を発生させることになる。よって成形温度Txは低くすることが好ましい。
【0004】
このように、ガラス繊維の製造において、成形温度Txや温度差ΔTxyの管理が非常に重要であるが、その一方で、ガラス繊維含有複合材料の高機能化が求められ、より弾性率に優れたガラス繊維の需要が高まっている。そのような特性のガラス繊維用ガラスとしては、SiO
2、Al
2O
3及びMgOのガラス組成物からなるSガラスや、SiO
2、Al
2O
3、MgO、CaOのガラス組成物からなるRガラスが知られているが、これらは成形温度Txが高く、温度差ΔTxyが小さいため、生産性に問題があった。
【0005】
そこで特許文献1では、繊維化温度(すなわち成形温度Tx)やΔT(すなわち温度差ΔTxy)の改良を目的とした新規の高弾性ガラスとして、SiO
2、Al
2O
3とMgO、CaOをはじめとするアルカリ土類金属、アルカリ金属酸化物等の含有量を規制したガラス繊維用組成物が開示されている。
【0006】
加えて、更なる要求として、微細な構造制御を要する機能部材に利用される用途として、細番手のガラス繊維製品への要望も高まっている。例えば、プリント配線基板等では、絶縁基材を介して設けられた任意の導体層間を連結する0.1mm以下の導通孔(ビアホール、ビア、スルーホール、インナビアホール、ブラインドビアホール、バイアホール等と呼称される)をドリル加工やレーザー加工する必要があり、そのような高精度の加工を基板に施すためには、細番手のガラス繊維を使用することが好ましい。
【0007】
細番手のガラス繊維を紡糸するためには、ブッシングのノズル径を細くすればよいが、細くすればするほど、ノズルのクリープ変形等の問題が発生し易くなり、ブッシングのベースプレートの耐用時間が短くなるという問題がある。このような問題を回避するため、特許文献2や特許文献3などでは、ブッシングやノズルの形状を限定している。また、上記したようなブッシングによるガラス繊維の成形では、ノズルの詰まりは繊維の切断につながり、製品歩留まりを低下させることになるため、それを防止することが重要である。そこで、特許文献4では、ノズルに不均質な異物などが流れてこないようにするための堰を設けている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1で開示されたガラス繊維においては、繊維化温度(すなわち成形温度Tx)が低く且つΔT(温度差ΔTxy)が大きいガラス繊維用組成物は存在せず、細番手のガラス繊維製造にも対応し難いと考えられる。更に、特許文献1で得られるガラス繊維の弾性率は必ずしも十分に高いとはいえないものである。
【0010】
また、細番手に対応するために設備を変更すると、従来想定されていなかった以下のような製造上の問題を新たに発生させる。例えば、ブッシングノズル径を細くすると、設備寿命が短くなるだけではなく、従来問題とされなかった微細な寸法の異物や溶融ガラスの失透までもが糸切れの原因となる。
【0011】
本発明は、高い弾性率を有し、生産性が良好であり、更に細番手のガラス繊維の製造も容易にできるようなガラス繊維用組成物及びガラス繊維、ガラス繊維を含有するガラス繊維含有複合材料、並びにガラス繊維の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のガラス繊維用組成物は、ガラス組成として、酸化物換算の質量百分率表示で、SiO
2 50〜70%、Al
2O
3 15〜25%、MgO 3〜13%、CaO 3〜15%、B
2O
3 0.5〜5%を含有することを特徴とする。このようにすることで、高い弾性率を有し、生産性が良好であり、更に細番手のガラス繊維の製造も容易にできるガラス繊維用組成物とすることができる。
【0013】
本発明のガラス繊維用組成物は、成形温度Txと液相温度Tyとの温度差ΔTxyが90℃以上であることが好ましい。このようにすることで、温度差ΔTxyが大きいために特に生産性が良く、細番手のガラス繊維の製造も容易にできるガラス繊維用組成物とすることができる。尚、成形温度Txとは、溶融ガラスの高温粘度が10
3dPa・sに相当する温度のことである。液相温度Tyは、標準篩30メッシュ(300μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金製容器に入れた後、温度勾配炉中に16時間保持して、結晶の析出温度を特定した。また、温度差ΔTxyは、成形温度Txと液相温度Tyの差を算出した。
【0014】
本発明のガラス繊維用組成物は、成形温度Txが1365℃以下であることが好ましい。このようにすることで、低温で繊維化できるようになることから、ブッシング等の繊維化設備の長寿命化が図れ、生産コストを低減することができる。
【0015】
本発明のガラス繊維用組成物は、弾性率Eが90GPa以上であることが好ましい。このようにすることで、応力に対する歪が小さく物理的強度の強いガラス繊維含有複合材料を得ることができる。
【0016】
本発明のガラス繊維用組成物は、線熱膨張係数αが45×10
−7/℃以下であることが好ましい。このようにすることで、高温環境下でも熱応力を小さくでき、ガラス繊維含有複合材料の耐熱性を向上させることができる。尚、線熱膨張係数αは30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数である。
【0017】
本発明のガラス繊維は、前記ガラス繊維組成物からなるガラスを固形分換算で95質量%以上含むことを特徴とする。このようにすることで、高い弾性率を有するガラス繊維を得ることが可能となり、更に、生産性が良好であるため、連続して大量のガラス繊維を生産することができる。また、細番手のガラス繊維の製造も容易にできる。尚、固形分換算は、ガラス表面の水分が0.1%未満となるように乾燥した状態で質量を計測し、さらに強熱処理を施して、ガラス繊維表面に塗布された有機物を加熱除去後、その質量を計測することにより算出する。
【0018】
本発明のガラス繊維は、製品形態が、チョップドストランド、ヤーン、及びロービングの何れかであることが好ましい。
【0019】
本発明のガラス繊維含有複合材料は、本発明のガラス繊維を有機媒体、コンクリート又はモルタルと複合化させることを特徴とする。このようにすることで、幅広い用途での使用が可能になる。
【0020】
本発明のガラス繊維の製造方法は、上記に記載のガラス組成及び/又は特性を有するガラス繊維用組成物からなるガラスを繊維状に成形することを特徴とする。このようにすることで、高い弾性率を有し、更に生産性が良好であり、細番手のガラス繊維の製造も容易にできるため、高弾性率のガラス繊維を安定して提供できる。
【0021】
本発明のガラス繊維の製造方法は、ブッシング装置によって成形することが好ましい。
【0022】
本発明のガラス繊維の製造方法は、成形温度Txを目標温度に対して±20℃の範囲で計測管理しながら成形することが好ましい。このようにすることで、ブッシングノズルからの溶融ガラス流出量を制御しやすくなり、ガラス繊維の生産がより安定化する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のガラス繊維用組成物のガラス組成について詳述する。尚、以下の説明において、特別な断りがない限り、%表示は質量%を意味している。
【0024】
SiO
2は、ガラス骨格構造を形成する主要成分である。また、ガラスの機械的強度やガラスの耐酸性を向上させる成分である。一方、SiO
2の含有量が多すぎると、溶融ガラスの粘度が高くなりすぎて均質な溶融状態にし難くなり、その結果、ガラス繊維径の調整が困難となるため好ましくない。また、粘度が高いとガラスの溶融に必要なエネルギーが増大し、また、成形温度Txが高くなり、貴金属製ブッシングの損傷が激しくなって交換頻度が上がり、生産コストが高くなる。そのため、SiO
2の含有量は、50〜70%であり、好ましくは50〜65%、より好ましくは55〜65%である。
【0025】
Al
2O
3は、ガラスの化学的耐久性や機械的強度を高める成分であり、ガラスの弾性率Eを向上させる成分である。Al
2O
3の含有量が15%以上であるとガラスの機械的な強度が向上し、ガラスの弾性率Eの向上に効果が大きい。一方、Al
2O
3はガラス中に適量含有させることによって、溶融ガラス中での結晶の晶出や分相生成を抑制する効果を有するが、多量に含有すると溶融ガラス中にAl
2O
3を主成分とするムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)の失透結晶が生じやすくなる。また、Al
2O
3の含有量が多すぎると溶融ガラスの粘度が高くなりすぎて均質な溶融状態にし難くなり、その結果、ガラス繊維径の調整が困難となる。また、ガラスの溶融に必要なエネルギーが増大し、また、成形温度Txが高くなり、貴金属製ブッシングの損傷が激しくなって交換頻度が上がり、生産コストが高くなる。そのため、Al
2O
3の含有量は、15〜25%であり、好ましくは16〜24%、より好ましくは18〜24%、更に好ましくは19〜24%、特に好ましくは21〜23%である。
【0026】
MgOは、ガラス原料を溶融し易くする融剤としての働きを有する成分であり、ガラス溶解時の粘性を低下させ泡切れを促進し、成形温度Txを低下させる働きを有する。また、ガラスの機械的強度を向上し、弾性率Eを向上させる働きのある成分である。一方、MgOの含有量が多すぎると、Al
2O
3の含有量が多いガラス組成中では溶融ガラス中からコージェライト(2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2)の失透が晶出しやすくなり、ガラス繊維成形時にブッシングのノズル詰まりの原因となる場合がある上、ガラスの線熱膨張係数αが大きくなる。そのため、MgOの含有量は3〜13%であり、好ましくは5〜12%、より好ましくは6〜12%、更に好ましくは7〜12%、特に好ましくは8〜11%である。
【0027】
CaOは、MgO成分と同様にガラス原料を溶融し易くする融剤としての働きを有する成分であり、ガラス溶解時の粘性を低下させ泡切れを促進し、ガラス繊維成形時の成形温度Txを低下させる成分である。また、ガラスの機械的強度を向上し、ガラスの弾性率Eを向上させる成分である。一方、多量に含有させると溶融ガラスからウォラストナイト(CaO・SiO
2)の失透が晶出しやすくなる上、線熱膨張係数αが大きくなる。そのため、CaOの含有量は3〜15%であり、好ましくは5〜13%、より好ましくは8〜12%である。
【0028】
B
2O
3は、SiO
2と同様にガラス網目構造において、その骨格をなす成分であるが、ガラスの粘性を低下させて泡切れを促進し、更に、ガラスの溶融温度や成形温度Txを低くし、また、ガラスの溶解性を向上させる働きを有する成分である。また、ムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)、コージェライト(2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2)、ウォラストナイト(CaO・SiO
2)の失透結晶の生成を顕著に抑制できるため、液相温度Tyを低下させ、温度差ΔTxyを大きくすることができる。その結果、生産性を良好にでき、細番手のガラス繊維の製造も容易にできる。一方、ガラス組成中のB
2O
3の含有量が多くなりすぎると、溶融中にホウ素成分の蒸発量が多くなり、溶融ガラスを均質な状態に維持するのが困難となる場合もある。またB
2O
3成分の含有量が多くなりすぎると、プリント配線板で使用される場合、周囲環境の湿分の影響を受けやすくなり、高湿度環境でホウ素やアルカリ等がガラス組成から溶出することにより、電気絶縁性が低下するなど電気的信頼性を損なう恐れがある。そのため、B
2O
3の含有量は、0.5〜5%であり、好ましくは0.8〜4.5%、より好ましくは1〜4%、更に好ましくは1.5〜4%である。
【0029】
本発明のガラス繊維用組成物は、ガラス組成にB
2O
3を必須成分として含有させることによって、Al
2O
3、MgO、CaO等の、失透を晶出しやすいものの弾性率向上に寄与する成分の含有量を増加させることが可能となる。このようにすることで、良好な生産性を維持しつつも、得られるガラスの弾性率Eを向上させることができる。そのため、Al
2O
3+MgO+CaO(Al
2O
3、MgO、CaOの合量)は、好ましくは35%〜53%であり、より好ましくは36〜50%、更に好ましくは37%〜49%、特に好ましくは38〜48%である。
【0030】
また、本発明のガラス繊維用組成物は、Al
2O
3、MgO、CaOの合量とB
2O
3の含有量の割合を規制することにより、良好な生産性とガラスの高弾性率を両立できる。すなわち、質量比で、(Al
2O
3+MgO+CaO)/B
2O
3の値が、好ましくは6.5〜106であり、より好ましくは7〜100、更に好ましくは8〜90、特に好ましくは9〜80、最も好ましくは10〜70である。
【0031】
本発明のガラス繊維用組成物は、上記した成分(SiO
2、Al
2O
3、MgO、CaO、B
2O
3)以外の成分を含みうる。ただし上記した成分の含有量が合量で97%以上、98%以上、特に99%以上となるように組成を調節することが望ましい。その理由は、これらの成分の合量が97%未満の場合、意図しない異種成分の混入によって耐アルカリ性、耐酸性、耐水性が低下して製品としての特性が低下したり、成形温度と液相温度の差が小さくなって生産性が低下したりする等の不都合が生じ易い。
【0032】
その他に、アルカリ金属酸化物(Li
2O+Na
2O+K
2Oの合量)は、ガラスの粘性を低下させて泡切れを促進する効果があるが、含有量が多くなりすぎるとガラス繊維含有複合材料とした場合に、経時的な強度を維持し難くなるといった問題があり、低減するのが好ましい。そのため、アルカリ金属酸化物の含有量は、0〜3%が好ましく、0〜2%、0〜1%、0〜0.6%である。しかし、アルカリ金属酸化物については、化成品の高純度な原料構成を採用するならば、前述のように実質上含有させない組成とすることもできるが、アルカリ金属酸化物を含有する天然原料を使用しても安定した品質が確保できるならば、0.4%以上、更に0.5%以上の含有を許容してもよい。
【0033】
また、TiO
2は、ガラスの弾性率Eを向上させる成分であり、SiO
2−Al
2O
3−MgO組成系においてはムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)あるいはコージェライト(2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2)の失透析出温度を低下させる働きがある。一方、TiO
2成分は、多量に含有されると溶融ガラスからTiO
2系の結晶を晶出し易くなるため好ましくない。そのため、TiO
2の含有量は、0〜3%であり、好ましくは0.1〜2%、より好ましくは0.3〜1%である。
【0034】
また、ZrO
2は、TiO
2成分と同様にガラスの弾性率Eを向上させる成分であるが、SiO
2−Al
2O
3−MgO組成系のガラス融液においてはムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)あるいはコージェライト(2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2)の失透析出温度を上昇させる場合があり、含有量を制限すべき成分である。そのため、ZrO
2の含有量は、0〜3%であり、好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜1%である。
【0035】
また、清澄性向上の目的で、SnO
2、As
2O
3、Sb
2O
3、F
2、CeO
2、SO
3、Cl
2のうちから選ばれる任意の一種または複数種を含有させてもよい。それぞれの含有量は0〜2%であり、好ましくは0〜1%、より好ましくは0〜0.8%である。
【0036】
溶融性、耐アルカリ性、耐酸性、耐水性、成形温度、液相温度の改善のために、上記した成分以外の成分として、SrO、BaO、ZnO、P
2O
5、Fe
2O
3、Cr
2O
3、MnO、La
2O
3、WO
3、Nb
2O
5、Y
2O
3等を必要に応じて適量含有することができ、それぞれ3%まで含有してもよい。
【0037】
更に、H
2、O
2、CO
2、CO、H
2O、He、Ne、Ar、N
2等についてそれぞれ0.5%まで含有してもよい。また、ガラス中にPt、Rh、Au等の貴金属元素を500ppmまで含有してもよい。
【0038】
以降、本発明のガラス繊維用組成物の特性や、ガラス繊維及びガラス繊維含有複合材料について述べる。
【0039】
本発明のガラス繊維用組成物は、成形温度Txと液相温度Tyとの温度差ΔTxyが90℃以上であることが好ましく、より好ましくは95℃以上、更に好ましくは100℃以上、特に好ましくは110℃以上、最も好ましくは115℃以上である。温度差ΔTxyを大きくすることによって、ガラス繊維の生産性を良好にできる上、細番手のガラス繊維の製造に容易に対応することが可能となる。
【0040】
本発明のガラス繊維用組成物は、成形温度Txが1365℃以下であることが好ましく、より好ましくは1360℃以下、更に好ましくは1355℃以下、特に好ましくは1350℃以下、最も好ましくは1345℃以下である。このようにすることで、低温で生産できるため、生産コストを低減できる。
【0041】
本発明のガラス繊維用組成物は、液相温度Tyが1300℃以下であることが好ましく、より好ましくは1280℃以下、更に好ましくは1270℃以下、特に好ましくは1260℃以下、最も好ましくは1250℃以下である。このようにすることで、温度差ΔTxyを大きくし易いため生産性を良好にできる上、細番手のガラス繊維の製造に容易に対応することが可能となる。
【0042】
本発明のガラス繊維用組成物は、弾性率Eが90GPa以上であることが好ましく、より好ましくは90.5GPa以上、更に好ましくは91GPa以上、特に好ましくは92GPa以上、最も好ましくは93GPa以上である。このようにすることで高弾性率のガラス繊維を得ることができる。その結果、応力に対する歪が小さく物理的強度の強いガラス繊維含有複合材料を得ることができる。また、プリント配線基板として用いる場合には、補強材として使用されるガラス繊維の弾性を向上させ、プリント配線板の反りを低減することができる。
【0043】
本発明のガラス繊維用組成物は、線熱膨張係数αが45×10
−7/℃以下であることが好ましく、より好ましくは44.5×10
−7/℃以下、更に好ましくは44×10
−7/℃以下、特に好ましくは43.5×10
−7/℃以下である。このようにすることで、高温環境下でも熱応力を小さくでき、熱衝撃に強いガラス繊維を得ることが可能である。その結果、ガラス繊維含有複合材料の耐熱性を向上させることが可能になる。
【0044】
本発明のガラス繊維は、上記に記載のガラス繊維組成物からなるガラスを固形分換算で95%以上含む。本発明のガラス繊維は、95%以上が上記に記載のガラス繊維組成物からなるガラスであり、残分が被覆剤などの有機物であるなら、ガラス繊維の製織工程などの各種加工工程でガラス繊維表面に傷が生じにくく、安定した強度性能を維持することができる。また、ガラス繊維が各種の物理化学的な性能を十分に発揮できるものとなる。本発明のガラス繊維におけるガラス繊維用組成物からなるガラスの含有量は、固形分換算で95〜100%であり、好ましくは95.5〜100%未満、より好ましくは96〜99.99%、更に好ましくは96.5〜99.99%未満である。ここで、固形分換算は、ガラス表面の水分が0.1%未満となるように乾燥した状態で質量を計測し、さらに強熱処理を施してガラス繊維表面に塗布された有機物を加熱除去後、その質量を計測して算出する。
【0045】
なお、ガラス繊維用組成物が、固形分換算で95%未満である場合には、表面に塗布された有機物がガラス繊維を保護する性能が一層向上することもなく、また塗布に要する有機物量が増加するため、製造費用が増加し、経済的ではない。またガラス繊維用組成物が、固形分換算の質量百分率表示で99.99%を超えると、ガラス繊維表面の保護性能が十分に果たされなくなる場合がある。
【0046】
また、本発明のガラス繊維は、紡糸時の引き出し方向に垂直な繊維断面の形状としては、円形状に加えて、楕円、トラック形状、扁平形状、矩形状、マユ型形状、及び多角形などの異形断面の形状であってもよい。
【0047】
また、本発明のガラス繊維は、製品形態がチョップドストランド、ヤーン、及びロービングの何れかであることが好ましい。このようにすれば、種々の用途に使用することができる。
【0048】
ここで、チョップドストランドはガラス繊維束を所定の長さに切断した繊維、ヤーンは連続したガラス繊維であって撚糸されたもの、ロービングはガラス繊維束であるストランドを複数本ひき揃えたものである。
【0049】
チョップドストランドについて、その繊維長さや繊維径は限定されず、用途に適応したものを選択することができる。また、チョップドストランドの製造方法についても任意のものを採用することができる。溶融工程から直接短繊維とすることもできるし、一度長繊維として巻き取った後に用途に応じて切断装置により切断加工してもよい。この場合、切断方法についても任意の方法を採用することができる。例えば、外周刃切断装置や内周刃切断装置、ハンマーミル等を使用することが可能である。また、チョップドストランドの集合形態についても特に限定しない。すなわち、適切な長さに切断加工したガラス繊維を平面上に無方向に積層させて特定の結合剤で成形することもでき、あるいは、3次元的に無方向に集積した状態とすることもできる。また、高含有率のガラス繊維を含有させたガラスマスターバッチ(GMB)ペレット(樹脂柱状体、LFTPなどとも呼称する)であってもよい。
【0050】
ヤーンについては、所定の撚りを付与してあるものであれば、無撚りヤーンも含め、その撚りの大きさや方向などについては特に限定しない。
【0051】
また、ロービングについては、ガラス繊維束であるストランドを複数本ひき揃えて束にし、円筒状に巻き取ったものであれば、どのような外観のものであっても支障なく、巻き取られた繊維径やひき揃えた本数についても限定されるものではない。
【0052】
また、本発明のガラス繊維は、上記以外にもコンティニュアスストランドマット、ボンデッドマット、クロス、テープ、組布、あるいはミルドファイバ等の形態として利用することもできる。また、樹脂を含浸させたプレプレグとすることもできる。そして、ガラス繊維を適用する使用法、成形法などについても、スプレーアップ、ハンドレーアップ、フィラメントワインディング、射出成型、遠心成形、ローラー成形、あるいはマッチダイを使用するBMC、SMC法などにも対応することができる。
【0053】
また、本発明のガラス繊維には、各種の表面処理剤を塗布して所望の性能を付与することができる。例えば、集束剤、結束剤、カップリング剤、潤滑剤、帯電防止剤、乳化剤、乳化安定剤、pH調整剤、消泡剤、着色剤、酸化防止剤、妨黴剤あるいは安定剤等を単独種あるいは複数種を任意に組み合わせてガラス繊維の表面に適量塗布し、被覆させることができる。また、このような表面処理剤あるいは塗布剤は、殿粉系のものであってもプラスチック系のものであってもよい。
【0054】
例えば、FRP用の集束剤であれば、アクリル、エポキシ、ウレタン、ポリエステル、酢酸ビニル、酢酸ビニル・エチレン共重合体などを適宜使用することができる。
【0055】
本発明のガラス繊維含有複合材料は、上記に記載のガラス繊維を有機媒体、コンクリート又はモルタルと複合化させてなることを特徴とする。
【0056】
ここで、上記の有機媒体は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの有機樹脂に代表されるものである。また、コンクリートはセメントと砂、砂利、水を混合したもの、モルタルはセメントと砂、水を混合したものである。
【0057】
有機媒体の種類については、用途に応じて適宜最適な樹脂を単独、あるいは複数種併用することが可能であり、他の構造補強材、例えば炭素繊維やセラミックス繊維、ビーズ材等も併用することもできる。
【0058】
また、コンクリートやモルタルを構成する各種成分の配合割合やセメントの種類についても特に限定するものではない。フライアッシュ等も添加することができる。
【0059】
本発明のガラス繊維は、ガラス繊維単独でも使用することができる。例えば、液晶テレビやパソコンの表示装置として利用される液晶表示装置において、2枚の基板ガラス間の間隔を保持するために用いられる液晶スペーサー用途としてもガラス繊維の繊維径が安定した寸法精度を有しているため好適である。
【0060】
さらに、本発明のガラス繊維用組成物及びガラス繊維はリサイクルも可能である。すなわち、本発明のガラス繊維用組成物及びガラス繊維を含有する物品から再溶融工程を経て、繊維形状、あるいは球状や粒状等の繊維以外の各種形状に成形して他の用途に使用してもよい。例えば、土壌添加材、コンクリート添加材あるいは骨材、アスファルト添加材などとしても使用できる。
【0061】
本発明のガラス繊維の製造方法は、本発明のガラス繊維用組成物からなるガラスを繊維状に成形し、所望の性能を実現できるのであれば、どのような製造方法によって製造するのであってもよい。ガラス繊維の製造方法は、種々の無機ガラス原料を混合し、高温で溶融した後、ブッシングノズルから連続的に引き出し、ノズル近傍にノズル位置を挟むように配した冷却装置を使用して急速冷却を行ってガラス繊維径を調整する製造方法、すなわちガラス長繊維としてブッシングノズル直下方向に引き出して製造するものであれば、安定したバラツキのない繊維径のガラス繊維を得ることができる。また、ガラス長繊維としては、直接成形法(DM法:ダイレクトメルト法)、間接成形法(MM法:マーブルメルト法)等の各種の製造方法を用途や製造量に応じて採用してよい。本発明のガラス繊維の製造方法では、前記ガラス繊維用組成物に加えて、ガラスカレットを適量使用してもよい。
【0062】
また本発明のガラス繊維の製造方法は、急速冷却を行ってガラス繊維径を調整したガラス繊維の表面に各種有機物の薬剤を被覆剤として塗布してもよい。この場合、被覆剤の塗布方法は、任意であるが、例えばスプレー法やロール塗布法等の塗布方法を用い、塗布量を調整すればよい。被覆剤の種類としては、具体的には集束剤、帯電防止剤、界面活性剤、酸化防止剤、被膜形成剤、カップリング剤あるいは潤滑剤を被覆したものであってもよい。
【0063】
表面処理に使用できるカップリング剤を例示すれば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等があり、使用されるガラス繊維と複合化する樹脂の種類により適宜選択すればよい。
【0064】
また本発明のガラス繊維の製造方法は、ブッシング装置によって成形することが好ましい。
【0065】
例えば、本発明のガラス繊維の製造方法は、ダイレクトメルト法(DM法)によるブッシング装置を用いる。
【0066】
ブッシング装置については、どのようなものであっても、所望の耐熱性を有し、充分な強度を有する装置であって、容器の一部に溶融ガラスを流出させる所定の開口部を有する装置であるならば使用することができる。ブッシング装置の他部位の構造や、付帯された装置の有無等は問わない。また、ブッッシング装置の全体寸法や形状、さらに加熱方式や孔数、孔寸法、孔形状、ノズル形状あるいはノズル数についても特に限定されることはない。そして、所定の強度を有するならどのような材料で構成されたものであっても使用することが可能である。特に好適なものとしては、白金を含有する耐熱金属によって構成されたものである。
【0067】
また、本発明のガラス繊維の製造方法は、ブッシング装置へと流入する溶融ガラスの加熱方法、均質化方法などについては、任意の方法を採用することができ、溶融ガラスの流量や原料構成などについても限定されることはない。
【0068】
また、本発明のガラス繊維の製造方法は、その製造方法として、必要に応じて少量の生産を実現するためにブッシング装置を使用して間接成型法(MM法:マーブルメルト法)を採用することもできる。
【0069】
さらに、本発明のガラス繊維の製造方法は、特に短繊維の製造において、静置したブッシングの使用に代えて、必要に応じて耐熱合金製の容器を回転させ、すなわちブッシング装置自体を可動させて、容器の壁に設けた小孔から溶融ガラスを遠心力により射出し、加熱しながら吹き飛ばす方法により製造することもできる。また、それ以外の方法として、ブッシング装置から射出した溶融ガラスを蒸気や圧縮空気、火炎などを使用して吹き飛ばすことによって短繊維とすることも可能であるし、ドラムに溶融ガラスを乗せてドラムを回転させて吹き飛ばすことも可能である。
【0070】
また、本発明のガラス繊維の製造方法は、ブッシング装置による溶融ガラスの成形温度Txを目標温度に対して±20℃の範囲で計測管理しながら成形して得ることが好ましい。このようにすることで、成形されるガラス繊維径の変動を抑えるための成形温度Txの微調整が的確に行え、これによりガラス繊維の成形粘度を高度に安定化させることが可能となる。
【0071】
尚、成形温度Txの計測管理については、成形温度Txを目標温度に対して±20℃の範囲で計測管理可能なものであれば、どのような測定手段で温度計測を行うものであってもよい。例えば、熱電対によるものであっても、オプティカルパイロメーターのような光学的な方法によるものであってもよい。計測された結果については、随時プログラム等によって監視することが可能であり、温度の急激な上昇や下降に即応できるような加熱冷却システムをブッシング装置に付加することで、高精度な管理が可能となる。
【実施例1】
【0072】
本発明の実施例1に係るガラス繊維用組成物を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例(試料No.1〜3)と比較例(試料No.4及び5)の各ガラス試料は以下の手順で作製した。
【0075】
まず、表中のガラス組成になるように、任意の天然原料及び/又は化成原料を用いて各種ガラス原料を所定量秤量、混合して、ガラスバッチを作製した。次に、このガラスバッチを白金ロジウム坩堝に投入し、大気雰囲気中で1500℃、5時間の加熱溶融を実施した。尚、均質な溶融ガラスとするために加熱溶融の途中で耐熱性撹拌棒を使用して溶融ガラスの撹拌を行った。
【0076】
その後、均質な状態となった溶融ガラスをカーボン製の鋳型に流し出して所定形状に鋳込み成形を行い、徐冷操作を行って最終的な計測用のガラス成形体を得た。
【0077】
得られたガラスの物理特性は、以下の手順で計測した。
【0078】
溶融ガラスの粘度が10
3dPa・sに相当する成形温度Txは、成形したガラスをアルミナ坩堝に投入して、再加熱し、融液状態にまで加熱した後に、白金球引き上げ法に基づいて計測した各粘度の複数の計測によって得られた粘度曲線の内挿によって算出した。
【0079】
また、液相温度Tyは、標準篩30メッシュ(300μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金製容器に適切な嵩密度を有する状態に充填して、最高温度を1250℃に設定した間接加熱型の温度勾配炉内に入れて静置し、16時間大気雰囲気中で加熱操作を行った。
その後に白金製容器ごと試験体を取り出し、室温まで放冷後、偏光顕微鏡によって結晶の析出温度を特定した。
【0080】
成形温度Txと液相温度Tyとの温度差ΔTxyは両者の値から算出した。
【0081】
弾性率Eは、1200番アルミナ粉末を分散させた研磨液で研磨した40mm×20mm×2mmの寸法の板状試料の両表面について、自由共振式弾性率測定装置(日本テクノプラス株式会社製)により室温環境下にて計測した。
【0082】
線熱膨張係数αは、NISTのSRM−731、SRM−738を線熱膨張係数既知の標準試料として使用して校正した線熱膨張計測機器により行った。尚、表記した結果は、30℃から380℃の温度範囲で計測した平均線熱膨張係数である。
【0083】
表1から明らかなように、実施例である試料No.1〜3は、いずれも成形温度Txが1365℃以下であり、成形温度Txと液相温度Tyとの温度差ΔTxyが90℃以上であった。また、弾性率Eが90GPa以上と高かった。
【0084】
一方、比較例であるNo.4は、成形温度Txが1402℃と高く、成形温度Txと液相温度Tyとの温度差ΔTxyも90℃未満であった。また、No.5は、成形温度Txが高く、ΔTxyが小さく、弾性率Eも90GPa未満であった。
【実施例2】
【0085】
次いで、本発明のガラス繊維と、ガラス繊維含有複合材料について例示する。
【0086】
例えば、実施例1の試料No.1のガラス組成を有するガラス繊維用組成物を溶融した後、白金製のノズルを有するブッシング装置を使用すれば、3μmの直径を有するガラスモノフィラメントを連続成形することができる。連続成形しても糸切れが発生しにくいため、繊維径の安定したガラス繊維を得ることが可能である。
【0087】
また、このブッシング装置には、熱電対計測で成形温度Txに該当するブッシング装置内の溶融ガラスの温度を常時監視できるシステムが作動するように設計されており、その監視温度幅は目標とする成形温度に対して±20℃である。成形温度が低くなるようなことがあればそれを是正するように加熱が行われることで安定した生産が可能である。
【0088】
次に、上記したブッシング装置を用いて成形したガラス繊維の表面に浸漬法によってシランカップリング剤等を適量塗布し、風乾することによって、集束剤が塗布されたガラス繊維が得られる。ガラス繊維を複数本束ねて、ポリプロピレン樹脂よりなる有機溶媒を使用して固め、所望の長さに切断することによって、同一方向にガラス繊維が配向したLFTPを得ることができる。
【0089】
こうして得られたLFTP(ペレット成形体ともいう)を使用することによって、ガラス繊維長を長くできるので、高強度のガラス繊維含有複合材料を得ることが可能になる。例えば板状物について曲げ強度等を評価すれば、従来品同等以上の性能を有する。
【0090】
以上のように、本発明のガラス繊維用組成物を用いたガラス繊維、及びガラス繊維含有複合材料は、優れた性能を発揮するものであり、産業のあらゆる分野に適用することが可能となるものである。