(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972722
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】低合金鋼
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20211111BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20211111BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
C22C38/00 301F
C22C38/54
C21D8/02 C
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-139290(P2017-139290)
(22)【出願日】2017年7月18日
(65)【公開番号】特開2019-19382(P2019-19382A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2020年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】大村 朋彦
(72)【発明者】
【氏名】荒井 勇次
(72)【発明者】
【氏名】富松 宏太
【審査官】
浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−080676(JP,A)
【文献】
特開平09−298318(JP,A)
【文献】
特開2014−237879(JP,A)
【文献】
特開2000−045025(JP,A)
【文献】
特開2012−126943(JP,A)
【文献】
特開2005−068548(JP,A)
【文献】
特開2016−056418(JP,A)
【文献】
特開平10−299803(JP,A)
【文献】
特開2015−045086(JP,A)
【文献】
特開平08−134604(JP,A)
【文献】
特開2014−198874(JP,A)
【文献】
特開2005−273004(JP,A)
【文献】
特開2006−176844(JP,A)
【文献】
特開2005−029889(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第104805377(CN,A)
【文献】
PALM M.,"Concepts derived from phase diagram studies for the strengthening of Fe-Al-based alloys",Intermetallics,2005年04月26日,Vol.13,pp.1286-1295
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00〜38/60
C21D 8/02
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.01%以下、
Si:0.05〜10.0%およびAl:0.01〜10.0%の両方またはいずれか一方と、
P:0.025%以下、
S:0.010%以下、
O:0.005%以下、
N:0.008%以下とを含有し、さらに、
Mn:0.1〜1.0%、
B:0.0003〜0.003%、
Cr:0.01〜5.0%、
Mo:0.01〜5.0%、
V:0.01〜5.0%、
W:0.01〜5.0%、
Nb:0.001〜0.1%、
Ti:0.001〜0.1%、
Zr:0.001〜0.2%、
Hf:0.001〜0.2%、
Ta:0.001〜0.2%、
Cu:0.1〜3.0%、
Ni:0.1〜5.0%、
Co:0.1〜3.0%、
Ca:0.0001〜0.01%、
Mg:0.0001〜0.01%および
REM:0.0001〜0.50%から選択される一種以上を含有し、
残部:Feおよび不純物である化学組成を有し、
下記(1)式から求められるFn1が1.0〜10.0であり、
下記(2)式から求められるFn2が1.0〜10.0である、
耐水素脆化特性に優れる低合金鋼。
Fn1 = Si+Al (質量%)(1)
Fn2 = Si+Al (固溶分の質量%)(2)
ただし、(1)式中の各元素記号は、低合金鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を意味し、(2)式中の各元素記号は、低合金鋼中に固溶状態で存在する各元素の含有量(質量%)を意味する。
【請求項2】
析出物、介在物および金属間化合物の合計量が0.5質量%以下である、
請求項1に記載の低合金鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低合金鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
薄鋼板、厚鋼板、鋼管、棒線などの種々の分野で、高強度化ならびに使用環境の過酷化に伴い、水素脆化が問題となっている。水素脆化が問題となる用途としては、例えば、自動車用の高強度薄鋼板、建材用の厚鋼板、油井管やラインパイプ等の過酷環境で使われる鋼管、高強度の棒線・棒鋼・ボルトなどが挙げられる。
【0003】
bcc構造を有する炭素鋼や低合金鋼の耐水素脆化特性を改善する組織上の対策としては、例えばマルテンサイト系の材料では、焼戻し温度を高めることによる粒界炭化物の球状化や、水素トラップ効果を有する微細な合金炭化物の活用が知られている(非特許文献1および非特許文献2)。
【0004】
上記の対策は、焼戻し時に生じる炭化物の作用に着目し、これを制御するものである。一方、Fe以外の合金元素を添加した場合には、その一部がbcc構造の母相中に固溶し、この固溶元素を活用すれば、熱処理に依存しなくても普遍的な耐水素脆化特性が得られることが期待される。
【0005】
ただし、Fe以外の固溶合金元素は一般には水素拡散係数を低下させ、使用環境中における吸蔵水素濃度を増加させ、水素脆化に対して悪影響を及ぼすと考えられている(非特許文献3および非特許文献4)。
【0006】
特許文献1には、固溶窒素量を0.004〜0.03質量%に制限した冷間加工用鋼材に関する発明が開示されている。この冷間加工用鋼材によれば、冷間加工のみで高強度が得られるため、熱処理を省略することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016−056418号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】櫛田隆弘、松本斉、倉富直行、津村輝隆、中里福和、工藤赳夫、鉄と鋼Vol.82、No.4(1996)297−302頁
【非特許文献2】山崎真吾、高橋稔彦、鉄と鋼Vol.83、No.7(1997)454−459頁
【非特許文献3】羽木秀樹、日本金属学会誌 第55巻 第12号(1991)1283−1290頁
【非特許文献4】櫛田隆弘、工藤赳夫、まてりあ 第33巻 第7号(1994)932−939頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、純鉄系の材料を用いて、各種の合金元素を完全に固溶させた合金を用いて鋭意検討を行った結果、主として、SiおよびAlは、固溶状態でも水素拡散係数を低下させず、かつ耐水素脆化特性の改善効果を有することを見出した。上記改善効果の作用機構については、詳細は不明であるが、これらの元素は表面エネルギーを高めて腐食環境における水素侵入を抑制する効果がある。水素侵入の抑制機構は、金属表面に水素原子が吸着した状態を不安定化させ、水素分子に速やかに再結合させ、系外に逃散させることと推定されている。この効果と同様に、鉄中にSiおよびAlが固溶している場合、鉄中を拡散して近づいて来た水素原子を反発し、拡散を促進することで水素原子が脆化起点(応力集中部や介在物などの界面)に集積するのを防止し、水素脆化を抑制すると推定される。
【0010】
特許文献1の発明は、Si、Alの固溶量を確保することによる耐水素脆化特性について全く考慮されていない。また、調質のための熱処理、いわゆる焼入れ/焼戻し熱処理を省略することを前提としているが、熱処理を省略したこのような非調質鋼の場合、製造工程中の徐冷過程でSiやAlが析出するため、この技術では、Si、Alの固溶量を確保することはできない。
【0011】
本発明は、SiおよびAlを固溶状態で存在させることにより耐水素脆化特性の改善させた低合金鋼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記の低合金鋼を要旨とする。
【0013】
〔1〕質量%で、
C:0.01%以下と、
Si:0.05〜10.0%およびAl:0.01〜10.0%の両方またはいずれか一方と、
P:0.025%以下、
S:0.010%以下、
O:0.005%以下、
N:0.008%以下、
Mn:0〜1.0%、
B:0〜0.003%、
Cr:0〜5.0%、
Mo:0〜5.0%、
V:0〜5.0%、
W:0〜5.0%、
Nb:0〜0.1%、
Ti:0〜0.1%、
Zr:0〜0.2%、
Hf:0〜0.2%、
Ta:0〜0.2%、
Cu:0〜3.0%、
Ni:0〜5.0%、
Co:0〜3.0%、
Ca:0〜0.01%、
Mg:0〜0.01%、
REM:0〜0.50%と、
残部:Feおよび不純物とである化学組成を有し、
下記(1)式から求められるFn1が1.0〜10.0であり、
下記(2)式から求められるFn2が1.0〜10.0である、
耐水素脆化特性に優れる低合金鋼。
Fn1 = Si+Al (質量%)(1)
Fn2 = Si+Al (固溶分の質量%)(2)
ただし、(1)式中の各元素記号は、低合金鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を意味し、(2)式中の各元素記号は、低合金鋼中に固溶状態で存在する各元素の含有量(質量%)を意味する。
【0014】
〔2〕質量%で、
Mn:0.1〜1.0%、
B:0.0003〜0.003%
Cr:0.01〜5.0%、
Mo:0.01〜5.0%、
V:0.01〜5.0%、
W:0.01〜5.0%、
Nb:0.001〜0.1%、
Ti:0.001〜0.1%、
Zr:0.001〜0.2%、
Hf:0.001〜0.2%、
Ta:0.001〜0.2%、
Cu:0.1〜3.0%、
Ni:0.1〜5.0%、
Co:0.1〜3.0%、
Ca:0.0001〜0.01%、
Mg:0.0001〜0.01%および
REM:0.0001〜0.50%から選択される一種以上を含有する、
上記〔1〕の低合金鋼。
【0015】
〔3〕析出物、介在物および金属間化合物の合計量が0.5質量%以下である、
上記〔1〕または〔2〕の低合金鋼。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐水素脆化特性に優れた低合金鋼が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.化学組成
本発明に係る低合金鋼は、下記の化学組成を有する。各元素の含有量の範囲および限定理由を説明する。各元素の含有量の%は、「質量%」を意味する。
【0018】
C:0.01%以下
Cは、固溶強化により鋼の強度を高めるのに有効であるが、0.01%を超えて含有させると、母相のフェライト地に固溶しきれなくなり、焼鈍時に粗大な炭化物を形成し、耐水素脆化特性を低下させる。この観点から、Cの含有量は0.01%以下とする。C含有量は、低ければ低いほど望ましい。
【0019】
Si:0.05〜10.0%および
Al:0.01〜10.0%の両方またはいずれか一方
SiおよびAlは、鋼の脱酸に有効な元素であるが、本発明においては、耐水素脆化特性を向上させるために重要な元素である。脱酸の効果を得る観点ではSiは0.05%以上、Alは0.01%以上含有させれば十分であるが、優れた耐水素脆化特性を得るためには、SiおよびAlの合計含有量を1.0%以上とする必要がある。一方、耐水素脆化特性の効果は、過剰に含有させても飽和するので、それぞれの元素の含有量の上限および合計含有量の上限は10.0%とする。すなわち、下記(1)式から求められるFn1が1.0〜10.0であることが必要である。一方、耐水素脆化特性は、特に、鋼中に固溶したSiおよびAlによって得られるので、下記(2)式から求められるFn2が1.0〜10.0であることも必要である。
Fn1 = Si+Al (質量%)(1)
Fn2 = Si+Al (固溶分の質量%)(2)
ただし、(1)式中の各元素記号は、低合金鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を意味し、(2)式中の各元素記号は、低合金鋼中に固溶状態で存在する各元素の含有量(質量%)を意味する。
【0020】
耐水素脆化特性を向上させるためには、Fn1の下限を1.5とするのが好ましく、2.0とするのがより好ましく、Fn2の下限も1.5とするのが好ましく、2.0とするのがより好ましい。一方、Si、Alのいずれも過剰に含有させてもその効果は小さくなるため、Fn1の上限を7.0とするのが好ましく、5.0とするのがより好ましく、Fn2の上限も7.0とするのが好ましく、5.0とするのがより好ましい。
【0021】
P:0.025%以下
Pは、鋼中に不純物として存在する元素である。Pは、粒界に偏析し、耐水素脆化特性を低下させる元素であるため、その含有量は0.025%以下とする必要がある。Pの含有量はできるだけ少ない方が望ましい。
【0022】
S:0.010%以下
Sは、鋼中に不純物として存在する元素である。SもPと同様に粒界に偏析し,耐水素脆化特性を低下させる元素であるため、その含有量は0.01%以下とする必要がある。Sの含有量はできるだけ少ない方が望ましい。
【0023】
O:0.005%以下
O(酸素)は,鋼中に不純物として存在する元素である。その含有量が0.005%を超えると、粗大な酸化物を形成し、靭性等の機械的特性を低下させる。従って、O(酸素)は0.005%以下とする。O(酸素)の含有量はできるだけ低い方が望ましい。その上限は望ましくは0.004%、さらに望ましくは0.003%である。
【0024】
N:0.008%以下
N(窒素)は、鋼中に不純物として存在する元素である。その含有量が0.008%を超えると、粗大な窒化物を形成し、靭性等の機械的特性を低下させる。従って、N(窒素)は0.008%以下とする。N(窒素)の含有量はできるだけ低い方が望ましい。その上限は望ましくは0.006%、さらに望ましくは0.005%である。
【0025】
Mn:0〜1.0%
Mnは、固溶強化の効果を有するので、含有させてもよい。ただし、過剰に含有させても効果が飽和するので、含有させる場合の上限を1.0%とする。上記の効果を得るためには、0.1%以上含有させるのが好ましい。
【0026】
B:0〜0.003%
Bは、Cと同様に鋼の強度を高めるのに有効であるので、含有させてもよい。ただし、0.003%を超えて含有させてもその効果は飽和するため、含有させる場合の上限を0.003%とする。上記の効果を得るためには、0.0003%以上含有させるのが好ましい。
【0027】
Cr:0〜5.0%
Mo:0〜5.0%
V:0〜5.0%
W:0〜5.0%
Nb:0〜0.1%
Ti:0〜0.1%
Zr:0〜0.2%
Hf:0〜0.2%
Ta:0〜0.2%
Cr、Mo、V、W、Nb、Ti、Zr、HfおよびTa(以下、これらの元素を「第1群元素」ともいう。)は、フェライト生成元素であり、かつ固溶強化能を有する。また、Nb、Ti、Zr、HfおよびTaは、炭窒化物の生成能が強く、焼鈍時に微細な炭窒化物を形成し、固溶Cや固溶Nを低減する効果を有する。このため、これらの元素の一種以上を含有させてもよい。ただし、それぞれの元素の含有量が過剰な場合には効果が飽和するので、これらの元素を含有させる場合には、Crは5.0%以下、Moは5.0%以下、Vは5.0%以下、Wは5.0%以下、Nbは0.1%以下、Tiは0.1%以下、Zrは0.2%以下、Hfは0.2%以下、Taは0.2%以下とする。また、上記の効果を得るためには、Crは0.01%以上、Moは0.01%以上、Vは0.01%以上、Wは0.01%以上、Nbは0.001%以上、Tiは0.001%以上、Zrは0.001%以上、Hfは0.001%以上、Taは0.001%以上含有させるのが好ましい。
【0028】
Cu:0〜3.0%
Ni:0〜5.0%
Co:0〜3.0%
Cu、NiおよびCoは、いずれも鋼の固溶強化に有効である。このため、これらの元素から選択される一種以上を含有させてもよい。ただし、過剰に含有させてもその効果は飽和するので、CuおよびCoはその上限を3.0%とし、Niはその上限を5.0%とする。また、上記の効果を得るためには、いずれの元素も0.1%以上含有させるのが好ましい。
【0029】
Ca:0〜0.01%
Mg:0〜0.01%
REM:0〜0.50%
Ca、MgおよびREMは、鋼中のSと結合して硫化物を形成し、介在物の形状を改善して靭性等の機械的特性を改善するので、含有させてもよい。過剰に含有させてもこの効果は飽和するため、CaおよびMgの上限は、0.01%、REMの上限は0.50%とする。上記の効果を得るためには、いずれの元素も0.0001%以上含有させるのが好ましい。
【0030】
なお、REMとは、Sc、Y、およびランタノイドの合計17元素を指し、「REMの含有量」とは、REMが1種の場合はその含有量、2種以上の場合はそれらの合計含有量を指す。また、REMは一般的には複数種のREMの合金であるミッシュメタルとしても供給されている。このため、個別の元素を1種または2種以上添加してREMの量が上記の範囲となるように含有させてもよいし、例えば、ミッシュメタルの形で添加して、REMの量が上記の範囲となるように含有させてもよい。
【0031】
本発明の化学組成は、上記の各元素をそれぞれ規定される範囲で含有し、残部は、Feおよび不純物である。不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入する成分を意味する。
【0032】
2.金属組織
本発明鋼は、体積率で99%以上がフェライトである、フェライト単相組織を対象とする。フェライト以外の組織については、特に制約がないが、水素脆化の起点および進展経路として働くので、その量はできるだけ少ないことが好ましい。このため、析出物、介在物および金属間化合物(以下、「析出物等」という。)の合計量は0.5質量%以下とするのが好ましい。
【0033】
3.製造方法
本発明鋼は、通常の方法で溶製(溶解および鋳造)し、熱間鍛造し、必要に応じてさらに熱間圧延することにより製造することができる。ただし、偏析を除去し、金属間化合物の生成を抑えるために、熱間鍛造後に1200〜1300℃で1時間以上保持のソーキング熱処理を行うのが望ましい。最終熱処理の焼鈍温度は、フェライトの単相組織が得られる条件であればよいが、通常は、750〜850℃の温度で、5分以上均熱し、その後に水冷するのがよい。析出物等の生成を低減するためには、単にSiおよびAlの含有量を調整するだけでは足りず、水冷工程の800〜500℃間の冷却速度を10℃/s以上するのがよい。必要に応じて、焼鈍後に冷間圧延等を施し、強度を高めてもよい。
【実施例1】
【0034】
本発明の効果を検証した実施例を以下に説明する。
【0035】
表1に示す化学組成を有する低合金鋼をそれぞれ50kg真空溶製した。得られた鋳片から、熱間鍛造、熱間圧延を経て、厚さ30mmの板材を得た後、800℃で60分加熱後水冷の焼鈍熱処理を行い、試験材(焼鈍材)を得た。また、焼鈍後に、減面率60〜94%の冷間圧延を施し、試験材(冷間圧延材)を得た。この際、引張強さが600〜900MPaの範囲に入るように、素材に応じて冷間圧延率を調整した。
【0036】
【表1】
【0037】
<析出物等の合計含有量の測定等>
SiおよびAlの合計固溶量、析出物等の合計含有量は、下記の手順により求めた。
試験材(焼鈍材)の中心部から、直径が1〜10mmで長さが50mmの寸法の抽出分析用丸棒試験片を採取した。この試験片を陽極電解してマトリックスを溶解させ、析出物等を抽出し、抽出された残渣を用いてICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分析を行い、残渣中のSiおよびAlの合計含有量を測定する。陽極電解は、1質量%の酒石酸を含む電解液を用いて定電流電解により行った。この合計含有量を、陽極電解によるマトリックス溶解前後での試験片の質量差(つまり、試験片の溶解量)で除して、マトリックス中に析出したSiおよびAlの合計含有量(質量%)を算出した。鋼材のSiおよびAlの合計含有量から、析出したSiおよびAlの合計含有量を差し引いて、固溶したSiおよびAlの合計含有量を計算した。また、マトリックスを溶解させ得られた残渣の合計量を、陽極電解によるマトリックス溶解前後での試験片の質量差(試験片の溶解量)で除して、析出物等の合計含有量(質量%)を求めた。
【0038】
<耐水素脆化特性の測定>
試験材(焼鈍材)および試験材(冷間圧延材)の板厚中心部から平行部の幅2mm×厚さ2mm、もしくは幅2mm×厚さ1mmの板状引張試験片を採取し、水溶液中での陰極チャージ下での低ひずみ速度引張試験により、耐水素脆化特性を評価した。溶液には常温の3%NaCl+3g/Lチオシアン酸アンモニウム水溶液を用いて、飽和カロメル電極に対して−1.2(V)で陰極水素チャージを行いつつ引張試験を行った。ひずみ速度は3×10
−4(s
−1)とした。陰極チャージ下の破断伸びを測定し、これを大気中で測定した破断伸びで除して、相対破断伸び(%)を算出した。相対破断伸びが大きい材料ほど、耐水素脆化特性に優れる。本実施形態においては、相対破断伸びが50%以上の試験材を耐水素脆化特性に優れると判断した。
【0039】
<機械的特性の測定>
試験材(焼鈍材)および試験材(冷間圧延材)から試験部の厚さが1〜2mm、試験部の幅が6mmの板状引張試験片を採取し、JIS Z 2241:2011に従って引張試験を行い、TS(引張強さ)を求めた。
【0040】
表2に、焼鈍条件(冷却条件)と、上記の試験結果を示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表2に示すように、本発明例1〜27は、焼鈍材および冷間加工材のいずれにおいても、相対破断伸びは50%以上であり、優れた耐水素脆化特性を有していた。一方、比較例28および29は、Fn1およびFn2の値が低く、耐水素脆化特性に劣っていた。比較例30および31は、Fn1値は本発明で規定される範囲を満たしていたが、
Si,Alの析出物が生成したために、Fn2の値が1.0未満であり、耐水素脆化特性に劣っていた。比較例32は、C含有量が0.01%を超えており、焼鈍時に未固溶の粗大炭化物(主として鉄炭化物)が残存しており、耐水素脆化特性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、耐水素脆化特性に優れた低合金鋼が得られる。