特許第6972684号(P6972684)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972684
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】記録装置及び記録ヘッド電圧設定方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20211111BHJP
【FI】
   B41J2/01 301
   B41J2/01 401
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-117525(P2017-117525)
(22)【出願日】2017年6月15日
(65)【公開番号】特開2019-1054(P2019-1054A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2020年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】向山 卓志
【審査官】 長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−043007(JP,A)
【文献】 特開2009−061732(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/111451(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0327713(US,A1)
【文献】 特開2016−221715(JP,A)
【文献】 特表2015−522444(JP,A)
【文献】 特開2006−159573(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0027994(US,A1)
【文献】 特開2016−107446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のノズル容量の記録ヘッドに、駆動電圧を供給して記録動作を行う記録装置において、
前記記録ヘッドを駆動して記録動作を行うために用いるヘッド電圧の目標電圧を設定するヘッド電圧制御部と、
前記ヘッド電圧制御部により設定された目標電圧となるように帰還を掛けながら、駆動電圧を作成する、DC−DCコンバータよりなる直流電圧作成部と、
前記直流電圧作成部の出力部と前記記録ヘッドとの間に接続され、同時タイミングで駆動する前記記録ヘッドの全ノズル容量の少なくとも2倍の容量を有する平滑用コンデンサと、
前記直流電圧作成部の出力部と前記コンデンサとの間に接続されたインダクタと、を備え、
前記ヘッド電圧制御部により設定された目標電圧となるように帰還を掛ける上で、帰還抵抗に容量性素子を接続し、この容量性素子により電圧上昇に遅延を掛けることで、前記直流電圧作成部の出力電圧を上昇させる際に、一定の時間をかけて前記目標電圧まで上昇させて、前記記録ヘッドの電流に、突出したピークを持った突入電流を発生させないようにした
記録装置。
【請求項2】
前記ヘッド電圧制御部は、電圧制御データを出力する制御部と、この制御が出力する電圧制御データを電圧値に変換するデジタル/アナログコンバータとから構成される
請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記ヘッド電圧制御部は、前記一定の時間を分割した分割時間ごとに段階的に、直流電圧作成部の出力電圧を上昇させるようにした
請求項1に記載の記録装置。
【請求項4】
平滑用コンデンサが接続され所定のノズル容量の記録ヘッドに、駆動電圧を供給して記録動作を行う際の記録ヘッド電圧設定方法において、
前記平滑用コンデンサとして、同時タイミングで駆動する前記記録ヘッドの全ノズル容量の少なくとも2倍の容量とし、
記録ヘッドを駆動して記録動作を行うために用いるヘッド電圧の目標電圧を設定するヘッド電圧の制御処理と、
前記ヘッド電圧の制御処理により設定された目標電圧となるように帰還を掛けながら、DC−DCコンバータにより駆動電圧を作成すると共に、出力電圧を上昇させる際に、一定の時間をかけて目標電圧まで上昇させる直流電圧作成処理と、を含み、
前記DC−DCコンバータの出力部と前記平滑用コンデンサとの間に、インダクタを接続し、
前記ヘッド電圧の制御処理により設定された目標電圧となるように帰還を掛ける上で、帰還抵抗に容量性素子を接続して、この容量性素子により電圧上昇に遅延を掛けることで、前記直流電圧作成処理で出力電圧を上昇させる際に、一定の時間をかけて前記目標電圧まで上昇させて、前記記録ヘッドの電流に、突出したピークを持った突入電流を発生させないようにした
記録ヘッド電圧設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置及び記録ヘッド電圧設定方法に関し、特に記録ヘッドとしてインクジェット記録ヘッドを備えた記録装置に適用して好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録ヘッドは、ヘッドのノズルから吐出するインク滴の吐出速度あるいは吐出量を一定にするために、ヘッドに印加する駆動波形の電圧を適宜適正に設定する必要がある。具体的には、ヘッドの個体差、インク粘度、温度などにより駆動波形の電圧を適正に設定することが必要になる。
【0003】
ヘッドに印加する駆動波形の電圧を設定する電源回路としては、例えばDC−DCコンバータが使用されている。
インクジェット記録ヘッドにDC−DCコンバータから電源を供給するようにした場合、DC−DCコンバータとヘッドとの間に、比較的容量の大きいコンデンサが接続される。このコンデンサは、負荷変動に対応するためのものである。特に近年は、ヘッドのノズル数が増加する傾向にあり、ノズル数の増加に比例して、接続されるコンデンサの容量も大きくする必要がある。
【0004】
特許文献1には、インクジェット記録ヘッドに、DC−DCコンバータを介してヘッドを駆動して記録動作を行うための駆動電圧を供給する技術が記載されている。この特許文献1の図3には、負荷変動を防ぐための平滑用コンデンサを記録ヘッドに接続する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−107446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、駆動電圧を供給するDC−DCコンバータと、記録ヘッドとの間に、大容量のコンデンサを接続することで、負荷変動に対応することができる。すなわち、多数用意されたノズルの内で、何個のノズルから同時にインクを吐出するかによって、DC−DCコンバータの負荷電流が大きく変動する。ここで、上述したようにDC−DCコンバータと記録ヘッドとの間に大容量のコンデンサを接続することで、コンデンサが負荷変動を吸収して、記録ヘッドの動作に影響を与えることを防ぐことができる。
【0007】
ところで、記録ヘッドの駆動電圧は、プリンタの電源が投入された状態のとき、記録ヘッドを駆動可能な高い電圧を、常時維持するわけではない。すなわち、記録ヘッドを駆動しない期間、つまり記録ヘッドからインクを吐出する必要がない休止期間には、ヘッド駆動電圧の電圧値を低く設定している。このように休止期間にヘッド駆動電圧の電圧値を低く設定することで、プリンタの消費電圧の低減を図ることができ、また、記録ヘッドへの過度な負担を減らすことができる。
【0008】
休止期間からヘッド稼動期間に移行する際には、DC−DCコンバータから記録ヘッドに供給する電圧を、駆動可能な高い電圧に変化させる必要がある。このDC−DCコンバータの出力電圧が低い状態から高い状態に立ち上がると、コンデンサを充電させるための突入電流が発生し、その突入電流でDC−DCコンバータを構成する素子が破壊されてしまうことがある。特に、DC−DCコンバータと記録ヘッドとの間に接続されるコンデンサの大容量化に伴って、電圧立ち上げ時の突入電流も大きくなり、DC−DCコンバータが破壊されてしまう可能性が高くなっている。
【0009】
具体的には、DC−DCコンバータと記録ヘッドとの間に接続されるコンデンサの容量をCとし、立ち上げ時の電圧をVとしたとき、CV/2の電荷量がコンデンサに新たに蓄積されることになる。この電荷量CV/2をt時間以内に蓄積させるための電流値Iは、I=k×CV/2tである。ここでkは、回路インピーダンスに係わる比例定数である。この式から、コンデンサの容量Cが大きく、かつ時間tが短い程、あるいは電圧値Vが大きい程、電流値Iが大きいことが分かる。電流値Iが大きいと、DC−DCコンバータの破壊につながってしまう。
【0010】
図9は、記録ヘッドの駆動電圧Vxが、休止期間の電圧VLから稼動期間の電圧VHに立ち上がる際の、電流Ixの変化を示す特性図である。図9に示すように、電圧VLから電圧VHに立ち上がると同時に、電流Ixとして、非常に大きな突入電流IpeakXが発生する。
【0011】
本発明は、電圧立ち上げ時の突入電流により電源回路が破壊される現象を確実に阻止することができる、記録装置及び記録ヘッド電圧設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の記録装置は、所定のノズル容量の記録ヘッドに、駆動電圧を供給して記録動作を行う記録装置に適用される。
構成としては、記録ヘッドを駆動して記録動作を行うために用いるヘッド電圧の目標電圧を設定するヘッド電圧制御部と、ヘッド電圧制御部により設定された目標電圧となるように帰還を掛けながら、駆動電圧を作成する、DC−DCコンバータよりなる直流電圧作成部と、直流電圧作成部の出力部と前記記録ヘッドとの間に接続され、記録ヘッドの同時タイミングで駆動する全ノズル容量の少なくとも2倍の容量を有する平滑用コンデンサと、直流電圧作成部の出力部とコンデンサとの間に接続されたインダクタと、を備える。
そして、ヘッド電圧制御部により設定された目標電圧となるように帰還を掛ける上で、帰還抵抗に容量性素子を接続し、この容量性素子により電圧上昇に遅延を掛けることで、直流電圧作成部の出力電圧を上昇させる際に、一定の時間をかけて目標電圧まで上昇させて、記録ヘッドの電流に、突出したピークを持った突入電流を発生させないようにした。
【0013】
また本発明の記録ヘッド電圧設定方法は、平滑用コンデンサが接続される所定のノズル容量の記録ヘッドに、駆動電圧を供給して記録動作を行う際の記録ヘッド電圧設定方法に適用される。ここで、平滑用コンデンサとして、同時タイミングで駆動する記録ヘッドの全ノズル容量の少なくとも2倍の容量とする。
そして、本発明の記録ヘッド電圧設定方法は、記録ヘッドを駆動して記録動作を行うために用いるヘッド電圧の目標電圧を設定するヘッド電圧制御処理と、ヘッド電圧制御処理により設定された目標電圧となるように帰還を掛けながら、DC−DCコンバータにより駆動電圧を作成する。ここで、DC−DCコンバータの出力部と平滑用コンデンサとの間に、インダクタを接続する。そして、出力電圧を上昇させる際に、一定の時間をかけて目標電圧まで上昇させる直流電圧作成処理と、を含み、ヘッド電圧の制御処理により設定された目標電圧となるように帰還を掛ける上で、帰還抵抗に容量性素子を接続して、この容量性素子により電圧上昇に遅延を掛けることで、直流電圧作成処理で出力電圧を上昇させる際に、一定の時間をかけて目標電圧まで上昇させて、記録ヘッドの電流に、突出したピークを持った突入電流を発生させないようにした。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、記録ヘッドに供給する駆動電圧の電圧が上昇する際に、一定の時間をかけて徐々に電圧が上昇するため、その電圧上昇時に発生する突入電流を下げることができ、突入電流による電源回路の破壊を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施の形態例による構成例を示す回路図である。
図2】本発明の第1の実施の形態例による制御例を示すフローチャートである。
図3】本発明の第1の実施の形態例によるヘッド駆動電圧と突入電流の例(例1)を示す特性図である。
図4】本発明の第1の実施の形態例によるヘッド駆動電圧と突入電流の例(例2)を示す特性図である。
図5】本発明の第1の実施の形態例によるヘッド駆動電圧と突入電流の例(例3)を示す特性図である。
図6】本発明の第1の実施の形態例によるヘッド駆動電圧と突入電流の例(例4)を示す特性図である。
図7】本発明の第2の実施の形態例による構成例を示す回路図である。
図8】本発明の第2の実施の形態例によるヘッド駆動電圧と突入電流の例を示す特性図である。
図9】従来のヘッド駆動電圧と突入電流の例を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<1.第1の実施の形態例>
以下、本発明の第1の実施の形態例を、図1図6を参照して説明する。第1の実施の形態例は、記録ヘッドとして、インクジェット記録ヘッドを備えた記録装置に適用した例である。本明細書での「記録」とは、記録ヘッドからのインクの吐出で、紙などの記録媒体上に、文字、図形、画像などを形成することをいう。
【0017】
[1―1.回路構成]
図1は、記録ヘッド15に駆動電圧を供給する回路構成を示す。
ここで、記録ヘッド15は、インクジェット記録ヘッドであり、複数のノズルが配置されている。
記録ヘッド15に供給する駆動電圧Vheadは、DC−DCコンバータ11により作成される。すなわち、DC−DCコンバータ11は、入力電圧Vpをスイッチング素子Q1で高速にスイッチングすることで、所望の出力電圧を得る直流電圧作成部として機能する。スイッチング素子Q1にはダイオードD1が接続されている。このDC−DCコンバータ11は、その出力電圧が、後述するD/Aコンバータ14から供給される目標電圧となるように制御される。
【0018】
DC−DCコンバータ11の出力電圧は、コイルL1を介して記録ヘッド15に供給される。コイルL1と記録ヘッド15との間には、電解コンデンサである平滑用コンデンサC1の一端が接続される。この平滑用コンデンサC1の他端は接地され、平滑用コンデンサC1と並列にコンデンサC3が接続される。さらに、コイルL1と記録ヘッド15との間は、抵抗器R1,R2の直列回路を介して接地される。この抵抗器R1と並列にコンデンサC2が接続されている。
コンデンサC2は、位相補償用のコンデンサであり、コンデンサC3は、平滑用コンデンサC1の応答速度を補填するための高速タイプのセラミックコンデンサである。
そして、抵抗器R1,R2の接続点が、DC−DCコンバータ11のフィードバック端子(FB端子)に接続される。また、DC−DCコンバータ11のFB端子には、後述するD/Aコンバータ14の出力端子に得られる電圧が、抵抗器RXを介して供給される。
【0019】
したがって、DC−DCコンバータ11の出力電圧が抵抗器R1,R2で分圧された電圧と、D/Aコンバータ14の出力電圧との和の電圧で、DC−DCコンバータ11のFB端子に帰還が掛けられる。
DC−DCコンバータ11は、帰還された電圧が、基準電圧と比較され、その比較結果が、スイッチング素子Q1のゲートに加わり、スイッチング素子Q1がスイッチングする際のデューティ比を変更して、出力電圧が制御される。DC−DCコンバータ11の出力電圧は、スイッチング素子Q1でスイッチングされた高速で変動する電圧であるが、コイルL1及び平滑用コンデンサC1で平滑化され、安定した駆動電圧Vheadが記録ヘッド15に供給される。
【0020】
なお、平滑用コンデンサC1は、先に[発明が解決しようとする課題]で説明したように、記録ヘッド15内の何個のノズルから同時にインクを吐出するかによって、DC−DCコンバータ11の負荷電流が大きく変動することを吸収するため、比較的大きな容量を有する。ここでは、平滑用コンデンサC1は、同時タイミングで駆動する記録ヘッド15の全ノズル容量の2倍以上の容量(好ましくは3倍以上の容量)を有する。
【0021】
記録ヘッド15は、適正な駆動電圧Vheadが供給された状態で、コントローラ12から供給されるヘッド制御データにより、各ノズルからのインクの吐出状態が制御される。
コントローラ12は、記録装置への電源の投入で、記録ヘッド15を待機状態とし、実際に記録が開始されるタイミングで、待機状態から稼動状態に移行する。これにより、DC−DCコンバータ11から記録ヘッド15に駆動電圧Vheadが供給される。待機状態の場合には、記録ヘッド15に供給される電圧は、適正な駆動電圧Vheadよりも低い電圧となる。
【0022】
すなわち、待機状態のときには、DC−DCコンバータ11から記録ヘッド15に供給される駆動電圧が、待機状態用の低い電圧(図3に示す電圧VL)である。そして、待機状態から稼動状態に変化するとき、コントローラ12からの指令で稼動状態の電圧(図3に示す電圧VH)に上昇させる処理が行われる。待機状態用の電圧VLは、例えば5V程度であり、稼動状態の電圧VHは、例えば15V程度である。
【0023】
このように駆動電圧を制御するために、コントローラ12は、待機状態から稼動状態への変化時に、ヘッド電圧制御部13に対して、駆動電圧の上昇を指示する。駆動電圧の上昇の指示を受け取ったヘッド電圧制御部13は、対応したヘッド電圧を生成する制御処理を行う。具体的には、ヘッド電圧制御部13は、D/Aコンバータ(デジタル/アナログコンバータ)14に供給する電圧データを生成する。ヘッド電圧制御部13が生成した電圧データは、D/Aコンバータ14でアナログ電圧に変換され、このD/Aコンバータ14で得られたアナログ電圧が、抵抗器RXを介してDC−DCコンバータ11のFB端子に供給される。
【0024】
ここで、本実施の形態例では、待機状態から稼動状態に変化する際に、ヘッド電圧制御部13は、一定の時間をかけて段階的に待機状態用の低い電圧VLから、稼動状態の電圧VHに変化させる制御を行う。
【0025】
[1―2.駆動電圧の設定処理]
図2は、ヘッド電圧制御部13が、コントローラ12からの指令に基づいて、駆動電圧を設定する処理動作を示すフローチャートである。
まず、ヘッド電圧制御部13は、休止状態の場合に、その休止状態用の低い電圧VLに設定する(ステップS11)。そして、ヘッド電圧制御部13は、コントローラ12からの指令で休止状態から稼動状態に変化したか否かを判断する(ステップS12)。この判断で、稼動状態への変化がない場合(ステップS12のNO)には、ヘッド電圧制御部13は、ステップS11での休止状態用の低い電圧VLの設定を維持する。
【0026】
そして、ステップS12で稼動状態への変化があると判断すると(ステップS12のYES)、ヘッド電圧制御部13は、D/Aコンバータ14に出力する電圧データを、電圧VLを指示するデータから、中間の電圧VMを指示するデータに変化させる(ステップS13)。その後、ヘッド電圧制御部13は、電圧VLから中間の電圧VMに変更してから、一定時間taが経過したか否かを判断する(ステップS14)。一定時間taは、例えば数m秒から数十m秒程度の時間とする。
【0027】
ここで、一定時間taが経過していない場合(ステップS14のNO)、ヘッド電圧制御部13は、一定時間taが経過するまで待機する。そして、ステップS14で一定時間taが経過したと判断したとき(ステップS14のYES)、ヘッド電圧制御部13はD/Aコンバータ14に出力する電圧データを、中間の電圧VMを指示するデータから、稼働時の電圧VHを指示するデータに変化させる(ステップS15)。
【0028】
稼動時の電圧VHを設定した後、ヘッド電圧制御部13は、記録終了により休止状態に変化させる指令があるか否かを判断する(ステップS16)。この判断で、休止状態に変化させる指令がない場合(ステップS16のNO)、ヘッド電圧制御部13は、現在の電圧設定で待機する。
そして、ステップS16で休止状態に変化させる指令があると判断したとき(ステップS16のYES)、ヘッド電圧制御部13は、ステップS11の処理に戻り、休止状態用の低い電圧VLに設定する。
【0029】
[1―3.具体的な電圧と突入電流の例]
図3は、図2のフローチャートに示す制御を行った場合における、休止状態から稼動状態への変化時の、記録ヘッド15の駆動電圧及び電流を示す特性図である。縦軸は電圧及び電流を示している。
この例では、駆動電圧Vaとして、休止状態の電圧VLから中間の電圧VMに変化し、その変化から一定時間taが経過した後、中間の電圧VMから稼働時の電圧VMに変化する。電流Iaは記録ヘッド15の電流である。このように2段階に電圧値を上昇させることで、突入電流Ipeak1を従来よりも大幅に小さくすることができる。すなわち、従来例として図9に示したように、休止状態の電圧VLから稼働時の電圧VHに直接変化させた場合の突入電流IpeakXよりも、大幅に小さな突入電流とすることができる。したがって、DC−DCコンバータ11が備える素子などが、突入電流で破壊されることがなくなる。なお、突入電流が大きくなるのは、DC−DCコンバータ11と記録ヘッド15の間に、平滑用コンデンサC1が接続されているからである。
【0030】
図3に示す例では、2段階に電圧値を上昇させるようにしたが、より多くの段階数で、電圧値を上昇させてもよい。
例えば、図4に示す例は、駆動電圧Vbとして、休止状態から稼動状態への変化時に、電圧VLから電圧VHに、6段階で上昇するようにした例である。ここでも図3と同様に、電流Ibは記録ヘッド15の電流である。
この図4の場合には、電圧の変化があってから、次に電圧を変化するまでの一定時間tbを、図3の例よりも短い時間とする。
この図4に示す例の場合には、突入電流Ipeak2をさらに小さな値にすることができるので、より効果的に突入電流による素子の破壊を阻止できるようになる。
【0031】
図5に示す例は、15段階で電圧値を電圧VLから電圧VHに上昇するようにした場合である。但し、図5は電圧や電流のスケールのレンジが図3及び図4とは異なる。また、図5は実測した観測波形を示すため、電圧や電流に微少な変動が含まれている。
この図5の場合には、駆動電圧Vcが、短い一定時間tcごとに少しずつ上昇するようになり、それぞれの電圧上昇時に発生する電流Icの変動をさらに小さくすることができる。
【0032】
図6に示す例は、図5の例の段階数よりも更に大きな数十段階で電圧値を電圧VLから電圧VHに上昇するようにした場合である。
この図6の場合には、駆動電圧Vdが、非常に短い一定時間tdごとにわずかずつ上昇するようになり、それぞれの電圧上昇時に発生する電流Idの変動をさらに小さくすることができる。
【0033】
<2.第2の実施の形態例>
以下、本発明の第2の実施の形態例を、図7及び図8を参照して説明する。この第2の実施の形態例を説明する図7及び図8において、第1の実施の形態例で説明した図1図6に対応する箇所に同一符号を付し、重複説明は省略する。
【0034】
[2―1.回路構成]
図7は、記録ヘッド15に駆動電圧を供給する回路構成を示す。
図7に示す回路の基本的な構成は、図1に示す回路と同じである。但し、ヘッド電圧制御部13は、休止状態から稼動状態にヘッド電圧を変化させる際に、図2のフローチャートなどで説明した段階的に電圧値を上昇させる制御は行わない。
【0035】
そして、図7に示す回路では、DC−DCコンバータ11のFB端子に、容量性素子である補正用コンデンサCXの一端を接続し、この補正用コンデンサCXの他端を接地する。
この補正用コンデンサCXを接続することで、D/Aコンバータ14から出力される電圧は、抵抗器RXと補正用コンデンサCXとで決まる時定数を持って遅れてDC−DCコンバータ11のFB端子に供給されるようになる。
図7に示す回路のその他の箇所は、図1に示す回路と同様に構成する。
【0036】
[2―2.電圧と突入電流の例]
図8は、第2の実施の形態例における、休止状態から稼動状態への変化時の記録ヘッド15の駆動電圧Ve及び電流Ieを示す。
図7に示す回路の場合には、DC−DCコンバータ11のFB端子に補正用コンデンサCXが接続されているため、D/Aコンバータ14からの電圧が時定数を持ってD/Aコンバータ14に入力される。したがって、DC−DCコンバータ11が出力する駆動電圧Veは、一定時間teをかけて徐々に電圧VLから電圧VHに上昇するようになる。この場合の一定時間teは、例えば数十m秒から数百m秒程度の比較的長い時間となる。
【0037】
したがって、電圧VLから電圧VHへの変化時に発生する突入電流Ipeak3についても、突出したピークを持たなくなるため、高い突入電流が発生するのを阻止することができる。
このため、第1の実施の形態例と同様に、DC−DCコンバータ11と記録ヘッド15の間に、大容量の平滑用コンデンサC1が接続されている場合であっても、DC−DCコンバータ11が備える素子などが、突入電流で破壊されることがない。
【0038】
<3.変形例>
なお、第1の実施の形態例で説明した、段階的に電圧を上昇させる制御を行う構成において、第2の実施の形態例で説明した時定数を持たせる補正用コンデンサCXを接続する構成を組み合わせるようにしてもよい。
【0039】
また、各実施の形態例において、駆動電圧を作成する直流電圧作成部として、スイッチング素子がスイッチング動作を行うDC−DCコンバータ11を備えるようにしたが、その他の直流電圧作成部を適用してもよい。例えば、直流電圧作成部として、可変電圧3端子レギュレータを使用してもよい。
【0040】
また、各実施の形態例で説明した電圧値や時間についても、それぞれ一例を示すものであり、本発明を実施する上で、上述した値に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0041】
11…DC−DCコンバータ、12…コントローラ、13…ヘッド電圧制御部、14…D/Aコンバータ、15…記録ヘッド、C1…平滑用コンデンサ、CX…補正用コンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9