特許第6972555号(P6972555)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972555
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】研削加工装置及び研削加工方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 49/16 20060101AFI20211111BHJP
   B24B 49/10 20060101ALI20211111BHJP
   B24B 41/06 20120101ALI20211111BHJP
   B24B 5/04 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   B24B49/16
   B24B49/10
   B24B41/06 J
   B24B5/04
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-1301(P2017-1301)
(22)【出願日】2017年1月6日
(65)【公開番号】特開2018-111136(P2018-111136A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2019年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 明
【審査官】 山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−025328(JP,A)
【文献】 特開2013−123758(JP,A)
【文献】 特開2013−237127(JP,A)
【文献】 特開昭62−176761(JP,A)
【文献】 米国特許第05573451(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 49/16
B24B 49/10
B24B 41/06
B24B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸に保持される工作物及び砥石軸に保持される砥石車をそれぞれ回転させ、前記工作物に対して前記砥石車を相対的に接近離間させることで、前記工作物の研削加工を行う研削加工装置において、
前記工作物の回転位相を検出する第一検出部と、
前記砥石車と前記工作物との研削加工点における接線研削抵抗に前記研削加工点における前記砥石車の半径を乗じた研削抵抗モーメント又は前記工作物の回転駆動部もしくは前記砥石車の回転駆動部の駆動電流を検出する第二検出部と、
現在の前記回転位相における前記研削抵抗モーメント又は駆動電流と、前記現在の回転位相と同位相の前回の前記研削抵抗モーメント又は前記駆動電流に基づいて、前記現在において前記工作物と前記主軸との間スリップが発生しているか否かを判定する判定部と、
前記スリップが発生していると判定された場合に、前記砥石車と前記工作物とを離れさせる、又は、前記砥石車と前記主軸の相対移動の速度を低速にして研削加工を継続する制御部と、
を備え
前記判定部は、
前記砥石車と前記主軸との相対移動が一定速である場合、前記現在の研削抵抗モーメント又は駆動電流と前記前回の研削抵抗モーメント又は駆動電流とを比較し、
前記現在の研削抵抗モーメント又は駆動電流が前記前回の研削抵抗モーメント又は駆動電流よりも低下している場合、前記現在において前記工作物と前記主軸との間に前記スリップが発生していると判定する、研削加工装置。
【請求項2】
主軸に保持される工作物及び砥石軸に保持される砥石車をそれぞれ回転させ、前記工作物に対して前記砥石車を相対的に接近離間させることで、前記工作物の研削加工を行う研削加工装置において、
前記工作物の回転位相を検出する第一検出部と、
前記砥石車と前記工作物との研削加工点における接線研削抵抗に前記研削加工点における前記砥石車の半径を乗じた研削抵抗モーメント又は前記工作物の回転駆動部もしくは前記砥石車の回転駆動部の駆動電流を検出する第二検出部と、
現在の前記回転位相における前記研削抵抗モーメント又は駆動電流と、前記現在の回転位相と同位相の前回の前記研削抵抗モーメント又は前記駆動電流に基づいて、前記現在において前記工作物と前記主軸との間スリップが発生しているか否かを判定する判定部と、
前記スリップが発生していると判定された場合に、前記砥石車と前記工作物とを離れさせる、又は、前記砥石車と前記主軸の相対移動の速度を低速にして研削加工を継続する制御部と、
を備え
前記判定部は、
前記前回の研削抵抗モーメント又は駆動電流に1未満の定数を乗算した修正研削抵抗モーメント又は修正駆動電流を算出し、
前記砥石車と前記主軸との相対移動が一定速である場合、前記現在の研削抵抗モーメント又は駆動電流と前記修正研削抵抗モーメント又は修正駆動電流とを比較し、
前記現在の研削抵抗モーメント又は駆動電流が前記修正研削抵抗モーメント又は前記修正駆動電流よりも低下している場合、前記現在において前記工作物と前記主軸との間に前記スリップが発生していると判定し、
前記定数は、前記工作物が1回転の研削にて小径となることに伴い前記研削抵抗モーメント又は駆動電流の低下分に対応する定数である、研削加工装置。
【請求項3】
前記判定部は、研削加工を開始して整定するまでの間に、前記スリップが発生しているか否かを判定する、請求項1又は2に記載の研削加工装置。
【請求項4】
前記工作物の外周研削面は、回転振れを有しており、
前記研削抵抗モーメント又は駆動電流は、前記工作物の回転に伴って周期的に変動する、請求項1−3の何れか一項に記載の研削加工装置。
【請求項5】
前記第二検出部は、前記工作物を保持する保持部の歪を検出し、検出した前記歪に基づいて前記研削抵抗モーメントを検出する、請求項1−の何れか一項に記載の研削加工装置。
【請求項6】
前記研削加工装置は、前記工作物を保持して摩擦力で回転を伝える保持部を備える、請求項1−5の何れか一項に記載の研削加工装置。
【請求項7】
前記研削加工装置は、前記工作物の1回転における所定の回転位相範囲で前記工作物に対して前記砥石車を切込み送りし、前記所定の回転位相以外の回転位相範囲で前記工作物に対して前記砥石車の切込み送りを停止させることで、前記工作物の研削加工を行う、請求項1−6の何れか一項に記載の研削加工装置。
【請求項8】
主軸に保持される工作物及び砥石軸に保持される砥石車をそれぞれ回転させ、前記工作物に対して前記砥石車を相対的に接近離間させることで、前記工作物の研削加工を行う研削加工方法において、
制御装置により、前記工作物の回転位相を検出する第一検出工程と、
前記制御装置により、前記砥石車と前記工作物との研削加工点における接線研削抵抗に前記研削加工点における前記砥石車の半径を乗じた研削抵抗モーメント又は前記工作物の回転駆動部もしくは前記砥石車の回転駆動部の駆動電流を検出する第二検出工程と、
前記制御装置により、現在の前記回転位相における前記研削抵抗モーメント又は駆動電流と、前記現在の回転位相と同位相の前回の前記研削抵抗モーメント又は前記駆動電流に基づいて、前記現在において前記工作物と前記主軸との間スリップが発生しているか否かを判定する判定工程と、
前記制御装置により、前記スリップが発生していると判定された場合に、前記砥石車と前記工作物とを離れさせる、又は、前記砥石車と前記主軸の相対移動の速度を低速にして研削加工を継続する制御工程と、
を備え
前記判定工程は、
前記砥石車と前記主軸との相対移動が一定速である場合、前記現在の研削抵抗モーメント又は駆動電流と前記前回の研削抵抗モーメント又は駆動電流とを比較し、
前記現在の研削抵抗モーメント又は駆動電流が前記前回の研削抵抗モーメント又は駆動電流よりも低下している場合、前記現在において前記工作物と前記主軸との間に前記スリップが発生していると判定する、研削加工方法。
【請求項9】
主軸に保持される工作物及び砥石軸に保持される砥石車をそれぞれ回転させ、前記工作物に対して前記砥石車を相対的に接近離間させることで、前記工作物の研削加工を行う研削加工方法において、
制御装置により、前記工作物の回転位相を検出する第一検出工程と、
前記制御装置により、前記砥石車と前記工作物との研削加工点における接線研削抵抗に前記研削加工点における前記砥石車の半径を乗じた研削抵抗モーメント又は前記工作物の回転駆動部もしくは前記砥石車の回転駆動部の駆動電流を検出する第二検出工程と、
前記制御装置により、現在の前記回転位相における前記研削抵抗モーメント又は駆動電流と、前記現在の回転位相と同位相の前回の前記研削抵抗モーメント又は前記駆動電流に基づいて、前記現在において前記工作物と前記主軸との間スリップが発生しているか否かを判定する判定工程と、
前記制御装置により、前記スリップが発生していると判定された場合に、前記砥石車と前記工作物とを離れさせる、又は、前記砥石車と前記主軸の相対移動の速度を低速にして研削加工を継続する制御工程と、
を備え
前記判定工程は、
前記前回の研削抵抗モーメント又は駆動電流に1未満の定数を乗算した修正研削抵抗モーメント又は修正駆動電流を算出し、
前記砥石車と前記主軸との相対移動が一定速である場合、前記現在の研削抵抗モーメント又は駆動電流と前記修正研削抵抗モーメント又は修正駆動電流とを比較し、
前記現在の研削抵抗モーメント又は駆動電流が前記修正研削抵抗モーメント又は前記修正駆動電流よりも低下している場合、前記現在において前記工作物と前記主軸との間に前記スリップが発生していると判定し、
前記定数は、前記工作物が1回転の研削にて小径となることに伴い前記研削抵抗モーメント又は駆動電流の低下分に対応する定数である、研削加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削加工装置及び研削加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
研削加工装置には、主軸に設けられるセンタで工作物の両端面を加圧保持し、センタの加圧力に伴う摩擦力によりセンタの回転を工作物に伝達する駆動方式がある。また、主軸に設けられるチャックやケレで工作物の周面を加圧保持し、チャックやケレの加圧力に伴う摩擦力によりチャックやケレの回転を工作物に伝達する駆動方式もある。
【0003】
図10A及び図10Bに示すように、これらの駆動方式の研削加工装置では、研削加工中に砥石車Gの砥石軸動力又は工作物Wの主軸動力(研削加工点Pgにおける接線研削抵抗Fn及び研削加工点Pgと砥石車Gの回転中心Cgとの距離Rgで表されるモーメント(Fn・Rg)、以下、「研削抵抗モーメントMn」という)が工作物Wの保持力(センタCとセンタ穴Hとの摩擦力F及び摩擦力発生点Pf(便宜上、センタCとセンタ穴Hとの摩擦部分の径方向の中間点とする)と工作物Wの回転中心Cwとの距離Rwで表されるモーメント(F・Rw)、以下、「摩擦力モーメントMm」という)を上回ると、工作物Wと主軸(センタ、チャック、ケレ)との間でスリップが発生して工作物Wが不良品となるおそれがある。このため、研削加工装置では、研削抵抗モーメントMnが摩擦力モーメントMm以下となるように研削条件を決定している。
【0004】
例えば、特許文献1には、工作物と主軸(センタ)との間のスリップを未然に防止できる研削加工装置が記載されている。この研削加工装置は、研削加工前に工作物と主軸(センタ)との間でスリップが発生する主軸用駆動モータの限界電流値を検出し、研削加工中にモータ電流値が限界電流値に基づいて設定される閾値に達したら研削条件を変更する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5402347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モータ電流値の閾値は、工作物の大きさに応じて変わり、また、切込み速度が異なる粗研削加工と精研削加工において変わるため、場合に応じて閾値の設定を変更する必要がある。しかし、上述の特許文献1に記載の研削加工装置では、一定の閾値を設定して研削加工を制御しているため、工作物と主軸(センタ)との間のスリップの発生を判定できない場合がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、工作物と主軸との間のスリップの発生を確実に判定できる研削加工装置及び研削加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の研削加工装置は、主軸に保持される工作物及び砥石軸に保持される砥石車をそれぞれ回転させ、前記工作物に対して前記砥石車を相対的に接近離間させることで、前記工作物の研削加工を行う研削加工装置において、前記工作物の回転位相を検出する第一検出部と、前記砥石車と前記工作物との研削加工点における接線研削抵抗に前記研削加工点における前記砥石車の半径を乗じた研削抵抗モーメント又は前記工作物の回転駆動部もしくは前記砥石車の回転駆動部の駆動電流を検出する第二検出部と、現在の前記回転位相における前記研削抵抗モーメント又は駆動電流と、前記現在の回転位相と同位相の前回の前記研削抵抗モーメント又は前記駆動電流に基づいて、前記現在において前記工作物と前記主軸との間スリップが発生しているか否かを判定する判定部と、前記スリップが発生していると判定された場合に、前記砥石車と前記工作物とを離れさせる、又は、前記砥石車と前記主軸の相対移動の速度を低速にして研削加工を継続する制御部と、を備え、前記判定部は、前記砥石車と前記主軸との相対移動が一定速である場合、前記現在の研削抵抗モーメント又は駆動電流と前記前回の研削抵抗モーメント又は駆動電流とを比較し、前記現在の研削抵抗モーメント又は駆動電流が前記前回の研削抵抗モーメント又は駆動電流よりも低下している場合、前記現在において前記工作物と前記主軸との間に前記スリップが発生していると判定する。
本発明の他の態様の研削加工装置は、主軸に保持される工作物及び砥石軸に保持される砥石車をそれぞれ回転させ、前記工作物に対して前記砥石車を相対的に接近離間させることで、前記工作物の研削加工を行う研削加工装置において、前記工作物の回転位相を検出する第一検出部と、前記砥石車と前記工作物との研削加工点における接線研削抵抗に前記研削加工点における前記砥石車の半径を乗じた研削抵抗モーメント、又は、前記工作物の回転駆動部もしくは前記砥石車の回転駆動部の駆動電流を検出する第二検出部と、現在の前記回転位相における前記研削抵抗モーメント又は駆動電流と、前記現在の回転位相と同位相の前回の前記研削抵抗モーメント又は前記駆動電流とに基づいて、前記現在において前記工作物と前記主軸との間にスリップが発生しているか否かを判定する判定部と、前記スリップが発生していると判定された場合に、前記砥石車と前記工作物とを離れさせる、又は、前記砥石車と前記主軸の相対移動の速度を低速にして研削加工を継続する制御部と、を備え、前記判定部は、前記前回の研削抵抗モーメント又は駆動電流に1未満の定数を乗算した修正研削抵抗モーメント又は修正駆動電流を算出し、前記砥石車と前記主軸との相対移動が一定速である場合、前記現在の研削抵抗モーメント又は駆動電流と前記修正研削抵抗モーメント又は修正駆動電流とを比較し、前記現在の研削抵抗モーメント又は駆動電流が前記修正研削抵抗モーメント又は前記修正駆動電流よりも低下している場合、前記現在において前記工作物と前記主軸との間に前記スリップが発生していると判定し、前記定数は、前記工作物が1回転の研削にて小径となることに伴い前記研削抵抗モーメント又は駆動電流の低下分に対応する定数である。
【0009】
研削加工においては、砥石台の送り速度を一定にして砥石台に保持される砥石車で工作物に切り込みを与えている場合、工作物の回転角度毎の研削抵抗モーメント又は駆動電流は、工作物と主軸との間にスリップが無ければ、整定前においては上昇傾向となり、整定後においては横ばい傾向となる。本手段に係る研削加工装置は、工作物の回転位相(角度)毎の研削抵抗モーメント又は駆動電流を監視しているので、工作物と主軸との間のスリップの発生を確実に判定できる。よって、工作物の不良品の流出を防止でき、また、研削条件の安全率を小さくして加工時間を短縮できる。
【0010】
本発明の一態様の研削加工方法は、主軸に保持される工作物及び砥石軸に保持される砥石車をそれぞれ回転させ、前記工作物に対して前記砥石車を相対的に接近離間させることで、前記工作物の研削加工を行う研削加工方法において、制御装置により、前記工作物の回転位相を検出する第一検出工程と、前記制御装置により、前記砥石車と前記工作物との研削加工点における接線研削抵抗に前記研削加工点における前記砥石車の半径を乗じた研削抵抗モーメント又は前記工作物の回転駆動部もしくは前記砥石車の回転駆動部の駆動電流を検出する第二検出工程と、前記制御装置により、現在の前記回転位相における前記研削抵抗モーメント又は駆動電流と、前記現在の回転位相と同位相の前回の前記研削抵抗モーメント又は前記駆動電流に基づいて、前記現在において前記工作物と前記主軸との間スリップが発生しているか否かを判定する判定工程と、前記制御装置により、前記スリップが発生していると判定された場合に、前記砥石車と前記工作物とを離れさせる、又は、前記砥石車と前記主軸の相対移動の速度を低速にして研削加工を継続する制御工程と、を備え、前記判定工程は、前記砥石車と前記主軸との相対移動が一定速である場合、前記現在の研削抵抗モーメント又は駆動電流と前記前回の研削抵抗モーメント又は駆動電流とを比較し、前記現在の研削抵抗モーメント又は駆動電流が前記前回の研削抵抗モーメント又は駆動電流よりも低下している場合、前記現在において前記工作物と前記主軸との間に前記スリップが発生していると判定する。
本発明の他の態様の研削加工方法は、主軸に保持される工作物及び砥石軸に保持される砥石車をそれぞれ回転させ、前記工作物に対して前記砥石車を相対的に接近離間させることで、前記工作物の研削加工を行う研削加工方法において、制御装置により、前記工作物の回転位相を検出する第一検出工程と、前記制御装置により、前記砥石車と前記工作物との研削加工点における接線研削抵抗に前記研削加工点における前記砥石車の半径を乗じた研削抵抗モーメント、又は、前記工作物の回転駆動部もしくは前記砥石車の回転駆動部の駆動電流を検出する第二検出工程と、前記制御装置により、現在の前記回転位相における前記研削抵抗モーメント又は駆動電流と、前記現在の回転位相と同位相の前回の前記研削抵抗モーメント又は前記駆動電流とに基づいて、前記現在において前記工作物と前記主軸との間にスリップが発生しているか否かを判定する判定工程と、前記制御装置により、前記スリップが発生していると判定された場合に、前記砥石車と前記工作物とを離れさせる、又は、前記砥石車と前記主軸の相対移動の速度を低速にして研削加工を継続する制御工程と、を備え、前記判定工程は、前記前回の研削抵抗モーメント又は駆動電流に1未満の定数を乗算した修正研削抵抗モーメント又は修正駆動電流を算出し、前記砥石車と前記主軸との相対移動が一定速である場合、前記現在の研削抵抗モーメント又は駆動電流と前記修正研削抵抗モーメント又は修正駆動電流とを比較し、前記現在の研削抵抗モーメント又は駆動電流が前記修正研削抵抗モーメント又は前記修正駆動電流よりも低下している場合、前記現在において前記工作物と前記主軸との間に前記スリップが発生していると判定し、前記定数は、前記工作物が1回転の研削にて小径となることに伴い前記研削抵抗モーメント又は駆動電流の低下分に対応する定数である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態における研削加工装置の平面図である。
図2A】研削加工装置の動作を説明するためのフローチャートである。
図2B図2Aの詳細動作を説明するためのフローチャートである。
図3A】研削加工装置で行われるスパイラルサイクルの研削加工工程における工作物と砥石車を示す図である。
図3B】研削加工装置で行われるスパイラルサイクルの研削加工工程における砥石車の送り位置と工作物の回転位相との関係を示す図である。
図4】研削加工工程においてスリップが無い場合の研削抵抗モーメント及び砥石車の送り位置の経時変化を示す図である。
図5】研削加工工程においてスリップが有る場合の研削抵抗モーメント及び砥石車の送り位置の経時変化を示す図である。
図6】工作物が全く振れの無い理想的な状態で保持される場合の研削抵抗モーメント及び砥石車の送り位置の経時変化を示す図である。
図7A】スリップが発生しない場合の工作物の1回転毎の研削抵抗モーメントの経時変化を示す図である。
図7B】スリップが発生しない場合の工作物の回転位相(角度)毎の研削抵抗モーメントの経時変化を示す図である。
図8A】スリップが発生する場合の工作物の1回転毎の研削抵抗モーメントの経時変化を示す図である。
図8B】スリップが発生する場合の工作物の回転位相(角度)毎の研削抵抗モーメントの経時変化を示す図である。
図9A】研削加工装置で行われるステップサイクルの研削加工工程における工作物と砥石車を示す図である。
図9B】研削加工装置で行われるステップサイクルの研削加工工程における砥石車の送り位置と工作物の回転位相との関係を示す図である。
図10A】研削加工工程における研削抵抗モーメントを説明するための工作物と砥石車を示す図である。
図10B図10AのXB−XB断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1.研削加工装置の構成)
本実施形態の研削加工装置の一例として、砥石台トラバース型円筒研削加工装置を例に挙げて説明する。図1に示すように、研削加工装置1は、ベッド10、テーブル11、主軸台13、心押台17、砥石台21及び制御装置30等を備える。
【0013】
ベッド10上には、テーブル11がZ軸サーボモータ12によってZ軸方向(図1の左右方向)に移動可能に案内支持される。テーブル11上には、マスタ主軸Cmを回転可能に軸支する主軸台13が設置され、マスタ主軸Cmの先端に工作物Wの一端を支持するセンタ14(保持部)が取付けられる。マスタ主軸Cmは、進退駆動装置15によって軸線方向に所定量進退されるとともに、マスタサーボモータ16(回転駆動部)によって回転駆動される。
【0014】
さらに、テーブル11上には、主軸台13と対向する位置に心押台17が設置される。この心押台17には、マスタ主軸Cmと同軸上にスレーブ主軸Csが回転可能に軸支され、スレーブ主軸Csの先端に工作物Wの他端を支持するセンタ18(保持部)が取付けられる。スレーブ主軸Csは、センタ加圧制御用のサーボモータ19によって軸線方向に進退されるとともに、スレーブサーボモータ20(回転駆動部)によってマスタ主軸Cmと同期して回転駆動される。
【0015】
また、ベッド10上のテーブル11の後方位置には、砥石台21がX軸サーボモータ22によってZ軸方向と直交するX軸方向(図1の上下方向)に移動可能に案内支持される。砥石台21には、砥石車23がZ軸方向と平行な軸線の回りに回転可能な砥石軸24を介して軸支され、砥石軸駆動モータ25(回転駆動部)によって回転駆動される。
【0016】
制御装置30は、第一検出部31、第二検出部32、記憶部33、判定部34及び加工制御部35を備える。
第一検出部31は、マスタサーボモータ16に備えられているロータリーエンコーダ16aからの位相検出信号に基づいて、工作物Wの回転位相を検出する。
【0017】
第二検出部32は、砥石軸駆動モータ25の駆動電流信号を検出し、検出した駆動電流信号に基づいて砥石車23と工作物Wとの研削加工点(接触点)における研削抵抗モーメントを求める。第二検出部32には、予め測定された駆動電流信号と駆動電流信号の上昇に伴って上昇する研削抵抗モーメントとの関係を示すテーブルが記憶されている。第二検出部32は、砥石軸駆動モータ25の駆動電流信号を検出したら、上記テーブルを参照して対応する研削抵抗モーメントを求める。なお、駆動電流信号を研削抵抗モーメントに変換せずに、検出した駆動電流信号をそのまま使用してもよい。
記憶部33は、第二検出部32で求めた研削抵抗モーメント(又は駆動電流信号)を、第一検出部31で検出した工作物Wの回転位相と関連付けして記憶する。
【0018】
判定部34は、現在の工作物Wの回転位相と同位相の1回転前の研削抵抗モーメント(又は駆動電流信号)を記憶部33から読み出す。そして、詳細は後述するが、判定部34は、現在の研削抵抗モーメント(又は駆動電流信号)と1回転前の研削抵抗モーメント(又は駆動電流信号)に基づいて、工作物Wとマスタ主軸Cm(センタ14)との間にスリップが発生しているか否かを判定する。
加工制御部35は、Z軸サーボモータ12、進退駆動装置15、マスタサーボモータ16、サーボモータ19、スレーブサーボモータ20、X軸サーボモータ22及び砥石軸駆動モータ25の各動作を制御して、工作物Wの研削加工を行う。
【0019】
(2.工作物のスリップ判定方法)
次に、工作物Wとマスタ主軸Cm(センタ14)との間に発生するスリップ(以下、単に「スリップ」という)の判定方法について説明する。ここで、スリップは、背景技術でも述べたように、研削抵抗モーメントMnが摩擦力モーメントMmを上回ると発生するので、研削加工工程における研削抵抗モーメントMnの経時変化について検討する。このときの研削加工工程は、図3Aに示すように、端面が円形状の工作物Wをスパイラルサイクル、すなわち図3Bに示すように砥石車23の送り(X軸方向)位置と工作物Wの回転位相(角度)が比例関係にあるサイクルで行われる場合である。
【0020】
先ず、研削加工工程において、スリップが発生しない場合の研削抵抗モーメントMnの経時変化について説明する。図4は、砥石車23の送り(X軸方向)位置と時間との関係(図示一点鎖線)及び研削抵抗モーメントMnと時間との関係(図示実線)を示す。0から時刻t1までは、砥石車23が工作物Wに接触する直前まで砥石車23を早送りする空研である。時刻t1から時刻t3までは、砥石車23を切込み速度V1で送る粗研削工程である。時刻t3から時刻t4までは、砥石車23を切込み速度V1より低速の切込み速度Vで送る精研削工程である。時刻t4から時刻t5までは、砥石車23を切込み速度V2より低速の切込み速度V3で送る微研削工程である。時刻t5から時刻t53までは、スパークアウトである。
【0021】
粗研削工程において、時刻t2から時刻t23までは、砥石車23の実際の単位時間当たりの切込み量が増加し、時刻t23から時刻t3までは、砥石車23の実際の単位時間当たりの切込み量が一定である。精研削工程において、時刻t3から時刻t34までは、砥石車23の実際の単位時間当たりの切込み量が減少し、時刻t34から時刻t4までは、砥石車23の実際の単位時間当たりの切込み量が一定に近付く。微研削工程において、時刻t4から時刻t45までは、砥石車23の実際の単位時間当たりの切込み量が減少し、時刻t45から時刻t5までは、砥石車23の実際の単位時間当たりの切込み量が一定に近付く。
【0022】
スパークアウトにおいて、時刻t5から時刻t51までは、砥石車23の実際の単位時間当たりの切込み量が減少し、時刻t51から時刻t52までは、砥石車23の実際の単位時間当たりの切込み量が一定に近付き、時刻t52から時刻t53までは、砥石車23の実際の単位時間当たりの切込み量が0となる。なお、粗研削工程、精研削工程、微研削工程、スパークアウトにおいては、砥石車23の回転速度は一定である。
【0023】
図4に示すように、砥石車23は、工作物Wに対してX軸方向に前進して粗研削工程を開始し(図4の時刻t1)、Xsの位置で工作物Wに接触したら粗研削加工を行う(図4の時刻t2)。粗研削加工においては、研削抵抗モーメントMnは、急激に上昇した後に整定する。その後、砥石車23は、精研削加工に移行するが(図4の時刻t3)、このとき研削抵抗モーメントMnは、緩やかに低下する。その後、砥石車23は、微研削加工に移行するが(図4の時刻t4)、このとき研削抵抗モーメントMnは、精研削加工時よりは急に低下する。そして、砥石車23は、Xeの位置で微研削工程を終了する(図4の時刻t5)。以上の研削加工では、良品の工作物Wが得られる。
【0024】
次に、スリップが発生する場合の研削抵抗モーメントMnの経時変化について説明する。図5に示すように、砥石車23は、工作物Wに対してX軸方向に前進して粗研削工程を開始し(図5の時刻t1)、Xsの位置で工作物Wに接触したら粗研削加工を行う(図5の時刻t2)。粗研削加工においては、研削抵抗モーメントMnは、急激に上昇した後に整定する。
【0025】
ここまでは図4と同様であるが、粗研削加工中に、研削抵抗モーメントMnは、不安定になって低下し始める(図5の時刻t6−t7)。このとき、工作物Wは、スリップが発生している。なお、図5の時刻t7において、砥石車23は、工作物Wに対し後退して研削加工を中止している。以上のように、研削抵抗モーメントMnが不安定になって低下し始めたら、工作物Wとマスタ主軸Cm(センタ14)との間でスリップが発生していると判定できるが、以下の問題点があることが判明した。
【0026】
すなわち、工作物Wがセンタ14,18間に全く振れの無い理想的な状態で保持される場合、図6に示すように、研削抵抗モーメントMnは、工作物Wの1回転目の回転(図6の時刻t11−t12)から5回転目の回転(図5の時刻t15−t16)に至るまでに上昇し続けた後に整定する。なお、5回転目以降に研削抵抗モーメントMnが低下しているのは、工作物Wが小径となって砥石車23の仕事量が低下するためである。
【0027】
しかし、実際の工作物Wには、センタ穴に対して工作物Wの外周の振れが生じるため、研削抵抗モーメントMnは、工作物Wが1回転(回転位相(角度)0°〜360°)する毎に上下動する。そこで、発明者は、砥石台21の送り速度を一定にして砥石台21に保持される砥石車23で工作物Wに切り込みを与えている場合、工作物Wの1回転毎の研削抵抗モーメントMnはスリップが無ければ、整定前においては上昇傾向となり、整定後においては横ばい傾向となる点に着目した。なお、以下では、整定前における研削抵抗モーメントMnについて説明するが、整定後における研削抵抗モーメントMnについても同様に適用できる。
【0028】
先ず、粗研削加工中において、スリップが発生しない場合の工作物Wの1回転毎及び回転位相(角度)毎の研削抵抗モーメントMnの経時変化について説明する。図7A及び図7Bに示すように、工作物Wが1回転目を回転するとき(図7Aの時刻t11−t12のW1)、研削抵抗モーメントMnは、一旦上昇し(回転角度180°付近まで)、その後に低下する(図7Bの点線で示すW1)。
【0029】
すなわち、砥石車23の切込み速度は、粗研削加工中は一定だが、切込み始めは、工作物Wの外周の振れの大きいところで、実際の単位時間当たりの切込み量は非常に少なく、工作物Wの外周の振れの小さいところで、実際の単位時間当たりの切込み量は殆ど無い。そして、少し切込んだ時点では、工作物Wの外周の振れの大きいところで、実際の単位時間当たりの切込み量は多く、工作物Wの外周の振れの小さいところで、実際の単位時間当たりの切込み量は非常に少ない。
【0030】
そして、工作物Wが2回転目を回転するとき(図7Aの時刻t12−t13のW2)、切込みが進んで実際の単位時間当たりの切込み量が増加するので、研削抵抗モーメントMnは、1回転目の研削抵抗モーメントMnのピーク値Mn1よりも大きい値Mn2まで一旦上昇し(回転角度180°付近まで)、その後に低下する(図7Bの破線で示すW2)。
【0031】
同様に、工作物Wが3回転目、4回転目を回転するとき(図7Aの時刻t13−t14のW3、図7Aの時刻t14−t15のW4)、切込みが更に進んで実際の単位時間当たりの切込み量が増加するので、研削抵抗モーメントMnは、前回の研削抵抗モーメントMnのピーク値Mn2,Mn3よりも大きい値Mn3,Mn4まで一旦上昇し(回転角度220°付近まで、回転角度250°付近まで)、その後に低下する(図7Bの二点鎖線で示すW3、図7Bの一点鎖線で示すW4)。そして、工作物Wが5回転目を回転するとき(図7Aの時刻t15−t16のW5)、研削抵抗モーメントMnは、4回転目の研削抵抗モーメントMnのピーク値Mn4よりも大きい値Mn5まで上昇し(回転角度270°付近まで)、その後に整定する(図7Bの実線で示すW5)。
【0032】
次に、粗研削加工中において、スリップが発生する場合の工作物Wの1回転毎及び回転位相(角度)毎の研削抵抗モーメントMnの経時変化について説明する。図8A及び図8Bに示すように、工作物Wが1回転目を回転するとき(図8Aの時刻t11−t12のW11)、研削抵抗モーメントMnは、一旦上昇し(回転角度180°付近まで)、その後に低下する(図8Bの点線で示すW11)。そして、工作物Wが2回転目を回転するとき(図8Aの時刻t12−t13のW12)、切込みが進んで実際の単位時間当たりの切込み量が増加するので、研削抵抗モーメントMnは、1回転目の研削抵抗モーメントMnのピーク値Mn11よりも大きい値Mn12まで一旦上昇し(回転角度180°付近まで)、その後に低下する(図8Bの破線で示すW12)。
【0033】
しかし、工作物Wが3回転目を回転するとき(図8Aの時刻t13−t14のW13)、スリップが無ければ、切込みが進んで実際の単位時間当たりの切込み量が増加するので、研削抵抗モーメントMnは、2回転目の研削抵抗モーメントMnのピーク値Mn12よりも大きい値Mn13まで一旦上昇し(回転角度220°付近まで)、その後に低下する(図8Bの二点鎖線で示すW13)。ところが、工作物Wが3回転目を回転するときにスリップが発生したため、研削抵抗モーメントMnは、2回転目の研削抵抗モーメントMnのピーク値Mn12よりも小さい値Mn14まで一旦上昇し(回転角度160°付近まで)、その後に低下している(図8Aの時刻t13−t14のW14、図8Bの一点鎖線で示すW14)。
【0034】
以上のように、センタ穴に対して工作物Wの外周の振れが生じ、工作物Wの1回転中に研削抵抗モーメントMnが下から上へ変動し、さらに上から下へ変動する場合でも、工作物Wの1回転毎に同位相(角度)で研削抵抗モーメントMnを比較しているので上記振れの影響は無く、スリップが発生していることを判定できる。すなわち、工作物Wの現在の回転位相(角度)における研削抵抗モーメントMnが、現在の回転位相(角度)と同位相(角度)の前回(例えば1回転前)の研削抵抗モーメントMnよりも低下している場合、スリップが発生していると判定できる。以下に、当該判定方法を用いた研削加工装置1の動作を説明する。
【0035】
(3.研削加工装置の動作)
次に、本実施形態における研削加工装置1の動作について、図を参照して説明する。まず、制御装置30は、工作物W及び砥石車23を回転開始し(図2AのステップS1)、空研を開始する(図2AのステップS2)。すなわち、制御装置30は、工作物Wに対して砥石車23をX軸方向に前進させる(図2BのステップS11)。
【0036】
具体的には、加工制御部35は、マスタサーボモータ16、スレーブサーボモータ20及び砥石軸駆動モータ25の各動作を制御して、工作物W及び砥石車23を回転開始し、X軸サーボモータ22の動作を制御して、工作物Wに対して砥石車23をX軸方向に前進開始する。ここで、空研において図2BのステップS12以降の処理を行うのであるが、空研では研削加工を行わないため、図2BのステップS12以降の処理は次の粗研削加工(図2AのステップS3)において詳述する。
【0037】
制御装置30は、工作物Wに対して砥石車23をX軸方向に前進開始させ(図2BのステップS11)、図略の接触検知センサ(AEセンサ)で砥石車23が発生するAE波を検出し、工作物Wと接触したか否かを判断する(図2BのステップS12)。そして、制御装置30は、砥石車23が工作物Wと接触したと判断したら、砥石軸駆動モータ25の駆動電流信号を検出して研削抵抗モーメントMnを求め、回転位相を検出する(図2BのステップS13、第一検出工程、第二検出工程)。
【0038】
具体的には、第二検出部32は、接触検知センサの接触検知信号が予め設定される閾値を超えたら、砥石軸駆動モータ25の駆動電流信号を検出し、テーブルを参照して検出した駆動電流信号に対応する研削抵抗モーメントMnを求める。第一検出部31は、接触検知センサの接触検知信号が予め設定される閾値を超えたら、マスタサーボモータ16のロータリーエンコーダ16aの位相検出信号を検出する。そして、第一検出部31は、接触検知信号が予め設定される閾値を超えた以降の工作物Wの回転位相(0°〜360°)を検出する。
【0039】
制御装置30は、求めた研削抵抗モーメントMn(又は駆動電流信号)及び検出した回転位相を記憶すると同時に2回転前の研削抵抗モーメントMn(又は駆動電流信号)及び回転位相を自動的に消去する(図2BのステップS14、記憶工程)。そして、制御装置30は、現在の回転位相と同位相の1回転前の研削抵抗モーメントMn(又は駆動電流信号)の有無を判断し(図2BのステップS15、判定工程)、初回の回転のときは1回転前の研削抵抗モーメントMn(又は駆動電流信号)は記憶されていないので、ステップS13に戻って上述の処理を繰り返す。
【0040】
ステップS15において、制御装置30は、1回転前の研削抵抗モーメントMn(又は駆動電流信号)が有ると判断したときは、1回転前の研削抵抗モーメントMn(又は駆動電流信号)を読み出す(図2BのステップS16、判定工程)。そして、制御装置30は、現在の研削抵抗モーメントMn(又は駆動電流信号)が1回転前の研削抵抗モーメントMn(又は駆動電流信号)よりも低下しているか否かを判断し(図2BのステップS17、判定工程)、現在の研削抵抗モーメントMn(又は駆動電流信号)が1回転前の研削抵抗モーメントMn(又は駆動電流信号)よりも低下していないと判断したときは、粗研削加工が完了したか否かを判断し(図2BのステップS20)、粗研削加工が完了していないと判断したときは、ステップS13に戻って上述の処理を繰り返す。
【0041】
ステップS17において、制御装置30は、現在の研削抵抗モーメントMn(又は駆動電流信号)が1回転前の研削抵抗モーメントMn(又は駆動電流信号)よりも低下していると判断したときは、スリップが発生したと判定し(図2BのステップS18、判定工程)、砥石車23を定量後退させ切込速度を低速にして再研削加工を行う(図2BのステップS19)。そして、ステップS12に戻って上述の処理を繰り返す。
【0042】
具体的には、判定部34は、第二検出部32から入力した現在の研削抵抗モーメントMn(又は駆動電流信号)が、記憶部33から読み出した1回転前の研削抵抗モーメントMn(又は駆動電流信号)よりも低下していると判断したときは、スリップが発生したと判断し、スリップ発生信号を加工制御部35に入力する。加工制御部35は、判定部34からスリップ発生信号を入力したら、X軸サーボモータ22の動作を制御して、工作物Wに対して砥石車23をX軸方向に定量後退させ、工作物Wに対する砥石車23のX軸方向への切込み速度にオーバーライドを掛けて前進速度を低速にして砥石車23を前進させ、再び研削加工を行う。例えば、オーバーライドとして0.8を掛けると、切込み速度は20%低速となる。
【0043】
ステップS20において、制御装置30は、粗研削加工が完了したと判断したときは、次の精研削加工を行い(図2AのステップS4)、続いて微研削加工を行い(図2AのステップS5)、さらにスパークアウトを行う(図2AのステップS6)。
そして、制御装置30は、スパークアウトが完了したと判断したときは、工作物Wに対して砥石車23をX軸方向に後退開始し(図2AのステップS7)、工作物W及び砥石車23を回転停止し(図2AのステップS8)、全ての処理を終了する。
【0044】
具体的には、加工制御部35は、X軸サーボモータ22の動作を制御して、工作物Wに対して砥石車23をX軸方向に後退開始し、マスタサーボモータ16、スレーブサーボモータ20及び砥石軸駆動モータ25の各動作を制御して、工作物W及び砥石車23を回転停止する。
【0045】
(4.研削加工装置の動作の別例)
上述した実施形態では、制御装置30は、現在の研削抵抗モーメントMnが1回転前の研削抵抗モーメントMnよりも低下していると判断したときは、スリップが発生したと判定する。しかし、工作物Wは、研削加工により小径になるにつれて研削量が減少するので、研削抵抗モーメントMnは低下する。そこで、制御装置30は、この研削抵抗モーメントMnの低下分を考慮してスリップの発生を判定するようにしてもよい。
【0046】
具体的には、記憶部33には、研削抵抗モーメントMnの低下分に基づく1未満の定数が記憶されている。判定部34は、1回転前の研削抵抗モーメントMn及び上記定数を記憶部33から読み出し、第二検出部32から入力した現在の研削抵抗モーメントMnと1回転前の研削抵抗モーメントMnに上記定数を乗算した修正研削抵抗モーメントMnを比較して、現在の研削抵抗モーメントMnが修正研削抵抗モーメントMnよりも低下していると判断したときは、スリップが発生したと判定する。
【0047】
(5.その他)
上述した実施形態では、研削加工装置1は、工作物Wをセンタ14,18で回転を伝達する構成としたが、工作物Wを摩擦力で回転を伝達する保持部であれば、例えば3つ爪で工作物Wの外周を把持するチャックや挿入した工作物Wの外周にセットネジを当接させるケレで回転を伝達する構成としてもスリップの発生を判定できる。
【0048】
また、上述した実施形態では、第二検出部32は、砥石軸駆動モータ25から駆動電流信号を検出し、テーブルを参照して検出した駆動電流信号に対応する研削抵抗モーメントMnを求める。この他に、第二検出部32は、予め測定されたマスタサーボモータ16又はスレーブサーボモータ20の駆動電流信号と研削抵抗モーメントMnとの関係を示すテーブルを記憶しておき、マスタサーボモータ16又はスレーブサーボモータ20の駆動電流信号を検出し、テーブルを参照して検出した駆動電流信号に対応する研削抵抗モーメントMnを求めるようにしてもよい。
【0049】
また、研削加工装置1には、砥石車23もしくは工作物Wの近傍にAE(アコースティックエミッション)センサを設け、第二検出部32は、予め測定されたAEセンサの弾性波と研削抵抗モーメントMnとの関係を示すテーブルを記憶しておき、AEセンサの弾性波を検出し、テーブルを参照して検出したAEセンサの弾性波に対応する研削抵抗モーメントMnを求めるようにしてもよい。
【0050】
また、研削加工装置1には、センタ14もしくはセンタ18に歪ゲージを設け、第二検出部32は、予め測定された歪ゲージの検出信号から求まる歪と研削抵抗モーメントMnとの関係を示すテーブルを記憶しておき、歪ゲージの検出信号を入力して歪に変換し、テーブルを参照して変換した歪に対応する研削抵抗モーメントMnを求めるようにしてもよい。
【0051】
なお、砥石軸駆動モータ25やマスタサーボモータ16においては、接線研削抵抗を検出することになるが、AEセンサ及び歪ゲージにおいては、接線研削抵抗及び法線研削抵抗を検出することになる。しかし、接線研削抵抗と法線研削抵抗は比例関係にあるため、スリップの判定に悪影響を及ぼすことはない。
【0052】
上述した実施形態では、図3Aに示すように、断面が円形状の工作物Wをスパイラルサイクル、すなわち図3Bに示すように砥石車23の送り(X軸方向)位置と工作物Wの回転位相(角度)が比例関係にあるサイクルで行われる研削加工工程で説明した。この他に、図9Aに示すように、端面が非円形状(カム形状)の工作物Wをステップサイクル、すなわち図9Bに示すように工作物Wの1回転における所定の回転位相範囲(0°−180°)、すなわち同一径の円筒部で工作物Wに対して砥石車23を接近させて切込み、所定の回転位相以外の回転位相範囲(180°−360°(0°))、すなわちカム部で工作物Wに対して砥石車23をリフトデータに基づいて前進後退させて停止させるサイクルで行われる研削加工工程でも、スリップの発生を判定できる。
【0053】
上述した実施形態では、加工制御部35は、判定部34からスリップ発生信号を入力したら、X軸サーボモータ22の動作を制御して、工作物Wに対して砥石車23をX軸方向に定量後退させ、工作物Wに対する砥石車23のX軸方向への前進速度を低速にして砥石車23を前進させ、再び研削加工を行う。この他に、加工制御部35は、判定部34からスリップ発生信号を入力したら、研削加工を停止してもよく、また、工作物Wに対する砥石車23のX軸方向への前進速度を低速にして研削加工を継続するようにしてもよい。
【0054】
(6.実施形態の効果)
本実施形態の研削加工装置1は、主軸Cm,Csに保持される工作物W及び砥石軸24に保持される砥石車23をそれぞれ回転させ、工作物Wに対して砥石車23を相対的に接近離間させることで、工作物Wの研削加工を行う研削加工装置1において、工作物Wの回転位相を検出する第一検出部31と、砥石車23と工作物Wとの研削加工点における研削抵抗モーメントMn又は工作物Wの回転駆動部(マスタサーボモータ16又はスレーブサーボモータ20)もしくは砥石車23の回転駆動部(砥石軸駆動モータ25)の駆動電流を検出する第二検出部32と、研削抵抗モーメントMn又は駆動電流を回転位相と関連付けして記憶する記憶部33と、現在の回転位相における研削抵抗モーメントMn又は駆動電流、及び現在の回転位相と同位相の前回の研削抵抗モーメントMn又は駆動電流に基づいて、工作物Wと主軸Cm,Csとの間のスリップを判定する判定部34と、を備える。
【0055】
研削加工においては、砥石台21の送り速度を一定にして砥石台21に保持される砥石車23で工作物Wに切り込みを与えている場合、工作物Wの回転角度毎の研削抵抗モーメントMn又は駆動電流は、工作物Wと主軸Cm,Csとの間にスリップが無ければ、整定前においては上昇傾向となり、整定後においては横ばい傾向となる。本実施形態の研削加工装置1は、工作物Wの回転位相(角度)毎の研削抵抗モーメントMn又は駆動電流を監視しているので、工作物Wと主軸Cm,Csとの間のスリップの発生を確実に判定できる。よって、工作物Wの不良品の流出を防止でき、また、研削条件の安全率を小さくして加工時間を短縮できる。
【0056】
また、判定部34は、砥石車23と主軸Cm,Csとの相対移動が一定速である場合、現在の研削抵抗モーメントMn又は駆動電流と前回の研削抵抗モーメントMn又は駆動電流とを比較し、現在の研削抵抗モーメントMn又は駆動電流が前回の研削抵抗モーメントMn又は駆動電流よりも低下している場合、工作物Wと主軸Cm,Csとの間にスリップが発生していると判定する。これにより、研削加工中の工作物Wの振れによる研削抵抗モーメントMn又は駆動電流の低下と区別することができ、工作物Wと主軸Cm,Csとの間のスリップの発生を確実に判定できる。
【0057】
また、判定部34は、砥石車23と主軸Cm,Csとの相対移動が一定速である場合、現在の研削抵抗モーメントMn又は駆動電流と前回の研削抵抗モーメントMn又は駆動電流に1未満の定数を乗算した修正研削抵抗モーメントMn又は修正駆動電流とを比較し、現在の研削抵抗モーメントMn又は駆動電流が修正研削抵抗モーメントMn又は修正駆動電流よりも低下している場合、工作物Wと主軸Cm,Csとの間にスリップが発生していると判定する。工作物Wは、研削加工により小径になるにつれて研削量が減少するので、研削抵抗モーメントMn又は駆動電流は低下するが、修正研削抵抗モーメントMn又は駆動電流を用いることで工作物Wと主軸Cm,Csとの間のスリップの発生を確実に判定できる。
【0058】
また、第二検出部32は、工作物Wもしくは砥石車23から放出される弾性波を検出し、検出した弾性波に基づいて研削抵抗モーメントMnを検出し、もしくは工作物Wを保持する保持部(センタ14、センタ18)の歪を検出し、検出した歪に基づいて研削抵抗モーメントMnを検出する。これらによっても工作物Wと主軸Cm,Csとの間のスリップの発生を判定できる。
【0059】
また、研削加工装置1は、工作物Wを保持して摩擦力で回転を伝える保持部(センタ14、センタ18、チャック、ケレ)を備えるので、工作物Wと保持部(センタ14、センタ18、チャック、ケレ)との間のスリップを判定できる。
【0060】
研削加工装置1は、工作物Wの1回転における所定の回転位相範囲で工作物Wに対して砥石車23を切込み送りし、所定の回転位相以外の回転位相範囲で工作物Wに対して砥石車23の切込み送りを停止させ、カム形状に基づいて砥石車23の前進後退を行うことで、工作物Wの研削加工を行う。これにより、端面が非円形状(カム形状)の工作物Wであっても工作物Wと主軸Cm,Csとの間のスリップの発生を判定できる。
【0061】
本手段に係る研削加工方法は、主軸Cm,Csに保持される工作物W及び砥石軸24に保持される砥石車23をそれぞれ回転させ、工作物Wに対して砥石車23を相対的に接近離間させることで、工作物Wの研削加工を行う研削加工方法において、工作物Wの回転位相を検出する第一検出工程と、砥石車23と工作物Wとの研削加工点における研削抵抗モーメントMn又は工作物Wの回転駆動部(マスタサーボモータ16又はスレーブサーボモータ20)もしくは砥石車23の回転駆動部(砥石軸駆動モータ25)の駆動電流を検出する第二検出工程と、研削抵抗モーメントMn又は駆動電流を回転位相と関連付けして記憶する記憶工程と、現在の回転位相における研削抵抗モーメントMn又は駆動電流、及び現在の回転位相と同位相の前回の研削抵抗モーメントMn又は駆動電流に基づいて、工作物Wと主軸Cm,Csとの間のスリップを判定する判定工程と、を備える。本発明の研削加工方法によれば、上述した研削加工装置1における効果と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0062】
1:研削加工装置、 16:マスタサーボモータ、 20:スレーブサーボモータ、 23:砥石車、 25:砥石軸駆動モータ、 30:制御装置、 31:第一検出部、 32:第二検出部、 33:記憶部、 34:判定部、 Cm:マスタ主軸、 Cs:スレーブ主軸、 W:工作物
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B