特許第6972732号(P6972732)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972732
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】焼き色付与剤
(51)【国際特許分類】
   A21D 8/02 20060101AFI20211111BHJP
   A21D 8/06 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   A21D8/02
   A21D8/06
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-144477(P2017-144477)
(22)【出願日】2017年7月26日
(65)【公開番号】特開2019-24345(P2019-24345A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】植月 拓真
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−235722(JP,A)
【文献】 特開2014−039479(JP,A)
【文献】 特開平10−234314(JP,A)
【文献】 特開平04−229155(JP,A)
【文献】 特開平10−262553(JP,A)
【文献】 特開2008−125384(JP,A)
【文献】 食品成分データベース,p.1,https://fooddb.mext.go.jp/result/result_top.pl?USER_ID=18246, 検索日:2021年4月4日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00−17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元糖がキシロース、ブドウ糖から選ばれる1以上であって、還元糖と脱脂粉乳が、還元糖:脱脂粉乳=30:70〜70:30で粉体状態で混合された、水分を28〜48質量%含有する生生地用の、焼き色付与剤。
【請求項2】
生生地上に、請求項1記載の焼き色付与剤をふりかけ、焼成する、焼成生地への焼き色付与方法。
【請求項3】
生生地上に、請求項1記載の焼き色付与剤をふりかけ、焼成する、焼き色のついた焼成生地の製造方法。
【請求項4】
請求項2記載の焼成生地への焼き色付与方法において、焼き色付与剤を生生地へふりかける際、生生地上に所定の形が型抜きされたシート材を配置し、その上から焼き色付与剤をふりかけることで、当該所定の形に焼き色付与剤が振りかけられるようにし、当該所定の形の焼き色が付与されるようにする、焼き色付与方法。
【請求項5】
請求項3記載の焼成生地の製造方法において、焼き色付与剤を生生地へふりかける際、生生地上に所定の形が型抜きされたシート材を配置し、その上から焼き色付与剤をふりかけることで、当該所定の形に焼き色付与剤がふりかけられるようにし、当該所定の形の焼き色が付与されるようにする、焼成生地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成食品における焼き色付与に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小麦粉焼成食品においては、良好な焼き色を付与するために、各種の工夫がなされる場合がある。
特許文献1には、焼成食品用艶出し剤に関する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−235722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ガスバーナーやシュバンクバーナーを使用せず、通常の焼成工程で、焼成生地表面に良好な焼き色を付与することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
特許文献1においては、焼成食品の艶出しのため、通常用いられる鶏卵液の代わりに使用することができる艶出し剤に関するものである。しかし、本品のように水溶液としたものは、水分の多い生生地においては、良好な焼き色を付与することは難しい。
本発明者は、鋭意検討を行ったところ、還元糖と脱脂粉乳の粉体混合物を生生地にふりかけ、その後通常の焼成を行うことで、それまでガスバーナーやシュバンクバーナーでつけていたような良好な焼き色を付与することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)還元糖と脱脂粉乳が、還元糖:脱脂粉乳=1:99〜99:1で粉体状態で混合された、水分を28〜48質量%含有する生生地用の、焼き色付与剤、
(2)還元糖がキシロース、ブドウ糖から選ばれる1以上である、(1)記載の焼色付与材、
(3)生生地上に、(1)又は(2)記載の焼き色付与剤をふりかけ、焼成する、焼成生地への焼き色付与方法、
(4)生生地上に、(1)又は(2)記載の焼き色付与剤をふりかけ、焼成する、焼き色のついた焼成生地の製造方法、
(5)(3)記載の焼成生地への焼き色付与方法において、焼き色付与剤を生生地へふりかける際、生生地上に所定の形が型抜きされたシート材を配置し、その上から焼き色付与剤をふりかけることで、当該所定の形に焼き色付与剤がふりかけられるようにし、当該所定の形の焼き色が付与されるようにする、焼き色付与方法、
(6)(4)記載の焼成生地の製造方法において、焼き色付与剤を生生地へふりかける際、生生地上に所定の形が型抜きされたシート材を配置し、その上から焼き色付与剤をふりかけることで、当該所定の形に焼き色付与剤がふりかけられるようにし、当該所定の形の焼き色が付与されるようにする、焼成生地の製造方法、
に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、容易に、それまでバーナーでつけていたような良好な焼き色を焼成生地表面に付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
焼成生地の製造において、良好な焼き色を付与する場合には、ガスバーナーやシュバンクバーナーで表面を炙ることで付与する場合が多い。しかし、ガスバーナーの使用は危険を伴う場合もあり、より安全に良好な焼き色を付与する方法が求められていた。またガスバーナーの使用は煩雑な上、焼きムラが出来やすく、大量生産時の安定性に欠ける場合もある。またシュバンクバーナーは二度焼きを必要とする煩雑さがある上、さらに生地が乾燥するため、良好な生地食感が得られにくい場合もある。
本発明に係る焼き色付与剤は、還元糖と脱脂粉乳が、還元糖:脱脂粉乳=1:99〜99:1で粉体状態で混合されたものである。ここで、還元糖と脱脂粉乳の比率は、より望ましくは還元糖:脱脂粉乳=20:80〜80:20であり、さらに望ましくは還元糖:脱脂粉乳=40:60〜60:40である。還元糖と脱脂粉乳を適当な比率で粉体混合することで、焼成生地に良好な焼き色を付与できる、焼き色付与剤を得ることができる。
なお、粉体状態とは、水分量で言えば7質量%以下の状態である。
【0009】
還元糖の種類としては、キシロース及びブドウ糖から選ばれる1以上が望ましくより望ましくはキシロースである。望ましい還元糖を用いることで、好ましい焼色を付与することができる。
【0010】
本発明に係る、焼き色付与材においては、還元糖と脱脂粉乳が所定の比率で存在していれば、本発明の効果を妨げない限り、それ以外の成分を含有させることができる。ここで、本発明においては、粉体であることでその利便性や効果を発揮することができるものなので、焼き色付与材全体として、水分量が7質量%以下となるようにする必要がある。
なお、本発明に係る焼き色付与材においては、還元糖、脱脂粉乳、及び、必要により他の成分が、略均一に粉体として混合されている必要がある。
【0011】
本発明において生生地(なまきじ)とは、焼成食品における、焼成前の生地をいう。本発明に係る焼き色付与材は、生生地の状態で、水分が28〜48質量%含有する場合に、好適に使用できるものである。生生地の水分は、より望ましくは30〜46質量%であり、さらに望ましくは32〜44質量%である。特に、水分が多い生生地においては、液状の焼き色付与材を用いても、十分な焼き色がつかなかったり、また、焼き色をつけるためにより長時間の焼成が必要となったりする場合もあり、本発明品の優位性が顕著に発揮される。
【0012】
本発明における焼成食品とは、主に澱粉質からなる生生地を焼成して得られる食品であり、具体的には、スポンジ、パウンド、シフォン、スコーン、クッキーの他、通常のパンを挙げることができる。なお、澱粉質を含まない生生地を排除するものではない。
本発明において、より好ましく効果を発揮できるのは、スポンジである。スポンジケーキにおいて、本発明に係る焼き色付与材を用いることで、好ましい焼き色を付与することができる。
【0013】
次に、本発明に係る焼き色付与材の使用法を説明する。本発明に係る焼き色付与材は、焼成前の生生地表面に、直接ふりかけることにより、使用する。ふりかける量は、付与したい焼き色の程度や、焼き色付与材における、還元糖と脱脂粉乳の合計量の割合によっても変わりうるため、一概には規定できないが、面積1000平方センチメートルに対し、3.5〜6.5gである。
焼き色付与材を振りかけた後は、通常の条件で生生地を焼成することで、適度の焼き色を付与することができる。すなわち本発明は、適度の焼き色のついた焼成生地の製造法とも言えるものである。
【0014】
また、本発明に係る焼き色付与材を使用して、焼成生地表面に、所定のデザインされた形の焼き色を付与することも可能になる。すなわち、生生地上に所定の形が型抜きされたシート材を配置し、その上から焼き色付与剤をふりかけることで、当該所定の形に焼き色付与剤がふりかけられるようにし、当該所定の形の焼き色が付与されるようにすることができる。
型抜きする形は、実施者が適宜選択することができる。ここで、「所定の形が型抜きされたシート材」とは、端的には、所定の形を型抜きした紙であり、これを生生地の上に配置し、その上から焼き色付与材を降りかけることで、当該所定の形に焼き色付与材が付着し、その後焼成することで、当該所定の形の焼き色が、焼成生地上につくことになる。これにより、消費者の購買意欲を向上させる製品を作り上げることが可能となる。
以下に実施例を記載する。
【実施例】
【0015】
検討1 焼き色付与材サンプルの調製
表1の配合に従い、焼き色付与材サンプルを調製した。
調製は、配合に記載した粉体をビニール袋に入れ、よく混合することで均一化し行った。
【0016】
表1 配合
・キシロースはエーザイフード・ケミカル株式会社製を使用した。
・脱脂粉乳はよつ葉乳業株式会社製を使用した。
・粉糖及びグラニュー糖は、成分はいずれもショ糖であった。
・各サンプルとも、水分は7質量%以下であった。
【0017】
検討2 焼き色付与試験
表2記載の配合にて、スポンジケーキの生生地を調製した。調製法は「○スポンジケーキ 生生地調製法」に従った。
得られたスポンジケーキの生生地を30×40cmの型に流し入れた後、検討1で調製したサンプルを、それぞれ生生地表面に6gふりかけた。
その後、上火180℃、下火170℃のオーブンで15分間焼成した。
得られたスポンジケーキの焼き色を、ガスバーナーで焼き色を付与した場合と比較して、パネラー5名の合議にて、以下の基準で評価した。
5点 バーナーで焼き色を付与した場合と同等の焼き色が付与されたもの。
4点 バーナーで焼き色を付与した場合より若干焼き色が相違するが、ほぼ同等と判断されるもの。
3点 バーナーで焼き色を付与した場合より若干焼き色が劣るが、許容範囲であるもの。
2点 バーナーで焼き色を付与した場合より、明確に焼き色が劣り、許容できないもの。
1点 バーナーで付した焼色とは、全く相違する焼色が付されてしまうもの。
3点以上を合格とした。結果を表3に示した。
【0018】
表2 スポンジケーキ生地配合
【0019】
○スポンジケーキ 生生地調製法
1.全卵、卵黄、ハチミツ、グラニュー糖をミキサーにて混合した。
2.1へ薄力粉を添加し、軽く混合した。
3.2へ製菓用サラダ油、牛乳を添加し、比重が0.38となるまで混合した。
【0020】
表3 結果
【0021】
考察
・実施例1記載の焼き色付与材を使用することで、ガスバーナーで焼き色を付与した場合と同様の焼き色が付与された。
なお、焼き色付与材サンプルを振りかけずに焼成した場合は、わずかな焼き色しかつかず、非常に劣るものであった。
・焼き色付与剤を生生地へふりかける際、生生地上に所定の形が型抜きされたシート材を配置し、その上から焼き色付与剤をふりかけることで、当該所定の形に焼き色付与剤がふりかけられるようにした後に焼成した場合は、当該所定の形に焼き色が付与されることは自明であった。