特許第6972772号(P6972772)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6972772燃料電池セパレータ前駆体及び燃料電池セパレータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972772
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】燃料電池セパレータ前駆体及び燃料電池セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0221 20160101AFI20211111BHJP
   H01M 8/0213 20160101ALI20211111BHJP
   H01M 8/0226 20160101ALI20211111BHJP
【FI】
   H01M8/0221
   H01M8/0213
   H01M8/0226
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-161007(P2017-161007)
(22)【出願日】2017年8月24日
(65)【公開番号】特開2019-40719(P2019-40719A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2020年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 光介
(72)【発明者】
【氏名】大慶 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】芦崎 翔也
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−222329(JP,A)
【文献】 特開2009−093965(JP,A)
【文献】 特開2007−157387(JP,A)
【文献】 特開2000−164226(JP,A)
【文献】 特開2007−188696(JP,A)
【文献】 特開2006−127812(JP,A)
【文献】 特開2007−311061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性フィラー(ただし、膨張黒鉛を除く。)を含む多孔質シートに、熱可塑性樹脂及び導電性フィラーを含む樹脂組成物を含浸してなる燃料電池セパレータ前駆体。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が、融点又はガラス転移点が100℃以上のものである請求項1記載の燃料電池セパレータ前駆体。
【請求項3】
前記樹脂組成物に含まれる導電性フィラーが、炭素材料からなるものである請求項1又は2記載の燃料電池セパレータ前駆体。
【請求項4】
前記樹脂組成物に含まれる導電性フィラーの平均粒径が、5〜200μmである請求項1〜3のいずれか1項記載の燃料電池セパレータ前駆体。
【請求項5】
前記樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量が、前記樹脂組成物中20〜99.9質量%である請求項1〜4のいずれか1項記載の燃料電池セパレータ前駆体。
【請求項6】
導電性フィラーを含む多孔質シートが、導電性フィラー(ただし、膨張黒鉛を除く。)及び有機繊維を含む抄造シート、炭素繊維シート、又は炭素繊維強化炭素複合材料からなるものである請求項1〜のいずれか1項記載の燃料電池セパレータ前駆体。
【請求項7】
前記導電性フィラーを含む多孔質シートが、導電性フィラー(ただし、膨張黒鉛を除く。)及び有機繊維を含む抄造シートである請求項6記載の燃料電池セパレータ前駆体。
【請求項8】
前記有機繊維の平均繊維長が0.1〜10mmであり、平均繊維径が0.1〜100μmである請求項6又は7記載の燃料電池セパレータ前駆体。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項記載の燃料電池セパレータ前駆体から得られる燃料電池セパレータ。
【請求項10】
導電性フィラー(ただし、膨張黒鉛を除く。)を含む多孔質シートに、熱可塑性樹脂及び導電性フィラーを含む樹脂組成物を含浸させる工程を含む、燃料電池セパレータ前駆体の製造方法。
【請求項11】
前記樹脂組成物に含まれる導電性フィラーの平均粒径が、5〜200μmである請求項10記載の燃料電池セパレータ前駆体の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂組成物が、フィルム状である請求項10又は11記載の燃料電池セパレータ前駆体の製造方法。
【請求項13】
前記樹脂組成物が、液状である請求項10又は11記載の燃料電池セパレータ前駆体の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜のいずれか1項記載の燃料電池セパレータ前駆体を、加熱し、成形する工程を含む、燃料電池セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セパレータ前駆体及び燃料電池セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池セパレータは、各単位セルに導電性を持たせる役割、並びに単位セルに供給される燃料及び空気(酸素)の通路を確保するとともに、それらの分離境界壁としての役割を果たすものである。このため、セパレータには高導電性、高ガス不浸透性、化学的安定性、耐熱性、親水性等の諸特性が要求される。
【0003】
燃料電池セパレータの製造方法として、導電性フィラー及びバインダー樹脂を造粒し作製したコンパウンドを金型内に充填後、圧縮成型する方法が挙げられる。しかし、当該方法は、成形前の造粒工程、搬送工程に時間がかかる、導電性を得るため導電性フィラーが高割合で含まれるため得られたセパレータの強度が小さく割れやすい(薄肉化できない)といった問題があった。
【0004】
前記問題を解決するため、導電性シートに樹脂を含有させる技術が提案されている。しかし、このような方法も、導電性シートに樹脂を含浸させるための隙間が必要で、導電成分の分布にバラつきが生じたり、導電性シートに強度付与のために繊維質等の非導電成分が含有されていると、導電性が低下したりするといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−59671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記問題点を解決するためになされたものであり、シート状体で搬送できる強度と成形後の導電性にも優れ、導電性のバラつきが改善される、燃料電池セパレータ前駆体、及びこれを用いて得られる燃料電池セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、導電性フィラーを含む多孔質シートに、熱可塑性樹脂及び導電性フィラーを含む樹脂組成物を含浸させることで前記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、下記燃料電池セパレータ前駆体及び燃料電池セパレータを提供する。
1.導電性フィラーを含む多孔質シートに、熱可塑性樹脂及び導電性フィラーを含む樹脂組成物を含浸してなる燃料電池セパレータ前駆体。
2.前記熱可塑性樹脂が、融点又はガラス転移点が100℃以上のものである1の燃料電池セパレータ前駆体。
3.前記樹脂組成物に含まれる導電性フィラーが、炭素材料からなるものである1又は2の燃料電池セパレータ前駆体。
4.前記導電性フィラーを含む多孔質シートが、導電性フィラー及び有機繊維を含む抄造シート、炭素繊維シート、又は炭素繊維強化炭素複合材料からなるものである1〜3のいずれかの燃料電池セパレータ前駆体。
5.1〜4のいずれかの燃料電池セパレータ前駆体から得られる燃料電池セパレータ。
6.導電性フィラーを含む多孔質シートに、熱可塑性樹脂及び導電性フィラーを含む樹脂組成物を含浸させる工程を含む、燃料電池セパレータ前駆体の製造方法。
7.前記樹脂組成物が、フィルム状である6の燃料電池セパレータ前駆体の製造方法。
8.前記樹脂組成物が、液状である7の燃料電池セパレータ前駆体の製造方法。
9.1〜4のいずれかの燃料電池セパレータ前駆体を、加熱し、成形する工程を含む、燃料電池セパレータの製造方法。
10.熱可塑性樹脂及び導電性フィラーを含む燃料電池セパレータ用樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の燃料電池セパレータ前駆体は強度に優れるため、従来の製法では不可能だったロール状に巻き取ることが可能となり、ロール送り出しにより装置の間を連続的に流すことができる。さらに、ロール状に巻き取った前駆体は、次工程への移動や一時保管しやすいという利点もある。また、本発明の燃料電池セパレータ前駆体には繊維質が含まれるため、これを用いて薄肉化された燃料電池セパレータを製造することが可能となり、曲げ弾性等の機械的物性向上に加え、耐脆性破壊性や損傷許容性を向上させることができる。
【0010】
本発明の燃料電池セパレータ前駆体は、導電性フィラーを含む樹脂組成物が含浸されているため、多孔質シートの導電成分の偏在や凝集に起因した導電性のバラつきを解消できる。また、多孔質シートに樹脂組成物を含浸させた後、前記シートの表面に導電性フィラー層が形成されるため、抵抗の低下を抑制でき、表面導電性を改善することもできる。また、前記前駆体製造に用いる多孔質シートの導電成分を低減できるので、シート自体の導電成分のバラつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で得られた燃料電池セパレータ前駆体Aの金属顕微鏡写真である。
図2】比較例1で得られた燃料電池セパレータ前駆体Cの金属顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[燃料電池セパレータ前駆体]
本発明の燃料電池セパレータ前駆体は、導電性フィラーを含む多孔質シートに、熱可塑性樹脂及び導電性フィラーを含む樹脂組成物を含浸してなるものである。
【0013】
[導電性フィラーを含む多孔質シート]
本発明の燃料電池セパレータ前駆体に用いられる導電性フィラーを含む多孔質シートとしては、特に限定されないが、導電性フィラー及び有機繊維を含む抄造シート、炭素繊維シート、又は炭素繊維強化炭素複合材料からなるものが好ましい。
【0014】
[抄造シート]
前記抄造シートは、導電性フィラー及び有機繊維を含むものである。前記導電性フィラーは、特に限定されず、燃料電池セパレータ用として従来公知のものを使用することができる。前記導電性フィラーとしては、例えば、炭素材料、金属粉末、無機粉末や有機粉末に金属を蒸着あるいはメッキした粉末等が挙げられるが、炭素材料が好ましい。前記炭素材料としては、天然黒鉛、針状コークスを焼成した人造黒鉛、塊状コークスを焼成した人造黒鉛、天然黒鉛を化学処理して得られる膨張黒鉛等の黒鉛、炭素電極を粉砕したもの、石炭系ピッチ、石油系ピッチ、コークス、活性炭、ガラス状カーボン、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。これらのうち、導電性フィラーとしては、導電性の観点から、黒鉛が好ましく、人造黒鉛がより好ましい。前記導電性フィラーは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
前記導電性フィラーの形状は、特に限定されず、球状、鱗片状、塊状、箔状、板状、針状、無定形のいずれでもよいが、セパレータのガスバリア性の観点から、鱗片状が好ましい。特に、本発明においては、導電性フィラーとして鱗片状黒鉛を使用することが好ましい。
【0016】
前記導電性フィラーの平均粒径は、5〜200μmが好ましく、20〜80μmがより好ましい。導電性フィラーの平均粒径が前記範囲であれば、ガスバリア性を確保しながら必要な導電性を得ることができる。なお、本発明において平均粒径とは、レーザー回折法による粒度分布測定におけるメジアン径(d50)である。
【0017】
前記導電性フィラーの含有量は、前記抄造シート中、50〜96質量%が好ましく、50〜85質量%がより好ましい。導電性フィラーの含有量が前記範囲であれば、成形性を損なわない範囲で、必要な導電性を得ることができる。
【0018】
前記有機繊維は、その融点が本発明の燃料電池セパレータ前駆体を成形して燃料電池セパレータを製造する際の加熱温度よりも高いものであることが好ましい。このような有機繊維(以下、第1の有機繊維ともいう。)を用いることで、燃料電池セパレータ前駆体及びこれから得られる燃料電池セパレータの強度を向上させることができる。
【0019】
このような有機繊維の材質としては、ポリp−フェニレンテレフタルアミド(分解温度500℃)、ポリm−フェニレンイソフタルアミド(分解温度500℃)等のアラミド、セルロース(融点260℃)、アセテート(融点260℃)、ナイロンポリエステル(融点260℃)ポリフェニレンサルファイド(PPS)(融点280℃)等が挙げられる。
【0020】
また、前記有機繊維は、更に、本発明の燃料電池セパレータ前駆体を成形して燃料電池セパレータを製造する際の加熱温度よりも融点が低い第2の有機繊維を含んでもよい。第2の有機繊維としては、後述する燃料電池セパレータ用樹脂組成物に含まれる樹脂と親和性を有するものが好ましい。第2の有機繊維の材質としては、ポリエチレン(PE)(融点120〜140℃(HDPE)、95〜130℃(LDPE)、ポリプロピレン(PP)(融点160℃)、ポリフェニレンサルファイド等が好ましい。
【0021】
第2の有機繊維を含む場合、第1の有機繊維の融点は、耐衝撃性付与のため、繊維形態で確実に保持させる観点から、前記加熱温度よりも10℃以上高いことが好ましく、20℃以上高いことがより好ましく、30℃以上高いことが更に好ましい。第2の有機繊維の融点は成形性の観点から、前記加熱温度よりも10℃以上低いことが好ましく、20℃以上低いことがより好ましく、30℃以上低いことが更に好ましい。また、前記第1の有機繊維と第2の有機繊維の融点の温度差は、40℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。
【0022】
前記有機繊維の平均繊維長は、抄造時の坪量の安定化と得られる抄造シートの強度確保の観点から、0.1〜10mmが好ましく、0.1〜6mmが好ましく、0.5〜6mmが好ましい。また、第1の有機繊維及び第2の有機繊維の平均繊維径は、成形性の観点から、0.1〜100μmが好ましく、0.1〜50μmがより好ましく、1〜50μmが更に好ましい。なお、本発明において平均繊維長及び平均繊維径は、光学顕微鏡ないし電子顕微鏡を用いて、任意の100本の繊維について測定した繊維長及び繊維径の算術平均値である。
【0023】
第2の有機繊維を含む場合、第1の有機繊維としては、アラミド、セルロース、アセテート又はナイロンポリエステルが好ましく、第2の有機繊維としては、PE、PP又はPPSが好ましい。ただし、第2の有機繊維としてPE又はPPを用いる場合は、アラミド、セルロース、アセテート、ナイロンポリエステルのほか、PPSを第1の有機繊維として用いることも可能である。
【0024】
前記有機繊維の含有量は、本発明の前駆体中、1〜20質量%が好ましく、3〜15質量%がより好ましい。有機繊維の含有量が前記範囲であれば、成形性を損なわずに、成形後の損害許容性を付与できる。前記有機繊維は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
前記第2の有機繊維を含む場合、その含有量は、有機繊維中、10〜80質量%が好ましく、50〜80質量%がより好ましい。第2の有機繊維の含有量が前記範囲であれば、成形体の導電性を低下させることなく、成形性を付与できる。前記第2の有機繊維は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
前記抄造シートは、これから得られる燃料電池セパレータの抵抗を小さくするために、更に導電助剤を含んでもよい。導電助剤としては、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、各種金属繊維、無機繊維や有機繊維に金属を蒸着あるいはメッキさせた繊維等が挙げられる。これらのうち、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素材料の繊維状のものが耐食性の観点から好ましい。
【0027】
前記炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を原料とするPAN系炭素繊維、石油ピッチ等のピッチを原料とするピッチ系炭素繊維、フェノール樹脂を原料とするフェノール系炭素繊維等が挙げられるが、PAN系炭素繊維がコストの観点から好ましい。
【0028】
前記繊維状の導電助剤の平均繊維長は、成形性と導電性を両立する観点から、0.1〜10mmが好ましく、0.1〜7mmが好ましく、0.1〜5mmが好ましい。また、その平均繊維径は、成形性の観点から、3〜50μmが好ましく、3〜30μmが好ましく、3〜15μmが好ましい。
【0029】
前記導電助剤の含有量は、前記抄造シート中、1〜20質量%が好ましく、3〜10質量%がより好ましい。導電助剤の含有量が前記範囲であれば、成形性を損なわずに必要な導電性を確保できる。前記導電助剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
前記抄造シートは、前述した成分以外に、燃料電池セパレータに通常使用されるその他の成分を含んでもよい。前記その他の成分としては、ステアリン酸系ワックス、アマイド系ワックス、モンタン酸系ワックス、カルナバワックス、ポリエチレンワックス等の内部離型剤、アニオン系、カチオン系、又はノニオン系の界面活性剤、強酸、強電解質、塩基、ポリアクリルアミド系、ポリアクリル酸ソーダ系、ポリメタクリル酸エステル系など界面活性剤に合わせた公知の凝集剤、カルボキシメチルセルロース、デンプン、酢酸ビニル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリエチレンオキシド等の増粘剤等が挙げられる。これらの成分の含有量は、本発明の効果を損なわない限り、任意とすることができる。
【0031】
前記抄造シートは、前述した各成分を含む組成物を抄造することで製造することができる。抄造方法は、特に限定されず、従来公知の方法でよい。例えば、前述した各成分を含む組成物をこれらの成分を溶解しない溶媒中に分散させ、得られた分散液中の各成分を基材上に堆積させ、得られた堆積物を乾燥させることで、本発明の前記抄造シートを製造することができる。抄造法によってシートを作製することで、シート中に繊維を均一に分散させることができ、十分な強度を有するシートとなるまで繊維を含有させることができる。
【0032】
前記抄造シートは、その坪量が150〜300g/m2程度の低坪量であっても、十分な強度を有する。また、前記抄造シートは、その厚さが、0.2〜1.0mm程度であることが好ましい。
【0033】
[炭素繊維シート]
前記炭素繊維シートとしては、炭素繊維の不織布や織布が挙げられる。前記炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂を原料とするものや、石油ピッチ等のピッチを原料とするピッチ系炭素繊維等が挙げられる。これらは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
前記炭素繊維不織布としては、前述した原料を含む紡糸溶液を、電界紡糸法、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法等の各種紡糸法により紡糸し、不織布化したものを炭素化して得られるものが挙げられる。また、前記炭素繊維織布としては、不織布の原料として前述した樹脂からなる繊維の織布を炭素化して得られるものが挙げられる。
【0035】
前記炭素繊維シートにおいて、炭素繊維の平均繊維長は、3〜25mmが好ましく、4〜20mmがより好ましい。その平均繊維径は、3〜50μmが好ましく、3〜15μmがより好ましい。また、炭素繊維の目付量は100g/m2〜200g/m2が好ましい。前記炭素繊維シートの厚さは、200〜2,000μmが好ましい。
【0036】
[炭素繊維強化炭素複合材料]
前記炭素繊維強化炭素複合材料は、炭素繊維と炭素からなるマトリックスとを含むものである。また、更に前述した黒鉛等の導電性フィラーを含むものであってもよい。前記炭素繊維としては、前記炭素繊維シートにおいて説明したものと同様のものが挙げられる。前記マトリックスは、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を炭素化したものである。前記熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂は、従来公知のものを使用することができる。前記炭素繊維強化炭素複合材料の厚さは、150〜600μmが好ましい。
【0037】
「樹脂組成物」
前記導電性フィラーを含む多孔質シートに含浸させる樹脂組成物(以下、燃料電池セパレータ用樹脂組成物ともいう。)は、熱可塑性樹脂及び導電性フィラーを含むものである。
【0038】
前記熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、耐熱性の点から、融点又はガラス転移点が100℃以上の樹脂が好ましい。このような熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂、ポリブチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリシクロオレフィン及びポリエーテルスルホン並びにこれらの誘導体のうち融点が100℃以上であるものや、ポリカーボネート、ポリスチレン及びポリフェニレンオキシド並びにこれらの誘導体のうちガラス転移点が100℃以上であるもの等が挙げられる。また、前記熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移点の上限は、特に限定されないが、燃料電池セパレータ前駆体及び燃料電池セパレータの生産性の点から、300℃以下であることが好ましい。前記熱可塑性樹脂としては、コストや耐熱性、耐クリープ性の点から、ポリプロピレンが好ましい。
【0039】
特に、前記多孔質シートとして前記抄造シートを用いる場合は、前記熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移点は、前記抄造シートに含まれる第1の有機繊維の融点よりも低い温度であることが好ましく、10℃以上低いことがより好ましく、20℃以上低いことがより一層好ましく、30℃以上低いことが更に好ましい。また、前記抄造シートが第2の有機繊維を含む場合は、前記熱可塑性樹脂としては、第2の有機繊維と親和性を有するものが好ましい。
【0040】
前記熱可塑性樹脂の含有量は、前記樹脂組成物中、20〜99.9質量%が好ましく、40〜80質量%がより好ましい。
【0041】
前記導電性フィラーとしては、特に限定されず、燃料電池セパレータ用として従来公知のものを使用することができる。前記導電性フィラーとしては、例えば、炭素材料、金属粉末、無機粉末や有機粉末に金属を蒸着あるいはメッキした粉末等が挙げられるが、炭素材料が好ましい。前記炭素材料としては、天然黒鉛、針状コークスを焼成した人造黒鉛、塊状コークスを焼成した人造黒鉛、天然黒鉛を化学処理して得られる膨張黒鉛等の黒鉛、炭素電極を粉砕したもの、石炭系ピッチ、石油系ピッチ、コークス、活性炭、ガラス状カーボン、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。これらのうち、導電性フィラーとしては、導電性の観点から、天然黒鉛又は人造黒鉛が好ましい。前記導電性フィラーは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
前記導電性フィラーの形状は、特に限定されず、球状、鱗片状、塊状、箔状、板状、針状、無定形のいずれでもよいが、セパレータのガスバリア性の観点から、鱗片状が好ましい。特に、本発明においては、導電性フィラーとして鱗片状黒鉛を使用することが好ましい。
【0043】
前記導電性フィラーの平均粒径は、5〜200μmが好ましく、5〜50μmがより好ましい。導電性フィラーの平均粒径が前記範囲であれば、ガスバリア性を確保しながら必要な導電性を得ることができる。
【0044】
前記導電性フィラーの含有量は、前記樹脂組成物中、0.1〜80質量%が好ましく、20〜60質量%がより好ましい。導電性フィラーの含有量が前記範囲であれば、樹脂との分散性に優れており、含浸させる際の偏析が防止できる。
【0045】
前記燃料電池セパレータ用樹脂組成物は、更に改質剤を含んでもよい。前記改質剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、ハロゲン捕捉剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、無機充填材、滑剤、可塑剤、難燃剤、界面活性剤、親水性付与剤、撥水性付与剤、摺動性付与剤等が挙げられる。これらの成分の含有量は、本発明の効果を損なわない限り、任意とすることができる。
【0046】
前記燃料電池セパレータ用樹脂組成物は、生産性の観点から、スラリー状を含む液状、又はフィルム状であることが好ましい。前記燃料電池セパレータ用樹脂組成物が液状である場合、例えば、前述した成分を溶媒に溶解ないしは懸濁し、懸濁液としたものを使用することができる。前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水系溶媒、有機系溶媒が挙げられる。前記水系溶媒としては、例えば、水、アルコール等が挙げられる。前記有機系溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、トルエン等が挙げられる。前記溶媒の含有量は、前記樹脂組成物中、固形分濃度が10質量%以上となる量が好ましく、30質量%以上となる量がより好ましく、また、固形分濃度が99質量%以下となる量が好ましく、89質量%以下となる量がより好ましい。なお、固形分とは、前記樹脂組成物における溶媒以外の成分のことである。
【0047】
前記燃料電池セパレータ用樹脂組成物がフィルム状である場合、熱可塑性樹脂及び導電性フィラーを、前記熱可塑性樹脂の融点よりも高い温度に加熱して混錬し、フィルム状に成形したもの(以下、単に樹脂フィルムともいう。)を使用することができる。このとき、成形方法としては、ロールプレス、平板プレス、ベルトプレス等の方法が挙げられる。前記フィルムの厚さは、前記多孔質シートに含浸させる、樹脂や導電性フィラーの量に応じて、適宜設定される。
【0048】
本発明の燃料電池セパレータ前駆体は、その厚さが、150〜600μm程度であることが好ましい。
【0049】
[燃料電池セパレータ前駆体の製造方法]
前記多孔質シートに、前記燃料電池セパレータ用樹脂組成物を含浸させることで、燃料電池セパレータ前駆体を製造することができる。含浸方法としては、前記燃料電池セパレータ用樹脂組成物がフィルム状である場合は、該樹脂フィルムを加熱し溶融させて含浸させる方法が挙げられる。前記樹脂組成物が液状である場合は、該溶液に前記多孔質シートを浸漬し、含浸させる方法が挙げられる。
【0050】
これらの方法のうち、含浸させる樹脂量の均一化、生産性の点から、樹脂フィルムを加熱し溶融させて含浸させる方法が好ましい。樹脂フィルム用いて含浸させる方法としては、例えば、前記多孔質シートに樹脂フィルムを積層し、前記樹脂フィルムに用いた樹脂の融点以上に加熱し、そのまま静置することで含浸させることができる。このとき、前記樹脂の融点より5〜50℃程度高い温度まで加熱することが好ましい。
【0051】
このように前記多孔質シートに、前記燃料電池セパレータ用樹脂組成物を含浸させることで、、前記シートの表面に導電性フィラー層が形成される(すなわち、前記シートの表面に導電性フィラーが局在する)ため、本発明の前駆体から得られる燃料電池セパレータは、抵抗の低下が抑制され、表面導電性が改善されたものとなる。
【0052】
[燃料電池セパレータ]
前記燃料電離セパレータ前駆体を、加熱し、成形することで、本発明の燃料電池セパレータを製造することができる。前記成型方法としては、特に限定されないが、圧縮成形が好ましい。圧縮成形を行う際の温度(金型温度)は、含浸させた樹脂の融点よりも10℃以上高いことが好ましく、20℃以上高いことがより好ましい。このとき、前記多孔質シートとして、抄造シートを用いた場合は、金型温度が前記有機繊維(第1の有機繊維)よりも10℃以上低いことが好ましく、20℃以上低いことがより好ましい。また、成形圧力は、1〜100MPaが好ましく、1〜60MPaがより好ましい。
【0053】
前記方法によって、厚さが0.1〜0.6mm程度と薄肉化され、導電性が改善された燃料電池セパレータを製造することができる。
【実施例】
【0054】
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。なお、下記実施例で使用した材料は、以下のとおりである。
・天然黒鉛:平均粒径25μm
・人造黒鉛:平均粒径50μm
・PAN系炭素繊維:平均繊維長3.0mm、平均繊維径7μm
・セルロース繊維:平均繊維長1.2mm、平均繊維径25μm、融点260℃
・ポリプロピレン(PP)繊維:平均繊維長0.9mm、平均繊維径30μm、融点160℃
【0055】
[1]多孔質シートの製造
[製造例1]
人造黒鉛84質量部、PAN系炭素繊維6質量部、セルロース繊維5質量部、PP繊維5質量部を水中に入れ、攪拌し、繊維質スラリーを得た。このスラリーを抄造し、多孔質シートAを作製した。多孔質シートAの坪量は、229g/m2であった。
【0056】
[製造例2]
人造黒鉛84質量部、PAN系炭素繊維6質量部、セルロース繊維10質量部を水中に入れ、攪拌し、繊維質スラリーを得た。このスラリーを抄造し、多孔質シートBを作製した。多孔質シートBの坪量は、212g/m2であった。
【0057】
[2]含浸用樹脂フィルムの製造
天然黒鉛40質量部及びPP(融点160℃)60質量部を2軸同方向押出機に供し、温度180℃、回転数200rpmで混練して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、φ30mm単軸押出機を用い、200℃で成形して、幅270mm、厚さ220μmのフィルムを得た。得られたシートを更にロールギャップを30μmに設定したロールプレスに供し、200℃で圧延することで、平均厚さ35μmの含浸用樹脂フィルムを得た。
【0058】
[3]燃料電池セパレータ前駆体及び燃料電池セパレータの製造
[実施例1]
多孔質シートAの上下面に含浸用樹脂フィルムを重ね、185℃で5分間置き、燃料電池セパレータ前駆体Aを得た。燃料電池セパレータ前駆体Aの金属顕微鏡写真を図1に示す。燃料電池セパレータ前駆体Aの表面に有機繊維はあまり見えず、表面に導電性フィラー層が形成されたことが確認された。
次に、燃料電池セパレータ前駆体Aを金型温度185℃から100℃まで、成形圧力47MPaを保持しながら自然冷却し圧縮成形することによって、燃料電池セパレータA(厚さ0.17mm)を得た。
【0059】
[実施例2]
多孔質シートBの上下面に含浸用樹脂フィルムを重ね、185℃で5分間置き、燃料電池セパレータ前駆体Bを得た。燃料電池セパレータ前駆体Bを金型温度185℃から100℃まで、成形圧力47MPaを保持しながら自然冷却し圧縮成形することによって、燃料電池セパレータB(厚さ0.16mm)を得た。
【0060】
[比較例1]
多孔質シートAの上下面に、PPフィルム(オカモト(株)製XF、厚さ25μm)を重ね、185℃で5分間置き、燃料電池セパレータ前駆体Cを得た。燃料電池セパレータ前駆体Cの金属顕微鏡写真を図2に示す。燃料電池セパレータ前駆体Cの表面に有機繊維が観察された。
次に、燃料電池セパレータ前駆体Cを金型温度185℃から100℃まで、成形圧力47MPaを保持しながら自然冷却し圧縮成形することによって、燃料電池セパレータC(厚さ0.15mm)を得た。
【0061】
[比較例2]
PPと黒鉛とからなるコンパウンドを金型に敷き詰め、金型温度185℃から100℃まで、成形圧力47MPaを保持しながら自然冷却し圧縮成形することによって、燃料電池セパレータD(厚さ0.20mm)を得た。
【0062】
[4]多孔質シート及び燃料電池セパレータ前駆体の評価−引張強度の評価−
JIS K 7127(プラスチック−引張特性の試験方法−)に基づき、多孔質シート及び燃料電池セパレータ前駆体の引張強度を求めた。結果を表1に示す。なお、巻き取りや送り出し時に必要な強度は、8N/40mm以上である。
【0063】
[5]燃料電池セパレータの評価−導電性の評価−
JIS H 0602(シリコン単結晶及びシリコンウェーハの4探針法による抵抗率測定方法)に基づいて、燃料電池セパレータA〜Dの固有抵抗を測定した。また、得られた18点の測定結果より標準偏差を計算し、バラつきを評価した。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示した結果より、本発明の燃料電池セパレータ前駆体は、シート状で搬送できる強度を有し、成形後のセパレータの導電性のバラつきが改善された。また、同一材料を使用した従来の製法(比較例2)と比較しても、ロール状に巻き取り可能になっただけでなく、導電性のバラつきについても抑制することができた。
図1
図2