(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、シリコン系負極活物質と、負極用バインダと、を備える。以下において、これらの構成要素を説明する。
【0013】
(シリコン系負極活物質)
シリコン系負極活物質は、電流を生じさせる反応に関与することができる。シリコン系負極活物質は、炭素系負極活物質と比較して質量当たりの理論容量が大きいため、エネルギー密度が大きくすることができる。
【0014】
シリコン系負極活物質はケイ素を含む負極活物質であればよいが、シリコン系負極活物質は20質量%以上のケイ素を含有することが好ましい。シリコン系負極活物質のケイ素含有量を20質量%以上とすることにより、アモルファス−結晶の相転移を抑えることができ、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0015】
本実施形態において、シリコン系負極活物質は、Si、Sn及びMの元素を含み、Mは、遷移元素、B,C,Mg,Al及びZnからなる群より選択される少なくとも1つの元素であることが好ましい。なお、遷移元素は、第3族元素から第11族元素の間にある元素をいう。
【0016】
なお、Mは、B,C,Mg,Al,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Zr,Nb,Mo及びTaからなる群より選択される少なくとも1つの元素であることがより好ましい。また、Mは、C,Al,Ti,V及びZnからなる群より選択される少なくとも1つの元素であることがさらに好ましい。さらに、Al又はTiの少なくともいずれか一方であることが最も好ましい。シリコン系負極活物質がこのような元素を含むことにより、放電容量を維持しつつ、サイクル特性をより向上させることができる。
【0017】
なお、Si、Sn及びMの元素を含むシリコン系負極活物質には、不可避不純物が含まれていてもよい。不可避不純物とは、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりするものを意味する。不可避不純物は、本来は不要なものであるが、微量であり、シリコン系負極活物質の特性に影響を及ぼさないため、許容されている不純物である。不可避不純物の含有量は、シリコン系負極活物質全体に対して0.5質量%未満であることが好ましく、0.1質量%未満であることがより好ましく、0.01質量%未満であることがさらに好ましい。
【0018】
シリコン系負極活物質の一般式は、Si−Sn−Mであることが好ましく、Si−Sn−Tiであることがより好ましい。ここで、一般式Si−Sn−Tiにおいて、Snの含有量が7質量%以上30質量%以下、Tiの含有量が0質量%超え37質量%以下、残部がSi及び不可避不純物であることが好ましい。又は、一般式Si−Sn−Tiにおいて、Snの含有量が30質量%以上51質量%以下、Tiの含有量が0質量%超え35質量%以下、残部がSi及び不可避不純物であることが好ましい。また、一般式Si−Sn−Tiにおいて、Snの含有量が7質量%以上30質量%以下、Tiが7質量%超え37質量%以下、残部がSi及び不可避不純物であることがより好ましい。又は、Snの含有量が30質量%以上51質量%以下、Tiの含有量が7質量%超え35質量%以下、残部がSi及び不可避不純物であることがより好ましい。また、一般式Si−Sn−Tiにおいて、Snの含有量が7質量%以上30質量%以下、Tiの含有量が18質量%以上37質量%以下、残部がSi及び不可避不純物であることがさらに好ましい。又は、一般式Si−Sn−Tiにおいて、Snの含有量が30質量%以上51質量%以下、Tiの含有量が7質量%超え20質量%以下、残部がSi及び不可避不純物であることがさらに好ましい。さらに、一般式Si−Sn−Tiにおいて、Snの含有量が7質量%以上21質量%以下、Tiの含有量が24質量%以上37質量%以下、残部がSi及び不可避不純物であることが最も好ましい。各元素の含有量を上記範囲内とすることで、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0019】
シリコン系負極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、0.1μm〜20μmであることが好ましく0.2μm〜10μmであることがより好ましい。なお、シリコン系負極活物質の平均粒子径は、体積基準における粒度分布の累積値が50%の時の粒子径を表し、例えば、レーザー回折・散乱法により測定することができる。
【0020】
(負極用バインダ)
負極用バインダは、シリコン系負極活物質同士などを結合させることができる。負極用バインダを形成する材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)などのエラストマーが挙げられる。これらの負極用バインダは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、負極用バインダとしての接着性や耐熱性が優れていることから、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)からなる群より選択される少なくとも1つが好ましい。
【0021】
負極用バインダの引張弾性率は、2GPa以上10GPa以下であることが好ましい。引張弾性率が2GPa以上である場合、シリコン系負極活物質の膨張に伴う負極用バインダの破断が抑制されるため、負極からシリコン系負極活物質が離脱するのを抑制することができ、充放電の繰り返しによる放電容量の低下を抑制することができる。すなわち、引張弾性率を2GPa以上とすることにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させることができる。引張弾性率が10GPa以下である場合、リチウムイオン吸蔵によるシリコン系負極活物質の膨張を過度に抑制しないため、リチウムイオン二次電池の放電容量を大きくすることができる。
【0022】
引張弾性率は、例えば、日本工業規格JIS K7161−1により、試験温度23±2℃、試験速度1mm/minで測定することができる。具体的には、E
t=(σ
2−σ
1)/(ε
2−ε
1)の数式に従って算出することができる。上記式において、E
tは引張弾性率(Pa)、σ
1はひずみε
1=0.0005における応力(Pa)、σ
2はひずみε
2=0.0025における応力(Pa)を示す。
【0023】
シリコン系負極活物質の比表面積をS
A、バインダの比表面積をS
B、バインダに被覆されたシリコン系負極活物質の比表面積をS
Cとしたときに、0.5≦(S
A―S
C)/(S
A−S
B)の関係を満たす。本実施形態では、このような関係を満たすことにより、シリコン系負極活物質を所定の状態以上に被覆することができる。なお、(S
A―S
C)/(S
A−S
B)は0.65以上であることがより好ましい。また、(S
A―S
C)/(S
A−S
B)の上限は1である。
【0024】
シリコン系負極活物質は、炭素系負極活物質と比較してエネルギー密度が大きいものの、充放電時の体積変化が大きく、負極用バインダから離脱しやすい。しかしながら、本実施形態では、(S
A―S
C)/(S
A−S
B)の値を0.5以上とすることにより、シリコン系負極活物質の表面を所定の状態以上に被覆することができる。そのため、シリコン系負極活物質の膨張に伴う負極用バインダの破断が抑制されるため、負極からシリコン系負極活物質が離脱するのを抑制することができ、充放電の繰り返しによる放電容量の低下を抑制することができる。すなわち、本実施形態では、(S
A―S
C)/(S
A−S
B)の値を0.5以上とすることにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0025】
ここで、上記(S
A―S
C)/(S
A−S
B)は、シリコン系負極活物質に対する負極用バインダの被覆率を表しているともいえる。例えば、シリコン系負極活物質の表面の全てがバインダにより被覆されている場合、シリコン系負極活物質の比表面積S
Bとバインダに被覆されたシリコン系負極活物質の比表面積S
Cが同じ値となるため、上記(S
A―S
C)/(S
A−S
B)の値は1となる。一方、シリコン系負極活物質が全くバインダに覆われていない場合、シリコン系負極活物質の比表面積S
Aとバインダに被覆されたシリコン系負極活物質の比表面積S
Cが同じ値となるため、上記(S
A―S
C)/(S
A−S
B)の値は0となる。そして、シリコン系負極活物質の表面の一部がバインダにより被覆されている場合、上記(S
A―S
C)/(S
A−S
B)の値は0から1の間の値となる。
【0026】
シリコン系負極活物質の比表面積S
Aは、6m
2/g〜10m
2/gであることが好ましく、7m
2/g〜9m
2/gであることがより好ましい。また、バインダの比表面積S
Bは、1m
2/g〜5m
2/gであることが好ましく、2m
2/g〜4m
2/gであることがより好ましい。また、バインダに被覆されたシリコン系負極活物質の比表面積S
Cは、2m
2/g〜5m
2/gであることが好ましく、3m
2/g〜4m
2/gであることがより好ましい。
【0027】
上記S
A、S
B及びS
Cの比表面積は、それぞれ窒素ガスを吸着ガスとして測定したBET比表面積とすることができる。このような測定方法により、比表面積を簡便に計測することができる。具体的には、BET比表面積は、JIS Z8830:2013(ISO 9277:2010)(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に準じて測定することができる。また、BET比表面積は、静的容量法により、窒素ガスを吸着ガスとして測定し、多点法により解析することができる。さらに、バインダの比表面積S
B及びバインダに被覆されたシリコン系負極活物質の比表面積S
Cは、ガラス板に塗布及び熱処理したものを削ぎ落として回収し、粉末状の測定試料として用いることができる。
【0028】
図1に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極10には、負極集電体11と、負極集電体11の少なくとも一方の面に配置された負極活物質層12を含めることができる。
【0029】
(負極集電体11)
負極集電体11は、後述する負極タブ65などと接続され、リチウムイオン二次電池100の外部と電子の受け渡しをする。負極集電体11を形成する材料は特に限定されないが、例えば、銅(Cu)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、ステンレス鋼(SUS)などの金属が好ましい。これらの中でも、負極集電体11を形成する材料として、銅(Cu)を用いることが好ましい。負極集電体11の厚さは特に限定されないが、通常は1μm〜100μm程度である。
【0030】
(負極活物質層12)
負極活物質層12には、上述したシリコン系負極活物質と負極用バインダとを含有させることができる。負極活物質層12におけるシリコン系負極活物質の含有量は、60質量%〜90質量%が好ましく、70質量%〜85質量%がより好ましい。また、負極活物質層12における負極用バインダの含有量は、6質量%〜30質量%が好ましく、10質量%〜25質量%がより好ましい。上記のような範囲とすることにより、バインダによるシリコン系負極活物質の被覆率をより好ましい範囲とすることができる。
【0031】
負極活物質層12の膜厚は特に限定されないが、20μm〜80μmであることが好ましく、20μm〜50μmであることがより好ましい。負極活物質層の膜厚をこのような範囲とすることにより、リチウムイオン二次電池100のエネルギー密度及びサイクル特性を向上させることができる。
【0032】
(負極用導電助剤)
負極活物質層12には、負極用導電助剤などをさらに含めてもよい。負極用導電助剤は、負極活物質層の内部における電子ネットワークを効果的に形成することができる。負極用導電助剤を形成する材料としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。これらの負極用導電助剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。負極活物質層12における負極用導電助剤の含有量は特に限定されないが、1質量%〜10質量%が好ましく、2質量%〜8質量%がより好ましい。負極用導電助剤の含有量をこのような範囲とすることにより、負極活物質層12の導電性を向上させることができる。
【0033】
以上の通り、本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、シリコン系負極活物質と、シリコン系負極活物質を被覆するバインダと、を備える。さらに、本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、シリコン系負極活物質の比表面積をS
A、バインダの比表面積をS
B、バインダに被覆されたシリコン系負極活物質の比表面積をS
Cとしたときに、0.5≦(S
A―S
C)/(S
A−S
B)の関係を満たす。そのため、本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極によれば、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、エネルギー密度が高く、サイクル特性を向上させることができる。
【0034】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、上記リチウムイオン二次電池用負極を備える。そのため、上述したように、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れている。
【0035】
図1に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池100は、上述したリチウムイオン二次電池用負極10に加え、正極20、セパレータ30、正極タブ60、負極タブ65、外装体70などをさらに備えることができる。
図1の実施形態において、セパレータ30は、正極20と負極10との間に配置されている。なお、
図1に示すように、正極20、負極10及びセパレータ30を備える単電池層40を、複数積層して電気的に並列に配置させたものを発電要素50とすることもできる。また、本実施形態のリチウムイオン二次電池100は、
図1のような形態に限定されず、例えば、集電体の一方の面に正極活物質層を配置し、集電体のもう一方の面に負極活物質層を配置したような双極型電極を含む双極型電池としてもよい。また、
図1の実施形態のような積層型のリチウムイオン二次電池に限定されず、巻回型のリチウムイオン二次電池としてもよい。
【0036】
(正極20)
正極20には、正極集電体21と、正極活物質層22と、を含めることができる。正極活物質層22は、正極集電体21の少なくとも一方の面に配置することができる。
【0037】
(正極集電体21)
正極集電体21は、後述する正極タブ60などと接続され、リチウムイオン二次電池100の外部と電子の受け渡しをする。正極集電体21を形成する材料は特に限定されないが、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、及びこれらの合金などの金属が挙げられる。正極集電体21を形成する材料は、上述した金属単体、上述した金属を組み合わせた合金、上述した金属の組み合わせのめっき材などを用いることができる。なかでも、正極集電体21を形成する材料は、電子伝導性や電池作動電位の観点から、アルミニウムを含むことが好ましい。正極集電体21の厚さは特に限定されないが、通常は1μm〜100μm程度である。
【0038】
(正極活物質層22)
正極活物質層22は、例えば、正極活物質、正極用バインダ、正極用導電助剤などを含有する。正極活物質層22の膜厚は特に限定されないが、20μm〜80μmであることが好ましく、20μm〜50μmであることがより好ましい。
【0039】
(正極活物質)
正極活物質は、電流を生じさせる反応に関与することができる。正極活物質層22における正極活物質の含有量は特に限定されないが、80質量%〜98質量%であることが好ましい。
【0040】
正極活物質としては、例えば、リチウム−遷移金属複合酸化物、リチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。リチウム−遷移金属複合酸化物としては、例えば、LiMn
2O
4、LiCoO
2、LiNiO
2、Li(Ni−Mn−Co)O
2、Li(Li−Ni−Mn−Co)O
2及びこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等を挙げることができる。リチウム−遷移金属リン酸化合物としては、LiFePO
4等を挙げることができる。リチウム−遷移金属硫酸化合物としては、Li
xFe
2(SO
4)
3等を挙げることができる。
【0041】
(正極用バインダ)
正極用バインダは、正極活物質同士又は正極活物質と正極用導電助剤を結合させることができる。正極用バインダを形成する材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)などのエラストマーが挙げられる。これらの正極用バインダは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、バインダとしての接着性や耐熱性が優れていることから、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)からなる群より選択される少なくとも1つが好ましい。正極活物質層22中に含まれる正極用バインダの含有量は特に限定されないが、0.5質量%〜15質量%が好ましく、1質量%〜10質量%がより好ましい。
【0042】
(正極用導電助剤)
正極用導電助剤は、正極活物質層22の内部における電子ネットワークを効果的に形成し、リチウムイオン二次電池100の放電容量を大きくすることができる。正極活物質層22中に含まれる正極用導電助剤の含有量は特に限定されないが、1質量%〜10質量%が好ましく、2質量%〜6質量%がより好ましい。正極用導電助剤の含有量をこのような範囲とすることにより、正極活物質層22の導電性を向上させることができる。
【0043】
(セパレータ30)
セパレータ30は、正極20と負極10との間に配置することができる。セパレータ30は、正極20と負極10とを隔離し、リチウムイオンの移動を仲介する。セパレータ30の膜厚は、内部抵抗を低減させる観点から、1μm〜100μmが好ましく、5μm〜50μmであることがより好ましい。セパレータ30には、非水電解質を含めることができる。非水電解質としては、イオン伝導性ポリマーにリチウム塩が溶解したゲル状又は固体状のポリマー電解質、並びに有機溶媒にリチウム塩が溶解した液体電解質を多孔質基体層に保持させて用いることができる。
【0044】
ポリマー電解質に用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、へキサフルオロプロピレン、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)及びこれらの共重合体等が挙げられる。
【0045】
液体電解質に用いられる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)等のカーボネート類が挙げられる。
【0046】
リチウム塩としては、Li(CF
3SO
2)
2N、Li(C
2F
5SO
2)
2N、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiTaF
6、LiClO
4、LiCF
3SO
3等の化合物が挙げられる。
【0047】
多孔質基体層を形成する材料は特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体などの熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。多孔質基体層の空孔率は、特に限定されないが、40%〜85%であることが好ましい。空孔率を40%以上とする場合、十分なイオン伝導性を得ることができる。一方、空孔率を85%以下とする場合、多孔質基体層の強度を良好に維持することができる。
【0048】
(正極タブ60及び負極タブ65)
正極タブ60は、正極集電体21と、リチウムイオン二次電池100の外部の機器とを電気的に接続することができる。また、負極タブ65は、負極集電体11と、リチウムイオン二次電池100の外部の機器とを電気的に接続することができる。正極タブ60及び負極タブ65を形成する材料は特に限定されず、例えばアルミニウム、銅、チタン、ニッケルからなる群より選択される少なくとも1つの金属を用いることができる。なお、正極タブ60及び負極タブ65を形成する材料は、同一であっても異なっていてもよい。
【0049】
(外装体70)
外装体70は、単電池層40又は発電要素50を収容することができる。外装体70は、例えば、缶や、フィルムにより形成されたものが挙げられる。また、外装体70の形状は、特に限定されず、円筒型、角型、シート型とすることができる。特に限定されないが、小型化及び軽量化などの観点より、外装体70はフィルムにより形成されていることが好ましい。なかでも、高出力化や冷却性能の観点からは、フィルムはラミネートフィルムであることが好ましく、ラミネートフィルムはアルミニウムを含むことが好ましい。また、リチウムイオン二次電池100は扁平積層型リチウムイオン二次電池であることが好ましい。このようなリチウムイオン二次電池は、放電容量及び放熱性能を高くすることができるため、車両に搭載する場合に最適である。アルミニウムを含むラミネートフィルムの一例としては、PP/アルミニウム/ナイロンの3層ラミネートフィルムが挙げられる。
【0050】
本実施形態のリチウムイオン二次電池100の用途は特に限定されないが、上述のように、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れている。そのため、車両用として好適に用いることができる。具体的には、本実施形態のリチウムイオン二次電池100は、車両用の駆動電源などに好適に用いることができる。
【0051】
[リチウムイオン二次電池用負極の製造方法]
リチウムイオン二次電池用負極の製造方法は、例えば、負極活物質を含む正極スラリーを調製し、負極スラリーを負極集電体11上に塗布、乾燥、プレスして負極活物質層12を形成することにより作製することができる。負極スラリーは、上述した負極活物質、負極用バインダ、負極用導電助剤の他、溶媒を含めることができる。
【0052】
負極スラリーの溶媒としては、特に制限されず、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、ヘキサン、シクロヘキサン、水などを用いることができる。
【0053】
負極スラリーを集電体に塗布する方法は特に限定されず、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、フローコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法などの公知の方法を使用することができる。
【0054】
負極スラリーの上記乾燥方法は、特に制限されず、用いる負極スラリーの特性などに応じて適宜調製すればよい。また、上記プレス工程は特に限定されず、例えばカレンダーロール、平板プレスなどを用いることができる。
【0055】
負極バインダによるシリコン系負極活物質の被覆率を大きくする方法は特に限定されないが、例えばシリコン系負極活物質に対する負極バインダの含有量を増加させることで被覆率を向上させることができる。
【0056】
[リチウムイオン二次電池の製造方法]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法は、上述したリチウムイオン二次電池用負極の製造方法を備えていればよい。本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は、例えば正極の作製工程と、組立工程と、を備えていてもよい。
【0057】
(正極の作製工程)
正極20の作製工程は、例えば、正極活物質を含む正極スラリーを調製し、正極スラリーを正極集電体21上に塗布、乾燥、プレスして正極活物質層22を形成することにより作製することができる。正極スラリーは、上述した正極活物質、正極用バインダ、正極用導電助剤及び溶媒を含めることができる。
【0058】
正極スラリーを正極集電体上に塗布、乾燥、プレスして正極活物質層22を形成する方法は特に限定されず、負極と同様の方法にして作製することができる。
【0059】
(組立工程)
上述のようにして作製された正極20及び負極10との間に、セパレータ30を介して積層することにより、単電池層40を作製することができる。また、必要に応じ、単電池層40を複数積層させることにより、発電要素50を作製してもよい。このようにして得られた単電池層40又は発電要素50を、外装体70内に封止することにより、リチウムイオン二次電池を作製することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本実施形態を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
(負極の作製)
まず、遊星型ボールミル(ドイツ フリッチュ社製P−6)を用いて、メカニカルアロイ法により金属粉末を合金化処理及び粉砕処理した。具体的には、質量比で、Si:Sn:Ti=66:5:29となるように調製した金属粉末と、ジルコニア製粉砕ボールとを、ジルコニア製容器に投入した。その後、ジルコニア製容器を固定する台座を、600rpmで12.5時間回転させて、金属粉末を合金化した。その後、台座を200rpmで2時間回転させ、合金を粉砕処理した。なお、レーザー回折・散乱法により測定したシリコン径負極活物質の平均粒子径は2μmであった。
【0062】
このようにして得られた負極活物質80質量%と、負極用導電助剤5質量%と、負極用バインダ前駆体15質量%(固形分)とをN−メチルピロリドンに分散させ、脱泡混練機(株式会社Thinky製 AR−100)内で混合し、負極スラリーを得た。なお、負極用導電助剤はアセチレンブラック、負極用バインダ前駆体はポリアミック酸を用いた。
【0063】
次に、負極集電体の一方の面に、乾燥後の負極活物質層の厚さが30μmとなるように、負極スラリーを均一に塗布し、真空中で24時間乾燥させた。その後、同様に、負極集電体のもう一方の面に、乾燥後の負極活物質層の厚さが30μmとなるように、負極スラリーを均一に塗布した。そして、真空中で24時間乾燥させ、さらに真空中300℃で1時間乾燥焼成を行うことにより負極を得た。なお、負極集電体は、12μm厚の銅箔を用いた。
【0064】
(電池の作製)
金属リチウムの正極と上述のようにして得られた負極を用いて、積層型リチウムイオン二次電池を作製した。具体的には、正極と負極との間にセパレータを配置し、正極と負極とを交互に積層させ、発電要素を作製した。セパレータは、40μm厚のポリオレフィンを用いた。なお、この積層体には、正極を2枚、負極を3枚及びセパレータを4枚積層させている。
【0065】
得られた発電要素に正極タブ及び負極タブをそれぞれ溶接し、アルミニウムを含むラミネートフィルムからなる外装内に、電解液をシリンジで注入した後、真空密封し、リチウムイオン二次電池を得た。なお、電解液は、濃度が1mol/Lとなるように、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を有機溶媒に溶解させたものを用いた。有機溶媒は、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)を、EC:DEC=3:7(体積比)の割合で混合したものを用いた。
【0066】
[実施例2]
負極活物質層の組成を負極活物質87.5質量%と、負極用導電助剤5質量%と、負極用バインダ7.5質量%とした以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池を作製した。
【0067】
[比較例1]
負極活物質層の組成を負極活物質91質量%と、負極用導電助剤4質量%と、負極用バインダ5質量%とした以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池を作製した。
【0068】
[比較例2]
負極活物質層の組成を負極活物質95質量%と、負極用導電助剤4質量%と、負極用バインダ1質量%とした以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池を作製した。
【0069】
[評価]
(シリコン系負極活物質の比表面積S
A)
シリコン系負極活物質の比表面積S
Aは上述のようにして得られたシリコン系負極活物質をそのまま用いてBET比表面積を測定した。BET比表面積は、JIS Z8830:2013に準じて測定した。具体的には、BET比表面積は、静的容量法により、窒素ガスを吸着ガスとして測定し、多点法により解析した。
【0070】
(バインダの比表面積S
B)
乾燥後の負極活物質層の厚さが30μmとなるように、上記ポリアミック酸をガラス板に均一に塗布した。そして、真空中で24時間乾燥させ、さらに真空中300℃で1時間乾燥焼成を行った。そして、熱処理により形成されたバインダをガラス板から削ぎ落として粉末状にして回収し、BET比表面積を測定した。BET比表面積は、上記と同様に、JIS Z8830に準じて測定した。なお、S
Bは、バインダを形成する材料と熱処理温度が同一であれば、略同一の値となる。
【0071】
(バインダに被覆されたシリコン系負極活物質の比表面積S
C)
まず、実施例のようにして作製した電極スラリーを準備した。次に、乾燥後の負極活物質層の厚さが30μmとなるように、上記電極スラリーをガラス板に均一に塗布した。そして、真空中で24時間乾燥させ、さらに真空中300℃で1時間乾燥焼成を行った。そして、熱処理により形成されたバインダに被覆されたシリコン系負極活物質をガラス板から削ぎ落として粉末状にして回収し、BET比表面積を測定した。BET比表面積は、上記と同様に、JIS Z8830に準じて測定した。なお、S
Aの測定に用いたシリコン系負極活物質と、S
Cの測定に用いたバインダに被覆されたシリコン系負極活物質の平均粒子径は略同一である。
【0072】
(引張弾性率)
負極用バインダの引張弾性率は、JIS K7161−1:2014(ISO 527−1:2012)に準じて測定した。なお、試験温度23±2℃、試験速度1mm/minで測定した。
【0073】
(放電容量維持率)
放電容量維持率は、以下のようにして測定した。まず、室温下(25℃)で、最低電圧が0.01Vとなるまで0.1Cで定電流充電した後、最高電圧が2.0Vとなるまで1.0Cで定電流放電する充放電サイクルを1サイクル行った。その後、放電レートを0.3Cとした以外は1サイクル目と同様にして充放電をさらに99サイクル行った。そして、1サイクル目と100サイクル目において、2.0Vから0.01Vまで放電した時の放電容量を測定し、100サイクル目の放電容量に対する1サイクル目の放電容量の割合を放電容量維持率とした。
【0074】
上記のようにして作製した実施例及び比較例におけるリチウムイオン電池の評価結果を表1及び
図2に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1及び
図2に示すように、実施例1及び実施例2の負極では、(S
A―S
C)/(S
A−S
B)の値が0.5以上であるため、放電容量維持率がそれぞれ98.2%及び92.3%となり、優れたサイクル特性を示すこと分かった。一方、比較例1及び比較例2の負極では、(S
A―S
C)/(S
A−S
B)の値が0.5未満であるため、放電容量維持率がそれぞれ13.2%及び10%となり、実施例1及び実施例2と比較して十分なサイクル特性が得られなかった。すなわち、実施例1及び実施例2の負極では、シリコン系負極活物質に対するバインダの被覆率が所定の値以上であるため、優れたサイクル特性を有する負極が得られたと考えられる。
【0077】
以上、本発明を実施例及び比較例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。