特許第6972626号(P6972626)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972626
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】カルコゲナイドガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/32 20060101AFI20211111BHJP
   C03C 4/10 20060101ALI20211111BHJP
   H01S 3/17 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   C03C3/32
   C03C4/10
   H01S3/17
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-75115(P2017-75115)
(22)【出願日】2017年4月5日
(65)【公開番号】特開2018-177555(P2018-177555A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松下 佳雅
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史雄
【審査官】 須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/086227(WO,A1)
【文献】 特開平7−101749(JP,A)
【文献】 特開平6−321574(JP,A)
【文献】 特開2002−274882(JP,A)
【文献】 特開2015−129072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
H01S 3/00−3/02
H01S 3/04−3/0959
H01S 3/098−3/102
H01S 3/105−3/131
H01S 3/136−3/213
H01S 3/23−4/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、Ge 0超〜20%未満、Sb 21.3〜40%、Bi 0超〜20%、S+Se+Te 50〜75%、及び、遷移金属元素 0.01〜10%を含有することを特徴とするカルコゲナイドガラス。
【請求項2】
モル%で、Ge 2〜20%未満、Sb 21.3〜35%、Bi 1〜20%、S+Se+Te 55〜75%、及び、遷移金属元素 0.01〜5%を含有することを特徴とする請求項1に記載のカルコゲナイドガラス。
【請求項3】
さらに、モル%で、Sn 0〜20%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のカルコゲナイドガラス。
【請求項4】
遷移金属元素が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及び、希土類元素から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のカルコゲナイドガラス。
【請求項5】
希土類元素が、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項4に記載のカルコゲナイドガラス。
【請求項6】
As、Cd、Tl及びPbを実質的に含有しないことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のカルコゲナイドガラス。
【請求項7】
請求項1〜6に記載のカルコゲナイドガラスからなることを特徴とする発光体。
【請求項8】
ファイバ状であることを特徴とする請求項7に記載の発光体。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の発光体からなることを特徴とするレーザ媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルコゲナイドガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ媒体、光アンプ媒体等の発光体には、励起されると発光する遷移金属イオンを含有したガラスが用いられている。近年、医療用等のレーザには、波長2μm以上の赤外レーザが使用されており、レーザ媒体であるガラスは赤外光を透過する必要がある。そこで、レーザ媒体として、赤外透過特性に優れたカルコゲナイドガラスに、遷移金属イオンを分散させた材料が提案されている。(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2004−510665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のカルコゲナイドガラスは、毒性が極めて高いヒ素を含有しているという問題があった。
【0005】
以上に鑑み、本発明は、毒性が低く、赤外透過特性に優れた発光機能を有するカルコゲナイドガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のカルコゲナイドガラスは、モル%で、Ge 0超〜20%未満、Sb 0超〜40%、Bi 0超〜20%、S+Se+Te 50〜80%、及び、遷移金属元素 0.01〜10%を含有することを特徴とする。
【0007】
本発明のカルコゲナイドガラスは、モル%で、Ge 2〜20%未満、Sb 5〜35%、Bi 1〜20%、S+Se+Te 55〜75%、及び、遷移金属元素 0.01〜5%を含有することが好ましい。
【0008】
本発明のカルコゲナイドガラスは、さらに、モル%で、Sn 0〜20%を含有することが好ましい。
【0009】
本発明のカルコゲナイドガラスは、遷移金属元素が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及び、希土類元素から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0010】
本発明のカルコゲナイドガラスは、希土類元素が、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0011】
本発明のカルコゲナイドガラスは、As、Cd、Tl及びPbを実質的に含有しないことが好ましい。
【0012】
本発明の発光体は、上記のカルコゲナイドガラスからなることを特徴とする。
【0013】
本発明の発光体は、ファイバ状であることが好ましい。
【0014】
レーザ媒体は、上記の発光体からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、毒性が低く、赤外透過特性に優れた発光機能を有するカルコゲナイドガラスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のカルコゲナイドガラスは、モル%で、Ge 0超〜20%未満、Sb 0超〜40%、Bi 0超〜20%、S+Se+Te 50〜80%、及び、遷移金属元素 0.01〜10%を含有することを特徴とする。ガラス組成を上記のように限定した理由を以下に示す。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。
【0017】
Geはガラス骨格を形成するための必須成分である。Geの含有量は0超〜20%未満であり、2〜20%未満であることが好ましく、2〜18%であることがより好ましく、4〜15%であることがさらに好ましい。Geを含有しない場合は、ガラス化しにくくなる。一方、Geの含有量が多すぎると、Ge系の結晶が析出しやすくなるとともに、原料コストが高くなる傾向がある。
【0018】
Sbもガラス骨格を形成するための必須成分である。Sbの含有量は0超〜40%未満であり、5〜35%であることが好ましく、10〜33%であることがより好ましい。Sbを含有しない場合、あるいはその含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0019】
Biはガラス化を促進する成分である。カルコゲナイドガラスは、溶融時にカルコゲン元素であるS、Se、Teが揮発しやすい。そのため、組成ズレや、Ge、Sbとカルコゲン元素との反応性の低さによる不均質性に起因して、ガラス化しにくくなる。そこで、本発明では、ガラス化を促進するため、ガラス組成中にBiを含有させている。ガラス組成中にBiを含有させることによりガラス化を促進できる理由は以下の通りである。Ge及びSbは、融点がそれぞれ940℃及び630℃であるのに対し、Biは融点が270℃と低く、比較的低温で融解する。そのため、原料としてBiを添加することにより、カルコゲン元素は揮発する前にBiと反応し、ガラス化が促進される。なお、Biにはガラスの熱安定性を向上させる効果もある。ただし、Biの含有量が多すぎるとガラス化しにくくなる。以上に鑑み、Biの含有量は0超〜20%であり、0.5〜20%であることが好ましく、1〜10%であることがより好ましく、2〜8%であることがさらに好ましい。
【0020】
カルコゲン元素であるS、Se及びTeはガラス骨格を形成する成分である。S+Se+Teの含有量(S、Se及びTeの合量)は50〜80%であり、55〜75%であることが好ましく、58〜68%であることがより好ましい。S+Se+Teの含有量が少なすぎると、ガラス化しにくくなり、一方、多すぎると耐候性が低下する恐れがある。
【0021】
なお、カルコゲン元素としては、ガラス化範囲の広さと環境面からSを選択することが好ましく、Sの含有量は、30〜80%であることが好ましい。
【0022】
遷移金属元素はガラス中にイオンとして存在することで、発光機能を付与する成分である。これらの含有量の合量は0.01〜10%であり、0.01〜5%であることが好ましく、0.01〜3%であることがより好ましく、0.01〜1%であることがさらに好ましい。遷移金属元素の含有量が少なすぎると十分な強度の発光が得られにくくなる。一方、多すぎると濃度消光が生じ、発光効率が低下する恐れがある。なお、発光効率の点から、遷移金属元素としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及び希土類元素から選択される少なくとも一種であることが好ましい。希土類元素としては、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0023】
本発明のカルコゲナイドガラスには、上記成分以外にも、下記の成分を含有させることができる。
【0024】
Snはガラス化範囲を広げ、ガラスの熱安定性を高める成分である。Snの含有量は0〜20%であることが好ましく、0.5〜10%であることがより好ましい。Snの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0025】
Zn、In、Ga及びPはガラス化範囲を広げる成分であり、その含有量はそれぞれ0〜20%であることが好ましい。これらの成分の含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0026】
Cl、F及びIは赤外線の透過波長範囲を広げる成分であり、その含有量はそれぞれ0〜20%であることが好ましい。これらの成分の含有量が多すぎると、耐候性が低下しやすくなる。
【0027】
なお、本発明のカルコゲナイドガラスは有毒物質であるAs、Cd、Tl及びPbを実質的に含有しないことが好ましい。このようにすれば、環境面への影響を最小限に抑えることができる。ここで、「実質的に含有しない」とは、意図的に原料中に含有させないという意味であり、不純物レベルの混入をも排除するものではない。客観的には、各成分の含有量が1000ppm未満を指す。
【0028】
本発明のカルコゲナイドガラスは波長約1〜12μmにおける赤外線透過率に優れる。波長約1〜12μmにおける赤外線透過率を評価するための指標として、赤外領域における50%透過波長が挙げられる。本発明の赤外領域における50%透過波長(厚み2mm)は10μm以上であることが好ましく、11μm以上であることがより好ましい。
【0029】
本発明のカルコゲナイドガラスは、例えば以下のようにして作製することができる。まず、所望の組成となるように原料を調合する。加熱しながら真空排気を行った石英ガラスアンプルに原料を入れ、真空排気を行いながら酸素バーナーで封管する。封管された石英ガラスアンプルを650〜800℃程度で6〜12時間保持した後、室温まで急冷することにより本発明のカルコゲナイドガラスを得る。なお、原料としては、元素原料(Ge、Sb、Bi、S、Fe、Cr、Se、Te等)を用いてもよく、化合物原料(GeS、Sb、Bi、FeS、Fe、Cr、CoS、Pr等)を用いても良い。
【0030】
本発明のカルコゲナイドガラスは、発光機能を付与する成分である遷移金属元素を含有しているため、発光体として機能する。また、カルコゲナイドガラスからなる発光体は、赤外透過特性にも優れているため、赤外域でのレーザ媒体として好適である。なお、発光体の形状は特に限定されないが、ファイバレーザ等に用いる場合は、ファイバ状であることが好ましい。
【0031】
ファイバ状のカルコゲナイドガラスは、上記で得られたカルコゲナイドガラスをロッド状のプリフォームに加工した後、不活性雰囲気下で加熱しながら線引きすることにより作製することができる。
【0032】
また、レーザ媒体としては、ファイバ状のカルコゲナイドガラスからなるコアとコアを覆うクラッドを有する2層構造のファイバであっても構わない。クラッドの材質は特に限定されないが、レーザ損失を抑制するという観点から、コアより小さい屈折率を有する材質であることが好ましい。なお、2層構造のファイバの場合、ファイバの外径は100〜500μm、コア径は1〜15μm、コアとクラッドの比屈折率差は0.2〜3.5%とすることが一般的であるが、これらに限定されるものではなく、用途等を考慮して適宜決定することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
表1〜4は本発明の実施例及び比較例をそれぞれ示している。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
【表4】
【0039】
各試料は次のようにして調製した。所定の組成比となるように、Ge、Sb、Bi、S、Te、Se、Sn、Fe、Cr、Co、Prを混合し、原料バッチを得た。純水で洗浄した石英ガラスアンプルを加熱しながら真空排気した後、前記原料バッチを入れ、真空排気を行いながら酸素バーナーで石英ガラスアンプルを封管した。
【0040】
封管された石英ガラスアンプルを溶融炉内で10〜20℃/時間の速度で650〜800℃まで昇温後、6〜12時間保持した。保持時間中、2時間ごとに石英ガラスアンプルの上下を反転し、溶融物を攪拌した。その後、石英ガラスアンプルを溶融炉から取り出し、室温まで急冷することにより試料を得た。
【0041】
得られた試料について示差熱分析を行い、ガラス転移点の有無から、ガラス化しているかどうかを確認した。表中には、ガラス化しているものは「○」、ガラス化していないものは「×」として表記した。また、各試料につき厚み2mmでの光透過率を分光光度計にて測定し、波長1〜12μmの赤外領域における50%透過波長を求めた。さらに、各試料につき励起波長と、赤外域における発光波長を分光光度計にて測定した。
【0042】
得られたカルコゲナイドガラスをロッド状のプリフォームに加工した後、不活性雰囲気下で、プリフォームを200〜500℃で加熱しながら線引きし、ファイバ状に成形した。ファイバ状に成形できたものは「○」、成形中に結晶化が生じ、成形できなかったものは「×」として表記した。
【0043】
表から明らかなように、実施例1〜38の試料はガラス化しており、またファイバ状に成形することができた。さらに、50%透過波長が10μm以上であり良好な光透過率を示しており、波長1μm以上の赤外域で発光が確認された。
【0044】
一方、比較例1〜5の試料はガラス化しなかった。また波長1〜12μmの範囲で光透過率はほぼ0%であり、発光は確認されなかった。