特許第6972628号(P6972628)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972628
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】空調制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/32 20060101AFI20211111BHJP
   B60H 1/00 20060101ALI20211111BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   B60H1/32 622Z
   B60H1/32 621A
   B60H1/00 101D
   F25B1/00 387Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-78742(P2017-78742)
(22)【出願日】2017年4月12日
(65)【公開番号】特開2018-176968(P2018-176968A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】磯村 晋作
【審査官】 浅野 弘一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−068786(JP,A)
【文献】 特開平07−290933(JP,A)
【文献】 特開2012−120348(JP,A)
【文献】 米国特許第06655163(US,B1)
【文献】 特開2014−227043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/32
B60H 1/00
F25B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機(2)及び蒸発器(6)を備える冷凍サイクルを有するとともに、空調ケース内を流れる空気を前記蒸発器によって冷却し車室内に提供する車両用空調装置(1)を制御する、空調制御装置であって、
前記蒸発器を通るように冷媒を前記冷凍サイクルの冷媒回路(8、9)に循環させることにより、前記圧縮機を潤滑するオイルを前記圧縮機に戻す、オイル戻し制御を実行し、
A/Cスイッチがオフ状態である状況で前記空調ケース空気を車室内に吹き出す送風モードで前記車両用空調装置が動作している際に、前記オイル戻し制御を実行するときに、前記蒸発器の温度変動に起因する前記車室内に吹き出される空気の温度変動を抑制する温度変動抑制制御を実行する、空調制御装置。
【請求項2】
前記空調ケース内において前記蒸発器を通過した空気を加熱するヒータコア(17)と、前記ヒータコアを通過する空気の風量と当該ヒータコアを迂回する空気の風量との比率を調整する調整部(18)と、が備えられた前記車両用空調装置を制御する、請求項1に記載の空調制御装置であって、
前記温度変動抑制制御として、前記比率が変化するように前記調整部を制御する、空調制御装置。
【請求項3】
前記空調ケース内において前記蒸発器を通過する前の空気の温度を検出する通過前空気温検出部(20、21、21a、23)が備えられた前記車両用空調装置を制御する、請求項1又は2に記載の空調制御装置であって、
前記通過前空気温検出部によって検出される空気の温度に基づいて、前記蒸発器の温度変動に起因する前記車室内に吹き出される空気の前記温度変動の度合を、当該温度変動の発生前に推定し、当該度合に応じた前記温度変動抑制制御を行う、空調制御装置。
【請求項4】
前記空調ケース内において前記蒸発器を通過する前の空気の風量を検出する通過前風量検出部(23)が備えられた前記車両用空調装置を制御する、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の空調制御装置であって、
前記通過前風量検出部によって検出される空気の風量に基づいて、前記蒸発器の温度変動に起因する前記車室内に吹き出される空気の前記温度変動の度合を、当該温度変動の発生前に推定し、当該度合に応じた前記温度変動抑制制御を行う、空調制御装置。
【請求項5】
前記圧縮機の作動状況に基づいて、前記蒸発器の温度変動に起因する前記車室内に吹き出される空気の前記温度変動の度合を、当該温度変動の発生前に推定し、当該度合に応じた前記温度変動抑制制御を行う、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の空調制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用空調装置を制御する空調制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを有する空調装置が知られている。この種の空調装置では、一般に、圧縮機を潤滑するオイルが用いられ、当該オイルは、圧縮機を潤滑した後に冷媒回路に流出し、当該冷媒回路を通って圧縮機に戻る。
【0003】
しかしながら、オイルが圧縮機に戻らずに冷媒回路中に滞留することがあるため、この種の空調装置において、冷媒回路中に冷媒を流すことよりオイルを圧縮機に戻すオイル戻し制御を行うものが提案されている(例えば、特許文献1に記載の空調装置)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−107064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両用の空調装置においても、上記のようにオイル戻し制御を行うものがある。
【0006】
ところで、蒸発器にオイルが滞留することがあり、蒸発器に滞留したオイルを圧縮機に戻すためには、蒸発器を通るように冷媒を流すオイル戻し制御を行うことが必要となる。
【0007】
しかしながら、蒸発器を通るように冷媒を流すオイル戻し制御が行われると、蒸発器が冷却される。このため、車両用空調装置によって車室内に空気が吹き出されているときにこのようなオイル戻し制御が実行された場合、当該蒸発器により冷却された空気が車室内に吹出されることとなり、この結果、当該オイル戻し制御以前よりも低温の空気が、車室内に吹き出されることとなる。このような吹出空気の温度変動は、乗員の快適性を害する原因となり得る。このような吹出空気の温度変動は、その度合が大きいほど、乗員の快適性を大きく阻害する。
【0008】
特に、車両用空調装置においては、一般に狭い空間である車室に空気を吹出すため、上記のように吹出空気の温度変動が生じた場合に、車室内温度が大きく変動し、これにより乗員の快適性が大きく阻害され易い。
【0009】
上記問題に鑑み、本開示は、車両用空調装置を制御する空調制御装置であって、オイル戻し制御を実行する際でも乗員の快適性を維持できるようにするものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、圧縮機(2)及び蒸発器(6)を備える冷凍サイクルを有するとともに、空調ケース内を流れる空気を蒸発器によって冷却し車室内に提供する車両用空調装置(1)を制御する、空調制御装置である。この空調制御装置は、蒸発器を通るように冷媒を冷凍サイクルの冷媒回路(8、9)に循環させることにより圧縮機を潤滑するオイルを圧縮機に戻す、オイル戻し制御を実行する。そして、この空調制御装置は、A/Cスイッチがオフ状態である状況で空調ケース空気を車室内に吹き出す送風モードで車両用空調装置が動作している際に、オイル戻し制御を実行するときに、蒸発器の温度変動に起因する、車室内に吹き出される空気の温度変動を抑制する温度変動抑制制御を実行する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、温度変動抑制制御が実行されることにより、オイル戻し制御の影響により生じる空調用空気の温度変動が抑制される。このため、乗員の快適性が維持され易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示の第1実施形態に係る車両用制御装置(空調ECU)によって制御される車両用空調装置を示す概略平面図である。
図2図2は、図1に示す車両用空調装置の構成要素を示すブロック図である。
図3図3は、第1実施形態に係る車両用制御装置(空調ECU)によって実行される制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0014】
(第1実施形態)
【0015】
本実施形態に係る車両用空調装置1について図1図3を参照しつつ説明する。車両用空調装置1は、車室内に空調用空気を提供する空調装置である。
【0016】
まず、車両用空調装置1の全体構成について図1図2を参照しつつ説明する。尚、図1中の矢印は、冷媒及びオイルの流れ方向を示している。
【0017】
図1に示すように、車両用空調装置1は、圧縮機2、凝縮器3、膨張弁4、追加膨張弁5、蒸発器6及び追加蒸発器7を有する蒸気圧縮式の冷凍サイクルを備えている。当該冷凍サイクルを実現する冷媒流路として、圧縮機2、凝縮器3、膨張弁4、蒸発器6、圧縮機2、…の順に冷媒を循環させる回路(以下、第1冷媒回路という)8が形成されている。また、当該冷凍サイクルを実現する冷媒流路として、圧縮機2、凝縮器3、追加膨張弁5、追加蒸発器7、圧縮機2、…の順に冷媒を循環させる回路(以下、第2冷媒回路という)9が形成されている。第1冷媒回路8及び第2冷媒回路9の一部は互いに共通共用の流路10で構成され、当該共通共用の流路10から2つの流路(以下、一方を第1流路11、他方を第2流路12という)に分岐するとともに分岐後に流路10に合流する構造となっている。つまり、第1流路11は第1冷媒回路8の一部であり、第2流路12は第2冷媒回路9の一部である。第1流路11は蒸発器6を通り、第2流路12は追加蒸発器7を通っている。
【0018】
第1冷媒回路8及び第2冷媒回路9には、圧縮機2を潤滑するオイルも、冷媒とともに流れる。当該オイルは、圧縮機2を潤滑する際には圧縮機2内に保持され、車両用空調装置1の運転に伴って圧縮機2から外部へ流出し、第1冷媒回路8又は第2冷媒回路9を循環する。
【0019】
圧縮機2は、低温低圧の気相冷媒を吸入し、吸入した気相冷媒を圧縮して、高温高圧となった当該気相冷媒を凝縮器3に送り出す。
【0020】
凝縮器3は、圧縮機2から送り出された高温高圧の気相冷媒を周囲の空気等と熱交換させて冷却することにより、当該気相冷媒を凝縮する。
【0021】
膨張弁4及び追加膨張弁5の各々は、凝縮器3から送り出された高圧の液相冷媒を減圧膨張させる電気式減圧弁である。膨張弁4は、第1流路11に備えられ、蒸発器6に流入する冷媒の流通量を調節する調節部として機能する。追加膨張弁5は、第2流路12に備えられ、追加蒸発器7に流入する冷媒の流通量を調節する調節部として機能する。
【0022】
蒸発器6及び追加蒸発器7の各々は、低圧の液相冷媒を周囲の空気等と熱交換させて加熱することにより液相冷媒を蒸発させる。蒸発器6及び追加蒸発器7は、互いに別個の熱交換器として構成されている。
【0023】
蒸発器6は、液相冷媒を蒸発させる時に発生する蒸発潜熱により、冷却対象である空気を冷却する。
【0024】
追加蒸発器7は、液相冷媒を蒸発させる時に発生する蒸発潜熱により、走行部品(例えば、バッテリ)等の冷却対象を冷却する、蒸発器である。
【0025】
また、車両用空調装置1は、空調ユニット13を備えている。空調ユニット13は、空調ケース14、内外気切替ドア15、送風機16、上記の蒸発器6、ヒータコア17、及びエアミックスドア18を備えている。
【0026】
空調ケース14は、樹脂などで構成される筐体部材である。空調ケース14に形成された空気通路19には車室内空気(以下、内気という)或いは車室外空気(以下、外気という)が導入される。導入された内気或いは外気は、空気通路19を通って車室内へ送られるまでの間に蒸発器6等によって温度或いは湿度等を調整された後に、空調用空気として空調ユニット13から車室内へ吹き出される。
【0027】
内外気切替ドア15は、外気吸込口15a及び内気吸込口15bを開閉することにより、空気通路19内に取り込まれる空気を外気又は内気に切り替える。また、内外気切替ドア15は、外気吸込口15aから空気通路19内に導入される外気と、内気吸込口15bから空気通路19内に導入される内気との割合を変更することが可能である。
【0028】
送風機16は、空気通路19内に空気を導入し、導入した空気を車室内へ送る。空気通路19に導入された空気は、送風機16による送風によって、蒸発器6に通され、蒸発器6によって冷却される。冷却された空気は、その後に車室内へと送られる。
【0029】
ヒータコア17は、その内部を流れる熱交換流体(例えば、エンジンとの間で循環するエンジン冷却水)との熱交換により、空気通路19内の空気を加熱する。
【0030】
エアミックスドア18は、ヒータコア17を通過する空気の風量と、ヒータコア17を迂回する空気の風量との比率を調整する。エアミックスドア18の開度が変化することにより、ヒータコア17を通過する空気の流量と、ヒータコア17を迂回する空気の流量との比率が調整され、これにより空調用空気の温度が調整される。
【0031】
また、空調ユニット13は、図2に示すように、車両用空調装置1は、内気温センサ20と、外気温センサ21と、ヒータコア流体温センサ21aと、操作部22と、空調ECU(Electronic Control Unit)23とを備えている。
【0032】
内気温センサ20は、車室内の温度である内気温を検出するとともに、検出された内気温に応じた信号を出力する。
【0033】
外気温センサ21は、車室外の温度である外気温を検出するとともに、検出された外気温に応じた信号を出力する。
【0034】
ヒータコア流体温センサ21aは、ヒータコア17の内部を流れる熱交換流体の温度であるヒータコア流体温を検出するとともに、検出されたヒータコア流体温に応じた信号を出力する。
【0035】
操作部22は、車両用空調装置1の各種操作を行う際に乗員により操作される部分である。操作部22は、送風スイッチ24、及びエアコンスイッチ24aを有している。以下では、便宜上、エアコンスイッチを「A/Cスイッチ」と略記する。また、操作部22は、不図示の温度設定スイッチ、内気スイッチ、及び外気スイッチ等を有している。
【0036】
送風スイッチ24は、送風機16による送風の実行及び停止を切り替える際に操作されるスイッチである。A/Cスイッチ24aは、上記冷凍サイクルによる空調用空気の冷却の実行及び停止を切り替える際に操作されるスイッチである。温度設定スイッチは、車室内の空調温度を設定する際に操作される。内気スイッチは、空調ケース14の空気通路19内に取り込まれる空気を内気に設定する際に操作される。外気スイッチは、空調ケース14の空気通路19内に取り込まれる空気を外気に設定する際に操作される。操作部22は、A/Cスイッチ24aを含むこれらのスイッチの各操作情報に応じた信号を出力する。
【0037】
空調ECU23は、車両用空調装置1の運転を統括的に制御する部分である。本実施形態では、空調ECU23が、空調制御装置に相当する。空調ECU23は、CPUやROM、RAM等を有するマイクロコンピュータを中心に構成されている。CPUは、自動運転制御に関する演算処理を実行する。ROMには、車両用空調装置1の制御に関する各種プログラムやデータ等が記憶されている。RAMには、CPUの演算結果が一次的に記憶される。
【0038】
空調ECU23は、圧縮機2、膨張弁4、追加膨張弁5、送風機16、ヒータコア17、及びエアミックスドア18等に信号を送信することで、これら2、4、5、16、17、18の作動等を制御する。また、空調ECU23は、内気温センサ20或いは外気温センサ21から出力される信号に基づいて、空気通路19に導入される空気の温度を検出する。また、空調ECU23は、ヒータコア流体温センサ21aから出力される信号に基づいて、ヒータコア17の内部を流れる熱交換流体の温度を検出する。また、空調ECU23は、送風スイッチ24から出力される情報に基づいて、送風機16による送風の実行及び停止を切り替え、これにより車両用空調装置1による車室内への送風の実行及び停止を切り替える。また、空調ECU23は、A/Cスイッチ24aから出力される情報に基づいて、上記冷凍サイクルによる空調用空気の冷却の実行及び停止を切り替える。
【0039】
空調ECU23は、第1冷媒回路8に冷媒を循環させる運転モードである第1運転モードと、第2冷媒回路9に冷媒を循環させる運転モードである第2運転モードと、を切り替える制御も行う。第1運転モードでは、第1流路11に冷媒が流通する。第2運転モードでは、第2流路12に冷媒が流通する。
【0040】
空調ECU23は、第1運転モードのときには、膨張弁4を開けるとともに追加膨張弁5を閉じる。これにより、冷媒は、第1流路11を流れて蒸発器6を通り、第1冷媒回路8を循環するようになる。一方、空調ECU23は、第2運転モードのときには、追加膨張弁5を開けるとともに膨張弁4を閉じる。これにより、冷媒は、第2流路12を流れて追加蒸発器7を通り、第2冷媒回路9を循環するようになる。
【0041】
空調ECU23は、圧縮機2に戻らずに第1、第2冷媒回路8、9に滞留したオイルを圧縮機2へ戻すために冷媒を第1、第2冷媒回路8、9に循環させる、オイル戻し制御を実行する。空調ECU23は、膨張弁4及び追加膨張弁5の開閉を調整し、これにより、冷媒を第1冷媒回路8に循環させる、或いは第2冷媒回路9に循環させるようにする。空調ECU23は、所定の制御周期が経過する毎にオイル戻し制御を繰り返し実行する。基本的には、空調ECU23は、A/Cスイッチ24aがオフのとき、すなわち上記冷凍サイクルによる空気の冷却を実行していない所謂送風モードのときに、温度変動抑制制御を実行する。
【0042】
ところで、蒸発器6にオイルが滞留することがあり、蒸発器6に滞留したオイルを圧縮機2に戻すためには、蒸発器6を通るように冷媒を流すオイル戻し制御を行う必要がある。よって、蒸発器6に滞留したオイルを回収する際には、空調ECU23は、少なくとも蒸発器6を通るように、冷媒を第1冷媒回路8に循環させるオイル戻し制御を行う。
【0043】
しかしながら、蒸発器6を通るように冷媒を流すオイル戻し制御が行われると、蒸発器6が冷却される。このため、車両用空調装置1によって車室内に空気を吹き出されているときにこのようなオイル戻し制御が実行された場合、蒸発器6により冷却された空気が車室内に吹出されることとなり、この結果、当該オイル戻し制御以前よりも低温の空気が、車室内に吹き出されることとなる。このような吹出空気の温度変動は、乗員の快適性を害する原因となり得る。このような吹出空気の温度変動は、その度合が大きいほど、乗員の快適性を大きく阻害する。
【0044】
特に、車両用空調装置1のような車両用の空調装置においては、一般に狭い空間である車室に空気を吹出すため、上記のように吹出空気の温度変動が生じた場合に、車室内温度が大きく変動し、これにより乗員の快適性が大きく阻害され易い。
【0045】
そこで、本実施形態の空調ECU23は、車両用空調装置1によって車室内へ空調用空気が送風されている際にオイル戻し制御を実行するときに、蒸発器6の温度変動に起因する空調用空気の温度変動を抑制する制御を実行する制御(以下、温度変動抑制制御という)を実行する。
【0046】
空調ECU23は、温度変動抑制制御として、ヒータコア17を通過する空気の風量とヒータコア17を迂回する空気の風量との比率が変化するように、エアミックスドア18の開度を制御する。空調ECU23は、ヒータコア17を通過する空気の風量が多くなるようにエアミックスドア18の開度を制御することにより、当該空気(すなわち、後に車室内に吹き出される空気)を加熱する。当該空気は、その後に、オイル戻し制御の影響により冷却された蒸発器6によって冷却されるが、温度変動抑制制御によるヒータコア17によって加熱されているため、結果として、車室内へ吹き出される当該空気の温度変動は抑制される。
【0047】
このように、本実施形態によれば、温度変動抑制制御が実行されることにより、オイル戻し制御の影響により生じる空調用空気の温度変動が抑制される。このため、乗員の快適性が維持され易くなる。
【0048】
空調ECU23は、上記の温度変動抑制制御を実行する際、オイル戻し制御の影響により生じる空調用空気の温度変動の度合を、当該温度変動の発生前に推定し、当該温度変動の度合に応じた温度変動抑制制御を行う。
【0049】
空調ECU23は、蒸発器6を通過する前の空気の温度、蒸発器6を通過する前の空気の風量、及び圧縮機2の作動状況に基づいて、当該温度変動の度合を推定する。
【0050】
このとき、空調ECU23は、内気温センサ20又は外気温センサ21によって検出される空気温度、エアミックスドア18の開度、ヒータコア流体温センサ21aによって検出されたヒータコア流体温などに基づいて、蒸発器6を通過する前の空気の温度を検出する。換言すると、エアミックスドア18の開度に基づいて蒸発器6を通過する前の空気の温度を検出することは、ヒータコア17を通過する空気の風量とヒータコア17を迂回する空気の風量との比率に基づいて蒸発器6を通過する前の空気の温度を検出することである。
【0051】
そして、空調ECU23は、内気温センサ20又は外気温センサ21によって検出される空気温度が高いときには、蒸発器6を通過する前の空気の温度が高いため当該空調用空気と蒸発器6との温度差が大きいと推定し、空調用空気の温度変動の度合が大きくなると推定する。空調ECU23は、ヒータコア17を通過する空気の風量の比率が大きいときには、蒸発器6を通過する前の空気の温度が高いため当該空調用空気と蒸発器6との温度差が大きいと推定し、空調用空気の温度変動の度合が大きくなると推定する。空調ECU23は、ヒータコア流体温センサ21aによって検出されたヒータコア流体温の温度が高いときには、蒸発器6を通過する前の空気の温度が高いため当該空調用空気と蒸発器6との温度差が大きいと推定し、温度変動の度合が大きくなると推定する。
【0052】
また、空調ECU23は、送風機16を低出力で作動させているときに、蒸発器6を通過する前の空気の風量が小さいと推定し、空調用空気の温度変動の度合が大きくなると推定する。
【0053】
また、空調ECU23は、圧縮機2の回転数が多いとき若しくは冷媒吐出量が大きいときに、蒸発器6によって当該空調用空気が重度に冷却されると推定し、空調用空気の温度変動の度合が大きくなると推定する。
【0054】
空調ECU23は、上記情報に基づいて当該温度変動の度合を推定するため、当該温度変動の発生後ではなく発生前に推定することができる。上記情報は、蒸発器6を通過する前の空気の温度、蒸発器6を通過する前の空気の風量、及び圧縮機2の作動状況である。尚、空調ECU23は、上記情報のうちの一部の情報のみに基づいて当該温度変動の度合を推定しても良い。
【0055】
そして、空調ECU23は、推定した当該温度変動の度合に応じた温度変動抑制制御を行う。空調ECU23は、オイル戻し制御の影響により空調用空気の温度が低下すると推定した場合には、上記のように、ヒータコア17を通過する空気の風量が多くなるようにエアミックスドア18の開度を制御する。空調ECU23は、温度低下の度合が大きい場合に、温度低下の度合が小さい場合よりもヒータコア17を通過する空気の風量が多くなるようにエアミックスドア18の開度を制御しても良い。
【0056】
このように、本実施形態では、空調ECU23は、上記で挙げた情報を用いることによって、当該温度変動の度合を、当該温度変動の発生後ではなく発生前に推定し、推定した当該度合に応じた温度変動抑制制御を実行する。つまり、空調ECU23は、当該温度変動の発生を事前に予測し、事前に当該温度変動に対応しこれを抑制する、フィードフォワード制御を行う。
【0057】
このため、本実施形態によれば、上記温度変動に対して迅速に温度変動抑制制御を実行することができ、これにより乗員の快適性が維持され易くなる。
【0058】
また、空調ECU23は、上記のように空調用空気の温度変動の度合を推定する際、エアミックスドア18の開度、及びヒータコア流体温センサ21aによって検出されたヒータコア流体温に基づいて、蒸発器6を通過する前の空気の温度を推定する。換言すると、エアミックスドア18の開度は、ヒータコア17を通過する空気の風量とヒータコア17を迂回する空気の風量との比率である。そして、空調ECU23は、推定した当該温度(すなわち、蒸発器6を通過する前の空気の温度)に応じた温度変動抑制制御を実行する。空調ECU23は、ヒータコア17を通過する空気の風量の比率が大きいと推定したときに、或いはヒータコア流体温が高いと推定したときに、蒸発器6を通過する前の空気の温度が高いと判断する。
【0059】
このように、本実施形態では、空調ECU23は、上記で挙げた情報を用いることによって、蒸発器6を通過する前の空気の温度を推定し、推定した当該温度に応じた温度変動抑制制御を実行する。例えば、空調ECU23は、上記のように空調用空気の温度低下が生じると推定し、当該温度低下に対応するために空調用空気を加熱する場合でも、蒸発器6を通過する前の空気の温度が高いと判断したときには、ヒータコア17による加熱が過度とならないようにエアミックスドア18の開度を調整する。
【0060】
このため、本実施形態によれば、より適切な温調度合の温度変動抑制制御を実行することができ、これにより乗員の快適性が維持され易くなる。
【0061】
本実施形態の空調ECU23によって実行される制御について、図3を参照しながら説明する。図3に示す一連の処理は、所定の制御周期が経過する毎に繰り返し実行されるものである。
【0062】
空調ECU23は、最初のステップS10の処理として、オイル戻し制御を実行しているか否かを判定する。空調ECU23は、ステップS10の処理で否定判定した場合には、すなわちオイル戻し制御を実行していない場合には、一連の処理を一旦終了する。
【0063】
空調ECU23は、ステップS10の処理で肯定判定した場合には、すなわちオイル戻し制御を実行している場合には、ステップS11の処理として、送風機16による送風を実行しているか否かを判定する。換言すれば、空調ECU23は、ステップS11の処理として、車両用空調装置1によって車室内へ空気が送風されているか否かを判定する。送風機16による送風を実行していない場合には、すなわち車両用空調装置1によって車室内へ空気が送風されていない場合には、一連の処理を一旦終了する。
【0064】
空調ECU23は、ステップS11の処理で肯定判定した場合には、すなわち送風機16による送風を実行している場合には、ステップS100の処理として、上記の温度変動抑制制御を実行する。
【0065】
このように、本実施形態によれば、車両用空調装置1によって車室内へ空気が送風されている際に温度変動抑制制御が実行されることにより、オイル戻し制御の影響により生じる空調用空気の温度変動が抑制される。このため、乗員の快適性が維持され易くなる。
【0066】
また、本実施形態の空調ECU23は、A/Cスイッチ24aがオフの場合に、すなわち冷凍サイクルに冷媒を循環させることによる空調用空気の冷却を実行していない場合に、上記の温度変動抑制制御を実行する。
【0067】
尚、上記のように第1、第2運転モードに切り換えられる構成の本実施形態によれば、第1運転モードのときには蒸発器6による冷却を行うことができ、第2運転モードのときには追加蒸発器7による冷却を行うことができる。
【0068】
このような構成の場合、第2運転モードのときには、冷媒及びオイルは、基本的には、蒸発器6が配置されている側の流路である第1流路11には導入されずに第2流路12に導入され、合流点25に至った後、第1流路11を通ることなく圧縮機2の側に流れる。しかしながら、第2流路12に導入されて合流点25に至ったオイルの一部が、第1流路11の側、すなわち蒸発器6の側に逆流することがあり、これに起因する蒸発器6への当該オイルの滞留が生じ易い。このため、上記のように第1、第2運転モードに切り換えられる構成において上記のような温度変動抑制制御を実行することは、特に好適である。尚、このような構成においてオイル戻し制御による空調用空気の温度変動を抑制する別の方法として、例えば、蒸発器6の温度変動の原因となるオイルの逆流を抑制するための弁を設けるという方法が考えられるが、追加で弁等を設けなければならない等の理由から、これは好ましくない。
【0069】
このため、空調ECU23は、第2運転モードを終了してオイル戻し制御を実行する場合に、温度変動抑制制御が実行するように構成されていることが好ましい。
【0070】
また、上述したように、本実施形態では、第1運転モードのときよりも膨張弁4を閉じる、第2運転モードに切り換える。
【0071】
このような構成の場合、第2運転モードのときに、膨張弁4が閉じられ、冷媒及びオイルの流通量が制限される。これにより、分岐点26に至った冷媒及びオイルは、基本的には、蒸発器6が配置されている側の流路である第1流路11には導入されずに第2流路12に導入され、第1流路11を通ることなく圧縮機2の側に流れる。しかしながら、膨張弁4の構造や状態等によってはオイルの流通が完全には制限されない場合がある。この場合、分岐点26に至ったオイルの一部が、膨張弁4を通過して第1流路11の側、すなわち蒸発器6の側に漏れることがあり、これに起因する蒸発器6への当該オイルの滞留が生じ易い。
【0072】
このため、空調ECU23は、第2運転モードを終了してオイル戻し制御を実行する場合に温度変動抑制制御を実行するように構成されることがより好ましい。
【0073】
(他の実施形態)
【0074】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【0075】
例えば、上記実施形態では、空調ECU23は、上記の温度変動抑制制御の際に、エアミックスドア18の開度を制御することにより空気を加熱していたが、当該空気を加熱する方法はこれに限られるものでは無い。例えば、空調ECU23は、車両に備えられる他の温調装置、例えば車室内に設置されるPTCヒータ(Positive Temperature Coefficient)の作動を制御することにより、当該空気を加熱しても良い。
【0076】
また、温度変動抑制制御は、上記のような空調用空気の温度変動の度合を事前に推定して温度変動抑制制御を実行する、フィードフォワード制御に限られるものでは無い。空調ECU23は、温度センサ等の温度検出手段を介して車室内温度を検出し、この検出結果に基づいてオイル戻し制御の影響による空調用空気の温度変動の発生を事後的に検知し、この検知結果に応じて当該温度変動を抑制する、フィードバック制御を行っても良い。この場合、上記のようなフィードフォワード制御の場合と比べると迅速に温度変動抑制制御を実行することが困難となるため、空調ECU23は、オイル戻し制御が実行されるときに、オイル戻し制御が実行されない通常時よりも短時間で車室内温度を検出するように制御を行うことが好ましい。空調ECU23は、例えば、温度センサ等の温度検出手段から断続的に送られてくる信号を所定回数受け取ったときに、受け取った当該信号に基づいて車室内温度を検出する構成とされ得る。この場合、空調ECU23は、オイル戻し制御が実行されるときに、オイル戻し制御が実行されない通常時よりも少ない回数の信号を受けとった時点で当該信号に基づいて車室内温度を検出するように構成されることで、通常時よりも短時間で車室内温度を検出することができる。このように、短時間で車室内温度を検出することにより、迅速に温度変動抑制制御を実行することができ、これにより乗員の快適性が維持され易くなる。
【符号の説明】
【0077】
1 車両用空調装置
2 圧縮機
6 蒸発器
17 ヒータコア
18 エアミックスドア
20 内気温センサ
21 外気温センサ
21a ヒータコア流体温センサ
23 空調ECU
図1
図2
図3