(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
圧電材料(13a)によりなる圧電体層(13)と、前記圧電体層に接して形成され、前記圧電体層を隔てて互いに向き合うように配置された第1電極(11)および第2電極(12)と、を有してなる圧電部(10)と、
前記圧電体層の変位により生じる電荷を検出する際に、当該変位前にあらかじめ前記圧電材料の分極方向を揃えるための直流バイアス電圧を前記第1電極に印加するための電圧供給部(20、31)と、を備え、
前記圧電材料は、強誘電材料であり、
前記圧電体層は、薄膜状とされ、前記圧電体層を構成する前記圧電材料の自発分極の方向が複数存在し、かつ、複数の自発分極の方向が異なる二以上の方向を向く構成とされており、
前記圧電部は、基板(50)の一面(50a)上に前記第2電極、前記圧電体層、前記第1電極の順に形成された構成を有すると共に、前記第1電極に前記直流バイアス電圧が印加された際には、前記圧電体層には前記一面に対する法線方向に沿って反る力が働き、
前記第1電極上には、前記直流バイアス電圧が前記第1電極に印加された際において前記圧電体層が反る方向の反対方向に反る力を発生させる反り抑制層(41)が形成されており、
前記反り抑制層上には、第3電極(43)が形成されており、
前記反り抑制層は、強誘電材料と異なる誘電材料により構成されると共に、前記第1電極に前記直流バイアス電圧が印加された際には、前記第3電極に所定の電圧が印加されることにより前記圧電体層の反りの方向と反対方向に反る層である圧電センサ。
前記圧電部のうち前記第1電極は、前記圧電部が前記圧電体層の変位により生じる電荷量に応じた信号を出力する電荷検出部(30)の一部を構成するオペアンプ(31)の反転入力端子に接続され、
前記圧電部のうち前記第2電極は、基準電位とされ、
前記オペアンプの非反転入力端子は、可変の直流電圧電源が接続されており、
前記オペアンプは、前記非反転入力端子に印加された電圧に起因して生じる出力端子の電位を前記第1電極に印加する前記電圧供給部として機能する構成とされた請求項1に記載の圧電センサ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0015】
(第1実施形態)
第1実施形態の圧電センサについて、
図1ないし
図3を参照して述べる。
図2では、本実施形態の圧電センサ全体の構成を分かり易くするために、後述する電荷検出部30のうちオペアンプ31に接続される他の回路については省略している。
図3では、後述する圧電材料13aの多結晶により構成された圧電体層13を備える圧電部10に、直流バイアス電圧を印加する前後における圧電体層13の分極の様子を示している。また、
図3では、後述する圧電材料13aの結晶ごとの分極の方向を矢印で示すと共に、圧電部10および電圧供給部20以外の構成要素については省略している。
【0016】
本実施形態の圧電センサは、
図1に示す圧電部10のうち圧電体層13が変形した量、すなわち変位量に応じて生じる電荷を検出信号として出力し、当該信号に基づき圧電部10にかかった物理量などを検出するセンサとして用いられる。本実施形態の圧電センサは、例えば、ジャイロセンサなどに適用されると好適である。
【0017】
本実施形態の圧電センサは、
図1に示すように、互いに向き合う第1電極11および第2電極12と両電極に挟まれた圧電体層13とを有してなる圧電部10と、第1電極11に接続された電圧供給部20および電荷検出部30と、を備える。
【0018】
本実施形態の圧電センサは、電圧供給部20から所定の直流バイアス電圧が印加された圧電部10に物理的な力、例えばコリオリ力などが作用した際の圧電体層13の変形により生じる電荷量に応じた信号を電荷検出部30で検出する構成とされている。これにより、本実施形態の圧電センサは、圧電部10に作用した所定の物理量を検出できる。
【0019】
圧電部10は、本実施形態では、
図1に示すように、第2電極12、圧電体層13、第1電極11がこの順で図示しないシリコンなどによる基板上に積層された構成とされ、圧電体層13の変位量に応じた電荷を信号として出力する働きを果たす。圧電部10は、本実施形態では、圧電部10の変形に伴って生じる電荷を信号として出力する構成とされている。
【0020】
第1電極11は、
図1に示すように、圧電体層13の上面に形成される上部電極であり、電圧供給部20に接続されている。第2電極12は、
図1もしくは
図2に示すように、圧電体層13の下面に形成されると共に、基準電位とされる下部電極であり、本実施形態では、グランド電極である。
【0021】
圧電体層13は、
図3に示すように、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛の略)などの強誘電体によりなる圧電材料13aの薄膜で構成されている。圧電体層13は、何らかの要因で変形すると圧電効果が生じ、その変位量に応じた電荷を発生させるものである。この電荷は、検出信号として出力され、第1電極11を通じて電荷検出部30に伝達される。
【0022】
電圧供給部20は、本実施形態では、強誘電体により構成される圧電体層13における正圧電効果を高めるため、第1電極11と第2電極12との間に例えば数十V/μm程度の電界を生じさせる直流バイアス電圧を第1電極11に印加する電源である。電圧供給部20の果たす役割については、後ほど詳しく説明する。
【0023】
電荷検出部30は、本実施形態では、
図1もしくは
図2に示すように、電圧供給部20により直流バイアス電圧が印加された圧電部10が変形した際の電荷を検出するチャージアンプを備える。電荷検出部30は、本実施形態では、チャージアンプとしてオペアンプ31を備えた構成とされている。
【0024】
具体的には、
図1もしくは
図2に示すように、圧電部10のうち第1電極11が電圧供給部20とオペアンプ31の反転入力端子に電気的に接続され、圧電部10のうち第2電極12がグランド電極とされている。そして、オペアンプ31の非反転入力端子については電荷供給部20と別の可変の直流電圧源に接続され、オペアンプ31の出力端子については抵抗32を介して反転入力端子にフィードバックされている。
【0025】
物理的な力が加わって圧電部10が変形すると電荷が生じ、これがオペアンプ31の反転入力端子に信号として伝わり、オペアンプ31の出力端子から増幅された信号が出力される。そして、オペアンプ31の出力端子から出力された信号は、図示しない物理量を検出する回路部に伝わり、圧電部10にかかる物理量を検出する。
【0026】
なお、本実施形態では、オペアンプ31の非反転入力端子に印加する電圧については、電圧供給部20により第1電極11と共に反転入力端子に印加される電圧と同じとされている。つまり、オペアンプ31の反転入力端子と非反転入力端子との電位差が、圧電部10の変位量に応じた電荷量の出力分となるように調整されている。また、図示しない回路部については、例えば、圧電センサを振動センサとする場合、周波数検出回路とされるなど、圧電センサの用途に応じて適宜変更される。
【0027】
以上が本実施形態の圧電センサの構成である。次に、本実施形態の圧電センサの製造方法について説明する。なお、本実施形態の圧電センサは、一般的な圧電素子の製造方法で得られる圧電部10に、公知の電源や回路により構成された電圧供給部20および電荷検出部30を接続することで製造される。そのため、ここでは、主に圧電部10の製造方法について簡単に説明する。
【0028】
まず、例えば、シリコンなどによる基板を用意し、熱酸化などによって基板表面に絶縁層を形成する。続けて、例えば、マスクを用いたスパッタリングなどにより第2電極12となるパターニングされた下部電極を形成する。必要に応じて、基板表面の全面に第2電極12を形成した後に、フォトリソグラフィエッチング法などによりパターニングを行ってもよい。
【0029】
その後、第2電極12の全面を覆うPZTを、例えば、スパッタリングやゾルゲル法などにより成膜し、圧電体層13を形成する。そして、圧電体層13上に第1電極11となる上部電極を、例えば、マスクを用いたスパッタリングなどにより、第2電極12と向き合うように形成する。なお、上記の構成の他、必要に応じて、後述する電圧供給部20および電荷検出部30に接続するための回路配線などを、第1電極11や第2電極12の形成の際に形成してもよい。このようにして、本実施形態の圧電センサに用いる圧電部10を製造することができる。
【0030】
次に、電圧供給部20による圧電部10の電界印加処理およびこれによる正圧電効果の向上について、
図3を参照して説明する。
【0031】
なお、以下でいう「分極の方向」とは、分極により結晶格子中に生じる負の電荷中心から正の電荷中心へ向かう方向をいう。また、後述する「電界の方向」とは、圧電部10において基準電位とされた第2電極12と直流バイアス電圧が印加された第1電極11との間における高電位の電極から低電位の電極へと向かう方向をいう。さらに、後述する「正の直流バイアス電圧」とは、第1電極11に印加する直流バイアス電圧のうち、圧電体層13の分極方向と電極11、12間の電界の方向とが一致する極性の電圧をいう。また、厳密には、圧電材料13aの1つの結晶中にも多方向の分極が生じるが、
図3では便宜的に、結晶ごとに1つの結晶全体の分極の方向を矢印で示しており、矢印の長さが図示の関係上異なる部分があるが、結晶ごとの分極の度合いの強弱を示すものではない。
【0032】
図3(a)では、直流バイアス電圧を印加する前の圧電部10の状態を示している。圧電体層13は、例えばPZTなどの強誘電体により構成され、
図3(a)に示すように、その層内にPZTの結晶を有し、多結晶により構成されている。
【0033】
ここで、一般的に、強誘電体の結晶は、電界がかかっていない状態においても分極、すなわち自発分極しており、結晶それぞれが別個の分極の方向を有している。そのため、電圧供給部20による正の直流バイアス電圧が印加されていない状況では、圧電体層13は、
図3(a)で示す矢印のように、強誘電体の結晶それぞれが1つの結晶ごとに分極の方向を有した状態となっている。ただし、圧電体層13を構成する強誘電体の多結晶は、ある程度分極の方向が揃っている一方で、多結晶のうち一部の結晶が、当該圧電体層13を構成する強誘電体の他の結晶の分極の方向と異なる方向を指す状態である。言わば、圧電体層13は、二以上の異なる多方向を指す分極の方向を包含する状態である。
【0034】
この状態においても、圧電体層13が何らかの作用により変形すると、層内での電荷の偏りによる電荷の発生、すなわち正圧電効果が生じる。しかしながら、
図3(a)に示すように、圧電体層13は、層内における多結晶のうち一部の結晶の分極の方向が他の結晶の分極の方向と異なる多方向を向いている状態となっている。そのため、圧電体層13内で異なる分極の方向を多数有することから、圧電体層13全体としての分極の度合いがまだ十分でない。この影響により、圧電部10は、圧電体層13の変位により得られる電荷の量、すなわち正圧電効果が抑えられてしまう。
【0035】
これに対して、
図3(b)では、例えば正の直流バイアス電圧が第1電極11に印加された圧電部10の状態を示している。
【0036】
ここで、強誘電体の結晶は、電界がかかると自発分極の方向が電界の向きに沿って変化する。この現象を利用して、使用前に熱や電界を強誘電体に印加してその分極の方向を揃えるポーリング処理が知られているが、ポーリング処理により分極の方向が変化した結晶の一部は、この電界が消えると電界を印加する前の状態に戻ってしまう。このポーリング処理後に、強誘電体の結晶のうちポーリング処理前の分極の方向に戻ってしまったものを、ポーリング処理によって変化したまま維持されている他の分極の方向と揃えることで、強誘電体の正圧電効果がより高まると考えられる。
【0037】
そこで、
図3(b)に示すように、第1電極11に正の直流バイアス電圧を印加する電界印加処理により、圧電体層13を圧電材料13aの結晶ごとの分極の方向が揃った状態のままにする。すなわち、圧電体層13内の多結晶のうち他の結晶と異なる分極の方向を有していた結晶の分極の向きが、電界印加処理により当該他の結晶の分極の向きと揃った状態のまま維持されるため、圧電体層13内の電荷の偏りが大きくなる。
【0038】
なお、ここでいう「分極の方向が揃った状態」とは、圧電材料13aの結晶ごとの分極の方向が完全に一致した状態だけを指すのではない。具体的には、「分極の方向が揃った状態」とは、
図3(b)に示すように、圧電材料13aの結晶ごとの分極の方向が、第1電極11と第2電極12との間に印加された電界の方向X(以下、単に「電界の方向X」という)にある程度沿った状態を含む意味である。
【0039】
言い換えると、「分極の方向が揃った状態」とは、圧電材料13aの結晶ごとの分極の方向が、電界の方向Xとある程度揃った状態となって、直流バイアス電圧が印加される前の状態に比べて、圧電体層13全体としての分極の度合いが向上した状態である。
【0040】
このような状態とされた圧電体層13が変形した場合、直流バイアス電圧が印加される前の状態(以下「初期状態」という)に比べて、分極度合い、すなわち電荷の偏りが大きいため、同じ変位量に対して得られる電荷量が増えることとなる。つまり、電圧供給部20により圧電部10に直流バイアス電圧を印加した状態においては、初期状態に比べて圧電部10の正圧電効果が向上する。
【0041】
具体的には、
図4に示す直流バイアス電圧に対する圧電体層13の圧電定数の予想特性のグラフを参照して説明する。なお、
図4の予想特性は、電界印加処理により強誘電体の結晶の分極方向が揃うことで圧電体層13全体の分極度合いが増すことを考慮すると、理論的には当然に導き出されると予想されるものである。
【0042】
図4では、例えば、直方体状とされた圧電体層13と、圧電体13のうち面積が最も大きい面とこれに向き合う面に形成された直方体状の第1電極11および第2電極12と、によりなる圧電部10の例を示している。具体的には、
図4における「バイアス電圧」については、上記の圧電部10のうち第1電極11に印加する直流バイアス電圧(単位:V)を指し、「圧電定数」については、上記の圧電部10のうち圧電体層13の圧電定数d
33(単位:C/N)を指す。
【0043】
バイアス電圧がゼロ、すなわち圧電部10に電圧を印加していない場合では、圧電体層13内の多結晶のうち一部の結晶の分極の方向が他の結晶の分極の方向と揃っていないため、圧電体層13の変位量に対して生じる電荷量は、抑えられることとなる。しかし、強誘電体により構成された圧電体層13が正圧電効果を生じるため、
図4の左端に示すように、バイアス電圧がゼロ、すなわち初期状態であっても圧電体層13の圧電定数は、所定の値となる。
【0044】
そして、バイアス電圧を上げていくと、上記で説明したように電界印加処理により圧電体層13内の結晶ごとの分極の方向が徐々に揃っていくため、圧電体層13の圧電定数は初期状態に比べて徐々に上昇する。ただし、バイアス電圧をさらに上げると、圧電体層13内の多結晶のうち分極の方向が変化していないものがほぼなくなるため、
図4の右端に示すように、圧電体層13の圧電定数は一定の値で頭打ちになると考えられる。
【0045】
言い換えると、第1電極11にバイアス電圧を印加して圧電材料13aの電界印加処理をすることにより圧電体層13の圧電定数が増加し、圧電部10の正圧電効果が向上する。つまり、圧電部10に所定のバイアス電圧を印加した状態で使用することにより、強誘電体を圧電材料として使用した従来の圧電センサ(以下、単に「従来の圧電センサ」という)に比べて、圧電部10の変位量に対して得られる電荷量が向上すると考えられる。
【0046】
本実施形態によれば、圧電部10が所定のバイアス電圧を印加したまま使用できる構成とされることで、従来の圧電センサに比べて、圧電体層13の変位量に対して得られる電荷量が向上した、すなわち感度の高い圧電センサとなる。
【0047】
(第2実施形態)
第2実施形態の圧電センサについて、
図5、
図6を参照して述べる。なお、構成を分かり易くするため、
図5では、圧電部10以外の構成要素を省略し、
図6では、圧電部10および電圧供給部20以外の構成要素を省略している。
【0048】
本実施形態の圧電センサは、
図5に示すように、圧電部10が基板50の一面50a上に第2電極12、圧電体層13、第1電極11の順に形成され、さらに第1電極11上に反り抑制層40が積層された構成とされている点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0049】
反り抑制層40は、第1電極11上に形成され、第1電極11に正圧電効果の向上の目的で印加される直流バイアス電圧を印加した際に、圧電部10の反りを抑制するために設けられる層である。
【0050】
具体的には、第1電極11に直流バイアス電圧を印加された時(以下「バイアス電圧印加時」という)において、圧電体層13には、逆圧電効果により、圧電体層13のなす平面内の方向(以下「面内方向」という)に収縮変形する。
【0051】
このような圧電体層13の面内方向の収縮応力により、圧電部10には、全体として基板50側が凸となるように、すなわち
図6(a)に示すように、基板50の一面50aから他面50bに向かうY1方向へ反る作用が生じる。そのため、反り抑制層40が形成されていない場合には、圧電部10は、バイアス電圧印加時において、基板50側が凸となるように反ってしまい得る。このように圧電部10が反った状態では、圧電部10にかかる物理量の測定が正確に行えないおそれがある。
【0052】
そこで、
図6(b)に示すように、バイアス電圧印加時の圧電体層13の収縮応力と反対方向の内部応力が働き、圧電部10全体として基板50側と反対側が凸となる方向へ反る作用が生じる反り抑制層40が第1電極11上に形成された構造とする。これにより、
図6(b)に示すように、圧電部10は、バイアス電圧印加時において圧電体層13にY1方向への反りの作用が生じても、反り抑制層40によるY1方向と反対のY2方向への反りの作用により相殺される。
【0053】
具体的には、第1電極11へのバイアス電圧印加時には、圧電体層13のうち一面50a側には収縮応力が生じ、一面50aの反対側には引張り応力が生じる。そこで、圧電体層13側で収縮応力が生じ、圧電体層13の反対側で引張り応力が生じる反り抑制層40が圧電体層13上に形成された構成とする。これにより、圧電体層13の引張り応力が反り抑制層40の収縮応力により相殺され、圧電部10は、バイアス電圧印加時に、物理量の検出に支障が出るほどの反りが生じることが抑制されることとなる。
【0054】
反り抑制層40は、例えば、SiO
2やSiNなどの公知の半導体装置の製造プロセスで一般的に用いられる材料により構成され、スパッタリングなどの真空成膜法などにより形成される。反り抑制層40の内部応力、すなわち面内方向に伸展する力については、上記材料の成膜条件を調整することにより制御でき、例えば、成膜温度や膜厚の調整などの公知の方法により調整できる。
【0055】
なお、反り抑制層40は、本実施形態では、第1電極11上に形成されているが、バイアス電圧印加時に圧電体層13が反る方向と反対方向に反るような内部応力を有する膜が形成されていればよいため、例えば他面50b上や他の部位に形成されていてもよい。また、反り抑制層40の材料、膜厚などについては、任意であり、圧電体層13の構成に応じて適宜調整される。
【0056】
本実施形態によれば、上記第1実施形態と同様に、圧電部10に所定のバイアス電圧を印加したまま使用できる構成とされることで、感度の高い圧電センサとなる。また、バイアス電圧印加時の圧電部10の反りを抑制でき、安定して圧電部10に作用した物理量を検出できる圧電センサとなる。
【0057】
(第3実施形態)
第3実施形態の圧電センサについて、
図7、
図8を参照して述べる。なお、構成を分かり易くするため、
図7では、圧電部10以外の構成要素を省略し、
図8では、圧電部10および電圧供給部20以外の構成要素を省略している。
【0058】
本実施形態の圧電センサは、
図7に示すように、圧電部10が、上記第2実施形態の圧電部10のうち反り抑制層40が、反り抑制層41と第3電極43とに置き換えられた構造とされている点で上記第2実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点を主に説明する。
【0059】
反り抑制層41は、バイアス電圧印加時において圧電体層13に生じる反りの作用と反対側に反る作用を生じさせ、圧電部10全体として反ることを抑制するために設けられる。反り抑制層41は、強誘電体と異なる任意の圧電材料、例えば、AlN、ZnOやScAlNなどにより構成される。
【0060】
反り抑制層41上には、第3電極43が形成されている。そして、第1電極11、圧電体層13および第2電極12を便宜的に第1圧電部として、第1電極11、反り抑制層41および第3電極43が第2圧電部を構成している。第2圧電部は、上記第2実施形態における反り抑制層40と同様に、第1圧電部へのバイアス電圧印加時において、第1圧電部の反り方向であるY1方向と反対方向のY2方向側が凸になるように反る作用が生じる構成とされている。これにより、圧電部10は、バイアス電圧印加時の反りが抑制される構造となる。
【0061】
具体的には、圧電体層13は、上記第2実施形態での説明と同様にバイアス電圧印加時において、面内方向に向かって収縮変形する結果、基板50側が凸となるように、すなわち
図8に示すY1方向側が凸となるように反る作用が生じる。そのため、バイアス電圧印加時に圧電部10が全体として反ることを抑制するためには、
図8に示すように、第2圧電部を第1圧電部が反るY1方向と反対のY2方向側が凸になるように反る作用が働くように駆動させればよい。つまり、第2圧電部のうち反り抑制層41内に第1圧電部の応力と反対方向の応力を働かせ、第1圧電部の応力を相殺することで、圧電部10の反りが抑制される。
【0062】
反り抑制層41は、本実施形態では、強誘電体と異なる圧電材料とされる。強誘電体は、抗電界を越える電圧を印加するとその分極の方向が反転する性質を有していることから、強誘電体による層の面内方向に収縮する変形をするものの、当該面内方向に伸展する変形をしないためである。つまり、第2圧電部を面内方向に伸展する力が働く構成とするためには、反り抑制層41を面内方向に伸展する圧電材料、すなわち強誘電体と異なる誘電材料とする必要がある。
【0063】
なお、反り抑制層41の材料や膜厚については、任意であり、第1圧電部の構成に応じて適宜変更される。また、第3電極43は、第2圧電部を駆動させるために、電圧供給部20と異なる駆動電源に接続されている。さらに、本実施形態では、第2圧電部を駆動させるための一対の電極として第3電極43と第1電極11を使用しているが、第1電極11と別に電極を形成し、これを第3電極43と共に用いてもよい。
【0064】
本実施形態によれば、上記第2実施形態と同様、圧電部10に所定のバイアス電圧を印加したまま使用できる構成とされ、感度の高い圧電センサとなると共に、バイアス電圧印加時の圧電部10の反りが抑制され、安定して物理量を検出できる圧電センサとなる。
【0065】
(第4実施形態)
第4実施形態の圧電センサについて、
図9、
図10を参照して述べる。なお、構成を分かり易くするため、
図9では、圧電部10以外の構成要素を省略し、
図10では、圧電部10および電圧供給部20以外の構成要素を省略している。
【0066】
本実施形態の圧電センサは、
図9に示すように、圧電部10が基板50と、基板50の一面50a上に形成された第1圧電部と、該一面50aの反対側の他面50b上に形成された反り抑制層42とにより構成されている点で上記第2実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点を主に説明する。
【0067】
反り抑制層42は、反り抑制層40、41と同様の目的で形成される層であり、
図9に示すように、基板50の他面50b上に第4電極421、圧電体膜423、第5電極422の順に積層された構成とされている。
【0068】
反り抑制層42は、本実施形態では、例えば、第1圧電部と同じ構成とされている。具体的には、圧電体膜423は、圧電体層13と同じ強誘電材料により構成されている。そして、反り抑制層42は、第1圧電部へのバイアス電圧印加時において、第4電極421が基準電位とされ、第5電極422に直流バイアス電圧が印加されることで、面内方向に収縮変形する。つまり、反り抑制層42は、第1圧電部へのバイアス電圧印加時において、第1圧電部と同時に駆動され、
図10に示すように、圧電体層13のY1方向側が凸になるように反る作用と反対のY2方向側が凸になるように反る作用が働く第3圧電部に相当する。これにより、圧電部10は、バイアス電圧印加時の反りが抑制される構造となる。
【0069】
なお、反り抑制層42では、第1圧電部と同様に、圧電体膜423を構成する強誘電体の分極の方向が、第4電極421と第5電極422との間の電界の方向と揃うように調整されると共に、当該電界の方向が第1圧電部の電界の方向と逆の方向とされる。これにより、第1圧電部と第3圧電部である反り抑制層42とには、互いに逆方向に反る作用が生じ、第1圧電部の応力が第3圧電部の応力により相殺されることで、圧電部10のバイアス電圧印加時における反りが抑制される。
【0070】
また、第5電極422には、電圧供給部20と異なる別の直流バイアス電圧電源が接続される。さらに、第4電極421、圧電体膜423、第5電極422のそれぞれは、第1圧電部の第1電極11、圧電体層13、第2電極12に対応し、これらと同じ材料、膜厚などの構成とされてもよいし、異なる構成とされてもよい。第4電極421、圧電体膜423、第5電極422の構成については、任意であり、第1圧電部の構成に応じて適宜変更される。
【0071】
本実施形態によれば、上記第2実施形態と同様、圧電部10に所定のバイアス電圧を印加したまま使用できる構成とされ、感度の高い圧電センサとなると共に、バイアス電圧印加時の圧電部10の反りが抑制され、安定して物理量を検出できる圧電センサとなる。
【0072】
(第5実施形態)
第5実施形態の圧電センサについて、
図11、
図12を参照して述べる。
図11、
図12では、構成を分かり易くするため、圧電部10以外の構成部分については省略している。
【0073】
本実施形態の圧電センサは、圧電部10が、基板50と、基板50の一面50a上に長手方向を揃えた状態で並べて配置されるように形成された第1圧電部および反り抑制層44とにより構成されている。また、第1圧電部と反り抑制層44は、
図11に示すように、第1圧電部へのバイアス電圧印加時において、一面50aのなす面内方向であって、第1圧電部の長手方向であるZ1方向に対して垂直なZ2方向に沿って反る作用が生じる構成とされている。
【0074】
具体的には、第1圧電部は、
図12に示すように、バイアス電圧印加時にZ2方向に沿って第1圧電部から反り抑制層44へ向かう方向であるZ3方向側が凸となるように反る作用が生じる構成とされている。より具体的には、第1圧電部は、本実施形態では、
図12の白抜き矢印で示すように、長手方向の中心位置においてZ3方向側が凸となるように反る作用が生じる構成とされている。一方、反り抑制層44は、
図12の白抜き矢印で示すように、その長手方向の中心位置においてZ3方向と反対のZ4方向側が凸になるように反る作用が生じる構成とされている。本実施形態の圧電センサは、これらの点で上記第2実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点を主に説明する。
【0075】
反り抑制層44は、第1圧電部へのバイアス電圧印加時に圧電部10のうちZ3方向側が凸となるように反ることを抑制するために設けられる。反り抑制層44は、一対の電極441、442と強誘電材料によりなり、当該一対の電極に挟まれた圧電体膜443とにより構成されている。
【0076】
具体的には、
図12に示すように、第1圧電部は、本実施形態では、バイアス電圧印加時に圧電体層13が、長手方向の中心位置においてZ3方向側が凸となるように反る作用が生じる構成とされている。そして、反り抑制層44は、
図12に示すように、圧電部10の反り抑制のために、長手方向を第1圧電部の長手方向と揃えるように配置されている。そして、反り抑制層44は、図示しない別の直流バイアス電圧を印加すると、長手方向の中心位置においてZ4方向側が凸となるように反る作用が生じる構成とされている。これにより、第1圧電部へのバイアス電圧印加時において第1圧電部に生じる応力が、反り抑制層44に生じる応力により相殺され、バイアス電圧印加時の圧電部10全体の反りが抑制される構造となる。
【0077】
なお、上記の例においては、第1圧電部がその長手方向の中心位置においてZ3方向側が凸になるように反る作用が生じ、反り抑制層44がその長手方向の中心位置においてZ4方向側が凸になるように反る作用が生じる例について説明した。しかし、反り抑制層44は、バイアス電圧印加時に、第1圧電部と逆方向が凸になるように反る作用が生じる構成とされていればよい。そのため、第1圧電部の反りの作用方向と反り抑制層44の反りの作用方向とが、上記の逆であってもよい。また、このどちらの構成とされていても、第1圧電部は、バイアス電圧印加時において、見かけ上ほとんど変形していない状態、すなわちその長手方向に沿った辺が直線状となる。ここでいう「ほとんど変形していない状態」とは、第1圧電部がバイアス電圧印加時において全く反っていない状態だけを指すのではなく、物理量の検出に支障がない程度にわずかに反った状態も含む。
【0078】
また、反り抑制層44は、本実施形態では、圧電部10が何らかの力により基板50の一面50aに対する法線方向(以下、単に「法線方向」という)に沿って反ることを抑制する作用が小さい。そのため、圧電部10が法線方向に沿って反ることを抑制するため、必要に応じて、圧電部10は、法線方向における基板50の板厚を厚くした構成とされてもよい。
【0079】
また、反り抑制層44の一対の電極441、442および圧電体膜443の材料、膜厚については、任意であり、第1圧電部の構成に応じて適宜変更される。さらに、
図12では、反り抑制層44が第1圧電部と完全に独立して形成された例を示しているが、反り抑制層44は、これに限られず、例えば、圧電体膜443を圧電体層13と一体で構成し、一対の電極だけを第1圧電部から独立した構成とされてもよい。この場合、反り抑制層44のうち基板50側の電極442に直流バイアス電圧を印加し、基板50と反対側の電極441をグランド電極とすることで、第1圧電部と反対側に反る力が作用する構成となる。
【0080】
本実施形態によれば、上記第2実施形態と同様、圧電部10に所定のバイアス電圧を印加したまま使用できる構成とされ、感度の高い圧電センサとなると共に、バイアス電圧印加時の圧電部10の反りが抑制され、安定して物理量を検出できる圧電センサとなる。
【0081】
(他の実施形態)
なお、上記した各実施形態に示した圧電センサは、本発明の圧電センサの一例を示したものであり、上記の各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0082】
(1)例えば、上記第1実施形態では、圧電部10の第1電極11に直流バイアス電圧を印加する電圧供給部20として電源を直接接続し、
図2に示す回路構成とした例について説明した。しかし、第1電極11に直流バイアス電圧を印加される回路構成とされていればよいため、例えば
図13に示す回路構成とされてもよい。
【0083】
具体的には、オペアンプ31の仮想短絡を想定し、非反転入力端子にのみ直流バイアス電圧を印加する電源を接続し、出力端子が抵抗を介して反転入力端子にフィードバックされた回路とする。すると、オペアンプ31が、その非反転入力端子と反転入力端子との電位差をゼロにするように働く結果(仮想短絡)、反転入力端子に電気的に接続された第1電極11に直流バイアス電圧が印加されることとなる。これにより、オペアンプ31が電圧供給部20としての役割を果たし、第1電極11に直流バイアス電圧を印加する電源を接続する必要がなくなるものの、圧電部10の正圧電効果を高めた圧電センサとなる。
【0084】
(2)上記各実施形態の圧電センサは、
図14に示すように、第1電極11に印加する直流バイアス電圧を適宜調整することにより、圧電体層13の経時劣化による圧電定数変化や製造バラツキによる圧電定数の変動に対応することができる。なお、
図14では、実線で示した(a)の圧電特性が製造直後の状態、すなわち初期の状態の圧電体層13の圧電特性を示し、破線で示した(b)の圧電特性が他の製造ロットの圧電部10の圧電体層13もしくは経時劣化後の圧電体層13の圧電特性を示している。
【0085】
具体的には、
図14に示すように、圧電体層13は、初期の状態では実線で示す(a)の圧電特性を示すが、時間経過に伴ってその圧電特性が低下し、破線で示す(b)の圧電特性となる。この場合、
図14に示すように、電圧供給部20により同じ直流バイアス電圧V1を印加しても、得られる圧電定数α1が圧電特性の低下に伴ってα2へと低下するため、正圧電効果の向上の度合いも低下する。そこで、直流バイアス電圧をV1からV2へ上げる調整を行い、得られる圧電定数をα1に保つことで、圧電部10の変位量に基づいて得られる電荷量が初期状態と同程度になり、圧電定数の変動に対応できる。また、製造バラツキにより圧電体層13の圧電定数が異なる場合にも同様に対応することができる。
【0086】
なお、この直流バイアス電圧の調整を行うに際して、圧電センサの構成と別に、公知の圧電特性の測定手段を用いる必要がある。
【0087】
(3)上記各実施形態では、電圧供給部20に可変のバイアス電圧電源を用いた場合について説明したが、電圧供給部20は必ずしも圧電センサと一体とされている必要はなく、直流バイアス電圧を印加できる配線とされ、別途電源を接続する構成とされてもよい。
【0088】
(4)上記第1実施形態では、圧電センサを例えばジャイロセンサに適用すると好適である旨を記載したが、単に物理量を検出するセンサとせずに発電に用いる素子とすれば、エネルギーハーベスタなどにも適用可能である。また、本発明の圧電センサは、ジャイロセンサなどに限られず、超音波センサや振動センサなどにも適用可能であり、他のデバイスに適用されてもよい。
【0089】
(5)上記各実施形態では、電圧供給部20による直流バイアス電圧を印加する第1電極11を基板と反対側に、第2電極12を基板側に配置した構成とされているが、この逆の配置とされてもよい。